(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20240319BHJP
B23F 23/12 20060101ALI20240319BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F23/12
B23Q17/22 A
B23Q17/22 Z
(21)【出願番号】P 2020033835
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】小椋 一成
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 嘉太郎
(72)【発明者】
【氏名】小原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅樹
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-296610(JP,A)
【文献】特開平06-023623(JP,A)
【文献】特開2008-110445(JP,A)
【文献】特開2014-159063(JP,A)
【文献】特開2013-252582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
B23Q17/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、前記工作物の周面を切削加工することにより歯を創成する歯車加工装置であって、
前記加工用工具を回転可能に保持する工具保持装置と、
前記工作物を回転可能に保持する工作物保持装置と、
前記工具保持装置に設けられて、前記工作物保持装置が保持する前記工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、
前記工作物保持装置に設けられ、前記工具保持装置が保持する前記加工用工具に形成された工具刃の回転位置を検出する工具検出センサと、
前記工具保持装置と前記工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御する位置制御部、及び、
前記加工用工具の工具位相、前記工作物の歯位相、または前記加工用工具の工具位相
と前記工作物の歯位相
との双方を検知する位相検知部を含む制御装置と、
を備え、
前記位相検知部は、
前記位置制御部が前記工具検出センサの検出方向に対して前記加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に前記工具保持装置を相対移動させることにより、前記工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて前記回転主軸体の中心位置を割出し、
前記中心位置を用いて前記工具検出センサを配置する第一検出位置を決定すると共に、前記位置制御部による前記位置制御によって前記第一検出位置に配置された前記工具検出センサの検出結果に基づいて前記加工用工具の工具位相を検知する、又は、
前記位相検知部は、
前記位置制御部が前記工具検出センサの検出方向に対して前記加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に前記工具保持装置を相対移動させることにより、前記工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて前記回転主軸体の中心位置を割出し、
前記中心位置及び前記回転主軸体と前記工作物検出センサとの位置関係を用いて前記工作物検出センサを配置する第二検出位置を決定すると共に、前記位置制御部による前記位置制御によって前記第二検出位置に配置された前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記工作物の歯位相を検知する、
若しくは、
前記位相検知部は、
前記位置制御部が前記工具検出センサの検出方向に対して前記加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に前記工具保持装置を相対移動させることにより、前記工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて前記回転主軸体の中心位置を割出し、
前記中心位置を用いて前記工具検出センサを配置する第一検出位置を決定すると共に、前記位置制御部による前記位置制御によって前記第一検出位置に配置された前記工具検出センサの検出結果に基づいて前記加工用工具の工具位相を検知し、さらに、
前記中心位置及び前記回転主軸体と前記工作物検出センサとの位置関係を用いて前記工作物検出センサを配置する第二検出位置を決定すると共に、前記位置制御部による前記位置制御によって前記第二検出位置に配置された前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記工作物の歯位相を検知する、
歯車加工装置。
【請求項2】
前記工具検出センサが前記工具刃の回転位置を検出する検出方向と、前記工作物検出センサが前記歯の回転位置を検出する検出方向とは、同一方向である、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記工具検出センサが前記工具刃の回転位置を検出する検出方向と、前記工作物検出センサが前記歯の回転位置を検出する検出方向とは、前記工具検出センサの検出方向に対して前記回転主軸体が横切る方向に対して直交する方向である、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記位相検知部は、前記工具保持装置及び前記工作物保持装置の間で生じる熱変位の影響を受けた前記中心位置を割出す、請求項1-3のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記位相検知部は、前記工具検出センサの検出方向に対して前記回転主軸体が横切る方向に生じた前記熱変位の影響を受けた前記中心位置を割出す、請求項4に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記工具保持装置及び前記工作物保持装置を支持するベッドが水平方向に配置されると共に、前記工具検出センサの検出方向が鉛直方向となるように前記工具検出センサが前記工作物保持装置に支持される場合において、
前記位相検知部は、前記水平方向に生じた前記熱変位に基づいて前記中心位置を割出す、請求項5に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
前記工具検出センサは、
前記工作物に対して相対移動不能に支持され、
前記工作物検出センサは、
前記回転主軸体に対して相対移動不能に支持される、請求項1-6のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項8】
前記工具検出センサは、前記工具刃の回転位置を前記回転主軸体までの距離に基づいて検出するものであり、
前記工作物検出センサは、前記歯の回転位置を前記工作物までの距離に基づいて検出するものである、請求項1-7のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項9】
前記工作物検出センサは、前記工具保持装置に一体に移動可能に設けられると共に、前記回転主軸体の軸線に平行な方向にて前記工作物保持装置が保持する前記工作物に向けて変位可能に設けられる、請求項1-8のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項10】
加工用工具を工作物と同期回転させながら相対的に送り操作することにより前記工作物の周面を切削加工し、前記周面に歯を創成する歯車加工方法であって、
前記加工用工具を回転可能に保持する工具保持装置と、
前記工作物を回転可能に保持する工作物保持装置と、
前記工具保持装置に設けられて、前記工作物保持装置が保持する前記工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、
前記工作物保持装置に設けられ、前記工具保持装置が保持する前記加工用工具に形成された工具刃の回転位置を検出する工具検出センサと、
前記工具保持装置と前記工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御する位置制御部、及び、前記工具検出センサの検出結果と前記工作物検出センサの検出結果とに基づいて前記加工用工具の工具位相及び前記工作物の歯位相を検知する位相検知部を含む制御装置とを備える歯車加工装置に適用され、
前記位置制御部が、前記工具検出センサの検出方向に対して前記加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に前記工具保持装置を移動させる第一工程と、
