(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】細胞区画内の生体分子への直交アクセスおよび細胞区画内の生体分子のタグ付けのための分析システム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240318BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20240318BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240318BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/48 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022051494
(22)【出願日】2022-03-28
(62)【分割の表示】P 2019535278の分割
【原出願日】2017-12-28
【審査請求日】2022-03-28
(32)【優先日】2016-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500358711
【氏名又は名称】イルミナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】ラメシュ ラムジ
(72)【発明者】
【氏名】フランク ジェイ. スティーマー
(72)【発明者】
【氏名】レナ クリスティアンセン
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリー ケー. ポコロック
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジャン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518860(JP,A)
【文献】国際公開第2015/200609(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/130704(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における標的核酸を差別的にタグ付けする方法であって、該方法が、
第1のトランスポソーム複合体を
核に選択的に送達するステップであって、該
第1のトランスポソーム複合体が、トランスポサーゼ、およ
び2個のトランスポゾン末端組成物を含み、
該2個のトランスポゾン末端組成物が、トランスポゾン末端配列、および第1のタグを含み、該細胞核が、第1の標的核酸を含み、核局在化シグナルペプチド(NLS)が、該トランスポソーム複合体または該トランスポサーゼに共有結合により連結されているか、または非共有結合により連結されている、ステップと、
該第1のトランスポソーム複合体を該第1の標的核酸と反応させるステップであって、該反応させるステップが、該第1の標的核酸を二本鎖核酸断片へと断片化し、該トランスポゾン末端組成物由来の転移鎖をタグ付けして、第1のタグ付けされた二本鎖核酸断片を形成するステップを含み、該第1のトランスポソーム複合体の該選択的送達が、該第1のタグを含む核二本鎖核酸断片対該第1のタグを含む細胞質またはミトコンドリア二本鎖核酸断片の相対的な割合を増加させることを含む、ステップと、
第2のトランスポソーム複合体を
該細胞質または該ミトコンドリアから選択される細胞区画に選択的に送達するステップであって、該
第2のトランスポソーム複合体が、トランスポサーゼ、およ
び2個のトランスポゾン末端組成物を含み、
該2個のトランスポゾン末端組成物が、トランスポゾン末端配列、および第2のタグを含み、
該細胞区画が、第2の標的核酸を含み、該第2のトランスポソーム複合体の
該細胞区画への選択的送達が、核膜孔遮断剤で該細胞を処理することを含む、ステップと、
該第2のトランスポソーム複合体を該第2の標的核酸と反応させるステップであって、該反応させるステップが、該第2の標的核酸を二本鎖核酸断片へと断片化し、該トランスポゾン末端組成物由来の転移鎖をタグ付けして、第2のタグ付けされた二本鎖核酸断片を形成するステップを含み、該第1および第2のタグが異なり、該第2のトランスポソーム複合体の該選択的送達が、該第2のタグを含む細胞質またはミトコンドリア二本鎖核酸断片対該第2のタグを含む核二本鎖核酸断片の相対的な割合を増加させることを含む、ステップと
を含み、該第1の標的核酸および該第2の標的核酸が、DNAであり、該第1のトランスポソーム複合体の選択的送達が、該第2のトランスポソーム複合体の選択的送達の前に行われる、方法。
【請求項2】
二本鎖核酸断片またはそのアンプリコンを検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出するステップが、前記二本鎖核酸断片またはアンプリコンの配列を検出することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のトランスポソーム複合体の前記選択的な送達が、前記細胞核への前記第2のトランスポソーム複合体の実質的送達なしで起こる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の細胞区画が、前記細胞質であり、前記第2の標的核酸が、細胞質標的核酸であり、前記第1の標的核酸が、核標的核酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞質標的核酸がcDNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞核標的核酸が、ゲノムDNA(gDNA)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞核標的核酸が、オープンクロマチン状況におけるDNAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞核標的核酸がcDNAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のトランスポソーム複合体を選択的に送達するステップが、該第2のトランスポソーム複合体をミトコンドリア標的核酸と反応させて、タグ付けされたミトコンドリア二本鎖核酸断片を産生するステップを含み、
前記第1のトランスポソーム複合体を選択的に送達するステップが、前記第1のトランスポソーム複合体を細胞核標的核酸と反応させて、タグ付けされた核二本鎖核酸断片を産生するステップを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞核標的核酸が、gDNAである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞を溶解して、前記タグ付けされた二本鎖核酸断片を放出させるステップをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記NLSが、SV40ラージT抗原(PKKKRKV(配列番号1))、ヌクレオプラスミンの該NLS(K
RPAATKKAGQ
AKKKK(配列番号2)またはAVKRPAATKKAGQAKKKLD(配列番号3))、K-K/R-X-K/R、EGL-13(MSRRRKANPTKLSENAKKLAKEVEN(配列番号4))、c-Myc(PAAKRVKLD(配列番号5))、TUS-タンパク質(KLKIKRPVK(配列番号6))、hnRNP A1の酸性M9ドメイン、酵母転写リプレッサーMatα2由来のKIPIK(配列番号7)、PY-NLS配列、もしくはインポーチンβ
2である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記NLSが、前記トランスポソーム複合体または前記トランスポサーゼに共有結合により連結されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記NLSが、前記トランスポソーム複合体または前記トランスポサーゼに非共有結合により連結されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記NLSが、核輸送による前記細胞核への移入のために、前記トランスポソーム複合体または前記トランスポサーゼをタグ付けする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
生体試料における核酸およびタンパク質の検出は、微生物の同定および分類、感染性疾患の診断、遺伝的異常の検出および特徴付け、疾患発病または進行に関連する遺伝的変化の同定、疾患に対する遺伝的感受性の研究、ならびに疾患処置に対する応答の測定に有用である。
【0002】
細胞質区画および核区画の別々の解析を可能にする単一の細胞または単一の核の解析は、細胞型、細胞分化、細胞状態、タンパク質合成および調節、進化、疾患進行および診断、ならびに疾患処置に対する応答の評価への幅広い洞察を提供する。特に、核レベルにおける、DNAおよびRNAならびにヒストンおよび他の核タンパク質の解析を使用して、ゲノム全体の配列決定を行うことができる、細胞の静止状況およびオープンクロマチン状況に関する情報を明らかにすることができる、またはタンパク質調節に関するリアルタイム情報を提供することができる。斯かる情報は、遺伝子編集、細胞型変換、タンパク質調節の解析、および疾患治療法等の適用に有用である。
【0003】
その後の解析のために細胞の核酸およびタンパク質内容物にアクセスするための現在の技法は一般に、細胞区画を破壊する細胞溶解方法を用いる。一部の方法では、イオン性洗剤等、溶解媒体が使用され、これは、細胞質および核内容物の混合物を生じ、区画間の分子情報の分解能の防げとなる(例えば、細胞質のミトコンドリアDNAおよび核DNAの間の相互汚染により)。代替溶解方法は、穏和な非イオン性洗剤を用いて、核をインタクトに保ちつつ細胞膜を破壊する。別のアプローチでは、単離された核を、プロテアーゼ等の消化酵素で破壊することができる。
【0004】
次世代配列決定(NGS)技法は、試料またはライブラリー調製ステップをルーチンに用い、このステップにおいて、ゲノムDNAまたはRNAは、断片化された配列決定可能な(sequenceable)鋳型のライブラリーへと変換される。ゲノムDNAの断片化は、ハイスループット配列決定のためのDNA試料調製における決定的なステップである。一アプローチにおいて、トランスポソーム(transposome)複合体を使用して、標的核酸を断片化およびタグ付けする。トランスポサーゼは、二本鎖DNAの断片化を媒介し、合成オリゴヌクレオチドを両端にライゲーションする。付属されたオリゴヌクレオチドは、その後の増幅および配列決定ステップを可能にする。上に記述されている細胞および核溶解方法は、これが上記酵素を分解する(例えば、イオン性洗剤、消化酵素)ため、または上記酵素がインタクトな核に十分に浸透することができないため、斯かるアプローチと不適合性である。例えば、現在のタグ付き断片化(tagmentation)プロトコールにおいて使用されるNextera Tn5(二量体、約106kDa)等のトランスポソーム複合体は、核エンベロープ(
図1を参照)の複雑さのせいで、効率的に核物質にアクセスすることができない。核エンベロープは、核外膜および核内膜で構成されており、両者は共に、細胞質から核への生体分子の拡散を制限する脂質二重層を形成する。核膜孔複合体(NPC)は、核膜を貫通し、核内および核外への生体分子の輸送を緊密に調節し、典型的に、サイズが40kDa未満の分子のみを通過させる。核内膜には核ラミナが隣接しており、これは、足場/マトリックス取り付けエレメント等のタンパク質フィラメント、クラスリン、および他のタンパク質(それらは、核の強剛性を維持するための支持的フレームワークを生じ、核への分子のサイズ選択された進入を制御する)を含む。これらの、酵素分解および核膜を越えた限定的な拡散の問題のため、細胞溶解方法は、さらなる試料調製を行い得るようになる前に、標的核酸またはタンパク質を単離するために追加の精製および単離ステップを要求するであろう。
【0005】
単一細胞内容物の解析は、別々の区画において単一の細胞を単離することにより達成することができる。一技法において、細胞は、油性媒体における水滴に分布される。しかし、上記油は、水性液滴内および外への物質および試料調製酵素の移行を妨害するため、斯かる試薬は全て、初期水性媒体に存在する必要がある。さらに、近接性情報は、PCT公開番号WO2016/013704に記載されている近接性保存エレメント(contiguity preserving element)(CE)等の区画化方法を使用して保存され得る。しかし、斯かる技法は、核および細胞質エレメントへの別々のアクセスに関する上に記述されている限界に対処するものではない。
細胞質区画および核区画および/または核近接性を維持しつつ、核遺伝物質への効率的なアクセスを提供し、核および細胞質内容物を独立に検出することを可能にし、配列決定のための適した断片化DNAまたはRNAライブラリーを生成する、例えば、次世代配列決定によって細胞構成成分を解析するための試料調製方法の必要がある。本質的にCEとして核エンベロープを使用して、インタクトな核内で行われるための試料調製方法を提供する方法が、本明細書に記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、細胞および/または細胞核を核透過性増強剤(nuclearpermeability enhancer)と接触させることにより、解析用生体分子を細胞核に送達し、その解析用生体分子を細胞核情報分子(核酸またはタンパク質等)と反応させる方法を対象にする。一部の態様では、本方法は、第2の解析用生体分子を細胞質情報分子(核酸またはタンパク質等)と反応させるステップを含む。一部の態様では、本方法は、個々の細胞および/または個々の核の解析を容易にするステップを含む。一部の態様では、単一細胞および/または核内容物は、近接性保存エレメントにより局在化される。一部の態様では、複数の近接性保存エレメントが用いられ、異なる細胞区画由来の解析物を独立に解析することを可能にする。一部の態様では、上記核膜は、近接性保存エレメントとして、または複数の近接性保存エレメントの1種として機能する。斯かる処理は、核からの解析複合体等の大型の生体分子の除去も可能にして、単離および/または解析を容易にする。
【0008】
細胞核情報分子を解析用生体分子と反応させる方法であって、細胞核を核透過性増強剤と接触させるステップと、情報分子を解析用生体分子と反応させるステップとを含む方法が本明細書に記載されている。
【0009】
細胞核情報分子を解析する方法であって、
(a)細胞核情報分子を含む細胞核を、核透過性増強剤および解析用生体分子と接触させるステップと、
(b)該解析用生体分子を該細胞核情報分子と反応させて、解析複合体をもたらすステップと、
(c)該解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと
を含む方法が本明細書に記載されている。
【0010】
斯かる方法は、細胞質情報分子を解析するステップを含むことができる。よって、本開示は、核情報分子および細胞質情報分子を解析する方法であって、
(a)細胞核情報分子および細胞質情報分子を含む細胞を、核透過性増強剤、第1の解析用生体分子および第2の解析用生体分子と接触させるステップと、
(b)該第1の解析用生体分子を該細胞核情報分子と反応させて、第1の解析複合体をもたらすステップと、該第2の解析用生体分子を該細胞質情報分子と反応させて、第2の解析複合体をもたらすステップと、
(c)該第1の解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと、必要に応じて、
(d)該第2の解析複合体を解析し、これにより、該細胞質情報分子を検出するステップと
を含む方法を対象にする。
【0011】
本明細書に記載されている方法は、近接性保存エレメントを活用することができる。本開示は、したがって、細胞核情報分子を解析する方法であって、
(a)核を含む近接性保存エレメントをもたらすステップであって、該核が、細胞核情報分子を含む、ステップと、
