(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】注射可能なフェノール製剤およびその使用の方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20240318BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240318BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240318BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240318BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240318BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20240318BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240318BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240318BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K8/34
A61K9/08
A61K47/40
A61P9/00
A61P23/02
A61P25/00
A61P35/00
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021546842
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 US2020015690
(87)【国際公開番号】W WO2020167476
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-28
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521494164
【氏名又は名称】ソール インターナショナル ディベロップメント エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】SAOL INTERNATIONAL DEVELOPMENT LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピネイク,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】オマホニー,レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ハム,シャロン
(72)【発明者】
【氏名】ディヴェイン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】アーメド,イムラン
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-152320(JP,A)
【文献】特表2007-519703(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180708(WO,A1)
【文献】特表2014-533703(JP,A)
【文献】LOFTSSON, T. et al.,Interactions between preservatives and 2- hydroxypropyl-β-cyclodextrin,Drug Development and Industrial Pharmacy,1992年,18,1477-1484,DOI: 10.3109/03639049209040853
【文献】MCCREA, Patrick H. et al.,Phenol Reduces Hypertonia and Enhances Strength: A Longitudinal Case Study,Neurorehabil Neural Repair,2004年,18,112-116,DOI: 10.1177/08884390042265662
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 8/34
A61K 47/40
A61K 9/08- 9/113
A61K 8/34
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールと、
前記フェノールの少なくとも一部と複合体形成するシクロデキストリンまたはその誘導体と、
少なくとも1つの薬理学的に許容される溶媒と、を含むフェノール製剤
であって、
前記シクロデキストリンがヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)であり、前記フェノールの濃度が前記製剤の3重量%~9重量%(w/w)であるフェノール製剤。
【請求項2】
注射のためのものである、請求項1に記載のフェノール製剤。
【請求項3】
前記ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの濃度が、前記製剤
の10重量%
~20重量%(w/w)である、請求項
2に記載のフェノール製剤。
【請求項4】
前記ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの濃度が、前記製剤
の12重量%
~18重量%(w/w)である、請求項
3に記載のフェノール製剤。
【請求項5】
前記フェノールの濃度が、前記製剤
の6重量%(w/w)である、請求項
4に記載のフェノール製剤。
【請求項6】
哺乳動物
(ヒトを除く)において神経ブロックを生成するための方法であって、
有効量のフェノール製剤を投与するステップを含み、前記製剤が:
フェノールと、
前記フェノールの少なくとも一部と複合体形成するシクロデキストリンまたはその誘導
体と、
投与のための少なくとも1つの薬理学的に許容される溶媒と、を含
み、
前記シクロデキストリンがヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンであり、前記フェノールの濃度が前記製剤の3重量%~9重量%(w/w)である方法。
【請求項7】
前記投与するステップが注射によるものである、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記投与するステップが局所適用によるものである、請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
注射のためのフェノール組成物を作製する方法であって、
シクロデキストリンまたはその誘導体と注射のための薬理学的に許容される溶媒とを合
わせ、
前記シクロデキストリンまたはその誘導体と前記注射のための薬理学的に許容される溶
媒とを前記シクロデキストリンが溶解するまで混合し、
フェノールを添加し、前記フェノールが前記組成物中に溶解するまで前記組成物を混合
