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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240319BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D63/00 500
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019194969
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2020069479
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018205290
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 俊
(72)【発明者】
【氏名】花川 正行
(72)【発明者】
【氏名】岩井 健太
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-346345(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046430(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/051647(WO,A1)
【文献】特開平06-049426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)筒状ケースの内壁と、前記筒状ケース内に収容された中空糸膜束と、の間隙に、粘度が0.3~10Pa・sのポッティング剤を注入して、プレポッティング部を成形する、
(B)前記プレポッティング部を硬化させて、前記筒状ケースの長手方向における最大幅が40~150mm、前記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における最大幅が150~300mm、のポッティング部を成形する、硬化工程と、を備え、
前記(A)注入工程における、前記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における前記ポッティング剤の平均流入線速度が、0.2~10.0mm/分であり、前記ポッティング部における、前記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるガラス転移温度の標準偏差が、10未満である中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記プレポッティング部における、前記ポッティング剤の前記中空糸膜束への含浸率が、65%以上である、請求項1記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記中空糸膜束と、前記ポッティング剤との接触角が、20~55°である、請求項1又は2記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記ポッティング部の硬化収縮応力に対する、前記ポッティング部の引張強度が、1.2倍以上の値である、請求項1~のいずれか一項記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密ろ過膜や限外ろ過膜等の分離膜は、省エネルギー、省スペースあるいは製品の品質向上等に資することから、食品工業、医療、上水・用水製造又は排水処理等をはじめとする、様々な分野での流体分離プロセスで利用されている。
【0003】
分離膜の形状としてはシート状の平膜又は中空糸膜が挙げられるが、大量の流体を分離する場合においては、分離膜の充填密度を高めることが可能な、中空糸膜が有利である。そして中空糸膜については、多数本の中空糸膜束の端部がポッティング部で束ねられ、筒状ケース内に収容された、中空糸膜モジュールが知られている。
【0004】
中空糸膜束を束ねるポッティング部は、筒状ケースの内壁と、筒状ケース内に収容された中空糸膜束との間隙に、ポッティング剤を注入し、その後硬化させて成形されることが一般的である。その際、ポッティング剤が筒状ケースの内壁と、中空糸膜束との間隙、又は、中空糸膜束内の中空糸膜同士の間隙に十分に浸透しないと、成形されたポッティング部に貫通孔が生じる場合がある。さらには、ポッティング剤の浸透が十分であったとしても、ポッティング剤が硬化する際の硬化収縮応力により、ポッティング部に亀裂が生じることがある。そしてこれらの貫通孔や亀裂は、中空糸膜モジュールを用いた流体分離プロセスにおいて、ポッティング部を経由した意図せぬ流体の混入等の、多くの悪影響を及ぼしかねないものである。
【0005】
このようなポッティング部の貫通孔や亀裂の発生を抑制する方法としては、例えば、ポッティング剤の熱硬化時の発熱温度を120℃以下に制御して、硬化収縮応力を低減する着想(特許文献1)や、筒状ケース内を減圧吸引しながらポッティング剤を注入する方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-346345号公報
