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特許7456143撥液層形成用樹脂組成物、並びに、それを用いた撥液性フィルム、撥液性積層体および包装材
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  • 特許-撥液層形成用樹脂組成物、並びに、それを用いた撥液性フィルム、撥液性積層体および包装材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】撥液層形成用樹脂組成物、並びに、それを用いた撥液性フィルム、撥液性積層体および包装材
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20240319BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240319BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240319BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20240319BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C08L23/04
B65D65/40 D
B32B27/32 Z
C08L53/00
C08L83/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019229016
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021095538
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】福武 瞳
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】永井 暁
(72)【発明者】
【氏名】若林 寛之
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-025051(JP,A)
【文献】特開2015-024548(JP,A)
【文献】特開2014-177541(JP,A)
【文献】特開2014-223752(JP,A)
【文献】特表2013-529705(JP,A)
【文献】特表2013-542285(JP,A)
【文献】米国特許第06114443(US,A)
【文献】国際公開第2019/240056(WO,A1)
【文献】特開2019-214692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
B65D65/40
B32B27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレン樹脂、(B)シリル化ポリオレフィン、および(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を含み、
前記(B)シリル化ポリオレフィンがポリオレフィンユニットにシリコーン部位を持たせたポリオレフィンであって、PE-Siのグラフト共重合体及びPE-Siのブロック共重合体からなる群から選ばれるポリエチレンであることを特徴とする撥液層形成用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)シリル化ポリオレフィンの含有量に対する前記(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の含有量の質量比((C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の質量/(B)シリル化ポリオレフィンの質量)が、0.1~20であることを特徴とする請求項1に記載の撥液層形成用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)シリル化ポリオレフィンの含有量が、前記撥液層形成用樹脂組成物に対して1~10質量%である、請求項1または2に記載の撥液層形成用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体が、前記撥液層形成用樹脂組成物に対して1~5質量%である、請求項1または2に記載の撥液層形成用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の撥液層形成用樹脂組成物を用いて形成された撥液層を備える撥液性フィルム。
【請求項6】
前記撥液層の一方の主面上に設けられた1層以上の樹脂層をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の撥液性フィルム。
【請求項7】
前記撥液層中の前記(A)ポリエチレン樹脂の融点T1(℃)と、前記1層以上の樹脂層のうち前記撥液層と接する樹脂層に含まれる樹脂の融点T2(℃)とが、T1<T2の関係を満たしていることを特徴とする請求項6に記載の撥液性フィルム。
【請求項8】
基材と、該基材上に設けられた請求項5から7のいずれか一項に記載の撥液性フィルムとを備え、前記撥液層が少なくとも一方の最表面に配置されていることを特徴とする撥液性積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の撥液性積層体を用いて、前記撥液層が最内層となるように形成されたことを特徴とする包装材。
【請求項10】
60℃~100℃の加熱処理を施す用途に用いられるものであることを特徴とする請求項9に記載の包装材。
【請求項11】
内容物に対する夾雑物シール性を有する請求項9に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液層形成用樹脂組成物、並びに、それを用いた撥液性フィルム、撥液性積層体および包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、飲料、医薬品、化学品等の多くの商品に対して、それぞれの内容物に応じた包装材が開発されている。特に、液体や半固体、ゲル状物質等の内容物の包装材としては、耐水性、耐油性、ガスバリア性、軽量性、フレキシブル性、意匠性などに優れるプラスチック材料が用いられている。
【0003】
