IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図1
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図2
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図3
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図4
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図5
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図6
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図7
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図8
  • 特許-物体検出装置、および物体検出システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】物体検出装置、および物体検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/87 20060101AFI20240319BHJP
   G01S 15/931 20200101ALI20240319BHJP
   G01S 15/46 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01S15/87
G01S15/931
G01S15/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020069983
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165723
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】井奈波 恒
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103464(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0339386(US,A1)
【文献】国際公開第2008/139687(WO,A1)
【文献】特開2019-174284(JP,A)
【文献】特開2020-003475(JP,A)
【文献】特開2009-270863(JP,A)
【文献】特開2007-033129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/64
G01S 13/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の物体検出装置が有する他の送信部と実質的に同時に送信波を送信する送信部と、
前記送信部により送信された前記送信波と前記他の送信部により送信された他の送信波とが物体での反射に応じて戻ってきた結果に対応した複数の波動を含む受信波を受信する受信部と、
前記受信波に含まれる前記複数の波動の送信元を識別する識別部と、
前記識別部および前記他の物体検出装置が有する他の識別部による識別結果に基づいて特定される、前記他の物体検出装置が有する前記他の送信部により送信されて前記受信部により受信された第1の波動を示す第1の波形の第1のピークと、前記送信部により送信されて前記他の物体検出装置が有する他の受信部により受信された第2の波動を示す第2の波形の第2のピークと、の対応関係に基づいて、前記物体に関する情報を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、前記第1の波動の信号レベルの所定区間における第1のエンベロープ波形としての前記第1の波形が有する前記第1のピークと、前記第2の波動の信号レベルの前記所定区間における第2のエンベロープ波形としての前記第2の波形が有する前記第2のピークと、の対応関係に基づいて、前記物体に関する情報を検出し、
その際に、前記第1のエンベロープ波形と前記第2のエンベロープ波形の一方の時系列を逆にして、前記一方の開始のタイミングと他方の終了のタイミングを合わせるとともに前記一方の終了のタイミングと前記他方の開始のタイミングを合わせた場合に実質的に同じタイミングで表れるピークを、検出対象の物体での反射を示すピークであると特定し、その他のピークを、検出対象外の物体での反射に起因するクラッタを示すピークであると特定する、物体検出装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記第1のエンベロープ波形における前記所定区間の開始から前記第1のピークが表れるまでの区間長と、前記第2のエンベロープ波形における前記第2のピークが表れてから前記所定区間の終了までの区間長と、の差が所定の範囲内である前記第1のピークおよび前記第2のピークのうち少なくとも一方に基づいて、前記物体に関する情報を検出する、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記第1のエンベロープ波形および前記第2のエンベロープ波形における信号レベルがノイズに対応した所定の閾値以上となっているピークを、前記第1のピークおよび前記第2のピークとして特定する、
請求項2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記送信部は、前記送信波を、前記物体検出装置を識別するための識別情報を含むように所定の変調方式で変調した上で送信し、
前記識別部は、前記受信波を前記所定の変調方式に対応した復調方式で復調した結果に基づいて、前記受信波に含まれる前記複数の波動の送信元を識別する、
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記物体検出装置は、前記物体に関する情報として路面上のオブジェクトまでの距離を検出する車載ソナーとして構成される、
請求項1~4のうちいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項6】
他の物体検出装置が有する他の送信部と実質的に同時に送信波を送信する送信部と、当該送信部により送信された前記送信波と前記他の送信部により送信された他の送信波とが物体での反射に応じて戻ってきた結果に対応した複数の波動を含む受信波を受信する受信部と、前記受信波に含まれる前記複数の波動の送信元を識別する識別部と、を各々が有する複数の物体検出装置と、
前記複数の物体検出装置の各々の前記識別部による識別結果に基づいて特定される、前記複数の物体検出装置のうち第1の物体検出装置の前記送信部により送信されて前記複数の物体検出装置のうち前記第1の物体検出装置とは異なる第2の物体検出装置により受信された第1の波動を示す第1の波形の第1のピークと、前記第2の物体検出装置の前記送信部により送信されて前記第1の物体検出装置の前記受信部により受信された第2の波動を示す第2の波形の第2のピークと、の対応関係に基づいて、前記物体に関する情報を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、前記第1の波動の信号レベルの所定区間における第1のエンベロープ波形としての前記第1の波形が有する前記第1のピークと、前記第2の波動の信号レベルの前記所定区間における第2のエンベロープ波形としての前記第2の波形が有する前記第2のピークと、の対応関係に基づいて、前記物体に関する情報を検出し、
