(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】成型支援装置および成型支援方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20240319BHJP
【FI】
G01N23/041
(21)【出願番号】P 2019219347
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-09-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年12月5日に開催された「第28回 ファインテックジャパン 2018」にて公開 (2)平成30年12月21日に開催された「高分子のための機器分析セミナー」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 生馬
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-168300(JP,A)
【文献】特開2019-184450(JP,A)
【文献】特開平6-114862(JP,A)
【文献】特開平9-286818(JP,A)
【文献】特開2017-30152(JP,A)
【文献】Johann KASTNER et al.,Talbot-Lau grating interferometer X-ray computed tomography for the characterization of fibre-reinforced polymers,Digital Industrial Radiology and Computed Tomography,2015年,Vol.20,No.8
【文献】そり(ソリ、反り)現象の原因と対策,TORAY,[online],2019年11月29日,[2023年5月29日検索],インターネット<URL:https://www.3dtimon.com/case/tips/tips01.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
B29C 39/00-B29C 39/44
B29C 43/00-B29C 43/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、
前記作製プロセスは、射出成
型もしくはプレス成型
の成型条件であり、
前記成型条件を示す成型条件データを入力とし、前記タルボ特徴量を出力とする機械学習を行う第1の学習器と、
前記タルボ特徴量を入力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、
前記特定部は、前記性能データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた成型条件データを特定することを特徴とする成型支援装置。
【請求項2】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、
前記作製プロセスは、射出成型もしくはプレス成型の成型条件であり、
前記成型条件を示す成型条件データを出力とし、前記タルボ特徴量を入力とする機械学習を行う第1の学習器と、
前記タルボ特徴量を出力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、
前記特定部は、前記成型条件データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた性能データを特定することを特徴とする成型支援装置。
【請求項3】
前記タルボ画像から、前記成型品の成型不良箇所を検出する検出部と、をさらに備え、
前記特定部は、金型設計を構成する項目または射出成型を構成する項目のうち、前記成型不良箇所を改善可能な項目を特定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成型支援装置。
【請求項4】
前記作製プロセスは、射出成型の金型設計であり、
前記タルボ画像から、前記成型品の材料となる樹脂の配向を表現する配向画像を生成する画像処理部と、
前記配向画像から、前記成型品の成型不良箇所を検出する検出部と、をさらに備え、
前記特定部は、前記金型設計を構成する項目のうち、前記成型不良箇所を改善可能な項目を特定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成型支援装置。
【請求項5】
前記作製プロセスは、射出成型の金型設計であり、
前記金型設計に基づく金型データと、複合材料データを入力して射出成型における複合材料の流動解析を行う解析部と、
前記タルボ画像から、前記成型品の材料となる樹脂および繊維の配向を表現し、前記流動解析の解析結果と比較可能な形式を持つ配向画像を生成する画像処理部と、
前記流動解析の解析結果と前記配向画像とを比較して、前記流動解析の妥当性を検証する検証部と、をさらに備え、
前記特定部は、前記検証の結果に基づいて、前記金型設計を構成する項目のうち、前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成型支援装置。
【請求項6】
前記成型品は、フィラーを含んでおり、
前記フィラーは、(1)前記X線タルボ撮影装置の格子周期と同等の粒形を持つ、(2)異方形状である、(3)ファイバ状である、(4)ファイバ状である場合において前記格子周期と同様のファイバ直径を持つ、の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の成型支援装置。
【請求項7】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置における成型支援方法であって、
前記成型支援装置は、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出するステップと、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定するステップと、を実行し、
前記作製プロセスは、射出成型もしくはプレス成型の成型条件であり、
第1の学習器により、前記成型条件を示す成型条件データを入力とし、前記タルボ特徴量を出力とする機械学習を行うステップと、
第2の学習器により、前記タルボ特徴量を入力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行うステップを、をさらに実行し、
前記特定するステップにて、前記性能データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた成型条件データを特定することを特徴とする成型支援方法。
【請求項8】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置における成型支援方法であって、
前記成型支援装置は、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出するステップと、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定するステップと、を実行し、
前記作製プロセスは、射出成型もしくはプレス成型の成型条件であり、
第1の学習器により、前記成型条件を示す成型条件データを出力とし、前記タルボ特徴量を入力とする機械学習を行うステップと、
第2の学習器により、前記タルボ特徴量を出力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行うステップを、をさらに実行し、
前記特定するステップにて、前記成型条件データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた性能データを特定することを特徴とする成型支援方法。
【請求項9】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、
前記作製プロセスは、射出成型の金型設計であり、
前記金型設計に基づく金型データと、複合材料データを入力して射出成型における複合材料の流動解析を行う解析部と、
前記タルボ画像から、前記成型品の材料となる樹脂および繊維の配向を表現し、前記流動解析の解析結果と比較可能な形式を持つ配向画像を生成する画像処理部と、
前記流動解析の解析結果を対角成分で規格化した2次元散乱関数のテンソルと前記配向画像を用いた実測値を対角成分で規格化した2次元散乱関数のテンソルとを比較して、前記流動解析の妥当性を検証する検証部と、をさらに備え、
前記特定部は、前記検証の結果に基づいて、前記金型設計を構成する項目のうち、前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定することを特徴とする成型支援装置。
【請求項10】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、
前記作製プロセスは、射出成型の成型条件であり、
前記成型条件を示す成型条件データとして、成型条件そのものを示す情報、素材情報、混錬条件、ペレットのタルボ特徴量のうち少なくとも何れかを入力とし、前記タルボ特徴量を出力とする機械学習を行う第1の学習器と、
前記タルボ特徴量を入力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、
前記特定部は、前記性能データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた成型条件データを特定することを特徴とする成型支援装置。
【請求項11】
複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、
前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置により、異なる角度で成型品を撮影して得られたタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、
前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、
前記作製プロセスは、射出成型の成型条件であり、
前記成型条件を示す成型条件データを出力とし、前記タルボ特徴量を入力とする機械学習を行う第1の学習器と、
前記タルボ特徴量を出力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、
