(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240319BHJP
B60T 8/96 20060101ALI20240319BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240319BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240319BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T8/96
B60T8/17 B
B60T13/74 G
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2019232331
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 将大
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 照薫
(72)【発明者】
【氏名】武谷 弘隆
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071643(JP,A)
【文献】特開2010-149627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-13/74
B60T 15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪の接地状態を示す情報を検出するセンサの出力を取得する取得部と、
電動駐車ブレーキが発生させる駐車制動力により停車している前記車両に対して当該車両を加速させるための加速操作が行われた場合に、前記取得部により取得された前記センサの出力に基づいて前記駆動輪の前記接地状態を特定し、特定された前記接地状態に応じて異なる制御方法で前記駐車制動力を解除するように、前記電動駐車ブレーキを制御する制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記駐車制動力の解除の勾配を、前記駆動輪の前記接地状態に応じて調整する、ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記加速操作に応じて前記車両の駆動源が発生させる駆動力が、前記駆動輪の前記接地状態に応じて決定される閾値に達した場合に、前記駐車制動力の解除を開始するように、前記電動駐車ブレーキを制御する、
請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記駆動輪が接地していない浮き車輪を含む場合、当該浮き車輪に継続して前記駐車制動力を発生させながら、前記浮き車輪以外の前記駆動輪に発生している前記駐車制動力を解除するように、前記電動駐車ブレーキを制御する、
請求項1
または請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両が発進した場合であっても、前記浮き車輪が接地するまでは、前記浮き車輪に継続して前記駐車制動力を発生させるように、前記電動駐車ブレーキを制御する、
請求項
3に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記センサに異常が発生した場合、現在に至るまで前記車両が発進していないという条件を満たす過去のタイミングで前記取得部により取得された前記センサの出力に基づいて、前記駆動輪の現在の接地状態を特定する、
請求項1~
4のうちいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動駐車ブレーキが発生させる駐車制動力により車両が停車している場合に当該車両を加速させるための加速操作に応じて駐車制動力を解除する、DAR(Drive Away Release)などと呼ばれる技術が知られている。このような従来の技術では、車両の全ての駆動輪が接地していることを前提として、加速操作に応じて車両の駆動源が発生させる駆動力が所定の閾値を超えることをトリガとして駐車制動力の解除を開始することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、たとえば凹凸の多い登坂路のような所定の路面においては、少なくとも1つの車輪が接地していない状態で駐車制動力により車両が停車している状況も想定される。ここで、接地していない浮き車輪が駆動輪である場合に上記のような一般的なDARによって駐車制動力を解除すると、駐車制動力の低下を補うほどの実駆動力が路面に伝わらずに、たとえば登坂路におけるずり下がりなど、意図しない車両の挙動が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に発生しうる意図しない車両の挙動を抑制することが可能なブレーキ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としてのブレーキ制御装置は、車両の駆動輪の接地状態を示す情報を検出するセンサの出力を取得する取得部と、電動駐車ブレーキが発生させる駐車制動力により停車している車両に対して当該車両を加速させるための加速操作が行われた場合に、取得部により取得されたセンサの出力に基づいて駆動輪の接地状態を特定し、特定された接地状態に応じて異なる制御方法で駐車制動力を解除するように、電動駐車ブレーキを制御する制御部と、を備える。
【0007】
