(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240319BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01G9/028 E
H01G9/15
(21)【出願番号】P 2020064021
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】勝沼 将人
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-196270(JP,A)
【文献】特開2015-005724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して陽極箔と陰極箔と対向させてなるコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子内に形成された導電性高分子を含む固体電解質層と、を含み、
前記陽極箔と前記陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量と、前記セパレータの単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量の比率が、1.5:1~0.5:1であ
り、
前記陽極箔と前記陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量は、前記陽極箔及び前記陰極箔のエッチングピットにおける搭載量である固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陽極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量と前記陰極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量の比率が、1:1~1:1.5である請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用を有する金属を利用した電解コンデンサは、陽極側対向電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することができる。これにより、小型で大きな容量を得ることができることから、広く一般に用いられている。特に、電解質に固体電解質を用いた固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗(ESR)である。このような固体電解コンデンサは、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えていることから、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせないものとなっている。
【0003】
固体電解コンデンサに用いられる固体電解質としては、二酸化マンガンや7、7、8、8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。さらに、近年、反応速度が緩やかで、かつ陽極電極の酸化皮膜層との密着性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと記す)等の導電性ポリマーに着目した技術(特許文献1)が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車載用途に用いられる固体電解コンデンサは、特に周波数10~50kHzの領域において、高容量(Cap)、低ESRの固体電解コンデンサが要望されている。PEDOT等の導電性高分子は、ある一定量までは素子への添加量を増加させるにつれて固体電解コンデンサの特性が向上する。しかし、導電性高分子をある一定量以上添加した場合には、特性に大きな改善は見られず、導電性高分子を多量に用いるため製品コストが上昇する。したがって、固体電解コンデンサの性能およびコストの双方において利益があることから、より少量の導電性高分子を用いることでCapおよびESRの特性を改善することが望まれていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものである。その目的は、CapおよびESRの特性を向上させた固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、コンデンサ素子の各部材における固体電解質層の固形分の搭載量分布を特定の範囲に制御することにより、固体電解コンデンサの電気化学特性の向上につながるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の固体電解コンデンサは、セパレータを介して陽極箔と陰極箔と対向させてなるコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子内に形成された導電性高分子を含む固体電解質層と、を含み、前記陽極箔と前記陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量と、前記セパレータの単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量の比率が、1.5:1~0.5:1であり、前記陽極箔と前記陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量は、前記陽極箔及び前記陰極箔のエッチングピットにおける搭載量である。
【0009】
前記陽極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量と前記陰極箔の単位面積あたりにおける前記固体電解質層の搭載量の比率が、1:1~1:1.5であっても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CapおよびESRの特性を向上させた固体電解コンデンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】走査型断面顕微鏡により撮像した陽極箔のSEM像とEDX像である。
【
