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特許7455792非水電解液の調整方法、及び、電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】非水電解液の調整方法、及び、電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20240318BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240318BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240318BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240318BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240318BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M10/0566
H01M10/0568
H01M10/058
H01M10/052
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021174680
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064410
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 政裕
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-282563(JP,A)
【文献】特開2012-022969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
H01M 10/0566
H01M 10/0568
H01M 10/058
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液の調整方法であって、
前記非水電解液は、F元素を有するLi塩を含み、
前記非水電解液を、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物に接触させて、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液にする
非水電解液の調整方法。
【請求項2】
使用済みリチウムイオン二次電池の電極板を再利用して、新たに電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造する方法であって、
前記使用済みリチウムイオン二次電池から取り出した前記電極板を極性溶媒で洗浄し、その後乾燥させて、洗浄済み電極板を得る洗浄乾燥工程と、
前記洗浄済み電極板を用いて電極体を作製する電極体作製工程と、
前記電極体を電池ケース内に収容する収容工程と、
F元素を有するLi塩を含む非水電解液を、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物に接触させて、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液にする非水電解液調整工程と、
前記pH調整済み非水電解液を前記電池ケース内に注入する注液工程と、を備える
電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液の調整方法、及び、電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、使用済みリチウムイオン二次電池の電極板の再生方法、及び、再生した電極板を用いて、新たに電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造する方法が開示されている。具体的には、使用済みリチウムイオン二次電池を分解し、使用済みリチウムイオン二次電池から電極板を取り出す。そして、取り出した電極板(正極板と負極板)を極性溶媒で洗浄し、その後乾燥させて、洗浄済み電極板を得る。その後、洗浄済み電極板を用いて、電極体を作製し、この電極体を電池ケース内に収容する。その後、F元素を有するLi塩(例えば、LiPF6)を含む非水電解液を、電池ケース内に注入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-022969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、F元素を有するLi塩を含む非水電解液では、Li塩に水分が接触してHFが発生することがある。この非水電解液は、HFの発生によりpH値が低下し、例えば、pH値が4~5の範囲内の値になる。このため、例えば、上述のように、使用済みリチウムイオン二次電池の電極板を再利用して、新たに電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造する場合に、このHFを含むpH値が低い非水電解液を使用すると、非水電解液中のHFが、再利用した電極板の電極活物質表面の被膜に含まれるLiと反応することによって、電極活物質表面に高抵抗のLiF被膜が形成され、当該電極板再利用リチウムイオン二次電池のIV抵抗が大きくなることがあった。このため、非水電解液中のHF量を減少させることが求められていた。
【0005】
