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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/344 20060101AFI20240319BHJP
   F16F 15/126 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B60K17/344 B
F16F15/126 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020065596
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021160614
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】日高 誠二
(72)【発明者】
【氏名】中野 厚
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146225(WO,A1)
【文献】特開平08-042634(JP,A)
【文献】特開2016-007997(JP,A)
【文献】特開2019-065904(JP,A)
【文献】特開2010-121738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/344
F16F 15/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を主駆動輪に伝達するための主駆動輪駆動部と、
副駆動輪に伝達する動力を前記主駆動輪駆動部から取り出す動力取出部を有する副駆動輪駆動部と、を備えた動力伝達装置であって、
前記動力取出部は、前記主駆動輪駆動部に連絡されたトランスファドライブギヤと、該トランスファドライブギヤに噛合うとともに前記副駆動輪に動力を伝達するトランスファドリブンギヤとからなるトランスファギヤセットを有し、
前記主駆動輪駆動部からトランスファドライブギヤに至る動力伝達経路上において、
前記主駆動輪駆動部に接続された入力軸と、トランスファドライブギヤに接続された動力伝達軸とが径方向内外に第1のバックラッシュを有するスプラインを介して連結され、
前記入力軸と前記動力伝達軸との間に、バックラッシュなしのせん断タイプの第1のダンパと、前記第1のバックラッシュよりも小さな第2のバックラッシュを有するスプラインを備えたせん断タイプの第2のダンパとを介在させ
前記入力軸に前記動力伝達軸、前記第1のダンパ、前記第2のダンパに跨る共通のスプラインが形成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2のダンパは、前記第1のダンパよりも高剛性であることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記入力軸側から第2のダンパ、第1のダンパの順に配設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記主駆動輪は車体の動力源側に配置され、前記副駆動輪は車体の反動力源側に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1のダンパは、前記トランスファギヤセットと前記入力軸の軸方向にオーバラップして配設されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主駆動輪と副駆動輪を備えた車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二輪駆動状態と四輪駆動状態との間で切り替え可能な四輪駆動車の動力伝達装置は、駆動源からの出力トルクを主駆動輪に伝達する主駆動輪駆動部と、副駆動輪に伝達するトルクを主駆動輪駆動部から取り出す動力取出部を備えた副駆動輪駆動部と、を有する。
【0003】
例えば、駆動源としてのエンジンが車体前部に搭載されるとともに主駆動輪が前輪である、いわゆるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの四輪駆動車の場合、前輪には、動力伝達装置を構成する変速機を経由して、前輪(主駆動輪)駆動部を構成する前輪差動装置、及び、左右一対のドライブシャフトを介して、エンジンの出力トルクが伝達される。後輪には、前輪駆動部に入力されたトルクが、前輪差動装置のデフケースを介して動力取出部によって取り出され、動力取出部によって取り出されたトルクが、後輪用のプロペラシャフト、後輪用差動装置、及び、左右一対のドライブシャフトを介して伝達される。なお、動力取出部、後輪用のプロペラシャフト、後輪用差動装置、及び、左右一対のドライブシャフトは、後輪(副駆動輪)駆動部を構成する。
【0004】
前記動力取出部は、軸心が車体幅方向に延びる前輪用差動装置から、軸心が車体前後方向に延びる後輪用のプロペラシャフトにトルクを伝達するために、互いに噛合う傘歯車からなるトランスファギヤセットを有する。トランスファギヤセットは、前輪用差動装置の軸心上に配置されるトランスファドライブギヤと、プロペラシャフトの軸心上に設けられるトランスファドリブンギヤとを有する。
【0005】
ところで、前記四輪駆動車では、前輪と後輪を駆動させる四輪駆動状態は、前輪のみを駆動させる二輪駆動状態に比して、後輪へのエンジンの出力トルクの配分に伴って、駆動ロスが増加して燃費が悪化するため、通常は二輪駆動状態で走行し、必要に応じて四輪駆動状態とすることが行われる。
【0006】
しかしながら、エンジンの出力トルク変動が変速機及び前輪用差動装置を介して動力取出部に伝達され、二輪駆動状態では、動力取出部におけるトランスファギヤセットから後輪に至るプロペラシャフト及び後輪用差動装置等の前記後輪駆動部がトルクを伝達しない非動力伝達状態で回転することとなる。
【0007】
そのため、エンジンのトルク変動の周波数によっては、ねじり振動に対して所定の固有振動数を有する後輪駆動部が、エンジンのトルク変動に共振して該後輪駆動部の振動が大きくなり、この振動に起因してトランスファドライブギヤとトランスファドリブンギヤとの間の歯打ち等による異音等が発生して車室内の騒音を引き起こし得る。
【0008】
なお、非動力伝達状態とは、後輪駆動部に伝達されるトルクがゼロのトルクゼロ状態、及び、比較的低い低トルク領域(例えば、二輪駆動状態、及び、二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する段階で後輪駆動部がエンジンのトルク変動に共振し得る状態において、後輪駆動部に伝達されるトルクの状態)を含む。
【0009】
そこで、例えば特許文献1に開示されているように、前輪駆動部からトランスファドライブギヤ(例えば、前輪差動装置のデフケースに連絡される動力取出部の入力軸からトランスファドライブギヤ)に至る動力伝達経路上にダンパを設けることで、二輪駆動状態での歯打ち音を抑制することが検討されている。この場合、前記後輪駆動部のねじり剛性が低下されることで、該後輪駆動部の固有振動数を、エンジン回転数の常用域で生じ得るトルク変動に対して共振しないような振動域にずらすことが可能になる。
【0010】
すなわち、後輪駆動部の共振点を常用域よりも低周波数側にずらすためのダンパの特性としては、エンジンからの入力トルクが比較的低い低トルク領域(後輪駆動部が非動力伝達状態となる領域)では、入力トルクに対して相対変位量が大きくなる低剛性とすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6237883号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された構成のように、前記動力伝達経路上に設けられるダンパとしては、同文献の図8(a)に開示されたせん断タイプのダンパ、及び、同文献の図8(b)に開示された圧縮タイプのダンパが知られている。
【0013】
せん断タイプのダンパは、内筒部、外筒部、及び、これらの間に介在する筒状のゴム等の弾性部材を備える。エンジンのトルク変動によって、内筒部と外筒部との間でトルク伝達が生じるとき、内筒部と外筒部との間に周方向の相対変位が生じることで、弾性部材が、周方向にねじられるようにせん断変形する。
