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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】導電材組成物および塗膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/24 20060101AFI20240319BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240319BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20240319BHJP
   C09B 47/30 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01B1/24 A
H01B5/14 Z
C09B67/20 G
C09B47/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020131379
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028159
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 大輔
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/24
H01B 5/14
C09B 67/20
C09B 47/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料(A)を含む導電材と有機材料(B)とを含み、炭素材料(A)と有機材料(B)とのイオン化ポテンシャルの値の差が0.2eV以下であり、前記有機材料(B)が、下記一般式(1)又は(2)で表される、導電材組成物。
一般式(1)
【化1】

一般式(2)
【化2】

一般式(3)
【化3】

一般式(4)
【化4】
[一般式(1)及び(2)中、R ~R はそれぞれ独立に一般式(3)記載の構造、一般式(4)記載の構造または水素原子を表し、M は、金属原子を表し、A は、それぞれ独立に酸素原子または-NH-、A はそれぞれ独立にアルキレン基、ポリエチレンオキシ基またはポリプロピレンオキシ基を表し、Lはスルホンアミド基またはアミド基を表し、Xは酸性官能基を表す。酸性官能基は脂肪族アミン、金属イオンまたは芳香族アミンで造塩されてもよい。また、R ~R の少なくとも一つは、一般式(3)または一般式(4)の構造である。]
【請求項2】
有機材料(B)がフタロシアニン化合物である請求項1記載の導電材組成物。
【請求項3】
炭素材料(A)100質量%に対して、有機材料(B)を5~200質量%含む請求項1または2に記載の導電材組成物。
【請求項4】
炭素材料(A)が、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~いずれか1項に記載の導電材組成物。
【請求項5】
請求項1~いずれかに記載の導電材組成物から形成された塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、導電材組成物および塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの発達は目覚ましいものがあり、各種電子機器で使用される導電性材料についても製品の小型・軽量化、低コスト化、様々な使用環境下での高寿命化が求められるようになってきている。例えば、電子機器の基盤配線や電子機器を接続する配線は、一般的に、銀や銅等の金属フィラーを使用した導電性組成物を用いて形成され、コストの点で大きな課題が今なお解決出来ていない。一方、金属を用いない導電性炭素材料を用いた導電性組成物も様々な検討がなされているが、導電性が不十分であり、帯電防止用途等の半導電性用途での使用に限られてきた。炭素材料の導電性を向上させるために、分散剤を用いて炭素材料を分散する手法が知られているが、カーボンナノチューブ等の特に分散の難しいカーボン材料の場合は多量の分散剤が必要となり導電性を落とす原因となっていた。
【0003】
例えば、特許文献1では、有機π共役系の仕事関数に着目しながら分散剤を選択することにより導電性組成物の設計が出来ることが記載されている。また、特許文献2では、色素骨格に対してメチレン構造を介してスルホン酸等の酸性官能基を導入することにより、色相の優れた素材設計が可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-145041
【文献】特許5465718
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の分散剤では、炭素材料への吸着性が不十分であることから十分な分散性が得られておらず、導電性の面でも改善の余地があった。特許文献2には、メチレン構造を介したスルホン酸等の酸性官能基を導入した顔料誘導体が提案されているものの、炭素材料に対しては十分な吸着性能を有する構造ではない。よって本発明は、導電性および分散性に優れた導電性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、下記〔1〕~〔8〕に関する。
【0007】
〔1〕炭素材料(A)と炭素材料(A)に対してイオン化ポテンシャルの値の差が0.2eV以下である有機材料(B)を含む導電材組成物。
【0008】
〔2〕有機材料(B)がフタロシアニン化合物である〔1〕に記載の導電材組成物。
【0009】
〔3〕炭素材料(A)100質量%に対して、有機材料(B)を5~200質量%含む〔1〕または〔2〕記載の導電材組成物。
【0010】
〔4〕有機色素(B)が、下記一般式(1)又は(2)で表される、〔1〕~〔3〕いずれかに記載の導電材組成物。
【0011】
一般式(1)
【化1】
【0012】
一般式(2)
【化2】


