(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】トレッド可変装置、空気入りタイヤ、及びグリップ力制御方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20240319BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20240319BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B60C19/00 G
B60C9/22 D
B60C11/00 F
(21)【出願番号】P 2020091509
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(72)【発明者】
【氏名】市本 大和
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112200(JP,A)
【文献】特開2013-023107(JP,A)
【文献】特開2006-335226(JP,A)
【文献】特開平03-005211(JP,A)
【文献】特開昭62-194905(JP,A)
【文献】特開2012-076590(JP,A)
【文献】特開2007-168711(JP,A)
【文献】特開2010-116091(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10352339(DE,A1)
【文献】韓国登録特許第1864546(KR,B1)
【文献】特開2008-094393(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110696557(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた方向に沿うように空気入りタイヤの内部に埋設され、通電によって収縮することにより前記空気入りタイヤのトレッド部を変形可能なコード状のアクチュエータと、
前記アクチュエータに電圧を供給して通電させる制御部と、を備え、
前記制御部は、予め定められた制御信号が入力された場合に前記制御信号に応じて前記アクチュエータの通電を制御する、トレッド可変装置。
【請求項2】
前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が平坦形状に形成されており、
前記アクチュエータは、前記トレッド部の幅方向の両端部それぞれに設けられ、前記空気入りタイヤの周方向に沿って少なくとも1周以上の長さを有する、請求項1に記載のトレッド可変装置。
【請求項3】
前記空気入りタイヤは、前記トレッド部の表面よりも径方向内側に配置されたベルト部と、前記ベルト部の幅方向の両端部それぞれを被覆し、前記周方向に沿って配設されたエッジバンド部と、を有し、
前記アクチュエータは、前記エッジバンド部を構成している、請求項2に記載のトレッド可変装置。
【請求項4】
前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が平坦形状に形成されており、
前記アクチュエータは、前記空気入りタイヤのショルダー部又はサイドウォール部に設けられ、前記空気入りタイヤの周方向に沿って少なくとも1周以上の長さを有する、請求項1に記載のトレッド可変装置。
【請求項5】
前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が平坦形状に形成されており、
前記アクチュエータは、前記トレッド部に設けられ、前記トレッド部の幅方向に沿って延びる複数の直線部を有し、前記複数の直線部が前記空気入りタイヤの周方向に所定間隔を隔てて配置されている、請求項1に記載のトレッド可変装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記制御信号が入力された場合に前記アクチュエータに電圧を供給する、請求項2から5のいずれかに記載のトレッド可変装置。
【請求項7】
前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が湾曲形状に形成されており、
前記アクチュエータは、前記トレッド部の幅方向の中央部に設けられ、前記空気入りタイヤの周方向に沿って少なくとも1周以上の長さを有し、
前記制御部は、前記アクチュエータに電圧を供給して通電させることにより前記中央部を径方向内側へ引き締めて前記トレッド部を平坦化させ、前記制御信号が入力された場合に電圧の供給を停止して元の湾曲形状に戻す、請求項1に記載のトレッド可変装置。
【請求項8】
前記制御信号は、前記空気入りタイヤが装着された車両に設けられた操作スイッチの操作時の入力信号である、請求項1から7のいずれかに記載のトレッド可変装置。
【請求項9】
前記制御信号は、前記空気入りタイヤが装着された車両の走行エリアにおける降雨を示す降雨信号である、請求項1から8のいずれかに記載のトレッド可変装置。
【請求項10】
前記制御信号は、
前記車両のブレーキが操作されたことを示すブレーキ信号、前記車両の速度が所定速度以上であることを示す速度信号のいずれか一つ又は両方を更に含む、請求項9に記載のトレッド可変装置。
【請求項11】
前記アクチュエータは、Ti-Ni系形状記憶合金を主成分とするコード状部材であり、通電による発熱によって収縮するものである、請求項1から10のいずれかに記載のトレッド可変装置。
【請求項12】
ゴム材料を主成分とする空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
予め定められた方向に沿うように前記トレッド部の接地面よりも径方向内側に埋設され、通電によって収縮することにより前記空気入りタイヤの前記トレッド部を変形可能なコード状のアクチュエータと、を備える空気入りタイヤ。
【請求項13】
ゴム材料を主成分とする空気入りタイヤのグリップ力を制御するグリップ力制御方法であって、
前記空気入りタイヤは、
予め定められた方向に沿うように前記空気入りタイヤの内部に埋設され、通電によって収縮することにより前記空気入りタイヤのトレッド部を変形可能なコード状のアクチュエータを備え、
予め定められた制御信号の入力を判定する入力判定ステップと、
入力された前記制御信号に基づいて前記アクチュエータに電圧を供給して通電させて、前記トレッド部を変形させることにより前記空気入りタイヤのグリップ力を制御する通電制御ステップと、
をプロセッサにより実行するグリップ力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に装着される空気入りタイヤにおいては、自動車の駆動、制動、及び旋回のいずれにおいても、トレッド部と路面とのグリップ力を維持することが重要である。従来、前記グリップ力を向上させることを目的とするグリップ力制御装置が知られている(特許文献1参照)。前記グリップ力制御装置は、タイヤに配置された導電体に電圧を印加することにより、導電体からトレッド部を経て路面に至る電路を形成し、その電路から路面に電流が流れることによって生じるジョンセンラーベック効果を利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のグリップ力制御装置は、タイヤ内のスチールコード(導電体)と道路下の大地を一対の電極とみなし、トレッド部及び道路表面の舗装部(コンクリートやアスファルトなど)を半導体とみなし、前記ジョンセンラーベック効果によってトレッド部及び舗装部と大地との間に生じる電気的引力(静電吸着力)を利用したものである。そのため、前掲した従来技術では、前記舗装部の有無や、前記舗装部の種類や厚みの違い、路面がドライかウエットかの違いなどによって走行路の路面の電気抵抗の状況が変化すると、トレッド部から路面に流れる電流値も変動し、安定したグリップ力を発揮することができない。また、トレッド部及び舗装部は本来は絶縁体であるため、前記スチールコードと道路下の大地(電極)との間に電流を流すためには高圧電源が必要であり、また、場合によっては高周波電流を流す必要があり、昇圧回路や高周波回路を別途設ける必要がある。また、自動車などの車両の静電気をタイヤから路面に放電するための導電スリットを備えたタイヤには、前記従来技術を適用することができない。
【0005】
本発明の目的は、空気入りタイヤのグリップ力を容易に調整することが可能なトレッド可変装置、空気入りタイヤ、及びグリップ力制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の一の局面に係るトレッド可変装置は、予め定められた方向に沿うように空気入りタイヤの内部に埋設され、通電によって収縮することにより前記空気入りタイヤのトレッド部を変形可能なコード状のアクチュエータと、前記アクチュエータに電圧を供給して通電させる制御部と、を備え、前記制御部は、予め定められた制御信号が入力された場合に前記制御信号に応じて前記アクチュエータの通電を制御するよう構成されている。
【0007】
