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特許7456032光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物、インクセット、および記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物、インクセット、および記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20240318BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240318BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20240318BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20240318BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240318BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/54
C08F220/10
C08F2/50
B41J2/01 501
B41J2/01 127
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 116
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023025442
(22)【出願日】2023-02-21
【審査請求日】2023-02-21
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】西本 智久
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-189532(JP,A)
【文献】特開2018-193485(JP,A)
【文献】特許第7283527(JP,B1)
【文献】特開2017-019899(JP,A)
【文献】特開2021-195467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物および光重合開始剤を含む光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物であって、前記重合性化合物は
分子内に酸性基を含む単官能モノマー(A)、
分子内に芳香族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(B)、および
分子内に脂肪族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(C)
を含み、
前記単官能モノマー(A)はカルボキシ基を含み、
前記単官能モノマー(B)はヒドロキシ基を含み、
前記単官能モノマー(C)のSP値は、9.4(cal/cm1/2以上12(cal/cm1/2以下であり、
前記単官能モノマー(A)は、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレートを含み、
前記単官能モノマー(B)は、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートを含み、
前記単官能モノマー(C)は、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートを含み、
前記単官能モノマー(C)の含有量は、組成物全体の質量に基づいて、60質量%以上である組成物。
【請求項2】
前記組成物中の単官能モノマー(A)および(B)の合計含有量と単官能モノマー(C)の含有量との比は、1:1~1:7である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の単官能モノマー(A)および(B)の含有量比は2.1:1~10:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記光重合開始剤の含有量は、組成物全体の質量に基づいて、5.1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記重合性化合物は多官能モノマーを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
表面張力は20mN/m以上35mN/m以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
25℃での粘度は50mPa・s以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物と
着色剤を含むカラーインク組成物および/またはクリアインク組成物とを含むインクセット。
【請求項9】
請求項に記載のインクセットを用いて、非吸収性基材からなる被記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、
前記プライマーインク組成物をインクジェットヘッドから被記録媒体上に吐出し、光硬化させる工程、および
前記カラーインク組成物および/またはクリアインク組成物をインクジェットヘッドから、前記光硬化させたプライマーインク組成物上に吐出し、光硬化させる工程を含む、方法。
【請求項10】
前記非吸収性基材は表面改質処理されている、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記インクジェットヘッドの設計解像度は600dpi以上である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物、インクセット、および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクノズルヘッドからインクを液滴で吐出するインクジェット方式は、小型で安価であり、被記録媒体表面に非接触で画像形成が可能である等の理由から多くのプリンターに適用されている。最近では、広告、ポスター、装飾用途等でインクジェットプリンターを用いた商業用印刷および産業用印刷が行なわれるようになってきており、これに伴い、プラスチック等の非浸透性の被記録媒体表面を含む種々の材質の被記録媒体に対して印刷を可能にすること、さらに、より高い画像品質の印刷表面を実現することが強く要求されている。
【0003】
このような要求に応えるために、インクジェットプリンターで用いられるインク組成物に関する様々な研究がなされている。例えば、特許文献1では金属またはガラスに対する密着性を付与するアクリレートモノマーと、剛性を付与する多官能アクリレートモノマーおよび多官能アクリレートオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1つを含むインク組成物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2ではカルボキシ基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートとを含み、前記カルボキシ基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーと前記水酸基含有(メタ)アクリレートとの配合量の比を一定の範囲としたプライマーインク組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-019899号公報
【文献】特開2021-195467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したインク組成物を用いて印刷すると、印刷物の強度が低く、タック性(べたつき)が発現したり、被記録媒体への密着性が低い場合があるなど、必ずしも印刷物特性が十分ではなかった。また、より高速高精細の条件で印刷を行うと、安定してインク組成物が吐出されない可能性があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、優れた印刷物強度および密着性を有し、タック性が低く、さらに高速印刷においても優れた吐出安定性を有する光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1] 重合性化合物および光重合開始剤を含む光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物であって、前記重合性化合物は分子内に酸性基を含む単官能モノマー(A)、分子内に芳香族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(B)、および分子内に脂肪族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(C)を含み、前記単官能モノマー(C)の含有量は、組成物全体の質量に基づいて、60質量%以上である組成物。