また、液体や半固体、ゲル状物質等の内容物の包装材としては、より高機能を提供する目的で、複数の種類のプラスチック基材を積層したプラスチック積層体や、紙、金属箔、無機材料等とプラスチック基材との複合積層体、さらにはプラスチック基材に機能性組成物による処理を施した複合体などが提案されている。
【0004】
上述の高機能の一つとして、例えば、液体や半固体、ゲル状物質等の内容物の包装材内面への付着や、すなわち包装体内部への残存を抑制する機能が求められている。より具体的には、ヨーグルト、ゼリー、シロップ等の容器の蓋材、お粥、スープ、カレー、パスタソース等のレトルト食品包装材、化学品や医薬品の液体、半固体、ゲル状物質等の保存容器用フィルム材料などには、その内面に内容物が付着し、内容物を全て使い切ることができずに無駄が生じることや、内容物の付着により汚れが生じること、内容物の排出作業に手間がかかることを抑制することができる高い撥液性が求められている。
【0005】
これらの要求に対して、例えば特許文献1には、包装材の内面にシリコーン粒子等の疎水性微粒子を含有するシリコーン樹脂組成物層を設けた撥水性包装材が提案されている。また、特許文献2には、球状シリコンを添加した樹脂層を最内層とした内容物撥水性・離型性を有する包装材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-23224号公報
【文献】特開平8-337267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
包装材内面の樹脂層の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が、ヒートシール性、耐熱性及び耐衝撃性等の機能を付与する材料として用いられている。しかしながら、撥液性を付与するためにポリエチレン樹脂に上述したシリコーン粒子を添加した場合であっても、ボイル処理などの加熱処理をしたときにポリエチレン樹脂が過剰に油分を吸収して油膜が形成されることで、シリコーン粒子による撥液効果が低下してしまい、包装材内面への内容物の付着を抑制する効果が必ずしも十分ではなかった。
【0008】
また、従来この様な包装材は、エルカ酸アミド等の脂肪酸アマイドを含有しスリップ性を付与しているが、この脂肪酸アマイドはシール性の低下を伴う。さらに、充填包装袋を製造するときには、シール部に内容物が付着することがよくあり、特に、内容物を充填し
ながら包装袋の製造を行う場合には、シール部への内容物の付着は不可避である。従って、製袋充填に用いられる製袋材料には、包装袋のみの状態でのシール性能である「常態シール性」と共に、シール部に内容物(夾雑物)が付着しても高いシール性能を発揮する「夾雑物シール性」または「夾雑シール性」が要求される。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、内容物の付着を十分に抑制することができる撥液層を形成可能な樹脂組成物、並びに、それを用いた撥液性フィルム、撥液性積層体、包装材を提供することを課題とする。また、本発明は脂肪酸アマイドを含有せずとも良好なスリップ性および常態シール性を付与できる包装材を提供することを課題とし、さらに、充填包装の際に撥液層が内容物を弾くことでシール時の内容物の噛みこみを抑制して、夾雑物シール性を付与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、
(A)ポリエチレン樹脂、(B)シリル化ポリオレフィン、および(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を含むことを特徴とする撥液層形成用樹脂組成物を提供する。
【0011】
上記撥液層形成用樹脂組成物によれば、(A)ポリエチレン樹脂と、(B)シリル化ポリオレフィンと、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体とを併用することにより、内容物の付着を十分に抑制することができる撥液層を形成することができる。(B)シリル化ポリオレフィンは撥液層に撥液性を付与する成分であるが、(A)ポリエチレン樹脂に(B)シリル化ポリオレフィンのみを添加した場合は、形成される撥液層において、ボイル処理等の加熱処理を行ったときにパウチ内面の撥液層に含まれる分子量の小さいポリエチレン樹脂の非晶部分が油脂により膨潤する傾向があり、内容物に含まれる油分がポリエチレン樹脂に過剰に吸収されて油膜が形成され易く、(B)シリル化ポリオレフィンのシリコーン部位の撥液効果が低下してしまっていた。これに対し、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を添加することで、ポリエチレンの結晶化度及び融点を制御し、油膨潤量を制御することができることを本発明者らは見出した。また、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の添加量を制御することで、撥液層を形成した際に、(B)シリル化ポリオレフィン中のSiの撥液層表面への析出度合も制御することができることを本発明者らは見出した。
【0012】
そして、本発明の撥液層形成用樹脂組成物によれば、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を添加することで、形成される撥液層の油膨潤量の制御と、撥液層表面のSi存在量の向上とを両立させることができ、その結果、優れた撥液性を得ることができる。ここで、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を添加しない場合、ポリエチレンの結晶化度及び融点が低下し、油の膨潤により撥液層表面にSiが析出し難くなり、撥液性が低下して残液量が増加することとなる。撥液層の油膨潤量が増大すると、その分だけ残液量が増大すると共に、撥液層表面に油脂が多量に偏析した状態となるため、Siが撥液層内部に埋もれ、撥液性が低下して残液量が更に増大することとなる。この様に、油分の吸収を抑制することができ、油膜が形成されにくくなり、撥液層に効率的に撥液性を付与することができる。これにより、従来のシリコーン粒子を用いた場合よりも優れた撥液性を有する撥液層を形成することができる。
【0013】
