IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-移動体の制御装置 図1
  • 特許-移動体の制御装置 図2
  • 特許-移動体の制御装置 図3
  • 特許-移動体の制御装置 図4
  • 特許-移動体の制御装置 図5
  • 特許-移動体の制御装置 図6
  • 特許-移動体の制御装置 図7
  • 特許-移動体の制御装置 図8
  • 特許-移動体の制御装置 図9
  • 特許-移動体の制御装置 図10
  • 特許-移動体の制御装置 図11
  • 特許-移動体の制御装置 図12
  • 特許-移動体の制御装置 図13
  • 特許-移動体の制御装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】移動体の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/14 20060101AFI20240319BHJP
   B60L 58/15 20190101ALI20240319BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240319BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240319BHJP
【FI】
B60L7/14
B60L58/15
B60L15/20 J
B60L3/00 S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020119785
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016826
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第97/010967(WO,A1)
【文献】特開2017-047823(JP,A)
【文献】国際公開第2010/089889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動用の動力源として動作するモータ(31)と、前記モータへの電力の供給及び前記モータの回生駆動により発電される電力の充電を行うバッテリ(33)とを有し、前記モータの回生駆動と制動装置(41,42,43,44)の作動とにより制動力を得ることが可能な移動体(10)に設けられる制御装置(80)であって、
前記制動装置の異常を検出する異常検出部(61)と、
前記モータを制御するモータ制御部(60)と、を備え、
前記制動装置が正常であるときに前記モータの回生駆動により発生する回生トルクを通常回生トルクとするとき、
前記モータ制御部は、
前記異常検出部により前記制動装置の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間、前記バッテリの充電状態に関わらず、前記通常回生トルクよりも大きい非常時回生トルクが発生するように前記モータを回生駆動させ
前記制動装置の異常が検出された時点からの経過時間又は前記モータの回生発電電力に基づいて前記モータの回生トルクを変化させる
移動体の制御装置。
【請求項2】
移動用の動力源として動作するモータ(31)と、前記モータへの電力の供給及び前記モータの回生駆動により発電される電力の充電を行うバッテリ(33)とを有し、前記モータの回生駆動と制動装置(41,42,43,44)の作動とにより制動力を得ることが可能な移動体(10)に設けられる制御装置(80)であって、
前記制動装置の異常を検出する異常検出部(61)と、
前記モータを制御するモータ制御部(60)と、を備え、
前記制動装置が正常であるときに前記モータの回生駆動により発生する回生トルクを通常回生トルクとするとき、
前記モータ制御部は、
前記異常検出部により前記制動装置の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間、前記バッテリの充電状態に関わらず、前記通常回生トルクよりも大きい非常時回生トルクが発生するように前記モータを回生駆動させ、
前記猶予時間よりも短い時間を停車判定時間とするとき、
前記モータ制御部は、前記制動装置の異常が検出された時点から前記停車判定時間が経過したとき、前記移動体を減速させて停車させるように前記モータを回生駆動させる
動体の制御装置。
【請求項3】
前記移動体のアクセルペダルの操作量を検出するアクセルポジション検出部(50)を更に備え、
前記モータ制御部は、前記アクセルポジション検出部により検出される前記アクセルペダルの操作量に基づいて、前記移動体の減速度を設定する
請求項に記載の移動体の制御装置。
【請求項4】
前記モータ制御部は、前記制動装置の異常が検出された時点以降に前記モータの回生駆動により発電された回生発電電力に基づいて前記停車判定時間を変化させる
請求項又はに記載の移動体の制御装置。
【請求項5】
移動用の動力源として動作するモータ(31)と、前記モータへの電力の供給及び前記モータの回生駆動により発電される電力の充電を行うバッテリ(33)とを有し、前記モータの回生駆動と制動装置(41,42,43,44)の作動とにより制動力を得ることが可能な移動体(10)に設けられる制御装置(80)であって、
前記制動装置の異常を検出する異常検出部(61)と、
前記モータを制御するモータ制御部(60)と、
前記バッテリを制御するバッテリ制御部(63)と、備え、
前記バッテリ制御部は、前記バッテリが過充電状態になる可能性があると判断したときに、前記モータから前記バッテリへの回生駆動を制限するように前記モータ制御部に対して要求するものであって、
前記制動装置が正常であるときに前記モータの回生駆動により発生する回生トルクを通常回生トルクとするとき、
前記モータ制御部は、前記異常検出部により前記制動装置の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間、前記バッテリ制御部からの要求を無視しつつ、前記通常回生トルクよりも大きい非常時回生トルクが発生するように前記モータを回生駆動させる
動体の制御装置。
【請求項6】
前記モータ制御部は、前記制動装置の異常が検出された時点以降に前記モータの回生駆動により発電された回生発電電力に基づいて前記猶予時間を変化させる
請求項に記載の移動体の制御装置。
【請求項7】
前記モータ制御部は、前記制動装置の異常が検出された時点から前記猶予時間が経過するまでの期間、前記バッテリの電力供給対象である電気負荷の消費電力量を増加させる
請求項1~のいずれか一項に記載の移動体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両がある。特許文献1に記載の車両は、車両を走行させるためのモータと、モータを制御する制御装置とを備えている。制御装置は、車両の制動装置の異常を検出すると、モータを回生駆動させることにより車両に制動力を発生させて、車両を停車させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6064375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、制動装置の異常を検出した際に、仮にバッテリの充電状態が満充電、あるいはそれに近い状態でモータを回生駆動させると、バッテリが過充電状態になるおそれがある。バッテリの過充電状態が継続すると、バッテリの寿命が著しく低下したり、悪くするとバッテリが機能しなくなったりする等、想定される最悪の異常が生じる懸念がある。