【0013】
一般式(3)
【化3】


【0014】
一般式(4)
【化4】


【0015】
[一般式(1)及び(2)中、R~Rはそれぞれ独立に一般式(3)記載の構造、一般式(4)記載の構造または水素原子を表し、Aは、それぞれ独立に酸素原子または-NH-、Aはアルキレン基、ポリエチレンオキシ基またはポリプロピレンオキシ基を表し、Lはスルホンアミド基またはアミド基を表し、Xは酸性官能を表す。酸性官能基は脂肪族アミン、金属イオンまたは芳香族アミンで造塩されてもよい。また、R~Rの少なくとも一つは、一般式(3)または一般式(4)の構造である。]
【0016】
〔5〕炭素材料(A)が、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラックおよびグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種である〔1〕~〔4〕いずれかに記載の導電材組成物。
【0017】
〔6〕〔1〕~〔5〕いずれかに記載の導電材組成物から形成された塗膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導電性および分散性に優れた導電材組成物を提供することができる。炭素材料と有機材料のイオン化ポテンシャルの差が0.2eV以下にすることで、絶縁効果を低減ないし消滅させつつ、且つ高い分散性を有する有機材料を用いることにより炭素材料の分散性を向上させることで高い導電性を発現する導電材組成物を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<炭素材料(A)>
導電材である炭素材料(A)は、導電性を持つ炭素材料であれば特に制限はなく、例えば、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェン等を用いることができる。黒鉛としては、薄片状黒鉛、球状天然黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。導電性の観点で、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはカーボンナノチューブであり、特に好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0020】
市販の黒鉛としては例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
市販のカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラックとして、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等、ケッチェンブラックとしてライオン社製のEC-300J、EC-600JD等、アセチレンブラックとして、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等が挙げられる。
市販のカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P、楠本化成社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、100P等が挙げられる。これらは特に限定されることなく、単独、又は2種以上を混合して使用することが出来る。
【0021】
<有機材料(B)>
有機材料(B)としては、炭素材料(A)に対してイオン化ポテンシャルの値の差が0.2eV以下であればよく、特に限定されない。イオン化ポテンシャルは分子から電子を無限遠まで取り去るのに必要なエネルギーを表しており、イオン化ポテンシャルと導電性には関係性があると考えらえる。有機材料(B)が、炭素材料(A)に対してイオン化ポテンシャルの値の差が0.2eV以下であることで、導電性が向上する。また、有機材料(B)は、炭素材料(A)の分散剤として機能し、炭素材料(A)に対してイオン化ポテンシャルの値の差が0.2eV以下であることで、炭素材料(A)に対する吸着安定性が向上したものと思われる。有機材料(B)は、分散安定性の観点から、酸性官能基を有することが好ましく、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等が挙げられる。また、酸性官能基は脂肪族アミン、金属イオン、芳香族アミン等と塩を形成していてもよい。
【0022】
<フタロシアニン材料化合物>
有機材料(B)としては例えばフタロシアニン化合物があげられる。フタロシアニン化合物は、導電材組成物中で分散性向上に寄与するものの、導電性との両立の観点から、フタロシアニン化合物(B)の含有量は、前記炭素材料(A)の全量に対して400質量%以下が好ましく、より好ましくは200質量%以下であり、更に好ましくは3~120質量%であり、特に好ましくは5~100%質量%である。
【0023】
フタロシアニン化合物(B)は、下記一般式(1)又は(2)のいずれかで表されるものであることが好ましい。
【0024】
一般式(1)
【化1】
【0025】
一般式(2)
【化2】
【0026】
一般式(3)
【化3】