(b)該近接性保存エレメントを、核透過性増強剤および解析用生体分子と接触させるステップと、
(c)該解析用生体分子を該細胞核情報分子と反応させて、解析複合体をもたらすステップと、
(d)該解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと
を含む方法を対象にする。
【0012】
本開示は、さらに、細胞核情報分子および細胞質情報分子を解析する方法であって、
(a)細胞を含む近接性保存エレメントをもたらすステップであって、該細胞が、細胞核情報分子および細胞質情報分子を含む、ステップと、
(b)該近接性保存エレメントを、核透過性増強剤、第1の解析用生体分子および第2の解析用生体分子と接触させるステップと、
(c)該第1の解析用生体分子を該細胞核情報分子と反応させて、第1の解析複合体をもたらすステップと、該第2の解析用生体分子を該細胞質情報分子と反応させて、第2の解析複合体をもたらすステップと、
(d)該第1の解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと、必要に応じて、
(e)該第2の解析複合体を解析し、これにより、該細胞質情報分子を検出するステップと
を含む方法を対象にする。
【0013】
上記の方法において、上記解析用生体分子は、トランスポソーム複合体であり得る。よって、トランスポソーム複合体および核透過性増強剤を使用して、核における標的核酸を断片化およびタグ付けする方法が本明細書に記載されている。核透過性増強剤による細胞または細胞核の処理は、核空間へのトランスポソーム複合体の効率的送達を可能にする。本開示は、細胞核透過性増強剤で細胞または核を処理することにより、細胞核にトランスポサーゼまたはトランスポソーム複合体を送達する方法を対象にする。この様式で、核内における核遺伝物質の転位がもたらされ得る。
【0014】
細胞核標的核酸からタグ付けされた核酸断片のライブラリーを調製する方法であって、(a)標的核酸を含む細胞核を、核透過性増強剤および複数のトランスポソーム複合体と接触させるステップであって、各トランスポソーム複合体が、トランスポサーゼ、およびトランスポゾン末端配列を含む2個のトランスポゾン末端組成物を含む、ステップと、
(b)該標的核酸を該複数のトランスポソーム複合体と反応させるステップであって、それによって、該標的核酸が、二本鎖核酸断片へと断片化され、該トランスポゾン末端組成物由来の転移鎖(transferred strand)をタグ付けされて、タグ付けされた解析複合体が形成されるステップと、
(c)該タグ付けされた解析複合体を解析し、これにより、該タグ付けされた核酸断片を検出するステップと
を含む方法が本明細書に記載されている。
【0015】
細胞核標的核酸からタグ付けされた核酸断片のライブラリーを調製する方法であって、(a)単一の核を含む近接性保存エレメントをもたらすステップであって、該単一の核が、標的核酸を含む、ステップと、
(b)該近接性保存エレメントおよび単一の核を、核透過性増強剤および解析用生体分子と接触させるステップと、
(c)該解析用生体分子を細胞核情報分子と反応させて、解析複合体をもたらすステップと、
(d)該解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと
を含む方法も、本明細書に記載されている。
【0016】
一部の方法では、近接性保存エレメントは、上記標的核酸を有する上記細胞核(単離された、または細胞内の)を含む。本方法は、上に記述されている細胞質情報分子を調製および解析するステップをさらに含むことができる。
【0017】
一部の実施形態では、細胞、細胞質および核の細胞構成成分への差別的アクセス(differentialaccess)は、1個もしくは複数の細胞または1個もしくは複数の細胞質および核の細胞構成成分に由来するRNA、DNA、タンパク質またはそれらのいずれかの組合せの解析を可能にする。
【0018】
一部の方法では、化合物または生体分子(例えば、核膜孔遮断剤)を使用して、ある特定の細胞質区画および核区画へのアクセスを遮断する。
【0019】
本明細書に記載されている方法は、同じ単一の細胞に由来する多検体アッセイ(DNA、RNA、タンパク質等)において有用である。
【0020】
細胞および/または細胞核、核透過性増強剤、ならびにトランスポサーゼまたはトランスポソーム複合体を含む組成物も、本明細書に記載されている。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞核情報分子を解析用生体分子と反応させる方法であって、該細胞核を核透過性増強剤と接触させるステップと、該情報分子を該解析用生体分子と反応させるステップとを含む方法。
(項目2)
細胞核情報分子を解析する方法であって、
(a)細胞核情報分子を含む細胞核を、核透過性増強剤および解析用生体分子と接触させるステップと、
(b)該解析用生体分子を該細胞核情報分子と反応させて、解析複合体をもたらすステップと、
(c)該解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと
を含む方法。
(項目3)
近接性保存エレメントが、前記細胞核を含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記細胞核情報分子が、DNA、RNA、タンパク質またはそれらの混合物である、項目1~3または25のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記細胞核情報分子が、DNAである、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記解析用生体分子が、トランスポサーゼもしくはトランスポソーム複合体、または抗体、またはオリゴヌクレオチド、またはヌクレオチド、または逆転写プライマー、または酵素である、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記オリゴヌクレオチドまたはヌクレオチドが、少なくとも1個の標識されたヌクレオチドを含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記酵素が、増幅酵素、ポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、PCR酵素、リガーゼ、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、in
vitro転写を媒介する酵素、インテグラーゼまたはニッキング酵素である、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記解析用生体分子が、トランスポソーム複合体である、項目6に記載の方法。
(項目10)
各トランスポソーム複合体が、トランスポサーゼ、およびトランスポゾン末端配列を含む2個のトランスポゾン末端組成物を含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記細胞核情報分子が、標的核酸であり、前記反応させるステップが、該標的核酸を二本鎖核酸断片へと断片化し、前記トランスポゾン末端組成物由来の転移鎖をタグ付けして、タグ付けされた解析複合体を形成するステップを含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
細胞核標的核酸からタグ付けされた核酸断片のライブラリーを調製する方法であって、(a)単一の核を含む近接性保存エレメントをもたらすステップであって、該単一の核が、標的核酸を含む、ステップと、
(b)該近接性保存エレメントおよび単一の核を、核透過性増強剤および解析用生体分子と接触させるステップと、
(c)該解析用生体分子を細胞核情報分子と反応させて、解析複合体をもたらすステップと、
(d)該解析複合体を解析し、これにより、該細胞核情報分子を検出するステップと
を含む方法。
(項目13)
先行する項目のいずれか一項に記載の方法であって、前記接触させるステップに先立ち、核膜孔遮断剤の存在下、核透過性増強剤の非存在下で、細胞質情報分子を第2の解析用生体分子と反応させるステップをさらに含み、該方法の反応させるステップが、該細胞質情報分子に第1のタグを、前記細胞核情報分子に第2のタグを導入する、方法。
(項目14)
少なくとも1種の情報分子が、タンパク質である、先行する項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記細胞を第2の解析用生体分子と接触させ、該第2の解析用生体分子を前記細胞質情報分子と反応させて、第2の解析複合体をもたらすことにより、細胞質情報分子を解析するステップと、必要に応じて、該第2の解析複合体を解析し、これにより、該細胞質情報分子を検出するステップとをさらに含む、先行する項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記解析用生体分子が、トランスポソーム複合体であり、前記方法が、ポリメラーゼで前記解析複合体を処理するステップをさらに含み、該ポリメラーゼが、必要に応じて、鎖置換ポリメラーゼである、先行する項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
解析するステップが、断片化されタグ付けされた核酸またはそのアンプリコンまたはそのコピーを配列決定するステップを含む、先行する項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記核透過性増強剤が、NPC疎水性相互作用を破壊する化合物、核フィラメントタンパク質に結合するおよび/またはこれを阻害する化合物、クラスリンに結合するおよび/またはこれを阻害する化合物、ならびに核局在化シグナルペプチド(NLS)からなる群から選択される、前記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記核透過性増強剤が、クラスリン阻害剤である、またはピットストップ-2(N-[5-(4-ブロモベンジリデン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾール-2-イル]ナフタレン-1-スルホンアミドとしても公知)、メチル-b-シクロデキストリン、フェノチアジン、モノダンシルカダベリン、クロロキン、モネンシン、高浸透圧性スクロースもしくはダイナソアまたはそれらの合成アナログである、またはピットストップ-2である、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記核透過性増強剤が、疎水性破壊剤である、または脂肪族アルコールである、またはC4~10-アルキル-ジオールである、または環状ジオールである、またはシクロアルカン-ジオールである、または隣接ジオールである、またはトランス-1,2-シクロヘキサンジオール、n-ヘキサン-1,2-ジオールもしくは1,6-ヘキサン-ジオールである、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記核透過性増強剤が、核局在化シグナルペプチド(NLS)である、またはSV40ラージT抗原(PKKKRKV)、ヌクレオプラスミンの該NLS(KR[PAATKKAGQA]KKKKまたはAVKRPAATKKAGQAKKKLD)、K-K/R-X-K/R、EGL-13(MSRRRKANPTKLSENAKKLAKEVEN)、c-Myc(PAAKRVKLD)、TUS-タンパク質(KLKIKRPVK)、hnRNP A1の酸性M9ドメイン、酵母転写リプレッサーMatα2由来のKIPIK、PY-NLS配列、もしくはインポーチンβ2の阻害剤である、またはSV40ラージT抗原である、項目18に記載の方法。
(項目22)
前記NLSが、前記解析用生体分子に共有結合により連結されている、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記NLSが、前記解析用生体分子に共有結合により連結されていない、項目21に記載の方法。
(項目24)
1個もしくは複数の細胞および/または1個もしくは複数の細胞核、核透過性増強剤、ならびに解析用生体分子を含む組成物。
(項目25)
前記解析用生体分子が、トランスポサーゼもしくはトランスポソーム複合体、または抗体、または少なくとも1個の標識されたヌクレオチドを必要に応じて含むオリゴヌクレオチド、または必要に応じて標識されたヌクレオチド、または逆転写プライマー、または酵素である、項目24に記載の組成物。
(項目26)
前記解析用生体分子が、トランスポソーム複合体である、項目24に記載の組成物。
(項目27)
前記解析用生体分子が、酵素であり、該酵素が、増幅酵素、ポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、PCR酵素、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、in vitro転写を媒介する酵素、インテグラーゼまたはニッキング酵素である、項目24に記載の方法。
(項目28)
前記核透過性増強剤が、ピットストップ-2、脂肪族アルコール、C4~10-アルキル-ジオール、環状ジオール、シクロアルカン-ジオール、隣接ジオール、トランス-1,2-シクロヘキサンジオール、n-ヘキサン-1,2-ジオール、1,6-ヘキサン-ジオールまたはジギトニンである、項目24~27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目29)
前記核透過性増強剤が、ピットストップ-2、シクロヘキサンジオールまたはジギトニンである、項目28に記載の組成物。
(項目30)
(a)細胞核情報分子を含む細胞核を、核透過性増強剤および解析用生体分子と接触させるステップと、
(b)該解析用生体分子を該細胞核情報分子と反応させて、修飾された細胞核情報分子をもたらすステップと、
(c)該修飾された細胞核情報分子を検出するステップと
を含む、項目1に記載の方法。
(項目31)
前記細胞核情報分子が、標的核酸であり、前記解析用生体分子が、トランスポソーム複合体であり、前記反応させるステップが、該トランスポソーム複合体および該細胞核情報分子の間で複合体を形成するステップを含み、該トランスポソーム複合体が、該標的核酸を断片化しない、項目30に記載の方法。
(項目32)
細胞における情報分子を差別的にタグ付けする方法であって、
細胞核、細胞質およびミトコンドリアからなる群から選択される第1の細胞区画に第1のタグを含む第1の解析用生体分子を選択的に送達するステップであって、該第1の細胞区画が、第1の情報生体分子を含む、ステップと、
該第1の解析用生体分子を該第1の情報分子と反応させて、タグ付けされた第1の情報分子をもたらすステップと、
細胞核、細胞質およびミトコンドリアからなる群から選択される第2の細胞区画に第2のタグを含む第2の解析用生体分子を選択的に送達するステップであって、該第2の細胞区画が、第2の情報分子を含み、該第1の細胞区画とは異なる、ステップと、
該第2の解析用生体分子を該第2の情報分子と反応させて、タグ付けされた第2の情報分子をもたらすステップであって、該第1および第2のタグが異なるステップと
を含む方法。
(項目33)
前記第1の細胞区画への前記第1の解析用生体分子の前記選択的な送達するステップが、該第1の細胞区画のための、透過性増強剤で前記細胞を処理するステップを含む、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記第1の細胞区画への前記第1の解析用生体分子の前記選択的な送達するステップが、前記第2の細胞区画のための、透過性遮断剤で前記細胞を処理するステップを含む、項目32または項目33に記載の方法。
(項目35)
前記第2の細胞区画への前記第2の解析用生体分子の前記選択的な送達するステップが、該第2の細胞区画のための、透過性増強剤で前記細胞を処理するステップを含む、項目32~34のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記第1の解析用生体分子の前記選択的な送達するステップが、前記第2の細胞区画への前記第1の解析用生体分子の実質的送達なしで起こる、項目32~35のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