上記撥液層形成用樹脂組成物において、上記(B)シリル化ポリオレフィンの含有量に対する上記(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の含有量の質量比((C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の質量/(B)シリル化ポリオレフィンの質量)を、0.1~20としても良い。この含有量の比が上記範囲内であることにより、形成される撥液層は、内容物の付着をより十分に抑制することができる。さらに、常態シール性と夾雑物シール性の観点から、上記(B)シリル化ポリオレフィンの含有量に対する上記(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の含有量の質量比((C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体の質量/(B)シリル化ポリオレフィンの質量)は0.1~5が好ましいことになる。
【0014】
本発明はまた、上記本発明の撥液層形成用樹脂組成物を用いて形成された撥液層を備える撥液性フィルムを提供する。かかる撥液性フィルムによれば、上記本発明の撥液層形成用樹脂組成物を用いて形成された撥液層を備えることにより、撥液層への内容物の付着を十分に抑制することができる。また、上記撥液性フィルムによれば、水や油だけでなく、カレーやパスタソース、中華調味料、味噌、香辛料、ケチャップなどのレトルトやボイル処理等の加熱処理を行う内容物に対しても良好な撥液性を発現することができる。
【0015】
上記撥液性フィルムは、上記撥液層の一方の主面上に設けられた1層以上の樹脂層を更に備えていてもよい。撥液性フィルムを撥液層以外の樹脂層を備えた多層構造とすることにより、撥液性に加えて更なる機能性(耐熱性、耐衝撃性等)を付与することが可能となる。また、撥液層の薄膜化が可能となり、コストダウンも可能である。
【0016】
撥液性フィルムが撥液層以外の樹脂層を備える場合、上記撥液層中の上記(A)ポリエチレン樹脂の融点T(℃)と、上記1層以上の樹脂層のうち上記撥液層と接する樹脂層に含まれる樹脂の融点T(℃)とが、T<Tの関係を満たしていてもよい。上記関係を満たすことにより、結晶化度の観点から、撥液層中の(B)シリル化ポリオレフィンが上記1層以上の樹脂層のうち上記撥液層と接する樹脂層に移行することを抑制でき、撥液層表面への(B)シリル化ポリオレフィンの偏在化又はブリードアウトの効率を向上させることができるため、撥液性をより向上できる傾向がある。
【0017】
本発明はまた、基材と、該基材上に設けられた上記本発明の撥液性フィルムと、を備え、上記撥液層が少なくとも一方の最表面に配置されている、撥液性積層体を提供する。かかる撥液性積層体によれば、上記本発明の撥液性フィルムを備えることにより、撥液層への内容物の付着を十分に抑制することができる。また、撥液性フィルムを所望の機能を有する基材と積層することにより、撥液性積層体に機械強度やバリア性、遮光性等の機能を付与することができる。
【0018】
本発明はまた、上記本発明の撥液性積層体を用いて上記撥液層が最内層となるように形成された包装材を提供する。かかる包装材によれば、上記本発明の撥液性積層体を用いて形成されているため、撥液層への内容物の付着を十分に抑制することができる。
【0019】
上記包装材は、60℃~100℃の加熱処理を施す用途に用いられるものであってもよい。本実施形態に係る包装材によれば、このような用途に用いられた場合であっても、加熱処理後も包装材内面への内容物の付着を抑制することができる。
【0020】
上記包装材はまた、充填包装の際に撥液層が内容物を弾くことでシール時の内容物の噛みこみを抑制でき、良好な夾雑物シール性を付与することを可能となる。さらに、従来この様な包装材は、エルカ酸アミド等の脂肪酸アマイドを含有しスリップ性を付与しているが、この脂肪酸アマイドはシール性の低下を伴うのに対し、本発明では実質上、脂肪酸アマイドを含有しなくとも良好なスリップ性および常態シール性を付与することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内容物の付着を十分に抑制することができる撥液層を形成可能な樹脂組成物、並びに、それを用いた撥液性フィルム、撥液性積層体、包装材を提供することが
できる。さらに、充填包装の際の良好な夾雑物シール性、スリップ性および常態シール性を付与できる包装材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る撥液性積層体の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る撥液性積層体の概略断面図である。
図3】撥液性積層体の撥液性の評価方法を説明する模式図である。
図4】撥液性積層体の撥液性の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
[撥液性積層体]
本実施形態に係る撥液性積層体は、基材と、該基材上に設けられた撥液性フィルムと、を備え、撥液層が少なくとも一方の最表面に配置された構造を有するものである。図1及び図2は、本実施形態に係る撥液性積層体の概略断面図である。本実施形態に係る撥液性積層体は、図1に示す撥液性積層体1のように、撥液層11からなる撥液性フィルム10と、基材14とが、接着剤13を介して積層された構造を有するものであってもよい。また、本実施形態に係る撥液性積層体は、図2に示す撥液性積層体2のように、撥液層11及び第2の樹脂層12からなる撥液性フィルム10と、基材14とが、接着剤13を介して積層された構造を有するものであってもよい。撥液性フィルム10が第2の樹脂層12を備える場合、撥液性フィルム10は、撥液層11が撥液性積層体2の最表面となるように、第2の樹脂層12が基材14と対向するように配置される。
【0025】
<撥液層11>
撥液層11は撥液性を有する層である。撥液層11は、加熱によりヒートシール性を発現することができる層であってもよい。ここで、撥液性とは、撥水性及び撥油性の両特性を包含する概念であり、具体的には、液体状、半固体状、もしくはゲル状の水性又は油性材料に対し撥液する特性である。水性又は油性材料としては、水、油、ヨーグルト、ゼリー、プリン、シロップ、お粥、スープ、カレー、パスタソース等の食品、ハンドソープ、シャンプー等の洗剤、医薬品、化粧品、化学品などが挙げられる。また、ヒートシール性とは、一例として、100~200℃、0.1~0.3MPa、1~3秒間の条件にてヒートシールが可能である性質をいう。ヒートシールの条件は、撥液性積層体のヒートシールに要する条件に応じて容易に変更することが可能である。