[2] 前記単官能モノマー(C)のSP値は、9.4(cal/cm1/2以上12(cal/cm1/2以下である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記組成物中の単官能モノマー(A)および(B)の合計含有量と単官能モノマー(C)の含有量との比は、1:1~1:7である[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 前記組成物中の単官能モノマー(A)および(B)の含有量比は2.1:1~10:1である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記単官能モノマー(A)はカルボキシ基を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記単官能モノマー(B)はヒドロキシ基を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 前記単官能モノマー(C)は環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記光重合開始剤の含有量は、組成物全体の質量に基づいて、5.1質量%以上20質量%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 前記重合性化合物は多官能モノマーを含まない、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 表面張力は20mN/m以上35mN/m以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] 25℃での粘度は50mPa・s以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物と着色剤を含むカラーインク組成物および/またはクリアインク組成物とを含むインクセット。
[13] [12]に記載のインクセットを用いて、非吸収性基材からなる被記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、前記プライマーインク組成物をインクジェットヘッドから被記録媒体上に吐出し、光硬化させる工程、および前記カラーインク組成物および/またはクリアインク組成物をインクジェットヘッドから、前記光硬化させたプライマーインク組成物上に吐出し、光硬化させる工程を含む、方法。
[14] 前記非吸収性基材は表面改質処理されている、[13]に記載の方法。
[15] 前記インクジェットヘッドの設計解像度は600dpi以上である、[13]または[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた印刷物強度および密着性を有し、タック性が低く、さらに高速印刷においても優れた吐出安定性を有する光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
<光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物>
本発明の光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物(以下、「プライマーインク組成物」と称する場合がある)は、重合性化合物および光重合開始剤を含み、前記重合性化合物は分子内に酸性基を含む単官能モノマー(A)、分子内に芳香族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(B)、および分子内に脂肪族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(C)を含み、前記単官能モノマー(C)の含有量は、組成物全体の質量に基づいて、60質量%以上である。
【0012】
[重合性化合物]
本発明のプライマーインク組成物は重合性化合物を含む。本発明における重合性化合物は、光の照射によって重合反応をし、これらを含有する組成物を硬化させる機能を有する化合物である。具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基およびビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも1つのエチレン性二重結合を有する化合物が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基およびビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも1つのエチレン性二重結合を有する化合物がさらに好ましい。
なお、本明細書中「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の総称である。「(メタ)アクリルアミド」、「(メタ)アクリロイルオキシ」等の表記も同様の意味を有する。
【0013】
本発明のプライマーインク組成物は、重合性化合物として、分子内に酸性基を含む単官能モノマー(A)、分子内に芳香族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(B)、および分子内に脂肪族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(C)を含有する。
【0014】
本発明において、分子内に酸性基を含む単官能モノマー(A)(以下、単に「モノマー(A)」と称する場合がある)とは、分子内に1つのエチレン性二重結合を有し、かつ、分子内に1つ以上のカルボキシ基、スルホ基、リン酸基等の官能基を含む化合物を指してよい。本発明のプライマーインク組成物がモノマー(A)を含むと、特にガラスおよび金属に対して優れた密着性を示し得る。
【0015】
そのようなモノマー(A)としては、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-アクリロイロキシエチルコハク酸等の非環式のカルボキシ基含有単官能(メタ)アクリレート;2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸等の環式構造を有するカルボキシ基含有単官能(メタ)アクリレート;2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリル酸2-スルホエチル等の非環式のスルホ基含有単官能(メタ)アクリレート;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート等の非環式のリン酸基含有単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
前記モノマー(A)の中でも、カルボキシ基を含むものが好ましい。モノマー(A)がカルボキシ基を含むと、プライマーインク組成物の、特にガラスおよび金属に対する密着性がより向上する。カルボキシ基を含むモノマー(A)の中でも、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレートおよびカルボキシペンチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましく、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレートを含むことがさらに好ましい。
【0017】
本発明において、分子内に芳香族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(B)(以下、単に「モノマー(B)」と称する場合がある)とは、分子内に1つのエチレン性二重結合を有し、かつ、分子内に1つ以上の芳香族炭化水素系の環状構造を含む化合物を指してよい。なお、モノマー(B)は、好ましくは酸性を示す官能基は含まない。また、芳香族炭化水素系の環状構造に加えて、脂肪族炭化水素系の環状構造を有していてもよい。本発明のプライマーインク組成物がモノマー(B)を含むと、特にアクリルやポリアセタール等の樹脂に対して優れた密着性を示し得る。
【0018】
そのようなモノマー(B)としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、PO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、アルコキシ変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、4-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5-テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4-クロロフェニル(メタ)アクリレートおよびEO変性クレゾール(メタ)アクリレート等の分子内に1つ以上の芳香族炭化水素系の環状構造を有する(メタ)アクリレート類が挙げられる。また、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ビニル安息香酸メチルエステル、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、3-プロピルスチレン、4-プロピルスチレン、3-ブチルスチレン、4-ブチルスチレン、3-ヘキシルスチレン、4-ヘキシルスチレン、3-オクチルスチレン、4-オクチルスチレン、3-(2-エチルヘキシル)スチレン、4-(2-エチルヘキシル)スチレン、アリルスチレン、イソプロペニルスチレン、ブテニルスチレン、オクテニルスチレン、4-t-ブトキシカルボニルスチレン、4-メトキシスチレンおよび4-t-ブトキシスチレン等の芳香族ビニル類、さらに、ベンジルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテルおよびフェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等の分子内に1つ以上の芳香族炭化水素系の環状構造を有するビニルエーテル類を用いることもできる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
前記モノマー(B)の中でも、ヒドロキシ基を含むものが好ましい。モノマー(B)がヒドロキシ基を含むと、プライマーインク組成物の、特にアクリルやポリアセタール等の樹脂に対する密着性がより向上する。ヒドロキシ基を含むモノマー(B)の中でも、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートおよびフェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましく、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)を含むことがさらに好ましい。
【0020】
