(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】液状農薬用添加剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/24 20060101AFI20240319BHJP
A01N 41/04 20060101ALI20240319BHJP
C08G 81/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
A01N25/24
A01N41/04 Z
C08G81/00
(21)【出願番号】P 2020026350
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】中村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃
(72)【発明者】
【氏名】杓野 拓斗
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0078916(US,A1)
【文献】国際公開第2019/039609(WO,A1)
【文献】特開2011-240224(JP,A)
【文献】特開2004-083540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物との反応物である、リグニン誘導体を含んでなる液状農薬用
展着剤であって、
前記水溶性化合物がポリ(エチレンオキシド)モノフェニルエーテル、またはポリ(プロピレンオキシド)モノフェニルエーテルのいずれかであり、
前記リグニン誘導体が、リグニンスルホン酸系化合物由来の構成単位と水溶性化合物由来の構成単位とを含むポリマーであることを特徴とする液状農薬用展着剤。
【請求項2】
前記リグニン誘導体が、重量
平均分子量が1,000~500,000の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の液状農薬用
展着剤。
【請求項3】
前記リグニン誘導体が、アニオン性官能基を有する請求項1~2いずれかに記載の液状農薬用
展着剤。
【請求項4】
前記リグニン誘導体が、アルキレンオキサイド平均付加モル数が25以上であるポリアルキレンオキシド鎖を有することを特徴とする、請求項1~3いずれかに記載の液状農薬用
展着剤。
【請求項5】
前記リグニン誘導体において、前記リグニンスルホン酸系化合物〔L〕と前記水溶性化合物〔M〕との反応重量比率(〔L〕/〔M〕)が1~99/99~1である、請求項1~4のいずれかに記載の液状農薬用
展着剤。
【請求項6】
前
記水溶性化合物の反応率が、50%以上であるリグニン誘導体を含む、請求項
1~5いずれかに記載の液状農薬用
展着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状農薬用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤及び植物成長調節剤等の農薬は、農薬の効果を充分に引き出すため、農薬の散布時の作業効率もしくは安全性等の面から適切な剤型が選択される。これらのうち、農薬の乳化分散液などは万遍なく散布対象に対して均一に付着することが期待され、使用されており、一般に油性のものが多い農薬の水への分散のために、各種界面活性剤が使用される。
【0003】
また、植物の葉、茎及び昆虫などの表皮面は液体のぬれを反撥する成分又は構造をもっている。例えば植物の表面にはロウリポイド類が分泌されていたり、羽毛状の繊維が密生していたり、あるいは表面に微細な凹凸があることが多く、害虫の表面にもケラチン質と同様の層があり、いずれも農薬の水分散液をはじく性質を有している。このため散布した農薬も十分効果をあげることができないことがあり、散布した農薬に湿潤、浸透、拡展、固着などの諸性質を強めて薬効を増加せしめるための展着剤及び機能性展着剤(アジュバンド)が使用される。
【0004】
これら農薬用界面活性剤としては、従来より各種アルキレンオキシド付加型の非イオン性界面活性剤が知られている。例えば、特許文献1には特定の脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなるエステル型非イオン性界面活性剤を含有する農薬用展着剤が記載されている。また、特許文献2には低温安定性に優れた界面活性剤組成物である農薬用展着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-329503号公報
【文献】特開2001-288006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、農薬用途に用いる場合、石油由来の薬剤では想定外の土壌汚染などが発生することが懸念される。そのため、天然物由来の農薬用添加剤としてリグニンスルホン酸などが使用されているが、従来の各種アルキレンオキシド付加型の非イオン性界面活性剤などと比較して拡展性能が低く、使用される領域が限定されてしまうため、より高性能な天然物由来の農薬用展着剤が望まれている。
【0007】
そこで本発明では、液状で簡便に扱え、天然物由来であり、拡展性能に優れる農薬用添加剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、天然に安定的な構造体であるリグニンスルホン酸系化合物と、水溶性化合物との反応物であり、所定の条件を満たすリグニン誘導体を含むことにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の(1)~(8)である。
(1)リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物との反応物である、リグニン誘導体を含んでなる液状農薬用添加剤。
(2)前記リグニン誘導体が、重量分子量が1,000~500,000の範囲であることを特徴とする、(1)に記載の液状農薬用添加剤。
(3)前記リグニン誘導体が、アニオン性官能基を有する(1)~(2)いずれかに記載の液状農薬用添加剤。