【0026】
撥液層11の厚さは、0.1~100μmであることが好ましく、1~70μmであることがより好ましく、3~50μmであることが更に好ましく、5~30μmであることが特に好ましい。撥液層11の厚さが上記下限値以上であることにより良好な撥液性及びヒートシール性が得易くなる傾向がある。一方、厚さが上記上限値以下であることにより、撥液性積層体全体の厚さを薄くすることができる。
【0027】
撥液層11は、下記成分を含む撥液層形成用樹脂組成物を用いて形成することができる。以下、撥液層形成用樹脂組成物について説明する。
【0028】
<撥液層形成用樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る撥液層形成用樹脂組成物は、(A)ポリエチレン樹脂(以下、「(A)成分」ともいう)、(B)シリル化ポリオレフィン(以下、「(B)成分」ともいう)、並びに、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体(以下、「(C)成分」ともいう)を含むものである。
【0029】
すなわち、撥液層形成用樹脂組成物は、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を必須成分として含有する。以下、各成分について詳細に説明する。
【0030】
((A)ポリエチレン樹脂)
ポリエチレン樹脂としては特に制限されず、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。αオレフィン成分としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどを例示することができる。
【0031】
ポリエチレン樹脂としては、例えば、日本ポリエチレン株式会社製のノバテック、株式会社プライムポリマー製のエボリューなどが挙げられる。
【0032】
ポリエチレン樹脂の融点は、最終用途に応じて適宜調整することができる。例えば、耐熱用途であれば、ポリエチレン樹脂の融点は110~140℃、低温シール用途であれば90~110℃であることが好ましい。
【0033】
上述したポリエチレン樹脂は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
((B)シリル化ポリオレフィン)
シリル化ポリオレフィンは、撥液層11に撥液性を付与する成分であり、また、夾雑物シール性の向上にも活用できる。シリル化ポリオレフィンは、ポリオレフィンユニットにシリコーン部位を持たせたものである。
【0035】
シリル化ポリオレフィンとしては、例えば、PE-Siグラフト共重合体として東レ・ダウコーニング株式会社製の製品、PE-Siブロック共重合体として三井化学ファイン株式会社製のイクスフォーラ、PP-Siグラフト共重合体として東レ・ダウコーニング株式会社製の製品、PE-Si-PEトリブロック共重合体として三井化学ファイン株式会社製のイクスフォーラ等が挙げられる。
【0036】
シリル化ポリオレフィンとしては、撥液層11の撥液性をより向上させる観点から、グラフト共重合体よりもブロック共重合体の方が好ましい。これは、ブロック共重合体の方が、撥液層11表面に偏在化又はブリードアウトし易い傾向にあるためである。
【0037】
上述したシリル化ポリオレフィンは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
((C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体)
(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体は、(A)ポリエチレン樹脂と相溶する部位及び上記(B)シリル化ポリオレフィンと相溶する部位を有する成分である。ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を用いることにより、ポリオレフィン部位が(A)ポリエチレン樹脂と非相溶である(B)シリル化ポリオレフィンと(A)ポリエチレン樹脂との相溶性を向上させることができる。また、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を添加することで、ボイル処理等の加熱処理を行った際に起こる油分の吸収を抑制することができ、油膜が形成されにくくなり、撥液層に効率的に撥液性を付与できる。さらに、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を添加することで、添加していないものと比べて安定したヒートシール強度が得られる。
【0039】
(A)ポリエチレン樹脂と相溶する部位としては、(A)ポリエチレン樹脂と相溶可能なポリオレフィン構造が挙げられ、(A)ポリエチレン樹脂と同種のポリオレフィン構造を有する部位であることが好ましい。すなわち、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体はポリエチレン構造を有することが好ましい。また、(A)ポリエチレン樹脂がエチレン-αオレフィン共重合体等の2種以上のオレフィンからなる共重合体である場合、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体は、上記共重合体を構成するオレフィンのうち主成分となるオレフィンと同種のオレフィンを重合又は共重合させた構造を少なくとも有することが好ましい。
【0040】
(B)シリル化ポリオレフィンと相溶する部位としては、(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位と相溶可能なポリオレフィン構造が挙げられ、(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位と同種のポリオレフィン構造を有する部位であることが好ましい。すなわち、(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位がポリエチレン構造を有する場合、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体はポリエチレン構造を有することが好ましく、(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位がポリプロピレン構造を有する場合、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体はポリプロピレン構造を有することが好ましい。また、(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位が、エチレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体等の2種以上のオレフィンからなる共重合体に基づく構造を有する場合、(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体は、上記共重合体を構成するオレフィンのうち主成分となるオレフィンと同種のオレフィンを重合又は共重合させた構造を少なくとも有することが好ましい。
