(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
F16L15/04 A
(21)【出願番号】P 2021571119
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047835
(87)【国際公開番号】W WO2021145161
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2020005810
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】丸田 賢
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06581980(US,B1)
【文献】国際公開第2018/211873(WO,A1)
【文献】特表2006-526747(JP,A)
【文献】特開平10-169855(JP,A)
【文献】特開2012-149760(JP,A)
【文献】米国特許第06530607(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0145480(US,A1)
【文献】国際公開第2017/104282(WO,A1)
【文献】特開2001-124253(JP,A)
【文献】特開平09-126366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0296894(US,A1)
【文献】特表昭61-502971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結される管用ねじ継手であって、
前記ピンは、軸方向に離間する内ねじ部及び外ねじ部を含む雄ねじと、該雄ねじの前記内ねじ部と前記外ねじ部との間に設けられた中間ショルダ面とを備え、
前記ボックスは、締結状態で前記雄ねじの内ねじ部が嵌合する内ねじ部と前記雄ねじの外ねじ部が嵌合する外ねじ部とを含む雌ねじと、該雌ねじの前記内ねじ部と前記外ねじ部との間に設けられ且つ締結状態で前記ピンの中間ショルダ面に接触する中間ショルダ面とを備え、
締結完了時点で、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面同士が接触し、且つ、前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面間に隙間が形成されるよう、前記雄ねじ及び前記雌ねじが構成されており、
締結完了時点で前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面間に形成される前記隙間は、前記ピン及び前記ボックスの降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときに前記ピン及び前記ボックスの変形により前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされており、
下記の式(1)を満たし、
G ≦ 0.12+Dsh×tan1° ・・・(1)
ここで、G
[mm]は、締結完了時点で前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面間に形成される前記隙間の管軸方向に沿う方向における大きさであり、Dsh
[mm]は、締結完了時点の縦断面における前記ピンの中間ショルダ面の径方向外端と前記ボックスの中間ショルダ面の径方向内端との間の距離であり、
前記ピン及び前記ボックスの中間ショルダ面は、負荷される軸方向圧縮荷重が大きいほどショルダ回転角θが大きくなる特性を有し、
ここで、前記ショルダ回転角θは、締結完了時点の縦断面における前記ピンの中間ショルダ面の径方向外端と前記ボックスの中間ショルダ面の径方向内端とを通る直線と、軸方向圧縮荷重負荷時の前記縦断面における前記ピンの中間ショルダ面の径方向外端と前記ボックスの中間ショルダ面の径方向内端とを通る直線とのなす角度であ
り、
所定の軸方向圧縮荷重の負荷によって内ねじ部の挿入面同士が接触開始する部位と中間ショルダ面との間の管軸方向距離は、所定の軸方向圧縮荷重の負荷によって外ねじ部の挿入面同士が接触開始する部位と中間ショルダ面との間の管軸方向距離の0.8倍~1.2倍である、管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の管用ねじ継手において、G≦0.15mmを満たす、管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の管用ねじ継手において、G≧0.06mmを満たす、管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の管用ねじ継手において、
前記ピンは、前記雄ねじよりもピン先端側に設けられたシール面を備え、
前記ボックスは、締結状態で前記ピンの前記シール面に接触するシール面と、前記ボックス内周のうち前記ボックスの前記シール面と前記雌ねじとの間の部位に設けられた周方向に沿って延びる内溝とを備え、該内溝は、締結状態で前記ピンの前記雄ねじの一部を収容し、
前記内溝は、前記雄ねじのねじピッチの2倍よりも小さな軸方向幅の溝底を有する、管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の管用ねじ継手において、
前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する時点の前記ショルダ回転角θは1°未満である、管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管等の連結に用いられる管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう。)においては、地下資源を採掘するため、複数段の井戸壁を構築するケーシングや、該ケーシング内に配置されてオイルやガスを生産するチュービングが用いられる。これらケーシングやチュービングは、多数の鋼管が順次連結されて成り、その連結に管用ねじ継手が用いられる。油井に用いられる鋼管は油井管とも称される。
【0003】
管用ねじ継手の形式は、インテグラル型とカップリング型とに大別される。インテグラル型の管用ねじ継手は、例えば下記の特許文献1及び2に開示されており、カップリング型の管用ねじ継手は、例えば下記の特許文献3に開示されている。
【0004】
インテグラル型では、油井管同士が直接連結される。具体的には、油井管の一端には雌ねじ部が、他端には雄ねじ部が設けられ、一の油井管の雌ねじ部に他の油井管の雄ねじ部がねじ込まれることにより、油井管同士が連結される。
