(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20240319BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240319BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20240319BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20240319BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240319BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W20/15
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2020158751
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳輝
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292314(JP,A)
【文献】特開2007-153253(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0014717(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバが手動で任意の変速段に選択が可能な手動変速機と、
前記手動変速機を介して駆動輪を駆動させるエンジンと、
前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達を解放または接続するクラッチと、
電動機と、
前記電動機のみを駆動源として走行を行なうEVモードと、前記エンジンと前記電動機とを駆動源として走行を行なうHEVモードと、を切り替える制御部と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記EVモード時に、前記HEVモード時のドライバのアクセル操作、クラッチ操作、変速操作に応じた駆動力に相当する駆動力を前記電動機により発生させ、
前記HEVモード時に前記エンジンが前記駆動輪を駆動する場合の駆動振動に対応する仮想駆動振動と、前記HEVモード時に前記エンジンの慣性力により発生する振動に対応する仮想エンジン振動と、を前記電動機により発生させるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記EVモード時に、前記手動変速機がギアインかつクラッチペダルが係合相当に操作されている場合には、前記仮想駆動振動と前記仮想エンジン振動とを前記電動機により発生させ、前記手動変速機がニュートラルの場合または前記クラッチペダルが切断相当に操作されている場合には、前記仮想エンジン振動のみを前記電動機により発生させる請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記EVモード時に、車両状態から仮想エンジン回転速度を算出し、前記仮想エンジン回転速度が所定回転速度以上の回転速度である場合には、前記仮想駆動振動を前記仮想エンジン回転速度が高いほど小さく算出し、前記仮想エンジン振動を前記仮想エンジン回転速度が高いほど大きく算出する請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記仮想駆動振動をアクセル開度が大きいほど大きく算出し、前記仮想エンジン振動をアクセル開度によらず前記仮想エンジン回転速度のみに基づいて算出する
請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、手動変速機を備えるハイブリッド車両において、EVモード時に、エンジンによって車輪を駆動する場合を想定したときの駆動振動に応じた振動を発生させるように、電動機の駆動トルクに変動を与えることで、適切な変速段への変速操作を促す技術が開示されている。
【0003】
ドライバは、HEVモードにて変速操作を行う際、エンジンの回転速度表示だけでなく、エンジンの音や振動によりエンジン回転速度を推測して操作を行なうのが一般的である。
【0004】
また、クラッチを切断した状態でエンジンを駆動しているときであっても、ピストンやクランクシャフト等の慣性力による振動がエンジンマウントを経由して車体を振動させている。これをエンジンの起振力という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のハイブリッド車両では、エンジンの起振力について考慮されていないため、前述の制御により発生させる音や振動のみでは、HEVモード時と同様の変速操作をドライバに促すことができない。
【0007】