前記位相検知部が、前記回転主軸体の移動に伴い、前記工具検出センサによって検出された前記回転主軸体の外周面までの距離に基づいて前記回転主軸体の中心位置を割出す第二工程と、
前記位相検知部が、前記中心位置を用いて前記工具検出センサを配置する第一検出位置を決定すると共に、前記位置制御部による前記位置制御によって前記第一検出位置に配置された前記工具検出センサの検出結果に基づいて前記加工用工具の工具位相を検知する第三工程と、
前記位相検知部が、前記中心位置及び前記回転主軸体と前記工作物検出センサとの位置関係を用いて前記工作物検出センサを配置する第二検出位置を決定すると共に、前記位置制御部による前記位置制御によって前記第二検出位置に配置された前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記工作物の歯位相を検知する第四工程と、
を含む、歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に開示された歯車加工装置が知られている。この従来の歯車加工装置は、ベッドに対して移動可能に設けられる工作物保持装置と、ベッド及び工作物保持装置に対して移動可能に設けられる工具保持装置とを備える。従来の歯車加工装置においては、工具保持装置に対して、工作物保持装置が保持する工作物の形状を検出する工作物検出センサが一体的に移動可能に設けられる。又、従来の歯車加工装置においては、工作物保持装置に対して、工具保持装置が保持する加工用工具に形成された切れ刃の形状を検出する工具検出センサが一体的に移動可能に設けられる。
【0003】
従来の歯車加工装置においては、工具及び工作物の装着又は交換が行われた場合、工具検出センサを検出可能な位置に配置して工具の形状を検出すると共に、工作物検出センサを検出可能な位置に配置して工作物の形状を検出する。そして、従来の歯車加工装置は、工具検出センサによって検出された工具の形状の検出結果と、工作物検出センサによって検出された工作物の形状の検出結果とに基づくことにより、工具と工作物との位相を合わせる位相合わせを行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の歯車加工装置においては、工具検出センサ及び工作物検出センサを各々の検出可能な位置に配置する。これにより、上記従来の歯車加工装置においては、工具の装着又は交換が行われた場合や工作物の装着又は交換が行われた場合において、工具検出センサ及び工作物検出センサの検出結果に基づいて、工具と工作物との位相を合わせることができる。又、上記従来の歯車加工装置においては、工作物を加工することによって発生する加工熱により、工具保持装置及び工作物保持装置の間に熱変位が生じる場合がある。この場合であっても、逐次、センサを検出可能な位置に配置することにより、熱変位の影響を排除して形状を検出することができるため、上記従来の歯車加工装置においては、工具と工作物との位相を合わせることができる。
【0006】
ところで、常に工具の工具位相及び工作物の歯位相を正確に検出するためには、工具検出センサと工具との相対位置及び工作物検出センサと工作物との相対位置を合わせることが好ましい。従って、上記従来の歯車加工装置においては、工具検出センサが切れ刃の形状(位相)を検出する際に工具の中心位置の割出しが必要である。更に、上記従来の歯車加工装置においては、工具の中心位置の割出に加えて、工作物検出センサが工作物の形状(位相)を検出する際に工作物の中心位置の割出しも必要である。
【0007】
又、例えば、予め工具の中心位置及び工作物の中心位置を決定しておく場合であっても、工具保持装置及び工作物保持装置の間で熱変位が生じると、熱変位の影響を受けることにより予め決定した工具の中心位置及び工作物の中心位置にずれが生じてしまう。従って、予め工具の中心位置及び工作物の中心位置を決定しておく場合であっても、改めて工具の中心位置及び工作物の中心位置の割出しが必要になる。このように、工具及び工作物の各々の中心位置を割出すことは、煩雑であると共に時間を要するため、改善が望まれる。
【0008】
本発明は、工作物の製造工程の簡略化が可能であり、サイクルタイムの短縮が可能な歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(歯車加工装置)
歯車加工装置は、加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、工作物の周面を切削加工することにより歯を創成する歯車加工装置であって、加工用工具を回転可能に保持する工具保持装置と、工作物を回転可能に保持する工作物保持装置と、工具保持装置に設けられて、工作物保持装置が保持する工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、工作物保持装置に設けられ、工具保持装置が保持する加工用工具に形成された工具刃の回転位置を検出する工具検出センサと、工具保持装置と工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御する位置制御部、及び、加工用工具の工具位相、工作物の歯位相、または加工用工具の工具位相と工作物の歯位相との双方を検知する位相検知部を含む制御装置と、を備え、位相検知部は、位置制御部が工具検出センサの検出方向に対して加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に工具保持装置を相対移動させることにより、工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて回転主軸体の中心位置を割出し、中心位置を用いて工具検出センサを配置する第一検出位置を決定すると共に、位置制御部による位置制御によって第一検出位置に配置された工具検出センサの検出結果に基づいて加工用工具の工具位相を検知する、又は、位相検知部は、位置制御部が工具検出センサの検出方向に対して加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に工具保持装置を相対移動させることにより、工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて回転主軸体の中心位置を割出し、中心位置及び回転主軸体と工作物検出センサとの位置関係を用いて工作物検出センサを配置する第二検出位置を決定すると共に、位置制御部による位置制御によって第二検出位置に配置された工作物検出センサの検出結果に基づいて工作物の歯位相を検知する、若しくは、位相検知部は、位置制御部が工具検出センサの検出方向に対して加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に工具保持装置を相対移動させることにより、工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて回転主軸体の中心位置を割出し、中心位置を用いて工具検出センサを配置する第一検出位置を決定すると共に、位置制御部による位置制御によって第一検出位置に配置された工具検出センサの検出結果に基づいて加工用工具の工具位相を検知し、さらに、中心位置及び回転主軸体と工作物検出センサとの位置関係を用いて工作物検出センサを配置する第二検出位置を決定すると共に、位置制御部による位置制御によって第二検出位置に配置された工作物検出センサの検出結果に基づいて工作物の歯位相を検知する。
【0010】
(歯車加工方法)
歯車加工方法は、加工用工具を工作物と同期回転させながら相対的に送り操作することにより工作物の周面を切削加工し、周面に歯を創成する歯車加工方法であって、加工用工具を回転可能に保持する工具保持装置と、工作物を回転可能に保持する工作物保持装置と、工具保持装置に設けられて、工作物保持装置が保持する工作物の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、工作物保持装置に設けられ、工具保持装置が保持する加工用工具に形成された工具刃の回転位置を検出する工具検出センサと、工具保持装置と工作物保持装置とを相対移動可能に位置制御する位置制御部、及び、工具検出センサの検出結果と工作物検出センサの検出結果とに基づいて加工用工具の工具位相及び工作物の歯位相を検知する位相検知部を含む制御装置とを備える歯車加工装置に適用され、位置制御部が、工具検出センサの検出方向に対して加工用工具を含む回転主軸体が横切る方向に工具保持装置を移動させる第一工程と、位相検知部が、回転主軸体の移動に伴い、工具検出センサによって検出された回転主軸体の外周面までの距離に基づいて回転主軸体の中心位置を割出す第二工程と、位相検知部が、中心位置を用いて工具検出センサを配置する第一検出位置を決定すると共に、位置制御部による位置制御によって第一検出位置に配置された工具検出センサの検出結果に基づいて加工用工具の工具位相を検知する第三工程と、位相検知部が、中心位置及び回転主軸体と工作物検出センサとの位置関係を用いて工作物検出センサを配置する第二検出位置を決定すると共に、位置制御部による位置制御によって第二検出位置に配置された工作物検出センサの検出結果に基づいて工作物の歯位相を検知する第四工程と、を含む。
