(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/20 20160101AFI20240319BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240319BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20240319BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240319BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20240319BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240319BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240319BHJP
【FI】
B60W20/20
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2020158753
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳輝
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-041038(JP,A)
【文献】特開2008-174159(JP,A)
【文献】特開2013-130225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0090077(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバが手動で任意の変速段に選択が可能な手動変速機と、
前記手動変速機を介して駆動輪を駆動させるエンジンと、
前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達を解放または接続するクラッチと、
電動機と、
前記電動機のみを駆動源として走行を行なうEVモードと、前記エンジンと前記電動機とを駆動源として走行を行なうHEVモードと、を切り替える制御部と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記手動変速機の変速段が高速段であるほどアクセル開度の上限に対して大きな割合まで前記EVモードを維持するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記手動変速機の変速段が高速段であるとき、
第1の車速から前記第1の車速よりも高い第2の車速まで前記EVモード
を維持する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記手動変速機の変速段が低速段であるほど、前記HEVモードを想定して算出するエンジン回転速度である仮想エンジン回転速度が高くなるまで前記EVモードを維持する請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記手動変速機の変速段が低速段であるほど、
前記仮想エンジン回転速度が高くドライバ要求トルクが高くなるまで前記EVモードを維持する
請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセル開度と車速とを用いて、EVモードとHEVモードとの切替判定を行なうことが記載されている。
【0003】
これは、走行に必要なパワーが小さい領域では、エンジンを停止してEV走行を行なうことで、エンジンの効率が悪い低負荷領域を使用しないようにして燃費を向上させるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、手動変速機を用いる車両においては、同じ車速やアクセル開度であっても、選択されているギア段によってドライバの要求する駆動力が異なるため、車速とアクセル開度のみで走行モードの切替判定を行なうと、ドライバが駆動力を要求していない場合であっても、HEVモードへの移行が発生して燃費向上効果を十分に得ることができない。
【0006】
そこで、本発明は、ドライバが要求していないHEVモードへの移行を抑制して、燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、ドライバが手動で任意の変速段に選択が可能な手動変速機と、前記手動変速機を介して駆動輪を駆動させるエンジンと、前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達を解放または接続するクラッチと、電動機と、前記電動機のみを駆動源として走行を行なうEVモードと、前記エンジンと前記電動機とを駆動源として走行を行なうHEVモードと、を切り替える制御部と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、前記制御部は、前記手動変速機の変速段が高速段であるほどアクセル開度の上限に対して大きな割合まで前記EVモードを維持するものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明によれば、ドライバが要求していないHEVモードへの移行を抑制して、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のモード判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置の仮想エンジン回転速度算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のMGトルク指令値算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のドライバ要求トルク算出マップの例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置のエンジン回転数に基づくHEV移行閾値の例