このように構成されているため、制御部によって前記アクチュエータに電圧が供給されると、コード状の前記アクチュエータがその長手方向に収縮することによって、タイヤが周方向に引き締められる。これにより、タイヤのトレッド部の形状が変形するため、例えば、自動車の駆動、制動、及び旋回などの各動作状況や、路面のウエット状況などに応じたグリップ力を生じさせるように、トレッド部の形状を変更することが可能となる。
【0008】
(2) 本発明のトレッド可変装置において、前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が平坦形状に形成されている。この場合、前記アクチュエータは、前記トレッド部の幅方向の両端部それぞれに設けられ、前記空気入りタイヤの周方向に沿って少なくとも1周以上の長さを有する。
【0009】
この構成によれば、制御部によって前記アクチュエータに電圧が供給されると、前記アクチュエータが長手方向に収縮することにより前記両端部が周方向に引き締められ、これにより、トレッド部の両端部が電圧供給前に比べて更に湾曲した形状に変形して、前記両端部が路面に接地する接地領域が小さくなる。その結果、トレッド部における路面との接地面形状が、スクエア形状(略四角形状)からラウンド形状(略楕円形状)となる。路面がウエット状態である場合、トレッド部のグリップ力は、前記接地面形状がスクエア形状よりもラウンド形状のほうがアップすることが周知であることから、路面がウエット状態のときに前記制御部から前記アクチュエータに電圧を供給させることにより、ウエット路面におけるタイヤのグリップ力を向上させることができる。
【0010】
また、路面の状態に関わらず、自動車の旋回動作時においては、タイヤのショルダー部の形状がより湾曲した形状であるほうが前記接地面形状が大きくなり、つまり、接地面積が大きくなり、路面に対するグリップ力が高いことが周知である。このことから、自動車が旋回動作するときに前記制御部から前記アクチュエータに電圧を供給させることにより、旋回動作時におけるタイヤのグリップ力を向上させることができる。
【0011】
(3) 本発明のトレッド可変装置において、前記空気入りタイヤは、前記トレッド部の表面よりも径方向内側に配置されたベルト部と、前記ベルト部の幅方向の両端部それぞれを被覆し、前記周方向に沿って配設されたエッジバンド部と、を有する。この場合、前記アクチュエータは、前記エッジバンド部を構成している。
【0012】
この構成によれば、前記エッジバンド部が前記アクチュエータを兼ねるため、前記エッジバンド部に加えて前記アクチュエータを別途設ける必要がない。
【0013】
(4) 本発明のトレッド可変装置において、前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が平坦形状に形成されている。この場合、前記アクチュエータは、前記空気入りタイヤのショルダー部又はサイドウォール部に設けられ、前記空気入りタイヤの周方向に沿って少なくとも1周以上の長さを有する。
【0014】
このような構成であっても、制御部によって前記アクチュエータに電圧が供給されると、前記アクチュエータが長手方向に収縮し、ショルダー部又はサイドウォール部が周方向に引き締められる。ショルダー部又はサイドウォール部の引き締めにより、トレッド部の両端部がタイヤの径方向内側へ引き寄せられるように変形して、前記両端部が路面に接地する接地領域が小さくなる。
【0015】
(5) 本発明のトレッド可変装置において、前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が平坦形状に形成されている。この場合、前記アクチュエータは、前記トレッド部に設けられ、前記トレッド部の幅方向に沿って延びる複数の直線部を有しており、前記複数の直線部は前記空気入りタイヤの周方向に所定間隔を隔てて配置されている。
【0016】
このような構成であっても、制御部によって前記アクチュエータに電圧が供給されると、前記トレッド部に配置された前記直線部が前記幅方向に収縮し、前記トレッド部が外向きに膨出した湾曲形状に変形して、前記トレッド部の両端部が路面に接地する接地領域が小さくなる。
【0017】
(6) 本発明のトレッド可変装置において、前記制御部は、前記制御信号が入力された場合に前記アクチュエータに電圧を供給する。
【0018】
(7) 本発明のトレッド可変装置において、前記空気入りタイヤは、前記トレッド部が湾曲形状に形成されている。この場合、前記アクチュエータは、前記トレッド部の幅方向の中央部に設けられ、前記空気入りタイヤの周方向に沿って少なくとも1周以上の長さを有する。また、前記制御部は、前記アクチュエータに電圧を供給して通電させることにより前記中央部を径方向内側へ引き締めて前記トレッド部を平坦化させ、前記制御信号が入力された場合に電圧の供給を停止して元の湾曲形状に戻す。
【0019】
このような構成であっても、制御部によって前記アクチュエータに電圧が供給されていない場合は、前記トレッド部が湾曲形状に維持されるため、ウエット路面におけるタイヤのグリップ力を十分に発揮することができ、また、旋回動作時においても十分なグリップ力を得ることができる。また、制御部によって前記アクチュエータに電圧が供給されると、前記トレッド部が平坦化するため、ドライ路面において高いグリップ力を発揮することができ、また、自動車の駆動動作時又は制動動作時においても十分なグリップ力を得ることができる。
【0020】
(8) 本発明のトレッド可変装置において、前記制御信号は、前記空気入りタイヤが装着された車両に設けられた操作スイッチの操作時の入力信号である。
【0021】
この構成によれば、車両のドライバーは、任意のタイミングで前記操作スイッチを操作することにより、制御部に前記アクチュエータに電圧を供給させることができる。つまり、ドライバーは、自身の判断によって任意のタイミングでトレッド部の形状を変形させて、タイヤのグリップ力を任意に調整することができる。
【0022】
(9) 本発明のトレッド可変装置において、前記制御信号は、前記空気入りタイヤが装着された車両の走行エリアにおける降雨を示す降雨信号である。
【0023】
この構成によれば、前記降雨信号が入力された場合に、前記制御部は自動的にアクチュエータに電圧を供給する。これにより、車両の走行状況に応じたグリップ力となるようにタイヤのトレッド部が自動的に変形される。その結果、走行状況が変化した場合でも安定したグリップ力を維持することができる。
【0024】
(10) 本発明のトレッド可変装置において、前記制御信号は、前記車両のブレーキが操作されたことを示すブレーキ信号、前記車両の速度が所定速度以上であることを示す速度信号のいずれか一つ又は両方を更に含む。
【0025】
この構成によれば、より詳細な走行状況に応じたグリップ力をタイヤに生じさせることができる。
【0026】
(11) 前記アクチュエータは、Ti-Ni系形状記憶合金を主成分とするコード状部材であり、通電による発熱によって収縮するものであることが好ましい。
【0027】
(12) 本発明の他の局面に係る空気入りタイヤは、ゴム材料を主成分とするものであり、トレッド部と、予め定められた方向に沿うように前記トレッド部の接地面よりも径方向内側に埋設され、通電によって収縮することにより前記空気入りタイヤの前記トレッド部を変形可能なコード状のアクチュエータと、を備える。
【0028】
(13) 本発明のその他の局面に係るグリップ力制御方法は、ゴム材料を主成分とする空気入りタイヤのグリップ力を制御する方法である。前記空気入りタイヤは、予め定められた方向に沿うように前記空気入りタイヤの内部に埋設され、通電によって収縮することにより前記空気入りタイヤのトレッド部を変形可能なコード状のアクチュエータを備える。前記グリップ力制御方法は、予め定められた制御信号の入力を判定する入力判定ステップを受け付ける入力受付ステップと、入力された前記制御信号に基づいて前記アクチュエータに電圧を供給して通電させて、前記トレッド部を変形させることにより前記空気入りタイヤのグリップ力を制御する通電制御ステップと、をプロセッサにより実行する方法である。
【0029】
このように構成されているため、トレッド部の形状を変形させることによって、空気入りタイヤにおけるグリップ性を変更することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、空気入りタイヤのグリップ力を容易に調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車用の空気入りタイヤの部分断面図である。
【
図2】
図2は、空気入りタイヤにおける繊維アクチュエータの配設位置を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態で使用される車両の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係るトレッド可変装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、トレッド可変装置の制御部によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第1処理例)を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、トレッド可変装置が空気入りタイヤに適用された状態を示す概念図であり、バンドコードの非通電時の状態が示されている。
