(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】静圧流体支持装置を備えた工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/38 20060101AFI20240319BHJP
F16C 32/06 20060101ALI20240319BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20240319BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20240319BHJP
B24B 41/04 20060101ALI20240319BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240319BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240319BHJP
B23Q 15/12 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B23Q1/38 A
F16C32/06 C
B23Q17/12
B23B19/02 B
B24B41/04
B24B49/10
F16F15/02 A
B23Q15/12 A
(21)【出願番号】P 2020043197
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】杉本 太
(72)【発明者】
【氏名】大和 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】金箱 孝則
(72)【発明者】
【氏名】荒川 直矢
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04643592(US,A)
【文献】特開2009-255507(JP,A)
【文献】特表2000-515231(JP,A)
【文献】特開2020-197276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/38
B23Q 15/12
B23Q 17/12
B23B 19/02
B24B 41/04
B24B 49/10
F16C 32/06
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体に対して移動可能な移動体と、
流体を介して前記移動体を前記支持体に対して相対移動可能に支持する静圧流体支持装置と、
互いに交差する第1軸、第2軸方向における前記移動体の振動を測定可能な第1、第2振動測定装置と、
を備え、
前記静圧流体支持装置は、
前記支持体及び前記移動体の一方に設けられ、前記支持体及び前記移動体の他方に対して前記第1軸、第2軸方向に対向する位置にそれぞれ配置された第1、第2静圧ポケットと、
前記流体を供給する流体供給装置と、
前記流体供給装置から供給された流体を前記第1、第2静圧ポケットへ案内する第1、第2流体案内流路と、
前記第1、第2流体案内流路に設けられ、絞り開度を変えることで前記第1、第2静圧ポケットに供給される前記流体の流量を調整可能な能動型の第1、第2可変絞り弁と、
前記
第1、第2振動測定装置による測定結果に基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を能動的に調整する弁制御装置と、
を備え、
前記弁制御装置は、
前記第1、第2振動測定装置による測定結果である第1、第2測定波形データに基づいて得られた第1、第2基準波形データを取得する基準波形データ取得部と、
前記第1、第2基準波形データに基づいて第1、第2最適波形データを生成する最適波形データ生成部と、
前記第1、第2最適波形データを記憶する最適波形データ記憶部と、
前記第1、第2最適波形データに基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整する絞り開度調整部と、
を備え、
前記最適波形データ生成部は、
前記第1、第2基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へシフトさせた第1、第2位相調整波形データを生成する位相調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2位相調整波形データの第1、第2最適シフト時間を導出する最適シフト時間導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データを記憶
し、
前記最適シフト時間導出部は、前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間と前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間とを交互に変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適シフト時間を導出する、工作機械。
【請求項2】
支持体と、
前記支持体に対して移動可能な移動体と、
流体を介して前記移動体を前記支持体に対して相対移動可能に支持する静圧流体支持装置と、
互いに交差する第1軸、第2軸方向における前記移動体の振動を測定可能な第1、第2振動測定装置と、
を備え、
前記静圧流体支持装置は、
前記支持体及び前記移動体の一方に設けられ、前記支持体及び前記移動体の他方に対して前記第1軸、第2軸方向に対向する位置にそれぞれ配置された第1、第2静圧ポケットと、
前記流体を供給する流体供給装置と、
前記流体供給装置から供給された流体を前記第1、第2静圧ポケットへ案内する第1、第2流体案内流路と、
前記第1、第2流体案内流路に設けられ、絞り開度を変えることで前記第1、第2静圧ポケットに供給される前記流体の流量を調整可能な能動型の第1、第2可変絞り弁と、
前記
第1、第2振動測定装置による測定結果に基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を能動的に調整する弁制御装置と、
を備え、
前記弁制御装置は、
前記第1、第2振動測定装置による測定結果である第1、第2測定波形データに基づいて得られた第1、第2基準波形データを取得する基準波形データ取得部と、
前記第1、第2基準波形データに基づいて第1、第2最適波形データを生成する最適波形データ生成部と、
前記第1、第2最適波形データを記憶する最適波形データ記憶部と、
前記第1、第2最適波形データに基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整する絞り開度調整部と、
を備え、
前記最適波形データ生成部は、
前記第1、第2基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へシフトさせた第1、第2位相調整波形データを生成する位相調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2位相調整波形データの第1、第2最適シフト時間を導出する最適シフト時間導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データを記憶
し、
前記最適シフト時間導出部は、
前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間を順次変えながら前記第1位相調整波形データに基づいて前記第1可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第1最適シフト時間を導出し、
その後、
前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間を順次変えながら前記第2位相調整波形データに基づいて前記第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第2最適シフト時間を導出し、
さらにその後、
前記仮第1最適シフト時間を前記第1位相調整波形データの初期シフト時間とし、前記仮第2最適シフト時間を前記第2位相調整波形データの初期シフト時間として用いて、
前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間と前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間とを交互に変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適シフト時間を導出する、工作機械。
【請求項3】
支持体と、
前記支持体に対して移動可能な移動体と、
流体を介して前記移動体を前記支持体に対して相対移動可能に支持する静圧流体支持装置と、
互いに交差する第1軸、第2軸方向における前記移動体の振動を測定可能な第1、第2振動測定装置と、
を備え、
前記静圧流体支持装置は、
前記支持体及び前記移動体の一方に設けられ、前記支持体及び前記移動体の他方に対して前記第1軸、第2軸方向に対向する位置にそれぞれ配置された第1、第2静圧ポケットと、
前記流体を供給する流体供給装置と、
前記流体供給装置から供給された流体を前記第1、第2静圧ポケットへ案内する第1、第2流体案内流路と、
前記第1、第2流体案内流路に設けられ、絞り開度を変えることで前記第1、第2静圧ポケットに供給される前記流体の流量を調整可能な能動型の第1、第2可変絞り弁と、
前記
第1、第2振動測定装置による測定結果に基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を能動的に調整する弁制御装置と、
を備え、
前記弁制御装置は、
前記第1、第2振動測定装置による測定結果である第1、第2測定波形データに基づいて得られた第1、第2基準波形データを取得する基準波形データ取得部と、
前記第1、第2基準波形データに基づいて第1、第2最適波形データを生成する最適波形データ生成部と、
前記第1、第2最適波形データを記憶する最適波形データ記憶部と、
前記第1、第2最適波形データに基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整する絞り開度調整部と、
を備え、
前記最適波形データ生成部は、
前記第1、第2基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へシフトさせた第1、第2位相調整波形データを生成する位相調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1、第2位相調整波形データのシフト時間を変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2位相調整波形データの第1、第2最適シフト時間を導出する最適シフト時間導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データを記憶
し、
前記最適シフト時間導出部は、前記第1最適シフト時間及び前記第2最適シフト時間の両方を一旦導出した後、前記第1、第2基準波形データの振幅が所定の閾値を下回るまで前記第1、第2最適シフト時間の導出を繰り返して最終調整を行う、工作機械。
【請求項4】
支持体と、
前記支持体に対して移動可能な移動体と、
流体を介して前記移動体を前記支持体に対して相対移動可能に支持する静圧流体支持装置と、
互いに交差する第1軸、第2軸方向における前記移動体の振動を測定可能な第1、第2振動測定装置と、
を備え、
前記静圧流体支持装置は、
前記支持体及び前記移動体の一方に設けられ、前記支持体及び前記移動体の他方に対して前記第1軸、第2軸方向に対向する位置にそれぞれ配置された第1、第2静圧ポケットと、
前記流体を供給する流体供給装置と、
前記流体供給装置から供給された流体を前記第1、第2静圧ポケットへ案内する第1、第2流体案内流路と、
前記第1、第2流体案内流路に設けられ、絞り開度を変えることで前記第1、第2静圧ポケットに供給される前記流体の流量を調整可能な能動型の第1、第2可変絞り弁と、
前記
第1、第2振動測定装置による測定結果に基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を能動的に調整する弁制御装置と、
を備え、
前記弁制御装置は、
前記第1、第2振動測定装置による測定結果である第1、第2測定波形データに基づいて得られた第1、第2基準波形データを取得する基準波形データ取得部と、
前記第1、第2基準波形データに基づいて第1、第2最適波形データを生成する最適波形データ生成部と、
前記第1、第2最適波形データを記憶する最適波形データ記憶部と、
前記第1、第2最適波形データに基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整する絞り開度調整部と、
を備え、
前記最適波形データ生成部は、
前記第1、第2基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へシフトさせた第1、第2位相調整波形データを生成する位相調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1、第2位相調整波形データのシフト時間を変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2位相調整波形データの第1、第2最適シフト時間を導出する最適シフト時間導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データを記憶
し、
前記最適波形データ生成部は、さらに、
前記第1、第2位相調整波形データに対してゲインを調整した第1、第2ゲイン調整波形データを生成するゲイン調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2ゲイン調整波形データの第1、第2最適ゲインを導出する最適ゲイン導出部と、
を備え、
前記最適ゲイン導出部は、前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量と前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量とを交互に変えながら前記第1、第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適ゲインを導出し、
前記最適波形データ記憶部は、前記第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせると共に前記第1、第2最適ゲインだけゲインを調整した前記第1、第2最適波形データを記憶する、工作機械。
