(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】内燃機関の点火装置
(51)【国際特許分類】
F02P 3/04 20060101AFI20240319BHJP
F02P 3/055 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
F02P3/04 304A
F02P3/055 Z
(21)【出願番号】P 2020179482
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入江 将嗣
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-124165(JP,A)
【文献】特開2016-169727(JP,A)
【文献】特開2017-207012(JP,A)
【文献】特開2011-124269(JP,A)
【文献】特開2017-180184(JP,A)
【文献】特開2011-127444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/04
F02P 3/055
F02D 41/00 ー 45/00
H01F 38/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、上記1次巻線へ入力される電圧を監視して、検出される電圧値(Vs)が過電圧閾値(Vth)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断するための通電禁止信号(A3)を出力する過電圧保護回路(5)を備えており、
上記過電圧保護回路は、上記通電指令信号の出力期間中に、上記電圧値が上記過電圧閾値を超えたときには、上記通電指令信号の出力期間が終了するまで、上記通電禁止信号の出力を停止する、内燃機関の点火装置。
【請求項2】
上記過電圧保護回路は、上記通電指令信号が出力されていない期間中に、上記電圧値が上記過電圧閾値を超えたときには、上記通電禁止信号の出力を許可する、請求項1に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項3】
上記過電圧保護回路は、
上記電圧値が上記過電圧閾値を超えているときに、過電圧信号(A1)を出力する過電圧検出部(51)と、
上記過電圧信号が出力されていない期間中に、上記通電指令信号の出力が開始されたときに、又は、上記通電指令信号の出力期間中に、上記過電圧信号の出力が停止されたときに、通電許可信号(A2)を出力する通電許可判定部(520)と、を備え、
上記通電許可信号の出力の有無に基づいて、上記通電禁止信号の出力の可否を判定する、請求項1又は2に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項4】
上記過電圧保護回路は、
上記通電許可信号が出力されている間は、上記通電禁止信号の出力を許可しない、請求項3に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項5】
上記制御回路部は、上記スイッチング素子を流れる電流値(I)を監視して、上記電流値が制限電流値(I1)を超えないように制御する過電流保護回路(6)を備えており、
上記過電流保護回路は、上記電圧値が、上記過電圧閾値よりも低い基準電圧値(Vref)を超える範囲において、上記制限電流値を可変させる、制限電流補正回路(61)を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項6】
上記制限電流補正回路は、上記電圧値が高くなるほど、上記制限電流値を低下させる、請求項5に記載の内燃機関の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火用の点火コイルとイグナイタを備える点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の点火装置は、点火用の高電圧を出力する点火コイルと、点火コイルへの通電を制御する点火制御装置としてのイグナイタとで構成される。イグナイタは、例えば、IGBT等のスイッチング素子と、該スイッチング素子の動作を制御する制御回路部とを備えており、スイッチング素子は、点火コイルの1次巻線に接続している。点火コイルの2次巻線は、点火プラグに接続しており、制御回路部によるスイッチング素子のオンオフ動作によって、点火動作が制御される。
【0003】
具体的には、イグナイタは、点火装置に入力される点火信号に基づいて、スイッチング素子をオンオフ動作させる。すなわち、点火信号の立ち上がりでスイッチング素子がオンとなり、1次巻線への通電が開始される。次いで、点火信号の立ち下がりでスイッチング素子がオフとなると、1次巻線への通電が遮断されるのに伴い、2次巻線に高電圧が発生する。この高電圧が点火プラグに印加されて、点火プラグに火花放電を発生させる構成となっている。
【0004】
一方、従来から、イグナイタの制御回路部は、過電流や過電圧から保護するための保護回路を備えている。例えば、特許文献1には、過電圧保護機能を有する装置が提案されている。この過電圧保護機能は、電源端子に接続される過電圧保護回路によってバッテリ電圧をモニタし、ある電圧閾値以上になった場合に、コイル通電制御するドライブ回路を通じてスイッチング素子をオフする。これにより、過電圧による大電流がスイッチング素子を流れることを防ぎ、発熱破壊からスイッチング素子を保護するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような過電圧保護機能は、例えば、ロードダンプによるサージ電圧の発生により、バッテリ電圧が上昇したときに作動し、過電圧からスイッチング素子を保護する。ところが、その場合には、イグナイタによる点火動作と異なるタイミングで、スイッチング素子がオフとなることにより、点火プラグへの点火タイミングに影響を及ぼすおそれがある。例えば、点火信号によるスイッチング素子のオン期間中に、過電圧保護機能が作動すると、正規の点火タイミングより早いタイミングで1次巻線への通電が遮断されて、2次巻線に高電圧が発生し、点火プラグに印加されてしまう。その場合には、意図しない早期着火により、異常燃焼が生じて内燃機関の構成部材に損傷を与えるおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、意図しないタイミングでの過電圧保護動作を抑制し、スイッチング素子を保護しつつ、内燃機関の点火動作への影響を抑制可能な点火装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、上記1次巻線へ入力される電圧を監視して、検出される電圧値(Vs)が過電圧閾値(Vth)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断するための通電禁止信号(A3)を出力する過電圧保護回路(5)を備えており、
