(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】回路パターン作成システム、および回路パターン作成方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/10 20060101AFI20240318BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H05K3/10 D
H05K3/12 610A
H05K3/12 630Z
(21)【出願番号】P 2021530376
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2019026997
(87)【国際公開番号】W WO2021005683
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-11-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 亮二郎
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】稲葉 崇
【審判官】土居 仁士
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-201346(JP,A)
【文献】特開2001-7456(JP,A)
【文献】特開平8-46304(JP,A)
【文献】特開2014-67847(JP,A)
【文献】特開平10-56242(JP,A)
【文献】特開平10-242600(JP,A)
【文献】特開2012-74696(JP,A)
【文献】特開平7-221411(JP,A)
【文献】特開平9-307201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/10
H05K 3/12
H05K 1/02
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性インクを用いて複数の配線を絶縁材に描画する描画装置を使用して、複数の前記配線からなる回路パターンを作成するシステムであって、
前記回路パターンに関する設計情報を取得する設計情報取得部と、
前記設計情報に含まれる前記配線の断面積または前記設計情報から求められる前記配線の断面積、および、前記設計情報に含まれる前記配線の幅寸法に基づいて、個々の前記配線の厚み寸法を個別に設定する配線厚み設定部と、
個々の前記配線に個別に設定された前記厚み寸法を満足させるように前記描画装置の描画動作を制御する描画制御部と、を備え、
前記描画装置は、二次元格子状に配置されたピクセルを単位として前記描画動作を行うインクジェット描画装置であり、
前記配線厚み設定部は、
前記ピクセルの並びに対して斜め方向に延在する前記配線の前記設計情報に含まれる前記幅寸法に近似し、かつ前記インクジェット描画装置の構成で描画可能
であって描画パターンが相違する複数の前記配線の候補を設定し、
複数の前記配線の候補の各々の実際の前記幅寸法を求め、実際の前記幅寸法が前記斜め方向に沿って変動する場合には実際の前記幅寸法の平均値を求め、
複数の前記配線の候補のなかから実際の前記幅寸法または実際の前記幅寸法の平均値が前記設計情報に含まれる前記幅寸法に最も近似する前記配線を採用し、
採用した前記配線の実際の前記幅寸法
または実際の前記幅寸法の平均値を用いて、前記斜め方向に延在する前記配線の前記厚み寸法を設定し、
前記描画制御部は、前記描画装置の一回の前記描画動作によって得られる前記配線の単位厚み寸法、および前記斜め方向に延在する前記配線に設定された前記厚み寸法に基づいて、前記斜め方向に延在する前記配線の重ね描き回数を設定する、
回路パターン作成システム。
【請求項2】
前記斜め方向に延在する前記配線、および、前記ピクセルの並びに平行して延在する前記配線に対して、前記設計情報に共通の前記幅寸法および共通の前記断面積が定められている、請求項
1に記載の回路パターン作成システム。
【請求項3】
導電性インクを用いて複数の配線を絶縁材に描画する描画装置を使用して、複数の前記配線からなる回路パターンを作成する方法であって、
前記回路パターンに関する設計情報を取得する設計情報取得工程と、
前記設計情報に含まれる前記配線の断面積または前記設計情報から求められる前記配線の断面積、および、前記設計情報に含まれる前記配線の幅寸法に基づいて、個々の前記配線の厚み寸法を個別に設定する配線厚み設定工程と、
個々の前記配線に個別に設定された前記厚み寸法を満足させるように前記描画装置の描画動作を制御する描画制御工程と、を備え、