【0005】
カップリング型では、管状のカップリングを介して油井管同士が連結される。具体的には、カップリングの両端に雌ねじ部が設けられ、油井管の両端には雄ねじ部が設けられる。そして、カップリングの一方の雌ねじ部に一の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれるとともに、カップリングの他方の雌ねじ部に他の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれることにより、カップリングを介して油井管同士が連結される。すなわち、カップリング型では、直接連結される一対の管材の一方が油井管であり、他方がカップリングである。
【0006】
一般に、雄ねじ部が形成された油井管の端部は、油井管又はカップリングに形成された雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。雌ねじ部が形成された油井管又はカップリングの端部は、油井管の端部に形成された雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。
【0007】
近年、さらなる高温高圧深井戸の開発が進んでいる。深井戸では、地層圧の深さ分布の複雑さによりケーシングの段数も増やす必要があることなどから、継手の最大外径、すなわちボックスの外径が油井管の管本体の外径とほぼ同程度のねじ継手が用いられることがある。ボックス外径が油井管の管本体の外径にほぼ等しいねじ継手はフラッシュ型ねじ継手とも称される。また、ボックス外径が油井管の管本体の外径の概ね108%未満であるねじ継手はセミフラッシュ型ねじ継手とも称される。これらフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手には、高い強度及びシール性能が要求されるだけでなく、限られた管肉厚内にねじ構造及びシール構造を配置するために、各部位には厳しい寸法制約が課されている。
【0008】
寸法制約が大きいフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手は、継手部の軸方向中間に中間ショルダ面を設け、その前後にそれぞれねじ部を配置した2段ねじにより雄ねじ及び雌ねじを構成した継手デザインが採用されることが多い。
【0009】
特許文献1には、このような2段ねじ構造のねじ継手において、密封性能を安定して確保する技術が開示されている。すなわち、特許文献1の技術は、ボックスの内シール面と内雄ねじ部との間に設けた内溝部に、ピンの内雄ねじ部の一部を収容するよう構成することによって、繰り返し荷重が負荷された後でも密封性能を安定して確保しようとするものである。
【0010】
また、特許文献2には、フラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手において、ボックスの外シール面と雌ねじとの間に、雌ねじのねじピッチよりも長い管軸方向長さを有する環状部を設けることによって、外シールの密封性能を確実に確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2018/211873号
【文献】国際公開第2016/056222号
【文献】特開2012-149760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シール面同士の干渉による密封性能を維持するためには、ねじ継手の耐圧縮性能を向上することが有効である。圧縮荷重によってねじ継手の各部が変形して、シール面の軸方向位置がずれると、適切な干渉量がシール面間に導入されない状態となって、密封性能に悪影響を及ぼすためである。
【0013】
しかし、インテグラル型のフラッシュ型及びセミフラッシュ型の2段ねじ構造のねじ継手では、肉厚の制約により中間ショルダ面同士の接触幅(すなわち、接触する部分の径方向幅)を大きく確保することが難しい。中間ショルダ面同士の接触幅を大きくすると、ピン及びボックスのねじ部やシール部の管肉厚が犠牲となり、密封性能等が低下するとともに、ピン及びボックスの中間危険断面の面積の確保も困難となり、ねじ継手の引張強度や密封性能の低下に繋がるからである。
【0014】
その一方、近年のさらなる高温高圧深井戸の開発により、耐圧縮性能のさらなる向上が求められており、特許文献1に開示された中間ショルダ面のみで圧縮荷重を負担する技術のみでは十分な耐圧縮性能が得られない。
【0015】
上記特許文献3には、ピンの雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部の先端にショルダ面が設けられた管用ねじ継手において、雄ねじ及び雌ねじの挿入面間のねじ隙間Gを0.01~0.1mmの範囲内とすることによって、軸方向圧縮荷重の負荷時に雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士を軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触させ、これにより耐圧縮性能を向上する技術が開示されている。
【0016】
しかし、特許文献3は2段ねじ構造のねじ継手とは異なるタイプのねじ継手に関する文献であって、特許文献3には、2段ねじ構造のねじ継手の中間ショルダ面に好ましくない変形が生じないようにするための挿入面間隙間の大きさについては開示されていない。
【0017】
本開示の目的は、2段ねじ構造の管用ねじ継手において、耐圧縮性能の更なる向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者は、2段ねじ構造の管用ねじ継手において、圧縮荷重負荷時に中間ショルダ面がどのように変形し、その変形量がどの程度となるかについて着目し、主としてコンピュータシミュレーションによる弾塑性解析によって分析を行った。その結果、ピン及びボックスの中間ショルダ面は、負荷される軸方向圧縮荷重が大きいほどショルダ回転角θが大きくなる特性を有することが確認された。さらに、中間ショルダ面のみで軸方向圧縮荷重を負担させる場合、
図1に示すように、軸方向圧縮荷重がある程度大きくなると、軸方向圧縮荷重の単位増分ΔLあたりの中間ショルダ面のショルダ回転角の単位増分Δθが急激に大きくなることが判明した。
【0019】
なお、ショルダ回転角θとは、本明細書において、
図2に示すように、締結完了時点の縦断面におけるピンの中間ショルダ面の外端P1とボックスの中間ショルダ面の内端B1とを通る直線L1と、軸方向圧縮荷重負荷時の前記縦断面におけるピンの中間ショルダ面の外端P2とボックスの中間ショルダ面の内端B2とを通る直線L2とのなす角度である。