なお、使用済みリチウムイオン二次電池から取り出した電極板(正極板及び負極板)を極性溶媒で洗浄しても、洗浄前から電極活物質表面に存在していた被膜(Liを含む被膜)は除去されにくい。従って、洗浄済み電極板(洗浄済み正極板及び洗浄済み負極板)の電極活物質表面には、Liを含む被膜が存在する。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、非水電解液に含まれているHFを減少させることができる非水電解液の調整方法、及び、IV抵抗が小さい電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造することができる電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、非水電解液の調整方法であって、前記非水電解液は、F元素を有するLi塩を含み、前記非水電解液を、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物に接触させて、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液にする非水電解液の調整方法である。
【0008】
上述の非水電解液の調整方法では、非水電解液を、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物(例えば、Li3PO4)に接触させて、非水電解液のpH値を6以上8以下の範囲内の値に調整して、pH調整済み非水電解液にする。このようにすることで、非水電解液に含まれているHFを減少させるまたは除去することができる。
【0009】
なお、非水電解液の調整方法の具体例としては、例えば、非水電解液と塩基性Li化合物とを混合して、塩基性Li化合物とHFとを反応させた後、当該電解液から沈殿物(非溶解物)を除去する(例えば、当該電解液の上澄み液やろ液を採取する)方法を挙げることができる。なお、塩基性Li化合物としてLi3PO4を用いた場合、塩基性Li化合物とHFとの反応式は、次式のようになると考えている。Li3PO4+3HF→3LiF+H3PO4(H++H2PO4 -
【0010】
また、この調整済み非水電解液を、例えば、電極板再利用リチウムイオン二次電池の非水電解液として用いることで、電極活物質表面の被膜に含まれるLiとHFとの反応によって電極活物質表面に高抵抗のLiF被膜が形成されることが低減される。従って、上述の非水電解液の調整方法によってpH値が調整された調整済み非水電解液は、電極板再利用リチウムイオン二次電池のIV抵抗を小さくすることができる。
【0011】
なお、塩基性Li化合物としては、Li3PO4(リン酸リチウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Li3657(クエン酸リチウム)など、水分を生じさせることなくHFと反応する化合物であって、当該塩基性Li化合物自身、及び、塩基性Li化合物とHFとの反応生成物が、非水電解液の溶媒に溶解することなく沈殿するものを用いるのが好ましい。
【0012】
また、F元素を有するLi塩を含む非水電解液であって、当該非水電解液に塩基性Li化合物が添加されている塩基性Li化合物添加非水電解液が好ましい。
【0013】
この塩基性Li化合物添加非水電解液は、F元素を有するLi塩を含み、且つ、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物が添加されているため、当該非水電解液中に水分が混入して、HFが発生した場合でも、当該非水電解液に添加されている塩基性リチウム化合物とHFとが反応することで、HFを減少させるまたは除去することができる。なお、塩基性リチウム化合物の添加量は、当該非水電解液のpH値を6以上8以下の範囲内の値にする(保つ)ことができる量とするのが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様は、使用済みリチウムイオン二次電池の電極板を再利用して、新たに電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造する方法であって、前記使用済みリチウムイオン二次電池から取り出した前記電極板を極性溶媒で洗浄し、その後乾燥させて、洗浄済み電極板を得る洗浄乾燥工程と、前記洗浄済み電極板を用いて電極体を作製する電極体作製工程と、前記電極体を電池ケース内に収容する収容工程と、F元素を有するLi塩を含む非水電解液を、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物に接触させて、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液にする非水電解液調整工程と、前記pH調整済み非水電解液を前記電池ケース内に注入する注液工程と、を備える電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0015】
