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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 23/12 20060101AFI20240319BHJP
   B23F 5/18 20060101ALI20240319BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B23F23/12
B23F5/18
B23Q15/12 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020049691
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021146466
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062056(JP,A)
【文献】特開2012-088968(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181450(WO,A1)
【文献】特開2018-001301(JP,A)
【文献】国際公開第2013/088849(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/00、18
B23F 23/00、12
B23Q 15/12
B23Q 17/00、09、12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯切り工具と工作物との同期回転を制御すると共に、前記工作物の回転軸線方向に沿った前記歯切り工具と前記工作物との相対移動を制御する制御装置を備え、前記工作物に歯車を加工する歯車加工装置であって、
前記制御装置は、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更する変動条件変更部と、
前記変動条件変更部により変更された前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方に基づいて前記歯切り工具と前記工作物とにおける前記同期回転の回転速度を変動制御すると共に、前記同期回転の回転速度に同期するように前記歯切り工具と前記工作物との前記相対移動の送り速度を変動制御する制御部と、を備えた、歯車加工装置。
【請求項2】
歯切り工具と工作物との同期回転を制御すると共に、前記工作物の回転軸線方向に沿った前記歯切り工具と前記工作物との相対移動を制御する制御装置を備え、前記工作物に歯車を加工する歯車加工装置であって、
前記制御装置は、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更する変動条件変更部を備え
前記変動条件変更部は、加工能率と省エネルギーとのバランスに基づき、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更するか維持するかを決定する、歯車加工装置。
【請求項3】
前記制御装置は、更に、
前記変動条件変更部により変更された前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方に基づいて前記歯切り工具と前記工作物とにおける前記同期回転の回転速度を変動制御すると共に、前記同期回転の回転速度に同期するように前記歯切り工具と前記工作物との前記相対移動の送り速度を変動制御する制御部を備えた、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記変動条件変更部は、前記回転速度変動周波数を一定とし、且つ、前記回転速度変動幅を変更する、請求項1-3のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記状態値は、前記歯切り工具による前記工作物の生産数である、請求項1-4のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記状態値は、前記工作物及び前記歯切り工具を駆動するための電流を表す電流値、前記歯切り工具による加工に伴って発生する振動、前記歯切り工具に発生した摩耗の摩耗量、及び、前記工作物の加工面における表面性状の何れかである、請求項1-4のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
前記状態値は、前記歯切り工具による前記工作物の生産数、前記工作物及び前記歯切り工具を駆動するための電流を表す電流値、前記歯切り工具による加工に伴って発生する振動、前記歯切り工具に発生した摩耗の摩耗量、及び、前記工作物の加工面における歯すじ誤差の何れかであり、
前記変動条件変更部は、前記状態値が大きくなることに応じて、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を大きな値に変更する、請求項1-4のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項8】
前記制御装置は、更に、
前記状態値を取得すると共に、前記状態値が予め異なる大きさに設定された複数の基準値よりも大きいか否かを判定する状態値判定部を備え、
前記変動条件変更部は、前記状態値判定部による判定結果に応じて、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を段階的に変更する、請求項1-のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項9】
前記制御装置は、更に、
前記状態値を取得すると共に、前記状態値が予め設定された基準値よりも大きいか否かを判定する状態値判定部を備え、
前記変動条件変更部は、前記状態値判定部による判定結果に応じて、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更する、請求項1-のうちの何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項10】
歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値を取得すると共に、前記状態値が予め設定された基準値よりも大きいか否かを判定し、且つ、
前記状態値が予め設定された基準値よりも大きい判定結果に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更し、
変更された前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方に基づいて前記歯切り工具と前記工作物とにおける前記同期回転の回転速度を変動制御すると共に、前記同期回転の回転速度に同期するように前記歯切り工具と前記工作物との前記相対移動の送り速度を変動制御する、歯車加工方法。
【請求項11】
歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値を取得すると共に、前記状態値が予め設定された基準値よりも大きいか否かを判定し、且つ、
前記状態値が予め設定された基準値よりも大きい判定結果に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更し、
加工能率と省エネルギーとのバランスに基づき、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更するか維持するかを決定する、歯車加工方法。
【請求項12】
変更された前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方に基づいて前記歯切り工具と前記工作物とにおける前記同期回転の回転速度を変動制御すると共に、前記同期回転の回転速度に同期するように前記歯切り工具と前記工作物との前記相対移動の送り速度を変動制御する、請求項11に記載の歯車加工方法。
【請求項13】
前記状態値は、前記歯切り工具による前記工作物の生産数である、請求項10-12のうちの何れか一項に記載の歯車加工方法。
【請求項14】
