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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】車両の整流装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 35/00 20060101AFI20240319BHJP
   B62D 37/02 20060101ALI20240319BHJP
   B60J 7/22 20060101ALI20240319BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B62D35/00 Z
B62D37/02 Z
B60J7/22
B62D25/20 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020084392
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021178557
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】森川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】中田 章博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲
(72)【発明者】
【氏名】河津 裕也
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-080581(JP,U)
【文献】特開2016-078765(JP,A)
【文献】特開2020-011567(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016005060(DE,A1)
【文献】特開2008-179217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 35/00
B62D 37/02
B60J 7/22
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア面に設けられ、前記フロア面の下方の車両前後方向の空気の流れを整流する整流装置であって、
前記フロア面に形成された開空間の車両前方側における前記フロア面の少なくとも一部を覆うカバー部材と、
前記カバー部材における車両後方側の部分に設けられた少なくとも1つの整流部と
を備え、
前記整流部は、
車両後方に向かうにつれて前記カバー部材の表面に対して車両上方に傾斜して延びる傾斜面と、
前記傾斜面から前記カバー部材の前記表面に向かって車両上下方向に延びる整流面と
を有し、
前記整流面は、前記整流面と前記傾斜面との境界となる第1の辺と、前記整流面と前記カバー部材の前記表面との境界となる第2の辺とを有し、
前記第1の辺の延在方向は、車両前後方向を基準として車幅方向内側または外側に指向し、
前記整流面は、前記第2の辺において前記整流面と前記カバー部材の前記表面との間で90度未満の傾斜角度になるように、前記カバー部材の前記表面に対して車幅方向内側または外側に傾倒するように延びている、
車両の整流装置。
【請求項2】
前記第2の辺は、下面視で前記開空間に向かって前記車両前後方向に延びる、
請求項1に記載の車両の整流装置。
【請求項3】
前記整流部は、前記カバー部材に複数設けられ、前記複数の整流部は、前記車両の車幅方向中心位置を挟んで左右両側に配置され、
複数の前記整流部は、前記車幅方向中心位置で前記第1の辺の延在方向および前記整流面の前記カバー部材に対する傾倒方向が左右対称となるように配置されている、
請求項1または2に記載の車両の整流装置。
【請求項4】
前記車両の下面視において、前記第1の辺の前記車両前後方向に対する傾斜角度は、0度より大きく30度以下に設定されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の整流装置。
【請求項5】
車両のフロア面に設けられ、前記フロア面の下方の車両前後方向の空気の流れを整流する整流装置であって、
前記フロア面に形成された開空間の車両前方側における前記フロア面の少なくとも一部を覆うカバー部材と、
前記カバー部材における車両後方側の部分に設けられた少なくとも1つの整流部と
を備え、
前記整流部は、
車両後方に向かうにつれて前記カバー部材の表面に対して車両上方に傾斜して延びる傾斜面と、
前記傾斜面から前記カバー部材の前記表面に向かって車両上下方向に延びる整流面と
を有し、
前記整流面は、前記整流面と前記傾斜面との境界となる第1の辺と、前記整流面と前記カバー部材の前記表面との境界となる第2の辺とを有し、