そこで、本発明は、EVモード時であっても、音や振動でHEVモードと同様の変速操作をドライバに促すことができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、ドライバが手動で任意の変速段に選択が可能な手動変速機と、前記手動変速機を介して駆動輪を駆動させるエンジンと、前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達を解放または接続するクラッチと、電動機と、前記電動機のみを駆動源として走行を行なうEVモードと、前記エンジンと前記電動機とを駆動源として走行を行なうHEVモードと、を切り替える制御部と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、前記制御部は、前記EVモード時に、前記HEVモード時のドライバのアクセル操作、クラッチ操作、変速操作に応じた駆動力に相当する駆動力を前記電動機により発生させ、前記HEVモード時に前記エンジンが前記駆動輪を駆動する場合の駆動振動に対応する仮想駆動振動と、前記HEVモード時に前記エンジンの慣性力により発生する振動に対応する仮想エンジン振動と、を前記電動機により発生させるものである。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明によれば、EVモード時であっても、音や振動でHEVモードと同様の変速操作をドライバに促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のMGトルク指令値算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置の仮想エンジン回転速度算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のトルク変動成分算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置の起振力成分算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のドライバ要求トルク算出マップの例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のトルク変動成分の振幅マップの例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置の起振力成分の振幅テーブルの例を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施例に係るエンジンとマニュアルトランスミッションとの間の動力伝達経路にモータジェネレータを設けたハイブリッド車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、ドライバが手動で任意の変速段に選択が可能な手動変速機と、手動変速機を介して駆動輪を駆動させるエンジンと、エンジンと手動変速機との間の動力伝達を解放または接続するクラッチと、電動機と、電動機のみを駆動源として走行を行なうEVモードと、エンジンと電動機とを駆動源として走行を行なうHEVモードと、を切り替える制御部と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、制御部は、EVモード時に、HEVモード時のドライバのアクセル操作、クラッチ操作、変速操作に応じた駆動力に相当する駆動力を電動機により発生させ、HEVモード時にエンジンが駆動輪を駆動する場合の駆動振動に対応する仮想駆動振動と、HEVモード時にエンジンの慣性力により発生する振動に対応する仮想エンジン振動と、を電動機により発生させるよう構成されている。
【0012】
これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、EVモード時であっても、音や振動でHEVモードと同様の変速操作をドライバに促すことができる。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る制御装置を搭載したハイブリッド車両について詳細に説明する。
【0014】
図1において、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両1は、エンジン2と、電動機としてのモータジェネレータ3と、手動変速機としてのマニュアルトランスミッション4と、ディファレンシャル5と、駆動輪6と、制御部としてのECU(Electric Control Unit)10と、を含んで構成されている。
【0015】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0016】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20が連結されている。ISG20は、ベルト21などを介してエンジン2のクランクシャフトに連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフトから入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0017】
モータジェネレータ3は、インバータ30を介してバッテリ31から供給される電力によって駆動する電動機としての機能と、ディファレンシャル5から入力される逆駆動力によって発電を行う発電機としての機能とを有する。
【0018】