【
図7】
図7は、繊維アクチュエータが通電されていない非通電状態で正規荷重が付与された場合のトレッド部の接地面形状を示す模式図である。
【
図8】
図8は、トレッド可変装置が空気入りタイヤに適用された状態を示す概念図であり、バンドコードの通電時の状態が示されている。
【
図9】
図9は、繊維アクチュエータが通電された通電状態で正規荷重が付与された場合のトレッド部の接地面形状を示す模式図である。
【
図10】
図10は、空気入りタイヤにおける繊維アクチュエータの他の配設例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、空気入りタイヤにおける繊維アクチュエータのその他の配設例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、トレッド可変装置の制御部によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第2処理例)を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、トレッド可変装置の制御部によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第3処理例)を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、トレッド可変装置の制御部によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第4処理例)を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係るトレッド可変装置が適用される二輪車用の空気入りタイヤを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、以下の説明では、各図に示される軸方向D1又は幅方向D1、径方向D2、中心方向D21、及び周方向D3を用いる場合がある。
【0033】
〈第1実施形態〉
図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ1(以下「タイヤ1」と略称する。)の断面構造を示す部分断面図であり、
図2は、タイヤ1を示す模式図である。
図1において、紙面の左右方向はタイヤ1の軸方向D1又は幅方向D1であり、上下方向はタイヤ1の径方向D2である。また、
図1中の一点鎖線CL1はタイヤ1の赤道面又は赤道線を表し、
図2中の一点鎖線CL2はタイヤ1の中心軸を表す。
【0034】
タイヤ1は、ゴム材料を主成分とするものであり、主として、自動車などの車両10(
図3参照)に装着されて用いられる。
図1において、タイヤ1はホイール11のリム11Rに組み込まれている。リム11Rは正規リムである。タイヤ1の内部には空気が充填されており、その内圧は正規内圧に調整されている。
【0035】
本明細書において、リム11Rに組み込まれたタイヤ1の内圧が前記正規内圧に調整され、タイヤ1に荷重がかけられていない状態のことは、正規状態と称される。
図1には、前記正規状体のタイヤ1が示されている。本実施形態においては、特に言及しない限り、タイヤ1及びタイヤ1の各部の寸法並びに角度は、前記正規状態で測定される。
【0036】
ここで、前記正規リムは、タイヤ1が依拠する規格において定められたリムのことである。前記正規リムは、具体的には、JATMA(一般社団法人日本自動車タイヤ協会)が定める規格(JATMA規格)における「標準リム」であり、米国のTRA(The Tire and Rim Association)が定める規格(TRA規格)における「Design Rim」であり、ETRTO(European Tyre Rim Technical Organisation)が定める規格(ETRTO規格)における「Measuring Rim」である。
【0037】
また、前記正規内圧は、タイヤ1が依拠する規格において定められた内圧のことである。前記正規な威圧は、具体的には、JATMA規格における「最高空気圧」であり、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に示される「最大値」であり、ETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」である。
【0038】
本実施形態に係るタイヤ1は、自動車用のラジアルタイヤとして好適に用いられる。
図1に示すように、タイヤ1は、トレッド部2と、トレッド部2の幅方向D1の両端部に位置する一対のショルダー部3と、ショルダー部3からタイヤ1の中心軸へ向かう中心方向D21(径方向D2の内側)へ延在する一対のサイドウォール部4と、サイドウォール部4の中心方向D21の端部に位置する一対のビード部5と、を備える。
【0039】
更に、タイヤ1は、トレッド部2からショルダー部3、サイドウォール部4を経てビード部5のビードコア5Aに至るカーカス6と、インナーライナー7と、トレッド部2の径方向D2の内側に配置されたベルト部8及びバンド部9と、を備える。
【0040】
トレッド部2は、架橋ゴムからなるトレッドゴム2Aで構成されている。トレッド部2は、車両10の走行時に路面に接触する部分である。トレッド部2の外側の表面は、路面との接触面であるトレッド面21である。本実施形態では、トレッド面21は概ね平坦面とされている。つまり、タイヤ1は、トレッド部2が平坦形状に形成されたものである。
【0041】
トレッド面21には、グリップ性や制動性、排水機能、摩耗抑制などの各タイヤ性能を発揮させるために、トレッドパターンを構成する複数の主溝22及びラグ溝23が形成されている。複数の主溝22は、タイヤ1の周方向D3(
図2参照)に連続して延在しており、タイヤ1の幅方向D1へ所定間隔を隔てて配置されている。ラグ溝23は、主溝22に交差するように延びており、トレッド面21において隣接する主溝22の間に形成されている。複数のラグ溝23は、タイヤ1の周方向D3に所定間隔を隔てて設けられている。
【0042】
ショルダー部3は、トレッド部2からサイドウォール部4に至るタイヤ1の角部に相当する部分である。ショルダー部3は、トレッド部2とサイドウォール部4とをつなぐ部分であり、トレッド部2の幅方向D1の端部からサイドウォール部4の上端部に亘ってラウンド形状(湾曲形状)に形成されている。一般に、ショルダー部3の湾曲面の曲率が小さい形状、つまり、曲がりが緩い形状のものはラウンドショルダーと称されている。また、前記湾曲面の曲率が大きい形状、つまり、曲がりがきつい鋭角形状のものはスクエアショルダーと称されている。
【0043】
前記正規状態のタイヤ1に正規荷重を付与した場合のトレッド部2と路面との接地面の面積(接地面積)は、前記ラウンドショルダーよりも前記スクエアショルダーの方が大きい。そのため、車両10が直線又は緩いカーブを走行している場合の駆動時又は制動時のグリップ力は、前記スクエアショルダーのタイヤ1の方が良好である。一方、車両10が旋回する場合は、ショルダー部3の接地圧が強く、トレッド部の中央の接地圧が減少するため、この場合のグリップ力は、前記ラウンドショルダーのタイヤ1の方が良好となる。
【0044】
ここで、前記正規荷重は、タイヤ1が依拠する規格において定められた荷重のことである。前記正規荷重は、具体的には、JATMA規格における「最大負荷能力」であり、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に示される「最大値」であり、ETRTO規格における「LOAD CAPACITY」である。
【0045】
サイドウォール部4は、架橋ゴムで構成されている。サイドウォール部4は、カーカス6の軸方向D1の外側に配置されている。サイドウォール部4は、トレッド部2を構成するトレッドゴム2Aの幅方向D1の端部に繋がっており、カーカス6に沿って中心方向D21へ延出している。サイドウォール部4によって、タイヤ1の側部のカーカス6が保護される。
【0046】
カーカス6は、トレッド部2、及び一対のサイドウォール部4の内側に配置されている。カーカス6は、少なくとも1枚のカーカスプライ6Aによって構成されている。カーカスプライ6Aは、タイヤ1の赤道面CL1に交差する方向に延びる多数のカーカスコード(不図示)を有する。カーカスプライ6Aは、これらのカーカスコードが所定のゴム組成物からなるトッピングゴムによって被覆されたものである。多数のカーカスコードは、タイヤ1の赤道面CL1に対して、所定の角度(例えば70~90度の範囲内で定められた角度)で交差した状態で、周方向D3(
図2参照)に沿って並ぶようにして配列されている。前記カーカスコードとしては、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アラミド繊維などの有機繊維からなるコード(以下「有機繊維コード」と称する。)が用いられる。
【0047】
インナーライナー7は、カーカス6の内側に設けられており、タイヤ1の内面を構成している。インナーライナー7は、空気遮断性を有する架橋ゴムで構成されており、タイヤ1の内圧を保持する役割を担っている。
【0048】
