(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】レチナールを製造する新規な方法
(51)【国際特許分類】
C07C 403/14 20060101AFI20240319BHJP
C07C 403/08 20060101ALI20240319BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C07C403/14
C07C403/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021556319
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2020059479
(87)【国際公開番号】W WO2020212164
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-11-24
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ボンラス, ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー, マーク‐アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ウェステンベルグ, ベッティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン, ヴィクター
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-038228(JP,A)
【文献】特開昭51-052102(JP,A)
【文献】特表平04-502167(JP,A)
【文献】特開2001-114755(JP,A)
【文献】特表2006-528605(JP,A)
【文献】特開昭46-003215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY/CASREACT/MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
の化合物を製造する方法であって、前記方法が、式(II)
【化2】
[式中、
Rは-CHO又は-CH
2OHである]の化合物の選択的脱水素化によるものであり、
前記脱水素化が、少なくとも1つの遷移金属触媒の存在下で行われる、
式(I)の化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記遷移金属触媒がPd触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属触媒がPd(OAc)
2である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒の量が、(式(II)の化合物に対して)0.01モル当量から0.5モル当量までである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
空気及び/又はO
2の存在下で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの塩基の存在下で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前
記塩基がK
2CO
3又はピリジンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前
記塩基が(式(II)の化合物に対して)0.01モル当量から0.5モル当量までの量で存在する、請求項6又は請求項7に記載の方法。
【請求項9】
不活性溶媒の中で行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記不活性溶媒が
ジメチルホルムアミド(DMF
)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
0℃~100℃の温度で行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、レチナール及びレチナールの水素化形態を製造する新規な方法に関する。
【0002】
レチナールは、即ち、レチネン、レチンアルデヒド及びビタミンAアルデヒドとしても知られ、次式(Ia)
【化1】
の化合物である。
【0003】
レチナールの特定の水素化形態もまた、本発明の方法によって製造することができ、それは次式(Ib)
【化2】
の化合物である。
【0004】
本発明の方法によって製造される化合物は、次式(I)
【化3】
にまとめることができる。
【0005】
C-C二重結合があるため、式(I)の化合物及び式(II)の化合物は、複数の立体化学異性体を有することができ、その全てが本願に暗黙的に図示されているわけではないが、それらも本発明による方法によって包含される。立体化学の影響は、本発明による方法にとって重要ではない。
【0006】
レチナール及びその水素化形態(式(Ib)の化合物)は、それ自体で使用することができるか、又は有機合成(即ち、レチノール又はレチノイン酸の製造のため)に中間体として使用される。
【0007】
Y.Shvoら(ザ・ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.1998,63,5640))から、類似の脱水素化が知られているが、それにより得られる収率は低く、適用される酸化剤は工業的に実行可能ではなく、ストキオメトリック(stochiometric)な量の廃棄物が生成する。
【0008】
レチナール及びその水素化形態が(特にビタミンAの合成において)重要であるため、式(I)の化合物を製造する新規な方法を提供する必要が常にある。