【0014】
一方、圧縮タイプのダンパは、周方向に間隔を空けて配置された複数の第1突起部を外周面に有する内筒部と、周方向に間隔を空けて配置された複数の第2突起部を内周面に有する外筒部と、内筒部と外筒部の間において、第1突起部と第2突起部とによって周方向の両側から挟み込まれるようにそれぞれ配置された複数のゴム等の弾性部材とを備える。外筒部に対して内筒部が周方向に相対変位したときに、互いに接近する第1及び第2突起部間の複数の弾性部材が、圧縮変形する。
【0015】
上述のように、せん断タイプのダンパに比して、圧縮ダンパは、構造が複雑で部品点数も多くコストが高いという課題があるため、コストの観点から、せん断タイプのダンパを用いることが考えられる。
【0016】
ところで、せん断タイプのダンパのねじれ角(内筒部と外筒部との間の相対変位量)には、弾性部材の特性によって決まるねじり限界が存在する。そのため、前記ねじり限界に到達する前に、両筒部間の相対変位を規制するストッパ機構が設けられる場合がある。該ストッパ機構が動作すると、入力軸に入力されたトルクが所定値を超えたトルクがダンパを介さずにトランスファギヤに伝達される。
【0017】
前記ストッパ機構を備えたダンパの剛性が低い(ダンパの伝達トルク容量が低い)場合は、後輪駆動部に伝達されるトルクが低トルク領域にあるままでストッパ機構が動作すると後輪駆動部の剛性が急激に高まる。これにより、後輪駆動部に伝達されるトルクが、後輪駆動部が非駆動状態よりも高まる高トルク領域に至るまでの間、後輪駆動部の固有振動数をずらすことができずに歯打ち音が生じ得る。
【0018】
なお、高トルク領域は、例えば、四輪駆動状態、及び、二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する段階で後輪駆動部がエンジンのトルク変動に共振が生じない程度に後輪駆動部にトルクが伝達される状態を含む。
【0019】
したがって、歯打ち音を抑制するために、ストッパ機構が動作する時点での後輪駆動部に伝達されるトルクは、高トルク領域(後輪駆動部がエンジンの常用域におけるトルク変動に共振が生じないトルク伝達状態)に近づけておくことが望ましい。すなわち、高トルク領域近傍において、ダンパの剛性を高剛性(入力トルクに対する相対変位量を小さくする)に設定することが好ましい。換言すると、高トルク領域近傍において、ダンパの伝達トルク容量を高めることが好ましい。
【0020】
以上のように、ダンパの性能としては、ダンパに入力されるトルクが前記低トルク領域(後輪駆動部が非動力伝達状態)にある状態では、後輪駆動部のねじり剛性の低下のために低剛性の弾性部材を用いることが好ましい。一方、ダンパに入力されるトルクが高トルク領域(ストッパ機構が動作する)に至る直前の低トルク領域においては、ダンパの伝達トルク容量が低トルクのままでダンパを介しない動力伝達経路が形成されることによる歯打ち音を抑制するために、入力トルクに対して相対変位量が小さい高剛性の弾性部材を用いることが好ましい。例えば、放物線を描くような特性が好ましい。
【0021】
しかしながら、一般に、せん断タイプのダンパの入力トルクに対するねじれ角の特性は、略線形であるため、低トルク領域から高トルク領域に至るまでの全領域に亘って最適な特性を得ることが難しい。
【0022】
そこで、本発明は、主駆動輪と副駆動輪を備えた車両の動力伝達装置において、せん断タイプのダンパを用いながら、狙いのダンパ特性を得ることを課題とする。
【0023】
なお、以上のような課題は、いわゆるFR(フロントエンジン・リアドライブ)ベースの四輪駆動車、いわゆるRR(リアエンジン・リアドライブ)ベースの四輪駆動車、及び、いわゆるRF(リアエンジン・フロントドライブ)ベースの車両においても生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記課題を解決するため、本発明に係る動力伝達装置は次のように構成したことを特徴とする。
【0025】
本願の請求項1に記載の発明に係る動力伝達装置は、
駆動源からの動力を主駆動輪に伝達するための主駆動輪駆動部と、
副駆動輪に伝達する動力を前記主駆動輪駆動部から取り出す動力取出部を有する副駆動輪駆動部と、を備えた動力伝達装置であって、
前記動力取出部は、前記主駆動輪駆動部に連絡されたトランスファドライブギヤと、該トランスファドライブギヤに噛合うとともに前記副駆動輪に動力を伝達するトランスファドリブンギヤとからなるトランスファギヤセットを有し、
前記主駆動輪駆動部から前記トランスファドライブギヤに至る動力伝達経路上において、
前記主駆動輪駆動部に接続された入力軸と、前記トランスファドライブギヤに接続された動力伝達軸とが径方向内外に第1のバックラッシュを有するスプラインを介して連結され、
前記入力軸と前記動力伝達軸との間に、バックラッシュなしのせん断タイプの第1のダンパと、前記第1のバックラッシュよりも小さな第2のバックラッシュを有するスプラインを備えたせん断タイプの第2のダンパとを介在させンを備えたせん断タイプの第2のダンパとを介在させ
前記入力軸に前記動力伝達軸、前記第1のダンパ、前記第2のダンパに跨る共通のスプラインが形成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【0026】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記第2のダンパは、前記第1のダンパよりも高剛性であることを特徴とする。
【0027】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、
前記入力軸側から第2のダンパ、第1のダンパの順に配設されていることを特徴とする。
【0029】
請求項に記載の発明は、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の発明において、
前記主駆動輪は車体の動力源側に配置され、前記副駆動輪は車体の反動力源側に配置されていることを特徴とする。
【0030】
請求項に記載の発明は、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の発明において、
前記第1のダンパは、前記トランスファギヤセットと前記入力軸の軸方向にオーバラップして配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に記載の発明によれば、入力軸に入力されるトルクは、第2のバックラッシュが係合するまでの間(例えば、入力軸に入力されるトルクが低トルク、副駆動輪駆動部が非動力伝達状態、或いは、副駆動輪駆動部がエンジンの常用域におけるトルク変動に共振が生じないトルク伝達状態のうち、特に低トルク領域にある間)は、バックラッシュを介さない第1のダンパを介してトランスファドライブギヤに伝達される。第1のダンパによって、副駆動輪駆動部の剛性を低減することができる。
【0032】
また、入力軸に入力されるトルクが、第2のバックラッシュを係合させる所定の入力トルクに達した時点から、第1のバックラッシュが係合するまでの間(例えば、入力軸に入力されるトルクが高トルク領域に到達する、副駆動輪駆動部が動力伝達状態となる、或いは、副駆動輪駆動部がエンジンの常用域におけるトルク変動に共振が生じないトルク伝達状態となるまでの間)において、入力軸に入力されるトルクは、第1のダンパに加え、第2のダンパを介してトランスファドライブギヤに伝達される。第1のダンパ及び第2のダンパによって、副駆動輪駆動部の剛性を低下させるとともに、第1のダンパと第2のダンパとによって得られる第1のダンパよりも高められた伝達トルク容量を得ることができる。
【0033】
さらに、入力軸に入力されるトルクが、第1のバックラッシュを係合させる所定の入力トルク以上に到達すると、入力軸に入力されるトルクは、第1のダンパ及び第2のダンパに加え、これらのダンパを介さずにトランスファドライブギヤに伝達される。
【0034】
このように、主駆動輪駆動部からトランスファドライブギヤに至る動力伝達経路において、大きさの異なるバックラッシュを備えたスプラインを設けることによって、動力伝達装置のトルク伝達の大きさに応じて動力伝達経路が選択され、動力伝達経路の剛性を変更することができる。
