(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
H02P 6/20 20160101AFI20240319BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20240319BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20240319BHJP
H02P 21/24 20160101ALI20240319BHJP
H02P 21/34 20160101ALI20240319BHJP
【FI】
H02P6/20
F04D19/04 H
H02P6/18
H02P21/24
H02P21/34
(21)【出願番号】P 2019221132
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】平田 伸幸
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-190304(JP,A)
【文献】特開2008-067600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
F04D 19/04
H02P 6/18
H02P 21/24
H02P 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプロータと、
前記ポンプロータを回転駆動するモータと、
前記モータをセンサレス駆動するモータ制御部と、を備える真空ポンプにおいて、
前記モータは、モータロータに永久磁石が設けられた同期モータであって、
前記モータ制御部は、
固定座標αβ系のα軸に対して第1の角度をなす方向に電流を流
して、前記モータロータに回転のきっかけを与える第1の通電制御を実行し、
その後、
前記第1の通電制御によっても前記モータロータの回転速度が0か否かを判定し、
前記第1の通電制御によっても前記モータロータの回転速度が0であると判定されたときに、前記α軸に対して前記第1の角度とは異なる第2の角度をなす方向に電流を流す第2の通電制御を実行するモータ始動動作を行う、真空ポンプ。
【請求項2】
ポンプロータと、
前記ポンプロータを回転駆動するモータと、
前記モータをセンサレス駆動するモータ制御部と、を備える真空ポンプにおいて、
前記モータは、モータロータに永久磁石が設けられた同期モータであって、
前記モータ制御部は、
固定座標αβ系のα軸に対して第1の角度をなす方向に電流を流す第1の通電制御を実行し、
その後、前記モータロータの回転速度が0か否かを判定し、前記モータロータの回転速度が0であると判定されたときに、前記α軸に対して前記第1の角度とは異なる第2の角度をなす方向に電流を流す第2の通電制御を実行するモータ始動動作を行い、
前記第2の角度は前記第1の角度と位相がπ[rad]だけ異なり、かつ、前記第1および第2の通電制御における電流の大きさは等しい値に設定される、真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記第2の角度のモータ回転方向への位相進みΔθは、前記第1の角度に対して0[rad]<Δθ<+π[rad]に設定される、真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記第1および第2の通電制御における電流の電流値は、前記モータに供給可能な最大電流値に設定される、真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記モータ制御部は、第1の通電制御および第2の通電制御を繰り返し実行する、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプなどの軸流式真空ポンプは、真空排気するためにポンプロータを高速回転させる。このとき、稀薄ガスに対して圧縮仕事を行いながら排気するので、ポンプロータは一方向のみの回転となる。したがって、ポンプロータは、通常は、静止状態と正回転領域との間で加速・減速や、定常回転が行われる。
【0003】