本発明のプライマーインク組成物中の前記モノマー(A)および(B)の含有量(質量)比(モノマー(A):モノマー(B))は、好ましくは2.1:1~10:1、より好ましくは2.2:1~10:1、さらに好ましくは2.3:1~10:1、よりさらに好ましくは2.4:1~9.5:1、特に好ましくは3:1~9.5:1、極めて好ましくは4:1~9:1である。モノマー(A)および(B)の含有量比が前記範囲内であると、プライマーインク組成物の非吸収性基材への密着性が向上し、特に、ガラスや金属などの無機系とアクリルやポリアセタールなどの有機系基材の双方において、優れた密着性を示し得る。
【0021】
本発明において、分子内に脂肪族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(C)(以下、単に「モノマー(C)」と称する場合がある)とは、分子内に1つのエチレン性二重結合を有し、かつ、分子内に1つ以上の環状の炭化水素基を含む化合物を指してよい。モノマー(C)は、好ましくは酸性を示す官能基および芳香族炭化水素系の環状構造は含まない。
【0022】
本発明において、モノマー(C)は、モノマー(A)およびモノマー(B)との相溶性に優れることが分かった。したがって、本発明のプライマーインク組成物がモノマー(A)およびモノマー(B)に加えてモノマー(C)を含有すると、高速印刷条件での吐出不良の原因と考えられる、従来の組成物では溶解しきれずにわずかに析出し得たモノマー(A)およびモノマー(B)が、本発明では析出せずにプライマーインク組成物中に十分に溶解していると考えられる。したがって、わずかな析出物でも影響を受けやすい高速印刷条件であっても、安定してプライマーインク組成物を吐出できる。また、吐出したプライマー層と被記録媒体との間に析出物によるひずみ(モノマー分子間の反応の不連続性や不均一性)が生じると、被記録媒体に対する密着性および印刷物強度が低下し得るため、モノマー(A)およびモノマー(B)が十分に溶解した本発明のプライマーインク組成物では、被記録媒体に対する密着性および印刷物強度が従来の組成物と比較して向上することも分かった。さらに、モノマー(C)を加えることにより、相溶性と硬化性が向上し得るため、タック性(ベタつき)が低くなることも分かった。すなわち、モノマー(C)には、モノマー(A)およびモノマー(B)といった単体ではタック性のある材料を、塗膜表面、塗膜内面、および基材界面といった塗膜全体のモノマー分布において、同種モノマーの局在化を減らし、均一化する作用があると考えられる。併せて、モノマー(C)自体の硬化性が良好であるため、塗膜中の全残存モノマーの比率を下げる効果があると考えられる。ただし、仮に実際の態様が前記推定とは異なっていたとしても、本発明の範囲内に含まれる。
【0023】
前記モノマー(C)の溶解度パラメータSP値は、好ましくは9.4(cal/cm1/2以上、より好ましくは9.5(cal/cm1/2以上、さらに好ましくは9.6(cal/cm1/2以上であり、好ましくは12(cal/cm1/2以下、より好ましくは11.8(cal/cm1/2以下、さらに好ましくは11.5(cal/cm1/2以下である。モノマー(C)のSP値が前記範囲内であると、モノマー(A)およびモノマー(B)のSP値との差が小さいため、相溶性が向上し、モノマー(A)およびモノマー(B)をより良好に溶解し得る。そのため、プライマーインク組成物の印刷物強度および密着性が向上し、タック性が低く、高速印刷においても優れた吐出安定性を示し得る。
【0024】
ここで、各モノマーのSP値は分子構造から計算により求められることが知られている。本明細書における溶解度パラメータはFedorsの方法(原崎勇次著、「コーティングの基礎科学」、第3章、35頁、1977年、槙書店発行)により得られる25℃での値を意味してよい。
【0025】
そのようなモノマー(C)としては、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-n-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートおよびジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の分子内に脂環式炭化水素構造を有するモノマー;環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシプロピル(メタ)アクリレート等の分子内にヘテロ環構造を有するモノマー等が挙げられる。また、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4-メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテルおよび4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等の分子内に脂環式炭化水素構造を有するビニルエーテル類を用いることもできる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
前記モノマー(C)の中でも、分子内にヘテロ環構造を含むモノマーが好ましい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられるが、モノマー(C)は酸素原子を含むヘテロ環構造を有するモノマーを含むことがより好ましく、モノマー(C)は環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートを含むことがさらに好ましい。モノマー(C)が分子内にヘテロ環構造を含むモノマー、特に環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートを含むと、プライマーインク組成物の印刷物強度および密着性がより向上し、タック性がより低くなり、高速印刷においてもより優れた吐出安定性を示し得る。
【0027】
モノマー(C)の含有量は、プライマーインク組成物全体の質量に基づいて60質量%以上である。モノマー(C)の含有量が60質量%以上であると、モノマーの相溶性が向上し得るため、プライマーインク組成物の印刷物強度および密着性(特に煮沸時の密着性)が向上し、タック性が低く、高速印刷においても優れた吐出安定性を示し得る。モノマー(C)の含有量は、好ましくは66質量%以上、より好ましくは67質量%以上、さらに好ましくは68質量%以上、よりさらに好ましくは69質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、極めて好ましくは71質量%以上である。モノマー(C)の含有量が前記下限値以上であると、プライマーインク組成物の印刷物強度および密着性(特に煮沸時の密着性)がより向上し、タック性がより低くなり、高速印刷においてもより優れた吐出安定性を示し得る。また、モノマー(C)の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0028】
また、モノマー(A)および(B)の合計含有量とモノマー(C)の含有量(質量)との比(モノマー(A)+モノマー(B):モノマー(C))は、好ましくは1:1~1:7、より好ましくは1:2~1:7、さらに好ましくは1:2.7~1:7、よりさらに好ましくは1:3.6~1:7、特に好ましくは1:4.5~1:6.5である。モノマー(A)および(B)の合計含有量とモノマー(C)の含有量との比が前記下限値以上および前記上限値以下であると、モノマー(C)がモノマー(A)および(B)を良好に溶解し得るため、プライマーインク組成物の印刷物強度および密着性が向上し、タック性が低くなり、高速印刷においても優れた吐出安定性を示し得る。
【0029】
本発明のプライマーインクは、上述した単官能モノマー(A)、(B)および(C)に加えて、重合性化合物として、上述した3種の単官能モノマーとは異なる構造を有する単官能モノマーを含有してもよい。
【0030】
具体的には、例えば、2-エチルヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-クロロエチル(メタ)アクリレート、4-ブロモブチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、ブトシキメチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、アルコキシメチル(メタ)アクリレート、アルコキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシドモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシド(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、オリゴプロピレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレートおよびパーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類、ならびにメトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、クロロブチルビニルエーテルおよびクロロエトキシエチルビニルエーテル等のビニルエーテル類などを用いることができる。
さらに、上記以外に、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなど)、アリルエステル類(酢酸アリルなど)、ハロゲン含有単量体(塩化ビニリデン、塩化ビニルなど)、シアン化ビニル〔(メタ)アクリロニトリルなど〕およびオレフィン類(エチレン、プロピレンなど)等を用いることができる。
これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本発明のプライマーインク組成物は、上述した単官能モノマーに加えて、多官能モノマーを含んでもよいが、多官能モノマーを含むと、硬化収縮のため、印刷物と被記録媒体とのひずみが大きくなり、プライマーインク組成物の密着性(特に煮沸時の密着性)が低下し得る。また、プライマーインク組成物の粘度が増加し得るため、吐出安定性が悪化し得る。したがって、本発明のプライマーインク組成物は二官能以上の多官能モノマーを含まないことが好ましい。言い換えると、本発明のプライマーインク組成物に含まれる重合性化合物は全て単官能の重合性化合物であることが好ましい。
