(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】超音波検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/524 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
G01S7/524 Q
(21)【出願番号】P 2020182864
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】中澤 寛一
(72)【発明者】
【氏名】西中村 和寿
(72)【発明者】
【氏名】久保 祐輝
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-065308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0026365(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 ー 7/64
15/00 ー 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信可能および受信可能に構成され、且つ、前記超音波を送信したときにおける残響の振動周波数が時間経過とともに変動するように構成された圧電振動子(4)と、
物体を検出するための前記超音波を送信させる送信パルスを前記圧電振動子に印加し、前記送信パルスの印加が終了した後に、前記圧電振動子の前記残響を抑制する制振パルスを前記圧電振動子に印加するように構成された駆動部(2,3)と、
前記圧電振動子で発生した振動子電流を検出するように構成された電流検出部(5)とを備え、
前記駆動部は、前記電流検出部により検出された前記振動子電流に基づいて、前記制振パルスを前記圧電振動子に印加
し、
前記振動子電流の極大値および極小値をピーク電流値として検出するように構成されたピーク検出部(S90)を備え、
前記駆動部は、前記制振パルスの印加中において、前記ピーク電流値を用いて予め設定された制振終了条件が成立した場合に、前記制振パルスの印加を終了する超音波検出装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検出装置であって、
前記制振終了条件は、前記振動子電流の極大値である正側ピーク電流値が予め設定された正側終了判定値を下回ること、または、前記振動子電流の極小値である負側ピーク電流値が予め設定された負側終了判定値を上回ることである超音波検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波検出装置であって、
前記正側終了判定値および前記負側終了判定値はそれぞれ、前記制振パルスの印加中における前記振動子電流の最大値および最小値を、予め設定された設定用減衰量で減衰させた値である超音波検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載の超音波検出装置であって、
前記正側終了判定値および前記負側終了判定値はそれぞれ、当該超音波検出装置に要求される最小検出距離において前記物体で反射した前記超音波を前記圧電振動子が受信することによって前記圧電振動子で発生する検出電流の最大値および最小値を一定量で減衰させた値である超音波検出装置。
【請求項5】
請求項1
~請求項4の何れか1項に記載の超音波検出装置であって、
前記駆動部は、前記電流検出部により検出された前記振動子電流の電流方向が切り替わる毎に前記制振パルスの電圧レベルをハイレベルとローレベルとの間で切り替える超音波検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電振動子を備える超音波検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、振動子を駆動して送信するための送信パルスを振動子に印加した後に、送信パルスと逆位相の逆位相パルスを振動子に印加し、更に逆位相パルスの印加後に残響電圧を検出し、残響電圧を検出した後に、送信パルスと逆位相で且つ残響電圧の値に比例して電圧値が変化する比例逆位相パルスを振動子に印加するように構成された超音波検出装置が記載されている。これにより、特許文献1に記載の超音波検出装置は、残響の収束を早めることができる。このため、特許文献1に記載の超音波検出装置は、残響中に反射波を受信してしまうことにより物体を検出することができないという事態の発生を抑制し、近距離に存在する物体を検出する近距離検出性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の超音波検出装置では、電圧検出中に逆位相パルスを印加することができないため、逆位相パルスの印加後に所定時間が経過してから比例逆位相パルスを印加する。このため、特許文献1に記載の超音波検出装置では、少なくとも所定時間だけ残響の収束が遅れてしまう。
【0005】
本開示は、残響の収束を早めて近距離検出性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、圧電振動子(4)と、駆動部(2,3)と、電流検出部(5)とを備える超音波検出装置(1)である。
圧電振動子は、超音波を送信可能および受信可能に構成され、且つ、超音波を送信したときにおける残響の振動周波数が時間経過とともに変動するように構成される。
【0007】
駆動部は、物体を検出するための超音波を送信させる送信パルスを圧電振動子に印加し、送信パルスの印加が終了した後に、圧電振動子の残響を抑制する制振パルスを圧電振動子に印加するように構成される。
【0008】
電流検出部は、圧電振動子で発生した振動子電流を検出するように構成される。
駆動部は、電流検出部により検出された振動子電流に基づいて、制振パルスを圧電振動子に印加する。
【0009】
このように構成された本開示の超音波検出装置は、電圧を圧電振動子に印加しているときにも振動子電流に基づいて圧電振動子の振動状態を検出することができる。これにより、本開示の超音波検出装置は、圧電振動子の残響状態を検出するために制振パルスの印加を停止する期間を不要とすることができ、残響の収束を早めて近距離検出性能を向上させることができる。
【0010】
また、本開示の超音波検出装置は、残響の振動周波数が時間経過とともに変動する圧電振動子の振動子電流に基づいて、残響の振動状態に応じた制振パルスを印加することができる。このため、本開示の超音波検出装置は、残響の振動周波数が時間経過とともに変動する場合であっても、残響の収束を早めて近距離検出性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】超音波検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】振動子駆動処理を示すフローチャートである。
【