前記第1の辺の延在方向は、車両前後方向を基準として車幅方向内側または外側に指向し、
前記整流面は、底面視において前記カバー部材の前記表面に隠れる方向になるように、当該表面に対して車幅方向内側または外側に傾倒するように延びている、
車両の整流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の外装表面や床下のフロア面に設けられた整流フィンを用いて車両周囲の空気の流れを整流することにより、空気抵抗を改善する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の整流装置は、タイヤの車幅方向外側への空気流れを抑制するために、車両床下のタイヤ前方に設けられた複数の整流フィンを有している。各整流フィンの後部は、車両前後方向に延びており、空気流れをタイヤに向かうように車両後方へ水平に案内する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-179217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように、空気流れをタイヤに向かうように車両後方に水平に案内する整流フィンを設けた整流装置を用いても、車両の床下に開口する大きな開空間への空気の流れ込みを防ぐことは難しい。とくに、差動装置や排気ユニットなどが収容される大きな開空間は、開口が斜め後方に傾斜しているので、空気の流れ込みを防ぐことはより難しい。そのため、開空間への空気の流入に起因して空気抵抗が増大し、燃費性能を低下させる要因の一つになっている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、開口が斜め後方に傾斜する開空間においても開空間への空気の流入に起因する空気抵抗を抑止することが可能な車両の整流装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る車両の整流装置は、車両のフロア面に設けられ、前記フロア面の下方の車両前後方向の空気の流れを整流する整流装置であって、前記フロア面に形成された開空間の車両前方側における前記フロア面の少なくとも一部を覆うカバー部材と、前記カバー部材における車両後方側の部分に設けられた少なくとも1つの整流部とを備え、前記整流部は、車両後方に向かうにつれて前記カバー部材の表面に対して車両上方に傾斜して延びる傾斜面と、前記傾斜面から前記カバー部材の前記表面に向かって車両上下方向に延びる整流面とを有し、前記整流面は、前記整流面と前記傾斜面との境界となる第1の辺と、前記整流面と前記カバー部材の前記表面との境界となる第2の辺とを有し、前記第1の辺の延在方向は、車両前後方向を基準として車幅方向内側または外側に指向し、前記整流面は、前記第2の辺において前記整流面と前記カバー部材の前記表面との間で90度未満の傾斜角度になるように、前記カバー部材の前記表面に対して車幅方向内側または外側に傾倒するように延びていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、車両走行時においてフロア面の下方でカバー部材の表面に沿って車両後方に流れる空気の一部が当該表面から開空間の内部へ向かって斜め後上方に傾斜する傾斜面に向かう際に、整流面とカバー部材の表面との境界となる整流面の第2の辺を乗り越える際に渦を発生させるとともに整流面によって渦を細長く連続するように整流することによって、車両の斜め後上方に向かう細長い渦を形成することが可能になる。この車両の斜め後上方に向かう渦が周囲の空気を車両前後方向に開空間の斜め後上方に傾斜する開口を縦断するように導くことによって、カバー部材の車両後方側において開空間に空気が流れ込むことを防止することが可能である。その結果、開口が斜め後上方に傾斜する開空間においても開空間への空気の流入に起因する空気抵抗を抑止することが可能になる。
【0009】
上記の車両の整流装置において、前記第2の辺は、下面視で前記開空間に向かって前記車両前後方向に延びるのが好ましい。
【0010】
かかる構成では、空気が整流面とカバー部材の表面との境界となる整流面の第2の辺を乗り越える際に発生する渦が車両前後方向に向かうようになり、車両前方から流れる空気を渦とともに開空間に向かって車両前後方向に直線的に流すことが可能になる。その結果、開空間への空気の流入に起因する空気抵抗の抑止効果をさらに向上することが可能になる。
【0011】
上記の車両の整流装置において、前記整流部は、前記カバー部材に複数設けられ、前記複数の整流部は、前記車両の車幅方向中心位置を挟んで左右両側に配置され、複数の前記整流部は、前記車幅方向中心位置で前記第1の辺の延在方向および前記整流面の前記カバー部材に対する傾倒方向が左右対称となるように配置されているのが好ましい。