【0009】
驚くべきことに、レチナールは、式(II))
【化4】
[式中、Rは-CHO又は-CH
2OHである]の化合物の脱水素化によって製造することができることが判明した。
【0010】
この方法は処理が容易であり、ビタミンA(及びその誘導体)の合成を短縮する可能性を提供することを可能にする。
【0011】
下図は、式(IIa)及び(IIb)の化合物からビタミンA(アセテート)を取得する経路である。
【化5】
【化6】
【0012】
水素化形態(II’)(II’’)、(II’’’)、及び(II’’’’)から出発してビタミンAアセテートを取得する経路は、化合物(IIa)を用いる経路及び式(IIb)の経路と類似している。
【0013】
本発明の方法は、遷移金属触媒の存在下で行われる。特にPd触媒の存在下で。特にPd(II)触媒。触媒としてPd(OAc)2が極めて適している。
【0014】
遷移金属触媒の配位子は変更(OAcを置き換え)することができる。しかし、配位子は本方法において主要な役割をするものではない。
【0015】
さらに、反応は、酸化剤として空気及び/又はO2の存在下で行うことができる。
【0016】
空気及び/又はO2は、本方法の間中継続的に、又は反応の時間における任意の好適な時点で添加することができる。
【0017】
したがって、本発明は、式(I)
【化7】
の化合物を製造する方法(P)であって、方法(P)が、式(II)
【化8】
[式中、Rは-CHO又は-CH
2OHである]
の化合物の選択的脱水素化によるものであり、
当該脱水素化が、少なくとも1つの遷移金属触媒の存在下で行われる、
式(I)の化合物を製造する方法(P)に関する。
【0018】
さらに、本発明は、遷移金属触媒がPd触媒である方法(P)である、方法(P’)に関する。
【0019】
さらに、本発明は、遷移金属触媒がPd(II)触媒であり、最も好ましくはPd(OAc)2の存在下での方法(P)である、方法(P’’)に関する。
【0020】
さらに、本発明は、遷移金属触媒がPd(OAc)2である方法(P)である、方法(P’’’)に関する。
【0021】
本発明による方法において使用される触媒の量は変動し得る。触媒の量は、通常、(式(II)の化合物に対して)0.01モル当量から0.5モル当量までである。
【0022】
したがって、本発明は、触媒の量が、(式(II)の化合物に対して)0.01モル当量から0.5モル当量までである、方法(P)、(P’)、(P’’)又は(P’’’)である、方法(P1)に関する。
【0023】
さらに、本発明の方法は、空気及び/又はO2の存在下で行うことができる。
【0024】
したがって、本発明は、空気及び/又はO2の存在下で行われる方法(P)、(P’)、(P’’)、(P’’’)又は(P1)である、方法(P2)に関する。
【0025】
本発明による方法は、通常、少なくとも1つの塩基の存在下で行われる。例えば、K2CO3、ピリジンなどのように。
【0026】
塩基の量は変動し得る。それは通常、(式(II)の化合物に対して)0.01モル当量から0.5モル当量までである。
【0027】
したがって、本発明は、少なくとも1つの塩基の存在下で行われる方法(P)、(P’)、(P’’)、(P’’’)、(P1)又は(P2)である、方法(P3)に関する。
【0028】
したがって、本発明は、塩基がK2CO3又はピリジンである、方法(P3)である、方法(P3’)に関する。
【0029】
したがって、本発明は、塩基が(式(II)の化合物に対して)0.01モル当量から0.5モル当量までの量で存在する、方法(P3)又は(P3’)である、方法(P3’’)に関する。
【0030】
反応は通常、不活性溶媒の中で行われる。溶媒は通常、DMFなどの極性非プロトン性である。
【0031】
したがって、本発明は、不活性溶媒の中で行われる方法(P)、(P’)、(P’’)、(P’’’)、(P1)、(P2)、(P3)、(P3’)又は(P3’’)である、方法(P4)に関する。
【0032】
したがって、本発明は、不活性溶媒がDMFである、方法(P4)である、方法(P4’)に関する。
【0033】
現在による方法は、通常、昇温で行われる。通常、本発明による方法は、0℃~100℃、好ましくは5℃~90℃の温度で行われる。
【0034】
したがって、本発明は、0℃~100℃の温度で行われる方法(P)、(P’)、(P’’)、(P’’’)、(P1)、(P2)、(P3)、(P3’)、(P3’’)、(P4)又は(P4’)である、方法(P5)に関する。
【0035】
したがって、本発明は、5℃~90℃の温度で行われる方法(P5)である、方法(P5’)に関する。
【0036】
さらに、本発明は、次の新規な化合物:
【化9】
に関する。
【0037】
この新規な化合物(7,8,11,12-テトラヒドロレチナール)は、A.Proszenyakら、Arch.Pharm.2007,340,625-634により得られる、対応するアリル型アルコールの酸化によって得ることができる。
【0038】
さらに、本発明は、次式
【化10】
の新規な化合物に関する。
【0039】
これらの新規な化合物は、例えば、S.Saito,H.Yamamoto,ザ・ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.1996、61、2928~2929)によって得られる、11,12-ジヒドロ-レチナール、又は7,8,11,12-テトラヒドロレチナールから出発し、例えば、Mazetら(Acc.Chem.Re.2016、49、1232~1241)の手順に従って、異性化によって製造される。
【0040】
上に述べたように、本発明による方法は、ビタミンA(及び/又はその誘導体)の合成における1つの重要なステップである。
【0041】
以下の実施例は、本発明を例示する役割をする。温度は℃で記載され、パーセンテージは全て重量に関する。
