(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240318BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2022559303
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044390
(87)【国際公開番号】W WO2023100338
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直哉
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/060209(WO,A1)
【文献】特開2017-055560(JP,A)
【文献】国際公開第2021/084788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティースとスロットとが周方向に交互に配置された円筒状の固定子鉄心と、前記スロットを通って前記ティースに巻回された複数相の電機子巻線と、を有する固定子と、
前記固定子鉄心の内周面と隙間をあけて対向する外周面に沿って並んだ複数の磁極を有する回転子鉄心と、各々の前記磁極に設けられた複数の永久磁石とを有し、前記固定子鉄心と同心の中心軸線を中心に回転自在に設けられた回転子と、を備え、
前記固定子鉄心において、互いに異相の前記電機子巻線が通る前記スロット間で前記内周面における当該スロットの開口の縁を規定する前記ティースの先端部は、前記内周面の周方向の両端の一部を欠損させた一対の面取りを有し、
前記中心軸線と直交する前記回転子鉄心の横断面において、前記磁極の周方向の端および前記中心軸線を通って放射方向に伸びる軸をq軸とし、前記q軸に対して周方向に電気的に90度離間した軸をd軸とすると、
各々の前記磁極において、前記回転子鉄心は、前記外周面が前記中心軸線に沿って凹んだ複数の溝を有し、各々の前記溝は、凸部の両側に凹部が前記回転子の回転方向に沿って並んだ波形をなし、前記磁極の周方向の両端を通る前記q軸の間で前記d軸に対して前記回転方向の先行側に配置された第1の溝部と、前記回転方向の後行側に配置された第2の溝部とを有し、前記第1の溝部と前記第2の溝部とは、前記d軸に対して非対称をな
し、
前記第1の溝部において、二つの前記凹部のうち前記d軸寄りの一方の前記凹部から前記回転子鉄心の前記外周面に接する外接円までの最大距離は、他方の前記凹部から前記外接円までの最大距離よりも大きく、前記凸部は、前記外接円の内側に配置され、
前記第2の溝部において、二つの前記凹部のうち前記d軸寄りの一方の前記凹部から前記外接円までの最大距離は、他方の前記凹部から前記外接円までの最大距離よりも大きく、前記凸部は、前記外接円の内側に配置され、
且つ、前記第1の溝部において、前記外接円までの最大距離が最も大きな前記d軸寄りの一方の前記凹部より前記d軸寄りには、前記溝および前記凹部が存在しない
回転電機。
【請求項2】
前記第1の溝部は、前記d軸に対する電気角が21.2度以上、42.3度以下の第1の範囲に配置され、前記第2の溝部は、前記d軸に対する電気角が18.4度以上、34.4以下の第2の範囲に配置されている
請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記第1の溝部は、前記第1の範囲のうち、前記d軸に対する電気角が19.4度以上、20.8度以下の全範囲に亘って配置され、前記第2の溝部は、前記第2の範囲のうち、前記d軸に対する電気角が15.4度以上、16.0度以下の全範囲に亘って配置されている
請求項
2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記第1の溝部の二つの前記凹部の各々から前記回転子鉄心の前記外周面に接する
前記外接円までの最大距離の差の前記外接円の直径に対する割合は、0%以上、0.17%以下であり、
前記第2の溝部の二つの前記凹部の各々から前記外接円までの最大距離の前記外接円までの最大距離の差の前記直径に対する割合は、-0.4%以上、0.1%以下である
請求項
2に記載の回転電機。
【請求項5】
一対の前記面取りの周方向の合計長さの前記ティースの先端部の周方向の最大幅に対する割合は、42%以上、89%以下であり、
前記中心軸線の方向からみた前記面取りを有しない前記ティースの先端部の面積に対する当該方向からみた一対の前記面取りの合計面積の割合は、5%以上、13%以下であり、
前記ティースの先端部の周方向の最大幅は、前記ティースの先端部以外の周方向の最大幅よりも大きい
請求項1から
4のいずれか一項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車や鉄道車両などに搭載された車両駆動用の回転電機としては、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)があり、永久磁石を回転子鉄心に埋め込んだIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)の形式が多く見られる。
【0003】
IPMSMは、電機子巻線(コイル)が固定子鉄心に巻回された固定子と、この固定子に対して回転自在に設けられ、回転子鉄心のスロットに永久磁石が埋め込まれた回転子とを備えている。IPMSMにおいて、電機子巻線に所望の電流を流すと、電機子巻線に磁束が発生する。回転子は、この磁束と永久磁石との間で磁気的な吸引力や反発力が生じることによって回転する。
【0004】