その際に、前記第1のエンベロープ波形と前記第2のエンベロープ波形の一方の時系列を逆にして、前記一方の開始のタイミングと他方の終了のタイミングを合わせるとともに前記一方の終了のタイミングと前記他方の開始のタイミングを合わせた場合に実質的に同じタイミングで表れるピークを、検出対象の物体での反射を示すピークであると特定し、その他のピークを、検出対象外の物体での反射に起因するクラッタを示すピークであると特定する、物体検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置、および物体検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信波と、物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波と、の相関値を取得(算出)し、当該相関値に基づいて、送信波と受信波との類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定し、判定結果に基づいて、TOF(Time Of Flight)法などにより、物体に関する情報の一つとしての物体までの距離を検出する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-249770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の技術においては、検出対象外の物体による反射に起因して発生するクラッタの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することが望まれている。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することが可能な物体検出装置、および物体検出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としての物体検出装置は、他の物体検出装置が有する他の送信部と実質的に同時に送信波を送信する送信部と、送信部により送信された送信波と他の送信部により送信された他の送信波とが物体での反射に応じて戻ってきた結果に対応した複数の波動を含む受信波を受信する受信部と、受信波に含まれる複数の波動の送信元を識別する識別部と、識別部および他の物体検出装置が有する他の識別部による識別結果に基づいて特定される、他の物体検出装置が有する他の送信部により送信されて受信部により受信された第1の波動を示す第1の波形の第1のピークと、送信部により送信されて他の物体検出装置が有する他の受信部により受信された第2の波動を示す第2の波形の第2のピークと、の対応関係に基づいて、物体に関する情報を検出する検出部と、を備える。
【0007】
上述した物体検出装置によれば、伝播距離が実質的に等しい伝播経路に沿って伝播する2種類の波動を示す2種類の波形には、クラッタに対応したピークがランダムに表れる一方、検出対象の物体での反射に対応したピークは、2種類の波形の時系列を逆にしたときに実質的に同じタイミングで表れることになる。したがって、第1のピークと第2のピークとの対応関係によれば、クラッタの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することができる。
【0008】
上述した物体検出装置において、検出部は、第1の波動の信号レベルの所定区間における第1のエンベロープ波形としての第1の波形が有する第1のピークと、第2の波動の信号レベルの所定区間における第2のエンベロープ波形としての第2の波形が有する第2のピークと、の対応関係に基づいて、物体に関する情報を検出する。このような構成によれば、エンベロープ波形のピーク同士の対応関係を考慮して、検出対象の物体に関する情報をより精度良くかつ容易に検出することができる。
【0009】
この場合において、検出部は、第1のエンベロープ波形における所定区間の開始から第1のピークが表れるまでの区間長と、第2のエンベロープ波形における第2のピークが表れてから所定区間の終了までの区間長と、の差が所定の範囲内である第1のピークおよび第2のピークのうち少なくとも一方に基づいて、物体に関する情報を検出する。このような構成によれば、所定の範囲内の誤差を考慮して、検出対象の物体での反射を示す第1のピークおよび第2のピークを適切に特定することができる。
【0010】
また、この場合において、検出部は、第1のエンベロープ波形および第2のエンベロープ波形における信号レベルがノイズに対応した所定の閾値以上となっているピークを、第1のピークおよび第2のピークとして特定する。このような構成によれば、ノイズの影響を排除した上で、条件を満たす第1のピークおよび第2のピークを容易に特定することができる。
【0011】
上述した物体検出装置において、送信部は、送信波を、物体検出装置を識別するための識別情報を含むように所定の変調方式で変調した上で送信し、識別部は、受信波を所定の変調方式に対応した復調方式で復調した結果に基づいて、受信波に含まれる複数の波動の送信元を識別する。このような構成によれば、受信波に含まれる複数の波動の送信元の識別を容易に行うことができる。
【0012】
また、上述した物体検出装置において、物体検出装置は、物体に関する情報として路面上のオブジェクトまでの距離を検出する車載ソナーとして構成される。このような構成によれば、クラッタの影響を回避しながら路面上のオブジェクトまでの距離をより精度良く検出することが望まれる車載ソナーに本開示の技術を適用することができる。
【0013】
本開示の他の一例としての物体検出システムは、他の物体検出装置が有する他の送信部と実質的に同時に送信波を送信する送信部と、当該送信部により送信された送信波と他の送信部により送信された他の送信波とが物体での反射に応じて戻ってきた結果に対応した複数の波動を含む受信波を受信する受信部と、受信波に含まれる複数の波動の送信元を識別する識別部と、を各々が有する複数の物体検出装置と、複数の物体検出装置の各々の識別部による識別結果に基づいて特定される、複数の物体検出装置のうち第1の物体検出装置の送信部により送信されて複数の物体検出装置のうち第1の物体検出装置とは異なる第2の物体検出装置により受信された第1の波動と、第2の物体検出装置の送信部により送信されて第1の物体検出装置の受信部により受信された第2の波動と、の対応関係に基づいて、物体に関する情報を検出する検出部と、を備える。
【0014】