図2において、締結完了時点の中間ショルダ面は仮想線で示されており、軸方向圧縮荷重負荷時の中間ショルダ面が実線で示されている。
図2においてはB2点をB1点に重ねて図示したが、実際にはB1点とB2点とが重なるとは限らない。なお、ピンの中間ショルダ面の外端とは、ボックスの中間ショルダ面と接触している接触面の外端であり、ピンの中間ショルダ面の外周縁に設けられるチャンファー部の外端ではない。また、ボックスの中間ショルダ面の内端とは、ピンの中間ショルダ面と接触している接触面の内端であり、ボックスの中間ショルダ面の内周縁に設けられるチャンファー部の内端ではない。
【0020】
また、本明細書において、「締結完了時点」とは、ピンをボックスに締結した後、軸方向荷重及び内外圧のいずれもねじ継手に負荷していない時点を意味する。一方、「締結状態」とは、軸方向荷重及び内外圧が負荷されているか否かにかかわらずピン及びボックスが締結されている状態を意味し、ねじ継手が破壊されない、またはピン及びボックスのシール面の接触面圧が喪失しない範囲内、より好ましくは弾性域内で軸方向荷重及び内外圧を負荷した後であっても、ピン及びボックスが締結されていれば「締結状態」である。本開示において、「弾性域内の軸方向荷重及び内外圧」とは、対象のねじ継手が強度を保証する降伏楕円内の軸方向荷重及び内外圧であってよい。
【0021】
中間ショルダ面のショルダ回転角が大きくなりすぎると、中間ショルダ面近傍に塑性ひずみが蓄積し易くなるため好ましくない。さらに、大きなショルダ回転角は、ピンの中間ショルダ面の外端近傍、並びに、ボックスの中間ショルダ面の内端近傍が潰れるような変形を誘発して、その後の実質的なショルダ接触面積が低下するおそれもある。
【0022】
したがって、ショルダ回転角θの単位増分Δθが急激に大きくなる前の時点X(
図1参照)で、雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士が接触開始するように締結完了時点の挿入面間の隙間の大きさを設定することにより、比較的大きな圧縮荷重負荷時であっても中間ショルダ面に作用する圧縮荷重を低減でき、
図1に二点鎖線で示すように、挿入面同士が接触した後のショルダ回転角θの増加量を緩やかにできると考えられる。
【0023】
次に、本願発明者は、複数の管径サイズのねじ継手について、ショルダ回転角θの単位増分Δθが急激に大きくなる角度について検証したところ、管径サイズによらず、ショルダ回転角θが約1°より大きくなるとショルダ回転角θの単位増分Δθが急激に大きくなることを見出した。
【0024】
中間ショルダを有する2段ねじ継手に軸方向圧縮荷重が負荷されると、ピン及びボックスに圧縮ひずみが生じ、中間ショルダから軸方向に離れるほどピン及びボックスの軸方向の収縮量αが大きくなる。したがって、挿入面間隙間の大きさが全長にわたって均一である場合、圧縮荷重を徐々に大きくしていくと、中間ショルダから遠い部位から挿入面同士の接触が始まり、順次中間ショルダに近い部位に挿入面同士の接触が進行していく傾向がある。
【0025】
また、ピン及びボックスの挿入面同士の相対変位量は、上記収縮量αに加えて、中間ショルダの回転変形によるピン及びボックスの軸方向のずれ量βの影響も受ける。締結完了時点の縦断面におけるピンの中間ショルダ面の径方向外端とボックスの中間ショルダ面の径方向内端との間の距離(すなわち、中間ショルダ面同士の接触部分の径方向幅)をDshとすると、
図2に示すように、上記ずれ量βはDsh×tanθで与えられる。
【0026】
ピン及びボックスの挿入面同士が接触開始する部位の上記相対変位量は、締結完了時点
の挿入面間の隙間Gと等しいので、ショルダ回転角1°未満で挿入面同士の接触を開始させるには、下記の式(1)が成立すればよい。
G≦α+β=α+Dsh×tan1° ・・・(1)
ここで、αは、挿入面同士が接触開始する軸方向圧縮荷重を負荷したときの、挿入面同士が接触開始する部位の中間ショルダを基準とする圧縮ひずみによる軸方向変位量である。
【0027】
本願発明者らは、ショルダ接触幅Dshが1.80mm及び1.92mmの2種類の供試体について、ショルダ回転角θが1°以下で挿入面同士が接触開始することになる挿入面隙間Gをコンピュータシミュレーションによる弾塑性解析により検証したところ、いずれも挿入面隙間Gが0.15mm以下であればショルダ回転角θが1°以下で挿入面同士が接触開始することが確認された。しかし、より大きなショルダ接触幅Dshの場合には、より大きな挿入面隙間Gであっても、ショルダ回転角θを1°以下に抑えることが可能であると考えられる。
【0028】
上記式(1)にG=0.15、及び、Dsh=1.80mm or 1.92mmを代入してαを求めると、α=0.12mmが得られる。
【0029】
ショルダ接触幅Dshが大きくなるほど、中間ショルダを1°回転させるための軸方向圧縮荷重は大きくなる。さらに、通常、管径サイズが大きくなるほどショルダ接触幅Dshも大きくなる。したがって、ショルダ回転角θが1°のときの上記αの値は、管径サイズによらずほぼ一定であると仮定することができる。
【0030】
本開示は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0031】
本開示に係る管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結される。前記ピンは、軸方向に離間する内ねじ部及び外ねじ部を含む雄ねじと、該雄ねじの前記内ねじ部と前記外ねじ部との間に設けられた中間ショルダ面とを備える。前記ボックスは、締結状態で前記雄ねじの内ねじ部が嵌合する内ねじ部と前記雄ねじの外ねじ部が嵌合する外ねじ部とを含む雌ねじと、該雌ねじの前記内ねじ部と前記外ねじ部との間に設けられ且つ締結状態で前記ピンの中間ショルダ面に接触する中間ショルダ面とを備える。締結完了時点で、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面同士が接触し、且つ、前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面間に隙間が形成されるよう、前記雄ねじ及び前記雌ねじが構成されている。締結完了時点で前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面間に形成される前記隙間は、前記ピン及び前記ボックスの降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときに前記ピン及び前記ボックスの変形により前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされている。