【請求項5】
支持体と、
前記支持体に対して移動可能な移動体と、
流体を介して前記移動体を前記支持体に対して相対移動可能に支持する静圧流体支持装置と、
互いに交差する第1軸、第2軸方向における前記移動体の振動を測定可能な第1、第2振動測定装置と、
を備え、
前記静圧流体支持装置は、
前記支持体及び前記移動体の一方に設けられ、前記支持体及び前記移動体の他方に対して前記第1軸、第2軸方向に対向する位置にそれぞれ配置された第1、第2静圧ポケットと、
前記流体を供給する流体供給装置と、
前記流体供給装置から供給された流体を前記第1、第2静圧ポケットへ案内する第1、第2流体案内流路と、
前記第1、第2流体案内流路に設けられ、絞り開度を変えることで前記第1、第2静圧ポケットに供給される前記流体の流量を調整可能な能動型の第1、第2可変絞り弁と、
前記
第1、第2振動測定装置による測定結果に基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を能動的に調整する弁制御装置と、
を備え、
前記弁制御装置は、
前記第1、第2振動測定装置による測定結果である第1、第2測定波形データに基づいて得られた第1、第2基準波形データを取得する基準波形データ取得部と、
前記第1、第2基準波形データに基づいて第1、第2最適波形データを生成する最適波形データ生成部と、
前記第1、第2最適波形データを記憶する最適波形データ記憶部と、
前記第1、第2最適波形データに基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整する絞り開度調整部と、
を備え、
前記最適波形データ生成部は、
前記第1、第2基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へシフトさせた第1、第2位相調整波形データを生成する位相調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1、第2位相調整波形データのシフト時間を変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2位相調整波形データの第1、第2最適シフト時間を導出する最適シフト時間導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データを記憶
し、
前記最適波形データ生成部は、さらに、
前記第1、第2位相調整波形データに対してゲインを調整した第1、第2ゲイン調整波形データを生成するゲイン調整波形データ生成部と、
前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2ゲイン調整波形データの第1、第2最適ゲインを導出する最適ゲイン導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、前記第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2
最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせると共に前記第1、第2最適ゲインだけゲインを調整した前記第1、第2最適波形データを記憶し、
前記最適ゲイン導出部は、
前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながら前記第1ゲイン調整波形データに基づいて前記第1可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第1最適ゲインを導出し、
その後、
前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながら前記第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第2最適ゲインを導出し、
さらにその後、
前記仮第1最適ゲインを前記第1ゲイン調整波形データの初期ゲインとし、前記仮第2最適ゲインを前記第2ゲイン調整波形データの初期ゲインとして用いて、
前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量と前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量とを交互に変えながら前記第1、第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適ゲインを導出する、工作機械。
【請求項6】
前記最適シフト時間導出部は、前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間と前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間とを交互に変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適シフト時間を導出する、請求項
3乃至5の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項7】
前記最適シフト時間導出部は、
前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間を順次変えながら前記第1位相調整波形データに基づいて前記第1可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1最適シフト時間を導出し、
その後、
前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間を順次変えながら前記第2位相調整波形データに基づいて前記第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第2最適シフト時間を導出する、請求項
3乃至5の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項8】
前記最適シフト時間導出部は、
前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間を順次変えながら前記第1位相調整波形データに基づいて前記第1可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第1最適シフト時間を導出し、
その後、
前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間を順次変えながら前記第2位相調整波形データに基づいて前記第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第2最適シフト時間を導出し、
さらにその後、
前記仮第1最適シフト時間を前記第1位相調整波形データの初期シフト時間とし、前記仮第2最適シフト時間を前記第2位相調整波形データの初期シフト時間として用いて、
前記第1基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1位相調整波形データのシフト時間と前記第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第2位相調整波形データのシフト時間とを交互に変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適シフト時間を導出する、請求項
3乃至5の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項9】
前記最適シフト時間導出部は、前記第1最適シフト時間及び前記第2最適シフト時間の両方を一旦導出した後、前記第1、第2基準波形データの振幅が所定の閾値を下回るまで前記第1、第2最適シフト時間の導出を繰り返して最終調整を行う、請求項
1,2,4,5の何れか一項1乃至4の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項10】
前記最適波形データ生成部は、さらに、
前記第1、第2位相調整波形データに対してゲインを調整した第1、第2ゲイン調整波形データを生成するゲイン調整波形データ生成部と、
前記第1、第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量を変えながら前記第1、第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2ゲイン調整波形データの第1、第2最適ゲインを導出する最適ゲイン導出部と、
を備え、
前記最適波形データ記憶部は、前記第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2
最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせると共に前記第1、第2最適ゲインだけゲインを調整した前記第1、第2最適波形データを記憶する、請求項1乃至
3の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項11】
前記最適ゲイン導出部は、前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量と前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量とを交互に変えながら前記第1、第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適ゲインを導出する、請求項
10に記載の工作機械。
【請求項12】
前記最適ゲイン導出部は、
前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながら前記第1ゲイン調整波形データに基づいて前記第1可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1最適ゲインを導出し、
その後、
前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながら前記第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第2最適ゲインを導出する、請求項
10に記載の工作機械。
【請求項13】
前記最適ゲイン導出部は、
前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながら前記第1ゲイン調整波形データに基づいて前記第1可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第1最適ゲインを導出し、
その後、
前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながら前記第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な仮第2最適ゲインを導出し、
さらにその後、
前記仮第1最適ゲインを前記第1ゲイン調整波形データの初期ゲインとし、前記仮第2最適ゲインを前記第2ゲイン調整波形データの初期ゲインとして用いて、
前記第1位相調整波形データに対する前記第1ゲイン調整波形データのゲイン調整量と前記第2位相調整波形データに対する前記第2ゲイン調整波形データのゲイン調整量とを交互に変えながら前記第1、第2ゲイン調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2最適ゲインを導出する、請求項
10に記載の工作機械。
【請求項14】
前記最適ゲイン導出部は、前記第1最適ゲイン及び前記第2最適ゲインの両方を一旦導出した後、前記第1、第2基準波形データの振幅が所定の閾値を下回るまで前記第1、第2最適ゲインの導出を繰り返して最終調整を行う、請求項
4、5、10乃至
13の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項15】
前記支持体は、円筒形状の内周面に前記第1、第2静圧ポケットを含む複数の静圧ポケットを周方向に配置した軸受本体であり、
前記移動体は、前記軸受本体の内周側に配置される回転可能な回転軸体であり、
前記静圧流体支持装置は、前記各静圧ポケットを介して前記回転軸体と前記軸受本体との間に充填される流体の圧力により前記回転軸体を回転可能に支持する、請求項1乃至
14の何れか一項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静圧流体支持装置を備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
静圧流体支持装置を備えた工作機械が知られている。例えば、特許文献1には、対向する移動体及び固定体の面の一方に静圧ポケットを備えた静圧流体支持(軸受)装置が開示されている。特許文献1に記載の静圧流体支持装置では、ポンプによって加圧された流体が静圧ポケットに供給され、移動体と固定体との間に所定の厚さの流体膜が形成される。これにより、移動体が固定体に対して非接触に支持されて摩擦が低減され、移動体及び固定体が高精度に相対移動可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、移動体に加わる外乱負荷に応じて静圧ポケットに供給する流体の流量を能動的に調整することにより、移動体の振動を抑制できることを見出した。しかしながら、静圧流体支持装置に設けられる可変絞り弁の絞り開度を変えてから静圧ポケットに供給される流体の流量が変化するまでに一定のタイムラグが生じる。つまり、移動体に加わる外乱負荷の変化に合わせて可変絞り弁の絞り開度を変えたとしても、静圧ポケットに供給される流体の流量の変化は、移動体に加わる外乱負荷の変化と一致せず、移動体の振動を十分に抑制することができない。また、移動体としての回転軸を円筒状の軸受本体で静圧流体支持する構成においては、回転軸の振動には上下左右の2軸方向の成分が含まれているため、2軸方向の振動を抑制する必要ある。
【0005】
本発明は、移動体に加わる外乱負荷に応じて静圧ポケットに供給する流体の流量を調整することにより、移動体の2軸方向の振動を抑制する静圧流体支持装置を備えた工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る工作機械は、支持体と、前記支持体に対して移動可能な移動体と、流体を介して前記移動体を前記支持体に対して相対移動可能に支持する静圧流体支持装置と、互いに交差する第1軸、第2軸方向における前記移動体の振動を測定可能な第1、第2振動測定装置とを備える。前記静圧流体支持装置は、前記支持体及び前記移動体の一方に設けられ、前記支持体及び前記移動体の他方に対して前記第1軸、第2軸方向に対向する位置にそれぞれ配置された第1、第2静圧ポケットと、前記流体を供給する流体供給装置と、前記流体供給装置から供給された流体を前記第1、第2静圧ポケットへ案内する第1、第2流体案内流路と、前記第1、第2流体案内流路に設けられ、絞り開度を変えることで前記第1、第2静圧ポケットに供給される前記流体の流量を調整可能な能動型の第1、第2可変絞り弁と、前記第1、第2振動測定装置による測定結果に基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を能動的に調整する弁制御装置とを備える。