【0041】
すなわち(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体は、(A)ポリエチレン樹脂もしくは(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位がポリエチレンであれば、当該部位と(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体のポリエチレン部位とが相溶し、(B)シリル化ポリオレフィンのポリオレフィン部位がポリプロピレンであれば、当該部位と(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体のプロピレン部位とが相溶する。
【0042】
上述したポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
撥液層形成用樹脂組成物における(A)成分の含有量は、撥液層形成用樹脂組成物の固形分全量を基準として、50.0~99.9質量%であることが好ましく、75.0~99.0質量%であることがより好ましく、85.0~98.0質量%であることが更に好ましい。(A)成分の含有量が上記下限値以上であると、良好なヒートシール性が得られ易い傾向がある。一方、(A)成分の含有量が上記上限値以下であると、相対的に(B)成分及び(C)成分の含有量が増えるため、撥液性が向上し易い傾向がある。
【0044】
撥液層形成用樹脂組成物における(B)成分及び(C)成分の合計の含有量は、撥液層形成用樹脂組成物の固形分全量を基準として、0.1~30.0質量%であることが好ましく、1.0~20.0質量%であることがより好ましく、2.0~15.0質量%であることが更に好ましい。(B)成分及び(C)成分の合計の含有量が上記下限値以上であると、撥液性が向上し易い傾向がある。一方、(B)成分及び(C)成分の合計の含有量が上記上限値以下であると、相対的に(A)成分の含有量が増えるため、良好なヒートシール性が得られ易い傾向がある。
【0045】
撥液層形成用樹脂組成物の(B)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比(
(C)成分の質量/(B)成分の質量)は、0.1~5.0であることが好ましい。この含有量の比が上記下限値以上であると、撥液層において(B)シリル化ポリオレフィンを十分に分散させることができ、より良好な撥液性を得ることができる傾向がある。一方、この含有量の比が上記上限値以下であると、過剰な(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体により(B)シリル化ポリオレフィンが被覆されることを防ぎ、より良好な撥液性を得ることができる傾向がある。また、含有量の比が上記上限値を超えるほど(C)ポリエチレン/ポリプロピレンブロック共重合体を添加しても、(B)シリル化ポリオレフィンがそれ以上分散しない状態となり、撥液性の向上効果が見られなくなる傾向がある。
【0046】
撥液層形成用樹脂組成物は、撥液性を損なわない程度の範囲で、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0047】
撥液層11は、上記撥液層形成用樹脂組成物を単層または多層で製膜することで形成することができる。
【0048】
<第2の樹脂層12>
第2の樹脂層12は、ヒートシール性、耐熱性及び耐衝撃性、酸素・水蒸気バリア性等を向上させるために撥液層11と基材14との間に設けられる層である。第2の樹脂層12は、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0049】
第2の樹脂層12に用いられる熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂、エチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのエステル化物又はイオン架橋物、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はそのケン化物、ポリ酢酸ビニル又はそのケン化物、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ乳酸樹脂、フラン樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
第2の樹脂層12に用いられる上記熱可塑性樹脂は、ヒートシール性、耐熱性及び耐衝撃性が向上し易いことから、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、撥液層11に用いられる(A)ポリエチレン樹脂と同様のものを用いることができる。
【0051】
第2の樹脂層12が撥液層11と接している場合、撥液層11中の(A)ポリエチレン樹脂の融点T(℃)と、第2の樹脂層12中の上記熱可塑性樹脂の融点T(℃)とは、T<Tの関係を満たすことが好ましい。上記関係を満たすことにより、結晶化度の観点から、撥液層11中の(B)シリル化ポリオレフィンが第2の樹脂層12に移行することを抑制でき、撥液層11表面への(B)シリル化ポリオレフィンの偏在化又はブリードアウトの効率を向上させることができるため、撥液性をより向上できる傾向がある。同じ観点から、融点T2は、融点T1よりも1℃以上高いことが好ましく、3℃以上高いことがより好ましい。
【0052】
第2の樹脂層12の厚さは、本撥液層形成用樹脂組成物を用いた商材の最終用途に応じて適宜設定できる。第2の樹脂層12の厚さは、例えば、0.1~300μmであることが好ましく、1~200μmであることがより好ましく、5~150μmであることが更に好ましく、10~100μmであることが特に好ましい。