【0011】
これらによれば、位相検知部は、工具検出センサによって検出された検出結果に基づいて回転主軸体の中心位置を割出すことができる。そして、位相検知部は、割出された中心位置を用いて工具検出センサの第一検出位置を決定し、加工用工具の位相を検知することができる。又、位相検知部は、割出された中心位置及び回転主軸体と工作物検出センサとの位置関係を用いて工作物検出センサの第二検出位置を決定し、工作物の位相を検知することができる。
【0012】
即ち、歯車加工装置及び歯車加工方法によれば、回転主軸体の中心位置を割出すことのみで、別途、工作物の中心位置を検出することが不要になる。これにより、例えば、工具や工作物の装着又は交換の際、或いは、熱変位が生じた場合であっても、工作物の中心位置を検出する工程を省略することができる。従って、工具及び工作物の各々の中心位置を割出すような煩雑な作業が生じず、又、工作物の中心位置を割出す時間が不要となるため、加工に要するサイクルタイムを短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】加工用工具(スカイビングカッタ)の構成を示す一部断面図である。
【
図4】制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
【
図5】歯車加工処理の中で実行される位相合わせ処理のフローチャートである。
【
図7】検出位置ずれ量と検知溝検出誤差との概略的な関係を示すグラフである。
【
図8】工具検出センサが工具ホルダの中心位置及び工具ホルダの検知溝を検出する状態を説明するための図である。
【
図9】工具検出センサが工具ホルダの中心位置を検出する際の動作を説明するための図である。
【
図10】回転主軸体が横切る方向(X軸線に平行な方向)における工具ホルダの位置と検出距離との概略的な関係を示すグラフである。
【
図11】
図8のXI-XI断面を示し、工具ホルダに加工用工具が保持された状態で、工具検出センサを工具ホルダに対する第一検出位置に配置した状態を示す図である。
【
図12】
図8のXI-XI断面を示し、回転主軸及び工作物検出センサを一体的に移動させる状態を示す図である。
【
図13】
図8のXI-XI断面を示し、工作物保持装置に工作物が保持された状態で、工作物検出センサを工作物に対する第二検出位置に配置した状態を示す図である。
【
図14】工作物検出センサから位相検知部に出力される出力情報の一例(電圧変化)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1.適用可能な歯車加工装置)
歯車加工装置は、加工用工具及び工作物の回転速度を変動させ、且つ、加工用工具と工作物とを同期回転させながら、工作物の回転軸線方向に沿って刃切り工具を工作物に対して相対移動させる(送り操作する)ことにより、工作物に歯車を切削加工する。本例では、歯車加工装置は、加工用工具としてスカイビングカッタを備え、スカイビング加工によって工作物に歯車を加工する場合を例示する。この場合、歯車加工装置は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸(旋回テーブル軸)及びC軸(ワーク軸))を駆動軸として有するマシニングセンタを例示することができる。尚、本例において、X軸線及びZ軸線に平行な方向は水平方向であり、Y軸線に平行な方向は鉛直方向であるとする。
【0015】
(2.歯車加工装置1の構成)
図1に示すように、歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、ターンテーブル70と、保持器80と、工具交換装置90と、制御装置100とを主に備える。ここで、本例においては、コラム20、サドル30及び回転主軸40が「工具保持装置」を構成する。又、本例においては、テーブル50、チルトテーブル60、ターンテーブル70及び保持器80が「工作物保持装置」を構成する。
【0016】
ベッド10は、ほぼ矩形状に形成されており、水平方向に配置される。ベッド10の上面には、コラム20をX軸線に平行な方向即ち水平方向に駆動するための、図示省略のX軸ボールねじが配置される。そして、ベッド10には、X軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ11が配置される。ここで、本例においては、X軸線に平行な方向即ち水平方向が「回転主軸体が横切る方向」になる。
【0017】
コラム20のY軸線に平行な側面(摺動面)20aには、サドル30をY軸線に平行な方向即ち鉛直方向に駆動するための、図示省略のY軸ボールねじが配置される。そして、コラム20には、Y軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ21が配置される。
【0018】
サドル30は、後述するようにターンテーブル70に保持された工作物Wの形状、具体的には、創成された歯の位相を検出する工作物検出センサ31を一体に支持すると共に、回転主軸40を回転可能に支持する。これにより、サドル30が移動する際には、工作物検出センサ31及び回転主軸40は、回転主軸40に対して工作物検出センサ31が相対移動することなく、即ち、回転主軸40とサドル30とが一体的に、サドル30と共に移動する。
【0019】
ここで、サドル30は、工作物検出センサ31及び回転主軸40を支持する。このため、サドル30にターンテーブル70に対する熱変位が生じた場合には、工作物検出センサ31及び回転主軸40はサドル30と共にターンテーブル70に対して熱変位する。即ち、サドル30における工作物検出センサ31と回転主軸40とは相対移動不能であり、サドル30における工作物検出センサ31と回転主軸40との位置関係は維持される。
【0020】
工作物検出センサ31は、本例においては、非接触式のセンサである。工作物検出センサ31としては、例えば、渦電流センサや電磁ピックアップ、レーザセンサ等を例示することができる。本例の工作物検出センサ31は渦電流センサを用いるものとし、工作物Wに形成された歯車の形状、具体的には、歯先面及び歯底面までの距離を検出する。尚、工作物検出センサ31は、接触式のセンサ、例えば、タッチプローブセンサ等であっても良い。
【0021】
工作物検出センサ31は、検出方向がY軸線に平行な方向即ち鉛直方向となるように、サドル30に支持される。そして、工作物検出センサ31は、工作物Wに創成された歯の回転位置(歯位相)を検出する。又、本例の工作物検出センサ31は、Z軸線に平行な方向において伸縮可能とする伸縮機構を介して、工作物Wに対向するサドル30の側面30aに支持される。これにより、工作物検出センサ31は、サドル30の移動に伴って回転主軸40と共にX軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向に移動し、且つ、伸縮機構によって回転主軸40の回転軸線Jに平行な方向即ちZ軸線に平行な方向にてサドル30側から工作物W側に向けて変位可能とされている。
【0022】
尚、工作物検出センサ31については、伸縮機構を省略して、即ち、回転主軸40(回転主軸体)の軸線に平行な方向に伸縮不能となるように構成することも可能である。この場合、工作物検出センサ31は、サドル30と共にX軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向に移動する。
【0023】
回転主軸40は、X軸線に直交するZ軸線に平行に配置される。回転主軸40は、サドル30に回転可能に支持され、コラム20(又は、サドル30)内に収容された主軸モータ41により回転される。回転主軸40は、加工用工具42を支持する。加工用工具42は、工具ホルダ43に保持されて回転主軸40の先端に装着されており、回転主軸40の回転に伴って回転する。ここで、回転主軸40に工具ホルダ43が組み付けられると共に工具ホルダ43に加工用工具が装着されることにより、「回転主軸体」が構成される。
【0024】
加工用工具42及び工具ホルダ43は、X軸モータ11の駆動によるコラム20及びサドル30の移動に伴い、ベッド10に対してX軸線に平行な方向、即ち、水平方向であって、後述の工具検出センサ64の検出方向に対して「回転主軸体が横切る方向」に移動する。又、加工用工具42及び工具ホルダ43は、Y軸モータ21の駆動によるコラム20及びサドル30の移動に伴い、Y軸線に平行な方向に移動する。