上記過電圧保護回路は、上記通電指令信号の出力期間中に、上記電圧値が上記過電圧閾値を超えたときには、上記通電指令信号の出力期間が終了するまで、上記通電禁止信号の出力を停止する、内燃機関の点火装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記構成において、イグナイタは、制御回路部に過電圧保護回路を有して、1次巻線へ入力される電圧を監視しており、検出される電圧値が過電圧閾値を超えると通電禁止信号を出力する。ただし、通電指令信号の出力期間中である場合に、検出される電圧値が過電圧閾値を超えたときには、通電禁止信号の出力を停止する。これにより、過電圧時にスイッチング素子が通電状態となって、通電指令信号と異なるタイミングでスイッチング素子への通電が遮断されるのを防止することができる。通電指令信号の出力期間が終了すると、通電禁止信号の出力が可能になり、スイッチング素子への通電が禁止される。このようにして、過電圧保護回路によりスイッチング素子を保護しながら、正規の点火タイミングによる点火動作を行い、内燃機関の損傷等を抑制することができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、スイッチング回路部の劣化による温度上昇を検出して、意図しないタイミングでの過電圧保護動作を抑制し、スイッチング素子を保護しつつ、内燃機関の点火動作への影響を抑制可能な点火装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1における、内燃機関の点火装置の構成を示す回路図。
【
図2】実施形態1における、点火装置の要部であるイグナイタの構成を示す回路図。
【
図3】実施形態1における、イグナイタの過電圧保護回路に設けられる過電圧通電停止判定回路の構成例と、過電圧保護回路による過電圧保護動作を示すタイムチャート図。
【
図4】参考形態における、過電圧保護動作を示すタイムチャート図。
【
図5】実施形態1における、過電圧保護回路による過電圧保護動作を含む制御回路部の点火動作の手順を示すフローチャート図。
【
図6】実施形態2における、イグナイタの過電圧保護回路に設けられる過電圧通電停止判定回路の構成例を示す回路図。
【
図7】実施形態2における、過電圧保護回路による過電圧保護動作を示すタイムチャート図。
【
図8】実施形態3における、点火装置の要部であるイグナイタの構成を示す回路図。
【
図9】実施形態3における、電源電圧と過電圧保護回路に用いられる過電圧閾値及び過電流保護回路に用いられる制限電流値との関係を示す図。
【
図10】実施形態3における、過電圧保護回路による過電圧保護動作を示すタイムチャート図。
【
図11】実施形態3における、制限電流値を変更したときの電源電圧と素子印加電力の関係を示す図。
【
図12】実施形態3における、通常動作時のコイル印加電力と素子印加電力を比較して説明するための回路図及び波形図。
【
図13】実施形態3における、過電流保護動作時のコイル印加電力と素子印加電力を比較して説明するための回路図及び波形図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
内燃機関の点火装置に係る実施形態について、
図1~
図6を参照して説明する。
図1に示すように、点火装置1は、1次巻線21及び2次巻線22を有する点火コイル2と、点火コイル2への通電制御を行うイグナイタIと、を備える。点火コイル2は、1次巻線21を流れる電流の増減により2次巻線22に点火用の高電圧を発生させるものであり、2次巻線22の高圧側には、点火プラグPが接続されている。ここで、接続とは電気的な接続を意味し、以降の説明においても同様とする。
【0013】
イグナイタIは、スイッチング素子3が搭載されるスイッチング回路部30と、スイッチング素子3への通電を制御する制御回路部4と、を有する。スイッチング素子3は、1次巻線21の一端に接続されており、制御回路部4は、通電指令信号としての点火信号IGtに基づいて、スイッチング素子3への通電を制御することにより点火動作を制御する。また、制御回路部4は、スイッチング素子3を保護するために、1次巻線21へ入力される電圧を監視する過電圧保護回路5を備えている。
【0014】
図2に示すように、制御回路部4において、過電圧保護回路5は、1次巻線21へ入力される電圧を監視して、検出される電圧値Vsが、過電圧閾値Vthを超える範囲において、スイッチング素子3への通電を遮断するための通電禁止信号A3を出力することができる。ただし、
図3に示すように、点火信号IGtの出力期間中に、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えたときには、点火信号IGtの出力期間が終了するまで、通電禁止信号A3の出力を停止するように構成されている。
【0015】
好適には、過電圧保護回路5は、点火信号IGtが出力されていない期間中に、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えたときには、通電禁止信号A3の出力を許可するように構成されている。
【0016】
このように、過電圧保護回路5は、通電禁止信号A3の出力の可否を判断するに際して、1次巻線21へ入力される電圧の大きさのみならず、点火信号IGtの出力の有無を考慮する。これにより、点火信号IGtが出力されている期間に、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えても、通電禁止信号A3の出力が許可されないので、点火信号IGtに基づく正規のタイミングにて点火動作がなされ、それ以外の意図しない点火動作を抑制することが可能になる。
【0017】
好適には、過電圧保護回路5は、過電圧信号A1を出力する過電圧検出部51と、通電許可信号A2を出力する通電許可判定部520と、を備えることができる。具体的には、過電圧検出部51は、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えているときに、過電圧信号A1を出力する。通電許可判定部520は、過電圧信号A1が出力されていない期間中に、点火信号IGtの出力が開始されたときに、又は、点火信号IGtの出力期間中に、過電圧信号A1の出力が停止されたときに、通電許可信号A2を出力する。
【0018】
このような構成において、過電圧保護回路5は、通電許可信号A2の出力の有無に基づいて、通電禁止信号A3の出力の可否を判定することができる。好適には、過電圧保護回路5は、通電許可信号A2が出力されている間は、通電禁止信号A3の出力を許可しないように構成される。これにより、通電禁止信号A3を、適切なタイミングで出力することができる。
【0019】
また、好適には、制御回路部4は、スイッチング素子3を流れる電流値Iを監視して、電流値Iが制限電流値I1を超えないように制御する過電流保護回路6を備えることができる。