インバータ30は、ECU10の制御により、バッテリ31から供給された直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給したり、モータジェネレータ3によって生成された三相の交流電力を直流電力に変換してバッテリ31を充電したりする。バッテリ31は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池によって構成されている。
【0019】
マニュアルトランスミッション4は、エンジン2から出力された回転を複数の変速段のいずれかに応じた変速比で変速して出力する手動変速機によって構成されている。マニュアルトランスミッション4の出力軸は、ディファレンシャル5を介して左右の駆動輪6に接続されている。モータジェネレータ3の出力軸は、マニュアルトランスミッション4の出力軸に接続されている。
【0020】
マニュアルトランスミッション4で成立可能な変速段としては、例えば低速段である1速段から高速段である5速段までの走行用の変速段と、後進段とがある。走行用の変速段の段数は、ハイブリッド車両1の諸元により異なり、上述の1速段から5速段に限られるものではない。
【0021】
マニュアルトランスミッション4における変速段は、運転者により操作されるシフトレバー40の操作位置に応じて切り替えられるようになっている。シフトレバー40の操作位置は、シフトポジションセンサ41により検出される。シフトポジションセンサ41は、ECU10に接続されており、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0022】
マニュアルトランスミッション4には、ニュートラルスイッチ42が設けられている。ニュートラルスイッチ42は、ECU10に接続されている。ニュートラルスイッチ42は、マニュアルトランスミッション4においていずれの変速段も成立していない状態、つまりニュートラル状態であることを検出するもので、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態にあるときにONされるスイッチである。
【0023】
エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路には、クラッチ7が設けられている。クラッチ7としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2とマニュアルトランスミッション4とは、クラッチ7を介して接続されている。
【0024】
クラッチ7は、クラッチアクチュエータ70によって作動され、エンジン2とモータジェネレータ3との間で動力を伝達する係合状態と、動力を伝達しない解放状態と、回転差のある状態でトルクが伝達される半クラッチ状態と、のいずれかに切り替えられるようになっている。クラッチアクチュエータ70は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0025】
ECU10は、運転者により操作されるクラッチペダル71の踏み込み量に応じてクラッチアクチュエータ70を制御し、マニュアルクラッチと同等の動作となるように制御する。
【0026】
クラッチペダル71の踏み込み量は、クラッチペダルセンサ72によって検出される。クラッチペダルセンサ72は、ECU10に接続されており、クラッチペダル71の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0027】
ハイブリッド車両1は、運転者により操作されるアクセルペダル90を備えている。アクセルペダル90の踏み込み量は、アクセル開度センサ91によって検出される。アクセル開度センサ91は、ECU10に接続されており、アクセルペダル90の踏み込み量をアクセル開度として検出し、当該アクセル開度に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0028】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0029】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータユニットは、本実施例におけるECU10として機能する。
【0030】
ECU10には、上述したセンサ類のほか、車速センサ11が接続されている。車速センサ11は、ハイブリッド車両1の車速を検出し、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0031】
ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードを切り替えるようになっている。本実施例における制御モードとしては、EVモードとHEVモードとが設定されている。
【0032】
EVモードは、クラッチ7を解放状態とし、モータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる制御モードである。HEVモードは、クラッチ7を係合状態とし、エンジン2、又はエンジン2及びモータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる制御モードである。
【0033】
ECU10は、例えば、アクセル開度とエンジン回転速度に基づいてEVモードとHEVモードとを切り替える。
【0034】
ECU10は、EVモード時に、HEVモード時に同様のアクセル操作、クラッチ操作、変速操作を行なった場合のエンジン回転速度を想定して仮想エンジン回転速度を算出する。
