(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】シームレス缶体
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20240319BHJP
B65D 8/08 20060101ALI20240319BHJP
B65D 1/42 20060101ALI20240319BHJP
B65D 8/04 20060101ALI20240319BHJP
B65D 1/16 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B65D1/02 230
B65D8/08
B65D1/42
B65D8/04 G
B65D1/16 111
(21)【出願番号】P 2019223572
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 章太
(72)【発明者】
【氏名】中村 友彦
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-193016(JP,A)
【文献】特開2011-255919(JP,A)
【文献】特開昭50-136181(JP,A)
【文献】米国特許第04151927(US,A)
【文献】特開2009-173338(JP,A)
【文献】特開昭55-048037(JP,A)
【文献】特開2000-016418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 8/08
B65D 1/42
B65D 8/04
B65D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶胴と当該缶胴と連続する缶底を有し、
前記缶底が、平坦な中央パネル部と、当該中央パネル部よりも径方向外側において缶外方に凸となっている環状の接地リム部と、前記中央パネル部と前記接地リム部との間において前記接地リム部の内側に連続し、前記中央パネル部よりも缶内方に凸となっている環状凹部とを有するシームレス缶体であって、
前記接地リム部の最底部から前記環状凹部の最頂部までの距離(BCS)が4.0mm以上7.0mm以下であり、
前記環状凹部と前記中央パネル部とがコーナー部を介して連続されており、前記コーナー部の曲率半径Rが1.5mmより大きく3.5mm以下であり、
前記中央パネル部を形成するための原板の板厚が0.15mm以上0.40mm以下であり、
前記接地リム部の最底部から前記環状凹部の最頂部までの距離(BCS)から前記接地リム部の最底部から前記中央パネル部までの距離(BS)を引いた値(BCS-BS)が3.3~3.5mmであり、
前記缶胴の胴径をA、前記接地リム部の接地径をB、前記中央パネル部のパネル径をCとしたとき、下記関係式(1)~関係式(3)を満た
し、
少なくとも575kPaの耐圧強度を有することを特徴とするシームレス缶体。
関係式(1):B/A=0.60~0.90
関係式(2):C/A=0.40~0.80
関係式(3):C/B=0.60~0.90
【請求項2】
前記接地リム部の最底部から前記中央パネル部までの距離(BS)が1.5mm以上3.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシームレス缶体。
【請求項3】
前記シームレス缶体がボトル缶であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシームレス缶体。
【請求項4】
前記シームレス缶体が陽圧缶用であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のシームレス缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス缶体、特に缶底の中央に平坦な中央パネル部を有するシームレス缶体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばミルク入りコーヒー等の低酸性飲料の内容物を充填した缶においては、内圧(缶内圧)の変化を検査し、缶内圧の過不足により内容物の漏れ(密封性)や腐敗による膨張の有無を検査することが行われている。内圧検査方法としては、シームレス缶体の缶底の中央パネル部をフラット形状に形成し、このシームレス缶体に内容物を充填し、密封したシームレス缶体の中央パネル部の軸方向の変位量を測定し、或いはこの中央パネル部に電磁的衝撃を与えてその打検音(振動周波数)を測定し、内圧の適否を検査する方法が一般に採用されている。これらの缶詰の内圧検査においては、中央パネル部の平坦度が高いほど、より正確な内圧検査が可能になることが知られている。
また、ミルク入りコーヒー等の低酸性飲料の内容物を充填した缶製品は、内容物を充填した後に加熱することによる殺菌処理(熱殺菌処理)を行う必要があり、その際、缶内圧が最も高圧となるために、一定の強度確保が求められている。
そして、薄肉材料を使用しても十分な強度を確保することができ、かつ、内圧検査特性を有するシームレス缶体として、缶底に、缶外方に凸となっている接地リム部と、その内周側から立ち上がり缶内方に凸となっている環状凹部と、この環状凹部の内周側から缶外方に下がって連続する平坦な中央パネル部を形成したシームレス缶体が知られている(特許文献1~特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-255919号公報