前記第1の細胞区画が、前記細胞質であり、前記第1の情報分子が、細胞質情報分子であり、(a)前記第2の細胞区画が、前記細胞核であり、前記第2の情報分子が、細胞核情報分子である、または(b)前記第2の細胞区画が、前記ミトコンドリアであり、前記第2の情報分子が、ミトコンドリア情報分子である、項目32~36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記細胞質への前記第1の解析用生体分子の前記選択的な送達するステップが、核膜孔遮断剤および/またはミトコンドリアポア遮断剤の存在下で為される、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記第2の解析用生体分子の前記送達が、核透過性増強剤またはミトコンドリア透過性増強剤の存在下で為される、項目37に記載の方法。
(項目40)
前記細胞質情報分子が、RNAである、項目37~39のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
前記細胞核情報分子が、DNAまたはゲノムDNA(gDNA)である、項目37~39のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
前記第1の解析用生体分子を選択的に送達するステップが、該第1の解析用生体分子をミトコンドリア情報分子と反応させて、タグ付けされたミトコンドリア情報分子を産生するステップを含み、
前記第2の解析用生体分子を選択的に送達するステップが、前記第2の解析用生体分子を細胞核情報分子と反応させて、タグ付けされた細胞核情報分子を産生するステップを含む、
項目32~36のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
前記ミトコンドリア情報分子が、DNAである、項目37~42のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
前記細胞核情報分子が、DNAである、またはゲノムDNA(gDNA)である、項目37~43のいずれか一項に記載の方法。
(項目45)
前記細胞を溶解して、前記タグ付けされた情報分子を放出させるステップをさらに含む、項目32~44のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記解析用生体分子が、トランスポサーゼもしくはトランスポソーム複合体、または抗体、または少なくとも1個の標識されたヌクレオチドを必要に応じて含むオリゴヌクレオチド、または必要に応じて標識されたヌクレオチド、または逆転写プライマー、または酵素である、先行する方法の項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目47)
前記酵素が、増幅酵素、ポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、PCR酵素、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、in vitro転写を媒介する酵素、インテグラーゼまたはニッキング酵素である、項目45に記載の方法。
(項目48)
前記解析用生体分子が、トランスポソーム複合体である、項目32~46のいずれか一項に記載の方法。
(項目49)
前記タグ付けされた情報分子またはそのアンプリコンを検出するステップをさらに含み、該検出するステップが、該タグ付けされた情報分子またはアンプリコンの配列を検出するステップを必要に応じて含む、項目32~48のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記核透過性増強剤が、ジギトニンである、先行する項目のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、細胞(
図1A)および核(
図1B)のアーキテクチャを示す。細胞質は、タンパク質、RNA、ミトコンドリアDNAおよび他の生体分子が集密的である。細胞の核は、DNA、RNA、核タンパク質および他の生体分子が集密的である。
【0022】
【
図2】
図2A、
図2Bおよび
図2Cは、細胞構成成分および核構成成分へのアクセスの異なる機序を示す。
図2Aは、核膜孔を遮断することによる、細胞の細胞質構成成分のみへのアクセスを示す。
図2Bは、細胞透過性生体分子を使用して細胞膜の透過性を増強する、および/または核膜の透過性を増強することによる、核へのアクセスを示す。
図2Cは、核透過性増強剤の使用により近接性エレメントとして個々に維持されている、単離された核を示す。
【0023】
【
図3】
図3は、実施例3に記載されている通り、様々な濃度のピットストップ(Pitstop)-2の存在下で、FAM標識トランスポソーム複合体で処理された、単離された核の可視化を示す。
【0024】
【
図4】
図4A、
図4Bおよび
図4Cは、実施例5に記載されている通り、ピットストップ-2による処理ありおよびなしで生成されたATAC-seqライブラリーの配列決定結果を示す。
図4Aは、第12染色体の部分にわたるATAC-seqプロファイルを示す。
図4Bは、全ゲノム配列決定被覆度の多様性および特有性結果を報告する。
図4Cは、ヒトゲノムのプロモーターおよびコード領域にわたる正規化された被覆度を示す。
【0025】
【
図5】
図5は、ピットストップ-2の存在および非存在下で作製された、転位DNAライブラリーのアガロースゲル画像を示す。
【0026】
【
図6】
図6は、実施例7に記載されている通り、鎖置換ポリメラーゼによる処理後の、未精製のタグ付き断片化された核によるATAC-seqライブラリー生成のアガロースゲル画像を示す。
【0027】
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、実施例8に記載されている結果を示す。
図7Aは、BioAnalyzerデータに基づくATAC-seqライブラリーの濃度を報告する。
図7Bは、第6染色体の部分にわたる2種のライブラリーのATAC-seqプロファイルを示す。
【
図7B】
図7Aおよび
図7Bは、実施例8に記載されている結果を示す。
図7Aは、BioAnalyzerデータに基づくATAC-seqライブラリーの濃度を報告する。
図7Bは、第6染色体の部分にわたる2種のライブラリーのATAC-seqプロファイルを示す。
【0028】
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、実施例11に記述されている指標プライマー生成を説明する。
図8Aは、指標付けされたPCRプライマーに相補的な領域を有する、ビーズ結合されたシーディングオリゴヌクレオチド(seeding oligonucleotide)の略図である。
図8Bは、シーディングオリゴヌクレオチドアプローチを使用して得られる増幅効率を報告する。
【0029】
【
図9】
図9は、実施例13に記載されている通り、BstおよびPhi29鎖置換ポリメラーゼによる実験のアガロースゲルデータを示す。
【0030】
【
図10】
図10は、脱イオン水または高塩条件に、転位を起こさせた核を曝露するさらに別の方法に沿った、転位のためのCEとしての核膜の使用の模式図である。
【0031】
【
図11A】
図11は、細胞溶解および核転位の際に添加された0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2により調製された、マウス(3T3)ATAC-seqライブラリーの単一細胞配列決定データを示す。
図11Aは、特有の読み取りデータ(read)の異なる数(>1k、>10kおよび>100k)によってグループ化された3セットのバーコードの特有の読み取りデータの総数に対するピットストップ-2濃度の効果を示す。
図11Bは、転写開始部位の1kb以内の、0μM、30μMまたは60μMピットストップ-2によるATAC seq試料の断片のパーセンテージを示す。
図11Cは、0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2で処理された試料のためのMACS-2ピーク発見プログラムによって定義されるATAC-seqピーク重複を示す。
【
図11B】
図11は、細胞溶解および核転位の際に添加された0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2により調製された、マウス(3T3)ATAC-seqライブラリーの単一細胞配列決定データを示す。
図11Aは、特有の読み取りデータ(read)の異なる数(>1k、>10kおよび>100k)によってグループ化された3セットのバーコードの特有の読み取りデータの総数に対するピットストップ-2濃度の効果を示す。
図11Bは、転写開始部位の1kb以内の、0μM、30μMまたは60μMピットストップ-2によるATAC seq試料の断片のパーセンテージを示す。
図11Cは、0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2で処理された試料のためのMACS-2ピーク発見プログラムによって定義されるATAC-seqピーク重複を示す。
【
図11C】
図11は、細胞溶解および核転位の際に添加された0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2により調製された、マウス(3T3)ATAC-seqライブラリーの単一細胞配列決定データを示す。
図11Aは、特有の読み取りデータ(read)の異なる数(>1k、>10kおよび>100k)によってグループ化された3セットのバーコードの特有の読み取りデータの総数に対するピットストップ-2濃度の効果を示す。
図11Bは、転写開始部位の1kb以内の、0μM、30μMまたは60μMピットストップ-2によるATAC seq試料の断片のパーセンテージを示す。
図11Cは、0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2で処理された試料のためのMACS-2ピーク発見プログラムによって定義されるATAC-seqピーク重複を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
一部の実施形態では、細胞核情報分子は、DNA、RNAまたはタンパク質である。一部の実施形態では、これは、DNAまたはmRNAである。一部の態様では、これは、DNAである。一部の実施形態では、これは、RNAである。一部の実施形態では、これは、DNAおよびRNAである。一部の実施形態では、これは、cDNAまたはcDNAおよびDNAである。一部の実施形態では、上記DNAは、DNAのオープンクロマチン状況を表すことができる。一部の実施形態では、上記DNAは、全ゲノムDNAまたは全ゲノムDNAの画分またはミトコンドリアDNAを示すことができる。
【0033】
一部の実施形態では、上記細胞質情報分子は、mRNA、DNAまたはタンパク質である。一部の実施形態では、これは、mRNAまたはDNAである。
【0034】
一部の実施形態では、解析用生体分子は、トランスポサーゼもしくはトランスポソーム複合体または抗体またはオリゴヌクレオチドまたはヌクレオチドまたは逆転写プライマーまたは酵素である。一部の例では、上記オリゴヌクレオチドまたはヌクレオチドは、少なくとも1個の標識されたヌクレオチドを含む。一部の例では、上記酵素は、増幅酵素、ポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、リガーゼ、RNAポリメラーゼ、PCR酵素、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、in vitro転写を媒介する酵素、インテグラーゼまたはニッキング酵素である。
【0035】
一部の実施形態では、上記解析用生体分子は、指標付けまたはバーコード付けされる。一部の実施形態では、上記解析用生体分子は、トランスポサーゼである。他の実施形態では、これは、トランスポソーム複合体である。一部の実施形態では、上記トランスポソーム複合体は、トランスポサーゼ、およびトランスポゾン末端配列を含む2個のトランスポゾン末端組成物を含む。適した転位方法は、本技術分野で公知であり、例えば、米国特許出願公開第2010/0120098号および同第2014/0194324号ならびにPCT公開番号WO2016/130704に記載されている。
【0036】
一部の実施形態では、上記トランスポゾン末端組成物は、末端配列およびオリゴヌクレオチドアダプターを含む。一部の実施形態では、特定の上記トランスポゾン末端配列は、上記トランスポサーゼの認識部位に結合する二本鎖領域を含む。
【0037】
一部の実施形態では、上記解析用生体分子は、抗体、特に、タンパク質、タンパク質断片またはペプチドである標的情報分子に特異的に結合する抗体である。必要に応じて、上記抗体は、その後の単離および/または解析を可能にするペンダントオリゴヌクレオチドまたは他のタグも含む。標的タンパク質への上記抗体の結合は、解析複合体を産生する。
【0038】
「解析複合体」は、解析用生体分子および標的情報分子の反応の産物である。斯かる複合体は、共有結合もしくは非共有結合、または共有結合および非共有結合の両方により形成することができる。例えば、トランスポサーゼ複合体は、標的核酸を断片化し、転移鎖をタグ付けし、そのタグ付けされた核酸、トランスポサーゼおよび非転移鎖の複合体を得ることができる。その結果得られる解析複合体は、共有結合およびハイブリダイゼーションにより形成される。別の例では、解析複合体は、抗体-標的タンパク質複合体または抗体-標的ペプチド複合体であり得る。
【0039】
上記核に入ってのDNAへのトランスポソームの到達性を改善するための方法および組成物が記載されている。様々な他の分子が、上記核に選択的に挿入され得るまたは除去され得るため、本願は、トランスポソームに限定されない。例えば、RNA捕捉ならびに下流アッセイ(例えば、配列決定)および解析のため、ポリT捕捉プローブを上記核に運び入れることができる。あるいは、上記核内および核外に分子を輸送するために、NPCのような他のポアを標的化することができる。
【0040】
細胞質区画および核区画の例は、ミトコンドリア、核、葉緑体、ペルオキシソーム、小胞体、微小管、ゴルジ体、カルボキシソームおよびメタボロソームであるが、これらに限定されない。
核透過性増強剤
【0041】
一部の態様では、核透過性増強剤は、上記核膜を破壊することなく上記核エンベロープの透過性を増加させる化合物(例えば、小分子またはペプチド)である。斯かる実施形態では、上記核膜は、除去されないが、より多孔性になる。斯かる処理は、核遺伝物質への、トランスポソーム複合体または抗体等の解析用生体分子のアクセスを改善する。よって、一部の実施形態では、核遺伝物質へのトランスポソーム複合体等の解析用生体分子のアクセスは、核を核透過性増強剤と接触させることにより増加する。適した増強剤は、NPC疎水性相互作用を破壊する化合物、クラスリン等の核フィラメントタンパク質に結合するおよび/またはこれを阻害する化合物、ならびに核局在化シグナルペプチドを含む。
【0042】
一部の実施形態では、上記増強剤は、クラスリン阻害剤である。クラスリンコートアセンブリの阻害剤は、クラスリン媒介性エンドサイトーシスの古典的基質の取り込みを阻害することが示された(Liashkovich, I.ら「Clathrin inhibitor Pitstop-2 disrupts thenuclearpore complex permeability barrier」、Sci. Rep.2015年、5巻、9994頁を参照)。斯かる化合物は、核膜孔複合体を通る空洞を作製するおよび/またはそのサイズを増加させるように機能することができる。適したクラスリン阻害剤は、ピットストップ-2(N-[5-(4-ブロモベンジリデン)-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,3-チアゾール-2-イル]ナフタレン-1-スルホンアミドとしても公知)、メチル-β-シクロデキストリン、フェノチアジン、モノダンシルカダベリン、クロロキン、モネンシン、高浸透圧性スクロースおよびダイナソア、ならびにこれらの合成アナログを含む(Chen,C.-L.ら「Inhibitorsof clathrin-dependent endocytosis enhance TGFβ signaling andresponses」、J. Cell.Sci.2009年、122巻、1863~1871頁およびその中に引用されている参考文献を参照)。本明細書に発表されているデータに示す通り、クラスリン阻害剤は、上記核内へのトランスポソーム複合体の輸送をもたらし、これにより、核遺伝物質へのトランスポソーム複合体のアクセスを改善し、当該物質の転位効率を改善することが見出された。