【0032】
本発明のプライマーインク組成物における重合性化合物の含有量は、プライマーインク組成物全体の質量に基づいて、好ましくは80~98質量%、より好ましくは85~95質量%である。
【0033】
[光重合開始剤]
本発明のプライマーインク組成物は、光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は、光の照射によりプライマーインク組成物の重合を開始させることができる化合物であれば、特に限定されない。
【0034】
光重合開始剤としては、例えば、炭素数14~18のベンゾイン化合物〔例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等〕、炭素数8~18のアセトフェノン化合物〔例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等〕、炭素数14~19のアントラキノン化合物〔例えば、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等〕、炭素数13~17のチオキサントン化合物〔例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等〕、炭素数16~17のケタール化合物〔例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等〕、炭素数13~21のベンゾフェノン化合物〔例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノン等〕、炭素数22~28のアシルフォスフィンオキサイド化合物〔例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス-(2、6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド〕、これらの化合物の混合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硬化性の観点から、アセトフェノン化合物およびアシルフォスフィンオキサイド化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等が好ましい。また、光重合開始剤としては、市販されている製品を用いてもよく、例えば、BASF社製のDAROCURE TPO、IRGACURE184、IRGACURE907等が挙げられる。
【0035】
本発明のプライマーインク組成物における光重合開始剤の含有量は、プライマーインク組成物全体の質量に基づいて、好ましくは5.1質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、よりさらに好ましくは8質量%以上、特に好ましくは9質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。光重合開始剤の含有量が前記下限値以上であると、未反応のモノマー成分の量が低減し、モノマー成分が析出しにくくなるため、印刷物強度と密着性がより向上し、タック性が低くなる。一方、光重合開始剤の含有量が前記上限値以下であると、プライマーインク組成物中に未溶解のまま残存する光重合開始剤の量が低減し、未溶解の光重合開始剤が析出しにくくなるため、高速印刷における吐出安定性が良好となる。
【0036】
本発明のプライマーインク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、表面調整剤、重合禁止剤、増感剤、共増感剤、貯蔵安定剤、保存安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、連鎖移動剤、導電性塩類、充填剤、有機溶剤、希釈溶媒、増粘剤等が挙げられる。
【0037】
表面調整剤は、被記録媒体に対する濡れ性を向上させ、ハジキを防止するためのものである。
本発明において使用し得る表面調整剤の具体例としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類および脂肪酸塩類等のアニオン性表面調整剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性表面調整剤、アルキルアミン塩類および第4級アンモニウム塩類等のカチオン性表面調整剤、シリコーン系表面調整剤ならびにフッ素系表面調整剤などが挙げられる。
【0038】
表面調整剤の含有量は、その使用目的により適宜選択されるが、一般的には、プライマーインク組成物の総質量に対して、0.0001~1質量%であることが好ましい。前記の範囲内で必要に応じて表面調整剤の添加量を調節することにより、プライマーインク組成物の表面張力を調整することができる。
【0039】
重合禁止剤は、プライマーインク組成物を吐出する温度において、重合が過剰に起きることを抑制するためのものであり、プライマーインク組成物の保存性を高め、かつ、インクジェットヘッドからの吐出安定性を向上させる。
本発明において使用し得る重合禁止剤の具体例としては、例えば、ニトロソ系重合禁止剤、ハイドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p-メトキシフェノール、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-1-オキシル[TEMPOL(HO-TEMPO)]、クペロンAl、ヒンダードアミン等が挙げられる。
【0040】
重合禁止剤の含有量は、一般的にはプライマーインク組成物の総質量に対して、0.001~1.5質量%であることが好ましい。重合禁止剤の含有量が前記範囲であると、前記プライマーインク組成物の保存性をより高め、かつ、インクジェットヘッドからの吐出安定性をより向上させる。
【0041】
本実施形態に係るプライマーインク組成物は、プライマー層の上に形成する画像の画質に影響を与えないようにするため、透明であることが好ましい。すなわち、着色剤を含まないことが好ましい。また、前記プライマーインク組成物が着色剤を含むと、非硬化成分の含有量が増えるため、基材との密着性が低下する場合がある。これらの理由からも、プライマーインク組成物は、着色剤を含まないことが好ましい。
【0042】
本発明のプライマーインク組成物は、インクジェット方式により被記録媒体上に塗設される。このため、プライマーインク組成物の物理的特性がインクジェット方式に適合している必要がある。
具体的には、本発明のプライマーインク組成物の表面張力は、好ましくは20mN/m以上、より好ましくは25mN/m以上であり、好ましくは35mN/m以下、より好ましくは32mN/m以下である。プライマーインク組成物の表面張力が前記下限値以上および前記上限値以下であると、高速吐出時においてもノズルからの吐出液滴を正常に形成することができ、適切に画像を描画できる。表面張力は、例えば単官能モノマーの種類および/または量;表面調整剤の種類および/または量等を適切に調整することによって、前記範囲内に調整できる。表面張力は、例えば表面張力計を使用して測定することができ、実施例に記載の方法によって測定できる。
【0043】
また、本発明のプライマーインク組成物の25℃における粘度は、好ましくは50mPa・s以下、より好ましくは40mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下である。粘度が前記上限値以下であると、高速吐出時においても、インクヘッドから吐出を適切に行うことができる。なお、プライマーインク組成物の粘度の下限値については特に制限はないが、通常3.0mPa・s程度である。粘度は、例えば単官能モノマーの種類および/または量;光重合開始剤の種類および/または量等を適切に調整することによって、前記範囲内に調整できる。粘度は、例えば粘度計を使用して測定することができ、実施例に記載の方法によって測定できる。
【0044】
本発明のプライマーインク組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、混合攪拌装置等を用いて、プライマーインク組成物を構成する成分を均一に混合することにより製造することができる。
【0045】
<インクセット>
一般にインクジェット記録方法においては、高い画像濃度を得るために互いに重なり部分を有して付与された隣接するインク液滴が、乾燥前に被記録媒体上に留まって接触するため、隣接するインク液滴が互いに合一して画像の滲み、細線の線幅の不均一が発生し、鮮鋭な画像形成が損なわれやすい。本発明においては、本発明のプライマーインク組成物を用いて被記録媒体上にプライマー層を付与する構成とすることにより、プライマーインクと画像を形成するインク液滴との相互作用により、隣接するインク液滴間の合一を抑えることができる。これにより、画像の滲み、画像中の細線などの線幅の不均一および着色面の色ムラの発生が効果的に防止される。
【0046】
ここで、隣接するインク液滴とは、単一色のインクを用いてインク吐出口から打滴される液滴であって重なり部分を有して打滴されるもの、あるいは色違いのインクを用いてインク吐出口から打滴される液滴であって重なり部分を有して打滴されるインク液滴を意味する。隣接するインク液滴は、打滴が同時である液滴であってもよいし、先行打滴と後続打滴の関係にある先行液滴と後続液滴であってもよい。
【0047】
したがって、本発明のプライマーインク組成物は、画像を形成するための液体として、少なくとも1種の画像形成用インク組成物とともに用いることが好ましい。