前記特定部は、前記成型条件データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた性能データを特定することを特徴とする成型支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型支援装置および成型支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「X線タルボ撮影装置によって撮影された検査対象物の再構成画像を基に、当該検査対象物の良否判定を行う際に用いられる評価指標を推定するためのX線撮影システムであって、前記X線タルボ撮影装置は、X線源と、複数の格子と、X線検出器とがX線照射軸方向に並んで設けられ、前記X線源から被写体である前記検査対象物及び前記複数の格子を介して前記X線検出器にX線を照射して前記検査対象物の再構成画像の生成に必要なモアレ画像を取得するものであり、制御部と、前記モアレ画像に基づいて生成された前記再構成画像における信号強度に係る情報と、前記検査対象物を構成する材料の品質情報との、材料の名前若しくは種類ごとの相関を表す第一データベースを備えており、前記制御部は、入力される前記材料の名前若しくは種類に関する情報及び形体情報と、前記第一データベースとに基づいて、前記再構成画像から、前記検査対象物の注目箇所における品質情報を前記評価指標として推定することを特徴とするX線撮影システム」が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、「目的とする機能を発揮するために複数の部材から構成されてなる構造複合体であって、2次電池又は蓄電池を含む電気化学的装置の状態を推定する方法であって、稼働条件及び/又は稼働時間の異なる複数の構造複合体を破壊検査して得られる複数の直接パラメータと、前記構造複合体と同一の複数の構造複合体を非破壊的に測定して得られる複数の間接パラメータとを含むデータベースであって、前記それぞれの直接パラメータは前記構造複合体の特定の性能を反映する1つの構造要因に対応し、前記それぞれの間接パラメータは前記構造複合体の複数の性能を間接的に規定する複数の構造要因に対応し、1つの間接パラメータを複数のサブパラメータに分解し、各サブパラメータと前記直接パラメータとの関連付けを行って、これらの直接パラメータ及び間接パラメータを相互に関連付けたデータベースを用意し、対象となる構造複合体について複数の間接パラメータを測定する工程と、前記測定された間接パラメータから複数のサブパラメータを抽出する工程と、前記データベースを用いて、前記抽出されたサブパラメータと前記直接パラメータとを関連付けることにより、複数の性能によって示される前記構造複合体の状態を推定する工程と、を含むことを特徴とする構造複合体の状態推定方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-184450号公報(請求項1)
【文献】特許第6489529号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、樹脂および繊維を含む複合材料の開発が進んでいる。複合材料の性能は、複合材料の材質のみならず、複合材料の微細な内部構造に起因して影響を受けることが知られている。例えば、複合材料としてのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、炭素繊維の織り方や配向により3次元的な構造を持ち、CFRPの機械的な強度は、繊維配向性、繊維密度、欠陥の多寡に起因して大きな影響を受ける。特許文献1,2は、複合材料の微細な内部構造を把握する手段といえる。
【0006】
ところで、複合材料は、例えば射出成型によって作製されるが、射出成型に用いる金型の金型設計や、射出成型の成型条件などの作製プロセスを変更することで、成型品としての複合材料の性能を向上させることができる余地がある。しかし、従来では、作製プロセスは、客観的な判断材料に乏しいこともあり、作製者の勘、コツ、経験により決定されることが多く、成型品の性能向上に限界があった。
【0007】
上記事情に鑑みて、本発明では、成型品の性能向上を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記の目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
(1):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、前記作製プロセスは、射出成型もしくはプレス成型の成型条件であり、前記成型条件を示す成型条件データを入力とし、前記タルボ特徴量を出力とする機械学習を行う第1の学習器と、前記タルボ特徴量を入力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、前記特定部は、前記性能データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた成型条件データを特定することを特徴とする成型支援装置。
(2):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、前記作製プロセスは、射出成型の成型条件もしくはプレス成型であり、前記成型条件を示す成型条件データを出力とし、前記タルボ特徴量を入力とする機械学習を行う第1の学習器と、前記タルボ特徴量を出力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、前記特定部は、前記成型条件データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた性能データを特定することを特徴とする成型支援装置。
(3):前記タルボ画像から、前記成型品の成型不良箇所を検出する検出部と、をさらに備え、前記特定部は、前記金型設計を構成する項目または射出成型を構成する項目のうち、前記成型不良箇所を改善可能な項目を特定することを特徴とする(1)又は(2)に記載の成型支援装置。
【0010】
(4):前記作製プロセスは、射出成型の金型設計であり、前記タルボ画像から、前記成型品の材料となる樹脂の配向を表現する配向画像を生成する画像処理部と、前記配向画像から、前記成型品の成型不良箇所を検出する検出部と、をさらに備え、前記特定部は、前記金型設計を構成する項目のうち、前記成型不良箇所を改善可能な項目を特定することを特徴とする(1)又は(2)に記載の成型支援装置。
【0011】
(5):前記作製プロセスは、射出成型の金型設計であり、前記金型設計に基づく金型データと、複合材料データを入力して射出成型における複合材料の流動解析を行う解析部と、前記タルボ画像から、前記成型品の材料となる樹脂および繊維の配向を表現し、前記流動解析の解析結果と比較可能な形式を持つ配向画像を生成する画像処理部と、前記流動解析の解析結果と前記配向画像とを比較して、前記流動解析の妥当性を検証する検証部と、をさらに備え、前記特定部は、前記検証の結果に基づいて、前記金型設計を構成する項目のうち、前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定することを特徴とする(1)又は(2)に記載の成型支援装置。
【0014】
(6):前記成型品は、フィラーを含んでおり、前記フィラーは、(1)前記X線タルボ撮影装置の格子周期と同等の粒形を持つ、(2)異方形状である、(3)ファイバ状である、(4)ファイバ状である場合において前記格子周期と同様のファイバ直径を持つ、の少なくとも何れかであることを特徴とする(1)から(5)の何れか1つに記載の成型支援装置。
【0015】
(7):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置における成型支援方法であって、前記成型支援装置は、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出するステップと、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定するステップと、を実行し、前記作製プロセスは、射出成型もしくはプレス成型の成型条件であり、第1の学習器により、前記成型条件を示す成型条件データを入力とし、前記タルボ特徴量を出力とする機械学習を行うステップと、第2の学習器により、前記タルボ特徴量を入力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行うステップを、をさらに実行し、前記特定するステップにて、前記性能データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた成型条件データを特定することを特徴とする成型支援方法。
(8):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置における成型支援方法であって、前記成型支援装置は、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出するステップと、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定するステップと、を実行し、前記作製プロセスは、射出成型もしくはプレス成型の成型条件であり、第1の学習器により、前記成型条件を示す成型条件データを出力とし、前記タルボ特徴量を入力とする機械学習を行うステップと、第2の学習器により、前記タルボ特徴量を出力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行うステップを、をさらに実行し、前記特定するステップにて、前記成型条件データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた性能データを特定することを特徴とする成型支援方法。
【0016】
(9):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、前記作製プロセスは、射出成型の金型設計であり、前記金型設計に基づく金型データと、複合材料データを入力して射出成型における複合材料の流動解析を行う解析部と、前記タルボ画像から、前記成型品の材料となる樹脂および繊維の配向を表現し、前記流動解析の解析結果と比較可能な形式を持つ配向画像を生成する画像処理部と、前記流動解析の解析結果を対角成分で規格化した2次元散乱関数のテンソルと前記配向画像を用いた実測値を対角成分で規格化した2次元散乱関数のテンソルとを比較して、前記流動解析の妥当性を検証する検証部と、をさらに備え、前記特定部は、前記検証の結果に基づいて、前記金型設計を構成する項目のうち、前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定することを特徴とする成型支援装置。
(10):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置から取得したタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、前記作製プロセスは、射出成型の成型条件であり、前記成型条件を示す成型条件データとして、成型条件そのものを示す情報、素材情報、混錬条件、ペレットのタルボ特徴量のうち少なくとも何れかを入力とし、前記タルボ特徴量を出力とする機械学習を行う第1の学習器と、前記タルボ特徴量を入力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、前記特定部は、前記性能データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた成型条件データを特定することを特徴とする成型支援装置。