【0032】
本開示に係る管用ねじ継手は、下記の式(1)を満たす。
G ≦ 0.12+Dsh×tan1° ・・・(1)
ここで、Gは、締結完了時点で前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面間に形成される前記隙間の管軸方向に沿う方向における大きさであり、Dshは、締結完了時点の縦断面における前記ピンの中間ショルダ面の径方向外端と前記ボックスの中間ショルダ面の径方向内端との間の距離である。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、2段ねじ構造のねじ継手において、徐々に大きな軸方向圧縮荷重を負荷させた場合に、中間ショルダ面の単位増分Δθが大きくなる前に雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士を接触させ、これら挿入面に軸方向圧縮荷重の一部を負担させることによって、
比較的大きな軸方向圧縮荷重の負荷時においても中間ショルダ面のショルダ回転角θ、すなわち中間ショルダ面の縦断面形状の回転変形量を比較的小さくすることができ、中間ショルダ面に蓄積するダメージを抑制できる。これにより、2段ねじ構造のねじ継手の耐圧縮性能を一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、2段ねじ構造の管用ねじ継手において、中間ショルダ面のみが軸方向圧縮荷重を負担する場合の軸方向圧縮荷重とショルダ回転角との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、2段ねじ構造の管用ねじ継手に軸方向圧縮荷重を負荷させたときの中間ショルダ面の変形状態を示す簡略拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る油井管用ねじ継手の締結状態を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、供試体#1~#10に負荷した複合荷重の経路を示す図である。
【
図5】
図5は、供試体#11~#20に負荷した複合荷重の経路を示す図である。
【
図6】
図6は、供試体#1~#5に徐々に大きな単純圧縮荷重を負荷したときの圧縮荷重とショルダ回転角との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、供試体#6~#10に徐々に大きな単純圧縮荷重を負荷したときの圧縮荷重とショルダ回転角との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、供試体#11~#15に徐々に大きな単純圧縮荷重を負荷したときの圧縮荷重とショルダ回転角との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、供試体#16~#20に徐々に大きな単純圧縮荷重を負荷したときの圧縮荷重とショルダ回転角との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#1,#6の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図11】
図11は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#2,#7の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図12】
図12は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#3,#8の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図13】
図13は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#4,#9の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図14】
図14は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#5,#10の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図15】
図15は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#11,#16の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図16】
図16は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#12,#17の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図17】
図17は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#13,#18の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図18】
図18は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#14,#19の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【
図19】
図19は、内溝の軸方向長さを変えた2つの供試体#15,#20の各荷重ステップにおけるショルダ回転角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本実施の形態に係るねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成される。ピンとボックスとは、ピンがボックスにねじ込まれることにより締結される。ピンは、第1の管の管端部に設けられ、ボックスは、第2の管の管端部に設けられる。第1の管は、油井管等の長尺パイプであってよい。第2の管は、油井管等の長尺パイプであってもよいし、長尺パイプ同士を接続するためのカップリングであってもよい。油井管やカップリングは、典型的には鋼製であるが、ステンレス鋼やニッケル基合金等の金属製であってよい。
【0036】