【文献】特開2010-247024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のポッティング剤の熱硬化時の発熱温度を制御する着想については、その具体化がなされておらず、実用の域に至っていないのが現状である。また減圧吸引をする方法についても、装置の大型化が必要となるものであり、工業的な実施は極めて困難であった。
【0008】
そこで本発明は、成形されるポッティング部の貫通孔や亀裂の発生を効果的に抑制可能であり、信頼性の高い中空糸膜モジュールを高収率で製造可能な、中空糸膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、(A)筒状ケースの内壁と、上記筒状ケース内に収容された中空糸膜束と、の間隙に、粘度が0.3~10Pa・sのポッティング剤を注入して、プレポッティング部を成形する、注入工程と、(B)上記プレポッティング部を硬化させて、上記筒状ケースの長手方向における最大幅が40~150mm、上記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における最大幅が150~300mm、のポッティング部を成形する、硬化工程と、を備え、上記(A)注入工程における、上記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における上記ポッティング剤の平均流入線速度が、0.2~10.0mm/分である、中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポッティング部に由来するトラブルが顕著に抑制された、信頼性の高い中空糸膜モジュールを、高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】中空糸膜モジュールの一例を示す、概略縦断面図である。
図2】本発明が備える(A)注入工程を、静置法で行う場合の一例を示す概略図である。
図3】本発明が備える(A)注入工程で用いられることがある、複数の注型を上方向から観察した場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について具体的な構成を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0013】
(1)中空糸膜モジュール
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法である。以下に図面を参照しながら、中空糸膜モジュールの態様の一例について、詳細に説明をする。
【0014】
図1は、外圧式の中空糸膜モジュールの一例を示す概略縦断面図である。図1の中空糸膜モジュール100は、長手方向における両端部が開口した筒状ケース3と、筒状ケース3内に収納された、複数の中空糸膜1からなる中空糸膜束2と、キャップ6及びキャップ7とを備える。
【0015】
筒状ケース及びキャップの素材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリスルホン、ポリカーボネート又はポリフェニレンスルフィド等の樹脂が挙げられるが、安価で加工のし易い、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0016】
中空糸膜としては、例えば、精密ろ過膜又は限外ろ過膜等の多孔質中空糸膜が挙げられる。
【0017】
中空糸膜の外径は、膜面積を確保しつつ、流体分離プロセスにおける中空糸膜の形状変化を抑制するため、0.6~2.0mmであることが好ましく、0.8~1.6mmであることがより好ましく、1.0~1.4mmであることがさらに好ましい。
【0018】
中空糸膜の内径は、中空部を流れる透過流体の抵抗を抑制するため、0.2mm以上であることが好ましい。また中空糸膜の内径/膜厚比は、流体分離プロセスにおける中空糸膜の形状変化を抑制するため、0.85~8.00であることが好ましい。
【0019】
中空糸膜の素材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン又はポリプロピレン等が挙げられるが、洗浄がし易く耐久性に優れる、フッ素樹脂系高分子が好ましく、特にポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0020】
筒状ケース3の内壁と、筒状ケース3内に収容された中空糸膜束2との間隙には、第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5が成形され、複数の中空糸膜1を束ね、かつ、中空糸膜束2を筒状ケース3内に固定している。なお、第1ポッティング部4側の中空糸膜1の端面は、いずれも開口した状態であり、第2ポッティング部5側の中空糸膜1の端面は、第2ポッティング部で封止された状態となっている。
【0021】
供給流体を、供給流体入口8、及び、第2ポッティング部5に形成された貫通孔11を経由させて中空糸膜モジュール100内に導入し、中空糸膜1を透過しなかった濃縮流体を濃縮流体出口10から排出して、中空糸膜1を透過した透過流体を透過流体出口9から導出することにより、クロスフロー方式の流体分離を実施することができる。また濃縮流体出口10を閉止すれば、供給流体を全てろ過する、全量ろ過方式の流体分離を実施することができる。