ポンプロータを回転駆動するモータとしては、例えば、回転子に永久磁石を備えた永久磁石同期モータが用いられる。永久磁石同期モータでは、マグネットトルクを利用して回転力を得ているため、固定子コイルに適切なタイミングで電流を流して回転磁界を生成する必要がある。適切なタイミングを得るために、従来はホール素子などの回転位置センサを用いてタイミングを生成している。しかし、最近ではコスト面への配慮から、特許文献1に記載のような回転位置センサを省略したセンサレスの3相ブラシレスモータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のセンサレスブラシレスモータでは、固定子コイルに発生する誘起電圧を用いて回転位置を取得するようにしており、回転子が停止した状態において、固定子コイルにより所望の方向に回転する回転磁界を非同期で生成し、回転子の回転速度を誘起電圧が取得可能な回転数まで上昇させるようにしている。しかしながら、例えばロータ重量が大きい場合等において、始動できない可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様による真空ポンプは、ポンプロータと、前記ポンプロータを回転駆動するモータと、前記モータをセンサレス駆動するモータ制御部と、を備える真空ポンプにおいて、前記モータは、モータロータに永久磁石が設けられた同期モータであって、 前記モータ制御部は、第1の固定磁極位相でq軸電流を流す第1の通電制御を実行し、その後に、前記第1の固定磁極位相と異なる第2の固定磁極位相でq軸電流を流す第2の通電制御を実行するモータ始動動作を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、真空ポンプにおける始動失敗の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、真空ポンプの概略構成を説明する図であり、ターボ分子ポンプのポンプ本体の断面を示す図である。
【
図2】
図2は、コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、モータ駆動制御系を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、始動時のモータロータおよび磁束φ1の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、始動動作処理を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、通電状態A,Bの生成パターンを示す図である。
【
図7】
図7は、始動動作を定性的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、真空ポンプの概略構成を説明する図であり、ターボ分子ポンプのポンプ本体1の断面を示す図である。ターボ分子ポンプは、
図1に示すポンプ本体1と、ポンプ本体1を駆動するコントローラ(不図示)とを備えている。
図1に示すターボ分子ポンプは磁気浮上式ターボ分子ポンプであり、ポンプ本体1には、シャフト5に締結されたポンプロータ4と、シャフト5を磁気浮上支持する磁気軸受67,68,69と、シャフト5を回転駆動するモータMとが設けられている。なお、磁気軸受67,68,69が作動していない状態では、シャフト5はメカニカルベアリング66a,66bによって支持される。
【0010】
モータMはセンサレスの永久磁石同期モータであって、モータロータ11には永久磁石が設けられている。モータMのモータステータ10および磁気軸受67~69は、ベース60に設けられている。ポンプロータ4には、複数段の回転翼4aと一つの円筒部4bとが形成されている。複数段の回転翼4aは、ポンプケーシング61内に設けられた複数段の固定翼62と共にターボポンプ段を構成している。複数段の回転翼4aに対して軸方向に交互に設けられた複数段の固定翼62は、複数のスペーサリング63によって位置決めされている。円筒部4bは、ベース60に固定されたポンプステータ64と共にドラッグポンプ段(ネジ溝ポンプ)を構成している。ここではポンプステータ64側にネジ溝が形成されているが、円筒部4b側にネジ溝を形成しても構わない。ベース60に形成された排気口60aには排気ポート65が設けられ、この排気ポート65に補助ポンプが接続される。
【0011】
図2は、ターボ分子ポンプのコントローラの概略構成を示すブロック図である。外部からのAC入力は、コントローラに設けられたAC/DCコンバータ40によってDC出力(DC電圧)に変換される。AC/DCコンバータ40から出力されたDC電圧はDC/DCコンバータ41に入力され、DC/DCコンバータ41によって、モータM用のDC電圧と磁気軸受用のDC電圧とが生成される。