【0012】
かかる構成では、車両のフロア面の下方で車幅方向中心位置の左側と右側で異なる向きの空気の流れに対して、車幅方向中心位置で第1の辺の延在方向および整流面のカバー部材に対する傾倒方向が左右対称となるように配置された複数の整流面によりそれぞれ渦を発生させてそれぞれの渦の強さを左右均等に調整して、弱い渦の箇所を無くすことが可能である。その結果、開空間への空気の流れ込みを確実に防ぐことが可能になり、開空間への空気の流入に起因する空気抵抗の抑止効果をさらに向上することが可能になる。
【0013】
上記の車両の整流装置において、前記車両の下面視において、前記第1の辺の前記車両前後方向に対する傾斜角度は、0度より大きく30度以下に設定されているのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、整流面により安定した高速の渦を発生させながら、当該渦の流速を維持することが可能である。
【0015】
本発明の請求項5に係る車両の整流装置は、車両のフロア面に設けられ、前記フロア面の下方の車両前後方向の空気の流れを整流する整流装置であって、前記フロア面に形成された開空間の車両前方側における前記フロア面の少なくとも一部を覆うカバー部材と、 前記カバー部材における車両後方側の部分に設けられた少なくとも1つの整流部とを備え、前記整流部は、車両後方に向かうにつれて前記カバー部材の表面に対して車両上方に傾斜して延びる傾斜面と、前記傾斜面から前記カバー部材の前記表面に向かって車両上下方向に延びる整流面とを有し、前記整流面は、前記整流面と前記傾斜面との境界となる第1の辺と、前記整流面と前記カバー部材の前記表面との境界となる第2の辺とを有し、前記第1の辺の延在方向は、車両前後方向を基準として車幅方向内側または外側に指向し、 前記整流面は、底面視において前記カバー部材の前記表面に隠れる方向になるように、当該表面に対して車幅方向内側または外側に傾倒するように延びていることを特徴とする。
かかる構成によれば、車両走行時においてフロア面の下方でカバー部材の表面に沿って車両後方に流れる空気の一部が当該表面から開空間の内部へ向かって斜め後上方に傾斜する傾斜面に向かう際に、整流面とカバー部材の表面との境界となる整流面の第2の辺を乗り越える際に渦を発生させるとともに整流面によって渦を細長く連続するように整流することによって、車両の斜め後上方に向かう細長い渦を形成することが可能になる。この車両の斜め後上方に向かう渦が周囲の空気を車両前後方向に開空間の斜め後上方に傾斜する開口を縦断するように導くことによって、カバー部材の車両後方側において開空間に空気が流れ込むことを防止することが可能である。その結果、開口が斜め後上方に傾斜する開空間においても開空間への空気の流入に起因する空気抵抗を抑止することが可能になる。
参考例に係る車両の整流装置は、車両のルーフパネルに設けられ、前記ルーフパネルの後方の車両前後方向の空気の流れを整流する整流装置であって、前記ルーフパネルの後端に設けられた外装部材と、前記外装部材の後端部に設けられた少なくとも1つの整流部とを備え、前記整流部は、車両後方に向かうにつれて前記外装部材の表面に対して車両下方に傾斜して延びる傾斜面と、前記傾斜面から前記外装部材の前記表面に向かって車両上下方向に延びる整流面とを有し、前記整流面は、前記整流面と前記傾斜面との境界となる第1の辺と、前記整流面と前記外装部材の前記表面との境界となる第2の辺とを有し、前記第1の辺の延在方向は、車両前後方向を基準として車幅方向内側または外側に指向し、前記整流面は、前記外装部材の前記表面に対して車幅方向内側または外側に傾倒するように延びていることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、車両走行時においてループパネルの後方で外装部材の表面に沿って車両後方に流れる空気の一部が当該表面からルーフパネル後方の開空間の内部へ向かって斜め後下方に傾斜する傾斜面に向かう際に、整流面と外装部材の表面との境界となる整流面の第2の辺を乗り越える際に渦を発生させるとともに整流面によって渦を細長く連続するように整流することによって、車両の斜め後下方に向かう細長い渦を形成することが可能になる。この車両の斜め後下方に向かう渦が周囲の空気を車両前後方向に開空間の斜め後下方に傾斜する開口を縦断するように導くことによって、ルーフパネルの車両後方側において開空間に空気が流れ込むことを防止することが可能である。その結果、開口が斜め後下方に傾斜する開空間においても開空間への空気の流入に起因する空気抵抗を抑止することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両の整流装置によれば、開口が斜め後方に傾斜する開空間においても開空間に空気が流れ込むことを防止することができ、その結果、開空間への空気の流入に起因する空気抵抗を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る車両の整流装置が車両床面の差動装置および排気ユニットを収容した開空間の前方に取り付けられた構成を示す斜視図である。