【0020】
以下、内燃機関の点火装置1の構成と作動について、詳述する。
本形態において、内燃機関は、例えば、自動車用エンジンであり、
図1に示す点火装置1によって点火プラグPを点火動作させると、図示しないエンジン燃焼室内の混合気が着火燃焼する。エンジンの運転は、図示しないエンジン用の電子制御ユニット(すなわち、Engine Control Unit;以下、ECU)によって制御されている。ECUは、点火コイル2の点火動作のための通電指令信号である点火信号IGtを発信し、イグナイタIは、制御回路部4の入力端子11に入力される点火信号IGtに応じて、点火コイル2への通電を切り替えるスイッチング素子3を駆動する。
【0021】
点火コイル2は、1次巻線21の一端に電源線Lvが接続され、主電源端子+Bを介して図示しない電源から給電されるようになっている。1次巻線21の他端は、スイッチング回路部30のコイル側端子IGCを介して、スイッチング素子3に接続される。電源には、例えば、車載バッテリを用いることができる。点火コイル2は、1次巻線21への通電を遮断したときに、2次巻線22に発生する高電圧を、点火プラグPの電極間に印加して、火花放電を生じさせる。
【0022】
2次巻線22の低圧側は、オン飛火防止ダイオード23を介して接地線24に接続される。オン飛火防止ダイオード23は、アノード端子が2次巻線22側、カソード端子が接地側となるように接続されており、接地側へ向かう方向が順方向となるように、点火コイル2の電流方向を規制して、通電オン時の電圧によるオン飛火を防止することができる。
【0023】
イグナイタIは、スイッチング素子3と、スイッチング素子3の温度に応じた素子温度信号を出力する温度検出素子32を、一個のスイッチ用半導体チップに集積化したスイッチング回路部30を有している。スイッチング素子3は、公知のパワートランジスタ、例えば、IGBT(すなわち、Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)31にて構成されている。IGBT31のコレクタ側は、コイル側端子IGCに接続され、IGBT31のエミッタ側は、スイッチング回路部30の接地側端子33を介して、接地線Lgに接続される。接地線Lgは、グランド端子GNDを介して外部のグランドに接続される。
【0024】
温度検出素子32は、例えば、複数の感温ダイオードD1、D2が順方向に直列接続された構成となっている。感温ダイオードD1、D2は、順方向電流が流れるときにダイオードの両端に発生する順方向電圧が、温度と相関があることを利用して、スイッチング素子3と同等温度となるスイッチング回路部30の温度を検出することができる。温度検出素子32は、感温ダイオードD1、D2のアノード端子が、検出用端子TSD側、カソード端子が接地側となるように接続されており、接地側へ向かう方向が順方向となる。
【0025】
制御回路部4は、いわゆるモノリシックIC(すなわち、monolithic IC;MIC)であり、ドライブ回路41、フィルタ回路42、過電圧保護回路5、過電流保護回路6、及びロック防止回路43が、一個の制御用半導体チップに集積化されている。フィルタ回路42は、ECUから発信される点火信号IGtを波形整形して、Hレベル又はLレベルの二値信号としてドライブ回路41へ出力する。ドライブ回路41は、スイッチング回路部30のゲート端子34を介してIGBT31のゲート側に接続されており、フィルタ回路42からの入力信号に応じて、IGBT31への通電信号を出力する。これに伴い、IGBT31のゲート電圧がHレベル電圧又はLレベル電圧に切り替えられ、点火コイル2の通電がオンオフ制御される。
【0026】
ロック防止回路43は、例えば、スイッチング素子3がオン状態で固定されるような運転状態において、スイッチング素子3に過度な発熱による温度上昇が生じることを防止する、過昇温保護動作を実施する。このような運転状態は、具体的には、点火信号IGtが常時オンとなるロック通電時や、オン時間が長く通電周期が短くなる高回転・高デューティ制御時であり、ロック防止回路43は、スイッチング素子3の過昇温を検出したときに、ドライブ回路41に過昇温検出信号を出力することにより、スイッチング素子3への通電を遮断させる(すなわち、サーマルシャットダウン)。これにより、スイッチング素子3を、過昇温による破壊等の不具合から保護する機能を有する。
【0027】
ロック防止回路43は、例えば、電源端子12に接続される定電流源と、スイッチング素子3の過昇温を検出するための過昇温検出回路を備える構成とすることができる。過昇温検出回路は、例えば、ヒステリシスを持たせた比較回路にて構成され、予め設定した通電禁止温度に応じた検出閾値電圧と、通電許可温度に応じた解除閾値電圧との間にあるときに、過昇温検出信号が出力されて、スイッチング素子3の通電制御がなされる。
【0028】
詳細を後述する過電圧保護回路5は、電源端子12を介して電源線Lvに接続されている。過電圧保護回路5は、電源線Lvから点火コイル2の1次巻線21に入力される電源電圧を監視し、電源電圧の変動等による過電圧から、スイッチング回路部30を保護するように構成される。例えば、バッテリ充電時に配線や端子との接続不良が生じると、いわゆるロードダンプサージが生じて電源線Lvの電圧が上昇する。このようなサージ電圧が発生した際に、点火動作がなされると、スイッチング回路部30の電源側と接地側とが導通し(すなわち、
図1中の破線にて通電経路を示す)、過電圧による大電流が流れることによって、スイッチング素子3が発熱により損傷するおそれがある。
【0029】
そこで、過電圧保護回路5は、1次巻線2に接続される電源線Lvの電圧値に基づいて、過電圧と判断されるときに、スイッチング回路部30への通電を禁止することにより、過大な電流がスイッチング素子3を流れることを抑制する。さらに、過電圧時に通電を直ちに禁止せずに、点火信号IGtの出力期間中であるか否かに基づいて、通電の禁止又は許可を判定することにより、点火動作への影響を抑制することができる。
【0030】
また、過電流保護回路6は、スイッチング回路部30のセンスエミッタ端子35に接続されて、点火信号IGtのオン時に、点火コイル2の1次巻線21及びスイッチング素子3を流れる電流値(以下、適宜、通電電流と称する)Iを検出する。そして、検出される電流値Iが、予め設定された制限電流値I1以下に制限されるように構成して、スイッチング回路部30を過電流から保護している。なお、主電源端子+Bとグランド端子GNDの間には、ノイズ防止用のコンデンサ13を配置することができる。
【0031】
図2において、過電圧保護回路5は、過電圧検出部51と、通電許可判定部520を有する過電圧通電停止判定回路52と、を備える。過電圧検出部51は、例えば、電圧検出抵抗R11、R12と、比較回路50と、を有する構成とすることができる。制御回路部4には、電源端子12に接続される高電位線Lv1と、接地線Lgに接続される低電位線Lg1とが配設されており、電圧検出抵抗R11、R12は、高電位線Lv1と低電位線Lg1との間に、直列に接続されて、電源電圧VBに応じた検出信号を出力する。なお、低電位側の電圧検出抵抗R2と、低電位線Lg1との間には、ツェナーダイオードZDが挿入されている。