上述した物体検出システムによれば、伝播距離が実質的に等しい伝播経路に沿って伝播する第1の波動および第2の波動には、クラッタに対応した変化がランダムに表れる一方、検出対象の物体での反射に対応した変化は、第1の波動と第2の波動とで時系列を逆にしたときに実質的に同じタイミングで表れることになる。したがって、第1の波動と第2の波動との対応関係によれば、クラッタの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
図2図2は、実施形態にかかる物体検出システムのECU(電子制御装置)および物体検出装置の概略的なハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図3図3は、実施形態にかかる物体検出装置が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
図4図4は、実施形態にかかる物体検出装置の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
図5図5は、実施形態において特定されうる超音波の伝播経路のペアの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図6図6は、実施形態において特定されうる音波の伝播経路の複数のペアの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図7図7は、実施形態においてクラッタの影響を回避しながら検出対象の物体に関する情報を精度良く検出するための方法を説明するための例示的かつ模式的な図である。
図8図8は、実施形態にかかる物体検出装置が物体に関する情報を検出するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
図9図9は、実施形態の変形例にかかる物体検出システムの構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0017】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両1を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【0018】
図1に示されるように、物体検出システムは、一対の前輪3Fと一対の後輪3Rとを含んだ四輪の車両1の内部に搭載されたECU(電子制御装置)100と、車両1の外装に搭載された物体検出装置201~204と、を備えている。
【0019】
図1に示される例では、一例として、物体検出装置201~204が、車両1の外装としての車体2の後端のたとえばリヤバンパにおいて、互いに異なる位置に設置されている。
【0020】
ここで、実施形態において、物体検出装置201~204が有するハードウェア構成および機能は、それぞれ同一である。したがって、以下では、簡単化のため、物体検出装置201~204を総称して物体検出装置200と記載することがある。
【0021】
なお、実施形態において、物体検出装置200の設置位置は、図1に示される例に限られるものではない。物体検出装置200は、車体2の前端のたとえばフロントバンパに設置されてもよいし、車体2の側面に設置されてもよいし、リヤバンパ、フロントバンパ、および側面のうち2つ以上に設置されてもよい。また、実施形態では、物体検出装置200の個数も、図1に示される例に限られるものではない。ただし、実施形態の技術は、物体検出装置200が複数存在する構成に有効である。
【0022】
実施形態にかかる物体検出システムは、以下に説明するような構成に基づき、超音波の送受信を行い、当該送受信の時間差などを取得することで、周囲に存在する人間を含む物体(たとえば後述する図2に示されるオブジェクトO)に関する情報を検出する。
【0023】
図2は、実施形態にかかる物体検出システムのECU100および物体検出装置200のハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0024】
図2に示されるように、ECU100は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、ECU100は、入出力装置110と、記憶装置120と、プロセッサ130と、を備えている。
【0025】
入出力装置110は、ECU100と外部(図1に示される例では物体検出装置200)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0026】
記憶装置120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などといった主記憶装置、および/または、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などといった補助記憶装置を含んでいる。
【0027】
プロセッサ130は、ECU100において実行される各種の処理を司る。プロセッサ130は、たとえばCPU(Central Processing Unit)などといった演算装置を含んでいる。プロセッサ130は、記憶装置120に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、たとえば駐車支援などといった各種の機能を実現する。
【0028】
一方、図2に示されるように、物体検出装置200は、送受信部210と、制御部220と、を備えている。これらの構成により、物体検出装置200は、外部に存在する物体までの距離を検出する車載センサの一例としての車載ソナーとして構成される。
【0029】
送受信部210は、圧電素子などの振動子211を有しており、当該振動子211により、超音波の送受信を実現する。
【0030】
より具体的に、送受信部210は、振動子211の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波として送信された超音波が外部に存在する物体で反射されて戻ってくることでもたらされる振動子211の振動を受信波として受信する。図2に示される例では、送受信部210からの超音波を反射しうる物体として、路面RSと、当該路面RS上に設置されたオブジェクトOが例示されている。
【0031】
なお、図2に示される例では、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有した単一の送受信部210により実現される構成が例示されている。しかしながら、実施形態の技術は、たとえば、送信波の送信用の第1の振動子と受信波の受信用の第2の振動子とが別々に設けられた構成のような、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも当然に適用可能である。
【0032】
制御部220は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、制御部220は、入出力装置221と、記憶装置222と、プロセッサ223と、を備えている。
【0033】
入出力装置221は、制御部220と外部(図1に示される例ではECU100および送受信部210)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0034】
記憶装置222は、ROMやRAMなどといった主記憶装置、および/または、HDDやSSDなどといった補助記憶装置を含んでいる。