【0035】
ECU10は、例えば、ドライバ要求トルク、クラッチ操作量、シフト位置、エンジン慣性モーメントに基づいて仮想エンジン回転速度を算出する。
【0036】
ECU10は、EVモード時に、HEVモード時にエンジン2が駆動輪6を駆動する場合の駆動振動を模擬する仮想駆動振動と、HEVモード時にエンジン2の慣性力により発生する振動を模擬する仮想エンジン振動と、をモータジェネレータ3により発生させる。
【0037】
ECU10は、例えば、仮想駆動振動を発生させるため、仮想エンジン回転速度に基づいてトルク変動成分を算出し、エンジン2のクランク軸におけるドライバ要求トルクに加算する。
【0038】
ECU10は、例えば、仮想エンジン振動を発生させるため、仮想エンジン回転速度に基づいて起振力成分を算出し、マニュアルトランスミッション4の出力軸に相当するトルクに加算する。
【0039】
なお、EVモードにおいては、クラッチ7は常に開放状態に制御しているが、説明が煩雑になるため特に断りのない限りクラッチペダル操作に応じた仮想的なクラッチ7の係合状態を単にクラッチ7の係合状態(係合、半クラッチ、解放)として実施例の説明に用いる。
【0040】
以上のように構成された本実施例に係る制御装置によるEVモードでのモータジェネレータ3へのトルク指令値であるMGトルク指令値の算出処理について、
図2を参照して説明する。なお、以下に説明するMGトルク指令値算出処理は、制御モードがEVモードに移行すると開始され、予め設定された時間間隔で実行され、制御モードがHEVモードに移行すると終了される。
【0041】
ステップS1において、ECU10は、車速、シフト位置、アクセル開度、クラッチペダルの踏み込み量などのハイブリッド車両1の各種センサ情報を取得する。ステップS1の処理を実行した後、ECU10は、ステップS2の処理を実行する。
【0042】
ステップS2において、ECU10は、後述する方法により仮想エンジン回転速度を計算する。ステップS2の処理を実行した後、ECU10は、ステップS3の処理を実行する。
【0043】
ステップS3において、ECU10は、アクセル開度とエンジン回転速度(仮想エンジン回転速度)に基づき、
図6に示すマップを補間演算してドライバ要求トルク(Tdr)を算出する。図中「ASP」はアクセル開度を示している。ステップS3の処理を実行した後、ECU10は、ステップS4の処理を実行する。
【0044】
図6に示すドライバ要求トルクマップは、アイドル回転以下の所定の回転速度域(自立運転ができない領域)ではアクセル開度に関わらず負の値となるように設定し、EVモードにおいて仮想エンジン回転速度が低下した場合にエンストを模擬するようにしている。
【0045】
また、エンジン2の過回転防止のため燃料カット等によりエンジントルクを低減させる高回転速度領域でも、アクセル開度に関わらず負の値となるように設定し、EVモードにおいて仮想エンジン回転速度が過回転となった場合に、燃料カット等によりエンジントルクを低減させている状態を模擬するようにしている。
【0046】
ステップS4において、ECU10は、後述する方法により、燃焼に起因するトルク変動を模擬するためのトルク変動成分(ΔTcb)を算出する。ステップS4の処理を実行した後、ECU10は、ステップS5の処理を実行する。
【0047】
このトルク変動成分は、エンジン2のトルク変動が駆動輪6のトルク変動となり、車体を前後に振動させる状況を模擬する。したがって、ギアインかつクラッチ7が係合した操作状態時のみトルク変動を印加させ、半クラッチ状態やクラッチ解放操作状態のときには印加しない。
【0048】
このトルク変動成分は、仮想エンジン回転速度が低い状態で大きくなるように設定しており、クラッチ係合、かつギアイン状態でのEVモードでの走行中に、選択された変速段が適切な変速段より高速段である場合に、振動が大きくなり低速段への変速操作を促す。
【0049】
ステップS5において、ECU10は、ドライバ要求トルク(Tdr)とトルク変動成分(ΔTcb)を加算してマニュアルトランスミッション4のインプットシャフトの入力トルクに相当する仮想インプットシャフトトルク(Tin)を算出する。ステップS5の処理を実行した後、ECU10は、ステップS6の処理を実行する。
【0050】
ステップS6において、ECU10は、後述する方法により、エンジン2の起振力に起因する振動を模擬するために、起振力成分(ΔTv)を算出する。ステップS6の処理を実行した後、ECU10は、ステップS7の処理を実行する。
【0051】
この起振力成分は、エンジン2のピストンやクランクシャフト等の慣性力による振動がエンジンマウントを経由して車体を振動させる状況を模擬する。したがって、クラッチ操作が解放か係合か、マニュアルトランスミッション4がギアインかニュートラルかには関係なく、エンジン回転速度により振動の大きさが定まり、慣性力が大きい高回転で振動が大きくなる傾向としている。
【0052】
ステップS7において、ECU10は、仮想インプットシャフトトルク(Tin)に、マニュアルトランスミッション4で選択されている変速段に応じたギア比(ニュートラルの場合はキア比をゼロとみなす)を乗算した値に、起振力成分(ΔTv)を加算し、MGトルク指令値とする。ステップS7の処理を実行した後、ECU10は、MGトルク指令値算出処理を終了する。