ビード部5は、ホイールと結合される部分であり、内圧によってタイヤ1をリム11Rに固定させる。ビード部5は、スチール製の複数のビードワイヤー5Cからなるビードコア5Aと、エイペックスゴム5Bとを含む。エイペックスゴム5Bは、ビードコア5Aよりも径方向D2の外側に位置しており、例えば、高い剛性を有する架橋ゴムで構成されている。ビードコア5A及びエイペックスゴム5Bの外側を包むようにカーカスプライ6Aが配置されている。具体的には、カーカスプライ6Aは、ビードコア5Aの周りを軸方向D1の内側から外側に折り返され、ビード部5における軸方向D1の外側を径方向D2の外側へ延出している。このようにカーカスプライ6Aによって囲まれた部分にビードコア5A及びエイペックスゴム5Bが配置されている。
【0049】
ベルト部8は、タイヤ1の周方向D3に延びる帯状部材である。ベルト部8は、本発明のベルト部の一例である。ベルト部8は、トレッド部2の径方向D2の内側に配置されており、カーカス6の外側に配置されている。ベルト部8は、カーカス6を径方向D2へ締め付けて、トレッド部2の合成を高める役割を担う。ベルト部8は、後述のバンド部9とともにカーカス6を補強する補強層を構成している。
【0050】
ベルト部8は、少なくとも1枚のベルトプライ8Aによって構成されている。本実施形態では、ベルト部8は、2枚のベルトプライ8Aを有している。ベルト部8は、タイヤ1を周方向D3(
図2参照)に一周するように延在している。
【0051】
ベルトプライ8Aは、タイヤ1の赤道面CL1に交差する方向に延びる多数のベルトコード(不図示)を有する。ベルトプライ8Aは、これらのベルトコードがトッピングゴムによって被覆されたものである。多数のベルトコードは、タイヤ1の赤道面CL1に対して、所定の角度(例えば10~35度の範囲内で定められた角度)で交差した状態で、周方向D3(
図2参照)に沿って並ぶようにして配列されている。ベルト部8において、各ベルトプライ8Aは、前記ベルトコードが互いに交差する向きとなるように配置されている。前記ベルトコードとしては、例えば、スチール製のコード(以下「スチールコード」と称する。)や、前記有機繊維コードが用いられる。
【0052】
バンド部9は、タイヤ1の周方向D3に延びる帯状部材である。バンド部9は、トレッド部2の径方向D2の内側に配置されており、ベルト部8の外側に配置されている。バンド部9は、ベルト部8の動きを拘束して、車両10の走行時の遠心力によってベルト部8が浮き上がったり剥がれたりすることを防止する役割を担う。バンド部9は、上述のベルト部8とともにカーカス6を補強する補強層を構成している。
【0053】
本実施形態では、バンド部9は、周方向D3に延在するフルバンド9Aと、一対のエッジバンド9Bとを有する。一対のエッジバンド9Bは、本発明のエッジバンド部の一例である。
【0054】
フルバンド9Aは、ベルト部8の全体を被覆する。フルバンド9Aによって、ベルト部8全体の浮き上がりや剥がれが抑制される。フルバンド9Aは、周方向D3(
図2参照)に螺旋状(コイル状)に巻回されたバンドコード(不図示)を有する。フルバンド9Aは、螺旋状の前記バンドコードがトッピングゴムによって被覆されたものである。前記バンドコードとしては、例えば、前記スチールコード、前記有機繊維コード、或いは、復習種類の有機繊維コードを撚りあわせた複合コードなどが用いられる。
【0055】
一対のエッジバンド9Bは、トレッド部2の幅方向D1の両端部に対応する位置に設けられている。詳細には、一対のエッジバンド9Bは、フルバンド9Aの径方向D2の外側から、ベルト部8の幅方向D1の両端部それぞれを被覆する。エッジバンド9Bによって、ベルト部8の両端部の浮き上がりや剥がれが抑制される。
【0056】
エッジバンド9Bは、周方向D3(
図2参照)に沿って少なくとも1周分の長さを有する導電性の繊維アクチュエータ30(本発明のコード状のアクチュエータの一例)を有する。つまり、
図2に示すように、繊維アクチュエータ30は、タイヤ1の内部、具体的にはトレッド部2のトレッドゴム2Aの内部に埋設されており、トレッド部2の内部において幅方向D1の両端部それぞれに設けられている。
【0057】
繊維アクチュエータ30は、導電性を有する金属製のコード状部材が周方向D3に螺旋状(コイル状)に複数回巻回されたものである。エッジバンド9Bは、実質的に、螺旋状の繊維アクチュエータ30によって構成されており、繊維アクチュエータ30がバンドコードを兼用している。本実施形態では、エッジバンド9Bは、繊維アクチュエータ30が、絶縁体であるトッピングゴムによって被覆されたものである。そのため、繊維アクチュエータ30は、前記トッピングゴムによって絶縁されている。
【0058】
繊維アクチュエータ30は、温度変化に応じて伸縮可能なコード状(繊維状)のアクチュエータである。繊維アクチュエータ30は、所定の抵抗を有するコード状の導電部材である。繊維アクチュエータ30は、その両端部に所定の電圧が供給されて繊維アクチュエータ30に電流が流されることによって発熱し、所定の設定温度を超えると長手方向に収縮し、通電が停止されて前記設定温度未満になると長手方向に伸張して元の形状に戻るアクチュエータである。繊維アクチュエータ30が長手方向に収縮することにより、トレッド部2の両端部の形状がその収縮時の引張力によって変形する。すなわち、繊維アクチュエータ30は、通電による発熱によって収縮することにより、トレッド部2を変形させることが可能なコード状部材である。
【0059】
本実施形態では、繊維アクチュエータ30の両端部のコード端は、フラットケーブル(不図示)などに接続されており、そのフラットケーブルに外部から電圧V1を供給可能なように、前記フラットケーブルがタイヤ1のビード部5とリム11Rとの間から外部に露出されている。前記設定温度は、例えば60~100℃の範囲内で定められた温度であり、好ましくは70℃前後の温度である。
【0060】
本実施形態では、繊維アクチュエータ30して、トキ・コーポレーション株式会社(東京都大田区平和島4-1-23)が提供するバイオメタル・ファイバー(バイオメタルはトキ・コーポレーション株式会社の登録商標)が適用される。バイオメタル・ファイバーは、Ti-Ni系の形状記憶合金を主原料とするものであり、加熱の有無に応じて長手方向にのみ伸縮する特性を備えている。前記バイオメタル・ファイバーは、前記設定温度以上に加熱されると、全体長の約4%が長手方向に収縮する。前記バイオメタル・ファイバーは、収縮時の引張力(収縮方向の力)が直径に比例する。そのため、タイヤ1においては、そのサイズや用途などに応じた直径の前記バイオメタル・ファイバーが選定される。繊維アクチュエータ30は、1本のバイオメタル・ファイバーを螺旋状に巻回したものであってもよく、また、より強い引張力を生じさせるために、複数本の前記バイオメタル・ファイバーを撚りあわせたものを適用することも可能である。
【0061】
なお、繊維アクチュエータ30は、前記バイオメタル・ファイバーに限られず、例えば、トキ・コーポレーション株式会社が提供するバイオメタル・へリックスを用いたものでもよい。また、繊維アクチュエータ30は、加熱によって長手方向に伸縮可能なコード状(繊維状)のアクチュエータであれば、いかなる構成のものであっても適用可能である。また、熱の発生の有無に限られず、例えば、通電されることによって長手方向に伸縮可能なコード状のアクチュエータであれ、いかなる構成のものであっても適用可能である。
【0062】
このようにタイヤ1が構成されているため、後述の制御ユニット40によって繊維アクチュエータ30に電圧が供給されると、繊維アクチュエータ30がその長手方向に収縮することによって、タイヤ1が周方向D3に引き締められる。これにより、タイヤ1のトレッド部2の両端部の形状が変形し、ショルダー部3が電圧供給前に比べて更に湾曲した形状に変形する。その結果、前記両端部の接地領域が小さくなり、トレッド部2における路面との接地面形状T10(
図7及び
図9参照)が、スクエア形状(略四角形状)からラウンド形状(略楕円形状)となる。
【0063】
一般に、路面がウエット状態である場合、トレッド部2のグリップ力は、トレッド部2の接地面形状T10がスクエア形状よりもラウンド形状のほうがアップすることが周知である。このことから、路面がウエット状態のときに制御ユニット40から繊維アクチュエータ30に電圧を供給させることにより、ウエット路面におけるタイヤ1のグリップ力を向上させることができる。
【0064】
また、路面の状態に関わらず、自動車の旋回動作時においては、タイヤ1のショルダー部3の形状がより湾曲した形状であるほうが路面に対する接地面積が大きくなり、路面に対するグリップ力が高いことが周知である。このことから、車両10が旋回動作するときに制御ユニット40から繊維アクチュエータ30に電圧を供給させることにより、旋回動作時におけるタイヤ1のグリップ力を向上させることができる。
【0065】
以下、
図3を参照して、タイヤ1が装着された車両10について説明する。ここで、
図3は、車両10の一例を示す模式図である。
【0066】
図3に示すように、車両10は、四輪車であり、前後に合計四つの車輪を備えており、各車輪にタイヤ1が装着されている。本実施形態では、車両10は、フロントエンジン・フロントドライブ車(FF車)であり、前輪に装着されたタイヤ1Fが駆動タイヤであり、後輪に装着されたタイヤ1Rが従動タイヤである。