【0043】
例示的な増強剤は、C4~10-アルキル-ジオール、環状ジオール、シクロアルカン-ジオールまたは隣接ジオール(例えば、トランス-1,2-シクロヘキサンジオール、n-ヘキサン-1,2-ジオール、1,6-ヘキサン-ジオール;Ribbeck, K.ら「The permeability barrier of nuclear porecomplexesappears to operate via hydrophobic exclusion」、The EMBO J.2002年、21巻(11号)、2664~2671頁を参照)を含む脂肪族アルコール等、疎水性破壊剤も含む。一部の実施形態では、核内核透過性増強剤は、シクロヘキサンジオールである、または1,2-シクロヘキサンジオールである、またはトランス-1,2-シクロヘキサンジオールである。さらに、疎水性破壊剤は、ジギトニン等、界面活性物質を含む(例えば、Hagstromら、J.CellSci.1997年、110巻、2323~2331頁;Tisseraら「Nuclear envelopes show cell-typespecificsensitivity for permeabilization with digitonin」Nature (ProtocolExchange)、2010年(https://www.nature.com/protocolexchange/protocols/1994で入手可能)を参照)。
【0044】
例示的な増強剤は、核輸送による上記細胞核への移入のための、タンパク質のタグ付けに典型的に使用されるアミノ酸配列である核局在化シグナル(NLS)も含む。一部の実施形態では、上記NLSは、解析用生体分子に共有結合または非共有結合により連結されている(例えば、複合体として適用される、またはin situで複合体として形成される)。一部の方法では、上記NLSは、解析用生体分子(例えば、トランスポサーゼまたはトランスポソーム複合体)に共有結合されていないが、解析用生体分子および細胞または細胞核の混合物への添加物として使用される(例えば、転位反応)。一部の実施形態では、上記NLSは、SV40ラージT抗原(PKKKRKV;Creative Peptides、Shirley、NY、Cat#GR1405)、ヌクレオプラスミンのNLS(KR[PAATKKAGQA]KKKKまたはAVKRPAATKKAGQAKKKLD)(Rotelloら、Bioconj. Chem.26巻(6号)、1004~7頁を参照)、K-K/R-X-K/R(Chelskyら、Mol.CellBiol.1989年、9巻(6号)、2487~2492頁;Dingwallら、J. Cell. Biol.1988年、107巻(3号)、841頁を参照)、EGL-13(MSRRRKANPTKLSENAKKLAKEVEN)、c-Myc(PAAKRVKLD)、TUS-タンパク質(KLKIKRPVK)、hnRNP A1の酸性M9ドメイン、酵母転写リプレッサーMatα2由来のKIPIK、PY-NLS配列(Leeら、Cell126巻(3号)、543~58頁)、およびインポーチンβ2の阻害剤である。一部の実施形態では、上記NLSは、上記SV40ラージT抗原である。
鋳型核酸の調製
【0045】
一部の実施形態は、鋳型核酸を調製する方法を含む。本明細書において使用する場合、「鋳型核酸」は、配列情報を得るための基質を指すことができる。一部の鋳型核酸調製方法は、標的核酸にトランスポゾン配列を挿入し、これにより、鋳型核酸を調製するステップを含む。一部の挿入方法は、トランスポサーゼまたはインテグラーゼ等、酵素の存在下で、標的核酸へのトランスポゾン配列(単数または複数)の組み込みに十分な条件下、本明細書に提供されているトランスポゾン配列を該標的核酸と接触させるステップを含む。一部の実施形態では、鋳型核酸は、少なくとも1個のトランスポゾン配列、その断片またはそのいずれかのコピーを含む、標的核酸、その断片またはそのいずれかのコピーを含むことができる。一部の実施形態では、鋳型核酸は、プライマー部位等、配列決定に適したタグを含むアダプターを含む標的核酸を含むことができる。
【0046】
一部の実施形態では、上記細胞は、固定されていてよい。一部の実施形態では、本明細書に記載されている方法は、インタクトな細胞を用い、界面活性物質による処理により細胞を固定する。斯かる方法において、解析用生体分子は、その細胞膜を破壊することなく上記細胞に進入することができる。例示的な方法において、細胞は、界面活性物質(例えば、NP-40、SDS等)、核透過性増強剤および解析用生体分子で処理される。
【0047】
一部の実施形態では、解析用生体分子は、特定の標的DNA、mRNA、cDNA、DNAまたはそれらのいずれかの組合せ(例えば、DNAおよびcDNA)のために設計される。例えば、ある特定の解析用生体分子は、DNAとmRNAを区別するように設計された指標プローブを含むことができる。一部の実施形態では、第1の解析用分子および第2の解析用生体分子が使用される、例えば、第1のトランスポソーム複合体および第2のトランスポソーム複合体が使用され、該第1のトランスポソーム複合体は、DNAをタグ付けするためのトランスポゾン末端配列(例えば、A14/B15プライマー配列)を含み、該第2のトランスポソーム複合体は、mRNAをタグ付けするためのトランスポゾン末端配列(例えば、mRNAポリAテイルに特異的なポリT領域を含むアダプターを含む)を含む。
【0048】
一部の実施形態では、人工ポアを細胞区画または核区画に挿入して、該区画内または区画外への解析用生体分子の転移を容易にすることができる。
【0049】
一部の実施形態では、方法は、細胞核を単離するステップを含む。細胞核の単離は、本技術分野で公知の標準方法を使用して達成することができるが、ただし、この方法は、該細胞核の完全性を保持していることを条件とする。一部の実例では、細胞溶解方法を使用することができる。細胞核は、上記核透過性増強剤への曝露に先立ち、細胞質構成成分から単離または精製することができる。一部の実施形態では、その細胞質画分は、別々に維持および解析される。
【0050】
核酸解析のため、試料調製は典型的に、ゲノム核酸を配列決定可能な長さに断片化し、この断片にアダプターをライゲーションして、その後の精製および必要であれば増幅のための鋳型を得ることを伴う。鋳型は、増幅されて配列決定プロトコールに付される「シーディング」鋳型へと、プライマーを使用して変換される。
【0051】
増幅および配列決定の準備ができている溶液における、アダプター修飾鋳型へのDNAおよび/またはRNAの形質転換に要求されるステップの数は、トランスポサーゼ媒介性断片化およびタグ付けの使用によって最小化することができる。本明細書において「タグ付き断片化」と称されるこのプロセスは、トランスポゾン末端配列を含むアダプターと複合体形成したトランスポサーゼ酵素を含むトランスポソーム複合体によるDNAまたはmRNAの修飾を伴うことが多い。タグ付き断片化は、同時の、DNAの断片化および二重鎖断片の両方の鎖の5’末端へのアダプターのライゲーションをもたらす。精製ステップを使用して、トランスポサーゼ酵素を除去することができる。二本鎖産物におけるいずれかのギャップを充填することができ、PCRによってアダプター付加(adapted)断片の末端に追加の配列を付加することができる。
【0052】
一部の実施形態では、本明細書に提供されている複数のトランスポゾン配列は、標的核酸に挿入される。一部の実施形態は、組み込まれたトランスポゾン配列それぞれの間の平均距離が、上記標的核酸におけるある特定の数の連続したヌクレオチドを含むような、標的核酸への複数のトランスポゾン配列の組み込みの達成に十分な条件の選択を含む。
【0053】
鋳型核酸調製の一部の実施形態は、上記標的核酸を含む配列をコピーすることを含むことができる。例えば、一部の実施形態は、上記標的核酸に組み込まれたトランスポゾン配列のプライマー部位にプライマーをハイブリダイズすることを含む。一部の斯かる実施形態では、上記プライマーは、上記プライマー部位にハイブリダイズされ、伸長され得る。そのコピーされた配列は、少なくとも1個のバーコード配列、および上記標的核酸の少なくとも部分を含むことができる。一部の実施形態では、そのコピーされた配列は、第1のバーコード配列、第2のバーコード配列、およびそれらの間に配置された標的核酸の少なくとも部分を含むことができる。一部の実施形態では、少なくとも1個のコピーされた核酸は、第2のコピーされた核酸の第2のバーコード配列と対形成されると同定または指定され得る、第1のコピーされた核酸の少なくとも第1のバーコード配列を含むことができる。一部の実施形態では、上記プライマーは、配列決定プライマーを含むことができる。一部の実施形態では、配列決定データは、上記配列決定プライマーを使用して得られる。より多くの実施形態では、プライマー部位を含むアダプターは、核酸の各末端にライゲーションすることができ、上記核酸は、斯かるプライマー部位から増幅することができる。
【0054】
鋳型核酸調製の一部の実施形態は、1個または複数のトランスポゾン配列の少なくとも部分、および標的核酸の少なくとも部分を含む配列を増幅することを含むことができる。一部の実施形態では、標的核酸の少なくとも部分は、標的核酸に組み込まれた、組み込まれたトランスポゾン配列のプライマー部位にハイブリダイズするプライマーを使用して増幅することができる。一部の斯かる実施形態では、増幅された核酸は、それらの間に配置された上記標的核酸の少なくとも部分を有する、第1のバーコード配列および第2のバーコード配列を含むことができる。一部の実施形態では、少なくとも1個の増幅された核酸は、第2の増幅された配列の第2のバーコード配列と対形成されると同定され得る、第1の増幅された核酸の少なくとも第1のバーコード配列を含むことができる。
【0055】
一部の実施形態では、各鋳型核酸に、少なくとも1個のユニバーサルプライマー部位を組み込むことが有利であり得る。例えば、鋳型核酸は、第1のユニバーサルプライマー部位を含む第1の末端配列、および第2のユニバーサルプライマー部位を含む第2の末端配列を含むことができる。ユニバーサルプライマー部位は、1種または複数種の鋳型核酸の増幅、配列決定および/または同定における使用等、様々な適用を有することができる。上記第1および第2のユニバーサルプライマー部位は、同じ、実質的に同様、同様または異なることがある。ユニバーサルプライマー部位は、本技術分野で周知の様々な方法、例えば、核酸へのプライマー部位のライゲーション、目的に合わせて作製した(tailed)プライマーを使用した核酸の増幅、およびユニバーサルプライマー部位を含むトランスポゾン配列の挿入によって核酸に導入することができる。
トランスポソーム
【0056】
本明細書において使用する場合、用語「トランスポソーム複合体」は、転位酵素(例えば、インテグラーゼまたはトランスポサーゼ)、およびトランスポサーゼ認識部位等の組み込み認識部位を含む二本鎖核酸を一般に指す。本明細書に提供されている実施形態では、トランスポサーゼは、転位反応を触媒することができるトランスポサーゼ認識部位と機能的複合体を形成することができる。上記トランスポサーゼは、上記トランスポサーゼ認識部位に結合し、「タグ付き断片化」により標的核酸に該トランスポサーゼ認識部位を挿入することができる。一部の斯かる挿入事象において、上記トランスポサーゼ認識部位の一方の鎖は、上記標的核酸へと転移され得る。一例では、トランスポソームは、2個のサブユニットを含む二量体トランスポサーゼ、および2個の非近接トランスポゾン配列を含む。別の例では、トランスポサーゼは、2個のサブユニットを含む二量体トランスポサーゼ、および近接トランスポゾン配列を含む。一部の実施形態では、複合体は、非共有結合複合体形成を支持する条件下で、二本鎖トランスポゾンDNAと共にトランスポサーゼをインキュベートすることにより形成される。
【0057】
二本鎖トランスポゾンDNAは、Tn5 DNA、Tn5 DNAの部分、トランスポゾン末端組成物、トランスポゾン末端組成物の混合物、または活動亢進Tn5トランスポサーゼ等のトランスポサーゼと相互作用することができる他の二本鎖DNAを限定することなく含むことができる。
【0058】
「トランスポサーゼ」は、トランスポゾン末端含有組成物(例えば、トランスポゾン、トランスポゾン末端、トランスポゾン末端組成物)と機能的複合体を形成し、例えば、in vitro転位反応においてこれとインキュベートされる二本鎖標的DNAへのトランスポゾン末端含有組成物の挿入または転位を触媒することができる酵素を意味する。本明細書に発表されているトランスポサーゼは、レトロトランスポゾンおよびレトロウイルス由来のインテグラーゼを含むこともできる。
【0059】
トランスポサーゼ、トランスポソームおよびトランスポソーム複合体は、参照により本明細書に組み込む米国特許出願公開第2010/0120098号およびPCT公開番号2016/130704の開示によって例証される通り、一般に、当業者にとって公知である。トランスポサーゼ酵素として、Tn5トランスポサーゼ、MuトランスポサーゼおよびVibrio harveyiトランスポサーゼ、ならびに活動亢進Tn5トランスポサーゼ等のこれらのバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。トランスポサーゼ酵素は、Tn5二量体等、二量体、三量体または四量体等、多量体であり得る。その意図される目的での、標的DNAのタグ付けおよび断片化に十分な効率でトランスポゾン末端を挿入することができるいずれかの転位系を、本明細書に記載されている方法において使用することができる。特定の実施形態では、好まれる転位系は、ランダムまたはほぼランダムな様式で上記トランスポゾン末端を挿入して、上記標的DNAを5’-タグ付けおよび断片化することができる。特定の実施形態は、活動亢進Tn5トランスポサーゼおよびTn5型トランスポサーゼ認識部位(GoryshinおよびReznikoff、J. Biol. Chem.1983年、273巻:7367頁)、またはMuAトランスポサーゼならびにR1およびR2末端配列を含むMuトランスポサーゼ認識部位(Mizuuchi,K.、Cell1983年、35巻:785頁;Savilahti, H.ら、EMBO J.1995年、14巻:4893頁)である。当業者によって最適化される通りに、モザイク末端(ME)配列を使用することもできる。上記の参考文献を参照により本明細書に組み込む。さらに例示的な転位系は、S.aureus Tn552、Ty1、トランスポゾンTn7、Tn/OおよびIS10、マリナー(Mariner)トランスポサーゼ、Tc1、Pエレメント、Tn3、細菌挿入配列、レトロウイルス、レトロウイルスインテグラーゼ(HIV-1、HIV-2、SIV、PFV-1およびRSV由来のインテグラーゼ等)、酵母のレトロトランスポゾン、IS5、Tn10、Tn903またはIS911、ならびにこれらの操作されたバリアント等、WO2016/130704に記載されている。
【0060】
一部の実施形態では、上記トランスポサーゼは、Tn5トランスポサーゼ、MuトランスポサーゼまたはVibrio(例えば、Vibrio harveyi)トランスポサーゼである。一部の実施形態では、上記トランスポサーゼは、Tn5トランスポサーゼである。一部の実施形態では、上記トランスポサーゼは、活動亢進Tn5トランスポサーゼである。一部の実施形態では、上記トランスポサーゼは、二量体である。一部の実施形態では、トランスポサーゼは、Tn5二量体である。一部の実施形態では、上記Tn5二量体は、活動亢進である。
トランスポゾン配列
【0061】