IPMSMのような回転電機においては、例えば回転子の磁極数とスロットの組み合わせにより、回転トルクや電磁力に高調波が出現してしまう。一例として、車載モータとして使用されることの多い8極48スロットの回転電機では、電気角6次やその整数倍の高調波が発生することが少なくない。このような高調波は振動や騒音の原因となることが多く、これらを適切に抑制することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6075034号公報
【文献】特許第5073805号公報
【文献】特開2013-106496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これを踏まえてなされたものであり、その目的は、狙った動作点における電磁力の高調波を抑制し、振動・騒音を低減できるような回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の回転電機は、固定子と回転子とを備える。前記固定子は、ティースとスロットとが周方向に交互に配置された円筒状の固定子鉄心と、前記スロットを通って前記ティースに巻回された複数相の電機子巻線とを有する。前記回転子は、前記固定子鉄心の内周面と隙間をあけて対向する外周面に沿って並んだ複数の磁極を有する回転子鉄心と、各々の前記磁極に設けられた複数の永久磁石とを有し、前記固定子鉄心と同心の中心軸線を中心に回転自在に設けられる。前記固定子鉄心において、互いに異相の前記電機子巻線が通る前記スロット間の前記内周面における当該スロットの開口の縁を規定する前記ティースの先端部は、前記内周面の周方向の両端を欠損させた一対の面取りを有する。前記中心軸線と直交する前記回転子鉄心の横断面において、後述する外周面の溝形状を設けない横断面状態で、前記磁極の周方向の端および前記中心軸線を通って放射方向に伸びる軸をq軸とし、前記q軸に対して周方向に電気的に90度離間した軸をd軸とする。各々の前記磁極において、前記回転子鉄心は、前記外周面が前記中心軸線に沿って凹んだ複数の溝を有し、各々の前記溝は、凸部の両側に凹部が前記回転方向に沿って並んだ波形をなし、前記磁極の周方向の両端を通る前記q軸の間で前記d軸に対して前記回転方向の先行側に配置された第1の溝部と、前記回転方向の後行側に配置された第2の溝部とを有する。前記第1の溝部と前記第2の溝部とは、前記d軸に対して非対称をなす。前記第1の溝部において、二つの前記凹部のうち前記d軸寄りの一方の前記凹部から前記回転子鉄心の前記外周面に接する外接円までの最大距離は、他方の前記凹部から前記外接円までの最大距離よりも大きく、前記凸部は、前記外接円の内側に配置される。前記第2の溝部において、二つの前記凹部のうち前記d軸寄りの一方の前記凹部から前記外接円までの最大距離は、他方の前記凹部から前記外接円までの最大距離よりも大きく、前記凸部は、前記外接円の内側に配置される。且つ、前記第1の溝部において、前記外接円までの最大距離が最も大きな前記d軸寄りの一方の前記凹部より前記d軸寄りには、前記溝および前記凹部が存在しない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る永久磁石型の回転電機の断面図。
【
図2】
図1に示す回転電機における固定子の固定子鉄心および回転子の回転子鉄心のそれぞれ一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図1および
図2に示す溝(第1の溝部と第2の溝部)の態様を拡大して示す図である。
【
図4】固定子鉄心のティースの先端部の形態として、
図2に示すティースの先端部の近傍を拡大して示す図である。
【
図5】ティースの欠損部である一対の面取りの周方向の長さと電磁力比との関係を示す図である。
【
図6】ティースの欠損部である一対の面取りの面積割合と電磁力比との関係を示す図である。
【
図7】
図1および
図2に示す第1の溝部と第2の溝部の配置を拡大して示す図である。
【
図8】第1の溝部における電気角(θLP1)と電磁力比との関係を示す図である。
【
図9】第1の溝部における電気角(θLP2)と電磁力比との関係を示す図である。
【
図10】第1の範囲(θLW)と電磁力比との関係を示す図である。
【
図11】第2の溝部における電気角(θRP1)と電磁力比との関係を示す図である。
【
図12】第2の溝部における電気角(θRP2)と電磁力比との関係を示す図である。
【
図13】第2の範囲(θRW)と電磁力比との関係を示す図である。
【
図14】第1の溝部における二つの凹部の深さの差と、電磁力比との関係を示す図である。
【
図15】第2の溝部における二つの凹部の深さの差と、電磁力比との関係を示す図である。
【
図16A】回転子鉄心の溝態様が本件と異なる比較例(A)を示す図である。
【
図16B】回転子鉄心の溝態様が本件と異なる比較例(B)を示す図である。
【
図16C】回転子鉄心の溝態様が本件と異なる比較例(C)を示す図である。
【
図16D】回転子鉄心の溝態様が本件と異なる比較例(E)を示す図である。
【
図17】各比較例における電磁力比を、本件を0とした場合の比率で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照しながら、この発明の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0010】
図1は、実施形態に係る永久磁石型の回転電機の断面図、具体的には該回転電機の中心軸線と直交する平面での横断面図である。回転電機は、例えばハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)における駆動モータあるいは発電機として適用される。ただし、回転電機の用途はこれに限定されず、その他の用途にも適用可能である。
【0011】