【0007】
前記弁制御装置は、前記第1、第2振動測定装置による測定結果である第1、第2測定波形データに基づいて得られた第1、第2基準波形データを取得する基準波形データ取得部と、前記第1、第2基準波形データに基づいて第1、第2最適波形データを生成する最適波形データ生成部と、前記第1、第2最適波形データに基づいて、前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整する絞り開度調整部とを備える。
【0008】
前記最適波形データ生成部は、前記第1、第2基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へシフトさせた第1、第2位相調整波形データを生成する位相調整波形データ生成部と、前記第1、第2基準波形データの逆位相の波形データに対する前記第1、第2位相調整波形データのシフト時間を変えながら前記第1、第2位相調整波形データに基づいて前記第1、第2可変絞り弁の前記絞り開度を調整した場合に、前記第1、第2基準波形データの振幅の変化を観察することにより、前記第1、第2基準波形データの振幅を小さくするのに最適な前記第1、第2位相調整波形データの第1、第2最適シフト時間を導出する最適シフト時間導出部と、前記最適シフト時間導出部は、第1、第2基準波形データに対して前記第1、第2最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データを記憶する最適波形データ記憶部とを備える。
【0009】
本発明に係る工作機械によれば、絞り開度調整部は、第1、第2基準波形データに対して最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データに基づいて絞り開度を調整する。ここで、各可変絞り弁において絞り開度を調整した場合に、絞り開度を調整したタイミングと各静圧ポケットに供給される流体の流量が変更されるタイミングとは、時間にずれを生じる。つまり、各基準波形データそのものに基づいて絞り開度を調整した場合には、各静圧ポケットへ供給する流体の流量を、適切な量とすることができない。そこで、上述したように、絞り開度調整部によって調整する第1、第2絞り開度は、第1、第2基準波形データに対して最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせた第1、第2最適波形データに基づいて調整されている。よって、静圧流体支持装置は、移動体に加わる外乱負荷の変化に応じて第1、第2静圧ポケットに供給される流体の流量を適切に変化させることができる。その結果、当該工作機械は、移動体の2軸方向における振動を確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】工作機械における静圧流体支持に関する構成の全体を示す全体構成図である。
【
図2】
図1において静圧ポケットを拡大して示す説明図である。
【
図3】工作機械を構成する可変絞り弁の拡大断面図である。
【
図4】工作機械を構成する弁制御装置の機能ブロック図である。
【
図5】弁制御装置の最適波形データ生成部の機能ブロック図である。
【
図6】変位波形データDW、最適流量波形データBFW及び流量波形データFWを模式的に示したグラフである。
【
図7】最適流量波形データBFW及び位相調整波形データRW1を模式的に示したグラフである。
【
図8】最適流量波形データBFW、位相調整波形データRW1及び位相調整流量波形データFW1を模式的に示したグラフである。
【
図9】最適流量波形データBFW、位相調整波形データRW1、ゲイン調整波形データRW2、位相調整流量波形データFW1及びゲイン調整流量波形データFW2を模式的に示したグラフである。
【
図10】基準波形データの振幅及び移動体の変位の時系列変化と、シフト時間及びゲインの時系列変化との関係を示す図である。なお、
図9の最下図において太線がシフト時間を示し、細線がゲインを示す。
【
図11】基準波形データの振幅と、基準波形データに対する流量波形データの位相ずれ量との関係を示すグラフである。
【
図12】基準波形データの振幅と、基準波形データに対する流量波形データのゲインの差との関係を示すグラフである。
【
図13】弁制御装置により実行される絞り開度調整処理を示すフローチャートである。
【
図14】絞り開度調整処理の中で実行される最適波形データ生成処理を示すフローチャートである。
【
図15】最適波形データ生成処理の中で実行される第一実施形態に係る最適シフト時間導出処理を示すフローチャートである。
【
図16】最適シフト時間導出処理の中で実行される最適シフト時間最終調整処理を示すフローチャートである。
【
図17】最適シフト時間導出処理の中で実行される位相シフト調整ルーチンを示すフローチャートである。
【
図18】第一実施形態に係る最適波形データ生成処理の中で実行される最適ゲイン導出処理を示すフローチャートである。
【
図19】最適ゲイン導出処理の中で実行される最適ゲイン最終調整処理を示すフローチャートである。
【
図20】最適ゲイン導出処理の中で実行されるゲイン調整ルーチンを示すフローチャートである。
【
図21】第一実施形態に係る最適シフト時間の導出手順及び最適ゲインの導出手順の一例を示す模式図である。
【
図22】制御実施前と制御実施後の静圧ポケットの供給流量と軸変位量とを示すグラフである。
【
図23】最適波形データ生成処理の中で実行される第二実施形態に係る最適シフト時間導出処理を示すフローチャートである。
【
図24】最適波形データ生成処理の中で実行される第二実施形態に係る最適ゲイン導出処理を示すフローチャートである。
【
図25】第二実施形態に係る最適シフト時間導出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図26】第二実施形態に係る最適ゲイン導出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図27】第二実施形態に係る最適シフト時間の導出手順及び最適ゲインの導出手順の一例を示す模式図である。
【
図28】最適波形データ生成処理の中で実行される第三実施形態に係る最適シフト時間導出処理を示すフローチャートである。
【
図29】最適波形データ生成処理の中で実行される第三実施形態に係る最適ゲイン導出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第一実施形態]
(1.工作機械1の構成)
本発明を具体化した工作機械の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明に係る工作機械1は、例えば、研削盤、マシニングセンタ等である。工作機械1は、例えば、研削盤の砥石軸等の回転軸体である移動体に対して、移動体の直径方向の荷重であるラジアル荷重を静圧流体支持するジャーナル静圧軸受装置を備える。特に、本例においては、静圧流体支持装置における静圧ポケットに供給する流体の流量を能動的に調整することによって、移動体の振動を減衰させることができる。
【0012】
工作機械1の構成について、
図1、
図2を参照して説明する。ただし、
図1、
図2には、工作機械1における静圧流体支持に関する構成のみを図示する。工作機械1は、円筒状の軸受本体である支持体2と、回転軸体である移動体3と、静圧流体支持装置100とを主に備える。静圧流体支持装置100は、流体Fを介して移動体3を支持体2に対して回転可能(移動可能)に支持する装置である。なお、
図1、
図2に示す矢印は、流体Fが流れる方向を示す。
【0013】
(2.静圧流体支持装置100の詳細構成)
静圧流体支持装置100の詳細構成について、
図1、
図2を参照しつつ説明する。
図1に示すように、静圧流体支持装置100は、4つの静圧ポケット10-1~10-4と、流体供給装置20と、流体案内流路30と、能動型の可変絞り弁40-1,40-4と、固定絞りNZと、弁制御装置50とを備える。
【0014】
静圧ポケット10-1~10-4は、支持体2に設けられ、移動体3と対向する位置に配置される。本例においては、静圧ポケット10-1~10-4は、支持体2の内周に移動体3と対向する面に配置される。静圧ポケット10-1~10-4は、支持体2の内周面に90度間隔で配置される。具体的には、静圧ポケット10-1は、支持体2の内周面上側に、静圧ポケット10-2は、支持体2の内周面左側に、静圧ポケット10-3は、支持体2の内周面下側に、静圧ポケット10-4は、支持体2の内周面右側にそれぞれ配置される。つまり、静圧ポケット10-1と10-3とは、上下方向(Y軸方向)に対向配置され、静圧ポケット10-2と10-4とは、左右方向(X軸方向)に対向配置される。流体供給装置20は、流体Fを供給する装置であって、例えば油圧ポンプである。流体Fは、例えば、潤滑油である。尚、Y軸が本発明の第1軸に、X軸方向が第2軸に相当する。
【0015】
流体案内流路30は、流体供給装置20から供給された流体Fを静圧ポケット10-1~10-4に案内する流路である。つまり、流体供給装置20から供給された流体Fは、流体案内流路30を介して静圧ポケット10-1~10-4に流入する。そして、静圧ポケット10-1~10-4に流入した流体Fは、支持体2と移動体3との間を通過する。このように、静圧流体支持装置100は、支持体2と移動体3との間に流体Fを送りこむことにより、支持体2に対して移動体3を低摩擦で相対移動可能に支持する。
【0016】
可変絞り弁40-1,40-4は、静圧ポケット10-1,10-4へ通じる流体案内流路30の途中に設けられる。可変絞り弁40-1,40-4は、絞り開度を変えることにより、静圧ポケット10-1,10-4へ供給する流体Fの流量を能動的に調整する。弁制御装置50は、可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を調整するための制御装置である。
【0017】
固定絞りNZは、静圧ポケット10-2,10-3へ通じる流体案内流路30の途中にそれぞれ設けられる。各固定絞りNZは、絞り開度が固定され、静圧ポケット10-2,10-3へ一定流量の流体Fを供給する。
【0018】
(3.可変絞り弁40の構成)
可変絞り弁40-1,40-4の構成について、
図3を参照して説明する。尚、可変絞り弁40-1,40-4は同一構成であるので、本明細書において両者を区別しないときは枝番を付さずに可変絞り弁40と表記することとする。可変絞り弁40は、絞り開度を能動的に調整可能とすることにより、静圧ポケット10(10-1,10-4)へ供給する流体Fの流量を能動的に調整することができる。可変絞り弁40は、ダイアフラムによる可変絞りタイプ、スプール弁による可変絞りタイプ等が存在する。本例において、可変絞り弁40は、ダイアフラムによる可変絞りタイプを例にあげる。
【0019】
可変絞り弁40は、
図3に示すように、ハウジング41と、ダイアフラム42と、連通通路43と、アクチュエータ44とを主に備える。ハウジング41は、流体案内流路30によって流体供給装置20から静圧ポケット10へ案内される流体Fが流入出する円筒状の部材である。ハウジング41には、流入通路45及び流出通路46が形成される。流入通路45は、流体供給装置20から延びる流体案内流路30とハウジング41の内部とに連通する通路であり、流体供給装置20から供給された流体Fは、流入通路45を通過してハウジング41の内部に流入する。流出通路46は、静圧ポケット10から延びる流体案内流路30とハウジング41の内部とに連通する通路であり、静圧ポケット10には、流出通路46を通過してハウジング41の内部から流出した流体Fが流入する。
【0020】
流入通路45を通過した流体Fがハウジング41の内部に流入する際の入口となる流入口45aと、ハウジング41の内部の流体Fが流出通路46に流出する際の出口となる流出口46aとは、ハウジング41の内部において対向する位置に配置される。さらに、ハウジング41には、流出口46aが形成される部位であって、流入口45aが形成される部位に向けて突出する弁座47が形成される。
【0021】
ダイアフラム42は、鋼材等からなる弾性部材である。ダイアフラム42は、例えば円形に形成され、ダイアフラム42の周縁部分は、ハウジング41に保持される。また、ダイアフラム42は、ハウジング41の内部を区画する。具体的に、ハウジング41は、ダイアフラム42によって、流入通路45に連通する空間である流体貯留室48と、流出通路46に連通する空間である流体供給室49とに区画される。ダイアフラム42は、弁座47と所定の隙間Dを隔てて対向し、隙間Dにより絞りを形成する。流体供給室49に流入した流体は、絞りとしての隙間Dを通過して流出口46aから流出する。つまり、隙間Dの寸法は、可変絞り弁40における絞り開度に相当する。
【0022】
連通通路43は、流体貯留室48と流体供給室49とに連通する通路であり、流体貯留室48に流入した流体は、連通通路43を通過することで流体供給室49に流入する。このように、可変絞り弁40において、流入通路45、流体貯留室48、連通通路43、流体供給室49及び流出通路46は、流体案内流路30の一部を構成する。
【0023】
アクチュエータ44は、流体貯留室48に収容されており、例えば、ボイスコイルモータ(VCM)やソレノイドにより構成される。アクチュエータ44は、弁制御装置50により駆動制御される。アクチュエータ44は、固定子44aと、可動子44bとを備える。固定子44aは、ハウジング41のうち、流体貯留室48を形成する部位の内周面に固定される円環状の部材である。可動子44bは、固定子44aの径方向内側に配置される。
【0024】
また、ボイスコイルモータを構成するアクチュエータ44においては、固定子44aの内周側には、環状の永久磁石が固定され、可動子44bには、コイルボビンと、そのコイルボビンに巻回されるボイスコイルとが設けられる。アクチュエータ44は、ボイスコイルに電流を流すことにより、固定子44aに対して可動子44bを流入口45a側又は流出口46a側へ変位させる。可動子44bは、ダイアフラム42に固定されており、アクチュエータ44は、可動子44bを変位させることでダイアフラム42を弾性変形させることによって、隙間Dの寸法、即ち、絞り開度を変える。このように、可変絞り弁40は、アクチュエータ44を駆動して絞り開度を変えることにより、静圧ポケット10に供給する流体Fの流量を能動的に調整する。