上述の電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法では、注液工程において、F元素を有するLi塩を含み、且つ、pH値が6以上8以下の範囲内の値である非水電解液を、電極体を収容した電池ケース内に注入する。F元素を有するLi塩を含み、且つ、pH値が6以上8以下の範囲内の値である非水電解液は、HFが減少または除去された非水電解液となっている。これにより、電極活物質表面の被膜に含まれるLiと非水電解液に含まれるHFとの反応が低減されるので、当該反応によって電極活物質表面に高抵抗のLiF被膜が形成されることを低減することができる。従って、IV抵抗が小さい電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造することができる。さらに、上述の製造方法は、非水電解液調整工程において、F元素を有するLi塩を含む非水電解液を、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物に接触させて、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液にする。そして、このpH調整済み非水電解液を、注液工程において電池ケース内に注入する。すなわち、水分を生じさせることなくHFと反応する塩基性Li化合物の接触によってHF量が減少したまたは除去されたpH調整済み非水電解液を、電極板再利用リチウムイオン二次電池の電解液として使用する。これにより、電極活物質表面の被膜に含まれるLiと非水電解液に含まれるHFとの反応が低減されるので、当該反応によって電極活物質表面に高抵抗のLiF被膜が形成されることを低減することができる。従って、IV抵抗が小さい電極板再利用リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0016】
なお、使用済みリチウムイオン二次電池から取り出した電極板(正極板及び負極板)を極性溶媒(例えば、エチルメチルカーボネート)で洗浄しても、洗浄前から電極活物質表面に存在していた被膜(Liを含む被膜)は除去されにくい。従って、洗浄済み電極板(洗浄済み正極板及び洗浄済み負極板)の電極活物質表面には、Liを含む被膜が存在する。このため、注液工程において注入された電解液が、洗浄済み電極板の電極活物質表面の被膜に含まれるLiと接触する。また、極性溶媒としては、リチウムイオン二次電池用の非水電解液の溶媒として使用される極性有機溶媒を用いるのが好ましく、例えば、EMC(エチルメチルカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)を挙げることができる。なお、使用済みリチウムイオン二次電池とは、自動車や電気機器等の電源として使用された後に回収されたリチウムイオン二次電池である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態にかかる電極板再利用リチウムイオン二次電池の平面図である。
図2】同電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する図である。
図3】実施形態にかかる正極板の平面図である。
図4図3のB-B断面図である。
図5】実施形態にかかる負極板の平面図である。
図6図5のC-C断面図である。
図7】実施形態にかかる電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図8】実施形態にかかる非水電解液の調整方法の流れを示すフローチャートである。
図9】同非水電解液の調整方法を説明する図である。
図10】同非水電解液の調整方法を説明する他の図である。
図11】実施形態にかかる電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法を説明する図である。
図12】電極板再利用リチウムイオン二次電池のIV抵抗を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、実施形態にかかる電極板再利用リチウムイオン二次電池100(以下、これを電極板再利用二次電池100ともいう)の平面図である。図2は、電極板再利用二次電池100の製造方法を説明する図であり、電池ケース110の収容部119に配置された電極体150が図示されている。電極板再利用二次電池100は、図1に示すように、平面視矩形状の電池ケース110と、電池ケース110の内部から外部に延出する正極端子120と、電池ケース110の内部から外部に延出する負極端子130とを備えている。
【0021】
さらに、図2に示すように、電池ケース110の内部には、電極体150が収容されている。この電極体150は、正極板160と負極板170との間にセパレータ180が介在するようにして、これらが積層された積層型の電極体である。このうち、正極板160は、平面視矩形状をなし、アルミニウム箔からなる正極集電箔166と、正極集電箔166の表面(両面)に積層された正極合材層162とを備える(図3及び図4参照)。正極合材層162は、正極活物質163と結着材(図示なし)と導電助材(図示なし)とを備える。なお、本実施形態では、正極活物質163として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子(具体的には、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)を用いている。正極板160のうち、正極集電箔166の表面(両面)に正極合材層162が積層されていない非積層部165には、正極端子120が溶接されている。
【0022】
負極板170は、平面視矩形状をなし、銅箔からなる負極集電箔176と、負極集電箔176の表面(両面)に積層された負極合材層172とを備える(図5及び図6参照)。負極合材層172は、負極活物質173と結着材(図示なし)とを備える。なお、本実施形態では、負極活物質173として、グラファイトを用いている。負極板170のうち、負極集電箔176の表面(両面)に負極合材層172が積層されていない非積層部175には、負極端子130が溶接されている。