【0022】
(2)中空糸膜モジュールの製造方法
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法は、(A)筒状ケースの内壁と、筒状ケース内に収容された中空糸膜束と、の間隙に、粘度が0.3~10Pa・sのポッティング剤を注入して、プレポッティング部を成形する、注入工程を備える。そして本発明の中空糸膜モジュールの製造方法では、上記(A)注入工程における、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度が、0.2~10.0mm/分である必要がある。
【0023】
ここで「ポッティング剤」とは、事後的に硬化させることが可能な、樹脂をその成分として含有する組成物をいう。ポッティング剤が含有する樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、安価で環境への影響も小さいエポキシ樹脂又はポリウレタン樹脂がより好ましく、強度の高いエポキシ樹脂がさらに好ましい。エポキシ樹脂は硬化剤と混合することで、熱硬化させることができる。
【0024】
エポキシ樹脂としては、熱硬化させる際の発熱温度の制御が容易な、ビスフェノール型のエポキシ樹脂が好ましく、安全性の高い、ビスフェノールF型又はビスフェノールA型のエポキシ樹脂がより好ましい。エポキシ樹脂の硬化剤としては、アミンが挙げられるが、熱硬化させる際の発熱温度の低い二官能型のアミンが好ましく、さらに強度の高い脂環式アミン又は芳香族アミンがより好ましい。脂環式アミン又は芳香族アミンとしては、例えば、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン又はビス(4-アミノフェニル)メタンを主骨格として含むアミンが挙げられる。
【0025】
ポッティング剤には、反応促進剤、反応遅延剤又は希釈剤等の添加剤が含まれていても構わないし、粒子等のフィラーが含まれていても構わない。
【0026】
ポッティング剤の粘度は、0.3~10Pa・sである必要がある。ポッティング剤の粘度が上記範囲にあることで、ポッティング剤の平均流入線速度を好適な範囲に制御しつつ、ポッティング剤が中空糸膜の中空部を完全に閉塞することなく、必要部位にポッティング剤を十分に浸透させることができる。なおポッティング剤の粘度は、0.4~8Pa・sであることが好ましい。
【0027】
ポッティング剤の粘度は、B型粘度計で測定することができる。ポッティング剤の粘度とは、硬化剤と混合後、30分以内に30℃で測定する。31℃以上で測定した場合、ポッティング剤の効果反応の影響があり、正確にポッティング剤の粘度を測定することが難しい。また、測定時にはポッティング剤に気泡を含まないように、混合時または混合から測定までの間に脱泡することが好ましい。
【0028】
筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における、筒状ケース内部の最大幅(筒状ケースが円筒状である場合には、その最大径に相当)は、省スペース化を図りつつ、必要部位にポッティング剤を十分に浸透させるため、ポッティング剤が注入され、プレポッティング部が成形される部位において150~300mmであることが必要であるが、160~250mmであることが好ましい。
【0029】
ポッティング剤が注入され、プレポッティング部が成形される部位における中空糸膜束の充填率は、省スペース化を図りつつ、必要部位にポッティング剤を十分に浸透させるため、35~65%であることが好ましく、45~60%であることがより好ましい。
【0030】
ここで「中空糸膜束の充填率」とは、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるプレポッティング部の断面積に占める、中空糸膜の断面積の割合をいう。
【0031】
筒状ケースの内壁と、筒状ケース内に収容された中空糸膜束との間隙にポッティング剤が注入されることで、ポッティング剤は筒状ケースの内壁と中空糸膜束との間隙のみならず、中空糸膜束内の中空糸膜同士の間隙にも浸透する。ここで、中空糸膜束とポッティング剤との間に生じる極微細な貫通孔の発生を抑制するためには、ポッティング剤がさらに、中空糸膜の細孔に一定程度含浸していることが好ましい。
【0032】
より具体的には、成形されたプレポッティング部における、ポッティング剤の中空糸膜束への含侵率が、65%以上であることが好ましい。さらに好ましくは70%以上であり、最も好ましいのは80%以上である。
【0033】
ここで「ポッティング剤の中空糸膜束への含浸率」とは、中空糸膜束を構成する中空糸全体に占める、「ポッティング剤の含浸深さ」が20~300μmの中空糸の割合をいう。また「ポッティング剤の含浸深さ」とは、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における、中空糸の表面からポッティング剤が含浸した部位の幅をいう。
【0034】