【0025】
本例の加工用工具42は、スカイビングカッタであり、工作物W(具体的には、歯車)に形成される歯面の形状に基づいて設計される。加工用工具42は、
図2に示すように、工具周面に複数の工具刃42aを備えている。工具刃42aは、本例においてはインボリュート曲線形状と同一形状に形成される。
【0026】
ここで、工具刃42aは、刃先42bの回転軸線Jと直角な平面に対し、角度γだけ傾斜したすくい角が設けられる。又、工具刃42aには、工具周面側に回転軸線Jと平行な直線に対し、角度δだけ傾斜した前逃げ角が設けられる。更に、工具刃42aの刃溝42cは、回転軸線Jと平行な直線に対し、角度βだけ傾斜したねじれ角を有する。尚、加工用工具42としては、ねじれ角βを有しておらず、回転軸線Jに平行なストレートの工具刃42aを備えることもできる。
【0027】
工具ホルダ43は、
図2に示すように、円筒状に形成されており、一端側にて回転主軸40に相対回転不能に固定されることにより「回転主軸体」を形成し、他端側にて工具交換装置90によって装着又は交換される加工用工具42を相対回転不能に支持する。工具ホルダ43の外周面には、装着又は交換される加工用工具42の位相(回転位置)を検知するための凹状の検知溝43aが設けられている。尚、検知溝43aの数については、少なくとも1つ以上であれば良い。
【0028】
又、
図1に示すように、ベッド10の上面には、テーブル50をZ軸線に平行な方向に駆動するための、図示省略のZ軸ボールねじが配置される。そして、ベッド10には、Z軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ12が配置される。
【0029】
テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部63が設けられる。そして、チルトテーブル支持部63には、チルトテーブル60がA軸線回りで回転(揺動)可能に設けられる。チルトテーブル60は、テーブル50内に収容されたA軸モータ61により回転(揺動)される。そして、チルトテーブル60には、ターンテーブル70がC軸線回りで回転可能に設けられる。尚、チルトテーブル60は、C軸線に対して垂直である軸の旋回テーブル軸を用いても良い。
【0030】
ターンテーブル70には、工作物Wを相対回転不能に保持する保持器80が組み付けられる。本例において、ターンテーブル70及び保持器80は「工作物主軸」を構成する。ターンテーブル70は、工作物W及び保持器80と共にC軸モータ62により回転される。ここで、C軸モータ62には、C軸線回りに回転角度を検出するエンコーダ62aが設けられている。
【0031】
チルトテーブル支持部63のY軸線に平行且つ回転主軸40(加工用工具42及び工具ホルダ43)に対向する側面63aは、工具検出センサとしての工具検出センサ64を一体に支持する。即ち、チルトテーブル支持部63は、工具検出センサ64を変位不能に支持すると共に、工作物Wを回転可能に支持するターンテーブル70を、チルトテーブル60を介して支持する。これにより、工作物Wと工具検出センサ64とは、チルトテーブル支持部63において、相対移動不能に支持される。
【0032】
ここで、チルトテーブル支持部63にサドル30に対する熱変位が生じた場合には、工具検出センサ64及びターンテーブル70(工作物W)は、チルトテーブル支持部63と共にサドル30に対して熱変位する。即ち、チルトテーブル支持部63における工具検出センサ64とターンテーブル70、換言すれば、ターンテーブル70に保持器80によって保持された工作物Wとの位置関係は維持される。
【0033】
工具検出センサ64は、本例においては、非接触式のセンサである。工具検出センサ64としては、例えば、渦電流センサや電磁ピックアップ、レーザセンサ等を例示することができる。本例の工具検出センサ64は渦電流センサを用いるものとし、工具ホルダ43の外周面(検知溝43aの溝底面を含む)までの距離を検出する距離計測センサを用いる。尚、工具検出センサ64は、接触式のセンサ、例えば、タッチプローブセンサ等であっても良い。
【0034】
工具検出センサ64は、本例においては、検出方向が工作物検出センサ31と同一方向であるY軸線に平行な方向即ち鉛直方向となるようにチルトテーブル支持部63に支持される。そして、工具検出センサ64は、後述するように、回転主軸40に装着された円筒状の工具ホルダ43をX軸線に平行な方向即ち水平方向に移動させた状態で、工具ホルダ43の外周面までの距離を検出する。又、工具検出センサ64は、工具ホルダ43を回転させた状態で、工具ホルダ43の外周面までの距離を検出する。これにより、制御装置100は、後述するように、工具ホルダ43の中心位置を検知すると共に、工具ホルダ43に予め設けられた検知溝43a(
図2を参照)を検出することによって加工用工具42の位相を検知する。
【0035】
ここで、工具検出センサ64が加工用工具42の工具刃42aの位相(回転位置)を検知する際には、制御装置100がコラム20即ちサドル30と共に回転主軸40をX軸線に平行な方向(水平方向)に移動させる。このとき、工具検出センサ64は回転主軸40と一体にX軸線に平行な方向に移動する工具ホルダ43の外周面までの距離を検出する。
【0036】
これにより、制御装置100は、工具検出センサ64によって検出された検出結果として、検出距離が最も短くなるX軸線に平行な方向の位置、即ち、円筒状の工具ホルダ43の周方向における頂点位置を割出す。ここで、頂点位置は、X軸線に平行な方向における位置として、工具ホルダ43の中心位置に一致する。そして、制御装置100は、割出した中心位置(頂点位置)を第一検出位置に決定して、工具ホルダ43の検知溝43aを検出する。
【0037】
工具交換装置90は、回転主軸40に工具ホルダ43を介して装着された加工用工具42と、工具マガジン(図示省略)に収容された他の加工用工具42との交換を自動で行う。尚、工具交換装置90の構成及び作動については、周知であり、例えば、特開2018-103330号公報等を参照することができるため、その説明を省略する。
【0038】
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェースを主要構成部品とするコンピュータ装置であり、各種プログラムを実行する。制御装置100は、
図3に示すように、工具回転制御部101と、工作物回転制御部102と、チルト制御部103と、位置制御部104と、位相検知部105と、記憶装置106とを主に備える。
【0039】
工具回転制御部101は、エンコーダ41aによって検出された回転角度を用いて主軸モータ41の駆動制御を行い、回転主軸40と共に工具ホルダ43及び加工用工具42を回転させる。工作物回転制御部102は、エンコーダ62aによって検出された回転角度を用いてC軸モータ62の駆動制御を行い、ターンテーブル70と共に保持器80に保持(固定)された工作物WをC軸線周りに回転させる。チルト制御部103は、A軸モータ61の駆動制御を行い、チルトテーブル60を揺動させることにより、ターンテーブル70及び工作物WをA軸線周りに揺動させる。
【0040】
位置制御部104は、コラム20即ち工作物検出センサ31及び回転主軸40を支持するサドル30と、テーブル50即ちテーブル50に固定されたチルトテーブル支持部63とを相対移動可能に位置制御する。位置制御部104は、X軸モータ11の駆動制御を行い、コラム20及びコラム20に支持されたサドル30を一体にX軸線に平行な方向へ移動させる。又、位置制御部104は、Y軸モータ21の駆動制御を行い、サドル30をY軸線に平行な方向へ移動させる。
【0041】
これにより、位置制御部104は、サドル30に支持された回転主軸40及び工作物検出センサ31を一体に且つ相対変位させることなくX軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向に移動させる。尚、本例においては、位置制御部104は、工作物検出センサ31がZ軸線に平行な方向にて伸縮するように、サドル30に支持された工作物検出センサ31の伸縮機構の作動を制御する。
【0042】
又、位置制御部104は、Z軸モータ12の駆動制御を行い、テーブル50及びテーブル50に支持されたチルトテーブル支持部63を一体にZ軸線に平行な方向へ移動させる。これにより、位置制御部104は、チルトテーブル支持部63に支持された工作物W及び工具検出センサ64を一体に且つ相対変位させることなくZ軸線に平行な方向に移動させる。
【0043】