上述したブレーキ制御装置によれば、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に、駆動輪の接地状態が考慮される。したがって、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に発生しうる意図しない車両の挙動を抑制することができる。
【0008】
また、上述したブレーキ制御装置において、制御部は、加速操作に応じて車両の駆動源が発生させる駆動力が、駆動輪の接地状態に応じて決定される閾値に達した場合に、駐車制動力の解除を開始するように、電動駐車ブレーキを制御する。このような構成によれば、駆動輪の接地状態に応じて決定される閾値を用いて、意図しない車両の挙動を抑制するように、駐車制動力の解除を開始するタイミングを適切に調整することができる。
【0009】
また、上述したブレーキ制御装置において、制御部は、駐車制動力の解除の勾配を、駆動輪の接地状態に応じて調整する。このような構成によれば、たとえば少なくとも1つの駆動輪が接地していない場合は全ての駆動輪が接地している場合よりも緩やかに駐車制動力を解除するなど、意図しない車両の挙動を抑制するように、駆動輪の接地状態に応じた勾配で駐車制動力を解除することができる。
【0010】
また、上述したブレーキ制御装置において、制御部は、駆動輪が接地していない浮き車輪を含む場合、当該浮き車輪に継続して駐車制動力を発生させながら、浮き車輪以外の駆動輪に発生している駐車制動力を解除するように、電動駐車ブレーキを制御する。このような構成によれば、たとえばLSD(Limited Split Differential)機能を有した車両において、浮き車輪に対してのみ駆動力が集中的に伝達されるのを回避し、接地している駆動輪に対して確実に駆動力を伝達することができる。
【0011】
この場合において、制御部は、車両が発進した場合であっても、浮き車輪が接地するまでは、浮き車輪に継続して駐車制動力を発生させるように、電動駐車ブレーキを制御する。このような構成によれば、車両が発進した場合であっても、接地している駆動輪に対して確実に駆動力を伝達することができる。
【0012】
また、上述したブレーキ制御装置において、制御部は、センサに異常が発生した場合、現在に至るまで車両が発進していないという条件を満たす過去のタイミングで取得部により取得されたセンサの出力に基づいて、駆動輪の現在の接地状態を特定する。このような構成によれば、センサに異常が発生した場合であっても、過去のデータを利用して、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に発生しうる意図しない車両の挙動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる車両の概略構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる車両の後輪に設けられるブレーキ装置の構成を示した例示的かつ模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかるブレーキ制御装置の機能を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態において実行される加速操作に応じた駐車制動力の解除の例を説明するための例示的なタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態にかかるブレーキ制御装置が加速操作に応じた駐車制動力の解除にあたり実行する一連の処理を示した例示的なフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態の変形例において実行されうる加速操作に応じた駐車制動力の解除を説明するための例示的なタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態および変形例を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0015】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる車両の概略構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。以下では、一例として、前輪FLおよびFRと後輪RLおよびRRとを有した4輪の自動車としての車両に実施形態の技術が適用される例について説明する。また、以下では、特に区別する必要が無い場合、前輪FLおよびFRと後輪RLおよびRRとを総称して車輪と記載することがある。
【0016】
図1に示されるように、実施形態にかかる車両は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込み操作に応じて制動力を発生させる常用ブレーキ1と、常用ブレーキ1とは別個にEPBモータ10によって制動力を発生させる電動駐車ブレーキ2と、の2種類のブレーキ装置(制動力付与部)を有している。電動駐車ブレーキは、EPB(Electric Parking Brake)とも称されうる。以下では、互いに区別する必要がある場合、常用ブレーキ1が発生させる制動力を常用制動力、電動駐車ブレーキ2が発生させる制動力を駐車制動力と記載することがある。
【0017】
図1に示される例では、常用ブレーキ1は、前輪FLおよびFRと後輪RLおよびRRとの全ての車輪に制動力を付与するように構成されており、電動駐車ブレーキ2は、後輪RLおよびRRのみに制動力を付与するように構成されている。詳細は後述するが、常用ブレーキ1および電動駐車ブレーキ2は、いずれも、車輪とともに回転するブレーキディスク12にブレーキパッド11を押し付けることで、車輪に摩擦力による制動力を付与するような構造になっている。