なお、このような課題は、車両に限らず、モータの動力に基づいて移動する移動体に共通する課題である。
【0005】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制動装置に異常が発生した際に、バッテリの最悪の異常を回避しつつ移動体を停止させることが可能な制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する制御装置(80)は、走行用の動力源として動作するモータ(31)と、モータへの電力の供給及びモータの回生駆動により発電される電力の充電を行うバッテリ(33)とを有し、モータの回生駆動と制動装置(41,42,43,44)の作動とにより制動力を得ることが可能な移動体(10)に設けられる。制御装置は、制動装置の異常を検出する異常検出部(61)と、モータを制御するモータ制御部(60)と、を備える。制動装置が正常であるときにモータの回生駆動により発生する回生トルクを通常回生トルクとするとき、モータ制御部は、異常検出部により制動装置の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間、バッテリの充電状態に関わらず、通常回生トルクよりも大きい非常時回生トルクが発生するようにモータを回生駆動させ、制動装置の異常が検出された時点からの経過時間又はモータの回生発電電力に基づいてモータの回生トルクを変化させる
上記課題を解決する他の制御装置(80)は、走行用の動力源として動作するモータ(31)と、モータへの電力の供給及びモータの回生駆動により発電される電力の充電を行うバッテリ(33)とを有し、モータの回生駆動と制動装置(41,42,43,44)の作動とにより制動力を得ることが可能な移動体(10)に設けられる。制御装置は、制動装置の異常を検出する異常検出部(61)と、モータを制御するモータ制御部(60)と、を備える。制動装置が正常であるときにモータの回生駆動により発生する回生トルクを通常回生トルクとするとき、モータ制御部は、異常検出部により制動装置の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間、バッテリの充電状態に関わらず、通常回生トルクよりも大きい非常時回生トルクが発生するようにモータを回生駆動させ、猶予時間よりも短い時間を停車判定時間とするとき、モータ制御部は、制動装置の異常が検出された時点から停車判定時間が経過したとき、移動体を減速させて停車させるようにモータを回生駆動させる。
上記課題を解決する他の制御装置(80)は、走行用の動力源として動作するモータ(31)と、モータへの電力の供給及びモータの回生駆動により発電される電力の充電を行うバッテリ(33)とを有し、モータの回生駆動と制動装置(41,42,43,44)の作動とにより制動力を得ることが可能な移動体(10)に設けられる。制御装置は、制動装置の異常を検出する異常検出部(61)と、モータを制御するモータ制御部(60)と、バッテリを制御するバッテリ制御部(63)と、を備える。バッテリ制御部は、バッテリが過充電状態になる可能性があると判断したときに、モータからバッテリへの回生駆動を制限するようにモータ制御部に対して要求するものである。制動装置が正常であるときにモータの回生駆動により発生する回生トルクを通常回生トルクとするとき、モータ制御部は、異常検出部により制動装置の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間、バッテリ制御部からの要求を無視しつつ、通常回生トルクよりも大きい非常時回生トルクが発生するようにモータを回生駆動させる。
【0007】
バッテリは、過充電状態になった時点で即座に異常をきたすものではなく、実際には過充電状態になった後に最悪の異常が生じるまでには、ある程度の時間的な猶予がある。そのため、上記構成のように、制動装置の異常が検出された際に、その異常が検出された時点から所定の猶予時間が経過するまでの期間にモータを回生駆動させれば、仮にバッテリが過充電状態であったとしても、バッテリに最悪の異常が発生することを回避しつつ、制動力を得ることができる。よって、移動体を停止させることが可能である。
【0008】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の制御装置によれば、制動装置に異常が発生した際に、バッテリの最悪の異常を回避しつつ移動体を停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態の車両の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態のEVECUの構成を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態のEVECUにより用いられる、アクセルペダルの操作量AP、シフトポジションSP、車速VCから基本トルク指令値T10*を演算するためのマップである。
図5図5は、第1実施形態のEVECUにより用いられる、車速VCと最終トルク指令値T20*との関係を示すマップである。
図6図6は、第1実施形態のEVECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、第1実施形態のEVECUにより実行されるフェイルセーフ制御の手順を示すフローチャートである。
図8図8は、第1実施形態のEVECUにより用いられる、アクセルペダルの踏み込み量APと最終トルク指令値T20*との関係を示すマップである。
図9図9(A)~(G)は、第1実施形態の車両におけるバッテリのSOC値、アクセルペダルの踏み込み量AP、車速VC、車両10の制動力、最終トルク指令値T20*、通電デューティ値の下限値DMmin、及びカウンタCの推移を示すタイミングチャートである。
図10図10は、第2実施形態のEVECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図11図11は、第2実施形態のEVECUにより用いられる、バッテリの充電電流値Ibと所定値ΔCとの関係を示すマップである。
図12図12は、第3実施形態のEVECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図13図13は、第3実施形態のEVECUにより実行される最終トルク指令値の設定処理の手順を示すフローチャートである。
図14図14は、第3実施形態のEVECUにより用いられる、カウンタCと係数Kwinとの関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両の制御装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
はじめに、第1実施形態の制御装置が搭載される車両の概略構成について説明する。
【0012】
図1に示される本実施形態の車両10は、モータジェネレータ31を動力源として走行する、いわゆる電動車両である。本実施形態では、車両10が移動体に相当し、車両10の走行及び停車が移動体の移動及び停止に相当する。図1に示されるように、車両10は、ステアリング装置20と、動力システム30と、制動装置41~44とを備えている。
