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特許7455801ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置
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  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図1
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図2a)
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図2b)
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図2c)
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図3
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図4
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図5
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図6
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図7
  • 特許-ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】ピストン位置の検出に基づいて制御されるピペットピストン運動を用いた、パルス状ピペッティングのための分注装置
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20240318BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N35/10 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021500610
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2019068417
(87)【国際公開番号】W WO2020011787
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】102018211497.8
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501401397
【氏名又は名称】ハミルトン・ボナドゥーツ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハンスペーター・ローマー
(72)【発明者】
【氏名】レト・エッティンガー
(72)【発明者】
【氏名】フリードリーン・ギゼル
(72)【発明者】
【氏名】ユルク・ラスト
(72)【発明者】
【氏名】ヨナス・ヒルティ
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/017084(WO,A1)
【文献】特表2018-523120(JP,A)
【文献】特開2008-197037(JP,A)
【文献】特開2006-132984(JP,A)
【文献】特表2020-514015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/108825(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
B01J 4/00-4/02
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2μlより少ない小さい調量体積において、圧力可変の作動ガス(34)を介して、調量液体をパルス状にピペッティングするための分注装置(10)であって、前記分注装置(10)は、
-少なくとも部分的に前記作動ガス(34)が充填されたピペット管(11)、
-少なくとも部分的に前記作動ガス(34)が充填された受容空間(28)を供給するピペットチップ(26)であって、前記受容空間は、圧力を伝えるように前記ピペット管(11)と接続され、ピペット開口部(30)を通じてアクセス可能であるので、前記ピペット開口部(30)を通過する前記受容空間内の前記作動ガスの圧力を変更することによって、前記受容空間内に受容される調量液体の量を変更することが可能であるピペットチップ(26)、
-前記作動ガス(34)の圧力を変更するための、前記ピペット管(11)に沿って移動できるように前記ピペット管内に受容されたピペットピストン(14)、
-前記ピペットピストン(14)を前記ピペット管(11)に沿って移動するように駆動するための運動駆動部(20)、
-前記運動駆動部(20)を作動するための制御装置(24)、及び、
-前記ピペットピストン(14)の位置を検出するため、及び、前記ピペットピストン(14)の位置を表す位置信号を前記制御装置(24)に出力するための位置検出装置、
を含んでおり、前記制御装置(24)は、ピペッティングプロセスをもたらすために、ピペッティングプロセスの開始直前に前記ピペット管(11)内に存在する基準圧力であって、流体が前記ピペット開口部を通過しない基準圧力に関して、前記ピペット管(11)内に圧力パルスを形成するように、前記位置検出装置によって出力された位置信号に基づいて前記運動駆動部(20)を作動するように構成されており、これによって、パルスの間の前記ピペットピストン(14)の位置は、所定のピペットピストン目標位置推移(60)に従っており、圧力パルスを形成するためのピペットピストン運動の長さは、35msを超過せず、
前記制御装置(24)が、データ記憶装置を有しており、前記データ記憶装置内には、フィードフォワード制御のために、複数の所定のピペットピストン目標位置推移が保存されており、
少なくとも調量液体及びピペッティングされるべき液体の量に依存して、一つのピペットピストン目標位置推移(60)が、前記複数の所定の前記ピペットピストン目標位置推移(60)から、前記ピペッティングプロセスそれぞれに関してアクティブな所定のピペットピストン目標位置推移(60)として選択可能である、分注装置(10)。
【請求項2】
前記ピペッティングプロセスの前記圧力パルスが、前記基準圧力に対して、陽圧部と陰圧部とを有していることを特徴とする、請求項1に記載の分注装置(10)。
【請求項3】
前記ピペットピストン目標位置推移(60)が、前記ピペッティングプロセスの開始時の、前記ピペットピストン(14)の出発位置の両側における、又は/及び、最終位置の両側におけるピペットピストン目標位置を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の分注装置(10)。
【請求項4】
前記位置検出装置が、少なくとも1つの位置センサ(39)を有しており、前記位置センサは、前記ピペットピストン(14)の位置を検出し、検出されたピストン位置を表す位置信号を前記制御装置(24)に出力するように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【請求項5】
前記ピペットピストン(14)が、少なくとも1つの永久磁石(18)を有する磁気ピストン(14)であること、及び、前記運動駆動部(20)が電気で励磁可能なコイル(22)を有しており、前記制御装置(24)は、前記コイル(22)への電気エネルギーの供給を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【請求項6】
前記制御装置(24)が、前記コイル(22)への電気エネルギーの供給を、前記コイル(22)への電気エネルギーの供給の検出された最新の状態に依存して、及び、前記位置信号に依存して、制御することを特徴とする、請求項5に記載の分注装置(10)。
【請求項7】
前記制御装置(24)は、直列の制御回路構造(52)を含んでおり、前記制御装置(24)は、直列の前記制御回路構造(52)の内側制御回路(58)内で、前記コイル(22)に印加される電圧を、前記コイル(22)内を流れる電流の目標電流値と検出された電流値との差に従って調整するように構成されており、前記制御装置(24)は、さらに、前記コイル(22)内を流れる電流の前記目標電流値を、直列の前記制御回路構造(52)の外側制御回路(56)において、前記ピペットピストン(14)の目標位置値と前記位置信号によって示された現在位置値との差に従って調整するように構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の分注装置(10)。
【請求項8】
フィードフォワード制御のために、前記データ記憶装置内に、所定の前記ピペットピストン目標位置推移(60)をもたらす所定のコイル目標電流推移(76)が保存されていることを特徴とする、請求項7に記載の分注装置(10)。
【請求項9】
フィードフォワード制御のために、前記データ記憶装置内に、所定の前記コイル目標電流推移(76)をもたらす所定のコイル目標電圧推移(78)が保存されていることを特徴とする、請求項8に記載の分注装置(10)。
【請求項10】
前記ピペットチップ(26)の前記受容空間(28)に受容された調量液体(32)から、調量液体のパルス状分注が行われ、受容された前記調量液体(32)の体積は、分注プロセスにおいてパルス状に分注されるべき調量液体の体積(36)よりも、少なくとも5倍は大きいことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【請求項11】
調量液体のパルス状ではない吸引も行うように構成されていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【請求項12】
前記ピペッティングプロセスの前記圧力パルスが、前記基準圧力に対して、陽圧部と陰圧部とを有し、
前記ピペットピストン(14)の有効なピストン面(14a)が、調量液体のパルス状分注の際、前記圧力パルスの陽圧部の形成の間、パルス状に分注される調量液体の体積(36)の少なくとも1.4倍を掃引することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【請求項13】
ジェットモードでパルス状分注を行うように構成されており、前記ジェットモードでは、分注される液体体積が、前記ピペットチップ(26)内の放出される前記調量液体(32)と分注目標との間の距離を自由飛行することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【請求項14】
前記分注装置は、前記ピペット開口部と、前記ピペット開口部に近い方の前記調量液体のメニスカスとの間に、ガス体積を形成するように構成されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の分注装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2μlより少ない小さい調量体積において、圧力可変の作動ガスを介して、調量液体をパルス状にピペッティングするための分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御装置を通じて、運動駆動部は、ピペッティングプロセスを引き起こすために、意図的に作動可能であり、これによって、運動駆動部の対応する作動を通じて、ピペットピストンが所望の通り移動し、その結果、作動ガスの圧力が所望の通り変更される。
【0003】
本発明の意味におけるパルス状分注は、特許文献1から知られている。しかしながら、特許文献1の場合、作動ガスによって陽圧パルスが伝えられるのではなく、圧電アクチュエータによって、物理的衝撃が、分注装置内に供給された調量液体の、ピペット開口部から遠い方のメニスカスに直接加えられ、これによって、供給された調量液体柱の反対側の長手方向端部において、ピペット開口部に近い方のメニスカスから、液滴が滴下する。
【0004】