【0032】
比較回路50のプラス端子には、検出信号として電圧検出抵抗R11、R12の接続中点の電圧値Vsが入力されており、マイナス端子に入力される過電圧閾値Vthと比較される。このとき、検出される電圧値Vsは、電源端子12から入力される電源電圧VBを、電圧検出抵抗R11と電圧検出抵抗R12とで分圧した値であり、過電圧閾値Vthとの比較結果に応じて、Hレベル又はLレベルの信号を出力する。過電圧閾値Vthは、電源電圧VBが過電圧状態にあることを判定するための値であり、電源電圧VBと電圧値Vsとの関係に基づいて予め設定されている。
【0033】
比較回路50は、検出される電圧値Vsが、過電圧状態閾値Vthを超えたときに出力が切り替わり、Hレベルの過電圧信号A1が、過電圧通電停止判定回路52へ出力される。過電圧通電停止判定回路52は、比較回路50からの過電圧信号A1の入力の有無と、点火信号IGtの入力の有無とに基づいて、過電圧による通電の停止が必要か否かの判定を行う。
【0034】
過電圧通電停止判定回路52において、通電停止要と判定されると、通電禁止信号A3がドライブ回路41へ出力され、スイッチング回路部30のゲート端子34へのゲート信号の出力が禁止される。そのための過電圧通電停止判定回路52の具体的な構成例を、以下に示す。なお、
図2中の制御回路部4には、過電圧保護回路5とその周辺回路を含めた、スイッチング素子3の通電制御のための要部を示しており、一部は省略されている。
【0035】
図3の上段に示すように、過電圧通電停止判定回路52は、点火信号IGtと過電圧信号A1とに基づいて通電許可信号A2を出力する通電許可判定部520と、インバータ回路53及びアンド回路54と、からなる。インバータ回路53は、通電許可判定部520とアンド回路54との間に配置され、通電許可判定部520の出力を反転させてアンド回路54の一方の端子に入力する。アンド回路54のもう一方の端子には、過電圧信号A1の入力端子が接続されている。
【0036】
このとき、アンド回路54は、通電許可判定部520から通電許可信号A2が出力されておらず、かつ、過電圧信号A1が入力しているときにのみ、通電禁止信号A3を出力する。言い換えれば、通電許可信号A2が出力されているときは、過電圧信号A1が入力されていても、通電禁止信号A3の出力は許可されない。過電圧信号A1が入力されており、通電許可信号A2の出力が停止されたときは、通電禁止信号A3の出力が許可される。なお、過電圧信号A1が入力していないときは、通電許可信号A2の出力の有無によらず、通電禁止信号A3は出力されない。
【0037】
図3の下段に示すように、通電許可判定部520は、点火信号IGtの出力記憶に基づく通電許可信号A2を出力するものであり、過電圧信号A1の出力の有無とタイミングに応じて、その一部をマスクするマスク機能を有する。過電圧通電停止判定回路52は、過電圧信号A1が出力されている期間のうち、通電許可判定部520から通電許可信号A2が出力されている期間を除いて、通電禁止信号A3を出力する。通電禁止信号A3が出力されている間は、点火信号IGtに基づく点火動作が禁止され、通電許可信号A2が出力されている期間のみ、スイッチング素子3への通電動作がなされる。
【0038】
通電許可信号A2は、過電圧によるスイッチング素子3への影響を抑制しつつ、意図しないタイミングでの点火動作を抑制するという観点から許可される通電期間を示している。すなわち、通電許可判定部520は、過電圧信号A1が出力されていない状態において、点火信号IGtの出力に基づく通電を許可し、点火信号IGtの出力期間が終了して、その出力が停止されるまで、通電許可状態を維持する。また、過電圧信号A1が出力されている状態で、点火信号IGtが出力された場合には、その出力をマスクする。そして、過電圧信号A1の出力が停止された時点で、点火信号IGtを有効化して通電を許可し、点火信号IGtの出力が停止されるまでその状態を維持する。言い換えれば、通電許可信号A2は、点火信号IGtが出力される時点以前に過電圧信号A1が出力されている場合を除いて、点火信号IGtの出力期間に対応して出力される。
【0039】
電源電圧VBが正常な期間(1)と、過電圧となる期間(2)~(4)における各種信号の出力と点火動作の違いを比較して、次に説明する。具体的には、過電圧信号A1が出力されないときは(すなわち、期間(1))、通電許可判定部520は、点火信号IGtの出力期間に対応する通電許可信号A2を出力する。なお、過電圧信号A1、通電許可信号A2及び通電禁止信号A3は、Hレベル又はLレベルの出力電圧レベルを持つ二値電圧信号であり、単に「出力」という場合は、Hレベルの出力を意味する。
【0040】
また、過電圧信号A1の出力があるときには、過電圧信号A1が出力されていない期間中に、点火信号IGtの出力が開始されたとき(すなわち、期間(2))、又は、点火信号IGtの出力期間中に、過電圧信号A1の出力が停止されたときに(すなわち、期間(3))、通電許可信号A2を出力する。そして、点火信号IGtが出力されている間、通電許可信号A2の出力を継続する。過電圧信号A1が出力され、点火信号IGtが出力されていないときは(すなわち、期間(4))、通電禁止信号A3が出力される。
【0041】
通電指令である点火信号IGtは、図中に矢印で示す点火タイミングに先立ってECUから出力される矩形波信号である。期間(1)において、過電圧検出部51にて検出される電圧値Vsは、過電圧閾値Vthよりも低いままであり、過電圧信号A1はLレベルを維持する。通電許可信号A2は、過電圧信号A1が出力されていない状態では、点火信号IGtと同じ波形であり、点火信号IGtの立ち上がりでHレベルとなった後、立ち下がりでLレベルとなるまで、Hレベルを維持する。この間、アンド回路54には、Lレベルの過電圧信号A1が入力されるので、通電許可信号A2の信号レベルによらず、通電禁止信号A3は出力されない。
【0042】
このとき、点火信号IGtの立ち上がりでスイッチング素子3への通電が開始され、通電電流Iが上昇する。次いで、点火信号IGtの立ち下がりでスイッチング素子3への通電が遮断されると、通電電流Iが急減して2次巻線22に発生する高電圧が点火プラグPに印加される。すなわち、この場合には、点火信号IGtに基づく正規の点火タイミングにおいて点火動作がなされる。点火信号IGtが立ち下がると、その出力記憶も解除され、通電許可信号A2がLレベルとなる。
【0043】
図3の期間(2)は、期間(1)の後に出力される点火信号IGtの途中で、過大サージにより電源電圧VBが上昇した場合であり、その後、電源電圧VBが上昇した状態で、点火信号IGtが出力された場合を、期間(3)としている。期間(2)のように、スイッチング素子3への通電が開始されてから、過大サージが入力した場合には、点火動作を優先させ、期間(3)のように、スイッチング素子3への通電が開始されていない状態では、スイッチング素子3の保護を優先することができる。