前記状態値は、前記工作物及び前記歯切り工具を駆動するための電流を表す電流値、前記歯切り工具による加工に伴って発生する振動、前記歯切り工具に発生した摩耗の摩耗量、及び、前記工作物の加工面における表面性状の何れかである、請求項10-12のうちの何れか一項に記載の歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工作物を連続加工する場合、歯切り工具等に生じた工具摩耗によって加工抵抗が上昇してしまうため、びびり振動(又は、加工振動)が生じる場合がある。このようなびびり振動を抑制するために、従来から特許文献1及び特許文献2に開示された技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、歯車加工装置に関し、工作物及び歯切り工具の何れか一方の回転速度を変動させると共に、工作物及び歯切り工具の何れか他方の回転速度を同期させる技術が開示されている。特許文献2には、工作機械に関し、びびり振動に応じて主軸の回転速度を最適な値に変化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-62056号公報
【文献】特開2014-61568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、歯車加工装置を用いて工作物に歯車加工を施す場合、通常は、連続加工中にびびり振動が発生することを見越して、回転速度を変動させる際の変動幅及び変動周波数の何れか一方を、加工開始から余裕を持たせるように大きく設定することが行われる。これにより、ロット生産された工作物は、びびり振動に起因する表面性状の悪化が効果的に抑制された良品として生産される。
【0006】
しかしながら、工作物及び歯切り工具の何れか一方の回転速度を変動させると共に、工作物及び歯切り工具の何れか他方の回転速度を同期させるためには、電力を必要とする。この場合、回転速度を変動させる変動幅及び変動周波数を過度に大きく設定すると、特に、歯切り工具に発生する摩耗の小さい状況では無駄な消費電力量を生じさせてしまう。
【0007】
本発明は、工作物及び歯切り工具の回転速度を変動させながら同期させて歯車を加工する際における無駄な消費電力量を低減できる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(歯車加工装置)
本発明の歯車加工装置に係る第一態様は、歯切り工具と工作物との同期回転を制御すると共に、前記工作物の回転軸線方向に沿った前記歯切り工具と前記工作物との相対移動を制御する制御装置を備え、前記工作物に歯車を加工する歯車加工装置であって、
前記制御装置は、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更する変動条件変更部と、
前記変動条件変更部により変更された前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方に基づいて前記歯切り工具と前記工作物とにおける前記同期回転の回転速度を変動制御すると共に、前記同期回転の回転速度に同期するように前記歯切り工具と前記工作物との相対移動の送り速度を変動制御する制御部と、を備えた、歯車加工装置にある。
本発明の歯車加工装置に係る第二態様は、歯切り工具と工作物との同期回転を制御すると共に、前記工作物の回転軸線方向に沿った前記歯切り工具と前記工作物との相対移動を制御する制御装置を備え、前記工作物に歯車を加工する歯車加工装置であって、
前記制御装置は、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更する変動条件変更部を備え、
前記変動条件変更部は、加工能率と省エネルギーとのバランスに基づき、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更するか維持するかを決定する、歯車加工装置にある。
【0009】
(歯車加工方法)
本発明の歯車加工方法に係る第一態様は、歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値を取得すると共に、前記状態値が予め設定された基準値よりも大きいか否かを判定し、且つ、
前記状態値が予め設定された基準値よりも大きい判定結果に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更し、
変更された前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方に基づいて前記歯切り工具と前記工作物とにおける前記同期回転の回転速度を変動制御すると共に、前記同期回転の回転速度に同期するように前記歯切り工具と前記工作物との相対移動の送り速度を変動制御する歯車加工方法にある
本発明の歯車加工方法に係る第二態様は、歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物の加工に関して前記歯切り工具による前記工作物の加工状態を表す状態値を取得すると共に、前記状態値が予め設定された基準値よりも大きいか否かを判定し、且つ、
前記状態値が予め設定された基準値よりも大きい判定結果に応じて、前記同期回転の回転速度を変動させる際の変動幅を表す回転速度変動幅、及び、前記回転速度を変動させる際の周波数を表す回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更し、
加工能率と省エネルギーとのバランスに基づき、前記回転速度変動幅及び前記回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更するか維持するかを決定する、歯車加工方法にある。
【0010】
これらによれば、状態値に応じて回転速度変動幅及び回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更することができる。これにより、状態値に応じて回転速度変動幅及び回転速度変動周波数の少なくとも一方を変更することができる歯車加工装置の消費電力量は、ロット生産において過度な回転速度変動幅及び回転速度変動周波数を一様に適用した場合の消費電力量に比べて低減することができる。従って、無駄な消費電力量を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】歯車加工装置の斜視図である。
図2】回転主軸に固定された歯切り工具を拡大した図である。
図3】スカイビング加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
図4】制御装置の構成を示すブロック図である。
図5】歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図6】制御装置により実行される歯車加工処理プログラムのフローチャートである。
図7】回転速度変動幅を大きな値に変更した場合の安定限界(切込量)の変化を示す図である。
図8】回転速度変動幅を大きな値に変更した場合の消費電力量の変化を示す図である。
図9】状態値である生産数に応じて変動条件を変更した場合の加工振動の大きさの変化を示す図である。
図10】状態値である生産数に応じて変動条件を変更した場合の消費電力量の変化を示す図である。
図11】第一別例に係り、回転速度変動周波数を大きな値に変更した場合の安定限界(切込量)の変化のシミュレーション結果を示す図である。
図12】第三別例に係り、制御装置により実行される歯車加工処理プログラムのフローチャートである。
図13】第四別例に係り、状態値である生産数に応じて変動条件を変更した場合において判定値に対する加工振動の大きさの変化を示す図である。
図14】第四別例に係り、制御装置により実行される歯車加工処理プログラムのフローチャートである。
図15】歯車加工装置の別例において、ホブ加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.適用可能な歯車加工装置)
歯車加工装置は、歯切り工具及び工作物の回転速度を変動させ、且つ、歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、工作物の回転軸線方向に沿って歯切り工具を工作物に対して相対移動させることにより、工作物に歯車を加工する。本例では、歯車加工装置は、歯切り工具としてスカイビングカッタを備え、スカイビング加工によって工作物に歯車を加工する場合を例示する。この場合、歯車加工装置は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸(旋回テーブル軸)及びC軸(ワーク軸))を駆動軸として有する縦型又は横型マシニングセンタを例示することができる。
