(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 50/296 20210101AFI20240318BHJP
H01M 50/588 20210101ALI20240318BHJP
H01M 50/591 20210101ALI20240318BHJP
【FI】
H01M50/296
H01M50/588
H01M50/591
(21)【出願番号】P 2021207134
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】川崎 永士
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-128009(JP,A)
【文献】特開2018-081988(JP,A)
【文献】特開2015-115311(JP,A)
【文献】特開2019-125477(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255100(WO,A1)
【文献】特開2018-106800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/296
H01M 50/588
H01M 50/593
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に配列された複数の電池セルと、
前記複数の電池セルと電気的に接続された総端子とを備えた電池モジュールであって、
前記複数の電池セルの総電圧は公称50V以上であり、
前記総端子は、前記複数の電池セルと前記電池モジュールの外部とを電気的に接続することが可能な第1導電部と、前記第1導電部上に設けられた絶縁部と、前記絶縁部によって前記第1導電部と絶縁された第2導電部とを含み、
前記絶縁部の撥水角は60°以上であり、
前記絶縁部上における前記第1導電部から前記第2導電部までの沿面距離は20mm未満であり、
前記沿面距離を算出するための仮想線は2つ以上の屈曲部を含む、電池モジュール。
【請求項2】
前記絶縁部の表面は絶縁性樹脂により形成される、請求項1に記載の電池モジュール。
【請求項3】
前記絶縁性樹脂はポリプロピレンを含む、請求項2に記載の電池モジュール。
【請求項4】
前記絶縁部は成型により形成される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セルとセパレータとを積層し、拘束部材によって積層方向の拘束を行うことによりモジュール化した電池モジュールが従来から知られている。従来の電池モジュールの構造は、国際公開2018/042763号(特許文献1)、特開2015-084331号公報(特許文献2)、特開2012-123905号公報(特許文献3)、国際公開2019/031169号(特許文献4)、特開2011-023179号公報(特許文献5)、特開2021-026875号公報(特許文献6)、特開2012-014962号公報(特許文献7)などに示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2018/042763号
【文献】特開2015-084331号公報
【文献】特開2012-123905号公報
【文献】国際公開2019/031169号
【文献】特開2011-023179号公報
【文献】特開2021-026875号公報
【文献】特開2012-014962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池モジュールにおける複数の電池セルは、総端子を介して電池モジュールの外部と電気的に接続される。放電時には複数の電池セルに蓄えられた電力が総端子を介して外部に供給され、充電時には外部電源からの電力が総端子を介して複数の電池セルに供給される。
【0005】
総端子は、導電経路の周囲を覆う絶縁部を有する。結露などにより絶縁部の表面に導電性を有する不純物(たとえば油分など)が付着した場合でも、絶縁部の表面における意図しない導電経路の形成を抑制することが求められる。従来の電池モジュールは、かかる課題に対処し得る必ずしも十分な構成を有していない。
【0006】
本技術の目的は、安定した絶縁性を確保可能な電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術に係る電池モジュールは、第1の方向に配列された複数の電池セルと、複数の電池セルと電気的に接続された総端子とを備える。複数の電池セルの総電圧は公称50V以上である。総端子は、複数の電池セルと電池モジュールの外部とを電気的に接続することが可能な第1導電部と、第1導電部上に設けられた絶縁部と、絶縁部によって第1導電部と絶縁された第2導電部とを含む。絶縁部の撥水角は60°以上である。絶縁部上における第1導電部から第2導電部までの沿面距離は20mm未満である。沿面距離を算出するための仮想線は2つ以上の屈曲部を含む。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、安定した絶縁性を確保可能な電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】電池モジュールに含まれる電池セルを示す斜視図である。
【