本発明において、本発明のプライマーインク組成物とともに用いられる画像形成用インク組成物については特に制限はなく、従来、インクジェット方式に使用される公知のインク組成物を使用することができるが、光硬化性の重合性化合物、および着色剤を含むカラーインク組成物、および/または光硬化性の重合性化合物は含むが、着色剤は含まないクリアインク組成物が好ましい。すなわち、本発明において、画像形成用インク組成物には、カラーインク組成物およびクリアインク組成物が含まれる。
したがって、本発明は、本発明のプライマーインク組成物と、着色剤を含むカラーインク組成物および/またはクリアインク組成物とを含むインクセットを包含する。
【0048】
以下、本発明のプライマーインク組成物とともに用いるのに特に適した画像形成用インク組成物について説明する。なお、本明細書において、以下、「画像形成用インク組成物」とは、画像形成をするために用いられる画像形成用インクを構成する個々のインク組成物を意味する(通常、画像形成用インクは、複数の画像形成用インク組成物から構成される)。
【0049】
画像形成用インク組成物は、少なくとも画像を形成するための組成となるよう構成される。具体的には、例えば、少なくとも1種の重合性化合物を含み、必要により、着色剤、重合開始剤、重合禁止剤、表面調整剤および他の添加剤等から構成される。
【0050】
画像形成用インク組成物に用いる重合性化合物としては、硬化速度の点から、(メタ)アクリレート類および(メタ)アクリルアミド類が好ましい。特に、印刷物強度と低タック性の観点から、多官能の重合性化合物を主に用いることが好ましく、四官能以上の(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。さらには、画像形成用インク組成物の粘度低減および接着力向上の観点からは、三官能以上の多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレート若しくは二官能(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドを併用することが好ましい。
【0051】
画像形成用インク組成物における単官能重合性化合物と多官能重合性化合物の混合比が、質量比(単官能重合性化合物:多官能重合性化合物)で9:1~1:9であることが好ましく、8:2~2:8であることがより好ましく、4:6~2:8であることがさらに好ましい。単官能重合性化合物と多官能重合性化合物の混合比が前記数値の範囲内であると、画像形成用インク組成物の硬化速度および粘度が適切となり得る。
重合性化合物の含有量は、画像形成用インク組成物の固形分(質量)に対して、50~99.6質量%であることが好ましく、60~99.0質量%であることが好ましい。
【0052】
重合開始剤としては、例えば、本発明のプライマーインク組成物に使用し得るものとして例示した光重合開始剤を、適宜選択して使用することができる。重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、感度向上の目的で公知の増感剤と併用することもできる。
【0053】
重合開始剤は、画像形成用インク組成物の保存安定性を所望の程度に保持できる範囲で適宜選択して含有することが好ましい。その含有量は、例えば、画像形成用インク組成物の固形分に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましい。また、重合開始剤と重合性化合物との含有比は、質量比(重合開始剤:重合性化合物)で、0.5:100~30:100であることが好ましく、1:100~20:100であることがより好ましい。
【0054】
画像形成用インクは、通常、複数のカラーインク組成物からなる多色インクセットであってよい。画像形成用インクは、基本的に、シアン色のインク組成物(シアンインク組成物)、マゼンタ色のインク組成物(マゼンタインク組成物)、イエロー色のインク組成物(イエローインク組成物)、ブラック色のインク組成物(ブラックインク組成物)およびホワイト色のインク組成物(ホワイトインク組成物)からなる群から選択された少なくとも1つの着色インク組成物を含んでよい。また、場合によっては、バイオレット、ブルー、グリーン、オレンジおよびレッド等の特色を用いることにより色再現性に優れた画像を形成することができる。
【0055】
したがって、カラーインク組成物は、少なくとも1種の着色剤を含有することが好ましい。各色のカラーインク組成物は、それに対応する色を呈する着色剤を少なくとも1種含有する。カラーインク組成物に用いる着色剤は特に制限されず、公知の水溶性染料、油溶性染料および顔料等から適宜選択して用いることができるが、本発明のプライマーインク組成物が非水系であることから、本発明のプライマーインク組成物とともに使用するカラーインク組成物の着色剤は、非水溶性媒体に均一に分散、溶解しやすい油溶性染料または顔料であることが好ましく、顔料を用いることが特に好ましい。
【0056】
顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも使用することができる。
黒色顔料としては、カーボンブラック顔料等が好ましく挙げられる。また、一般には黒色、ならびにシアン、マゼンタ、およびイエローの3原色の顔料が用いられるが、その他の色相、例えば、金、銀色等の金属光沢顔料、無色または淡色の体質顔料なども目的に応じて用いることができる。
【0057】
マゼンタ色を呈するものとして、C.I.ピグメントレッド3(トルイジンレッド等)等のモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド38(ピラゾロンレッドB等)等のジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド53:1(レーキレッドC等)やC.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B)等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144(縮合アゾレッドBR等)などの縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド194(ペリノンレッド等)などのペリノン顔料、C.I.ピグメントレッド149(ペリレンスカーレット等)などのペリレン顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(無置換キナクリドン、CINQUASIA Magenta RT-355T;チバ・スペシャリティケミカルズ社製)、C.I.ピグメントレッド122(ジメチルキナクリドン)、C.I.ピグメントレッド202(ジクロロキナクリドン)などのキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180(イソインドリノンレッド2BLT等)などのイソインドリノン顔料、およびC.I.ピグメントレッド83(マダーレーキ等)などアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0058】
シアン色を呈する顔料として、C.I.ピグメントブルー25(ジアニシジンブルー等)などのジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3(IRGALITE BLUE GLO;チバ・スペシャリティケミカルズ社製)、C.I.ピグメントブルー15:4などのフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24(ピーコックブルーレーキ等)などの酸性染料レーキ顔料、およびC.I.ピグメントブルー18(アルカリブルーV-5:1)などのアルカリブルー顔料等が挙げられる。
【0059】
イエロー色を呈するものとして、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG等)、C.I.ピグメントイエロー74等のモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントイエロー12(ジスアジイエローAAA等)、C.I.ピグメントイエロー17等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー200(Novoperm Yellow 2HG)等の非ベンジジン系のアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100(タートラジンイエローレーキ等)などのアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95(縮合アゾイエローGR等)などの縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115(キノリンイエローレーキ等)などの酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18(チオフラビンレーキ等)などの塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー(Y-24)等のアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT(Y-110)等のイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー(Y-138)等のキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー(Y-139)等のイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー153(ニッケルニトロソイエロー等)などのニトロソ顔料、C.I.ピグメントイエロー150(ニッケル錯塩)などの金属錯塩アゾ顔料およびC.I.ピグメントイエロー117(銅アゾメチンイエロー等)などの金属錯塩アゾメチン顔料等が挙げられる。
【0060】
ブラック色を呈する顔料としては、カーボンブラック、チタンブラック、およびアニリンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、SPECIAL BLACK 250(デグサ社製)が例示できる。