【0013】
(1-1.歯車加工装置1の構成)
図1に示すように(図4のブロック図も参照)、本例の歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、ターンテーブル70と、保持器80と、制御装置100とを主に備える。
【0014】
ベッド10は、床上に配置される。ベッド10の上面には、コラム20及びX軸モータが設けられ、コラム20は、X軸モータに駆動されることにより、X軸方向(水平方向)へ移動可能に設けられる。更に、コラム20の側面には、サドル30及びY軸モータ11が設けられ、サドル30は、Y軸モータ11によりY軸方向(鉛直方向)に移動可能に設けられる。回転主軸40は、サドル30内に収容された主軸モータ41により回転可能に設けられる。回転主軸40の先端には、歯切り工具42が固定され、歯切り工具42は、回転主軸40の回転に伴って回転する。
【0015】
ここで、図2を参照しながら、歯切り工具42について説明する。歯切り工具42は、外周面に複数の刃42aを備えたスカイビングカッタであり、各々の刃42aの端面は、すくい角γを有するすくい面を構成する。各々の刃42aのすくい面は、歯切り工具42の中心軸線を中心としたテーパ状(内側)としても良く、刃42aごとに異なる方向を向く面状に形成しても良い。
【0016】
ベッド10の上面には、テーブル50及びZ軸モータ12が設けられる。テーブル50は、Z軸モータ12によりZ軸方向(水平方向)に移動可能に設けられる。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持する一対のチルトテーブル支持部61が設けられる。
【0017】
チルトテーブル支持部61には、チルトテーブル60がA軸(水平方向)回りに揺動可能に設けられる。チルトテーブル60の底面には、テーブル用モータ62が設けられ、ターンテーブル70は、テーブル用モータ62によりA軸に直交するC軸回りに回転可能に設けられる。ターンテーブル70には、工作物Wを保持する保持器80が装着される。
【0018】
制御装置100は、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2、及び、工作物Wの回転軸線方向(C軸方向)に沿って歯切り工具42を工作物Wに対して相対移動する送り速度V4を制御する。尚、本例では、テーブル50がZ軸方向へ移動可能に構成される場合を例示するが、テーブル50の代わりにコラム20がZ軸方向へ移動可能に構成されていても良い。
【0019】
ここで、本例においては、図3に示すように、歯車加工装置1は、スカイビング加工により工作物Wに歯車を加工する。具体的に、歯車加工装置1は、チルトテーブル60をA軸回りに揺動させることにより、工作物Wの回転軸線であるC軸を、歯切り工具42の回転軸線Oに対して傾斜させる。尚、工作物WのC軸に対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度を交差角δと称呼する。そして、歯車加工装置1は、工作物Wと歯切り工具42とを同期回転させながら、歯切り工具42を工作物Wの中心軸線方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物Wに歯車を加工する。
【0020】
又、スカイビング加工において、歯切り工具42の回転速度V2及び工作物Wの回転速度V1は、交差角δと切削速度V3とに基づいて決定される。そして、切削速度V3及び送り速度V4は、歯車加工に要する加工時間(サイクルタイム)、歯切り工具42の諸元、工作物Wの材質、及び、工作物Wに形成する歯車のねじれ角等に基づいて設定される。即ち、切削速度V3及び送り速度V4は、歯車加工を行う際の加工能率及び歯切り工具42の工具寿命(摩耗)等を勘案し、最適な速度に設定される。又、スカイビング加工において、切削速度V3及び送り速度V4を速くする程、加工能率が向上する一方、表面性状(歯すじ誤差)等の品質が低下する傾向がある。
【0021】
この点に関し、歯車加工装置1は、最適な切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される工作物Wの回転速度V1を基準回転速度Nwとする。そして、歯車加工装置1は、基準回転速度Nwを基準として工作物Wの回転速度V1を変動させながら歯車加工を行う。これに伴い、歯車加工装置1は、歯車加工時において、歯切り工具42の回転速度V2を変動させ、工作物Wの回転速度V1と同期させる。
【0022】
更に、歯車加工装置1は、最適な切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される工作物Wの送り速度V4を基準送り速度Fwとする。そして、歯車加工装置1は、基準送り速度Fwを基準として、工作物Wの回転速度V1と同期するように送り速度V4を変動させる。
【0023】
(1-2.制御装置100について)
制御装置100は、基準回転速度設定部110と、変動条件設定部120と、工作物回転速度制御部130と、工具回転速度制御部140と、基準送り速度設定部150と、送り速度制御部160とを主として備える。
【0024】
基準回転速度設定部110は、切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される基準回転速度Nwを設定する。変動条件設定部120は、工作物Wの加工状態を表す状態値に応じて、工作物Wの回転速度V1の回転速度変動幅及び回転速度変動周波数を含む変動条件Nwjを設定する。本例においては、変動条件設定部120は、状態値である工作物Wの生産数Npに応じて、変動条件Nwjを変更することにより設定する。
【0025】
ここで、工作物Wの回転速度V1の回転速度変動幅は、図5に示すように、基準回転速度Nwに対して変動させる変動幅を表し、工作物Wのびびり振動、特に、再生びびり等の発生を抑制するように設定される。又、工作物Wの回転速度V1の回転速度変動周波数は、回転速度を変動させる周波数を表し、歯切り工具42の回転速度V2や、工作物Wの回転速度V1、工作物Wの切削力等に基づいたシミュレーションやハンマリング等による計測により求められる工作物Wの振動特性である固有振動数に基づいて設定される。尚、工作物Wの回転速度V1の回転速度変動周波数は、同様に計測して求められる歯車加工装置1の歯切り工具42、回転主軸40及び機体の振動特性である固有振動数に基づいて設定されても良い。
【0026】
即ち、回転速度変動幅及び回転速度変動周波数は、工作物Wの回転速度V1の変動と、歯車加工時において工作物Wに発生するびびり振動(再生びびり振動等)との関係を表す安定限界増加率(安定限界であって切込量に相当)に基づいて設定することができる。ここで、安定限界(安定限界増加率)が高くなるほど、工作物Wにびびり振動を発生させることなく、安定した歯車加工を行うことができ、その結果、切込量を大きくして加工能率を向上させることができる。尚、安定限界増加率及び安定限界の詳細については、例えば、特開2018-62056号公報等を参照することができる。
【0027】
尚、回転速度変動周期は、回転速度変動周波数の逆数(1/回転速度変動周波数)として表すことができるため、変動条件設定部120は回転速度変動幅及び回転速度変動周期を含む変動条件Nwjを設定することができる。又、変動条件設定部120は、歯切り工具42の回転速度V2の回転速度変動幅及び回転速度変動周波数(回転速度変動周期)を設定することも可能である。
【0028】
変動条件設定部120は、シミュレーション演算部121と、状態値判定部122と、変動条件変更部123とを備えている。シミュレーション演算部121は、安定限界、具体的には、安定限界増加率を演算によりシミュレーションする。
【0029】
状態値判定部122は、歯車加工装置1に設けられていて生産した工作物Wの生産数をカウントするカウンタ(図示省略)から状態値である工作物Wの生産数Npを取得する。そして、状態値判定部122は、取得した生産数Npと生産数に関して予め設定された複数の基準値Sn1,Sn2,Sn3とを比較する。尚、基準値Sn1、基準値Sn2及び基準値Sn3について、基準値Sn1は最も小さく、基準値Sn2は基準値Sn2よりも大きく、基準値Sn3は基準値Sn2よりも大きくなるように設定される。そして、状態値判定部122は、生産数Npと基準値Sn1,Sn2,Sn3の各々とを比較し、生産数Npが基準値Sn1,Sn2,Sn3の各々よりも大きいか否かを判定する。