(4)前記リグニン誘導体が、アルキレンオキサイド平均付加モル数が25以上であるポリアルキレンオキシド鎖を有することを特徴とする、(1)~(3)いずれかに記載の液状農薬用添加剤。
(5)前記リグニン誘導体において、前記リグニンスルホン酸系化合物〔L〕と前記水溶性化合物〔M〕との反応重量比率(〔L〕/〔M〕)が1~99/99~1である、(1)~(4)のいずれかに記載の液状農薬用添加剤。
(6)前記水溶性化合物が、芳香族系水溶性化合物であることを特徴とする、(1)~(5)いずれかに記載の液状農薬用添加剤。
(7)前記芳香族系水溶性化合物が、ポリアルキレンオキシド鎖を有する芳香族系水溶性化合物及びアミン化合物、カルボキシル基を有する芳香族系水溶性化合物、及びスルホ基を有する芳香族系水溶性化合物からなる群より選ばれる1種以上を含む、(6)に記載の液状農薬用添加剤。
(8)前記芳香族系水溶性化合物の反応率が、50%以上であるリグニン誘導体を含む、(6)又は(7)に記載の液状農薬用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、液状で簡便に扱え、天然物由来であり、拡展性能に優れる農薬用添加剤を提供することを提供することができる。
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書中、「AA~BB」という表記は、AA以上BB以下を意味する。
【0012】
[1.液状農薬用添加剤]
本発明の液状農薬用添加剤は、リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物との反応物であるリグニン誘導体を含む。
【0013】
[2.リグニンスルホン酸系化合物]
リグニンスルホン酸系化合物とは、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホ基(スルホン酸基)が導入された骨格を有する化合物である。上記骨格部分の構造を式(1)に示す。
【0014】
【0015】
(1)
リグニンスルホン酸系化合物は、上記式(1)で示される骨格を有する化合物の変性物(以下、「変性リグニンスルホン酸系化合物」ともいう)であってもよい。変性方法は特に限定されないが、加水分解、アルキル化、アルコキシル化、スルホン化、スルホン酸エステル化、スルホメチル化、アミノメチル化、脱スルホン化など化学的に変性する方法;リグニンスルホン酸系化合物を限外濾過により分子量分画する方法が例示される。このうち、化学的な変性方法としては、加水分解、アルコキシル化、脱スルホン化及びアルキル化から選ばれる1又は2以上の変性方法が好ましい。
【0016】
リグニンスルホン酸系化合物は、塩の形態を取りうる。塩としては、例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩が挙げられる。これらの中でも、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム・ナトリウム混合塩等が好ましい。
【0017】
リグニンスルホン酸系化合物の製造方法及び由来は特に限定されず、天然物及び合成品のいずれでもよい。リグニンスルホン酸系化合物は、亜硫酸および/ または亜硫酸塩の溶液( 例えば水溶液: 蒸解液) 中でリグノセルロース原料を高温下で反応させる方法(亜硫酸蒸解法)でパルプを製造する際に生じる廃液の主成分の一つである。このため、亜硫酸蒸解廃液由来リグニンスルホン酸系化合物を用いてもよい。そのような亜硫酸蒸解法は工業的に確立され使用されているため、亜硫酸蒸解法により得られたリグニンスルホン酸系化合物を使用するこことで、経済性及び実施容易性を高めることができる。
【0018】
リグノセルロース原料は、構成体中にリグノセルロースを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、非木材などのパルプ原料が挙げられる。木材としては、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキなどの針葉樹木材、シラカバ、ブナなどの広葉樹木材が例示される。非木材としては、竹、ケナフ、葦、稲などが例示される。リグノセルロース原料は、これらのうち1 種のみであっても2 種以上の組み合わせであってもよい。木材の樹齢、採取部位は問わない。従って、リグノセルロース原料は、互いに樹齢の異なる樹木から採取された木材、互いに樹木の異なる部位から採取された木材の組み合わせであってもよい。
【0019】
亜硫酸塩の塩としては、亜硫酸蒸解を行う場合には例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。
【0020】
亜硫酸蒸解においてはカウンターカチオン( 塩) を供給する化合物を添加することが好ましい。カウンターカチオンを供給する化合物を添加することにより、亜硫酸蒸解におけるp H を保つことができる。カウンターカチオンを供給する化合物としては、例えば、Mg O 、Mg(OH)2 、CaO、Ca(OH)2 、CaCO3 、NH3 、NH4OH 、NaOH 、NaHCO3 、Na2CO3が挙げられる。カウンターカチオンは、マグネシウムイオンであることが好ましい。
【0021】
亜硫酸蒸解において亜硫酸および/ または亜硫酸塩の溶液を用いる場合、溶液には必要に応じて、SO2のほかに、カウンターカチオン、蒸解浸透剤(例えば、アントラキノンスルホン酸塩、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン等の環状ケトン化合物) を含ませてもよい。亜硫酸蒸解行う際に用いる設備に限定はなく、例えば、一般に知られている溶解パルプの製造設備等を用いることができる。亜硫酸および/ または亜硫酸塩の溶液からの中間組成物の分離は、常法に従って行えばよい。分離方法としては例えば、亜硫酸蒸解後の亜硫酸蒸解排液の分離方法が挙げられるリグニンスルホン酸系化合物は、通常、水溶性化合物と反応し得る官能基部位を少なくとも1つ有している。斯かる部位としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基(フェノール性水酸基、アルコール性水酸基)、チオール基、スルホ基、芳香環、エーテル結合、アルキル鎖が挙げられる。