図2図1の開空間の開口が斜め後上方に傾斜し、整流装置によって発生する渦が開口に沿って延びている状態を断面説明図である。
図3図1の整流装置の整流部および当該整流部によって発生する細長い渦を模式的に示す斜視説明図である。
図4図3の整流部を車両斜め後方から見た図であって、傾斜面のピッチ角、整流面の第1の辺のヨー角、および整流面のロール角を説明するための斜視説明図である。
図5図4の整流部を車両後方から見た図である。
図6図4の整流部を車両下方から見た図である。
図7図1の整流部によって発生する細長い渦によって、開口が斜め後方へ傾斜した開空間への空気の流れ込みを防止するメカニズムを説明するための模式的な断面説明図である。
図8図1の複数の整流部が車両の車幅方向中心位置で左右対称に設けられていることを示す車両下側から見た図である。
図9】本発明の変形例に係る車両の整流装置がルーフパネルの後端に設けられた車両の側面図である。
図10】比較例として、開空間への空気の流れ込みを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0020】
図1~2に示される車両1の整流装置2は、車両1の外面として車両1の下側のフロア面30おける車両1外方に開いた差動装置4や排気ユニット5が収容された開空間3の車両前方側X2に配置されている。開空間3は、斜め後上方に傾斜する開口3aを有する。具体的には、開口3aは、車両後方X1へ向かうにつれて上方Z1へ向かう方向へ傾斜する。
【0021】
整流装置2は、具体的には、フロア面30に形成された開空間3の車両前方側X2におけるフロア面30の少なくとも一部を覆うカバー部材6と、カバー部材6における車両後方側X1の部分に設けられた少なくとも1つ(図1では5つ)の整流部7とを備える。図1に示される複数の整流部7は、車幅方向Yに互いに離間して等間隔に配置されている。カバー部材6および複数の整流部7は、樹脂によって一体形成される。
【0022】
カバー部材6の車両後方側X1の端部6bは、開空間3の開口3aの車両前方側X2の縁に一致する位置に配置されている。これにより、カバー部材6は、フロア面30における開空間3に対して車両前方側X2の部分を覆うことが可能である。
【0023】
整流部7は、図1~8に示されるように、カバー部材6における最も車両後方側X1の端部6bの位置、すなわち、整流部7が開空間3の開口3aに連続する位置に設けられている。
【0024】
整流部7は、具体的には、図3~6に示されるように、斜辺である傾斜面8と、傾斜面8からカバー部材6の表面6aに向かって車両1の上下方向Zに延びる整流面9とを有する。
【0025】
本実施形態では、整流部7は、四角錘形状の凹部12の形状を有しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、傾斜面8と整流面9を有する形状であればよい。すなわち、凹部12は、傾斜面8と、整流面9と、整流面9と対向する対向面13とによって、台形底面(図5参照)を有する四角錘形状の空間になるように形成されている。
【0026】
傾斜面8は、車両後方X1に向かうにつれてカバー部材の表面6aに対して車両上方Z1に傾斜して開空間3の開口3aの縁に連続するようにカバー部材6の車両後方側X1の端部6bまで延びる。すなわち、図3~4に示されるように、傾斜面8は、カバー部材6の表面6aに対して傾斜角度(ピッチ角)θ1で傾斜している。
【0027】
整流面9は、整流面9と傾斜面8との境界となる第1の辺10と、整流面9とカバー部材6の表面6aとの境界となる第2の辺11とを有する。
【0028】
第1の辺10の延在方向は、車両前後方向Xを基準として車幅方向Yの内側(すなわち、車幅方向Yの中心位置を向く側)または外側に指向している。具体的には、図4および図6に示されるように、車両前後方向Xに延びて整流部7の四角錘形状の凹部12の頂点14を通る直線Lを基準に考えた場合、第1の辺10が直線Lに対して車幅方向Yの内側または外側に傾斜している状態、すなわち、第1の辺10が直線L(具体的には、直線Lの下方の傾斜面8の辺15)に対して所定の傾斜角度(ヨー角)θ2で傾斜している状態になっている。
【0029】