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成されている。回転電機10は、図示しない固定枠に支持された環状あるいは円筒状の固定子12と、固定子12の内側に中心軸線CLの回りで回転自在に、かつ固定子12と同心状に支持された回転子14とを備えている。以下の説明では、回転電機10において回転子14が回転する際の中心軸線CLに沿った方向を軸方向とし、中心軸線CL回りに回転子14が回転する方向を周方向とする。また、軸方向および周方向に直交する方向を径方向とし、径方向において中心軸線CLに近づく側を内、離れる側を外とする。
【0012】
固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と、固定子鉄心16に巻き付けられた電機子巻線(コイル)18とを備えている。固定子鉄心16は、磁性材、例えば珪素鋼などの円環状の電磁鋼板を多数枚、同心状に積層して構成されている。固定子鉄心16は、スロット20とティース21をそれぞれ複数有している。複数のスロット20は、周方向に略等間隔で並んでいる。各々のスロット20は、固定子鉄心16の内周面にそれぞれ開口し、該内周面から径方向(放射方向)に伸びている。また、各々のスロット20は、固定子鉄心16の軸方向の全長に亘って連続している。複数のスロット20が形成されることで、固定子鉄心16の内周部には、周方向に隣り合うスロット20の間にそれぞれ、回転子14に面する複数(本実施形態では一例として48個)のティース21が形成される。換言すれば、周方向に隣り合うティース21の間の各空隙は、それぞれスロット20として構成される。これにより、ティース21とスロット20は、周方向に交互に配置される。電機子巻線18は、スロット20を通ってティース21に巻回されている。電機子巻線18は、複数相、例えばU相、V相、W相の三相に対応している。本実施形態では、同一相の電機子巻線18が周方向に隣り合う二つのスロット20をそれぞれ通り、U相、V相、W相に対応するスロット20が周方向へ順番に並んでいる。電機子巻線18に電流を流すことにより、固定子12、具体的にはティース21に所定の鎖交磁束が形成される。
【0013】
回転子14は、軸方向の両端が軸受(図示省略)により支持され、中心軸線CLを中心にシャフト(回転軸)22とともに回転自在とされている。したがって、回転子14は、外周面を固定子12の内周面と僅かに隙間をあけて対向させて、固定子12と同心状に配置されている。本実施形態において、回転子14は、
図1に示す矢印A14で示す方向に回転する。
【0014】
回転子14は、回転子鉄心24と、永久磁石26とを備えている。回転子鉄心24は、中心軸線CLと同心の内孔25を有する略円筒状をなしている。シャフト22は、内孔25に挿通および嵌合され、回転子鉄心24と同心状に伸びている。内孔25は、シャフト22を嵌合して回転子14に固定するための孔部である。回転子鉄心24は、磁性材、例えば珪素鋼などの円環状の電磁鋼板が多数枚、同心状に積層して構成されており、複数の磁極(本実施形態では一例として8極)を有している。磁極の数は、特に限定されない。各々の磁極は、回転子鉄心24の外周面24aに沿って並び、固定子鉄心16の内周面16aと隙間をあけて対向している。各々の永久磁石26は、回転子鉄心24の磁極に設けられている。
【0015】
ここで、
図1に示すような中心軸線CLと直交する回転子鉄心24の横断面において、q軸およびd軸を次のとおり定義する。なお、回転子鉄心24の横断面は、後述する外周面24aに溝50(第1の溝51および第2の溝52)が設けられていない状態の横断面である。q軸は、回転子鉄心24の磁極の周方向の端および中心軸線CLを通って径方向(放射方向)に伸びる軸である。d軸は、該q軸に対して周方向に電気的に90度離間した軸である。ここでは、固定子12によって形成される鎖交磁束の流れ易い方向をq軸と称する。d軸およびq軸は、回転子鉄心24の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。回転子鉄心24の1磁極は、q軸間の領域(1/8周の周角度領域)である。このため、回転子鉄心24は、8極(磁極)に構成されている。1磁極のうちの周方向中央がd軸となる。
【0016】
図1に示すように、回転子鉄心24には、1磁極ごとに、二つの永久磁石26が埋設されている。回転子鉄心24の円周方向において、各d軸の両側に、永久磁石26の形状に対応した形状の磁石埋め込み孔(以下、埋め込み孔と称する)34が形成されている。二つの永久磁石26は、それぞれ埋め込み孔34内に装填および配置されている。永久磁石26は、例えば、接着剤等により回転子鉄心24に固定されていてもよい。
【0017】
各々の埋め込み孔34は、回転子鉄心24を軸方向の全長に亘って貫通している。埋め込み孔34は、略台形の開口形状を有し、それぞれd軸に対して傾斜している。
図1に示すような中心軸線CLと直交する回転子鉄心24の横断面でみた場合、二つの埋め込み孔34は、例えば略V字状に並んで配置されている。すなわち、二つの埋め込み孔34の内周側端はそれぞれd軸に隣接し、僅かな隙間をおいて互いに対向している。回転子鉄心24において、二つの埋め込み孔34の内周側端の間に、幅の狭い磁路狭隘部(ブリッジ部)36が形成されている。二つの埋め込み孔34の外周側端は、回転子鉄心24の周方向に沿ってd軸から離間し、回転子鉄心24の外周面24aの近傍およびq軸の近傍に位置している。これにより、埋め込み孔34の外周側端は、隣り合う磁極の埋め込み孔34の外周側端と、q軸を挟んで対向している。回転子鉄心24において、各々の埋め込み孔34の外周側端と回転子鉄心24の外周面24aとの間に幅の狭い磁路狭隘部(ブリッジ部)38が形成されている。このように、二つの埋め込み孔34は、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように配置されている。