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の制御装置の車速に基づくHEV移行閾値の例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例に係るエンジンとマニュアルトランスミッションとの間の動力伝達経路にモータジェネレータを設けたハイブリッド車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、ドライバが手動で任意の変速段に選択が可能な手動変速機と、手動変速機を介して駆動輪を駆動させるエンジンと、エンジンと手動変速機との間の動力伝達を解放または接続するクラッチと、電動機と、電動機のみを駆動源として走行を行なうEVモードと、エンジンと電動機とを駆動源として走行を行なうHEVモードと、を切り替える制御部と、を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、制御部は、手動変速機の変速段が高速段であるほどアクセル開度の上限に対して大きな割合まで前記EVモードを維持するよう構成されている。
【0011】
これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、ドライバが要求していないHEVモードへの移行を抑制して、燃費を向上させることができる。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る制御装置を搭載したハイブリッド車両について詳細に説明する。
【0013】
図1において、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両1は、エンジン2と、電動機としてのモータジェネレータ3と、手動変速機としてのマニュアルトランスミッション4と、ディファレンシャル5と、駆動輪6と、制御部としてのECU(Electric Control Unit)10と、を含んで構成されている。
【0014】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0015】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20が連結されている。ISG20は、ベルト21などを介してエンジン2のクランクシャフトに連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフトから入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0016】
モータジェネレータ3は、インバータ30を介してバッテリ31から供給される電力によって駆動する電動機としての機能と、ディファレンシャル5から入力される逆駆動力によって発電を行う発電機としての機能とを有する。
【0017】
インバータ30は、ECU10の制御により、バッテリ31から供給された直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給したり、モータジェネレータ3によって生成された三相の交流電力を直流電力に変換してバッテリ31を充電したりする。バッテリ31は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池によって構成されている。
【0018】
マニュアルトランスミッション4は、エンジン2から出力された回転を複数の変速段のいずれかに応じた変速比で変速して出力する手動変速機によって構成されている。マニュアルトランスミッション4の出力軸は、ディファレンシャル5を介して左右の駆動輪6に接続されている。モータジェネレータ3の出力軸は、マニュアルトランスミッション4の出力軸に接続されている。
【0019】
マニュアルトランスミッション4で成立可能な変速段としては、例えば低速段である1速段から高速段である5速段までの走行用の変速段と、後進段とがある。走行用の変速段の段数は、ハイブリッド車両1の諸元により異なり、上述の1速段から5速段に限られるものではない。
【0020】
マニュアルトランスミッション4における変速段は、運転者により操作されるシフトレバー40の操作位置に応じて切り替えられるようになっている。シフトレバー40の操作位置は、シフトポジションセンサ41により検出される。シフトポジションセンサ41は、ECU10に接続されており、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0021】
マニュアルトランスミッション4には、ニュートラルスイッチ42が設けられている。ニュートラルスイッチ42は、ECU10に接続されている。ニュートラルスイッチ42は、マニュアルトランスミッション4においていずれの変速段も成立していない状態、つまりニュートラル状態であることを検出するもので、マニュアルトランスミッション4がニュートラル状態にあるときにONされるスイッチである。
【0022】
エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路には、クラッチ7が設けられている。クラッチ7としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2とマニュアルトランスミッション4とは、クラッチ7を介して接続されている。
【0023】
クラッチ7は、クラッチアクチュエータ70によって作動され、エンジン2とモータジェネレータ3との間で動力を伝達する係合状態と、動力を伝達しない解放状態と、回転差のある状態でトルクが伝達される半クラッチ状態と、のいずれかに切り替えられるようになっている。クラッチアクチュエータ70は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0024】
ECU10は、運転者により操作されるクラッチペダル71の踏み込み量に応じてクラッチアクチュエータ70を制御し、マニュアルクラッチと同等の動作となるように制御する。
【0025】