【0025】
ここで、工作機械1が研削盤であり、移動体3が、砥石車を支持する砥石台である場合において、砥石台には、種々の振動が生じる。例えば、研削盤を用いた研削加工において、砥石車を支持する砥石台には、研削抵抗の変化に起因する振動や砥石車の回転振れに起因する振動等が発生する。そこで、工作機械1は、移動体3の振動を測定可能な振動測定装置4(
図1参照)を備え、弁制御装置50が、振動測定装置4から得られた測定結果に基づいて絞り開度を変えることにより、移動体3の振動を減衰させる。
【0026】
本例において、工作機械1は、振動測定装置4として、静圧ポケット10が流体Fから受ける圧力を測定する圧力センサを備える。移動体3が振動すると、移動体3の振動が静圧ポケット10における流体Fに伝達される。つまり、静圧ポケット10が流体Fから受ける圧力は、流体Fが移動体3から受ける負荷により変化し、移動体3の振動による変位に連動して変化する。そこで、工作機械1は、圧力センサによる検出結果を移動体3の振動の測定結果として利用する。これにより、工作機械1は、移動体3の振動を確実に測定することができる。
【0027】
(4.弁制御装置50の構成)
次に、
図4を参照して、弁制御装置50の構成を説明する。弁制御装置50は、振動測定装置4-1,4-4による測定結果に基づいて可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を能動的に調整する。本例においては、弁制御装置50は、
図4に示すように、絞り開度調整部61を備える。絞り開度調整部61は、可変絞り弁40-1,40-4の各アクチュエータ44を駆動制御することにより、可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度(
図2に示す隙間D)を能動的に調整する。
【0028】
弁制御装置50は、さらに、最適波形データ記憶部62を備える。最適波形データ記憶部62は、絞り開度調整部61が可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を調整する際に用いるX軸最適波形データ及びY軸最適波形データを記憶する。X軸最適波形データは、可変絞り弁40-4の絞り開度に関する波形データであり、可変絞り弁40-4の絞り開度は、可変絞り弁40-4の最適波形データに対応するように能動的に変化することになる。一方、Y軸最適波形データは、可変絞り弁40-1の絞り開度に関する波形データであり、可変絞り弁40-1の絞り開度は、可変絞り弁40-1の最適波形データに対応するように能動的に変化することになる。そして、弁制御装置50は、Y軸、X軸最適波形データに基づいて絞り開度調整部61による絞り開度の調整を行う。
【0029】
ここで、移動体3は、移動体3に加わる外乱負荷が周期的に変化することで振動する。このとき、静圧流体支持装置100は、移動体3に加わる外乱負荷が大きくなるタイミングで静圧ポケット10に供給する流体Fの流量を増やし、移動体3に加わる負荷が小さくなるタイミングで静圧ポケット10に供給する流体Fの流量を減らす。このように、静圧流体支持装置100は、移動体3に加わる外乱負荷が流体Fから移動体3に加える圧力で相殺されるように絞り開度を調整することにより、移動体3に加わる外乱負荷に起因する移動体3の振動を抑制する。
【0030】
この点に関して、可変絞り弁40の絞り開度を変えてから静圧ポケット10に供給される流体の流量が変化するまでの間に、一定のタイムラグが生じる。従って、移動体3に加わる外乱負荷が増減するタイミングに一致するように絞り開度を調整した場合、静圧ポケット10に供給される流体Fが増減するタイミングは、移動体3に加わる外乱負荷が増減するタイミングと一致せず、移動体3の振動を十分に抑制できない。そこで、弁制御装置50は、当該タイムラグを考慮して生成された最適波形データに基づいて絞り開度を調整する。つまり、静圧流体支持装置100は、移動体3に加わる外乱負荷の増減と静圧ポケット10に供給される流体Fの増減とが同期するように絞り開度を調整することで、移動体3の振動を確実に抑制することができる。
【0031】
弁制御装置50は、さらに、基準波形データ取得部70を備える。基準波形データ取得部70は、振動測定装置4-1,4-4による測定結果である測定波形データに基づいて得られた基準波形データを取得する。基準波形データは、振動測定装置4-1,4-4による測定結果として得られる測定波形データそのものである場合を例にあげる。つまり、基準波形データは、測定波形データに一致する。なお、後述するが、基準波形データは、測定波形データに対して所定の処理を施したデータとすることもできるため、測定波形データとは区別した表現とする。
【0032】
弁制御装置50は、さらに、判定部80を備える。判定部80は、基準波形データの振幅が予め設定された閾値を超えるか否かを判定する。ここでは、判定部80は、最適波形データを更新するか否かの判定を行う。つまり、基準波形データの振幅が閾値以下であれば、最適波形データ記憶部62に既に記憶されている最適波形データに基づいて絞り開度調整部61による絞り開度の調整が行われる。一方、弁制御装置50は、基準波形データの振幅が閾値を超えた場合、新たな最適波形データを生成し、新たに生成された最適波形データを最適波形データ記憶部62に記憶する。そして、絞り開度調整部61による絞り開度の調整は、新たに生成された最適波形データに基づいて行われる。
【0033】
弁制御装置50は、さらに、最適波形データ生成部90を備える。最適波形データ生成部90は、基準波形データ取得部70により取得されたY軸、X軸基準波形データに基づいて、Y軸、X軸最適波形データを生成する。最適波形データ生成部90は、最適波形データの初期設定時、及び、上述した判定部80により最適波形データを更新すべきと判定された場合に、最適波形データの生成を行う。
【0034】
最適波形データを生成する過程において、最適波形データ生成部90は、仮の最適波形データを作成し、当該仮の最適波形データに基づいて絞り開度を調整したときの移動体3の振動を測定することを繰り返しながら、移動体3の振動が最も小さくなる最適波形データを導出する。そして、最適波形データ生成部90は、導出された最適波形データを最適波形データとして最適波形データ記憶部62に記憶する。従って、絞り開度調整部61は、最適波形データ生成部90により生成された最適波形データに基づいて絞り開度を調整することになる。
【0035】
(5.最適波形データ生成部90の詳細構成)
最適波形データ生成部90の詳細構成について、
図5を参照して説明する。
図5に示すように、最適波形データ生成部90は、位相調整波形データ生成部91を備える。位相調整波形データ生成部91は、Y軸、X軸基準波形データとは逆位相の波形データを時間軸方向へ逐次シフトさせたY軸、X軸位相調整波形データを生成する。つまり、Y軸、X軸位相調整波形データは、絞り開度を増減させるタイミングを、Y軸、X軸基準波形データの逆位相の波形データのタイミングからずらした波形データとなる。
【0036】
位相調整波形データ生成部91は、最初にY軸、X軸位相調整波形データを生成するにあたり、基準波形データを逆位相にした波形データを初期シフト時間S0だけ時間軸方向へシフトした波形データRW0を生成する。初期シフト時間S0は、予め設定されたシフト時間であり、初期シフト時間記憶部95に記憶される。ここで、初期シフト時間S0は、0以外に設定されることが望ましい。例えば、初期シフト時間S0は、最適なシフト時間の予測値とするとよい。これにより、初期シフト時間S0が0である場合と比べて、最適なシフト時間の導出が短時間にできる。
【0037】
ここで、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データに対するゲインを1とした波形データ、即ち基準波形データと同一の振幅とした波形データを、位相調整波形データとしてもよい。ただし、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データに対するゲインを1より大きな一定値とした波形データを、位相調整波形データとするとよい。ここで、位相調整波形データにおいて調整される初期ゲインG0は、初期ゲイン記憶部96に記憶される。
【0038】
最適波形データ生成部90は、さらに、最適シフト時間導出部92を備える。最適シフト時間導出部92は、基準波形データの逆位相の波形データに対する位相調整波形データのシフト時間として、基準波形データの振幅を小さくするのに最適なシフト時間(以下「最適シフト時間BPS」と称す)を導出する。ここで、シフト時間が0である場合とは、位相調整波形データが、基準波形データの逆位相の波形データに一致する場合に相当する。
【0039】
最適シフト時間導出部92は、基準波形データの逆位相の波形データに対する位相調整波形データのシフト時間を逐次変えながら位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整した場合に、基準波形データの振幅の変化を観察する。その過程で、最適シフト時間導出部92は、基準波形データの振幅を最も小さくするのに最適な位相調整波形データRW1を導出し、当該位相調整波形データRW1のシフト時間を最適シフト時間BPSとして導出する。そして、最適シフト時間導出部92は、最適波形データ記憶部62に最適シフト時間BPSを記憶させる。なお、最適シフト時間BPSの導出手順については、後述する。
【0040】
最適波形データ生成部90は、さらに、ゲイン調整波形データ生成部93を備える。ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データに対してゲインを逐次調整したゲイン調整波形データを生成する。ゲイン調整波形データは、基準波形データの振幅が更に小さくなるように、位相調整波形データのゲインを調整した波形データである。
【0041】
最適波形データ生成部90は、さらに、最適ゲイン導出部94を備える。最適ゲイン導出部94は、基準波形データの振幅を小さくするのに最適なゲイン調整波形データのゲイン(以下「最適ゲインBG」と称す)を導出する。具体的に、最適ゲイン導出部94は、位相調整波形データに対するゲイン調整波形データのゲイン調整量を逐次変えながら絞り開度を調整した場合に、基準波形データの振幅の変化を観察する。
【0042】
その過程で、最適ゲイン導出部94は、基準波形データの振幅を最も小さくするのに最適なゲイン調整波形データRW2を導出し、当該ゲイン調整波形データRW2の基準波形データに対するゲインを最適ゲインBGとして導出する。そして、最適ゲイン導出部94は、最適波形データ記憶部62に最適ゲインBGを記憶させる。なお、最適ゲインBGの導出手順については、後述する。
【0043】
つまり、最適波形データ記憶部62は、基準波形データに対して最適シフト時間BPSだけ時間軸方向にシフトさせると共に最適ゲインBGだけゲインを調整した最適波形データを記憶する。
【0044】
(6.最適波形データの導出手順の概要)
最適波形データの導出手順の概要について、
図6-
図10を参照して説明する。
図6には、移動体3に加わる負荷に伴う移動体3の変位の時系列変化を模式的に表した変位波形データDW、及び、その変位波形データDWを逆位相にした最適流量波形データBFWが図示されている。即ち、静圧ポケット10に供給される流量が最適流量波形データBFWに沿って増減することができるように、弁制御装置50が絞り開度を調整することで、移動体3の振動を効果的に抑制することができる。
【0045】
ここで、
図6に示すように、可変絞り弁40の絞り開度の変更が静圧ポケット10に供給される流体の流量の変化に反映されるまでには、一定のタイムラグTLが生じる。仮に、絞り開度調整部61が、最適流量波形データBFWをそのまま利用して絞り開度を調整した場合、静圧ポケット10に供給される流体Fの流量の時系列変化を示す流量波形データFWは、最適流量波形データBFWに対してタイムラグTLだけ時間軸方向にシフトする。
【0046】
そこで、最適シフト時間導出部92は、
図7に示すように、流量波形データFWの位相を最適流量波形データBFWの位相に近似させることができる位相調整波形データRW1を導出する。位相調整波形データRW1は、最適流量波形データBFWの位相を最適シフト時間BPSだけ時間軸方向へシフトさせた波形データである。ただし、
図7における位相調整波形データRW1は、最適流量波形データBFWに対してゲインを1より大きくしている。このようにして、最適シフト時間導出部92は、最適シフト時間BPSを導出する。
【0047】
最適流量波形データBFWを最適シフト時間BPSだけ時間軸方向にシフトさせた位相調整波形データRW1により絞り開度を調整した場合、静圧ポケット10に供給される流体Fの流量の時系列変化を示す位相調整流量波形データFW1は、
図8に示すようになる。つまり、最適流量波形データBFWと位相調整流量波形データFW1とは、位相は一致するが、振幅が異なる。
【0048】
そこで、最適ゲイン導出部94は、
図9に示すように、位相調整流量波形データFW1の振幅が最適流量波形データBFWの振幅に近似させることができるゲイン調整波形データRW2を導出する。ゲイン調整波形データRW2は、最適シフト時間BPSだけシフトさせた位相調整波形データRW1のゲインを最適ゲインBGだけゲイン調整した波形データである。ここで、ゲイン調整波形データRW2により絞り開度を調整した場合、静圧ポケット10に供給される流体Fの流量の時系列変化を示すゲイン調整流量波形データFW2は、最適流量波形データBFWに一致する。このようにして、最適ゲイン導出部94は、最適ゲインBGを導出する。
【0049】
つまり、
図10に示すように、最適波形データ生成部90は、最初に、基準波形データの振幅及び移動体3の変位が小さくなるように、位相調整波形データのシフト時間を調整する。そして、最適波形データ生成部90は、基準波形データの振幅及び移動体3の変位が最も小さくなる最適シフト時間BPSを導出する。その後、最適波形データ生成部90は、基準波形データの振幅及び移動体3の変位が小さくなるようにゲイン調整波形データのゲインを調整する。そして、最適波形データ生成部90は、基準波形データの振幅及び移動体3の変位が最も小さくなる最適ゲインBGを導出する。これにより、最適波形データ生成部90は、流量波形データFWのゲインを最適流量波形データBFWのゲインに近似させるための最適波形データを生成することができる。
【0050】
(7.最適な位相調整波形データRW1の導出手順の例)
次に、最適な位相調整波形データRW1の導出手順の一例について、
図10及び
図11を参照して説明する。位相調整波形データ生成部91は、基準波形データ取得部70が取得した基準波形データに対して、時間進み方向と時間遅れ方向の一方へ初期シフト時間S0(