前記描画装置は、二次元格子状に配置されたピクセルを単位として前記描画動作を行うインクジェット描画装置であり、
前記配線厚み設定工程において、
前記ピクセルの並びに対して斜め方向に延在する前記配線の前記設計情報に含まれる前記幅寸法に近似し、かつ前記インクジェット描画装置の構成で描画可能
であって描画パターンが相違する複数の前記配線の候補を設定し、
複数の前記配線の候補の各々を対象として実際の前記幅寸法を求め、実際の前記幅寸法が前記斜め方向に沿って変動する場合には実際の前記幅寸法の平均値を求め、
複数の前記配線の候補のなかから実際の前記幅寸法または実際の前記幅寸法の平均値が前記設計情報に含まれる前記幅寸法に最も近似する前記配線を採用し、
採用した前記配線の実際の前記幅寸法
または実際の前記幅寸法の平均値を用いて、前記斜め方向に延在する前記配線の前記厚み寸法を設定し、
前記描画制御工程において、前記描画装置の一回の前記描画動作によって得られる前記配線の単位厚み寸法、および前記斜め方向に延在する前記配線に設定された前記厚み寸法に基づいて、前記斜め方向に延在する前記配線の重ね描き回数を設定する、
回路パターン作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、描画装置を使用して電子回路の回路パターンを作成するシステムおよび作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路の回路パターンを作成するために、絶縁材に一面に金属メッキを施し、エッチング処理によって不要な金属部分を除去し、残された金属部分を回路パターンとする方法が従来から実施されてきた。近年では、描画装置や造形装置などを使用して、回路パターンを直接的に形成する新方法が開発、実用化されている。この種の新方法の一例として、特許文献1の技術が挙げられる。
【0003】
特許文献1は、絶縁基材上に配線パターンに沿って導電パターン(回路パターン)と絶縁パターンとを少なくとも1層形成する配線基板の製造方法を開示している。この製造方法では、絶縁基材と絶縁パターンの少なくとも一つを半硬化状態としてその上部に導電パターンを形成し、熱処理によって前記少なくとも一つを完全硬化するとともに、導電パターンを焼成している。特許文献1は、さらに、導電パターンおよび絶縁パターンをインクジェット方式で形成する態様を開示している。これによれば、絶縁層(絶縁基材、絶縁パターン)と導電パターンの間の接着力を改善できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1において、インクジェット方式の描画装置を用いて複数の配線からなる回路パターンを作成するときに、複数回の重ね描きが可能であり、配線の厚み寸法に自由度がある。しかしながら、配線の厚み寸法が適正に設定されないと、例えば、複数の配線の単位長当たりの抵抗値が不均一になって、電子回路の特性が低下する場合が生じる。また例えば、複数の配線に流れる電流の大きさに相違がある場合に、各配線の適正な断面積が得られなくなる。
【0006】
本明細書では、描画装置を使用して回路パターンを作成する際に、個々の配線の厚み寸法を個別に設定することによって適正化する回路パターン作成システム、および回路パターン作成方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、導電性インクを用いて複数の配線を絶縁材に描画する描画装置を使用して、複数の前記配線からなる回路パターンを作成するシステムであって、前記回路パターンに関する設計情報を取得する設計情報取得部と、前記設計情報に含まれる前記配線の断面積または前記設計情報から求められる前記配線の断面積、および、前記設計情報に含まれる前記配線の幅寸法に基づいて、個々の前記配線の厚み寸法を個別に設定する配線厚み設定部と、個々の前記配線に個別に設定された前記厚み寸法を満足させるように前記描画装置の描画動作を制御する描画制御部と、を備える回路パターン作成システムを開示する。
【0008】