(11):複合材料の成型品の作製を支援する成型支援装置であって、前記成型品を撮影するX線タルボ撮影装置により、異なる角度で成型品を撮影して得られたタルボ画像に基づいて、前記成型品のタルボ特徴量を算出する算出部と、前記算出したタルボ特徴量を用いて、前記成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうち前記タルボ特徴量を調整可能な項目を特定する特定部と、を備え、前記作製プロセスは、射出成型の成型条件であり、前記成型条件を示す成型条件データを出力とし、前記タルボ特徴量を入力とする機械学習を行う第1の学習器と、前記タルボ特徴量を出力とし、前記成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行う第2の学習器を、をさらに備え、前記特定部は、前記成型条件データの所定の目標値に対して、前記第1の学習器および前記第2の学習器によって最適とされた性能データを特定することを特徴とする成型支援装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成型品の性能向上を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】線源格子や第1格子、第2格子の概略平面図である。
【
図4】X線撮影システムの概略構成を表すブロック図である。
【
図5】楕円表示画像の生成における、画素ごとの輝度(強度)Iと角度θとの関係を示すグラフである。
【
図8】(a)が、pha画像の配向統計情報のヒストグラム表示であり、(b)が、pha画像のヒストグラムの極座標表示である。
【
図10】実施例1:金型設計へのフィードバック(その1)に要する処理を示すフローチャートである。
【
図11】成型品としての樹脂製の歯車の配向カラーマップ画像の模式図である。
【
図12】実施例2:金型設計へのフィードバック(その2)に要する処理を示すフローチャートである。
【
図13】CAE用のメッシュごとの樹脂の配向(両矢印)を示す図である。
【
図14】pha画像のROI内の繊維(樹脂)の配向(両矢印)を示す図である。
【
図16】2次元散乱関数の分布を示すグラフである。
【
図17】実施例3:成型条件へのフィードバックにおける機械学習による最適な成型条件の決定(その1)の処理を示すフローチャートである。
【
図18】実施例3:成型条件へのフィードバックにおける機械学習による最適な成型条件の決定(その2)の処理を示すフローチャートである。
【
図19】(a)が、画像(A
0(x,y))の表示例であり、(b)が、画像(A
90(x,y))の表示例である。
【
図20】画像(A
0(x,y))に対して、(a)が、x方向に関する微分位相信号のグラフであり、(b)が、y方向に関する微分位相信号のグラフである。
【
図21】画像(A
0(x,y))に対して、(a)が、x方向に関する微分位相信号の変化値のグラフであり、(b)が、y方向に関する微分位相信号の変化値のグラフである。
【
図22】画像(A
90(x,y))に対して、(a)が、x方向に関する微分位相信号のグラフであり、(b)が、y方向に関する微分位相信号のグラフである。
【
図23】画像(A
90(x,y))に対して、(a)が、x方向に関する微分位相信号の変化値のグラフであり、(b)が、y方向に関する微分位相信号の変化値のグラフである。
【
図24】画像(DA
0(x,y))の表示例である。
【
図25】画像(DA
90(x,y))の表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。
なお、本実施形態において、特段の事情がない限り、「画像」とは画像データを意味する。
【0020】
本実施形態では、X線タルボ撮影装置1によって撮影された被写体Hである検査対象物の再構成画像を用いて、成型品を成型するための金型設計および成型条件の決定を支援するためのX線撮影システム(以下、単に、「システム」と呼ぶ場合がある)について説明する。本実施形態における被写体は、例えば、成型品、または成型の際に成型機に入れるペレットであるが、これらに限定されない。
【0021】
<被写体について>
本実施形態における被写体Hは、複合素材(複合材料とも言う。)によって構成されており、複合材料とは、2つ以上の異なる材料を一体的に組み合わせた材料を表し、少なくとも2つの材料が相として存在するものを表す。従って、合金やセラミックスのように混合して1つの材料を形成しているものは複合材料に含まない。例えば宇宙・航空機関係、自動車、船舶、つり竿の他、電気・電子・家電部品、パラボラアンテナ、浴槽、床材、屋根材等を始め、様々な製品等の構成部材として用いられるものである。
このような複合素材としては、例えば炭素繊維やガラス繊維を強化繊維として用いたCFRP(Carbon-Fiber-Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics:炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)、GFRP(Glass-Fiber-Reinforced Plastics:ガラス繊維強化プラスチック)に代表されるFRP(Fiber-Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)や、セラミックス繊維を強化材とするCMC(Ceramic Matrix Composites:セラミック基複合材料)等が知られている。また、広義には、例えば合板のように複数種類の木材からなる複合素材が含まれるものとしてもよい。その他にも、例えば、MMC(Metal Matrix Composites:金属基複合材料)コンクリート、鉄筋コンクリート等のように、繊維を含まずに構成された複合材料も含まれるものとしてもよい。
【0022】
被写体Hである検査対象物を構成する材料(以上のような各複合素材を指す)は、その種類に応じて性質(機械強度)が異なり、種類ごとのデータがシステム内に記憶・蓄積されている。
また、材料の形体情報も同様に、形体に応じて機械強度が異なり、形体ごとのデータがシステム内に記憶・蓄積されている。
なお、機械強度とは、例えば弾性率 、降伏強さ、塑性、引張強さ、伸び、破壊エネルギー、硬度等を指す。
また、形体情報としては、主として、厚み情報(厚み寸法)、CADデータ、三次元測定器による計測データ等の3D(三次元)データが挙げられる。その他の形体情報としては、例えば、材料における凹凸の位置、網状であるか、層状であるか等の情報が含まれていてもよい。
【0023】
なお、複合材料に用いられる樹脂は、例えば、汎用プラスチック、エンプラ、スーパーエンプラであるがこれらに限定されない。樹脂は、強度などの所定の特性を付加するためにマイクロサイズやナノサイズの構造を持つフィラーが添加される樹脂複合材料として用いられ、プラスチック成型加工品として使用されることが多い。フィラーには、有機材料、無機材料、磁性材料、金属材料がある。例えば、プラスチック成型加工品に強度や剛性を求められる場合には、樹脂としてPPS、POM、PAなど、フィラーとしてはGF、アラミド繊維、マイカなど、の複合材料が用いられることがある。また、プラスチック成型加工品が薄物である場合には、液晶ポリマー、GFの複合材料が用いられることがある。また、プラスチック成型加工品がプラマグである場合には、樹脂としてナイロン、フィラーとしてストロンチウムフェライト、サマリウムコバルトなど、の複合材料が用いられることが多い。
【0024】
<X線タルボ撮影装置について>
本実施形態においては、X線タルボ撮影装置1として、線源格子(マルチ格子やマルチスリット、G0格子等ともいう。)12を備えるタルボ・ロー干渉計を用いたものが採用されている。なお、線源格子12を備えず、第1格子(G1格子ともいう。)14と第2格子(G2格子ともいう。)15のみを備えるタルボ干渉計を用いたX線タルボ撮影装置を採用することもできる。
【0025】
図1は、X線タルボ撮影装置1の全体像を表す概略図である。
本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1は、X線発生装置11と、上記した線源格子12と、被写体台13と、上記した第1格子14と、上記した第2格子15と、X線検出器16と、支柱17と、基台部18と、を備えている。
【0026】
このようなX線タルボ撮影装置1によれば、被写体台13に対して所定位置にある被写体Hのモアレ画像Mo(
図2)を縞走査法の原理に基づく方法で撮影したり、モアレ画像Moをフーリエ変換法で解析したりすることで、少なくとも3種類の画像(二次元画像)を再構成することができる(再構成画像という)。すなわち、モアレ画像Moにおけるモアレ縞の平均成分を画像化した吸収画像(通常のX線の吸収画像と同じ)と、モアレ縞の位相情報を画像化した微分位相画像と、モアレ縞のVisibility(鮮明度)を画像化した小角散乱画像の3種類の画像である。なお、これらの3種類の再構成画像を再合成する等してさらに多くの種類の画像を生成することもできる。
【0027】
なお、縞走査法とは、複数の格子のうちのひとつを格子のスリット周期の1/M(Mは正の整数、吸収画像はM>2、微分位相画像と小角散乱画像はM>3)ずつスリット周期方向に移動させてM回撮影したモアレ画像Moを用いて再構成を行い、高精細の再構成画像を得る方法である。
【0028】
また、フーリエ変換法とは、被写体Hが存在する状態で、X線タルボ撮影装置1でモアレ画像Moを1枚撮影し、画像処理において、そのモアレ画像Moをフーリエ変換する等して微分位相画像等の画像を再構成して生成する方法である。
【0029】
ここで、まず、タルボ干渉計やタルボ・ロー干渉計に共通する原理について、
図2を用いて説明する。
【0030】
なお、
図2では、タルボ干渉計の場合が示されているが、タルボ・ロー干渉計の場合も基本的に同様に説明される。また、
図2におけるz方向が
図1のX線タルボ撮影装置1における鉛直方向に対応し、
図2におけるx、y方向が
図1のX線タルボ撮影装置1における水平方向(前後、左右方向)に対応する。
【0031】
また、
図3に示すように、第1格子14や第2格子15には(タルボ・ロー干渉計の場合は線源格子12にも)、X線の照射方向であるz方向と直交するx方向に、所定の周期dで複数のスリットSが配列されて形成されている。このようなスリットSの配列は一次元格子とされており、x方向及びy方向にスリットSが配列されて形成されたものは二次元格子とされている。
なお、本実施形態の線源格子12、第1格子14、第2格子15においては、一次元格子が採用されているが、繊維配向についての詳細な評価精度が不要な場合は二次元格子が採用されてもよい。
【0032】
図2に示すように、X線源11aから照射されたX線(タルボ・ロー干渉計の場合はX線源11aから照射されたX線が線源格子12(
図2では図示省略)で多光源化されたX線)が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像(格子像等ともいう。)といい、このように自己像がz方向に一定の間隔をおいて形成される現象をタルボ効果という。
