IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-移動体の制御装置 図1
  • 特許-移動体の制御装置 図2
  • 特許-移動体の制御装置 図3
  • 特許-移動体の制御装置 図4
  • 特許-移動体の制御装置 図5
  • 特許-移動体の制御装置 図6
  • 特許-移動体の制御装置 図7
  • 特許-移動体の制御装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】移動体の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240319BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240319BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240319BHJP
   B60W 50/023 20120101ALI20240319BHJP
【FI】
B60L3/00 N
B60L15/20 S
B60T7/12 F
B60W50/023
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020119784
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016825
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-028733(JP,A)
【文献】特開2006-312424(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073351(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60T 7/12
B60W 50/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモータ部(311,312)からそれぞれ出力される動力に基づいて移動する移動体(10)に設けられる制御装置(80)であって、
複数の前記モータ部のそれぞれを個別に制御する複数のモータ制御部(63a,63b)と、
複数の前記モータ制御部のそれぞれの異常の有無を個別に監視する複数の監視部(64a,64b)と、を備え、
複数の前記監視部のうちのいずれかにより前記モータ制御部の異常が検出されたとき、異常なモータ制御部によるモータ部の制御を停止する一方、異常が検出されていない正常なモータ制御部によるモータ部の制御を継続し、
前記異常なモータ制御部により制御が停止されるモータ部を停止対象モータ部とし、前記正常なモータ制御部により制御が継続されるモータ部を継続対象モータ部とするとき、
前記異常なモータ制御部による前記停止対象モータ部の制御を停止する際に、前記正常なモータ制御部は、前記移動体のアクセルペダルの踏み込み量に関わらず、前記停止対象モータ部の出力を補うように前記継続対象モータ部の出力トルクを増加させた後、前記継続対象モータ部の出力トルクを徐々に減少させる
移動体の制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御部と、前記モータ制御部とは別の制御部とを連携させて前記移動体の移動を制御する統合制御部(60)を更に備え、
前記統合制御部は、複数の前記モータ制御部のうちのいずれかに異常が検出された場合、前記モータ制御部と前記別の制御部とを連携させる制御を禁止する
請求項1に記載の移動体の制御装置。
【請求項3】
前記別の制御部は、前記移動体の制動装置を制御するブレーキ制御部(62)である
請求項2に記載の移動体の制御装置。
【請求項4】
前記別の制御部は、前記移動体のクルーズ制御を実行するクルーズ制御部(61)である
請求項2に記載の移動体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両がある。この車両は、その走行用の動力源として、第1モータジェネレータと第2モータジェネレータとを有している。また、この車両は、第1モータジェネレータに駆動させるための第1インバータ装置及び第1ECUを備えるとともに、第2モータジェネレータを駆動させるための第2インバータ装置及び第2ECUを備えている。この車両では、例えば第1インバータ装置の異常が検出された場合には、第1モータジェネレータを停止させる一方、第2モータジェネレータを駆動させることにより退避運転が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-28733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されるような車両では、第1ECU及び第2ECUのいずれかに異常が生じる可能性がある。ECUの異常を検出する方法としては、例えば2つのECUの演算結果を互いに比較する、いわゆる相互監視により異常を検出するという方法がある。しかしながら、相互監視を用いた場合、2つのECUのいずれかに異常が発生していることを検知できるものの、異常が発生したECUを特定することができない。すなわち、各ECUの演算結果が異なっているという情報だけでは、いずれのECUの演算結果が誤りであるかが判定できないため、2つのECUのいずれに異常が発生しているかを特定することはできない。そのため、2つのECUのいずれかに異常が発生した場合には、2つのモータジェネレータを停止せざるを得ないため、退避走行を実行することができない懸念がある。
【0005】
このように、従来の車両の制御装置では、ECU等の制御部が二重系で構成されている場合であっても、2つの制御部のいずれか一方に異常が発生すると、車両の走行を継続することができないという実情がある。
なお、このような課題は、車両に限らず、モータの動力に基づいて移動する移動体に共通する課題である。
【0006】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のモータ制御部のいずれかに異常が発生した場合であっても、移動体の移動を継続することが可能な移動体の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する制御装置は、複数のモータ部(311,312)からそれぞれ出力される動力に基づいて移動する移動体(10)に設けられる制御装置(80)であって、複数のモータ部のそれぞれを個別に制御する複数のモータ制御部(63a,63b)と、複数のモータ制御部のそれぞれの異常の有無を個別に監視する複数の監視部(64a,64b)と、を備える。複数の監視部のうちのいずれかによりモータ制御部の異常が検出されたとき、異常なモータ制御部によるモータ部の制御を停止する一方、異常が検出されていない正常なモータ制御部によるモータ部の制御を継続する。異常なモータ制御部により制御が停止されるモータ部を停止対象モータ部とし、正常なモータ制御部により制御が継続されるモータ部を継続対象モータ部とするとき、異常なモータ制御部による停止対象モータ部の制御を停止する際に、正常なモータ制御部は、移動体のアクセルペダルの踏み込み量に関わらず、停止対象モータ部の出力を補うように継続対象モータ部の出力トルクを増加させた後、継続対象モータ部の出力トルクを徐々に減少させる。