【0053】
このようなMGトルク指令値算出処理のステップS2における仮想エンジン回転速度算出処理について
図3を参照して説明する。
【0054】
ステップS101において、ECU10は、シフト位置がニュートラルであるか否かを判定する。シフト位置がニュートラルであると判定した場合には、ECU10は、ステップS102の処理を実行する。
【0055】
シフト位置がニュートラルでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS103の処理を実行する。
【0056】
ステップS102において、ECU10は、ドライバ要求トルクとエンジン慣性モーメントに基づき仮想エンジン回転速度を算出する。ステップS102の処理を実行した後、ECU10は、仮想エンジン回転速度算出処理を終了する。
【0057】
シフト位置がニュートラルの場合、HEVモードであればエンジントルクとエンジン慣性モーメントによりエンジン回転速度の変化率が決まる。そこで、EVモードの場合には、ドライバ要求トルクとエンジン慣性モーメントから以下の式(1)により仮想エンジン回転速度を算出する。
Ne(n)=Ne(n-1)+(Te/Ie)×tp・・・(1)
【0058】
ここで、
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Ie:エンジンイナーシャ[kg・m2]
Te:ドライバ要求トルク[Nm]
tp:演算周期[s]
【0059】
ステップS103において、ECU10は、クラッチ7が係合状態であるか否かを判定する。クラッチ7が係合状態であると判定した場合には、ECU10は、ステップS104の処理を実行する。
【0060】
クラッチ7が係合状態でないと判定した場合には、ECU10は、ステップS105の処理を実行する。
【0061】
ここでは、以下の条件1及び条件2が両方成立した場合に、クラッチ7が係合状態であると判定する。条件1だけでは、クラッチ7が係合状態への移行中(クラッチ7の差回転がゼロへ向けて減少している状態)の場合があるため、条件2(クラッチ7の差回転がほぼゼロ)も成立した場合にクラッチ7が係合していると判定する。
条件1・・・|Te|<Tc
条件2・・・Ni-α<Ne(n-1)<Ni+α
【0062】
ここで、
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Te:ドライバ要求トルク[Nm]
Tc:クラッチ伝達トルク上限[Nm]
Ni:インプット回転速度[rad/s]
α:クラッチ係合判定回転差閾値[rad/s]
【0063】
なお、インプット回転速度(Ni)は、モータジェネレータ3の回転速度であるMG回転速度と選択された変速段のギア比から算出する。
【0064】
ステップS104において、ECU10は、MG回転速度とシフト位置に基づき仮想エンジン回転速度を算出する。ステップS104の処理を実行した後、ECU10は、仮想エンジン回転速度算出処理を終了する。
【0065】
クラッチ7が係合状態である場合、HEVモードであれば、エンジン回転速度はマニュアルトランスミッション4のインプットシャフト回転速度に等しい。そこで、EVモードでは、MG回転速度と、シフト位置から選択された変速段のギア比から、以下の式(2)により仮想エンジン回転速度を算出する。
Ne(n)=Nmg×ギア比・・・(2)
【0066】
ここで、
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Nmg:MG回転速度[rad/s]
ギア比:インプットシャフトとモータジェネレータ3との間のギア比
【0067】
ステップS105において、ECU10は、ドライバ要求トルクとクラッチトルクとエンジン慣性モーメントに基づき仮想エンジン回転速度を算出する。ステップS105の処理を実行した後、ECU10は、仮想エンジン回転速度算出処理を終了する。
【0068】
クラッチ7が係合状態でない場合には、クラッチ7が滑った状態でトルクを伝達する状態と、クラッチ7が完全に解放されている状態とがあるが、クラッチ解放状態はクラッチ伝達トルクがゼロの状態であるため、同じ計算方法で取り扱うことができる。
【0069】
HEVモードであれば、エンジン回転速度はエンジントルクとエンジン慣性モーメントとクラッチ伝達トルク上限によりエンジン回転速度の変化率が決まる。そこで、EVモードでは、ドライバ要求トルクと、エンジン慣性モーメントと、クラッチ伝達トルク上限とから以下の式(3)により仮想エンジン回転速度を算出する。
Ne(n)=Ne(n-1)+((Te-Tc)/Ie)×tp・・・(3)
ただし、Tcは、
Ne(n-1)>インプット回転速度の場合は正の値
Ne(n-1)<インプット回転速度の場合は負の値
とする。
【0070】
ここで、
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Te:ドライバ要求トルク[Nm]
Ie:エンジンイナーシャ[kg・m2]
Tc:クラッチ伝達トルク上限[Nm]
tp:演算周期[s]
【0071】
次に、MGトルク指令値算出処理のステップS4におけるトルク変動成分(ΔTcb)の算出処理について
図4を参照して説明する。
【0072】