【0042】
[実施例]
[実施例1:]
撹拌子、温度計及びジムロート冷却器を備えた二口フラスコに、K2CO3(16mg、0.15当量)、Pd(OAc)2(16mg)、11,12-ジヒドロレチナール(190mg、1.0当量)、DMF(3.0mL)及びピリジン(5μL、0.1当量)を入れた。一定の空気流を加えながら、黄色懸濁液を60℃で6時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、Et2O(10mL)で希釈し、H2O(10mL×3)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮した(40℃/30mbar)。カラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物を橙色固体として得た(85mg、収率46%)。
【0043】
[実施例2:]
撹拌子、温度計及びジムロート冷却器を備えた四つ口フラスコに、K2CO3(150mg、0.17当量)、Pd(OAc)2(150mg)、7,8,11,12-テトラヒドロレチナール(1.8g、1.0当量)を入れた。DMF(30.0mL)及びピリジン(50μL、0.1当量)。一定の空気流を加えながら、黄色懸濁液を60℃で6.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、Et2O(100mL)で希釈し、H2O(100mL×3)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮した(40℃/30mbar)。カラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物(11,12-ジヒドロレチナール)を橙色油状物として得た(0.66g、収率40%)。
【0044】
[実施例3:]
撹拌子、温度計及びジムロート冷却器を備えた三つ口フラスコに、K2CO3(166mg、0.17当量)、Pd(OAc)2(189mg)、11,12-ジヒドロレチノール(2.1g、1.0当量)、DMF(30.0mL)及び1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(416mg、0.14当量)を入れた。一定の空気流を加えながら、黄色懸濁液を60℃で6時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、Et2O(100mL)で希釈し、H2O(100mL×3)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮した(40℃/30mbar)。カラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物を橙色固体として得た(0.39g、収率18%)。
【0045】
[実施例4:]
撹拌子、温度計及びジムロート冷却器を備えた三つ口フラスコに、K2CO3(168mg、0.16当量)、Pd(OAc)2(190mg)、7,8,11,12-テトラヒドロレチノール(2.2g、1.0当量)、DMF(30.0mL)及び1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(418mg、0.14当量)を入れた。一定の空気流を加えながら、黄色懸濁液を60℃で24時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、Et2O(100mL)で希釈し、H2O(100mL×3)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮した(40℃/30mbar)。カラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物(7,8-ジヒドロレチナール)を橙色油状物として得た(0.45g、収率21%)。
【0046】
[実施例5:]
撹拌子(1.5cm)及びジムロート冷却器を備えた二口フラスコに、K2CO3(16mg、0.18当量)、Pd(OAc)2(23mg)、7,8,11,12,13,14-ヘキサヒドロレチナール(250mg、1.0当量)、DMF(3.0mL)及びピリジン(7μL、0.1当量)を入れた。一定の空気流を加えながら、黄色懸濁液を60℃で31時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、Et2O(10mL)で希釈し、H2O(10mL×3)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮した(40℃/30mbar)。カラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物を橙色油状物として得た(48mg、収率19%)。
【0047】
[実施例6:]
撹拌子(1.5cm)及びジムロート冷却器を備えた二口フラスコに、K2CO3(18mg、0.18当量)、Pd(OAc)2(18mg)、11,12,13,14-テトラヒドロレチナール(200mg、1.0当量)、DMF(3.0mL)及びピリジン(6μL、0.1当量)を入れた。一定の空気流を加えながら、黄色懸濁液を60℃で48時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、Et2O(10mL)で希釈し、H2O(10mL×3)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮した(40℃/30mbar)。カラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物を橙色固体として得た(29mg、収率15%)。