【0008】
この構成によれば、複数の監視部が複数のモータ制御部を個別に監視しているため、仮に複数のモータ制御部のいずれかに異常が生じた場合には、その異常が生じたモータ制御部に対応する監視部により異常が検出される。したがって、複数の監視部のうちのいずれにより異常が検出されたかに基づいて、異常が生じたモータ制御部を特定することができる。また、上記構成によれば、異常なモータ制御部はモータ部の制御を停止する一方、正常なモータ制御部はモータ部の制御を継続するため、複数の制御部のいずれかに異常が発生した場合であっても移動体の移動を継続することが可能である。
【0009】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の移動体の制御装置によれば、複数のモータ制御部のいずれかに異常が発生した場合であっても、移動体の移動を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態の車両の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、実施形態の制御装置の制御手順を示すブロック図である。
図4図4は、実施形態の制御装置により実行される処理の手順の一部を示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態の制御装置により実行される処理の手順の一部を示すフローチャートである。
図6図6(A)~(G)は、実施形態の制御装置により演算される第1分配トルク演算値T411、フィルタ後の第1分配トルク演算値T411f、第1分配トルク指令値T41*、第2分配トルク演算値T421、フィルタ後の第2分配トルク演算値T421f、第2分配トルク指令値T42*、及びモータジェネレータの出力トルクTmの推移を示すタイミングチャートである。
図7図7(A)~(F)は、実施形態の車両におけるアクセルペダルの踏み込み量AP、ブレーキペダルの操作位置、第1モータコイルの出力トルク、第2モータコイルの出力トルク、モータジェネレータの出力トルク、及び制動装置の制動力の推移を示すタイミングチャートである。
図8図8(A)~(F)は、実施形態の車両におけるアクセルペダルの踏み込み量AP、ブレーキペダルの操作位置、第1モータコイルの出力トルク、第2モータコイルの出力トルク、モータジェネレータの出力トルク、及び制動装置の制動力の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、車両の制御装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
はじめに、本実施形態の制御装置が搭載される車両の概略構成について説明する。
【0013】
図1に示される本実施形態の車両10は、モータジェネレータ31を動力源として走行する、いわゆる電動車両である。本実施形態では、車両10が移動体に相当し、車両10の走行が移動体の移動に相当する。図1に示されるように、車両10は、ステアリング装置20と、動力システム30と、制動装置41~44とを備えている。
ステアリング装置20は、運転者により操作されるステアリングホイール21と車輪11,12とが機械的に連結されていない、いわゆるステアバイワイヤ式の構成を有している。ステアリング装置20は操舵角センサ22と転舵装置23とを備えている。操舵角センサ22は、ステアリングホイール21の回転角度である操舵角を検出する。転舵装置23は、操舵角センサ22により検出される操舵角に基づいて右前輪11及び左前輪12のそれぞれの転舵角を変化させる。
【0014】
動力システム30は、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)31と、インバータ装置32と、バッテリ33と、ディファレンシャルギア34とを備えている。
モータジェネレータ31は、互いに独立した第1モータコイル311及び第2モータコイル312を有している。第1モータコイル311及び第2モータコイル312は共に、通電に基づいてモータジェネレータ31の出力軸310にトルクを付与する。モータジェネレータ31では、第1モータコイル311及び第2モータコイル312のいずれか一方を通電することで出力軸310にトルクを付与することができる。第1モータコイル311により出力軸310に付与されるトルクと、第2モータコイル312により出力軸310に付与されるトルクとの合計値が、モータジェネレータ31の出力トルクとなる。本実施形態では、モータコイル311,312がモータ部に相当する。
【0015】
モータジェネレータ31は車両10の加速走行時に電動機として動作する。モータジェネレータ31は、電動機として動作する場合、インバータ装置32から供給される三相交流電力に基づいて駆動する。モータジェネレータ31の動力が、その出力軸310からディファレンシャルギア34及びドライブシャフト36を介して右後輪13及び左後輪14に伝達されることにより後輪13,14にトルクが付与されて車両10が加速走行する。
【0016】
モータジェネレータ31は車両10の減速走行時に発電機として動作することが可能である。モータジェネレータ31は、発電機として動作する場合、回生動作することにより発電する。モータジェネレータ31の回生動作により後輪13,14に制動力がそれぞれ付与される。モータジェネレータ31の回生動作により発電される三相交流電力はインバータ装置32により直流電力に変換されてバッテリ33に充電される。
【0017】
このように、本実施形態の車両10では、右後輪13及び左後輪14が駆動輪として機能し、右前輪11及び左前輪12が従動輪として機能する。以下では、便宜上、右後輪13及び左後輪14をまとめて「駆動輪13,14」とも称する。
インバータ装置32は、第1モータコイル311に対応した第1インバータ回路321aと、第2モータコイル312に対応した第2インバータ回路321bとを有している。第1インバータ回路321a及び第2インバータ回路321bは、バッテリ33から供給される直流電力を三相交流電力に変換するとともに、変換した三相交流電力をモータジェネレータ31の第1モータコイル311及び第2モータコイル312にそれぞれ供給する。
【0018】
制動装置41~44は車両10の車輪11~14にそれぞれ設けられている。制動装置41~44は、例えば車輪11~14と一体となって回転する回転体と、回転体に対向して配置されるブレーキパッドと、ブレーキパッドに油圧力を付与することにより回転体に対してブレーキパッドを接触及び離間させる油圧回路とを備えている。制動装置41~44では、油圧回路の油圧力によりブレーキパッドが回転体に接触することにより回転体に摩擦力が付与されて車輪11~14に制動力が付与される。