ステップS201において、ECU10は、シフト位置がニュートラルであるか否かを判定する。シフト位置がニュートラルでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS202の処理を実行する。
【0073】
シフト位置がニュートラルであると判定した場合には、ECU10は、ステップS203の処理を実行する。
【0074】
ステップS202において、ECU10は、クラッチ7が係合状態であるか否かを判定する。クラッチ7が係合状態であると判定した場合には、ECU10は、ステップS204の処理を実行する。
【0075】
クラッチ7が係合状態でないと判定した場合には、ECU10は、ステップS203の処理を実行する。
【0076】
ここで、クラッチ7の係合状態の判定は、
図3のステップS103と同様の方法により判定する。
【0077】
ステップS203において、ECU10は、トルク変動成分(ΔTcb)をゼロとする。クラッチ7が係合状態でない場合(半クラッチ状態または解放状態)、クラッチ7の滑りによりトルク変動が吸収され駆動輪6には伝わらないため、トルク変動成分(ΔTcb)をゼロとする。ステップS203の処理を実行した後、ECU10は、トルク変動成分算出処理を終了する。
【0078】
ステップS204において、ECU10は、仮想エンジン回転速度とアクセル開度に基づき、
図7に示すマップを検索してトルク変動成分の振幅(Acb)を算出する。ステップS204の処理を実行した後、ECU10は、ステップS205の処理を実行する。
【0079】
図7において、振幅は、燃焼によるトルク変動のため、アクセル開度が大きいほど大きくなる傾向としている。また、エンジン2と駆動輪6との間には、ねじりダンパーが存在しており、エンジン回転速度の高回転域ではトルク変動が減衰するため、低回転で大きくなる傾向としている。
【0080】
ステップS205において、ECU10は、仮想エンジン回転速度に対応した周期のトルク変動成分(ΔTcb)を算出する。ステップS205の処理を実行した後、ECU10は、トルク変動成分算出処理を終了する。
【0081】
トルク変動成分の振幅(Acb)から、以下の式(4)によりトルク変動成分(ΔTcb)を算出する。
ΔTcb=Acb×sinθ・・・(4)
【0082】
ここで、
θ(n)=θ(n-1)+Ne(n)×(気筒数/m)×tp
ΔTcb:トルク変動成分[Nm]
Acb:トルク変動成分の振幅(マップ検索値)[Nm]
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
tp:演算周期
m:1回転あたりの燃焼回数を求めるための係数(4サイクルエンジンの場合「2」、2サイクルエンジンの場合「1」)
【0083】
次に、MGトルク指令値算出処理のステップS6における起振力成分(ΔTv)の算出処理について
図5を参照して説明する。
【0084】
ステップS301において、ECU10は、仮想エンジン回転速度に基づき、
図8に示すテーブルを検索して起振力成分の振幅(Av)を算出する。ステップS301の処理を実行した後、ECU10は、ステップS302の処理を実行する。
【0085】
図8において、起振力による振動は、慣性力による振動なので、振幅は、エンジン回転速度が高いほど大きい値となるが、アイドル回転以下の低回転ではエンジンマウントの共振域となるので、低回転域でも大きくなる領域があるようにしている。
【0086】
ステップS302において、ECU10は、仮想エンジン回転速度に対応した周期の起振力成分(ΔTv)を算出する。ステップS302の処理を実行した後、ECU10は、起振力成分算出処理を終了する。
【0087】
起振力成分の振幅(Av)から、以下の式(5)により起振力成分(ΔTv)を算出する。なお、ここでは直列4気筒を例にしており、1次振動は打ち消しあうので、エンジン回転速度の2倍の周波数の振動である2次振動を模擬している。
ΔTv=Av×sinθ・・・(5)
ここで、
θ(n)=θ(n-1)+Ne(n)×l×tp
ΔTv:起振力成分[Nm]
Av:起振力成分の振幅(テーブル検索値)[Nm]
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
tp:演算周期
l:2次振動を模擬するための係数(1次振動の場合は、「1」を使用する)
【0088】
このように、本実施例では、ECU10は、EVモード時に、HEVモード時にエンジン2が駆動輪6を駆動する場合の駆動振動に対応する仮想駆動振動と、HEVモード時にエンジン2の慣性力により発生する振動に対応する仮想エンジン振動と、をモータジェネレータ3により発生させる。
【0089】
これにより、仮想駆動振動だけでなく仮想エンジン振動も考慮した振動をモータジェネレータ3により発生させることにより、EVモード時であっても音や振動でHEVモードと同様の変速操作をドライバに促すことができる。
【0090】
また、ECU10は、EVモード時に、ギアインかつクラッチ7が締結されている場合には、仮想エンジン振動と仮想駆動振動とをモータジェネレータ3により発生させ、ニュートラルまたはクラッチ7が切断されている場合には、仮想エンジン振動のみをモータジェネレータ3により発生させる。
【0091】