この既知の方法の欠点は明白である。すなわち、圧電アクチュエータが調量液体と接触することによって、汚染のリスクが高まるのである。
【0005】
本出願の意味におけるパルス状ピペッティングを行う分注装置は、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2001/0016358号明細書
【文献】独国特許出願公開第102015214566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、可能な限り衛生的に、つまり可能な限り低い汚染リスクで、かつ、小さい調量体積で可能な限り高い精度でピペッティングすることが可能である分注装置について記載することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、本課題は、冒頭に述べた種類の分注装置によって解決される。当該分注装置は、
-少なくとも部分的に作動ガスが充填されたピペット管、
-少なくとも部分的に作動ガスが充填された受容空間を供給するピペットチップであって、当該受容空間は、圧力を伝えるようにピペット管と接続され、ピペット開口部を通じてアクセス可能であるので、ピペット開口部を通過する受容空間内の作動ガスの圧力を変更することによって、受容空間内に受容される調量液体の量を変更することが可能であるピペットチップ、
-作動ガスの圧力を変更するための、ピペット管に沿って移動できるようにピペット管内に受容されたピペットピストン、
-ピペットピストンをピペット管に沿って移動するように駆動するための運動駆動部、
-運動駆動部を作動するための制御装置、及び、
-ピペットピストンの位置を検出するため、及び、ピペットピストンの位置を表す位置信号を制御装置に出力するための位置検出装置、
を含んでおり、制御装置は、ピペッティングプロセスの開始直前にピペット管内に存在する基準圧力であって、流体がピペット開口部を通過しない基準圧力に関して、ピペット管内で圧力パルスを形成するために、位置検出装置によって出力された位置信号に基づいて運動駆動部を作動するように構成されており、これによって、パルスの間のピペットピストンの位置は、所定のピペットピストン目標位置推移に従っており、圧力パルスを形成するためのピペットピストン運動の長さは、35msを超過しない。
【0009】
ピペットピストンを用いて、ピペットピストンと調量液体との間に存在する作動ガスの圧力が変更され、これによって、調量液体がピペット開口部を通って分注又は吸引される、いわゆる「空気置換」方式でピペッティングするように構成することによって、不可避のピペットチップを除いて、分注装置の部材又は部材部分と調量液体との間に接触は生じない。
【0010】
さらに、40msよりも小さい、非常に短い圧力パルスに関してさえも、作動ガス圧力に応じた作動ガス内の圧力パルスの形成のための、ピストン運動の制御が可能であることが明らかになっている。このためには、35msを超えない長さのピストン運動で十分である。分注されるべき調量液体に関して予め定められたピペットピストン目標位置推移に基づく、ピペットピストン運動の、制御装置による、ピペット管内のピペットピストンの位置に基づく制御を用いて、サブマイクロリットルの領域における最小の調量液体体積でさえも、精度の高いピペッティングが可能である。
【0011】
35ms以下の長さのパルス状ピペッティングのためのピストン運動は、好ましくは、ピペッティングプロセスの唯一のピストン運動であり、2μlより少ない調量液体のピペット開口部を通る移動と、従って、対応する調量とをもたらす。
【0012】
基本的に、同様に可能である、検出された作動ガスの現在圧力と作動ガスの目標圧力推移との比較に基づくピペットピストン運動の制御は、難しいことがわかっている。なぜなら、パルス状ピペッティングプロセスの間に、作動ガスに共鳴効果が生じ得るからである。これに関して主に責任を負うヘルムホルツ共鳴効果は、作動ガス圧力をパルス状に変更する際に、圧力信号における振幅を生じる可能性があり、振幅は、制御変数として検出された作動ガス圧力を用いることを著しく困難にする。
【0013】
本出願において、変数の検出された値という概念は、当該変数の「現在値」という概念と同義である。
【0014】
本出願では、「圧力パルス」又は「パルス状」ピペッティングという言葉で、ピペットチップへの調量液体の受容(吸引)又はピペットチップからの調量液体の放出(分注)をもたらす、総パルス長が40msを超えない、作動ガス内の圧力パルスが表されている。作動ガスにおける慣性による減衰効果ゆえに、圧力パルス長は、一般的に、圧力パルスをもたらすピペットピストン運動の長さよりも長い。この際、ピペットピストン運動の長さは、ピペットピストンがピペッティングプロセスの直前に位置している、ピペットピストン基準位置又はピペットピストン出発位置からの出発と、ピペットピストンの新たな停止との間における時間的間隔である。ピストンの速度が0になる点であり、移動が反転する死点は、本出願の意味におけるピペットピストンの停止ではない。ピペットピストンが、ピペッティングプロセスの開始直前に、ピペットピストン出発位置に存在する場合、作動ガス内には基準圧力が存在しており、基準圧力においては、ピペット開口部を調量液体は通過せず、好ましくは、場合によってピペットチップ内に存在する調量液体は、概ね静止して保持される。
【0015】
小さい調量体積の調量液体を、つながりのある唯一の液滴において、すなわち望ましくない付随液滴を伴わずに、決められた通りピペッティングするため、特に分注に際して滴下するために、圧力パルスは、好ましくは陽圧部と陰圧部とを含み得る。実践でははるかに重要であるパルス状分注に際して、圧力パルスにおいて、陽圧部は陰圧部に対して、時間的に先行する。
【0016】
陽圧部も陰圧部も、上述の最大40msの圧力パルスの時間枠内にある。
【0017】
同じく、上述の小さい調量体積を液滴において、望ましくない付随液滴を形成せずにピペッティングするという目標をもって、ピペッティングプロセスのピペットピストン目標位置推移は、ピペットピストン目標位置を、ピペッティングプロセスの開始又は終了時点における、ピペットピストンの出発位置又は/及び最終位置の両側において含み得る。パルス状分注に際して、出発位置の作動ガス圧力を上昇させる側(分注側)に位置するピペットピストン目標位置の少なくとも大部分は、作動ガス圧力を低下させる側(吸引側)に位置するピペットピストン目標位置に対して、時間的に先行する。パルス状ピペッティングの場合、基本的にあり得ることだが、ピペッティングプロセスのためのピペットピストンの出発位置及び最終位置が同一である場合、好ましくは、出発位置及び最終位置の分注側に存在するピペットピストン目標位置の全てが、出発位置及び最終位置の吸引側に存在するピペットピストン目標位置の全てに対して時間的に先行する。これに対して、分注プロセスのためのピペットピストンの最終位置が、その出発位置から離れて、出発位置の分注側に位置する場合、ピペットピストン目標位置推移全体は、ピペッティングする圧力パルスを形成するために、出発位置の1つかつ同一の側に位置していてよい。しかしながら、ピペットピストン目標位置推移はつねに、ピストン運動の終了位置の分注側及び吸引側の両側に位置している。ピストン運動の開始位置と終了位置との互いに対する相対的な位置とは関係無く、ピペットピストン目標位置推移は、好ましくは少なくとも2つの、特に好ましくはまさに2つの移動が反転する死点を含んでいる。これは、言い換えると、ピペットピストン運動が、3つより多くの時間的に連続する運動相は有しておらず、特に好ましくは3つのみの運動相を有しており、これらの運動相においては、後続の相におけるピストンの移動方向は、それぞれ直前の相における移動方向の反対であるということを意味している。パルス状分注プロセスの例では、ピペットピストンは、第1の相では分注方向にのみ移動し、次の第2の相では吸引方向にのみ移動し、最後に第3の相では再び分注方向にのみ移動する。この際、第3の相は、通常、時間的に最も短く、ピストンのストロークが最も小さい相である。
【0018】
ピペットピストン運動が時間的に特に短い最も単純な場合には、ピペットピストンの移動方向は、ピペッティングプロセスの間に一度変わるのみであり、分注プロセスの例では、分注方向の移動から吸引方向の移動に変化する。上述の第3の相は省略可能である。
【0019】
「パルス状」分注という言葉で、従来のピペット動作とは異なる分注が表されている。パルス状分注の際には、作動ガスの陽圧パルスを通じて、作動ガスの圧力衝撃が、分注装置に受容された調量液体の、調量開口部に背向する側に加えられる。当該圧力衝撃は、圧縮できない量の調量液体を通じて、受容された調量液体のピペット開口部に近い方のメニスカスまで伝わり、当該メニスカスにおいて、調量液体液滴が滴下する。調量液体液滴の滴下は、著しく加速した分注方向におけるピストン運動に、やはり著しく加速した吸引方向におけるピストン運動が時間的にすぐ続いて生じる鞭状のピストン運動によって、決められた通りに引き起こされる。この際、このように生じた作動ガスの圧力パルス推移における陰圧部は、値としては、先行する陽圧部よりも小さく、時間的には陽圧部よりも長くなく、好ましくは陽圧部より短くさえある。
【0020】
このような方法で、2μlより少ない、又は、600nlより少ない、極めて小さな液体体積が、高い繰り返し精度で調量され、アリコートされることさえあり、つまり、各分注プロセスの間に調量液体を吸引することなく、繰り返し、ピペットチップの受容空間に受容された、体積としては比較的大きい量の調量液体から分注される。本出願において用いられる概念を明確にすると、アリコートは、つねに複数の分注プロセスを含んでおり、つまり、アリコートの間に放出される調量液体それぞれに関して、正確に1つの分注プロセスを含んでいる。
【0021】
パルス状分注とは対照的に、従来の分注の場合、分注装置を用いて受容された調量液体は、作動ガス内の圧力を上昇させることによって、液滴がピペット開口部から重力によって滴下するか、又は、調量液体が、ピペット開口部を通過して、調量液体で湿らされた基板上若しくは既存の液体中に調量され、当該基板若しくは当該液体から、ピペット開口部が、所定量を放出した後で取り外されるまで押し出される。従来の、準同期分注の場合、一般的に、調量液体は、ピペットピストンも分注方向(作動ガス内の圧力を上昇させる)に移動する限りにおいて、ピペット開口部を通って分注方向に移動する。
【0022】
つまり、従来の分注の場合、作動ガス内の圧力変化と、従ってピペットピストンの運動とは、分注装置のピペット開口部を通じた調量液体の放出と同期して、又は、準同期して行われるが、本発明に基づくパルス状分注は、この点に関しては非同期であり、すなわち作動ガス内の陽圧パルスのパルス状の急激な形成に続いて、調量液体の液滴が、一般的には初めて、受容された調量液体から滴下され、一方で、陽圧パルスは、少なくとも減衰しているところであるか、減衰してしまっている。従って、調量液体液滴の放出は、ピペットピストンの運動と同期しては行われない。調量液体液滴は、パルス状分注に際して分注方向に移動し、一方で、ピペットピストンは、吸引するように(作動ガス内の圧力を減少させながら)移動するか、又は、すでに再び停止している。この際、ピペットピストンが、パルス状分注のためにどの程度の速度で移動しなければならないかは、分注されるべき調量液体の種類、例えばその粘度又は/及びその密度又は/及び表面張力に依存する。従って、極めて一般的に、ピペットピストン目標位置推移が予め、異なる調量液体又は調量液体等級に関して、及び、異なる調量されるべき量に関して決定され、分注装置のデータ記憶装置に呼び出し可能に保存され得る。
【0023】
パルス状分注の場合、調量されるべき量の液体が、液滴として、一般的に加速して、分注装置に受容された調量液体から放出され、分注に際して、重力の作用方向において重力加速が生じる。これは、分注装置によるパルス状分注に際して受容された調量液体から滴下する調量液体液滴は、分注の際に、重力の作用方向において、単に自由な場合よりも速く分注装置から離れる方向に移動するということを意味している。
【0024】