【0018】
なお、
図1には、一例として、電動駐車ブレーキ2が後輪RLおよびRRのみに制動力を付与する構成が例示されているが、実施形態の技術は、電動駐車ブレーキ2が前輪FLおよびFRのみに制動力を付与する構成にも適用可能であるし、電動駐車ブレーキ2が全ての車輪に制動力を付与する構成にも適用可能である。
【0019】
常用ブレーキ1は、ドライバによるたとえばブレーキペダル3の踏み込みなどといったブレーキ操作に基づいて圧力(液圧)を発生させるマスタシリンダ5と、ブレーキ操作の力を増幅するブレーキブースタ4と、を有している。常用ブレーキ1は、ブレーキブースタ4によって増幅されたブレーキペダル3の踏み込み力に応じたマスタシリンダ5内の液圧を、各車輪に設けられるホイールシリンダ6に伝達することで、車輪に液圧による制動力を付与する。
【0020】
ここで、
図1に示される例では、マスタシリンダ5とホイールシリンダ6との間に、液圧制御回路7が設けられている。この液圧制御回路7は、電磁弁およびポンプなどを含み、常用ブレーキ1による制動力の状況に応じた調整のような、車両の安全性を向上させるためのESC(Electronic Stability Control)などと呼ばれる制御を実現するために設けられる。液圧制御回路7は、ESC-ECU(Electronic Control Unit)8の制御に基づいて駆動する。
【0021】
一方、電動駐車ブレーキ2は、キャリパ13に設けられる電動アクチュエータとしてのEPBモータ10をEPB-ECU9の制御に基づいて駆動することで、前輪FLおよびFRに、常用ブレーキ1による制動力とは別個に制動力を付与する。したがって、EPBモータ10が後輪RLおよびRRに設けられた実施形態では、次の
図2に示されるように、後輪RLおよびRRに、常用ブレーキ1による常用制動力と、電動駐車ブレーキ2による駐車制動力と、の双方が付与されうる。
【0022】
図2は、実施形態にかかる車両の後輪RLおよびRRに設けられるブレーキ装置の構成を示した例示的かつ模式的な断面図である。
図2には、後輪RLおよびRRのキャリパ13内の構造の具体例が示されている。
【0023】
常用ブレーキ1による常用制動力が増減するメカニズムは、以下の通りである。
【0024】
図2に示されるように、実施形態では、ホイールシリンダ6のボディ14に、当該ボディ14の内側の中空部14aにブレーキ液を導入する孔部14bが設けられている。中空部14aには、ボディ14の内周面に沿って往復移動可能なピストン19が設けられている。ピストン19は、有底筒状に構成されており、ピストン19の底部には、ブレーキディスク12に面するブレーキパッド11が設けられている。
【0025】
ここで、ホイールシリンダ6のボディ14の内側には、ピストン19の外周面とボディ14の内周面との間からブレーキ液が外に漏れるのを抑制するためのシール部材22が設けられている。これにより、中空部14aに発生する液圧は、ピストン19のブレーキパッド11とは反対側の端面に付与される。
【0026】
以上のような構造により、常用ブレーキ1の操作としてブレーキペダル3の踏み込み操作が行われると、中空部14a内にブレーキ液による液圧が発生し、ブレーキパッド11を押圧する方向(
図2の紙面左方向)にピストン19が移動する。そして、ピストン19がブレーキパッド11を押圧する方向に移動すると、ブレーキパッド11がブレーキディスク12に接触して押し付けられ、当該ブレーキディスク12に対応した車輪に、摩擦力による常用制動力が付与される。
【0027】
逆に、常用ブレーキ1の操作としてブレーキペダル3の踏み込みを解除する操作が行われると、中空部14a内の液圧が減少し、ブレーキパッド11の押圧を解除する方向(
図2の紙面右方向)にピストン19が移動する。そして、ピストン19がブレーキパッド11の押圧を解除する方向に移動すると、ブレーキパッド11のブレーキディスク12への押し付け力が弱められ、当該ブレーキディスク12に対応した車輪に付与された制動力が減少する。なお、ブレーキパッド11がブレーキディスク12から完全に離れると、当該ブレーキディスク12に付与される常用制動力はゼロとなる。
【0028】
一方、電動駐車ブレーキ2による駐車制動力が増減するメカニズムは、以下の通りである。
【0029】
図2に示されるように、実施形態では、ホイールシリンダ6のボディ14に、EPBモータ10が固定されている。このEPBモータ10の駆動軸10aには、平歯車15が接続されている。これにより、EPBモータ10が駆動されて駆動軸10aが回転すると、当該駆動軸10aを回転中心として平歯車15も回転する。
【0030】
また、平歯車15には、回転軸17を有した平歯車16が噛み合わされている。回転軸17は、平歯車16の回転中心に位置しており、ホイールシリンダ6のボディ14の挿入孔14cに挿入された状態で、当該挿入孔14cに設けられたOリング20および軸受け21によって支持されている。
【0031】
ここで、回転軸17の平歯車16とは反対側の端部の外周面には、雄ネジ溝17aが形成されている。この雄ネジ溝17aは、ピストン19の内側で往復移動する有底筒状の直動部材18の内周面に設けられる雌ネジ溝18aと螺合する。これにより、EPBモータ10の駆動によって平歯車15が回転すると、平歯車16と共に回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、直動部材18が回転軸17の軸方向に往復移動する。
【0032】
なお、直動部材18は、回転軸17との関係での回り止め構造を有することで、回転軸17が回転しても当該回転軸17と共には回転しないような構造となっている。同様に、ピストン19も、直動部材18との関係での回り止め構造を有することで、仮に直動部材18が回転軸17を中心として回転しても当該直動部材18と共には回転しないような構造となっている。