ピンは、軸方向に離間する内ねじ部及び外ねじ部を含む雄ねじと、雄ねじの内ねじ部と外ねじ部との間に設けられた中間ショルダ面とを備えることができる。好ましくは、内ねじ部及び外ねじ部はそれぞれテーパーねじからなる。内ねじ部は、外ねじ部よりも管端側に配置することができる。好ましくは、内ねじ部を構成するテーパーねじのテーパー母線は、外ねじ部を構成するテーパーねじのテーパー母線よりも径方向内方に位置する。中間ショルダ面は、内ねじ部と外ねじ部との間でピンの外周に形成された段部の側面により構成できる。中間ショルダ面は、ピンの管端側に向けられている。内ねじ部及び外ねじ部はそれぞれ、台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、ダブテイル型ねじなどであってよい。
【0037】
ボックスは、軸方向に離間する内ねじ部及び外ねじ部を含む雌ねじと、雌ねじの内ねじ部と外ねじ部との間に設けられた中間ショルダ面とを備えることができる。好ましくは、雌ねじの内ねじ部及び外ねじ部は、雄ねじの内ねじ部及び外ねじ部にそれぞれ適合するテーパーねじからなる。雌ねじの内ねじ部は、締結状態で雄ねじの内ねじ部が嵌合する。雌ねじの外ねじ部は、締結状態で雄ねじの外ねじ部が嵌合する。ボックスの中間ショルダ面は、雌ねじの内ねじ部と外ねじ部との間でボックスの内周に形成された段部の側面により構成できる。ボックスの中間ショルダ面は、ボックスの管端側に向けられており、ピンの中間ショルダ面に対向する。ボックスの中間ショルダ面は、締結状態でピンの中間ショルダ面に接触し、これら中間ショルダ面はトルクショルダとして機能する。雌ねじの内ねじ部及び外ねじ部は、雄ねじの内ねじ部及び外ねじ部にそれぞれ適合する台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、ダブテイル型ねじなどであってよい。
【0038】
ピン及びボックスの中間ショルダ面は、管軸に対して直交する面であってもよいし、縦断面において前記直交する面に対して傾斜するテーパー面であってもよい。
【0039】
好ましくは、ピンの内ねじ部よりも第1の管の管端側でピンの外周にピン内シール面を設けるとともに、ボックスの内ねじ部よりも第2の管の管中央側でボックスの内周に、締結状態でピン内シール面と干渉するボックス内シール面を設けることができる。好ましくは、ピンの外ねじ部よりも第1の管の管中央側でピンの外周にピン外シール面を設けるとともに、ボックスの外ねじ部よりも第2の管の管端側でボックスの内周に、締結状態でピン外シール面と干渉するボックス外シール面を設けることができる。ピン内シール面及びボックス内シール面は、内ねじ部と中間ショルダ面との間に設けられていてもよい。ピン外シール面及びボックス外シール面は、外ねじ部と中間ショルダ面との間に設けられていてもよい。これらシール面は、要求される密封性能や継手構造に応じて、管軸方向の1以上の部位に設けることもできるし、大きな密封性能が要求されない場合には設けなくともよい。
【0040】
好ましくは、ピン及びボックスの締結完了時点で、雄ねじの内ねじ部及び雌ねじの内ねじ部の荷重面同士が接触し、雄ねじの外ねじ部及び雌ねじの外ねじ部の荷重面同士が接触し、雄ねじの内ねじ部及び雌ねじの内ねじ部の挿入面間に隙間が形成され、且つ、雄ねじの外ねじ部及び雌ねじの外ねじ部の挿入面間に隙間が形成される。
【0041】
好ましくは、雄ねじの内ねじ部及び雌ねじの内ねじ部の挿入面間に形成される隙間の大きさは、内ねじ部同士の嵌合範囲全体にわたって均一であるが、一部の小領域においてより大きな隙間が形成されていてもよい。好ましくは、雄ねじの外ねじ部及び雌ねじの外ねじ部の挿入面間に形成される隙間の大きさは、外ねじ部同士の嵌合範囲全体にわたって均一であるが、一部の小領域においてより大きな隙間が形成されていてもよい。好ましくは、雄ねじの内ねじ部及び雌ねじの内ねじ部の挿入面間に形成される隙間の大きさと、雄ねじの外ねじ部及び雌ねじの外ねじ部の挿入面間に形成される隙間の大きさとが等しい。
【0042】
好ましくは、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの内ねじ部の挿入面間に形成される前記隙間は、ピン及びボックスの降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときにピン及びボックスの変形により雄ねじ及び雌ねじの内ねじ部の挿入面同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされている。内ねじ部の挿入面同士の接触開始時の接触状態は様々であってよく、内ねじ部の管軸方向の所定の部位から接触開始して、軸方向圧縮荷重が大きくなるにつれて徐々に挿入面同士の接触領域が広がっていってもよいし、また、内ねじ部の挿入面全体が同時に接触開始してもよい。
【0043】
好ましくは、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの外ねじ部の挿入面間に形成される前記隙間は、ピン及びボックスの降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときにピン及びボックスの変形により雄ねじ及び雌ねじの外ねじ部の挿入面同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされている。外ねじ部の挿入面同士の接触開始時の接触状態は様々であってよく、外ねじ部の管軸方向の所定の部位から接触開始して軸方向圧縮荷重が大きくなるにつれて徐々に挿入面同士の接触領域が広がっていってもよいし、また、内ねじ部の挿入面全体が同時に接触開始してもよい。また、外ねじ部の挿入面同士が接触開始する軸方向圧縮荷重は、内ねじ部の挿入面同士が接触開始する軸方向圧縮荷重と異なっていても良い。
【0044】
好ましくは、本開示に係る管用ねじ継手は、下記の式(1)を満たす。
G ≦ 0.12+Dsh×tan1° ・・・(1)
ここで、Gは、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさであり、Dshは、締結完了時点の縦断面におけるピンの中間ショルダ面の径方向外端とボックスの中間ショルダ面の径方向内端との間の距離である。なお、本明細書において、挿入面間に形成される隙間の大きさとは、挿入面間に形成される最小の隙間部分の大きさを言うものとする。また、内ねじ部の挿入面間に形成される前記隙間の大きさと、外ねじ部の挿入面間に形成される前記隙間の大きさとが異なる場合は、いずれか小さい方が「雄ねじ及び雌ねじの挿入面間に形成される隙間」の大きさとなる。なお、ピンの中間ショルダ面の外周縁及びボックスの中間ショルダ面の内周縁はいずれも正円であることが好ましく、ピン及びボックスが拗れなく適正に締結された状態で式(1)を満たせばよい。
【0045】