用語「トランスポゾン末端」は、トランスポサーゼまたはインテグラーゼ酵素と複合体を形成して、in vitro転位反応のためのトランスポソーム複合体をもたらす少なくとも1個の転位認識部位(「トランスポゾン末端配列」)を含む二本鎖核酸DNAを指す。本明細書に提供されている方法および組成物により有用なトランスポゾン配列は、それらそれぞれの全体を参照により組み込む、米国特許出願公開第2012/0208705号および同第2012/0208724号ならびにPCT公開番号WO2012/061832に提供されている。一部の実施形態では、トランスポゾン末端は、転位反応におけるトランスポサーゼと機能的複合体を形成することができる。非限定的な例として、トランスポゾン末端は、野生型もしくは変異体Tn5トランスポサーゼによって認識される、19bp外側末端(「OE」)トランスポゾン末端、内側末端(「IE」)トランスポゾン末端もしくは「モザイク末端」(「ME」)トランスポゾン末端、または米国特許出願公開第2010/0120098号に記載されている通り、R1およびR2トランスポゾン末端を含むことができる。トランスポゾン末端は、in vitro転位反応におけるトランスポサーゼまたはインテグラーゼ酵素との機能的複合体の形成に適したいずれかの核酸または核酸アナログを含むことができる。例えば、上記トランスポゾン末端は、DNA、RNA、修飾塩基、非天然塩基および/または修飾骨格を含むことができ、一方または両方の鎖にニックを含むことができる。用語「DNA」は、トランスポゾン末端の組成に関連して、本開示を通して使用されているが、トランスポゾン末端においていかなる適した核酸または核酸アナログを利用してもよいことを理解されたい。
【0062】
用語「転移鎖」は、両方のトランスポゾン末端の転移部分を指す。同様に、用語「非転移鎖」は、両方の「トランスポゾン末端」の非転移部分を指す。転移鎖の3’末端は、in vitro転位反応において標的DNAに連接または転移される。その転移されたトランスポゾン末端配列に相補的なトランスポゾン末端配列を示す非転移鎖は、in vitro転位反応において上記標的DNAに連接も転移もされない。
【0063】
用語「アダプター」は、本明細書において使用する場合、少なくとも1個のタグを含むポリヌクレオチド領域を指す。一部の実施形態は、トランスポゾン末端配列を含む3’部分、および少なくとも1個のタグを含むアダプター領域を有するポリヌクレオチドを含むトランスポソーム複合体を含む。アダプター配列は、リンカー領域を含むことができる。
【0064】
用語「タグ」は、本明細書において使用する場合、所望の意図される目的または適用に適した配列を有するオリゴヌクレオチド領域を指す。タグは、断片化部位(決定された時間に、化学的に、生化学的にまたは光化学的に切断され得る配列)、プライマー部位、バーコード(1種または複数種の特定の解析物の同定に使用される)、親和性タグ、認識部位および/またはレポーター部分(シグナル、例えば、蛍光、化学発光、生物発光、リン光、放射性、熱量、電子または他のシグナルを放射することができる部分)等、標的核酸に挿入される場合に有用な1種または複数種の配列を含むことができる。他のいずれか適した特色をタグに組み込むことができることが理解される。一部の実施形態では、上記タグは、5~200bpの間もしくは10~100bpの間もしくは20~50bpの間の長さを有する、または約5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150もしくは200bpの長さを有する配列を含む。
【0065】
一部の実施形態では、タグは、クラスター増幅および/または配列決定反応等、増幅反応のためのプライマー(ビーズまたはフローセル等、固体表面に結合され得る)とのハイブリダイゼーションに適した1個または複数のプライマー部位を含む。プライマー結合部位の例示的な配列として、次のものが挙げられるがこれらに限定されない:
AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC(P5配列)
および
CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT(P7配列)
ならびにこれらの相補体。一部の実例では、上記プライマー配列は、隣接ジオールまたは8-オキソ-グアニン等、その後の酵素切断または化学的切断を可能にする修飾塩基を含む。
一部の実施形態では、タグは、鋳型核酸の調製において使用されるバーコードを含む。理解される通り、膨大な数の利用できるバーコードは、各鋳型核酸分子が、特有の同定を含むことを可能にする。鋳型核酸の混合物における各分子の特有の同定は、いくつかの適用において使用することができる。例えば、特有に同定された分子を適用して、例えば、ハプロタイプ配列決定において、親アレル識別において、メタゲノム配列決定において、およびゲノムの試料配列決定において、複数の染色体を有する試料における、ゲノムにおける、細胞における、細胞型における、細胞疾患状況における、および種における個々の核酸分子を同定することができる。例示的なバーコード配列として、TATAGCCT、ATAGAGGC、CCTATCCT、GGCTCTGA、AGGCGAAG、TAATCTTA、CAGGACGTおよびGTACTGACが挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
トランスポゾン末端配列、トランスポゾンおよびトランスポソーム複合体を調製するための方法は、本技術分野で公知である。
【0067】
本明細書において使用する場合、用語「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、共有結合により一体に連結された少なくとも2個のヌクレオチド単量体を指す。核酸は一般に、ホスホジエステル結合および天然塩基を含有するが、一部の実施形態では、例えば、PCT公開番号WO2016/130704に記載されている通り、非天然骨格および/または塩基を含むことができる。上記核酸は、単一の細胞、単一の核、複数の細胞、複数の核に由来する、または環境試料由来等のメタゲノム試料でのように複数の種に由来する、さらに、混合試料、例えば、同じ種の異なる個体の混合組織試料もしくは混合試料、がん関連核酸等の疾患試料などに由来する、DNA、例えば、ゲノムDNAもしくはcDNA、RNAまたはハイブリッドであり得る。核酸は、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドのいずれかの組合せ、ならびに天然塩基または非天然塩基、アナログもしくは合成塩基を含む塩基のいずれかの組合せを含有することができる。
【0068】
本明細書において使用する場合、用語「検出」および/またはその文法上の均等物は、解析物の存在もしくは現存(existence)を同定すること、解析物の個々の構成成分、例えば、配列情報を同定すること、および/または斯かる解析物の量を定量することを指すことができる。一部の実施形態では、検出することは、本明細書に記載されている方法によって産生されたタグ付けされた情報分子またはアンプリコンの配列を検出することを含む。
【0069】
一部の実施形態では、標的情報分子、細胞および/または核は、生体試料または患者試料が挙げられるがこれらに限定されない、DNAおよび/またはmRNAを含むいずれかの生物学的検体から得ることができる。上記細胞および/または細胞核の供給源は、例えば、細菌、植物、寄生生物、昆虫、動物もしくは哺乳動物(例えば、ラット、マウス、サル、非ヒト霊長類、ヒト)、またはそれらの混合物であり得る。用語「生体試料」または「患者試料」は、本明細書において使用する場合、1種または複数種の細胞、組織または体液等の試料を含む。試料は、浸軟した組織またはライセート等、天然のまたは加工された試料を含むことができる。「体液」として、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、気管支吸引液、胸水、滑液包液、滑液、涙、乳管(lactal duct)液、リンパ液、粘液、痰、尿、糞便、羊水もしくは精液またはそれらの混合物を挙げることができるがこれらに限定されない。組織は、生検試料、腫瘍試料または皮膚を含むことができる。試料は、血漿または血清等、約1%(w/w)未満の全細胞物質を含む体液を含むことができる。試料は、天然または合成起源の検体(すなわち、無細胞にされた細胞試料)を含むことができる。
【0070】
一部の実施形態では、本方法は、鎖置換ポリメラーゼ(例えば、BstポリメラーゼまたはPhi29ポリメラーゼ)等のポリメラーゼで、タグ付き断片化された核酸を処理して、タグ付き断片化された物質からトランスポサーゼを除去するステップをさらに含む。斯かる実施形態では、核内のタグ付き断片化された核酸を、ポリメラーゼ(例えば、鎖置換ポリメラーゼ)およびドデシル硫酸ナトリウムで処理して、PCR増幅を可能にすることができる。他の実施形態では、タグ付けされた情報分子を、鎖置換ポリメラーゼ等のポリメラーゼで処理して、PCR増幅を可能にすることができる。
【0071】
一部の実施形態では、方法は、転位を起こさせた細胞核を脱イオン水と接触させるステップをさらに含む。よって、方法は、細胞または核を脱イオン水で処理することにより、処理された該細胞または核からタグ付けされた核酸または抗体-タンパク質/ペプチド複合体等の解析用複合体を除去するステップをさらに含むことができる。斯かる処理は、水の浸透圧性流入を生じ、これにより、核構造体(nuclear body)を膨張させる。一部の実施形態では、核透過性増強剤による細胞または核の処理は、脱イオン水による処理を含む。斯かる膨張は、核膜孔サイズをさらに増加させて、核空間へのトランスポソーム複合体のさらなる流入を可能にするように機能する(
図10を参照)。
【0072】
一部の実施形態では、核透過性増強剤による処理は、高塩バッファーの存在下で行われる。バッファーは、核物質が核構造体から排出されるような、核膜全体にわたって浸透圧差を生じる。斯かる処理は、上記核膜の破壊に対する時間的制御を可能にするであろう(
図10を参照)。
【0073】
透過性増強剤による核の処理なしでも、少量のトランスポソーム複合体は、核物質へのアクセスを獲得する。よって、一部の実施形態では、方法は、核膜孔遮断剤の存在下、核透過性増強剤の非存在下で、細胞質情報分子を第1の解析用生体分子と反応させるステップを含む。その後のステップにおいて、上記核膜孔遮断剤および/または細胞質物質は、必要に応じて除去され、残っている細胞物質が、核透過性増強剤の存在下で第2の解析用生体分子で処理される。このようにして、その細胞質構成成分および核構成成分は、直交性にタグ付けされる。適した核膜孔遮断剤は、コムギ胚芽凝集素、レプトマイシンB、上記NPCに特異的な抗体(例えば、Adam, S.A.ら、J. Cell Biol.1990年、111巻(3号)、807~816頁;Mooreら、Cell 1992年、69巻(6号)、939~950頁を参照)、またはNPCもしくはゲート開閉イオンチャネルに結合する他のリガンド、酵素もしくは生体分子等の剤(agent)を含む。
近接性保存エレメント
【0074】
一部の実施形態では、近接性保存エレメント(CE)を用いて、単一の細胞および/または単一の核情報を保存する。一部の実施形態では、単一の核の近接性情報は、個々の核または個々の細胞の区画化によって保存される。一部の実施形態では、斯かる区画化は、マイクロウェル、微小滴もしくはマイクロカプセル等の物理的区画に単一の核もしくは細胞を局在化させることにより、またはハイドロゲルを使用してまたはマイクロビーズ上にもしくはその中に遺伝物質を固定することにより達成される。斯かるプロセスは、上記核物質へのより直接的なアクセスを与えつつ、転位の際の上記細胞近接性および/または核近接性を有効に維持する。斯かるアプローチは、別々の核からの核物質の相互汚染も低下させる。一部の実施形態では、CEは、標的核酸を含むことができる。
【0075】
一部の実施形態では、本方法は、近接性保存エレメント内に保存、包埋または含有された核酸を配列決定するステップを含む。特に、本明細書に提供されている方法および組成物の実施形態は、核酸鋳型を調製し、そこから配列データを得るステップに関する。本明細書に提供されている方法および組成物は、それらそれぞれの全体を参照により組み込む、米国特許出願公開第2012/0208705号および同第2012/0208724号ならびにPCT公開番号WO2012/061832に提供されている方法および組成物に関係付けられる。本明細書に発表されている一部の実施形態は、近接性保存エレメント(複数可)内のDNAを調製して、標的核酸から位相および配列アセンブリ情報を得て、斯かる鋳型から位相および配列アセンブリ配列情報を得るステップに関する。本明細書に提供されている特定の実施形態は、断片化された核酸の会合末端の物理的近傍を維持するための、インテグラーゼ、例えば、トランスポサーゼの使用;および各近接性保存エレメントから個々のライブラリーを作製するための、コンビナトリアル指標付けの使用に関する。ハプロタイプ情報を得ることは、標的核酸における異なるアレル(例えば、SNP、遺伝的異常等)間の区別を含む。斯かる方法は、標的核酸における異なるアレルの特徴付けおよび配列情報における誤差率を低下させるのに有用である。
【0076】
一部の実施形態では、上記CEは、細胞または単一の細胞を含む。一部の実施形態では、CEは、DNA、mRNAまたはcDNA等の細胞または単一の細胞由来の核酸;タンパク質、多糖、脂質および核酸を含む細胞または単一の細胞の巨大分子、ならびに細胞または単一の細胞由来の一次代謝物、二次代謝物および天然産物等の小分子を含む。一部の実施形態では、上記核酸は、該核酸を含む上記CEを形成する前にPCRまたは全ゲノム増幅等の増幅を受ける。一部の実施形態では、上記DNAおよびmRNAの解析は、並行して行うことができる。一部の実施形態では、上記細胞膜は、CEである。
【0077】
一部の実施形態では、上記CEは、核または単一の核を含む。一部の実施形態では、上記CEは、核または単一の核由来の核酸を含む。一部の実施形態では、上記核膜は、CEである。
【0078】
図2に示す通り、本開示は、近接性情報を維持する細胞区画および核区画へのアクセスの様々な機序を企図する。一部の実施形態では、上記細胞は、上記核(例えば、核膜孔複合体)が、解析用生体分子、または解析用生体分子と核情報分子との相互作用を可能とするのに必要とされる試薬の進入から遮断されたCEエレメントである(
図2A)。上記核膜は、したがって、細胞質内容物対核内容物との差別的反応を可能にするCEである。斯かる実例では、上記細胞膜は、第2のCEとして使用することができる、または上記細胞は、さらなるCEにおいて区画化することができる。一部の実施形態では、核内容物は、上記細胞膜の透過性を増強すること、細胞透過性生体分子を使用すること、および/または上記核膜の透過性を増強することによりアクセスされる(
図2B)。他の実施形態では、単離された核の核膜は、核透過性増強剤で処理されると、CEとして機能することができる(
図2C)。これらの方法は全て、微小滴、マイクロビーズ(ハイドロゲル)、マイクロウェルおよび他の種類の区画等、追加のCEと併せて使用して、情報近接性を維持することができる。
【0079】
一部の実施形態は、RNA、DNAまたはそれらの混合物からライブラリーを調製し、RNA、DNA、またはRNAおよびDNAの両方に関する単一の細胞データを得る方法である。一部の実施形態は、RNA、DNA、タンパク質またはそれらのいずれかの組合せからライブラリーを調製する方法である。
【0080】
一部の実施形態では、上記単一の細胞内の複数の標的情報分子が、上記CE内で放出されるように、細胞は該CE内で溶解される。一部の実例では、細胞質構成成分が上記CE内で放出され、核がインタクトなままとなるように、上記細胞は溶解されるが、該核は溶解されない。
【0081】
一部の実施形態では、核酸または他の情報分子が、物理的に分配および/または直交性にタグ付けされるように、複数のCEが、コンビナトリアルタグ付けアプローチと併せて用いられる。
【0082】
一実施形態では、標的は、液滴等のCEへと希釈することができる。必要に応じた全ゲノム増幅を用いることができ、上記標的核酸のほぼ一倍体同等物と等価な量の鋳型核酸から配列情報を得ることができる。
【0083】