する、工程を含
み、
前記シクロデキストリンがヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンであり、前記フェノールの濃度が前記組成物の3重量%~9重量%(w/w)である方法。
【請求項10】
局所適用のためのものである、請求項1に記載のフェノール製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
【0002】
本国際出願は、その開示の全体を参照により明示的に本国際出願に組み込む、2019年2月15日付の米国仮特許出願第62/806,188号の優先権/利益を主張する。
【0003】
本出願は、とりわけ、注射可能なフェノール製剤およびその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
フェノールは、石炭酸であり、ベンゼンの誘導体であり、広範な化学的および産業用途(例えばプラスチックおよび除草剤)を有する化学物質である。フェノールはまた、いくつかの医薬品、例えばアスピリンの前駆体薬剤であり、局所麻酔効果から運動神経ブロックによる骨格筋痙縮の緩和までの範囲にわたる医学的用途において直接使用されてきた。
【0005】
フェノールは、組織無差別的なタンパク質変性化学物質である。フェノールがタンパク質に富む組織と接触する場合、フェノールは急速に組織に損傷を引き起こし、最終的に神経を含む細胞およびタンバク質構造の変性をもたらす。この影響を考慮して、神経内および神経周囲のフェノールの注射は、神経剥離を引き起こし、筋痙縮および疼痛を含む多くの疾患および症候群を処置するために使用されてきた。フェノールはまた、嚢胞、痔、腫瘍および組織切除を必要とする他の症候群のための無差別的な溶解剤として使用されてきた。
【0006】
骨格筋に対する所望の臨床的効果を得るために、フェノール溶液は典型的に、標的となる神経、神経複合体または神経終末へと、神経周囲注射される。フェノールは、神経を化学的に損傷し、神経伝導を妨害する。フェノールの神経に対する適用は、骨格筋痙縮を処置するために1950年代から効果的に使用されてきたが、製品は公式な安全性および有効性臨床試験も、いかなる公式な規制当局の承認プロセスも、受けていない。結果としてフェノールは、典型的に、内科医の指示で、企業のまたは第三者団体の調剤薬局を通して、臨床的使用のための1~10%のフェノール(w/w%)水溶液または水/グリセリン溶液として、準備なしに調製される。
【0007】
しかし、フェノールは、神経だけでなく多数の組織と相互作用しそれらを損傷する非特異的毒性薬剤である。これは、注射されたフェノールと接触する大半の組織も、損傷を受けることがあることを意味する。最も多くの場合、水溶液またはグリセロール溶液である、臨床的に使用される現行のフェノールの製剤は、薬物が隣接する筋肉/血管および身体中の注射の標的部位近くにある他の軟部組織へと速やかに拡散することができる溶液である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
【課題を解決するための手段】
【0009】
注射により投与されるフェノールの治療指数の課題に対処する、ヒトおよび動物における使用のために好適な、新規のフェノールの製剤が提供される。「治療指数」により、特に、所望の治療効果(神経ブロックおよび運動機能に対する関連する効果)と局所組織(特に局所の筋肉および他の軟部組織)に対する所望されない有害作用との間の均衡が意味される。製剤を形成する複合体は、シクロデキストリンおよびフェノールを、標的神経に神経周囲注射されるフェノールの適用を可能とする、一般的に約30~90mg/ml(約3重量%~9重量%)のフェノールの範囲にわたる用量レベルで含む。
【0010】
本発明の作用機序は十分に理解されていないが、シクロデキストリンを含む包接体中へのすべてのフェノールまたはその一部のカプセル化/複合体形成に関与することが可能であり、即時に利用可能なフェノールの遊離画分を減少させ、瞬時の局所組織曝露および潜在的に全身濃度を最小化するようである。エビデンスは、シクロデキストリンがフェノールの溶解度を改善する(これが、シクロデキストリンが一般的に使用される目的である)とは示唆していないようである。知見に基づくと、複合体形成が多すぎると有効性を損ない、複合体形成が少なすぎると標的神経注射部位周囲の末梢筋組織の壊死により表されるような安全性プロファイルを害することがあるようである。変性は、核の内部移行、マクロファージ浸潤ならびに衛星細胞のサイズおよび数の増大を伴う、不規則な筋繊維のサイズおよび形状として、顕微鏡的に表れる。壊死は、筋繊維淡明化、分染の喪失、筋繊維核の喪失(低細胞性)および繊維の断片化として、顕微鏡的に表れる。よって、フェノールのシクロデキストリンとの複合体形成は、所望の活性をなお可能としながら、局所組織損傷を減少させることにより意外な良好な効果をもたらすようである。
【0011】
「複合体形成」という用語は、本明細書において使用される場合、フェノールとシクロデキストリン(または誘導体)との間の認識可能な相互作用を指す。これは、形成された特定の構造を正確に定義することを意図するものではなく、組成物を用いた処置の過程においてフェノール/シクロデキストリンが組織と相互作用する方法を限定するものでもない。「カプセル化」または「凝集」または「包接体」という用語も、相互作用の性質を説明するために使用されるであろう。
【0012】
本発明は、フェノール、フェノールの少なくとも一部と複合体形成するシクロデキストリンまたはその誘導体、および少なくとも1つの薬理学的に許容される溶媒を含む、フェノール製剤を提供する。一部の実施形態では、製剤は注射のためのものであり、一部の実施形態では、製剤は局所適用のためのものである。
【0013】
シクロデキストリンは、例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)であることができる。一部の実施形態では、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの濃度は、製剤の約10重量%~約20重量%(w/w)、例えば製剤の約12重量%~約18重量%(w/w)である。一部の実施形態では、フェノールの濃度は、製剤の約3重量%~約9重量%(w/w)、例えば製剤の約6重量%(w/w)である。
【0014】
本発明はまた、哺乳動物において神経ブロックを生成するための方法であって、有効量のフェノール製剤を投与するステップを含み、製剤が、フェノール、フェノールの少なくとも一部と複合体形成するシクロデキストリンまたはその誘導体、および投与のための少なくとも1つの薬理学的に許容される溶媒を含む、方法を提供する。一部の実施形態では、投与するステップは注射によるものであり、一部の実施形態では、投与するステップは局所適用によるものである。
【0015】