【0067】
各車輪には、周知の車輪速センサ51が取り付けられている。車輪速センサ51は、自身が取り付けられた車輪のタイヤ1の回転速度を検出する。車輪速センサ51は、制御ユニット40に無線又は有線を通じて通信可能に接続されており、各車輪速センサ51で検出された回転速度を示す信号(検出情報)は、制御ユニット40に送信される。車輪速センサ51は、走行中のタイヤ1の回転速度を検出できるものであれば如何なる構成のものであってもよく、また、その取付位置や検出方法についても特に限定されない。
【0068】
車両10には、周知の横加速度センサ52が取り付けられている。横加速度センサ52は、車両10に加わる横方向の加速度(横方向加速度)を検出するものである。横加速度センサ52は、制御ユニット40に無線又は有線を通じて通信可能に接続されており、横加速度センサ52で検出された横方向加速度を示す信号(検出情報)は、制御ユニット40に送信される。横加速度センサ52は、走行中の車両10に加わる横方向加速度を検出できるものであれば如何なる構成のものであってもよく、また、その取付位置や検出方法についても特に限定されない。
【0069】
車両10には、周知の操舵角センサ53が設けられている。操舵角センサ53は、ハンドル12の回転角である操舵角を検出する。操舵角センサ53は、例えば、ハンドル12のステアリングシャフトに設けられている。操舵角センサ53は、制御ユニット40に無線又は有線を通じて通信可能に接続されており、操舵角センサ53で検出された操舵角を示す信号(検出情報)は、制御ユニット40に送信される。操舵角センサ53は、ハンドル12の操舵角を検出できるものであれば如何なる構成のものであってもよく、また、その取付位置や検出方法についても特に限定されない。
【0070】
車両10の各車輪には、周知のスリップリング13が設けられている。スリップリング13は、車輪の非回転部(例えばナックル)に固定されるリング状の固定部13Aと、車輪の回転部(例えばホイール11やハブ)に取り付けられるリング状の回転部13Bとにより構成されている。本実施形態では、固定部13Aは、ホイール11と同心円となるように、ホイール11における車体側(ハブ側)のリム11Rのリム端面11R1に取り付けられている。このため、ビード部5とリム11Rとの間から外部に露出された前記フラットケーブルと固定部13Aの接続が容易となる。
【0071】
固定部13Aは、ホイール11に対して絶縁部材を介して取り付けられている。ホイール11に対する固定部13Aの取付手段は特に限定されず、例えば、接着剤や両面テープなどの接着剤や、ビスなどの締結部材などによる固定手段が考えられる。
【0072】
回転部13Bは固定部13Aの外周面にベアリングを介して回転自在に装着されている。固定部13Aと回転部13Bは、それぞれ、電気接点を備えており、タイヤ1の回転にともない回転部13Bが回転した場合でも、常に、互いの前記電気接点は通電可能に接触する。
【0073】
固定部13Aには、前記電気接点と接続された中継端子が設けられており、制御ユニット40から敷設された電源ケーブルが前記中継端子に接続されている。また、回転部13Bの前記電気接点には、上述した繊維アクチュエータ30の前記フラットケーブルの一方端が接続されている。これにより、制御ユニット40から電源ケーブルを通じて供給される電圧が前記中継端子、及び前記フラットケーブルを通じて繊維アクチュエータ30に供給される。なお、前記フラットケーブルの他方端は、車両10に設けられたシャーシグランドに接続されている。
【0074】
また、
図4に示すように、車両10には、レインセンサ54、ブレーキセンサ55、及び操作スイッチ56が設けられている。これらは、制御ユニット40に通信可能に接続されている。レインセンサ54は、車両10の走行エリアにおける雨滴の有無や降雨量を検出し、その検出値を示す降雨信号(検出情報)を制御ユニット40に送信する。ブレーキセンサ55は、ドライバーによってブレーキ操作が行われた場合に、その操作の有無、及び操作量を検出し、その検出値を示すブレーキ信号(検出情報)を制御ユニット40に送信する。ブレーキセンサ55は、例えば、ブレーキペダルに設けられたロータリエンコーダ或いはポテンショメータなどである。操作スイッチ56は、ドライバーによって操作されるスイッチ部材であり、操作されることによりその操作信号(本発明の制御信号の一例)を制御ユニット40に送信する。レインセンサ54、ブレーキセンサ55、及び操作スイッチ56は、いずれも従来周知の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0075】
以下、
図4を参照して、本発明の実施形態に係るトレッド可変装置15について説明する。ここで、
図4は、トレッド可変装置15の構成を示すブロック図である。
【0076】
図4に示すように、トレッド可変装置15は、車両10に搭載されており、制御ユニット40と、タイヤ1とを含む。
【0077】
制御ユニット40は、制御部41、記憶部42、通信部43、GPS受信部44、出力部45、入力部46、及び電圧供給部47などを備える。制御ユニット40は、車両10を統括制御するものであってもよく、或いはタイヤ1の繊維アクチュエータ30の通電を制御する処理のみを実行するものであってもよい。制御ユニット40は、各種演算処理を実行可能な情報処理装置である。
【0078】
通信部43は、制御ユニット40を無線によって所定の通信網に接続し、前記通信網を介して外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0079】
記憶部42は、各種の情報を記憶するフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶媒体又は記憶装置である。例えば、記憶部42には、制御部41に各種処理を実行させるための制御プログラムが記憶されている。前記制御プログラムは、通信部43と通信接続可能なサーバ装置や外部ストレージなどの外部記憶装置に記憶されており、前記外部記憶装置から読み出されて記憶部42に複製されたものである。或いは、前記制御プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、制御ユニット40に電気的に接続される読取装置(不図示)で読み取られて記憶部42に複製されたものであってもよい。
【0080】
GPS受信部44は、車両10の走行位置の位置情報を取得する。GPS受信部44は、GPS衛星からの信号を受信し、更に所定の演算処理を行うことにより、地球上における車両10の位置を検出する。検出された位置情報は、制御部41に送信されて、車両10の位置の把握、車両10の移動距離の算出、車両10の移動速度の算出などに用いられる。
【0081】
出力部45は、制御部41が実行する各種処理の結果などを外部に出力するインターフェースである。
【0082】
入力部46は、車両10に設けられた各種センサ51~55や、操作スイッチ56と接続するインターフェースである。入力部46に、センサ51~55や操作スイッチ56などから出力される信号が入力される。入力された信号は、制御部41に送信されて、後述のトレッド変形処理や、各種演算処理に用いられる。
【0083】
電圧供給部47は、電源ケーブルを介してタイヤ1の繊維アクチュエータ30に接続されている。電圧供給部47は、制御部41から駆動信号を受けると、繊維アクチュエータ30を前記設定温度以上まで加熱可能な所定の電圧(電力)を出力する。具体的には、電圧供給部47は、車両10に搭載されているバッテリーの電圧を繊維アクチュエータ30に対応する電圧に変圧する変圧器、電源ケーブルをオンオフするスイッチング素子などを有する。電圧供給部47は、前記駆動信号が入力されると、前記スイッチング素子を動作させて、繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給する。
【0084】
制御部41は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサである。前記ROMは、前記CPUに各種の処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶された不揮発性のメモリである。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性のメモリであり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリ(作業領域)として使用される。そして、制御部41は、前記ROM又は記憶部42に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより、タイヤ1の繊維アクチュエータ30への電圧供給を制御する。
【0085】
具体的に、制御部41は、取得処理部411、判定処理部412、電圧制御部413などの各種の処理部を含む。なお、制御部41は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、制御部41に含まれる一部又は全部の処理部が電子回路で構成されていてもよい。また、前記制御プログラムは、複数のプロセッサを前記各種の処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0086】