位相検知部105は、工具検出センサ64によって検出された検出結果として工具ホルダ43までの距離に基づいて、工具ホルダ43の中心位置(頂点位置)を割出す。そして、位相検知部105は、工具検出センサ64による検出結果である中心位置を第一検出位置に決定し、工具検出センサ64が第一検出位置にて検出した距離の変化に基づいて工具ホルダ43の検知溝43a即ち加工用工具42の位相(回転位置)を検知する。本例において、位相検知部105は加工用工具42の位相(回転位置)として、加工用工具42の工具刃42aのうち、Y軸線に平行な方向にて最上位となる刃先42bの工具位相を検知する。
【0044】
又、位相検知部105は、工具検出センサ64による検出結果である工具ホルダ43の中心位置及びサドル30における回転主軸40と工作物検出センサ31との位置関係を用いて、工作物検出センサ31が工作物Wの歯底面の歯位相を検知する際の第二検出位置を決定する。そして、位相検知部105は、加工用工具42の工具位相と工作物Wの歯位相とに基づいて、加工用工具42と工作物Wとの位相を合わせる。
【0045】
記憶装置106は、工具検出センサ64の検出結果及び工作物検出センサ31の検出結果が記憶される。具体的に、記憶装置106には、位相検知部105により割出された中心位置に関する情報、検知された加工用工具42の刃先42bの位相に関する情報、及び、工作物Wに形成された歯車の歯底面の位相に関する情報が記憶される。更に、記憶装置106には、工作物Wに形成する歯車の基本情報(各種寸法や歯数等に関する情報)及び加工用工具42の基本情報が記憶される。
【0046】
(3.歯車加工処理(歯車加工方法))
次に、
図4に示すフローチャートを用いて、制御装置100により実行される歯車加工処理について説明する。歯車加工処理は、歯車加工により円筒状のブランクである工作物Wに歯車を形成する際に実行される。
【0047】
歯車加工処理は、ステップS1において、荒加工処理として、保持器80により保持された円筒状の工作物Wに対する歯車加工を行い、工作物Wに歯車を形成する。続くステップS2において、歯車加工処理は、焼入れ処理として、荒加工処理により歯車が形成された工作物Wの焼入れを行う。
【0048】
歯車加工処理は、ステップS3において、焼入れ後の工作物Wが保持器80に再度保持された際、又は、工具交換装置90によって加工用工具42が装着又は交換された際に、位相合わせ処理を行う。本例における位相合わせ処理は、後に詳述するように、工具ホルダ43に装着された加工用工具42の工具位相(回転位置)を検知すると共に、保持器80に保持された工作物Wに形成された歯の歯位相(回転位置)を検知する。そして、位相合わせ処理においては、検知した加工用工具42の工具位相(回転位置)と工作物Wの歯の歯位相(回転位置)を合わせる位相合わせを行う。
【0049】
位相合わせ処理において位相合わせが行われると、歯車加工処理は、ステップS4にて仕上加工処理を行う。仕上加工処理は、工作物Wに対する歯車の仕上加工を行う。ここで、歯車加工を行った工作物Wに焼入れを行うと、工作物Wにひずみが発生する。そこで、焼入れ後の工作物Wに対する歯車加工を再度行い、歯車の精度を向上させることが一般に行われている。この場合に、歯車加工装置1は、保持器80に保持された工作物Wの歯位相を把握した上で、工作物Wと加工用工具42の位相合わせを行う必要がある。
【0050】
他にも、例えば、ホブカッタ等を用いて荒加工された工作物Wに対し、加工用工具42を用いた仕上加工を行う場合等、既に歯車が形成された工作物Wに歯車加工を行う場合がある。この場合にも、歯車加工装置1は、工具ホルダ43に装着された加工用工具42の工具位相と保持器80に保持(固定)された工作物Wの歯位相とを把握し、工作物Wと加工用工具42との位相合わせを行う必要がある。更に、加工用工具42は、スカイビングカッタであり、例えば、ホブカッタ等に比べて工具寿命が相対的に短く加工用工具42の交換頻度が高くなる。その結果、歯車加工装置1は、工具ホルダ43に保持された加工用工具42の工具位相の把握が必要となる頻度も高くなる。
【0051】
この点に関し、歯車加工装置1は、工作物検出センサ31と工具ホルダ43が固定された回転主軸40とが相対変位することなくサドル30に設けられ、工具検出センサ64と工作物Wを保持するターンテーブル70等とが相対変位することなくチルトテーブル支持部63に設けられる。即ち、歯車加工装置1においては、工作物検出センサ31と工具ホルダ43との相対位置が一定に維持されると共に、工具検出センサ64と工作物Wとの相対位置が一定に維持される。
【0052】
本例の歯車加工装置1は、先ず、工具検出センサ64を工具ホルダ43の中心位置即ち第一検出位置に配置して距離を検出する。これにより、歯車加工装置1は、加工用工具42の工具位相(回転位置)を検知する。そして、歯車加工装置1は、工作物検出センサ31が工作物Wの歯位相(回転位置)を検知するための第二検出位置に向けて、サドル30をX軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向にて所定距離だけ移動させる。ここで、工作物検出センサ31と回転主軸40とは相対変位することなくサドル30に支持されている。このため、回転主軸40と工作物検出センサ31との位置関係に基づいてサドル30を各々の方向にて所定距離だけ移動させることで、工作物検出センサ31を第二検出位置に配置することができる。その結果、工作物Wの歯位相(回転位置)の検出及び工作物Wと加工用工具42との位相合わせに要する時間を短縮することができる。
【0053】
尚、
図4に示すフローチャートにおいて、歯車加工処理は、ステップS2の焼入れ処理の後であってステップS4の仕上加工処理の前となるステップS4の位相合わせ処理を実行する。しかし、位相合わせ処理については、ステップS1の荒加工処理及びステップS4の仕上加工処理の中でも実行することができる。例えば、ステップS1の荒加工処理又はステップS4の仕上加工処理において加工用工具42に破損等が発生し、加工用工具42の交換が行われた場合に、歯車加工処理では、位相合わせ処理を実行することによって、加工用工具42と工作物Wとの位相合わせを行うことができる。
【0054】
(4.加工用工具42及び工作物Wの位相合わせの詳細(歯車加工方法))
次に、
図5に示すフローチャートを参照しながら、歯車加工処理(歯車加工方法)の中で前記ステップS3にて実行される位相合わせ処理を具体的に説明する。前記ステップS3にて実行される位置検知処理においては、制御装置100(具体的には、CPU。以下同じ)は、先ずステップS11にて、工具交換装置90による加工用工具42の装着又は交換が行われたか否かを判定する。この場合、制御装置100は、工具交換装置90の交換制御部(図示省略)と通信することにより、加工用工具42の装着又は交換が行われたか否かを把握することができる。
【0055】
そして、制御装置100は、工具交換装置90による加工用工具42の装着又は交換が行われていなければ、ステップS11にて「No」と判定してステップS18の処理を実行する。一方、制御装置100は、工具交換装置90による加工用工具42の装着又は交換が行われていれば、ステップS11にて「Yes」と判定し、ステップS12の処理を実行する。
【0056】
ステップS12においては、制御装置100の位置制御部104は、X軸モータ11、Y軸モータ21及びZ軸モータ12の駆動制御を行うことにより、回転主軸40の先端に固定された工具ホルダ43を、予め設定された原位置(例えば、
図1に示すように熱変位等の影響を受ける前の回転軸線Jの位置等)に配置する。そして、制御装置100は、工具ホルダ43を原位置に配置すると、ステップS13に進む。
【0057】
(4-1.中心位置の割出し及び第一検出位置の決定)
ステップS13及びステップS14においては、制御装置100の位相検知部105は、加工用工具42の位相、換言すれば、加工用工具42の刃先42b(又は、刃溝42c)の回転位置を検出するための第一検出位置を決定する。本例においては、第一検出位置を決定するにあたり、工具ホルダ43の中心位置を割出す。以下、この中心位置の割出しを具体的に説明する。
【0058】
上述したように、歯車加工装置1においては、サドル30に回転主軸40(工具ホルダ43及び加工用工具42を含む)と工作物検出センサ31とが相対移動不能に支持され、チルトテーブル支持部63に工具検出センサ64と工作物Wとが相対移動不能に支持される。具体的に、歯車加工装置1においては、工具検出センサ64は工具ホルダ43及び加工用工具42と対向するチルトテーブル支持部63の側面63aに固定されており、工作物検出センサ31は工作物Wと対向するサドル30の側面30aに固定されている。
【0059】
位相検知部105が加工用工具42の工具位相(回転位置)を検知する場合、工具検出センサ64によって検出された工具ホルダ43までの距離の変化に基づくことにより、検知溝43aの回転方向における位置を検知する。この場合、
図6に示すように、X軸線に平行な方向において、工具検出センサ64と工具ホルダ43との相対位置が異なると、
図7に示すように、検知溝43aの検出精度が悪化する。