多量の調量液体、すなわち2μlより多い量の調量液体は、一般的に、本出願において「従来の」とも表現されている分注装置の同期動作モードにおいてピペッティングされる。同期動作モードでは、ピペットチップ内の調量液体、より正確にはそのピストンの方を指示するメニスカスが、ピペット開口部側又は調量側のピストン端面の動きに同期して従っている。これは、メニスカスが、ピストンがピペッティング方向として分注方向に動かされる場合は、ピストンの調量側端面と共に分注方向に移動し、ピストンがピペッティング方向として吸引方向に動かされる場合は、ピストンの調量側端面と共に吸引方向に移動するということを意味している。ピストンの調量側端面の移動と、調量液体のピストンに近いメニスカスとの間には、時間的なずれがわずかに生じ得る。なぜなら、ピストンと調量液体との間に存在する作動ガスは、まず、摩擦作用、毛管作用、付着作用、凝集作用、又は/及び、表面効果を克服するために、ピストン運動を通じて初めて、所望のピペッティングプロセスが進行し得る圧力レベルにされねばならないからである。これは、吸引の場合には、周囲圧力に対する陰圧であるので、調量液体は、作動ガスの圧力と、ピペットチップのピペット開口部が浸漬している調量液体容器の周囲圧力との間の圧力差によって動かされて、ピペットチップに流入する。これは、分注の場合、周囲圧力に対する陽圧であるので、ピペットチップに受容された調量液体は、作動ガスの圧力と周囲圧力との間の圧力差によって動かされて、ピペットチップのピペット開口部を通って流出する。従って、この圧縮性作動ガスは、ガススプリングの様に作用する。ピストン運動と、ピペットチップにおける調量液体のメニスカスの移動との間に、わずかではあるが存在する時間的なずれに基づいて、従来の調量液体のピペッティングは、以下において、準同期動作モードと呼ばれる。
【0025】
ピストン及び調量液体の準同期移動に際する従来の分注の場合、ピペットチップから分注されるべき調量液体の分離が、調量液体の慣性力を利用してもたらされ得る。ピストンは、所定の時間、分注方向に移動した後、ピペットチップから押し出される調量液体の分離が望ましい場合は、可能な限り急激に停止する。すでに押し出された、先行するピストン運動ゆえに依然として分注運動にある調量液体の質量慣性によって、ピペット開口部における調量液体の遮断と、最終的に調量液体の分離とが生じ得る。ピストン運動と、作動ガスを介して押し出された調量液体との関連は、従来の分注の場合、一般的に、様々な液体等級に関して経験的に決定され、分注装置のデータ記憶装置に保存されている。当該準同期動作モードの場合、調量側のピストン面によって、ピストンのピペッティング方向における移動の間に掃引される体積(一般的に、ピペッティング体積、又は、ピストンの移動方向に応じて吸引体積若しくは分注体積)は、一般的に、実際にピペッティングされた調量液体の体積を、5%より多くは超過しない。従って、ピペッティング体積の、実際にピペッティングされた調量液体体積に対する比は、一般的に1.05より大きくはない。
【0026】
慣性によって誘導されるピペット開口部における液体の分離を通じて、時折、望ましくないことに、調量液体が、ピペット開口部の領域においてピペットチップの外側に付着し続ける。付着した液体が、完全に、又は、部分的に、制御されずに滴下することを回避するために、ピストンは、液体の分離後に、吸引方向にわずかに移動し、これによって、外側に付着した調量液体は、ピペット開口部を通って、ピペットチップに再び吸引される。
【0027】
分注の慣性力を利用した調量液体の分注は、調量液体それぞれに依存して、3μl~5μlより少ない1回分調量体積に関しては、もはや確実には機能しない。なぜなら、質量が小さいので、得られる慣性力は、別の力の影響を、特に表面張力ゆえに、このように小さな調量液体体積のより確実で繰り返し可能な滴下を保証し得るために十分確実には、もはや克服できないからである。
【0028】
本明細書に記載した分注装置と異なるのは、いわゆる「ディスペンサ」であり、ディスペンサは、一般的に、調量液体を専ら分注するものであり、吸引することはできない。ディスペンサは、分注すべき調量液体を、一般的に供給管を通じて、ピストンによって変更可能であるディスペンサの調量空間と流体接続された容器から得る。
【0029】
上述の分注装置とさらに異なるのは、ピストンの調量側端面が、ピペッティングされるべき調量液体と直接接触している分注装置である。この場合、ピストンと調量液体との間には、作動ガスは存在しない。
【0030】
このような作動ガスの存在しない分注装置におけるピストンの運動と調量液体の移動との直接の連結ゆえに、当業者は、このようなピペッティング方法を、英語のPositive Displacement(容積式)という概念で表現する。しかしながら、圧縮性作動ガスの省略は、理論的に得られるピペッティングの精度を高めるものの、実際には、他の箇所で困難が生じる。一方では、吸引の際のピペッティング体積へのガスの含有が、完全に確実には排除されず、容積式ピペッティングの際にも、ガスの泡又は空気の泡が、吸引される調量液体内に生じる可能性があり、これは、目標状態からは逸脱しているので、得られるピペッティング精度に対して不利に作用する。他方では、容積式ピペッティングで得られるピペッティング精度は、調量液体が泡を形成する傾向を有する場合に、著しく低くなる。さらに、ピペットピストンが調量液体で湿らされているので、ピペッティングされるべき調量液体を交換すべき場合は、ピペットチップだけではなく、ピペットチップと共にピペットピストンも交換せねばならず、これは、著しい取り付けの負担と、そこから生じる著しい費用とを意味している。
【0031】
対照的に、ピストンと調量液体との間に作動ガスを有する同属の分注装置のピペッティング方法は、当業者によってAir Displacement(空気置換式)と呼ばれている。と言っても、当該作動ガスは、必ずしも空気でなくてよく、窒素等の不活性ガス又は準不活性ガスであってよい。この種類のピペッティングの場合、ピペットピストンは、気柱、特に空気柱を通じて、調量液体から持続的かつ完全に分離している。従って、汚染のリスクは存在しないか、存在しても看過可能な程度である。
【0032】
本発明に係る分注装置は、システム液の柱をピストンとして用いる分注装置とも異なっている。このようなシステム液は、ある程度の汚染リスクを前提としている。なぜなら、時として、システム液、つまりいわば液状ピストンの一部が、ピペッティングされるべき調量液体に達することを排除できないからである。本発明の分注装置のピストンは、少なくとも部分的に、汚染リスクを回避するためには好ましくは完全に、固体として形成されている。部分的にのみ固体として形成する場合、少なくともピストンの調量液体の方を指示する調量側端面が固体として形成され、これによって、液体から液体への伝達が防止される。
【0033】
少量の1回分の調量液体のパルス状分注に際して、選択された調量液体に依存して、例えばその粘度、密度又は/及び表面張力に依存して、さらに、陽圧パルスのパラメータ及び場合によっては後続の陰圧パルスのパラメータに依存して、望ましくない随伴現象が生じ得る。例えば、放出しているピペット開口部に近い方のメニスカスにおける、ただ唯一の望ましい調量液滴の代わりに、調量液体の霧化、又は、望ましくない付随液滴に伴われた調量液滴を通じた調量液体の放出が生じる可能性があり、これは、得られる調量体積の精度の望ましくない低下と結びついている。
【0034】
従って、本出願の意味においては、液滴における調量液体の、噴霧及び霧化を伴わない放出が、分注として理解される。
【0035】
基本的に、分注装置は、固定して取り付けられたピペット管を有し得る。ピペット管は、ピペット開口部を備えた、ピペット管の端部側に形成されたピペットチップを有している。しかしながら、これは、衛生面を考慮すると、利点が少なくなる。好ましくは、分注装置は、交換可能なピペットチップを、解除可能に、ピペット管に連結するように構成されている。これに従って、本発明の有利なさらなる発展形態によると、分注装置が、一時的なピペットチップの連結のために、ピペット管が貫通する連結構造を有することが規定されている。ピペットチップが連結構造に連結されている場合、ピペットチップは、装置固有のピペット管を延長し、一時的に、すなわちその連結の間、分注装置のピペット管の一部となる。ピペットチップは、汚染リスクを減少させるために、好ましくはいわゆる「ディスポーザブル」な、すなわち使い捨てのピペットチップであり、1回の分注又はアリコートの後で廃棄処理される。
【0036】
好ましくは、分注装置は、パルス状分注だけではなく、従来の吸引も行うように構成されており、従来の吸引では、受容空間内の調量液体及び最初に受容空間に流入する調量液体は、上述した意味において同期又は準同期して、ピストン運動に従っている。この場合、分注装置内、特に分注装置に受容されたピペットチップ内の調量液体の供給は、調量液体の、分注装置のピペット開口部を通過する、分注装置の受容空間内への準同期吸引を通じて行われ得る。
【0037】
好ましくは、分注装置は、非同期動作においてパルス状分注を行うように、かつ、準同期動作において従来の分注を行うように構成されており、本発明に係る分注装置を用いて、2μlよりも少ない、例えば数十ナノリットルまでの小さな調量液体体積と、同様に、数百マイクロリットルという多量の液体とが、繰り返し正確に分注され得る。非同期動作と準同期動作との間の切り替えは、制御装置によるピペットピストン運動駆動部の対応する作動を通じて行われる。制御装置は、さらに、パルス状ピペッティング動作においてのみ、運動駆動部の作動を、位置検出装置によって出力された位置信号に従って制御するように構成されていてよい。従来のピペッティング動作では、制御装置は、ピストンによって掃引される体積と分注又は吸引される体積との密な相互関係ゆえに、運動駆動部を、引き続き、位置に依存して、少なくとも1つの位置センサの、ピペットピストンの位置を示す信号に従って作動し、ピストンの位置を制御することができる。付加的又は代替的に、制御装置は、従来のピペッティング動作において、運動駆動部を、作動ガスの圧力を表す圧力信号に従って作動することができる。ピストンの加速と運動とが十分に遅い場合、分注は準同期して行われ、吸引も同様である。運動駆動部における制御装置によって、所望のピストン加速又は/及びピストン速度に関して設定される値は、大きな負担を生じずに、様々な液体等級に関して、実験によって決定され得る。
【0038】
例えば、制御装置は、準同期ピペッティング動作の実現のために、2μlより多い所定の1回調量体積の、1000μl/sを超えない最高速度でのピペッティングのために、ピストンを移動させるように構成されていてよい。1000μl/sを超えないピストンの最高速度では、調量液体は、場合によってはわずかな時間的なずれを伴って、同じ方向の移動において、ピストンに続いている。この、ピストンによって掃引されたピペッティング体積は、上述したように、実際にピペッティングされた調量液体の体積に略相当する。好ましくは、本出願において以下で挙げる、ピストン面によって表されるピストンの大きさが重要である。
【0039】
本発明に係る分注装置を、同期又は準同期パルス状ピペッティング動作においても、非同期パルス状ピペッティング動作においても動作させる可能性を用いて、本発明に係る1つかつ同一の分注装置は、選択可能な1回分調量体積を、100nl~100μl、好ましくは100nl~1000μlの調量体積範囲において、呼び容積である所定の1回分調量体積に対して体積の差異が2%を超さずに、再現可能にピペッティングするように構成されていてよい。従って、本発明に係る分注装置は、最大ピペッティング体積として、最小ピペッティング体積の10000倍をピペッティングすることができる。この際、自明のことながら、例えば上述の100nlという下限を下回ることもあり得るということが排除されるべきではない。いずれにしても、上述のピペッティング体積範囲に関しては、分注装置の機能は保証されている。
【0040】
上述の理由から、分注装置が解除可能なピペットチップを有し、ピペットチップが、連結構造と解除可能に連結係合するための連結相手側構造を備え、吸引プロセスの間、及び、分注プロセスの間に、調量液体のための通過開口部としてピペット開口部を備えていると有利である。この場合、調量液体は、場合によっては吸引プロセスの後で、ピペットチップに供給されている。吸引プロセスは、その際に受容される多量の調量液体ゆえに、好ましくは、パルス状ではなく準同期吸引プロセスとして行われる。すなわち、作動ガス内の吸引する陰圧の形成と、それに起因する調量液体のピペット開口部を通過する、分注装置又はピペットチップへの流入とは、大部分が時間的に重複している。