図10に示す)だけシフトした位相調整波形データRW0を生成する。
【0051】
そして、絞り開度調整部61が、当該位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整すると、静圧ポケット10へ供給される流体の流量が変化する。その結果、移動体3の振動態様が変化する。再び、基準波形データ取得部70が、振動測定装置4による測定結果である測定波形データに基づいて、基準波形データを取得する。このときの基準波形データの振幅を「位相調整前振幅am11」とする。
【0052】
次に、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データを時間進み方向と時間遅れ方向の一方へ初期シフト時間S0よりも所定時間ΔSだけさらにシフトした位相調整波形データを生成する。絞り開度調整部61が、当該位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整する。そして、再び、基準波形データ取得部70が、振動測定装置4による測定結果である測定波形データに基づいて、基準波形データを取得する。このときの基準波形データの振幅を「位相調整後振幅am12」とする。
【0053】
次に、最適シフト時間導出部92が、位相調整前振幅am11と位相調整後振幅am12とを比較する。そして、上記処理を繰り返す。ここで、位相調整前振幅am11は、新たに時間シフトさせる前の位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データの振幅となる。位相調整後振幅am12は、新たに時間シフトさせた位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データの振幅となる。
【0054】
ここで、
図11に示すように、初期の位相調整波形データRW0に基づいて絞り開度を調整したときの位相調整流量波形データと、最適流量波形データBFWとの位相ずれ量をP0とする。そして、位相調整波形データのシフト時間を逐次調整すると、
図11に示すように変化する。つまり、位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの位相調整流量波形データと、最適流量波形データBFWとの位相ずれ量が0になるときが、基準波形データの振幅が最も小さくなるときとなる。
【0055】
そこで、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データとは逆位相の波形データを時間進み方向と時間遅れ方向の何れか一方へ逐次シフトさせた位相調整波形データを生成する。そして、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも一旦小さくなった後に大きくなった場合に、最小振幅となる領域を通過したと判断し、位相調整前振幅am11が、最小振幅となる領域に最も近づいたと判断する。そこで、位相調整前振幅am11に対応する位相調整波形データ(直前の位相調整波形データ)を、最適な位相調整波形データRW1とし、位相調整波形データRW1におけるシフト時間を最適シフト時間BPSとして導出する。
【0056】
ここで、
図10に示すように、初期シフト時間S0は、0以外に設定されることが望ましい。例えば、初期シフト時間S0は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さくなるようなシフト時間であることが望ましい。これにより、初期シフト時間が0である場合と比べて、最適シフト時間BPSの導出が短時間にできる。
【0057】
また、
図10に示すように、初期ゲインG0は、1より大きな一定値に設定されることが望ましい。これにより、位相調整前振幅am11と位相調整後振幅am12の差を大きくすることができるため、比較判定が容易となる。
【0058】
(8.最適なゲイン調整波形データRW2の導出手順の例)
最適なゲイン調整波形データRW2の導出手順の一例について、
図10及び
図12を参照して説明する。ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データ生成部91が生成した最適な位相調整波形データRW1に対して、ゲインを調整したゲイン調整波形データを生成する。ゲイン調整波形データのゲインは、位相調整波形データに対して、ゲインを大きくする方向と小さくする方向の何れか一方へ調整する。例えば、
図10に示すように、ゲイン調整波形データのゲインは、初期ゲインG0よりも大きくする方向に調整する。
【0059】
そして、絞り開度調整部61が、当該ゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整すると、静圧ポケット10へ供給される流体の流量が変化する。その結果、移動体3の振動態様が変化する。再び、基準波形データ取得部70が、振動測定装置4による測定結果である測定波形データに基づいて、基準波形データを取得する。このときの基準波形データの振幅を「ゲイン調整前振幅am21」とする。
【0060】
次に、ゲイン調整波形データ生成部93は、ゲインを所定量だけ調整したゲイン調整波形データを生成する。絞り開度調整部61が、当該ゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整する。そして、再び、基準波形データ取得部70が、振動測定装置4による測定結果である測定波形データに基づいて、基準波形データを取得する。このときの基準波形データの振幅を「ゲイン調整後振幅am22」とする。
【0061】
次に、最適ゲイン導出部94が、ゲイン調整前振幅am21とゲイン調整後振幅am22とを比較する。そして、上記処理を繰り返す。ここで、ゲイン調整前振幅am21は、新たにゲインを調整する前のゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データの振幅となる。ゲイン調整後振幅am22は、新たにゲインを調整したゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データの振幅となる。
【0062】
ここで、
図12に示すように、最適な位相調整波形データRW1に基づいて絞り開度を調整したときの位相調整流量波形データと、最適流量波形データBFWとの振幅の比をQ0とする。そして、ゲイン調整波形データのゲインを逐次調整すると、
図12に示すように変化する。つまり、ゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときのゲイン調整流量波形データFW2と、最適流量波形データBFWとの振幅の比が1になるときが、基準波形データの振幅が最も小さくなるときとなる。
【0063】
そこで、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データに対して逐次ゲインを調整したゲイン調整波形データを生成する。そして、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも一旦小さくなった後に大きくなった場合に、最小振幅となる領域を通過したと判断し、ゲイン調整前振幅am21が、最小振幅となる領域に最も近づいたと判断する。そこで、ゲイン調整前振幅am21に対応するゲイン調整波形データ(直前のゲイン調整波形データ)を、最適なゲイン調整波形データRW2とし、ゲイン調整波形データRW2におけるゲインを最適ゲインBGとして導出する。
【0064】
(9.絞り開度調整処理)
次に、
図13に示すフローチャートを参照しながら、弁制御装置50により実行される絞り開度調整処理について説明する。
図12に示すように、基準波形データ取得部70は、絞り開度調整処理で行う最初の処理として、基準波形データを取得する(S1)。続いて、判定部80は、基準波形データの振幅が、予め設定された閾値を超えるか否かを判定する(S2)。その結果、基準波形データの振幅が閾値を超えた場合(S2:Yes)、最適波形データ生成部90は、後述する最適波形データ生成処理(S3)を実行する。一方、基準波形データの振幅が閾値以下であれば(S2:No)、最適波形データ生成部90は、最適波形データ記憶部62に記憶された最適シフト時間BPS及び最適ゲインBGを用いて最適波形データを生成する(S4)。その後、絞り開度調整部61は、最適波形データに基づいて絞り開度を調整する(S5)。
【0065】
このように、判定部80は、基準波形データの振幅が予め設定された閾値を超えたか否かを判定し、最適波形データ生成部90は、基準波形データの振幅が閾値を超えた場合に、最適波形データを新たに生成する。つまり、基準波形データの振幅が大きくなってきた場合には、最適波形データを新たに生成することで、基準波形データの振幅を小さくすることができる。一方、基準波形データの振幅が閾値以下である場合には、最適波形データの更新処理を行わないため、弁制御装置50による安定した振動抑制効果を発揮し続けることができる。
【0066】
(10.最適波形データ生成処理)
次に、
図14に示すフローチャートを参照しながら、絞り開度調整処理の中で実行される最適波形データ生成処理(S3)について説明する。
図14に示すように、最適波形データ生成部90は、最適波形データ生成処理(S3)の中で実行する最初の処理として、最適シフト時間導出処理(S10)を実行する。この最適シフト時間導出処理(S10)において、最適波形データ生成部90は、最適な位相調整波形データRW1を生成する。S10の処理が終了すると、最適波形データ生成部90は、最適ゲイン導出処理(S30)を実行する。この最適ゲイン導出処理(S30)において、最適波形データ生成部90は、最適なゲイン調整波形データRW2を生成する。
【0067】
(10-1.最適シフト時間導出処理)
次に、
図15に示すフローチャートを参照しながら、最適波形データ生成処理(S3)の中で実行される最適シフト時間導出処理(S10)について説明する。
図15に示すように、位相調整波形データ生成部91は、位相シフト調整ルーチン(
図17参照)を実行することによりY軸の位相シフト調整を行う(S11)。ここで、位相シフト調整ルーチンの流れについて、
図17を参照しつつ説明する。まず、当該ルーチンの実行が初回の場合(S110:Yes)、初期の波形データRW0を生成する(S111)。その後、絞り開度調整部61は、初期の波形データRW0に基づく絞り開度の調整を行う(S112)。その後、基準波形データ取得部70は、初期の波形データRW0に基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データを取得する(S13)。具体的に、S113の処理において、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(位相調整前振幅am11)を取得する。
【0068】
次に、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データに対して時間進み方向に所定時間だけシフトさせた位相調整波形データを生成し(S114)、絞り開度調整部61は、位相調整波形データに基づく絞り開度の調整を行う(S115)。その後、基準波形データ取得部70は、位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整した後の基準波形データを取得する(S116)。具体的に、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(位相調整後振幅am12)を取得する。
【0069】
次に、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さいか否かを比較する(S117)。その結果、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さい場合(S117:Yes)、位相調整波形データ生成部91は、初期の波形データRW0に対するシフト方向(ここでは時間進み方向)へ所定時間さらにシフトさせた新たな位相調整波形データを生成する(S118)。
【0070】
一方、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11以上である場合(S117:No)、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データに対して時間遅れ方向に所定時間だけシフトさせた位相調整波形データを生成し(S119)、S15から繰り返す。そうすると、S117において、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さくなる(S117:Yes)。この場合、S118において、位相調整波形データ生成部91は、初期の波形データRW0に対するシフト方向(ここでは時間遅れ方向)へ所定時間さらにシフトさせた新たな位相調整波形データを生成する。
【0071】
絞り開度調整部61は、S118の処理後、新たな位相調整波形データに基づく絞り開度の調整を行い(S120)、基準波形データ取得部70は、新たな位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データを取得する(S121)。具体的に、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(位相調整前振幅am11及び位相調整後振幅am12)を取得して、メインルーチン(
図15の最適シフト時間導出処理)へリターンする。
【0072】
続いて、S12で、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さいか否かを比較する(S12)。その結果、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さい場合(S12:Yes)、直前に生成した位相調整波形データのシフト時間は、最適シフト時間BPSではないと判断し、S13へ進む。位相調整波形データ生成部91は、位相シフト調整ルーチン(
図17参照)を実行することによりX軸の位相シフト調整を行う(S13)。
【0073】
続いて、S14で、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さいか否かを比較する(S14)。その結果、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さい場合(S14:Yes)、直前に生成した位相調整波形データのシフト時間は、最適シフト時間BPSではないと判断し、S11へ戻る。このように、S11~S14を繰り返すことで、Y軸とX軸の最適シフト時間を交互に探索することになる。