また、整流面9は、図5に示されるように、第2の辺11において整流面9とカバー部材6の表面6aとの間で90度未満の傾斜角度(ロール角)θ3になるように、いいかえれば、図5において底面視(上方向Z1を見た場合)において整流面9がカバー部材6の表面6aに隠れる方向になるように、カバー部材6の表面6aに対して車幅方向Yの内側または外側に傾倒するように延びている。具体的には、図4~5に示されるように、整流面9は、第2の辺11を回転軸として、カバー部材6の表面6aに対して車幅方向Yの内側または外側に傾斜するように延びている状態、すなわち、整流面9が表面6aに対して90度未満の所定の傾斜角度(ロール角)θ3で傾倒している状態になっている。
【0030】
車両走行時において、車両後方X1へ向かう空気流れF(図3参照)は、カバー部材6の表面6aに沿って流れる。この空気流れFの一部が凹部12に入って斜め後上方(具体的には、車両後方X1かつ上方Z1)に傾斜する傾斜面8に向かう際に、第2の辺11を乗り越える際に渦を発生させるとともに整流面9によって渦を細長く連続するように整流することによって、図1~3および図7に示される車両の斜め後上方X1+Z1に向かう細長い渦Sを形成することが可能である。この車両の斜め後上方X1+Z1に向かう渦Sは、周囲の空気を斜め後上方X1+Z1に傾斜する開空間3の開口3aを縦断するように導くことにより、開空間3への空気の流れ込みを防ぐ。
【0031】
とくに、図1に示されるように、複数の整流部7によって形成される複数の細長い渦Sが開空間3の全体を覆うように延びることにより、開空間3への空気の流れ込みを確実に防ぐことが可能になる。
【0032】
ここで、図3~4に示される傾斜面8におけるカバー部材6の表面6aに対する傾斜角度(ピッチ角)θ1は、0度より大きく60度以下であれば渦Sを発生することが可能であるが、30度前後の角度であれば安定して高速の渦を発生することが可能である。
【0033】
また、図4および図6に示される第1の辺10における直線L(具体的には、直線Lの下方の傾斜面8の辺15)に対する傾斜角度(ヨー角)θ2は、0度より大きく60度以下であれば渦Sを発生することが可能であるが、30度前後の角度であれば、安定して高速の渦Sを発生することが可能である。
【0034】
図4~5に示される整流面9における表面6aに対する傾斜角度(ロール角)θ3は、0度より大きく30度以下であれば渦Sを発生することが可能であるが、15度前後の角度であれば、安定して高速の渦Sを発生することが可能である。
【0035】
図3に示される整流面9の高さh(すなわち、カバー部材6の後方端部6bにおける傾斜面8と表面6aとの距離)は、開空間3の開口3aの少なくとも一部(好ましくは全部)を縦断可能な細長い渦Sを形成可能な高さであればよく、例えば、2~8mm程度に設定される。
【0036】
図3~6に示される第2の辺11は、車両下側Z2から見た下面視では、図2に示される開空間3(とくに、その開口3a参照)に向かって車両前後方向Xに延びるように設定されている場合には、図5に示されるように空気流れFが第2の辺11を乗り越える際に発生する渦Sが車両前後方向Xに向かうようになるので好ましい。
【0037】
例えば、第2の辺11が直線Lに対する傾斜角度(ヨー角)θ2が30度、整流面9の表面6aに対する傾斜角度(ロール角)θ3が15度の場合には、第2の辺11を、下面視で開空間3に向かって車両前後方向Xに延びるように設定することが可能であり、その場合、細長く高速の渦Sを発生することが可能になる。
【0038】
複数の整流部7の配置は、図8に示されるように、車両前方X2から流れる空気流れFが車幅方向Yの中心位置Cの左側と右側で異なる流れ(具体的には、車両1の左右に分かれる異なる向きの流れなど)を考慮に入れて設定されるのが好ましい。具体的には、整流部7は、カバー部材6に複数設けられ、複数の整流部7は、車両1の車幅方向Yの中心位置Cを挟んで左右両側に配置され、複数の整流部7は、車幅方向Yの中心位置Cで第1の辺10の延在方向および整流面9のカバー部材6に対する傾倒方向が左右対称となるように配置されているのが好ましい。このような整流部7の配置の例として、図8に示されるように、中心位置Cよりも左側に位置する整流部7の整流面9は、第1の辺10の延在方向および整流面9のカバー部材6に対する傾倒方向が車幅方向左側Y2を向くように傾斜し、一方、図8における中心位置Cよりも右側に位置する整流部7の整流面9は、第1の辺10の延在方向および整流面9のカバー部材6に対する傾倒方向が車幅方向右側Y1を向くように傾斜しているようにすればよい。この場合、複数の整流面9により発生させるそれぞれの渦Sの強さを左右均等に調整することが可能になる。または、フロア面30の下方で車幅方向Yの中心位置Cの左側と右側で異なる流量の空気の流れに対して、整流部7の数を中心位置Cの左側と右側で異なるように配置することによっても、複数の整流部7により発生させるそれぞれの渦Sの強さを左右均等に調整することが可能になる。