【0041】
本発明に係る分注装置及びパルス状分注方法の大きな利点の1つは、標準的なピペットチップが使用可能であることにあり、当該ピペットチップは、1回のパルス状分注プロセスに際して放出される1回分の調量液体よりもはるかに大きいピペッティング空間呼び容積を有している。好ましくは、ピペットチップの受容呼び容積又はピペッティング空間呼び容積は、1回のパルス状に分注された、又は、分注可能な液体の可能な最小体積の80倍より多く、特に好ましくは300倍より多く、極めて好ましくは500倍より多い。これによって、数多くの連続するパルス状分注を伴うアリコートプロセスが、同時に調量体積の極めて高い繰り返し精度をもって、間に吸引を行わずに実現し得る。
【0042】
例えば、実験において、300μlの受容呼び容積を有する標準的なピペットチップが、分注装置に一時的に連結された。当該ピペットチップには、例えばグリセリン等の、40μlの調量液体が同期して吸引された。ピペット開口部に近い方の、放出しているメニスカスとピペット開口部との間には、4μl~5μlのガス体積が設けられたが、ガス体積は、本発明に係る分注装置にとっては全体的に有利であるが、強制的に必要ではない。この状況において、グリセリンが調量液体として、448nlの1回分調量体積で、連続して20回、パルス状にアリコートされた。この際、放出された調量体積それぞれは、2.96%より大きくは異ならなかった。
【0043】
比較的粘度の高い液体であるグリセリンを、450nlよりも少ない再現可能な調量体積で、分注装置内に設けられた40μlの容器から複数回にわたって分配することは、極めて異例である。
【0044】
構造的に、作動ガス内でパルス状の圧力変化を得ることは、ピペットピストンが少なくとも1つの永久磁石を有する磁気ピストンであること、及び、運動駆動部が電気で励磁可能なコイルを有することによって、容易かつ極めて正確に可能である。このために、制御装置は、コイルへの電気エネルギーの供給を制御するように構成されていてよい。磁気ピストンは、好ましくは複数の固体永久磁石を備えた、好ましくは固体ピストンであり、固体永久磁石は、少なくともそのピペット開口部に近い方の長手方向端部において、ピストンを可動に受容しているピペット管に対して、例えば対応するキャップによって、十分に密封されている。当該キャップは、ピペットピストンの1つまたは複数の固体永久磁石を包囲し得る。リニアモータのように、電磁界を通じて駆動可能である磁気ピストンの供給は、ピペット管内でのピストンの極めて動的な鞭状の運動プロセスを可能にし、これによって、時間的に非常に短い陽圧パルスの形成を可能にする。当該陽圧パルスは、同様に時間的に短い陰圧パルスによって、その作用において、急激に停止され得る。
【0045】
上述の陰圧の形成は、磁気ピストンの第1の方向への変位、一般的に、ピペット開口部から離れる方向における変位を含んでいる。
【0046】
同様に、圧力パルス内の陽圧部分の形成は、第1の方向とは反対の第2の方向へのピストンの変位を含んでいる。
【0047】
好ましくは、ピペットピストンと、ピペット管に供給された調量液体との間には、作動ガスのみが存在しており、その他のシステム流体又は調量流体は存在していない。
【0048】
基本的に、励磁可能なコイルを通じてリニアモータによって移動可能である、少なくとも1つの永久磁石を有するピペットピストンを用いる際には、ピペット管内でのピペットピストンの位置が、リニアモータの運動駆動部を通じた永久磁石のピペットピストンのコイルへの誘導的反作用に基づいて自身で決定される。従って、リニアモータの運動駆動部自体は、位置検出装置又は少なくともその一部であり得る。可能な限り高分解能で、従って特に正確にピペットピストンの位置を検出するために、位置検出装置は、付加的又は代替的に少なくとも1つの位置センサを有することが可能であり、位置センサは、ピペットピストンの位置を検出し、検出したピストン位置を示す位置信号を制御装置に出力するように構成されている。ピペットピストンが永久磁石のピストンである場合、好ましくは、位置センサとして、ピペット管に沿って配置された複数のホールセンサを用いることが可能である。しかしながら、別の位置センサを用いることも可能である。
【0049】
制御装置は、ピペッティングプロセスの間における作動ガスの圧力を高精度にパルス状に変化させるために、コイルへの電気エネルギーの供給を、閉ループ制御の形式で、コイルへの電気エネルギーの供給の検出された最新の状態に依存して、及び、位置検出装置又は少なくとも1つの位置センサの位置信号に依存して、制御することができる。
【0050】
その際、冒頭に記した、35msというピペットピストン運動の長さは、単に上限である。この長さは、所望の分注量及び調量液体に依存して、35msよりも著しく短くてよく、約15ms、10ms、5ms、又は、1msでさえ可能である。本発明の特に有利なさらなる発展形態によると、作動ガスの圧力のパルス状変化のために用いることができる、必要な短い時間において、所望の高い調量精度を得るために、制御装置は、少なくとも2つの制御回路を備えた直列の制御回路構造を含んでいる。この場合、制御装置は、直列の制御回路構造の内側制御回路内で、コイルに印加される電圧を、コイル内を流れる電流の目標電流値と検出された電流値との差に従って調整するように構成されていてよい。
【0051】
制御装置は、さらに、コイル内を流れる電流の目標電流値を、直列の制御回路構造の外側制御回路において、ピペットピストンの目標位置値と位置信号によって示された現在位置値との差に従って調整するように構成されていてよい。
【0052】
これに加えて、ピストン運動の直列制御を通じて、複数の外乱変数が、高速かつ確実に保証され得る。コイルの目標電流値を、ピペットピストンの目標位置と現在位置との差に基づいて決定する外側制御回路は、予測不能で、様々な分注装置及び動作プロセスに関してそれぞれ異なる、ピストンシールとピペット管シリンダとの間の摩擦等の摩擦の影響を補償するか、又は、少なくとも減少させることができる。
【0053】
目標電圧値を、コイル内を流れる電流の目標電流値と現在電流値との差に基づいて決定する内側制御回路は、予測不能で、様々な分注装置及び動作プロセスに関してそれぞれ異なる、コイル抵抗及びコイルインダクタンスの変動を補償するか、又は、少なくとも減少させることができる。
【0054】
特に圧力パルスが短く、例えば1桁のミリ秒領域である場合、しかしまた、その領域だけではなく特に圧力パルスが短い場合、作動ガス圧力を高い精度で高速に変化させるために、制御装置がデータ記憶装置を有しており、当該データ記憶装置内に、フィードフォワード制御のために、少なくとも1つの所定のピペットピストン目標位置推移が保存されているとさらに有利である。付加的に、調量精度をさらに高めるために、フィードフォワード制御に関して、データ記憶装置内に、所定のピペットピストン目標位置推移をもたらす所定のコイル目標電流推移が保存されていてもよい。
【0055】
好ましくは、制御装置は、ピペットピストン目標位置と目標コイル電流とに基づいて、直列の制御回路構造内の制御回路のフィードフォワード制御を行うように構成されている。所定の推移は、様々な液体又は液体等級に関して、経験的に決定され得る。推移として見なされるのは、少なくとも3つのパラメータ値の時間的な連続である。絶対的なパラメータ値の代わりに、推移は、例えば標準大気(1013.25hPaの大気圧において約20℃)等の基準状態に関して有効なパラメータ値に対する差分値(デルタ値)も含み得る。これによって、所定の推移が、気象に関して補償されていてよい。
【0056】
所定の推移は、付加的又は代替的に、数学関数又はCHAR関数の形で保存されていてもよい。好ましくは、直接には経験的に決定されない値は、関数を基に、内挿又は外挿によって得られる。
【0057】
上述したように、データ記憶装置内には、所定のピペットピストン目標位置推移が複数保存されていてよい。これらの所定のピペットピストン目標位置推移の中から、少なくとも調量液体及びピペッティングされるべき液体の量に依存して、ピペットピストン目標位置推移が、各ピペッティングプロセスに関してアクティブな所定のピペットピストン目標位置推移として選択可能であってよい。この選択は、手動での入力又はネットワーク化された実験室内機器の間でのデータ転送を通じて行われ得る。選択は、調量液体に関して自動的に、分注装置及びその制御装置によって行われ得る。なぜなら、例えば、分注装置は、調量液体又は調量液体等級を自力で認識するように構成されているからである。これは、単純な場合では、バーコード等の、対応するコーディングを読むことによって、又は、必要に応じてさらなるセンサを用いた、調量液体又は調量液体等級を認識するための分析調量を通じて行われ得る。
【0058】
パルス状ピペッティングの際に関連する物理的効果ゆえに、ピペットチップは、パルス状分注の際に、完全には空にならない。パルス状分注プロセスの後にも、ピペットチップの受容空間には調量液体が残存する。従って、好ましくは、調量液体のパルス状分注が、ピペットチップの受容空間に受容された調量液体から行われ、その体積は、パルス状に分注されるべき調量液体の体積よりも、少なくとも5倍は大きい。
【0059】
分注装置は、ジェットモードでパルス状分注を行うように構成されており、ジェットモードでは、分注された液体が、ピペットチップ内の放出される調量液体と分注目標との間の距離を自由飛行する。
【0060】
パルス状ピペッティングに関して典型的な、ピストンの鞭状の可動性は、好ましくは、制御装置が、2μlより少ない所定の1回分調量体積の分注のために、運動駆動部を動作させるように構成されており、これによって、ピストンは、分注方向において移動し、その際にその調量側端面が、1回分調量体積よりも少なくとも1.4倍は大きい分注体積を掃引し、ピストンが次に、分注方向とは反対の吸引方向に移動し、その際にその調量側端面が、吸引体積を掃引し、ピペットピストンの運動の長さは、全体で35msより長くはなく、好ましくは25msより長くはないということによって実現される。
【0061】
ピストンの移動は、ピストンにおける任意の基準点を基に、例えば調量側のピストン面を基に検出され得る。
【0062】
本発明において提案されたピストンの運動経過が調量液体に与える作用は、完全には解明されていない。しかしながら、説明モデルは、分注装置内の、好ましくは分注方向におけるピストンのパルス状運動によって、ピペッティングされるべき所定の1回分調量体積よりも多くの分だけ、調量液体の慣性力、表面張力、付着及び凝集に反して調量液体の移動を所望の分注方向に誘導するために必要な励磁エネルギー又は分離エネルギーが、ピペッティングされるべき調量液体に伝達されることを前提としている。
【0063】
好ましくは分注方向であるピペッティング方向とは反対の、好ましくは吸引方向であるピペッティング方向にピストンが移動する際、ピストンは新たに、一般的には別の、好ましくはやはり、本来ピペッティングされるべき1回分調量体積よりも大きい体積を掃引するが、当該移動によって、前もって励磁された調量液体のピペッティング運動、好ましくは分注運動が、再び「無励磁に」される。必要な無励磁の程度に応じて、上述の2つの運動相で十分であるか、又は、3つの運動相が必要になる。
【0064】
従って、非常に短く鋭い圧力パルスが、ピペッティング時間にわたるピペットピストン位置の所定の推移に従うピペットピストンの運動によって、ピストンから作動ガスを介して調量液体に伝達される。どの程度正確に、ピペットピストン現在位置推移が、ピペットピストン目標位置推移に従っているかは、制御の質に依存する。この際、良い結果は、短い圧力パルスに関してでさえ、複数のパラメータに基づく上述の直列制御によって、好ましくはパラメータのフィードフォワード制御によって得られた。
【0065】
驚くべきことに、ピストンによってその移動の際に掃引される体積である、分注体積と吸引体積とは、同じ大きさであり得る。従って、ピストンは、分注プロセスの終わりには、再び出発位置に存在し得る。それにもかかわらず、1回分調量体積は、ピペッティングされる。