駆動振動は、エンジン2の燃焼に起因するトルク変動によって発生する振動であり、ニュートラルやクラッチ7が切断された状態では振動が駆動輪6に伝達しない。一方、エンジン振動は、エンジン2の起振力による振動であり、エンジン2のピストンやクランクシャフト等の慣性力による振動であるため、ギアインの有無やクラッチ7の断接によらず発生する。そのため、このような状況を考慮してモータジェネレータ3により振動を発生させることで、より正確にEVモード時であっても音や振動でHEVモードと同様の変速操作をドライバに促すことができる。
【0092】
また、ECU10は、EVモード時に、車両状態から仮想エンジン回転速度を算出し、仮想エンジン回転速度が所定回転速度以上の回転速度である場合には、仮想駆動振動を仮想エンジン回転速度が高いほど小さく算出し、仮想エンジン振動を仮想エンジン回転速度が高いほど大きく算出する。
【0093】
駆動振動は、エンジン2と駆動輪6との間にあるダンパーによりエンジン2の回転速度が高いほど減衰して小さくなる。一方、エンジン2の起振力は、エンジン2のピストンやクランクシャフト等の慣性力による振動であるため、エンジン2の回転速度が高いほど大きくなる。そのため、このような状況を考慮して、EVモード時に、車両状況に基づいて算出された仮想エンジン回転速度に基づいて仮想駆動振動及び仮想エンジン振動を算出することで、より正確な変速操作をドライバに促すことができる。
【0094】
また、ECU10は、仮想駆動振動をアクセル開度が大きいほど大きく算出し、仮想エンジン振動をアクセル開度によらず仮想エンジン回転速度のみに基づいて算出する。
【0095】
駆動振動は、燃焼に起因して発生するトルク変動であるため、仮想駆動振動は、アクセル開度が大きくなるほど大きく算出され、エンジン2の起振力は、エンジン2の慣性力による振動であるため、仮想エンジン振動は、仮想エンジン回転速度のみに基づいて算出される。これにより、さらに正確な変速操作をドライバに促すことができる。
【0096】
なお、エンジン2の起振力を模擬した仮想エンジン振動を発生させるのは「変速時」のみでも効果があるが、変速時以外でも仮想エンジン振動を発生させてもよい。これは、変速時のみ仮想エンジン振動を発生させるとドライバが違和感を覚える可能性があるからである。
【0097】
また、本実施例では、マニュアルトランスミッション4と駆動輪6との間の動力伝達経路にモータジェネレータ3を設けた構成を示したが、
図9に示すように、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路にモータジェネレータ3を設ける構成でも同様に実施することができる。
【0098】
図9において、エンジン2とモータジェネレータ3の間の動力伝達経路には自動クラッチ8が設けられている。自動クラッチ8としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2とモータジェネレータ3とは、自動クラッチ8を介して接続されている。
【0099】
自動クラッチ8は、クラッチアクチュエータ80によって作動され、エンジン2とモータジェネレータ3との間で動力を伝達する係合状態と、動力を伝達しない解放状態とが切り替えられるようになっている。クラッチアクチュエータ80は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0100】
この場合、仮想エンジン回転速度は不要となり、EVモードにおいてモータジェネレータ3に発生させる駆動トルクの算出に使用する仮想エンジン回転速度に代えてMG回転速度を用いればよい。
図2のフローチャートのステップS2の仮想エンジン回転速度の計算を削除したものになる。
【0101】
また、EVモードでのMGトルク指令値を算出する際に、選択された変速段のギア比を考慮する必要がなくなる。
図2のフローチャートのステップS7において計算する計算式に代えて以下の式(6)を用いればよい。
MGトルク指令値=Tin+ΔTv・・・(6)
【0102】
また、クラッチ7が切断された状態や、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態の場合には、エンジン2のトルク変動は駆動輪6に伝達しなくなるので、モータジェネレータ3により発生させる仮想駆動振動の計算には、クラッチ操作量やマニュアルトランスミッション4がニュートラル状態の条件は不要となり、
図4のフローチャートにおいて、ステップS201及びステップS202の判定を削除して常にトルク変動成分を計算するようにすればよい。
【0103】
本実施例では、各種センサ情報に基づきECU10が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、ハイブリッド車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0104】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0105】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 モータジェネレータ(電動機)
4 マニュアルトランスミッション(手動変速機)
6 駆動輪
7 クラッチ
10 ECU(制御部)
11 車速センサ
41 シフトポジションセンサ
42 ニュートラルスイッチ
72 クラッチペダルセンサ
91 アクセル開度センサ