【0039】
なお、傾斜面8および整流面9を有する整流部7は、少なくとも1個あればよく、車両1の外面の開空間が小さい場合には1個の整流部7が形成する渦Sによって開空間への空気の流れ込みを防止することが可能である。
【0040】
なお、図3~6に示される整流部7における整流面9に対向する対向面13は、カバー部材6の表面6aに直交する方向、すなわち、下方向Zへ延びるように形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、対向面13はいかなる方向に延びていてもよい。また、本発明では対向面13が平面または曲面のいずれであってもよく、整流部7の配置によっては対向面13が無くてもよい。
【0041】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両1の整流装置2は、車両1の整流装置2は、車両1のフロア面30に設けられ、フロア面30の下方の車両前後方向Xの空気の流れを整流するように構成されている。
【0042】
具体的には、整流装置2は、フロア面30に形成された開空間3の車両前方側X2におけるフロア面30の少なくとも一部を覆うカバー部材6と、カバー部材6における車両後方側X1の部分に設けられた少なくとも1つの整流部7とを備える。整流部7は、車両後方X1に向かうにつれてカバー部材6の表面6aに対して車両上方Z1に傾斜して延びる傾斜面8と、傾斜面8からカバー部材6の表面6aに向かって車両1の上下方向Zに延びる整流面9とを有する。
【0043】
整流面9は、整流面9と傾斜面8との境界となる第1の辺10と、整流面9とカバー部材6の表面6aとの境界となる第2の辺11とを有する。第1の辺10の延在方向は、車両前後方向Xを基準として車幅方向Y内側または外側に指向する。整流面9は、図5に示されるように、第2の辺11において整流面9とカバー部材6の表面6aとの間で90度未満の傾斜角度(ロール角)θ3になるように、いいかえれば、図5において底面視(上方向Z1を見た場合)において整流面9がカバー部材6の表面6aに隠れる方向になるように、カバー部材6の表面6aに対して車幅方向Y内側または外側に傾倒するように延びている。
【0044】
上記実施形態の整流装置2の構成では、車両1の走行時においてフロア面30の下方でカバー部材6の表面6aに沿って車両後方X1に流れる空気Fの一部が当該表面6aから開空間3の内部へ向かって斜め後上方に傾斜する傾斜面8に向かう際に、整流面9とカバー部材6の表面6aとの境界となる整流面9の第2の辺11を乗り越える際に渦を発生させるとともに整流面9によって渦を細長く連続するように整流することによって、車両の斜め後上方に向かう細長い渦S(図1~3および図7参照)を形成することが可能になる。このような細長い渦Sは、高速回転で回転しているので、通常の空気流れと比較して高い直進性を有する。この車両斜め後上方X1+Z1に向かう高速回転する渦Sが周囲の空気を車両前後方向Xに開空間3の斜め後上方に傾斜する開口3a(図2および図7参照)を縦断するように導くことによって、カバー部材6の車両後方側X1において開空間3に空気が流れ込むことを防止することが可能である。その結果、開口3aが斜め後方に傾斜する開空間3においても開空間3への空気の流入に起因する空気抵抗の抑止が可能になる。
【0045】
なお、開口3aが斜め後方に傾斜せずに水平に延びている場合では、整流面9によって発生する細長い渦Sが開口3aに過度に入り込まないように、傾斜面8のカバー部材6の表面6aに対して傾斜角度(ピッチ角)θ1(図3~4参照)を小さく調整すれば、開空間3への空気の流れ込みを防止することが可能である。
【0046】
ここで、比較例として、上記実施形態の整流装置2が無い場合、すなわち、図10に示されるように、開空間3の車両前方X2にはフロア面30のみが有る場合を考える。この比較例の場合、車両走行時には、車両前方X2から流れる空気流れFの一部は、開空間3の内部に流れ込む空気流れF1となるので、空気抵抗が大きくなることが分かる。これを見れば、本実施形態の整流装置2が図7に示される渦Sを発生させて空気の流れ込みを防止して空気抵抗の抑止効果に寄与していることが理解される。
【0047】
(2)
本実施形態の車両1の整流装置2では、図3~4に示される第2の辺11は、下面視で(すなわち、車両1の下方向Z2から見て)開空間3に向かって車両前後方向Xに延びるのが好ましい。この場合、空気が整流面9とカバー部材6の表面6aとの境界となる整流面9の第2の辺11を乗り越える際に発生する渦Sが車両前後方向Xに向かうようになり、車両前方から流れる空気を渦Sとともに開空間3に向かって車両前後方向Xに直線的に流すことが可能になる。その結果、開空間3への空気の流入に起因する空気抵抗の抑止効果をさらに向上することが可能になる。