【文献】特開2009-173338号公報
【文献】特開2019-112082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、このようなシームレス缶体について、シームレス缶体の製造時や輸送時のCO2 の排出量を削減する環境負荷を低減させる目的や、金属材料の使用量の削減によってコストダウンを図る目的などから、より一層の軽量化(薄肉化)を図ることが要請されている。しかしながら、薄肉化に伴ってシームレス缶体の強度低下が懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、その目的は、シームレス缶体を形成するための原板のより一層の薄肉化を図った場合であっても、内圧検査特性を有すると共に成形性等に優れ、さらに熱殺菌処理時の耐圧性に優れたシームレス缶体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシームレス缶体は、缶胴と当該缶胴と連続する缶底を有し、
前記缶底が、平坦な中央パネル部と、当該中央パネル部よりも径方向外側において缶外方に凸となっている環状の接地リム部と、前記中央パネル部と前記接地リム部との間において前記接地リム部の内側に連続し、前記中央パネル部よりも缶内方に凸となっている環状凹部とを有するシームレス缶体であって、
前記接地リム部の最底部から前記環状凹部の最頂部までの距離(BCS)が4.0mm以上7.0mm以下であり、
前記環状凹部と前記中央パネル部とがコーナー部を介して連続されており、前記コーナー部の曲率半径Rが1.5mmより大きく3.5mm以下であり、
前記中央パネル部を形成するための原板の板厚が0.15mm以上0.40mm以下であり、
前記接地リム部の最底部から前記環状凹部の最頂部までの距離(BCS)から前記接地リム部の最底部から前記中央パネル部までの距離(BS)を引いた値(BCS-BS)が3.3~3.5mmであり、
前記缶胴の胴径をA、前記接地リム部の接地径をB、前記中央パネル部のパネル径をCとしたとき、下記関係式(1)~関係式(3)を満たし、
少なくとも575kPaの耐圧強度を有することを特徴とする。
関係式(1):B/A=0.60~0.90
関係式(2):C/A=0.40~0.80
関係式(3):C/B=0.60~0.90
【発明の効果】
【0007】
本発明のシームレス缶体によれば、平坦な中央パネル部と、これよりも径方向外側において缶外方に凸となっている環状の接地リム部と、中央パネル部と接地リム部との間において中央パネル部よりも缶内方に凸となっている環状凹部とを有し、接地リム部の最底部から前記環状凹部の最頂部までの距離(BCS)が4.0mm以上7.0mm以下とされていることにより、熱殺菌処理等の高温処理を経ても缶底の中央パネル部において高い平坦度を保つことができるので、十分な内圧検査特性が得られると共に優れた成形性が得られ、さらに高い耐圧性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシームレス缶体の缶底形状を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本実施形態のシームレス缶体は、ミルク入りコーヒー等の飲料等が充填、密封され、材料をアルミニウムやアルミニウム合金とするボトル缶等のシームレス缶体である。
シームレス缶体は、
図1に示されるように、缶胴110と当該缶胴110と連続する缶底120とを有する。缶底120は、平坦な円形の中央パネル部125と、この中央パネル部125よりも径方向外側において缶外方(
図1において下方)に凸となっている断面が略U字状の環状の接地リム部127と、中央パネル部125と接地リム部127との間において当該接地リム部127の内側に連続すると共に中央パネル部125の外側に連続し、中央パネル部125よりも缶内方(
図1において上方)に凸となっている(缶内方に窪んでいる)断面が略逆U字状の環状凹部126とを有する。
また、環状凹部126および中央パネル部125は、缶外方に凸となっている円弧状のコーナー部122を介して連続しており、コーナー部122と中央パネル部125の平坦面との接続位置である当該コーナー部122の円弧の始点が中央パネル部125の外周端となる。
【0010】
接地リム部127の最底部(接地面)から環状凹部126の最頂部(缶底面(
図1において下面)のうち最も上方)までの距離(ボトムカウンターシンク:BCS)は、4.0mm以上7.0mm以下とされ、好ましくは4.5mm以上6.5mm以下とされる。
接地リム部127の最底部から環状凹部126の最頂部までの距離(BCS)が過小である場合は、熱殺菌処理時や炭酸飲料を充填した場合や窒素充填等で缶内圧が上昇した場合の耐圧性が十分に確保されないおそれがある。一方、接地リム部127の最底部から環状凹部126の最頂部までの距離(BCS)が過大である場合は、成形が過酷となり環状凹部126などに割れ等の成形不良を生じたり、内圧検査特性や耐圧強度がかえって低下したりするおそれがある。
【0011】