【0053】
<撥液性フィルム10>
上述した撥液層11単層、又は、撥液層11及び第2の樹脂層12の2層により、撥液性を有する撥液性フィルム10が形成される。撥液性フィルム10は、基材14の表面の一部又は全部を覆うように形成されている。なお、撥液性フィルム10は、用途に応じて、基材14と積層せずに撥液性フィルム10単独で使用してもよい。
【0054】
撥液性フィルム10は、撥液層11及び第2の樹脂層12以外の他の樹脂層を更に1層以上含んでいてもよい。他の樹脂層の組成は、第2の樹脂層12の組成と同様であってもよく、異なっていてもよい。
【0055】
<基材14>
基材14は、支持体となる物であれば特に制限はなく、例えば紙、樹脂フィルム、金属箔等が挙げられる。紙としては、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙等が挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン(例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、セルロースアセテート、セロファン樹脂の少なくとも一種を含むフィルムが挙げられる。このフィルムは延伸フィルムでもよいし、非延伸フィルムでもよい。金属箔としては、例えばアルミ箔、ニッケル箔等が挙げられる。基材14は、材質の異なる複数の基材を積層したものであってもよい。
【0056】
基材14の厚さは特に限定されず、用途に応じて適宜調整することができるが、通常、1~500μmであり、好ましくは10~100μmである。
【0057】
基材14と撥液性フィルム10の貼り合わせ方法としては、以下のような、接着剤によるラミネート方法、熱処理によるラミネート方法、および押出ラミによるラミネート方法などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0058】
(接着剤によるラミネート方法)
接着剤によるラミネート方法としては、ドライラミネート、ウェットラミネート、ノンソルベントラミネートなどの各種公知のラミネート方法を用いることができる。これらのラミネート方法に用いられる接着剤13としては以下のものが挙げられる。
【0059】
<接着剤13>
接着剤13は、撥液性フィルム10と基材14とを接着するものである。接着剤13としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、カーボネートポリオールなどの主剤に対し、2官能以上のイソシアネート化合物を作用させたポリウレタン樹脂等が挙げられる。上述した各種ポリオールは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
接着剤13には更に、接着促進を目的として、上述したポリウレタン樹脂に、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、リン化合物、シランカップリング剤などを配合してもよい。
【0061】
また、接着剤13に求められる性能に応じて、上述したポリウレタン樹脂に、その他の各種添加剤や安定剤を配合してもよい。
【0062】
接着剤13の厚さは、特に限定されるものではないが、所望の接着強度、追随性、及び加工性等を得る観点から、例えば、1~10μmが好ましく、3~7μmがより好ましい。
【0063】
(熱処理によるラミネート方法)
熱処理によるラミネート方法としては、大きく以下の方法が挙げられる。
(1)あらかじめ製膜した撥液性フィルム10を接着性樹脂と共に基材14上に押出ラミネートする方法。
(2)撥液性フィルム10を構成する樹脂層と接着性樹脂とを基材14上に押出ラミネートする方法。
(3)上記(1)もしくは(2)の方法で得られたラミネート基材を、更に熱ロールで加熱・加圧することにより接着させる方法。
(4)上記(1)もしくは(2)の方法で得られたラミネート基材を、更に高温雰囲気下で保管する、あるいは高温雰囲気下の乾燥・焼付け炉を通過させる方法。
【0064】
熱処理によるラミネート方法で用いられる接着性樹脂としては、酸変性ポリオレフィンなどが挙げられる。また、上記の方法では押出ラミネートにより基材14と撥液性フィルム10とを積層しているが、押出ラミネートを行わずに、酸変性ポリオレフィン系コーティング剤(溶解型、分散型)をあらかじめ基材14上に塗工形成した後、撥液性フィルム10を熱処理により積層させることも可能である。
【0065】
(押出ラミネートによるラミネート方法)
押出ラミネートによるラミネート方法としては、あらかじめ基材14にアンカーコート層を形成し、このアンカーコート層の上に単層もしくは2層の溶融した撥液性樹脂を基材14に対し直接押出ラミネートする方法を用いることができる。このアンカーコート層を形成することで、基材14と撥液性樹脂層との密着性を向上させることが可能となる。基材14には、接着性プライマー(アンカーコート)を設けることも可能であり、その材料として、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアリルアミン系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素-酢酸ビニル系などを用いることが可能であり、必要に応じて、接着剤13として使用可能な上記の各種硬化剤や添加剤を配合してもよい。
【0066】
上記押出ラミネートによりラミネートする方法は、単層で押出しても良いし、2もしくは3種の樹脂を共押出しにしても良く、さらにサンドイッチラミネート法、またはタンデムラミネート法により複数の基材を一度に貼り合わせる方法であっても良い。
【0067】
[包装材]
本実施形態に係る包装材は、上述した撥液性積層体を用いて形成されたものである。包装材として具体的には、ヨーグルト、ゼリー、シロップ等の容器の蓋材、お粥、スープ、カレー、パスタソース、中華調味料、味噌、香辛料、ケチャップなどのレトルトやボイル処理等の加熱処理を行う食品包装材などが挙げられる。包装材の内面(内容物側)に撥液層が配置されるように包装材を形成することで、液体や半固体、ゲル状物質等の内容物の包装材内面への付着や残存を抑制することができる。また、レトルト食品包装材のような袋状の包装材においては、包装材の最内層同士がブロッキングすることで内容物が排出され難くなる場合があるが、本実施形態に係る包装材によれば、最内層である撥液層同士がブロッキングし難く、内容物を効率的に排出することができる。