クラッチペダル71の踏み込み量は、クラッチペダルセンサ72によって検出される。クラッチペダルセンサ72は、ECU10に接続されており、クラッチペダル71の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0026】
ハイブリッド車両1は、運転者により操作されるアクセルペダル90を備えている。アクセルペダル90の踏み込み量は、アクセル開度センサ91によって検出される。アクセル開度センサ91は、ECU10に接続されており、アクセルペダル90の踏み込み量をアクセル開度として検出し、当該アクセル開度に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0027】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0028】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータユニットは、本実施例におけるECU10として機能する。
【0029】
ECU10には、上述したセンサ類のほか、車速センサ11が接続されている。車速センサ11は、ハイブリッド車両1の車速を検出し、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0030】
ECU10は、ハイブリッド車両1の制御モードを切り替えるようになっている。本実施例における制御モードとしては、EVモードとHEVモードとが設定されている。
【0031】
EVモードは、クラッチ7を解放状態とし、モータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる制御モードである。HEVモードは、クラッチ7を係合状態とし、エンジン2、又はエンジン2及びモータジェネレータ3の動力によりハイブリッド車両1を走行させる制御モードである。
【0032】
ECU10は、例えば、アクセル開度とエンジン回転数に基づいてEVモードとHEVモードとを切り替える。
【0033】
ECU10は、例えば、アクセル開度とエンジン回転数で決まるドライバ要求トルクがHEV移行閾値を超えた場合、HEVモードに移行する。
【0034】
ECU10は、例えば、アクセル開度とエンジン回転数で決まるドライバ要求トルクがEV移行閾値を下回った場合、EVモードに移行する。
【0035】
ECU10は、HEV移行閾値及びEV移行閾値をマニュアルトランスミッション4の変速段ごとに用意する。
【0036】
ECU10は、車速によりHEV移行閾値及びEV移行閾値を変えるようにしてもよい。
【0037】
ECU10は、EVモード時に、HEVモード時に同様の操作を行なった場合のエンジン回転速度を想定して仮想エンジン回転速度を算出する。
【0038】
ECU10は、例えば、ドライバ要求トルク、クラッチ操作量、シフト位置、エンジン慣性モーメントに基づいて仮想エンジン回転速度を算出する。
【0039】
以上のように構成された本実施例に係る制御装置によるモード判定処理について、
図2を参照して説明する。なお、以下に説明するモード判定処理は、ECU10が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0040】
ステップS1において、ECU10は、車速、シフト位置、アクセル開度、クラッチペダルの踏み込み量などのハイブリッド車両1の各種センサ情報を取得する。ステップS1の処理を実行した後、ECU10は、ステップS2の処理を実行する。
【0041】
ステップS2において、ECU10は、現在選択されている制御モードがEVモードであるか否かを判定する。現在選択されている制御モードがEVモードであると判定した場合には、ECU10は、ステップS3の処理を実行する。
【0042】
現在選択されている制御モードがEVモードでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS4の処理を実行する。
【0043】
ステップS3において、ECU10は、後述する方法により仮想エンジン回転速度を計算する。ステップS3の処理を実行した後、ECU10は、ステップS5の処理を実行する。
【0044】
ステップS4において、ECU10は、実際のエンジン2の回転速度である実エンジン回転速度を取得する。ステップS4の処理を実行した後、ECU10は、ステップS5の処理を実行する。
【0045】
ステップS5において、ECU10は、アクセル開度とエンジン回転速度(EVモードの場合には仮想エンジン回転速度)に基づき、
図5に示すマップを補間演算してドライバ要求トルク(Tdr)を算出する。図中「ASP」はアクセル開度を示している。ステップS5の処理を実行した後、ECU10は、ステップS6の処理を実行する。
【0046】
図5に示すドライバ要求トルクマップは、アイドル回転以下の所定の回転速度域(自立運転ができない領域)ではアクセル開度に関わらず負の値となるように設定し、EVモードにおいて仮想エンジン回転速度が低下した場合にエンストを模擬するようにしている。
【0047】
また、エンジン2の過回転防止のため燃料カット等によりエンジントルクを低減させる高回転速度領域でも、アクセル開度に関わらず負の値となるように設定し、EVモードにおいて仮想エンジン回転速度が過回転となった場合に、燃料カット等によりエンジントルクを低減させている状態を模擬するようにしている。
【0048】
ステップS6において、ECU10は、ドライバ要求トルク(Tdr)がHEV移行閾値より大きいか否かを判定する。
【0049】
HEV移行閾値は、マニュアルトランスミッション4の変速段毎に設定し、低速段ほど高回転かつ高出力領域までEVモードとしている。また、
図6に示すように、高速段ほど高トルク領域までEVモードの領域としている。なお、本実施例では、エンジン回転速度(仮想エンジン回転速度)とクランク軸でのドライバ要求トルクのマップとしているが、
図7に示すように、車速と車軸でのドライバ要求トルクのマップとすることもできる。また、
図6及び
図7では、1速、3速、5速の例を示しているが、他の変速段についても設定されている。
【0050】
ドライバ要求トルク(Tdr)がHEV移行閾値より大きいと判定した場合には、ECU10は、ステップS7の処理を実行する。