【0060】
例えば、工作物Wの加工開始時において、
図6にて実線により示すように、工具検出センサ64と工具ホルダ43とがY軸線に平行な方向にて直列に配置された状態、より詳しくは、工具検出センサ64の中心軸線上に工具ホルダ43の中心位置Qが存在する状態のときの工具ホルダ43の位置を第一検出位置とする。この場合、この第一検出位置にて工具検出センサ64が工具ホルダ43までの距離を検出することにより、
図7に示すように、検出位置ずれ量L1が「0」となる。その結果、
図7に示すように、検知溝43aを検出する際に、検知溝43aが回転方向にずれて検出される検知溝検出誤差θも「0」となる。
【0061】
ところで、工作物Wを連続して加工すると、例えば、加工に伴う加工熱の影響を受けて、サドル30(コラム20)はチルトテーブル支持部63に対して熱変位する場合がある。この場合、加工開始時の第一検出位置となるようにサドル30のX軸方向の位置を制御しても、サドル30(コラム20)に発生した熱変位の影響により、
図6にて破線により示すように、工具検出センサ64の中心軸線に対して工具ホルダ43(回転主軸40)の中心位置Qが相対的にずれてしまう。
【0062】
換言すれば、加工開始時と同じX軸方向の位置に工具ホルダ43(回転主軸40)を配置しても、第一検出位置は、チルトテーブル支持部63に対してサドル30(コラム20)が熱変位することによって生じた検出位置ずれ量L1だけずれる。この場合、工具検出センサ64が検出した工具ホルダ43までの距離に基づくと、
図6に示すように、位相検知部105は、回転方向にて回転角度θだけずれた位置にて検知溝43aを検出することになる。そして、
図7に示すように、検出位置ずれ量L1が大きくなる程、検知溝検出誤差θが大きくなる。
【0063】
ここで、検知溝検出誤差θは、
図6に示すように、工具ホルダ43の半径を「R」、工具ホルダ43と工具検出センサ64との距離を「L2」とした場合、下記式1により表すことができる。
【数1】
【0064】
このため、本例の歯車加工装置1においては、
図6にて実線により示すように、工具検出センサ64の中心軸線上に工具ホルダ43(又は、回転主軸40)の中心位置Qが存在するときの工具検出センサ64(又は、工具ホルダ43及び回転主軸40)の位置を第一検出位置とする。そして、位相検知部105が工具ホルダ43の検知溝43aを検出する際には、工具ホルダ43の中心位置Qが工具検出センサ64の中心軸線上に配置された状態にする。
【0065】
これにより、工具検出センサ64と工具ホルダ43との相対位置を常に一定にすることができる。その結果、位相検知部105が検知溝43aを検出する際の検知溝検出誤差θをほぼ「0」まで小さくすることができる。
【0066】
そこで、ステップS13において、位相検知部105は、工具ホルダ43の中心位置Qを検出するために、位置制御部104と協働して、本例ではコラム20をX軸線方向に移動させる。具体的にステップS13の処理を説明すると、例えば、
図1に示した状態(原位置)にある歯車加工装置1について、
図8に示すように、先ず、Y軸モータ21の駆動制御を行い、サドル30をY軸線に平行な方向にてベッド10に向けて移動(
図8においては降下)させる。続いて、位置制御部104は、Z軸モータ12の駆動制御を行い、テーブル50即ちチルトテーブル支持部63をZ軸線に平行な方向にてコラム20に向けて移動させる。
【0067】
本例の工具検出センサ64は、距離検出方向がY軸線に平行な方向即ち鉛直方向にてベッド10に向けた方向(
図8において下方)となるように、チルトテーブル支持部63にステーを介して固定されている。このため、位置制御部104は、Y軸モータ21及びZ軸モータ12の駆動制御を行うことにより、回転主軸40の先端に固定された工具ホルダ43が工具検出センサ64の距離検出方向に存在するように、サドル30及びテーブル50を相対移動させる。
【0068】
続いて、位置制御部104は、X軸モータ11の駆動制御を行い、コラム20をX軸線に平行な方向、即ち、水平方向であって工具検出センサ64の検出方向を「回転主軸体が横切る方向」にて直線移動させる(第一工程)。これにより、回転主軸40の先端に固定された工具ホルダ43は、
図9に示すように、工具検出センサ64に対してX軸線に平行な方向即ち水平方向にて直線移動する。尚、X軸線に平行な方向は、工具検出センサ64が検出するY軸線に平行な方向の距離に対して、重力や熱変位の影響を受けにくい方向である。そして、制御装置100は、コラム20をX軸線に平行な方向に移動させると、ステップS14の処理を実行する。
【0069】
ステップS14においては、位相検知部105は、工具ホルダ43の中心位置を割出すと共に、第一検出位置を決定する。前記ステップS13の処理によってX軸線に平行な方向に直線移動している工具ホルダ43までの距離を工具検出センサ64が検出した場合、検出された検出距離Dは、
図10に示すように、下に凸となる放物線状に変化する。即ち、工具ホルダ43のX軸線方向の位置Pが順次変化することに伴い、工具ホルダ43の中心位置Qが工具検出センサ64に近づくにつれて検出距離Dは徐々に小さくなり、工具ホルダ43の中心位置Qが工具検出センサ64から離れるにつれて検出距離Dは徐々に大きくなる。このことに基づき、位相検知部105は、検出距離Dが最小となるX軸線方向の中間位置P3を工具ホルダ43の中心位置Qとして割出す(第二工程)。
【0070】
ここで、中心位置Qの割出しについては、
図10に示すように、位相検知部105は、検出距離Dが所定の閾値D1を跨いで下回る位置P1と、検出距離Dが所定の閾値D1を跨いで上回る位置P2を算出する。そして、位相検知部105は、例えば、位置P1と位置P2との中間位置P3を算出し、中間位置P3に対応するX軸線方向の位置P(
図10においては「0」)を、X軸線に平行な方向における中心位置Qとして割出す。尚、工具検出センサ64においては、例えば、工具ホルダ43の直径よりも小さい距離の測定精度が低下する場合がある。これに対して、位置P1と位置P2との中間位置P3を算出するようにすることにより、中心位置Qを正確に算出して割出すことができる。
【0071】
そして、位相検知部105は、割出した中心位置Qを、工具検出センサ64が工具ホルダ43の検知溝43a(即ち、加工用工具42の工具位相)を検出する際の第一検出位置に決定する(第三工程)。このように、ステップS14にて位相検知部105が工具ホルダ43の中心位置Qの割出し、第一検出位置を決定する(第三工程)と、制御装置100はステップS15に進む。
【0072】
再び、
図5のフローチャートに戻り、制御装置100(位置制御部104)は、ステップS15において、前記ステップS14にて設定した第一検出位置(割出した中心位置Q)に工具ホルダ43を配置する(第三工程)。即ち、位置制御部104は、
図11に示すように、X軸モータ11の駆動制御を行い、工具ホルダ43のX軸線方向の位置が前記ステップS14にて設定した第一検出位置(中心位置Q)に対応する位置P3と一致するように、コラム20をX軸線に平行な方向にて移動させる。制御装置100は、工具ホルダ43を第一検出位置に配置すると、ステップS16を実行する。
【0073】
ステップS16においては、制御装置100(位相検知部105)は、刃先42bの工具位相を検知する(第三工程)。この場合、位相検知部105は、工具回転制御部101と協働することによって工具位相を検知する。
【0074】
位相検知部105は、第一検出位置に配置された状態の工具検出センサ64によって検出される検出距離Dが検知溝43aの溝深さに相当する距離だけ変化したことに基づいて、検知溝43aを検知することができる。そして、工具ホルダ43の検知溝43aと加工用工具42の刃先42bとの予め定められた位置関係に基づいて、位相検知部105は、刃先42bの工具位相を検知することができる。
【0075】
このため、工具回転制御部101は、
図11に示すように、工具検出センサ64が工具ホルダ43に対して第一検出位置に配置された状態で、主軸モータ41の駆動制御を行い、回転主軸40を一方向に低速で回転させる。これにより、回転主軸40の先端に固定された工具ホルダ43及び加工用工具42も、一方向に低速で回転する。工具検出センサ64は、このように回転する工具ホルダ43との検出距離Dを検出する。
【0076】
そして、位相検知部105は、工具検出センサ64によって検出された検出距離Dが検知溝43aの溝深さ分だけ変化した回転位置に検知溝43aが存在することを検知する。これにより、位相検知部105は、検知溝43aに対応付けられた加工用工具42の刃先42bの工具位相を検知する。
【0077】