【0027】
一般式(4)
【化4】


【0028】
[一般式(1)及び(2)中、R~Rはそれぞれ独立に一般式(3)記載の構造、一般式(4)記載の構造または水素原子を表し、Aは、それぞれ独立に酸素原子または-NH-、Aはアルキレン基、ポリエチレンオキシ基またはポリプロピレンオキシ基を表し、Lはスルホンアミド基またはアミド基を表し、Xは酸性官能基を表す。酸性官能基は脂肪族アミン、金属イオンまたは芳香族アミンで造塩されてもよい。また、R~Rの少なくとも一つは、一般式(3)または一般式(4)の構造である。]
【0029】
一般式(3)及び一般式(4)中、Aのアルキレン基、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基は、溶剤への親和性の及びアルキル鎖同士の結晶性の観点から、炭素数は、好ましくは1~30であり、より好ましくは1~12であり、特に好ましくは2~4である。
【0030】
一般式(2)のMは、金属原子であれば特に制限はないが、分子の堅牢性の観点からは、軸配位構造を持たないフタロシアニン化合物が好ましく、より好ましくはCu又はZnであり、特に好ましくはCuである。
Xで示される酸性官能基としては、分散安定性の観点から、好ましくはスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基であり、より好ましくはスルホン酸基、カルボン酸基である。また、酸性官能基は脂肪族アミン、金属イオン、芳香族アミン等と塩を形成していてもよい。
【0031】
<バインダー樹脂>
本発明の導電材組成物は、有機材料(B)以外のバインダー樹脂を含むことができる。バインダー樹脂としては、各成分に相溶または混合分散するものであればよい。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれを用いても良い。使用可能な樹脂の具体例として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。特に限定するものではないが、一実施形態において、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、及びアクリルアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0032】
<溶剤>
本発明の導電材組成物は、溶剤を含むことができる。溶剤は、炭素材料(A)、有機材料(B)の溶解又は分散媒として使用され、インキ化により塗工性を向上させることができる。使用できる溶剤としては、炭素材料(A)、有機材料(B)が溶解又は良分散できれば、特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。
溶剤としては、好ましくは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンであり、より好ましくはN-メチルピロリドンである。
【0033】
<分散機・混合機>
導電材組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0034】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類; ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等) 、若しくはコボールミル等のメディア型分散機; 湿式ジェットミル( ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等) 、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機; または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0036】
本発明の導電材組成物により、基材上に塗膜を形成することができる。塗膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、溶剤を含む導電材組成物を塗工、乾燥させて得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ意味するものとする。なお合成中の氷、水は含有塩分を取り除いたイオン交換水を用いた。
【0038】
<有機材料(B)の合成>
(合成例1:フタロシアニン化合物の母骨格(PIM)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、9.13部の4-フルオロフタロニトリル、6.7部の1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、160部の1-ペンタノールを入れ、窒素下、130℃まで加熱した。8時間加熱還流後、放冷し、内容物をメタノール1Lに入れ1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、7.5部の下記構造で表されるフタロシアニン化合物の母骨格(PIM)を得た。
【0039】
【化5】


【0040】
(合成例2:フタロシアニン化合物(P-1)の中間体(P-1M)合成)
還流管、窒素導入管を付けた100mL4つ口フラスコへ、2.5部のフタロシアニン化合物の母骨格(PIM)、2.1部のアミノエタンスルホン酸、2.8部の炭酸カリウム、50部の1-ペンタノールを入れ、窒素化、100℃まで加熱した。4時間還流後に放冷し、内容物をメタノール500mLに入れて1時間拡販した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、2.1部のフタロシアニン化合物(P-1)の中間体(P-1M)を得た。
【0041】
【化6】

【0042】
(合成例3:フタロシアニン化合物(P-1)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-1の中間体(P-1M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.25部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-1)を得た。
【0043】
【化7】

【0044】
(合成例4:フタロシアニン化合物(P-2)の中間体(P-2M)合成)
還流管、窒素導入管を付けた100mL4つ口フラスコへ、2.5部のフタロシアニン化合物の母骨格(PIM)、2.1部のアミノヘキシルスルホン酸、2.8部の炭酸カリウム、50部の1-ペンタノールを入れ、窒素化、100℃まで加熱した。4時間還流後に放冷し、内容物をメタノール500mLに入れて1時間拡販した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、2.0部のフタロシアニン化合物(P-2)の中間体(P-2M)を得た。
【0045】
【化8】
【0046】
(合成例5:フタロシアニン化合物(P-2)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-2の中間体(P-2M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.25部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-2)を得た。
【0047】
【化9】


【0048】
(合成例6:フタロシアニン化合物(P-3)の中間体(P-3M)合成)
還流管、窒素導入管を付けた100mL4つ口フラスコへ、2.5部のフタロシアニン化合物の母骨格(PIM)、2.1部のNH(CHCHO)CHCHSOH、2.8部の炭酸カリウム、50部の1-ペンタノールを入れ、窒素化、100℃まで加熱した。4時間還流後に放冷し、内容物をメタノール500mLに入れて1時間拡販した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、2.0部のフタロシアニン化合物(P-3)の中間体(P-3M)を得た。
【0049】
【化10】

【0050】
(合成例7:フタロシアニン化合物(P-3)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-3の中間体(P-3M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.25部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-3)を得た。
【0051】
【化11】