【0022】
このようにして得られた亜硫酸蒸解廃液は、リグニンスルホン酸系化合物の他、糖類、有機酸、無機塩といったその他の成分が含まれる。
【0023】
糖類は、糖を含む組成物である。糖組成物を構成する糖は、1種類であってもよいし2種類以上であってもよい。糖類は、構成する炭素数に制限はなく、単糖、少糖、多糖のいずれでもよい。単糖としては以下が例示される:アルドトリオース、ケトトリオースなどの三炭糖;エリトロース、トレオース、エリトルロースなどの四炭糖;キシロース、リボース、アラビノース、リキソース、リブロース、キシルロースなどの五炭糖;マンノース、アロース、アルトロース、グルコース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、フコース、フルクトース、ラムノースなどの六炭糖、セドヘプツロースなどの七炭糖など。少糖としては以下が例示される:スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオースなどの二糖、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオースなどの三糖、アカルボース、スタキオースなどの四糖、キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖などのオリゴ糖。多糖としては、グリコーゲン、でんぷん(アミロース、アミロペクチン)、セルロース、ヘミセルロース、デキストリン、グルカンが例示される。糖類、中でも多糖類は、パルプ等のリグノセルロース原料である植物成分に含有される多糖類、およびそれらが蒸解または漂白処理の際に分解および/または変性して生成する。
【0024】
これらの糖類は、通常、多糖、還元性糖、および/または糖変性物を含む。還元性糖は、還元性を示す糖であればよい。還元性糖は通常、塩基性溶液中でアルデヒド基またはケトン基を生じる。還元性糖としては、すべての単糖、マルトース、ラクトース、アラビノース、スクロースの転化糖などの二糖、および多糖などが例示される。糖変性物としては例えば、糖が酸化、スルホン化などの化学変性を受けてなる変性物、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、または/およびスルホ基などの置換基で置換されている糖誘導体が挙げられる。
【0025】
還元性糖とは、還元性を示す糖であり、塩基性溶液中でアルデヒド基またはケトン基を生じる糖を意味する。還元性糖としては、すべての単糖、マルトース、ラクトース、アラビノース、スクロースの転化糖などの二糖、および多糖などが例示される。還元性糖は、通常、セルロース、ヘミセルロース、およびそれらの分解物を含む。セルロースおよびヘミセルロースの分解物としては、例えば、ラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、マンノース、フルクトースなどの単糖、キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖などのオリゴ糖が挙げられる。
【0026】
糖変性物とは、糖が酸化、スルホン化などの化学変性を受けてなる変性物を意味する。糖変性物は、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、または/およびスルホ基などの官能基が糖の骨格中に導入された糖誘導体であってもよいし、糖誘導体2つ(2種)以上が結合した化合物などが例示される。
【0027】
無機塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0028】
なお、亜硫酸蒸解廃液中の組成は、蒸解処理条件などにより異なり一義的に定めることは難しいが、通常、亜硫酸蒸解廃液中の全固形分を100重量%とした際に、リグニンスルホン酸およびその塩が30~70重量%含まれることが好ましい。
【0029】
また、リグニンスルホン酸系化合物(変性リグニンスルホン酸系化合物)は、市販品に豊富に含まれているので、本発明においてはこのような市販品を用いてもよい。市販品としては、バニレックスHW(日本製紙社製)、サンエキスM(日本製紙社製)、パールレックスNP(日本製紙社製)、サンフローRH(日本製紙社製)が例示される。
【0030】
リグニンスルホン酸系化合物は、通常、水溶性化合物と反応し得る官能基部位を少なくとも1つ有している。斯かる部位としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基(フェノール性水酸基、アルコール性水酸基)、チオール基、スルホ基、芳香環、エーテル結合、アルキル鎖が挙げられる。
【0031】
本発明のリグニンスルホン酸系化合物は、重量平均分子量は1,000~500,000 が好ましく、より好ましくは2,000~400,000、さらに好ましくは5,000~300,000である。
【0032】
[3.水溶性化合物]
水溶性化合物とは、水溶性を示す化合物を意味する。水溶性化合物は、芳香族骨格を少なくとも1つ有する芳香族系水溶性化合物やセメント分散剤としての公知の(共)重合体が挙げられる。中でも、水溶性化合物は、芳香族骨格を少なくとも1つ有する芳香族系水溶性化合物が好ましい。芳香族系水溶性化合物は、亜硫酸パルプ廃液、すなわち亜硫酸パルプ廃液の主成分と反応し得る化合物が好ましく、リグニンスルホン酸系化合物に含まれる官能基(例えば、フェノール性水酸基やアルコール性水酸基、カルボキシル基、チオール基)と化学反応により結合しうる化合物が好ましい。化学反応の形式も特に限定されず、ラジカル反応、イオン結合、配位結合、縮合反応、加水分解を伴う反応、脱水を伴う反応、酸化を伴う反応、還元を伴う反応、中和を伴う反応が例示される。
【0033】