【0019】
次に、図2を参照して、車両10の電気的な構成について具体的に説明する。
図2に示されるように、車両10は、アクセルポジションセンサ50と、シフトポジションセンサ51と、加速度センサ52と、車速センサ53と、先行車検知センサ54と、操作部55と、ブレーキポジションセンサ56とを備えている。また、車両10は、各種制御を行う部分として、EV(Electric Vehicle)ECU(Electronic Control Unit)60と、ACC(Adaptive Cruise Control)ECU61と、ブレーキECU62と、MGECU63a,63bとを備えている。これらの要素は本実施形態の制御装置80を構成している。
【0020】
アクセルポジションセンサ50は、車両10のアクセルペダルの踏み込み量を検出するとともに、検出されたアクセルペダルの踏み込み量に応じた信号をEVECU60に出力する。
シフトポジションセンサ51は、車両10のシフトレバーの操作位置を検出するとともに、検出されたシフトレバーの操作位置に応じた信号をEVECU60に出力する。
【0021】
加速度センサ52は、車両10の進行方向の加速度を検出するとともに、検出された加速度に応じた信号をEVECU60に出力する。車両10が進行方向において加速している場合、加速度センサ52は正の加速度を検出する。車両10が進行方向において減速している場合、加速度センサ52は負の加速度を検出する。
【0022】
車速センサ53は、車両10の進行方向の走行速度である車速を検出するとともに、検出された車速に応じた信号をEVECU60及びACCECU61に出力する。
先行車検知センサ54は、車両10の前方を走行する先行車を検知するとともに、検知された先行車の情報をACCECU61に出力する。先行車検知センサ54としては、車両10の前方を撮像することにより先行車を検知する撮像装置や、車両10の前方に放射した電波の反射波に基づいて先行車を検知するミリ波レーダ装置等を用いることができる。
【0023】
操作部55は、車両10の乗員により操作される部分である。操作部55では、例えば先行車に追従させるように車両10の走行を自動的に制御する、いわゆるACC機能のオン及びオフの切り替え操作や、ACC機能がオン状態であるときの車両10の走行速度を設定する操作等を行うことが可能となっている。操作部55は、操作部55に対して行われた操作情報をACCECU61に送信する。
【0024】
ブレーキポジションセンサ56は、車両10のブレーキペダルの操作位置を検出するとともに、検出されたブレーキペダルの操作位置に応じた信号をブレーキECU62に出力する。
各ECU60~62,63a,63bは、CPUやメモリ等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。各ECU60~62,63a,63bは、車両10に搭載されるCAN等の車載ネットワーク70を介して、各種情報を授受することが可能となっている。
【0025】
ACCECU61は、そのメモリに予め記憶されているプログラムを実行することにより車両10のACC制御を実行する。具体的には、ACCECU61は、ACC機能のオン操作を操作部55により検知した場合にACC制御を実行する。
例えば、ACCECU61は、ACC機能がオン操作されている場合には、ACCフラグFaをオン状態に設定した上で、ACCフラグFaをEVECU60に送信する。また、ACCECU61は、ACC機能がオフ操作されている場合には、ACCフラグFaをオフ状態に設定した上で、ACCフラグFaをEVECU60に送信する。EVECU60は、ACCフラグFaがオン状態及びオフ状態のいずれであるかに基づいて、ACC機能がオン状態及びオフ状態のいずれであるかを判定することができる。
【0026】
ACCECU61は、ACC機能がオン操作されている際に、先行車検知センサ54により先行車が検知されていない場合には、第1ACCトルク指令値T21*をACCフラグFaと共にEVECU60に送信する。第1ACCトルク指令値T21*は、操作部55により設定された一定の走行速度で車両10を走行させるためにモータジェネレータ31から出力すべきトルクの目標値である。この第1ACCトルク指令値T21*に基づいてEVECU60がモータジェネレータ31を制御することで、車両10が設定速度で走行するようになる。
【0027】
また、ACCECU61は、ACC機能がオン操作されている際に、先行車検知センサ54により車両10の前方を走行する先行車が検知されている場合には、先行車検知センサ54の検知情報に基づいて先行車の相対速度や相対距離等を演算する。ACCECU61は、先行車の相対速度や相対距離等に基づいて第2ACCトルク指令値T22*を演算するとともに、演算された第2ACCトルク指令値T22*をACCフラグFaと共にEVECU60に送信する。第2ACCトルク指令値T22*は、車両10と先行車との相対距離を所定の距離に維持させるためにモータジェネレータ31から出力すべきトルクの目標値である。第2ACCトルク指令値T22*は、車両10を加速させる必要がある場合には正の値に設定され、車両10を減速させる必要がある場合には負の値に設定される。第2ACCトルク指令値T22*に基づいてEVECU60がモータジェネレータ31を制御することで、車両10が所定の車間距離を維持しつつ先行車に追従するように走行するようになる。
【0028】
このように、ACC機能がオン状態である場合、ACCECU61からEVECU60に、オン状態に設定されたACCフラグFaと共に第1ACCトルク指令値T21*又は第2ACCトルク指令値T22*が送信される。また、ACC機能がオフ状態である場合、ACCECU61からEVECU60に、オフ状態に設定されたACCフラグFaが送信される。本実施形態では、ACCECU61が、車両10のクルーズ制御を実行するクルーズ制御部に相当する。
【0029】
EVECU60は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより車両10の走行状態を統括的に制御する部分である。本実施形態では、EVECU60が統合制御部に相当する。図3に示されるように、EVECU60は、基本トルク指令値演算部600と、トルク指令値調停部601と、トルク指令値分配部602とを有している。
【0030】
基本トルク指令値演算部600には、アクセルポジションセンサ50、シフトポジションセンサ51、及び車速センサ53のそれぞれの出力信号が入力されている。基本トルク指令値演算部600は、それらのセンサの出力信号に基づいてアクセルペダルの踏み込み量AP、シフトポジションSP、及び車速VCの情報を取得する。基本トルク指令値演算部600は、アクセルペダルの踏み込み量AP及び車速VCから基本トルク指令値T10*を演算するための複数のマップを有している。複数のマップは、シフトレバーが操作可能な複数の操作位置のそれぞれに対応して予め用意されている。基本トルク指令値演算部600は、シフトレバーの操作位置の情報に基づいて複数のマップのうちのいずれを用いるかを決定するとともに、決定したマップからアクセルペダルの踏み込み量AP及び車速VCに基づいて基本トルク指令値T10*を演算する。基本トルク指令値演算部600は、演算した基本トルク指令値T10*をトルク指令値調停部601に出力する。