【0052】
(合成例8:フタロシアニン化合物(P-4)の中間体(P-4M)合成)
還流管、窒素導入管を付けた100mL4つ口フラスコへ、2.5部のフタロシアニン化合物の母骨格(PIM)、2.1部のイセチオン酸、2.8部の炭酸カリウム、50部の1-ペンタノールを入れ、窒素化、100℃まで加熱した。4時間還流後に放冷し、内容物をメタノール500mLに入れて1時間拡販した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、2.1部のフタロシアニン化合物(P-4)の中間体(P-4M)を得た。
【0053】
【化12】

【0054】
(合成例9:フタロシアニン化合物(P-4)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-4の中間体(P-4M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.25部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-4)を得た。
【0055】
【化13】


【0056】
(合成例10:フタロシアニン化合物(P-5)の中間体(P-5M)合成)
還流管、窒素導入管を付けた100mL4つ口フラスコへ、2.5部のフタロシアニン化合物の母骨格(PIM)、2.1部のアミノエタンカルボン酸、2.8部の炭酸カリウム、50部の1-ペンタノールを入れ、窒素化、100℃まで加熱した。4時間還流後に放冷し、内容物をメタノール500mLに入れて1時間拡販した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、2.1部のフタロシアニン化合物(P-5)の中間体(P-5M)を得た。
【0057】
【化14】

【0058】
(合成例11:フタロシアニン化合物(P-5)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-5の中間体(P-5M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.25部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-5)を得た。
【0059】
【化15】


【0060】
(合成例12:フタロシアニン化合物(P-6)の合成)
300mLビーカーにフタロシアニン化合物(P-1)1.5部、水150部、25%水酸化ナトリウム水溶液10部を仕込んだ後、室温で1時間撹拌したあと、ろ過を行い1.4部のフタロシアニン化合物(P-6)を得た。
【0061】
【化16】

【0062】
(合成例13:フタロシアニン化合物(P-7)の合成)
300mLビーカーにフタロシアニン化合物(P-1)1.5部、水150部、ヘキシルアミン液3部を仕込んだ後、60℃で2時間撹拌したあと、ろ過を行い1.4部のフタロシアニン化合物(P-7)を得た。
【0063】
【化17】

【0064】
(合成例14:フタロシアニン化合物(P-8)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-1の中間体(P-1M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.13部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-8)を得た。

【0065】
【化18】

【0066】
(合成例15:フタロシアニン化合物(P-9)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、クロロスルホン酸20部とフタロシアニン化合物P-1の中間体(P-1M)2.0部を仕込んだ後、室温で8時間拡販した後、100部の氷水に15分かけて滴下した後、1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行いスルホニルクロリド体プレスケーキを得た。1Lビーカーに、100部の氷と100部の水と5アミノベンズイミダゾール0.38部を投入し、2~5度でスルホニルクロリド体プレスケーキを投入した。ついで、混合物を60℃に加温し、90分間撹拌した。生成物をろ過、水で洗浄し、80℃で乾燥させた。これにより2.5部のフタロシアニン化合物(P-9)を得た。

【0067】
【化19】


【0068】
(合成例16:フタロシアニン化合物(P-10)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、9.13部の4-フルオロフタロニトリル、3.0部の塩化第一銅、6.7部の1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、160部の1-ペンタノールを入れ、窒素下、130℃まで加熱した。8時間加熱還流後、放冷し、内容物をメタノール1Lに入れ1時間撹拌した。その後、ろ過洗浄を行い、ろ集物を一晩、真空乾燥(80℃)することにより、7.5部の下記構造で表される銅フタロシアニン化合物の母骨格(PIMC)を得た。その後PIMからP-1M及びP-1を得るものと同様の合成プロセスを経ることで2.1部のフタロシアニン化合物(P-10)を得た。
【0069】
【化20】
【0070】
(合成例17:フタロシアニン化合物(P-11)の合成)
合成例16の塩化第一銅を塩化亜鉛に代え同じ等量を入れる以外は同様な合成プロセスを経ることで、2.0部のフタロシアニン化合物(P-11)を得た。
【0071】
【化21】
【0072】
(合成例18:フタロシアニン誘導体(A-1)の合成)
還流管、窒素導入管を付けた300mL4つ口フラスコへ、2.0部のフタロシアニン(東京化成社試薬)、発煙硫酸20部を加えて80℃で2時間加熱した後、200部の水に滴下した後、ろ過、洗浄、乾燥を得て1.8部のフタロシアニン誘導体(A-1)を得た。
【0073】
【化22】