【0066】
従って、本発明では、ピストンの「変位収支」は重要ではない。実験はむしろ、実際に分注された調量液体の体積が、時間で積分されたピストンの目標運動に依存することを示した。
【0067】
この際、ピストンによって、又は、ピストンの調量側端面によって掃引される体積は、端面の形状がピペッティングの間に変化しないという理にかなった仮定のもとでは、ピストン行程と乗じた、ピペットピストンの調量側端面の、管軌道に直交する投影面への投影の面積である。
【0068】
「分注方向」という言葉で、ピペットチップの調量液体受容空間から調量液体を押出すピストンの移動方向が表されている。「吸引方向」という言葉で、ピペットチップの調量液体受容空間に調量液体を吸引するピストンの移動方向が表されている。
【0069】
本出願において、1回分調量体積は、分注プロセスが、具体的な既知の調量体積を分注するという明確な目標を有して進行する場合、つねに予め決められている。1回分調量体積は、分注装置への手動入力によって、又は、分注装置へのデータ伝送によって、又は、手動で入力された、又は/及び、記憶装置に保存されたデータからの算出によって、分注装置に関して予め決定されていてよい。
【0070】
ピストンの調量側端面によってまず掃引される分注体積は、所定の1回分調量体積だけではなく、付加的に、それぞれピペッティングされるべき調量液体のパラメータにも、又は/及び、調量側ピストン面と調量液体との間の作動ガスの体積にも依存し得る。基本的には、調量液体の粘度(20℃の室温で、1013.25hPaの大気圧において、回転粘度計を用いて測定された)が高くなればなるほど、分注体積の、1回分調量体積に対する比は大きくなる。同様に、作動ガスの体積が大きければ大きいほど、分注体積の、1回分調量体積に対する比は大きくなる。好ましくは交換可能であるピペットチップの場合、一般的に、ピストンと調量液体との間の構造に起因する作動ガス体積は、100μlを下回らず、3000μlを上回らない。好ましくは、作動ガス体積は、180μlから1000μlの間、特に好ましくは200μlから800μlの間である。
【0071】
例えば、分注体積は、1回分調量体積の少なくとも1.4倍にはなり得る。しかしながら、1回分調量体積の1.4倍よりも明らかに大きくなることもあり得る。例えば、低い励磁エネルギーが、一般的に狭いピペット開口部を通過して流れるように調量液体を加速させるために十分である場合、1回分調量体積の5倍であり得る。移動を引き起こしにくい調量液体は、分注方向へのピストン運動と、その際に調量側端面によって掃引される少なくとも1回分調量体積の10倍である分注体積とによって、移動を引き起こされ得る。ピストン運動は、好ましくは、時間単位当たりに調量側端面によって掃引される体積よりも高い最大体積速度で実施されるので、分注体積の増大と共に、2μlより少ない、非常に小さな1回分調量体積のピペッティングの繰り返し精度が上昇する。従って、分注体積は、好ましくは、1回分調量体積の少なくとも25倍であり得る。
【0072】
実験が示すところによると、特に、本出願では、20℃の室温で、1013.25hPaの大気圧において、回転粘度計を用いて測定された0.8mPas~10mPasの範囲の粘度を有する液体とされる、しばしばピペッティングされる等級の水性液体に関して、1回分調量体積の10倍から60倍の間、好ましくは10倍から25倍の間の分注体積は、優れた調量結果をもたらす。1回分調量体積の10倍から25倍の間の分注体積は、上述の粘度範囲から外れる調量液体に関しても、優れた調量結果をもたらす。
【0073】
分注体積の上限は、ピストンがその調量側端面で分注体積を掃引するために必要とする時間の長さが大きいゆえに、1回分調量体積よりも多くがピペット開口部を通過して移動する場合の分注体積である。実験が示すところによると、1回分調量体積の500倍より大きい分注体積は、2μlより少ない調量体積の有意義な分注をもはや許容しない。
【0074】
陽圧部相の間の作動ガス圧力と、ピペッティングプロセスの枠内におけるピペットピストン運動の開始直前における基準圧力との間の最大の圧力差は、好ましくは50000Paよりも小さく、特に好ましくは25000よりも小さく、最も好ましくは10000Paよりも小さい。これらの値は、数多くの異なる液体及び液体等級に関して有効である。水性液体の特に重要な等級に関しては、本出願において規定されたように、陽圧相における作動ガス圧力と基準圧力との間の最大の圧力差は、好ましくは2200Paより小さく、特に好ましくは1800Paより小さい。
【0075】
陽圧部相における作動ガス圧力と基準圧力との間の最大の圧力差は、500Paより大きく、好ましくは600Paより大きい。
【0076】
陰圧部相の間の作動ガス圧力と、ピペッティングプロセスの枠内におけるピペットピストン運動の開始直前における基準圧力との間の最大の圧力差は、好ましくは30000Paよりも小さく、特に好ましくは15000Paよりも小さく、最も好ましくは7500Paよりも小さい。
【0077】
好ましくは、陰圧部相における作動ガス圧力と基準圧力との間の最大の圧力差は、200Paより大きく、好ましくは400Paより大きい。
【0078】
分注している圧力パルスの間に生じる、圧力パルスが始点とする基準圧力に対する最大の圧力差の値は、依然として最終的には決定されていない複数のパラメータに依存する。例えば、分注されるべき1回分調量体積、及び、密度、粘度及び表面張力によって特徴づけられ得る液体等である。例えば、1つかつ同一の液体に関して、陽圧相における基準圧力に対する最大の圧力差の値も、陰圧相における基準圧力に対する最大の圧力差の値も、1回分調量体積の増大と共に減少するという傾向が明らかになっている。
【0079】
ここで明確にしておくべきことには、本発明に係る分注装置は、上述した分注の際の大きなピストン運動にもかかわらず、所定の調量液体の1回分調量体積のみをピペット開口部を通過するように移動させる。後続の吸引方向への補正を伴う過剰な調量又は過剰な分注は行われない。本発明によると、調量液体は、分注プロセスの間、所望の分注方向にのみ移動する。本出願の意味における分注プロセスは、ピストン運動が終了した場合に終了する。
【0080】
ピストンによってその運動の間に掃引される吸引体積は、アリコートの場合でも、分注体積と同じであり得る。とは言え、アリコート動作における分注プロセスの数が増大すると共に、ピペット開口部に近い方のメニスカスは、分注装置の調量液体受容空間内にさらに移動し、これによって、さらなる分注プロセスの精度が損なわれる可能性がある。
【0081】
従って、分注の際、吸引体積は、分注体積よりも1回分調量体積の分だけ小さくてよいか、又は、例えば上述の第3の運動相として、吸引方向におけるピストン運動の後に、補正のための分注方向におけるピストン運動が続いてよい。この第3の運動相は、上述の3つの運動相の内で、時間的に最も短い。従って、受容された調量液体のピペット開口部に近い方のメニスカスが、複数の分注プロセスを実施しても、可能な限り一定の位置に留まることが保証され得る。従って、上述の記載に基づいて、吸引体積も、1回分調量体積よりはるかに大きくてよい。
【0082】
小さい調量液体体積の分注のための分注プロセスに関して正確に、ピストンによって掃引されるべき分注体積及び吸引体積は、調量液体に関する所定の1回分調量体積において、実験によって容易に検出され得る。
【0083】
本明細書に記載した非同期のピペッティング動作の場合、1つかつ同一の時点において、又は、1つかつ同一の時間的間隔において、一方でピストン、他方で調量液体の、互いに対して反対方向の移動が生じ得る。同様に、ピペット開口部を通る調量液体の移動は、ピストンがその運動を終了し、再び停止した後で初めて開始することさえあり得る。しかしながら、本発明に係る分注装置は、永久磁石を有し、かつ、リニアモータによって駆動可能であるピストンを備えた、その好ましい構造に基づいて、付加的に、従来の準同期分注動作及び従来の準同期吸引動作をも行うように構成されている。
【0084】
しかしながら、パルス状分注プロセスにおいて、調量液体の1回分調量体積が、いつピペット開口部を通過するように移動し始めるかとは無関係に、大部分のパルス状分注プロセスには、所定の体積の液体がピペット開口部から滴下する前に、ピストンが移動方向を反転するように制御され、一般的に、ピストンの移動方向が実際に反転するということが共通している。
【0085】
従って、パルス状ピペッティングのためのピストンの鞭状の可動性は、運動駆動部がリニアモータを含むこと、及び、制御装置と運動駆動部とが、2μlより少ない所定の1回分調量体積のピペッティングのために、少なくとも5000μl/s、好ましくは少なくとも10000μl/s、かつ、25000μl/sを超えない最高速度で、ピストンを移動させるように構成されていることによってもたらされ得る。
【0086】
ピストンの体積速度、すなわち、ピストンの調量側端面によって時間単位当たりに掃引される体積は、パルス状ピペッティングに関しては、ピストン又はピストンロッドの線形移動速度よりも重要である。より大きなピストン面を有するピストンの場合、より小さいピストン面を有するピストンがより大きい行程を必要とする体積と同じ体積を掃引するために、より少ない行程で十分である。従って、体積速度の増大を実現するためには、単純に、より小さなピストン面を有するピストンよりも、より大きなピストン面を有するピストンを、管軌道に沿って動かせば良いのかもしれない。しかしながら、ピストンの運動を導入するために必要な分離力は、例えば付着摩擦を克服するために、ピストン面と共に著しく増大するので、ピストン面が大きくなっていくと、ピストンは、2μlより少ない1回分調量体積の分注に関しては、制御がより難しくなっていく。
【0087】
本発明は、好ましくは、そのピストンが、3mm~80mmの間のピストン面積を有する、つまり、円形のピストン面の場合に、2mm~約10mmの間の直径を有する分注装置に関する。複数のピペット管を、可能な限り小さい格子幅で、行及び段の形状を有する格子内に配置することを可能にするために、本発明は、特に好ましくは、そのピストンが、3mm~20mmの間のピストン面積を有する分注装置に関しており、これは、円形のピストン面の場合に、2mm~約5mmの間の直径に対応する。
【0088】
好ましくは、分注装置は、複数のピペット管を有しており、そのそれぞれの内に、上述したように構成されたピペットピストンが、ピペット管軸に沿って移動可能であるように受容されている。さらに、各ピペット管は、それぞれ制御装置によって励磁可能であるコイルアセンブリを有することが可能であり、コイルアセンブリは、磁石によるピペットピストンと共に、ピペットピストンを駆動するためのリニアモータを形成する。
【0089】
例えば25000μl/sより大きい、高いピストン最高速度で分注する場合、依然として、調量液体受容空間から出る液体の移動が生じるが、しかしながら、1回分調量体積は、一般的に、複数の部分体積に分裂する(付随液滴)か、又は、噴霧の形で放出され、これは、ここで議論される2μlより少ない、小さい1回分調量体積の高精度な分注に関しては、許容できない。
【0090】
基本的に、ピストン速度又は/及びピストン加速の増大と共に、所定の量の調量液体を、望ましくないことに、複数の部分量においてピペッティングする傾向が増大することが認められる。現在認識されているところによると、少なくとも、上で定義されたような水性の調量液体に関しては、約10000μl/sの最大ピストン速度において、ピペッティングされる液体の量の正確性及び再現性に関して、極めて優れた結果が得られている。従って、パルス状ピペッティングプロセスの間における好ましい最大のピストン速度は、7000μl/sから13000μl/sまでの範囲にある。
【0091】
ピストン速度の印象を与えるために、以下の記載を行う。すなわち、ピストンは、好ましくは、その分注方向における移動と、それに続く吸引方向における移動とのために、ピペットピストンの出発位置と、作動ガスに圧力パルスを形成するための鞭状のピペッティング運動の際の、ピペットピストンの反転する第1の死点との間の半分の距離である行程中間地点(Halbwegsweite)の位置から、当該行程中間地点に新たに到達するまで、18msより少ない時間を要する。一桁のミリ秒の領域での移動時間すら実現可能である。