【0031】
トルク指令値調停部601には、基本トルク指令値演算部600により演算される基本トルク指令値T10*と、ACCECU61から送信されるACCフラグFa及びACCトルク指令値T21*,T22*とが入力されている。トルク指令値調停部601は、ACCフラグFaがオフ状態である場合、すなわちACC機能がオフ状態である場合、基本トルク指令値T10*を最終トルク指令値T30*としてトルク指令値分配部602に送信する。一方、トルク指令値調停部601は、ACCフラグFaがオン状態である場合、すなわちACC機能がオン状態である場合、ACCECU61から送信される第1ACCトルク指令値T21*又は第2ACCトルク指令値T22*を最終トルク指令値T30*としてトルク指令値分配部602に送信する。
【0032】
トルク指令値分配部602は、トルク指令値調停部601から送信される最終トルク指令値T30*に基づいて第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*を演算する。第1分配トルク指令値T41*は、モータジェネレータ31の第1モータコイル311により出力すべきトルクの目標値である。第2分配トルク指令値T42*は、モータジェネレータ31の第2モータコイル312により出力すべきトルクの目標値である。トルク指令値分配部602は、第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*の合計値が最終トルク指令値T30*となるように第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*を設定する。例えば、トルク指令値分配部602は、第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*を、最終トルク指令値T30*の半分の値「T30*/2」にそれぞれ設定する。トルク指令値分配部602は、演算した第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*をインバータ装置32に送信する。
【0033】
MGECU63a,63bはインバータ装置32に設けられている。MGECU63a,63bは、互いに独立したマイクロコンピュータにより構成されている。MGECU63a,63bは、トルク指令値分配部602から送信される第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*に基づいてモータジェネレータ31のモータコイル311,312をそれぞれ制御する。
【0034】
具体的には、第1MGECU63aは、第1分配トルク指令値T41*に基づいて通電制御値を演算するとともに、演算された通電制御値に基づいて第1インバータ回路321aを駆動させることにより第1モータコイル311を制御する。同様に、第2MGECU63bは、第2分配トルク指令値T42*に基づいて通電制御値を演算するとともに、演算された通電制御値に基づいて第2インバータ回路321bを駆動させることにより第2モータコイル312を制御する。これにより、第1モータコイル311からモータジェネレータ31の出力軸310に第1分配トルク指令値T41*に応じたトルクが付与されるとともに、第2モータコイル312からモータジェネレータ31の出力軸310に第2分配トルク指令値T42*に応じたトルクが付与される。結果的に、最終トルク指令値T30*に応じたトルクがモータジェネレータ31から出力される。本実施形態では、MGECU63a,63bが、モータコイル311,312を個別に制御するモータ制御部に相当する。
【0035】
以上のような処理が行われることにより、ACC機能がオン状態である場合には、基本トルク指令値T10*よりもACCトルク指令値T21*,T22*が優先されて、第1ACCトルク指令値T21*又は第2ACCトルク指令値T22*に応じたトルクがモータジェネレータ31から出力される。本実施形態では、このEVECU60とACCECU61との協調により実行されるモータジェネレータ31の制御がACC制御に相当する。
【0036】
ブレーキECU62は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより制動装置41~44を制御する。具体的には、ブレーキECU62は、ブレーキポジションセンサ56により検出されるブレーキペダルの操作位置に基づいてブレーキペダルが踏み込まれたことを検知した場合、制動装置41~44を駆動させて各車輪11~14に制動力を付与する。
【0037】
また、ブレーキECU62は、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検知した場合、図3に示されるように制動トルク指令値T60*をEVECU60のトルク指令値調停部601に送信する。制動トルク指令値T60*は、車両10を減速させるためにモータジェネレータ31から出力すべき制動方向のトルクの目標値である。トルク指令値調停部601は、ブレーキECU62から制動トルク指令値T60*が送信された場合には、基本トルク指令値T10*及びACCトルク指令値T21*,T22*よりも制動トルク指令値T60*を優先して、制動トルク指令値T60*を最終トルク指令値T30*としてトルク指令値分配部602に送信する。この最終トルク指令値T30*に基づいてトルク指令値分配部602が第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*を演算するとともに、これらの分配トルク指令値T41*,T42*に基づいてMGECU63a,63bがモータジェネレータ31のモータコイル311,312のそれぞれの通電を制御する。これによりモータジェネレータ31が回生動作する。結果的に、制動トルク指令値T60*に応じた制動力がモータジェネレータ31から駆動輪13,14に付与される。ブレーキECU62は、制動装置41~44を駆動させることにより得られる制動力と、モータジェネレータ31の回生動作により得られる制動力との合計が、車両10に要求される制動力の目標値となるように制動トルク指令値T60*を設定する。以下では、このEVECU60とブレーキECU62との協調により実行されるモータジェネレータ31の回生制御を「回生協調制御」と称する。本実施形態では、ブレーキECU62が、車両10の制動装置41~44を制御するブレーキ制御部に相当する。
【0038】
このように本実施形態の車両10は、モータジェネレータ31のモータコイルが二重系化された構造からなるとともに、モータジェネレータ31を制御するECUも二重系化された構造からなる。さらに、本実施形態の車両10では、MGECU63a,63bの異常の有無を監視する部分も二重系化されている。