【0030】
変動条件変更部123は、状態値判定部122により判定された生産数Npに応じて、段階的に変動条件Nwjを変更する。即ち、本例の変動条件変更部123は、状態値判定部122の判定に従い、状態値である生産数Npが基準値Sn1以下の場合には変動条件Nwjとして下記表1に示す第一変動条件Nwj1を維持する。
【0031】
又、変動条件変更部123は、状態値判定部122による判定結果に応じて、生産数Npが基準値Sn1よりも大きく且つ基準値Sn2以下の場合には、第一変動条件Nwj1から下記表1に示す第二変動条件Nwj2に変更する。更に、変動条件変更部123は、状態値判定部122による判定結果に応じて、生産数Npが基準値Sn2よりも大きく且つ基準値Sn3以下の場合には変動条件Nwjとして第二変動条件Nwj2から下記表1に示す第三変動条件Nwj3に変更する。
【0032】
【表1】
【0033】
本例の第一変動条件Nwj1は、回転速度変動幅が5%に設定され、且つ、回転速度変動周波数が1Hzに設定される変動条件Nwjである。又、本例の第二変動条件Nwj2は、回転速度変動幅が10%に設定され、且つ、回転速度変動周波数が1Hzに設定される変動条件Nwjである。更に、本例の第三変動条件Nwj3は、回転速度変動幅が15%に設定され、且つ、回転速度変動周波数が1Hzに設定される変動条件Nwjである。即ち、本例の第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3は、回転速度変動周波数が1Hzで一定とされ、回転速度変動幅のみが変更される。
【0034】
工作物回転速度制御部130は、テーブル用モータ62を駆動制御し、工作物Wの回転速度V1を変動させる。工具回転速度制御部140は、主軸モータ41を駆動制御し、歯切り工具42の回転速度V2を変動させると共に、歯切り工具42の回転速度V2を工作物Wの回転速度V1に同期させる。
【0035】
基準送り速度設定部150は、切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される基準送り速度Fwを設定する。送り速度制御部160は、Y軸モータ11及びZ軸モータ12を駆動制御し、送り速度V4と工作物Wの回転速度V1とが同期するように送り速度V4を変動させつつ、歯切り工具42と工作物Wとの相対距離を調整する。
【0036】
(2.歯車加工処理(歯車加工方法))
次に、図6に示すフローチャートを用いて、制御装置100により実行される歯車加工処理プログラムについて説明する。尚、歯車加工処理プログラムを実行するに当たり、基準回転速度設定部110には基準回転速度Nwが、基準送り速度設定部150には基準送り速度Fwが、それぞれ設定される。
【0037】
図6に示すように、歯車加工処理プログラムは、ステップS10にて実行が開始される。そして、続くステップS11にて、変動条件設定部120のシミュレーション演算部121は、工作物Wの回転速度V1を変動させる変動条件Nwjを設定するために、シミュレーションを実行して安定限界を演算する。
【0038】
即ち、シミュレーション演算部121は、基準回転速度設定部110から基準回転速度Nwを取得する。そして、シミュレーション演算部121は、予め記憶している周知のシミュレーションプログラムを実行することにより、工作物Wの固有振動数を算出すると共に、回転速度変動幅及び回転速度変動周波数を各々変化させた場合の安定限界増加率(即ち、安定限界)を演算する。シミュレーション演算部121が安定限界を演算すると、ステップS12に進む。
【0039】
ここで、変動条件設定部120は、演算された安定限界に基づき、工作物Wに歯車を加工する際の第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3を決定する。この場合、変動条件設定部120は、変動条件Nwjを決定する場合、電流制限値を満たすように変更する。ここで、電流制限値は、回転速度の変動を実現するために必要な電流及び加工時に必要な電流を合わせた値であり、回転速度変動幅と回転速度変動周波数に依存して決定される値である。
【0040】
ステップS12においては、変動条件変更部123は、工作物Wの生産数Npが基準値Sn1以下のときの変動条件Nwjとして、第一変動条件Nwj1を設定する。即ち、本例においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjとして、表1に示したように、回転速度変動幅が5%であり、回転速度変動周波数が1Hzである第一変動条件Nwj1を設定する。そして、変動条件設定部120(変動条件変更部123)は、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1に設定すると、ステップS13に進む。
【0041】
ステップS13においては、状態値判定部122は、歯車加工装置1による工作物Wの状態値である生産数Npを、工作物Wが交換されるごとに「1」だけ加算する。ここで、生産数Npは、歯車加工処理プログラムの実行開始時におけるリセット処理により初期値が「0」に設定される。尚、生産数Npについては、図示を省略するカウンタから取得することも可能である。
【0042】
ステップS14においては、状態値判定部122は、前記ステップS13にて「1」だけ加算された生産数Npが基準値Sn1以下であるか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn1以下であれば「Yes」と判定してステップS18に進む。この場合、歯車加工装置1は、第一変動条件Nwj1に従って工作物Wの回転速度V1を変動させて工作物Wの歯車加工を行う。一方、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn1よりも大きければ「No」と判定してステップS15に進む。
【0043】
ステップS15においては、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn1よりも大きく且つ生産数Npが基準値Sn2以下であるか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn1よりも大きく且つ基準値Sn2以下であれば「Yes」と判定してステップS16に進む。一方、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn2よりも大きければ「No」と判定してステップS17に進む。
【0044】
本例のステップS16においては、変動条件変更部123は、生産数Npが基準値Sn1よりも大きく且つ基準値Sn2以下の場合、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1から第二変動条件Nwj2に変更する。即ち、本例においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjとして、表1に示したように、回転速度変動幅が10%であり、回転速度変動周波数が1Hzである第二変動条件Nwj2を変更する。変動条件設定部120(変動条件変更部123)は、変動条件Nwjを第二変動条件Nwj2に変更すると、ステップS18に進む。
【0045】
本例のステップS17は、変動条件変更部123は、生産数Npが基準値Sn2よりも大きく且つ基準値Sn3以下の場合に実行される。具体的に、ステップS17においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjを第二変動条件Nwj2から第三変動条件Nwj3に変更する。即ち、本例においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjとして、表1に示したように、回転速度変動幅が15%であり、回転速度変動周波数が1Hzである第三変動条件Nwj3を変更する。変動条件設定部120(変動条件変更部123)は、変動条件Nwjを第三変動条件Nwj3に変更すると、ステップS18に進む。
【0046】
ところで、安定限界(切込量)は、図7に示すように、回転速度の変動がない場合に比べて回転速度の変動が有る場合に大きくなり、更には、回転速度変動幅が大きくなるにつれて大きくなる関係を有する。従って、加工能率の観点では、回転速度を変動させた方が良く、更には、回転速度変動幅が大きい方が良い。
【0047】