ステアリング装置20は、運転者により操作されるステアリングホイール21と車輪11,12とが機械的に連結されていない、いわゆるステアバイワイヤ式の構成を有している。ステアリング装置20は操舵角センサ22と転舵装置23とを備えている。操舵角センサ22は、ステアリングホイール21の回転角度である操舵角を検出する。転舵装置23は、操舵角センサ22により検出される操舵角に基づいて右前輪11及び左前輪12のそれぞれの転舵角を変化させる。
【0013】
動力システム30は、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)31と、インバータ装置32と、バッテリ33と、ディファレンシャルギア34とを備えている。
インバータ装置32は、バッテリ33から供給される直流電力を三相交流電力に変換するとともに、変換した三相交流電力をモータジェネレータ31に供給する。
【0014】
モータジェネレータ31は車両10の加速走行時に電動機として動作する。モータジェネレータ31は、電動機として動作する場合、インバータ装置32から供給される三相交流電力に基づいて駆動する。モータジェネレータ31の動力が、その出力軸310からディファレンシャルギア34及びドライブシャフト35を介して右後輪13及び左後輪14に伝達されることにより後輪13,14にトルクが付与されて車両10が加速走行する。
【0015】
モータジェネレータ31は車両10の減速走行時に発電機として動作することが可能である。モータジェネレータ31は、発電機として動作する場合、回生駆動することにより発電する。モータジェネレータ31の回生駆動により後輪13,14に制動力がそれぞれ付与される。モータジェネレータ31の回生駆動により発電される三相交流電力はインバータ装置32により直流電力に変換されてバッテリ33に充電される。
【0016】
このように、本実施形態の車両10では、右後輪13及び左後輪14が駆動輪として機能し、右前輪11及び左前輪12が従動輪として機能する。以下では、便宜上、右後輪13及び左後輪14をまとめて「駆動輪13,14」とも称する。
制動装置41~44は車両10の車輪11~14にそれぞれ設けられている。制動装置41~44は、例えば車輪11~14と一体となって回転する回転体と、回転体に対向して配置されるブレーキパッドと、ブレーキパッドに油圧力を付与することにより回転体に対してブレーキパッドを接触及び離間させる油圧回路とを備えている。制動装置41~44では、油圧回路の油圧力によりブレーキパッドが回転体に接触することで回転体に摩擦力が付与されて車輪11~14に制動力が付与される。
【0017】
次に、図2を参照して、車両10の電気的な構成について具体的に説明する。
図2に示されるように、車両10は、アクセルポジションセンサ50と、シフトポジションセンサ51と、加速度センサ52と、車速センサ53と、ブレーキポジションセンサ54と、報知装置55とを備えている。また、車両10は、各種制御を行う部分として、EV(Electric Vehicle)ECU(Electronic Control Unit)60と、ブレーキECU61と、MGECU62と、BMU(Battery Management Unit)63とを備えている。これらの要素は本実施形態の制御装置80を構成している。本実施形態では、EVECU60がモータ制御部に相当する。
【0018】
アクセルポジションセンサ50は、車両10のアクセルペダルの操作量を検出するとともに、検出されたアクセルペダルの操作量に応じた信号をEVECU60に出力する。本実施形態では、アクセルポジションセンサ50がアクセルポジション検出部に相当する。
シフトポジションセンサ51は、車両10のシフトレバーの操作位置を検出するとともに、検出されたシフトレバーの操作位置に応じた信号をEVECU60に出力する。
【0019】
加速度センサ52は、車両10の進行方向の加速度を検出するとともに、検出された加速度に応じた信号をEVECU60に出力する。
車速センサ53は、車両10の進行方向の走行速度である車速を検出するとともに、検出された車速に応じた信号をEVECU60に出力する。
【0020】
ブレーキポジションセンサ54は、車両10のブレーキペダルの操作位置を検出するとともに、検出されたブレーキペダルの操作位置に応じた信号をブレーキECU61に出力する。
報知装置55は、車内及び車外に対して報知を行う装置である。報知装置55は、例えば車室内に音を発することにより車内に対して報知を行うスピーカ装置や、ハザードランプ及びブレーキランプの点灯により車外に対して報知を行う点灯装置等である。
【0021】
各ECU60~63は、CPUやメモリ等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。各ECU60~63は、車両10に搭載されるCAN等の車載ネットワーク70を介して、各種情報を授受することが可能となっている。
ブレーキECU61は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより制動装置41~44を制御する。例えば、ブレーキECU61は、ブレーキポジションセンサ54により検出されるブレーキペダルの操作位置に基づいてブレーキペダルが踏み込まれたことを検知した場合、制動装置41~44を駆動させて各車輪11~14に制動力を付与する。
【0022】
また、ブレーキECU61は、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検知した場合、制動トルク指令値T30*をEVECU60に送信する。制動トルク指令値T30*は、車両10を減速させるためにモータジェネレータ31から出力すべき制動方向のトルクの目標値である。ブレーキECU61は、制動装置41~44を駆動させることにより得られる制動力と、モータジェネレータ31の回生駆動により得られる制動力との合計が、車両10に要求される制動力の目標値となるように制動トルク指令値T30*を設定する。この制動トルク指令値T30*に基づいてEVECU60がモータジェネレータ31を回生駆動させることにより、モータジェネレータ31から駆動輪13,14に制動力が付与される。
【0023】
EVECU60は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより車両10の走行状態を統括的に制御する部分である。図3に示されるように、EVECU60は、基本トルク指令値演算部600と、トルク指令値調停部601とを有している。
基本トルク指令値演算部600には、アクセルポジションセンサ50、シフトポジションセンサ51、及び車速センサ53のそれぞれの出力信号が入力されている。基本トルク指令値演算部600は、それらのセンサの出力信号に基づいてアクセルペダルの操作量AP、シフトポジションSP、及び車速VCの情報を取得するとともに、それらの情報から図4に示されるマップを用いて基本トルク指令値T10*を演算する。基本トルク指令値T10*は、モータジェネレータ31から出力すべきトルクの目標値である。例えば車両10を加速させる場合、換言すればモータジェネレータ31を駆動させる場合、基本トルク指令値T10*は正の値に設定される。車両10を減速させる場合、換言すればモータジェネレータ31を回生動作させる場合、基本トルク指令値T10*は負の値に設定される。基本トルク指令値演算部600は、演算した基本トルク指令値T10*をトルク指令値調停部601に出力する。