【0033】
このように、実施形態では、EPBモータ10の回転をピストン19の内側での直動部材18の往復移動に変換する運動変換機構が設けられている。なお、直動部材18は、EPBモータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により、同じ位置で止まるようになっている。
【0034】
以上のような構造により、電動駐車ブレーキ2の作動時においてEPBモータ10が正方向に回転すると、直動部材18がピストン19に当接する方向(
図2の紙面左方向)に移動する。そして、ブレーキパッド11がブレーキディスク12に押し付けられた状態で直動部材18とピストン19とが当接すると、直動部材18によってピストン19が支持されるので、たとえブレーキペダル3(
図1参照)の踏み込みが解除されて中空部14aの液圧が減少したとしても、車輪に付与されている駐車制動力はそのまま保持(ロック)されることになる。
【0035】
逆に、EPBモータ10が逆方向に回転すると、直動部材18がピストン19から離れる方向(
図2の紙面右方向)に移動する。そして、直動部材18がピストン19から離れると、その分、ピストン19によるブレーキパッド11のブレーキディスク12への押し付けが弱まり、車輪に付与されている駐車制動力は徐々に解放(リリース)されていくことになる。
【0036】
このように、実施形態では、後輪RLおよびRRに制動力を付与するための機構が、常用ブレーキ1と電動駐車ブレーキ2とで一部共用される。
【0037】
図1に戻り、ESC-ECU8は、たとえばプロセッサおよびメモリなどを備えたマイクロコンピュータとして構成されており、メモリなどに記憶されたプログラムをプロセッサによって実行することで、液圧制御回路7を制御するための各種の機能を実現する。ESC-ECU8は、たとえばCAN(Controller Area Network)のような車載ネットワークなどを介して、EPB-ECU9と通信可能に接続されている。
【0038】
また、ESC-ECU8と同様に、EPB-ECU9も、たとえばプロセッサやメモリなどを備えたマイクロコンピュータとして構成されており、メモリなどに記憶されたプログラムをプロセッサによって実行することで、EPBモータ10を制御するための各種の機能を実現する。
【0039】
ここで、実施形態において、EPB-ECU9は、様々な情報をEPBモータ10の制御に利用することが可能である。たとえば、EPB-ECU9は、車輪(特に駆動輪)にかかっている荷重を検出する荷重センサ23の出力と、車両の各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ24の出力と、車両の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ25の出力と、をEPBモータ10の制御に利用することが可能である。
【0040】
なお、実施形態では、車輪速センサ24として、前輪FLの回転速度を検出する車輪速センサ24FLと、前輪FRの回転速度を検出する車輪速センサ24FRと、後輪RLの回転速度を検出する車輪速センサ24RLと、後輪RRの回転速度を検出する車輪速センサ24RRと、の4つが設けられている。
【0041】
また、実施形態において、EPB-ECU9は、車両に設けられるたとえばエンジンのような駆動源31を制御する駆動系ECU30から取得される情報も、EPBモータ10の制御に利用することが可能である。駆動系ECU30から取得される情報とは、たとえば、駆動系ECU30の制御のもとで駆動源31が発生させる駆動力に関する情報である。上記のESC-ECU8と同様、駆動系ECU30も、車載ネットワークなどを介してEPB-ECU9と通信可能に接続されている。
【0042】
ところで、従来、電動駐車ブレーキ2が発生させる駐車制動力により車両が停車している場合に当該車両を加速させるための加速操作に応じて駐車制動力を解除する、DAR(Drive Away Release)などと呼ばれる技術が知られている。このような従来の技術では、車両の全ての駆動輪が接地していることを前提として、加速操作に応じて駆動源31が発生させる駆動力が、路面の勾配に応じた所定の閾値を超えることをトリガとして駐車制動力の解除を開始することが一般的である。
【0043】
しかしながら、たとえば凹凸の多い登坂路のような所定の路面においては、少なくとも1つの車輪が接地していない状態で駐車制動力により車両が停車している状況も想定される。ここで、接地していない浮き車輪が駆動輪である場合に上記のような一般的なDARによって駐車制動力を解除すると、駐車制動力の低下を補うほどの実駆動力が路面に伝わらずに、たとえば登坂路におけるずり下がりなど、意図しない車両の挙動が発生するおそれがある。
【0044】
そこで、実施形態にかかるEPB-ECU9は、メモリなどに記憶された所定の制御プログラムをプロセッサによって実行し、次の
図3に示されるような機能を有したブレーキ制御装置300を実現することで、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に発生しうる意図しない車両の挙動を抑制することを実現する。
【0045】
図3は、実施形態にかかるブレーキ制御装置300の機能を示した例示的なブロック図である。実施形態では、
図3に示される機能の一部または全部が、専用のハードウェア(回路:circuitry)によって実現されてもよい。
【0046】