一方、回転している歯切り工具42の回転速度を変動させる場合には、歯切り工具42を変動させることなく回転させるための電力に加えて変動を生じさせるだけの電力を余分に消費する。このため、図8に示すように、歯切り工具42が工作物Wを加工する際の電力消費量について、回転速度の変動がない場合に比べて回転速度の変動が有る場合には消費電力量が大きくなり、更には、回転速度変動幅が大きくなるにつれて消費電力量が大きくなる。従って、省エネルギーの観点では、回転速度を変動させない方が良く、変動させる場合には回転速度変動幅が小さい方が良い。
【0048】
そこで、変動条件変更部123は、加工能率と省エネルギーとのバランスに基づき、変動条件Nwjを維持又は変更する。即ち、生産数Npが基準値Sn1以下の場合には、未だ歯切り工具42に摩耗等が生じておらずその結果切込量を大きくすることができる。このため、変動条件変更部123は、生産数Npが基準値Sn1以下の場合には、加工能率が十分確保されているため、回転速度変動幅が小さく省エネルギーの達成に有効な第一変動条件Nwj1を維持する。
【0049】
又、基準値Sn1よりも大きく且つ基準値Sn2以下の場合には、歯切り工具42に未だ大きな摩耗等が生じておらず切込量を比較的大きくすることができる。このため、変動条件変更部123は、生産数Npが基準値Sn1よりも大きく且つ基準値Sn2以下の場合には、加工能率の確保と省エネルギーの達成とに有効な第二変動条件Nwj2に変更する。
【0050】
更に、基準値Sn2よりも大きく且つ基準値Sn3以下の場合には、歯切り工具42に摩耗等が生じて大きな切込量を維持することが難しくなる。このため、変動条件変更部123は、生産数Npが基準値Sn2よりも大きく且つ基準値Sn3以下の場合には、省エネルギーの効果が低減されるものの加工能率を確保できる第三変動条件Nwj3に変更する。
【0051】
ステップS18において、制御装置100は、工作物Wを切削加工する。具体的に、工作物回転速度制御部130は、前記ステップS12、S16又はS17にて決定された変動条件Nwj(最適加工条件)に従い、工作物Wの回転速度V1を制御して変動させる。これにより、工作物回転速度制御部130は、図5にて太線で示すように、工作物Wの回転速度V1を、回転速度変動幅(速度上限値及び速度下限値)及び回転速度変動周波数で反復的に増減させる。
【0052】
又、工具回転速度制御部140は、工作物Wに形成される歯車と歯切り工具42との歯数比と、工作物回転速度制御部130により設定された工作物Wの回転速度V1等とに基づき、歯切り工具42の回転速度V2と工作物Wの回転速度V1とが同期するように、歯切り工具42の回転速度V2を設定する。
【0053】
例えば、基準回転速度Nwが1000min-1、回転速度変動幅が±15%であり、工作物Wに形成される歯車と歯切り工具42との歯数比が3:1であるとする。この場合、工具回転速度制御部140は、2550min-1~3450min-1の範囲で歯切り工具42の回転速度V2を周期的に変動させる。加えて、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2の回転速度変動周波数が工作物Wの回転速度V1の回転速度変動周波数と同一となるように、歯切り工具42の回転速度V2を反復的に増減させる。
【0054】
これにより、歯切り工具42の回転速度V2は、工作物Wの回転速度V1と同期しながら周期的に増減する。そして、歯切り工具42は、工作物Wに噛合しながら、工作物Wに連続的な歯車加工を行い、工作物Wに歯面形状を切削加工する。
【0055】
更に、送り速度制御部160は、基準送り速度設定部150に設定された基準送り速度Fwと工作物Wの回転速度V1の回転速度変動周波数とに基づき、送り速度V4が工作物Wの回転速度V1の回転速度変動周波数と同期するように、送り速度V4を変動させる。これにより、送り速度V4は、一定の周期で反復的に増減する。
【0056】
このように、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を高速で反復的に増減させると共に、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させる。又、送り速度制御部160は、工作物Wの回転速度V1の回転速度変動周波数と同期するように、送り速度V4を変動させる。そして、歯車加工装置1は、工作物Wに歯車を加工する。
【0057】
これにより、歯車加工装置1は、工作物Wに対する歯車加工において、生産数Npに応じて、工作物Wに発生するびびり振動を抑制しつつ、工作物Wに対する歯切り工具42の安定限界、換言すれば、切込量を大きく設定することができる。従って、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の表面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができ、更には、省エネルギー化を図ることができる。
【0058】
ここで、工作物Wを含む第一回転体(工作物W、保持器80及びターンテーブル70の回転部分)の質量と、歯切り工具42を含む第二回転体(歯切り工具42及び回転主軸40の回転部分)の質量とは同一ではない。そのため、第一回転体の回転速度V1及び第二回転体の回転速度V1が同期して変動する場合、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとが異なる。そして、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの相違に起因して、工作物Wと歯切り工具42の回転位相の同期誤差が発生する場合がある。
【0059】
同期誤差が発生した場合、加工される工作物Wに歯すじ誤差のうねりが発生し、歯車加工精度が悪化する虞がある。そこで、制御装置100は、変動条件Nwjに従って、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を制御する場合、第一回転体の第一慣性モーメントと第二慣性モーメントとに基づいて、回転速度V1の補正量を算出する。
【0060】
具体的には、制御装置100は、予め記憶されている第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iw、歯切り工具42即ち回転主軸40の回転速度V2の回転速度変動幅At及び回転速度変動周波数fhに基づいて、下記式1で表される工作物Wの回転速度変動幅の補正量ΔAwを求める。ここで、下記式1中のCwtは、歯切り工具42基準の工作物Wに関する定数であり、予め記憶されている。尚、同様な変数を、三角関数を用いた式によって補正量ΔAwを求めることも可能である。
【数1】
【0061】
再び図6に戻り、変動条件設定部120は、歯車加工装置1が前記ステップS12、S16又はS17にて決定された変動条件Nwj(第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3のうちの何れか)に従って工作物Wに歯車を加工している場合、歯車加工処理プログラムのステップS19のステップ処理を実行する。これにより、変動条件設定部120は、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅が抑制されているか否かを判定する。
【0062】
即ち、変動条件設定部120は、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅が抑制されていれば、ステップS19にて「Yes」と判定することによってそのまま加工を継続し、ステップS21に進む。一方、変動条件設定部120は、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅が抑制されていなければ、ステップS19にて「No」と判定し、ステップS20に進む。ステップS20においては、変動条件設定部120は、切削抵抗を低下させることによって再生びびり振動を低減するために、切込量を調整して下げる(小さくする)。そして、変動条件設定部120は、切込量を調整して下げた状態で、再び前記ステップS18及びステップS19のステップ処理を実行して工作物Wに歯車を加工する。
【0063】