芳香族系水溶性化合物は、極性基を少なくとも1つ有することが好ましい。これにより、組成物(1)の物性を制御し易くなるとともに、リグニンスルホン酸系化合物と反応させる場合、反応性が良好となる。極性基は、イオン性官能基であってもよい。極性基としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、ニトロキシル基、カルボニル基、リン酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基が挙げられる。芳香族系水溶性化合物は、1種単独でもよく、2種類以上の組み合わせでもよい。
【0034】
芳香族系水溶性化合物としては、例えば、下記〔A〕~〔D〕が挙げられる。芳香族系水溶性化合物は、〔A〕~〔C〕から選ばれる少なくとも1つが好ましく、〔A〕のみ、或いは〔A〕と〔B〕及び/又は〔C〕との組み合わせがより好ましい。
【0035】
(〔A〕ポリアルキレンオキシド鎖を有する芳香族系水溶性化合物)
ポリアルキレンオキシド鎖(基)を構成するアルキレンオキシド単位の炭素原子数は特に限定されず、通常、2~18であり、好ましくは2~4であり、より好ましくは2~3である。アルキレンオキシド単位としては、例えば、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、ブチレンオキシド単位が挙げられる。中でも、エチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位が好ましい。
【0036】
アルキレンオキシド単位の平均付加モル数は、10以上が好ましく、25以上がより好ましく、35以上がさらに好ましい。これにより、分散性が良好となり得る。上限は、300以下が好ましく、200以下がより好ましく、150以下がさらに好ましい。これにより、分散保持性の低下が抑制され得る。従って、平均付加モル数は、好ましくは10~300であり、より好ましくは25~200であり、さらに好ましくは35~150である。なお、上述の平均付加モル数は目安であり、上述の範囲を満たすか否かに拘らず、〔A〕は、アルキレンオキシド単位が繰り返し付加していないもの(モノアルキレンオキシド基)を有していてもよい。
【0037】
ポリアルキレンオキシド鎖は、1種単独又は2種以上のアルキレンオキシド基から構成され得る。2種以上のアルキレンオキシド基から構成されるポリアルキレンオキシド鎖の、各アルキレンオキシド基の付加形態は、ランダム、ブロック及びこれらの混合のいずれでもよい。ポリアルキレンオキシド鎖の末端のユニットは、通常、ヒドロキシル基であるが、これに限定されず、リグニンスルホン酸系化合物との結合を妨げない限りにおいて、アルキルエーテル又はカルボン酸エステルであってもよい。
【0038】
〔A〕としては、例えば、フェノール、クレゾール、ノニルフェノール、ナフトール、メチルナフトール、ブチルナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族化合物へのオキシアルキレン基付加物が挙げられる。より詳しくは、ポリアルキレンオキシドアルキルフェニルエーテル類、ポリアルキレンオキシドフェニルエーテル類、ポリアルキレンオキシドアルキルナフチルエーテル類、ポリアルキレンオキシドナフチルエーテル類が挙げられる。これらの中でも、共縮合性が良好となり得るので、ベンゼン環誘導体が好ましく、ポリアルキレンオキシドアルキルフェニルエーテル類及びポリアルキレンオキシドフェニルエーテル類の少なくともいずれかがより好ましく、ポリアルキレンオキシドフェニルエーテル類(中でも、フェノールへのオキシアルキレン基付加物)(例えば、ポリ(エチレンオキシド)モノフェニルエーテル、ポリ(プロピレンオキシド)モノフェニルエーテル、エチレンオキシド単位及びプロピレンオキシド単位の平均付加モル数の好ましい範囲は上述のとおり)がさらに好ましい。〔A〕は、1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0039】
(〔B〕カルボキシル基を有する芳香族系水溶性化合物)
〔B〕としては、例えば、少なくとも1つのカルボキシル基を有する、ナフタレン環又はベンゼン環誘導体が挙げられる。より詳細には、イソフタル酸、オキシナフトエ酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、これらの異性体が挙げられる。反応性が良好であるため、o-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸が好ましい。〔B〕は、1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0040】
(〔C〕スルホ基を有する芳香族系水溶性化合物)
〔C〕としては、例えば、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルフェノールスルホン酸、アニリンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸が挙げられる。より詳細には、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、アニリンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、これらの異性体及び縮合物が挙げられる。縮合物としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。反応性が良好であるため、スルホ基を有するフェノール誘導体、アニリンスルホン酸が好ましく、フェノールスルホン酸、アニリンスルホン酸がより好ましい。〔C〕は、1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0041】
(〔D〕他の芳香族系水溶性化合物)
〔D〕としては、〔A〕~〔C〕以外の芳香族系水溶性化合物が挙げられ、例えば、フェノール、クレゾール等の(アルキル)フェノールが挙げられる。〔D〕は、1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0042】