図3に示されるように、実施形態にかかるブレーキ制御装置300は、制御用データ取得部301と、アクチュエータ制御部302と、を備えている。
【0047】
制御用データ取得部301は、荷重センサ23または車輪速センサ24の出力を取得する。荷重センサ23または車輪速センサ24の出力は、車両の駆動輪が接地しているか否かを示す接地状態の特定に利用することができる。また、制御用データ取得部301は、前後加速度センサ25の出力を取得するとともに、駆動系ECU30から、駆動源31が発生している駆動力を示すデータを取得する。
【0048】
アクチュエータ制御部302は、EPBモータ10を制御することで電動駐車ブレーキ2を制御する。たとえば、アクチュエータ制御部302は、電動駐車ブレーキ2が発生させる駐車制動力を制御するために、EPBモータ10を正回転させたり逆回転させたり停止させたりすることが可能である。
【0049】
ここで、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、駐車制動力により停車している車両に対して当該車両を加速させるための加速操作が行われた場合に、制御用データ取得部301により取得された荷重センサ23または車輪速センサ24の出力に基づいて、駆動輪の接地状態を特定するように構成されている。
【0050】
たとえば、アクチュエータ制御部302は、荷重センサ23の出力に基づいて閾値未満の荷重しかかかっていない駆動輪が存在すると判定された場合、または、車輪速センサ24の出力に基づいて駆動輪の空転が発生していると判定された場合に、当該駆動輪が、接地していない浮き車輪に該当すると特定するように構成されている。
【0051】
そして、アクチュエータ制御部302は、上記の手法で特定された接地状態に応じて異なる制御方法で駐車制動力を解除するように、電動駐車ブレーキ2を制御するように構成されている。
【0052】
より具体的に、アクチュエータ制御部302は、全ての駆動輪が接地していると特定された場合、制御用データ取得部301により取得された駆動力が、上述したような一般的なDARと同様に全ての駆動輪が接地していることを前提として設定された、路面の勾配に応じた閾値を超えることをトリガとして、駐車制動力の解除を開始するように構成されている。なお、路面の勾配は、制御用データ取得部301により取得された前後加速度センサ25の出力に基づいて推定することが可能である。
【0053】
一方、前述した通り、少なくとも1つの駆動輪が接地していない浮き車輪に該当する場合、全ての駆動輪が接地していることを前提として設定された上記の閾値を用いて駐車制動力の解除を開始するタイミングを決定すると、意図しない車両の挙動が発生するおそれがある。
【0054】
したがって、アクチュエータ制御部302は、少なくとも1つの駆動輪が浮き車輪に該当すると特定された場合、駐車制動力の解除を開始するタイミングを決定するための閾値を、全ての駆動輪が接地していることを前提として設定された閾値よりも大きく補正するように構成されている。
【0055】
たとえば、アクチュエータ制御部302は、下記の式に基づいて、閾値を補正する。
【0056】
閾値=ベース×総駆動力/(総駆動力-駆動力ロス)
【0057】
上記の式において、ベースとは、上述したような一般的なDARと同様に全ての駆動輪が接地していることを前提として設定された、路面の勾配に応じた閾値である。
【0058】
また、上記の式において、総駆動力とは、駆動源31が発生させている駆動力を示す値であり、駆動力ロスとは、浮き車輪の存在に起因して発生する路面に伝わる実駆動力のロスを示す値である。
【0059】
たとえば、駆動源が20の駆動力を発生させていて、左右の車輪に対して均等に駆動力が分配されている状況を想定する。この状況において、4輪駆動(つまり1輪あたりの駆動力は5)の車両の1つの車輪が浮き車輪である場合、閾値は、ベース×20/(20-5)=ベース×4/3という式により算出される。また、2輪駆動(つまり1輪あたりの駆動力は10)の車両の1つの車輪(駆動輪)が浮き車輪である場合、閾値は、ベース×20/(20-10)=ベース×2という式により算出される。
【0060】
このように、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、駆動輪の設置状態に応じて閾値を補正する。そして、アクチュエータ制御部302は、加速操作に応じて駆動源31が発生させる駆動力が補正後の閾値を超えたタイミングで、駐車制動力の解除を開始するように、電動駐車ブレーキ2を制御する。これにより、少なくとも1つの駆動輪が接地していない状況であっても、意図しない車両の挙動を回避可能な程度の十分な実駆動力が確保されてから、駐車制動力の解除を開始することができる。
【0061】
ただし、たとえばLSD(Limited Split Differential)機能を有した車両において、左右の駆動輪のうちの一方が接地していない浮き車輪に該当する場合、当該浮き車輪に発生している駐車制動力を加速操作に応じて解除してしまうと、浮き車輪に対してのみ駆動力が集中的に伝達され、接地している駆動輪に伝達される駆動力が低下するおそれがある。
【0062】
したがって、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、駆動輪が接地していない浮き車輪を含む場合、当該浮き車輪以外の駆動輪に発生している駐車制動力のみを解除するように、電動駐車ブレーキ2を制御可能に構成されている。
【0063】
また、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、(浮き車輪以外の駆動輪に対する)駐車制動力の解除によって車両が発進した場合であっても、浮き車輪が接地するまでは、浮き車輪に継続して駐車制動力を発生させるように、電動駐車ブレーキ2を制御可能に構成されている。