【0033】
すなわち、タルボ効果とは、
図3に示すように一定の周期dでスリットSが設けられた第1格子14を可干渉性(コヒーレント)の光が透過すると、上記のように光の進行方向に一定の間隔でその自己像を結ぶ現象をいう。
【0034】
そして、
図2に示すように、第1格子14の自己像が像を結ぶ位置に、第1格子14と同様にスリットSが設けられた第2格子15を配置する。その際、第2格子15のスリットSの延在方向(すなわち
図2ではx軸方向)が、第1格子14のスリットSの延在方向に対して略平行になるように配置すると、第2格子15上でモアレ画像Moが得られる。
【0035】
なお、
図2では、モアレ画像Moを第2格子15上に記載するとモアレ縞とスリットSとが混在する状態になって分かりにくくなるため、モアレ画像Moを第2格子15から離して記載している。しかし、実際には第2格子15上およびその下流側でモアレ画像Moが形成される。そして、このモアレ画像Moが、第2格子15の直下に配置されるX線検出器16で撮影される。
【0036】
また、
図1,
図2に示すように、X線源11aと第1格子14との間に被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、モアレ画像Moのモアレ縞が被写体Hの辺縁を境界に乱れる。一方、図示を省略するが、X線源11aと第1格子14との間に被写体Hが存在しなければ、モアレ縞のみのモアレ画像Moが現れる。以上がタルボ干渉計やタルボ・ロー干渉計の原理である。
【0037】
この原理に基づいて、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1においても、例えば
図1に示すように、第2のカバーユニット130内で、第1格子14の自己像が像を結ぶ位置に第2格子15が配置されるようになっている。また、前述したように、第2格子15とX線検出器16とを離すとモアレ画像Mo(
図2参照)がぼやけるため、本実施形態では、X線検出器16は第2格子15の直下に配置されるようになっている。また、第2格子15をシンチレーターやアモルファスセレンなどの発光材料で構成し、第2格子15とX線検出器16とを一体化させてもよい。
【0038】
なお、第2のカバーユニット130は、人や物が第1格子14や第2格子15、X線検出器16等にぶつかったり触れたりしないようにして、X線検出器16等を防護するために設けられている。
【0039】
図示を省略するが、X線検出器16は、照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が二次元状(マトリクス状)に配置され、変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。そして、本実施形態では、X線検出器16は、第2格子15上に形成されるX線の像である上記のモアレ画像Moを変換素子ごとの画像信号として撮影するようになっている。X線検出器16の画素サイズは10~300(μm)であり、さらに好ましくは50~200(μm)である。
X線検出器16としては、FPD(Flat Panel Detector)を用いることができる。FPDには、検出されたX線を光電変換素子を介して電気信号に変換する間接変換型、検出されたX線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
間接変換型は、CsIやGd2O2S等のシンチレータプレートの下に、光電変換素子がTFT(薄膜トランジスタ)とともに2次元状に配置されて各画素を構成する。X線検出器16に入射したX線がシンチレータプレートに吸収されると、シンチレータプレートが発光する。この発光した光により、各光電変換素子に電荷が蓄積され、蓄積された電荷は画像信号として読み出される。
直接変換型は、アモルファスセレンの熱蒸着により、100~1000(μm)の膜圧のアモルファスセレン膜がガラス上に形成され、2次元状に配置されたTFTのアレイ上にアモルファスセレン膜と電極が蒸着される。アモルファスセレン膜がX線を吸収するとき、電子正孔対の形で物質内に電圧が遊離され、電極間の電圧信号がTFTにより読み取られる。
なお、CCD(Charge Coupled Device)、X線カメラ等の撮影手段をX線検出器16として用いてもよい。
【0040】
本実施形態では、X線タルボ撮影装置1は、いわゆる縞走査法を用いてモアレ画像Moを複数枚撮影するようになっている。すなわち、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1では、第1格子14と第2格子15との相対位置を
図1~
図3におけるx軸方向(すなわちスリットSの延在方向(y軸方向)に直交する方向)にずらしながらモアレ画像Moを複数枚撮影する。
【0041】
そして、X線タルボ撮影装置1から複数枚分のモアレ画像Moの画像信号を受信した画像処理装置2(
図4参照)における画像処理で、複数枚のモアレ画像Moに基づいて、吸収画像や、微分位相画像や、小角散乱画像等を再構成(すなわち、画像再構成)するようになっている。
【0042】
そのため、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1は、縞走査法によりモアレ画像Moを複数枚撮影するために、第1格子14をx軸方向に所定量ずつ移動させることが可能となっている。なお、第1格子14を移動させる代わりに第2格子15を移動させたり、或いは両方とも移動させたりするように構成することも可能である。
【0043】
また、X線タルボ撮影装置1で、第1格子14と第2格子15との相対位置を固定したままモアレ画像Moを1枚だけ撮影し、画像処理装置2における画像処理で、このモアレ画像Moをフーリエ変換法等を用いて解析する等して吸収画像や微分位相画像等を再構成するように構成することも可能である。
【0044】
本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1における他の部分の構成について説明する。本実施形態では、いわゆる縦型であり、X線発生装置11、線源格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16が、この順序に重力方向であるz方向に配置されている。すなわち、本実施形態では、z方向が、X線発生装置11からのX線の照射方向ということになる。
【0045】
X線発生装置11は、X線源11aとして、例えば医療現場で広く一般に用いられているクーリッジX線源や回転陽極X線源等を備えている。また、それ以外のX線源を用いることも可能である。本実施形態のX線発生装置11は、焦点からX線をコーンビーム状に照射するようになっている。つまり、
図1に示すように、z方向と一致するX線照射軸Caを中心軸としてX線発生装置11から離れるほどX線が広がるように照射される(すなわち、X線照射範囲)。
【0046】
そして、本実施形態では、X線発生装置11の下方に線源格子12が設けられている。その際、X線源11aの陽極の回転等により生じるX線発生装置11の振動が線源格子12に伝わらないようにするために、本実施形態では、線源格子12は、X線発生装置11には取り付けられず、支柱17に設けられた基台部18に取り付けられた固定部材12aに取り付けられている。
【0047】
なお、本実施形態では、X線発生装置11の振動が支柱17等のX線タルボ撮影装置1の他の部分に伝播しないようにするために(あるいは伝播する振動をより小さくするために)、X線発生装置11と支柱17との間に緩衝部材17aが設けられている。
【0048】
本実施形態では、上記の固定部材12aには、線源格子12のほか、線源格子12を透過したX線の線質を変えるためのろ過フィルター(付加フィルターともいう。)112や、照射されるX線の照射野を絞るための照射野絞り113、X線を照射する前にX線の代わりに可視光を被写体に照射して位置合わせを行うための照射野ランプ114等が取り付けられている。
【0049】
なお、線源格子12とろ過フィルター112と照射野絞り113とは、必ずしもこの順番に設けられる必要はない。また、本実施形態では、線源格子12等の周囲には、それらを保護するための第1のカバーユニット120が配置されている。
【0050】
また、被写体台13は、被写体Hが載置される台であるが、被写体Hをz軸回りに回転させる回転ステージとして機能することができる。先述した縞走査法を用いてモアレ画像Moを複数枚撮影する場合、被写体台13を異なる角度に回転させつつ、モアレ画像Moを複数枚撮影することができる。
【0051】
また、コントローラ19(
図1参照)は、本実施形態では、図示しないCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース等がバスに接続されたコンピューターで構成されている。なお、コントローラ19を、本実施形態のような汎用のコンピューターではなく、専用の制御装置として構成することも可能である。また、コントローラ19には、図示はしないが、操作部を含む入力手段や出力手段、記憶手段、通信手段等の適宜の手段や装置が設けられている。
出力手段には、X線タルボ撮影装置1の各種操作を行うために必要な情報や、生成された再構成画像を表示する表示部(図示省略)が含まれている。
【0052】
コントローラ19は、X線タルボ撮影装置1に対する全般的な制御を行うようになっている。すなわち、例えば、コントローラ19は、X線発生装置11に接続されており、X線源11aに管電圧や管電流、照射時間等を設定することができるようになっている。また、例えば、コントローラ19が、X線検出器16と外部の画像処理装置2等との信号やデータの送受信を中継するように構成することも可能である。
つまり、本実施形態におけるコントローラ19は、被写体Hの再構成画像の生成に必要な複数のモアレ画像Mo(フーリエ変換法の場合は1枚のモアレ画像)を取得するための一連の撮影を行わせる制御部として機能している。
【0053】
<制御装置について>
図4に示すように、本実施形態のX線撮影システムは、X線タルボ撮影装置1と、コントローラ19と、画像処理装置2と、制御装置20とを備えている。X線タルボ撮影装置1と、コントローラ19と、画像処理装置2と、制御装置20とは、バス等を介して通信可能に接続されている。
なお、制御装置20および画像処理装置2を組み合わせた装置は、本発明の成型支援新装置の例となる。
【0054】
制御装置20は、例えば、汎用のコンピューター装置(制御PC)である。ただし、制御装置20は、これに限られるものではなく、制御装置20の機能の一部をネットワーク上に設け、通信によりデータを授受することで各処理を実行できるようにしてもよい。
制御装置20は、
図4に示すように、CPU21(Central Processing Unit)や、RAM22(Random Access Memory)、記憶部23、入力部24、外部データ入力部25、表示部26、通信部27等を備えて構成されている。
【0055】