図2】走査型断面顕微鏡により撮像した陰極箔のSEM像とEDX像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る固体電解コンデンサを製造するための代表的な製造手順を開示する。また、各工程の説明において、固体電解コンデンサの構成について具体的に説明する。
【0013】
(固体電解コンデンサの製造方法)
本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法の一例は、以下の通りである。
第1の工程:表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、コンデンサ素子に修復化成を施す。
第2の工程:コンデンサ素子に、導電性高分子の粒子が溶媒に分散した導電性高分子分散体を含浸し乾燥させて固体電解質層を形成する。
第3の工程:コンデンサ素子を所定の電解液に浸漬して、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填する。
第4の工程:コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した後、エージングを行い、固体電解コンデンサを形成する。
【0014】
(1)第1の工程
第1の工程におけるコンデンサ素子の形成には、以下の各部材が用いられる。
(電極箔)
陽極箔としては、アルミニウム等の弁作用金属からなる。ほかにも、陽極材料としては、タンタル、ニオブ、チタン等を使用しても良い。陽極箔の表面は、エッチング処理により粗面化され多数のエッチングピットが形成されている。更にこの陽極箔の表面には、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の水溶液中で電圧を印加して誘電体となる酸化皮膜層が形成されている。
【0015】
陰極箔としては、陽極箔と同様の金属からなり、表面にエッチング処理が施されているものを用いる。必要に応じて、陰極箔に化成処理を施しても良い。他にも、陰極箔には、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層を蒸着法により形成できる。また、陰極箔の表面に炭素を含有させても良い。
【0016】
(セパレータ)
セパレータとしては、合成繊維を主体とする不織布からなるセパレータや、ガラス繊維からなるセパレータを用いることができる。合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維等が好適である。また、天然繊維からなるセパレータを用いてもよい。
【0017】
(修復化成の化成液)
コンデンサ素子の修復化成の化成液としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。また、浸漬時間は、5~120分が望ましい。
【0018】
(2)第2の工程
(導電性高分子分散体)
導電性高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら導電性高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0019】
ドーパントとしては、例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。また、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0020】
これらのなかでも、PSSをドープしたPEDOT(PEDOT/PSS)が好ましい。導電性高分子分散体の溶媒としては、主として水が用いられる。PEDOTの粉末とポリスチレンスルホン酸を含む原液としては、固形分を1~5%含む液を用いると良い。
【0021】
また、導電性高分子分散体の含浸性、電導度の向上のため、導電性高分子分散体に各種添加剤を添加したり、カチオン添加による中和を行っても良い。特に、添加剤としてソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールを用いると、ESRを低減し、鉛フリーリフロー等による耐電圧特性の劣化を防止することができる。
【0022】
(導電性高分子分散体への含浸)
コンデンサ素子を導電性高分子分散体に含浸する時間は、コンデンサ素子の大きさによって決まる。例えば、直径5mm×長さ3mm程度のコンデンサ素子では5秒以上、直径9mm×長さ5mm程度のコンデンサ素子では10秒以上が望ましく、最低でも5秒間は含浸することが必要である。また、このように含浸した後、減圧状態で保持すると好適である。導電性高分子分散体の含浸は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0023】
(導電性高分子分散体の乾燥)
本発明の発明者らは、鋭意検討の結果、コンデンサ素子の各部材におけるPEDOT/PSSの固体電解質層の搭載量分布を、固体電解コンデンサの電気化学特性の向上に好適な分布とすることができるという知見を得た。
【0024】
具体的には、陽極箔と陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量と、セパレータの単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量の比率が、1.5:1~0.5:1となる。すなわち、セパレータと電極箔側の双方に固体電解質層が搭載される。これまでは電極箔側よりもセパレータに多量に固体電解質層が搭載されていた。しかし、電極箔側にも固体電解質層がより多く搭載されることで、ESR特性およびCap特性が向上する。
【0025】
また、陽極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量と陰極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量の比率が、1:1~1:1.5とすると良い。すなわち、陰極箔側の搭載量が、陽極箔側の搭載量と同等又はそれ以上となる。このように搭載されることで、導電パスが確実に形成され陰極箔表面での抵抗が低下し、CapおよびESRの特性が向上する。
【0026】
さらに、電極箔において固体電解質層が一様に分布することにより電極箔に形成された固体電解質層の導電パスが良好に形成され、電極箔表面の抵抗を低下させることができるため、ESRおよびCapの特性向上につながる。
【0027】
(3)第3の工程
(電解液)