【0035】
これにより、第1のダンパを介した動力伝達経路では、副駆動輪駆動部のねじり剛性を低下させることで、固有振動数をエンジン回転数の常用域で生じ得るトルク変動に対して共振しないような振動域にずらすことが可能になり、トランスファギヤセット間における歯打ち音を抑制できる。第1のダンパ及び第2のダンパを介した動力伝達経路では、副駆動輪駆動部のねじり剛性を低下させつつ、ダンパの受持つトルク(伝達トルク容量)を高めることができる。
【0036】
したがって、入力軸に入力されるトルクが低トルク領域(副駆動輪駆動部がトルクを伝達しない非動力伝達状態)にある状態では、副駆動輪駆動部のねじり剛性の低下のために低剛性の特性を有し、ダンパに入力されるトルクが高トルク領域(ストッパ機構が作動する)に近づく状態では、急激な剛性の上昇を抑制するために高剛性の特性を有する。
【0037】
以上より、駆動輪と副駆動輪を備えた車両の動力伝達装置において、せん断タイプのダンパを用いることで、コストを低減するとともに、入力軸とトランスファドライブギヤとの間の剛性を、狙いの特性を得ることができる。
また、入力軸には、動力伝達軸、第1のダンパ、第2のダンパに跨る共通のスプラインが形成されているので、動力伝達軸と、第1のダンパの内筒部側と、第2のダンパの内筒部側とによってバックラッシュの角度を調整するだけの簡素な構造で請求項1の効果を達成できる。また、入力軸のスプラインの加工が1回で行うことができるので、加工にかかる工数を削減することができ、コストの削減が可能。
【0038】
請求項2に記載の発明によれば、第2のダンパの剛性が、第1のダンパの剛性に比して、高剛性に設定されている。これにより、第2のダンパの剛性を第1のダンパの剛性と一致させた場合に比して、第1のダンパと第2のダンパとによって分担可能な伝達トルク容量(剛性)を高めることができる。さらに、第2のダンパの剛性を高めることで、第2のダンパのねじれ角に対する入力トルクの勾配を急勾配にすることができる。したがって、第1のダンパによる低トルクの領域を広げつつ、入力軸と動力伝達軸とを滑らかに直結状態に至らせやすく、放物線を描くような特性が得られやすい。
【0039】
請求項3に記載の発明によれば、第2のダンパよりも低トルク状態においてトルクを伝達する第1のダンパが、第2のダンパよりも反入力軸側に配設されている。これにより、第1のダンパは低トルク領域において動力伝達を担うので、入力軸と第1のダンパとのスプライン嵌合領域は、伝達されるトルクに応じて、必要な面圧が確保される程度まで短くすることができる。その結果、入力軸の短縮が可能となって、軽量化及びコスト削減が可能となる。また、第1のダンパはバックラッシュなしのスプラインによって入力軸に嵌合されているので、各ダンパの抜けが抑制される。
【0041】
請求項に記載の発明によれば、いわゆるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの四輪駆動車の前輪駆動状態、或いは、RR(リアエンジン・リアドライブ)ベースの四輪駆動車の後輪駆動状態において、副駆動輪駆動部の固有振動数を、エンジン回転数の常用域で生じ得るトルク変動に対して共振しないような振動域にずらすことができる。これにより、副駆動輪駆動部の各噛合部における歯打ち音を効果的に抑制できる。
【0042】
請求項に記載の発明によれば、第1のダンパは、トランスファギヤセットと入力軸の軸方向にオーバラップして配設されているので、動力取出部の軸方向の寸法をコンパクトにすることができる。


【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えた車両の骨子図である。
図2】同動力伝達装置の動力取出部におけるダンパ及びその周辺部を示す断面図である。
図3】同動力伝達装置の動力取出し部の一部を軸方向から見た図2のIII-III線断面図である。
図4】同動力伝達装置の動力取出し部の一部を軸方向から見た図2のIV-IV線断面図である。
図5】同動力伝達装置の動力取出し部の一部を軸方向から見た図2のV-V線断面図である。
図6】本実施形態におけるダンパの剛性(ねじれ角度に対する入力トルク)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明に係る動力伝達装置を備えた車両の具体的構成について、添付図面を参照しながら説明する。
【0045】
図1に示すように、本実施形態に係る動力伝達装置8,20,30を備えた車両1は、主駆動輪としての左右の前輪2と、副駆動輪としての左右の後輪4とを備えた所謂FF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの四輪駆動車であり、前輪駆動状態と四輪駆動状態との間で切り換え可能となっている。
【0046】
車両1は、駆動源としてのエンジン6を備えている。エンジン6は、横置き式であり、車両1の前部におけるエンジンルームに配設されている。エンジン6の車体幅方向一方側(例えば車体左側)には、動力伝達装置を構成するトランスアクスル8が並設されている。トランスアクスル8は、例えばトルクコンバータ(図示せず)を介してエンジン6の出力軸に連結された変速機(図示せず)と、該変速機の出力部としての出力ギヤ9に連結された前輪用差動装置10とを備えている。
【0047】
動力伝達装置8,20,30は、エンジン6からの出力トルクを前輪2に伝達する前輪(主駆動輪)駆動部20と、後輪4に伝達するトルクを前輪(主駆動輪)駆動部20から取り出す動力取出部としてのトランスファ装置40を備えた後輪(副駆動輪)駆動部30と、備える。
【0048】
前輪2は、前輪用ドライブシャフト21,22、前輪用差動装置10及び前記変速機等を介してエンジン6に連結されている。前輪(主駆動輪)駆動部20は、前輪用差動装置10と、前輪用ドライブシャフト21,22を備えている。前輪2は、後述のカップリング60を介することなくエンジン6に連結されており、カップリング60の締結状態及び解放状態のいずれにおいても、エンジン6から前輪2への動力伝達がなされる。
【0049】
前輪用ドライブシャフト21,22は、車体幅方向に延びるように配設されている。各前輪用ドライブシャフト21,22は、例えば一対の自在継手23,24を介して連結された複数のシャフト部材で構成されている。
【0050】
前輪用差動装置10は、変速機の出力ギヤ9に噛み合うデフリングギヤ11、デフリングギヤ11が固定されるか又は一体に設けられたデフケース12、デフケース12に収容された左右のサイドギヤ18,19を備えている。
【0051】
前輪用差動装置10の各サイドギヤ18,19には、前輪用ドライブシャフト21,22の一端部が、例えばスプライン嵌合によって、サイドギヤ18,19と共に回転するように連結されている。変速機の出力ギヤ9からデフリングギヤ11を介して前輪用差動装置10のデフケース12に伝達された動力は、走行状況に応じた回転差となるように左右の前輪用ドライブシャフト21,22に伝達される。
【0052】
一方、後輪4は、後輪用ドライブシャフト31,32、後輪用差動装置70、カップリング60、プロペラシャフト50、トランスファ装置40、前輪用差動装置10のデフケース12及び前記変速機等を介してエンジン6に連結されている。後輪駆動部30は、トランスファ装置40と、プロペラシャフト50と、カップリング60と、後輪用差動装置70と、後輪用ドライブシャフト31,32を備えている。
【0053】
後輪用ドライブシャフト31,32は、車体幅方向に延びるように配設されている。各後輪用ドライブシャフト31,32は、例えば一対の自在継手33,34を介して連結された複数のシャフト部材で構成されている。
【0054】
後輪用差動装置70は、前輪用差動装置10と同様、デフリングギヤ71、デフケース72及び左右のサイドギヤ78,79を備えている。各サイドギヤ78,79には、後輪用ドライブシャフト31,32の一端部が、例えばスプライン嵌合によって、サイドギヤ78,79と共に回転するように連結されている。
【0055】