(公知の(共)重合体)
公知の(共)重合体としては、例えば、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体に由来する重合体;両末端基が水素原子である水溶性ポリアルキレングリコール;ポリオキシアルキレン構造単位、ポリカルボン酸構造単位及びポリエステル構造単位からなる群から選択される少なくとも2つの構造単位を有する共重合体(例えば、国際公開第2018/56124号公報)が挙げられる。
【0043】
[4.〔E〕他の芳香族系化合物]
本発明の組成物(1)は、上記のリグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物の他に、〔E〕他の芳香族系化合物を含んでもよい。〔E〕としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン等の単純芳香族炭化水素化合物が挙げられる。〔E〕は、1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0044】
本発明の組成物(1)がリグニン誘導体を含まない場合、リグニンスルホン酸系化合物(〔L〕)、水溶性化合物(〔M〕)、他の芳香族系化合物(〔E〕)の重量比率(〔L〕:〔M〕:〔E〕)は、30~90:10~70:0~5が好ましく、40~85:15~60:0~3がより好ましく、50~80:20~50:0~2がさらに好ましい。
【0045】
[5.リグニン誘導体]
本発明の液状農薬用添加剤は、リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物との反応物であるリグニン誘導体をさらに含むことが好ましい。リグニン誘導体は、通常、リグニンスルホン酸系化合物由来の構成単位と水溶性化合物由来の構成単位とを含むポリマーである。また、リグニン誘導体は、他の芳香族系化合物由来の構成単位を含んでもよい。
【0046】
なお、リグニン誘導体の化学構造を、一般式などで一律に特定することは困難である。その理由は、リグニン誘導体を構成するリグニンスルホン酸系化合物の骨格であるリグニンが非常に複雑な分子構造をしているためである。
【0047】
リグニン誘導体は、その分子中にアニオン性官能基及び/又はポリアルキレンオキシド鎖を有することが好ましい。これにより分散剤の分散性をより向上し得る。
【0048】
アニオン性官能基とは、水中でアニオンの形態をとる官能基を意味し、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、フェノール性水酸基が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基、スルホ基が好ましい。
【0049】
アニオン性官能基は、リグニン誘導体のうち、水溶性化合物由来の構成単位に含まれていてもよいし、リグニンスルホン酸系化合物由来の構成単位の一部に含まれていてもよいし、両者に含まれていてもよい。
【0050】
なお、リグニン誘導体中のアニオン性官能基は、NMR、IR等の機器分析により、定量・定性的に観測できる。
【0051】
リグニン誘導体は、その分子中にポリアルキレンオキシド鎖を有することが好ましい。ポリアルキレンオキシド鎖を構成するアルキレンオキシド単位の炭素原子数は特に限定されず、通常、2~18であり、好ましくは2~4であり、より好ましくは2~3である。アルキレンオキシド単位としては、例えば、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、ブチレンオキシド単位が挙げられる。中でも、エチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位が好ましい。
【0052】
アルキレンオキシド単位の平均付加モル数は、25以上が好ましく、30以上がより好ましく、35以上がさらに好ましい。これにより、分散性が良好となり得る。上限は、300以下が好ましく、200以下がより好ましく、150以下がさらに好ましい。これにより分散保持性の低下が抑制され得る。従って、平均付加モル数は、好ましくは25~300であり、より好ましくは30~200であり、さらに好ましくは35~150である。
【0053】
ポリアルキレンオキシド鎖は、リグニン誘導体のうち、リグニンスルホン酸系化合物由来の構成単位の一部に含まれていてもよいし、水溶性化合物に由来する構成単位に含まれていてもよいし、両者に含まれていてもよく、後者に含まれることが好ましい。
【0054】
なお、リグニン誘導体中のポリアルキレンオキシド鎖は、NMR、IR等の機器分析により、定量・定性的に観測することができる。
【0055】
(リグニン誘導体の調製)
リグニン誘導体の調製は、リグニンスルホン酸系化合物、水溶性化合物、必要に応じて他の芳香族系化合物を反応させる方法であればよい。例えば、リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物とを化学的に結合する方法(リグニンスルホン酸系化合物中の官能基(例えば、フェノール性水酸基やアルコール性水酸基、カルボキシル基、チオール基)と、水溶性化合物中の官能基とを結合させる方法、或いはリグニンスルホン酸系化合物の芳香族骨格部分と水溶性化合物や他の芳香族系化合物を反応させる方法)が挙げられる。
【0056】
リグニン誘導体の調製の際の原料として使用されるリグニンスルホン酸系化合物は、粉末乾燥処理等の処理を経た粉末加工品を用いてもよい。粉末状であることにより取り扱いが容易となる。
【0057】
水溶性化合物は、反応性の観点から、芳香族骨格を少なくとも1つ有する芳香族系水溶性化合物が好ましく、極性基を少なくとも1つ有する芳香族系水溶性化合物がより好ましく、上記の〔A〕~〔C〕からなる群より選ばれる1以上がさらに好ましく、〔A〕のみ、或いは〔A〕と〔B〕及び/又は〔C〕との組み合わせがさらにより好ましい。
【0058】
以下、水溶性化合物として芳香族系水溶性化合物を用いる場合を例に説明する。
【0059】