【0061】
白色顔料としては、C.I.ピグメントホワイト6、18、21が例示できる。また、白色顔料の具体例としては、塩基性炭酸鉛(2PbCOPb(OH)、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが利用可能である。酸化チタンは他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きく化学的、物理的にも安定であるため、顔料としての隠蔽力および着色力が大きく、さらに、酸およびアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れている。したがって、白色顔料としては酸化チタンを利用することが好ましい。必要に応じて他の白色顔料(列挙した白色顔料以外であってもよい)を使用してもよい。
【0062】
これら公知の顔料の中でも、シアン色を呈する顔料がピグメントブルー15:3またはピグメントブルー15:4であることが好ましく、マゼンタ色を呈する顔料がピグメントレッド122、ピグメントレッド202またはピグメントバイオレット19であることが好ましく、イエロー色を呈する顔料がピグメントイエロー150、ピグメントイエロー180またはピグメントイエロー155であることがより好ましい。また、ホワイト色を呈する顔料が酸化チタンであることが好ましい。
【0063】
色再現性に優れた画像を形成するために、必要により用いるバイオレット、ブルー、グリーン、オレンジおよびレッド等の特色の顔料としては、例えば、以下のものを用いることができる。
バイオレットの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンB)、C.I.ピグメントバイオレット2(ローダミン3B)、C.I.ピグメントバイオレット3(メチルバイオレットレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット3:1(メチルバイオレットレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット3:3(メチルバイオレットレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット5:1(アリザリンマルーン)、C.I.ピグメントバイオレット13(ウルトラマリンピンク)、C.I.ピグメントバイオレット17(ナフトールAS)、C.I.ピグメントバイオレット23(ジオキサジンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット25(ナフトールAS)、C.I.ピグメントバイオレット29(ペリレンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット31(ビオランスロンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット32(ベンズイミダゾロンボルドーHF3R)、C.I.ピグメントバイオレット36(チオインジゴ)、C.I.ピグメントバイオレット37(ジオキサジンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット42(キナクリドンマルーンB)、C.I.ピグメントバイオレット50(ナフトールAS)等が市販品として入手可能である。
【0064】
ブルーの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー66等が市販品として入手可能である。
【0065】
グリーンの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントグリーン1(ブリリアントグリーンレーキ)、C.I.ピグメントグリーン4(マラカイトグリーンレーキ)、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、C.I.ピグメントグリーン8(ピグメントグリーンB)、C.I.ピグメントグリーン10(ニッケルアゾイエロー)、C.I.ピグメントグリーン36(臭素化フタロシアニングリーン)等が市販品として入手可能である。
【0066】
オレンジの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ1(ハンザイエロー3R)、C.I.ピグメントオレンジ2(オルソニトロオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ3(βナフトール)、C.I.ピグメントオレンジ4(ナフトールAS)、C.I.ピグメントオレンジ5(βナフトール)、C.I.ピグメントオレンジ13(ピラゾロンオレンジG)、C.I.ピグメントオレンジ15(ジスアゾオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ16(アニシジンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ17(ペルシアンオレンジレーキ)、C.I.ピグメントオレンジ19(ナフタレンイエローレーキ)、C.I.ピグメントオレンジ24(ナフトールオレンジY)、C.I.ピグメントオレンジ31(縮合アゾオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ34(ジスアゾピラゾロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ36(ベンズイミダゾロンオレンジHL)、C.I.ピグメントオレンジ38(ナフトールオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ40(ピランスロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ43(ペリノンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ46(エチルレッドレーキC)、C.I.ピグメントオレンジ48(キナクリドンゴールド)、C.I.ピグメントオレンジ49(キナクリドンゴールド)、C.I.ピグメントオレンジ51(ピランスロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ60(イミダゾロンオレンジHGL)、C.I.ピグメントオレンジ61(イソインドリノンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ62(ベンズイミダゾロンオレンジH5G)、C.I.ピグメントオレンジ64(ベンズイミダゾロン)、C.I.ピグメントオレンジ65(アゾメチンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ66(イソインドリオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ67(ピラゾロキナゾロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ68(アゾメチンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ69(イソインドリノンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ71(ジケトピロロピロールオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ72(イミダゾロンオレンジH4GL)、C.I.ピグメントオレンジ73(ジケトピロロピロールオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ74(ナフトールオレンジ2RLD)、C.I.ピグメントオレンジ81(ジケトピロロピロールオレンジ)等が市販品として入手可能である。
【0067】
レッドの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントレッド171、C.I.ピグメントレッド175、C.I.ピグメントレッド176、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド270等が市販品として入手可能である。
【0068】
このうち、色再現性、耐光性および顔料分散物の安定性の観点から、バイオレットの色を呈する顔料としてはC.I.ピグメントバイオレット23が、オレンジの色を呈する顔料としてはC.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ71が、グリーンの色を呈する顔料としてはC.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36が好ましい。
【0069】
本発明においては、上記の特色の顔料を含有するカラーインク組成物と、シアン色、マゼンタ色、イエロー色、ブラック色(黒色)またはホワイト色(白色)の顔料および/または染料を含有するカラーインク組成物を使用することが好ましい。
【0070】
着色剤の分散には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができ、また、ラインミキサー等の混合機を用いてもよい。さらに、上記着色剤の分散後、着色剤の粗大粒子を除去する目的で、遠心分離機、フィルター、クロスフロー等を用いて分級処理を行ってもよい。着色剤の分散を行う際には、分散剤を添加することができる。また、着色剤を添加するにあたっては、必要に応じて、分散助剤として、各種着色剤に応じたシナージストを用いることも可能である。着色剤などの諸成分の分散媒として、溶剤を添加してもよく、また、無溶媒で、低分子量成分である重合性化合物を分散媒として用いてもよい。本発明のプライマーインク組成物は、光硬化型の液体であることが好ましいことから、これとともに用いる画像形成用インク組成物も光硬化型の液体であることが好ましく、プライマーインク組成物および画像形成用インク組成物を被記録媒体上に適用後硬化させるため、これらは無溶剤であることが好ましい。形成した画像中に溶剤が残留すると、画像の耐溶剤性が低下したり、残留する溶剤のVOC(Volatile Organic Compound)の問題が生じたりするためである。このような観点から、分散媒として重合性化合物を用い、中でも、粘度が低い重合性化合物を選択することが分散適性およびインク組成物のハンドリング性向上の観点から好ましい。