本発明はまた、それを必要とする患者において、治療目的の、化粧目的のまたは組織溶解目的の状態を処置するための方法であって、有効量のフェノール製剤を患者の神経、血管、腫瘍または組織成長に近接しているかまたはその中の、生理学的標的領域中に注射またはそれに近接して適用するステップによるものであり、製剤が、フェノール、フェノールの少なくとも一部と複合体形成するシクロデキストリンまたはその誘導体、および注射のための少なくとも1つの薬理学的に許容される溶媒を含む、方法を提供する。一部の実施形態では、フェノール製剤は、約4重量%~約9重量%のフェノール、および約10重量%~約20重量%のシクロデキストリンまたは誘導体を含む。
【0016】
本発明はまた、注射のためのフェノール組成物を作製するための方法であって、シクロデキストリンまたはその誘導体と注射のための薬理学的に許容される溶媒とを合わせるステップ、シクロデキストリンまたはその誘導体と注射のための薬理学的に許容される溶媒とをシクロデキストリンが溶解するまで混合するステップ、フェノールを添加し、フェノールが組成物中に溶解するまで組成物を混合するステップによる、方法を提供する。
【0017】
本開示のさらなる特徴および利点は、一部は以下の説明に記載され、一部はその説明から諒解され、または、本開示の実践によって学習することができる。本開示の目的および他の利点は、その説明および特許請求の範囲において特に指摘される要素および組合せを用いて実現および達成される。
【0018】
上記の一般的な記載および下記の詳細な説明は、本開示のさらなる説明を提示するためのみの例示および説明であり、特許請求の範囲により包含される主題の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】使用されるHP-β-CDの濃度に基づく、フェノールの複合体形成の計算された程度を示す図である。
【
図2】実施例1において使用される組成物を混合するために使用される方法のブロック図の例である。
【
図3】様々なシクロデキストリン組成物を用いた動物試験からのデータの概要の図である。
【
図4】15%(w/w)のHP-β-CDならびにHAおよびNaCMCを使用した粘弾性ベースの製剤での6%(w/w)のフェノール製剤を投与した場合の、ラットの各群にわたる坐骨神経変性および骨格筋壊死の発生率を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において示される特例は一例であり、本開示の様々な実施形態を例示的に論じることを目的としているに過ぎず、開示されている主題の原理および概念的な態様の最も有用で容易に理解される説明であると考えられるものを提供している。これに関連して、本開示の基本的な理解に必要である分よりも詳細な、開示されている主題の詳細を示すことは試みられず、説明は、本開示のいくつかの形態を実際にどのように具現化することができるかを、当業者に明らかとする。
【0021】
以下の開示は、添付の図面を時折参照して、より詳細な実施形態を表す。しかし、開示されている主題は異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載されている実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。
【0022】
別途定義されない限り、本明細書において使用されているすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのみのものであり、限定することを意図するものではない。本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの」(「a」「an」)および「その」(「the」)は、別途文脈が明確に指示していない限り、複数形も含むように意図される。また、「少なくとも1つの」および「1つまたは複数の」という句は、互換的であることが意図され、これらの使用は、「1つの」(「a」「an」)および「その」(「the」)が先行するいかなる説明されたまたは特許請求された特性の範囲も、単数形へと限定することを意図するものではない。
【0023】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献を、特に断りのない限り、それらの全体を参照により明示的に組み込む。
【0024】
特に断りのない限り、成分の量、反応条件等を表し、本明細書および特許請求の範囲において使用されるすべての数は、すべての事例において「約」という用語により修飾されていると理解されるべきである。したがって、特に反対の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲において記載されている数値パラメーターは、特定の実施形態によって取得されようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、および等価物の理論の適用を特許請求の範囲へと限定するように試みるものとしてではなく、各数値パラメーターは、桁数および通常の丸め方の手法に照らして解釈されるべきである。
【0025】
開示されている主題の広い範囲を記載している数値範囲およびパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定の例において記載されている数値は可能な限り正確に報告されている。しかし、いかなる数値も、値を得るために使用される方法において認められる標準偏差に必然的に起因する、一定の誤差を本質的に含有する。本明細書中に与えられるすべての数値範囲は、そのようなより広い数値範囲に当てはまるすべてのより狭い数値範囲を、そのようなより狭い数値範囲がすべて本明細書において明示的に書かれているかのように含む。
【0026】
本明細書中の化合物の言及は、そのような化合物のエステルおよび塩を含む。よって、明白に開示されていなくとも、化合物それ自体の参照により、そのようなエステルおよび塩が企図され包含される。
【0027】
本出願におけるすべてのパーセント測定は、特に指示のない限り、所与の試料重量の100%に基づく重量により測定される。よって、例えば、30%は、試料の100重量部のうち30重量部を表す。
【0028】
本開示は、一部には、活性成分および活性成分を複合体形成するための薬剤を含む組成物に関する。組成物は、医薬組成物であることができる。
【0029】
「医薬組成物」は、本明細書において使用される場合、活性成分および少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む組成物を意味する。本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、医薬製剤中で他の成分と適合性があり、通常量または治療有効量で投与される場合に意図される対象に有害でない、化合物または成分を意味する。本明細書において使用される場合、「意図される対象」には、動物および/またはヒトが挙げられる。「患者」および「対象」という用語は、互換的に使用することができる。
【0030】