【0018】
永久磁石26は、各埋め込み孔34に装填され、回転子鉄心24に埋め込まれている。永久磁石26は、例えば、
図1に示すような横断面が矩形状の細長い平板状に形成され、互いに平行に対向する第1面(表面)および第2面(裏面)、および互いに対向する一対の側面を有している。永久磁石26は、回転子鉄心24の軸方向の全長と略等しい長さを有している。永久磁石26は、軸方向(長手方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心24の軸方向の全長と略等しくなるように形成される。各々の永久磁石26は、回転子鉄心24の軸方向の略全長に亘って埋め込まれている。永久磁石26の磁化方向は、永久磁石26の第1面および第2面と直交する方向としている。
【0019】
回転子鉄心24において、各d軸の両側に位置する二つの永久磁石26、すなわち1磁極を構成する二つの永久磁石26は、磁化方向が同一となるように配置されている。また、各q軸の両側に位置する二つの永久磁石26は、磁化方向が逆向きとなるように配置されている。複数の永久磁石26をこのように配置することにより、回転子鉄心24の外周部において各d軸上の領域は一つの磁極を中心に形成され、各q軸上の領域は磁極間部を中心に形成されている。本実施形態では、回転電機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石26のN極とS極の表裏を交互に配置した8極(4極対)、48スロットで、分布巻きで巻線した永久磁石埋め込み型の回転電機を構成している。
【0020】
図1に示すように、回転子鉄心24は、複数の空隙孔(空洞部)30を有している。空隙孔30は、回転子鉄心24を軸方向の全長に亘って貫通している。空隙孔30は、q軸上で、回転子鉄心24の径方向の略中央に位置し、隣合う磁極の2つ埋め込み孔34の間に設けられている。
図1に示す例では、空隙孔30は、略円形の断面形状をなしている。空隙孔30は、磁束を通り難くするフラックスバリアとして機能し、固定子12の鎖交磁束の流れや永久磁石26の磁束の流れを規制する。また、空隙孔30を形成することにより、回転子鉄心24の軽量化を図ることができる。
【0021】
図1および
図2に示すように、本実施形態において、固定子鉄心16のティース21は複数の面取り40を有し、回転子鉄心24は複数の溝50を有している。以下、これらの面取り40および溝50について説明する。
図2は、
図1に示す回転電機10における固定子12の固定子鉄心16および回転子14の回転子鉄心24のそれぞれ一部を拡大して示す断面図である。
【0022】
面取り40は、ティース21の先端部23において、内周面の周方向の両端の一部を欠損させて形成された部分であり、周方向に一対をなして配置されている。一対の面取り40は、後述する先端部23の周方向の最大幅(W2)の二等分線に対して対称の形態をなす。先端部23は、固定子鉄心16の内周面16aを規定する部分であり、当該内周面16aにおいてスロット20の開口20aの縁を規定する部分である。
図2に示す例では、先端部23は、スロット20を通ってティース21に巻回される電機子巻線18の内周端部18aよりも内周側に飛び出しており、当該内周端部18aを抱えるように保持する。
【0023】
複数のティース21の先端部23のうち、互いに異相の電機子巻線18が通るスロット20間で当該スロット20の開口20aの縁を規定するティース21の先端部23は、面取り40を有している。これに対し、互いに同相の電機子巻線18が通るスロット20間で当該スロット20の開口20aの縁を規定するティース21の先端部23は、面取り40を有していない。
【0024】
図2に示す例では、ティース21aは、W相の電機子巻線18wが通るスロット20wとV相の電機子巻線18vが通るスロット20vとの間でこれらのスロット20w,20vの開口20aの縁を規定している。また、ティース21cは、V相の電機子巻線18vが通るスロット20vとU相の電機子巻線18uが通るスロット20uとの間でこれらのスロット20v,20uの開口20aの縁を規定している。したがって、ティース21aの先端部23aおよびティース21cの先端部23cは、いずれも面取り40を有している。これに対し、ティース21bは、V相の電機子巻線18vが通るスロット20v同士の間でこれらのスロット20v,20vの開口20aの縁を規定している。したがって、ティース21bの先端部23bは、面取り40を有していない。これにより、固定子鉄心16は、周方向に略等間隔で並んだ複数のティース21に対し、1ティース21おきに配置されている。換言すれば、固定子鉄心16は、1ティース21ごと交互に配置されている。
【0025】
溝50は、回転子鉄心24の各磁極において、外周面24aが中心軸線CLに沿って凹んだ部分であり、回転子鉄心24の軸方向の全長に亘って連続している。各磁極は、回転子鉄心24における周方向、つまり回転子14の回転方向(
図1に示す矢印A14で示す方向、以下、回転方向A14という)に隣り合う二つのq軸間の領域である。本実施形態において、回転子14は、回転方向A14で示す一方向に回転し、逆方向の回転は想定していない。溝50は、第1の溝部51と第2の溝部52とを有している。すなわち、回転子鉄心24の各磁極における溝50は、第1の溝部51と第2の溝部52とによって構成されている。第1の溝部51は、各磁極において、当該磁極の周方向の両端を通るq軸の間でd軸に対して回転方向A14の先行側に配置された溝50である。第2の溝部52は、各磁極において、当該磁極の周方向の両端を通るq軸の間でd軸に対して回転方向A14の後行側に配置された溝50である。なお、d軸とは、回転子鉄心24の各磁極において、当該磁極の周方向の両端を通るq軸の間に位置するd軸を指す。