CPU21は、記憶部23に記憶されているシステムプログラムや処理プログラム等の各種プログラムを読み出してRAM22に展開し、展開されたプログラムに従って、各種処理を実行する。
【0056】
RAM22は、CPU21により実行制御される各種処理において、記憶部23から読み出され、CPU21で実行可能な各種プログラム、入力若しくは出力データ、及びパラメーター等を一時的に記憶するワークエリアとして機能する。
【0057】
記憶部23は、HDD(Hard Disk Drive)や半導体の不揮発性メモリー等により構成される。記憶部23には、上記した各種プログラムや、各種データが記憶されている。
【0058】
入力部24は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成される。入力部24は、キーボードで押下操作されたキーの押下信号やマウスによる操作信号を、入力信号としてCPU21に出力する。CPU21は、入力部24からの操作信号に基づいて、各種処理を実行することができる。
【0059】
外部データ入力部25は、外部装置(コントローラ19を含む)から取得したデータをX線撮影システムに入力するためのものである。外部データ入力部25としては、例えば、外部装置との有線又は無線によるデータ送受信を可能とするUSB(Universal Serial Bus)ポートやBluetooth(登録商標)、外部装置に相当する記録媒体からデータを読み込むドライブなど、様々なものを採用することができる。
【0060】
表示部26は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニターを備えて構成されている。表示部26は、CPU21から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。また、表示部26としてタッチパネルを採用する場合は、表示部26は、入力部24としての機能も併せ持つものとする。
【0061】
通信部27は、通信インターフェースを備えており、ネットワーク上の外部装置と通信する。なお、この通信部27は、上記した外部データ入力部25と共用されるものとしてもよい。
【0062】
画像処理装置2は、X線タルボ撮影装置1からの出力データを画像処理し、画像処理した画像データを制御装置20に送信する。表示部26は、画像処理装置2から受信した画像データを表示することができる。
【0063】
本実施の形態におけるタルボ画像とは、タルボ効果によって生成される画像を指す。先述したように、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像は、モアレ画像Moから再構成した再構成画像は、先述したタルボ効果によって生成する画像であることから「タルボ画像」に含まれる。なお、タルボ効果は、タルボ干渉計によるタルボ効果のみならず、タルボ・ロー干渉計によるタルボ効果およびロー効果(G0格子に起因して得られる)を合わせた効果も兼ねて含む語として用いる。
【0064】
図4に示すように、記憶部23は、例えば、金型設計データ41と、成型条件データ42と、マッピングデータ43と、対応事例データ44と、算出部51と、特定部52と、検出部53と、解析部54と、検証部55と、第1の学習器56と、第2の学習器57とを記憶する。なお、画像処理装置2は、画像処理部として機能する。算出部51と、特定部52と、検出部53と、解析部54と、検証部55と、第1の学習器56と、第2の学習器57は、例えば、プログラムとして実装され、CPU21が読み出して実行することにより機能する。
【0065】
(金型設計データ41)
金型設計データ41は、射出成型の成型品の作製プロセスの1つである金型設計を示すデータである。金型設計データ41は、複数種類の項目から構成される情報の集合である。金型設計データ41の項目には、例えば、金型の形状や厚み、ゲートの位置や形状、ランナーの形状、温調回路の位置、エジェクトピンの位置があるが、これらに限定されない。
【0066】
ゲートは、成型品をかたどる金型内の中空部に対して、高温に溶解した複合材料を流入するときの流入口である。
ランナーは、成型機から複合材料をゲートに案内する通路である。
温調回路は、金型の温度を調整する回路である。
エジェクトピンは、成型品を金型から離型するためのピンである。
【0067】
なお、射出成型の作製プロセスは、主に、(1)成型品に用いる複合材料の材料選定、(2)金型設計、(3)射出成型、(4)強度試験などによる成型品の評価に分類することができ、この順で作業が進められる。金型設計は、CAE(Computer Aided Engineering)によるシミュレーション上の確認を含めることができる。
【0068】
(成型条件データ42)
成型条件データ42は、射出成型の成型品の作製プロセスの1つである射出成型の成型条件を示すデータである。成型条件データ42は、複数種類の項目から構成される情報の集合である。成型条件データ42の項目には、例えば、射出速度、金型温度、成型温度、保持圧力、射出圧力、冷却時間があるが、これらに限定されない。
【0069】
射出速度は、複合材料を金型に押し込む速度である。
金型温度は、金型の温度である。
成型温度は、成型機のスクリューの温度である。スクリューは、ホッパ内に蓄積された複合材料を、ランナーを通して金型内に送り込む部材である。
保持圧力は、金型内の保圧時の圧力である。
射出圧力は、射出速度、金型温度、成型温度、保持圧力から決定される射出圧力であり、測定値として求めることができる。
冷却時間は、保圧してから離型するまでの時間である。
【0070】
成型品は、樹脂と繊維を混錬して中間生成物となるペレットを作製する混錬工程と、ペレットを成型機に入れて、成型機にセットした金型に複合材料を注入して成型する射出成型工程を実行して作成される。このとき、成型条件データ42は、例えば、混錬する樹脂や繊維などの素材を示す素材情報、混錬に用いる混錬機を示す混錬機情報、成型機の設定条件や稼働データ、成型機に用いる金型データといった成型に付随する情報を含んでもよい。素材情報は、樹脂および繊維の組成比や、樹脂そのものや繊維そのものの物性パラメータを含んでもよい。物性パラメータとしては、曲げ弾性率、曲げ強度、引張強度などの強度指標や、耐熱性、絶縁性、耐薬品性などの機能性指標や、成型収縮率、粘性、メルトマスフローレイト(MFR)、メルトボリュームレイト(MVR)などの成型指標などがあげられる。
【0071】
(マッピングデータ43)
マッピングデータ43は、成型品のタルボ特徴量と、作製プロセスの特定項目とを対応付けるデータである。タルボ特徴量は、算出部51によって、タルボ画像から得られる特徴量であり、その態様は任意である。特定項目とは、例えば、タルボ特徴量を調整可能な項目とするが、これに限定されない。マッピングデータ43を参照すれば、所望のタルボ特徴量を実現するのに必要な作製プロセスの項目を特定することができる。マッピングデータ43は、例えば、成型品の実測値やタルボ画像を用いて蓄積更新される。
【0072】
(対応事例データ44)
対応事例データ44は、過去に作製した成型品ごとに、当該成型品に関する情報をまとめたデータである。成型品に関する情報としては、例えば、射出成型に用いた金型の金型設計、射出成型の成型条件、成型品に対する試験(例:強度試験)から得られる性能(強度)、成型品のタルボ画像があるがこれらに限定されない。
【0073】
(算出部51)
算出部51は、X線タルボ撮影装置1から取得したタルボ画像に基づいて、成型品のタルボ特徴量を算出する。算出部51は、タルボ画像そのものに限らず、例えば、画像処理装置2によってタルボ画像から画像処理された画像に基づいて、タルボ特徴量を算出することができる。タルボ画像から画像処理された画像としては、例えば、成型品の材料となる樹脂および繊維の配向を表現する配向画像(後記)があるが、これに限定されない。また、タルボ画像から画像処理された画像は、タルボ画像の例となる。
【0074】
(特定部52)
特定部52は、算出部51が算出したタルボ特徴量を用いて、成型品を作製するための作製プロセスを構成する複数種類の項目のうちタルボ特徴量を調整可能な項目を特定する。具体的には、特定部52は、マッピングデータ43を参照して、タルボ特徴量から、当該タルボ特徴量を調整可能な金型設計の項目や成型条件の項目を特定することができる。「調整可能な項目」とは、例えば、対象のタルボ特徴量を所定の目標値にすることができる主要因となる項目を意味する。よって、ユーザは、成型品から得られたタルボ特徴量を、いずれの項目にフィードバックすればよいかを特定(または推定)することができる。換言すれば、金型設計の項目や成型条件の項目の値のいずれを変更すれば、成型品の性能向上に寄与する所望のタルボ特徴量を実現することができるかを把握することができる。
【0075】
また、特定部52は、算出部51が算出したタルボ特徴量を用いて、対応事例データ44を参照して、タルボ特徴量に対応する金型設計および成型条件、並びに、類似する金型設計および成型条件を抽出して特定することができる。
【0076】
(検出部53)
検出部53は、作製プロセスが射出成型の金型設計である場合に、画像処理装置2が生成する配向画像から、成型品の成型不良箇所を検出する。成型不良には、例えば、ウェルド、フローマーク、ジェッティング、ボイド、反り、ヒケがあるが、これらに限定されない。
【0077】
(解析部54)
解析部54は、所定のシミュレーションを行う機能部である。例えば、解析部54は、CAEとすることができる。CAEは、従来行われていた試作品によるテストや実験に代えて、コンピュータ上の試作品を用いてシミュレーションし、分析する技術である。CAEにより、例えば、金型内の樹脂の流動解析や、成型品の強度解析を行うことができる。解析部54は、作製プロセスが射出成型の金型設計である場合に、金型設計に基づく金型データと、複合材料データを入力して複合材料の流動解析を行うことができる。金型データは、成型機に用いる金型に関するデータであり、例えば、金型の材質や形状の情報を含む。金型データは、例えば、金型設計データ41から取得することができる。複合材料データは、複合材料に関するデータであり、例えば、樹脂や繊維の特性(例:粘度、粒子サイズ)を示すパラメータ、樹脂速度、繊維速度といった設定値を含む。複合材料データは、例えば、成型条件データ42の素材情報から取得することができる。
【0078】
(検証部55)
検証部55は、解析部54による流動解析の解析結果と、画像処理装置2が生成する配向画像とを比較して、流動解析の妥当性を検証する。なお、画像処理装置2が生成する配向画像は、流動解析の解析結果と比較可能な形式にすることが好ましい。
【0079】
(第1の学習器56)
第1の学習器56は、作製プロセスが射出成型の成型条件である場合に、成型条件を示す成型条件データ42を入力とし、タルボ特徴量を出力とする機械学習を行う。第1の学習器56は、成型条件を示す成型条件データ42を出力とし、タルボ特徴量を入力とする機械学習を行うこともできる。
【0080】
(第2の学習器57)