また、本明細書は、導電性インクを用いて複数の配線を絶縁材に描画する描画装置を使用して、複数の前記配線からなる回路パターンを作成する方法であって、前記回路パターンに関する設計情報を取得する設計情報取得工程と、前記設計情報に含まれる前記配線の断面積または前記設計情報から求められる前記配線の断面積、および、前記設計情報に含まれる前記配線の幅寸法に基づいて、個々の前記配線の厚み寸法を個別に設定する配線厚み設定工程と、個々の前記配線に個別に設定された前記厚み寸法を満足させるように前記描画装置の描画動作を制御する描画制御工程と、を備える回路パターン作成方法を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示する回路パターン作成システムや回路パターン作成方法によれば、配線の断面積および幅寸法に基づいて、個々の配線の厚み寸法を個別に設定することができ、描画装置の描画動作の自由度によって個別に設定された厚み寸法を実現することができる。したがって、金属メッキとエッチング処理を組み合わせて各配線の厚み寸法を一律に形成する従来技術と異なり、個々の配線の厚み寸法を個別に適正化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】回路パターンを包含する基板製品の構成例を模式的に示した側面断面図である。
【
図2】第1実施形態の回路パターン作成システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】回路パターンの具体例を模式的に示す平面図である。
【
図4】回路パターン作成システムが実施する回路パターン作成工程の詳細な工程図である。
【
図5】描画装置が描画する全体描画パターンを例示する図である。
【
図6】描画装置が描画する部分描画パターンを例示する図である。
【
図7】インクジェット描画装置を使用する第2実施形態において、ピクセルの並びに平行して延在する配線および斜め方向に延在する配線の作成方法を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.回路パターン93を包含する基板製品9
まず、回路パターン93を包含する基板製品9の構成例について、
図1を参考にして説明する。基板製品9は、基板91に部品99が装着されて構成される。基板91は、絶縁材92、回路パターン93、絶縁層94、およびランド95から成る。絶縁材92は、絶縁材料を用いて形成された板状の部材である。絶縁材92は、ガラスエポキシ樹脂などで形成された既製品の板材が使用されてもよく、あるいは、後述する描画装置3によって描画された液状の絶縁材料が固化されて形成されてもよい。回路パターン93は、絶縁材92の表面に配置された複数の配線8の集合体である。各配線8は、一般的に、銀や銅などの導電材料を用いて形成される。
【0012】
絶縁層94は、絶縁材料を用いて、回路パターン93を覆うように形成される。絶縁層94を形成する絶縁材料は、絶縁材92を形成する絶縁材料と同一でもよいし、相違してもよい。回路パターン93のうち部品99が接続される接続箇所は、絶縁層94が形成されずに、露出状態が維持される。ランド95は、導電材料を用いて、回路パターン93の露出された接続箇所に形成される。これにより、基板91が製造される。
【0013】
複数の部品99の基板91への装着作業は、一般的に、半田印刷機や部品装着機などで構成された部品装着ラインにより実施される。なお、
図1は、基板91の片面に部品99が装着される片面実装基板を示しており、他に、基板91の両面に部品99が装着される両面実装基板や、複数層の回路パターン93が形成される多層基板などが有る。
【0014】
2.第1実施形態の回路パターン作成システム1の構成および機能
次に、第1実施形態の回路パターン作成システム1の構成および機能について、
図2を参考にして説明する。回路パターン作成システム1は、搬送装置2、描画装置3、XY駆動装置4、および制御装置5で構成される。第1実施形態において、回路パターン作成システム1は、回路パターン93の作成だけでなく、基板91の製造までを実施する。
【0015】
搬送装置2は、絶縁材92をシステム外から図略の基台上に搬入する。また、搬送装置2は、製造された基板91をシステム外に搬出する。搬送装置2として、輪転するコンベアベルトを有するコンベア装置を例示できる。
【0016】
描画装置3は、図略の複数種の描画ヘッドを有し、絶縁材92に向かって描画動作を行う。さらに、描画装置3は、各種類の描画ヘッドがそれぞれ複数とされることにより、描画速度が向上する。第一種の描画ヘッドは、導電性インクを噴射または吐出して、回路パターン93を描画する。導電性インクは、例えば、溶剤中に銀などの金属微粒子が混入されて製造される。溶剤が蒸発して乾燥することにより、金属微粒子が連なる回路パターン93が作成される。
【0017】
第二種の描画ヘッドは、液状の絶縁材料を噴射または吐出して、絶縁層94を描画する。絶縁材料が固化することにより、絶縁層94の形状および絶縁特性が安定する。なお、第二種の描画ヘッドは、絶縁材92を描画して形成することも可能である。第三種の描画ヘッドは、液状またはペースト状の導電材料を噴射または吐出して、ランド95を描画する。この導電材料は、第一種の描画ヘッドが用いる導電性インクと同一でもよいし、相違してもよい。導電材料が固化することにより、ランド95の形状および導電特性が安定する。