【0068】
上記包装材は、60~100℃の加熱処理を施す用途に用いられるものであってもよい。具体的には、レトルト食品包装材のような湯煎等の加熱処理が施される包装材用途に用いられるものであってもよい。本実施形態に係る包装材によれば、このような用途に用いられた場合であっても、加熱処理後も包装材内面への内容物の付着や残存を抑制できる。
【実施例
【0069】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の
実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1~15;構成例1]
<撥液層形成用樹脂組成物の作製>
(A)成分である直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、0.92g/cm)と、(B)成分であるシリル化ポリエチレン(PE-Siのグラフト共重合体、東レ・ダウコーニング株式会社製、または、PE-Siのブロック共重合体、商品名「イクスフォーラ」、三井化学ファイン株式会社製)と、(C)成分である、PP-PEのブロック共重合体とを混合し、(B)成分と(C)成分の種類及び含有量を表1に示すように変更し、残部が(A)成分となるように調整して撥液層形成用樹脂組成物を調製した。
【0071】
<撥液性積層体の作製>
3層共押出し機を用いて、撥液層形成用樹脂組成物を押出し製膜し、厚さ60μmの撥液層からなる撥液性フィルムを得た。得られた撥液性フィルムと、基材である厚さ38μmのPETフィルム(商品名「エンブレット」、ユニチカ株式会社製)とを、ポリウレタン系接着剤(三井化学株式会社製)を用いてドライラミネートし、50℃で5日間エージングして、撥液性積層体を得た。
【0072】
[実施例16~19;構成例2]
<撥液層形成用樹脂組成物の作製>
実施例16~19では、(A)成分である直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、0.90g/cm)を用い、その他(B)成分および(C)成分は構成例1と同様のものを使用して、(B)成分と(C)成分の種類及び含有量を表2に示すように変更し、残部が(A)成分となるように調整して撥液層形成用樹脂組成物を作製した。
【0073】
<撥液性積層体の作製>
(A)成分である直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、0.92g/cm)を、第2の撥液層形成用樹脂組成物とした。ただし、表2に示すように融点が第1の樹脂層と同等のものと、第1の樹脂層よりも高い融点のもの、の2点で調整した。あらかじめ基材である厚さ38μmのPETフィルム(商品名「エンブレット」、ユニチカ株式会社製)にアンカーコート層を形成し、このアンカーコート層の上に溶融した第1および第2の撥液層形成用樹脂組成物をPETフィルムに対し直接押出してラミネートし、50℃で2日間エージングして撥液性積層体を得た。撥液層の厚さは15μm、第2の樹脂層は45μmと設定し製膜を行った。
【0074】
表3に示す組成により構成例1に示す方法で製膜を行い、以下の各比較例を作成した。
【0075】
[比較例1]
撥液層形成用樹脂組成物を(A)成分のみとした以外は構成例1と同様にして、撥液層形成用樹脂組成物、撥液性フィルム及び撥液性積層体を作製した。
【0076】
[比較例2]
撥液層形成用樹脂組成物を(A)成分である、エルカ酸アミド(スリップ剤)を2%添加したLLDPEのみとした以外は実施例1と同様にして、撥液層形成用樹脂組成物、撥液性フィルム及び撥液性積層体を作製した。
【0077】
[比較例3]
撥液層形成用樹脂組成物に(B)成分を添加しない以外は実施例6と同様にして、撥液層形成用樹脂組成物、撥液性フィルム及び撥液性積層体を作製した。
【0078】
[比較例4]
撥液層形成用樹脂組成物を、(B)成分をPP-Siグラフト共重合体とし、(C)成分を添加しない以外は実施例2と同様にして、撥液層形成用樹脂組成物、撥液性フィルム及び撥液性積層体を作製した。
【0079】
[比較例5]
撥液層形成用樹脂組成物に(C)成分を添加しない以外は実施例2と同様にして、撥液層形成用樹脂組成物、撥液性フィルム及び撥液性積層体を作製した。
【0080】
[比較例6]
(C)成分を、homo-PPとした以外は実施例14と同様にして、撥液層形成用樹脂組成物、撥液性フィルム及び撥液性積層体を作製した。
【0081】
表1、表2及び表3中、各成分の詳細は以下のとおりである。表中の「-」は、該当する成分を使用しなかったことを意味する。また、表1、表2及び表3には、撥液層における(B)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比((C)成分の質量/(B)成分の質量)を示した。また、表2には、撥液層に用いた(A)成分である樹脂の融点T1(℃)と、第2の樹脂層に用いた(A)成分である樹脂の融点T(℃)との大小関係を示した。
【0082】
〔(A)ポリエチレン樹脂〕
A1:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、密度:0.92g/cm
A2:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、密度:0.91g/cm
A3:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、密度:0.90g/cm
【0083】
〔(B)シリル化ポリオレフィン〕
B1:PE-Siのグラフト共重合体、東レ・ダウコーニング株式会社製
B2:PE-Siのブロック共重合体、商品名「イクスフォーラ」、三井化学
ファイン株式会社製
B3:PP-Siのグラフト共重合体、東レ・ダウコーニング株式会社製
【0084】
〔(C)ポリエチレン/ポリプロピレン共重合体〕
C1:プロピレンとエチレンとのブロック共重合体
【0085】
[撥液性評価]
<ボイル処理後の撥液性>
実施例及び比較例について、図3に示した方法により、ボイル処理後の撥液性の評価を行った。まず、実施例及び比較例で得られた撥液性積層体を縦150mm×横138mmにカットしたサンプル200を2枚用意した。2枚のサンプル200を、それぞれの撥液層が内側となるように重ね、縦方向端部の1辺と横方向両端部の2辺とを、ヒートシーラーで190℃、0.03MPa、2secの条件で10mm幅にわたって熱封緘してシール部51を形成し、縦方向端部の一辺が開口しているパウチ50を作製した(図3の(a)を参照)。