取得処理部411は、各種センサ51~55から入力部に入力された信号に基づいて、当該信号が示す情報に変換する。例えば、取得処理部411は、車輪速センサ51から出力される信号を所定のサンプリング周期ごとに受信すると、当該信号をタイヤ1の回転速度と、車両10の走行速度に換算する。また、取得処理部411は、横加速度センサ52から出力される信号を受信すると、当該信号を車両10に加わる横方向加速度に換算する。また、取得処理部411は、操舵角センサ53から出力される信号を受信すると、当該信号をハンドル12の操作時の切れ角を示す操舵角に換算する。また、取得処理部411は、レインセンサ54から出力される信号を受信すると、当該信号をハンドル12の操作時の切れ角を示す操舵角に換算する。取得処理部411は、ブレーキセンサ55から出力される信号を受信すると、当該信号をブレーキ操作時のブレーキペダルの操作量に換算する。
【0087】
判定処理部412は、取得処理部411によって取得された取得情報や、操作スイッチ56から送信されてきた操作信号などに基づいて、タイヤ1の繊維アクチュエータ30に電圧を供給するか否かの判定を行う。つまり、判定処理部412は、繊維アクチュエータ30に対する電圧供給を許可するか否かを判定する。
【0088】
電圧制御部413は、判定処理部412によって判定された判定結果に基づいて、電圧供給部47に前記駆動信号を送信し、電圧供給部47から繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給させる。具体的には、電圧制御部413は、判定処理部412によって電圧供給が許可された場合に、前記駆動信号を電圧供給部47に送信し、許可されなかった場合に、前記駆動信号を停止する。
【0089】
[トレッド変形処理(第1処理例)]
以下、
図5を参照して、制御部41が実行するトレッド変形処理の手順の一例について説明するとともに、本発明のグリップ力制御方法について説明する。
図5は、制御部41によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第1処理例)を示すフローチャートである。ここで、当該トレッド変形処理は、制御部41により前記制御プログラムが実行されることによって開始される。なお、本発明は、前記トレッド変形処理に含まれる一又は複数のステップを実行するグリップ力制御方法の発明として捉えることができる。
【0090】
また、以下に説明する各処理に含まれる一又は複数のステップが適宜省略されてもよい。また、各処理における各ステップは、同様の作用効果を生じる範囲で実行順序が異なってもよい。更に、以下に説明する各処理は、処理実行主体である制御部41に対応するプロセッサによって各処理における各ステップが実行されてもよく、或いは、制御部41に対応する複数のプロセッサによって前記各処理における各ステップが分散して実行されてもよい。なお、以下に説明する他の実施形態についても同様である。
【0091】
また、以下においては、車両10は、そのエンジンが起動され、制御ユニット40も起動された走行可能状態にあるものとする。
【0092】
ステップS11において、制御部41は、車両10が走行中であるか否かを判定する。具体的には、制御部41は、車輪速センサ51からの出力信号に基づいて、車両10の走行速度を取得し、その走行速度が規定速度以上である場合に、車両10が走行中であると判定する。
【0093】
車両10が走行中であると判定されると(S11:Yes)、続いて、制御部41は、前記操作信号が入力されたか否かを判定する(S12)。ステップS12は、本発明の入力判定ステップの一例である。
【0094】
前記操作信号が入力されたと判定されると(S12:Yes)、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信して、電圧供給部47から繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給させる(S13)。これにより、タイヤ1の繊維アクチュエータ30が通電されて、
図8に示すように繊維アクチュエータ30がその長手方向に収縮する。一方、前記操作信号が入力されなかったと判定されると(S12:No)、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信せず、電圧供給部47による電圧供給を停止し、或いは、停止状態を維持する(S14)。ステップS13及びS14は、本発明の通電制御ステップの一例である。なお、車両10の起動中は、ステップS11~S14の手順の処理が繰り返し実行されるため、ステップS13又はステップS14の処理が終了すると、ステップS11に戻り、ステップS11以降の処理が繰り返し実行される。
【0095】
図6は、タイヤ1の繊維アクチュエータ30に電圧が供給されていない非通電時の状態を示す図であり、
図7は、前記非通電時に車両10に前記正規荷重が付与されたときのトレッド部2の接地面形状T10を示す図である。
図6に示すように、非通電時においては、繊維アクチュエータ30はその長手方向に収縮しておらず、したがって、タイヤ1が各繊維アクチュエータ30によって周方向D3に引き締められていない。この場合、トレッド部2における路面との接地面形状T10は、
図7に示すようにスクエア形状(略四角形状)となる。
【0096】
図8は、タイヤ1の繊維アクチュエータ30に電圧が供給された通電時の状態を示す図であり、
図9は、前記通電時に車両10に前記正規荷重が付与されたときのトレッド部2の接地面形状T10を示す図である。
図8に示すように、通電時においては、各繊維アクチュエータ30がその長手方向に収縮することによって、タイヤ1が周方向D3に引き締められる。これにより、タイヤ1のトレッド部2の両端部の形状がタイヤ1の径方向D2の内側へ向かう方向(
図9の矢印D40の方向)に変形し、ショルダー部3が電圧供給前に比べて更に湾曲した形状に変形する。この場合、トレッド部2における路面との接地面形状T10は、
図9に示すように、電圧供給前の前記スクエア形状(略四角形状)からラウンド形状(略楕円形状)に変化する。
【0097】
より詳細には、接地面形状T10において、幅方向D1の最大接地横幅Wm(=W1)に変化はないが、幅方向D1の中央における周方向D3の最大接地長さである最大接地縦幅Lcが、電圧供給前の長さL1から前記長さL1よりも長い長さL2に変化する。また、最大接地横幅Wmの80%位置における周方向D3の接地長さであるショルダー接地縦幅Lsは、電圧供給前の長さL11よりも短い長さL12に変化する。更に、接地面形状T10において、各角部の湾曲部T11の曲率が電圧供給前よりも小さくなり、湾曲部T11がより緩やかな湾曲形状に変化する。
【0098】
本実施形態では、ステップS12で入力される前記操作信号は、車両10のドライバーによって操作スイッチ56が任意のタイミングで操作されることによって制御ユニット40に入力される信号である。例えば、ドライバーは、降雨などによって路面が濡れており、走行中にハイドロプレーニング現象が生じる可能性があると判断した場合に、操作スイッチ56を操作して、前記操作信号を制御ユニット40に送信する。これにより、タイヤ1の接地面形状T10が前記スクエア形状から前記ラウンド形状に変化する。
【0099】
上述したように、一般に、路面がウエット状態である場合、トレッド部2のグリップ力は、トレッド部2の接地面形状T10が前記スクエア形状よりも前記ラウンド形状のほうがアップすると考えられている。このため、ドライバーは、路面がウエット状態のときに自身の判断による任意のタイミングで操作スイッチ56を操作して、制御ユニット40から繊維アクチュエータ30に電圧を供給させることにより、ウエット路面におけるタイヤ1のグリップ力を任意のタイミングで向上させることができる。つまり、ドライバーは、任意のタイミングでウエット状態におけるタイヤ1のグリップ力を調整することができる。
【0100】
また、路面の状態に関わらず、車両10の旋回動作時においては、タイヤ1のショルダー部3の形状がより湾曲した形状であるほうが路面に対する接地圧が大きくなり、路面に対するグリップ力が高いと考えられている。このことから、ドライバーは、車両を旋回動作させるときに操作スイッチ56を操作して、制御ユニット40から繊維アクチュエータ30に電圧を供給させることにより、旋回動作時におけるタイヤ1のグリップ力を向上させることができる。つまり、ドライバーは、任意のタイミングで旋回動作時におけるタイヤ1のグリップ力を調整することができる。
【0101】
なお、上述の実施形態では、本発明のコード状のアクチュエータの一例として、エッジバンド9Bを構成する繊維アクチュエータ30を例示したが、本発明はこの構成に限られない。例えば、タイヤ1のバンド部9が、エッジバンド9Bを有していない場合は、フルバンド9Aの幅方向D1の両端部に位置するバンドコードを繊維アクチュエータ30に置き換えてもよい。つまり、この場合、バンド部9は、フルバンド9Aの両端部が繊維アクチュエータ30で構成され、その他の部分は通常のバンドコードで構成される。