一部の実施形態では、単一の細胞または核内の構成成分を、異なる単一の細胞または核由来の構成成分から同定することができるように、複数のコンビナトリアル標識スキームを、上記核酸に加えて、単一の細胞内の構成成分、例えば、タンパク質、オルガネラ、脂質または細胞膜に用いることができる。一部の実施形態では、CEは、単一の細胞または単一の核内に上記構成成分を含むことができる。一部の実施形態では、CE内の単一の細胞および/または単一の核の構成成分は、異なるCE内の単一の細胞および/または核の構成成分とは異なる同定可能な特有の標識(複数可)を有する。
【0084】
一部の実施形態では、複数のコンビナトリアルバーコード付けスキームを用いることができる。一部の実施形態では、斯かるコンビナトリアルバーコード付けおよびコンビナトリアル標識付けは、単一の細胞を含むCE内で行うことができる。一部の実施形態では、斯かるコンビナトリアルバーコード付けおよびコンビナトリアル標識付けは、単一の細胞または核を含む複数のCEについて並行して行うことができる。
【0085】
近接性保存エレメント(CE)は、1つまたは複数のアッセイステップを通して、ごく近傍にある(または近接した)少なくとも2つもしくはそれよりも多いまたは全ての解析物を保存し、アッセイ試薬へのアクセスを提供する物理的実体であり、該解析物の近傍性を失うことなく、複数回プールおよび分割することができる。
【0086】
一部の実施形態では、上記CEは、固体支持体であり得る。一実施形態では、上記CEは、エマルションまたは液滴であり得る。一部の実施形態では、上記CEは、ゲル、ハイドロゲルまたはゲルビーズである。一部の実施形態では、上記CEは、ビーズ等の固体支持体を含むことができる。一部の実施形態では、ビーズは、抗体、オリゴヌクレオチドおよび/またはバーコードをさらに含むことができる。別の実施形態では、CEは、いずれかの核酸試薬のWGA、RCAまたは凝縮によって作製されたDNAナノボール(nanoball)を構成することができる。
【0087】
一部の実施形態では、CEは、例えば、アガロース、ポリアクリルアミド、アルギネート等のポリマーマトリックスにおいて、細胞由来のもしくは単一の細胞由来の核酸またはその増幅産物(WGA等による)を包埋することにより作製することができる。一部の実施形態では、CE内の上記細胞の内容物または単一の細胞の内容物の近接性は、被包(ポリマーマトリックス内など)、ビーズへの固定または封入により、互いへの上記構成成分の物理的近傍性を保存することにより維持され、反復ラウンドのプールおよび再分布により該CE内の近接性情報を有効に維持する。個々のCEを構成する解析物の近接性を依然として維持しつつ、一群のCEが、独立にプールおよび分割され、アッセイ試薬と反応し、再度プールおよび分割され得る等の特色は、異なる分割およびプールステップによるコンビナトリアル指標付けを可能にする。
【0088】
一部の実施形態では、近接性保存エレメントにおける解析物は、水溶液、酵素(例えば、フラグメンターゼ(fragmentase)、ポリメラーゼ、リガーゼ、トランスポサーゼ、キナーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼまたはリパーゼ)、核酸アダプター、核酸バーコードおよび/または標識を含むアッセイ試薬にアクセスできる。
【0089】
一部の実施形態では、CEの1種または複数種の解析物は、1種または複数種の標識を標識される。例示的な標識として、DNAバーコードまたは指標、蛍光標識、化学発光標識、RNAバーコードまたは指標、放射性標識、標識を含む抗体、標識を含むビーズが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
一部の実施形態では、方法は、(a)標的核酸を含むCEを、複数の第1の容器に区画化するステップと、(b)各第1の容器の該標的核酸に第1の指標を与え、これにより、第1の指標付けされた核酸を得るステップと、(c)該第1の指標付けされた核酸を組み合わせるステップと、(d)第1の指標付けされた鋳型核酸を、複数の第2の容器に区画化するステップと、(e)各第2の容器の該第1の指標付けされた鋳型核酸に第2の指標を与え、これにより、第2の指標付けされた核酸を得るステップとを含むことができる。上記ステップa~eは、該a~eシリーズの1つまたは複数のステップの追加のサイクルにより続けて、追加の仮想的区画を得ることができる。コンビナトリアル指標付けの本方法を使用して、限られた数の物理的区画から多数の仮想的区画を有効に作製することができる。
【0091】
一部の実施形態では、方法は、(a)核酸レポーターを取り付けた非核酸解析物(例えば、タンパク質)を含むCEをもたらすステップと、(b)該CEを複数の第1の容器に区画化するステップと、(c)各第1の容器の標的核酸レポーターに第1の指標を与え、これにより、第1の指標付けされた標的核酸レポーターを得るステップと、(d)該第1の指標付けされた核酸レポーターを組み合わせるステップと、(e)第1の指標付けされたCEを、複数の第2の容器に区画化するステップと、(f)各第2の容器の該第1の指標付けされた核酸レポーターに第2の指標を与え、これにより、第2の指標付けされた核酸レポーターを得るステップとを含むことができる。上記ステップa~fは、該a~fシリーズの1つまたは複数のステップの追加のサイクルにより続けて、追加の仮想的区画を得ることができる。上記区画化ステップは、PLA、PEA、または核酸を捕捉もしくは増幅する他の技法等、核酸増幅または捕捉ステップをさらに含むことができる。
【0092】
一部の実施形態では、核酸(単数または複数)を、核酸を定義された空間に閉じ込めるが、試薬アクセスを可能にするマトリックスに包埋して、増幅(PCR、全ゲノム増幅、ランダムプライマー伸長等)、ライゲーション、転位、ハイブリダイゼーション、制限消化およびDNA変異誘発が挙げられるがこれらに限定されないステップを行うことができる。変異誘発の例として、エラープローン伸長、アルキル化、亜硫酸水素塩変換および活性化誘導性(シチジン)デアミナーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
一部の実施形態では、CEにおける目的の解析物は、タンパク質である。タンパク質は、バーコードまたは代替標識で標識することができる。上記バーコードまたは標識は、従来のアレイまたは配列に基づく方法を使用して読み取ることができる。個々の細胞それぞれにおけるタンパク質の同一性および存在量を確立するためのバーコード配列の検出と共に、近傍ライゲーションアプローチおよび抗体-指標配列を使用して、タンパク質を検出することができる(参照により本明細書に組み込むFredrikssonら、Nature Biotechnology 20巻、473~477頁(2002年))。タンパク質は、in vivoおよびin vitro部位特異的化学的標識戦略を含む、当業者に公知の様々な方法(www.piercenet.com/cat/protein-antibody-labeling)によって標識することができる。
【0094】
一部の実施形態では、近接性保存エレメントは、単一の細胞を含むことができ、この細胞由来の核酸を増幅することができる。その後、各近接性保存エレメントは、コンビナトリアル指標付けスキームにより特有に指標付けすることができる。一部の実施形態では、コンビナトリアル指標付けアプローチを使用することができる。例えば、初期指標は、断片化(酵素による)およびアダプターライゲーションを使用した標準ライブラリー調製技法により、またはトランスポサーゼ複合体を使用したタグ付き断片化により、ゲノムDNAまたはcDNAに取り付けられる。その後の指標は、ライゲーションまたはPCRを介してライブラリーに取り付けられる。指標付けされたアダプターを逐次様式で付加することが容易なため、ライゲーションが好まれる。最終ステップは、単なる指標付けPCRまたはライゲーションおよびPCRを伴い得る。
【0095】
細胞生体分子の差別的指標付け:DNA、RNA、ミトコンドリアDNA、タンパク質等の生体分子を含有する細胞および細胞下区画は、細胞近接性を保存することにより、ゲノムアッセイのために特異的かつ直交性に指標付けすることができる。これは、他の区画ではなくある特定の区画へのイオンまたは他のタンパク質の選択的輸送を可能にする、細胞下区画の膜タンパク質(細胞膜、核膜およびミトコンドリア膜)の差別的標的化によって達成することができる。例えば、核膜タンパク質は、コムギ胚芽凝集素、レプトマイシンB、およびNPCに特異的な抗体等の遮断剤分子により遮断することができるが、シクロスポリンA、オリゴマイシンおよび他の化合物は、ミトコンドリア膜タンパク質を遮断する。このアプローチは、細胞の細胞下区画内の遺伝物質の指標付けを可能にし(転位、スプライスライゲーション等に限定されない)、細胞内に特異的に標的化された、より優れた精密な配列決定読み取りデータをもたらす。
【0096】
一部の態様では、細胞の異なる区画由来の情報分子を差別的に指標付けする方法が本明細書に記載されている。一部の態様では、斯かる方法は、
細胞核、細胞質およびミトコンドリアからなる群から選択される第1の細胞区画に、第1のタグを含む第1の解析用生体分子を選択的に送達するステップであって、該第1の細胞区画が、第1の情報生体分子を含む、ステップと、
該第1の解析用生体分子を該第1の情報分子と反応させて、タグ付けされた第1の情報分子をもたらすステップと、
細胞核、細胞質およびミトコンドリアからなる群から選択される第2の細胞区画に、第2のタグを含む第2の解析用生体分子を選択的に送達するステップであって、該第2の細胞区画が、第2の情報分子を含み、該第1の細胞区画とは異なる、ステップと、
該第2の解析用生体分子を該第2の情報分子と反応させて、タグ付けされた第2の情報分子をもたらすステップであって、該第1および第2のタグが異なる、ステップと
を含む。
【0097】
一部の実施形態は、細胞質情報分子および核情報分子を差別的に指標付けする方法であって、(a)細胞の核への第1の解析用生体分子の実質的な送達なしで、該細胞の細胞質に、第1のタグを含む該第1の解析用生体分子を送達するステップと、(b)該第1の解析用生体分子を細胞質情報分子と反応させ、これにより、該細胞質情報分子に該第1のタグまたはその相補体を付加して、タグ付けされた細胞質情報分子をもたらすステップと、(c)核透過性増強剤および第2のタグを含む第2の解析用生体分子で該細胞を処理し、これにより、該細胞の核に該第2の解析用生体分子を送達するステップと、(d)該第2の解析用生体分子を細胞核情報分子と反応させ、これにより、該細胞核情報分子に該第2のタグまたはその相補体を付加して、タグ付けされた細胞核情報分子をもたらすステップとを含む方法である。一部の実施形態では、上記細胞質への送達は、核膜孔遮断剤および/またはミトコンドリアポア遮断剤(mitochondrial pore blocker)による上記細胞の処理をさらに含む。一部の実施形態では、本方法は、上記細胞を溶解して、タグ付けされた分子を放出させるステップをさらに含む。一部の実施形態では、検出されたときに区別可能になるように、上記第1および第2のタグは直交性である、または増幅等、その後の操作ステップにおいて別々に標的化され得る。一部の実施形態では、細胞質情報分子は、RNAである。一部の実施形態では、上記細胞核情報分子は、DNAまたはゲノムDNA(gDNA)である。一部の実施形態では、上記解析用生体分子は、トランスポソームである。一部の実施形態では、本方法は、上記タグ付けされた分子またはそのアンプリコンの検出をさらに含む。一部の実施形態では、本方法は、上記タグ付けされた分子の選択的増幅をさらに含む(例えば、第1のタグ付けが第2のタグ付けを上回る、またはその逆である)。
【0098】
他の態様では、本方法は、(a)第1のタグを含む第1の解析用生体分子をミトコンドリア情報分子と反応させて、タグ付けされたミトコンドリア情報分子を産生するステップと、(b)第2のタグを含む第2の解析用生体分子を細胞核情報分子と反応させて、タグ付けされた細胞核情報分子を産生するステップとを含む。一部の実施形態では、本方法は、ミトコンドリア膜透過性増強剤および上記第1の解析用生体分子で細胞を処理することにより、該ミトコンドリアに該第1の解析用生体分子を送達するステップをさらに含む。一部の実施形態では、上記ミトコンドリアへの送達は、核膜孔遮断剤による上記細胞の処理をさらに含む。一部の実施形態では、上記ミトコンドリアへの送達は、上記細胞の核への上記第1の解析用生体分子の実質的送達を含まない。一部の態様では、上記ミトコンドリア情報分子は、DNAである。一部の態様では、上記細胞核情報分子は、DNAである、またはゲノムDNA(gDNA)である。一部の実施形態では、検出されたときに区別可能となるように、上記第1および第2のタグは直交性である、または増幅等、その後の操作ステップにおいて別々に標的化され得る。一部の実施形態では、上記解析用生体分子は、トランスポソームである。一部の実施形態では、本方法は、上記タグ付けされた分子またはそのアンプリコンの検出をさらに含む。
【0099】
一部の態様では、上記第1の細胞区画への上記第1の解析用生体分子の選択的送達は、上記第1の細胞区画のための透過性増強剤による上記細胞の処理を含む。一部の実施形態では、上記第1の細胞区画への上記第1の解析用生体分子の選択的送達は、上記第2の細胞区画のための透過性遮断剤による上記細胞の処理を含む。一部の実施形態では、上記第2の細胞区画への上記第2の解析用生体分子の選択的送達は、該第2の細胞区画のための透過性増強剤による上記細胞の処理を含む。一部の実施形態では、上記第1の解析用生体分子の選択的送達は、上記第2の細胞区画への該第1の解析用生体分子の実質的送達なしで起こる。
【0100】
一部の実施形態では、上記第1の細胞区画は、上記細胞質であり、上記第1の情報分子は、細胞質情報分子であり、(a)上記第2の細胞区画は、上記細胞核であり、上記第2の情報分子は、細胞核情報分子である、または(b)上記第2の細胞区画は、上記ミトコンドリアであり、上記第2の情報分子は、ミトコンドリア情報分子である。一部の実施形態では、上記細胞質への上記第1の解析用生体分子の選択的送達は、核膜孔遮断剤および/またはミトコンドリアポア遮断剤の存在下で為される。一部の実施形態では、上記第2の解析用生体分子の送達は、核透過性増強剤またはミトコンドリア透過性増強剤の存在下で為される。
【0101】
本明細書において使用する場合、「ミトコンドリア透過性増強剤」は、酵素等の試薬に対するミトコンドリアの透過性を増強する。斯かる増強剤は、上記ミトコンドリアを溶解しない。例示的なミトコンドリア透過性増強剤は、ミトコンドリアポアを通る流れを増加させる剤を含む。例として、無機ポリリン酸塩が挙げられる(例えば、Seidlmayerら、J.Gen. Physiol.2012年、139巻(5号)、321~331頁を参照)。
【0102】
本明細書において使用する場合、用語「選択的送達」またはその文法上の変種は、別の区画を上回るある細胞区画への剤の増強された送達を指す。選択的送達は、無処理の場合の区画の透過性と比べて、ある区画の透過性を増強すること、またはある区画の透過性を遮断することにより達成することができる。選択的送達は、100%選択的である必要はないが、その結果得られるライブラリーにおける異なる区画由来のタグ付けされた情報分子の相対的割合の増加を含むことができる。
解析および配列決定
【0103】
本明細書に提供されている方法の一部は、核酸を解析する方法を含む。斯かる方法は、標的核酸の鋳型核酸のライブラリーを調製するステップと、鋳型核酸のライブラリーから配列データを得るステップと、斯かる配列データ由来の標的核酸の配列表示をアセンブルするステップとを含む。
【0104】
標的核酸および鋳型核酸は、本技術分野で周知の様々な方法を使用して、目的のある特定の配列に関して富化することができる。斯かる方法の例は、その全体を参照により本明細書に組み込む、PCT公開番号WO2012/108864に提供されている。一部の実施形態では、核酸は、鋳型ライブラリーを調製する方法においてさらに富化することができる。例えば、核酸は、核酸のタグ付き断片化の前に、タグ付き断片化の後に、および/または増幅の後に、ある特定の配列に関して富化することができる。
【0105】
本明細書に記載されている技術の一部の実施形態は、鋳型核酸を解析する方法を含む。斯かる実施形態では、配列決定情報は、鋳型核酸から得ることができ、この情報を使用して、1種または複数種の標的核酸の配列表示を生成することができる。