好ましくは、所定の軸方向圧縮荷重の負荷によって内ねじ部の挿入面同士が接触開始する部位と中間ショルダ面との間の管軸方向距離TL1は、所定の軸方向圧縮荷重の負荷によって外ねじ部の挿入面同士が接触開始する部位と中間ショルダ面との間の管軸方向距離TL2の0.8倍~1.2倍であり、より好ましくは0.9倍~1.1倍である。これによれば、圧縮ひずみによる内ねじ部の挿入面同士の接触開始部位の相対変位量(すなわち隙間の大きさの縮小量)と、圧縮ひずみによる外ねじ部の挿入面同士の接触開始部位の相対変位量とを均一化できる。したがって、内ねじ部の挿入面同士が接触開始する軸方向圧縮荷重と、外ねじ部の挿入面同士が接触開始する軸方向圧縮荷重とを均一化できる。
【0046】
締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさGは、例えば、0.15mm以下であってよい。これによれば、第1及び第2の管の外径が180mm以上380mm未満、より好ましくは240mm以上360mm未満であるインテグラル型の管用ねじ継手において、中間ショルダのショルダ回転角が1°を超える前に雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士を接触開始させることができる。
【0047】
締結時の焼き付き防止の観点から、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさGは0.06mm以上であることが好ましい。
【0048】
好ましくは、ピンは、雄ねじよりも管端側に設けられたシール面(ピン内シール面)を備え、ボックスは、締結状態でピンの前記シール面に接触するシール面(ボックス内シール面)と、ボックス内周のうちボックスの前記シール面と雌ねじとの間の部位に設けられた周方向に沿って延びる内溝とを備え、該内溝は、締結状態でピンの雄ねじの一部を収容し、内溝は、雄ねじの内ねじ部のねじピッチの2倍よりも小さな軸方向幅の溝底を有する。これによれば、ボックスのシール面と内ねじ部との間に設けた内溝に、ピンの雄ねじの一部を収容することによって、上記特許文献1に開示したように繰り返し荷重が負荷された後でも密封性能を安定して確保できる。さらに、ボックス危険断面が存在する内溝の底部分の長さを短くすることにより、ボックス危険断面付近のボックスの剛性を上げることができ、耐圧縮性能を向上できる。
【0049】
上述したように、中間ショルダ面を有する2段ねじ継手においては、ピン及びボックスの中間ショルダ面は、負荷される軸方向圧縮荷重が大きいほどショルダ回転角θが大きくなる特性を有する。好ましくは、雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する時点のショルダ回転角θは1°未満である。これによれば、ショルダ回転角の増分が大きくなる前に雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士を接触開始させ、挿入面にも軸方向圧縮荷重の一部を負担させることで、ショルダ回転角θが大きくなりすぎることを抑止できる。
【0050】
〔油井管用ねじ継手の構成〕
図3を参照して、本実施の形態に係る油井管用ねじ継手1は、インテグラル型のねじ継手であって、管状のピン2と、ピン2がねじ込まれてピン2と締結される管状のボックス3とを備える。ピン2は、互いに連結される第1及び第2の油井管T1,T2のうち一方の油井管T1の管端部に設けられており、ボックス3は他方の油井管T2の管端部に設けられている。なお、第1の油井管T1の管端部に形成されるピン2を第2の油井管T2の管端部に形成されるボックス3の内部に嵌合させる構造としつつも、ピン2及びボックス3の管肉厚を可能な限り大きく確保するために、ピン2が形成される油井管T1の管端部には縮径加工が施されるとともに、ボックス3が形成される油井管T2の管端部には拡径加工が施され、これら縮径加工又は拡径加工の後に旋削加工することによってピン2及びボックス3が形成されている。
【0051】
ピン2の外周には、第1の油井管T1の管中央側(
図3において左側)から管端側(
図3において右側)に向けて順に、ピン外シール面21、外溝22、テーパーねじからなる外ねじ部23、外ねじ部23のねじ谷底面に連なる外周面を有するねじ無し部24、中間ショルダ面25を含む段部、内ねじ部27のねじ山頂面に連なる外周面を有するねじ無し部26、外ねじ部23よりも小径のテーパーねじからなる内ねじ部27、及び、ピン内シール面28が設けられている。外ねじ部23及び内ねじ部27によって、2段ねじ構造の雄ねじが構成されている。
【0052】
ボックス3の内周には、第2の油井管T2の管端側(
図3において左側)から管中央側(
図3において右側)に向けて順に、ボックス外シール面31、テーパーねじからなる外ねじ部32、外ねじ部32のねじ山頂面に連なる内周面を有するねじ無し部33、中間ショルダ面34を含む段部、内ねじ部36のねじ谷底面に連なるねじ無し部35、外ねじ部32よりも小径のテーパーねじからなる内ねじ部36、内溝37、及び、ボックス内シール面38が設けられている。外ねじ部32及び内ねじ部36によって、2段ねじ構造の雌ねじが構成されている。
【0053】
ピン2をボックス3に締結していくと、ピン2の中間ショルダ面25がボックス3の中間ショルダ面34に接触する。このときの締結トルクはショルダリングトルクとも言われている。さらにピン2をボックス3に対して締め付けていくと、中間ショルダ面25,34同士の摺動接触により、締結トルクが急激に増大していく。而して、中間ショルダ面25,34はトルクショルダとして機能する。締付トルクが降伏トルクを超えると、中間ショルダ面25,34の近傍や雄ねじ及び雌ねじが破壊され、締付回転量を増やしても締付トルクが上昇しなくなる。したがって、締付トルクが降伏トルクに至る前に締付を完了すべきである。
【0054】
ねじ継手1においては、締結完了時点で、雄ねじの外ねじ部23及び雌ねじの外ねじ部32の荷重面同士が接触するとともに、雄ねじの内ねじ部27及び雌ねじの内ねじ部36の荷重面同士が接触する。また、締結完了時点で、雄ねじの外ねじ部23及び雌ねじの外ねじ部32の挿入面間に微小隙間Gが形成されるとともに、雄ねじの内ねじ部27及び雌ねじの内ねじ部36の挿入面間に微小隙間Gが形成される。この隙間Gは、ピン2及びボックス3の降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときに、ピン及びボックスの弾性変形により、外ねじ部23,32の挿入面同士、並びに、内ねじ部27,36の挿入面同士が、軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされている。なお、降伏圧縮荷重とは、降伏点に至ったときの圧縮荷重である。降伏点を超えると、ピン2及びボックス3の各部の塑性ひずみが急激に進行し、降伏圧縮荷重を超える荷重を負担できなくなり、ねじ継手1が破壊される。