【0102】
また、エッジバンド9Bが通常のバンドコードによって構成されており、絶縁被覆された螺旋状の繊維アクチュエータ30が一対のショルダー部3の内部に設けられていてもよい。この場合、繊維アクチュエータ30は、エッジバンド9Bにおける径方向D2の外側に配置されていることが好ましい。
【0103】
また、
図10に示すように、絶縁被覆された螺旋状の繊維アクチュエータ30が、一対のサイドウォール部4それぞれに設けられていてもよい。ここで、
図10は、タイヤ1の繊維アクチュエータ30の他の配設例を示す模式図であり、繊維アクチュエータ30に電圧が供給された通電時の状態がされている。この構成において、制御ユニット40によって繊維アクチュエータ30に電圧が供給されると、繊維アクチュエータ30が長手方向に収縮することによって、サイドウォール部4が
図10における矢印方向D41に縮むように変形する。この場合も、サイドウォール部4の変形によってショルダー部3が径方向D2の内側へ引き寄せられて、ショルダー部3が電圧供給前に比べて更に湾曲した形状に変形する。その結果、トレッド部2の接地面形状T10が、非通電時のスクエア形状(略四角形状)からラウンド形状(略楕円形状)となる。
【0104】
また、上述の実施形態では、周方向D3に螺旋状(コイル状)に複数回巻回された繊維アクチュエータ30を例示したが、本発明はこの構成に限られない。例えば、上述した繊維アクチュエータ30に替えて、
図11に示す繊維アクチュエータ31がトレッド部2の内部に埋設されていてもよい。ここで、繊維アクチュエータ31は、1本のコード状部材をトレッド部2の内部において周方向D3へ蛇行形状に配置させたものである。そのため、繊維アクチュエータ31には、幅方向D1に沿って延びる複数本の直線部31Aと、各直線部31Aを連結する湾曲部31Bとを含む構成となっている。このように構成された繊維アクチュエータ31に所定の電圧V1が供給される。この構成において、複数本の直線部31Aが周方向D3に所定間隔(例えば等間隔)を隔てて配置されているため、制御ユニット40によって繊維アクチュエータ31に電圧V1が供給されると、繊維アクチュエータ31の直線部が幅方向D1に収縮する。これにより、トレッド部2が
図11における矢印方向D42に縮むように変形し、トレッド部2は、幅方向D1の中央が径方向D2の外側へ膨出した湾曲形状に変形する。その結果、トレッド部2の接地面形状T10が、非通電時のスクエア形状(略四角形状)からラウンド形状(略楕円形状)となる。
【0105】
また、上述の実施形態では、タイヤ1が自動車用のラジアルタイヤであることを例示して説明したが、タイヤ1はバイアスタイヤであってもよく、本発明はバイアスタイヤにも好適に用いられる。この場合、繊維アクチュエータ30は、ラジアルタイヤのベルト部8に相当するブレーカの両端部に設けられるエッジバンド9Bを構成するものであってもよく、或いは、ブレーカの幅方向D1の両端部に設けられていてもよい。
【0106】
〈第2実施形態〉
以下、
図12を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図12は、制御部41によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第2処理例)を示すフローチャートである。本実施形態では、上述の第1実施形態と異なる部分について説明し、その他の共通する構成については、第1実施形態の説明で用いた符号と同符号を各図に付し示すことにより、その説明を省略する。なお、以下に説明する他の実施形態についても同様である。
【0107】
[トレッド変形処理(第2処理例)]
本実施形態におけるトレッド変形処理は、車両10の走行時の走行環境が、ハイドロプレーニング現象が生じ易い環境である場合、或いは実際にハイドロプレーニング現象が生じている可能性が高い場合に、制御部41が自動的に繊維アクチュエータ30に電圧を供給して、トレッド部2の接地面形状T10を前記スクエア形状から前記ラウンド形状に変形させて、タイヤ1のグリップ力をアップさせる処理である。
【0108】
図12に示すように、ステップS11において、制御部41は、車両10が走行中であるか否かを判定する。具体的には、制御部41は、車輪速センサ51からの出力信号に基づいて、車両10の走行速度を取得し、その走行速度が規定速度以上である場合に、車両10が走行中であると判定する。車両10が走行中であると判定されると(S11:Yes)、制御部41は、次のステップS21に移行する。
【0109】
ステップS21では、制御部41は、レインセンサ54からの出力信号(降雨信号)に基づいて、降雨を検出したか否かを判定する。ステップS21は、本発明の入力判定ステップの一例である。ステップS21において降雨が検出された場合、制御部41は、次のステップS22に移行する。なお、降雨が検出されなかった場合、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信せず、電圧供給部47による電圧供給を停止し、或いは、停止状態を維持する(S14)。
【0110】
ステップS22では、制御部41は、車両10の走行速度が予め定められた速度設定値以上であるか否かを判定する。ステップS22は、本発明の入力判定ステップの一例である。前記速度設定値は、制御部41のRAM又は記憶部42に記憶されている設定値である。前記速度設定値は、天候が雨の場合に、ハイドロプレーニング現象が生じる可能性の高い速度に設定されており、例えば、時速50km以上時速100km以下の範囲内で定められた速度に設定されている。
【0111】
ステップS22において、走行速度が前記速度設定値以上であると判定されると(S22:Yes)、制御部41は、次のステップS23において、ブレーキセンサ55からの出力信号(ブレーキ信号)に基づいてブレーキ操作があったか否かを判定する。走行速度が前記速度設定値以上であり、且つ、ブレーキ操作が行われた場合に、ハイドロプレーニング現象が生じる可能性が高いと考えられる。このため、ステップS23においてブレーキ操作があったと判定されると(S23:Yes)、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信して、電圧供給部47から繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給させる(S13)。これにより、タイヤ1の接地面形状T10が前記スクエア形状から前記ラウンド形状となり、タイヤ1のグリップ力がアップする。その結果、ハイドロプレーニング現象の発生率が低下する。
【0112】
走行速度が前記速度設定値未満、或いは、ブレーキ操作が検出されなかった場合、制御部41は、ステップS24に移行する。ステップS24では、制御部41は、各タイヤ1が空転しているか否かを判定する。制御部41は、各車輪それぞれに設けられた車輪速センサ51からの出力信号に基づいてホイール11の回転速度を算出し、前記回転速度と車両10の走行速度との差分からタイヤ1が空転(スリップ)しているか否かを判定する。タイヤ1が空転していると判定された場合、ウエット状態の路面に対してタイヤ1のグリップ力が低下していると考えられる。そのため、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信して、電圧供給部47から繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給させる(S13)。一方、タイヤ1が空転していない場合、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信せず、電圧供給部47による電圧供給を停止し、或いは、停止状態を維持する(S14)。なお、ステップS13又はステップS14の処理が終了すると、ステップS11に戻り、ステップS11以降の処理が繰り返し実行される。
【0113】
〈第3実施形態〉
以下、
図13を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図13は、制御部41によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第3処理例)を示すフローチャートである。本実施形態では、上述の第2実施形態のトレッド変形処理と異なる部分、つまり、ステップS31~S32について説明し、その他の共通する構成についてはその説明を省略する。
【0114】
[トレッド変形処理(第3処理例)]
図13に示すように、ステップS11において、車両10が走行中であると判定されると(S11:Yes)、制御部41は、次のステップS31に移行する。
【0115】
ステップS31では、制御部41は、車両10が高速道路を走行中であるか否かを判定する。例えば、制御部41は、高速道路の情報、及びそれ以外の車両10が走行可能な一般道路の情報を含むマップ情報と、GPS受信部444によって受信した車両10の走行位置の位置情報とに基づいて、現在走行している道路が高速道路であるか、一般道路であるかを判定する。なお、前記マップ情報は、記憶部42に記憶されている。
【0116】