次に、パウチの開口部から100gのサラダ油54(商品名「日清サラダ油」、日清オイリオ社製)を注液した(図3の(b)を参照)。
その後、開口部をヒートシーラーで190℃、0.03MPa、2secの条件で10mm幅にわたって熱封緘してシール部51を形成してパウチ50を密閉し、鍋52で湯煎によるボイル処理を行った(図3の(c)を参照)。
【0086】
ボイル処理で、密閉したパウチ50を85℃で30分間湯煎処理した後、常温に戻し密閉したパウチ50の上部を切断して注ぎ口を形成した。次いで、注ぎ口と反対側のシール
部を持ち、パウチ50を逆さにして30秒間保持し、容器56にサラダ油54を排出させて、秤57により排出量を秤量した(図3の(d)を参照)。
秤量した排出量から、下記式により残液量(%)を求めた。
残液量(%)={(100-排出量)/100}×100
測定は3回行い、3回の平均残液量から下記評価基準により撥液性を評価した。平均残液量(%)及び撥液性の評価結果を表1及び表2に示す。
◎:平均残液量が3.0%未満
○:平均残液量が3.0%以上3.5%未満
△:平均残液量が3.5%以上4.5%未満
×:平均残液量が4.5%以上
【0087】
<熱処理なしでの撥液性>
実施例及び比較例について、図4に示した方法により、熱処理なしでの撥液性の評価を行った。まず、実施例及び比較例で得られた撥液性積層体を縦150mm×横138mmにカットしたサンプル100を2枚用意した。2枚のサンプル100を、それぞれの撥液層が内側となるように重ね、縦方向端部の1辺と横方向両端部の2辺とを、ヒートシーラーで190℃、0.03MPa、2secの条件で10mm幅にわたって熱封緘してシール部61を形成し、縦方向端部の一辺が開口しているパウチ60を作製した(図4の(a)を参照)。
次に、パウチ60の開口部から100gのサラダ油54(商品名「日清サラダ油」、日清オイリオ社製)を注液した(図4の(b)を参照)。
次に、開口部と反対側のシール部を持ち、パウチ60を逆さにして30秒間保持し、容器56にサラダ油54を排出させて、秤57により排出量を秤量した(図4の(c)を参照)。
秤量した排出量から、下記式により残液量(%)を求めた。
残液量(%)={(100-排出量)/100}×100
測定は3回行い、3回の平均残液量から下記評価基準により撥液性を評価した。平均残液量(%)及び撥液性の評価結果を表3及び表4に示す。
◎:平均残液量が1.5%未満
○:平均残液量が1.5%以上2.0%未満
△:平均残液量が2.0%以上2.5%未満
×:平均残液量が2.5%以上
【0088】
[外観評価]
上記撥液性評価において、パウチ内から液体を排出した際の液体の排出挙動を目視にて観察し、下記評価基準により外観評価を行った。結果を表1から表3に合わせて示す。
◎:綺麗に滑落する様子が見られ、撥液性積層体に付着しない。
○:滑落する様子が見られ、撥液性積層体への付着が少ない。
△:滑落する様子は見られるが、撥液性積層体に付着している。
×:滑落する様子が見られない。
【0089】
[膨潤量測定]
下記の手順にて膨潤量を測定した。結果を表1から表3に合わせて示す。
(1)上述の残液性評価時に、内容物を充填する前の、空の状態のパウチの重量を測定する。
(2)残液性評価後のパウチを、食品用洗剤にて洗浄し、イソプロピルアルコールにてパウチの内側を拭き取り、パウチの重量を測定する。
(3)下記計算式にて膨潤量を算出。(サンプル数n=3)
膨潤量(%)=((2)のパウチ重量-(1)のパウチ重量)÷(1)のパウチ重量
【0090】
[常態シール強度測定]
ヒートシーラーを使用し下記の条件でシールし、シール片を15mm幅に切り、剥離角90°で(株)島津製作所製テンシロンを用いて測定した。サンプルの作成および測定方法は、JIS規格(Z 0238:1998)に基づき行った。下記評価基準により評価を行い、その結果を表1から表3に合わせて示す。
シールバー:平面上側シールバーのみ加熱
シール温度:140℃
シール圧力:0.3MPa
シール時間:1.0sec
○:50N/15mm以上
△:40N/15mm以上、50N/15mm未満
×:40N/15mm未満
【0091】
[夾雑物シール強度測定]
下記の手順にて夾雑物シール測定用サンプルを作成した。
(1)撥液性フィルムのシール面(撥液層11)に綿棒でサラダ油を塗布する。
(2)もう一枚の撥液性フィルムで上からサラダ油を挟み、ヒートシーラーを使用しシールし、シール強度を測定。
測定条件および測定方法は上記常態シール強度測定と同様である。下記評価基準により強度の評価を行い、その結果を表1から表3に合わせて記す。
○:40N/15mm以上
△:35N/15mm以上、40N/15mm未満
×:35N/15mm未満
【0092】
[静・動摩擦係数測定]
新東科学(株)製の表面性測定器を用い、下記条件にて静・動摩擦係数を測定した。サンプルの作成および測定方法は、JIS規格(K 7125:1999)に基づき行った。下記評価基準により強度の評価を行い、その結果を表1から表3に合わせて記す。
移動速度:100mm/min
測定距離:60mm
ロードセル:20N
移動動錘:200g
○:0.5(μsまたはμD)未満
×:0.5(μsまたはμD)以上
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
表1から表3に示した結果から明らかなように、実施例1~19の撥液性積層体によれば、比較例1~6の撥液性積層体と比較して、撥液性を向上させることができることが確認された。
【0097】
また、実施例18、19の撥液性積層体は、撥液層中の樹脂の融点T1と第2の樹脂層中の樹脂の融点TとがT<Tの関係を満たしており、特に良好な撥液性が得られることが分かった。
【0098】
また、残液評価の前後でパウチの重量変化の小さいもの、すなわち油分の吸収が少なく
膨潤量の小さいものは、高い撥液性を示す傾向が確認できた。
【符号の説明】
【0099】
1、2・・・撥液性積層体
10・・・撥液性フィルム
11・・・撥液層
12・・・第2の樹脂層
13・・・接着剤
14・・・基材
50、60・・・パウチ
51、61・・・シール部
52・・・鍋
54・・・サラダ油
56・・・容器
57・・・秤
100,200・・・撥液性積層体の評価用サンプル
図1
図2
図3
図4