【0074】
<樹脂成分の合成>
(合成例19:バインダー樹脂1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP-2011」、Mn=2011)455.5部、ジメチロールブタン酸16.5部、イソホロンジイソシアネート105.2部、トルエン140部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン360部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、イソホロンジアミン19.9部、ジ-n-ブチルアミン0.63部、2-プロパノール294.5部、トルエン335.5部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液969.5部を添加し、50℃で3時間続いて70℃2時間反応後、100℃の真空乾燥を行い、質量平均分子量(Mw)=61,000の、ウレタンウレア樹脂であるバインダー樹脂1を得た。
【0075】
<導電材組成物の製造>
[実施例1]
(分散液1)
楠本化成社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」(SWCNT)0.4部、フタロシアニン化合物(P-1)0.2部、N-メチルピロリドン(NMP)79.4部をそれぞれ秤量して混合した。更にジルコニアビーズ(φ1.25mm)を140部加え、スキャンデックスで2時間振とう後、ろ過してジルコニアビーズを取り除き、導電材組成物としての分散液1を得た。
【0076】
[実施例2~21]
(分散液2~21)
構成成分及びその含有量を表1に示す内容に変更した以外は分散液1と同様にして、分散液2~21を得た。
【0077】
[比較例1、2、3]
(分散液101、102、103)
分散液1のP-1を、それぞれフタロシアニン誘導体(A-1)、ピグメントイエロー180(CAS77804-81-0)、P-11に変更した以外は分散液1と同様にして、分散液101、102、103を得た。
【0078】
<塗膜の評価>
得られた分散液1~21、101~103を、シート状基材である厚さ75μmのPETフィルム上にアプリケータを用いて塗布した後、120℃で30分加熱乾燥して、PET基材上に、膜厚5μmの塗膜を有する積層体を得た。
得られた積層体について、以下のとおり分散性、導電性(導電率)及び塗工適性を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
(分散性)
分散液の分散安定性は、分散体粘度試験における経時での粘度変化率から評価した。
◎:40度、1週間での恒温の粘度変化率が5%未満(非常に良好)
〇:40度、1週間での恒温の粘度変化率が5%以上、10%未満(良好)
△:40度、1週間での恒温の粘度変化率が10%以上、20%未満(使用可能)
×:40度、1週間での恒温の粘度変化率が20%以上(使用不可)
【0080】
(導電性)
導電性は、得られた積層体を2.5cm×5cmに切り取り、JIS-K7194に準じて、ロレスタGX MCP-T700(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で抵抗率を測定した。ガラス基材の積層体はガラスカッターを用いてカットした。
【0081】
(塗工適性)
分散液の塗工適性は、グラインドゲージ(溝の深さ50μm)を用いて評価した。
◎:10μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がない(非常に良好)
〇:10μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子はあるが、20μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がない(良好)
△:20μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子はあるが、30μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がない(使用可能)
×:30μm以上の粗大粒子による筋引きや粗大粒子がある(使用不可)
【0082】
(イオン化ポテンシャルの測定方法)
イオン化ポテンシャルの測定はイオン化ポテンシャル測定装置PYS-202(住友重機械工業製)を用いて測定した。照射光源は重水素ランプ(照射波長300nm~138mm)にて行った。
【0083】
【表1】

【0084】
表1中の略語は以下のとおりである。
≪炭素材料≫
SWCNT:楠本化成社製 単層カーボンナノチューブ「TUBALL」
MWCNT:Knano社製 多層カーボンナノチューブ「100P」
GNP:東京化成社製 グラフェンナノプレート レット
KB:ライオン社製 ケッチェンブラック EC-300J
CB:デンカ製 カーボンブラック HS-100
【0085】
表1の結果から、本発明の導電材組成物は、炭素材料(A)と有機材料(B)のイオン化ポテンシャルの差を0.2eV以下に制御し且つ分散性を保持することで高い導電性を示した。さらに、本発明の導電材組成物はいずれも良好な塗工適性(塗膜状態)を示した。
これに対して、比較例1、2、3はイオン化ポテンシャルの差が0.2eV以上であることによりいずれも低い導電性を示した。