【0023】
電池ケース110は、電池ケース110の最も内側に位置する内側樹脂フィルム111、この内側樹脂フィルム111の外側に隣り合って位置する金属フィルム112、及びこの金属フィルム112の外側に隣り合って位置する外側樹脂フィルム113が積層されたラミネートフィルム101で形成されている。この電池ケース110は、図2に示すように、収容部119内に電極体150を配置させたラミネートフィルム101が、折り返し位置110gで折り返され、図1に示すように、略矩形環状の溶着封止部115(電池ケース110の周縁部)が熱溶着により封止されて、平面視矩形状に成形されている。なお、電池ケース110内には、後述するpH調整済み非水電解液40が注入されている。
【0024】
次に、実施形態にかかる電極板再利用二次電池100の製造方法及び非水電解液の調整方法について説明する。本実施形態では、使用済みリチウムイオン二次電池200の電極板(正極板260及び負極板270)を再利用して、新たに電極板再利用リチウムイオン二次電池100を製造する。図7は、実施形態にかかる電極板再利用二次電池100の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS1において、使用済みリチウムイオン二次電池200(以下、これを使用済み二次電池200ともいう)を分解して、正極板260及び負極板270(図3図6)を取り出す。
【0025】
なお、使用済みリチウムイオン二次電池200は、図1に示すように、電極板再利用二次電池100と同様な構造のリチウムイオン二次電池であり、自動車や電気機器等の電源として使用された後に回収されたリチウムイオン二次電池(中古のリチウムイオン二次電池)である。また、正極板260は、図3及び図4に示すように、正極板160と同様な構造の電極板であり、洗浄等を行って正極板160にする前の正極板である。負極板270は、図5及び図6に示すように、負極板170と同様な構造の電極板であり、洗浄等を行って負極板170にする前の負極板である。
【0026】
次に、ステップS2(洗浄乾燥工程)において、使用済み二次電池200から取り出した正極板260及び負極板270を、極性溶媒で洗浄し、その後乾燥させて、洗浄済み電極板(正極板160及び負極板170)を得る。具体的には、Arガス雰囲気とされたグローブボックス内において、洗浄容器内に収容されている極性溶媒中に、正極板260を所定時間(10分間)浸漬させる。その後、極性溶媒中から正極板260を取り出し、Arガス雰囲気とされた同グローブボックス内において、別途用意しておいた洗浄容器内に収容されている未使用の極性溶媒中に、この正極板260を所定時間(10分間)浸漬させる。これにより、正極板260が極性溶媒によって洗浄され、正極板260に付着しているLi塩等が正極板260から除去される。
【0027】
その後、極性溶媒中から正極板260を取り出し、Arガス雰囲気とされた同グローブボックス内において、この正極板260を乾燥させる。これにより、洗浄済み正極板である正極板160を得る。また、負極板270についても、上述した正極板260と同様にして洗浄と乾燥を行って、洗浄済み負極板である負極板170を得る。なお、本実施形態では、極性溶媒として、リチウムイオン二次電池用の非水電解液の溶媒として使用される極性有機溶媒を用いている。具体的には、後述するpH調整済み非水電解液40の溶媒として使用するEMC(エチルメチルカーボネート)を用いている。
【0028】
なお、使用済み二次電池200から取り出した正極板260及び負極板270を極性溶媒で洗浄しても、洗浄前から正極活物質163及び負極活物質173の表面に存在していた被膜(Liを含む被膜)は除去されにくい。従って、洗浄済み電極板である正極板160及び負極板170では、正極活物質163及び負極活物質173の表面に、Liを含む被膜が存在(残存)する。
【0029】
次に、ステップS3(電極体作製工程)において、洗浄済み電極板である正極板160及び負極板170を用いて、電極体150を作製する。具体的には、正極板160と負極板170との間にセパレータ180が介在するように、これらを積層して、電極体150を作製する。なお、セパレータ180は、新品のセパレータである。その後、電極体150を構成する正極板160の非積層部165に正極端子120を溶接し、さらに、負極板170の非積層部175に負極端子130を溶接する。
【0030】
次に、ステップS4(収容工程)において、電極体150を電池ケース110内に収容する。具体的には、正極端子120及び負極端子130を溶接した電極体150を、ラミネートフィルム101の収容部119内に配置する(図2参照)。次いで、ラミネートフィルム101を、その折り返し位置110gで折り返し、電極体150を内部に収容する。次いで、溶着封止部115のうち、後にpH調整済み非水電解液40を注入する注液口116(図11参照)を除く部位を、その厚み方向に加圧しつつ加熱して、内側樹脂フィルム111同士を熱溶着させる。これにより、正極端子120及び負極端子130を電池ケース110の内部から外部に延出させつつ、電池ケース110の内部に電極体150を収容する(図11参照)。
【0031】