図2に示す例では、回転方向A14の先行側にあたる左側に配置された溝50が第1の溝部51であり、後行側にあたる右側に配置された溝50が第2の溝部52である。
【0026】
第1の溝部51および第2の溝部52は、凸部53の両側に凹部54,55が回転方向A14、端的には周方向に沿って並んだ波形をなしている。すなわち、凹部54、凸部53、凹部55が回転方向A14に連続して、第1の溝部51および第2の溝部52の波形がそれぞれ形成されている。
【0027】
第1の溝部51と第2の溝部52とは、d軸に対して非対称をなしている。
図2に示す例では、第1の溝部51と第2の溝部52とは、互いの波形の形態が異なるとともに、周方向の位置が異なることで、d軸に対して非対称となっている。
【0028】
図3は、
図1および
図2に示す第1の溝部51と第2の溝部52の態様を拡大して示す図である。
図3に示すように、第1の溝部51において、二つの凹部54,55のうち、d軸寄りの一方の凹部541から回転子鉄心24の外周面24aに接する外接円COまでの最大距離D541は、他方の凹部551から当該外接円COまでの最大距離D551よりも大きい。最大距離D541,D551は、凹部541,551の最深部から外接円COまでの距離であり、当該最深部を通り外接円COの接線と直交する直線上の距離である。凸部531は、外接円COの内側に配置されている。換言すれば、凸部531の頂部は、外接円COと接触しない。第2の溝部52において、二つの凹部54,55のうち、d軸寄りの一方の凹部552から外接円COまでの最大距離D552は、他方の凹部542から当該外接円COまでの最大距離D542よりも大きい。最大距離D552,D542は、凹部552,542の最深部から外接円COまでの距離であり、当該最深部を通り外接円COの接線と直交する直線上の距離である。凸部532は、外接円COの内側に配置されている。換言すれば、凸部532の頂部は、外接円COと接触しない。
【0029】
このように本実施形態に係る回転電機10は、上述した面取り40と溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)をいずれも有している。これらの面取り40および溝50の双方を有することを前提として、面取り40および溝50の最適態様についてそれぞれ説明する。
【0030】
まず、ティース21における面取り40の最適態様について、
図4を参照して説明する。
図4は、ティース21の先端部23の形態として、
図2に示すティース21b,21cの先端部23b,23cの近傍を拡大して示す図である。ティース21cは面取り40を有するティース21の一例であり、ティース21bは面取り40を有しないティース21の一例である。なお、面取り40を有するティース21c以外のティース21(例えばティース21a)の形態はティース21cと同一である。また、面取り40を有しないティース21b以外のティース21の形態はティース21bと同一である。
【0031】
図4に示すように、ティース21b,21cにおいて、該ティース21b,21cの周方向の最大幅をW1、先端部23b,23cの周方向の最大幅をW2とする。周方向の幅は、軸方向および径方向と直交する方向におけるティース21における面間距離である。ティース21b,21cの周方向の最大幅(W1)は、ティース21b,21cにおける先端部23b,23c以外の部分の周方向の最大幅である。本実施形態において、ティース21b,21cの先端部23b,23cの周方向の最大幅(W2)は、当該ティース21b,21cの周方向の最大幅(W1)よりも大きい(W1<W2)。
【0032】
加えて、ティース21cにおいて、各々の面取り40の径方向の長さをL1、周方向の長さをL2とする。中心軸線CLの方向からみた面取り40の平面形状は、長さL1の辺と長さL2の辺で規定される略三角形状をなす。
【0033】
また、面取り40を有しないティース21bにおいて、中心軸線CLの方向(軸方向)からみた先端部23bの面積(以下、先端面積という)をSとする。先端面積(S)は、円弧S1,S2、直線状の二辺S3,S4で囲まれる部分の面積である。円弧S1は、固定子鉄心16の内周面16aを規定する。円弧S2は、円弧S1と平行な円弧であり、先端部23bが周方向の最大幅(W2)である領域とそれ以外の領域との境界を規定する。二辺S3,S4は、内周面16aにおいてスロット20の開口20aの縁を規定する。また、面取り40を有するティース21cにおいて、軸方向からみた面取り40の面積をAcとする。かかる面積(Ac)は、長さL1の辺と長さL2の辺で規定される略三角形状の面積であり、L1×L2/2で概算される。したがって、軸方向からみた一対の面取り40の合計面積(以下、欠損面積という)は、面取り40の前記面積の2倍(Ac×2)となる。
【0034】
図5は、ティース21の欠損部である一対の面取り40の周方向の長さ(以下、周方向割合という)と電磁力比との関係を示す図である。周方向割合は、面取り40を有するティース21の先端部23の周方向の最大幅(W2)に対する一対の面取り40の周方向の合計長さ(L2×2)の割合(L2×2/W2)であり、
図5において欠損割合として示されている。電磁力比は、回転電機10における径方向の電気角6次、12次、24次、および周方向の電気角6次、12次、24次の6種類の次数成分の電磁力につき、許容範囲を0とした場合の超過率を合計比率(%)で示した指標である。ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、面取り40の周方向割合を変更した場合の指標である。電磁力比が0%であれば、6種類の次数成分の電磁力の超過率は許容範囲にとどまっていることを示す。