【0051】
ドライバ要求トルク(Tdr)がHEV移行閾値より大きくないと判定した場合には、ECU10は、ステップS8の処理を実行する。
【0052】
ステップS7において、ECU10は、制御モードをHEVモードとする。ステップS7の処理を実行した後、ECU10は、モード判定処理を終了する。
【0053】
ステップS8において、ECU10は、ドライバ要求トルク(Tdr)がEV移行閾値より小さいか否かを判定する。
【0054】
EV移行閾値は、
図6及び
図7に示すHEV移行閾値に対して、ハンチング防止のため低トルク側、低回転側にヒステリシスを持たせたものである。
【0055】
ドライバ要求トルク(Tdr)がEV移行閾値より小さいと判定した場合には、ECU10は、ステップS9の処理を実行する。
【0056】
ドライバ要求トルク(Tdr)がHEV移行閾値より小さくないと判定した場合には、ヒステリシスの範囲内となるので制御モードの変更は行なわず、ECU10は、モード判定処理を終了する。
【0057】
ステップS9において、ECU10は、制御モードをEVモードとする。ステップS9の処理を実行した後、ECU10は、モード判定処理を終了する。
【0058】
このようなモード判定処理のステップS3における仮想エンジン回転速度算出処理について
図3を参照して説明する。
【0059】
ステップS101において、ECU10は、シフト位置がニュートラルであるか否かを判定する。シフト位置がニュートラルであると判定した場合には、ECU10は、ステップS102の処理を実行する。
【0060】
シフト位置がニュートラルでないと判定した場合には、ECU10は、ステップS103の処理を実行する。
【0061】
ステップS102において、ECU10は、ドライバ要求トルクとエンジン慣性モーメントに基づき仮想エンジン回転速度を算出する。ステップS102の処理を実行した後、ECU10は、仮想エンジン回転速度算出処理を終了する。
【0062】
シフト位置がニュートラルの場合、HEVモードであればエンジントルクとエンジン慣性モーメントによりエンジン回転速度の変化率が決まる。そこで、EVモードの場合には、ドライバ要求トルクとエンジン慣性モーメントから以下の式(1)により仮想エンジン回転速度を算出する。
Ne(n)=Ne(n-1)+(Te/Ie)×tp・・・(1)
【0063】
ここで、
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Ie:エンジンイナーシャ[kg・m2]
Te:ドライバ要求トルク[Nm]
tp:演算周期[s]
【0064】
ステップS103において、ECU10は、クラッチ7が係合状態であるか否かを判定する。クラッチ7が係合状態であると判定した場合には、ECU10は、ステップS104の処理を実行する。
【0065】
クラッチ7が係合状態でないと判定した場合には、ECU10は、ステップS105の処理を実行する。
【0066】
ここでは、以下の条件1及び条件2が両方成立した場合に、クラッチ7が係合状態であると判定する。条件1だけでは、クラッチ7が係合状態への移行中(クラッチ7の差回転がゼロへ向けて減少している状態)の場合があるため、条件2(クラッチ7の差回転がほぼゼロ)も成立した場合にクラッチ7が係合していると判定する。
条件1・・・|Te|<Tc
条件2・・・Ni-α<Ne(n-1)<Ni+α
【0067】
ここで、
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Te:ドライバ要求トルク[Nm]
Tc:クラッチ伝達トルク上限[Nm]
Ni:インプット回転速度[rad/s]
α:クラッチ係合判定回転差閾値[rad/s]
【0068】
なお、インプット回転速度(Ni)は、モータジェネレータ3の回転速度であるMG回転速度と選択された変速段のギア比から算出する。
【0069】
ステップS104において、ECU10は、MG回転速度とシフト位置に基づき仮想エンジン回転速度を算出する。ステップS104の処理を実行した後、ECU10は、仮想エンジン回転速度算出処理を終了する。
【0070】
クラッチ7が係合状態である場合、HEVモードであれば、エンジン回転速度はマニュアルトランスミッション4のインプットシャフト回転速度に等しい。そこで、EVモードでは、MG回転速度と、シフト位置から選択された変速段のギア比から、以下の式(2)により仮想エンジン回転速度を算出する。
Ne(n)=Nmg×ギア比・・・(2)
【0071】
ここで、
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Nmg:MG回転速度[rad/s]
ギア比:インプットシャフトとモータジェネレータ3との間のギア比
【0072】
ステップS105において、ECU10は、ドライバ要求トルクとクラッチトルクとエンジン慣性モーメントに基づき仮想エンジン回転速度を算出する。ステップS105の処理を実行した後、ECU10は、仮想エンジン回転速度算出処理を終了する。
【0073】
クラッチ7が係合状態でない場合には、クラッチ7が滑った状態でトルクを伝達する状態と、クラッチ7が完全に解放されている状態とがあるが、クラッチ解放状態はクラッチ伝達トルクがゼロの状態であるため、同じ計算方法で取り扱うことができる。
【0074】
HEVモードであれば、エンジン回転数はエンジントルクとエンジン慣性モーメントとクラッチ伝達トルク上限によりエンジン回転数の変化率が決まる。そこで、EVモードでは、ドライバ要求トルクと、エンジン慣性モーメントと、クラッチ伝達トルク上限とから以下の式(3)により仮想エンジン回転速度を算出する。
Ne(n)=Ne(n-1)+((Te-Tc)/Ie)×tp・・・(3)
ただし、Tcは、
Ne(n-1)>インプット回転速度の場合は正の値
Ne(n-1)<インプット回転速度の場合は負の値
とする。
【0075】
ここで、
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Te:ドライバ要求トルク[Nm]
Ie:エンジンイナーシャ[kg・m2]