好適な賦形剤は当業者に公知であり、例は、例えばHandbook of Pharmaceutical Excipients(Kibbe(編)、第3版(2000年)、American Pharmaceutical Association、Washington, D.C.)、およびRemington’s Pharmaceutical Sciences(Gennaro(編)、第20版(2000年)、Mack Publishing, Inc.、Easton, Pa.)において説明され、賦形剤および剤形に関するこれらの開示については、本明細書において参照により組み込まれる。賦形剤の例には、これらに限定されるものではないが、充填剤、増量剤、希釈剤、湿潤剤、溶媒、乳化剤、保存剤、吸収強化剤、持続放出マトリックス、デンプン、糖、微結晶セルロース、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、剥離剤、被覆剤、甘味剤、香料、芳香剤、抗酸化剤、可塑剤、ゲル化剤、増粘剤、硬膜剤、硬化剤、懸濁化剤、界面活性剤、保水剤、担体、安定剤、およびそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0031】
本開示は、医薬製剤中に含めることを企図された多数かつ多様な構成成分を含む。本発明者らがそのような構成成分を含むと明示的に企図する場合、そのような構成成分を除外することも明示的に企図されることを認識するべきである。よって、本明細書において開示されているすべての構成成分は、除外についても同様に明示的に企図される。
【0032】
本明細書において使用される場合、「活性成分」は、疾患の診断、治癒、緩和、処置または予防において薬理学的活性もしくは他の直接的な効果を与えるか、または意図される対象の身体の構造もしくは何らかの機能に影響を与えることを意図される、任意の組成物の構成成分である。活性成分は、組成物の作製中に化学変化を受け、特定の活性または効果を与えることを意図される改変された形態で最終組成物中に存在することができる、組成物の構成成分を含む。活性成分にはまた、意図される使用者への最終薬物製品の投与中またはその後に、特定の活性または効果を与えることを意図される改変された形態へと化学変化を受けることができる、最終組成物の構成成分を含む。例えば、活性成分は、特定の活性または効果を与える構成成分の薬学的に許容される塩であることができる。
【0033】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、意図される対象により生理学的に忍容される塩を含む。そのような塩は、典型的に、無機および/または有機酸から調製される。好適な無機酸の例には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸およびリン酸が挙げられる。有機酸は、脂肪酸、芳香族酸、カルボン酸および/またはスルホン酸であることができる。好適な有機酸には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、カンファースルホン酸、クエン酸、フマル酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、ムチン酸、酒石酸、パラ-トルエンスルホン酸、グリコール酸、グルクロン酸、マレイン酸、フロ酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、フェニル酢酸、マンデル酸、パモ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、パントテン酸、ベンゼンスルホン酸(ベシレート)、ステアリン酸、スルファニル酸、アルギン酸、ガラクツロン酸等が挙げられる。
【0034】
本明細書において使用される場合、例えば「痙縮を予防する」または「痙縮の予防」におけるような、処置の文脈における「予防する」または「予防」という用語は、痙縮の減少を指す。換言すると、本明細書において使用される場合、「予防」は症状の100%の除去を必要としない。
【0035】
組成物は、1つのみの活性成分、または1つを超える活性成分、例えば2、3、4、5、6、7、8または9つの活性成分、または9つを超える活性成分を含有することができる。
【0036】
活性成分は、医薬品有効成分(API)から選択することができる。APIは、医薬製品の作製中に使用されることを意図され、医薬製品の製造中に使用される場合、医薬製品の活性成分となる、物質または物質の混合物である。そのような物質は、疾患の診断、治癒、緩和、処置または予防において薬理学的活性もしくは他の直接的な効果を与えるか、または意図される対象の身体の構造もしくは機能に影響を与えることを意図される。一部の実施形態では、活性成分はフェノールである。一部の実施形態では、活性成分は、アルコールまたは別の硬化作用物質であることができる。活性成分、例えばフェノールは、任意の形態、例えば液体、顆粒、粉末または微粒子化形態であることができる。
【0037】
活性成分に加えて、組成物は「複合体形成剤」、例えばシクロデキストリンまたはその誘導体を含む。シクロデキストリンは、(α-1,4)結合α-D-グルコピラノースの多数のデキストロース単位から構成される環状オリゴ糖である。シクロデキストリン構造は、親油性の中心空洞および親水性の外部表面を含有する。シクロデキストリンは、最大6つ、7つ、8つまたはそれを超える単位を有することができる(α-、β-およびγ-CDはそれぞれ、6つ、7つおよび8つの単位を有する)。シクロデキストリンは、疎水性の薬物分子と相互作用して包接体を形成し、水溶解度を改善するために使用することができることが知られている。3つの最も一般的なシクロデキストリンの構造を、参照および理解のために以下に示す。
【0038】
【0039】
製薬業界では、シクロデキストリンは、水溶性が不良な活性物質の水溶解度を増大させ、これらのバイオアベイラビリティーを増大させ安定性を改善するために、複合体形成剤として主に使用されてきた。加えて、シクロデキストリンは、胃腸および視覚の刺激を減少または予防するため、不快な臭いもしくは風味を減少または取り除くため、製剤中の薬物-薬物もしくは薬物-添加剤相互作用を予防するため(これらのすべての特性は、溶液中の遊離薬物の減少に基づく)、または油および液体状の薬物を微結晶もしくはアモルファスな粉末へと変換するために、使用することができる。(Brewster MEおよびLoftsson T(2007年)Cyclodextrins as pharmaceutical solubilizers. Advanced Drug Delivery Reviews 59巻:645~666頁)。
【0040】
β-シクロデキストリンについては、それ自体は比較的低い水溶解度を有するが、水素結合を形成する水酸基のいずれかとの置換により、親油性の官能基であってもなお、誘導体の水溶解度の劇的な改善が生じる。医薬中の賦形剤として使用されるβ-CD誘導体の例には、これらに限定されるものではないが、β-CDのスルホブチルエーテル(SBE-β-CD)、β-CDのヒドロキシプロピル誘導体(HP-β-CD)、および無作為にメチル化されたβ-CD(RM-β-CD)が挙げられる。これらのシクロデキストリン誘導体、または開示されている組成物と一般的に同様に機能する任意の他のシクロデキストリン誘導体の使用が企図される。