必要に応じて、さらに電解液を用いても良い。電解液に使用できる溶媒としては、その沸点が、寿命試験温度である120℃以上の溶媒を用いることが好ましい。溶媒の例としては、γ-ブチロラクトンなどのラクトン系、エチレングリコールなどの多価アルコール、スルホランなどのスルホン系、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド系等が挙げられる。ラクトン系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールなどの低分子量の多価アルコールがよい。
【0028】
スルホン系としてはジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。特に、エチレングリコールなどの低分子量の多価アルコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いると、初期のESR特性が良好となり、さらに高温特性も良好となる。
【0029】
即ち、エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いた場合、エチレングリコールを含まない溶媒を用いた場合と比較して、初期のESRが低下するとともに、長時間の使用において静電容量の変化率(ΔCap)が小さいことが判明している。その理由は、エチレングリコールは、導電性ポリマーのポリマー鎖の伸張を促進する効果があるため、電導度が向上し、ESRが低下すると考えられる。また、γ-ブチロラクトンやスルホランよりも、エチレングリコールのようなヒドロキシル基を有するプロトン性溶媒の方がセパレータや電極箔、導電性ポリマーとの親和性が高いため、電解コンデンサ使用時の電解液が蒸散する過程において、セパレータや電極箔、導電性高分子と電解液との間で電荷の受け渡しが行われやすく、ΔCapが小さくなると考えられる。また、混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は、好ましくは5wt%以上、さらに好ましくは40wt%以上、最も好ましくは60wt%以上である。
【0030】
また、電解液の溶媒としてγ-ブチロラクトンを所定量添加させることで、電解液のコンデンサ素子への含浸性を改善できる。比較的粘性の高いエチレングリコールと粘性が低いγ-ブチロラクトンを用いることで、コンデンサ素子への含浸性を高め、初期特性及び長時間の使用での良好な特性を維持とともに、低温での充放電特性が良好となる。混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は、好ましくは、40wt%以下である。
【0031】
また、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いてもよい。これらスルホラン系の溶媒は高沸点であるため、電解液の蒸散を抑制し、高温特性が良好になる。
【0032】
電解液の溶質としては、有機酸と無機酸との複合化合物の塩を用いる。塩としては、少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、サリチル酸、蓚酸、グリコール酸等のカルボン酸、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0033】
また、上記有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等が挙げられる。4級アンモニウム塩の4級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0034】
さらに、電解液の添加剤として、ポリオキシエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。
【0035】
(電解液の充填条件)
上記のような電解液をコンデンサ素子に充填する場合、その充填量は、コンデンサ素子内の空隙部に充填できれば任意であるが、コンデンサ素子内の空隙部の3~100%が好ましい。
【0036】
(作用・効果)
上記のように、セパレータを介して陽極箔と陰極箔と対向させてなるコンデンサ素子と、コンデンサ素子内に形成された導電性高分子を含む固体電解質層と、を含み、陽極箔と陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量と、セパレータの単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量の比率が、1:1~1:1.5であることにより、ESR特性が向上する。同様に、陽極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量と陰極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量の比率が、1:1~1:1.5であることによっても、CapおよびESRの特性が良好となる。
【0037】
上記の通り、コンデンサ素子の各部材における固体電解質層の搭載量分布を好適な範囲に制御する。これまでは電極箔よりもセパレータに固体電解質層が多く形成されており、CapおよびESRの特性が満足できるものではなかった。しかし、固体電解質層の搭載量分布を上記のように制御することでCapおよびESRの特性が良好となる。また、陽極箔より陰極箔に固形分がより多く搭載されることで、導電パスが確実に形成され、Cap及びESRの特性が向上する。
【実施例】
【0038】
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、陽極箔として粗面化したアルミニウム箔を用い、表面に酸化皮膜層を形成した。陰極箔としては粗面化したアルミニウム箔の表面に3Vfs相当の酸化皮膜層を形成させたものを用いた。また、セパレータとしては、マニラ系の材料から構成されるセパレータを用いた。陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、素子形状が10φ×16.5Lのコンデンサ素子を形成した。このコンデンサ素子を、導電性高分子分散体に対してエチレングリコールを60:40の比率で混合し、含浸した。
【0040】
このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。その後に、電圧印加によってエージングを行い、固体電解コンデンサを形成した。なお、この固体電解コンデンサの定格電圧は63WV、定格容量は150μFであった。固体電解質層の搭載量比率は、セパレータに43.8%、陽極箔に27.5%、陰極箔に28.7%とした。