「ポッティング剤の含浸深さ」は、液体窒素で凍結させた後、プレポッティング部を筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向に破断した断面Xを、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
【0035】
より具体的には、一の中空糸膜の断面につき、無作為に選定した5箇所について、ポッティング剤の含浸深さをそれぞれ測定し、それら値の平均値を、その中空糸膜への「ポッティング剤の含浸深さ」として算出することができる。
【0036】
また「ポッティング剤の中空糸膜束への含浸率」は、上記断面Xにおいて無作為に選定した10本の中空糸膜について、それぞれ「ポッティング剤の含浸深さ」を算出し、選定した10本の中空糸膜に占める「ポッティング剤の含浸深さ」が20~300μmの中空糸の割合を、「ポッティング剤の中空糸膜束への含浸率」とすることができる。
【0037】
さらに、中空糸膜の細孔の完全閉塞を防ぎつつ、中空糸膜束とポッティング剤との間に生じる極微細な貫通孔の発生を抑制するため、中空糸膜束とポッティング剤との親和性の指標である接触角は、20~55°であることが好ましく、25~40°であることがより好ましく、最も好ましいのは25~35°である。
【0038】
中空糸膜束とポッティング剤との接触角は、中空糸膜束から無作為に選定した10本の中空糸膜について、一般的な接触角計を用いて、ポッティング剤を滴下した直後の接触角をそれぞれ測定し、その平均値として算出することができる。
【0039】
上記(A)注入工程における、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度が0.2mm/分以上であることで、ポッティング剤が硬化する前に、必要部位にポッティング剤を十分に浸透させることができ、かつ、ポッティング剤を中空糸膜の細孔に適度に含侵させることができる。また、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度が10.0mm/分以下であることで、ポッティング剤を注入している間の、ポッティング剤の硬化発熱を抑制することができ、後にポッティング部に蓄積される、硬化収縮応力を低減することができる。筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度は、1.0~8.0mm/分が好ましく、1.5~6.0mm/分がより好ましい。
【0040】
上記(A)注入工程における、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度は、例えば透明な注型を用いる等して、注入中のポッティング剤の挙動(単位時間当たりのポッティング剤の拡散距離)を、筒状ケースの長手方向から観察することにより測定することができる。ポッティング剤の流入線速度は、注入を開始した直後が最も大きく、その後時間が経過すると共にポッティング剤の粘度が上昇し、ポッティング剤の流入線速度は徐々に小さくなる。より具体的には、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における平均流入線速度は、ポッティング剤の注入を開始した直後から5分毎に、ポッティング剤が中空糸膜束内の中空糸膜同士の間隙、又は、筒状ケースの内壁と中空糸膜束との間隙に浸透して、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向に拡散した距離dを、無作為に選定した5箇所で測定する作業を、5箇所すべてにおいてポッティング剤の拡散が停止するまで繰り返し、測定した距離dの総数n、測定した距離dの合計値であるtdから、下記式(1)に基づき算出することができる。
【0041】
平均流入線速度(mm/分) = td(mm)/{n×5(分)} ・・・(式1)
なお、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向において「ポッティング剤の拡散が停止する」とは、距離dを5で除した値が0.5mm/分未満となった場合、又は、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の拡散が、注型の内壁にまで達した場合をいう。
【0042】
上記(A)注入工程において、ポッティング剤を注入する方法としては、筒状ケースを回転させて生じた遠心力によりポッティング剤を必要部位へ浸透させる遠心法と、注型の内部に筒状ケース及び中空糸膜束を静置して、ポンプ等で注型にポッティング剤を注入する静置法とが一般的であるが、大型の設備が不要な、静置法が好ましい。
【0043】
図2は、本発明が備える(A)注入工程を、静置法で行う場合の一例を示す概略図である。筒状ケース3及び中空糸膜束2の一端は注型12の内部に静置されており、ポッティング剤は、容器13から注型12に設けられたポート14を経由して注型12の内部に注入され、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向に拡散し、筒状ケースと中空糸膜束との間隙に注入されて、注型12の内部にプレポッティング部が成形される。なおポート14は、複数設けられていても構わない。