【0041】
「複合体形成剤(complexing agent)」(または「複合体形成剤(complexation agent)」)という用語は、製剤中のフェノールが、製剤中の他の構成成分または製剤の注射の際に周囲の組織と相互作用可能であるのを見かけ上阻止する、発明者により観察された薬剤の効果を指すために、本明細書において使用される。この「複合体形成」効果は、複合体形成剤とフェノールとの間の相互作用に基づき、複合体は共有結合またはイオン結合によっては生じないようである。しかし、ある種の低エネルギーの結合現象、例えば水素結合または疎水性相互作用が起こることがある。この説明は、本発明をけっして限定するものではなく、観察された現象についての考えられる説明として単純に提示されている。
【0042】
本発明において、複合体形成剤は、フェノールのすべての分子を永続的に利用不可能とすることも、「結合」させることもないようである。よって、複合体形成剤に対するフェノールの濃度(すなわち、フェノール:複合体形成剤の比)が高い場合、「複合体形成された」フェノールの割合は低い。フェノール:複合体形成剤の比が低い場合、「複合体形成された」フェノールの割合はより高い。この所見を、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(「HP-β-CD」)について、
図1中に示す。
【0043】
上記に示すシクロデキストリンの各々、α-、β-およびγ-CDは、本発明における使用について企図される。加えて、これらの分子の誘導体は、その例がよく知られており市販されており、同様に企図される。当業者は、本開示に従い、様々なシクロデキストリン誘導体を使用して本発明を再現することが可能である。
【0044】
ある特定の実施形態では、1つのみの広く知られたシクロデキストリンまたはその誘導体が使用されるが、様々なシクロデキストリンの組合せも同様に使用することができる。組合せは、例えば所望の場合、より複雑な放出/複合体形成プロファイルを作るために有用であり得る。この観点において、異なるシクロデキストリンの各々は異なる理想的な複合体形成比を有することがあり、異なるシクロデキストリンの組合せを使用することにより、より複雑な放出/複合体形成プロファイルを達成することができる。
【0045】
本発明の組成物実施形態は、注射を意図することができ、これらの実施形態において、組成物中の他の成分を、他の構成成分および意図される使用との適合性に基づき選択することができる。例えば、注射可能な組成物における使用のためのビヒクルは、水または他の薬学的に許容される溶媒を含むことができる。水は、その使用の容易性および患者の適合性に関して最も好ましい溶媒となり得るが、本発明は、水または水性溶媒の使用にさえも限定されるものではなく、非水性溶媒も企図される。局所製剤は、例えば、局所製剤に一般的に使用される他の賦形剤を含むことができる。
【0046】
本発明の組成物中のフェノールの投薬量/濃度は決定的ではなく、必要に応じて、観察された結果および意図される使用に基づいて、実務家が調節することができる。組成物中の濃度は、例えば、0.1mg/ml、例えば0.2、0.4、0.6、0.8、1、2、5、10、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80もしくは85mg/ml、またはこれらの値のいずれかの間の任意の数のように低くてもよく;濃度は900mg/ml、例えば800、700、600、500、400、300、200、150、145、140、135、130、125、120、115、110、105、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45もしくは40mg/ml、またはこれらの値のいずれかの間の任意の数のように高くてもよい。本発明の組成物中のフェノールの濃度は、非常に容易に調節および改変され、本発明者らは、これらの上方値と下方値との間のすべての濃度を企図し、すべての可能な分画濃度は、開示することが不必要であろうため、開示されていない。実施形態は、例えば約30~90mg/ml、または約40~80mg/ml、または約50~70mg/mlの範囲であることができ、または約60mg/mlであることができる。
【0047】
同様に、シクロデキストリンおよびその誘導体(複合体形成剤として)の濃度は、必要に応じて、観察された結果および意図される使用に基づいて、作製者または実務家が調節することができる。シクロデキストリンおよびその誘導体が組成物中でフェノールと相互作用してそのバイオアベイラビリティーを改変するか、または組成物から放出されることを認識すると、所望の結果をもたらすためには、シクロデキストリンおよびその誘導体の濃度はフェノールの濃度とともに考慮されるであろう。組成物中の濃度は、例えば、0.25mg/ml、例えば0.5、1、1.5、2、2.5、5、12.5、25、50、62.5、75、87.5、100、112.5、125、137.5、150、162.5、175、187.5、200もしくは212.5mg/ml、またはこれらの値のいずれかの間の任意の数のように低くてもよく;濃度は1250mg/ml例えば750、500、375、362.5、350、337.5、325、312.5、300、287.5、275、262.5、250、237.5、225、212.5、200、187.5、175、162.5、150、137.5、125、112.5もしくは100mg/ml、またはこれらの値のいずれかの間の任意の数のように高くてもよい。本発明の組成物中のシクロデキストリンおよびその誘導体の濃度は、非常に容易に調節および改変され、本発明者らはこれらの上方値と下方値との間のすべての濃度を企図し、すべての可能な分画濃度は、開示することが不必要であろうために、開示されていない。実施形態は、例えば約100~200mg/ml、または約125~175mg/ml、または約140~160mg/mlの範囲であることができ、または約150mg/mlであることができる。
【0048】
医薬組成物は、典型的に、所望の経路による意図される対象への投与に好適な剤形で提供される。様々な剤形が以下で説明されるが、すべての可能な選択肢を含むことを意味するものではない。当業者は、例えば上記で参照により組み込まれているRemington’s Pharmaceutical Sciencesにおいて説明されているような、使用に好適な様々な剤形に精通している。任意の所定の場合における最も好適な経路は、予防、処置および/または管理されている、疾患および/または状態の性質および重症度に依存する。例えば、医薬組成物は、皮下、筋肉内、神経周囲、神経内、経皮、関節内、髄腔内、静脈内、経鼻、直腸内、腟内、大槽内および局所投与のために製剤化することができる。
【0049】
本明細書において記載されている医薬組成物および剤形は、フェノール以外の少なくとも1つの追加の活性成分をさらに含むことができる。そのような追加の活性成分は、フェノールまたは異なるものを用いて処置、予防および/または管理されている同じ状態を処置、予防および/または管理するために含めることができる。代わりに、そのような追加の医薬化合物を、別々の製剤中に用意し、本開示によるフェノールとともに対象または患者へと同時投与することができる。そのような別々の製剤は、フェノールの投与の前、後、または同時に投与することができる。