尚、変動条件設定部120は、ステップS19にて「No」と判定した場合、例えば、制御装置100に設けられた図示省略の記憶装置(図示を省略するデータベース)に前記ステップS12、S16又はS17にて決定された変動条件Nwj(第一変動条件Nwj1~第三変動Nwj3のうちの何れか)及び再生びびり振動の大きさ等を記憶する。そして、変動条件設定部120は、記憶装置(データベース)に記憶された情報を、前記ステップS11にてシミュレーション演算部121が行うシミュレーションにおいて利用できるようにする。これにより、シミュレーション演算部121が行う安定限界増加率(安定限界)のシミュレーションの精度を向上させることができる。
【0064】
ステップS21においては、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn3よりも大きいか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn3以下であれば「No」と判定し、上述した前記ステップS13以降の各ステップ処理を実行する。一方、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn3よりも大きければ、ステップS21にて「Yes」と判定してステップS22に進む。そして、変動条件設定部120は、ステップS22にて切削の完了に伴って歯車加工処理プログラムの実行を終了する。
【0065】
(3.本例の効果)
上述した説明からも理解できるように、歯車加工装置1によれば、状態値である生産数Npに応じて、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3のうちの何れかに段階的に変更することができる。これにより、生産数Npに応じて変動条件Nwjを変更することができる歯車加工装置1の消費電力量は、ロット生産において過度な変動条件Nwj(第三変動条件Nwj3)を変更することなく一様に適用した場合の消費電力量に比べて低減することができる。又、生産数Npに応じて変動条件Nwjを変更することにより、歯切り工具42に大きな摩耗が生じた場合であってもびびり振動(加工振動)を抑制することができ、その結果、表面性状の良好な工作物を生産することができる。
【0066】
例えば、図9にて破線により示す(三角印も含む)ように、加工開始時から第三変動条件Nwj3に固定した場合、常にびびり振動の発生が抑制されるため、不良を生じさせることなく正常な工作物Wを生産することが可能である。しかしながら、この場合、図10にて破線により示す(三角印も含む)ように、常に消費電力量が大きい状態で工作物Wの加工を行うことになる。尚、図9において示す太線は、びびり振動(加工振動)に関し、工作物Wの良否判定を行うための管理値を示す。
【0067】
これに対し、特に加工開始時においては、歯切り工具42の刃42aに摩耗等が生じておらず、びびり振動が発生しにくい。従って、図9にて実線により示す(丸印も含む)ように、生産数Npが基準値Sn1以下の加工初期においては、回転速度変動幅の小さい第一変動条件Nwj1により工作物Wを加工する。これにより、図10にて実線により示す(丸印も含む)示すように、第三変動条件Nwj3により工作物Wを加工する場合に比べて消費電力量を大きく低減することができる。
【0068】
又、生産数Npが増えてくると、歯切り工具42の刃42aに摩耗等が生じ始め、びびり振動が発生し始める。従って、図9に示すように、生産数Npが基準値Sn1よりも大きく且つ基準値Sn2以下の加工中期においては、回転速度変動幅が第一変動条件Nwj1よりも大きい第二変動条件Nwj2により工作物Wを加工する。これにより、図10に示すように、第三変動条件Nwj3により工作物Wを加工する場合に比べて消費電力量を低減することができる。
【0069】
そして、生産数Npが更に増えて多くなると、歯切り工具42の刃42aに摩耗等が生じ、びびり振動が発生する。従って、図9に示すように、生産数Npが基準値Sn2よりも大きく且つ基準値Sn3以下の加工末期においては、回転速度変動幅が第二変動条件Nwj2よりも大きい第三変動条件Nwj3により工作物Wを加工する。これにより、図10に示すように、加工末期においては消費電力量が大きくなる。しかしながら、加工初期及び加工中期では消費電力量を低減することができているため、加工末期を含めたトータルの消費電力量は、加工初期から加工末期まで工作物Wを第三変動条件Nwj3に従って加工する場合に比べて、低減することができる。
【0070】
(4.第一別例)
上述した本例においては、変動条件変更部123は、表1に示すように、第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3に応じて回転速度変動幅を変更するようにした。これに代えて、下記表2に示すように、変動条件変更部123は、回転速度変動周波数(回転速度変動周期)を変更することも可能である。
【0071】
【表2】
【0072】
ここで、第四変動条件Nwj4は、上述した本例の第一変動条件Nwj1と同様に、回転速度変動幅が5%に設定され、且つ、回転速度変動周波数が1Hzに設定される変動条件Nwjである。又、第五変動条件Nwj5は、回転速度変動幅が5%に設定され、且つ、回転速度変動周波数が2Hzに設定される変動条件Nwjである。更に、第六変動条件Nwj6は、回転速度変動幅が5%に設定され、且つ、回転速度変動周波数が3Hzに設定される変動条件Nwjである。即ち、第一別例における第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6は、回転速度変動幅が5%で変更されず回転速度変動周波数のみが変更される。
【0073】
ここで、図11に示すように、推定安定限界(切込量)は、回転速度の周波数変動がない場合に比べて回転速度の周波数変動が有る場合に大きくなり、更には、回転速度変動周波数が大きくなるにつれて大きくなる関係を有すると推定される。そして、この第一別例においても、上述した本例と同様に、図6に示したフローチャートに示した歯車加工処理プログラムを実行することにより、生産数Npに応じて変動条件Nwjを適宜変更することができる。従って、上述した本例と同様の効果が期待できる。
【0074】
(5.第二別例)
上述した本例においては、変動条件変更部123は、回転速度変動幅のみを変更するように、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3の何れかに変更するようにした。又、上述した第一別例においては、変動条件変更部123は、回転速度変動周波数(回転速度変動周期)のみを変更するように、変動条件Nwjを第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6に変更するようにした。しかしながら、変動条件Nwjの変更に関しては、回転速度変動幅のみを変更すること、又は、回転速度変動周波数(回転速度変動周期)のみを変更することに限られない。
【0075】
即ち、変動条件変更部123は、状態値に応じて、回転速度変動幅及び回転速度変動周波数の両方を同時に変更することも可能である。このように、回転速度変動幅及び回転速度変動周波数の両方を同時に変更する場合には、変動条件Nwjをよりきめ細かく設定することが可能となる。その結果、加工能率を確保しつつ、省エネルギーを達成することができる。
【0076】
(6.第三別例)
上述した本例、第一別例及び第二別例においては、工作物Wの加工開始時から第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)に従って回転速度変動幅及び回転速度変動周波数の少なくとも一つを変動するようにした。ここで、加工開始時においては、加工に伴うびびり振動が発生する可能性は、生産数Npが増大した場合に比べて極めて小さくなる。このため、上述した本例の場合を例示した下記表3に示すように、生産数Npが基準値Sn0となるまでの間は、回転速度変動幅を変動させず、且つ、回転速度変動周波数も変動させない初期条件を適用することも可能である。尚、基準値Sn0は基準値Sn1よりも小さくなるように設定される。
【0077】
【表3】
【0078】
この第三別例における歯車加工処理プログラムは、図12にフローチャートを示すように、変更される。具体的に、第三別例における歯車加工プログラムにおいては、図6に示した歯車加工処理プログラムにおける前記ステップS12がステップS30に変更されると共に、ステップS31及びステップS32が追加される。
【0079】