第2の学習器57は、作製プロセスが射出成型の成型条件である場合に、タルボ特徴量を入力とし、成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行う。第2の学習器57は、タルボ特徴量を出力とし、成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行うこともできる。
【0081】
<配向画像について>
画像処理装置2が生成する配向画像は、X線タルボ撮影装置1の配向撮影によって得られる。配向撮影は、回転ステージとして機能する被写体台13を回転させることによって、格子とサンプル(被写体:成型品)との相対的な角度を変えた撮影をいう。配向撮影により、画素ごとに最も信号値が強くなる方向を演算処理で求めることができる。
【0082】
配向画像を得るためにまず、サンプルと格子の相対角度を変えて撮影する。相対角度は、最低3種類以上用意する(例:0°、60°、120°)。例えば、装置側を固定してサンプルを回転させて所望の相対角度を実現してもよいし、サンプルを固定して装置側を回転させてもよい。以下では、2次元撮影を例に説明するが、3次元撮影に拡張することもできる。
【0083】
次に、用意した相対角度ごとのタルボ画像を取得する。ここでは、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像を取得することができる。以降では、小角散乱画像、または、吸収画像で除算した小角散乱画像を用いる。吸収画像で除算した小角散乱画像は、凹凸のあるサンプルの場合に厚み依存性をキャンセルした画像といえる。説明の便宜上、両者を併せて「小角散乱画像」と呼ぶことにする。
【0084】
次に、用意した相対角度ごとの(3枚以上の)小角散乱画像の位置合わせをする。ここでは、サンプルが回転しているため、各画像を所定角度に戻す作業がなされる。
【0085】
最後に、画素ごとに、正弦波でフィッティングを行い、フィッティングパラメータを抽出する。正弦波のグラフは、横軸をサンプルと格子の相対角度とし、縦軸をある画素の小角散乱信号値とするグラフである。フィッティングパラメータとして、正弦波の振幅、平均、位相が得られる。画素ごとの振幅値を表す画像を「amp画像」、画素ごとの平均値を示す画像を「ave画像」、画素ごとの位相を示す画像を「pha画像」と呼ぶことにする。amp画像、ave画像、pha画像をまとめて「配向画像」と呼ぶ。フィッティングの方法は正弦波に限定されず、例えば最も強度の大きな角度(位相)をθ0、最も大きな強度をa、最も低い強度をbとした楕円を、位置r(θ)として極座標表示した以下の式1にフィッティングさせてもよい。この場合、正弦波フィッティングの際の呼称に対応して、画素ごとの振幅に相当する値(a-b)/2の画像を「amp画像」、画素ごとの平均値に相当する値(a+b)/2示す画像を「ave画像」、画素ごとのθ0を示す画像を「pha画像」としてもよい。単純に各画素毎に、信号強度の長軸a、短軸b、位相θ0を割り当てて配向画像としてもよい。
【0086】
【0087】
また、画像処理装置2は、配向画像から配向カラーマップ画像を生成することができる。配向カラーマップ画像は、樹脂および繊維の配向を色で表現した画像である。例えば、amp画像を輝度にして、pha画像の角度情報に応じた色を画素ごとに割り当てることで配向カラーマップ画像を生成することができる。この配向カラーマップ画像は、樹脂および繊維の配向度および方向を、画素ごとに表現することができる。また、例えば、ave画像を輝度にして、pha画像の角度情報に応じた色を画素ごとに割り当てることで配向カラーマップ画像を生成することができる。この配向カラーマップ画像は、樹脂および繊維の量および方向を、画素ごとに表現することができる。
【0088】
画像処理装置2は、配向画像を楕円表示画像とすることができる。楕円表示画像にする場合、amp画像、ave画像、pha画像の組を、各画素の輝度の最大値(ave + amp)、最小値(ave - amp)、pha(位相:相対角度)のセットに置き換えることが可能である。上記は正弦波フィッティングの場合であるが、楕円を極座標表示してフィッティングした場合は、画素毎のa,b,θ0をそのまま輝度の最大値、最小値、phaに割り当てればよい。
【0089】
次に、画素ごとに、最大値を長軸、最小値を短軸、phaをx方向(横軸)に対する角度θ(サンプルと格子の相対角)とする楕円を表示することで、楕円表示画像を生成することができる。参考までに、画素ごとの輝度(強度)Iと角度θとの関係を示すグラフを
図5に示し、1画素の楕円表示画像の例を
図6に示し、複数個の画素の楕円表示画像の例を
図7に示す。
【0090】
楕円表示画像は、楕円が真円に近いほど無配向であり、直線形状に近いほど長軸方向に配向が強いことを示している。また、楕円の面積は、信号平均値に比例しており、繊維量の多少を示している。
【0091】
次に、一定の領域(例えば2次元画像であれば10画像×10画像の領域)単位で、配向画像の統計情報(以後、「配向統計情報」とする)を生成することができる。参考までに、ある領域に着目したときのpha画像の配向統計情報の一例を
図8に示す。
図8(a)はpha画像の配向統計情報のヒストグラム表示を、
図8(b)はpha画像のヒストグラムの極座標表示を示している。
【0092】
また、
図9は配向画像(pha画像)を、一定領域毎(例えば、10ピクセル×10ピクセル毎)に区切り、一定領域毎に配向統計情報を表示(配向統計表示)したものであり、「配向統計情報画像」とする。
配向統計表示は、
図9に示すようなpha画像の統計情報に限らず、amp画像の統計情報、ave画像の統計情報表示としても良い。上記の例では、pha画像の位相を横軸、pha画像の位相頻度を縦軸にしたが、例えば、pha画像の位相を横軸、pha画像の位相頻度とamp画像信号値の積を縦軸にするなど、配向画像の情報を複数組み合わせてもよい。なお、
図9に示すように、一定領域を構成するピクセル(画素)の各々に対して、両矢印で象徴される樹脂および繊維の配向が求められている。
【0093】
また、画像処理装置2は、一定体積の空間内にある樹脂および繊維の向きの分布をテンソル(配向テンソル)で表現した配向画像を用意することができる。2次元配向テンソルは、式3のように定義される。なお、3次元配向テンソルは、式2を拡張したもので表現できる(説明略)。まず、式2に示すように、1つの2次元配向pは、x軸に対する角度をθとすると、
【0094】
【0095】
ある領域内に2次元配向がn個存在する場合、その領域の配向の平均状態を2次元配向テンソルAと定義することができる。
【0096】
【数3】
・・・式3
ここで、配向テンソルの対角成分の和は、1となる(trace A = 1)。また、式3のp1,p2は、式2のθが異なる値をとったときのpの値である。
【0097】
なお、算出部51によって、タルボ画像に基づいて算出されるタルボ特徴量には、例えば、以下のものがある。まず、配向画像(amp画像、ave画像、pha画像)そのものをタルボ特徴量とすることができる。画像をタルボ特徴量とする場合、画素数分の入力が必要になるため、ビニングした画像にして入力情報を制限することが好ましい。
【0098】
また、被写体となる成型品において、特に、強度と相関のある位置(例:ウェルドができやすい位置、ボイドができやすい位置)が特定できている場合、当該位置を含む画像領域(ROI(Region of Interest))内の配向画像信号値(amp、ave、pha)に限定してタルボ特徴量としてもよい。
【0099】
また、偏心度eccをタルボ特徴量とすることができる。配向画像から得られた信号値amp、aveを用いてσ1=ave+amp(小角信号値の最大値に相当)と、σ2=ave-amp(小角信号値の最小値に相当)を算出した場合、
【0100】
【数4】
・・・式4
となる。画素ごとのeccを示す画像を「ecc画像」として、配向画像に含めてもよい。
【0101】
[実施例1:金型設計へのフィードバック(その1)]
例えば、制御装置20は、成型品のウェルドを検出し、ウェルドの発生を抑えるように金型設計へのフィードバックを行うことができる。
【0102】
図10に示すように、まず、制御装置20のCPU21は、入力部24または外部データ入力部25により、成型品のタルボ画像を入力する(ステップA1)。具体的には、タルボ画像として、成型品のamp画像およびpha画像を入力する。
【0103】
次に、CPU21は、算出部51によって、タルボ特徴量を算出する(ステップA2)。具体的には、amp画像は2値化する。ウェルド部分のamp信号値は大きくなるため、ウェルド部分を強調表示させることができるからである。また、pha画像は、ヒストグラムを作成して、最頻値および平均値を求め、pha値が(最頻値±平均値)の範囲内にあるか否かで2値化する。ウェルド部分は特定方向に位相が集中するため、ウェルド部分を強調表示させることができるからである。算出部51は、2値化したamp画像と、2値化したpha画像とをタルボ特徴量として算出する。
【0104】
次に、CPU21は、検出部53によって、タルボ特徴量からウェルド箇所を検出する(ステップA3)。このとき、画像処理装置2は、配向画像(例えば、amp画像、ave画像)に、検出部53が検出したウェルド箇所に相当する画像をオーバーレイした画像を作成し、表示部26に表示させることができる。また、amp画像のウェルド推定箇所の強度平均をウェルド強度というタルボ特徴量として定義し表示してもよい。
【0105】
例えば、
図11に示すように、成型品としての樹脂製の歯車について、配向カラーマップ画像を生成した場合、ゲート(符号G)から注入された樹脂が2手に分かれて流動し、歯車の中心に関して、ゲートと反対側で樹脂が合流して、径方向に配向されるウェルド(符号W)が形成されることを確認することができる。配向カラーマップ画像では、樹脂の配向は、色別に表示しているが、図示の便宜上、
図11では、色に対応した白抜き矢印で樹脂の配向を表現している。検出部53は、配向カラーマップ画像からウェルド箇所を検出することができる。
【0106】
図10に戻って、最後に、CPU21は、特定部52によって、検出したウェルド箇所(または2値化したamp画像と2値化したpha画像)を用いて、金型設計データ41の項目のうちウェルドを抑えることができる項目を特定する(ステップA4)。具体的には、特定部52は、マッピングデータ43を参照して、ウェルドを抑えることができる項目を特定する。
【0107】
図10の処理によれば、配向画像から得られるタルボ特徴量によって、成型品のウェルドを検出し、ウェルドの発生を抑えるように金型設計へのフィードバックを行うことができる。例えば、ゲート位置の調整、ランナーの調整、金型に樹脂だまり等を設ける、といった金型設計の調整を容易に行うことができる。また、金型設計改善後の効果の検証を容易にすることができる。その結果、成型品の性能向上を支援することができる。
【0108】
なお、ウェルドを含む画像にウェルド箇所をアノートした学習セットを用意し、ウェルド強調用の学習器を生成し利活用することで、ウェルド強調処理を実現してもよい。また、ウェルド箇所の信号値と引張試験の強度との間の相関を予め取得し、ウェルド箇所の信号値から強度を推定することもできる。
【0109】
<実施例2:金型設計へのフィードバック(その2)>