【0071】
用いる着色剤の平均粒径が微細なほど発色性に優れるため、着色剤の平均粒径は0.01μm以上0.4μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.2μm以下であることがさらに好ましい。最大粒径が、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下となるよう、着色剤、分散剤、分散媒の選定、分散条件、分級条件、ろ過条件を設定することが好ましい。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インク組成物の保存安定性および透明性および硬化感度を維持することができる。
なお、着色剤の粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には、例えば、遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法または動的光散乱法により測定することができる。
【0072】
カラーインク組成物における着色剤の含有量は、色、および使用目的により適宜選択されるが、画像濃度および保存安定性の観点から、画像形成用インク組成物の総質量に対して、0.1~30質量%であることが好ましく0.5~20質量%であることがさらに好ましい。
着色剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体を組み合わせて用いることもできる。さらに、打滴する液滴および液体ごとに異なる着色剤を用いてもよいし、同一の着色剤を用いてもよい。
【0073】
着色剤の分散を行う際に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、その種類に特に制限はないが、公知の高分子分散剤を用いることが好ましい。高分子分散剤としては、例えば、DisperBYK-101、DisperBYK-102、DisperBYK-103、DisperBYK-106、DisperBYK-111、DisperBYK-161、DisperBYK-162、DisperBYK-163、DisperBYK-164、DisperBYK-166、DisperBYK-167、DisperBYK-168、DisperBYK-170、DisperBYK-171、DisperBYK-174、DisperBYK-182(以上BYKケミー社製)、EFKA4010、EFKA4046、EFKA4080、EFKA5010、EFKA5207、EFKA5244、EFKA6745、EFKA6750、EFKA7414、EFKA7462、EFKA7500、EFKA7570、EFKA7575、EFKA7580(以上エフカアディティブ社製)、ディスパースエイド6、ディスパースエイド8、ディスパースエイド15、ディスパースエイド9100(サンノプコ製)等の高分子分散剤;ソルスパース(Solsperse)3000、5000、9000、12000、13240、13940、17000、24000、26000、28000、32000、33000、36000、39000、41000、71000などの各種ソルスパース分散剤、(アビシア社製);アデカプルロニックL31、F38、L42、L44、L61、L64、F68、L72、P95、F77、P84、F87、P94、L101、P103、F108、L121、P-123((株)ADEKA製)およびイソネットS-20(三洋化成(株)製)楠本化成(株)社製「ディスパロン KS-860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」が挙げられる。
また、フタロシアニン誘導体(商品名:EFKA-745(エフカ社製))、ソルスパース5000、12000、ソルスパース22000(アビシア社製)等の顔料誘導体もあわせて使用することができる。分散性および安定性に優れた前記分散剤を用いることにより、微粒子着色剤を用いた場合でも、均一で安定な分散物が得られる。
【0074】
分散剤の含有量は、使用目的により適宜選択されるが、カラーインク組成物の総質量に対して、0.01~5質量%であることが好ましい。
【0075】
本発明のインクセットにおけるクリアインク組成物は、顔料を含まないか、またはブルーイング剤等の顔料および/または染料を少量含むのみである、高い透明性を有するインクである。クリアインク組成物における顔料の含有量は、クリアインク組成物の総量に基づいて、通常0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。クリアインク組成物における顔料の含有量の下限は、0質量%である。
【0076】
カラーインク組成物およびクリアインク組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、前記成分を混合攪拌装置等を用いて均一に混合することにより製造することができる。
【0077】
本発明のプライマーインクとともに使用する画像形成用インク組成物は、前記成分の他、増感剤、共増感剤、貯蔵安定剤、保存安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、連鎖移動剤、導電性塩類、充填剤、有機溶剤、希釈溶媒、増粘剤およびその他の添加剤等を目的に応じて併用することができる。
【0078】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクセットを用いるインクジェット記録方法は、上述のインクセットを用いて、非吸収性基材からなる被記録媒体上に画像を形成する。より詳しくは、上述のプライマーインク組成物をインクジェットヘッドから被記録媒体上に吐出し、光硬化させた後、上述のカラーインク組成物および/またはクリアインク組成物をインクジェットヘッドから、前記光硬化させたプライマーインク組成物上に吐出し、光硬化させる。
【0079】
本発明において、被記録媒体上に画像形成用インク組成物を吐出することによって形成される画像と同一領域またはその画像より広い領域に、プライマーインクを付与することが好ましい。すなわち、本発明のプライマーインク組成物を用いたインクジェット記録方法の具体的な態様の1つは、被記録媒体上に打滴される複数色の画像形成用インク組成物の液滴により形成される画像と同一またはその画像よりも広い範囲に、本発明のプライマーインク組成物を吐出する工程と、被記録媒体上に吐出されたプライマーインク組成物に光を与える工程と、前記光硬化させたプライマーインク組成物上に、複数色の画像形成用インク組成物の液滴を吐出する工程とを含む。特に、画像形成用インク組成物の液滴により形成される画像よりも広い範囲に、プライマーインク組成物を吐出する場合、印刷物を重ね合わせて保管する場合や後工程での加工性の観点から、プライマーインク組成物の印刷物強度が高く、低タック性であることが重要である。
【0080】
前記プライマーインク組成物および前記カラーインク組成物および/またはクリアインク組成物の光硬化は、前記吐出と同時に行ってもよいし、前記吐出の直後に行ってもよい。プライマーインク組成物における重合性化合物の反応度(モノマー二重結合反応率)は、工程や用途に応じて調整してもよい。例えば、プライマーインク組成物が半硬化(モノマー二重結合反応率が約50%)の場合、カラーインク組成物との界面でお互いのモノマーが共重合し、より強固な密着性を発揮する可能性がある。最終的には、印刷物の強度や低タック性の観点から、プライマーインク組成物とカラーインク組成物ともに、全硬化(モノマー二重結合反応率が90~100%)であることが好ましい。なお、前記反応率は例えば、塗膜の赤外線吸収スペクトル(IR)等を測定することにより求めることができる。前記光硬化させる光としては、例えば、遠赤外線、赤外線、可視光線、近紫外線、紫外線等が挙げられる。これらの中でも、硬化作業の容易性および効率性の観点から、近紫外線または紫外線であることが好ましい。
【0081】
光硬化反応に必要なエネルギー量は、重合開始剤の種類、含有量などによって異なるが、一般には、積算光量が100mJ/cm以上10,000mJ/cm以下程度が好ましい。
【0082】
本発明の記録方法において、インクジェットヘッドから吐出される、プライマーインク組成物のドロップボリュームは2pl以上30pl以下であることが好ましく、3pl以上20pl以下であることがより好ましい。また、インクジェットヘッドの設計解像度は600dpi以上であることが好ましい。本発明のプライマーインク組成物は、モノマー(C)を含むことによって、モノマー(A)および(B)の相溶性に優れるため、前記のような高速高精細の条件であっても、優れた印刷物強度と密着性を有し、タック性が低く、さらに優れた吐出安定性を有する。
【0083】
本発明において、プライマーインク上に吐出される画像形成用インクの液滴は、1pL以上25pL以下の液滴サイズにて(好ましくはインクジェットノズルにより)打滴されることが好ましく、1pL以上15pL以下の液滴サイズで打滴されることがより好ましい。液滴サイズが前記範囲内であると、高鮮鋭度の画像濃度で描写できる点で有効である。
【0084】
前記プライマーインク組成物および前記カラーインク組成物は、前記非吸収性基材上での塗膜の膜厚がそれぞれ1~20μmとなるように、前記インクジェットヘッドから吐出することが好ましい。
【0085】