尚、工具位相の検知に際しては、回転主軸40即ち工具ホルダ43を複数回に亘って回転させる必要はなく、少なくとも1回転させるだけでも良い。又、より検知精度を向上させるために、先ず一方向に回転主軸40を回転させた後、他方向に回転主軸40を回転させるようにしても良い。これにより、工具検出センサ64によって検出される検出距離Dの変化即ち検知溝43aをより確実に検知することができ、その結果、工具位相の検知精度を向上させることができる。
【0078】
前記ステップS16にて工具位相を検知すると、制御装置100は、ステップS17の処理を実行する。即ち、ステップS17においては、制御装置100は、検知した工具位相を表す工具位相情報、例えば、エンコーダ41aによって検出された回転主軸40の回転位置を表す回転位置情報を記憶装置106に記憶する。そして、制御装置100は、ステップS17にて工具位相情報を記憶装置106に記憶すると、ステップS18の処理を実行する。
【0079】
ステップS18においては、制御装置100は、工作物Wの装着又は交換が行われたか否かの判定を実行する。即ち、制御装置100は、工作物Wの装着又は交換が行われていなければ、ステップS18にて「No」と判定し、ステップS23の処理を実行する。一方、制御装置100は、工作物Wの装着又は交換が行われていれば、ステップS18にて「Yes」と判定し、ステップS19の処理を実行する。
【0080】
ステップS19においては、制御装置100のチルト制御部103は、チルト制御部103は、A軸モータ61の駆動制御を行い、
図11に示すように、工作物Wの回転軸線であるC軸と加工用工具42(回転主軸40)の回転軸線Jとが平行になるように、チルトテーブル60を揺動させる。そして、制御装置100は、チルトテーブル60を揺動させると、ステップS20に進む。
【0081】
ステップS20においては、制御装置100の位相検知部105は、サドル30における工作物検出センサ31と回転主軸40との位置関係と、前記ステップS14にて割出した工具ホルダ43の中心位置Qとに基づいて、工作物検出センサ31の第二検出位置を決定する(第四工程)。そして、制御装置100の位置制御部104は、工作物検出センサ31を第二検出位置に配置する(第四工程)。
【0082】
具体的に、位置制御部104は、
図11に示すように工具ホルダ43(回転主軸40)を第一検出位置に配置しているコラム20を、
図12に示すように、工作物検出センサ31が工作物Wの歯位相を検出する第二検出位置に向けて移動させる。即ち、位置制御部104は、X軸モータ11の駆動制御を行い、コラム20(サドル30及び工作物検出センサ31)をX軸線に平行な方向に移動させる。又、位置制御部104は、Y軸モータ21の駆動制御を行い、コラム20(サドル30及び工作物検出センサ31)をY軸線に平行な方向に移動させる。これにより、位置制御部104は、最終的に、
図13に示すように、工作物検出センサ31を第二検出位置に配置する。
【0083】
ここで、回転主軸40と工作物検出センサ31とは、サドル30に対して相対移動不能に支持されている。又、上述したように、第一検出位置は、工具ホルダ43をX軸線に平行な方向に直線移動させることによって割出された中心位置Qに基づいて決定される。これにより、第一検出位置は、サドル30(コラム20)とチルトテーブル支持部63との各々の熱変位の影響を排除して決定されている。
【0084】
即ち、サドル30に対してチルトテーブル支持部63が熱変位した場合であっても、第一検出位置はチルトテーブル支持部63の熱変位を排除して決定されている。ここで、サドル30は、
図11に示すように、工具検出センサ64が第一検出位置に対応するように配置され、且つ、回転主軸40と工作物検出センサ31の相対移動不能に支持している。
【0085】
このサドル30を、
図13に示すように、工作物検出センサ31の第二検出位置に対応するように移動させた場合には、回転主軸40と工作物検出センサ31との位置関係が維持されているため、熱変位の有無に拘わらず、工作物Wと工作物検出センサ31との位置関係を不変にすることができる。即ち、歯車加工装置1においては、工作物Wの歯位相を検知する際には、中心位置Qを基準にすると共に回転主軸40と工作物検出センサ31との位置関係に基づいて、サドル30をX軸線に平行な方向に予め設定された距離だけ移動させると共にY軸線に平行な方向に予め設定された距離だけ移動させる。
【0086】
これにより、工作物検出センサ31の工作物Wに対する相対位置を同一にする第二検出位置に移動させることができる。その結果、歯車加工装置1においては、工作物Wの中心位置を割出すことなく歯位相(回転位置)を検知することができる。
【0087】
再び、
図5のフローチャートに戻り、ステップS21においては、制御装置100の位相検知部105は、工作物Wの歯位相(回転位置)を検知する(第四工程)。この場合、位相検知部105は、工作物回転制御部102と協働することによって工作物Wの歯位相(回転位置)を検知する。
【0088】
工作物回転制御部102は、
図13に示すように、例えば、位置制御部104の駆動制御によって工作物検出センサ31が伸縮機構によって第二検出位置に配置された状態で、C軸モータ62の駆動制御を行い、工作物Wを一方向に低速で回転させる。そして、工作物検出センサ31は、本例においては工作物Wの歯底面に対応する信号(例えば、電圧等)を出力する。
【0089】
これにより、位相検知部105は、工作物検出センサ31によって出力された信号と、エンコーダ62aから得られる工作物Wの回転角度情報とに基づき、工作物Wの歯位相を検知する。そして、制御装置100は、工作物Wの歯位相を検知すると、ステップS22の処理を実行する。
【0090】
ステップS22においては、位相検知部105は、工作物Wの歯位相を把握するに際し、工作物検出センサ31から得られる出力電圧情報と、C軸モータ62に設けられたエンコーダ62aから得られる工作物Wの回転角度情報とに基づき、工作物Wの歯位相を演算する。
【0091】
図14に示すように、工作物検出センサ31から出力される電圧の変化は、工作物Wの回転角度の変化に伴って周期的に上下するサイン波形となる。位相検知部105は、電圧の最大値と最小値との中間値を第二閾値Th1とし、電圧が第二閾値Th1を跨いで下回ったときの工作物Wの回転角度θ11、及び、電圧が第二閾値Th1を跨いで上回ったときの工作物Wの回転角度θ12を抽出する。そして、位相検知部105は、回転角度θ11と回転角度θ12との中間値となる回転角度θ1を演算する。
【0092】
この回転角度θ1は、工作物検出センサ31の第二検出位置と工作物Wの歯車の歯底面の中心位置とが一致したときの工作物Wの回転角度とみなすことができる。位相検知部105は、演算結果と記憶装置106に記憶された歯車の基本情報とに基づいて、歯底面の中心位置の歯位相を演算により求める。位相検知部105は、演算により得られた歯底面の中心位置の歯位相に関する情報を、工作物検出センサ31の検出結果として記憶装置106に記憶する。そして、制御装置100は、検知した工作物Wの歯位相(回転位置)を表す歯位相情報を記憶装置106に記憶すると、ステップS23の処理を実行する。
【0093】
尚、歯位相の検知に際しては、工作物Wを複数回に亘って回転させる必要はなく、少なくとも1回転、或いは、360度未満の回転角度だけ回転させるようにしても良い。又、より検知精度を向上させるために、先ず一方向に工作物Wを回転させた後、他方向に工作物Wを回転させるようにしても良い。
【0094】
ステップS23においては、制御装置100の位相検知部105は、記憶装置106に記憶された工具検出センサ64による検出結果と工作物検出センサ31による検出結果とに基づき、工作物Wの歯位相と加工用工具42の工具位相のずれ量を演算する。そして、位相検知部105は、工具回転制御部101及び工作物回転制御部102と協働して、演算したずれ量に基づき、工作物Wと加工用工具42との位相合わせを行う。
【0095】
位相検知部105は、記憶装置106に記憶された情報、即ち、工作物検出センサ31の検出結果と工具検出センサ64の検出結果とに基づいて、工作物Wの歯位相と加工用工具42の工具位相とのずれ量を演算により求める。そして、工具回転制御部101及び工作物回転制御部102は、演算により得られたずれ量に基づき、工作物Wの歯位相と加工用工具42の工具位相とが一致するように、工作物W及び加工用工具42の回転角度を調整する。制御装置100は、工作物W及び加工用工具42の回転角度の調整、即ち、位相合わせによる加工初期位置の調整が終了すると、
図4に示す歯車加工処理に戻る。
【0096】
以上の説明からも理解できるように、歯車加工装置1によれば、位相検知部105は、工具検出センサとしての工具検出センサ64によって検出された回転主軸体を構成する工具ホルダ43の中心位置Q(
図10の位置P1と位置P2との中間位置P3)を割出す。そして、位相検知部105は、工具ホルダ43の中心位置Q(中間位置P3)を算出して割出すことのみにより、工具ホルダ43の中心位置Q(中間位置P3)を用いて工具検出センサ64の第一検出位置及び工作物検出センサ31の第二検出位置を決定することができる。