図3】電池モジュールに含まれる拘束部材を示す図である。
【
図4】電池モジュールに含まれるバスバーおよび総端子の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本技術の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0011】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本技術の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本技術にとって必ずしも必須のものではない。また、本技術は、本実施の形態において言及する作用効果を必ずしもすべて奏するものに限定されない。
【0012】
なお、本明細書において、「備える(comprise)」および「含む(include)」、「有する(have)」の記載は、オープンエンド形式である。すなわち、ある構成を含む場合に、当該構成以外の他の構成を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0013】
また、本明細書において幾何学的な文言および位置・方向関係を表す文言、たとえば「平行」、「直交」、「斜め45°」、「同軸」、「沿って」などの文言が用いられる場合、それらの文言は、製造誤差ないし若干の変動を許容する。本明細書において「上側」、「下側」などの相対的な位置関係を表す文言が用いられる場合、それらの文言は、1つの状態における相対的な位置関係を示すものとして用いられるものであり、各機構の設置方向(たとえば機構全体を上下反転させる等)により、相対的な位置関係は反転ないし任意の角度に回動し得る。
【0014】
本明細書において、「電池」は、リチウムイオン電池に限定されず、ニッケル水素電池など他の電池を含み得る。
【0015】
図1は、電池モジュール1の斜視図である。
図1に示すように、電池モジュール1は、電池セル100と、セパレータ部材200と、エンドプレート300とを含む。
【0016】
電池セル100は、角形の電池セルであって、Y軸方向(第1の方向)に沿って複数設けられる。セパレータ部材200は、複数の電池セル100の間に設けられる。セパレータ部材200は、隣接する電池セル100の意図しない電気的導通を防止する。セパレータ部材200は、隣接する電池セル100の電気的絶縁性を確保する。エンドプレート300は、Y軸方向において電池モジュール1の両端に配置されている。エンドプレート300は、電池モジュール1を収納するケースなどの基台に固定される。
【0017】
図2は、電池セル100を示す斜視図である。
図2に示すように、電池セル100は、角型形状を有する。電池セル100は、電極端子110と、筐体120と、ガス排出弁130とを有する。
【0018】
電極端子110は、筐体120上に形成されている。電極端子110は、Y軸方向(第1の方向)に直交するX軸方向(第2の方向)に沿って並ぶ正極端子111および負極端子112を有する。正極端子111および負極端子112は、X軸方向において、互いに離れて設けられている。
【0019】
筐体120は、直方体形状を有し、電池セル100の外観をなしている。筐体120は、図示しない電極体および電解液を収容するケース本体120Aと、ケース本体120Aの開口を封止する封口板120Bとを含む。封口板120Bは、溶接によりケース本体120Aに接合される。
【0020】
筐体120は、上面121と、下面122と、第1側面123と、第2側面124と、2つの第3側面125とを有する。
【0021】
上面121は、Y軸方向およびX軸方向に直交するZ軸方向(第3の方向)に直交する平面である。上面121には、電極端子110が配置されている。下面122は、Z軸方向に沿って上面121に対向している。
【0022】
第1側面123および第2側面124の各側面は、Y軸方向に直交する平面からなる。第1側面123および第2側面124の各側面は、筐体120が有する複数の側面のうちで最も大きい面積を有する。第1側面123および第2側面124の各側面は、Y軸方向に見て、矩形形状を有する。第1側面123および第2側面124の各側面は、Y軸方向に見て、X軸方向が長手方向となり、Z軸方向が短手方向となる矩形形状を有する。
【0023】
複数の電池セル100は、Y軸方向に隣り合う電池セル100,100の間において、第1側面123どうし、第2側面124どうしが向かい合わせとなるように積層されている。これにより、複数の電池セル100が積層されるY軸方向において、正極端子111と負極端子112とが、交互に並んでいる。
【0024】
ガス排出弁130は、上面121に設けられている。ガス排出弁130は、電池セル100の温度が上昇し(熱暴走)、筐体120の内部で発生したガスにより筐体120の内圧が所定値以上となった場合に、そのガスを筐体120の外部に排出する。
【0025】
図3は、拘束部材400を示す図である。
図3に示すように、拘束部材400は、2つのエンドプレート300を互いに接続する。複数の電池セル100、セパレータ部材200およびエンドプレート300の積層体に対してY軸方向の圧縮力を作用させた状態で拘束部材400をエンドプレート300に係合させ、その後に圧縮力を解放することにより、2つのエンドプレート300を接続する拘束部材400に引張力が働く。その反作用として、拘束部材400は、2つのエンドプレート300を互いに近づける方向に押圧する。