【0064】
なお、前述した通り、実施形態では、駆動輪の設置状態が、制御用データ取得部301により取得された荷重センサ23または車輪速センサ24の出力に基づいて特定される。したがって、荷重センサ23および車輪速センサ24のうち一方のセンサのみに異常が発生した場合は、他方のセンサの出力に基づいて駆動輪の現在の設置状態を特定することが可能であるが、荷重センサ23および車輪速センサ24の両方に異常が発生した場合、駆動輪の現在の設置状態を特定することが困難になる。
【0065】
そこで、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、荷重センサ23および車輪速センサ24に異常が発生した場合、現在に至るまで車両が発進していないという条件を満たす過去(直近)のタイミングで制御用データ取得部301により取得された荷重センサ23または車輪速センサ24の出力に基づいて、駆動輪の現在の接地状態を特定しうる。
【0066】
以上の構成に基づき、実施形態では、一例として、次の
図4に示されるようなタイミングチャートに沿って、加速操作に応じた駐車制動力の解除が実行される。
【0067】
図4は、実施形態において実行される加速操作に応じた駐車制動力の解除の例を説明するための例示的なタイミングチャートである。
図4に示される例は、たとえば凹凸の多い登坂路のような所定の路面において、少なくとも1つの駆動輪が接地していない状態で駐車制動力により車両が停車している状況を想定している。
【0068】
図4に示される例において、実線L411は、実施形態における駐車制動力の時間変化を示し、二点鎖線L411aは、比較例における駐車制動力の時間変化を示す。なお、比較例とは、駆動輪の接地状態を全く考慮しない一般的なDARが実行される例に対応する。
【0069】
また、
図4に示される例において、実線L412は、実施形態における実駆動力の時間変化を示し、一点鎖線L412aは、比較例における実駆動力の時間変化を示す。実駆動力とは、駆動源31が発生させる駆動力に応じて実際に車輪から路面に伝わる駆動力である。
【0070】
なお、
図4に示される例において、実線L420は、駆動源31が発生させる駆動力の時間変化を示している。実線L420で示される時間変化は、実施形態においても比較例においても共通するものとする。
【0071】
図4に示される例では、駐車制動力により停車している車両に対する加速操作に応じて、駆動源31が発生させる駆動力がタイミングt401で上昇し始める(実線L420参照)。そして、駆動源31が発生させる駆動力は、タイミングt402で、所定の閾値Th401に達する(実線L420参照)。
【0072】
ここで、閾値Th401は、比較例において駐車制動力の解除を開始するトリガとして用いられる、上述したベースに対応した閾値である。したがって、比較例では、駆動源31が発生させる駆動力が閾値Th401に達したタイミングt402で、全ての駆動輪が接地していることで意図しない車両の挙動を回避可能な程度の十分な駆動力が確保されていることを前提として(一点鎖線L412a参照)、駐車制動力の解除が開始する(二点鎖線L411a参照)。
【0073】
しかしながら、少なくとも1つの駆動輪が接地していない場合、タイミングt402では、意図しない車両の挙動を回避可能な程度の十分な実駆動力は発生しない(実線L412参照)。したがって、実施形態では、前述したような手法で、駐車制動力の解除を開始するトリガとして用いられる閾値を、閾値Th401よりも大きい閾値Th402に補正する。
【0074】
上記のような補正によれば、駆動源31が発生させる駆動力が閾値Th402に達したタイミングt403で、意図しない車両の挙動を回避可能な程度の十分な駆動力が確保されることになる(実線L412参照)。したがって、実施形態では、タイミングt403で駐車制動力の解除を開始しても(実線L411参照)、たとえばずり下がりのような、意図しない車両の挙動は発生しない。そして、タイミングt403を超えると、車両が動き始める。なお、駐車制動力の解除は、タイミングt404で完了する(実線L411参照)。
【0075】
以下、加速操作に応じた駐車制動力の解除を上記のような形で実現するためにブレーキ制御装置300が実行する一連の処理についてより具体的に説明する。
【0076】
図5は、実施形態にかかるブレーキ制御装置300が加速操作に応じた駐車制動力の解除にあたり実行する一連の処理を示した例示的なフローチャートである。この
図5に示される一連の処理は、駐車制動力により停車している車両に対して加速操作が行われた場合に開始する。
【0077】
図5に示されるように、実施形態では、まず、ステップS501において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、車両が現在停車している路面の勾配を推定する。路面の勾配は、制御用データ取得部301により取得される前後加速度センサ25の出力に基づいて推定することが可能である。
【0078】
そして、ステップS502において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、駐車制動力の解除の開始を決定するために駆動源31が発生させる駆動力と比較される閾値を決定する。この閾値は、全ての駆動輪が接地していることを前提として路面の勾配に応じて決定される、上述したベースに対応した閾値である。
【0079】