接地リム部127の最底部(接地面)から中央パネル部125までの距離(ボトムシンク:BS)は、1.5mm以上3.5mm以下とされ、好ましくは2.0mm以上3.0mm以下である。
接地リム部127の最底部から中央パネル部125までの距離(BS)が過小である場合は、内圧上昇時に接地リム部127より下方に缶底(中央パネル部125)の一部または全部が突出してしまい、シームレス缶体100の接地リム部127全部での自立性を損なうおそれがある。一方、接地リム部127の最底部から中央パネル部125までの距離(BS)が過大である場合は、シームレス缶体の内容積の低下をもたらすと共にシームレス缶体を形成するための金属材料量が増大してしまうという不具合が生じるおそれがある。
【0012】
中央パネル部125を形成するための原板の板厚は、0.15mm以上0.40mm以下とされ、原板の素材がアルミニウムである場合には好ましくは0.20mm以上0.35mm以下とされる。
【0013】
コーナー部122の曲率半径Rは、1.5mm以上3.5mm以下とされ、2.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
コーナー部122の曲率半径Rが過小である場合は、耐圧性は高くなるものの、成形が過酷となり内面側保護膜が損傷し内容物充填後の缶体表面の腐食を生じるおそれがある。一方、コーナー部122の曲率半径Rが過大である場合は、缶内圧が上昇した際に中央パネル部125の形状を保持することが難しくなり反転し易くなるため、所望の耐圧強度を得ることができない。さらに、中央パネル部125のパネル径が小さくなり、缶内圧に対する中央パネル部125の膨らみ量の応答性が小さくなるため内圧検査特性が低下するおそれがある。
【0014】
また、シームレス缶体100は、缶胴110の胴径をA、接地リム部127の接地径をB、中央パネル部125のパネル径をCとしたとき、下記関係式(1)~関係式(3)を満たすものとされる。
関係式(1):B/A=0.60~0.90
関係式(2):C/A=0.40~0.80
関係式(3):C/B=0.60~0.90
接地リム部127の接地径とは、シームレス缶体100を水平面に載置したときに接地している部分の円の直径をいう。また、中央パネル部125のパネル径とは、中央パネル部125の缶軸を含む断面における両端のコーナー部122の円弧の曲率半径の中心間距離をいう。
シームレス缶体100がボトル缶である場合の各径のサイズの一例を示すと、缶胴110の胴径Aが66.00~66.40mm、接地リム部127の接地径が51.00mm、中央パネル部125のパネル径35.00mmである。
【0015】
シームレス缶体100は、例えば缶内圧が室温において60~120kPaの範囲とされる。
【0016】
以上、本発明の実施形態に係るシームレス缶体について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明のシームレス缶体はボトル缶に限定されず、胴部と底部がシームレスに一体に成形されたシームレス缶体であれば、ステイ・オン・タブ(SOT)蓋を備えたSOT2ピース缶であってもよい。
また例えば、缶胴の胴径が66mm(いわゆる211径)であるものに限定されず、缶胴の胴径が53mm(いわゆる202径)以上のシームレス缶体であってもよい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
以下の仕様で、
図1に示すシームレス缶体〔1〕を作製した。
・形状:ボトル缶
・容量:300ml
・原板の材質:アルミニウム
・原板の板厚:0.315mm
・缶胴の胴径:66mm
・接地径:51mm
・パネル径:35mm
・BCS:5.80mm
・BS:2.50mm
・コーナー部の曲率半径R:3.0mm
上記のシームレス缶体〔1〕について、耐圧強度を以下の通りに測定したところ、600kPaであった。
耐圧強度は、水圧式バックリングテスト装置を用い、缶底については固定しない倒立状態で、シームレス缶体〔1〕の缶胴の高さ方向の中央部付近の内方をシールし、水圧により昇圧スピード30kPa/sで缶内圧を上昇させ、中央パネル部が接地面よりも缶外方に膨らみ接地リム部によるシームレス缶体の正立が不能になる最低の缶内圧として測定した。
耐圧強度は、容器、内容物の液種、殺菌条件等によって所要望のされる数値が異なるが、陽圧缶、低酸性飲料を前提条件とすれば、本明細のような平坦なボトム(中央パネル部125)を有する容器であれば、575kPa以上であれば十分な耐圧性を有すると判断される。
【0018】
〔実施例2~実施例4〕
実施例1において、BCSをそれぞれ6.00mm、6.20mm、6.40mmに変更したこと以外は同様にしてシームレス缶体〔2〕~〔4〕を作製し、耐圧強度を測定したところ、それぞれ610kPa、625kPaおよび635kPaであった。
【0019】
〔実施例5〕
実施例1において、下記の条件を変更したこと以外は同様にしてシームレス缶体〔5〕を作製し、耐圧強度を測定したところ、595kPaであった。
・原板の板厚:0.310mm
・BCS:6.00mm
【符号の説明】
【0020】
100 シームレス缶体
110 缶胴
120 缶底
122 コーナー部
125 中央パネル部
126 環状凹部
127 接地リム部