この場合、変動条件変更部123は、ステップS30にて、工作物Wの生産数Npが基準値Sn0未満のときの変動条件Nwjとして、初期条件を設定する。即ち、第三別例においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjとして、表3に示したように、回転速度変動幅及び回転速度変動周波数を変動させない初期条件を設定する。そして、変動条件設定部120(変動条件変更部123)は、変動条件Nwjを初期条件に設定すると、ステップS31に進む。
【0080】
ステップS31においては、状態値判定部122は、歯車加工装置1による工作物Wの状態値である生産数Npを取得して、生産数Npが基準値Sn0よりも大きいか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn0よりも大きければ、「Yes」と判定して前記ステップS14に進む。一方、状態値判定部122は、生産数Npが基準値Sn0以下であれば「No」と判定して前記ステップS18に進む。この場合、歯車加工装置1は、初期条件に従って、即ち、工作物Wの回転速度V1の回転速度変動幅及び回転速度変動周波数を変動させることなく工作物Wの歯車加工を行う。
【0081】
そして、変動条件変更部123は、状態値判定部122による前記ステップS14の判定処理により、生産数Npが基準値Sn1以下の場合(生産数Npが基準値Sn0よりも大きく且つ基準値Sn1以下の場合)に、ステップS32のステップ処理を実行する。即ち、ステップS32においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjを初期条件から第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)に変更する。そして、変動条件設定部120(変動条件変更部123)は、変動条件Nwjを初期条件から第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)に変更すると、ステップS18に進む。
【0082】
これにより、第三別例においては、変動条件変更部123は、生産数Npが基準値Sn0よりも大きくなると、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)に変更する。従って、上述したように、何ら変動させない初期条件における消費電力量は、第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)における消費電力量よりも少ないため、より省エネルギーを達成することが可能となる。
【0083】
(7.第四別例)
上述した本例及び第一別例~第三別例においては、状態値である生産数Npを判定することにより、変動条件変更部123が判定された生産数Npに応じて変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3(又は/及び第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6)の何れかに変更するようにした。ここで、状態値は、工作物Wの加工に関して歯切り工具42による工作物Wの加工状態を表すものであるため、電流値(摩耗量)、振動、歯すじ誤差(表面性状)を用いることができる。
【0084】
電流値は、歯切り工具42の回転駆動及び送り駆動に必要な電流の大きさを表し、例えば、主軸モータ41やテーブル用モータ62等に設けられた電流センサ(図示省略)によって検出可能な状態値である。電流値は、生産数Npの増大に伴って歯切り工具42の刃42aの摩耗量が大きくなり、その結果、加工抵抗が増大した場合に増大する。即ち、電流値は、検出可能な状態値であって、歯切り工具42の刃42aの摩耗量及び歯切り工具42による加工時に生じる加工抵抗の変化を反映することができる。
【0085】
振動は、例えば、回転主軸40やベッド10等に配置された加速度センサ(図示省略)によって検出可能な状態値である。特に、びびり振動が有するびびり振動周波数に一致する場合、びびり振動の発生に伴って回転主軸40やベッド10等に発生する振動を検出することにより、びびり振動の発生を直接的に検出することができる。ここで、加速度センサを用いて振動を検出することに代えて、例えば、加工領域に配置したマイクロフォンを用いて音を検出することも可能である。即ち、マイクロフォンがびびり振動のびびり振動周波数を有する音を検出することにより、びびり振動の発生を直接的に検出することができる。
【0086】
歯すじ誤差は、歯切り工具42によって形成された工作物Wの歯の表面性状を表し、例えば、形状測定機や粗さ計(共に図示省略)等によって検出可能な状態値である。歯すじ誤差は、生産数Npの増大に伴って歯切り工具42の刃42aの摩耗量が大きくなった場合、増大する。即ち、歯すじ誤差は、検出可能な状態値であって、歯切り工具42の刃42aの摩耗量の変化を反映することができる。
【0087】
そして、第四別例においては、状態値判定部122は、上述した電流値(歯切り工具42の摩耗量や加工抵抗)、振動(音)の周波数、歯すじ誤差(工作物Wの表面性状)の何れかを状態値Kとして取得し、状態値Kについて、予め設定された判定値Hと比較する。そして、図13に示すように、状態値K(図13においては加工振動の大きさ)が長破線により示す判定値Hを超えるごとに、変動条件変更部123は、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1~第三変動Nwj3(又は/及び第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6)の何れかに維持又は変更する。
【0088】
この第四別例における歯車加工処理プログラムは、図14にフローチャートを示すように、図6に示したフローチャートから変更される。具体的に、第四別例における歯車加工プログラムにおいては、図6に示した歯車加工処理プログラムにおける前記ステップS14及び前記ステップS15が省略されると共に前記ステップS13及び前記ステップS21がそれぞれステップS40及びステップS44に変更され、更に、ステップS41、ステップS42及びステップS43が追加される。
【0089】
この場合、状態値判定部122は、前記ステップS12にて変動条件変更部123によって変動条件Nwjが第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)に設定されると、ステップS40にて上述したセンサ、例えば、加速度センサから取得した振動(加工振動)を表す状態値Kを取得する。そして、状態値判定部122は、続くステップS41のステップ処理を実行する。
【0090】
ステップS41においては、状態値判定部122は、前記ステップS40にて取得した状態値Kが判定値Hよりも大きいか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、状態値Kが判定値Hよりも大きければ、「Yes」と判定してステップS42に進む。一方、状態値判定部122は、前記ステップS41において、状態値Kが判定値H以下であれば、「No」と判定して前記ステップS18に進む。この場合、歯車加工装置1は、第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)に従って工作物Wの回転速度V1を変動させて工作物Wの歯車加工を行う。
【0091】
ステップS42においては、状態値判定部122は、状態値Kが判定値Hを超えた回数を表すカウント値Aを「1」だけ加算する。尚、カウント値Aの初期値は、歯車加工処理プログラムの実行開始時のリセット処理により、「0」に設定されている。そして、状態値判定部122は、カウント値Aを「1」だけ加算すると、ステップS43に進む。
【0092】
ステップS43においては、状態値判定部122は、前記ステップS42にて「1」だけ加算したカウント値Aが「1」であるか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、カウント値Aが「1」であれば「Yes」と判定し、前記ステップS16に進む。これにより、変動条件変更部123は、変動条件Nwjを第一変動条件Nwj1(第四変動条件Nwj4)から第二変動条件Nwj2(第五変動条件Nwj5)に変更する。
【0093】
一方、状態値判定部122は、状態値Kが判定値Hを2回超えた場合(図13を参照)であって、カウント値Aが「1」ではない、即ち、カウント値Aが「2」であれば、ステップS43にて「No」と判定し、前記ステップS17に進む。これにより、変動条件変更部123は、変動条件Nwjを第二変動条件Nwj2(第五変動条件Nwj5)から第三変動条件Nwj3(第六変動条件Nwj6)に変更する。