例えば、制御装置20は、CAEバリデーションにより、金型設計の精度を向上させるように金型設計へのフィードバックを行うことができる。
【0110】
図12に示すように、まず、制御装置20のCPU21は、入力部24または外部データ入力部25により、金型設計データ41から所望の形状の金型を示す金型データを入力する(ステップB1)。
【0111】
次に、CPU21は、入力部24または外部データ入力部25により、CAE用の設定パラメータを入力する(ステップB2)。設定パラメータは、例えば、複合材料の樹脂および繊維の素材情報(組成比、物性値など)、樹脂速度などがあるが、これらに限定されない。
【0112】
次に、CPU21は、解析部54により、CAEの流動解析を実行する(ステップB3)。流動解析の解析結果は、例えば、
図13に示すものであるが、これに限定されない。
図13は、歯車の成型品を作製するための金型設計の金型データに対して樹脂データを流し込んだ場合における、CAE用のメッシュごとの樹脂の配向(両矢印)を示している。中央2列のメッシュにおける概ね上下の配向は、歯車の径方向に形成されるウェルドの配向を示している。また、左右2列のメッシュにおける概ね左右の配向は、ウェルドに向けて流れ込む樹脂の配向を示している。
【0113】
次に、CPU21は、検証部55により、流動解析の解析結果と、実測によって予め生成した(ステップB1の金型データで示す金型を用いて生成した)該当の成型品(歯車)の配向画像とを比較し、流動解析の妥当性(バリデーション)を検証する(ステップB4)。ここで配向画像は、実施例1で説明した配向画像と同等であり、ウェルドなどの成型不良を検出可能な画像である。また配向画像は、流動解析の解析結果と比較可能な形式を持つように加工されており、「流動解析比較用出力」と呼ぶことにする。流動解析比較用出力の導出の詳細は、後記する。
【0114】
流動解析の解析結果と流動解析比較用出力との差分(誤差)が目標誤差値より大きい場合(ステップB5でYes)、流動解析は妥当では無いことを意味し、ステップB2に戻り、処理を繰り返す。一方、差分が目標誤差値以下である場合(ステップB5でNo)、流動解析は妥当であることを意味し、入力した金型データおよび設定パラメータを採用する。なお、差分(誤差)の算出例は、後記する。
【0115】
最後に、CPU21は、特定部52によって、流動解析比較用出力および流動解析の解析結果の少なくとも何れかを用いて、金型設計データ41の項目のうちウェルドなどの成型不良を抑えることができる項目を特定する(ステップB6)。具体的には、特定部52は、マッピングデータ43を参照して、成型不良を抑えることができる項目を特定する。
【0116】
図12の処理によれば、実施例1の効果に加え、CAEによる金型設計の精度を向上させつつ、成型不良を抑えるように金型設計へのフィードバックを行うことができる。
なお、
図12の処理では、配向画像をCAEの解析結果に合わせるように加工したが、反対に、CAEの解析結果を、配向画像の形式に合わせるように(タルボ画像から抽出できる画素ごとの配向度と繊維量に合うように)加工することもできる。
【0117】
解析部54は、検証部55の結果によらず流動解析後に、構造解析やシミュレーション強度予測などの計算を行うことができる。
【0118】
[流動解析比較用出力の導出(その1:主配向の比較)]
CAE流動解析が3次元で行われている場合、撮影する2次元平面に解析結果を縮約する処理を行う。そして、配向テンソルの主配向成分を抽出し、撮影する2次元平面に対して垂直方向に抽出した主配向成分を平均化することで、CAEの解析結果の主配向と、実測値としての配向画像の主配向とを比較可能にし、CAEの解析結果と配向画像との間で、樹脂および繊維の配向角を比較可能にする。ここで主配向成分はベクトルとして平均化処理する。
【0119】
次に、CAE流動解析(メッシュごとの流動および繊維方向を求めること)のメッシュ形状に合わせて、配向画像のROIサイズを決める。次に、配向画像のうちpha画像のROIごとに、角度を平均化した値を抽出する。このとき、角度は単純な加算ではなく、ベクトルとして加算処理をする。例えば、
図14に示すように、実測値としてのpha画像の複数個の画素(
図14では9(=3×3)個の画素)をまとめたROIを、CAEのメッシュの寸法に合うように決める。1つのROIを構成する複数個の画素ごとの角度(配向)を平均化してROIごとの角度(配向)を抽出する。抽出したROIごとの角度は、CAEのメッシュごとの角度(配向角)と比較可能となる。
【0120】
なお、上記は、CAEのメッシュに配向画像のメッシュを合わせるようにした例である。しかし、逆に、タルボ画像のメッシュ構造にCAEのメッシュ構造を合わせるようにしてもよい。また、本解析をJIS規格等で定まった特定形状で行う場合には、予めJIS規格用の構造およびメッシュ構造をCAE側に用意しておき、タルボ画像とのメッシュ合わせを不要にすることが望ましい。
【0121】
流動解析の解析結果と、実測(配向画像)との比較方法としては、例えば、流動解析の解析結果と、実測値とを同一画面上に並べて、違いの大きな箇所(メッシュ)をヒートマップで表示する比較用ビューアを用いる方法がある。例えば、
図15に示すように、CAEの流動解析で抽出したメッシュごとの角度をθsim、実測値から抽出したメッシュごとの角度をθmesとしたとき、所定のしきい値θthrに対して、ABS(θsim -θmes)>θthrを満たすメッシュを強調表示(
図15では網線表示)することができ、配向が異なる箇所を鮮明にすることができる。比較用ビューアは、流動解析の解析結果と実測のうち、片方に対して行われた処理が他方にも連動して適用されることが望ましい。例えば、片方の画像を拡大縮小、並進移動した場合は、他方の画像も拡大縮小、並進移動が適用されるのが望ましい。
【0122】
また、比較用ビューアは、メッシュごとの、CAE流動解析の解析結果と実測値との誤差を統計的に処理した統計値(平均、中央値、偏差など)として表示してもよい。当該誤差は、メッシュごとの角度(配向)をベクトル値として考えて、以下の式5として算出することができる。つまり、CAE流動解析の解析結果のベクトル値は、(cos(θsim),sin(θsim))となり、実測値のベクトル値は、(cos(θmes),sin(θmes))となり、
【0123】
【数5】
・・・式5
となる。検証部55は、この誤差が目標誤差値より大きいか否かで流動解析の妥当性を判定することができる。
【0124】
[流動解析比較用出力の導出(その2:配向テンソルの比較)]
上記の配向角のみの比較に代えて、解析領域ごとに配向テンソル相当の比較をすることができる。この説明は、参考文献1(Directional x-ray dark-field imaging of strongly ordered systems, PHYSICAL REVIEW B 82, 214103 (2010))に従う。
【0125】
参考文献1によれば、xy軸に広がる散乱体の2次元散乱関数μ(x,y)をガウス関数モデルで考えると、以下の式6として表せる。
【0126】
【0127】
ここで、σ
1、σ
2は、ガウス関数の主軸成分の大きさ特定方向の散乱の異方性を表す指標である。繊維などの散乱体の場合、σ
1、σ
2の値は大きくなる。このため、σ
1とσ
2の比率が異方性の指標となる。
図16に示すように、散乱関数の等高線を描いたときの長軸と短軸の比率が2σ
1:2σ
2となり、異方性の指標となり得る。また、
図16に示すθ
0は、σ
1とx軸とのなす角度である。例えば、xy空間に広がる繊維の向きの分布が、X軸に対して45°傾いているものが多い場合、θ
0=45となる。
【0128】
散乱関数のテンソル表示Uを以下の式7とする。式5中のa、b、cは、テンソルの成分を表す。
【0129】
【0130】
一方で、タルボ画像撮影により得られる小角散乱画像は、格子角度と散乱体の相対角度θに対して、以下の式8で表現できる。kは格子周期により決まる定数である。
【0131】
【0132】
式8を見通しよくするため、対数変換して負符号を加えたものが式9となる。
【0133】
【0134】
タルボ画像撮影において、サンプルと格子との相対角度を異なる角度で複数回撮影することで、最大値(max)、最小値(min)、およびSC(θ)が最大となる角度θ0を算出することができる(式10参照)(すでに説明した、配向画像を抽出する手順と同様)。
【0135】
【0136】
次に、タルボ画像撮影から得られた情報から2次元の散乱関数のテンソル表示Uを求めると、以下の式11のようになる。
【0137】
【0138】
2次元散乱関数は、散乱画像の空間的な分布を表現したものである。このため、2次元散乱関数を流動解析の配向テンソルに対応するものとして比較を行う。ここで、流動解析の配向テンソルの対角成分の和は1として定義される。このため、2次元散乱関数のテンソル表示Uに対して対角成分で規格化したUnormを以下の式12のように定義する。
【0139】
【0140】
解析部54は、CAE流動解析の解析結果を対角成分で規格化した2次元散乱関数のテンソルで表現するとともに、配向画像を用いた実測値を対角成分で規格化した2次元散乱関数のテンソルで表現する。検証部55は、両テンソル同士を比較し、流動解析の妥当性を検証することができる(
図12のステップB4参照)。
【0141】
<実施例3:成型条件へのフィードバック>
成型品のタルボ画像は、従来では成型プロセスのブラックボックスであった、複合材料の流動性や繊維配向などのパラメータを可視化した画像といえる。例えば、制御装置20は、成型品のタルボ画像を利用した機械学習により、成型品の目標性能値を実現するように成型条件へのフィードバックを行うことができる。
【0142】
複合材料の成型品を作製するには、樹脂と繊維を混錬して中間生成物のペレットを作製する混錬工程と、ペレットを成型機に入れて、成型機にセットした金型に樹脂を注入して成型する射出成型工程を踏む必要がある。よって、中間生成物のペレットおよび成型品のタルボ画像撮影を行うことにより、内部の配向情報を可視化し情報収集を行う。また、その後、強度試験や寸法試験などの試験を行い、引っ張り強度、曲げ強度、反りなどの測定を行い、情報収集を行う。さらに、混錬時の素材情報(組成比や素材自体のパラメータ)、混錬時の混錬機情報、成型時の成型機情報の設定条件、稼働データ、金型データといった成型に付随する情報も収集する(成型条件データ42)。記憶部23は、これらの収集した情報を記憶する。
【0143】
[機械学習による最適な成型条件の決定(その1)]
図17に示すように、まず、制御装置20のCPU21は、成型条件を示す成型条件データ42を入力とし、成型品のタルボ特徴量を出力とする機械学習を行う第1の学習器56を生成する(ステップC1)。入力となる成型条件データ42は、例えば、成型条件そのものを示す情報、素材情報、混錬条件、ペレットのタルボ特徴量を含むとすることができるが、これらに限定されない。
【0144】