【0074】
一方、S12で、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11以上である場合(S12:No)、すなわち、位相シフトの調整による振幅の減少が停止した場合、直前のシフト時間をY軸最適シフト時間とする(S15)。次に、位相シフト調整ルーチン(
図17参照)を実行することによりX軸の位相シフト調整を行う(S16)。続いて、S17で、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さいか否かを比較する(S17)。その結果、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さい場合(S14:Yes)、直前に生成した位相調整波形データのシフト時間は、最適シフト時間BPSではないと判断し、S16へ戻る。このように、S16~S17を繰り返すことで、X軸の最適シフト時間を探索することになる。
【0075】
S14又はS17で、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11以上である場合(S14:No又はS17:No)、すなわち、X軸の位相シフトの調整による振幅の減少が停止した場合、直前のシフト時間をX軸最適シフト時間とする(S18)。
【0076】
続いて、S19で、最適シフト時間最終調整処理を行う。すなわち、Y軸、X軸の振幅は互いに影響し合うため、両軸の最適シフト時間の探索が終了した段階でシフト時間の最終調整を行うことで最終的な最適シフト時間を求める。具体的には、
図16のフローチャートに示すように、まず、Y軸振幅が閾値より小さいか否かを判定する(S191)。S191でY軸振幅が閾値以上である場合(S191:No)、Y軸の位相シフト調整(S192)を、Y軸の振幅の減少が停止するまで繰り返し(S193:Yes)、Y軸の振幅の減少が停止した場合(S193:No)、直前のシフト時間をY軸最適シフト時間としてS191へ戻る。
【0077】
Y軸振幅が閾値より小さい場合(S191:Yes)、X軸振幅が閾値より小さいか否かを判定する(S195)。S195でX軸振幅が閾値以上である場合(S195:No)、X軸の位相シフト調整(S196)を、X軸の振幅の減少が停止するまで繰り返し(S197:Yes)、X軸の振幅の減少が停止した場合(S197:No)、直前のシフト時間をX軸最適シフト時間としてS195へ戻る。X軸振幅が閾値より小さい場合(S195:Yes)、本ルーチンを終了し、メインルーチン(
図15の最適シフト時間導出処理)へリターンする。以上のように、X軸最適シフト時間及びY軸最適シフト時間が決定されて最適波形データ記憶部62に記憶し、最適シフト時間導出処理を終了する。
【0078】
このように、最適シフト時間導出処理(S10)において、最適シフト時間導出部92は、位相調整前振幅am11と位相調整後振幅am12とを比較する。そして、位相調整波形データ生成部91は、位相調整前振幅am11と位相調整後振幅am12との比較結果に基づき、基準波形データの振幅が小さくなるように基準波形データに対するシフト時間を再調整した新たな位相調整波形データを生成する。そして、絞り開度調整部61は、新たな位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整する。こうした一連の処理を繰り返すことにより、最適シフト時間導出部92は、位相調整波形データRW1のシフト時間を最適シフト時間BPSに近似させることができる。
【0079】
また、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも一旦小さくなった後に大きくなった場合に、直前に生成した位相調整波形データにおけるシフト時間を最適シフト時間とする。よって、最適シフト時間導出部92は、最適シフト時間BPSを確実に導出できる。
【0080】
(10-2.最適ゲイン導出処理)
次に、
図18に示すフローチャートを参照しながら、最適波形データ生成処理(S3)の中で実行される最適ゲイン導出処理(S30)について説明する。
図18に示すように、ゲイン調整波形データ生成部93は、ゲイン調整ルーチン(
図20参照)を実行することによりY軸のゲイン調整を行う(S31)。
【0081】
ここで、ゲイン調整ルーチンの流れについて、
図20を参照しつつ説明する。当該ルーチンの実行が初回でない場合(S310:No)、S315へ進む。一方、当該ルーチンの実行が初回の場合(S310:Yes)、位相調整波形データに対してゲインを大きくする方向へ調整したゲイン調整波形データを生成する(S311)。その後、絞り開度調整部61は、ゲイン調整波形データに基づく絞り開度の調整を行う(S312)。次に、基準波形データ取得部70は、ゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整した後の基準波形データを取得する(S313)。具体的に、S313の処理において、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(ゲイン調整前振幅am21及びゲイン調整後振幅am22)を取得する。
【0082】
次に、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さいか否かを比較する(S314)。その結果、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さい場合(S314:Yes)、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データRW1に対するゲイン調整方向(ここではゲインを大きくする方向)へ、ゲインを調整した新たなゲイン調整波形データを生成する(S315)。
【0083】
一方、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21以上である場合(S314:No)、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データRW1に対してゲインを小さくする方向へ調整した新たなゲイン調整波形データを生成し(S316)、S312から繰り返す。そうすると、S314において、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さくなる(S314:Yes)。この場合、S315において、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データRW1に対するゲイン調整方向(ここではゲインを小さくする方向)へ、ゲインをさらに調整した新たなゲイン調整波形データを生成する。
【0084】
S315の処理後、絞り開度調整部61は、新たなゲイン調整波形データに基づく絞り開度の調整を行い(S317)、基準波形データ取得部70は、新たなゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データを取得して(S318)、
図18に示す最適ゲイン導出処理ルーチンへリターンする。
【0085】
続いて、S32で、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さいか否かを比較する(S32)。その結果、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さい場合(S32:Yes)、直前に生成したゲイン調整波形データのゲインは、最適ゲインではないと判断し、S33へ進む。ゲイン調整波形データ生成部93は、ゲイン調整ルーチン(
図20参照)を実行することによりX軸のゲイン調整を行う(S33)。
【0086】
続いて、S34で、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さいか否かを比較する(S34)。その結果、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さい場合(S34:Yes)、直前に生成したゲイン調整波形データのゲインは、最適ゲインではないと判断し、S31へ戻る。このように、S31~S34を繰り返すことで、Y軸とX軸の最適ゲインを交互に探索することになる。
【0087】
一方、S32で、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21以上である場合(S32:No)、すなわち、ゲインの調整による振幅の減少が停止した場合、直前のゲインをY軸最適ゲインとする(S35)。次に、ゲイン調整ルーチン(
図20参照)を実行することによりX軸のゲイン調整を行う(S36)。続いて、S37で、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さいか否かを比較する(S37)。その結果、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さい場合(S34:Yes)、直前に生成したゲイン調整波形データのゲインは、最適ゲインではないと判断し、S36へ戻る。このように、S36~S37を繰り返すことで、X軸の最適ゲインを探索することになる。
【0088】
S34又はS37で、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21以上である場合(S34:No又はS37:No)、すなわち、X軸のゲインの調整による振幅の減少が停止した場合、直前のゲインをX軸最適ゲインとする(S38)。
【0089】
続いて、S39で、最適ゲイン最終調整処理を行う。すなわち、Y軸、X軸の振幅は互いに影響し合う可能性があるため、両軸の最適ゲインの探索が終了した段階でゲインの最終調整を行う。具体的には、
図19のフローチャートに示すように、まず、Y軸振幅が閾値より小さいか否かを判定する(S391)。S391でY軸振幅が閾値以上である場合(S391:No)、Y軸のゲイン調整(S392)を、Y軸の振幅の減少が停止するまで繰り返し(S393:Yes)、Y軸の振幅の減少が停止した場合(S393:No)、直前のゲインをY軸最適ゲインとしてS391へ戻る。
【0090】
Y軸振幅が閾値より小さい場合(S391:Yes)、X軸振幅が閾値より小さいか否かを判定する(S395)。S395でX軸振幅が閾値以上である場合(S395:No)、X軸のゲイン調整(S396)を、X軸の振幅の減少が停止するまで繰り返し(S397:Yes)、X軸の振幅の減少が停止した場合(S397:No)、直前のゲインをX軸最適ゲインとしてS395へ戻る。X軸振幅が閾値より小さい場合(S395:Yes)、本ルーチンを終了し、メインルーチン(
図18の最適シフト時間導出処理)へリターンする。 以上のように、Y軸最適ゲイン及びX軸最適ゲインが決定されて最適波形データ記憶部62に記憶し、最適ゲイン導出処理を終了する。
【0091】
このように、最適ゲイン導出処理(S30)において、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整前振幅am21とゲイン調整後振幅am22とを比較する。そして、ゲイン調整波形データ生成部93は、ゲイン調整前振幅am21とゲイン調整後振幅am22との比較結果に基づき、基準波形データの振幅が小さくなるように位相調整波形データRW1に対するゲインを再調整した新たなゲイン調整波形データを生成する。そして、絞り開度調整部61は、新たなゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整する。こうした一連の処理を繰り返すことにより、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整波形データRW2のゲインを最適ゲインBGに近似させることができる。
【0092】
また、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも一旦小さくなった後に大きくなった場合に、直前に生成したゲイン調整波形データにおけるゲインを最適ゲインBGとする。よって、最適ゲイン導出部94は、最適ゲインBGを確実に導出できる。
図21は、第一実施形態に係る最適シフト時間の導出手順及び最適ゲインの導出手順の一例を示す模式図である。
図21において、階段状に図示されたグラフはシフト時間又はゲインの調整を表し、近傍の数字は調整の順番を表している。
図21では、Y軸(静圧ポケット10-1の絞り開度)とX軸(静圧ポケット10-4の絞り開度)とを交互に調整しながら最適シフト時間及び最適ゲインを探索する様子が示されている。
【0093】
(11.第一実施形態のまとめ)
以上説明したように、本実施形態に係る工作機械1によれば、絞り開度調整部61は、Y軸、X軸基準波形データに対して最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせたY軸、X軸最適波形データに基づいて絞り開度を調整する。ここで、各可変絞り弁において絞り開度を調整した場合に、絞り開度を調整したタイミングと各静圧ポケットに供給される流体の流量が変更されるタイミングとは、時間にずれを生じる。つまり、各基準波形データそのものに基づいて絞り開度を調整した場合には、各静圧ポケットへ供給する流体の流量を、適切な量とすることができない。そこで、上述したように、絞り開度調整部61によって調整する可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度は、Y軸、X軸基準波形データに対して最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせたY軸、X軸最適波形データに基づいて調整されている。よって、静圧流体支持装置100は、移動体3に加わる外乱負荷の変化に応じて静圧ポケット10-1,10-4に供給される流体の流量を適切に変化させることができる。その結果、当該工作機械1は、移動体3の2軸方向における振動を確実に抑制できる。
【0094】
図22は、制御実施前と制御実施後の静圧ポケット10-1,10-4の供給流量と移動体3の軸変位量とを示すグラフである。
図22に示す通り、移動体3のY軸、X軸の軸変位量が制御の実施により小さくなり、2軸方向における振動を確実に抑制できる。
【0095】
また、最適シフト時間導出部92は、X軸基準波形データの逆位相の波形データに対するX軸位相調整波形データのシフト時間とY軸基準波形データの逆位相の波形データに対するY軸位相調整波形データのシフト時間とを交互に変えながらY軸、X軸位相調整波形データに基づいて可変絞り弁10-4,10-1の絞り開度を調整した場合に、Y軸、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸、X軸最適シフト時間を導出する。この構成によれば、波形が相互に影響し合うY軸、X軸のシフト時間を交互に探索することで、最適なY軸、X軸最適シフト時間を効率的且つ確実に導出することができる。