【0035】
図5に示すように、周方向割合が42%未満である場合もしくは89%超である場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。したがって、面取り40の周方向割合は、42%以上、89%以下(0.42≦L2×2/W2≦0.89)であることが好ましい。このため、本実施形態では、面取り40の周方向割合が前記範囲(0.42≦L2×2/W2≦0.89)であるものとする。
【0036】
図6は、ティース21の欠損部である一対の面取り40の面積割合と電磁力比との関係を示す図である。面積割合は、先端面積(S)に対する欠損面積(Ac×2)の割合(Ac×2/S)であり、
図6において欠損割合として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、面取り40の面積割合を変更した場合の指標である。
【0037】
図6に示すように、一対の面取り40の面積割合が5%未満である場合もしくは13%超である場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。したがって、先端面積(S)に対する欠損面積(Ac×2)の割合は、5%以上、13%以下(0.05≦Ac×2/S≦0.13)であることが好ましい。このため、本実施形態では、欠損面積の割合が前記範囲(0.05≦Ac×2/S≦0.13)であるものとする。
【0038】
次に、溝50における第1の溝部51と第2の溝部52の配置について説明する。
図7は、
図1および
図2に示す第1の溝部51と第2の溝部52の配置を拡大して示す図である。
【0039】
図7に示すように、第1の溝部51は、d軸に対して電気角が第1の範囲θLWの角度内に配置されている。第1の範囲θLWは、電気角θLP2と電気角θLP1との差分で算出される電気角の範囲である。電気角θLP1は第1の範囲θLWを規定する下限値であり、電気角θLP2は第1の範囲θLWを規定する上限値である。電気角θLP1は、第1の溝部51の回転方向A14における後行側の溝端の位置を示す電気角であり、凹部541と回転子鉄心24の外周面24aとの連続部位P541のd軸に対する電気角である。電気角θLP2は、第1の溝部51の回転方向A14における先行側の溝端の位置を示す電気角であり、凹部551と回転子鉄心24の外周面24aとの連続部位P551のd軸に対する電気角である。
【0040】
また、
図7に示すように、第2の溝部52は、d軸に対して電気角が第2の範囲θRWの角度内に配置されている。第2の範囲θRWは、電気角θRP2と電気角θRP1との差分で算出される電気角の範囲である。電気角θRP1は第2の範囲θRWを規定する下限値であり、電気角θRP2は第2の範囲θRWを規定する上限値である。電気角θRP1は、第2の溝部52の回転方向A14における先行側の溝端の位置を示す電気角であり、凹部552と回転子鉄心24の外周面24aとの連続部位P552のd軸に対する電気角である。電気角θRP2は、第2の溝部52の回転方向A14における後行側の溝端の位置を示す電気角であり、凹部542と回転子鉄心24の外周面24aとの連続部位P542のd軸に対する電気角である。
【0041】
図8は、第1の溝部51における電気角θLP1と電磁力比との関係を示す図である。電気角θLP1は、
図8において溝の下限値(e.deg:electrical degree)として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第1の溝部51における電気角θLP1を変更した場合の指標である。
図8に示すように、電気角θLP1が概ね22度を超えた場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。また、電磁力比が0%となる電気角θLP1の最小値は、21.2度である。なお、電磁力比が10.0%を超えるものは、
図8にはプロットされていない。
【0042】
図9は、第1の溝部51における電気角θLP2と電磁力比との関係を示す図である。電気角θLP2は、
図9において溝の上限値(e.deg)として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第1の溝部51における電気角θLP2を変更した場合の指標である。
図9に示すように、電気角θLP2が概ね41度未満である場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。また、電磁力比が0%となる電気角θLP2の最大値は、42.3度である。なお、電磁力比が10.0%を超えるものは、
図9にはプロットされていない。
【0043】
したがって、本実施形態においては、第1の範囲θLWを電気角θLP1が21.2度以上、電気角θLP2が42.3度以下の範囲とし、当該第1の範囲θLWに第1の溝部51が配置されていればよい。
【0044】
図10は、第1の範囲θLWと電磁力比との関係を示す図である。第1の範囲θLWは、
図10において溝の範囲(e.deg)として示されている。かかる溝の範囲は、電気角θLP2と電気角θLP1との差分で算出される第1の範囲θLWの最適範囲を示す。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第1の範囲θLWを変更した場合の指標である。
図10に示すように、第1の範囲θLWが19.4度以上、20.8度以下である場合、電磁力比が0%になり得る。第1の範囲θLWが当該範囲外である場合、電磁力比が10.0%を超えるため、
図10にはプロットされていない。
【0045】