【0050】
一部の実施形態では、本発明の組成物は室温で安定となる。本明細書において使用される場合、「安定」は、意図されるとおり使用可能であり続けるように基礎となる組成中に著しい変更を行うことなく、保存することが可能であることを意味する。一部の実施形態では、本発明の組成物は室温で安定となり、一部の実施形態では、組成物は温度が低下した状態、例えば冷蔵または冷凍下で安定となる。一部の実施形態では、組成物は、1日または複数日、例えば1週間または1カ月またはそれを超えて安定である。一部の実施形態では、組成物は、安定性を改善するための1つまたは複数の追加の成分、例えば抗酸化剤を含む。
【0051】
上記の組成物は、対象またはそれを必要とする患者に治療有効量のフェノールを投与するステップを含む、様々な疾患および/または状態を処置、予防および/または管理するための方法において使用することができる。「治療有効量」という句は、活性成分(例えばフェノール)の量が、単独または1つもしくは複数の他の活性成分と組み合わせて、特定の疾患および/または状態の予防、処置および/または管理における任意の治療的利益をもたらすことを指す。
【0052】
フェノールは、神経ブロックにより神経伝導を害することにより作用すると考えられている。これは、医学的用途および化粧用途をもたらすことができる。医学的用途は、疼痛、骨格筋痙縮および他多数の状態において臨床的に有益であり得る、局所麻酔から全神経(運動および感覚)ブロックまでの範囲にわたることができる。同じ機構により、フェノールは、皮膚を滑らかにするかまたはしわを減少させる化粧適応において有益となる。最終的に、フェノールの溶解機構は、神経ブロック用途とは無関係に、所望されない組織、腫瘍溶解および皮膚斑点を除去することができる。
【0053】
本発明の特定の一態様は、外傷性脳損傷、脊髄損傷または脳卒中を起こした患者における、緊張の変化を受け、痙縮に関連する主要な筋肉を神経支配する、運動神経の神経周囲注射に関する。同じことが、多発性硬化症、脳性小児まひ、ALSおよび他多数を含む様々な疾患を有する患者に有益となり得る。
【0054】
本発明の別の特定の態様は、フェノールの感覚神経への神経周囲または一般的な局所注射に関する。感覚神経ブロックは、複数の疼痛症候群、例えば膝の骨関節炎、膝置換術後の疼痛、がん疼痛および神経痛において有益であり得る。
【0055】
本発明者らは、本発明によるフェノール製剤を、フェノールが承認される任意の適応症に使用することができることを企図する。企図される適応症の例には、これらに限定されるものではないが、任意の原因または病因の筋痙縮、神経性疼痛、関節痛、がん疼痛、骨関節炎性疼痛、化粧用途、局所麻酔、椎間関節性疼痛、椎間板性疼痛、脊柱管狭窄症、仙腸関節機能障害、変形性腰椎症、片頭痛に関連する疼痛、後頭神経痛、骨肉腫、軟部組織肉腫、虚血性下肢痛、人工股関節置換術後の疼痛、膝置換術後の疼痛、局所性多汗症(focal hyperhidrosis)、アニスムス、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼痙攣、痙性斜頸、痙攣性発声障害、流涎、味覚性発汗、顔の若返り、顎関節痛、末梢神経痛、ヘルペス後神経痛、三叉神経痛、慢性片頭痛、眉間のしわ(glabellar line)、前額部レイティッド(forehead ryetid)、目尻のしわ、口周囲のしわ、過活動膀胱、上肢痙縮、下肢痙縮、手根管、線維筋痛症、直腸脱、手術後のオピオイドの減量、レイノー現象、ホットフラッシュ、遺伝性皮膚症、化膿性汗腺炎(hidradenitis superativa)、汗疱、エクリン母斑、先天性爪肥厚症(pachynochia congenita)、水原性角皮症(aquagenic keratoderma)、男性型脱毛症、乾癬、ダリエ病、円形脱毛症、ヘイリー-ヘイリー病、線状IgA皮膚症、ケロイド、肥厚性瘢痕、遺伝性痙性対麻痺、帯状疱疹性疼痛、根治的乳房切断性疼痛、複合性局所疼痛症候群、痙攣性両側麻痺、痙性四肢麻痺、モートン神経腫、切断術後の疼痛、幻肢症候群、早産児低酸素性虚血性脳症、毛巣嚢胞疾患、神経腫、神経痛、巨大胃平滑筋肉腫、固形腫瘍脈管切除、腫瘍切除、ヘルニア性鼠径部痛(herniotic groin pain)、静脈瘤、皮膚のしみ除去およびいぼ除去が挙げられる。
【0056】
投与される活性成分の用量、および用量の頻度は、使用される特定の剤形および投与経路に依存して変動するであろう。投与の量および頻度は、個々の対象または患者の年齢、体重および反応によっても変動するであろう。典型的な投薬レジメンおよび位置も、不必要な実験なしに、能力ある医師により容易に決定することができる。臨床医および処置する医師は、個々の対象または患者の反応と併せて、治療を中断、調節または終了する方法および時期を知ることになることにも留意されたい。
【0057】
有効性および標的でない組織の損傷に対する変化は、血流の増大または低減により変化させることができる。本発明者らは、局所の標的でない組織における血流の増大が、限定されるものではないが、皮膚または骨格筋への損傷の減少を含む、組織損傷の減少をさらに強化し得ることを企図する。これは任意の用途に重要であり得るが、局所治療用または化粧用の介入について、特に感受性のまたは薄い組織の領域、例えば顔、頭、手、脚または恥骨部において特に重要であり得る。局所の血流の変化は、局所領域の表面の加熱または冷却から、局所の血流を変化させる薬物の注射にわたる、いくつもの用途により生成され得る。
【0058】
フェノール製剤は、染料または適用部位の可視化を援助する他の薬剤と合わせることができる。注射可能なバージョンのフェノールは、超音波、電気刺激、蛍光透視または他の可能な可視化技術を用いて局在確認することができる。染料も、皮膚への適用または直接の注射に続くフェノールの視覚的な局在確認を、カメラを使用しながら援助し、手順を援助する。
【0059】
注射または他のものによる適用の局在確認は、標的となる神経または静脈の中またはその近くの複雑な軟部組織構造を有する領域では、より標的化されることが望まれるであろう。他の可能性のある使用では、特に組織に近接するもの、例えば骨様関節注射、および複数の神経のブロックから利益を得るものは、フェノール製剤の注射に続いて起こる拡散効果から利益を得ることができる。本開示を読んだ医師または他の熟練した臨床家は、投与の適切な部位、ならびにその投薬量および頻度を容易に決定することが可能となる。この観点から、組成物が神経中へと直接注射されることは不可欠でなく(そうすることにより時折疼痛が生じることがあるため)、むしろ、組成物は、注射することができ、またはそうでなければ神経中にではなく神経に対して適用される方法で適用されることができる。言い換えれば、本発明は、組成物の神経組織への直接的または間接的な適用を企図する。
【0060】