【0024】
トルク指令値調停部601は、ブレーキECU61から制動トルク指令値T30*が送信されていない場合には、基本トルク指令値T10*を最終トルク指令値T20*としてインバータ装置32に送信する。
トルク指令値調停部601は、ブレーキECU61から制動トルク指令値T30*が送信されている場合には、基本トルク指令値T10*よりも制動トルク指令値T30*を優先して、制動トルク指令値T30*を最終トルク指令値T20*としてインバータ装置32に送信する。制動トルク指令値T30*は、負の値、すなわちモータジェネレータ31を回生駆動させる値に設定されている。
【0025】
MGECU62はインバータ装置32に設けられている。MGECU62は、トルク指令値調停部601から送信される最終トルク指令値T20*に基づいてモータジェネレータ31を制御する。具体的には、MGECU62は、最終トルク指令値T20*に基づいて通電デューティ値DMを演算するとともに、演算された通電デューティ値DMに基づいてインバータ装置32を駆動させることによりモータジェネレータ31を制御する。なお、通電デューティ値DMは、「-100[%]≦DM≦100[%]」の範囲で設定される。通電デューティ値DMが「0[%]<DM≦100[%]」である場合、モータジェネレータ31はバッテリ33の電力を消費して駆動する。通電デューティ値DMが「-100[%]≦DM<0[%]」である場合、モータジェネレータ31は回生駆動する。
【0026】
以上により、ブレーキECU61からEVECU60に制動トルク指令値T30*が送信されていない場合には、基本トルク指令値T10*に応じた駆動トルク又は回生トルクがモータジェネレータ31から出力される。なお、駆動トルクとは、電力の供給によりモータジェネレータ31から出力されるトルクであって、車両10を加速させることが可能なトルクである。回生トルクとは、モータジェネレータ31の回生駆動により発生するトルクであって、車両10を減速させることが可能なトルクである。一方、ブレーキECU61からEVECU60に制動トルク指令値T30*が送信されている場合には、制動トルク指令値T30*に応じた回生トルクがモータジェネレータ31から出力される。
【0027】
図2に示されるように、BMU63は、バッテリ33のSOC(State Of Charge)値を検出するとともに、検出されたSOC値に基づいてバッテリ33の状態を管理している。なお、SOC値は、バッテリ33の完全放電状態を「0[%]」と定義し、バッテリ33の満充電状態を「100[%]」と定義した上で、バッテリ33の充電状態を「0[%]~100[%]」の範囲で表したものである。本実施形態では、BMU63がバッテリ制御部に相当する。
【0028】
ところで、バッテリ33が満充電、あるいは満充電に近い状態である場合、モータジェネレータ31の回生駆動によりバッテリ33の充電が行われると、バッテリ33が過充電状態となる。バッテリ33の過充電状態が継続すると、バッテリ33の寿命が著しく低下したり、悪くするとバッテリが機能しなくなったりする等、想定される最悪の異常が生じる懸念があるため、好ましくない。そこで、本実施形態BMU63は、そのような状況に至った場合には、バッテリの過充電を回避するために充電量制限要求をEVECU60に対して行う。
【0029】
具体的には、BMU63は、バッテリ33のSOC値が所定値以上であるか否かを監視しており、バッテリ33のSOC値が所定値以上である場合、バッテリ33が満充電、あるいは満充電に近い状態であると判定する。BMU63は、バッテリ33が満充電、あるいは満充電に近い状態である場合、モータジェネレータ31からバッテリ33への回生発電を制限するようにEVECU60に対して要求する。本実施形態では、この要求が充電量制限要求に相当する。図3に示されるように、このEVECU60から送信される充電量制限要求はEVECU60のトルク指令値調停部601により受信される。トルク指令値調停部601は、充電量制限要求を受信すると、モータジェネレータ31の回生発電量が制限されるように、あるいはモータジェネレータ31の回生駆動が禁止されるように、最終トルク指令値T20*を設定する。この最終トルク指令値T20*に基づいてMGECU62がモータジェネレータ31を制御することにより、モータジェネレータ31の回生発電量が制限、あるいはモータジェネレータ31の回生駆動そのものが禁止されるため、モータジェネレータ31の過充電を抑制することができる。結果的に、上述したような最悪の異常がバッテリ33に発生することを回避できる。
【0030】
また、ブレーキECU61は、制動装置41~44の動作を監視している。本実施形態では、ブレーキECU61が、モータジェネレータ31の異常を検出する異常検出部に相当する。ブレーキECU61は、制動装置41~44の異常を検出した場合には、制動装置41~44の作動を禁止するとともに、その旨の異常検出通知をEVECU60に送信する。EVECU60は、ブレーキECU61から送信される異常検出通知を受信すると、車両10を減速させる際にモータジェネレータ31の回生トルクを増加させる回生トルク補正制御を実行する。
【0031】
より詳細には、EVECU60のトルク指令値調停部601は、制動装置41~44が正常な場合であって、且つブレーキペダルが踏み込まれていない場合には、基本トルク指令値T10*を最終トルク指令値T20*に設定する。上述の通り、基本トルク指令値T10*は、図4に示されるマップに基づいてアクセルペダルの操作量AP、シフトポジションSP、及び車速VCから演算される。図4に示されるマップに基づいて基本トルク指令値T10*が設定されることにより、例えばアクセルペダルの操作量APが「0」である場合には、すなわち車両10の減速時には、最終トルク指令値T20*が図5に実線で示されるように設定される。結果的に、モータジェネレータ31の回生トルクが車速VCに応じて図5に実線で示されるように変化する。以下では、便宜上、図5に実線で示されるようなモータジェネレータ31の回生トルクを「通常回生トルクTBa」と称する。通常回生トルクTBaは、例えば「-0.2[G]」に相当する減速トルクである。
【0032】
一方、EVECU60のトルク指令値調停部601は、制動装置41~44が異常な場合には、モータジェネレータ31の回生駆動により車両10を減速又は停車させることができるように最終トルク指令値T20*を補正する。例えば、トルク指令値調停部601は、アクセルペダルの操作量APが「0」である時に最終トルク指令値T20*を図5に一点鎖線で示される非常時回生トルクTBbに設定する。非常時回生トルクTBbは、通常回生トルクTBaより大きい回生トルクであって、例えばモータジェネレータ31において設定可能な回生トルクの最大値である。非常時回生トルクTBbは、例えば「-0.4[G]」に相当する減速トルクである。最終トルク指令値T20*が非常時回生トルクTBbに設定されることで、モータジェネレータ31の回生トルクが増加するため、仮に制動装置41~44の異常により制動装置41~44から車輪11~14に付与することが可能な制動力が不足するような状況、あるいは制動装置41~44から車輪11~14に制動力を付与することができない状況であっても、より確実に車両10を減速又は停車させることができる。
【0033】