【0035】
プロセッサ223は、制御部220において実行される各種の処理を司る。プロセッサ223は、たとえばCPUなどといった演算装置を含んでいる。プロセッサ223は、記憶装置333に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、各種の機能を実現する。
【0036】
ここで、実施形態にかかる物体検出装置200は、いわゆるTOF(Time Of Flight)法と呼ばれる技術により、物体に関する情報として、物体までの距離を検出する。以下に詳述するように、TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差を考慮して、物体までの距離を算出する技術である。
【0037】
図3は、実施形態にかかる物体検出装置200が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0038】
図3に示される例では、実施形態にかかる物体検出装置200が送受信する超音波の信号レベル(たとえば振幅)の時間変化がグラフ形式で表されている。図3に示されるグラフにおいて、横軸は、時間に対応し、縦軸は、物体検出装置200が送受信部210(振動子211)を介して送受信する信号の信号レベルに対応する。
【0039】
図3に示されるグラフにおいて、実線L11は、物体検出装置200が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子211の振動の度合の時間変化を表す包絡線(エンベロープ波形)の一例を表している。この実線L11からは、振動子211がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間は、慣性による振動子211の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。したがって、図3に示されるグラフにおいては、時間T2が、いわゆる残響時間に対応する。
【0040】
実線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子211の振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを迎える。この閾値Th1は、振動子211の振動が、検出対象の物体(たとえば図2に示されるオブジェクトO)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、または、検出対象外の物体(たとえば図2に示される路面RS)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。
【0041】
なお、図3には、閾値Th1が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、実施形態において、閾値Th1は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0042】
ここで、閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを有する振動は、検出対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。一方、閾値Th1以下の(または未満の)ピークを有する振動は、検出対象外の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。
【0043】
したがって、実線L11からは、タイミングt4における振動子211の振動が、検出対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0044】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子211の振動が減衰している。したがって、タイミングt4は、検出対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。
【0045】
また、実線L11においては、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検出対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。したがって、実線L11においては、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0046】
上記を踏まえて、TOF法により検出対象の物体までの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と、受信波が受信され始めたタイミングt3と、の間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4と、の差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0047】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、物体検出装置200が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定などによって予め決められている。したがって、TOF法により検出対象の物体までの距離を求めるためには、結局のところ、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4を特定することが重要となる。
【0048】
ここで、上述したようなTOF法に基づく検出においては、検出対象外の物体による反射に起因して発生するクラッタと呼ばれるノイズの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することが望まれている。
【0049】
そこで、実施形態は、物体検出装置200を以下のように構成することで、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することを実現する。
【0050】
図4は、実施形態にかかる物体検出装置200の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0051】
図4に示されるように、実施形態にかかる物体検出システムは、送信側の構成として、複数(一例として3つ)の送信部401、403、および405を有しているとともに、受信側の構成として、複数(一例として3つ)の受信部402、404、および406を有している。
【0052】
なお、図4には、送信側の構成と受信側の構成とが分離された状態で図示されているが、このような図示の態様は、あくまで説明の便宜のためのものである。したがって、図4に示される例では、たとえば、送信部401と受信部402との組み合わせと、送信部403と受信部404との組み合わせと、送信部405と受信部406との組み合わせとが、それぞれ1つの物体検出装置200を構成する。ただし、前述の繰り返しになるが、実施形態の技術は、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも当然に適用可能である。