【0039】
具体的には、図2に示されるように、インバータ装置32は、第1監視部64aと、第2監視部64bと、第1スイッチング素子322aと、第2スイッチング素子322bとを備えている。
第1スイッチング素子322aは、そのオン及びオフの切り替えに基づいて、第1MGECU63aから第1インバータ回路321aに制御信号を伝送する信号線を接続及び切断する。第2スイッチング素子322bは、そのオン及びオフの切り替えに基づいて、第2MGECU63bから第2インバータ回路321bに制御信号を伝送する信号線を接続及び切断する。
【0040】
第1監視部64aは、第1MGECU63aに異常が生じているか否かを監視している。第2監視部64bは、第2MGECU63bに異常が生じているか否かを監視している。監視部64a,64bは、互いに独立したロジック回路、あるいは互いに独立したマイクロコンピュータ等により構成されている。
【0041】
監視部64a,64bがMGECU63a,63bの異常を検出する方法としては、例えばチェックサムに基づいてマイクロコンピュータのROMやRAMの異常を検出する方法や、ウォッチドック信号に基づいてマイクロコンピュータのCPUの異常を検出する方法等の任意の異常検出方法を用いることができる。
【0042】
第1監視部64aは、第1MGECU63aが正常な場合には、第1スイッチング素子322aをオン状態に維持する。この場合には、第1MGECU63aが第1インバータ回路321aを介してモータジェネレータ31の第1モータコイル311の通電を制御することが可能である。一方、第1監視部64aは、第1MGECU63aの異常が検出された場合、第1スイッチング素子322aをオフ状態にする。この場合には、第1MGECU63aによるモータジェネレータ31の第1モータコイル311の通電制御が禁止される。第2監視部64bは、第2MGECU63bの異常の有無に応じて第2スイッチング素子322bを同様に制御する。
【0043】
また、第1監視部64aは、第1MGECU63aが正常である場合には、「0」に設定された第1異常検出フラグXMG1をEVECU60に送信する。一方、第1監視部64aは、第1MGECU63aの異常を検出した場合には、「1」に設定された第1異常検出フラグXMG1をEVECU60に送信する。第2監視部64bも、同様に、第2MGECU63bの異常の有無に応じた第2異常検出フラグXMG2をEVECU60に送信する。EVECU60は、異常検出フラグXMG1,XMG2のいずれか一方が「1」になった場合、すなわちMGECU63a,63bのいずれか一方に異常が生じた場合には、車両10が安全な場所まで走行できるように正常なMGECUによるモータジェネレータ31の制御を継続する退避走行制御を実行する。
【0044】
このように、本実施形態の車両10では、MGECU63a,63bのいずれかに異常が生じた場合、モータコイル311,312のうち、異常が生じたMGECUに対応した一方のモータコイルの通電制御が禁止される。このようにモータコイル311,312を制御した場合、モータジェネレータ31の出力トルクが実質的に半分となるため、モータジェネレータ31の出力トルクが急変する可能性がある。これは車両10にショック等を発生させる要因となる。
【0045】
また、EVECU60が実行するACC制御や回生協調制御は、モータコイル311,312の両方が正常に動作していることを前提として実行されている。そのため、MGECU63a,63bのいずれかに異常が生じることによりモータジェネレータ31の出力トルクが実質的に半分になると、ACC制御及び回生協調制御が適切に実行されず、結果的に車両10の挙動が不安定になる可能性がある。
【0046】
そこで、本実施形態のEVECU60は、MGECU63a,63bのいずれかに異常が生じた場合には、ACC制御及び回生協調制御の実行を禁止するとともに、出力トルクが急変しないようにモータジェネレータ31を制御する。
次に、図4及び図5を参照して、このEVECU60により実行される処理の手順について説明する。なお、EVECU60は、図4及び図5に示される処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0047】
図4に示されるように、EVECU60の基本トルク指令値演算部600は、まず、ステップS10の処理として、アクセルペダルの踏み込み量AP、シフトポジションSP、及び車速VCの情報に基づいて基本トルク指令値T10*を演算する。
EVECU60のトルク指令値調停部601は、ステップS10に続くステップS11の処理として、異常検出フラグXMG1,XMG2の両方が「0」であるか否かを判断する。EVECU60は、ステップS11の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちMGECU63a,63bが共に正常である場合には、ステップS12,S13の処理としてACC制御及び回生協調制御の実行を許可する。具体的には、トルク指令値調停部601は、ステップS10の処理で得られる基本トルク指令値T10*だけでなく、ACCECU61から送信されるACCフラグFa及びACCトルク指令値T21*,T22*、並びにブレーキECU62から送信される制動トルク指令値T60*に基づいて最終トルク指令値T30*を設定する。
【0048】
一方、トルク指令値調停部601は、ステップS11の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわちMGECU63a,63bのいずれかが異常である場合には、ステップS12,S13の処理を実行しない。この場合、トルク指令値調停部601は、ACCECU61から送信されるACCフラグFa及びACCトルク指令値T21*,T22*、並びにブレーキECU62から送信される制動トルク指令値T60*を用いることなく、基本トルク指令値T10*をそのまま最終トルク指令値T30*に設定する。これにより、ACC制御及び回生協調制御の実行が実質的に禁止される。このように、本実施形態では、MGECU63a,63bのいずれかが異常である場合には、ACC制御及び回生協調制御の実行が禁止されることにより、車両10の挙動が不安定になることを回避する。
【0049】
このようにして最終トルク指令値T30*が設定された後、EVECU60のトルク指令値分配部602は、ステップS14の処理として、第1分配トルク演算値T411及び第2分配トルク演算値T421を設定する。具体的には、トルク指令値分配部602は、第1分配トルク演算値T411及び第2分配トルク演算値T421を、最終トルク指令値T30*の半分の値「T30*/2」にそれぞれ設定する。
【0050】