ところで、F元素を有するLi塩を含む非水電解液では、Li塩に水分が接触してHFが発生することがある。この非水電解液は、HFの発生によりpH値が低下し、例えば、pH値が4~5の範囲内の値になる。このため、使用済みリチウムイオン二次電池の電極板を再利用して、新たに電極板再利用リチウムイオン二次電池100を製造する場合に、このHFを含むpH値が低い非水電解液をそのまま使用すると、非水電解液中のHFと再利用した電極板の電極活物質表面の被膜に含まれるLiとの反応によって、電極活物質表面に高抵抗のLiF被膜が形成され、当該二次電池のIV抵抗が大きくなることがあった。
【0032】
これに対し、本実施形態では、ステップS5(非水電解液調整工程)を行うことで、非水電解液中のHF量を低減させる。具体的には、ステップS5(非水電解液調整工程)において、F元素を有するLi塩を含む非水電解液10を、塩基性Li化合物20に接触させて、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液40を作製する。図8は、実施形態にかかる非水電解液の調整方法の流れを示すフローチャートである。
【0033】
まず、ステップS51において、F元素を有するLi塩を含む非水電解液10中に、塩基性Li化合物20を投入する。具体的には、密閉容器60を構成する容器本体61と蓋62とを用意し、Arガス雰囲気とされたグローブボックス内において、容器本体61内に、所定量(例えば、200ml)の非水電解液10を注入し、さらに、所定量(例えば、4g)の塩基性Li化合物20を投入する。これにより、F元素を有するLi塩を含む非水電解液10に塩基性Li化合物20が添加された、塩基性Li化合物添加非水電解液30が作製される。その後、蓋62によって容器本体61を密閉して密閉容器60とする(図9参照)。
【0034】
なお、本実施形態の非水電解液10は、F元素を有するLi塩としてLiPF6を有し、溶媒として、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)が混合された有機溶媒を有する。また、塩基性Li化合物20として、Li3PO4(リン酸リチウム)の粉末を用いている。
【0035】
次に、ステップS52において、非水電解液10と塩基性Li化合物20とを混合する。具体的には、Arガス雰囲気とされた同グローブボックス内において、非水電解液10と塩基性Li化合物20とを収容した密閉容器60を良く振ることで、密閉容器60内の非水電解液10と塩基性Li化合物20とを攪拌混合する。
【0036】
その後、ステップS53において、非水電解液10と塩基性Li化合物20との混合液を収容した密閉容器60を、Arガス雰囲気とされた同グローブボックス内で、所定時間放置(安置)する。これにより、塩基性Li化合物20(Li3PO4)と非水電解液10に含まれているHFとを十分に反応させると共に、塩基性Li化合物20及びこれとHFとの反応生成物等の非溶解物を沈殿させる。このようにすることで、非水電解液10に含まれていたHFを低減または除去することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、放置(安置)時間を1時間としている。また、塩基性Li化合物20(Li3PO4)と非水電解液10に含まれているHFとの反応式は、次式のようになると考えている。Li3PO4+3HF→3LiF+H3PO4(H++H2PO4 -
【0038】
次いで、ステップS54において、Arガス雰囲気とされた同グローブボックス内において、密閉容器60の蓋62を外して、容器本体61内から、塩基性Li化合物20等を沈殿させた非水電解液30の上澄みを採取する(図10参照)。この上澄みが、pH値が6以上8以下の範囲内の値に調整されたpH調整済み非水電解液40である。これにより、ステップS55において、pH調整済み非水電解液40が取得される。このpH調整済み非水電解液40は、ステップS5(非水電解液調整工程)を行う前の非水電解液10比べて、HF含有量が減少している。
【0039】
次に、ステップS6(注液工程)において、図11に示すように、pH調整済み非水電解液40を、注液口116を通じて電池ケース110内に注入する。その後、熱溶着により注液口116を閉塞することで電池ケース110が封止され、図1に示す電極板再利用リチウムイオン二次電池100が完成する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態では、ステップS6(注液工程)において、pH調整済み非水電解液40を電池ケース110内に注入する。すなわち、塩基性Li化合物20の接触によってHF量が減少したまたは除去されたpH調整済み非水電解液40を、電極板再利用リチウムイオン二次電池100の電解液として使用する。これにより、HFと正極活物質163及び負極活物質173の表面の被膜に含まれるLiとの反応が低減されるので、当該反応によって正極活物質163及び負極活物質173の表面に高抵抗のLiF被膜が形成されることを低減することができる。従って、本実施形態では、IV抵抗が小さい電極板再利用リチウムイオン二次電池100を製造することができる。
【0041】
<IV抵抗の比較試験>
まず、4種類の異なる非水電解液を用いて、4種類の電極板再利用リチウムイオン二次電池100(サンプル電池1~4とする)を製造した。サンプル電池1の製造では、ステップS5(非水電解液調整工程)の処理を行うことなく、非水電解液10をそのまま使用した。すなわち、ステップS6(注液工程)において、非水電解液10を電池ケース110内に注入した。なお、ステップS6において電池ケース110内に注入する前の非水電解液10のpH値を測定したところ、pH値は4.5であった。この測定結果より、非水電解液10では、F元素を有するLi塩(LiPF6)に水分が接触してHFが発生したことで、pH値が4.5にまで低下したと考えられる。