典型的に、医師は、全身曝露および毒性の懸念からフェノールの静脈内での使用を避けるが、本発明は、腫瘍、がんまたは静脈瘤等の化粧用途の処置において有用であり得る限局した静脈硬化を引き起こすために、静脈内または血管内で使用することができる。
【0061】
黒子または他の皮膚斑点上のフェノール製剤の適用は、限局した溶解を生成し、所望されない斑点を限局した非手術的な方法で除去することができる。フェノール製剤は、より広い皮膚領域上での局所的使用のためにも使用することができる。
【0062】
複数回の注射または投与である可能性がある典型的な単回処置では、フェノールの最大用量は、処置曝露あたり最大1グラムであることができる。製剤は、1グラムの1日全身曝露を超えるフェノールの使用を可能とすることができ、曝露の頻度においてより大きな柔軟性をもたらすことができる。
【実施例】
【0063】
[実施例1]フェノール放出を制御するための様々な戦略の比較
【0064】
フェノールは、神経ブロック効果をもたらすのに有用であるが、哺乳動物組織に対して一般的に毒性でもある。目標は、局所組織破壊を最小化しながら、有用な神経ブロックをもたらすフェノールの能力の均衡を保つ組成物を提供することである。これらの利害関係を考慮して、この実施例では、所望の目標を達成するための3つの機構的に異なる手法:1)インサイチュのゲル化、2)粘弾性および3)複合体形成/カプセル化を調査した。
[実施例1A]インサイチュのゲル化
【0065】
インサイチュ(熱)のゲル化は、注射後にゲル化剤が反応するか、またはその挙動を変化させる能力を利用する。ここで試験される例はポロキサマーであり、これはある特定の濃度範囲内で、哺乳動物の体温でゲルを形成することが可能であると考えられている。
【0066】
本発明者らは、ポロキサマー407(P407)、ポロキサマー188(P188)および/または組合せを含む熱ゲル化ポリマーを評価し、好適な熱ゲル化転移温度(Tsol-gel)を決定した。利用可能な文献に基づくと、P407は、Tsol-gelが許容されると思われるより狭い濃度範囲(16~20%w/w)を有するが、P407とP188との組合せは、Tsol-gelを上方制御することにより、およびゲルのインサイチュの希釈性を改善することにより、実行可能な濃度の範囲を増大させるのに有効であると報告されている。
【0067】
加えて、フェノールの閾値レベルの決定を評価し、最適なポリマー/ポリマー配合物の熱ゲル化特性に対するフェノールの影響を評価した。フェノールは水素結合する能力を有するため、フェノールが安定化/不安定化効果を有する可能性がある。
【0068】
様々な組成物の最初の熱ゲル化特性の概要を、以下の表Aに示す。
【0069】
【0070】
上記の表Aから見られるように、5~15%の間のレベルのポロキサマーP188は、29~36℃の所望の範囲内でTsol-gelを生成することが可能でなかった。異なるレベルのP407を有する10%のP188の組合せも、Tsol-gelを生成することが可能でなかった。15~16%の範囲のP407のポロキサマーレベルは、29.4~32.1℃のTsol-gelを有する最も好適な標的であると考えられる。
【0071】
15~16%のP407のポロキサマー溶液を、3~7.5%のレベルのフェノールと組み合わせて評価した。フェノールを、P407製剤中へと、2つの異なる方法:(1)固体のフェノールを分割して添加することにより、(2)フェノールの水中への可溶化およびその後の滴下添加で、導入した。両方の場合で、製剤はフェノールの添加後にゲル化し、ゲル化したままであった。フェノールは、溶液中>2%w/wでの溶解が観察されなかったため、フェノールの溶解度の限界が存在することが指摘された。結論として、フェノールの溶解度の限界は、溶液中に標的となる6%のフェノールレベルを達成する能力に大きく影響する。より低い温度では、>3%のフェノールレベルを達成する能力が妨げられる。より高い温度でのゲル化の際にP407により形成された三次元構造は、室温でフェノールにより触媒される。フェノールは、ポロキサマーの粘度および生じたゾル-ゲル転移に対する重大な効果を有する。
【0072】
ポロキサマーを用いたインサイチュのゲル化は、インビトロの試験に基づくと、実行可能な選択肢でないようであった。
[実施例1B]粘弾性製剤
【0073】
第2の手法は、いずれかが適切な候補となり得るかどうか決定するために、フェノールを、粘弾性構成成分、例えばヒアルロン酸(HA)およびカルボキシルメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、メチルセルロース(MC)、およびPEG3350とともに製剤化することであった。これらのポリマーは、製薬業界において広く使用されており、本製剤において有用であり得る濃度で一般的に安全であると認識されている。
【0074】
特にHAは、目の硝子体、間接中の滑液としての潤滑剤中、および皮膚の細胞外マトリックス中に認められる、よく知られている遍在する巨大分子である。HAは、注射可能な製剤(EUFLEXXA-PBS中1%のヒアルロン酸ナトリウム)において先行して使用されている生分解性の天然のポリマーであるため、最初に選択された。HAは、白内障摘出術中に角膜内皮を保護するための粘弾性物質として眼内で使用され、皮膚の充填剤として、および滑液置換のための注射剤として関節内で使用される。ポリマーも、製剤がその好ましい粘弾性および生体適合性の特性により末梢組織へと拡散するのを防止しながら、フェノールの有害作用を改善する可能性があり得るため、使用を検討した。
【0075】
以下の試験を行った:1)6%w/wのフェノール組成を有する0.1/0.5/1.0%w/wのHA;2)フェノールを有する0.5/1.0/2.0/3.0%w/wのPEG3350;3)ブランクのMC製剤(0.1、0.3、0.5および1%w/w)、および、6%w/wのフェノールで負荷された0.7%および0.9%のMC;4)ブランクのCMC-Na製剤(0.5,1.0,1.5および2%w/w)、ならびに6%w/wのフェノールで負荷および特徴付けされた0.5%および0.7%のMC。
【0076】
製剤の結果の概要を、表Bに略述する。
【0077】
【0078】
最初のインビトロのスクリーニング試験(粘度、注射性能等を評価する)に基づいて、いくつかのHAおよびCMC製剤を、動物試験のために選択した。選択された製剤およびこれらの選択の根拠を、以下の表Cに示す。
【0079】
【0080】
以下の表Dは、上述のHAおよびCMC製剤の病理組織学的データの概要を示し、対照としてのフェノール製剤と比較する。
【0081】
【0082】
図4は、15%(w/w)のHPβCDならびにHAおよびNaCMCポリマーを2つのレベルで使用した互いに粘弾性ベースの製剤でのリード6%(w/w)フェノール製剤を投与した場合の、ラットの各群にわたる坐骨神経変性および骨格筋壊死の発生率を比較する(上記の表4に示す)。図では、神経変性は望ましいと考えられ、骨格筋壊死は望ましくないと考えられる。よって、より良好に機能する製剤は、これらの結果の間で最も大きな差異を有する。