ところで、バッテリ33の過充電を回避するためにBMU63がEVECU60に対して充電量の制限を要求している場合、EVECU60は、モータジェネレータ31の回生発電量が増加するような回生トルク補正制御を実行することができない、あるいは回生トルク補正制御の実行に大きな制限が加わる可能性がある。よって、適切に車両10を減速させることができない等の不都合が生じる可能性がある。
【0034】
一方、バッテリ33が過充電状態になった時点から、想定される最悪の異常が生じるまでには、ある程度の時間的な猶予がある。換言すれば、この猶予時間内であれば、モータジェネレータ31を回生駆動させたとしても、バッテリ33に最悪の異常が生じる可能性は低い。これを利用し、本実施形態のEVECU60は、制動装置41~44に異常が生じた際に、その異常が検出された時点から所定時間が経過するまでの期間は、BMU63からの要求に基づくバッテリ33の充電量の制限を回避しつつ、モータジェネレータ31を回生駆動する。
【0035】
次に、図6及び図7を参照して、このEVECU60により実行される処理の手順について具体的に説明する。なお、EVECU60は、図6に示される処理を所定の周期で繰り返し実行する。また、図6及び図7の処理で用いられる強制停車フラグXFEの初期値は「0」に設定されている。
【0036】
図6に示されるように、EVECU60のトルク指令値調停部601は、まず、ステップS10の処理として、最終トルク指令値T20*を設定する。具体的には、トルク指令値調停部601は、制動装置41~44が正常な場合には、基本トルク指令値T10*又は制動トルク指令値T30*に基づいて最終トルク指令値T20*を設定する。これにより、例えばアクセルペダルの操作量APが「0」である場合には、最終トルク指令値T20*が図5に実線で示される通常回生トルクTBaに設定される。一方、トルク指令値調停部601は、制動装置41~44に異常が生じている場合には、モータジェネレータ31の回生トルクが増加するように最終トルク指令値T20*を補正する。例えば、トルク指令値調停部601は、最終トルク指令値T20*を、図5に一点鎖線で示される非常時回生トルクTBbに設定する。
【0037】
EVECU60は、ステップS10に続くステップS11の処理として、ブレーキ異常フラグXFBが「1」であるか否かを判断する。ブレーキECU61は、制動装置41~44が正常である場合、「0」に設定されているブレーキ異常フラグXFBをEVECU60に送信する。ブレーキECU61は、制動装置41~44に異常が発生した場合、「1」に設定されているブレーキ異常フラグXFBをEVECU60に送信する。EVECU60は、このようにブレーキECU61から送信されるブレーキ異常フラグXFBに基づいてステップS11の処理を実行する。
【0038】
具体的には、EVECU60は、ブレーキ異常フラグXFBが「0」である場合、すなわち制動装置41~44が正常な場合には、ステップS11の処理で否定的な判断を行う。この場合、EVECU60は、ステップS20の処理として、制限復帰カウンタCを「0」に設定するとともに、ステップS21の処理として、BMU63からバッテリ33の充電量の制限が要求されているか否かを判断する。EVECU60は、ステップS21の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわちBMU63からバッテリ33の充電量の制限が要求されていない場合には、図6に示される処理を一旦終了する。この場合には、基本トルク指令値T10*又は制動トルク指令値T30*に応じたトルクがモータジェネレータ31から出力される。
【0039】
EVECU60がステップS21の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちBMU63からバッテリ33の充電量の制限が要求されている場合には、EVECU60のトルク指令値調停部601は、ステップS22の処理として、ステップS10の処理で設定された最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinよりも小さいか否かを判断する。制限トルク指令値TWinは、BMU63からEVECU60に対して充電量制限要求が行われた際にバッテリ33の過充電を回避するためにモータジェネレータ31の回生トルクに対して設けられている制限値である。制限トルク指令値TWinは、予め設定されており、EVECU60のROMに記憶されている。制限トルク指令値TWinは例えば「0」に設定される。トルク指令値調停部601は、ステップS22の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわち最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinよりも小さい場合には、ステップS23の処理として、最終トルク指令値T20*を制限トルク指令値TWinに設定した後、ステップS30の処理に移行する。この場合、制限トルク指令値TWinに応じた回生トルクがモータジェネレータ31から出力される、あるいはモータジェネレータ31から回生トルクが出力されない。結果的に、モータジェネレータ31の回生発電量が制限されるため、バッテリ33の過充電が抑制される。
【0040】
トルク指令値調停部601は、ステップS22の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWin以上である場合には、ステップS23の処理を実行することなくステップS30の処理に移行する。この場合には、モータジェネレータ31のトルクを制限する必要がないため、基本トルク指令値T10*又は制動トルク指令値T30*に応じたトルクがモータジェネレータ31から出力される。
【0041】
EVECU60は、ステップS30の処理として、フェイルセーフ制御を実行する。このフェイルセーフ制御の処理手順は図7に示される通りである。
図6に示されるように、EVECU60は、ステップS31の処理として、ブレーキ異常フラグXFBが「1」であるか否かを判断する。図6に示されるステップS11の処理で否定的な判断が行われた後にステップS30の処理が実行された場合には、ブレーキ異常フラグXFBは「0」に設定されている。したがって、この場合には、EVECU60は、ステップS31の処理で否定的な判断を行う。そのため、EVECU60は、図7に示される制御を終了した後、図6に示される処理を一旦終了する。
【0042】
一方、EVECU60は、ステップS11の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちブレーキ異常フラグXFBが「1」である場合には、制動装置41~44に異常が生じたと判定する。この場合、EVECU60は、ステップS12の処理として、制限復帰カウンタCの値をインクリメントする。EVECU60は、ステップS12に続くステップS13の処理として、制限復帰カウンタCの値が第1所定値Cth11以上であるか否かを判断する。本実施形態では、バッテリ33が過充電状態になった時点から最悪の異常が生じるまでの猶予時間TGが予め実験等により求められている。猶予時間TGよりも短い時間を停車判定時間T11とするとき、第1所定値Cth11は、制動装置41~44の異常が検出された時点から停車判定時間T11が経過したか否かを判断することができる値に設定されており、EVECU60のROMに予め記憶されている。停車判定時間T11は、車両を強制的に停車させるべき時期であるか否かを判定するための時間であって、例えば「20分」に設定されている。