トルク指令値分配部602は、ステップS14に続くステップS15の処理として、第1異常検出フラグXMG1が「0」であるか否かを判断する。トルク指令値分配部602は、第1異常検出フラグXMG1が「0」である場合、すなわち第1MGECU63aが正常である場合には、ステップS15の処理で肯定的な判断を行って、続くステップS16の処理として、第2異常検出フラグXMG2が「0」であるか否かを判断する。トルク指令値分配部602は、第2異常検出フラグXMG2が「0」である場合、すなわち第2MGECU63bも正常である場合には、ステップS16の処理で肯定的な判断を行って、図5に示されるステップS21以降の処理に移行する。この場合、第1分配トルク演算値T411及び第2分配トルク演算値T421は共に「T30*/2」に設定される。
【0051】
また、トルク指令値分配部602は、ステップS16の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち第2MGECU63bに異常が生じている場合には、ステップS17の処理として、第2分配トルク演算値T421を「0」に設定した後、図5に示されるステップS21以降の処理に移行する。この場合、第1分配トルク演算値T411は「T30*/2」に設定される一方、第2分配トルク演算値T421は「0」に設定される。
【0052】
一方、トルク指令値分配部602は、ステップS15の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち第1MGECU63aに異常が生じている場合には、ステップS18の処理として、第1分配トルク演算値T411を「0」に設定する。続いて、トルク指令値分配部602は、ステップS19の処理として、第2異常検出フラグXMG2が「0」であるか否かを判断する。トルク指令値分配部602は、第2異常検出フラグXMG2が「0」である場合、すなわち第2MGECU63bが正常である場合には、ステップS19の処理で肯定的な判断を行って、図5に示されるステップS21以降の処理に移行する。この場合、第1分配トルク演算値T411は「0」に設定される一方、第2分配トルク演算値T421は「T30*/2」に設定される。
【0053】
さらに、トルク指令値分配部602は、ステップS19の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち第2MGECU63bに異常が生じている場合には、ステップS20の処理として、第2分配トルク演算値T421を「0」に設定した後、図5に示されるステップS21以降の処理に移行する。この場合、第1分配トルク演算値T411及び第2分配トルク演算値T421は共に「0」に設定される。
【0054】
このように、トルク指令値分配部602は、正常なMGECUに対応するトルク指令値を「T30*/2」に設定する一方、異常なMGECUに対応するトルク指令値を「0」に設定する。
図5に示されるように、トルク指令値分配部602は、ステップS21の処理として、第1分配トルク演算値T411の今回値と、第1分配トルク演算値T411の前回値を含む過去の演算値とに基づいて、第1分配トルク演算値T411にローパスフィルタに基づくフィルタリング処理を施すことにより、フィルタ後の第1分配トルク演算値T411fを求める。トルク指令値分配部602は、ステップS21に続くステップS22の処理として、同様に第2分配トルク演算値T421にローパスフィルタに基づくフィルタリング処理を施すことにより、フィルタ後の第2分配トルク演算値T421fを求める。
【0055】
トルク指令値分配部602は、ステップS22に続くステップS23の処理として、第1異常検出フラグXMG1が「1」であるか否かを判断する。トルク指令値分配部602は、ステップS23の処理で肯定的な判断を行った場合には、第1MGECU63aに異常が発生し、且つ第2MGECU63bは正常であると判断する。この場合、トルク指令値分配部602は、続くステップS24の処理として、第1分配トルク指令値T41*を第1分配トルク演算値T411に設定する。また、トルク指令値分配部602は、ステップS25の処理として、フィルタ後の第1分配トルク演算値T411f、第1分配トルク演算値T411、及び第2分配トルク演算値T421から以下の式f1に基づいて第2分配トルク指令値T42*を演算する。
【0056】
T42*=(T411f-T411)+T421 (f1)
一方、トルク指令値分配部602は、ステップS23の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち第1MGECU63aが正常である場合には、ステップS26の処理として第2異常検出フラグXMG2が「1」であるか否かを判断する。トルク指令値分配部602は、ステップS26の処理で肯定的な判断を行った場合には、第2MGECU63bに異常が発生し、且つ第1MGECU63aは正常であると判定する。この場合、トルク指令値分配部602は、続くステップS27の処理として、第2分配トルク指令値T42*を第2分配トルク演算値T421に設定する。また、トルク指令値分配部602は、ステップS28の処理として、フィルタ後の第2分配トルク演算値T421f、第2分配トルク演算値T421、及び第1分配トルク演算値T411から以下の式f2に基づいて第1分配トルク指令値T41*を演算する。
【0057】
T41*=(T421f-T421)+T411 (f2)
トルク指令値分配部602は、ステップS26の処理で否定的な判断を行った場合には、第1MGECU63a及び第2MGECU63bが共に正常であると判定する。この場合、トルク指令値分配部602は、ステップS29の処理として、第1分配トルク指令値T41*を第1分配トルク演算値T411に設定するとともに、ステップS30の処理として、第2分配トルク指令値T42*を第2分配トルク演算値T421に設定する。
【0058】
トルク指令値分配部602は、ステップS25、ステップS28、及びステップS30のいずれかの処理を実行した後、ステップS31の処理として、演算された第1分配トルク指令値T41*及び第2分配トルク指令値T42*を第1MGECU63a及び第1MGECU63aにそれぞれ送信する。
【0059】
次に、図6を参照して、図4及び図5に示される処理を実行した際の第1分配トルク演算値T411、フィルタ後の第1分配トルク演算値T411f、第1分配トルク指令値T41*、第2分配トルク演算値T421、フィルタ後の第2分配トルク演算値T421f、第2分配トルク指令値T42*、及びモータジェネレータ31の出力トルクTmの推移を説明する。
【0060】
例えば図6(G)に示されるように、時刻t1でモータジェネレータ31の出力トルクTmが「Tma」に設定されているとする。このとき、図6(A),(D)に示されるように、第1分配トルク演算値T411及び第2分配トルク演算値T421は「Tma/2」にそれぞれ設定されている。このような状況において、時刻t2で第1MGECU63aに異常が生じたとする。この場合、図6(A)に示されるように、第1分配トルク演算値T411が「Tma/2」から「0」に変更されるとともに、時刻t2以降、第1分配トルク演算値T411が「0」に維持される。これにより、図6(B)に示されるように、フィルタ後の第1分配トルク演算値T411fは時刻t2以降、「0」に向かって収束するように推移する。このとき、第1分配トルク演算値T411は第1分配トルク演算値T411に設定されたままである。よって、図6(C)に示されるように、第1分配トルク指令値T41*は、時刻t2で「0」に設定されるとともに、それ以降「0」に維持される。