【0044】
期間(2)において、点火信号IGtの立ち上がりにおける電圧値Vsは、過電圧閾値Vthよりも低く、過電圧信号A1はLレベルを維持する。この場合も、通電許可信号A2は、点火信号IGtと同じ波形となり、点火信号IGtの立ち上がりでHレベルとなる。その後、過大サージにより電源電圧VBが上昇し、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えると(すなわち、図中に示す期間(21))、過電圧信号A1がHレベルに切り替わるが、通電許可信号A2がHレベルとなっているために、通電禁止信号A3の出力は保留される。これにより、スイッチング素子3への通電が継続され、点火信号IGtが立ち下がると、スイッチング素子3への通電が遮断される。
【0045】
このように、点火信号IGtが出力されている状態では、点火動作が優先されるので、正規のタイミングにおいて点火が実施されることにより、意図しない点火(例えば、プレイグニッション)によるエンジンの損傷を抑制することができる。なお、過電圧信号A1がHレベルである間は、過電圧の状態でスイッチング素子3へ通電されることになるが、過電流保護回路6(例えば、
図1参照)にて設定される制限電流値I1を超えないように、通電電流Iが制御されるので、スイッチング素子3の発熱を抑制しながら点火動作を行うことができる。
【0046】
期間(2)における点火動作が終了して、点火信号IGtの立ち下がりで通電許可信号A2がLレベルになると、続く期間(4)において、アンド回路54に、Hレベルの過電圧信号A1と、Lレベルの通電許可信号A2の反転信号とが入力される。これにより、アンド回路54の出力がLレベルからHレベルに切り替わり、通電禁止信号A3が出力される。その後、期間(3)において、通電禁止信号A3が出力された状態で、点火信号IGtが出力された場合には、通電禁止信号A3の出力が継続される。すなわち、点火信号IGtが出力される前に、過電圧の状態となることにより、通電禁止信号A3の出力が許可される。
【0047】
期間(3)において、点火信号IGtの立ち上がり前の電圧値Vsは、過電圧閾値Vthよりも高く、過電圧信号A1はHレベルとなっている。この状態で、点火信号IGtが出力された場合は、過電圧状態が解消されるまで(すなわち、図中に示す期間(31))、通電許可判定部520のマスク機能によって、通電許可信号A2は出力されず、Lレベルのままとなる。アンド回路54には、Hレベルの過電圧信号A1と、Lレベルの通電許可信号A2の反転信号とが入力されるので、通電禁止信号A3はHレベルを維持する。これにより、スイッチング素子3への通電が禁止される。
【0048】
その後、電圧値Vsが過電圧閾値Vthを下回り、過電圧信号A1がLレベルに切り替わると、マスク機能が解除されて、通電許可信号A2がHレベルに切り替わり、アンド回路54の2つの端子への入力は、いずれもLレベルとなって、通電禁止信号A3の出力が停止される。これにより、スイッチング素子3への通電が開始され、点火信号IGtが立ち下がると、スイッチング素子3への通電が遮断される。
【0049】
このように、過電圧信号A1が出力されている状態では、スイッチング素子3の保護が優先されるので、過電圧状態が解消するまで点火動作がマスキングされることにより、スイッチング素子3に大電流が流れることを防止することができる。
【0050】
これに対して、
図4に参考形態として示すように、過電圧保護回路5に過電圧通電停止判定回路52が設けられず、点火信号IGtによって指令される点火タイミングが考慮されない場合には、電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えたか否かで、通電電流Iが遮断される。そのため、期間(2)において、点火信号IGtの出力期間中に過電圧状態となると、直ちにスイッチング素子3への通電が禁止され、通電電流Iが遮断されて正規のタイミングよりも早く点火することになる。なお、この場合も、過電流保護回路6が設けられることにより、例えば、期間(1)のように、点火信号IGtの出力期間が通常よりも長くなった場合には、通電電流Iを制限電流値I1以下に維持する過電流保護動作がなされる。
【0051】
図5に示すフローチャートは、点火装置1の制御回路部4において実行される点火動作の手順を示しており、点火信号IGtに基づくスイッチング素子3の通電動作と、過電圧保護回路5による過電圧保護動作とを含む。図中には、上記期間(1)~(4)にてそれぞれ実行される手順の違いを、矢印付き補助線にて比較している。
図5のステップS1~ステップS3は、通電許可判定部520を構成するものであり、ステップS1では、過電圧検出部51の検出結果に基づいて、過電圧が検出されたか否か(すなわち、過電圧信号A1がHレベルか否か)が判定される。ステップS1が否定判定されたときは、ステップS2へ進み、ステップS1が肯定判定されたときは、ステップS3へ進む。ステップS2、S3においては、点火信号IGtの出力期間か否か(すなわち、点火信号IGtがHレベルか否か)が判定される。
【0052】
上記期間(1)又は期間(2)の開始時には、過電圧でない状態で、点火信号IGtが出力される。すなわち、ステップS1が否定判定され、さらに、ステップS2が肯定判定されることにより、ステップS4へ進む。ステップS4では、点火信号IGtの出力が記憶されて、通電許可信号A2が出力される。通電許可信号A2が出力される場合には、通電禁止信号A3が出力されることはなく、続いて、ステップS5へ進んで、点火信号IGtに基づくスイッチング素子3への通電動作を開始する。ステップS2が否定判定されたときは、ステップS1へ戻り、以降のステップを繰り返す。
【0053】
その後、ステップS6へ進み、再び、過電圧検出部51の検出結果に基づいて、過電圧が検出されたか否かを判定する。ステップS6が否定判定されたときは、ステップS7へ進み、点火信号IGtの出力が停止されたか否か(すなわち、点火信号IGtがLレベルか否か)を判定する。ステップS7が否定判定されたときは、ステップS6へ戻り、ステップS7が肯定判定されるまで、以降のステップを繰り返す。ステップS6が肯定判定されたときは、ステップS10へ進む。
【0054】
上記期間(1)の間は、過電圧状態とならないので、ステップS6は否定判定され、続くステップS7が肯定判定されると、ステップS8へ進む。ステップS8では、スイッチング素子3への通電動作が停止され、1次巻線21を流れる通電電流Iが遮断される。これに伴い、2次巻線22に高電圧が発生し、点火プラグPに印加される。その後、ステップS9へ進んで、点火信号IGtの出力記憶を解除し、通電許可信号A2の出力を停止して、スタートへ戻り、上記期間(1)を終了する。このようにして、上記期間(1)では、正規のタイミングでの点火動作が実施される。