【0018】
描画装置3として、液状のインクを噴射するインクジェット描画装置や、比較的粘度の高いインクを吐出するディスペンサ描画装置などを用いることができる。また、描画装置3として、インクジェット描画装置およびディスペンサ描画装置を併用することができる。さらには、描画装置3として、インクジェット方式およびディスペンサ方式を兼ねる複合タイプの描画装置を用いることもできる。なお、描画装置3は、インクの乾燥を促進する熱風供給部や、絶縁材料の固化を促進する加熱部を有してもよい。
【0019】
XY駆動装置4は、絶縁材92に対して描画装置3の描画ヘッドを相対的に二次元方向(XY方向)に駆動する。「相対的」とは、XY駆動装置4が描画ヘッドを駆動しても、あるいは、XY駆動装置4が絶縁材92を駆動してもよいことを意味する。XY駆動装置4の動作により、任意形状の回路パターン93の作成が可能となる。
【0020】
制御装置5は、搬送装置2、描画装置3、およびXY駆動装置4を制御する。換言すると、制御装置5は、回路パターン作成工程、絶縁層形成工程、およびランド形成工程の実施を制御して、基板91の製造を制御する。制御装置5は、回路パターン作成工程に関する三つの制御機能部、すなわち、設計情報取得部51、配線厚み設定部52、および描画制御部53を備える。三つの制御機能部は、ソフトウェアによって実現される。
【0021】
設計情報取得部51は、回路パターン93に関する設計情報をシステム外から取得する。設計情報は、例えば、基板91の設計を行ったCAD装置から取得される。あるいは、設計情報は、基板91の製造を依頼した依頼者から電子データの形態で受け渡される。通常、設計情報には、配線8の断面積Sの情報および幅寸法Wの情報が含まれている。
【0022】
配線厚み設定部52は、設計情報に含まれる配線8の断面積Sおよび幅寸法Wに基づいて、個々の配線8の厚み寸法Tを個別に設定する。仮に、配線8の断面積Sの情報が設計情報に含まれていない場合、配線厚み設定部52は、設計情報に含まれる他の情報に基づいて、配線8の断面積Sを求める。例えば、配線厚み設定部52は、配線8に流れる電流の大きさに基づいて、配線8が過熱しない適正な断面積Sを求めることができる。なお、配線厚み設定部52は、通常時に流れる負荷電流でなく、故障時に流れる故障電流に基づいて、適正な断面積Sを求めてもよい。
【0023】
描画制御部53は、個々の配線8に個別に設定された厚み寸法Tを満足させるように描画装置3の描画動作を制御する。具体的に、描画制御部53は、描画装置3の一回の描画動作によって得られる配線8の単位厚み寸法TUに基づき、個々の配線8に対して描画動作の重ね描き回数Nを個別に設定する。
【0024】
さらに、描画制御部53は、個々の配線8に対して個別に設定された描画動作の重ね描き回数Nに基づき、全部の配線8を描画する全体描画パターンPtA、および、重ね描き回数Nが相対的に多い一部の配線8を描画する部分描画パターンPtBを作成する。次いで、描画制御部53は、描画装置3に全体描画パターンPtAおよび部分描画パターンPtBの描画動作を行わせる。配線厚み設定部52および描画制御部53の詳細な制御機能については、回路パターン93の具体例を用いて後述する。
【0025】
3.回路パターン作成システム1の動作
次に、回路パターン作成システム1の動作について、
図3に示される回路パターン93の具体例、および
図4に示される工程図を参考にして説明する。回路パターン93の具体例は、部品99がスイッチング素子である場合の第一配線81、第二配線82、および第三配線83から成る。第一配線81および第二配線82は、主回路を構成しており、大きな主電流が流れる。一方、第三配線83は、制御回路を構成しており、小さな制御電流が流れる。
【0026】
図4の設計情報取得工程P1で、設計情報取得部51は、第一配線81および第二配線82に共通する断面積S1および幅寸法W1の情報、ならびに第三配線83の断面積S3および幅寸法W3の情報を取得する。仮に、断面積S1や断面積S3の情報が設計情報に含まれていない場合、配線厚み設定部52は、設計情報に含まれる他の情報に基づいて、断面積S1および断面積S3を求める。断面積S1は断面積S3よりも大きく、幅寸法W1は幅寸法W3よりも大きい。
【0027】
次の配線厚み設定工程P2で、配線厚み設定部52は、下記の式1および式2を用いて、第一配線81および第二配線82の厚み寸法T1、および第三配線83の厚み寸法T3を個別に設定する。
T1=S1/W1…………式1
T3=S3/W3…………式2
【0028】