【0012】
モータM用のDC電圧はインバータ43に入力される。磁気軸受用のDC電圧は磁気軸受用のDC電源42に入力される。磁気軸受67~69は
図1に示すように5軸磁気軸受を構成しており、ラジアル側の磁気軸受67,68は各々2対の電磁石46を有し、アキシャル側の磁気軸受69は1対の電磁石46を有している。5対の電磁石46、すなわち10個の電磁石46には、それぞれに対して設けられた10個の励磁アンプ45から個別に電流が供給される。
【0013】
制御部44はモータおよび磁気軸受の制御を行うデジタル演算器であり、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース( I/O インタフェース)を備えたマイクロコンピュータやFPGA(Field Programmable Gate Array)等で構成される。制御部44は、インバータ43に対しては、インバータ43に含まれる複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号441を出力し、各励磁アンプ45に対しては、各励磁アンプ45に含まれるスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号442をそれぞれ出力する。また、制御部44には、後述するようにモータMに関する信号(相電圧や相電流に関する信号)443が入力されると共に、磁気軸受に関する信号(励磁電流信号や変位信号)444が入力される。
【0014】
図3は、モータMに関するモータ駆動制御系を示す図である。モータ駆動制御系は、制御部44に設けられたモータ制御部400、電流検知器50および電圧検知器51等を含む。図示しないが、インバータ43は、複数のスイッチング素子と、それらをオンオフ駆動するためのゲートドライブ回路とを備えている。モータステータ10のU,V,W相コイルに流れる電流は電流検知器50によってそれぞれ検出され、検出結果としての電流検知信号はローパスフィルタ409を介してモータ制御部400の回転速度ω・磁極位置θ推定部(以下では、ω,θ推定部と呼ぶことにする)407に入力される。また、U,V,W相コイルの各端子および中性点の電圧は電圧検知器51によって検出され、検出結果としての電圧検知信号はローパスフィルタ410を介してモータ制御部400のω,θ推定部407に入力される。
【0015】
ω,θ推定部407は、電流検知信号および電圧検知信号に基づいて、モータロータ11の回転速度ωおよび磁極位置(電気角θ)を推定する。なお、モータロータ11の磁極位置は電気角θで表されるので、以下では、磁極位置のことを磁極電気角θと呼ぶことにする。算出された回転速度ωは速度制御部401,Id・Iq設定部402および等価回路電圧変換部403に入力される。また、算出された磁極電気角θはdq-2相電圧変換部404に入力される。
【0016】
速度制御部401は、入力された目標回転速度ωiと推定された現在の回転速度ωとの差分に基づいて、PI 制御(比例制御および積分制御)あるいはP制御(比例制御)を行い、電流指令Iを出力する。Id・Iq設定部402は、電流指令Iに基づき、回転座標dq系における励磁電流ベクトル成分(以下ではq軸電流と呼ぶ)Iqおよびトルク電流ベクトル成分(以下ではd軸電流と呼ぶ)Idを設定する。
図4に示すように、回転座標dq系のd軸は、回転しているモータロータ11のN極を正方向とする座標軸である。q軸はd軸に対してπ/2[rad]進みの直角方向の座標軸で、その向きは正回転時の逆起電圧方向となる。
【0017】
一般に、ターボ分子ポンプにおけるモータ制御においては、d軸電流IdはId=0のように制御される。等価回路電圧変換部403は、予め記憶されている回転センサレス制御のパラメータKe[V0-pk/(rad/t)]、r[Ω]、L[mH]に基づいて、次式(1),(2)で表される回転座標dq系における電圧指令Vd,Vqを求め、dq-2相電圧変換部404に入力する。ここで、rはモータ線全体の巻き線抵抗、Keは逆起電力定数、ωモータの角周波数である。
Vd=-ω×L×Iq …(1)
Vq=r×Iq +Ke×ω …(2)
【0018】