【0097】
即ち、工具ホルダ43の中心位置Q(中間位置P3)を割出すことのみで、別途、工作物Wの中心位置を検出することが不要になる。これにより、例えば、加工用工具42や工作物Wの装着又は交換の際、或いは、熱変位が生じた場合であっても、工作物Wの中心位置を検出する工程を省略することができる。従って、加工用工具42及び工作物Wの各々の中心位置を割出すような煩雑な作業が生じず、又、工作物Wの中心位置を割出す時間が不要となるため、加工に要するサイクルタイムを短縮することが可能となる。
【0098】
(5.その他)
上述した本例においては、歯車加工装置1の回転主軸40(加工用工具42及び工具ホルダ43を含む回転主軸体)を、Z軸線に平行な方向に延びる回転軸線Jに直角なX軸線に平行な方向、即ち、水平方向であって「回転主軸体が横切る方向」に移動させるようにした。しかし、「回転主軸体が横切る方向」であれば、回転主軸40(加工用工具42及び工具ホルダ43を含む)を移動させる方向としてはX軸線に平行な方向に限られない。例えばY軸線に平行な方向即ち鉛直方向や、Z軸線に平行な方向、或いは、回転軸線Jに対して斜めとなる方向にて回転主軸40(加工用工具42及び工具ホルダ43を含む)を移動させることも可能である。
【0099】
これらの場合においても、工具検出センサ64によって検出される検出距離Dに基づいて工具ホルダ43(回転主軸40)の中心位置を割出すことができる。従って、上述した本例と同様の効果が期待できる。尚、特に、回転主軸40(加工用工具42及び工具ホルダ43を含む)をY軸線に平行な方向即ち鉛直方向に移動させる場合には、中心位置のずれを生じさせる要因として、熱変位の影響に加えて重力の影響も加わる。
【0100】
従って、この場合には、例えば、演算により、重力の影響による中心位置のずれを補正するようにすると良い。ここで、重力の影響を補正する場合には、例えば、鉛直方向が検出方向である工具検出センサ64の検出結果と、水平方向が検出方向である工具検出センサ64の検出結果とを用いて、中心位置を割出すことも可能である。これにより、中心位置の割出しをより高精度に行うことが可能となる。
【0101】
又、上述した本例においては、位相検知部105は、割出した工具ホルダ43の中心位置Qと一致するように第一検出位置を決定した。これに代えて、必要に応じ、割出した工具ホルダ43の中心位置Qに基づいて、中心位置Qとは異なる第一検出位置を決定するようにしても良い。この場合においても、工具ホルダ43の中心位置Qに基づくことにより、例えば、熱変位の影響を排除して第一検出位置を決定することができる。
【0102】
又、上述した本例においては、歯車加工装置1のコラム20(サドル30)がX軸線に平行な方向へ移動すると共にY軸線に平行な方向へ移動し、テーブル50(チルトテーブル支持部63)がZ軸線に平行な方向へ移動するようにした。これに代えて、例えば、テーブル50をベッド10に対して交代移動不能に固定し、コラム20(サドル30)がX軸線に平行な方向、Y軸線に平行な方向及びZ軸線に平行な方向へ移動するように構成することも可能である。
【0103】
このように歯車加工装置1を構成した場合であっても、上述した本例と同様に、サドル30即ち工作物検出センサ31及び回転主軸40(加工用工具42と工具ホルダ43とを含む)とチルトテーブル支持部63即ち工具検出センサ64及び工作物Wとの相対位置を変更することが可能である。従って、この場合においても、上述した本例と同様の効果が得られる。
【0104】
又、上述した本例においては、工具検出センサ64が、X軸線に平行な方向、即ち、「回転主軸体が横切る方向」に移動している工具ホルダ43の外周面まで距離を検出することにより、工具ホルダ43の中心位置Qを割出すようにした。これに代えて、工具検出センサ64が、X軸線に平行な方向、即ち、「回転主軸体が横切る方向」に移動している回転主軸40の外周面まで距離を検出することにより、回転主軸40の中心位置を割出すことも可能である。或いは、工具検出センサ64がX軸線に平行な方向、即ち、「回転主軸体が横切る方向」に移動している加工用工具42の外周面まで距離を検出することにより、加工用工具42の刃先42bの工具位相を直接割出すことも可能である。このように、回転主軸40の中心位置や、加工用工具42の工具位相を割出す場合においても、上述した本例と同様の効果が得られる。
【0105】
又、上述した本例においては、工具検出センサとしての工具検出センサ64が回転主軸体までの距離を検出し、工作物検出センサ31が工作物Wまでの距離を検出するようにした。工具検出センサ及び工作物検出センサが検出する物理量としては距離に限定されるものではなく、例えば、工具検出センサ及び工作物検出センサが電磁的な物理量の強弱や接触子の直接的な変位を検出しても良い。
【0106】
又、上述した本例においては、歯車加工装置1が工具交換装置90を備え、工作物Wに対する加工内容に応じて加工用工具42を自動的に交換することが可能となるようにした。しかしながら、必ずしも歯車加工装置1が工具交換装置90を備えている必要はなく、工具交換装置90を省略して歯車加工装置1を構成することも可能である。
【0107】
このように、工具交換装置90を省略した場合であっても、例えば、加工用工具42の摩耗や破損が生じた場合には加工用工具42が手動で交換される。そして、加工用工具42が手動によって交換された場合にも、上述したように、工具ホルダ43の中心位置Qが割出されることにより、本例と同様の効果が得られる。
【0108】
又、上述した本例においては、歯車加工装置1のサドル30に工作物検出センサ31のみが固定される場合を例示した。しかしながら、サドル30に工作物検出センサ31以外であり、且つ、工作物Wの加工状態を検出する他のセンサを設けることが可能であることは言うまでもない。この場合においても、工具検出センサ64による検出結果を他のセンサの検出位置の決定に用いることにより、別途、他のセンサの検出位置を決定するために工作物Wの工作物の中心位置を割出す必要がない。従って、この場合においても、上述した本例と同様の効果が得られる。
【0109】
更に、上述した本例においては、加工用工具42がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、加工用工具がホブカッタである場合には、歯車加工装置は、ホブ加工により歯車加工を行うことが可能である。
【0110】
この場合、歯車加工装置においては、ホブカッタの回転軸線と工作物の回転軸線とが交差(例えば、直交)するように、ホブカッタ及び工作物が配置される。歯車加工装置は、歯車加工時において、工作物及びホブカッタを各々回転させながら、ホブカッタを回転軸線方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物に歯車を加工する。
【0111】
そして、歯車加工装置は、加工用工具の交換時において、上述した本例と同様に、ホブカッタの工具位相を検知すると共に工作物の歯位相を検知し、工作物とホブカッタとの位相を合わせる。これにより、歯車加工装置は、ホブカッタを用いたホブ加工により歯車加工を行う場合において、例えば、ホブカッタや工作物の装着又は交換の際、或いは、熱変位が生じた場合であっても、工作物の中心位置を検出する工程を省略することができる。従って、この場合においても、上述した本例と同様に、ホブカッタ及び工作物の各々の中心位置を割出すような煩雑な作業が生じず、又、工作物の中心位置を割出す時間が不要となるため、加工に要するサイクルタイムを短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0112】
1…歯車加工装置、10…ベッド、11…X軸モータ、12…Z軸モータ、20…コラム(工具保持装置)、20a…側面(摺動面)、21…Y軸モータ、30…サドル(工具保持装置)、30a…側面、31…工作物検出センサ、40…回転主軸(回転主軸体)、41…主軸モータ、41a…エンコーダ、42…加工用工具(回転主軸体)、42a…工具刃、42b…刃先、42c…刃溝、43…工具ホルダ(回転主軸体)、43a…検知溝、50…テーブル、60…チルトテーブル、61…A軸モータ、62…C軸モータ、62a…エンコーダ、63…チルトテーブル支持部(工作物支持装置)、63a…側面、64…工具検出センサ、70…ターンテーブル(工作物支持装置)、80…保持器(工作物支持装置)、90…工具交換装置、100…制御装置、101…工具回転制御部、102…工作物回転制御部、103…チルト制御部、104…位置制御部、105…位相検知部、106…記憶装置、W…工作物、L1…検出位置ずれ量、L2…工具ホルダと工具検出センサとの距離、θ…検知溝検出誤差、D…検出距離、D1…閾値、P3…中間位置、Q…中心位置