Tc:クラッチ伝達トルク上限[Nm]
tp:演算周期[s]
【0076】
次に、EVモードでのモータジェネレータ3へのトルク指令値であるMGトルク指令値の算出処理について
図4を参照して説明する。
【0077】
ステップS201において、ECU10は、仮想エンジンイナーシャトルクを算出する。ステップS201の処理を実行した後、ECU10は、ステップS202の処理を実行する。
【0078】
仮想エンジン回転速度の変化率とエンジン2の慣性モーメントから、以下の式(4)により仮想エンジンイナーシャトルクを算出する。
TIe(n)=((Ne(n-1)-Ne(n))/tp)×Ie・・・(4)
ここで、
TIe(n):仮想エンジンイナーシャトルク[Nm]
Ne(n):仮想エンジン回転速度[rad/s]
Ne(n-1):仮想エンジン回転速度(前回値)[rad/s]
Ie:エンジンイナーシャ[kg・m2]
tp:演算周期[s]
【0079】
ステップS202において、ECU10は、仮想インプットシャフトトルクを算出する。ステップS202の処理を実行した後、ECU10は、ステップS203の処理を実行する。
【0080】
ドライバ要求トルクに仮想エンジンイナーシャトルクを加算して、エンジン2からマニュアルトランスミッション4の入力軸に出力される仮想的なインプットシャフトトルクを算出する。
【0081】
ステップS203において、ECU10は、MGトルク指令値を算出する。ステップS203の処理を実行した後、ECU10は、MGトルク指令値算出処理を終了する。
【0082】
仮想インプットシャフトトルクにシフトポジションセンサ41で検出したシフト位置の変速段のギア比(ニュートラルの場合はギア比をゼロとみなす)を乗算し、MGトルク指令値を算出する。
【0083】
このように、本実施例では、ECU10は、マニュアルトランスミッション4の変速段が、高速段であるほどアクセル開度の上限に対して大きな割合までEVモードを維持する。
【0084】
これにより、高速段であるほどアクセル開度の上限に対して大きな割合までEVモードを維持するため、ドライバが要求していないHEVモードへの移行を抑制して、燃費を向上させることができる。
【0085】
また、ECU10は、マニュアルトランスミッション4の変速段が高速段であるとき、所定の車速までEVモードからHEVモードへの移行を禁止する。
【0086】
これにより、高速段において、所定の車速までHEVモードへの移行を禁止することで、さらにドライバの要求していないHEVモードへの移行を抑制することができる。
【0087】
また、ECU10は、マニュアルトランスミッション4の変速段が低速段であるほど、仮想エンジン回転速度が高くなるまでEVモードを維持する。
【0088】
低速段では、同一アクセル開度でも高速段より駆動力が大きいため、短時間で車速が上昇してEVモードからHEVモードに移行してしまう。加えて、アクセル開度を少し操作するだけで、またHEVモードからEVモードに移行してしまうため、EVモードとHEVモードとの移行頻度が高くなってしまい、ドライバが煩わしさを感じることが考えられる。
【0089】
低速段であるほど、仮想エンジン回転速度が高くなるまでEVモードを維持するため、ドライバが低速段を選択している際に、短時間でEVモードからHEVモードへ移行することを抑制して、燃費を向上させつつドライバが感じる煩わしさを抑制させることができる。
【0090】
また、ECU10は、マニュアルトランスミッション4の変速段が低速段であるほど、高出力となるまでEVモードを維持する。
【0091】
これにより、高出力となるまでEVモードが維持されるため、ドライバが低速段を選択している際に、短時間でEVモードからHEVモードへ移行することを抑制して、燃費を向上させつつドライバが感じる煩わしさを抑制させることができる。なお、出力は、トルクと回転速度の積で算出される。
【0092】
なお、本実施例では、マニュアルトランスミッション4と駆動輪6との間の動力伝達経路にモータジェネレータ3を設けた構成を示したが、
図8に示すように、エンジン2とマニュアルトランスミッション4との間の動力伝達経路にモータジェネレータ3を設ける構成でも同様に実施することができる。
【0093】
図8において、エンジン2とモータジェネレータ3の間の動力伝達経路には自動クラッチ8が設けられている。自動クラッチ8としては、例えば摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2とモータジェネレータ3とは、自動クラッチ8を介して接続されている。
【0094】
自動クラッチ8は、クラッチアクチュエータ80によって作動され、エンジン2とモータジェネレータ3との間で動力を伝達する係合状態と、動力を伝達しない解放状態とが切り替えられるようになっている。クラッチアクチュエータ80は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0095】
この場合、EVモードにおいてドライバ要求トルクやモード判定に使用する仮想エンジン回転速度に代えてMG回転速度を用いればよい。
【0096】
また、EVモードでのMGトルク指令値は、変速段やクラッチ操作量に関係なく、クランク軸のドライバ要求トルクを用いればよい。
【0097】
本実施例では、各種センサ情報に基づきECU10が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、ハイブリッド車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0098】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0099】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 モータジェネレータ(電動機)
4 マニュアルトランスミッション(手動変速機)
6 駆動輪
7 クラッチ
10 ECU(制御部)
11 車速センサ
41 シフトポジションセンサ
42 ニュートラルスイッチ
72 クラッチペダルセンサ
91 アクセル開度センサ