【0053】
また、図4には、送信側の構成と受信側の構成とがそれぞれ3つずつ図示されているが、実施形態では、図1に示される4つの物体検出装置200に対応するように、送信側の構成と受信側の構成とがさらに1つずつ設けられうる。
【0054】
また、実施形態において、図4に示される構成の少なくとも一部は、専用のハードウェア(回路)によって実現され、残りの部分は、ハードウェアとソフトウェアとの協働の結果、より具体的には、物体検出装置200のプロセッサ223が記憶装置222からコンピュータプログラムを読み出して実行した結果として実現されうる。
【0055】
まず、物体検出装置200の送信側の構成について説明する。
【0056】
図4に示されるように、送信部401は、送波器411と、符号生成部412と、搬送波出力部413と、乗算器414と、増幅回路415と、を備えている。
【0057】
また、送信部403および405は、送波器411と同様の送波器431および451をそれぞれ備えている。図4では、送波器431および451以外の図示がスペースの都合で省略されているが、送信部403および405は、送波器431および451以外においても、送信部401と同様の構成を備えている。
【0058】
送波器411は、前述した振動子211によって構成され、当該振動子211により、増幅回路415から出力される(増幅後の)送信信号に応じた送信波を送信する。
【0059】
ここで、実施形態において、送波器411は、たとえばECU100の制御のもとで、他の物体検出装置200の送波器431および451と実質的に同時に送信波を送信するように構成される。したがって、実施形態では、受信波として戻ってきた送信波の送信元を何らかの方法で特定することが必要となる。
【0060】
そこで、実施形態では、符号生成部412、搬送波出力部413、および乗算器414が、物体検出装置200ごとの識別情報を付与するように符号化された送信波を送波器411に送信させることを実現するための構成として機能する。
【0061】
すなわち、図4に戻り、符号生成部412は、たとえば0または1のビットの連続からなるビット列の符号に対応した信号(パルス信号)を生成する。このビット列の長さは、送信信号に付与される識別情報の符号長に対応する。符号長は、図1に示されるような4つの物体検出装置200が設けられた構成において、少なくとも4つの物体検出装置200を互いに識別可能な程度に設定される。
【0062】
搬送波出力部413は、識別情報を付与する対象の信号としての搬送波を出力する。
【0063】
乗算器414は、符号生成部412からの出力と、搬送波出力部413からの出力と、を乗算することで、識別情報を付与するように搬送波を変調する。そして、乗算器414は、識別情報が付与された変調後の搬送波を、送信波のもととなる送信信号として、増幅回路415に出力する。なお、実施形態において、変調方式は、たとえば振幅変調方式や位相変調方式などといった、一般的によく知られた複数の変調方式の単独または2以上の組み合わせが用いられうる。
【0064】
増幅回路415は、乗算器414から出力される送信信号を増幅し、増幅後の送信信号を送波器411に出力する。
【0065】
次に、物体検出装置200の受信側の構成について説明する。
【0066】
図4に示されるように、受信部402は、受波器421と、増幅回路422と、フィルタ処理部423と、識別部424と、複数(一例として3つ)の信号処理系統425A~425Cと、を備えている。
【0067】
また、受信部404および406は、受波器421と同様の受波器441および461をそれぞれ備えている。図4では、受波器441および461以外の図示がスペースの都合で省略されているが、受信部404および406は、受波器441および461以外においても、受信部402と同様の構成を備えている。
【0068】
受波器421は、前述した振動子211によって構成され、当該振動子211により、物体により反射された送信波を受信波として受信する。
【0069】
増幅回路422は、受波器421が受信した受信波に応じた信号としての受信信号を増幅する。
【0070】
フィルタ処理部423は、増幅回路422により増幅された受信信号にフィルタリング処理を施し、ノイズを抑制する。
【0071】
ここで、実施形態では、前述したように、複数の送波器411、431、および451から複数の送信波が実質的に同時に送信されている。このため、受波器421により受信される受信波は、複数の送波器411、431、および451から送信された複数の送信波に対応する複数の波動を含んでおり、結果として、フィルタ処理部423からの出力も、当該複数の波動に対応した複数の信号を含んでいる。
【0072】
そこで、識別部424は、フィルタ処理部423による処理を経た信号を、送信側の構成において実施された変調方式に対応した復調方式で復調し、復調の結果として得られる識別情報に基づいて、受波器421により受信された受信波に含まれる複数の波動の送信元を識別する。
【0073】
識別部424の識別結果によれば、たとえば次の図5に示されるような、TOF、つまり伝播距離が実質的に等しい超音波の伝播経路のペアを特定することができる。
【0074】
図5は、実施形態において特定されうる超音波の伝播経路のペアの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0075】
図5に示される例において、物体検出装置501から送信された超音波は、オブジェクトOでの反射に応じた折り返しを含む矢印A501で示される伝播経路に沿って伝播し、物体検出装置502により受信される。また、物体検出装置502から送信された超音波は、矢印A501と実質的に同じ長さで逆向きの矢印A502で示される伝播経路に沿って伝播し、物体検出装置501により受信される。
【0076】
なお、図5には、最も簡単な例として、伝播距離が実質的に伝播経路のペアが2つの物体検出装置200間で1つだけ構成された例が図示されている。しかしながら、実施形態では、前述したように、物体検出装置200が3つ以上(図1に示される例では4つ)設けられている。この場合、伝播距離が実質的に等しい伝播経路のペアは、次の図6に示されるように、物体検出装置200間で複数構成されうる。
【0077】
図6は、実施形態において特定されうる超音波の伝播経路の複数のペアの一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【0078】
図6に示される例では、物体検出装置601からオブジェクトOでの反射を経て物体検出装置603に向かう矢印A613で示される伝播経路と、物体検出装置603からオブジェクトOでの反射を経て物体検出装置601に向かう矢印A631と、が1つのペアとなる。また、物体検出装置602からオブジェクトOでの反射を経て物体検出装置603に向かう矢印A623で示される伝播経路と、物体検出装置603からオブジェクトOでの反射を経て物体検出装置602に向かう矢印A632と、が1つのペアとなる。
【0079】