【0043】
制動装置41~44の異常が検出された初期の時点では、制限復帰カウンタCの値は第1所定値Cth11よりも小さい。したがって、EVECU60は、ステップS13の処理で否定的な判断を行う。この場合、EVECU60は、ステップS14の処理として、消費電力量増加制御を実行する。EVECU60は、BMU63からバッテリ33の充電量の制限が要求されている場合には、満充電又は満充電に近い状態であるバッテリ33の充電電力量を低下させるために、車両10においてバッテリ33の電力供給対象となっている電気負荷の消費電力量を増加させる消費電力量増加制御を実行する。例えば、EVECU60は、車両10のライト装置を自動的に点灯させることによりバッテリ33の充電電力量を低下させる。なお、EVECU60は、モータジェネレータ31の電力効率を敢えて低下させることによりバッテリ33の充電電力量を低下させてもよい。
【0044】
EVECU60は、ステップS14の処理を実行した後、ステップS30の処理として、図7に示されるフェイルセーフ制御を実行する。このとき、ブレーキ異常フラグXFBは「1」に設定されるとともに、強制停車フラグXFEは「0」に設定されている。したがって、図7に示されるように、EVECU60は、ステップS31の処理、すなわちブレーキ異常フラグXFBが「1」であるか否かを判断する処理を実行すると、その処理で肯定的な判断を行う。続いて、EVECU60は、ステップS32の処理、すなわち強制停車フラグXFEが「1」であるか否かを判断する処理を実行すると、その処理で否定的な判断を行う。結果的に、EVECU60は、図7に示される処理を終了して、図6に示される処理を一旦終了する。
【0045】
その後、制動装置41~44の異常が検出された時点から停車判定時間が経過すると、EVECU60は、図6に示されるステップS13の処理で肯定的な判断を行うようになる。この場合、EVECU60は、ステップS15の処理として、制限復帰カウンタCの値が第2所定値Cth12以上であるか否かを判断する。第2所定値Cth12は、制動装置41~44の異常が検出された時点から所定の猶予時間T12が経過したか否かを判断することができる値に設定されており、EVECU60のROMに予め記憶されている。猶予時間T12は、例えば「30分」に設定される。
【0046】
EVECU60は、ステップS15の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち制限復帰カウンタCの値が第2所定値Cth12未満である場合には、ステップS16の処理として、強制停車フラグXFEを「1」に設定した後、ステップS14の消費電力量増加制御、及びステップS15のフェイルセーフ制御を実行する。この場合、図7に示されるように、EVECU60は、ステップS31の処理で肯定的な判断を行うとともに、ステップS32の処理でも肯定的な判断を行う。したがって、EVECU60は、ステップS33の処理として、車両10を強制的に停車させるために、アクセルペダルの操作量APに基づく減速制御を実行する。具体的には、EVECU60は、図8に示されるようなアクセルペダルの操作量APと最終トルク指令値T20*との関係を示すマップを有しており、図8に示されるマップに基づいてアクセルペダルの操作量APから最終トルク指令値T20*を演算する。図8に示されるマップでは、アクセルペダルの操作量APが「0」付近である場合には、すなわちアクセルペダルが踏み込まれていない場合には、最終トルク指令値T20*が「-Ta」に設定される。また、アクセルペダルの操作量APが所定値AP11以上である場合には、すなわちアクセルペダルが踏み込まれている場合には、最終トルク指令値T20*が、「-Ta」よりも大きい「-Tb」に設定される。「-Ta」は、例えばモータジェネレータ31において設定可能な回生トルクの最大値である。「-Ta」は、例えば「-0.4[G]」に相当する減速トルクである。「-Tb」は、例えば「-0.2[G]」に相当する減速トルクである。
【0047】
図8に示されるマップに基づいて最終トルク指令値T20*が設定されることで、アクセルペダルの操作量APに関わらずモータジェネレータ31の出力トルクは負の値に設定される。すなわちモータジェネレータ31から回生トルクが出力されるため、それにより駆動輪13,14に付与される制動力によって車両10を強制的に停車させることができる。
【0048】
図7に示されるように、EVECU60は、ステップS33に続くステップS34の処理として、報知装置55を駆動させることにより、車内及び車外に対して報知を行う。この報知により、車両10の乗員や車外の人は、車両10が緊急停車しようとしていることを認知できる。EVECU60は、ステップS34の処理を実行した後、図7に示される処理を終了して、図6に示される処理を一旦終了する。
【0049】
このように、本実施形態のEVECU60は、ブレーキ異常フラグXFBが「1」である場合、すなわち制動装置41~44に異常が生じている場合であっても、異常が検出された時点から猶予時間TGが経過するまでの期間は、ステップS21~S23の処理、すなわちモータジェネレータ31の回生駆動を制限する処理を実行しない。換言すれば、EVECU60は、制動装置41~44の異常が検出された時点から猶予時間TGが経過するまでの期間、BMU63からの制限要求を無視しつつ、非常時回生トルクTBbが発生するようにモータジェネレータ31を制御する。
【0050】
その後、制動装置41~44の異常が検出された時点から猶予時間が経過すると、EVECU60は、図6に示されるステップS15の処理で肯定的な判断を行う。この場合、EVECU60は、ステップS21~S23の処理を実行する。結果的に、BMU63からバッテリ33の充電量の制限が要求されている場合には、最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinに制限されることによりモータジェネレータ31の回生発電量が制限されて、バッテリ33の過充電が抑制される。
【0051】
次に、図9を参照して、本実施形態の車両10の動作例について説明する。
図9(A)に示されるように、バッテリ33のSOC値が所定値Sth11以上であるとすると、BMU63がEVECU60に対してバッテリ33の充電量を制限するように要求する。そのため、EVECU60は、最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinよりも小さい場合には、最終トルク指令値T20*を制限トルク指令値TWinに制限する。よって、図9(B)に示されるように、時刻t10でアクセルペダルの操作量APが「0」になることにより、図9(E)に一点鎖線で示されるように最終トルク指令値T20*が本来であれば負の値「-Ta」に設定されるような状況であっても、最終トルク指令値T20*は制限トルク指令値TWinに制限される。なお、図9に示される動作例では、制限トルク指令値TWinが「0」に設定されている場合について例示している。このように制限トルク指令値TWinが「0」に設定されることにより、図9(F)に示されるようにモータジェネレータ31の通電デューティ値の下限値DMminが「0[%]」に制限される。したがって、モータジェネレータ31は回生駆動しない。