したがって、本実施形態においては、第1の範囲θLWのうち、電気角θLP1が19.4度以上、電気角θLP2が20.8度以下の全範囲に亘って第1の溝部51が配置されている。
【0046】
図11は、第2の溝部52における電気角θRP1と電磁力比との関係を示す図である。電気角θRP1は、
図11において溝の下限値(e.deg)として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第2の溝部52における電気角θRP1を変更した場合の指標である。
図11に示すように、電気角θRP1が概ね19度を超えた場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。また、電磁力比が0%となる電気角θRP1の最小値は、18.4度である。なお、電磁力比が10.0%を超えるものは、
図11にはプロットされていない。
【0047】
図12は、第2の溝部52における電気角θRP2と電磁力比との関係を示す図である。電気角θRP2は、
図12において溝の上限値(e.deg)として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第2の溝部52における電気角θRP2を変更した場合の指標である。
図12に示すように、電気角θRP2が概ね34度未満である場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。また、電磁力比が0%となる電気角θRP2の最大値は、34.4度である。なお、電磁力比が10.0%を超えるものは、
図12にはプロットされていない。
【0048】
したがって、本実施形態においては、第2の範囲θRWを電気角θRP1が18.4度以上、電気角θRP2が34.4度以下の範囲とし、当該第2の範囲θRWに第2の溝部52が配置されていればよい。
【0049】
図13は、第2の範囲θRWと電磁力比との関係を示す図である。第2の範囲θRWは、
図13において溝の範囲(e.deg)として示されている。かかる溝の範囲は、電気角θRP2と電気角θRP1との差分で算出される第2の範囲θRWの最適範囲を示す。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第2の範囲θRWを変更した場合の指標である。
図13に示すように、第2の範囲θRWが15.4度以上、16.0度以下である場合、電磁力比が0%になり得る。第2の範囲θRWが16.0度を超える場合、電磁力比が10.0%を超えるため、
図13にはプロットされていない。
【0050】
したがって、本実施形態においては、第2の範囲θRWのうち、電気角θRP1が15.4度以上、電気角θRP2が16.0度以下の全範囲に亘って第2の溝部52が配置されている。
【0051】
溝50における第1の溝部51と第2の溝部52の深さについて説明する。
図14は、第1の溝部51における二つの凹部541と凹部551との深さの差と、電磁力比との関係を示す図である。かかる深さの差は、
図3に示す凹部541の最大距離D541と凹部551の最大距離D551との差(D541-D551)の外接円COの直径(
図1に示す距離Dia)に対する比率(%)であり、
図14において溝の深さの差として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第1の溝部51における溝の深さを変更した場合の指標である。
図14に示すように、溝の深さの差、つまり外接円COの直径Diaに対する最大距離D541,D551の差の比率((D541-D551/Dia)×100)が0%未満である場合もしくは0.17%超である場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。これらの場合、電磁力比が10.0%を超えるため、
図14にはプロットされていない。したがって、第1の溝部51における溝の深さは、0%以上、0.17%以下(0≦(D541-D551/Dia)×100≦0.17)であればよい。
【0052】
図15は、第2の溝部52における二つの凹部542と凹部552との深さの差と、電磁力比との関係を示す図である。かかる深さの差は、
図3に示す凹部542の最大距離D542と凹部552の最大距離D552との差(D542-D552)の外接円COの直径(
図1に示す距離Dia)に対する比率(%)であり、
図15において溝の深さの差として示されている。電磁力比は、
図5に示す指標に準ずる。ただし、ここでの電磁力比は、面取り40および溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)を有する回転電機10において、第2の溝部52における溝の深さを変更した場合の指標である。
図15に示すように、溝の深さの差、つまり外接円COの直径Diaに対する最大距離D541,D551の差の比率((D542-D552/Dia)×100)が-0.4%未満である場合もしくは0.1%超である場合、電磁力比が0%とならない傾向がある。溝の深さの差が-0.4%未満である場合、電磁力比が10.0%を超えるため、
図15にはプロットされていない。したがって、第2の溝部52における溝の深さは、-0.4%以上、0.1%以下(-0.4≦(D541-D551/Dia)×100≦0.1)であればよい。
【0053】
このように本実施形態によれば、回転電機10に生じる電気角6次(機械角24次)の整数倍に関する高調波、特に径方向の電気角6次、12次、24次、および周方向の電気角6次、12次、24次の6種類の次数成分の電磁力を低減させることができる。本実施形態による高調波の電磁力の低減効果について、比較例との比較により説明する。
本実施形態に係る回転電機10(以下、本件という)は、