カップリング60は、入力軸61、出力軸62、及び、入力軸61と出力軸62との間を断接可能に連結する複数の摩擦板63を備えている。カップリング60は、例えば電子制御カップリングであり、摩擦板63間の締結力が制御されることで、前後輪のトルク配分が行われる。トルク配分(前輪:後輪)は、例えば、50:50~100:0の範囲で制御可能となっている。
【0056】
カップリング60の入力軸61は、車体前後方向に延びる軸線上に配設されている。入力軸61は、カップリング60よりもエンジン6側の回転部材であるプロペラシャフト50の後端部に連結されている。
【0057】
複数の摩擦板63は、例えば湿式多板クラッチで構成されている。複数の摩擦板63には、ピストン(図示せず)による押圧によって締結力が加えられる。該ピストンは、例えば、電磁クラッチ及びカム機構を介して作動される。
【0058】
カップリング60の出力軸62は、入力軸61よりも車体後方側において、入力軸61と同じ軸線上に配設されている。出力軸62の後端部にはピニオンギヤ64が設けられている。ピニオンギヤ64は後輪用差動装置70のデフリングギヤ71に噛み合っている。これにより、出力軸62は、ピニオンギヤ64とデフリングギヤ71との噛合部を介して、カップリング60よりも後輪4側の回転部材であるデフケース12に連結されている。
【0059】
ピニオンギヤ64とデフリングギヤ71は、例えばハイポイドギヤ等の傘歯ギヤからなる。ピニオンギヤ64の軸心は、車体上下方向においてデフリングギヤ71の軸心よりも下側にオフセットして配置されている。デフリングギヤ71は、ピニオンギヤ64よりも大径である。これにより、カップリング60の出力軸62の回転は、減速されて後輪用差動装置70のデフケース72に伝達される。
【0060】
プロペラシャフト50は、トランスファ装置40により取り出された動力を後輪4側へ伝達するものである。プロペラシャフト50は、車体前後方向に延びるように配設されている。プロペラシャフト50は、自在継手55を介して車体前後方向に連結された例えば2本のシャフト部材51,52で構成されている。プロペラシャフト50の後端部は、自在継手59を介して、カップリング60の入力軸61の前端部に連結されている。
【0061】
トランスファ装置40は、一方(例えば車体右側)の前輪用ドライブシャフト22上に配設されている。トランスファ装置40は、その入力側において前輪用差動装置10のデフケース12に連結され、出力側において自在継手49を介してプロペラシャフト50の前端部に連結されている。
【0062】
これにより、カップリング60が締結された状態において、変速機等を介して前輪用差動装置10のデフケース12に伝達されたエンジン6の動力の一部は、トランスファ装置40によって後輪4側に取り出されるようになっている。トランスファ装置40の構成については、後に説明する。
【0063】
カップリング60が締結された状態において、トランスファ装置40によって取り出されたエンジン6の動力は、トランスファ装置40からプロペラシャフト50、カップリング60、後輪用差動装置70及び後輪用ドライブシャフト31,32を経由して後輪4に伝達される。後輪用差動装置70のデフケース72に入力された動力は、走行状況に応じた回転差となるように、左右の後輪用ドライブシャフト31,32を介して左右の後輪4に伝達される。
【0064】
図2の断面図を参照しながら、トランスファ装置40の構成について説明する。
【0065】
トランスファ装置40は、車体幅方向に延びる入力軸41、車体前後方向に延びる出力軸42、入力軸41上に設けられたトランスファドライブギヤ(以下、「ドライブギヤ」という)43、出力軸42上に設けられ、ドライブギヤ43に噛み合うトランスファドリブンギヤ(以下、「ドリブンギヤ」という)44、並びに、入力軸41の一部、出力軸42の一部、ドライブギヤ43及びドリブンギヤ44等を収容するトランスファケース48を備えている。
【0066】
入力軸41とドライブギヤ43とは、動力伝達軸46を介して連絡されている。入力軸41と動力伝達軸46は、前輪用ドライブシャフト22の軸心上に配置された筒状部材である。
【0067】
入力軸41は、一方の前輪用ドライブシャフト22の外側に隙間を空けて嵌合されている。入力軸41の一方側(図2の左側)の端部(図示せず)は、例えばスプライン嵌合によって、前輪用差動装置10のデフケース12(図1参照)に連結されており、これにより、入力軸41は、デフケース12と共に回転するようになっている。
【0068】
動力伝達軸46は、入力軸41よりも反デフケース12側(図2の右側)に突出して延びている。動力伝達軸46は、後述するダンパ80の外筒部83,84よりも大径に形成されるとともに、外筒部83,84の外側に配置される大径部46aを有する。動力伝達軸46には、大径部46aのデフケース12側(図2の左側)の端部から径方向内側に突出した環状の縦壁部46bと、縦壁部46bからデフケース12側へ入力軸41の外周部に沿って軸方向に延びる大径部46aよりも小さな径を有する筒状の小径部46cとが設けられている。
【0069】
動力伝達軸46は、小径部46cにおいて、入力軸41の外側にスプライン嵌合されている。動力伝達軸46は、車体幅方向に間隔を空けて配置された一対の軸受101,102を介して回転可能にトランスファケース48に支持されている。入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部は、その軸方向に占める領域が軸受101と重複している。
【0070】
動力伝達軸46の外周には上記のドライブギヤ43が設けられている。ドライブギヤ43は、動力伝達軸46の外側にスプライン嵌合されており、これにより、入力軸41と共に回転するようになっている。
【0071】
入力軸41には、弾性部材が周方向にせん断変形することでねじり振動を減衰させる所謂せん断タイプのダンパ80が設けられている。該ダンパ80がトランスファ装置40の前輪駆動部20のデフケース12に接続された入力軸41からドライブギヤ43に至る動力伝達経路上に設けられていることにより、後輪駆動部30の捩り剛性が低減されている。これにより、該後輪駆動部30の捩り振動に関する固有振動数は、エンジン回転数の常用域で生じ得るトルク変動に対して共振しないような振動数域にずらされている。ダンパ80の具体的構成については後に説明する。
【0072】
出力軸42は、車体前後方向に延びるように配置された中実の軸部材である。出力軸42の軸心は、車体幅方向においてドライブギヤ43よりもデフケース12側に配置されている。また、出力軸42の軸心は、車体上下方向において前輪用ドライブシャフト22の軸心よりも下側にオフセットして配置されている。
【0073】
出力軸42は、車体前後方向に間隔を空けて配置された前後一対の軸受103,104を介して回転可能にトランスファケース48に支持されている。一対の軸受103,104のインナレース間には、出力軸42の外側に嵌合された筒状のディスタンスピース105が介装されている。
【0074】
出力軸42における車体後方側の軸受104よりも車体後方側部分の外側には連結部材106が嵌合されている。連結部材106の後端部には自在継手49(図1参照)が固定されている。これにより、出力軸42は、連結部材106及び自在継手49を介してプロペラシャフト50(図1参照)の前端部に連結されている。
【0075】
出力軸42の後端部にはナット107が螺合されている。該ナット107が締め付けられることで、出力軸42上においてドリブンギヤ44とナット107との間に挟み込まれた一対の軸受103,104のインナレース、ディスタンスピース105及び連結部材106は、軸方向に位置決めされて出力軸42に固定されている。
【0076】
組付け時においてナット107を締め付けるとき、ディスタンスピース105は、弾性変形状態を経て塑性変形し、ディスタンスピース105が塑性変形した状態で、軸受103,104の予圧が調整される。
【0077】
出力軸42の前端部には、上記のドリブンギヤ44が例えば一体に設けられている。ドリブンギヤ44は、上記一対の軸受103,104を介して車体後方側から片持ち状に支持されているが、該ドリブンギヤ44の支持剛性は、上記のように軸受103,104の予圧が精密に管理されることで高められている。