【0052】
このように最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinに制限されることにより、駆動輪13,14に作用する制動力が減少する。EVECU60は、その減少分の制動力を制動装置41~44から出力するようにブレーキECU61に対して要求する。結果として、図9(D)に示されるように、車両10に制動力が作用するため、車両10を減速させることができる。
【0053】
その後、図9(B)に示されるように、時刻t11でアクセルペダルが踏み込まれたとすると、モータジェネレータ31が駆動することによりバッテリ33の充電電力量が消費されるため、図9(A)に示されるように、バッテリ33のSOC値が減少する。これに伴って、制限トルク指令値TWinが緩和されると、図9(F)に示されるようにモータジェネレータ31の通電デューティ値の下限値DMminも緩和される。
【0054】
このような状況において、仮に時刻t12で制動装置41~44の少なくとも一つに異常が生じたとすると、図9(E)に示されるように、EVECU60は、最終トルク指令値T20*を非常時回生トルクTBbに設定する。仮に非常時回生トルクTBbが、モータジェネレータ31において設定可能な回生トルクの最大値「-Ta」に設定されているとすると、図9(F)に示されるように、モータジェネレータ31の通電デューティ値の下限値DMminは「-100[%]」に設定される。よって、モータジェネレータ31の回生発電量の制限が実質的に解除される。これによりモータジェネレータ31が回生駆動するため、駆動輪13,14に制動力が付与される。そのため、制動装置41~44に異常が生じている場合であっても、図9(D)に示されるように、車両10に制動力が付与される。
【0055】
また、図9(G)に示されるように、時刻t12で制動装置41~44の少なくとも一つに異常が生じた場合、その時点から制限復帰カウンタCの値が時間の経過に伴い増加する。
時刻t12以降、図9(B)に示されるように、例えば時刻t13でアクセルペダルが踏み込まれたとすると、図9(E)に示されるように、アクセルペダルの操作量APに基づいて最終トルク指令値T20*が正の値に設定される。これによりモータジェネレータ31から駆動トルクが出力されるため、図9(C)に示されるように、時刻t13で車両10が加速する。以降、アクセルペダルが踏み込まれた場合には、アクセルペダルの操作量APに応じた駆動トルクがモータジェネレータ31から出力されることにより車両10が加速する。また、アクセルペダルの操作量APが「0」になった場合には、モータジェネレータ31から非常時回生トルクTBbが出力されることにより車両10が減速する。
【0056】
その後、図9(B)に示されるように、時刻t14で運転者がアクセルペダルを踏み込んだ後、時刻t15で、図9(G)に示されるように、制限復帰カウンタCの値が第1所定値Cth11に達したとする。すなわち、時刻t15で、制動装置41~44の異常が検出された時点から停車判定時間T11が経過したとする。このとき、EVECU60は、図7に示されるステップS33及びS34の処理を実行する。すなわち、EVECU60は、時刻t15の時点で、車両10を強制的に停車させる制御を開始するとともに、車内及び車外に対して報知を行う。これにより、図9(E)に示されるように、アクセルペダルの操作量APの値に関わらず、最終トルク指令値T20*が負の値に設定されるようになるため、図9(C)に示されるように、より確実に車両10を減速させることができる。
【0057】
なお、図8に示されるように、最終トルク指令値T20*は、アクセルペダルの操作量APに応じて変化する。そのため、図9(B)に示されるように時刻t16でアクセルペダルが踏み込まれた場合には、図9(E)に示されるように、最終トルク指令値T20*が増加する。すなわち、モータジェネレータ31の回生トルクが減少する。これにより、車両10を強制的に停車させる場合であっても、運転者の意図に応じた車両10の挙動を実現できる。
【0058】
その後、時刻t17で、制限復帰カウンタCの値が第2所定値Cth12に達したとする。すなわち、時刻t17で、制動装置41~44の異常が検出された時点から猶予時間TGが経過したとする。このとき、図9(E)に示されるように、EVECU60は最終トルク指令値T20*を制限トルク指令値TWinに、すなわち「0」に設定するため、モータジェネレータ31が回生駆動しなくなる。したがって、時刻t17以降は、バッテリ33の過充電が抑制されるため、バッテリ33に最悪の異常が生じることを回避できる。
【0059】
以上説明した本実施形態の車両10の制御装置80によれば、以下の(1)~(4)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)EVECU60は、ブレーキECU61により制動装置41~44の異常が検出された際に、異常が検出された時点から所定の猶予時間TGが経過するまでの期間、バッテリ33の充電状態にかかわらず、通常回生トルクTBaよりも大きい非常時回生トルクTBbが発生するようにモータジェネレータ31を回生駆動させる。バッテリ33は、過充電状態になった時点で即座に異常をきたすものではなく、実際には過充電状態に至った後に最悪の異常が生じるまでには、ある程度の時間的な猶予がある。そのため、制動装置41~44の異常が検出された際に、その異常が検出された時点から所定の猶予時間TGが経過するまでの期間にモータを回生駆動させれば、仮にバッテリ33が過充電状態であったとしても、バッテリ33に最悪の異常が発生することを回避しつつ、制動力を得ることができる。よって、車両10を停車させることができる。
【0060】
(2)EVECU60は、制動装置41~44の異常が検知された時点から停車判定時間T11が経過したとき、車両10を自動的に減速させて停車させるようにモータジェネレータ31を回生駆動させる。この構成によれば、バッテリ33に最悪な異常が発生する前に車両10を停車させることができるため、車両10の安全性を確保することができる。
【0061】
(3)EVECU60は、図8に示されるマップを用いてアクセルペダルの操作量APから最終トルク指令値T20*を演算することにより、アクセルペダルの操作量APに基づいて車両10の減速度を設定する。この構成によれば、運転者の運転操作に応じた車両10の減速度を実現できるため、ドライバビリティを向上させることができる。
【0062】
(4)EVECU60は、制動装置41~44の異常が検出された時点から猶予時間TGが経過するまでの期間、バッテリ33の電力供給対象である電気負荷の消費電力量を増加させる。この構成によれば、より的確にバッテリ33の過充電を回避することができる。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の制御装置80について説明する。以下、第1実施形態の制御装置80との相違点を中心に説明する。
【0063】
図10に示されるように、本実施形態のEVECU60は、ステップS12の処理において、前回の制限復帰カウンタCの値に所定値ΔCを加算することにより、今回の制限復帰カウンタCを求める。