なお、簡単化のため図示は省略されているが、図6に示される例では、上記の2つのペアの他、物体検出装置601からオブジェクトOでの反射を経て物体検出装置602に向かう超音波の伝播経路と、物体検出装置602からオブジェクトOでの反射を経て物体検出装置601に向かう超音波の伝播経路とも、1つのペアとなりうる。
【0080】
このように、物体検出装置200が3つ(4つ以上の場合も同様の発想で類推可能)設けられた構成においては、伝播距離が実質的に等しい伝播経路のペアが複数構成される。
【0081】
伝播距離が実質的に等しい伝播経路のペアに着目すると、次の図7に示されるような方法により、クラッタの影響を回避しながら検出対象の物体に関する情報を精度良く検出することができる。
【0082】
図7は、実施形態においてクラッタの影響を回避しながら物体に関する情報を精度良く検出するための方法を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【0083】
図7に示される例は、伝播距離が互いに等しい伝播経路のペアを構成するという条件を満たす2つの物体検出装置200の各々において受信される受信波の信号レベルのエンベロープ波形の対応関係を表している。より具体的に、図7に示される例において、上側の実線L710は、一方の物体検出装置200において受信される受信波の信号レベルのエンベロープ波形に対応し、下側の実線L720は、他方の物体検出装置200においた受信される受信波の信号レベルのエンベロープ波形に対応する。以下では、実線L710で示される波形を第1のエンベロープ波形と表現し、実線L720で示される波形を第2のエンベロープ波形と表現することがある。
【0084】
なお、図7に示される例において、タイミングt700は、上記の条件を満たす2つの物体検出装置200が送信波を送信するタイミングであり、タイミングt701は、上記の条件を満たす2つの物体検出装置200が物体での反射に応じて戻ってきた送信波を受信波として受信するタイミングである。図7に示される例では、説明の便宜上、実線L710で示される第1のエンベロープ波形の時系列と、実線L720で示される第2のエンベロープ波形の時系列と、が互いに逆になっている。
【0085】
図7に示されるように、実線L710で示される第1のエンベロープ波形と、実線L720で示される第2のエンベロープ波形とは、タイミングt700とタイミングt701との間の所定区間T内での時系列を逆にすると、実質的に同じタイミングτで、検出対象の物体での反射を示す大きなピーク(二点鎖線で囲まれた部分P712およびP721参照)を迎える。
【0086】
一方、検出対象外の物体での反射に起因するクラッタは、一般にランダムな位相変化を示すので、クラッタに対応した複数のピーク(一点鎖線で囲まれた部分P711およびP722参照)は、概略的には同じ期間内に表れるものの、詳細に比較すると、各ピークのタイミングは互いに異なる。
【0087】
したがって、図7に示される例において、実施形態の技術は、伝播距離が実質的に等しい伝播経路のペアに沿って送受信される2つの波動の対応関係に着目し、第1の波動の所定区間Tにおける実線L710で示される第1のエンベロープ波形が有する第1のピークと、第2の波動の所定区間Tにおける実線L720で示される第2のエンベロープ波形が有する第2のピークと、の対応関係に基づいて、クラッタの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報を検出する。
【0088】
すなわち、図7に示される例において、実施形態の技術は、実線L710で示される第1のエンベロープ波形と実線L720で示される第2のエンベロープ波形とのピークの対応関係に着目し、時系列を逆にした場合に実質的に同じタイミングで表れるピーク(二点鎖線で囲まれた部分P712およびP721参照)を、検出対象の物体での反射を示すピークであると特定し、その他のピーク(一点鎖線で囲まれた部分P711およびP722参照)を、検出対象外の物体での反射に起因するクラッタを示すピークであると特定する。
【0089】
なお、実施形態では、第1のピークと第2のピークとの比較の際に、誤差などによる所定のズレを許容することが望ましい。したがって、実施形態では、実線L710で示される第1のエンベロープ波形における所定区間Tの開始から第1のピークが表れるまでの区間長と、実線L720で示される第2のエンベロープ波形における第2のピークが表れてから所定区間Tの終了までの区間長と、の差がΔτで示される所定の範囲内である場合に、第1のピークと第2のピークとが対応していると判定される。
【0090】
また、実施形態では、検出対象の物体での反射を示すピークでも検出対象外の物体での反射に起因するクラッタを示すピークでも無い明らかなノイズを低減することが望ましい。したがって、実施形態では、第1のエンベロープ波形および第2のエンベロープ波形のうち信号レベルが所定の閾値Th700以上となっている1以上のピークを、第1のピークおよび第2のピークとして特定する。なお、所定の閾値Th700は、たとえば様々なノイズの信号レベルの平均値Eおよび標準偏差σなどに基づいて決定される。
【0091】
上記を踏まえて、図4に戻り、識別部424は、送信元の識別の結果に応じて、フィルタ処理部423からの出力を、信号処理系統425A、425B、および425Cに分配して出力する。これにより、信号処理系統425A、425B、および425Cには、たとえば送信元がそれぞれ別の信号が入力される。
【0092】
信号処理系統425A、425B、および425Cは、それぞれ、フィルタ処理部426A、426B、および426Cと、相関処理部427A、427B、および427Cと、包絡線処理部428A、428B、および428Cと、閾値処理部429A、429B、および429Cと、検出部430A、430B、および430Cと、を備えている。
【0093】
なお、以下では、互いに区別する必要が無い場合、信号処理系統425A、425B、および425Cを単に信号処理系統425と記載し、フィルタ処理部426A、426B、および426Cを単にフィルタ処理部426と記載し、相関処理部427A、427B、および427Cを単に相関処理部427と記載し、包絡線処理部428A、428B、および428Cを単に包絡線処理部428と記載し、閾値処理部429A、429B、および429Cを単に閾値処理部429と記載し、検出部430A、430B、および430Cを単に検出部430と記載することがある。
【0094】
フィルタ処理部426は、たとえば次の相関処理部427による相関処理をより正確に実行するために、識別部424から入力される信号の周波数を、対応する送信部401、403、および405から取得される送信信号の周波数と整合をとるように補正する。
【0095】
そして、相関処理部427は、対応する送信部401、403、および405から取得される送信信号と、フィルタ処理部426によるフィルタリング処理を経た信号と、に基づいて、送信波と受信波との識別情報の類似度に対応した相関値を取得する。相関値は、一般的によく知られた相関関数などに基づいて算出される。
【0096】