【0044】
図3は、本発明が備える(A)注入工程で用いられることがある、複数の注型を上方向から観察した場合の概略図である。図3に示すように、注型12の内部には、溝15が設けられていても構わない。設けられる溝15の数が多いほど、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度を高めることができる。また溝15は、ポート14を中心として点対称になるように配置されることが好ましい。なお筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入線速度を高める他の方法としては、例えば、中空糸膜束と注型との間にネット又はメッシュ等を流路材として配置する方法が挙げられる。
【0045】
ポッティング部における中空糸膜の端面をいずれも開口した状態にする場合には、上記(A)注入工程の前に、中空糸膜端部の中空部を封止しておくことが好ましい。この場合、後述する(B)硬化工程の後に注型を取り外し、中空部を封止した中空糸膜端部含むポッティング部の一部を破断することによって、中空糸膜の端面を開口させることができる。なお流路材を配置した場合には、中空糸膜端部を含むポッティング部の一部の破断と共に、流路材を取り除いても構わない。
【0046】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法は、(B)上記プレポッティング部を硬化させて、上記筒状ケースの長手方向における最大幅が40~150mm、上記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における最大幅が150~300mm、のポッティング部を成形する、硬化工程を備える。
【0047】
成形されたポッティング部の、上記筒状ケースの長手方向における最大幅は、製造された中空糸膜モジュールの耐圧性等を確保しつつ、ポッティング剤の硬化発熱を抑制するため、40~150mmである必要がある。
【0048】
また成形されたポッティング部の、上記筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における最大幅は、150~300mmである必要がある。これは上述したように、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向における、筒状ケース内部の最大幅が、ポッティング剤が注入され、プレポッティング部が成形される部位において150~300mmであることが必要であるためである。
【0049】
プレポッティング部が硬化する際の硬化発熱温度は、成形されたポッティング部の硬化収縮応力を抑制するため、110℃未満が好ましく、100℃未満がより好ましく、90℃未満がさらに好ましい。また、プレポッティング部の硬化を十分なものにするためには、上記(A)注入工程で用いるポッティング剤の調製直後の温度が、0℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることがさらに好ましい。
【0050】
成形されたポッティング部においては、原料のエポキシ樹脂等に由来する網目密度が均一でない場合、網目密度の指標となるガラス転移温度が低い箇所を起点に、亀裂が発生することがある。このため、ポッティング部の亀裂の発生を抑制するためには、成形されたポッティング部の部位間におけるガラス転移温度のバラツキは、小さいことが好ましい。より具体的には、ポッティング部における、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるガラス転移温度の標準偏差が、10未満であることが好ましく、7未満であることがより好ましく、5未満であることがさらに好ましい。
【0051】
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。またポッティング部における、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるガラス転移温度の標準偏差は、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向に破断したポッティング部の断面Yにおいて、その重心と、無作為に選択した外周上の一点と、を結んだ直線Lの中点を中点1、上記重心と中点1との中点を中点2、中点1と上記の外周上の一点との中点を中点3、としたとき、直線Lの両端、及び、中点1~3の計5箇所からポッティング部をサンプリングし、ガラス転移温度をそれぞれ測定したときの、標準偏差として算出することができる。
【0052】
成形されたポッティング部における亀裂の発生を抑制するため、ポッティング部の引張強度は、ポッティング部の硬化収縮応力に対して1.2倍以上の値であることが好ましい。ポッティング剤が硬化する際の硬化発熱により、ポッティング剤が含有する樹脂が膨張し、その後の温度低下に伴い収縮しようとするが、ポッティング部が筒状ケース又は中空糸膜束等に固着しているために自由な収縮が阻害される。それに起因して、成形されたポッティング部に硬化収縮応力が蓄積されることとなる。
【0053】