【0092】
分注方向及び吸引方向における完全なピストン運動によって、1回分調量体積が950nlである水性調量液体が、調量側端面によって掃引される分注体積が30μl、掃引される吸引体積が29.05μlで分注され、当該ピストン運動は、円形のピストン面と4.3mmの直径とを有するピストンを用いて、問題なく、約15msで終了する。
【0093】
しかしながら、鞭状のピストン運動の運動学的側面は、得られる最大のピストン速度に基づくだけではなく、運動駆動部が、ピストンを所望のピストン速度まで加速するため、又は/及び、所望のピストン速度から減速するために要する時間的間隔にも基づいている。従って、好ましくは、制御装置と運動駆動部とは、ピストンを少なくとも2×10μl/sで、好ましくは少なくとも6×10μl/sで、特に好ましくは少なくとも8×10μl/sで、かつ、1×10μl/sを超えない加速度で、管軌道に沿って移動するように加速する、又は/及び、減速するように構成されている。ピストン面積として表現される、好ましいピストン寸法に関する上述の記載が有効である。
【0094】
全く驚くことに、さらに、本発明に係る分注装置を用いた調量液体、特に水性調量液体のピペッティングは、その時々に用いられるピペットチップには依存しないことが明らかになっている。同じピペッティングパラメータで、1つかつ同一の調量液体に関して、1つかつ同一の分注装置において、異なるピペットチップを用いて、つねに同じピペッティング結果が、再現可能に得られる。特に、ピペッティング結果は、それぞれ分注装置に連結されたピペットチップの受容空間呼び容積には依存しない。ピペッティングパラメータのセットで得られるピペッティング結果は、ピペットチップが同じピペット開口部と同じ死容積を有している場合、異なる受容空間呼び容積を有するピペットチップの間で、より良好に伝達され得る。
【0095】
以下において、添付の図面を基に、本発明をより詳細に説明する。示されているのは、以下の図面である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】本発明に係るパルス状分注プロセスが、所定量の調量液体の吸引直後に行われている、本発明に係る分注装置を示す図である。
図2a】ピペット開口部と吸引された調量液体との間にガス体積を形成するために、作動ガス内に、図1の保持基準圧力に対して第1の陰圧を形成した後の、図1に係る分注装置を示す図である。
図2b】ピペット開口部に近い方のメニスカスをピペット開口部の方向に変位させるために、ピペットピストンと吸引された調量液体との間における作動ガスの圧力を上昇させた後の、図2aに係る分注装置を示す図である。
図2c】ピペット開口部と吸引された調量液体との間にガス体積を形成するために、作動ガス内に、図1の保持基準圧力に対して第2の陰圧を形成した後の、図2bに係る分注装置を示す図である。
図3a図2cに示した分注装置であるが、見やすさのために、再び図の3ページ目に示された図である。
図3b】圧力パルスを急激に形成している間の、図3aに係る分注装置を示す図である。
図3c】500nlの1回分調量体積の分注のための、鞭状のピストン運動が完了した後の、図3bに係る分注装置を示す図である。
図4】約1μlの調量液体の例示的なパルス状分注に際する、ピペットピストンによって掃引される体積の推移を概略的に示す図である。
図5】例示的な制御構造が、どのように、本発明に係る分注装置の制御装置を、ピペットピストンの検出された位置に依存するピペットピストンの運動の制御のために用いるかを示す図である。
図6】500nlの調量液体のパルス状分注に関する、ピペットピストン目標位置推移及びピペットピストン現在位置推移を例示的に示すグラフである。
図7】1μlの調量液体のパルス状分注に関する、ピペットピストン目標位置推移及びピペットピストン現在位置推移を例示的に示すグラフである。
図8】1.5μlの調量液体のパルス状分注に関する、ピペットピストン目標位置推移及びピペットピストン現在位置推移を例示的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0097】
図1図3cには、本発明に係る分注装置が、全体として、参照符号10で示されている。分注装置10は、シリンダ12を含むピペット管11を含んでおり、シリンダ12は、直線状の管軸として構成された管軌道Kに沿って延在している。ピペット管11内には、ピペットピストン又は省略してピストン14が、管軌道Kに沿って移動できるように受容されている。
【0098】
ピストン14は、2つの端部キャップ16(見やすくするために、図1図3cにおいて、下側の端部キャップにのみ、参照符号を付している)を含んでおり、これらの端部キャップ16の間には、複数の永久磁石18(当該例では3つの永久磁石18)が受容されている。永久磁石18は、管軌道Kに沿って選択度の高い磁界を得るために、管軸Kに沿って分極しており、対として、同種の極で互いに対向するように配置されている。この配置からは、ピストン14を起点とする磁界が生じ、当該磁界は、管軸Kの周りで可能な限り同形、つまり、管軸Kに対して概ね回転対称であり、管軸Kに沿って、磁界強度の高勾配を有しているので、同種ではない分極区域が、高い選択度で、管軌道Kに沿って交互に現れる。従って、例えば、位置センサアセンブリ39のホールセンサによって、管軸Kに沿ったピストン14の位置検出の際に、高い位置分解能を得ることが可能であり、外側の磁界のピストン14への非常に効率的な連結が得られる。
【0099】
端部キャップ16は、好ましくは、低摩擦の、グラファイト又はマイカを含む材料から形成されており、例えば、アメリカのコネティカット州、ノーウォークにあるエアーポット社から市販されているキャップが知られている。当該材料によって供給される低摩擦を、可能な限り完全に利用するために、ピペット管11は、好ましくはガラスから成るシリンダ12を含んでおり、これによって、ピストン14の管軸Kに沿った移動の際に、グラファイト又はマイカを含む材料は、極めて低摩擦に、ガラス表面をスライドする。
【0100】
従って、ピストン14は、リニアモータ20のロータを形成しており、そのステータは、ピペット管11を包囲するコイル22(ここでは例として4つのコイルのみが示されている)によって形成されている。
【0101】
明確に指摘しておくべきことに、図1から図3cは、本発明に係る分注装置10の縦断面を極めて概略的に示した図に過ぎず、原寸に比例しているものと理解すべきではない。さらに、部材が複数の場合、例えば3つの永久磁石18及び4つのコイル22というように、部材数は任意である。実際には、永久磁石18の数もコイル22の数も、図示された数より大きいか、又は、小さくてよい。
【0102】
リニアモータ20、より正確にはそのコイル22は、コイル22と信号を伝達できるように接続された制御装置24によって作動する。信号としては、コイルを励磁し、従って、コイルによって磁界を形成するための電流の伝達も有効である。
【0103】
シリンダ12の調量側端面12aには、それ自体知られた方法で解除可能に、ピペットチップ26が取り付けられている。ピペットチップ26の、シリンダ12の調量側長手方向端部12aとの接続は、同様に概略的に示されているに過ぎない。
【0104】
ピペットチップ26は、ピペッティング空間又は受容空間28を、その内部において画定しており、ピペッティング空間又は受容空間28は、連結部から離れた長手方向端部26aにおいて、専らピペット開口部30を通じてアクセス可能である。ピペットチップ26は、ピペット管11を、ピペット管11がシリンダ12に連結されている間は、ピペット開口部30まで延長する。
【0105】
図1に示された、準同期ピペッティング動作において同一の分注装置10によって従来の吸引プロセスが完了した直後の分注装置10の例では、ピペッティング空間28内に、従って、分注装置10内に、調量液体32が受容されている。
【0106】
ピストン14と調量液体32との間には、持続的に、作動ガス34が存在しており、作動ガス34は、ピストン14と調量液体32との間で力を伝達するために用いられる。好ましくは、ピストン14と調量液体32との間には、作動ガス34のみが存在しており、必要に応じて、その化学組成が、看過可能である程度に、調量液体32からの揮発性成分の受容によって変化する。
【0107】
作動ガス34は、ピペットチップ26が完全に空になった場合でも、ピストン14と調量液体32との間に配置されている。なぜなら、ピペットチップ26は、調量液体32の吸引のために、対応する調量液体容器内に浸されるので、この状態においては、少なくともピペット開口部30に、調量液体32のメニスカスが存在しているからである。従って、作動ガス34は、分注装置10のピペッティングプロセスに関連するそれぞれの状態において、持続的に、完全にピストン14と調量液体32との間に存在し、これらを互いから分離している。
【0108】
より正確には、作動ガス34は、当該例では管軌道Kに関して軸方向において調量開口部30の方向を向いている端部キャップ16の端面によって形成されている、ピストン14の調量側端面14aと、ピペッティング空間28内に液柱として受容された調量液体32のピペット開口部から遠い方のメニスカス32aとの間に存在している。
【0109】
圧力センサ38は、圧力を伝えるように接続された受容空間28も属している、ピペット管11の内部の圧力と、調量液体32とピストン14の調量側端面14aとの間の作動ガス34の圧力と、を検出し、信号線を通じて、制御装置24に伝達することが可能である。圧力センサ38、又は、当該圧力センサによって供給される、作動ガス34の圧力を表す圧力信号は、従来の準同期ピペッティング動作において、分注装置10の制御のために、調量液体32の吸引にも分注にも用いられ得る。
【0110】
位置センサアセンブリ39は、ピストン位置の検出のために、ピペット管11に設けられており、信号を伝達するように、制御装置24に接続されている。
【0111】
図1に示された状態を出発点として、以下に、本発明に係る分注装置10のパルス状分注プロセスのための準備と、パルス状分注プロセス自体とについて記載する。
【0112】
図2aから図2cを参照して、分注装置10の準備について記載する。この準備によって、図3b及び図3cに示されたパルス状分注プロセスの精度が著しく上昇し得る。これは、対応する準備を行わない場合よりも少ない最小の分注体積が、高い繰り返し精度で放出され得るということを主に意味している。この準備は、分注プロセス自体の一部ではない。なぜなら、準備の間に、受容空間内に存在する調量液体の量は変化せず、分注プロセスは準備作業を行わずとも進行し得るからである。加えて、準備の間におけるピペットチップ26内に受容された調量液体32の操作は、パルス状ではなく、ピストン14及び調量液体32の同期又は準同期運動を通じて行われる。
【0113】
従来の準同期ピペッティング動作(図1を参照)において、所定量の調量液体32をピペットチップ26に吸引した直後の分注装置10の状態から出発して、制御装置24は、コイル22を、ピペットピストン14が作動ガス34内に(第1の)陰圧を形成するように移動する、つまり、ピペット開口部30から離れる方向に移動するように励磁する。当該陰圧は、パルス状に形成されるのではなく、受容空間28内に受容された調量液体32の準同期変位をもたらすピストンの加速度及びピストンの速度で形成される。
【0114】
これによって、分注装置10内、より正確にはピペットチップ26の受容空間28内に供給された調量液体32は、管軸Kに沿って、ピペット開口部30から離れて、分注装置10、より正確にはピペットチップ26内へ変位する。供給された調量液体32は、ピペットピストン14への方向では、ピペット開口部30から遠い方のメニスカス32aによって区切られており、ピペット開口部30への方向では、ピペット開口部に近い方のメニスカス32bによって区切られている。調量液体32がピペット開口部30から離れる方向に変位することによって、ピペット開口部30と、ピペット開口部に近い方のメニスカス32bとの間には、ガス体積35が形成される。
【0115】