そして、包絡線処理部428は、相関処理部427により取得された相関値のエンベロープ波形を求める。
【0097】
なお、図7に示される例は、受信波の信号レベルのエンベロープ波形の例であるので、包絡線処理部428により求められる相関値のエンベロープ波形は、厳密に言えば、図7に示される例とは異なっている。しかしながら、受信波の信号レベルと相関値とは互いに関連しているので、相関値のエンベロープ波形を用いても、図7に示される例と同様の発想でノイズの除去およびピークの比較を行えば、クラッタの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報を精度良く検出することができる。
【0098】
すなわち、閾値処理部429は、相関値のエンベロープ波形から、検出対象の物体での反射を示すピークでも検出対象外の物体での反射に起因するクラッタを示すピークでも無い、図7に示される閾値Th700に対応した所定の閾値未満の区間を排除する。
【0099】
そして、検出部430は、閾値処理部429からの出力と比較すべき情報を他の物体検出装置200から取得し、ピークの比較を実行する。
【0100】
たとえば、図5に示される例において、物体検出装置501の検出部430は、物体検出装置502の閾値処理部429からの出力を第1のエンベロープ波形として取得し、当該第1のエンベロープ波形と、物体検出装置501の閾値処理部429からの出力としての第2のエンベロープ波形と、を用いて、時系列を逆にした場合にタイミングが実質的に一致する第1のピークおよび第2のピークを、検出対象の物体での反射を示すピークとして特定する。そして、物体検出装置501の検出部と、物体検出装置502の検出部430とは、第1のピークおよび第2のピークのうち少なくとも一方に基づいて、TOF法により、検出対象の物体までの距離を検出する。なお、図7に示される例においても同様である。
【0101】
このように、実施形態において、検出部430は、伝播距離が実質的に等しい伝播経路を構成する2つの物体検出装置200に着目し、識別部424による識別結果に基づいて特定される、他方の物体検出装置200により送信されて一方の物体検出装置200により受信された第1の波動と、一方の物体検出装置200により送信されて他方の物体検出装置200により受信された第2の波動と、の対応関係に基づいて、クラッタの影響を回避しながら、物体に関する情報を検出する。
【0102】
なお、実施形態において、物体検出装置200における上述した各構成は、物体検出装置200自身の制御部220の制御のもとで動作してもよいし、外部のECU100の制御のもとで動作してもよい。
【0103】
以下、実施形態において実行される処理の流れについて説明する。
【0104】
図8は、実施形態にかかる物体検出装置200が物体に関する情報を検出するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0105】
図8に示されるように、実施形態では、まず、S801において、送波器411、431、および451は、符号生成部412、搬送波出力部413、乗算器414、および増幅回路415により生成される送信信号に応じた送信波を車両1の外に向けて実質的に同時に送信する。
【0106】
そして、S802において、受波器421、441、および461は、車両1の外に存在する物体で反射された結果として車両1側に戻ってくる送信波としての受信波を受信する。受信波は、増幅回路422およびフィルタ処理部423による処理を経て識別部424に入力される。
【0107】
そして、S803において、識別部424は、S802において受信された受信波に含まれる複数の波動の各々の送信元を識別する識別処理を実行する。そして、識別部424は、識別処理の結果に応じて、フィルタ処理部423からの出力を、複数の信号処理系統425に分配して出力する。そして、識別部424からの出力は、信号処理系統425のフィルタ処理部426による処理を経て相関処理部427に入力される。
【0108】
そして、S804において、相関処理部427は、対応する送信部401、403、および405から取得される送信信号と、対応するフィルタ処理部426からの出力と、に基づいて、識別情報の類似度に対応した相関値を取得する。
【0109】
そして、S805において、包絡線処理部428は、S804で取得された相関値のエンベロープ波形を取得する。
【0110】
そして、S806において、閾値処理部429は、S805で取得されたエンベロープ波形から、検出対象の物体での反射を示すピークでも検出対象外の物体での反射に起因するクラッタを示すピークでも無いノイズに対応した所定の閾値未満の区間を排除する閾値処理を実行する。
【0111】
そして、S807において、検出部430は、自身が設けられた物体検出装置200との間で伝播距離が等しい伝播経路を構成する他の物体検出装置200の閾値処理部429からの出力を第1のエンベロープ波形として取得し、当該第1のエンベロープが有する第1のピークと、S806の閾値処理を経たエンベロープ波形である第2のエンベロープ波形が有する第2のピークと、の対応関係を特定する。
【0112】
そして、S808において、検出部430は、S807で特定された対応関係に基づいて、時系列を逆にした場合にタイミングが実質的に一致する(ただし所定の範囲内の誤差は許容される)第1のピークおよび第2のピークを、検出対象の物体での反射を示すピークとして特定し、当該第1のピークおよび第2のピークのうち少なくとも一方に基づいて、TOF法により、検出対象の物体までの距離を検出する。そして、処理が終了する。
【0113】
以上説明したように、実施形態にかかる複数の物体検出装置200のうちの1つは、送信部401、受信部402と、識別部424と、検出部430と、を備えている。送信部401は、他の物体検出装置200が有する他の送信部403および405と実質的に同時に送信波を送信する。受信部402は、送信部401により送信された送信波と他の送信部403および405により送信された他の送信波とが物体での反射に応じて戻ってきた結果に対応した複数の波動を含む受信波を受信する。識別部424は、受信波に含まれる複数の波動の送信元を識別する。検出部430は、識別部424および他の物体検出装置200が有する他の識別部424の識別結果に基づいて特定される、他の物体検出装置200が有する他の送信部403および405により送信されて受信部402により受信された第1の波動を示す第1の波形が有する第1のピークと、送信部401により送信されて他の物体検出装置200が有する他の受信部404および406により受信された第2の波動を示す第2の波形が有する第2のピークと、の対応関係に基づいて、物体に関する情報を検出する。
【0114】
上述した物体検出装置200によれば、伝播距離が実質的に等しい伝播経路に沿って伝播する2種類の波動を示す2種類の波形には、クラッタに対応したピークがランダムに表れる一方、検出対象の物体での反射に対応したピークは、2種類の波形の時系列を逆にしたときに実質的に同じタイミングで表れることになる(たとえば図7参照)。したがって、第1のピークと第2のピークとの対応関係によれば、クラッタの影響を回避しながら、検出対象の物体に関する情報をより精度良く検出することができる。