【0061】
一方、第2MGECU63bが正常である場合、図6(D),(E)に示されるように、第2分配トルク演算値T421及びフィルタ後の第2分配トルク演算値T421fは、時刻t2以降も「Tma/2」に維持される。この第2分配トルク演算値T421に、図6(A),(B)に示される第1分配トルク演算値T411とフィルタ後の第1分配トルク演算値T411fとの偏差を加算することで、第2分配トルク指令値T42*が求められる。よって、第2分配トルク指令値T42*は、図6(F)に示されるように、時刻t2で一旦「Tma」に上昇した後、「Tma/2」に向かって徐々に減少するように変化する。
【0062】
モータジェネレータ31の出力軸310から出力されるトルクTmは、図6(C)に示される第1分配トルク指令値T41*と、図6(F)に示される第2分配トルク指令値T42*との合計値となる。よって、モータジェネレータ31の出力トルクTmは、時刻t2以前は「Tma」に設定されているが、時刻t2以降、「Tma」から「Tma/2」に向かって徐々に減少する。
【0063】
次に、本実施形態の車両10の動作例について説明する。まず、図7(A)~(F)を参照して、車両10のアクセルペダルが踏み込まれているときに、換言すれば車両10の加速時に第1MGECU63aに異常が生じた場合の車両10の動作例について説明する。
図7(A)に示されるように、例えば時刻t10で運転者が車両10のアクセルペダルの踏み込みを開始して、時刻t11でアクセルペダルの踏み込み量APが所定量AP10に達したとすると、図7(E)に示されるように、アクセルペダルの踏み込み量AP10に応じたトルクTm10がモータジェネレータ31から出力される。この場合、図7(C),(D)に示されるように、モータコイル311,312のそれぞれによりモータジェネレータ31の出力軸310にトルク「Tm10/2」が付与されることで、モータジェネレータ31の出力トルクが「Tm10」となっている。なお、以下では、モータコイル311,312によりモータジェネレータ31の出力軸310に付与されるトルクを「第1モータコイル311の出力トルク」及び「第2モータコイル312の出力トルク」とそれぞれ称する。
【0064】
このような状況において、仮に時刻t12で第1MGECU63aに異常が生じたとすると、第1モータコイル311が停止する。よって、図7(C)に示されるように、第1モータコイル311の出力トルクが「0」になる。このとき、第2モータコイル312の出力トルクが「Tm10/2」に維持されていると、図7(E)に二点鎖線で示されるように、モータジェネレータ31の出力トルクが「Tm10」から「Tm10/2」に急変する。これが車両10にショック等を発生させる要因となる。
【0065】
この点、本実施形態の車両10では、時刻t12で第1MGECU63aの異常が第1監視部64aにより検出されると、その旨がEVECU60に送信される。EVECU60は、第1MGECU63aの異常が検出されると、上記の式f1に基づいて第2分配トルク指令値T42*を演算する。これにより、図7(D)に示されるように、第2モータコイル312の出力トルクは、時刻t12で「Tm10」に上昇した後、「Tm10/2」に向かって徐々に減少する。結果的に、図7(E)に実線で示されるように、モータジェネレータ31の出力トルクが、時刻t12以降、「Tm10」から「Tm10/2」に向かって徐々に減少するようになる。そのため、車両10のショック等を低減することができる。
【0066】
その後、図7(A)に示されるように運転者が時刻t13でアクセルペダルの踏み込みを解除して時刻t14でアクセルペダルの踏み込み量APが「0」になった後、図7(B)に示されるように時刻t15で運転者がブレーキペダルの踏み込みを開始して時刻t16でブレーキペダルがオン状態になったとする。このとき、モータジェネレータ31の回生協調制御がそのまま実行されると、十分な制動力を確保できないおそれがある。
【0067】
具体的には、第1MGECU63a及び第2MGECU63bが共に正常な場合には、第1モータコイル311及び第2モータコイル312が共に回生動作することにより、図7(E)に二点鎖線で示されるような制動力が駆動輪13,14に付与される。ところが、第1MGECU63aの異常により第1モータコイル311が停止している場合、第2モータコイル312のみが回生動作することとなるため、モータジェネレータ31から駆動輪13,14に付与することが可能な制動力が実質的に半分となる。そのため、ブレーキECU62が、回生協調制御に基づいて、図7(F)に二点鎖線で示されるように制動装置41~44の制動力を「FB10」に設定した場合、第1モータコイル311から制動力が発生しない分だけ、駆動輪13,14に付与される制動力が減少することとなる。そのため、十分な制動力を確保できないおそれがある。
【0068】
この点、本実施形態の車両10では、第1MGECU63aの異常が検出された場合には、ACC制御及び回生協調制御の実行が禁止されるため、ブレーキECU62は、制動装置41~44の制動力だけで車両10を停車させるようになる。これにより、図7(F)に示されるように、制動力FB10よりも大きい制動力FB11が制動装置41~44から出力されるようになるため、十分な制動力を確保することができる。
【0069】
次に、図8(A)~(F)を参照して、車両10のブレーキペダルが踏み込まれているときに、換言すれば車両10の減速時に第1MGECU63aに異常が生じた場合の車両10の動作例について説明する。
図8(B)に示されるように、時刻t20で運転者がブレーキペダルを踏み込んで時刻t21でブレーキペダルがオン状態になったとすると、図8(E)に示されるようにモータジェネレータ31からトルク「-Tm20」が出力されるとともに、図8(F)に示されるように制動装置41~44から「-FB20」の制動力が車輪11~14に付与される。これらのモータジェネレータ31の出力トルク「-Tm20」と制動装置41~44の制動力「-FB20」との合力により車両10が減速する。このとき、図8(C),(D)に示されるように、第1モータコイル311及び第2モータコイル312のそれぞれの出力トルクは「-Tm20/2」となっている。
【0070】
このような状況において、仮に時刻t22で第1MGECU63aに異常が生じたとすると、第1モータコイル311が停止する。よって、図8(C)に示されるように、第1モータコイル311の出力トルクが「0」になる。このとき、第2モータコイル312の出力トルクが「-Tm20/2」に維持され、且つ制動装置41~44の制動力が「-FB20」に維持されたままであると、車両10の制動力が実質的に「-Tm20/2」だけ減少することとなる。そのため、意図せずに車両10が加速する等の不都合が生じる可能性がある。