【0041】
(実施例2および3)
実施例2および3の固体電解コンデンサの製造方法は、上記実施例1と同様である。ただし、実施例2の固体電解質層の搭載量比率は、セパレータに53.4%、陽極箔に20.6%、陰極箔に26%とした。実施例3の固体電解質層の搭載量比率は、セパレータに63.5%、陽極箔に17.8%、陰極箔に18.6%とした。
【0042】
(比較例1~3)
比較例1~3の固体電解コンデンサの製造方法は、上記実施例1と同様である。ただし、比較例1の固体電解質層の搭載量比率は、セパレータに27.7%、陽極箔に48%、陰極箔に24.3%とした。比較例2の固体電解質層の搭載量比率は、セパレータに84.1%、陽極箔に12.1%、陰極箔に3.8%とした。比較例3の固体電解質層の搭載量比率は、セパレータに85.1%、陽極箔に10.3%、陰極箔に4.6%とした。
【0043】
<固形分搭載分布の検討>
まず、実施例2および比較例1、3の固体電解コンデンサの電極箔について、その断面の観察を行った。
図1(a)~(c)は、走査型断面顕微鏡により陽極箔の断面のSEM像を撮像した写真である。
図1(d)~(f)は、走査型断面顕微鏡により陽極箔の断面のエネルギー分散型X線分析を行った結果のEDX像である。同様に、
図2(a)~(c)は、陰極箔の断面のSEM像を撮像した写真である。
図2(d)~(f)は、陰極箔の断面のエネルギー分散型X線分析を行った結果のEDX像である。撮像時の加速電圧は4kV、観察倍率は3000倍であった。
【0044】
図1(b)および
図2(b)を検討すると、実施例2の陽極箔および陰極箔の双方において、エッチングピットに均一に固体電解質層が搭載していることが伺えた。一方、
図1(a)および
図2(a)を検討すると、比較例3の陽極箔および陰極箔の双方においてエッチングピットに空間が生じ、固体電解質層の搭載が不均一であるように観察された。また、
図1(c)および
図2(c)を検討すると、比較例1では、特に陰極箔において、エッチングピットに空間が生じ、固体電解質層の搭載が不均一であるように観察された。
【0045】
そこで、EDX画像を用いてカーボンの搭載量の分布を確認した。
図1(d)~(f)および
図2(d)~(f)では、白く表示されている部分がカーボンの分布を示す。
【0046】
図1(d)および
図2(d)の比較例3のEDX画像より、陽極箔および陰極箔の双方において表層側に多くカーボンが集中的に付着していることが分かった。また、
図1(e)および
図2(e)の実施例2では、陽極箔および陰極箔の双方において表層側にカーボンが集まってはいるものの、残芯側においても均一な分布が確認できた。そして、
図1(f)の比較例1の陽極箔では表層側にカーボンが集中することなく分布していたが、
図2(f)の比較例1の陰極箔では表層側に多くカーボンが集中的に付着していることが分かった。この結果より、実施例2の陽極箔および陰極箔では、エッチングピット内でカーボンが一様に分布することが確認された。このことは、電極箔において固体電解質層が一様に分布していることを示している。
【0047】
<素子中固体電解質層搭載量比率の算出>
実施例1~3および比較例1~3のコンデンサ素子について陽極箔、陰極箔、およびセパレータのそれぞれが含む固体電解質層(固形分とも言う)の搭載量の比率を表1に示す。固形分搭載量は、作製したコンデンサ素子について150℃で18時間乾燥し、各部材における固形分量を測定した。
【表1】
【0048】
表1より、実施例1~3のコンデンサ素子では、陽極箔と陰極箔を含む電極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量と、セパレータの単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量の比率が、1.5:1~0.5:1となることが分かった。すなわち、実施例1~3のコンデンサ素子では、セパレータと電極箔が含む固形分の搭載量に大きな差が生じておらず、コンデンサ素子の各部材において比較的均一に固形分が搭載されている。
【0049】
一方、比較例1では、電極箔側に集中して固形分が搭載されている。また、比較例2および3では、セパレータに固形分が多く搭載されている。以上より、比較例1~3のコンデンサ素子では、コンデンサ素子の一部の部材に集中的に固形分が搭載され、コンデンサ素子の各部材において均一に固形分が搭載されていないことを示す。
【0050】
同様に、電極箔における固形分の搭載量についても検討した。その結果、実施例1~3のコンデンサ素子では、陽極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量と陰極箔の単位面積あたりにおける固体電解質層の搭載量の比率が、1:1~1:1.5となることが分かった。すなわち、実施例1~3のコンデンサ素子では、陽極箔と陰極箔が含む固形分の搭載量に大きな差が生じておらず、電極箔において比較的均一に固形分が搭載されていることが明らかとなった。また、陰極箔側の搭載量が、陽極箔側の搭載量と同等又はそれ以上となることが明らかとなった。
【0051】
比較例1~3では、すべてのコンデンサ素子において、陽極箔の固形分の搭載量が圧倒的に多く、電極箔において均一に固形分が搭載されていないことが明らかとなった。すなわち、比較例1~3のコンデンサ素子では陰極箔の搭載量が、陽極箔側の搭載量と同等又はそれ以上となるコンデンサ素子は存在しなかった。
【0052】
<固体電解コンデンサの静電容量と等価直列抵抗>
実施例1-3、および比較例1-3の固体電解コンデンサについて、50kHzにおける静電容量(Cap)と等価直列抵抗(ESR)を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0053】
表2より、実施例1~3は、比較例1~3と比べると、静電容量が高くなっていることが分かった。容量の向上は、セパレータと電極箔側の双方に固体電解質層が搭載されていることによるものと考えられた。また、実施例1~3は、比較例1~3と比べると、ESR特性が良好であった。陰極箔側に固体電解質層がより多く搭載されることで、導電パスが確実に形成され陰極箔表面での抵抗が低下し、ESR特性および容量が向上していると考えられた。