受容された調量液体32の量が、例えば40μlである場合、ガス体積35は、パルス状に分注する陽圧パルスの作動直前では、好ましくは4μl~10μl、特に好ましくは4μl~6μlである。
【0116】
ピペット開口部に近い方の、それゆえ調量液滴36を後に放出するメニスカス32bが、ピペット開口部30から離れるように変位することによって、吸引後に決定されていない形状、特に決定されていないアーチを有してピペット開口部30に存在しているメニスカス32bは、より明確に決定された形状を得る。図2aに基づくガス体積35の形成後、ピペット開口部に近い方のメニスカス32bの形状は、完全には決定されていないものの、その形状は、一般的に予想される形状とは、わずかに異なるのみである。
【0117】
ピペット開口部に近い方のメニスカス32bの形状は、例えば、調量液体32の表面張力、調量液体32の密度、調量液体32の粘度、及び、ピペットチップ26の壁面の湿潤性に依存する。
【0118】
図2bによると、制御装置24は、コイル22を、引き続いて作動ガス34内の圧力上昇のために、ピペットピストン14を移動させるように駆動することが可能であり、すなわち、ピペットピストン14を、ピペット開口部30の方向に変位させることができる。これによって、ピペットチップ26内に供給された調量液体32が、再び、ピペット開口部30の方向へ戻るように変位するが、ピペット開口部30を越えることはない。これによって、ピペット開口部30とピペット開口部に近い方のメニスカス32bとの間におけるガス体積35は、より小さくなるか、完全に消失することさえある。この作動ガス圧力の変化も、パルス状ではなく、従来の準同期動作に従って行われる。
【0119】
さらに、制御装置24は、新たに、コイル22を、作動ガス34の圧力を減少させるために、ピペットピストン14を移動させるように駆動することが可能であり、すなわち、ピペットピストン14を、ピペット開口部30から離れる吸引方向に移動させることが可能であり、これによって、新たに、ガス体積35が、ピペット開口部30と、調量液体32のピペット開口部に近い方のメニスカス32bとの間で形成され、又は/及び、拡大される。これは、従来の準同期ピペッティング動作においても行われる。図2a~図2cに示されたような、ピペットチップ26内での調量液体32の往復運動によって、1つかつ同一の調量液体32に関して、図2cに基づく第2の陰圧の形成終了時に、つねに同じ形状のメニスカス32bが形成されるが、これは、図3a~図3cに示したように、後続のパルス状分注プロセスにとって有利である。当該利点は、分注可能な液体の最小量の減少と、アリコートの際に得られるその再現性の改善とにある。
【0120】
図3aは、図2cの分注装置10を、別のページに示したもので、これによって、圧力パルスの形成直前及び形成中の分注装置10の異なる状態を、より良好に比較することが可能になる。
【0121】
本出願の発明思想の中心点は、ピストン14の鞭状の運動である。この鞭状の運動は、様々な特徴で表現されている。
【0122】
好ましくはリニアモータ20が供給されるので、ピストン14は、巨大な運動力学で、管軸Kに沿って移動することができる。約500nlの調量液体32という、少量の液体の分注のために、ピストン14は、まず迅速に、作動ガス34内の圧力上昇をもたらすために(ここでは分注方向において)、調量開口部30の方に向かって加速し、移動する。制御装置24は、リニアモータ20のコイル22を、位置センサアセンブリ39の検出結果に基づいて、ピストン14が、制御装置24のデータ記憶装置内で設定されたピペットピストン目標位置推移に従って制御されて、移動するように駆動されることによって、ピストン14が作動ガス34内に圧力パルスを形成するように制御する。この際、ピストン14は、大きな行程Pを実行するので、ピストン14の調量側端面14aは、行程Pに沿って、所定の1回分調量体積36の数倍、例えば40倍を掃引する(図3cを参照)。ピストンは、図3bに示された位置において、その分注方向における移動の下死点にあり、それに続いて、ピストン14は、反対の吸引方向に移動するように、つまり、作動ガス34の圧力を減少させるように(矢印Gを参照)駆動される。
【0123】
吸引方向におけるピストン運動の当該区間においても、ピストン14の運動は、位置センサアセンブリ39の検出結果に基づいて、ピストン14が、制御装置24のデータ記憶装置内で予め設定されたピペットピストン目標位置推移に従って移動すべく駆動されるように制御される。
【0124】
分注方向におけるピストン14の最初のパルス状又は鞭状の運動の持続時間は、当該例の場合、10msより短い。ピストン14がその下死点に到達する場合、一般的に、調量液体32の部分は、依然としてピペットチップ26から分離していない。ピペット開口部に近い方のメニスカス32bは、液滴の放出を準備している形状で示されている。メニスカス32bの形状は、単に、調量液体液滴36の放出(図3cを参照)が目前であることを明確にするために図示する目的で選択されている。ピペット開口部から遠い方のメニスカス32aは、陽圧パルスが調量液体32に与える作用を示すために、凹形に湾曲して示されている。
【0125】
ピストンは、分注方向において、約10000μl/sの最高速度で移動し、このために8×10μl/sまで加速し、再び減速する。最高速度は、短時間のみ現れる。これは、ピストン14が、その調量側端面14aが分注運動の間に、1回分調量体積36の約40倍、つまり約20μlの体積を掃引するという上述の場合において、この分注運動のために、約6ms~8msを必要とするということを意味している。
【0126】
調量液体32は、このピストン運動に従うには不活性過ぎる。その代わりに、ピストン14によって、圧力パルスが、作動ガス34を越えて、ピペットチップ26内の調量液体32に伝達される。図3bに示された描写から出発して、ピストン14は、可能な限り迅速に、吸引方向に戻って加速し、吸引方向における運動行程Gは、当該例の場合、分注方向における運動の行程Pよりも、端部側ピストン面14aが、吸引方向における運動の間に、掃引された分注体積よりも1回分調量体積36の分だけ小さい吸引体積を掃引する限りにおいて小さい。
【0127】
とは言え、必ずしも上記の通りでなくてもよい。吸引体積が、分注体積と同じ大きさであってもよい。しかしながら、1回分調量体積36の分だけ減少した吸引体積は、ピペット開口部に近い方のメニスカスの位置が、ピペッティングの後にも変わらないという利点を有しており、これは特にアリコート動作において有利である。
【0128】
図3cに示された、パルス状分注プロセス終了後における分注装置10の最終位置では、調量側端面14aが、結果として生じた行程Hの分だけ、図3aの出発位置から離れて存在しており、図示された例では、ピストン14のピストン面は、結果として生じた行程Hと乗じると、1回分調量体積36に相応する。
【0129】
パルス状分注の範囲内における吸引方向の移動も、上述の最高速度で行われるので、この移動も約6ms~8msを必要とする。付着摩擦限界の克服によって生じ得る下死点における付加的な滞在時間を加え、場合によって生じ得るピストン14のその目標位置周囲でのオーバーシュートを含めると、図3cに示したような最終位置に到達するまでのピストン運動は全体で、約14ms~30msの時間で行われる。
【0130】
分注方向から吸引方向へピストン運動が反転した後で初めて、所定の1回分調量体積36が、液滴の形状で、ピペット開口部30から滴下する。この液滴は、延長を想定した管軌道Kに沿って、ピペット開口部30の下方に位置する容器又はウェル等の調量目標の方へ移動する。ピペット開口部に近い方のメニスカス32bは、調量液体液滴36を滴下した後も、短時間振動し得る。
【0131】
ピペットチップ26は、1回分調量体積をはるかに上回る、約200μl~400μl、好ましくは300μlのピペッティング空間呼び容積を有している。
【0132】
吸引方向におけるピストン14の運動は、やはり高速に進行するので、調量側端面14aから、ピペッティング空間28内の調量液体32に、圧力減少パルスが伝達される。
【0133】
分注方向におけるピストン運動の圧力上昇パルスは、圧力パルスの急勾配な立ち上がりエッジを形成する。その急勾配な立ち下がりエッジは、吸引方向におけるピストン運動の圧力減少パルスによって形成される。各ピストン運動の進行が速ければ速いほど、当該ピストン運動に割り当てられた圧力変更パルスのエッジは急勾配になる。これらの相反する目的で作用する圧力変更パルスは、急勾配のエッジを有する「ハードな」圧力パルスを定義し得る。
【0134】
こうして形成された「ハードな」圧力パルスの衝突によって、極めて正確に繰り返すことのできる分注結果が得られる。
【0135】
陽圧部と陰圧部とを有する圧力パルスを形成するためのピストン運動全体の間、ピストン運動は、制御装置24によって、コイル22に対応する電圧を印加することを通じて、ピペットピストン14の位置が、圧力パルスの間、所定のピペットピストン目標位置推移に従うように制御される。
【0136】
同様に、位置センサアセンブリ39の位置検出信号を考慮して、ピペットピストン14は、分注プロセスの終了時には、所定の最終位置に配置され得る。
【0137】
驚くべきことに、ここに提示されている分注プロセスは、選択されるピペットチップ26の大きさには依存しない。上述の同じピストン運動は、ピペッティング空間呼び容積が約50μlと、明らかに小さいピペットチップにおいても、正確に同じ結果をもたらすであろうが、それは、同じ作動ガスと同じ調量液体とが、引き続き不変の分注パラメータで用いられると仮定した場合である。
【0138】
従って、本発明に係る分注装置と、提示された本発明に係るパルス状分注方法とは、ピペットチップ26に受容された調量液体32が多い場合でも、受容された調量液体32からの液体のアリコートに優れた適性を有している。多数のアリコート周期を経ても、分注装置10の分注挙動は、その他の条件が同じであれば変わらない。従って、本発明に係る分注装置10の分注挙動は、シリンダ12に連結されたピペットチップ26がパルス状分注のために十分に充填されている限りにおいて、ピペットチップ26の充填度にも依存しない。
【0139】
ピストン運動は、質量慣性に基づき、運動を理由付ける制御信号に、場合によっては、完全に正確には従うことができない。動的な力が大きい位置において、つまり、移動方向が分注方向から吸引方向に反転する際、しかしまたピストンが停止する際には、ピストンは、目標位置の周囲でオーバーシュートする傾向を有し得る。従って、不確かな場合には、目標の運動を表現する、運動を理由付ける制御信号が、決定的に重要であるべきである。
【0140】
明確に言及しておくべきことに、パルス状分注を、図1に示す状態から出発して、すなわちピペット開口部に近いガス体積35を予め形成せずに、行うことも可能である。
【0141】
図4には、概略的かつ単に例示的に、図3a~図3cの分注プロセスの際に存在し得る、ピストン14の運動の時間的推移42(破線部)が示されている。
【0142】
分注プロセス開始時点での実際のピストン位置、すなわち図3aに示されたピストン位置は、図4では、ゼロ点の線として選択されている。
【0143】
図4のグラフにおいて、x座標は、時間をミリ秒で示しており、目盛りは10ms毎で選択されている。
【0144】
y座標は、体積をマイクロリットルで示しており、ピストン14の位置-時間曲線42に関して、y軸の体積は、ピストン14の調量側端面14aによって掃引された体積を示している。
【0145】
参照符号46及び48で、ピストン14の出発位置0μlと、その移動方向の反転点約-22.5μlとの間の、ピストン14のいわゆる「行程中間地点」が表されている。従って、行程中間地点は、約-11.25μlにある。
【0146】
分注方向における移動の際の行程中間地点の通過と、吸引方向における移動の間の当該位置の新たな通過との間の、(例えばピストン14の基準点として、調量側ピストン面14aの位置-時間曲線によって表される)ピストン14の位置-時間曲線の時間による積分は、ピストン運動で実際にパルス状に分注される1回分調量体積36に関する基準である。この積分によって形成された面は、面50として、図4において斜線で示されている。面50の面積と、実際にピペッティングされた1回分調量体積36との間の関連は、様々な液体等級に関して、容易に経験的に決定され、分注装置10のデータ記憶装置に保存される。