dq-2相電圧変換部404は、電圧指令Vd,Vqとω,θ推定部407から入力された磁極電気角θとに基づいて、回転座標dq系における電圧指令Vd,Vqを固定座標αβ系の電圧指令Vα,Vβに変換する。2相-3相電圧変換部405は、2相の電圧指令Vα,Vβを3相電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。PWM信号生成部406は、3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、インバータ43に設けられたスイッチング素子をオンオフ(導通または遮断)するためのPWM制御信号を生成する。インバータ43は、PWM信号生成部406から入力されたPWM制御信号に基づいてスイッチング素子をオンオフし、モータMに駆動電圧を印加する。
【0019】
(従来の始動動作)
従来の始動動作としては、例えば、固定磁極位相でq軸電流Iqを流し、モータロータ11が回り始めるきっかけを与える方法が知られている。一般に真空ポンプにおいては、通常のロータ回転時には、磁極電気角θ(磁極位置)に対して回転方向にπ/2[rad]だけ進み位相の電流ベクトル、すなわちロータ回転(回転速度ω)に同期して回転するdq軸のq軸方向の電流ベクトル(Id=0、Iq>0)が与えられる。しかし、センサレスの同期モータの場合、モータロータ11が停止している状態では逆起電圧が生成されないので、モータロータ11の磁極電気角θ(磁極位置)を検出することが出来ない。そのため、磁極電気角θ(磁極位置)が検知できない始動時においては、固定座標αβ系において一定方向を向いた電流ベクトルを与えて始動する。
【0020】
例えば、
図4においてα軸正方向(U相方向)の電流ベクトルを与えて、回転する磁束ではなくα軸正方向(U相方向)の磁束φ1を形成する。
図4ではU相方向(α軸正方向)を基準(θ=0)として磁極電気角θを設定しているので、モータロータ11のN極がβ軸負方向を向いたタイミングにおけるq軸電流Iqを流すことになる。すなわち、モータロータ11の磁極位置すなわち磁極電気角θがθ=-π/2[rad]であると仮定して、固定磁極位相θ=-π/2[rad]でq軸電流Iqを流すことになる。
【0021】
そのようなq軸電流Iqを与えた場合、モータロータ11の磁極電気角θが0~+π[rad]の場合には時計回り(逆転方向)のトルクがモータロータ11に作用し、磁極電気角θが0~-π[rad]の場合には反時計回り(正転方向)のトルクがモータロータ11に作用する。そのため、
図4のようにモータロータが停止している場合、反時計回りのトルクがモータロータ11に作用し、逆転方向に回り始めるきっかけが与えられる。しかしながら、θ=0でモータロータ11が停止している場合、モータロータ11のN極がU相方向に引き付けられて停止状態が維持されるため、回り始めのきっかけを与えることが出来ず始動に失敗してしまう。
【0022】
(本実施形態の始動動作)
図5は、制御部44で実行される始動動作処理を説明するフローチャートである。モータ起動指令によりモータ制御が開始されると、ステップS10において予め設定された固定磁極位相でq軸電流Iq=10[A]を流し、計時を開始する。これは、従来の場合と同様に回転のきっかけを与えるための動作である。始動時のq軸電流Iqの電流値としては、モータMに供給可能な最大電流値とするのが好ましい。ステップS20では、モータロータ11の回転速度ωがω=0であるか否か、すなわち、停止しているか否かを判定し、ω=0と判定された場合にはステップS30へ進む。一方、ω≠0と判定された場合には、そのときに発生するモータ逆起電圧から回転速度ωが推定可能なので、ステップS70へ進んでベクトル制御を開始する。
【0023】
ステップS20でω=0と判定されてステップS30へ進んだ場合には、ステップS30において、ステップS10で計時開始してからの経過時間が予め設定した時間Tset1を経過したか否かを判定する。ステップS30で(経過時間)<Tset1と判定された場合にはステップS20へ戻り、(経過時間)≧Tset1と判定された場合にはステップS40へ進んでq軸電流IqをステップS10の場合とは逆符号のIq=-10[A]に切り替える。
【0024】
ステップS50では、ステップS10で計時開始してからの経過時間が時間Tset2を経過したか否かを判定する。ステップS50で(経過時間)<Tset2と判定された場合にはステップS20へ戻り、(経過時間)≧Tset2と判定されるとステップS60へ進む。ステップS60では、計時時間をクリアしてステップS10へ戻る。すなわち、再びq軸電流IqをIq=10[A]に切り替えて、計時を開始する。
【0025】