【0055】
また、締結状態で、ピン外シール面21とボックス外シール面31とが全周にわたって干渉接触し、これにより主として外圧シール性能が得られる。締結状態で、ピン内シール面28とボックス内シール面38とが全周にわたって干渉接触し、これにより主として内圧シール性能が得られる。なお、圧縮時に内シール近傍においてはピン2が径方向内方に縮径変形する傾向があるが、内シールを形成するピン内シール面28のテーパ角θpとボックス内シール面38のテーパ角θbとが、θp>θbの関係を満たせば、シール面28,38同士の接触位置がピンの管端側から離れるため、上記の縮径変形による影響を緩和でき、圧縮荷重負荷時のシール性能の向上につながると考えられる。
【0056】
外溝22は、ピン外周のうちピン外シール面21と外ねじ部23との間の部位に設けられている。外溝22は、周方向に沿って延びており、好ましくは全周に亘って延びている。外溝22は、ボックス3の雌ねじの外ねじ部32の一部を収容する。好ましくは、外溝22は、ボックス3の外ねじ部32のねじピッチの2倍よりも小さな軸方向幅の溝底を有する。
【0057】
内溝37は、ボックス内周のうちボックス内シール面38と内ねじ部36との間の部位に設けられている。内溝37は、周方向に沿って延びており、好ましくは全周に亘って延びている。内溝37は、ピン2の雄ねじの内ねじ部27の一部を収容する。好ましくは、内溝37は、ピン2の内ねじ部27のねじピッチの2倍よりも小さな軸方向幅Wの溝底37aを有する。
ねじ継手1は、外溝22が設けられた範囲内にピン危険断面PCCSを有し、内溝37が設けられた範囲内にボックス危険断面BCCSを有する。ボックス3は、雄ねじの外ねじ部23と雌ねじの外ねじ部32の噛み合い範囲の中間ショルダ面34側の端部の近傍にボックス中間危険断面BICCSを有する。ピン2は、雄ねじの内ねじ部27と雌ねじの内ねじ部36との噛み合い範囲の中間ショルダ面25側の端部の近傍にピン中間危険断面PICCSを有する。
【0058】
危険断面(CCS)とは、締結状態において引張荷重に耐える面積が最も小さくなる継手部分の縦断面である。過大な軸方向引張荷重が負荷された場合、危険断面の近傍で破断が生じる可能性が高くなる。引張荷重のピンからボックスへの伝搬は、ねじ嵌合範囲全体にわたって軸方向に分散される。したがって、引張荷重のすべてが作用するピンの断面部分はねじ嵌合範囲よりもピンの管本体側となり、引張荷重のすべてが作用するボックスの断面部分はねじ嵌合範囲よりもボックスの管本体側となる。引張荷重のすべてが作用する
断面のうち最も断面積が小さいものが危険断面となる。油井管T1の管本体の断面積に対する危険断面の面積の比を継手効率と呼び、油井管本体の引張強度に対する継手部分の引張強度の指標として広く用いられている。
【0059】
2段ねじ構造のねじ継手1においては、ボックス危険断面BCCS及びピン危険断面PCCSに加えて、継手部の軸方向中間部にも引張荷重に耐える継手断面積が小さくなる部位が存在する。すなわち、2段ねじ構造のねじ継手では、軸方向中間にねじ嵌合の無いセクションが存在する。このねじ嵌合の無いセクションでは、ピン及びボックスに分担された引張荷重が増減することなく軸方向に伝搬する。したがって、ねじ嵌合の無いセクションにおいて最も断面積が小さくなるピンの断面がピン中間危険断面(PICCS)となり、ねじ嵌合の無いセクションにおいて最も断面積が小さくなるボックスの断面がボックス中間危険断面(BICCS)となる。継手中間部における破断の発生を防止するためには、ピン中間危険断面の面積とボックス中間危険断面の面積との和を、できるだけ大きくすることが好ましい。
【0060】
締結状態で、ピン2のねじ無し部24はボックス3のねじ無し部33内に挿入され、ピン2のねじ無し部26はボックス3のねじ無し部35内に挿入される。ねじ無し部24とねじ無し部33との間、並びに、ねじ無し部26とねじ無し部35との間には隙間が形成される。
【0061】
中間ショルダ面25,34はそれぞれ、未締結状態で、管軸に直交する平坦面により構成されている。これに代えて、中間ショルダ面25,34は、未締結状態で、管軸に直交する平面に対して僅かに傾斜していてもよい。
【0062】
本実施形態の油井管用ねじ継手1は、下記の式(1)を満たすよう、中間ショルダ面25,34、並びに、雄ねじ及び雌ねじの内ねじ部27,36が構成されている。
G ≦ 0.12+Dsh×tan1° ・・・(1)
【0063】
ここで、Gは、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの内ねじ部27,36の挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさであり、Dshは、締結完了時点の縦断面におけるピン2の中間ショルダ面25の径方向外端とボックス3の中間ショルダ面34の径方向内端との間の距離である。本実施形態では、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの外ねじ部23,32の挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさは、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの内ねじ部27,36の挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさと等しい。なお、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの外ねじ部23,32の挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさが、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの内ねじ部27,36の挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさと異なっていてもよいが、この場合においても、締結完了時点で雄ねじ及び雌ねじの外ねじ部23,32の挿入面間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさも、上記式(1)を満たすことが好ましい。
【0064】