【0147】
従って、2μl以下の、非常に小さい1回分調量体積36は、極めて高い繰り返し精度でもって、同じ分注装置10を用いて、パルス状に分注され得るが、当該分注装置を用いて、数100μlという大きなピペッティング体積を、従来の準同期ピペッティング動作において、吸引することも分注することも可能である。
【0148】
図5には、制御構造52が概略的に示されており、制御構造52が制御装置24内でどのように用いられ得るかが示されている。
【0149】
制御構造52は、外側制御回路56と内側制御回路58とを有する、直列の制御構造である。
【0150】
制御装置24のデータ記憶装置59には、作動ガス内の圧力の目標値を、所定量の液体の分注のためのパルス状分注プロセスに関して、時間の関数として含んでいる、ピペットピストン目標位置推移60が保存されている。
【0151】
実際には、制御装置24のデータ記憶装置59には、複数のピペットピストン目標位置推移が保存されていてよく、具体的には、様々な液体等級に関して、及び、異なる量の調量液体に関する様々な液体等級内で、多次元に整理されて保存されていてよい。
【0152】
手動でのデータ入力又は別の装置からのデータ伝送を通じて表示された、必要な調量液体の量に依存して、制御装置24は、同様に手動でのデータ入力又は自動データ伝送を通じて表示される液体等級に関して、表示された調量液体の量に当てはまる所定のピペットピストン目標位置推移60を選び出し、外部のオペレータ66に供給する。この第1のオペレータ66には、さらに、位置センサアセンブリ39の検出結果と、従ってピペットピストン14の現在位置とが供給される。従って、第1のオペレータ66は、ピペットピストン位置の差分値を出力し、当該差分値は、各検出時点のための、有効なピペットピストン目標位置と、検出されたピペットピストンの現在位置との間における差に関する基準である。
【0153】
所定のピペットピストン目標位置推移60は、加えて、ピペットピストン14の運動の有利で高速なフィードフォワード制御のために、制御装置24のデータ記憶装置59に保存されている。所定のピペットピストン目標位置推移60に従って、ピペットピストン位置の、各検出時点に関して生じる値は、それ自体知られたフィードフォワード制御の過程で、同様に、第1のオペレータ66に供給される。
【0154】
ピペットピストン目標位置とピペットピストン現在位置との差を表す値は、第1のオペレータ66によって、有利にはPID制御器として構成された、第1の外側制御器70に供給される。その伝達機能は、ピペットピストン14の目標位置と現在位置との差を表す差分値から、検出時点における、運動駆動部20のコイル22内で流れる電流に関する目標値を決定する。当該電流目標値は、第2のオペレータ72に供給される。第2のオペレータ72には、さらに、コイル22で容易に既知の方法で検出可能である、検出時点での電流現在値が供給される。
【0155】
従って、第2のオペレータ72は、検出時点における電流目標値と電流現在値との差を表す値を決定し、第2の内側制御器74に供給する。有利には、第2の又は内側制御器74は、PI制御挙動を有している。
【0156】
制御装置24のデータ記憶装置には、所定のピペットピストン目標位置推移60から求められる所定のコイル目標電流値推移76が保存されている。
【0157】
各検出時点に関して有効な、所定のコイル目標電流値は、第2のオペレータ72に、所定のコイル目標電流値推移76からの既知のフィードフォワード制御の過程で供給され、これによって、ピペットピストン14の運動の可能な限り高速の制御が得られ、その結果、ピペットピストン14の運動は、可能な限り正確に、各ピペッティングプロセスのために選択されたピペットピストン目標位置推移60と一致する。
【0158】
第2の又は内側の制御器74の伝達機能は、第2のオペレータ72によって得られた、検出時点における電流目標値と電流現在値との差を表す入力値から、検出時点における、コイル22に印加されるコイル目標電圧値を決定する。
【0159】
制御回路構造52は、コイル22の各相に関して個別に存在してよい。
【0160】
やはり、可能な限り高速で、高精度なピストン位置の制御を得るためには、コイル電圧もフィードフォワード制御すべく、制御装置24のデータ記憶装置に、所定のピペットピストン目標位置推移60又は/及び所定のコイル目標電流値推移76から求められる所定のコイル目標電圧推移78が保存されている。
【0161】
所定のコイル目標電圧推移を用いてコイル電圧をフィードフォワード制御するための、第3のオペレータ80が図示されている。
【0162】
図5に示された直列の制御構造では、ピペットピストン14は、コイル22への動作電圧の印加によって、検出されたピペットピストン位置及び検出されたコイル電流に基づいて、数ミリ秒の領域で、ピペットピストン位置が所定のピペットピストン位置推移に概ね従う程度に正確に移動する。
【0163】
図6図8には、1つかつ同一の分注装置でパルス状に分注された1つかつ同一の調量液体の、ピペットピストン目標位置推移とピペットピストン現在位置推移とが、パルス状に分注されるべき調量液体36の様々な量に関して描画されている。図6図8のグラフのx座標は、時間を秒で示しており、図6図8のいずれの図においても、25msの時間が図示されている。
【0164】
図6図8のグラフにおいて、y座標は、ピストン行程をミリメートルで示している。この際、ピペットピストン14の出発位置は、0mmの座標を有している。
【0165】
図6図8には、ピペットピストン目標位置推移が、ミリメートル単位で、秒単位の時間の関数として、それぞれ破線で示されており、図6では参照符号61で、図7では参照符号63で、図8では参照符号65で示されている。
【0166】
同様に、これらの図面では、ピペットピストン現在位置推移が、ミリメートル単位で、秒単位の時間の関数として、実線で示されており、図6では参照符号71で、図7では参照符号73で、図8では参照符号75で示されている。
【0167】
y軸のマイナスの値は、0mmの値に位置する分注プロセスの開始位置から出発する、分注方向におけるピペットピストンの変位を示している。これに対応して、y軸のプラスの値は、開始位置に対する吸引側におけるピペットピストンの位置を示している。
【0168】
図6は、パルス状に分注されるべき500nlの調量液体に関する位置推移61及び71を示している。約5msにおいて、ピペットピストン14の、ピペット開口部30に向かう分注方向における変位が開始する。従って、受容空間28内の作動ガス34の圧力は増大する。約8msにおいて、ピペットピストン14は、ピペット開口部30に最も接近した位置に到達し、これは、ピストン14の出発位置の分注側における最大の値によって明示される。ここではすぐに、ピペットピストン14の移動の反転が開始し、ピペットピストン14は、吸引方向に移動するが、これは、値が小さくなっていくマイナス値によって認識可能である。
【0169】
約9.5msにおいて、ピペットピストン14は再び、その出発位置に到達する。しかしながら、ピペットピストン14は、吸引方向において、出発位置を越えて、約1.03ms~1.06msの範囲内で、ピペット開口部30から最も離れた位置に到達するまで移動する。そこから、ピペットピストンは、再び分注方向において、出発位置に戻るように移動し、出発位置には、約1.12msで、すなわち分注プロセスの枠内におけるピストン運動の開始後約6.1ms~6.2msで到達する。
【0170】
調量液体液滴の滴下は、ピペット開口部30に最も近い位置に到達した後で初めて行われる。これは、図7及び図8の分注に関しても当てはまる。
【0171】
図7は、1μlのパルス状に分注すべき調量液体に関する、ピペットピストン目標位置推移63とピペットピストン現在位置推移73とを示している。概ね一致している目標位置推移63及び現在位置推移73に従うと、当該分注プロセスのためのピストン運動は、約9ms続いており、つまり約5msの時点から約14msの時点まで継続している。やはり、ピペットピストン14は分注のために、段階的に、さらに一定の速度で、まずピペット開口部30に接近する。ピストン速度が一定である相は、図示した例では、約7.8msから10.2msまで続いている。速度が一定である相の終了直後に、ピペットピストン14は、ピペット開口部30に最も近い位置に到達する。
【0172】
約12.75msで、ピペットピストン14は、再びその出発位置に到達し、約13.2msで、ピペット開口部から最も離れた位置に到達する。約14msで、ピストン運動が終了する。
【0173】
図8には、ピペットピストン目標位置推移65とピペットピストン現在位置推移75とが、1.5μlの調量液体液滴のパルス状分注に関して示されている。
【0174】
やはり、ピペットピストン14の運動は、約5msにおいて、ピペット開口部30への接近で開始する。加速する相の後、ピストン14は、約7msから、一定の速度で分注方向に移動する。ピペット開口部30への一定の接近速度での移動は、約17msで終了する。その直後に、ピストン14は、ピペット開口部30に最も接近する。
【0175】
パルス状に分注される液体が多量である場合、ピペットピストン14は、その出発位置にはもはや到達しない。約18.8msで、ピペットピストン14は、ピペット開口部30から最も離れた位置に到達し、約19.5msで、すなわちピペットピストンの運動開始後約14.5msで、ピペットピストンの運動は再び終了する。
【0176】
実施例が示すように、ピペットピストン運動は、極めて一般的に、速度が一定である相を有し得る。好ましくは、当該相は、最初の、分注方向における第1のピストン運動の間は、吸引方向のピストン運動の後続の相におけるよりも少なくとも短くはなく、好ましくはより長いことさえある。
【0177】
同一の分注装置によって分注される、パルス状に分注される調量体積の増大と共に、ピペットピストンの運動パルスは、より長くなり得るが、この際驚くべきことに、第1の分注運動で進んだピストン行程は、より小さくなる。図8に示されているように1.5μlが分注された場合、ピストン行程は、分注方向において約0.7mmに過ぎないが、図7に示されているように1μlが分注された場合には、約0.95mmであり、図6に示されているように0.5μlが分注された場合には、約1mmであった。
【0178】
これとは対照的に、ピペット開口部から最も離れた位置から、分注プロセスのピストン運動の終了時における最終位置へのピストン行程は、調量体積とは関係なく、ほぼ同じ大きさである。少なくとも、ピペット開口部から最も離れたピストン位置と、パルス状分注される調量体積が異なる場合の最終位置との差の値は、出発位置のピストン位置と、ピペット開口部に最も近い位置との差よりも小さい。
【0179】
当該制御方法で得られる、分注される調量液体体積の繰り返し精度は、3%未満の範囲にある。
【符号の説明】
【0180】
10 分注装置
11 ピペット管
12 シリンダ
12a 調量側端面
14 ピペットピストン
14a 調量側端面
16 端部キャップ
18 永久磁石
20 運動駆動部、リニアモータ
22 コイル
24 制御装置
26 ピペットチップ
26a 長手方向端部
28 受容空間、ピペッティング空間
30 ピペット開口部
32 調量液体
32a ピペット開口部から遠い方のメニスカス
32b ピペット開口部に近い方のメニスカス
34 作動ガス
35 ガス体積
36 調量液体液滴、1回分調量体積
38 圧力センサ
39 位置センサ、位置センサアセンブリ
42 ピストン14の位置-時間曲線
46、48 行程中間地点
50 面
52 制御回路構造
56 外側制御回路
58 内側制御回路
59 データ記憶装置
60 ピペットピストン目標位置推移
61、63、65 ピペットピストン目標位置推移
66 第1のオペレータ
70 第1の外側制御器
71、73、75 ピペットピストン現在位置推移
72 第2のオペレータ
74 第2の内側制御器
76 コイル目標電流推移
78 コイル目標電圧推移
80 第3のオペレータ
G 運動行程
H 行程
K 管軸、管軌道
P 行程
図1
図2a)】
図2b)】
図2c)】
図3
図4
図5
図6
図7
図8