図5に示す始動処理では、ω≠0となって回転のきっかけが与えられるまでは、
図6のように、Iq=10[A]の通電状態Aが時間Tset1だけ継続されるパターンと、Iq=-10[A]の通電状態Bが時間(Tset2-Tset1)だけ継続されるパターンとを繰り返し実行する。もちろん、繰り返しを行わなくも構わないが、通電状態AおよびBを繰り返し実行することで、確実に始動を行わせることができる。なお、通電状態Aの継続時間をTset1、通電状態Aの継続時間と通電状態Bの継続時間との合計時間Tset2の設定値としては任意であるが、例えば、Tset2=10秒、Tset1=8秒のように設定される。もちろん、Tset1およびTset2の値はこれらに限定されるものではなく、例えば、ロータ重量の大小に応じて合計時間Tset2の長短を設定したり、通電状態A,Bの継続時間の比を変えたりしても良い。
【0026】
次に、
図4、
図7等を参照して、
図5に示した始動動作を定性的に説明する。ステップS10における予め設定された固定磁極位相は任意であり、ここでは、U相方向(α軸正方向)の磁束φ1が形成されるような固定磁極位相でq軸電流Iq=10[A]を流すものとする。モータロータ11が、例えば、
図4のような状態で停止していた場合、磁束φ1によってモータロータ11もN極がU相に近づくように時計回りに回転する。その結果、ステップS20においてω≠0と判定されてベクトル制御が開始される(ステップS70)。
【0027】
一方、
図7に示すように、磁極電気角θ=0でモータロータ11が停止している場合には、固定磁極位相θ1=-π/2でq軸電流Iqを流したときに形成される磁束φ1の方向と、モータロータ11の磁束の方向とが一致することになる。そのため、q軸電流Iq=10[A]を流しても、モータロータ11を回転させるようなトルクが発生しない。よって、ステップS20でω=0と判定されてステップS30へと進む。経過時間がTset1未満の場合にはステップS30からステップS20へと戻るので、ステップS20→ステップS30の処理が繰り返されて、通電状態Aが
図6の0秒~Tset1のように維持される。
【0028】
ステップS10でIq=10[A]に設定されてからの経過時間がTset1に達すると、ステップS30からステップS40へと進んでq軸電流Iqが10[A]から-10[A]へと切り替えられて、
図6のように通電状態Bに変化する。通電状態Bでは、通電状態Aと同一の固定磁極位相で通電状態Aの場合と反対符号のq軸電流Iqを流すことになり、
図7に示すように磁束φ1と逆向きの磁束φ2が形成されることになる。言い換えると、通電状態Bは、固定磁極位相θ2(θ2=+π/2[rad])でq軸電流Iq=10[A]を流す状態である。
【0029】
通電状態Bの場合には、モータロータ11の永久磁石により形成される磁束の方向と磁束φ2の方向とが逆向きになるので、モータロータ11のN極とステータ側のN極とが対向して反発する不安定状態となる。その結果、モータロータ11は正転方向または逆転方向に動き出すことになり、ステップS20でω≠0(NO)と判定されてベクトル制御が開始される。
【0030】
なお、ステップS40でIq=-10[A]と設定してもω≠0と判定されず始動しない場合には、Iq=-10[A]の通電状態Aが(Tset2-Tset1)継続された時点(0秒からの継続時間がTset2となった時点)でステップS50→ステップS60→ステップS10と進み、再び通電状態A(Iq=10[A])および計時が再開される。そして、ステップS20でω≠0と判定されるまで、通電状態Aと通電状態Bとが交互に繰り返し実行される。
【0031】
上述したように、本実施の形態では、ステップS10において固定磁極位相θ1(θ1=-π/2)でq軸電流Iq(Iq=10[A])を流す通電状態Aを所定時間(8秒間)維持することで、モータロータ11の磁極電気角(磁極位置)がq軸電流Iqの固定磁極位相θ1とほぼ一致した状態を確実に得ることができる。そして、固定磁極位相θ1とは異なる位相の固定磁極位相θ2(θ2=+π/2)でq軸電流Iq(Iq=10[A])を流す通電状態Bに切り替えることで、モータロータ11に対してトルクを確実に発生させることができる。その結果、真空ポンプにおける回転始動の失敗を防止することができる。
【0032】
(変形例)
上述した実施の形態では、固定磁極位相θ1でq軸電流Iq=10[A]を流す通電状態Aから、電流値の符号をマイナスに切り替えて固定磁極位相θ2がθ2=+π/2でq軸電流Iq=10[A]を流す通電状態Bとした。しかし、通電状態Aを形成して