【0094】
そして、第四別例においては、前記ステップS19における判定処理により「Yes」と判定されると、状態値判定部122は、ステップS44にてカウント値Aが「3」であるか否かを判定する。即ち、状態値判定部122は、状態値Kが判定値Hを未だ超えていない、状態値Kが判定値Hを1回超えた(カウント値Aが「1」)、或いは、状態値Kが判定値Hを2回超えた(カウント値Aが「2」)の場合、「No」と判定して前記ステップS40に戻る。そして、変動条件設定部120は、前記ステップS40以降の各ステップ処理を実行する。
【0095】
一方、状態値判定部122は、状態値Kが判定値Hを3回超えた場合(図13を参照)であって、カウント値Aが「3」であれば「No」と判定し、前記ステップS22に進む。そして、変動条件設定部120は歯車加工処理プログラムの実行を終了する。従って、この第四別例においても、上述した本例及び第一別例~第三別例と同等の効果が得られる。
【0096】
(8.第五別例)
上述した本例及び第一別例~第四別例においては、変動条件変更部123は、状態値判定部122の判定結果に基づき、段階的に変動条件Nwj(第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3、及び/又は、第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6)を変更するようにした。これに代えて、変動条件変更部123は、生産数Np(状態値)及び状態値Kに応じて、連続的に変動条件Nwj即ち回転速度変動幅及び回転速度変動周波数(回転速度変動周期)の少なくとも一方を変更することも可能である。
【0097】
このように、回転速度変動幅及び回転速度変動周波数(回転速度変動周期)の少なくとも一方を連続的に変更する場合には、変動条件Nwjをよりきめ細かく設定することが可能となる。その結果、加工能率を確保しつつ、省エネルギーを達成することができる。
【0098】
(9.歯車加工装置1の別例)
上述した本例及び第一別例~第四別例においては、歯切り工具42がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、歯切り工具42がホブカッタである場合には、歯車加工装置1は、ホブ加工により歯車加工を行うことが可能である。
【0099】
この場合、図15に示すように、歯車加工装置1は、ホブカッタの歯切り工具242を備える。歯車加工装置1は、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが交差するように、歯切り工具242及び工作物Wを配置する。尚、図15においては、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが直交するように、歯切り工具242及び工作物Wが配置されている。
【0100】
そして、歯車加工装置1は、歯車加工時において、工作物W及び歯切り工具242を各々回転させながら、歯切り工具242をZ軸方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物Wに歯車を加工する。このとき、歯車加工装置1は、歯車加工時において、例えば、上述した本例と同様に、工作物回転速度制御部130による制御に基づいて工作物Wの回転速度V1を変動させる。又、歯車加工装置1は、歯車加工時において、例えば、上述した本例と同様に、工具回転速度制御部140による制御に基づいて、歯切り工具242の回転速度V2を工作物Wの回転速度V1に同期させる。
【0101】
これにより、歯車加工装置1は、歯切り工具242を高速回転させつつ、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅を抑制できる。従って、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の表面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0102】
(10.その他)
上述した本例及び第一別例~第四別例においては、シミュレーション演算部121が安定限界をシミュレーション演算するようにした。これに代えて、安定限界については、機械学習による学習結果を用いて生成することができる。この場合、変動条件設定部120は、例えば、訓練データセットとして回転速度変動幅及び回転速度変動周波数を用いると共に教師データとして安定限界を用いて学習することにより学習済みモデルを生成する。これにより、変動条件設定部120は、生成された学習済みモデルを用いて、適切な変動条件Nwj、即ち、第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3、又は、第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6を決定することができる。
【0103】
又、上述した本例及び第一別例~第四別例においては、変動条件変更部123は、変動条件Nwjを、第一変動条件Nwj1~第三変動条件Nwj3の何れか、又は、第四変動条件Nwj4~第六変動条件Nwj6の何れかに変更するようにした。変動条件Nwjの変更可能な数については、3つに限定されるものではなく、2つ又は4つ以上に変更することも勿論可能である。
【0104】
又、上述した本例及び第一別例~第五別例においては、工作物Wの回転速度V1の変動周波数が、変動条件Nwjの回転速度変動周波数(又は、回転速度変動周期)と一致する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、工作物Wの回転速度V1が、回転速度変動周波数(又は、回転速度変動周期)以上、又は、以下の変動周波数で増減するように設定されていれば良い。
【0105】
又、上述した本例及び第一別例~第五別例においては、工作物回転速度制御部130が工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させ、工具回転速度制御部140が、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら変動させる場合について説明した。しかし、これに限られるものではなく、工具回転速度制御部140が歯切り工具42の回転速度V2を変更された変動条件Nwjに従って反復的に増減させ、工作物回転速度制御部130が、工作物Wの回転速度V1を、歯切り工具42の回転速度V2に同期させながら変動させても良い。
【0106】
更に、上述した本例及び第一別例~第五別例においては、送り速度制御部160が、工作物Wの回転速度V1と同期するように送り速度V4を変動させる場合について説明した。しかし、送り速度制御部160は、必ずしも送り速度V4を変動させる必要はない。即ち、歯車加工装置1は、少なくとも工作物Wの回転速度V1と歯切り工具42の回転速度V2とが同期するように工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を変動させることにより、工作物Wに発生するびびり振動(再生びびり等)の増幅を抑制できる。又、送り速度制御部160は、送り速度V4を不規則に変動させても良い。
【符号の説明】
【0107】
1…歯車加工装置、10…ベッド、11…Y軸モータ、12…Z軸モータ、20…コラム、30…サドル、40…回転主軸、41…主軸モータ、42…歯切り工具、42a…刃、50…テーブル、60…チルトテーブル、61…チルトテーブル支持部、62…テーブル用モータ、70…ターンテーブル、80…保持器、100…制御装置、110…基準回転速度設定部、120…変動条件設定部、121…シミュレーション演算部、122…状態値判定部、123…変動条件変更部、130…工作物回転速度制御部、140…工具回転速度制御部、150…基準送り速度設定部、160…送り速度制御部、242…歯切り工具、Fw…基準送り速度、Nw…基準回転速度、Nwj,Nwj1,Nwj2,Nwj3,Nwj4,Nwj5,Nwj6…変動条件、Np…生産数(状態値)、K…状態値、O…回転軸線、V1…工作物の回転速度、V2…歯切り工具の回転速度、V3…切削速度、V4…送り速度、W…工作物、γ…すくい角、δ…交差角
図1
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