前記非吸収性基材としては、例えばプラスチックフィルム、ならびに、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているもの、および、プラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。なお、プラスチックとは、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアセタール等が挙げられる。他にも、例えば、アルミニウム、鉄、金、銀、銅、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、シリコン、鉛、亜鉛、ステンレス等の金属、ガラス等の非吸収性基材を用いてもよい。
【0086】
前記非吸収性基材は、表面改質処理されていることが好ましい。非吸収性基材の表面が改質処理されていると、プライマーインク組成物の印刷物強度および密着性がより向上し得る。そのような改質処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等が挙げられる。表面改質処理は当該技術分野で公知の方法で行うことができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」および「部」は、特記ない限り、質量%および質量部である。
【0088】
各実施例および比較例で用いたインク組成物の成分を以下の表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(光硬化型インクジェット用プライマーインク組成物の調製)
表2に示す配合で、光重合性化合物、光重合開始剤、重合禁止剤、および表面調整剤を、混合攪拌装置を用いて均一に混合した。その後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引濾過することにより、実施例1~5(実施例3は参考例)および比較例1~6の光硬化型インクジェット用プライマーインク組成物を調整した。
【0091】
【表2】
【0092】
(SP値)
SP値は、Fedorsの方法(原崎勇次著、「コーティングの基礎科学」、第3章、35頁、1977年、槙書店発行)により得られる25℃での値であり、具体的には以下の方法に従って算出した値である。
Fedorsは、凝集エネルギー密度とモル体積の両方が、置換基の種類および数に依存していると考え、以下の式と各々の置換基に応じた定数を提案している。
【数1】
式中、δはSP値(cal/cm1/2、ΔEは凝集エネルギー密度、Vはモル体積、Δeiは各々の原子または原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)、Δviは各々の原子または原子団のモル体積(cm/mol)である。
また、ガラス転移温度Tgが25℃以上の化合物については、モル体積に次の値を加算した:化合物中の繰り返し単位中の主鎖骨格原子数をnとした場合、n<3の場合はΔviに4nを加え、n≧3の場合はΔviに2nを加えた。
【0093】
(粘度の測定)
実施例および比較例のプライマーインク組成物の粘度は、R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーン回転数5rpmの条件下で測定した。
【0094】
(表面張力の測定)
実施例および比較例のプライマーインク組成物の表面張力は、25℃における、測定開始から20秒後の値を、全自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB-V(協和界面科学社製)を用いて測定した。
【0095】
(光硬化型インクジェット用ブラックインク組成物の調製)
まず、着色剤(顔料)の一次分散体を次のようにして調製した。即ち、プラスチック製ビンに、重合性化合物HDDA、着色剤MA8、分散助剤S5000および分散剤S32000を、表3に示す配合量(単位:質量%)となるように計り取り、これに直径0.3mmのジルコニアビーズ100質量部を加えて、この混合物をペイントコンディショナーにより1時間分散処理した。
次に、上記一次分散体を用いて顔料インクを次のようにして調製した。即ち、上記一次分散体に、表3に示す配合量(単位:質量%)で残りの成分を加えて、この混合物をマグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所製、捕捉粒子0.8μm)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、ブラックインク組成物を調製した。
【0096】
【表3】
【0097】
(評価用印刷物サンプルの作製)
実施例および比較例のプライマーインク組成物を、各基材(ガラス、SUS、POM(ポリアセタール)(コロナ処理済み))の上に、バーコーターを用いて塗布し、厚さ15μmのインクベタ塗膜をそれぞれ形成した。この塗膜に、照射手段として高圧水銀ランプ(ピーク照度:300mW/cm)を用いて、トータル照射光量が500mJ/cmとなるように、紫外線を照射して、硬化させてベタ印刷物を得た。
更に、プライマーインクベタ印刷物の上に、ブラックインク組成物を、バーコーターを用いて塗布し、厚さ15μmのインクベタ塗膜をそれぞれ形成した。この塗膜に、照射手段として高圧水銀ランプ(ピーク照度:300mW/cm)を用い、ガラスとSUSはトータル照射光量が500mJ/cmとなるように、POMはトータル照射光量が1500mJ/cmとなるように、紫外線を照射して、硬化させてベタ印刷物を得た。
なお、POMのコロナ処理は、コロナ表面改質評価装置(TEC-4AX、春日電機社製)を用いて、出力100W、電極移動速度1.5m/分の条件で行った。
【0098】
(印刷物強度の評価)
実施例および比較例のプライマーインク組成物と、ブラックインク組成物を使用して、ガラス基材上に上記の手順で形成したベタ印刷物を、目視で確認し、以下の基準により印刷物強度を評価した。すなわち、プライマー層の印刷物強度が弱ければ、ブラック層を形成する際に、バーコーターで物理的にプライマー層を削ることになり、塗膜の凸凹が顕在化し、平坦膜とならないことを表している。
◎:プライマー層もブラック層も、塗膜が平坦である
〇:プライマー層もブラック層も、わずかに塗膜の乱れ(横段)が発生している
△:プライマー層が削れてブラック層と共に、塗膜の乱れ(横段)が発生している
×:プライマー層が大きく削れてブラック層と共に、塗膜が形成できていない
【0099】
(タック性の評価)
実施例および比較例のプライマーインク組成物と、ブラックインク組成物を使用して、ガラス基材上に上記の手順で形成したベタ印刷物を、指で触って、以下基準によりタック性を評価した。
◎:べたつきがなく、インクが指に付着しない
〇:わずかにべたつきはあるが、インクが指に付着しない
△:べたつきがあり、インクがわずかに指に付着する
×:非常にべたつき、インクが指に付着する
【0100】
(密着性の評価)
実施例および比較例のプライマーインク組成物と、ブラックインク組成物を使用して上記の手順で形成したベタ印刷物を、クロスカットし、粘着シート[セロテープ(登録商標)(ニチバン社製)]の粘着層側の面を貼り付け、引き剥がす操作を行った。
密着性は、下記基準により評価した。
◎:全く剥離しなかった
〇:わずかに剥離した
△:一部剥離した
×:粘着シートを貼りつけた部分の全面が剥離した
【0101】
(耐煮沸性の評価)
実施例および比較例のプライマーインク組成物と、ブラックインク組成物を使用して、POM基材上に上記の手順で形成したベタ印刷物を、沸騰した水中に投入し、20分間煮沸し、表面の水分を乾燥除去した後、クロスカットし、粘着シート[セロテープ(登録商標)(ニチバン社製)]の粘着層側の面を貼り付け、引き剥がす操作を行った。
耐煮沸性は、下記基準により評価した。
◎:全く剥離しなかった
〇:わずかに剥離した
△:一部剥離した
×:粘着シートを貼りつけた部分の全面が剥離した
【0102】
(ろ過試験)
実施例および比較例のプライマーインク組成物をガラスビンに充填し、これを環境試験機により、60℃で14日間保存後、-10℃で14日間保存の熱冷試験を1サイクル行った。その後、プライマーインク組成物中の析出物の発生の有無について、SUSメッシュ(孔径5μm)を用いてプライマーインク組成物を吸引ろ過し、上記メッシュ上の残留物の状態を光学顕微鏡により観察し、以下の基準によりプライマーインク組成物の保存安定性を評価した。
◎:残留物なし
〇:わずかな残留物あり
△:残留物あり
×:多量の残留物あり
【0103】
(吐出性の評価)
実施例および比較例のプライマーインク組成物と前述のブラックインク組成物を、市販のLED-UV硬化インクジェットプリンター(液滴サイズ7pl、解像度720×600dpi、LED波長385nm、ピーク照度1200mW/cm、積算光量2600mJ/cm、ヘッド横にUVランプを設置)に充填し、インクジェットヘッドからガラス基材に吐出し、インク液滴が基材に着弾する都度、同時にUV照射し、プリンターステージから基材/プライマー層/カラー層の順になるように、文字印刷物を連続で10枚作製した。
吐出性は、下記基準により評価した。
◎:吐出抜けなし、着弾ずれがなく、プライマー液滴とブラック液滴も重なっている
〇:吐出抜けなし、わずかに着弾ずれはあるが、実用上は問題なし
△:吐出抜けあり、着弾ずれがあり、プライマー効果を発揮できない
×:多数の吐出抜けあり、文字を形成できない
【0104】
評価結果を表4に示す。
【表4】
【要約】
【課題】優れた印刷物強度および密着性を有し、タック性が低く、さらに高速印刷においても優れた吐出安定性を有する光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物を提供すること。
【解決手段】重合性化合物および光重合開始剤を含む光硬化型インクジェット記録用プライマーインク組成物であって、前記重合性化合物は分子内に酸性基を含む単官能モノマー(A)、分子内に芳香族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(B)、および分子内に脂肪族炭化水素系の環状構造を含む単官能モノマー(C)を含み、前記単官能モノマー(C)の含有量は、組成物全体の質量に基づいて、60質量%以上である組成物。
【選択図】なし