【0026】
拘束部材400は、たとえばアルミニウム、鉄またはステンレスからなる。拘束部材400を構成する素材は、これらに限定されない。
【0027】
図4は、バスバー500および総端子600の配置を示す図である。バスバー500は、複数の電池セル100の電極端子110どうしを接続する。本実施の形態に係る電池モジュール1においては、隣接する電池セル100の正極端子111と負極端子112とがバスバー500により電気的に接続され、複数の電池セル100が電気的に直列接続される。
【0028】
図4の例において、総端子600は、Y軸方向の両端部に位置する2つの電池セル100の電極端子110に接続される。総端子600は、電池モジュール1の外部(他の電池モジュール1を含む。)と電気的に接続される端子である。
【0029】
図5は、総端子600を示す斜視断面図である。
図5に示すように、総端子600は、第1導電部610と、第2導電部620と、絶縁部630とを含む。
【0030】
第1導電部610は、複数の電池セル100と電池モジュール1の外部とを電気的に接続する。第1導電部610は、電池セル100の電極端子110に係合される。第2導電部620は、接地電位(GND)の拘束部材400と電気的に接続される。第2導電部620は、絶縁部630によって第1導電部610と電気的に絶縁される。
【0031】
絶縁部630は、第1導電部610および第2導電部620上に設けられる。絶縁部630の表面は、たとえばポリプロピレンなどの絶縁性樹脂により形成され得る。絶縁部630にタルク等の素材が含まれていてもよい。絶縁部630は、たとえば射出成型(樹脂成型)などにより形成され得る。
【0032】
結露水に混入した油分など、導電性を有する不純物が絶縁部630の表面に付着する場合がある。このとき、絶縁部630の表面における意図しない導電経路の形成を抑制することが求められる。本実施の形態に係る電池モジュール1において、複数の電池セルの総電圧は公称50V以上程度である。かかる高出力の電池モジュール1においても、安定した絶縁性を確保することが要請される。
【0033】
本実施の形態に係る総端子600においては、絶縁部630の表面の撥水角を60°以上程度としている。
図6は、撥水角θについて説明するための図である。
図6(a)のように撥水角θが大きい場合、
図6(b)のように撥水角θが小さい場合と比較して、絶縁部630の表面に結露水が付着した場合でも、その結露水の拡がりを小さくすることができる。この結果、絶縁部630の表面における意図しない導電経路の形成を抑制することが可能である。
【0034】
本明細書における「撥水角」は、θ/2法により用いられる。すなわち、総端子600の絶縁部630の表面に水を垂らし、液滴の半径rと高さhを計測し、測定値を下記式に代入してθを求める。
θ=arctan(h/r)
【0035】
上記の代替として、液滴の左右端点と頂点とを結ぶ直線の絶縁部630の表面に対する角度を求め、これを2倍することでθを求めてもよい。
【0036】
液滴の寸法(半径r、高さh)を計測するにあたっては、意図しない導電経路の形成が問題になり得る部分(第1導電部610から第2導電部620までの沿面距離を算出するための仮想線A,Bを含む部分)の絶縁部630がテストピースとして取り出される。テストピースは、マイクロスコープ(写真撮影および寸法測定が可能な機器であればよく、特に限定されない。)上に載置され、たとえば1mLシリンジ(滴下量を測定できるものであればよく、特に限定されない。)により約10μLの液滴がテストピース上に滴下される。そして、液滴の側面側から液滴の寸法が計測され、撥水角θが算出される。
【0037】
本実施の形態に係る総端子600において、絶縁部630の表面上における第1導電部610から第2導電部620までの沿面距離は20mm未満程度である。他方、絶縁部630上には、リブ631,632,633が形成されている。リブ631,632,633は、第1導電部610から第2導電部620までの沿面距離を算出するための仮想線A,Bが2つ以上の屈曲部を含むように形成されている。リブ631,632,633が形成されることにより、比較的小さな沿面距離しか有さない場合でも、絶縁部630の表面における意図しない導電経路の形成を抑制することが可能である。
【0038】
以上の結果として、本実施の形態に係る電池モジュール1によれば、安定した絶縁性を確保可能な電池モジュールを提供することができる。
【0039】
以上、本技術の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本技術の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1 電池モジュール、100 電池セル、110 電極端子、111 正極端子、112 負極端子、120 筐体、120A ケース本体、120B 封口板、121 上面、122 下面、123 第1側面、124 第2側面、125 第3側面、130 ガス排出弁、200 セパレータ部材、300 エンドプレート、400 拘束部材、500 バスバー、600 総端子、610 第1導電部、620 第2導電部、630 絶縁部、631,632,633 リブ。