【0071】
この点、本実施形態の車両10では、時刻t22で第1MGECU63aの異常が第1監視部64aにより検出されると、その旨がEVECU60に送信される。EVECU60は、第1MGECU63aの異常が検出されるとACC制御及び回生協調制御の実行を禁止する。これにより、図8(D)に示されるように、第2モータコイル312の出力トルクが「0」に近づく一方、図8(F)に示されるように、制動装置41~44の制動力が「-FB20」よりも大きい「-FB21」に設定される。結果的に制動装置41~44の制動力のみにより車両10を減速させることが可能となるため、意図しない車両10の加速を未然に防止することができる。
【0072】
以上説明した本実施形態の車両10の制御装置80によれば、以下の(1)~(4)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態の制御装置80では、2つの監視部64a,64bが2つのMGECU63a,63bを個別に監視しているため、仮に2つのMGECU63a,63bのいずれかに異常が生じた場合には、その異常が生じたMGECUに対応する監視部により異常が検出される。したがって、2つの監視部64a,64bのうちのいずれにより異常が検出されたかに基づいて、異常が生じたMGECUを特定することができる。また、2つの監視部64a,64bのうちのいずれかの監視部によりMGECU63a,63bの異常が検出されたとき、異常なMGECUによるモータコイルの制御を停止する一方、異常な検出されていない正常なMGECUによるモータコイルの制御を継続する。そのため、2つのMGECUのいずれかに異常が発生した場合であっても車両10の走行を継続することが可能であるため、より的確に退避走行制御を実行することができる。
【0073】
(2)EVECU60は、MGECU63a,63bと、MGECU63a,63bとは別の制御部であるACCECU61及びブレーキECU62とを連携させてACC制御や回生協調制御を実行する。異常が生じたMGECUによるモータコイルの制御を停止した場合、2つのモータコイルの総出力トルク、換言すればモータジェネレータ31の出力トルクTmが低下する。このような状況でACC制御や回生協調制御を継続すると、ACC制御や回生協調制御を適切に実行することができず、結果として車両10の挙動が不安定になる可能性がある。この点、本実施形態のEVECU60は、2つのMGECU63a,63bのうちのいずれかに異常が検出された場合、MGECU63a,63bとACCECU61とを連携させるACC制御、及びMGECU63a,63bとブレーキECU62とを連携させる回生協調制御を禁止するため、車両10の挙動が不安定になることを回避できる。
【0074】
(3)例えば第1MGECU63aに異常が生じた場合、異常な第1MGECU63aにより制御が停止される第1モータコイル311が停止対象モータ部に相当し、正常な第2MGECU63bにより制御が継続される第2モータコイル312が継続対象モータ部に相当する。異常な第1MGECU63aによる第1モータコイル311の制御を停止する際に、正常な第2MGECU63bは、第1モータコイル311の出力を補うように第2モータコイル312を制御する。また、第2MGECU63bに異常が生じた場合であって、且つ第1MGECU63aが正常な場合には、正常な第1MGECU63aは、第2モータコイル312の出力を補うように第1モータコイル311を制御する。この構成によれば、モータジェネレータ31の総出力トルクの急変を回避できるため、車両10の挙動を安定化させ易くなる。
【0075】
(4)異常な第1MGECU63aによる第1モータコイル311の制御を停止する際に、正常な第2MGECU63bは、第1モータコイル311及び第2モータコイル312の総出力トルク、すなわちモータジェネレータ31の出力トルクTmが徐々に変化するように第2モータコイル312を制御する。また、異常な第2MGECU63bによる第2モータコイル312の制御を停止する際に、正常な第1MGECU63aは、モータジェネレータ31の出力トルクTmが徐々に変化するように第1モータコイル311を制御する。この構成によれば、モータジェネレータ31の出力トルクTmの急変を回避することができるため、車両10のショック等を抑制することができる。
【0076】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・実施形態の車両10は、2つのモータ部として、モータジェネレータ31に設けられる2つのモータコイル311,312を有するものであったが、これに代えて、2つのモータジェネレータを備えるものであってもよい。
【0077】
・実施形態の第1監視部64aは、第1MGECU63aに異常が生じた際にその旨をEVECU60に通知するように構成されていたが、これに代えて、第1MGECU63aに異常が生じた際にその旨を第2監視部64bに通知するように構成されていてもよい。この場合、第2監視部64bは、第1MGECU63aの異常が通知された際に、上記の式f1を用いて第2分配トルク指令値T42*を演算する。第2監視部64bに異常が生じた場合にも同様にその旨を第2監視部64bが第1監視部64aに通知するとともに、その通知に基づいて第1監視部64aが上記の式f2を用いて第1分配トルク指令値T41*を演算する。このような構成であっても、上記実施形態と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
【0078】
・実施形態の制御装置80は、モータコイル311,312をそれぞれ制御する2つのモータ制御部としてMGECU63a,63bを有するものであったが、これに代えて、一つのECU内に設けられる2つのコアが2つのモータ制御部としてそれぞれ機能するものであってもよい。
【0079】
・実施形態の制御装置80は、2つのMGECU63a,63bを有するものであったが、3つ以上の複数のMGECUを備えるものであってもよい。また、制御装置80は、3つ以上の複数のMGECUのそれぞれに対応する3つ以上の監視部を有するものであってもよい。
・各実施形態の制御装置80の構成は、電動車両10に限らず、電動機を動力源とする任意の移動体、例えば上空を移動する垂直離着陸機等のモビリティにも適用可能である。
【0080】
・本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0081】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0082】
10:車両(移動体)
60:EVECU(統合制御部)
61:ACCECU(クルーズ制御部)
62:ブレーキECU(ブレーキ制御部)
63a,63b:MGECU(モータ制御部)
64a,64b:監視部
80:制御装置
311,312:モータコイル(モータ部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8