リグニンスルホン酸系化合物と芳香族系水溶性化合物とを化学的に結合する方法としては、リグニンスルホン酸系化合物に芳香族系水溶性化合物を縮合(例えば、ホルムアルデヒド縮合)させる方法、ラジカル反応、イオン結合が例示される。より詳細には、リグニンスルホン酸系化合物にホルムアルデヒドを付加し、芳香族系水溶性化合物と結合させる方法;リグニンスルホン酸系化合物にラジカル開始剤を作用させる等して水素ラジカルを引き抜き、発生させたラジカルと少なくとも1種類の芳香族系水溶性化合物をラジカル反応させる方法が挙げられる。
【0060】
反応温度は、用いる溶媒によって適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、通常、0~200℃であり、好ましくは45~150℃である。また、反応溶媒として低沸点の化合物を用いる場合には、反応速度を向上させるために、オートクレーブを用いて加圧下で反応させることが好ましい。
【0061】
リグニンスルホン酸系化合物に芳香族系水溶性化合物を反応させる際には、溶液反応及び塊状反応のいずれの反応形式もとりうる。溶液反応の場合には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n-ヘキサン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類が挙げられる。中でも、水及び低級アルコールの少なくともいずれかを用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。これにより、原料単量体及び得られる共重合体の溶解性の面や、脱溶媒工程を省略できる。
【0062】
なお、溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用(例えば、水-アルコール混合溶剤)してもよい。
【0063】
リグニン誘導体の調製時に、消泡剤を使用してもよい。これにより、反応中の発泡を抑制することができ、均一な反応系を構築できる。
【0064】
リグニン誘導体の調製においては、反応を安定に進行させることが好ましい。そのために、溶液重合により反応させる場合には、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を、好ましくは5ppm以下、より好ましくは0.01~4ppm、さらに好ましくは0.01~2ppm、さらにより好ましくは0.01~1ppmの範囲に調節し得る。溶存酸素濃度の調節は、反応槽で行ってもよく、反応前に予め済ませてもよい。
【0065】
反応の進行は、粘度の明確な増大によって特徴付けられる。所望の粘度に達した時に、冷却又は中和によって反応を停止すればよい。
【0066】
リグニン誘導体の調製において、縮合粘度と縮合時間をコントロールするために水の添加調整を行ってもよい。また、反応中のpHを適当な数値となるように調整してもよい。反応は、通常、酸性条件下で行う。スルホ基を有する芳香族化合物及びこれに含まれる未反応の酸により反応系がすでに酸性の場合、このまま酸性領域で反応を行えばよい。また、反応系が酸性ではない場合、予め塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、p-トルエンスルホン酸等の酸触媒を加えてpH2以下にして反応を行ってもよい。好ましい酸は、硫酸であるが、上記具体例以外でもよく、限定されない。
【0067】
リグニン誘導体を構成するリグニンスルホン酸系化合物〔L〕と芳香族系水溶性化合物〔M〕との反応重量比率(〔L〕/〔M〕)は、特には限定されないが、好ましくは99~1/1~99(重量%)であり、より好ましくは90~2/10~98(重量%)であり、さらに好ましくは70~5/30~95(重量%)である。芳香族系水溶性化合物〔M〕の比率が1.0重量%以上であることにより、得られるリグニン誘導体は、元来リグニン骨格が有する性能、すなわち分散性を向上させる効果を発現できる。一方、芳香族系水溶性化合物〔M〕の比率が99重量%以下であることにより、分子量が適度な範囲となり、凝集性の発揮が抑制され、分散性能を発揮できる。
【0068】
〔L〕/〔M〕は、(反応前のリグニンスルホン酸系化合物の固形分重量)/(反応前の芳香族系水溶性化合物の固形分重量)で定義され、後述の実施例でもこの方法で測定している。
【0069】
芳香族系水溶性化合物の反応率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。該反応率が50%以上であることにより、得られるリグニン誘導体の分散性が良好に発揮され得る。
【0070】
芳香族系水溶性化合物の反応率は、以下のようにして測定でき、後述の実施例でもこの方法で測定している。まず、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)測定において、UV(検出波長280nm)を用いた場合の、反応前後のピーク面積を比較する。次に、反応前のピーク面積を〔b〕、反応後のピーク面積を〔a〕とした場合に、反応率を式:(〔b〕-〔a〕)/〔b〕で算出し得る。
【0071】
リグニン誘導体の調製時に用いるリグニンスルホン酸系化合物以外の成分(芳香族系水溶性化合物及び他の芳香族系化合物)の反応重量比率は特に限定されないが、以下の反応重量比率が好ましい。〔A〕:〔B〕:〔C〕:(〔D〕+〔E〕)=50~100重量%:0~50重量%:0~50重量%:0~10重量%となる反応重量比率であることが好ましい。但し、〔A〕+〔B〕+〔C〕+〔D〕+〔E〕=100重量%である。
ここで、〔A〕~〔E〕は上記した化合物に対応する。
【0072】
縮合反応終了後の反応溶液を、8.0~13.0のpH条件下で60~120℃の温度での熱による後処理に付すことが好ましい。熱による後処理は、通常、10分~3時間連続して行われる。これにより反応溶液のアルデヒド含有量(例えば、ホルムアルデヒド含有量)を著しく低減し得る。上記のいわゆるカニッツァロ反応による遊離ホルムアルデヒドの除去に加え又はこれに替えて、当然ながら、例えば、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂及びフェノール-ホルムアルデヒド樹脂の化学の分野で既知の、過剰のホルムアルデヒドを低減させる他の方法を行ってもよい。このような方法としては、例えば、ホルムアルデヒド吸収剤の添加(亜硫酸水素ナトリウムの少量添加、過酸化水素の添加)が挙げられる。