【0055】
上記期間(2)においては、ステップS1~S6までは上記期間(1)と同様であり、その期間の途中で、過電圧状態となることにより、ステップS6が肯定判定される。その場合には、ステップS10へ進んで、点火信号IGtの出力記憶、すなわち、通電許可信号A2の出力を維持する。次いで、ステップS11へ進んで、スイッチング素子3への通電動作を継続して、ステップS7へ進む。これにより、上記期間(2)の途中で過電圧状態となっても、通電許可信号A2の出力が停止されず、上記期間(2)が終了するまでの間は、ステップS7が否定判定されて、ステップS6以降が繰り返される。
【0056】
ステップS7が肯定判定されると、ステップS8へ進み、上記期間(1)と同様にして点火動作が実施される。次いで、ステップS9において、点火信号IGtの出力記憶を解除し、通電許可信号A2の出力を停止すると、スタートへ戻り、上記期間(2)が終了する。このようにして、上記期間(2)においても、正規のタイミングでの点火動作が可能になる。
【0057】
上記期間(3)、(4)においては、その開始時に過電圧状態となっており、ステップS1が肯定判定されて、ステップS3へ進む。ステップS3では、点火信号IGtの出力期間か否か(すなわち、点火信号IGtがHレベルか否か)が判定される。ステップS3が否定判定されたときは、ステップS12へ進み、ステップS3が肯定判定されたときは、ステップS13へ進む。上記期間(4)において、点火信号IGtは出力されないので、ステップS12へ進み、スイッチング素子3への通電を禁止するために、通電禁止信号A3を出力した後に、スタートへ戻る。
【0058】
上記期間(3)は、点火信号IGtの出力期間中であり、ステップ3が肯定判定されることにより、ステップS13へ進んで、点火信号IGtの出力記憶をマスクする。次いで、ステップS14へ進んで、スイッチング素子3への通電を禁止するために、通電禁止信号A3を出力した後、ステップS15へ進む。ステップS15では、再び、過電圧検出部51の検出結果に基づいて、過電圧が検出されたか否かが判定される。ステップS15が肯定判定されたときは、ステップS13へ戻り、以降のステップを繰り返す。
【0059】
上記期間(3)において、その途中で過電圧状態が解除された場合には、ステップS15が否定判定される。その場合には、ステップS16へ進み、点火信号IGtの出力記憶のマスクを解除する。すなわち、点火信号IGtの出力を記憶し、通電許可信号A2を出力して、通電禁止信号A3の出力を停止した後、ステップS5へ進む。ステップS5では、スイッチング素子3への通電動作を開始し、ステップS6以降へ進んで、上記期間(1)、(2)と同様にして点火動作を行った後、上記期間(3)を終了する。
【0060】
このようにして、上記期間(3)においては、その開始時に、点火信号IGtの出力記憶がマスクされることにより、通電禁止信号A3が出力されて、スイッチング素子3への通電が禁止される。その後、マスクが解除されることにより、通電許可信号A2を出力して、スイッチング素子3への通電が開始され、正規のタイミングでの点火動作が可能になる。
【0061】
(実施形態2)
実施形態2における内燃機関の点火装置1について、
図6~
図7により説明する。本形態の点火装置1及びイグナイタIの基本回路構成は、
図1~
図3に示した上記実施形態1のものと同様であり、図示を省略する。本形態では、過電圧保護回路5の過電圧通電停止判定回路52の具体的構成例と、過電圧保護回路5による過電圧保護動作の詳細例を示している。以下、上記実施形態1との相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0062】
図6において、過電圧通電停止判定回路52は、上記実施形態1と同様に、点火信号IGtと過電圧信号A1とに基づいて通電許可信号A2を出力する通電許可判定部520と、インバータ回路53及びアンド回路54と、からなる。インバータ回路53は、通電許可判定部520の出力を反転させてアンド回路54の一方の端子に入力し、アンド回路54のもう一方の端子には、過電圧信号A1の入力端子が接続されている。
【0063】
このとき、アンド回路54は、過電圧通電停止判定回路52からの出力がLレベルで、その反転信号がHレベルとなり、かつ、過電圧信号A1が出力されているときに、通電禁止信号A3を出力する。前述したように、通電許可判定部520は、点火信号IGtと過電圧信号A1とに基づいて、通電許可信号A2を出力するものであり、通電許可信号A2は、過電圧によるスイッチング素子3への影響を抑制しつつ、意図しないタイミングでの点火動作を抑制するという観点から許可される通電期間を示している。
【0064】
具体的には、通電許可判定部520は、立ち上がりエッジ記憶型のJKフリップフロップ回路524と、アンド回路521と、ナンド回路526と、インバータ回路522、525と、を用いて構成することができる。JKフリップフロップ回路524のクロック端子には、アンド回路521が接続され、負論理のクリア端子CLRには、ナンド回路526が接続される。アンド回路521の一方の端子は、点火信号IGtの入力端子に接続され、もう一方の端子は、インバータ回路522を介して過電圧信号A1の入力端子に接続される。また、ナンド回路526の一方の端子は、インバータ回路525を介して、点火信号IGtの入力端子に接続され、もう一方の端子は、遅延回路527を介して、点火信号IGtの入力端子に接続されている。
【0065】
このとき、アンド回路521は、点火信号IGtが入力され、かつ、過電圧信号A1が入力されておらず、その反転信号がHレベルであるときに、許可期間信号B1を出力する。点火信号IGt及び過電圧信号A1の反転信号のいずれか又は両方がLレベルとなると、すなわち、点火信号IGtが出力されていないか、又は、過電圧状態が解消すると、許可期間信号B1の出力が停止される。
【0066】
JKフリップフロップ回路524は、J端子に電源が接続されて、Hレベルに相当する電位が供給されており、K端子は接地電位に接続されている。JKフリップフロップ回路524のクロック端子へ許可期間信号B1が入力すると、これをトリガとして、J端子の入力がラッチされ、Q端子へ出力される。すなわち、許可期間信号B1が立ち上がると、Q端子から通電許可信号A2が出力され、クリア端子CLRに入力されるリセット信号B2により記憶解除されるまで保持される。
【0067】
ナンド回路526の一方の端子には、点火信号IGtの反転信号が入力され、もう一方の端子には、点火信号IGtの遅延信号が、遅延回路527にて設定される所定の遅延時間後に入力される。一方の端子の入力レベルは、点火信号IGtが入力されていないときにHレベルとなり、もう一方の端子の入力レベルは、遅延された点火信号IGtが入力されているときにHレベルとなる。言い換えれば、ナンド回路526から出力されるリセット信号B2は、点火信号IGtが出力されているとき、又は、その遅延信号が出力されていないときには、Hレベルとなり、点火信号IGtの出力期間の後に遅延された信号のみが入力している間、Lレベルとなる。