【0042】
サンプル電池2の製造では、ステップS5(非水電解液調整工程)の処理を行っている。具体的には、ステップS51において、200mlの非水電解液10に対して0.2gの塩基性Li化合物20(Li3PO4)を投入した。その後、ステップS55において取得したpH調整済み非水電解液40のpH値を測定したところ、pH値が5.0となり、ステップS5(非水電解液調整工程)を行う前の非水電解液10に比べて、pH値が上昇していた。この結果より、F元素を有するLi塩を含む非水電解液10を、塩基性Li化合物20に接触させたことで、塩基性Li化合物20と非水電解液10に含まれているHFとが反応し、非水電解液10に含まれていたHFが減少して、pH値が上昇したと考えられる。
【0043】
サンプル電池3の製造でも、ステップS5(非水電解液調整工程)の処理を行っている。具体的には、ステップS51において、200mlの非水電解液10に対して2.0gの塩基性Li化合物20(Li3PO4)を投入した。その後、ステップS55において取得したpH調整済み非水電解液40のpH値を測定したところ、pH値が6.0となり、ステップS5(非水電解液調整工程)を行う前の非水電解液10に比べて、pH値が大きく上昇していた。このpH調整済み非水電解液40は、非水電解液10に比べて、HFが十分に減少した非水電解液になっていると考えられる。
【0044】
サンプル電池4の製造でも、ステップS5(非水電解液調整工程)の処理を行っている。具体的には、ステップS51において、200mlの非水電解液10に対して20.0gの塩基性Li化合物20(Li3PO4)を投入した。その後、ステップS55において取得したpH調整済み非水電解液40のpH値を測定したところ、pH値が8.0となり、ステップS5(非水電解液調整工程)を行う前の非水電解液10に比べて、pH値が大きく上昇していた。このpH調整済み非水電解液40は、非水電解液10に比べて、HFが十分に減少した(あるいはHFが消失した)非水電解液になっていると考えられる。
【0045】
次に、サンプル電池1について、IV抵抗値を測定した。具体的には、サンプル電池1について、SOC50%の状態に調整した後、0℃の温度環境下に3時間放置した。その後、0℃の温度環境下において、0.2Cの一定電流値で、10秒間放電を行い、放電終了時の電池電圧値を測定した。さらに、放電電流値のみを、0.5C、1C、2Cと異ならせて、それ以外は上記と同様の条件で放電を行って、それぞれの放電電流値による10秒間放電終了時の電池電圧値を測定した。
【0046】
その後、横軸を放電電流値、縦軸を放電終了時の電池電圧値とした座標平面に、上記の放電により得られたデータをプロットした。そして、これらのプロットデータに基づいて、最小二乗法により近似直線(一次式)を算出し、その傾きをサンプル電池1のIV抵抗値として得た。これと同様な手法により、サンプル電池2~4のIV抵抗値も測定した。そして、サンプル電池1のIV抵抗値を基準(=1)として、他のサンプル電池2~4のIV抵抗値について、サンプル電池1のIV抵抗値に対する比率(IV抵抗比とする)を求めた。これら結果を図12に示す。なお、図12では、各サンプル電池に用いた非水電解液のpH値を横軸とし、IV抵抗比の値を縦軸としている。
【0047】
図12に示すように、pH値が6以上8以下の範囲内の値である非水電解液(pH調整済み非水電解液40)を使用したサンプル電池3,4では、pH値が4.5である非水電解液10を使用したサンプル電池1に比べて、IV抵抗値が10%程度小さくなった。その理由は、F元素を有するLi塩を含み、且つ、pH値が6以上8以下の範囲内の値である非水電解液(pH調整済み非水電解液40)は、pH値が4.5である非水電解液10に比べて、HFが減少または除去された非水電解液となっているからである。これにより、HFと正極活物質163及び負極活物質173の表面の被膜に含まれるLiとの反応が低減され、当該反応によって正極活物質163及び負極活物質173の表面に高抵抗のLiF被膜が形成されることを低減することができたからである。また、pH値が5以上6未満の範囲内の値である非水電解液を使用したサンプル電池2では、pH値が4.5である非水電解液10を使用したサンプル電池1に比べて、IV抵抗値が5%程度小さくなった。このサンプル電池2でも、サンプル電池3,4に比べて効果は小さいが、サンプル電池1に比べてIV抵抗値を小さくすることができた。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の非水電解液の調整方法(ステップS5)によれば、非水電解液10に含まれているHFを減少させるまたは除去することができるといえる。また、本実施形態の電極板再利用リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、IV抵抗が小さい電極板再利用リチウムイオン二次電池100を製造することができるといえる。
【0049】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
10 非水電解液
20 塩基性Li化合物
40 pH調整済み非水電解液(非水電解液)
100 電極板再利用リチウムイオン二次電池
110 電池ケース
150 電極体
160 正極板(洗浄済み正極板)
260 正極板
170 負極板(洗浄済み負極板)
270 負極板
200 使用済みリチウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12