【0096】
また、最適シフト時間導出部92は、Y軸最適シフト時間及びX軸最適シフト時間の両方を一旦導出した後、Y軸、X軸基準波形データの振幅が所定の閾値を下回るまでY軸、X軸最適シフト時間の導出を繰り返して最終調整を行う(S19)。Y軸、X軸方向の振動は互いに影響し合うため、両軸の最適シフト時間の探索が終了した段階でシフト時間の最終調整を行うことで最終的な最適シフト時間を求めることがきる。
【0097】
また、最適波形データ生成部90は、さらに、Y軸、X軸位相調整波形データに対してゲインを調整したY軸、X軸ゲイン調整波形データを生成するゲイン調整波形データ生成部93と、Y軸、X軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量を変えながらY軸、X軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を調整した場合に、Y軸、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸、X軸ゲイン調整波形データのY軸、X軸最適ゲインを導出する最適ゲイン導出部94とを備える。そして、最適波形データ記憶部62は、Y軸、X軸基準波形データに対してY軸、X軸最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせると共にY軸、X軸最適ゲインだけゲインを調整したY軸、X軸最適波形データを記憶する。
【0098】
この構成によれば、絞り開度調整部61は、Y軸、X軸基準波形データに対してY軸、X軸最適シフト時間だけ時間軸方向にシフトさせると共に、Y軸、X軸最適ゲインだけゲインを調整したY軸、X軸最適波形データに基づいて絞り開度を調整することができる。
【0099】
また、最適ゲイン導出部94は、Y軸位相調整波形データに対するY軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量とX軸位相調整波形データに対するX軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量とを交互に変えながらY軸、X軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を調整した場合に、Y軸、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸、X軸最適ゲインを導出する。この構成によれば、波形が相互に影響し合うY軸、X軸のゲインを交互に探索することで、最適なY軸、X軸最適ゲインを効率的且つ確実に導出することができる。
【0100】
また、最適ゲイン導出部94は、Y軸最適ゲイン及びX軸最適ゲインの両方を一旦導出した後、Y軸、X軸基準波形データの振幅が所定の閾値を下回るまでY軸、X軸最適ゲインの導出を繰り返して最終調整を行う。Y軸、X軸方向の振動は互いに影響し合うため、両軸の最適ゲインの探索が終了した段階でゲインの最終調整を行うことで最終的な最適ゲインを求めることがきる。
【0101】
また、支持体2は、円筒形状の内周面に静圧ポケット10-1,10-4を含む複数の静圧ポケット10-1~10-4を周方向に配置した軸受本体であり、移動体3は、軸受本体である支持体2の内周側に配置される回転可能な回転軸体であり、静圧流体支持装置100は、各静圧ポケット10-1~10-4を介して移動体3(回転軸体)と支持体2(軸受本体)との間に充填される流体の圧力により移動体3(回転軸体)を回転可能に支持するものである。本実施形態によれば、回転軸体である移動体3の2軸方向の振動を確実に抑制することができる。
【0102】
また、工作機械1は、振動測定装置4としての圧力センサを備える。これにより、最適波形データ生成部90は、移動体3の振動の周期を的確に把握することができる。なお、工作機械1は、振動測定装置4を用いて移動体3の振動の周期を把握できればよく、圧力センサ以外の振動測定装置4を用いることもできる。例えば、工作機械1は、移動体3に加わる外乱負荷を測定する装置として、圧力センサの代わりにロードセルを用いることも可能である。また、工作機械1は、移動体3の振動そのものを測定するものとして、移動体3に装着された変位センサや加速度センサ、AEセンサ等を振動測定装置4として用いてもよい。また、本例において、移動体3の振動の周期は、砥石車の回転に同期すると考えられることから、砥石車の回転軸等に設けられたロータリエンコーダ等を振動測定装置4と用いることも可能である。
【0103】
[第二実施形態]
(12.第二実施形態の構成及び作用)
上記実施形態では、最適シフト時間導出処理及び最適ゲイン導出処理において、Y軸(静圧ポケット10-1の絞り開度)とX軸(静圧ポケット10-4の絞り開度)とを交互に調整しながら最適シフト時間及び最適ゲインを探索する構成とした。第二実施形態では、Y軸を連続して調整することによりY軸最適シフト時間を導出し、次にX軸を連続して調整することによりX軸最適シフト時間を導出する。また、Y軸を連続して調整することによりY軸最適ゲインを導出し、次にX軸を連続して調整することによりX軸最適ゲインを導出する。
【0104】
以下、
図23に示すフローチャートを参照しながら、最適波形データ生成処理(S3)の中で実行される最適シフト時間導出処理(S10)について説明する。まず、
図23に示すように、Y軸最適シフト時間導出処理を行う(S10-1)。以下、Y軸最適シフト時間導出処理の流れについて、
図25のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0105】
最適シフト時間導出処理では、
図25に示すように、最初の処理として初期の波形データRW0を生成する(S51)。その後、絞り開度調整部61は、初期の波形データRW0に基づく絞り開度の調整を行う(S52)。その後、基準波形データ取得部70は、初期の波形データRW0に基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データを取得する(S53)。具体的に、S53の処理において、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(位相調整前振幅am11)を取得する。
【0106】
次に、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データに対して時間進み方向に所定時間だけシフトさせた位相調整波形データを生成し(S54)、絞り開度調整部61は、位相調整波形データに基づく絞り開度の調整を行う(S55)。その後、基準波形データ取得部70は、位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整した後の基準波形データを取得する(S56)。具体的に、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(位相調整後振幅am12)を取得する。
【0107】
次に、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さいか否かを比較する(S57)。その結果、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さい場合(S57:Yes)、位相調整波形データ生成部91は、初期の波形データRW0に対するシフト方向(ここでは時間進み方向)へ所定時間さらにシフトさせた新たな位相調整波形データを生成する(S58)。
【0108】
一方、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11以上である場合(S57:No)、位相調整波形データ生成部91は、基準波形データに対して時間遅れ方向に所定時間だけシフトさせた位相調整波形データを生成し(S59)、S55から繰り返す。そうすると、S57において、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さくなる(S57:Yes)。この場合、S58において、位相調整波形データ生成部91は、初期の波形データRW0に対するシフト方向(ここでは時間遅れ方向)へ所定時間さらにシフトさせた新たな位相調整波形データを生成する。
【0109】
絞り開度調整部61は、S58の処理後、新たな位相調整波形データに基づく絞り開度の調整を行い(S60)、基準波形データ取得部70は、新たな位相調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データを取得する(S61)。具体的に、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(位相調整前振幅am11及び位相調整後振幅am12)を取得する。続いて、最適シフト時間導出部92は、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さいか否かを比較する(S22)。
【0110】
その結果、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11よりも小さい場合(S62:Yes)、直前に生成した位相調整波形データのシフト時間は、最適シフト時間BPSではないと判断できる。そこで、位相調整波形データ生成部91は、位相調整波形データを先のシフト方向に所定時間シフトさせた新たな位相調整波形データを生成し(S63)、S60の処理を再度実行する。
【0111】
一方、位相調整後振幅am12が位相調整前振幅am11以上である場合(S62:No)、最適シフト時間導出部92は、直前に生成した位相調整波形データのシフト時間が最適シフト時間BPSであると判断できる。そこで、最適シフト時間導出部92は、当該シフト時間を、最適シフト時間BPSとして最適波形データ記憶部62に記憶し(S64)、本処理を終了して、
図23に示す最適シフト時間導出処理のメインルーチンにリターンする。
【0112】
Y軸最適シフト時間導出処理(S10-1)の終了後、X軸最適シフト時間導出処理(S10-2)を行う。X軸最適シフト時間導出処理(S10-2)は、静圧ポケット10-4を対象として
図25に示す最適シフト時間導出処理を行う。処理の流れは、Y軸最適シフト時間導出処理(S10-1)と同様であるので、説明を省略する。
【0113】
最適シフト時間導出処理(S10)が終了すると、最適波形データ生成部90は、最適ゲイン導出処理(S30)を実行する。この最適ゲイン導出処理(S30)において、最適波形データ生成部90は、最適なゲイン調整波形データRW2を生成する。
【0114】
以下、
図24に示すフローチャートを参照しながら、最適波形データ生成処理(S3)の中で実行される最適ゲイン導出処理(S30)について説明する。まず、
図24に示すように、Y軸最適ゲイン導出処理を行う(S30-1)。以下、Y軸最適ゲイン導出処理の流れについて、
図26のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0115】
最適ゲイン導出処理では、
図26に示すように、ゲイン調整波形データ生成部93は、最適ゲイン導出処理(S30)の中で実行する最初の処理として、位相調整波形データに対してゲインを大きくする方向へ調整したゲイン調整波形データを生成する(S71)。その後、絞り開度調整部61は、ゲイン調整波形データに基づく絞り開度の調整を行う(S72)。次に、基準波形データ取得部70は、ゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整した後の基準波形データを取得する(S73)。具体的に、S73の処理において、基準波形データ取得部70は、基準波形データの振幅(ゲイン調整前振幅am21及びゲイン調整後振幅am22)を取得する。
【0116】
次に、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さいか否かを比較する(S74)。その結果、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さい場合(S74:Yes)、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データRW1に対するゲイン調整方向(ここではゲインを大きくする方向)へ、ゲインを調整した新たなゲイン調整波形データを生成する(S75)。
【0117】
一方、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21以上である場合(S74:No)、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データRW1に対してゲインを小さくする方向へ調整した新たなゲイン調整波形データを生成し(S76)、S72から繰り返す。そうすると、S74において、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さくなる(S74:Yes)。この場合、S75において、ゲイン調整波形データ生成部93は、位相調整波形データRW1に対するゲイン調整方向(ここではゲインを小さくする方向)へ、ゲインをさらに調整した新たなゲイン調整波形データを生成する。
【0118】
S75の処理後、絞り開度調整部61は、新たなゲイン調整波形データに基づく絞り開度の調整を行い(S77)、基準波形データ取得部70は、新たなゲイン調整波形データに基づいて絞り開度を調整したときの基準波形データを取得する(S78)。次に、最適ゲイン導出部94は、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さいか否かを判定する(S79)。
【0119】
その結果、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21よりも小さい場合(S79:Yes)、直前に生成したゲイン調整波形データのゲインは、最適ゲインBGではないと判断できる。そこで、ゲイン調整波形データ生成部93は、直前に生成したゲイン調整波形データを、先のゲイン調整方向に所定のゲイン調整を行った新たなゲイン調整波形データを生成し(S80)、S77の処理を再度実行する。
【0120】
一方、ゲイン調整後振幅am22がゲイン調整前振幅am21以上である場合(S79:No)、最適ゲイン導出部94は、直前に生成したゲイン調整波形データのゲインが最適ゲインBGであると判断できる。そこで、最適ゲイン導出部94は、直前に生成したゲイン調整波形データのゲインを、最適ゲインBGとして最適波形データ記憶部62に記憶し(S81)、本処理を終了して