そして、ステップS503において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、駆動輪の接地状態を特定する。接地状態は、制御用データ取得部301により取得される荷重センサ23または車輪速センサ24の出力に基づいて特定することが可能である。
【0080】
そして、ステップS504において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、上記のステップS503で特定された接地状態に基づいて、少なくとも1つの駆動輪が、接地していない浮き車輪に該当するか否かを判定する。
【0081】
ステップS504において、少なくとも1つの駆動輪が浮き車輪に該当すると判定された場合、ステップS505に処理が進む。
【0082】
そして、ステップS505において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、駆動輪から路面に伝わる実駆動力のロスを算出する。なお、実駆動力のロスとは、前述した駆動力ロスに相当する。
【0083】
そして、ステップS506において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、上記のステップS505で算出された実駆動力のロスに基づいて、上記のステップS502で決定された閾値を補正する。補正の具体的な手法は、式を用いて既に説明したので、ここでは説明を省略する。
【0084】
そして、ステップS506の処理が完了すると、ステップS507に処理が進む。なお、上記のステップS504において、全ての駆動輪が接地していると判定された場合も、ステップS507に処理が進む(この場合、上記のステップS505およびS506の処理はスキップされる)。
【0085】
ステップS507において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、駆動源31が発生させる駆動力が、上記のステップS502で決定された閾値、または上記のステップS506での補正を経た閾値を超えたか否かを判定する。駆動源31が発生させる駆動力は、制御用データ取得部301を介して駆動系ECU30から取得することが可能である。
【0086】
ステップS507における判定処理は、駆動力が閾値を超えたと判定されるまで繰り返し実行される。そして、ステップS507において、駆動力が閾値を超えたと判定された場合、ステップS508に処理が進む。
【0087】
ステップS508において、ブレーキ制御装置300のアクチュエータ制御部302は、駐車制動力の解除を開始する。これにより、意図しない車両の挙動を回避可能な程度の十分な駆動力が確保されることに応じて駐車制動力の解除を開始することが可能である。そして、処理が終了する。
【0088】
以上説明したように、実施形態にかかるブレーキ制御装置300は、制御用データ取得部301と、アクチュエータ制御部302と、を備えている。制御用データ取得部301は、車両の駆動輪の接地状態を示す情報を検出するセンサとしての荷重センサ23または車輪速センサ24の出力を取得する。アクチュエータ制御部302は、電動駐車ブレーキ2が発生させる駐車制動力により停車している車両に対して当該車両を加速させるための加速操作が行われた場合に、制御用データ取得部301により取得された荷重センサ23または車輪速センサ24の出力に基づいて駆動輪の接地状態を特定し、特定された接地状態に応じて異なる制御方法で駐車制動力を解除するように、電動駐車ブレーキ2を制御する。
【0089】
上記のような構成によれば、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に、駆動輪の接地状態が考慮される。したがって、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に発生しうる意図しない車両の挙動を抑制することができる。
【0090】
また、実施形態では、上記のような制御が、常用ブレーキ1ではなく、電動駐車ブレーキ2によって実現されている。常用ブレーキ1によって上記のような制御と類似の制御を実現するためには、常用ブレーキ1のポンプを常時作動させる必要があるので、燃費またはポンプを駆動するためのモータの寿命などの観点で不都合がある。これに対して、実施形態では、電動駐車ブレーキ2のEPBモータ10を逆回転させるだけの簡単な制御により、上記のような制御を不都合なく実現することができる。
【0091】
ここで、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、加速操作に応じて車両の駆動源が発生させる駆動力が、駆動輪の接地状態に応じて決定される閾値に達した場合に、駐車制動力の解除を開始するように、電動駐車ブレーキ2を制御する。このような構成によれば、駆動輪の接地状態に応じて決定される閾値を用いて、意図しない車両の挙動を抑制するように、駐車制動力の解除を開始するタイミングを適切に調整することができる。
【0092】
また、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、駆動輪が接地していない浮き車輪を含む場合、当該浮き車輪に継続して駐車制動力を発生させながら、浮き車輪以外の駆動輪に発生している駐車制動力を解除するように、電動駐車ブレーキ2を制御しうる。このような構成によれば、たとえばLSD機能を有した車両において、浮き車輪に対してのみ駆動力が集中的に伝達されるのを回避し、接地している駆動輪に対して確実に駆動力を伝達することができる。
【0093】