ステップS31において、走行路が高速道路であると判定されると、制御部41は、前記速度設定値を高速道路に応じた第1閾値に変更する。ここで、前記第1閾値は、高速道路においてハイドロプレーニング現象が生じやすいと考えられる設定値であり、例えば、時速100kmに設定されている。
【0117】
また、ステップS31において、走行路が一般道路であると判定されると、制御部41は、前記速度設定値を一般道路に応じた第2閾値に変更する。ここで、前記第2閾値は、一般道路においてハイドロプレーニング現象が生じやすいと考えられる設定値であり、例えば、時速50kmに設定されている。
【0118】
ステップS32又はS33の変更が終了すると、制御部41は、上述したように、ステップS21移行の処理を実行する。
【0119】
このように、本実施形態では、ステップS22の判定に用いられる前記速度設定値が、実際に走行している走行路の種別に応じた閾値に変更されるため、走行路の種別に応じて、タイヤ1のグリップ力を調整することが可能となる。
【0120】
〈第4実施形態〉
以下、
図14を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。
図14は、制御部41によって実行されるトレッド変形処理の手順の一例(第4処理例)を示すフローチャートである。本実施形態では、上述の第1実施形態~第3実施形態の各トレッド変形処理と異なる部分について説明し、その他の共通する構成についてはその説明を省略する。なお、本実施形態は、第1実施形態のトレッド変形処理において、ステップS12に替えて、ステップS41及びS42が行われる点が異なる。
【0121】
[トレッド変形処理(第4処理例)]
図14に示すように、ステップS11において、車両10が走行中であると判定されると(S11:Yes)、制御部41は、次のステップS41に移行する。
【0122】
ステップS41では、制御部41は、車両10の走行速度が前記速度設定値以上であるか否かを判定する。なお、ステップS41は、上述したステップS22と同様の処理である。
【0123】
ステップS41において、走行速度が前記速度設定値以上であると判定されると(S41:Yes)、制御部41は、次のステップS42において、操舵角センサ53からの出力信号に基づいてハンドル12の操舵角を検出し、当該操舵角が予め定められた角度設定値以上であるか否かを判定する。ステップS42は、本発明の入力判定ステップの一例である。前記角度設定値は、制御部41のRAM又は記憶部42に記憶されている設定値である。前記角度設定値は、カーブ路を走行する際に車両10に加わる横方向加速度によってスリップが生じる可能性がある角度に設定されている。走行速度が前記速度設定値以上であり、且つ、ハンドル12の操舵角が前記角度設定値以上である場合に、車両10がカーブ路の走行中に旋回動作を行ったことにより車両10のグリップ力が低下する可能性が高いと考えられる。このため、ステップS42において操舵角が前記角度設定値以上であると判定されると(S42:Yes)、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信して、電圧供給部47から繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給させる(S13)。これにより、タイヤ1の接地面形状T10が前記スクエア形状から前記ラウンド形状となり、タイヤ1のグリップ力がアップする。
【0124】
走行速度が前記速度設定値未満、或いは、操舵角が前記角度設定値未満である場合、制御部41は、ステップS43に移行する。ステップS43では、制御部41は、横加速度センサ52からの出力信号に基づいて車両10に加わる横方向加速度を検出し、前記横方向加速度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。前記横方向加速度が前記閾値以上であると判定された場合、旋回動作時にタイヤ1のグリップ力が低下していると考えられる。そのため、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信して、電圧供給部47から繊維アクチュエータ30に所定の電圧を供給させる(S13)。一方、前記横方向加速度が前記閾値未満であると判定された場合、制御部41は、前記駆動信号を電圧供給部47に送信せず、電圧供給部47による電圧供給を停止し、或いは、停止状態を維持する(S14)。なお、ステップS13又はステップS14の処理が終了すると、ステップS11に戻り、ステップS11以降の処理が繰り返し実行される。
【0125】
このように、本実施形態では、ハンドル12の操舵角が角度設定値以上の場合にタイヤ1のグリップ力がアップされ、また、車両10に加わる横方向加速度が閾値以上の場合にもグリップ力がアップされるため、カーブ路の走行中の旋回動作時において、車両10を安定して走行させることができる。
【0126】
〈第5実施形態〉
以下、
図15を参照して、本発明の第5実施形態について説明する。
図15は、本発明の実施形態に係るトレッド可変装置15が適用される自動二輪車用の空気入りタイヤ100(以下「タイヤ100」と略称する。)を示す模式図である。
図15では、繊維アクチュエータ30が通電されていない非通電状態が示されている。なお、タイヤ100は、適用車両が異なる以外は上述したタイヤ1と同じ構成であるため、以下の説明では、異なる構成について説明し、その他の共通する構成についてはその説明を省略する。
【0127】
タイヤ100は、自動二輪車用のラジアルタイヤ又はバイアスタイヤとして好適に用いられる。自動二輪車は、路面と接するトレッド部2と、路面との間に生じる摩擦力によって旋回するため、
図15に示すように、タイヤ100は、車体が傾けられた状態でもグリップするように、そのトレッド部2は、正面から見て湾曲形状に形成されている。
【0128】
本実施形態に係るタイヤ100は、湾曲形状のトレッド部2と、トレッド部2の幅方向D1の両端部に位置する一対のショルダー部3と、ショルダー部3からタイヤ1の中心軸へ向かう中心方向D21(径方向D2の内側)へ延在する一対のサイドウォール部4と、サイドウォール部4の中心方向D21の端部に位置する一対のビード部5と、を備える。更に、タイヤ100は、トレッド部2からショルダー部3、サイドウォール部4を経てビード部5のビードコア5Aに至るカーカス6と、インナーライナー7と、トレッド部2の径方向D2の内側に配置されたベルト部8及びバンド部9と、を備える。タイヤ100は、上述したタイヤ1とは異なり、ショルダー部3を有していない。タイヤ100は、トレッド部2が湾曲形状に形成されている点、及びショルダー部3を有していない点を除き、上述のタイヤ1と概ね同様に構成されている。
【0129】
本実施形態では、繊維アクチュエータ30は、トレッド部2の幅方向D1の中央部に設けられており、タイヤ100の周方向D3に沿って少なくとも1周以上の長さを有している。つまり、
図15に示すように、繊維アクチュエータ30は、タイヤ100の内部、具体的にはトレッド部2のトレッドゴム2Aの内部に埋設されており、トレッド部2の内部において幅方向D1の中央部に設けられている。
【0130】
バンド部9は、コード状の繊維アクチュエータ30が周方向D3に螺旋状(コイル状)に複数回巻回されたものであり、前記トッピングゴムによって螺旋状の繊維アクチュエータ30が被覆されたものである。
【0131】
繊維アクチュエータ30の両端部に、制御ユニット40によって所定の電圧V1が供給される。本実施形態では、制御ユニット40によって繊維アクチュエータ30に電圧が供給されると、繊維アクチュエータ30がその長手方向に収縮することによって、タイヤ1の幅方向D1の中央部が周方向D3に引き締められる。これにより、タイヤ1のトレッド部2の中央部の形状が変形し、トレッド部2が、電圧供給前に比べて平坦な形状(
図15の破線で示す形状)に変形する。その結果、トレッド部2における路面との接地面形状が、非通電時のラウンド形状(略楕円形状)からスクエア形状(略四角形状)となる。
【0132】
一方、制御ユニット40による電圧の供給が停止されると、繊維アクチュエータ30が元の長さまで伸張することによって、タイヤ1の幅方向D1の中央部の引き締めが解除される。これにより、タイヤ1のトレッド部2の中央部の形状が元に戻され、トレッド部2が湾曲形状に戻る。その結果、トレッド部2における路面との接地面形状が、通電時のスクエア形状(略四角形状)からラウンド形状(略楕円形状)となる。
【0133】
このようにタイヤ100が構成されているため、車両の走行状態に応じて繊維アクチュエータ30に電圧を供給することにより、路面に対するグリップ力を調整することができる。
【符号の説明】
【0134】
1,100 :空気入りタイヤ
2 :トレッド部
3 :ショルダー部
4 :サイドウォール部
5 :ビード部
6 :カーカス
7 :インナーライナー
8 :ベルト部
9 :バンド部
9A :フルバンド
9B :エッジバンド
10 :車両
11 :ホイール
15 :トレッド可変装置
21 :トレッド面
22 :主溝
23 :ラグ溝
30,31 :繊維アクチュエータ
40 :制御ユニット
41 :制御部
47 :電圧供給部
411 :取得処理部
412 :判定処理部
413 :電圧制御部
444 :GPS受信部