【0106】
本明細書に記載されている配列決定方法の一部の実施形態では、連結読み取りデータ戦略を使用することができる。連結読み取りデータ戦略は、少なくとも2個の配列決定読み取りデータを連結する配列決定データの同定を含むことができる。例えば、第1の配列決定読み取りデータは、第1のマーカーを含有することができ、第2の配列決定読み取りデータは、第2のマーカーを含有することができる。上記第1および第2のマーカーは、上記標的核酸の配列表示において隣接すると、各配列決定読み取りデータから配列決定データを同定することができる。本明細書に記載されている組成物および方法の一部の実施形態では、マーカーは、第1のバーコード配列および第2のバーコード配列を含むことができ、該第1のバーコード配列は、該第2のバーコード配列と対形成することができる。他の実施形態では、マーカーは、第1の宿主タグおよび第2の宿主タグを含むことができる。より多くの実施形態では、マーカーは、第1の宿主タグを有する第1のバーコード配列、および第2の宿主タグを有する第2のバーコード配列を含むことができる。
【0107】
鋳型核酸を配列決定するための方法の例示的な実施形態は、次のステップを含むことができる:(a)第1のプライマー部位にハイブリダイズする配列決定プライマーを使用して第1のバーコード配列を配列決定するステップと、(b)第2のプライマーにハイブリダイズする配列決定プライマーを使用して第2のバーコード配列を配列決定するステップ。その結果は、そのゲノム上の近隣に上記鋳型核酸を連結するのに役立つ2個の配列読み取りデータである。十分に長い読み取りデータおよび十分に短いライブラリー断片を考慮すると、これら2個の読み取りデータを情報学的に統合して(merged informatically)、断片全体を網羅する1個の長い読み取りデータを作製することができる。バーコード配列読み取りデータ、および挿入から存在する9ヌクレオチド重複配列を使用して、ここで、読み取りデータは、そのゲノム上の近隣に連結して、in silicoではるかにより長い「連結読み取りデータ」を形成することができる。
【0108】
理解される通り、鋳型核酸を含むライブラリーは、重複核酸断片を含むことができる。重複核酸断片の配列決定は、重複断片のためのコンセンサス配列を作製するステップを含む方法において有利である。斯かる方法は、鋳型核酸のためのコンセンサス配列および/または鋳型核酸のライブラリーを提供するための精度を増加させることができる。
【0109】
一部の実施形態では、解析は、単一の細胞由来の、または1種または複数種の細胞および/または核区画由来の、DNAもしくはRNAもしくはタンパク質またはそれらのいずれかの組合せが関与し得る。一部の実施形態では、上記解析は、10、100、1000、10,000、100,000、1,000,000、10,000,000、100,000,000、1,000,000,000個またはそれよりも多い細胞、または細胞区画および/または核区画にわたって実行される。
【0110】
本明細書に記載されている配列決定技術の一部の実施形態では、配列解析は、リアルタイムで行われる。例えば、リアルタイム配列決定は、配列決定データを同時に取得および解析することにより行うことができる。一部の実施形態では、配列決定データを得るための配列決定プロセスは、標的核酸配列データの少なくとも部分が得られた後、または核酸読み取りデータ全体が配列決定される前を含む、様々なポイントで終結することができる。例示的な方法、システムおよびさらなる実施形態は、その開示全体を参照により本明細書に組み込む、国際特許公開番号WO2010/062913に提供されている。
【0111】
連結読み取りデータ戦略を使用して短い配列決定読み取りデータをアセンブルするための方法の例示的な実施形態では、バーコードを含むトランスポゾン配列が、ゲノムDNAに挿入され、ライブラリーが調製され、鋳型核酸のライブラリーのための配列決定データが得られる。鋳型のブロックは、対形成されたバーコードを同定することによりアセンブルすることができ、次いで、より大型のコンティグがアセンブルされる。一実施形態では、アセンブルされた読み取りデータは、重複する読み取りデータを使用したコード対形成により、より大型のコンティグへとさらにアセンブルすることができる。
【0112】
本明細書に記載されている配列決定技術の一部の実施形態は、エラー検出および補正特色を含む。エラーの例として、配列決定プロセスの際の塩基コールにおけるエラー、およびより大型のコンティグへの断片のアセンブルにおけるエラーを挙げることができる。理解される通り、エラー検出は、データセットにおけるエラーの存在または見込みの検出を含むことができ、したがって、エラーの箇所またはエラーの数の検出は、要求されない場合がある。エラー補正のため、データセットにおけるエラーの箇所および/またはエラーの数に関する情報が有用である。エラー補正のための方法は、本技術分野で周知である。例として、ハミング距離の使用、およびチェックサムアルゴリズムの使用が挙げられる(例えば、それらの開示全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許出願公開第2010/0323348号;米国特許第7,574,305号;および米国特許第6,654,696号を参照)。
【0113】
一部の実施形態では、細胞タンパク質および/または核タンパク質は、解析、検出および/または配列決定することができる。一部の実施形態では、斯かるタンパク質は、特有に標識される。一部の実施形態では、上記タンパク質は、1種または複数種のCE内に保存、包埋、固定または含有される。同定および配列決定は、本技術分野で公知の方法を使用して行うことができる。一部の実施形態では、上記タンパク質の同定および/または配列決定は、上記核酸の配列情報を集めることと共に実行することができる。
【0114】
一部の実施形態では、指標付けは、PCTの際に共通ライブラリーアダプターの逆相補体配列を含有するビーズ上のオリゴヌクレオチドから指標付けプライマーを生成することにより行うことができる(後述する実施例3を参照)。PCTの際に、例えば、P7プライマーは、ビーズ上のオリゴヌクレオチドの3’末端におけるその相補体配列にハイブリダイズし、その伸長は、十分に機能的な指標付けされたオリゴヌクレオチドの生成をもたらす。指標付けされたオリゴヌクレオチドの量は、適切なアニーリング温度におけるPCRサイクルの数によって特異的に制御することができる。次に、合成されたPCRプライマーは、転位によって導入されたライブラリー断片のB15領域にハイブリダイズし、増幅を起こす。P7プライマーは、配列決定のためにPCR後にATAC-seq断片を富化するためにビオチン化することができる。
固体支持体
【0115】
本明細書に記載されている固体支持体は、配列決定および解析に使用することができる。固体支持体は、近接性保存エレメントとして使用することもできる。固体支持体は、二次元または三次元であり得、平面の表面(例えば、スライドグラス)を含むことができる、または成形することができる。固体支持体は、ガラス(例えば、制御ポアガラス(CPG))、石英、プラスチック(ポリスチレン(低架橋および高架橋ポリスチレン)、ポリカーボネート、ポリプロピレンおよびポリ(メチルメタクリレート)等)、アクリルコポリマー、ポリアミド、シリコン、金属(例えば、アルカンチオレート誘導体化金)、セルロース、ナイロン、ラテックス、デキストラン、ゲルマトリックス(例えば、シリカゲル)、ポリアクロレインまたは複合材料を含むことができる。
【0116】
適した三次元固体支持体は、例えば、球、マイクロ粒子、ビーズ、ナノ粒子、アガロース、ポリアクリルアミド、アルギネート等のポリマーマトリックス、膜、スライド、プレート、微細加工チップ、チューブ(例えば、キャピラリーチューブ)、マイクロウェル、マイクロ流体デバイス、チャネル、フィルター、フローセル、核酸、タンパク質または細胞の固定に適した構造を含む。固体支持体は、鋳型核酸またはプライマーの集団を含む領域を有することができる平面アレイまたはマトリックスを含むことができる。例として、ヌクレオシド誘導体化CPGおよびポリスチレンスライド;誘導体化磁性スライド;ポリエチレングリコールをグラフトしたポリスチレン、などが挙げられる。
【0117】
一部の実施形態では、上記固体支持体は、マイクロスフェアまたはビーズを含む。本明細書における「マイクロスフェア」または「ビーズ」または「粒子」または文法上の均等物とは、球状、非球状または不規則な形状であり得る小型の別々の粒子を意味する。適したビーズ組成物として、プラスチック、セラミクス、ガラス、ポリスチレン、メチルスチレン、アクリルポリマー、常磁性材料、トリアゾル(thoria sol)、炭素黒鉛、二酸化チタン、ラテックス、またはセファロース等の架橋デキストラン、セルロース、ナイロン、架橋ミセルおよびテフロン(登録商標)が挙げられるが、これらに限定されず、ならびに、固体支持体のための本明細書に概要を述べる他のいずれの材料も、全て使用可能である。ある特定の実施形態では、マイクロスフェアまたはビーズは、磁性コートおよび/またはカラーコートして、分離および操作を可能にする。ビーズまたはマイクロスフェアは、中実または中空であり得、多孔性であり得る。ビーズまたはマイクロスフェアの多孔度は、材料および形成方法の適切な選択によって、必要な場合、調整することができる。ビーズサイズは、ナノメートル、すなわち、100nmからミリメートル、すなわち、1mmに及び、約0.2ミクロン~約200ミクロンのビーズが好まれ、約0.5~約5ミクロンのビーズが特に好まれるが、一部の実施形態では、より小型のまたはより大型のビーズを使用することができる。
【0118】
一部の実施形態では、上記ビーズは、抗体または他の親和性プローブを含むことができる(典型的な取り付けプロトコールのため、参照により本明細書に組み込む、Immobilized Biomolecules in Analysis. A Practical Approach、CassT,Ligler F S編、Oxford University Press、New York、1998年、1~14頁を参照)。一部の実施形態では、上記抗体は、モノクローナルであり得、他の実施形態では、上記抗体は、ポリクローナルであり得る。一部の実施形態では、上記抗体は、細胞表面エピトープに特異的であり得る。一部の実施形態では、上記抗体は、上記細胞内側のタンパク質に特異的であり得る。
【0119】
一部の実施形態では、本明細書に提供されている核酸鋳型は、固体支持体に取り付けることができる。本技術分野で周知の様々な方法を使用して、上記固体支持体の表面に核酸を取り付ける、繋留するまたは固定することができる。
【0120】
一部の実施形態では、上記固体支持体は、上記細胞、上記細胞ならびに該細胞の細胞区画および核区画、上記細胞の細胞区画および核区画、または上記細胞の核区画を被包することができる。
【実施例】
【0121】
次の実施例は、説明のために供されているが、本明細書に提供されている開示を限定するものではない。
(実施例1)
細胞透過性クラスリン阻害剤による核DNAのタグ付き断片化
【0122】
標準細胞培養プロトコールを使用して、タグ付き断片化反応のため、組織培養フラスコから1×106個のK562細胞(ヒトリンパ腫細胞株)を収集した。全細胞ペレット化/遠心分離ステップは、300×gで3分間4℃にて行った。新鮮に単離された細胞を遠心分離し、氷冷PBS(リン酸緩衝食塩水)に再懸濁した。その細胞を再度ペレット化し、200μL氷冷細胞溶解バッファー(Tris/NaCl/オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(IGEPAL CA-630洗剤))に懸濁して、5分間、氷上でインキュベートした。これに続いて、核を3分間300×gでスピンダウンし、200μLの溶解バッファーで1回洗浄し、ペレット化された核を、(a)30μM最終ピットストップ-2濃度を得るためのDMSO中のピットストップ-2(被験核)または(b)2%DMSO(対照核)を補充した1×Tagment DNAバッファー(PN:15027866)において、30分間55℃でNextera Tn5トランスポサーゼ(TDE1)により転位させた。各試料由来の核をペレット化し、大部分の上清を注意深く除去した。
(実施例2)
鎖置換ポリメラーゼによるタグ付き断片化されたDNAからのトランスポサーゼの除去
【0123】
先の実施例由来のタグ付き断片化された核(被験プールおよび対照プール)を、50mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、10mM (NH4)2SO4、4mM DTT、0.005%SDS、200μM各dNTPおよび10ユニットのPhi29 DNAポリメラーゼ(New England BioLabs)を含有するPhi29反応混合物に再懸濁し、その結果得られる混合物を、サーモサイクラー(thermocycler)において30分間30℃でインキュベートした。次に、卓上ストリップチューブ遠心分離機における穏やかな遠心分離によって核をペレット化し、最終容量30μLのTrisバッファー中30%Optiprep(Sigma-Aldrich)に再懸濁した。
(実施例3)
FAM標識複合体による核へのトランスポソームアクセスの可視化
【0124】
実施例1の方法を使用して、核区画へとFAM標識トランスポソーム複合体を移入した。オリゴヌクレオチド合成の際に5’末端をFAM(6-FAM、Integrated DNA Technologies)で標識されたトランスポゾン配列と複合体形成したNextera Tn5トランスポサーゼを使用して、また、2%DMSO対照および様々な濃度のピットストップ-2(10μM、30μMおよび60μM)を使用して、実施例1に記載されている通りに核を単離し処理した。
図3に示す通り、ピットストップ-2による処理は、核空間、特に、核周辺へのFAM標識トランスポソームの流入を増加させた(矢印で示す)。
(実施例4)
DNAライブラリー生成におけるピットストップ-2処理の効果
【0125】
単離された核(50,000個)を、先行する実施例に記載されている通り、異なる濃度のピットストップ-2(0~80μM)の存在下で、Nextera Tn5キットにより転位させた。過剰なトランスポソームを短時間の遠心分離により除去し、その結果得られる核ペレットを、Qiagenプロテアーゼ(ID 19155)で1時間50℃にて、続いて10分間80℃にて処理した。その結果得られるライセートを、KAPA SYBR Fastマスターミックス、およびトランスポゾンのモザイク末端(ME)部分にアニーリングするプライマーを用いて、Bio-Radサーモサイクラーにおいて行われた25サイクル(cy)のqPCRにより解析した。異なるピットストップ-2濃度に対応するCq値、ならびにピットストップ-2試料および対照試料(ピットストップ-2なし)の間のデルタCqを表1に表示する。1のCq値は、DNAインプットの2倍差に大まかに対応する。その表に示す通り、ピットストップ-2によるインタクトな核の処理は、無処理対照と比較して、ライブラリー収量を増加させる。1のCq値は、DNAインプットの2倍差に大まかに対応する。
【表1A】
【0126】
様々な濃度のピットストップ-2ならびにTn5およびTsTn5トランスポサーゼを使用して、追加の実験を行った。これらの実験のデータを表1Bに示す。
【表1B】
(実施例5)
転位ライブラリーの配列決定
【0127】
先行する実施例に記載されている方法を使用して、K562(ヒトリンパ腫細胞株)核内容物からDNAライブラリーを生成した。上記ライブラリーを配列決定したところ、結果は、ピットストップ-2処理が、トランスポサーゼがアクセスできる遺伝子間およびオープンクロマチン領域へのアクセスを増強したことを実証した。第12染色体の部分にわたるATAC-seqプロファイルに関して
図4Aに示す通り、ライブラリーは、全ピットストップ-2濃度で遺伝子間領域を優勢に標的化した。
図4Bに示す通り、全ゲノム配列決定被覆度の基礎的測定基準を示す配列決定データのより詳細な解析は、ピットストップ-2による改善されたライブラリー収量と一致して、対照を上回るピットストップ-2処理試料のより優れた多様性および特有性を示した。