【0078】
ドライブギヤ43とドリブンギヤ44は、例えばハイポイドギヤ等の傘歯ギヤである。ドライブギヤ43の歯部は、車体幅方向のデフケース12側を向くように配置され、ドリブンギヤ44の歯部は、車体前方側を向くように配置されている。ドリブンギヤ44は、ドライブギヤ43よりも小径である。これにより、トランスファ装置40の入力軸41の回転は、増速されて出力軸42及びプロペラシャフト50(図1参照)に伝達される。
【0079】
トランスファケース48内には潤滑用のオイルが封入されている。該オイルとしては、ドライブギヤ43とドリブンギヤ44との噛合部における焼付きを確実に防止し得る成分を含むものが用いられる。
【0080】
入力軸41の動力伝達軸46の外周面とトランスファケース48の内周面との間、動力伝達軸46の内周面と前輪用ドライブシャフト22の外周面との間、前輪用ドライブシャフト22の外周面とトランスファケース48の内周面との間、及び、連結部材106の外周面とトランスファケース48の内周面との間には、それぞれ、両部材間の相対回転を許容しつつ油密性又は気密性を確保するシール部材111,112,113,114,115が介装されている。
【0081】
ダンパ80は、第1の剛性を有する第1のダンパ80Aと、第1の剛性よりも高い剛性である第2の剛性を有する第2のダンパ80Bとで構成されている。第1のダンパ80Aと、第2のダンパ80Bとは、軸方向反デフケース12側(図2の右側)からこの順で配置されている。各ダンパの特性については、後に説明する。
【0082】
第1のダンパ80Aは、内筒部81と、外筒部83とを備えた二重管構造を有する。内筒部81と外筒部83は、例えば金属製の筒状部材で構成され、前輪用ドライブシャフト22及び入力軸41の軸心上に配置されている。内筒部81は、前輪用ドライブシャフト22の外側に隙間を空けて嵌合されている。内筒部81は、該内筒部81のデフケース12側の端部が軸方向において、入力軸41の反デフケース12側(図2の右側)の先端部にオーバラップして配置されている。外筒部83は、内筒部81よりも大径とされ、径方向において内筒部83の外側且つ動力伝達軸46の内側に配置されている。
【0083】
内筒部81は、入力軸41の軸心上に配置されている。内筒部81は、入力軸41の外側にスプライン嵌合されている。外筒部83は、動力伝達軸46(の大径部46a)の内側に圧入されている。
【0084】
第1のダンパ80Aの軸方向デフケース12側(図2の左側)の端部には、第2のダンパ80Bが配置され、第1のダンパ80Aの軸方向反デフケース12側(図2の右側)の端部には、軸方向において外筒部83よりも反デフケース12側で、動力伝達軸46の内周面に装着されたスナップリング88が配置されている。第1のダンパ80は、第2のダンパ80Bとスナップリング88によって軸方向に位置決めされている。
【0085】
第1のダンパ80Aは、内筒部81と外筒部83との間に配置された第1の弾性体層90Aを更に備えている。第1の弾性体層90Aは、例えばゴム製の複数の弾性部材93(図4参照)で構成されている。第1の弾性体層90のより具体的な構成については後に説明する。
【0086】
第2のダンパ80Bは、第1のダンパ80Aと同様に、内筒部82と、外筒部84とを備えた二重管構造を有する。内筒部82と外筒部84は、例えば金属製の筒状部材で構成され、前輪用ドライブシャフト22及び入力軸41の軸心上に配置されている。内筒部82は、軸方向において、動力伝達軸46の径方向に延びる縦壁部46bの反デフケース12側(図2の右側)に隣接して配置されている。外筒部84は、内筒部82よりも大径とされ、径方向において内筒部82の外側且つ動力伝達軸46の内側に配置されている。
【0087】
内筒部82は、入力軸41の軸心上に配置されている。内筒部82は、入力軸41の外側にスプライン嵌合されている。外筒部84は、動力伝達軸46(の大径部46a)の内側に圧入されている。
【0088】
第2のダンパ80Bの軸方向反デフケース12側(図2の右側)の端部には、軸方向において、第1のダンパ80Aが配置されている。第2のダンパ80Bは、第1のダンパ80Aを介してスナップリング88によって軸方向に位置決めされている。
【0089】
第2のダンパ80Bは、内筒部82と外筒部84との間に配置された第2の弾性体層90Bを更に備えている。第2の弾性体層90Bは、例えばゴム製の複数の弾性部材94(図5参照)で構成されている。第2の弾性体層90のより具体的な構成については後に説明する。
【0090】
入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部81とのスプライン嵌合部、及び、入力軸41と第1のダンパ80の内筒部82とのスプライン嵌合部は、デフケース12側(図2の左側)からこの順で軸方向に並べて配置されている。これらのスプライン嵌合には、入力軸41の外周面に設けられた共通の外歯41a(図3図5参照)が用いられている。
【0091】
図3は、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部を軸方向から見た図2のIII-III線断面図であり、図4は、入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部82とのスプライン嵌合部を軸方向から見た図2のIV-IV線断面図であり、図5は、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部81とのスプライン嵌合部を軸方向から見た図2のV-V線断面図である。また、図3図5において、前輪用ドライブシャフト22は二点鎖線で図示されている。
【0092】
図3に示すように、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部において、入力軸41の各外歯45aは、動力伝達軸46の隣接する一対の内歯46a間の周方向中央部に、周方向の所定範囲L1内で相対移動可能に配置されている。これにより、入力軸41と動力伝達軸46は、所定の角度範囲α内での相対回転が許容されている。
【0093】
これに対して、図4に示す入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部81とのスプライン嵌合部において、入力軸41の各外歯45aは、内筒部81の隣接する一対の内歯81c間に略隙間なく配置されている。これにより、入力軸41と内筒部81とのスプライン嵌合部では、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部に比べて、周方向における外歯45aと内歯81cとの間の相対移動、ひいては、入力軸41と内筒部81との間の相対回転が厳しく制限されている。
【0094】
また、本実施形態においては、第1のダンパ80Aの外筒部83と動力伝達軸46とは、圧入によって連結されており、外筒部83と動力伝達軸46とは一体的に回転する。なお、第1のダンパ80Aの外筒部83と動力伝達軸46とは、スプライン嵌合されていてもよい。その場合、スプライン嵌合部(図2参照)においても、図4に示す入力軸41と内筒部81とのスプライン嵌合部と同様、外筒部83の各外歯は動力伝達軸46の隣接する一対の内歯間に略隙間なく配置して、外筒部83と動力伝達軸46との間の相対回転は、入力軸41と内筒部81との間の相対回転と同様に、厳しく制限される。
【0095】
図5に示す入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部において、入力軸41の各外歯45aは、内筒部82の隣接する一対の内歯82c間の周方向中央部に、周方向の所定範囲L2内で相対移動可能に配置されている。これにより、入力軸41と第2のダンパ80Bは、所定の角度範囲β内での相対回転が許容されている。
【0096】
また、本実施形態においては、第2のダンパ80Bの外筒部84と動力伝達軸46とは、圧入によって連結されており、外筒部84と動力伝達軸46とは一体的に回転する。なお、外筒部84と動力伝達軸46とは、スプライン嵌合されていてもよい。その場合、スプライン嵌合部(図2参照)においても、図4に示す入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部81とのスプライン嵌合部と同様、外筒部84の各外歯は動力伝達軸46の隣接する一対の内歯間に略隙間なく配置して、外筒部84と動力伝達軸46との間の相対回転は、厳しく制限される。