次の重ね描き回数演算工程P3で、描画制御部53は、単位厚み寸法TUを含む下記の式3および式4を用いて、第一配線81および第二配線82の重ね描き回数N1、ならびに第三配線83の重ね描き回数N3を個別に設定する。なお、式3および式4の除算の商に小数点以下の端数が生じる場合、重ね描き回数N1および重ね描き回数N3は、切り上げた整数値となる。
N1=T1/TU…………式3
N3=T3/TU…………式4
【0029】
重ね描き回数N1および重ね描き回数N3の大小関係は、主電流と制御電流の大小関係だけでは定まらず、複数の設計情報が関係して定まる。以降の説明では、重ね描き回数N1は20回、重ね描き回数N3は15回であるとする。つまり、第一配線81および第二配線82の重ね描き回数N1が相対的に多く、第三配線83の重ね描き回数N3が相対的に少ない。
【0030】
次の描画パターン作成工程P4で、描画制御部53は、第一配線81、第二配線82、および第三配線83を描画する全体描画パターンPtA(
図5に示す)を作成する。描画制御部53は、次に、重ね描き回数N1が相対的に多い第一配線81および第二配線82を描画する部分描画パターンPtB(
図6に示す)を作成する。
【0031】
次の描画実施工程P5で、描画制御部53は、描画装置3に全体描画パターンPtAの描画動作を15回だけ実施させる。これにより、第三配線83は、所定の厚み寸法T3に到達して仕上がる。一方、第一配線81および第二配線82は、厚み寸法が未だ不足している。描画制御部53は、次に、描画装置3に部分描画パターンPtBの描画動作を5回だけ実施させる。これにより、第一配線81および第二配線82は、合計20回の重ね描きが実施され、所定の厚み寸法T1に到達して仕上がる。なお、導電性インクの乾燥に時間を要する場合、描画動作の繰り返しの間に乾燥時間が適宜設定される。
【0032】
上述した重ね描き回数演算工程P3、描画パターン作成工程P4、および描画実施工程P5をまとめて、描画制御工程と捉えることができる。換言すると、設計情報取得工程P1、配線厚み設定工程P2、および描画制御工程により、回路パターン93の作成が終了する。これにより、第一配線81および第二配線82の厚み寸法T1は、断面積S1および幅寸法W1に見合った適正な値となる。同様に、第三配線83の厚み寸法T3は、断面積S3および幅寸法W3に見合った適正な値となる。この後、回路パターン作成システム1は、絶縁層形成工程へと進む。
【0033】
第1実施形態の回路パターン作成システム1によれば、配線8の断面積Sおよび幅寸法Wに基づいて、個々の配線8の厚み寸法Tを個別に設定することができ、描画装置3の描画動作の自由度によって個別に設定された厚み寸法Tを実現することができる。したがって、金属メッキとエッチング処理を組み合わせて各配線8の厚み寸法Tを一律に形成する従来技術と異なり、個々の配線8の厚み寸法Tを個別に適正化することができる。
【0034】
4.第2実施形態の回路パターン作成システム
次に、第2実施形態の回路パターン作成システムについて、第1実施形態と異なる点を主にして説明する。第2実施形態において、回路パターン93を描画する描画装置3は、二次元格子状に配置されたピクセルPXを単位として描画動作を行うインクジェット描画装置に限定される。
図7において、多数のピクセルPXが小さな正方形でそれぞれ示されている。描画装置3は、ピクセルPXの1個ずつを正確に正方形に描画することはできないが、導電性インクの濡れ拡がりや滲み、重ね描きのなどの総合的な作用により、概ね直線的な配線8を描くことができる。
【0035】
また、第2実施形態において、ピクセルPXの並びに平行して延在する配線8、およびピクセルPXの並びに対して斜め方向に延在する配線8が存在する。以降の説明を簡明化するために、ピクセルPXの一辺のサイズは 100μmであり、斜め45°方向に延在する配線8が存在すると想定する。また、全部の配線8に対して、設計情報に共通の幅寸法WC= 200μm、および共通の断面積SC= 2000μm2 が定められているものとする。さらに、描画装置3の一回の描画動作によって得られる配線8の単位厚み寸法TU= 0.5μmであるとする。
【0036】
図7に示されるピクセルPXの並びに平行して延在する第四配線84および第五配線85において、共通の幅寸法WCはピクセルPXの一辺のサイズの2倍である。したがって、第四配線84および第五配線85は、ピクセルPXを2個並べた配線幅で描画される。また、第四配線84および第五配線85に対して、配線厚み設定部52および描画制御部53は、第1実施形態と同様に動作する。
【0037】