【0073】
反応溶液のpHを1.0~4.0、好ましくは1.5~2.0に調整し、それにより反応生成物を固体として沈殿させて反応容器の底に沈降させてもよい。この場合、次いで、上清の塩水溶液を分離除去する。そして、残存する大半が塩不含である遊離反応生成物を、所望の固体濃度が得られるような量の水にて再度溶解してリグニン誘導体を取得できる。
【0074】
中和は、反応生成物及び触媒を中和できる中和剤を用いればよい。中和剤としては、塩基性化合物(その塩及び水酸化物を含む)が挙げられる。より詳細には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、Ba(OH)2等の塩基性化合物が挙げられる。これにより、可溶性の低い硫酸カルシウム、硫酸バリウムが遊離型の硫酸と共に形成され、石膏等の形態で沈殿する。そのため、その後の濾過により沈殿物を分離除去でき、塩不含のポリマーを得ることができる。さらに、透析又は限外濾過によって、望ましくない硫酸ナトリウムを分離除去してもよい。
【0075】
塩基性化合物の添加及び中和において、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、それらの水和物等の副生成物が生じる場合には、反応後の加温状態で塩基性化合物を添加し、加温状態を保つことでその副生成物の除去性を向上させることが好ましい。加温は、40℃以上への加温が好ましい。加温状態の保持時間は、30分以上が好ましい。
【0076】
リグニン誘導体は、上述した反応により得られる反応生成物であればよく、遊離酸及びその中和塩のいずれでもよい。ポリマーの保存及び使用が容易であることから、中和塩が好ましい。反応生成物の中和塩としては、例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;有機アミンの塩が挙げられる。
【0077】
得られたリグニン誘導体は、反応終了後、必要に応じて、濃度調整を行ってもよい。
【0078】
(リグニン誘導体の物性)
リグニン誘導体の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000であり、さらに好ましくは5,000~100,000である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0079】
GPCの測定条件は、以下の条件である。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製又はGLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
【0080】
またリグニン誘導体は、「条件(1):100℃での不揮発分が30%の溶液形態におけるB型粘度が30~100mPa・sである」と、「条件(2):100℃での不揮発分が10%の溶液形態における表面張力が25~55dyne/cmである」を満たすことが好ましい。
【0081】
ここで、「100℃での不揮発分」とは、リグニン誘導体を100℃の送風乾燥機にて24時間乾燥することで得られる残留物をいう。また、「不揮発分が30%の溶液形態」、「不揮発分が10%の溶液形態」とは、それぞれ、リグニン誘導体の不揮発分の濃度が28~32%の水溶液、リグニン誘導体の不揮発分の濃度が8~12%の水溶液をいう。
【0082】
B型粘度は、30~100mPa・sであり、35~90mPa・sが好ましく、40~80mPa・sがより好ましい。B型粘度が斯かる数値範囲であると、被分散体に対し適度な粘性を付与することが可能であり、被分散体スラリーのワーカビリティーを向上できる。なお、B型粘度は、BL型粘度計(東機産業社)を用いて、20℃、60rpm、2号ローター使用の条件で測定した値である。
【0083】
表面張力は、25~55dyne/cmであり、27~50dyne/cmが好ましく、29~45dyne/cmがより好ましい。表面張力が斯かる数値範囲であると、被分散体に対する濡れ性を担持させ、被分散体スラリーの状態を良好にできる。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面化学社製のCBVP-A3)により測定した値である。
【0084】
そのような条件(1)~(2)は、上述されるリグニンスルホン酸系化合物と芳香族系水溶性化合物との反応条件を適宣設計することで調整し得る。より詳細には、反応開始剤の種類や量、反応液の濃度、リグニンスルホン酸系化合物と芳香族系水溶性化合物の比率、芳香族系水溶性化合物の側鎖官能基の種類や量、反応温度、反応時間等を適宣変更することで調整し得る。
【0085】
[6.任意成分]
本発明の液状農薬用添加剤は、本発明の効果を損なわない限り、上記に加えて任意成分を含んでもよい。任意成分としては、その他の崩壊剤、分散剤、キレート剤、洗浄剤、凝集剤、増粘剤、安定剤、展着剤、保水剤、保護コロイド剤、結合剤、吸水性樹脂等が挙げられる。
【0086】
[7.液状農薬組成物の製造方法]
本発明の液状農薬用添加剤は、(1)リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物との反応物であるリグニン誘導体を調製し、そのまま用いてもよく、(2)リグニンスルホン酸系化合物と水溶性化合物との反応物であるリグニン誘導体を調製し、これを乾燥することで得られる粒状農薬用添加剤を、水溶液として得ることもできる。
【0087】
そのようにして得られた液状農薬用添加剤は、液状農薬製剤に用いることができる。液状農薬製剤中、本発明の液状農薬用添加剤は、0.1~10重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0088】