【0068】
これにより、点火信号IGtの出力期間が終了する度に、リセット信号B2によって、Q端子の出力がリセットされる。次の点火信号IGtが出力されると、許可期間信号B1の立ち上がりによって、再び、通電許可信号A2の出力が可能になる。すなわち、許可期間信号B1は、点火信号IGtが出力されている期間のうち、過電圧信号A1が出力されていない期間を示す信号であり、通電許可信号A2の立ち上がりのタイミングを決定する。通電許可信号A2の立ち下がりのタイミングは、リセット信号B2によって決定される。
【0069】
図7に示すように、上記
図3に示した点火信号IGtと、過電圧信号A1、通電許可信号A2及び通電禁止信号A3との関係に、さらに、許可期間信号B1とリセット信号B2とを加えることができる。この場合も、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えない期間(1)と、過電圧となる期間(2)~(4)とを対比させており、各期間の通電電流Iの時間推移は、上記
図3と同様であるので、図示を省略している。
【0070】
期間(1)において、電圧値Vsは過電圧閾値Vthよりも低く、過電圧信号A1は常時Lレベルとなっているので、過電圧通電停止判定回路52のアンド回路54から通電禁止信号A3は出力されない。この間、通電許可判定部520のアンド回路521には、常時Hレベルとなる過電圧信号A1の反転信号が入力されており、アンド回路521に点火信号IGtが入力されると、その出力である許可期間信号B1がHレベルに切り替わる。この出力がJKフリップフロップ回路524のクロック端子へ入力されると、Q端子から通電許可信号A2が出力される。すなわち、Q端子の出力がHレベルとなり、その記憶が保持される。
【0071】
一方、ナンド回路526から出力されるリセット信号B2は、点火信号IGtの出力期間の間、Hレベルとなっている。すなわち、点火信号IGtの出力前は遅延信号がLレベルとなり、点火信号IGtの出力後は反転信号がLレベルとなっており、期間(1)の終了時に、遅延信号がHレベルの状態で、反転信号がHレベルに切り替わると、リセット信号B2がLレベルとなる。この反転信号がJKフリップフロップ回路524のクリア端子へ入力されると、Q端子から出力される通電許可信号A2の記憶が解除される。
【0072】
期間(2)において、点火信号IGtの途中で、過大サージにより電源電圧VBが上昇するまでは、期間(1)と同様であり、過電圧信号A1がLレベルとなって通電禁止信号A3は出力されない。また、点火信号IGtの入力により許可期間信号B1が出力されて、通電許可信号A2がHレベルとなっている。その後、検出される電圧値Vsが過電圧閾値Vthを超えると(すなわち、図中の期間(21))、通電許可判定部520のアンド回路521に入力される過電圧信号A1の反転信号がLレベルとなり、許可期間信号B1の出力が停止される。ただし、JKフリップフロップ回路524のQ端子の出力は保持されるために、点火信号IGtの出力期間が終了するまで、通電許可信号A2はHレベルとなり、通電が継続される。
【0073】
このように、点火信号IGtが出力されてから、過大サージが入力した場合には、点火動作が優先されることにより、正規のタイミングにおいて点火が実施される。また、上記実施形態1と同様に、通電電流Iが制限電流値I1以下に制限されることにより、スイッチング素子3を保護しながら、エンジンの損傷を抑制することができる。
【0074】
期間(2)の点火信号IGtの出力期間が終了すると、期間(1)と同様に、ナンド回路526から出力されるリセット信号B2によって、点火信号IGtの出力記憶が解除され、通電許可信号A2がLレベルとなる。続く期間(4)の間は、点火信号IGtは出力されないので、アンド回路521から許可期間信号B1は出力されず、通電許可信号A2はLレベルのままとなる。このとき、アンド回路54に入力される通電許可信号A2の反転信号がHレベルとなり、また、過電圧信号A1がHレベルとなっているので、アンド回路54から通電禁止信号A3が出力され、その状態が保持される。
【0075】
その後の期間(3)において、過大サージが入力した状態で点火信号IGtが出力された場合には、過電圧信号A1がHレベルとなっている間は(すなわち、図中の期間(31))、通電許可判定部520のアンド回路521に入力される過電圧信号A1の反転信号がLレベルとなるために、許可期間信号B1は出力されない。これにより、JKフリップフロップ回路524からの通電許可信号A2の出力がマスクされ、その反転信号がHレベルとなると共に、過電圧信号A1がHレベルとなっているので、アンド回路54から出力される通電禁止信号はHレベルのままとなる。
【0076】
その後、電圧値Vsが過電圧閾値Vthを下回り、過電圧信号A1がLレベルに切り替わると、マスク機能が解除されて、通電許可信号A2がHレベルに切り替わり、アンド回路54の出力がLレベルとなって、通電禁止信号A3の出力が停止される。このように、過電圧状態となっているときには、スイッチング素子3の保護が優先され、点火信号IGtが出力されても、点火動作は実施されないので、スイッチング素子3に大電流が流れることを防止することができる。
【0077】
(実施形態3)
実施形態3における内燃機関の点火装置1について、
図8~
図13により説明する。本形態の点火装置1の基本回路構成は、上記実施形態1と同様であり、図示を省略する。本形態においてイグナイタIは、過電流保護回路6における制限電流値I1を可変設定する制限電流補正回路61を備えている。過電流保護回路6と制限電流補正回路61とは、電流制限回路60を構成している。以下、上記実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0078】
図8において、イグナイタIは、スイッチング回路部30と制御回路部4とを有しており、制御回路部4は、ドライブ回路41、過電圧保護回路5、電流制限回路60の他に、図示しない、フィルタ回路42、ロック防止回路43を備える。これら各回路の基本動作は、上記実施形態1と同様であり、点火信号IGtの入力に基づいて、過電圧又は過電流から保護されるように、制御回路部4によりスイッチング回路部30の駆動が制御される。
【0079】
制限電流補正回路61は、過電流保護回路6とドライブ回路41との間に配置されており、電源電圧VBに応じて制限電流値I1を設定して過電流保護回路6に出力する。制限電流補正回路61には、過電圧保護回路5の過電圧検出部51にて検出される電圧値Vsが入力されており、電圧値Vsが過電圧閾値Vthに近い領域及び過電圧閾値Vthを超える領域において、制限電流値I1を通常時よりも低く設定して、スイッチング回路部30の発熱を抑制する。
【0080】
具体的には、