【0097】
入力軸41と第2のダンパ80Bとの相対回転を許容する所定の角度範囲βは、入力軸41と動力伝達軸46との相対回転を許容する所定の角度範囲αよりも小さくなるように形成されている(α>β)。
【0098】
以上のように、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)における外歯45aと内歯46aとの間に生じる第1のバックラッシュ(周方向のガタ)L1は、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部における外歯45aと内歯82cとの間に生じる第2のバックラッシュ(周方向のガタ)L2(図5参照)、よりも大きくなるように構成されている。
【0099】
また、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部における外歯45aと内歯82cとの間に生じるバックラッシュ(周方向のガタ)(図4参照)は、入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部82とのスプライン嵌合部における外歯45aと内歯81aとの間に生じるバックラッシュ(周方向のガタ)(図4参照)、よりも大きくなるように構成されている。
【0100】
また、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)における第1のバックラッシュL1は、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)の第2のバックラッシュL2よりも大きくなるように構成されている。一方、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)のバックラッシュL2は、入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部81とのスプライン嵌合部(図4参照)のバックラッシュとの和よりも大きくなるように構成されている。
【0101】
入力軸41と動力伝達軸46との間で第1の所定値T1未満(図6参照)のトルクが伝達されるとき、入力軸41と動力伝達軸46は入力されたトルクの大きさに応じて周方向に相対変位する。このとき、入力軸41の各スプライン嵌合部における外歯と内歯の係合は、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)、及び、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)よりも先に、入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部81とのスプライン嵌合部(図4参照)においてなされる。
【0102】
そのため、入力軸41と動力伝達軸46との間で伝達されるトルクが第1の所定値T1未満である場合、該トルクの伝達経路は、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)、及び、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)を経由することなく、入力軸41と内筒部82とのスプライン嵌合部、第1のダンパ80A、及び、第1のダンパ80Aの外筒部83と動力伝達軸46との圧入部(図2参照)を経由した経路になる。なお、第1の所定値T1のトルクは、第2のバックラッシュL2(入力軸41と第2のダンパ80Bの間で許容される相対回転の所定の角度範囲β)及び第1のダンパ80Aの剛性によって設定される。
【0103】
すなわち、例えば、前輪駆動状態、又は、後輪4側に分配されるトルクが比較的低い四輪駆動状態など、エンジン6側からトランスファ装置40に入力されるトルクが第1の所定値T1未満であるとき、トランスファ装置40では、第1のダンパ80Aを経由した経路でトルク伝達がなされる。
【0104】
入力軸41の入力軸41と動力伝達軸46との間で第1の所定値T1以上かつ第2の所定値T2未満のトルクが伝達されるとき、入力軸41と動力伝達軸46は入力されたトルクの大きさに応じて周方向に相対変位する。このとき、入力軸41の各スプライン嵌合部における外歯と内歯の係合は、入力軸41と第1のダンパ80Aの内筒部81とのスプライン嵌合部(図4参照)に加えて、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)においてなされる。なお、入力されるトルクが第2の所定値未満なので、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)は係合されない。なお、第2の所定値T2のトルクは、第1のバックラッシュL1(入力軸41と動力伝達軸46の間で許容される相対回転の所定の角度範囲α)及び第1のダンパ80A及び第2のダンパ80Bの剛性特性によって設定される。
【0105】
そのため、入力軸41と動力伝達軸46との間で伝達されるトルクが第1の所定値T1以上かつ第2の所定値T2未満である場合、該トルクの伝達経路は、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)を経由することなく、入力軸41と内筒部82とのスプライン嵌合部、第1のダンパ80A、及び、第1のダンパ80Aの外筒部83と動力伝達軸46との圧入部(図2参照)を経由した経路に加え、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)、及び、第2のダンパ80Bの外筒部84と動力伝達軸46との圧入部(図2参照)を経由した経路になる。
【0106】
すなわち、例えば、前輪駆動状態、又は、後輪4側に分配されるトルクが比較的低い四輪駆動状態など、エンジン6側からトランスファ装置40に入力されるトルクが第1の所定値未満である状態から第2の所定値に至るまでの間であるとき、トランスファ装置40では、第1のダンパ80A及び第2のダンパ80Bを経由した経路でトルク伝達がなされる。
【0107】
一方、入力軸41と動力伝達軸46との間で伝達されるトルクが第2の所定値T2以上である場合、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)を経由したトルク伝達がなされる。
【0108】
すなわち、例えば、締結力が比較的強い四輪駆動状態など、エンジン6側からトランスファ装置40に入力されるトルクが第2の所定値T2以上であるとき、トランスファ装置40では、入力軸41と内筒部82とのスプライン嵌合部、第1のダンパ80A、及び、第1のダンパ80Aの外筒部83と動力伝達軸46との圧入部(図2参照)を経由した経路、入力軸41と第2のダンパ80Bの内筒部82とのスプライン嵌合部(図5参照)、及び、第2のダンパ80Bの外筒部84と動力伝達軸46との圧入部(図2参照)を経由した経路に加え、両ダンパ80(80A,80B)を経由しない経路でトルク伝達がなされる。
【0109】
入力軸41と動力伝達軸46との間でトルクが伝達されるとき、周方向における両軸部材45,46間の相対変位量は、両軸部材45,46間のスプライン嵌合部(図3参照)における外歯45aと内歯46aの干渉によって所定量以下に規制される。これにより、入力軸41にスプライン嵌合された各ダンパ80A,80Bの内筒部81,82と、動力伝達軸46にスプライン嵌合された外筒部83,84との間においても、周方向の相対変位量が所定量以下に規制されることになる。
【0110】
このように、入力軸41と動力伝達軸46とのスプライン嵌合部(図3参照)は、ダンパ80の内筒部82と外筒部84との間の周方向の相対変位量を規制するストッパ機構として作用し、該ストッパ機構の作用により、ダンパ80の弾性体層90に過剰な荷重がかかることを抑制できる。
【0111】