図4において見られるように、粘弾性ベースの製剤は、骨格筋壊死の最小化に対する坐骨神経変性効果について、シクロデキストリンベースの製剤に劣ると考えられた。
【0083】
シクロデキストリンおよびその誘導体が3つの最初の選択(インサイチュのゲル化、粘弾性および複合体形成/カプセル化)で最良であることを示すであろうこの結果は、それ自体驚くべきものである。この観点において、フェノールが放出されるかまたはそうでなければインビボで利用可能になりこれらの製剤から周囲の組織と相互作用する方法を説明する、利用可能な公表された試験が存在せず、発明者は最初、3つの可能性のある候補戦略の1つがいかなる他の戦略よりも優れているであろうという特別な選好または信念を有しなかった。事実、いずれにしても、ヒアルロン酸を使用する粘弾性製剤は、哺乳動物中に天然に存在し、粘度調節剤として薬学的に使用されていたことを考慮すると、おそらく最も魅力的であった。複合体形成/カプセル化が、言及するまでもなく他の製剤より良好な異なる結果をもたらすであろうことを、最初に示唆するものは存在しなかった。
[実施例2]フェノールおよび様々なシクロデキストリンを使用する投与試験
【0084】
表1および表3中に示される製剤を、
図2中に略述されている作製方法にしたがって作製し、次にげっ歯類の坐骨神経ブロックモデル中でスクリーニングを行い、0.2mlのフェノール/ラットを、尾側から右後肢の骨盤の坐骨切痕へと神経周囲注射として投与した。注射された用量および体積を、以前の坐骨神経ブロック試験(非臨床試験の詳細な概要および結論について、参考付録1)からのデータに基づいて選択した。
【0085】
【0086】
【0087】
動物を、投与前および48時間にわたる定期的な間隔で、標的となる後肢不全麻痺、運動失調および異常な姿勢について観察した。加えて、疼痛測定および運動活性を行った。剖検を、動物に対して注射の48時間後に行い、注射部位に隣接する標的となる神経および筋肉組織試料を回収し、病理組織学的評価(例えば、座骨神経変性ならびに局所の骨格筋の変性および壊死の程度の評価)を行った。針挿入の皮膚部位の浮腫、紅斑および刺激の巨視的観察も行った。
【0088】
表2は、表1に示した製剤に関連する病理組織学的評価の概要を示す。要約すると、フェノールとCD(HP βおよびHP-γ-CD)との複合体形成により、標準6%のフェノール水溶液と比較して、局所の骨格筋壊死を有する動物の数の顕著な減少を観察することができ、一方で有効な坐骨神経変性が達成される。後者の所見は、不全麻痺および指外転を含む動物の後肢に対する「臨床的」効果と合致した。
【0089】
【0090】
以下の表4は、表2中に略述されているような最初のプロトタイプのスクリーンからの知識に基づき、HP β CDの用量レベルを10%w/wから17.5%w/wへと段階的に増大させて(表3を参照されたい)作製した製剤に関連する、病理組織学的評価の概要を示す。
【0091】
【0092】
複合体形成剤を有しない標準6%のフェノール水溶液と比較して、15~17.5%w/wのHP β CDの範囲の間で、局所の骨格筋壊死を有する動物の数の顕著な減少を観察することができ、一方で有効な坐骨神経変性が達成される。用量依存関係が観察され、筋肉壊死を呈する動物の数は、HP β CDのレベルが12.5%w/wを下回って低減するにつれて増大する(
図3を参照されたい)。
【0093】
病理組織学データからの驚くべき所見は、同等の%(w/w)のCD対フェノールでは、20%のHP β CDと20%のHP-γ-CDとは異なる治療改善効果をもたらすことであった。別の驚くべき所見は、フェノールに対する20%から40%への%CD(w/w)の増大が、有効性は減少するが局所の安全性を改善する劇的な効果を有することであった。さらなる驚くべき効果は、20%のHP β CDに対してフェノールの遊離画分を増大させること(合計9%のフェノール)が、標準6%のフェノールの効果と合致しなかったが、全身毒性のいくつかの徴候を示すということであった。
[実施例3]フェノールおよびシクロデキストリンを使用するさらなる試験
【0094】
さらなる試験を行い、様々な他の投薬の検討事項を評価した。試験の詳細および結果を、以下の表5に要約する。
【0095】
簡潔には、以下の表5中に要約されている試験については、すべて、Sprague Dawleyラットにおける、群あたり8~10匹の動物からなる、単回投与の神経周囲注射試験であった。動物にフェノールおよびビヒクル(Alcami Corporation、2320 Scientific Park Dr.、Wilmington、NC 28405により供給)の溶液を投与した。滅菌された注射用水(WFI)を、これらの試験についてビヒクル対照として使用した。
【0096】
投与前および投薬の1、4、24および48時間後に、不全麻痺、運動失調および異常な姿勢について、臨床観察を行った。観察を、投与後1時間の観察については±5分間で行い、後の観察については±15分間で行った。注射部位の後足の疼痛の閾値を、投薬のおよそ1、4、24および48時間後での臨床観察の直後に測定した。動物を、投与のおよそ1、4、24および48時間後に5分間、photobeam activity systemに入れ、自発的な運動活性を評価した。剖検を行い、注射部位に隣接する神経および筋肉組織試料を回収し、病理組織学的評価を行った。回収した組織を、10%の中性緩衝ホルマリン(NBF)中で保存し、病理組織学的変化について評価した。
【0097】
【0098】
本開示は、文および/または段落に記載されているような、上記および/もしくは以下のこれらの様々な特性または実施形態の任意の組合せを含む。本明細書において開示されている特性の任意の組合せは、本開示の一部と考えられ、組み合わせ可能な特性に関して限定は意図されない。
【0099】
出願人は特に、本開示中のすべての引用された参考文献の全体の内容を組み込む。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメーターが、範囲、好ましい範囲または好ましい上方値および好ましい下方値の列挙のいずれかとして与えられる場合、これは、範囲が別々に開示されているにも関わらず、任意の上方の限度範囲または好ましい値と任意の下方の限度範囲または好ましい値との任意の対から形成されるすべての範囲を具体的に開示していると理解されるべきである。様々な数値が本明細書において挙げられる場合、特に指示のない限り、範囲は、その終端点、ならびに範囲内のすべての整数および端数を含むことが意図される。範囲を定義する場合、本開示の範囲を、挙げられている特定の値に限定することは意図されない。
【0100】
本明細書を考察し、本明細書において開示されている本開示を実践することから、本開示の他の実施形態が当業者には諒解されよう。本明細書および実施例は例示的なものとしてのみ考えられ、本開示の真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲およびその等価物によって示されることが意図される。
【0101】
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