すなわち、配線厚み設定部52は、第四配線84および第五配線85の厚み寸法T4=SC/WC=( 2000/200)= 10μmと設定する。また、描画制御部53は、第四配線84および第五配線85の重ね描き回数N4=T4/TU=( 10/0.5)=20回と設定する。
【0038】
一方、ピクセルPXの並びに対して斜め45°方向に延在する配線8として、
図7に示された第六配線86および第七配線87が候補となる。第六配線86および第七配線87では、描画装置3(インクジェット描画装置)の構成の制約により、描画可能な実際の幅寸法がピクセルPXの一辺のサイズの整数倍にならない。このため、第六配線86の実際の幅寸法W6および第七配線87の実際の幅寸法W7を設計情報( 200μm)に一致させることができない。
【0039】
具体的に、第六配線86の実際の幅寸法W6は、ピクセルPXの対角線寸法に相当する 141μmとなる。また、第七配線87の実際の幅寸法W7は、斜め方向に沿って変動し、数値としてはピクセルPXの対角線寸法( 141μm)からピクセルPXの対角線寸法の2倍( 282μm)まで変動する。第七配線87の実際の幅寸法W7の平均値は、 212μmである。
【0040】
このため、配線厚み設定部52は、設計情報( 200μm)に近似する側の第七配線87を採用し、第六配線86を破棄する。かつ、配線厚み設定部52は、第七配線87の実際の幅寸法W7の平均値を用いて、第七配線87の厚み寸法T7を設定する。厚み寸法T7は、 9.43μm(=2000/212)となり、第四配線84および第五配線85と比較して小さくなる。また、描画制御部53は、第七配線87の重ね描き回数N7=T7/TU=( 9.43/0.5)=19回と設定する。
【0041】
この後、描画制御部53は、第1実施形態と同様に動作する。すなわち、描画制御部53は、第四配線84、第五配線85、および第七配線87を描画する全体描画パターン、ならびに、第四配線84および第五配線85を描画する部分描画パターンを作成する。次に、描画制御部53は、描画装置3に全体描画パターンの描画動作を19回だけ実施させ、続いて、部分描画パターンの描画動作を1回だけ実施させる。これにより、すべての配線8(第四配線84、第五配線85、および第七配線87)で、適正な断面積SC( 2000μm2)が確保される。
【0042】
第2実施形態の回路パターン作成システムでは、描画装置3の構成の制約により、斜め方向に延在する第七配線87の実際の幅寸法W7を設計情報に一致させることができない。それでも、第七配線87の重ね描き回数N7を個別に設定して、すべての配線8で適正な断面積SCを確保することができる。これにより、すべての配線8の単位長当たりの抵抗値を均一化して、電子回路の特性の低下を防止することができる。この効果は、配線8の幅寸法Wが数ピクセルPX程度以下まで微細化された回路パターン93で顕著となる。
【0043】
5.実施形態の応用および変形
なお、描画制御部53は、描画装置3の描画動作による単位厚み寸法TUが一定であることを前提条件にして、描画動作の重ね描き回数Nを個別に設定するが、別法もある。つまり、描画制御部53は、配線8に対する描画装置3の重ね描き回数Nを共通に設定し、個々の配線8に対して描画ヘッドの導電性インクの噴射量を変化させ、単位厚み寸法TUを個別に調整してもよい。また、回路パターン作成システム1は、両面実装基板や多層基板に適用することもできる。
【0044】
さらに、第2実施形態で説明したピクセルPXの一辺のサイズや、一回の描画動作によって得られる配線8の単位厚み寸法TUの値などは一例であって、実際には描画装置3の性能に基づくことは当然である。また、第2実施形態で説明した第七配線87の厚み寸法T7では、幅寸法W7が狭くなった隘路の部分で局部的な過熱が心配される場合もある。この場合、配線厚み設定部52は、第七配線87の実際の幅寸法W7の最小値( 141μm)を用いて、第七配線87の厚み寸法T7を設定する。これによれば、隘路において適正な断面積SC( 2000μm2)を確保することができ、局部的な過熱のおそれは生じない。また、第2実施形態は、45°以外の斜め方向に延在する配線8に対して応用することが可能である。その他にも、第1および第2実施形態は、さまざまな応用や変形が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1:回路パターン作成システム 2:搬送装置 3:描画装置 4:XY駆動装置 5:制御装置 51:設計情報取得部 52:配線厚み設定部 53:描画制御部 8:配線 81~87:第一配線~第七配線 91:基板 92:絶縁材 93:回路パターン 99:部品 W1、W3:幅寸法 W6、W7:実際の幅寸法 PtA:全体描画パターン PtB:部分描画パターン PX:ピクセル