具体的には、EVECU60は、図11に示されるようなバッテリ33の充電電流値Ibと所定値ΔCとの関係を示すマップを用いて、充電電流値Ibから所定値ΔCを演算する。バッテリ33の充電電流値Ibは、モータジェネレータ31の回生駆動によりバッテリ33の充電が行われることでバッテリ33に供給される電流のである。したがって、バッテリ33に充電される電力が大きくなるほど、バッテリ33の充電電流値は大きくなる。本実施形態では、バッテリ33の充電電流値が、モータジェネレータ31の回生駆動により発電された回生発電電力に相当する。なお、EVECU60は、バッテリ33の充電電流値Ibの情報をBMU63から取得する。
【0064】
EVECU60は、図11に示されるマップに基づいて所定値ΔCを演算した後、前回の制限復帰カウンタCの値に所定値ΔCを加算することにより、今回の制限復帰カウンタCを求める。これにより、制限復帰カウンタCは、図9(G)に二点鎖線で示されるように変化する。
【0065】
図11に示されるマップでは、バッテリ33の充電電流値が大きくなるほど、所定値ΔCが大きくなるように設定されている。これにより、制動装置41~44に異常が検出された後、バッテリ33の充電電流値が大きくなるほど、ステップS13及びステップS15の処理で肯定的な判断が行われる時期、換言すれば車両10の強制停車が実行される時期及びモータジェネレータ31の回生発電電力が制限される時期が早まる。結果的に、バッテリ33の充電電流値が大きくなるほど、停車判定時間T11及び猶予時間TGが短縮される。
【0066】
以上説明した本実施形態の車両10の制御装置80によれば、以下の(5)に示される作用及び効果を得ることができる。
(5)EVECU60は、制動装置41~44の異常が検出された時点以降にモータジェネレータ31の充電電流値に基づいて停車判定時間T11及び猶予時間TGを変化させる。この構成によれば、モータジェネレータ31の回生発電電力の実情に応じて停車判定時間T11及び猶予時間TGを設定することができるため、より適切に車両10の強制停車及びモータジェネレータ31の回生発電量の制限を行うことができる。
【0067】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の制御装置80について説明する。以下、第1実施形態の制御装置80との相違点を中心に説明する。
図12に示されるように、本実施形態のEVECU60は、ステップS14に続くステップS40の処理として最終トルク指令値T20*の設定処理を実行する。具体的には、図13に示されるように、EVECU60は、まず、ステップS41の処理として、制限トルク指令値TWinを設定する。EVECU60は、図14に示されるような制限復帰カウンタCの値と係数Kwinとの関係を示すマップを有している。上述の通り、制限復帰カウンタCは、制動装置41~44の異常が検出された時点から増加するものであるため、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間を示すものである。したがって、図14に示されるマップは、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間と係数Kwinとの関係を示すマップに相当する。図14に示されるように、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間が長くなるほど、係数Kwinはより小さい値に設定される。
【0068】
EVECU60は、図14に示されるマップを用いて係数Kwinを演算した後、以下の式f1に基づいて回生トルク最大値TWinMax及び係数Kwinから制限トルク指令値TWinを演算する。回生トルク最大値TWinMaxは、モータジェネレータ31の回生トルクの最大値であって、例えば「-0.4[G]」に相当する減速トルクである。
【0069】
TWin=Kwin×TWinMax (f1)
この式f1に基づいて制限トルク指令値TWinが設定されることにより、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間が長くなるほど、制限トルク指令値TWinは回生トルク最大値TWinMaxから「0」に近づく。
【0070】
図13に示されるように、EVECU60のトルク指令値調停部601は、ステップS41に続くステップS42の処理として、ステップS10の処理で設定された最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinよりも小さいか否かを判断する。トルク指令値調停部601は、ステップS42の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわち最終トルク指令値T20*が制限トルク指令値TWinよりも小さい場合には、ステップS43の処理として、最終トルク指令値T20*を制限トルク指令値TWinに設定して、図12に示される処理に戻る。これにより、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間が長くなるほど、最終トルク指令値T20*は、回生トルク最大値TWinMaxから「0」に近づく、換言すれば回生トルクが最大の状態から「0」の状態に変化するようになる。
【0071】
一方、トルク指令値調停部601は、ステップS42の処理で否定的な判断を行った場合には、ステップS43の処理を実行することなく図12に示される処理に戻る。
以上説明した本実施形態の車両10の制御装置80によれば、以下の(6)に示される作用及び効果を得ることができる。
【0072】
(6)EVECU60は、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間に基づいて、モータジェネレータ31の回生トルクを変化させる。この構成によれば、制動装置41~44の異常が検出された時点からの経過時間が長くなるほど、モータジェネレータ31の回生発電量を減少させることができるため、より的確にモータジェネレータ31の過充電を回避することができる。
【0073】
<他の実施形態>
なお、各実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・第3実施形態のEVECU60は、図14に示されるマップに代えて、バッテリ33の充電電流値Ibと係数Kwinとの関係を示すマップを用いてもよい。これにより、EVECU60は、モータジェネレータ31の回生発電電力に基づいてモータジェネレータ31の回生トルクを変化させることができる。このような構成であっても、上記の(6)に示される作用及び効果と同一又は類似の作用及び効果を得ることができる。
【0074】
・各実施形態の制御装置80の構成は、電動車両10に限らず、電動機を動力源とする任意の移動体、例えば上空を移動する垂直離着陸機等のモビリティにも適用可能である。
・本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0075】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0076】
10:車両(移動体)
31:モータジェネレータ
33:バッテリ
41,42,43,44:制動装置
50:アクセルポジションセンサ(アクセルポジション検出部)
60:EVECU(モータ制御部)
61:ブレーキECU(異常検出部)
63:BMU(バッテリ制御部)
80:制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14