ところで、ダンパ80の性能としては、ダンパ80に入力されるトルクが低トルク領域(後輪駆動部が非動力伝達状態)にある状態では、後輪駆動部30のねじり剛性の低下のために低剛性の弾性部材を用いることが好ましい。一方、ダンパ80に入力されるトルクが高トルク領域(ストッパ機構が動作する)に至る直前の低トルク領域においては、ダンパ80の伝達トルク容量が低トルクのままでダンパ80を介しない動力伝達経路が形成されることによる歯打ち音を抑制するために、入力トルクに対して相対変位量が小さい高剛性の弾性部材を用いることが好ましい。
【0112】
本実施形態におけるトランスファ装置40に設けられたダンパ80は、上述の特性を得るための構成を有している。ここで、図6を参照しながら、具体的なダンパ80特性について説明する。
【0113】
図6は、後輪駆動部30が非動力伝達状態から動力伝達状態(例えば、前輪駆動状態及び前輪駆動状態から四輪駆動状態)に至るまでにおける、各ダンパ80A,80Bのねじれ角(各内筒部と各外筒部との相対変位量)に対する後輪駆動部30の入力軸41に入力される入力トルクの関係を示す。
【0114】
図6には、トランスファギヤセット間の歯打ち音を抑制することを目的として、後輪駆動部30をエンジンのトルク変動に共振させないように設定されたダンパの剛性の上限ラインaと、弾性部材のねじれ限界に応じて設定されるねじれ角の上限値(ストッパ機構が動作するときのねじれ角)αと、後輪駆動部30がエンジンのトルク変動に共振しない状態となるときの入力トルクの下限値Tと、が示されている。
【0115】
なお、本実施形態における低トルク領域は入力トルクの下限値T以下の領域であって、高トルク領域は入力トルクの下限値Tを超える領域である。また、ダンパの剛性は、ねじれ角に対する入力トルクの勾配で示されている。具体的には、ねじれ角に対する入力トルクの勾配が急であるほどダンパの剛性が高く、前記勾配が緩やかであるほどダンパの剛性が低い。
【0116】
特に、エンジンのトルク変動に対する後輪駆動部30の共振は、より前輪駆動状態であるとき(トランスファ装置に入力されるトルクが低い低トルク状態(例えば、50Nm以下))において生じやすい。したがって、より低剛性(ねじり角に対するトルクの勾配がゆるやかな勾配)とされることが好ましい。
【0117】
したがって、ダンパの剛性の上限値aは、高トルク領域に比して低トルク領域が低剛性になるように設定されている。換言すると、低トルク領域におけるねじれ角に対するダンパの伝達トルク容量の増加代よりも、高トルク領域におけるねじれ角に対するダンパの伝達トルク容量の増加代の方が大きく設定されている。
【0118】
また、図6に示すように、入力トルクの下限値T以上になる前にねじれ角の上限値αに達した場合、後輪駆動部30がエンジンのトルク変動に共振するために、ねじれ角の上限値αにおいて入力トルクが下限値T以上となるように閾値が設定されている。換言すると、ねじれ角の上限値αにおけるダンパの伝達トルク容量が下限値T以上となるように設定されている。なお、各ねじれ角におけるダンパの伝達トルク容量は、各ねじれ角に対応した入力トルクで示されている。ダンパの伝達トルク容量は、剛性に比例している。
【0119】
以上より、後輪駆動部30がエンジンのトルク変動に共振させないためのダンパの剛性は、特に、前輪駆動状態(後輪駆動部30に伝達されるトルクが下限値Tに達していない状態)においては、低剛性に設定される。一方、ねじれ角の上限値α近傍においては、剛性(ねじれ角に対するトルクの勾配)を高める(急勾配化する)ように設定される。換言すると、ダンパ80のねじれ角に対するトルクの特性としては、入力トルクが小さい場合には、ねじれ角を小さくする低剛性の特性を備え、ねじれ角の上限値α近傍で上限値αよりも小さい角度の場合には、ねじれ角を大きくする高剛性の特性を備える。例えば、放物線を描くような特性が好ましい。
【0120】
しかしながら、一般に、せん断タイプダンパのねじれ角に対するトルクの特性は、線形であることが知られている。例えば、低トルク領域の低剛性化を達成するために、低剛性なダンパを用いた場合、図6の仮想線bで示すように、ねじれ角の上限値α近傍において、ダンパの剛性が高まる前に、ねじれ角の上限値αに至る。この場合、ダンパの伝達トルク容量が入力トルクの下限値Tに至る前に、入力軸と動力伝達軸とがトルクを伝達する状態となる。その結果、入力トルクが下限値Tに達するまでの間(ΔT)は、動力伝達軸に設けられたドライブギヤと、これに噛合うドリブンギヤとの間で歯打ち音が発生する。
【0121】
一方、この歯打ち音の発生を抑制するために、図6の仮想線cに示すように、高剛性なダンパを用いて、ダンパの伝達トルク容量を高めることが考えられる。この場合、低トルク領域からダンパの剛性を高めることになるので、前述の低トルク領域におけるねじり剛性を低減するための特性と相反する。さらに、弾性部材には、製造ばらつきが存在するため、これを考慮した場合、ダンパの剛性が、上限ラインaを上回る虞がある。
【0122】
これに対処するために、本実施形態のトランスファ装置40は、前述のように剛性の異なる第1のダンパ80Aと第2のダンパ80Bとを用いて、上述の条件を満足するダンパ特性が達成されている。
【0123】
具体的には、低トルク領域における後輪駆動部30の固有振動数をエンジンのトルク変動に対する共振域からずらすことに対しては、低トルク領域における所定のねじれ角に至るまで、入力軸41に入力されたトルクを低剛性(ねじれ角に対するトルクの勾配が緩やかな特性)の第1のダンパ80Aを介して動力伝達軸46に伝達することで、後輪駆動部30のねじり剛性の低下が図られている。
【0124】
一方、ねじれ角の上限値αにおいて、ダンパの伝達トルク容量が入力トルクの下限値Tを超える(高トルク領域となる)ようにダンパ特性を高剛性化することに対しては、第1のダンパ80Aに比して高剛性(ねじれ角に対するトルクの勾配が急勾配となる特性)の第2のダンパ80Bによって、ねじれ角の上限値α近傍におけるダンパの伝達トルク容量が高められている。
【0125】
第1のダンパ80Aに加えて第2のダンパ80Bを介した動力伝達経路とするタイミングは、第2のダンパ80Bの内筒部82と、入力軸41との間のスプライン嵌合部における両者の相対回転を許容する回転角度β(第2のバックラッシュ)によって設定されている。すなわち、図6に示すように、ねじれ角がβとなった時点で、第1のダンパ80Aに加えて第2のダンパ80Bを介した動力伝達経路が形成される。
【0126】
後輪駆動部30のねじり剛性の低下のためには、より広い領域で第1のダンパ80Aを介した動力伝達経路とすることが好ましく、回転角度βをねじれ角の上限値αに近づけることが好ましい。また、第1のダンパ80Aのみを動力伝達経路とした状態から第1のダンパ80A及び第2のダンパ80Bを介した動力伝達経路に滑らか(剛性差を有することなく)に移行するためには、第2のダンパ80Bの特性を第1のダンパ80Aの特性との間に交点(同じ剛性を有する点)Pを設ける必要がある。
【0127】
したがって、回転角度βをねじれ角の上限値αに近づけつつ、第1のダンパ80Aの特性と第2のダンパ80Bのとの間に交点Pを設けるためには、第2のダンパ80Bの剛性を高める(ねじり角に対するトルクの勾配を急勾配にする)必要がある。
【0128】
しかしながら、第2のダンパ80Bの高剛性化は、弾性部材の特性に起因するため、限界がある場合がある。したがって、本実施形態においては、第2のダンパ80Bの特性に応じて設定される第1のダンパ80Aの特性と第2のダンパ80Bの特性との交点Pとによって回転角度βが設定されている。
【0129】
以上のように、低トルク領域における高トルク領域近傍においては、低剛性の第1のダンパに加え、高剛性(ねじれ角に対するトルクの勾配が急勾配である特性)を備えた第2のダンパを経由させることで、後輪駆動部30の固有振動数をずらしながら、ねじれ角の上限値αに向かってダンパの伝達トルク容量が増大されている。
【0130】
第2のダンパ80Bのせん断変形によって、ダンパ80の伝達トルク容量を上昇させることができるので、後輪駆動部30のねじり剛性が連続的(なめらか)に高められて、トランスファ装置における急激な剛性の変化を抑制できる。
【0131】