図4Cは、ヒトゲノムのプロモーターおよびコード領域にわたる正規化された被覆度を示し、そのデータは、30および60μMピットストップ-2による処理が、対照を上回ってATAC-seqプロファイルを改善したことを示し、遺伝子間領域にわたる増加された被覆度を示す。これらの結果は、ピットストップ-2処理が、核内へのトランスポソーム複合体のアクセスを増強し、核転位の効率を改善することを実証する。
(実施例6)
ピットストップ-2の存在下での転位核DNAの指標付け
【0128】
上記の通りのピットストップ-2(0、10、30および60μMの濃度で)の存在下でNextera Tn5キットにより転位したゲノムDNAを核から放出させ、オリゴヌクレオチド捕捉配列を含有する指標付けされたビーズに捕捉した。ビーズ捕捉DNAをさらに、ギャップ充填ライゲーションして(gap-fill ligated)、ゲノムDNAの両方の鎖を共通配列(特有の指標を含む)へと共有結合により連結し、PCRによって増幅した。アガロースゲル電気泳動によって解析した場合、増幅されたライブラリーは、ピットストップ-2の使用による転位収量の明らかな増加を示した(
図5)。バンド強度増加は、ピットストップ(Pitsthop)-2濃度の増加と相関した。その結果生じるライブラリーの別個の数のヌクレオソームによって網羅される対応するDNA断片は、「ヌクレオソームバンド形成」を含有し、ヌクレオソームが無い領域におけるATAC-seqタグ付き断片化成功を示していた。
【0129】
別々の実験において、上記の方法を使用して、ピットストップ-2(0、10、30および60μMの濃度における)による処理からFAM標識転位核物質を得て、捕捉オリゴヌクレオチドを有するビーズ上で富化し、フローサイトメトリーによってそのビーズを解析して、捕捉効率を評価した。以前の結果に一致して、ピットストップ-2処理により調製されたFAM標識された転位ライブラリーは、対照プールを上回る増強されたビーズ捕捉率を示した(表2)。
【表2】
(実施例7)
鎖置換ポリメラーゼによるトランスポサーゼの除去
【0130】
ある特定の転位ライブラリー調製方法において、DNAからのトランスポサーゼの除去は、タグ付き断片化されたDNAのさらなる断片化を引き起こす。対照的に、鎖置換増幅を使用したトランスポサーゼの除去は、転位核の近接性および単一の細胞全てに関連する核の個々のライブラリーを維持する。
【0131】
タグ付き断片化ステップ後および増幅前のgDNAの精製の代替として、鎖置換ポリメラーゼを使用して、単一のステップでのトランスポサーゼ除去および増幅を果たし得る。30μMピットストップ-2の存在下で先行する実施例に記載されている通りに調製された、インタクトな核(24ng)における未精製核タグ付き断片化産物を、Illumina NPM PCRマスターミックス、鎖置換ポリメラーゼ(Bst)および低濃度のSDS(0.0025%~0.04%)で処理した。
図6に示す通り、Bstの添加は、タグ付き断片化されたDNAの増幅効率を改善した。
【0132】
さらに別の実験において、鎖置換ポリメラーゼを使用して、転位を起こさせペレット化された核から配列決定ライブラリーを生成して、タグ付き断片化されたDNAからトランスポサーゼを除去した。鎖置換増幅後の上清において配列決定ライブラリーは観察されず、DNA断片が、核から上清に「漏出」していなかったことを実証した。核は、単一の細胞の構成成分の境界接近または直接的接触の状況に関する近接性情報を失うことなく、反応およびアッセイステップを行うための「区画」として使用することができる。
(実施例8)
未精製核からのATAC-seqライブラリーの収量
【0133】
先行する実施例に記載されている通りのピットストップ-2(10および100μM)による核の処理は、BioAnalyzer機器の高感度チップにおける1μLの各ATAC-seqライブラリーの解析によって示す通り、未精製核試料から生成されたATAC-seqライブラリーの収量を増加させた。各ピットストップ-2濃度に対してプロットされた150~1000bpのライブラリー範囲の間でBioAnalyzerにおいて各ライブラリーの濃度を決定した(
図7A)。様々なピットストップ-2濃度(5、10、30、50、100および200μM)で行った追加の実験は、分光測定による解析によって示す通り、ピットストップ-2の非存在下で産生されたライブラリーを上回って、増強されたライブラリー収量を産生した(表3)。
【表3】
【0134】
図7Bは、0および100μMピットストップ-2を使用した研究についての、第6染色体の部分にわたるATAC-seqプロファイルを示す。
(実施例9)
核からのRNAアウトプット
【0135】
ピットストップ-2処理は、核mRNAからのcDNA合成を改善することによりRNAアウトプットを増加させる。0.1%NP40によりK562細胞を溶解した。核および細胞質を分離し、核を2回洗浄し、次いで、(a)添加物なし、(b)0.1%SDSまたは(c)30μMピットストップ-2を用いて逆転写/定量的PCRプロトコールを行った(ThermoFisher Maxima HT RTキット、Kapa qPCRキット、RPLP0 PCRプライマー)。逆転写なしおよび逆転写ありの間のデルタCtを測定基準として使用して、相対的cDNA合成効率を報告した。ピットストップ-2処理は、核からのcDNA合成を、無処理核の4~5倍上昇させた(表4)。
【表4】
(実施例10)
指標付けされたビーズの調製
【0136】
30μmの直径および1×107個のビーズ密度の、オリゴヌクレオチドカップリングを可能にする表面官能基付与されたビーズ(例えば、ヒドラジン-アルデヒド、エポキシド-アミン等)を脱イオンH2Oにおいて洗浄した。洗浄したビーズを、1×105ビーズ/50μLの濃度で、96ウェルプレートの各ウェルに添加した。これに続いて、500pモルの特有の5’アルデヒド指標付けオリゴ(oligo)_1(/5FormInd/CCGAGCCCACGAGAC INDEX1 GACTTGTC)を、ウェル当たり最終体積50μLの反応混合物となるようにそれぞれ各ウェルに添加した。プレートを封着して蒸発を回避し、ロータリーインキュベーターにおいて一晩37℃でインキュベートした。ビーズをプールし、0.1×TE/0.1%Tween-20で3回洗浄した。洗浄したビーズを、前に記載されているものと同じ手段で、96ウェルプレートの個々のウェルに分布させ、これに、特有の5’リン酸化指標オリゴ_2(/5Phos/TAGAGCAT INDEX2 ATCTCGTATGCCGTCTTCTGCTTG)、スプリントオリゴを、T4 DNAリガーゼバッファーに懸濁したT4 DNAリガーゼと共に添加した。ライゲーション反応を一晩室温で進行させた。次に、全ウェルからのビーズを最終的に一緒にプールし、0.1×TE/0.1%Tween-20で3回洗浄した。
(実施例11)
「オンザフライ」指標プライマー生成
【0137】
核の混合物または液滴中のいずれかを用いるPCRの際に指標付けを行うことは、コンビナトリアルに合成されたビーズに提示された、個々に指標付けされたPCRプライマーのパネルを要求する。これらのプライマーは、PCRにおいて使用される前にビーズから切断され得る、または実際のPCRプライマーの逆相補的(complimentary)配列を有す
るオリゴヌクレオチド(「シーディングオリゴ」)であり得る。後者の場合、PCR混合物における共通プライマー(例えば、P5またはP7)は、ビーズ上の指標付けされた「シーディングオリゴ」にハイブリダイズし、PCRにおいて使用される指標付けされたプライマーを産生するであろう。「シーディングオリゴ」の密度を調整して、PCRを最適化することができ、PCRの各ラウンドは、追加の量の指標付けされたPCRプライマーを生成する。
図8Aに示す通り、指標付けされたPCRプライマーに対する逆相補的配列を有するシーディングオリゴは、ビーズにカップルされる。PCR混合物には、「シーディングオリゴ」にアニールし、各PCRサイクルにおける伸長により、ライブラリー増幅に使用されるプライマーを生成する共通プライマーが補充される。
【0138】
一実験において、その3’末端にP7の逆相補体を有する指標付けオリゴ(B15’、核指標、P7’)を含有するコンジュゲートされたビーズを、250ビーズ/μLでPCRマスターミックスに添加した。Nextera PCRマスターミックス(NPM)、0.01%SDS、0.5μM試料指標付けプライマー(P5、試料指標およびA14’)、0.5μM P7プライマーおよび30%Optiprepで構成されたマスターミックスを、液滴生成器(drop generator)チップ上のウェル1に添加した。核(6×104個)を、30%Optiprepに懸濁した250ビーズ/μLと共にウェル2に添加した。その3’末端へのP7のハイブリダイゼーション、伸長およびビーズからの変性除去により、PCRの際にビーズ上のオリゴから指標付けプライマーを生成した。上記P7プライマーは、配列決定のためのPCR後にATAC-seq断片を富化するためにビオチン化することもできる。次に、合成されたPCRプライマーは、転位によって産生されたライブラリー断片のB15領域にハイブリダイズし、これにより増幅を起こす。次にPCRパラメータを示す:73℃3分間、98℃30秒間の初期伸長、25サイクルの98℃10秒間、56℃30秒間および73℃30秒間。
【0139】
他の実験において、シーディングオリゴヌクレオチドを異なる濃度で、ビーズに固着させ、このようなビーズを、両方のPCRプライマーを含有する陽性対照、および一方のPCRプライマーのみを有する陰性対照と並べて、PCRプライマーの一方の供給源としてPCRにおいて使用した。
図8Bに提示される通り、「シーディングオリゴ」がカップルされたビーズにより生成されたライブラリーは、効率的な増幅の支持に十分な量の第2のPCRプライマーを提供する。
図6Bは、2種のPCRオリゴヌクレオチド(+対照)または1種のPCRオリゴヌクレオチドのいずれか、およびシーディングオリゴヌクレオチドを有するビーズ(5、50および500pmolビーズ)、および本実験において使用される試薬によるライブラリーの増幅を示す。
(実施例12)
液滴生成
【0140】
細胞、ビーズおよび油入口を含むQX200 Bio-Rad液滴生成器を使用して液滴を生成した。簡潔に説明すると、10μLのプライミング溶液(水性バッファーまたは細胞培地等)を、細胞入口およびビーズ入口に添加し、1分間チャネルに充填し、次いで除去した。核およびビーズ溶液(各30μL)を、それぞれのウェルに添加した。およそ70μLの油を、各油入口に添加し、その後、液滴生成器にカートリッジを挿入した。液滴生成後に、両方の出口から出た液滴を一緒にプールし、PCRを行った。PCR後に、乳化剤による処理により、油中水型エマルションを崩壊させ、水相を配列決定に使用した。
(実施例13)
酵素反応のための物理的区画としての核
【0141】
生細胞は、核におけるゲノム維持、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生、リソソームにおける異化プロセス等のような、別々の酵素反応を行うための異なる仕組みを有する複数のオルガネラを有する。生細胞によって提供される天然区画化を利用するために、上記核が、ゲノムDNAの単離されたin vitro反応のための物理的障壁を提供し得ることを例証する実験を行った。
【0142】
0.1%IGEPAL CA-630を含有する標準核単離バッファーにより核(150,000個)を抽出し、核ペレットを、30分間55℃で、30μMピットストップ-2ありおよびなしで、Tn5トランスポソームにより転位させた。このステップの完了時の上記核の完全性を光学顕微鏡法によってモニターした(データ図示せず)。穏やかな遠心分離により核をペレット化し、過剰な未使用のトランスポソームを除去した。強い鎖置換DNAポリメラーゼ(BstまたはPhi29)を含有する反応混合物に核を再懸濁し、適切な温度(65C、Bst;30C、Phi29)で30分間インキュベートして、タグ付き断片化されたクロマチンからTn5を除去し、PCR増幅に利用できるDNA断片を作製した。上記反応が完了した後に、穏やかな遠心分離によって上清から核を分離し、PCRマスターミックスに再懸濁した。
【0143】
Nextera指標キットプライマーにより、核および上清の両方を増幅させ(25サイクル)、
図9に示す通り、アガロースゲル電気泳動によって反応の産物を解析した。いずれのセットの条件下でも、上記上清からライブラリーは生成されず、DNA断片が、タグ付き断片化およびTn5置換反応において上記核から拡散しなかったことが示唆された。
【0144】
上記データは、核が、タグ付き断片化および他の酵素プロセスのための物理的区画としての使用に成功したことを示す(
図1、
図2および
図10を参照)。よって、本方法は、核内転位産物の区画特異的増幅をもたらす。Tn5トランスポソーム複合体およびポリメラーゼ等の酵素ならびに他の反応混合物構成成分は、ピットストップ-2で処理した核内に進入し機能することができる。DNAおよびライブラリーエレメントは、反応中および反応後に上記核に残る。したがって、核膜の完全性を破壊することなく、上記核内で複数の酵素反応を達成することができ、核は、核空間からDNAを漏出することなく、複数の試薬交換、複数のプロセスおよび/または様々な操作(例えば、酵素反応、染色、選別等)に付すことができる。
(実施例14)
液滴中の単一細胞ATAC-seq測定基準におけるピットストップ-2の効果
【0145】
マウス(3T3)核を、細胞溶解および核転位において0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2で処理した。ピットストップ-2を使用して、核膜孔を広げ、オープンクロマチンの転位増加を可能にした。単一の核の占有を確実にするように設定された定義された数の転位核を、単一細胞ATAC-seqライブラリーを産生するように設計された指標付けされたビーズと共に、QX200 Bio-Rad液滴生成器にロードした。単一細胞ライブラリーを液滴中でPCR増幅し、次いで精製およびNextSeq(登録商標)550配列決定システムにおける配列決定に付した。
図11は、処理した細胞の各セット(0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2)の単一細胞配列決定データを示す。
図11Aに示す通り、増加する濃度のピットストップ-2は、異なる数(>1k、>10kおよび>100k)の特有の読み取りデータによってグループ化されたバーコードの全3セットの特有の読み取りデータの総数の増加をもたらした。
【0146】
ピットストップ-2による核の処理は、オープンクロマチンのより効率的な転位および増加した特有の被覆度を可能にする。ピットストップ-2の存在下で、トランスポサーゼは、転写開始部位(TSS)外側の追加のオープンクロマチン領域を標的とする(
図11Bを参照)。
図11Bは、転写開始部位の1kb内の、0μM、30μMまたは60μMピットストップ-2によるATAC seq試料のための断片のパーセンテージを示す。2個のゲノム箇所(GAPDHおよびRPL10遺伝子)における読み取りデータアライメントの詳細な試験は、エンハンサーおよびオープンリーディングフレーム等、潜在的にオープンクロマチン構造を有する領域におけるライブラリー生成を示し、上記アッセイのより高い感度が示唆された(データを示さず)。
図11Cは、0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2で処理された試料のためのより保存的なMACS-2ピーク発見ソフトウェアプログラムによって定義されるATAC-seqピーク重複を示す。非常に強いピーク重複が、ピットストップ-2ありおよびなしの試料のために検出され、ピットストップ-2が、上記アッセイの全体的完全性を変化させなかったことを示した(
図11Cを参照)。第6染色体におけるGAPDH遺伝子周囲の0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2により生成されたプールされたATAC-seq読み取りデータのアライメント、およびX染色体におけるRPL10遺伝子周囲の0μM、30μMおよび60μMピットストップ-2により生成されたプールされたATAC-seq読み取りデータのアライメントも観察された(データを示さず)。
【配列表】