次に、CPU21は、成型品のタルボ特徴量を入力とし、成型品に対する試験により得られる性能データを出力とする機械学習を行う第2の学習器57を生成する(ステップC2)。性能データは、強度試験などの試験によって求められる成型品の強度特性を示すデータである。入力に用いる、成型品のタルボ特徴量は、学習精度を向上させる目的で、複数種類選択することが好ましい(例:異なる角度で成型品を撮影して得られたタルボ特徴量)。
【0145】
次に、CPU21は、特定部52によって、目標の強度(性能)を実現するのに必要なタルボ特徴量の目標値(タルボ特徴量目標値)を導出する(ステップC3)。具体的にはまず、特定部52は、値の異なる1または複数のタルボ特徴量を一定の範囲内にばらつかせ、タルボ特徴量の入力の都度、第2の学習器57に強度(性能データ)を推定させる。次に、特定部52は、第2の学習器57が推定した強度が目標の強度に近かった(推定した強度と目標の強度との差分が所定値以下であった)際に設定されていたタルボ特徴量をタルボ特徴量目標値とする。
【0146】
最後に、CPU21は、特定部52によって、タルボ特徴量目標値を実現するのに必要な成型条件データ42を導出する(ステップC4)。具体的にはまず、特定部52は、値の異なる1または複数の成型条件データ42(成型条件、素材情報、混錬条件、ペレットのタルボ特徴量)を一定の範囲内にばらつかせ、成型条件データ42の入力の都度、第1の学習器56に成型品のタルボ特徴量を推定させる。次に、特定部52は、第1の学習器56が推定したタルボ特徴量がタルボ特徴量目標値に近かった(推定したタルボ特徴量とタルボ特徴量目標値との差分が所定値以下であった)際に設定されていた成型条件データ42を最適な成型条件データ42とする。
【0147】
図17の処理によれば、成型品の性能の目標値を実現するための成型条件へのフィードバックを行うことができる。
【0148】
[機械学習による最適な成型条件の決定(その2)]
図18に示すように、まず、制御装置20のCPU21は、成型条件を示す成型条件データ42を出力とし、成型品のタルボ特徴量を入力とする機械学習を行う第1の学習器56を生成する(ステップD1)。出力となる成型条件データ42は、例えば、成型条件そのものを示す情報、素材情報、混錬条件、ペレットのタルボ特徴量を含むとすることができるが、これらに限定されない。また、入力に用いる、成型品のタルボ特徴量は、学習精度を向上させる目的で、複数種類選択することが好ましい(例:異なる角度で成型品を撮影して得られたタルボ特徴量)。
【0149】
次に、CPU21は、成型品のタルボ特徴量を出力とし、成型品に対する試験により得られる性能データを入力とする機械学習を行う第2の学習器57を生成する(ステップD2)。性能データは、強度試験などの試験によって求められる成型品の強度特性を示すデータである。
【0150】
次に、CPU21は、特定部52によって、目標の強度(性能)を実現するのに必要なタルボ特徴量の目標値(タルボ特徴量目標値)を導出する(ステップD3)。具体的には、特定部52は、強度の目標値を第2の学習器57に入力し、第2の学習器57にタルボ特徴量目標値を推定させる。
【0151】
最後に、CPU21は、特定部52によって、タルボ特徴量目標値を実現するのに必要な成型条件データ42を導出する(ステップD4)。具体的には、特定部52は、推定されたタルボ特徴量目標値を第1の学習器56に入力し、第1の学習器56に成型条件データ42を推定させる。特定部52は、推定された成型条件データ42を最適な成型条件データ42とする。
【0152】
図18の処理によれば、成型品の性能の目標値を実現するための成型条件へのフィードバックを行うことができる。
【0153】
[ボイドの検出]
実施例1に倣って、例えば、制御装置20は、成型品のボイドを検出し、その結果、ボイドの発生を抑えるように金型設計へのフィードバックを行うことができる。
【0154】
ボイド箇所は、タルボ画像として得られる微分位相画像を用いることで比較的容易に抽出することができる。まず、制御装置20は、被写体に対して0°の画像(A
0(x,y))と、90°の画像(A
90(x,y))を微分位相画像として取得する。
図19(a)に、ボイドを含む領域の画像(A
0(x,y))の表示例を示す。画像(A
0(x,y))について、格子向きは縦方向となる。また、
図19(b)に、ボイドを含む領域の画像(A
90(x,y))の表示例を示す。画像(A
90(x,y))について、格子向きは横方向となる。
【0155】
次に、制御装置20の算出部51は、画像(A
0(x,y))に対して、格子向きに直交する横方向(x方向)に微分を行うことで、微分位相画像の信号変化が大きな箇所の輪郭を抽出することができる。
図20(a)のx方向に関する微分位相信号のグラフに示すように、ボイド箇所では、横方向(x方向)に関して大きな振幅値変化を示す。なお、
図20(b)のy方向に関する微分位相信号のグラフに示すように、格子向きに平行な縦方向(y方向)に関しては、ボイド箇所であっても振幅値変化はない。
【0156】
よって、
図20(a)のグラフにおいて、横方向(x方向)に微分を行うと、
図21(a)のx方向に関する微分位相信号の変化値のグラフに示すように、ボイドの輪郭を示す振幅値が存在する。なお、
図21(b)のy方向に関する微分位相信号の変化値のグラフに示すように、縦方向(y方向)に微分を行っても振幅値は発生しない。
【0157】
また、制御装置20の算出部51は、画像(A
90(x,y))に対して、格子向きに直交する縦方向(y方向)に微分を行うことで、微分位相画像の信号変化が大きな箇所の輪郭を抽出することができる。
図22(b)のy方向に関する微分位相信号のグラフに示すように、ボイド箇所では、縦方向(y方向)に関して大きな振幅値変化を示す。なお、
図22(a)のx方向に関する微分位相信号のグラフに示すように、格子向きに平行な横方向(x方向)に関しては、ボイド箇所であっても振幅値変化はない。
【0158】
よって、
図22(b)のグラフにおいて、縦方向(y方向)に微分を行うと、
図23(b)のy方向に関する微分位相信号の変化値のグラフに示すように、ボイドの輪郭を示す振幅値が存在する。なお、
図23(a)のx方向に関する微分位相信号の変化値のグラフに示すように、横方向(x方向)に微分を行っても振幅値は発生しない。
【0159】
被写体に対して0°の画像(A
0(x,y))および90°の画像(A
90(x,y))を微分(2重微分)した画像をそれぞれ、画像(DA
0(x,y))および画像(DA
90(x,y))とする。
図24に、ボイドを含む領域の画像(DA
0(x,y))の表示例を示す。画像(DA
0(x,y))について、格子向きは縦方向となる。また、
図25に、ボイドを含む領域の画像(DA
90(x,y))の表示例を示す。画像(DA
90(x,y))について、格子向きは横方向となる。
図24、
図25中に示される「+」、「-」は、振幅値の符号を示す。
【0160】
制御装置20の算出部51は、画像(DA
0(x,y))に示される振幅値の絶対値を求めるとともに、画像(DA
90(x,y))に示される振幅値の絶対値を求める。また、画像処理装置2は、振幅値の絶対値をとった画像(DA
0(x,y))、および、振幅値の絶対値をとった画像(DA
90(x,y))の合成画像(abs(DA
0(x,y))+abs(DA
90(x,y)))を生成する。合成画像の表示例を
図26に示す。
【0161】
算出部51は、合成画像に示される信号値が所定値以上となる領域をボイドとして検出することができる。このとき、ボイド相当の画素の画素数や、ボイド相当の画素が連結しているときの当該ボイドのサイズなどをタルボ特徴量とすることができる。特定部52は、マッピングデータ43を参照するなどして、金型設計を構成する項目のうち、ボイドを改善可能な項目を特定することができる。
【0162】
また、算出部51を、タルボ画像に対して、ボイドまたはクラックの箇所をアノテーションした学習セットとし、機械学習させることで、算出部51をボイド検出器として機能させることができる。
【0163】
<フィラーについて>
複合材料に対してフィラー(増感剤)を入れて射出成型することが好ましい。フィラーを含有する成型品をX線タルボ撮影装置1で撮影したときには、樹脂および繊維の流動が鮮明なタルボ画像を取得することができる。例えば、最終製品としては樹脂のみで成型する場合には、タルボ画像で樹脂流動を可視化することは困難である。開発段階では、樹脂に対して、少量のフィラーを入れることで、樹脂の流動を可視化することが可能になり、作製プロセスにフィードバックすることが可能である。このとき、添加するフィラーは樹脂流動に影響が少ないものが望ましい。
【0164】
フィラーは、例えば、(1)X線タルボ撮影装置1の格子周期と同等の粒形を持つ、(2)異方形状である、(3)ファイバ状である、(4)ファイバ状である場合において格子周期と同様のファイバ直径を持つ、の少なくとも何れかであることが好ましい。(1)(4)の粒形、ファイバ直径としては、X線タルボ撮影装置の感度が高い100nmから数十μmの範囲にあることが望ましい。
【0165】
<まとめ>
本実施形態によれば、複合材料の成型品のタルボ画像を用いることにより、樹脂の流動や繊維の配向などを示すタルボ特徴量を、成型品の作製プロセスの客観的な判断材料として情報提供することができる。よって、タルボ特徴量に基づく作製プロセスへのフィードバックを容易にすることができる。
したがって、成型品の性能向上を支援することができる。
【0166】
また、配向画像から得られるタルボ特徴量によって、成型不良箇所を改善可能な金型設計へのフィードバックを容易にすることができる。
【0167】
また、流動解析による金型設計の精度を向上させることができる。
【0168】
また、タルボ特徴量を利用した機械学習によって、成型条件データを入力して性能データを出力する場合、成型品の性能の目標値を実現するための成型条件へのフィードバックを容易にすることができる。
【0169】
また、タルボ特徴量を利用した機械学習によって、性能データを入力して成型条件データを出力する場合、成型品の性能の目標値を実現するための成型条件へのフィードバックを容易にすることができる。
【0170】
また、フィラーを用いて、樹脂および繊維の流動が鮮明なタルボ画像を取得することができる。
【0171】
<変形例>
(a):本実施形態では、射出成型の成型品について説明したが、例えば、プレス成型の成型品についても適用可能である。
【0172】
(b):本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
【0173】
(c):本実施形態では、2次元画像の例で説明したが、タルボ画像を3次元画像に拡張して、CAEも3次元データのまま比較する場合についても適用可能である。
【0174】
(d):本実施形態では、タルボ画像から配向画像を生成する技術について説明したが、配向画像を生成する技術はこれに限られない。
【符号の説明】
【0175】
1 X線タルボ撮影装置
2 画像処理装置
20 制御装置
21 CPU
23 記憶部
41 金型設計データ
42 成型条件データ
43 マッピングデータ
44 対応事例データ
51 算出部
52 特定部
53 検出部
54 解析部
55 検証部
56 第1の学習器
57 第2の学習器