図24に示す最適ゲイン導出処理のメインルーチンにリターンする。
【0121】
Y軸最適ゲイン導出処理(S30-1)の終了後、X軸最適ゲイン導出処理(S30-2)を行う。X軸最適ゲイン導出処理(S30-2)は、静圧ポケット10-4を対象として
図26に示す最適ゲイン導出処理を行う。処理の流れは、Y軸最適ゲイン導出処理(S30-1)と同様であるので、説明を省略する。X軸最適ゲイン導出処理(S30-2)が終了すると、
図24に示す最適ゲイン導出処理(S30)が終了し、
図14に示す最適波形データ生成処理(S3)を終了する。
【0122】
(13.第二実施形態のまとめ)
図27は、第二実施形態に係る最適シフト時間の導出手順及び最適ゲインの導出手順の一例を示す模式図である。
図27において、階段状に図示されたグラフはシフト時間又はゲインの調整を表し、近傍の数字は調整の順番を表している。
図27は、Y軸(静圧ポケット10-1の絞り開度)のシフト時間及びゲインを連続して調整した後、X軸(静圧ポケット10-4の絞り開度)のシフト時間及びゲインを連続して調整することで最適シフト時間及び最適ゲインを探索する様子を示している。
【0123】
すなわち、第二実施形態において、最適シフト時間導出部92は、Y軸基準波形データの逆位相の波形データに対するY軸位相調整波形データのシフト時間を順次変えながらY軸位相調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1の絞り開度を調整した場合に、Y軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸最適シフト時間を導出し、その後、X軸基準波形データの逆位相の波形データに対するX軸位相調整波形データのシフト時間を順次変えながらX軸位相調整波形データに基づいて可変絞り弁40-4の絞り開度を調整した場合に、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なX軸最適シフト時間を導出する。この構成によれば、Y軸のシフト時間を探索した後、X軸のシフト時間を探索することで、最適なY軸、X軸最適シフト時間を効率的且つ確実に導出することができる。
【0124】
また、最適ゲイン導出部94は、Y軸位相調整波形データに対するY軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながらY軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1の絞り開度を調整した場合に、Y軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸最適ゲインを導出する。その後、X軸位相調整波形データに対するX軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながらX軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-4の絞り開度を調整した場合に、Y軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なX軸最適ゲインを導出する。この構成によれば、Y軸のゲインを探索した後、X軸のゲインを探索することで、最適なY軸、X軸最適ゲインを効率的且つ確実に導出することができる。
【0125】
[第三実施形態]
(14.第三実施形態の構成及び作用)
第三実施形態では、上記第一実施形態と上記第二実施形態とを組み合わせて、Y軸、X軸最適シフト時間及びY軸、X軸最適ゲインを導出する。以下、第三実施形態における最適シフト時間導出処理、及び最適ゲイン導出処理について
図28、
図29を参照しつつ説明する。
【0126】
第三実施形態において、最適波形データ生成処理(S3)における最適シフト時間導出処理(S10)では、
図28に示すように、まずY軸仮最適シフト時間導出処理(S10-11)を行う。Y軸仮最適シフト時間導出処理(S10-11)は、第二実施形態におけるY軸最適シフト時間導出処理(S10-1)と同様の処理である。但し、Y軸仮最適シフト時間導出処理(S10-11)では、最適シフト時間導出処理(
図25)で導出された結果をY軸最適シフト時間とはせず、Y軸仮最適シフト時間とする。
【0127】
Y軸仮最適シフト時間導出処理(S10-11)の終了後、X軸仮最適シフト時間導出処理(S10-12)を行う。X軸仮最適シフト時間導出処理(S10-12)は、第二実施形態におけるX軸最適シフト時間導出処理(S10-2)と同様の処理である。但し、X軸仮最適シフト時間導出処理(S10-12)では、最適シフト時間導出処理(
図25)で導出された結果をX軸最適シフト時間とはせず、X軸仮最適シフト時間とする。
【0128】
X軸仮最適シフト時間導出処理(S10-12)の終了後、Y軸、X軸最適シフト時間交互探索処理(S10-13)を行う。Y軸、X軸最適シフト時間交互探索処理(S10-13)は、第一実施形態における最適シフト時間導出処理(
図15)と同様の処理である。但し、Y軸、X軸最適シフト時間交互探索処理(S10-13)では、初期のシフト時間として、Y軸仮最適シフト時間導出処理(S10-11)で導出されたY軸仮最適シフト時間、及びX軸仮最適シフト時間導出処理(S10-12)で導出されたX軸仮最適シフト時間を用いる。Y軸、X軸最適シフト時間交互探索処理(S10-13)が終了すると、最適シフト時間導出処理(S10)を終了する。
【0129】
次に、最適ゲイン導出処理(S30)では、
図29に示すように、まずY軸仮最適ゲイン導出処理(S30-11)を行う。Y軸仮最適ゲイン導出処理(S30-11)は、第二実施形態におけるY軸最適ゲイン導出処理(S30-1)と同様の処理である。但し、Y軸仮最適ゲイン導出処理(S30-11)では、最適ゲイン導出処理(
図26)で導出された結果をY軸最適ゲインとはせず、Y軸仮最適ゲインとする。
【0130】
Y軸仮ゲイン導出処理(S30-11)の終了後、X軸仮最適ゲイン導出処理(S30-12)を行う。X軸仮最適ゲイン導出処理(S30-12)は、第二実施形態におけるX軸最適ゲイン導出処理(S30-2)と同様の処理である。但し、X軸仮最適ゲイン導出処理(S30-12)では、最適ゲイン導出処理(
図26)で導出された結果をX軸最適ゲインとはせず、X軸仮最適ゲインとする。
【0131】
X軸仮最適ゲイン導出処理(S30-12)の終了後、Y軸、X軸最適ゲイン交互探索処理(S30-13)を行う。Y軸、X軸最適ゲイン交互探索処理(S30-13)は、第一実施形態における最適ゲイン導出処理(
図18)と同様の処理である。但し、Y軸、X軸最適ゲイン交互探索処理(S30-13)では、初期のゲインとして、Y軸仮最適ゲイン導出処理(S30-11)で導出されたY軸仮最適ゲイン、及びX軸仮最適ゲイン導出処理(S30-12)で導出されたX軸仮最適ゲインを用いる。Y軸、X軸最適ゲイン交互探索処理(S30-13)が終了すると、最適ゲイン導出処理(S30)を終了すると、
図29に示す最適ゲイン導出処理(S30)が終了し、
図14に示す最適波形データ生成処理(S3)を終了する。
【0132】
(15.第三実施形態のまとめ)
以上説明したように、第三実施形態において、最適シフト時間導出部92は、Y軸基準波形データの逆位相の波形データに対するY軸位相調整波形データのシフト時間を順次変えながらY軸位相調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1の絞り開度を調整した場合に、Y軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸仮最適シフト時間を導出し、その後、X軸基準波形データの逆位相の波形データに対するX軸位相調整波形データのシフト時間を順次変えながらX軸位相調整波形データに基づいて可変絞り弁40-4の絞り開度を調整した場合に、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なX軸仮最適シフト時間を導出する。
【0133】
さらにその後、Y軸仮最適シフト時間をY軸位相調整波形データの初期シフト時間とし、X軸仮最適シフト時間をX軸位相調整波形データの初期シフト時間として用いて、Y軸基準波形データの逆位相の波形データに対するY軸位相調整波形データのシフト時間とX軸基準波形データの逆位相の波形データに対するX軸位相調整波形データのシフト時間とを交互に変えながらY軸、X軸位相調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を調整した場合に、Y軸、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸、X軸最適シフト時間を導出する。この構成によれば、Y軸、X軸仮最適シフト時間を導出した後、それらを初期値として用いて、Y軸とX軸とで交互に最適シフト時間を探索することで、最適なY軸、X軸最適シフト時間を効率的且つ確実に導出することができる。
【0134】
また、最適ゲイン導出部94は、Y軸位相調整波形データに対するY軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながらY軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1の絞り開度を調整した場合に、Y軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸仮最適ゲインを導出し、その後、X軸位相調整波形データに対するX軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量を順次変えながらX軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-4の絞り開度を調整した場合に、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なX軸仮最適ゲインを導出する。
【0135】
さらにその後、Y軸仮最適ゲインをY軸ゲイン調整波形データの初期ゲインとし、X軸仮最適ゲインをX軸ゲイン調整波形データの初期ゲインとして用いて、Y軸位相調整波形データに対するY軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量とX軸位相調整波形データに対するX軸ゲイン調整波形データのゲイン調整量とを交互に変えながらY軸、X軸ゲイン調整波形データに基づいて可変絞り弁40-1,40-4の絞り開度を調整した場合に、Y軸、X軸基準波形データの振幅の変化を観察することにより、Y軸、X軸基準波形データの振幅を小さくするのに最適なY軸、X軸最適ゲインを導出する。この構成によれば、Y軸、X軸仮最適ゲインを導出した後、それらを初期値として用いて、Y軸とX軸とで交互に最適ゲインを探索することで、最適なY軸、X軸最適ゲインを効率的且つ確実に導出することができる。
【0136】
(16.その他の変形例)
上記において、基準波形データは、振動測定装置4による測定結果そのものである場合を例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、弁制御装置50は、振動測定装置4による測定結果として得られた波形データに対してフィルタリング処理を行うことにより得られた波形データ、又は、複数の波形データの振幅を平均化することにより得られた波形データを基準波形データとしてもよい。この場合、弁制御装置50は、基準波形データに突発的に発生した(周期的でない)振動が含まれる場合に、当該突発的に発生した振動を基準波形データから除外することができるので、基準波形データの振動の周期を的確に把握することができる。
【0137】
また、弁制御装置50は、振動測定装置4による測定結果として得られた波形データを周波数分析することにより得られた関数を基準波形データとして取得してもよい。この場合、弁制御装置50は、基準波形データを的確に把握することができる。さらに、弁制御装置50は、振動測定装置4による測定結果として得られた波形データに対し、フィルタリング処理を行うことにより得られた波形データを、周波数分析することにより得られた関数を基準波形データとして取得してもよい。この場合、弁制御装置50は、基準波形データに突発的に発生した振動が含まれる場合に、当該突発的に発生した振動を基準波形データから除外することができるので、基準波形データの振動の周期を的確に把握することができる。
【0138】
工作機械1は、例えば、研削盤、マシニングセンタ等であって、支持体に対して移動体を移動可能に支持する支持装置を備える。本例における工作機械は、高精度に移動体を支持するために、支持装置として静圧流体支持装置を適用する。特に、本例においては、静圧流体支持装置における静圧ポケットに供給する流体の流量を能動的に調整することによって、移動体の振動を減衰させることができる。
【0139】
ここで、移動体は、支持体に対してスライド移動する構成としてもよいし、回転する構成としてもよい。移動体は、スライド移動する構成としては、研削盤における砥石台、トラバースベース、テーブル、マシニングセンタにおけるコラム、テーブル等である。また、移動体は、回転する構成としては、研削盤における砥石車の支持軸、工作物の回転支持軸、マシニングセンタにおける工具の支持軸、工作物の回転支持軸等である。
【0140】
例えば、工作機械1が砥石台トラバースタイプの研削盤である場合には、支持体2は、研削盤におけるトラバースベースであり、移動体3は、研削盤の砥石台である。工作機械1がテーブルトラバースタイプの研削盤である場合には、支持体2は、研削盤におけるベッドであり、移動体3は、研削盤の砥石台である。もちろん、支持体2及び移動体3は、上記以外にも適用可能である。
【符号の説明】
【0141】
1:工作機械、 2:支持体、 3:移動体、 4-1:振動測定装置(第1振動測定装置)、4-4:振動測定装置(第2振動測定装置)、10-1:静圧ポケット(第1静圧ポケット)、 10-4:静圧ポケット(第2静圧ポケット)、20:流体供給装置、 30:流体案内流路(第1流体案内流路、第2流体案内流路)、 40-1:可変絞り弁(第1可変絞り弁)、 40-4:可変絞り弁(第2可変絞り弁)、 61:絞り開度調整部、 70:基準波形データ取得部、 80:判定部、 91:位相調整波形データ生成部、 92:最適シフト時間導出部、 93:ゲイン調整波形データ生成部、 94:最適ゲイン導出部、 95:初期シフト時間記憶部、 96:初期ゲイン記憶部、 100:静圧流体支持装置、 am11:位相調整前振幅、 am12:位相調整後振幅、 am21:ゲイン調整前振幅、 am22:ゲイン調整後振幅、 BG:最適ゲイン、 BPS:最適シフト時間、 D:隙間(絞り開度)、 F:流体