ポッティング部の引張強度は、ポッティング部の試験片としてJIS K 7161に準拠する1号ダンベル試験片を複数用意し、引張試験機を用いて、引張速度5mm/分の条件で引張試験を5回繰り返したときの、平均値として算出することができる。またポッティング部の硬化収縮応力は、樹脂硬化収縮応力測定装置を用いて、被測定対象のポッティング剤に対し、プレポッティング部を硬化させる硬化工程と同じ温度履歴を与え、その際に温度測定用ロードセルに作用する応力を測定し決定することができる。
(3)中空糸膜モジュールの評価
中空糸膜モジュールの分離性能に対する信頼性を評価するためには、筒状ケース内に水を充填した状態で、濃縮液出口10から100kPaの圧力を印加した状態で密閉し、5分間経過後の圧力減衰を確認するとよい。圧力減衰が20kPa未満の場合、その中空糸膜モジュールは“リークなし”と判定でき、信頼性の高い中空糸膜モジュールと判定できる。また、中空糸膜モジュールの製造収率と品質を高めるためには、製造した中空糸膜モジュールの平均圧力減衰値が低いほど好ましく、18kPa以下が好ましく、15kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更により好ましく、8kPa以下が更により好ましく、5kPa以下が最も好ましい。
【実施例
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0055】
なお以下に記載された各操作は、特に指定の無い限り、常圧、25℃、湿度40%の空気雰囲気下で行った。
【0056】
(実施例1)
(a)中空糸膜の製造
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38質量部と、γ-ブチロラクトン62質量部とを混合し、160℃で溶解して製膜原液を調製した。この製膜原液を、85質量%γ-ブチロラクトン水溶液を中空部形成液体として随伴させながら二重管の口金から吐出し、口金の30mm下方に設置した温度20℃の85質量%γ-ブチロラクトン水溶液からなる冷却浴中で凝固させて、球状構造の中空糸膜を作製した。
【0057】
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマー14質量部と、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製;CAP482-0.5)1質量部と、N-メチル-2-ピロリドン77質量部と、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(三洋化成工業株式会社製;イオネット(登録商標)T-20C)5質量部と、水3質量部とを混合し、95℃で溶解して製膜原液を調製した。この製膜原液を、上記で得られた球状構造の中空糸膜の表面に均一に塗布し、直ちに水浴中で凝固させて、球状構造層の上に三次元編目構造を形成させた、中空糸膜1を作製した。
【0058】
得られた中空糸膜1は、外径1350μm、内径800μmであり、バブルポイント法(ASTM F316-86、JIS K 3832)に基づく平均細孔径は40nmであった。
【0059】
(b)中空糸膜モジュールの製造
得られた中空糸膜1を長さ1800mmにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬した後、風乾した。この中空糸膜1をさらに長さ1200mmにカットした。この中空糸膜1を7700本まとめて中空糸束にし、その一端の端部の中空部をシリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング株式会社製;SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で封止し、図2に示すようにポリ塩化ビニル製の筒状ケース(内径200mm、外径216mm、長さ1000mm)に収容した。
【0060】
さらに図2に示すように、透明の注型(図3に示す(α)の注型)の内部に筒状ケース及び中空糸膜束を静置して、ポッティング剤を内径6mmのチューブ及びポート14を経由して注型の内部に注入してプレポッティング部を成形した(注入工程)。この際、筒状ケースの長手方向下方から透明の注型の内部をカメラで撮影し、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向におけるポッティング剤の平均流入速度を測定したところ、9.9mm/分であった。
【0061】
なおポッティング剤としては、30℃に保管したビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製;JER828)と、脂肪族環状アミン系硬化剤(和光純薬工業株式会社製;4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン))と、脂肪族鎖状アミン系硬化剤(和光純薬工業株式会社製;ジエチルアミノプロピルアミン)とを、質量比が100:11:25となるように混合したものを用いた。混合直後のポッティング剤の温度は、30℃であった。
【0062】