図7のように磁極電気角θ=0に停止させたモータロータ11に、回転のきっかけとなるトルクを発生させることができる通電状態Bであれば、固定磁極位相θ2はθ2=+π/2に限定されない。原理的にはθ2≠-π/2であればトルクが発生することになるが、ロータ慣性に対する発生トルクの大きさを考慮すると現実的には0≦θ2≦π程度に設定するのが良い。また、通電状態A,Bにおける電流値の大きさも、上述した供給可能な最大電流値でなくても良いし、通電状態Aと通電状態Bとで電流値を異ならせても構わない。
【0033】
上述した例示的な実施の形態および変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0034】
[1]一態様に係る真空ポンプは、ポンプロータと、前記ポンプロータを回転駆動するモータと、前記モータをセンサレス駆動するモータ制御部と、を備える真空ポンプにおいて、前記モータは、モータロータに永久磁石が設けられた同期モータであって、前記モータ制御部は、第1の固定磁極位相でq軸電流を流す第1の通電制御を実行し、その後に、前記第1の固定磁極位相と異なる第2の固定磁極位相でq軸電流を流す第2の通電制御を実行するモータ始動動作を行う。
【0035】
例えば、
図7の通電状態A,Bはそれぞれ第1の通電制御、第2の通電制御に対応し、通電状態Aでは第1の固定磁極位相θ1=-π/2でq軸電流Iq(=10[A])を流し、通電状態Bでは第2の固定磁極位相θ2=+π/2でq軸電流Iq(=10[A])を流す。その結果、第1の通電制御を行うことでモータロータ11の磁極電気角(磁極位置)が第1の固定磁極位相θ1=-π/2に揃えられ、第2の通電制御において第1の固定磁極位相θ1=-π/2と異なる位相の第2の固定磁極位相θ2=+π/2でq軸電流Iqを流すので、モータロータ11の磁束φ1の方向とq軸電流Iqにより形成される磁束φ2の方向とを異ならせることができ、始動失敗の発生を防止することができる。
【0036】
[2]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記第2の固定磁極位相は前記第1の固定磁極位相と位相がπ[rad]だけ異なり、かつ、前記第1および第2の通電制御におけるq軸電流の大きさは等しい値に設定される。このように設定することで、
図7のように第2の通電制御においてq軸電流Iqにより形成される磁束φ2の向きを、モータロータ11の磁束φ1に対して逆向きとすることができる。その結果、磁束φ2の向きが逆向き以外の場合と比べて、発生するトルクを大きくすることができる。
【0037】
[3]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記第2の固定磁極位相のモータ回転方向への位相進みΔθは、前記第1の固定磁極位相に対して0[rad]<Δθ<+π[rad]に設定される。第2の固定磁極位相をこのように設定することで、モータロータ11を正回転方向に始動させるトルクを発生させることができ、逆転発生の防止を図ることができる。
【0038】
[4]上記[1]から[3]にまでのいずれかに記載の真空ポンプにおいて、前記第1および第2の通電制御におけるq軸電流の電流値は、前記モータに供給可能な最大電流値に設定される。それにより、始動時に発生するトルクをより大きくすることができ、始動失敗の防止効果をより向上させることができる。なお、モータに供給可能な最大電流値とはは、モータMに流すことが可能な最大電流値、および、モータMに対して電源(DC/DCコンバータ41)が供給できる最大の電流値の両方を意味する。
【0039】
[5]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記モータ制御部は、第1の通電制御および第2の通電制御を繰り返し実行する。それにより、仮に一回目の第1の通電制御および第2の通電制御により始動させることができなかった場合でも、繰り返し第1の通電制御および第2の通電制御を実行することで、始動失敗を確実に防止することができる。
【0040】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1…ポンプ本体、4…ポンプロータ、10…モータステータ、11…モータロータ、44…制御部、400…モータ制御部、A,B…通電状態、M…モータ