ねじ継手1により接続される油井管T1の外径が180mm以上380mm未満、より好ましくは240mm以上360mm未満である場合には、G≦0.15mmを満たすことが好ましい。また、締結中の焼き付きを防止するために、G≧0.06mmを満たすことが好ましい。
【0065】
本開示は、インテグラル型だけでなく、カップリング型のねじ継手にも適用できる。また、各ねじは、台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、ダブテイル型ねじなどであってよい。その他、本開示は上記の実施の形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0066】
本実施の形態に係る油井管用ねじ継手1の効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値解析シミュレーションを実施し、耐圧縮性能を評価した。
【0067】
<試験条件>
解析に供試したねじ継手の主要寸法を表1に示す。表1中、Doutは油井管T1の管本体の外径、Dinは油井管T1の管本体の内径、JEは継手効率、TL1は内ねじ部27,36の挿入面同士が接触開始する部位(本実施形態では、雌ねじの内ねじ部36の挿入面のボックス管本体側端部)と中間ショルダ面25,34との間の管軸方向距離、TL2は外ねじ部の挿入面23,32の挿入面同士が接触開始する部位(本実施形態では、雄ねじの外ねじ部23の挿入面のピン管本体側端部)と中間ショルダ面25,34との間の管軸方向距離、Gは締結完了時点の挿入面間隙間、Wは内溝27の溝底の管軸方向幅である。
【0068】
いずれの供試体においても、各ねじ部23,27,32,36のねじテーパー角度は1.591°(1/18)、ねじ山高さ(荷重面側)は1.3mm、ねじピッチは5.08mmに統一した。油井管の材料はAPI規格の油井管材料Q125(公称降伏応力YS=862MPa(125ksi))とした。
【0069】
シミュレーションは、単純圧縮荷重を荷重条件として負荷した解析と、
図4又は
図5に示す2017年版 API5C5 CAL IV準拠のSeriesA試験を模擬した複合荷重を荷重条件として負荷した解析とを行った。
図4は、管サイズが9-5/8" 47#(管本体外径244.48mm、管本体内径220.50mm)の供試体#1~#10に負荷した複合荷重の経路を示し、
図5は、管サイズが13-3/8" 72#(管本体外径339.73mm、管本体内径313.61mm)の供試体#11~#20に負荷した複合荷重の経路を示す。なお、図中、「Compression」は圧縮荷重、「Tension」は引張荷重、「IP」は内圧(Internal Pressure)、「EP」は外圧(External Pressure)、「VME 100% for pipe」は油井管の管本体の降伏曲線、「Joint Efficiency」は継手効率、「CYS」(Connection Yield Strength)はねじ継手の降伏強度、「CYS 100%」はねじ継手の降伏曲線、「CYS 95%」はCYS 100%に対して95%の降伏曲線、「High collapse for connection」はねじ継手の外圧による圧潰曲線である。「CYS 100%」は、「VME 100% for pipe」の軸力(圧縮又は引張)に継手効率JEを乗じた曲線である。
【0070】
耐圧縮性能については、圧縮荷重の主要負担部位である中間ショルダ面25,34の回転角度θに着目し、この回転角度θの推移について検証した。
【0071】
【0072】
<評価結果>
挿入面隙間の大きさを変えたときの単純圧縮荷重負荷時のショルダ回転角の比較グラフを
図6~
図9にそれぞれ示す。なお、引張荷重を正、圧縮荷重を負の値とする。図に示されるように、管径サイズや内溝長さにかかわらず、挿入面隙間Gが小さいほどショルダ回転角が抑えられる傾向が確認された。
【0073】
供試体#1~#5、並びに、供試体#6~#10について詳細に検討すると、供試体#5,#10では-2800kN程度、供試体#4,#9では-2000kN程度、供試体#3,#8では-1500kN程度、供試体#2,#7では-1300kN程度、供試体#1,#6では-1000kN未満で、挿入面同士の接触が開始されることによりショルダ回転角の傾きが緩やかになることが確認された。挿入面隙間が0.15mmよりも大きな供試体#4,#5,#9,#10では、ショルダ回転角の傾きが大きくなった後に挿入面同士が接触しており、中間ショルダ面に大きなダメージが生じていると考えられる。
【0074】
中間ショルダ面にダメージが蓄積することは、
図10~
図14に示す複合荷重試験の結果から明らかである。いずれの供試体においても、圧縮荷重が増大していく初期の荷重ステップ7~11で中間ショルダ面にダメージが蓄積される傾向が見て取れる。しかし、挿入面隙間が最も小さい供試体#1,#6では、
図10に示すように、全荷重ステップにおいてショルダ回転角は1°未満に抑えられている。挿入面隙間が2番目に小さい供試体#2,#7では、
図11に示すように、荷重ステップ11以降、ショルダ回転角は1.3°~1.8°程度の間に抑えられている。挿入面隙間が0.15mmの供試体#3,#8でも、
図12に示すように、全体として同様の傾向が確認でき、荷重ステップ11におけるショルダ回転角は2.3°程度に抑えられている。
【0075】
一方、挿入面隙間が0.2mmの供試体#4,#9では、
図13に示すように、荷重ステップ11においてショルダ回転角が3.0°程度まで大きくなり、それ以降の荷重ステップにおいて大きなダメージが蓄積されている傾向を把握できる。挿入面隙間が0.4mmの供試体#5,#10では、
図14に示すように、荷重ステップ11でショルダ回転角が4.0°を超え、その後の荷重ステップにおいても3.5°付近で遷移している。
【0076】
同様の傾向は、異なる管径サイズである供試体#11~#20についても、
図15~
図19から把握できる。
【0077】
以上より、2段ねじ構造の管用ねじ継手において、挿入面隙間を0.15mmとすることによって中間ショルダ面に生じるダメージを効率良く低減できることが分かる。
【0078】
また、
図10~
図19の各図から、内溝37の溝幅を短くすることによって、若干ではあるが中間ショルダ面の回転角を低く抑えることができることが確認された。
【0079】
以上より、本開示の適用によって、2段ねじ構造の管用ねじ継手の耐圧縮性能が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0080】
1:管用ねじ継手
2:ピン、23:雄ねじ(外ねじ部)、27:雄ねじ(内ねじ部)、25:中間ショルダ面
3:ボックス、32:雌ねじ(外ねじ部)、36:雌ねじ(内ねじ部)、34:中間ショルダ面