図9に示すように、通常時には一定の制限電流値I1(例えば、12A)が予め設定されている。これに対して、予め設定された基準電圧値Vref(例えば、16V)を超える領域においては、制限電流値I1を可変値とし、電圧値Vsが高くなるほど制限電流値I1が低下するように設定変更する。電圧値Vsと制限電流値I1との関係は、特に制限されず任意に設定することができ、例えば、図示するように、基準電圧値Vrefを超えた時点から過電圧閾値Vthの近傍に向けて急減し、電圧値Vsが大きくなるほど緩やかに低下する曲線状に設定される。これにより、過電圧閾値Vthに達した時点において、通電電流Iを大きく低減させてスイッチング素子3を保護することが可能になる。
【0081】
このとき、
図10に比較して示すように、通常時である期間(4)の後、期間(5)、(6)において検出される電圧値Vsが上昇すると、その大きさに応じて制限電流値I1が変化する。通常時である期間(4)においては、検出される電圧値Vsが基準電圧値Vrefよりも低い一定値であり、通電電流Iが徐々に上昇して制限電流値I1に達すると、過電流保護回路6が作動する。これにより、通電電流Iが制限電流値I1を超えることがなく、点火タイミングにおいて点火信号IGtがオフとなるまでの期間も短いので、通電によるスイッチング素子3の発熱は抑制される。
【0082】
これに対し、期間(5)のように、電源電圧VBの変動等により検出される電圧値Vsが上昇し、基準電圧値Vrefを超えることがある。その場合には、期間(6)よりも通電電流Iが速く上昇して発熱しやすくなるので、制限電流補正回路61が作動して、制限電流値I1を期間(4)よりも低い値Iに設定変更する。これにより、より早いタイミングで過電流保護回路6が作動し、通電電流Iが制限電流値I1となっている期間におけるスイッチング素子3への印加電力を抑制して、発熱を抑制することができる。
【0083】
期間(6)のように、過大サージの入力等により、検出される電圧値Vsが、基準電圧値Vrefを超える一定値を維持している状態から上昇を始めた場合には、制限電流補正回路61は、一旦設定された制限電流値I1を徐々に低下させる。その場合には、上記
図8の関係に基づいて、検出される電圧値Vsに応じて制限電流値I1を随時設定変更し、過電流保護回路6へ出力する。これにより、通電電流Iが制限電流値I1となっている期間がより長くなっても、スイッチング素子3への印加電力を抑制して、発熱を抑制することができる。
【0084】
このように、過電圧保護回路5に加えて、電流制限回路60を備え、制限電流補正回路61により、過電流保護回路6における制限電流値I1を可変とすることにより、発熱によるイグナイタIの損傷を抑制する効果が向上する。なお、電源電圧VBと制限電流値I1との関係は一例であり、段階的に制限電流値I1を下げてもよいし、過電圧閾値Vthに到達した時点以降に制限電流値I1を下げるようにしてもよい。
【0085】
ここで、
図11は、イグナイタIへ過電圧によるサージ電流が入力したときの電源電圧VBと素子印加電力との関係の一例を示しており、制限電流値I1を、例えば、12Aから8Aに設定変更することにより、素子印加電力が抑制可能となる。この関係と、電流制限回路60の制限電流補正回路61による効果について、
図12、
図13を用いて説明する。
【0086】
図12、
図13に比較して示すように、通常動作時と過電流保護動作時とにおいて、点火コイル2の1次巻線21への印加電力(すなわち、図中のコイル印加電力)、スイッチング素子3であるIGBT31への印加電力(すなわち、図中の素子印加電力)は、それぞれ以下のようになる。
<通常動作時>
コイル印加電力:(VB-Vce)
2/R1
素子印加電力:Vce*I
なお、式中、VBは、電源電圧(V)であり、Vceは、IGBT31のコレクタエミッタ間電圧(V)であり、R1は、1次巻線21の巻線抵抗(Ω)であり、Iは、1次電流(A)である。
<過電流保護動作時>
コイル印加電力:R1*I1
2
素子印加電力:(VB-R1*I1)*I1
なお、式中、VBは、電源電圧(V)であり、R1は、1次巻線21のコイル抵抗(Ω)であり、I1は、制限電流値(A)である。
【0087】
図12に示すように、通常動作時は、IGBT31のVce電圧は低いため(例えば、Vce=1.5V)、印加電力も低く(例えば、I=8Aのとき、印加電力は、8*1.5=12W)、点火コイル2への印加電力による発熱が大半となる。これに対して、
図13に示すように、IGBT31に流れる電流が増加して、制限電流値I1に達した場合には、過電流保護動作時により、制限電流値I1を超えないように制御される。その場合は、IGBT31のVce電圧を制御することによって、制限電流値I1を制御するため、素子印加電力は、通常動作時よりも大きくなりやすい。また、巻線抵抗R1によっても変動する。
【0088】
このとき、巻線抵抗R1を所定の一定値とし(例えば、R1=0.5Ω)、制限電流補正回路61によって、制限電流値I1を可変制御することにより、素子印加電力を抑制することが可能となる。例えば、以下の(1)、(2)のように、制限電流値I1を12Aから8Aに下げることで、素子印加電力は120Wから96Wに低下する。
(1)VB=16V、I1=12A、R1=0.5Ωであるとき、
コイル印加電力:R1*I12=0.5*122=72W
素子印加電力:(VB-R1*I1)*I1=(16-0.5*12)*12=120W
(2)VB=16V、I1=8A、R1=0.5Ωであるとき、
コイル印加電力:R1*I12=0.5*82=32W
素子印加電力:(VB-R1*I1)*I1=(16-0.5*8)*8=96W
【0089】
このように、点火コイル2の巻線抵抗R1等を適切に設定し、電源電圧VBの変動に応じて、制限電流値I1を可変制御することにより、素子印加電力を抑制する効果が得られる。また、コイル印加電力も抑制することができる。
【0090】
以上のように、上記構成の点火装置1によれば、制御回路部4が、過電圧保護回路5を備えており、点火信号IGtと過電圧信号A1の出力状態に基づいて、通電禁止信号A3の出力を継続又は停止することができる。これにより、イグナイタIを保護しながら、例えば、プレイグニッションによるエンジンの損傷等を抑制することができる。好適には、過電流保護回路6を組み合わせることで、より効果的なイグナイタIの通電制御が可能になる。
【0091】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、上記各実施形態において、イグナイタIの制御回路部4やスイッチング回路部30の構成は、適宜変更することができる。また、内燃機関は、自動車用エンジンに限るものではなく、点火装置1の具体的構造も、図示したものに限らず、適用される内燃機関に応じて、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0092】
I イグナイタ
1 点火装置
2 点火コイル
3 スイッチング素子
30 スイッチング回路部
4 制御回路部
5 過電圧保護回路
51 過電圧検出部
520 通電許可判定部
6 過電流保護回路