また液状農薬製剤としては、農薬の薬効成分の他、必要に応じて、必要に応じて更に結合剤、pH調整剤、消泡剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の製剤用助剤を含んでいてもよい。製剤用助剤の含有量は本発明の水和剤に対して通常0~30重量%である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。実施例中、特に断りの無い限り、「%」は、重量%を示し、「部」は、重量部を示す。
【0090】
(実施態様1)
[重量平均分子量]:ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算で測定した。なお、GPCの測定条件の詳細を以下に記載する。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製又はGLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
【0091】
(実施例1:リグニン誘導体(1)の製造)
温度計、撹拌装置、還流装置、及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水177g、ジェファーミンM-2070(PEG含有アミン化合物、HUMNTSMAN製、EO付加モル数:31)を45g、および亜硫酸マグネシウムを用いて木材(ラジアータパイン)を溶液pH2の条件下で140℃、3時間蒸解し、得られた亜硫酸蒸解廃液をpH5.0に調整した亜硫酸蒸解廃液1(リグニンスルホン酸系化合物(a)の含有量50%)を30g、37%ホルムアルデヒド水溶液3g、30%NaOH水溶液5gを仕込み、70℃で16時間撹拌し、その後冷却しリグニン誘導体(1)の液状物を得た。重量平均分子量は10,400であった。
【0092】
(実施例2:リグニン誘導体(2)の製造)
温度計、撹拌装置、還流装置、及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水126g、ポリ(エチレンオキシド)モノフェニルエーテル(EO付加モル数:50)66g、前述される亜硫酸蒸解廃液1を48g、37%ホルムアルデヒド水溶液9g、98%硫酸水溶液28g、及び消泡剤プロナール753(東邦化学社製)0.05gを仕込み、撹拌下で反応容器を105℃に昇温した。反応は、液温が105℃、3時間で完結した。反応終了後、反応物温度を90℃に降温させ、250g/L水酸化カルシウム水溶液93g及び31%水酸化ナトリウム水溶液24gを反応容器に添加し、さらに1時間撹拌した。これら混合物を濾過して中和で生じた石膏を除去することで、重量平均分子量38,800の共重合体を含むリグニン誘導体(2)の液状物を得た。
【0093】
(実施例3:リグニン誘導体(3)の製造)
温度計、撹拌装置、還流装置、及び滴下装置を備えたガラス反応容器に、水290gおよび、前述される亜硫酸蒸解廃液1を119g仕込み撹拌下で反応容器を100℃に昇温した。その後、過硫酸ナトリウム2gと水48gを混合した水溶液と水76g、メトキシポリオキシエチレンモノメタクリレート(EO付加モル数:25)60g、メタクリル酸3g、アクリル酸3gを混合した水溶液を2時間かけて反応容器に連続滴下した後、1時間反応させることにより、重合平均分子量25,400の共重合体を含むリグニン誘導体(3)の液状物を得た。
【0094】
(比較例1:リグニン系分散剤(a))
亜硫酸蒸解廃液1を、リグニン系分散剤(a)とした。
【0095】
(比較例2:ポリカルボン酸系分散剤(b))
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水254部を仕込み、攪拌下で反応容器内を窒素置換した。窒素雰囲気下で100℃に昇温した後、メタクリル酸35部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数14個)214部、3-メルカプトプロピオン酸3部、及び水40部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部、及び水36部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。更に、温度を100℃に保持した状態で1時間反応を行った。その後、31%の水酸化ナトリウム水溶液にてpH7に調製することにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は、共重合体(b)(重量平均分子量13,000、Mw/Mn1.41)であった。
【0096】
<評価方法>
<水面拡展性試験>
縦10cm、横40cmのプラスチック容器に硬度0.4の蒸留水を十分に張り、ステアリン酸カルシウム粉末1gをプラスチック容器中央付近の水面に一塊となるように浮かべた。
その後、実施例1~3、及び比較例1~2をそれぞれについて、プラスチック容器の端部から水面上に添加し、ステアリン酸カルシウム粉末の水面上の移動距離を拡散能力(cm)と停止時間(sec)を測定した。
【0097】
<表面張力>
プレート法(Plate method、Vertical Plate method、Wilhelmy method)にて測定した。協和CBVP式表面張力計CBVP-A3型(協和界面科学株式会社製)用い、白金プレートをぶら下げ、実施例1~3で得られた粒状農薬用添加剤、及び比較例1~2のA成分又はB成分を、10%水溶液に調整し、液槽を引き上げ白金プレートに接触させ、その際に白金プレートが液槽に引っ張られる力(dyn/cm)を測定した。
【0098】
<起泡性>
実施例1~3で得られたリグニン誘導体、及び比較例1~2を、1%水溶液に調整し、100mLのメスシリンダーにてそれぞれ20mL計量する。その後、メスシリンダー上部に蓋をし、手動にて20回上下逆転させた後、水平状に静置し、遅滞なく発生した気泡の量(mL)をメスシリンダーで読み取り測定した。なお、気泡については液状でないものと気泡とみなした。
【0099】