【0115】
より具体的に、実施形態において、検出部430は、上記の第1の波動の信号レベルの所定区間における第1のエンベロープ波形としての第1の波形が有する第1のピークと、上記の第2の波動の信号レベルの所定区間における第2のエンベロープ波形としての第2の波形が有する第2のピークと、の対応関係に基づいて、物体に関する情報を検出する。このような構成によれば、エンベロープ波形のピーク同士の対応関係を考慮して、検出対象の物体に関する情報をより精度良くかつ容易に検出することができる。
【0116】
この場合において、検出部430は、第1のエンベロープ波形における所定区間の開始から第1のピークが表れるまでの区間長と、第2のエンベロープ波形における第2のピークが表れてから所定区間の終了までの区間長と、の差が所定の範囲内である第1のピークおよび第2のピークのうち少なくとも一方に基づいて、物体に関する情報を検出する。たとえば、図7に示される例では、二点鎖線で囲まれた部分P712およびP721にあるピークが、実線L910で示される第1のエンベロープ波形における所定区間Tの開始に対応したタイミングt700からの区間長と、実線L920で示される第2のエンベロープ波形において所定区間Tの終了に対応したタイミング702までの区間長と、の差がΔτで示される所定の範囲内となっている。したがって、図7に示される例では、二点鎖線で囲まれた部分P712およびP721にあるピーク(のうち少なくとも一方)に基づいて、物体に関する情報が検出される。このような構成によれば、所定の範囲内の誤差を考慮して、検出対象の物体での反射を示すピークを適切に特定することができる。
【0117】
また、この場合において、検出部430は、第1のエンベロープ波形および第2のエンベロープ波形における信号レベルがノイズに対応した所定の閾値(図7に示される閾値Th700参照)以上となっているピークを、第1のピークおよび第2のピークとして特定する。このような構成によれば、ノイズの影響を排除した上で、条件を満たすピークを容易に特定することができる。
【0118】
なお、実施形態において、送信部401は、送信波を、物体検出装置200を識別するための識別情報を含むように所定の変調方式で変調した上で送信する。そして、識別部424は、受信波を当該所定の変調方式に対応した復調方式で復調した結果に基づいて、受信波に含まれる複数の波動の送信元を識別する。このような構成によれば、受信波に含まれる複数の波動の送信元の識別を容易に行うことができる。
【0119】
また、実施形態において、物体検出装置200は、物体に関する情報として路面RS上のオブジェクトOまでの距離を検出する車載ソナーとして構成される。このような構成によれば、クラッタの影響を回避しながら路面RS上のオブジェクトOまでの距離をより精度良く検出することが望まれる車載ソナーに本開示の技術を適用することができる。
【0120】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、本開示の技術が、超音波の送受信によって物体に関する情報を検知する構成に適用されているが、本開示の技術は、超音波以外の波動としての、音波やミリ波、電磁波などの送受信によって物体に関する情報を検知する構成にも適用することが可能である。
【0121】
また、上述した実施形態では、物体に関する情報として物体までの距離を検出する構成が例示されているが、本開示の技術は、物体に関する情報として、物体の有無のみを検出する構成にも適用可能である。
【0122】
また、上述した実施形態では、物体に関する情報(物体までの距離)を検出する検出部が複数の物体検出装置の各々に設けられた構成が例示されているが、本開示の技術は、次の図9に示されるような、物体に関する情報を検出する検出部が物体検出装置外に設けられた構成にも適用可能である。
【0123】
図9は、実施形態の変形例にかかる物体検出システムの構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0124】
図9に示されるように、変形例にかかる物体検出システムは、送信側の構成として、複数(一例として3つ)の送信部901、903、および905を備えているとともに、受信側の構成として、複数(一例として3つ)の受信部902、904、および906を有している。この変形例では、上述した実施形態(図4参照)と同様、たとえば、送信部901と受信部902との組み合わせと、送信部903と受信部904との組み合わせと、送信部905と受信部906との組み合わせとが、それぞれ1つの物体検出装置を構成する。
【0125】
図9に示される変形例において、送信部901は、送波器911と、符号生成部912と、搬送波出力部913と、乗算器914と、増幅回路915と、を備えている。これらの構成は、上述した実施形態(図4参照)における対応する構成と実質的に同様である。
【0126】
なお、図9では、送波器931および951以外の図示がスペースの都合で省略されているが、送信部903および905は、送波器931および951以外にも、送信部901と同様の構成を備えている。
【0127】
一方、図9に示される変形例において、受信部902は、受波器921と、増幅回路922と、フィルタ処理部923と、識別部924と、複数(一例として3つ)の信号処理系統425A、425B、および425Cを有している。これらの構成は、上述した実施形態(図4参照)における対応する構成とおおむね同様である。
【0128】
ただし、図9に示される変形例において、信号処理系統425A、425B、および425Cは、それぞれ、それぞれ、フィルタ処理部426A、426B、および426Cと、相関処理部427A、427B、および427Cと、包絡線処理部428A、428B、および428Cと、閾値処理部429A、429B、および429Cと、のみを備えている。すなわち、変形例において、信号処理系統425A、425B、および425Cは、上述した実施形態(図4参照)にかかる検出部430A、430B、および430Cに対応する構成を有しない。
【0129】
したがって、図9に示される変形例では、上述した実施形態にかかる検出部430A、430B、および430Cに対応する検出部909が、受信部902、904、および906の外部に設けられる。すなわち、変形例において、検出部909は、物体検出装置ではなく、上述した実施形態(図2参照)にかかるECU100のような、物体検出装置に接続された情報処理装置によって実現される。このような構成によれば、クラッタの影響を回避しながら検出対象の物体に関する情報を精度良く検出することを、情報処理装置によって統括的に実行することができる。
【0130】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0131】
200、201、202、203、204 物体検出装置
401、403、405、901、903、905 送信部
402、404、406、902、904、906 受信部
424、924 識別部
430A、430B、430C、909 検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9