【0048】
(3)
本実施形態の車両1の整流装置2では、図8に示されるように、前記整流部は、前記カバー部材に複数設けられ、複数の整流部7は、車両1の車幅方向Yの中心位置Cを挟んで左右両側に配置され、複数の整流部7は、車両1の車幅方向Yの中心位置Cで第1の辺10の延在方向および整流面9のカバー部材6に対する傾倒方向が左右対称となるように配置されているのが好ましい。具体的には、図8の複数の整流部7の整流面9は、第1の辺10の延在方向および整流面9のカバー部材6に対する傾倒方向が左右対称の向き、すなわち、中心位置Cに対して反対を向く向きになっている。
【0049】
かかる構成では、車両1のフロア面30の下方で車幅方向Yの中心位置Cの左側と右側で異なる向きの空気流れFに対して、車幅方向Yの中心位置Cで第1の辺10の延在方向および整流面9のカバー部材6に対する傾倒方向が左右対称となるように配置された複数の整流面9によりそれぞれ渦Sを発生させてそれぞれの渦Sの強さを左右均等に調整して、弱い渦の箇所を無くすことが可能である。その結果、開空間3への空気の流れ込みを確実に防ぐことが可能になり、開空間3への空気の流入に起因する空気抵抗の抑止効果をさらに向上することが可能になる。
【0050】
(4)
本実施形態の車両1の整流装置2では、車両1の下面視において、整流部7の第1の辺10の車両前後方向Xに対する傾斜角度(ヨー角)θ2は、0度より大きく30度以下(とくに好ましくは30度前後)に設定されているのが好ましい。
【0051】
かかる構成では、整流部7により安定した高速の渦を発生させながら、当該渦の流速を維持することが可能である。
【0052】
参考例
(A)
本発明は、上記実施形態のように、整流装置2が車両1のフロア面30に形成される開空間3の車両前方側X2に配置されることに限定されているが、参考例として、図9に示されるように、車両1の上側においてルーフパネル20斜め後下方に開口が傾斜する開空間22を有する場合には、上記実施形態のように車両下側の開空間3の車両前方側X2に整流装置2を設置するだけでなく、車両上側の開空間22への空気の流れ込みを防止するために車両1の上側にも整流装置2を配置してもよい。
【0053】
すなわち、図9に示される変形例の整流装置2は、車両1のルーフパネル20に設けられ、ルーフパネル20の後方の車両前後方向Xの空気の流れを整流する整流装置であって、ルーフパネル20の後端に設けられたガーニッシュなどの外装部材21と、外装部材21の後端部に設けられた少なくとも1つの整流部7とを備える。整流部7は、上記の図3~6に示される構成と基本的に同じであるが、カバー部材6の下面に設けられる代わりに外装部材21の上面に設けられている点で図3~6に示される構成と異なる。すなわち、図9に示される整流部7は、図3~6に示される整流部7を上下反転して外装部材21の上面に設けられた構成であり、具体的には、整流部7は、車両後方X1に向かうにつれて外装部材21の表面に対して車両下方に傾斜して延びる傾斜面8(図3~6参照)と、傾斜面8から外装部材21の表面に向かって車両上下方向Zに延びる整流面9(図3~6参照)とを有し、整流面9は、整流面9と傾斜面8との境界となる第1の辺10と、整流面9と外装部材21の表面との境界となる第2の辺11とを有し、第1の辺10の延在方向は、車両前後方向Xを基準として車幅方向Yの内側または外側に指向し、整流面9は、外装部材21の表面に対して車幅方向Yの内側または外側に傾倒するように延びている。
【0054】
かかる構成によれば、車両走行時においてルーフパネル20の後方で外装部材21の表面に沿って車両後方X1に流れる空気の一部が当該表面からルーフパネル20の後方の開空間22の内部へ向かって斜め後下方に傾斜する傾斜面8に向かう際に、整流面9と外装部材21の表面との境界となる整流面9の第2の辺11を乗り越える際に渦Sを発生させるとともに整流面9によって渦Sを細長く連続するように整流することによって、車両1の斜め後下方に向かう細長い渦Sを形成することが可能になる。この車両1の斜め後下方に向かう渦Sが周囲の空気を車両前後方向Xに開空間22の斜め後下方に傾斜する開口を縦断するように導くことによって、ルーフパネル20の車両後方側X1において開空間22に空気が流れ込むことを防止することが可能である。その結果、開空間22への空気の流入に起因する空気抵抗の抑止が可能になる。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2 整流装置
3 開空間
6 カバー部材
7 整流部
8 傾斜面
9 整流面
10 第1の辺
11 第2の辺
20 ルーフパネル
21 外装部材
30 フロア面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10