また、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、車両が発進した場合であっても、浮き車輪が接地するまでは、浮き車輪に継続して駐車制動力を発生させるように、電動駐車ブレーキ2を制御しうる。このような構成によれば、車両が発進した場合であっても、接地している駆動輪に対して確実に駆動力を伝達することができる。
【0094】
なお、実施形態において、アクチュエータ制御部302は、荷重センサ23および車輪速センサ24の両方に異常が発生した場合、現在に至るまで車両が発進していないという条件を満たす過去のタイミングで取得部により取得された荷重センサ23または車輪速センサ24の出力に基づいて、駆動輪の現在の接地状態を特定する。このような構成によれば、荷重センサ23および車輪速センサ24の両方に異常が発生した場合であっても、過去のデータを利用して、加速操作に応じて駐車制動力を解除する場合に発生しうる意図しない車両の挙動を抑制することができる。
【0095】
<変形例>
なお、上述した実施形態にかかる電動駐車ブレーキ2は、ディスクブレーキに対応した電動駐車ブレーキであるが、これはあくまで一例である。本開示の技術は、ディスクブレーキ以外のたとえばドラムブレーキのような他のブレーキに対応した電動駐車ブレーキにも適用することが可能である。
【0096】
また、上述した実施形態では、駆動源31が発生させる駆動力と比較される閾値を駆動輪の設置状態に応じて補正することで所望の効果を得る構成が例示されている。しかしながら、変形例として、次の
図6に示されるような、駐車制動力の解除の勾配を駆動輪の接地状態に応じて変更することで所望の効果を得る構成も考えられる。なお、以下では、上述した実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付すことによって説明を省略している。
【0097】
図6は、実施形態の変形例において実行されうる加速操作に応じた駐車制動力の解除を説明するための例示的なタイミングチャートである。
図6に示される例も、上述した
図4に示される例と同様、たとえば凹凸の多い登坂路のような所定の路面において、少なくとも1つの駆動輪が接地していない状態で駐車制動力により車両が停車している状況を想定している。
【0098】
図6に示される例において、実線L611は、変形例における駐車制動力の時間変化を示し、二点鎖線L611aは、比較例における駐車制動力の時間変化を示す。なお、比較例とは、上述した実施形態の説明のために例示した比較例と同様、駆動輪の接地状態を全く考慮しない一般的なDARが実行される例に対応する。
【0099】
また、
図6に示される例において、実線L612は、実施形態における実駆動力の時間変化を示し、一点鎖線L612aは、比較例における実駆動力の時間変化を示す。実駆動力とは、駆動源31が発生させる駆動力に応じて実際に車輪から路面に伝わる駆動力である。
【0100】
なお、
図6に示される例において、実線L620は、駆動源31が発生させる駆動力の時間変化を示している。実線L620で示される時間変化は、実施形態においても比較例においても共通するものとする。
【0101】
図6に示される例では、駐車制動力により停車している車両に対する加速操作に応じて、駆動源31が発生させる駆動力がタイミングt601で上昇し始める(実線L620参照)。そして、駆動源31が発生させる駆動力は、タイミングt602で、所定の閾値Th601に達する(実線L620参照)。
【0102】
ここで、閾値Th601は、比較例において駐車制動力の解除を開始するトリガとして用いられる、上述したベースに対応した閾値である。したがって、比較例では、駆動源31が発生させる駆動力が閾値Th601に達したタイミングt602で、全ての駆動輪が接地していることで意図しない車両の挙動を回避可能な程度の十分な駆動力が確保されていることを前提として(一点鎖線L612a参照)、駐車制動力の解除が開始する(二点鎖線L611a参照)。そして、比較例では、タイミングt603で、駐車制動力の解除が完了する(二点鎖線L611a参照)。
【0103】
ここで、変形例は、駐車制動力の解除を開始するトリガとして用いられる閾値自体を変更することなく、駐車制動力の解除の勾配を、比較例よりも緩やかにすることで、意図しない車両の挙動の抑制を実現する。すなわち、変形例では、タイミングt602で駐車制動力の解除が開始されるのは比較例と同様であるが、比較例において駐車制動力の解除が完了するタイミングt603よりも遅いタイミングt604で駐車制動力の解除が完了するように、駐車制動力の解除の勾配が調整される(実線L611参照)。
【0104】
上記のような調整によれば、比較例に比べて、駐車制動力が残った状態がより長時間継続するので、意図しない車両の挙動を抑制することができる。
【0105】
このように、
図6に示される変形例では、駐車制動力の解除の勾配が、駆動輪の接地状態に応じて調整される。このような構成によれば、たとえば少なくとも1つの駆動輪が接地していない場合は全ての駆動輪が接地している場合よりも緩やかに駐車制動力を解除するなど、意図しない車両の挙動を抑制するように、駆動輪の接地状態に応じた勾配で駐車制動力を解除することができる。
【0106】
なお、本開示の技術は、上述した実施形態にかかる閾値の補正と、上述した変形例にかかる勾配の調整と、の両方を実施することで所望の効果を得る技術も含む。
【0107】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0108】
2 電動駐車ブレーキ
23 荷重センサ
24、24FL、24FR、24RL、24RR 車輪速センサ
31 駆動源
300 ブレーキ制御装置
301 制御用データ取得部(取得部)
302 アクチュエータ制御部(制御部)