なお、前述のように、ダンパには、例えば、図6に実線で示す設計値を中心に上下の破線で示すような製造時におけるばらつきがある。したがって、設計値を下側の破線で示す下限値ぎりぎりに設計した場合、下限値を下回る場合がある。したがって、本実施形態においては、ばらつきを考慮しても下限値を下回らない程度に設計値が設定されている。
【0132】
以上の構成によれば、入力軸41に入力されるトルクは、第2のバックラッシュL2が係合するまでの間(例えば、入力軸41に入力されるトルクが低トルク、後輪駆動部30が非動力伝達状態、或いは、後輪駆動部30がエンジン6の常用域におけるトルク変動に共振が生じないトルク伝達状態のうち、特に低トルク領域にある間)は、バックラッシュを介さない第1のダンパ80Aを介してトランスファドライブギヤ43に伝達される。これにより、第1のダンパ80Aによって、後輪駆動部30の剛性を低減することができる。
【0133】
また、入力軸41に入力されるトルクが、第2のバックラッシュ80Bを係合させる所定の入力トルクT1に達した時点から、第1のバックラッシュL1が係合するまでの間(例えば、入力軸41に入力されるトルクが高トルク領域に到達する、後輪駆動部30が動力伝達状態となる、或いは、後輪駆動部30がエンジン6の常用域におけるトルク変動に共振が生じないトルク伝達状態となる、までの間)において、入力軸41に入力されるトルクは、第1のダンパ80Aに加え、第2のダンパ80Bを介してトランスファドライブギヤ43に伝達される。したがって、第1のダンパ80A及び第2のダンパ80Bによって、後輪駆動部30の剛性を低下させるとともに、第1のダンパ80Aと第2のダンパ80Bとによって得られる第1のダンパ80Aよりも高められた伝達トルク容量が得られる。
【0134】
さらに、入力軸41に入力されるトルクが、第1のバックラッシュL1を係合させる所定の入力トルクT2以上に到達すると、入力軸41に入力されるトルクは、第1のダンパ80A及び第2のダンパ80Bに加え、これらのダンパ80A,80Bを介さずにトランスファドライブギヤ43に伝達される。
【0135】
このように、主駆動輪駆動部20からトランスファドライブギヤ43に至る動力伝達経路に設けられた、大きさの異なるバックラッシュを備えたスプラインによって、トランスファ装置40に伝達されるトルクの大きさに応じて動力伝達経路が選択されるとともに、動力伝達経路の剛性を変更できる。
【0136】
これにより、第1のダンパ80Aを介した動力伝達経路では、後輪駆動部30のねじり剛性を低下させることで、固有振動数をエンジン回転数の常用域で生じ得るトルク変動に対して共振しないような振動域にずらすことが可能になり、トランスファギヤセット43,44間における歯打ち音を抑制できる。第1のダンパ80A及び第2のダンパ80Bを介した動力伝達経路では、後輪駆動部30のねじり剛性を低下させつつ、ダンパ80の受持つトルク(伝達トルク容量)を高めることができる。
【0137】
したがって、入力軸41に入力されるトルクが低トルク領域(後輪駆動部がトルクを伝達しない非動力伝達状態)にある状態では、後輪駆動部30のねじり剛性の低下のために低剛性の特性を有し、ダンパ80に入力されるトルクが高トルク領域(ストッパ機構が作動する)に近づく状態では、急激な剛性の上昇を抑制するために高剛性の特性を有する。
【0138】
以上より、駆動輪と副駆動輪を備えた車両の動力伝達装置において、せん断タイプのダンパを用いることで、コストを低減するとともに、入力軸とトランスファギヤとの間の剛性を、狙いの特性を得ることができる。
【0139】
また、前述のように、第2のダンパ80Bの剛性(ねじれ角に対する入力トルクの特性)が、第1のダンパ80Aの剛性に比して、高剛性に設定されている。これにより、第2のダンパ80Bの剛性を第1のダンパ80Aの剛性と一致させた場合に比して、第1のダンパ80Aと第2のダンパ80Bとによって分担可能な伝達トルク容量を高めることができる。さらに、第2のダンパ80Bの剛性を高めることで、第2のダンパ80Bのねじれ角に対する入力トルクの勾配を急勾配にすることができる。したがって、第1のダンパ80Aによる低剛性の領域を広げつつ、入力軸41と動力伝達軸46とを滑らかに直結状態に至らせやすく、放物線を描くような特性が得られやすい。
【0140】
また、前述のように、第2のダンパ80Bよりも低トルク状態において動力を伝達する第1のダンパ80Aが、第2のダンパ80Bよりも反入力軸41側に配設されている。これにより、第1のダンパ80Aは低トルク領域において動力伝達を担うので、入力軸41と第1のダンパ80Aとのスプライン嵌合領域は、伝達されるトルクに応じて、必要な面圧が確保される程度まで短くすることができる。その結果、入力軸41の短縮が可能となって、軽量化及びコスト削減できる。また、第1のダンパ80Aはバックラッシュなしのスプラインによって入力軸41に嵌合されているので、各ダンパ80A,80Bの抜けを抑制できる。
【0141】
また、前述のように、入力軸41には、動力伝達軸46、第1のダンパ80A、第2のダンパ80Bに跨る共通のスプラインが形成されているので、動力伝達軸46と、第1のダンパ80Aの内筒部81側と、第2のダンパ80Bの内筒部82側とによってバックラッシュの大きさ(角度)を調整するだけの簡素な構造で、トランスファ装置の動力伝達経路の選択及び剛性の変更ができる。また、入力軸41のスプラインの加工が1回で行うことができるので、加工にかかる工数を削減することができ、コストの削減が可能。
【0142】
また、前述のように、いわゆるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの四輪駆動車の前輪駆動状態、或いは、RR(リアエンジン・リアドライブ)ベースの四輪駆動車の後輪駆動状態において、後駆動部30の固有振動数を、エンジン回転数の常用域で生じ得るトルク変動に対して共振しないような振動域にずらすことができる。これにより、後輪駆動部30の各噛合部における歯打ち音を効果的に抑制できる。
【0143】
第1のダンパ80Aは、トランスファドギヤセット43,44と入力軸41の軸方向にオーバラップして配設されているので、トランスファ装置40の軸方向の寸法をコンパクトにすることができる。
【0144】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0145】
また、例えば、本実施形態においては、いわゆるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースの四輪駆動車について説明したが、これに限られるものではなく、いわゆるFR(フロントエンジン・リアドライブ)ベースの四輪駆動車、及び、いわゆるRR(リアエンジン・リアドライブ)ベースの四輪駆動車に提供できる。
【0146】
せん断タイプのダンパを2つ用いる例について説明したが、ダンパに要求される性能によっては、2つ以上のダンパを用いてもよい。
【0147】
また、例えば、本実施形態においては、第1のダンパ80Aの剛性と第2のダンパ80Bの剛性とが異なる構成について説明したが、第1のダンパ80Aと第2のダンパ80Bの剛性は同じであってもよい。
【0148】
また、例えば、本実施形態においては、トランスファ装置40に入力されるトルクがダンパの内筒部側から外筒部側に向かって伝達される構成について説明したが、外筒部側から内筒部側にトルク伝達が行われてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0149】
以上のように、本発明によれば、主駆動輪と副駆動輪を備えた車両の動力伝達装置において、せん断タイプのダンパを用いるとともに、狙いの特性を得ることが可能となるから、この種の四輪駆動車の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0150】
2 前輪(主駆動輪)
4 副駆動輪
6 エンジン(駆動源)
20 主駆動輪駆動部
30 副駆動輪駆動部
40 トランスファ装置(動力取出部)
43 トランスファドライブギヤ
41 入力軸
44 トランスファドリブンギヤ
46 動力伝達軸
80A 第1のダンパ
80B 第2のダンパ
L1 第1のバックラッシュ
L2 第2のバックラッシュ
図1
図2
図3
図4
図5
図6