成形したプレポッティング部を一晩静置して硬化させ、第1のポッティング部を成形した(硬化工程)後、注型を取り外した。一晩静置の間の硬化過程において、ポッティング部中央部の硬化発熱の最高温度は、98℃に達した。また成形された第1ポッティング部の筒状ケースの長手方向における最大幅は、100mmであった。
【0063】
成形された第1のポッティング部は、その端面から筒状ケースの長手方向に20mmの位置で、筒状ケースの長手方向に対し垂直な方向に破断して、中空糸膜の端面を開口させた。
【0064】
シリコーン接着剤で封止をしていない中空糸膜束の他端についても、同様に注入工程と硬化工程とを実施して、第2ポッティング部を成形した。
【0065】
最後に、図1に示すように上キャップ及び下キャップをそれぞれ取り付けて、中空糸膜モジュールを完成させた。
【0066】
(c)中空糸膜モジュールの評価
製造した中空糸膜モジュールを10本用意し、いずれも筒状ケース内に水を充填した状態で、濃縮液出口10から100kPaの圧力を印加した状態で密閉し、5分間経過後の圧力減衰を確認した。圧力減衰が20kPa未満の場合、その中空糸膜モジュールは“リークなし”と判定した。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは9本であった。リークした1本の中空糸膜モジュールでは、第1ポッティング部に亀裂が生じていた。その他の測定結果等を、表1にまとめた。
【0067】
(実施例2)
注型を変更し、ポッティング剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製;JER828)と、脂肪族環状アミン系硬化剤(和光純薬工業株式会社製;4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン))と、脂肪族鎖状アミン系硬化剤(和光純薬工業株式会社製;ジエチレントリアミン)とを、質量比が100:22:12となるように混合したものを用いた以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造し、その評価をした。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは9本であった。リークした1本の中空糸膜モジュールでは、第1ポッティング部において中空糸膜束内の中空糸膜同士の間隙に、ポッティング剤が浸透しないまま硬化された部分があった。その他の測定結果等を、表1にまとめた。
【0068】
(実施例3)
注型その他を表1記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造し、その評価をした。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは9本であった。リークした1本の中空糸膜モジュールでは、第1ポッティング部において中空糸膜束内の中空糸膜同士の間隙に、ポッティング剤が浸透しないまま硬化された部分があった。その他の測定結果等を、表1にまとめた。
【0069】
(実施例4)
注型その他を表1記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造し、その評価をした。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは8本であった。リークした2本の中空糸膜モジュールでは、第1ポッティング部に亀裂が生じていた。その他の測定結果等を、表1にまとめた。
【0070】
(実施例5)
中空糸膜1を1時間浸漬させるグリセリン水溶液の濃度を45質量%に変更し、かつ、注型その他を表1記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造し、その評価をした。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは10本であった。その他の測定結果等を、表1にまとめた。
【0071】
(比較例1)
一部条件を表1記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造し、その評価をした。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは5本のみであった。その他の測定結果等を、表1にまとめた。リークした5本の中空糸膜モジュールでは、第1ポッティング部に亀裂が生じていた。
【0072】
(比較例2)
一部条件を表1記載の条件に変更した以外は、実施例2と同様に中空糸膜モジュールを製造し、その評価をした。その結果、“リークなし”の中空糸膜モジュールは4本のみであった。その他の測定結果等を、表1にまとめた。リークした6本の中空糸膜モジュールでは、第1ポッティング部において中空糸膜束内の中空糸膜同士の間隙に、ポッティング剤が浸透しないまま硬化された部分があった。
【0073】
【表1】
【符号の説明】
【0074】
1 中空糸膜
2 中空糸膜束
3 筒状ケース
4 第1ポッティング部
5 第2ポッティング部
6 キャップ
7 キャップ
8 供給流体入口
9 透過流体出口
10 濃縮流体出口
11 貫通孔
12 注型
13 容器
14 ポート
15 溝
100 中空糸膜モジュール
図1
図2
図3