図1および
図2に示すような面取り40と溝50(第1の溝部51および第2の溝部52)をいずれも有している。このような本件に対する比較例として、
図16A、
図16B、
図16C、
図16Dには、回転子鉄心24の溝501,502,503の態様が溝50とは異なる比較例をそれぞれ示す。なお、これらの比較例において本件と同一もしくは類似する構成部材には、図面上で本件と同一符号を付する。
【0054】
図16Aは、回転子鉄心24の各磁極において、凸部53を持たない一つの凹部のみで溝501が形成されている。溝501は、全体が凹円弧状に湾曲しており、溝底56も平坦ではなく湾曲している。
図16Bは、回転子鉄心24の各磁極において、凸部53を持たない一つの凹部のみで溝502が形成されている。溝502は、溝501と異なり溝底57が平坦をなしており、溝底57以外の部位が凹円弧状に湾曲している。
図16Cは、回転子鉄心24の各磁極において、凸部58を挟んで周方向の両側に一つずつ、二つの凹部59を有して溝503が構成されている。これらの凸部58および凹部59は、矩形状をなしている。
図16Dは、回転子鉄心24は、溝50に相当する部位を有していない。すなわち、回転子鉄心24の外周面24aは、凹凸のない連続面となっている。
【0055】
また、固定子鉄心16のティース21についても、面取りの配置が本件と異なる比較例を想定する。これらの比較例として、すべてのティース21に面取り40と同一形態の面取りが設けられた例、互いに同相の電機子巻線18が通るスロット20間で当該スロット20の開口20aの縁を規定するティース21に面取り40と同一形態の面取りが設けられた例、いずれのティース21も面取り40に相当する部位を有していない例の三例を想定する。
【0056】
ここで、
図16A~16Dに示す回転子鉄心24の溝態様および
図2に示す回転子鉄心24の溝態様の五つの溝態様と、上述した固定子鉄心16の面取り態様および
図2に示す固定子鉄心16の面取り態様の四つの面取り態様とを組み合わせた二十例について、電磁力比を検討する。
図17は、各比較例における電磁力比を、本件を0とした場合の比率で示す図である。0%である場合、電磁力比が本件と同等以下であることを示す。したがって、電磁力比が本件よりも大きければ比較例の電磁力比は正値となり、同等以下であれば比較例の電磁力比は0となる。
【0057】
図17において、横軸に示すA~Eは、回転子鉄心24の溝態様を示し、Aは
図16Aに示す溝501の溝態様、Bは16Bに示す溝502の溝態様、Cは
図16Cに示す溝503の溝態様、Dは
図2に示す溝50の溝態様、Eは
図16Dに示す溝態様(溝なし)であることをそれぞれ示している。横軸に示す1~4は、固定子鉄心16の面取り態様を示し、1はすべてのティース21に面取り40が設けられた態様、2は互いに異相のスロット20間のティース21に面取り40が設けられた態様、3は互いに同相のスロット20間のティース21に面取りが設けられた態様、4は面取りが設けられていない態様であることをそれぞれ示している。
図17においては、本件および比較例における溝態様と面取り態様の組み合わせをこれらのA~Eと1~4の組み合わせにより示す。例えば、
図16AはA1で示す組み合わせ、
図16AはA2で示す組み合わせ、
図16BはB2で示す組み合わせ、
図16CはC2で示す組み合わせ、
図16DはE2で示す組み合わせを示しており、D2で示す組み合わせが本件である。
【0058】
図17に示すように、D2で示す本件以外の比較例は、いずれも電磁力比が0%を超えている。すなわち、D2で示す本件以外の比較例は、回転電機10における径方向の電気角6次、12次、24次、および周方向の電気角6次、12次、24次の6種類の次数成分の電磁力につき、許容範囲を0とした場合の超過率の合計比率(%)が本件よりも高くなっている。したがって、溝態様および面取り態様をD2で示す本件の態様とすることで、回転電機10に生じる電気角6次(機械角24次)の整数倍に関する高調波、特に径方向の電気角6次、12次、24次、および周方向の電気角6次、12次、24次の6種類の次数成分の電磁力を低減可能となる。すなわち、回転電機10において、狙った動作点における電磁力の高調波を抑制できるため、振動・騒音の低減を図ることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。かかる新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10…回転電機、12…固定子、14…回転子、16…固定子鉄心、16a…固定子鉄心の内周面、18,18u,18v,18w…電機子巻線(コイル)、18a…電機子巻線の内周端部、20,20u,20v,20w…スロット、20a…開口、21,21a,21b,21c…ティース、22…シャフト(回転軸)、23,23a,23b,23c…先端部、24…回転子鉄心、24a…回転子鉄心の外周面、25…内孔、26…永久磁石、40…面取り、50,501,502,503…溝、51…第1の溝部、52…第2の溝部、53,58,531,532…凸部、54,59,541,542…凹部、55,551,552…凹部、56,57…溝底、Ac…面取りの面積、A14…回転子の回転方向、CL…中心軸線、CO…外接円、D541,D551,D542,D552…凹部から外接円までの最大距離、Dia…外接円の直径、L1…面取りの径方向の長さ、L2…面取りの周方向の長さ、P541,P551,P542,P552…凹部と外周面との連続部位、S…先端部の面積(先端面積)、W1…ティースの周方向の最大幅、W2…ティース先端部の周方向の最大幅、θLP1,θLP2,θRP1,θRP2…溝の電気角、θLW…第1の範囲、θRW…第2の範囲。