図5】駆動パルスおよび振動子電流の変化を示すタイミングチャートである。
【
図6】正側包絡線および負側包絡線を示す図である。
【
図7】反射波による検出電流を用いた終了判定値の設定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本開示の実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態の超音波検出装置1は、例えば車両のリアバンパーに設置され、超音波を送信して反射した超音波を受信することによって、超音波を反射した物体までの距離を検出する。以下、超音波検出装置1を搭載している車両を自車両という。
【0013】
超音波検出装置1は、
図1に示すように、制御部2と、駆動回路3と、圧電振動子4と、電流検出部5と、増幅部6と、比較電圧発生回路7と、比較回路8とを備える。
制御部2は、CPU、ROMおよびRAM等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。マイクロコンピュータの各種機能は、CPUが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROMが、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPUが実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、制御部2を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0014】
駆動回路3は、制御部2から入力される振動子制御信号に従って、圧電振動子4を振動駆動させるための駆動パルスを生成する。振動子制御信号は、後述する送信制御信号および制振制御信号で構成されている。送信制御信号に基づいて駆動回路3が生成する駆動パルスを送信パルスという。制振制御信号に基づいて駆動回路3が生成する駆動パルスを制振パルスという。
【0015】
圧電振動子4は、後述する残響の振動周波数が時間経過とともに変動する非線形圧電振動子である。圧電振動子4は、駆動回路3から駆動パルスが印加されて振動することによって超音波を送信する。また圧電振動子4は、物体で反射した超音波を受信する。
【0016】
電流検出部5は、圧電振動子4で発生した電流(以下、振動子電流)の値を検出して、振動子電流の値(以下、振動子電流値)を示す振動子電流信号を制御部2へ出力する。電流検出部5は、具体的には、例えば、駆動回路3から圧電振動子4に至る通電経路上に設けられたシャント抵抗で発生した電圧の値に基づいて、振動子電流値を検出する。
【0017】
増幅部6は、圧電振動子4が送信した送信信号と、圧電振動子4で受信した受信信号とを増幅する。比較電圧発生回路7は、予め設定された比較電圧を発生させる。比較回路8は、増幅部6で増幅された送信信号および受信信号の電圧と、比較電圧発生回路7が発生させた比較電圧とを比較する。そして、この比較回路8による比較の結果、増幅部6で増幅された送信信号が制御部2に対して出力される。
【0018】
制御部2は、振動子を駆動する振動子駆動処理を実行する。
次に、制御部2が実行する振動子駆動処理の手順を説明する。振動子駆動処理は、制御部2の動作中において予め設定された検出時間が経過する毎に実行される処理である。なお、検出時間は、超音波検出装置1の検出対象となる物体で想定される距離に基づいて、物体からの反射波を受信可能な時間となるように設定される。
【0019】
振動子駆動処理が実行されると、制御部2は、
図2に示すように、まずS10にて、予め設定された検出条件が成立しているか否かを判断する。本実施形態の検出条件は、自車両の車速が予め設定された検出開始車速(例えば、10km/h)未満であることである。
【0020】
ここで、検出条件が成立していない場合には、制御部2は、振動子駆動処理を終了する。一方、検出条件が成立している場合には、制御部2は、S20にて、制御部2のRAMに設けられた送信タイマを起動する。送信タイマは、例えば1μs毎にインクリメントするタイマであり、起動されると、その値が0からインクリメント(すなわち、1加算)する。
【0021】
次に制御部2は、S30にて、送信制御信号を駆動回路3へ出力する。送信制御信号は、予め設定されたローレベル時間が経過するまでは電圧レベルがローレベルとなり、その後、予め設定されたハイレベル時間が経過するまでは電圧レベルがハイレベルとなるバルス信号である。
【0022】
1つの送信制御信号の出力が終了すると、制御部2は、S40にて、送信時間が経過したか否かを判断する。具体的には、制御部2は、送信タイマの値が送信時間に相当する値以上であるか否かを判断する。ここで、送信タイマの値が送信時間に相当する値未満である場合には、制御部2は、S30に移行する。
【0023】
一方、送信タイマの値が送信時間に相当する値以上である場合には、制御部2は、S50にて、電流検出部5から出力される振動子電流信号を取得し、振動子電流信号が示す振動子電流値をRAMに記憶する。
【0024】
そして制御部2は、S60にて、S50で取得した振動子電流信号が示す振動子電流値が0[A]以上であるか否かを判断する。ここで、振動子電流値が0[A]以上である場合には、制御部2は、S70にて、電圧レベルをローレベルにした制振制御信号を駆動回路3へ出力し、S90に移行する。
【0025】
一方、振動子電流値が0[A]未満(すなわち、負の値)である場合には、制御部2は、S80にて、電圧レベルをハイレベルにした制振制御信号を駆動回路3へ出力し、S90に移行する。
S90に移行すると、制御部2は、振動子電流値がピークに達したか否かを判断する。具体的には、制御部2は、S40で送信時間が経過した後に、RAMに順次記憶された複数の振動子電流値に基づいて、振動子電流値が極大値または極小値になったか否かを判断する。そして制御部2は、振動子電流値が極大値または極小値になった場合に、振動子電流値がピークに達したと判断する。
【0026】
ここで、振動子電流値がピークに達していない場合には、制御部2は、S120に移行する。一方、振動子電流値がピークに達した場合には、制御部2は、S100にて、極大値または極小値になったときの振動子電流値をピーク電流値としてRAMに記憶する。なお、0[A]より大きいピーク電流値を正側ピーク電流値、0[A]より小さいピーク電流値を負側ピーク電流値という。
【0027】
次に制御部2は、S110にて、終了判定値を設定する。具体的には、制御部2は、S40で送信時間が経過した後に、RAMに順次記憶された1または複数の正側ピーク電流値のうち、最大の正側ピーク電流値を正側ピーク最大値として抽出し、この正側ピーク最大値を、予め設定された設定用減衰量(例えば、-20dB)で減衰させた値を、正側終了判定値とする。同様に制御部2は、S40で送信時間が経過した後に、RAMに順次記憶された1または複数の負側ピーク電流値のうち、最小の負側ピーク電流値を負側ピーク最小値として抽出し、この負側ピーク最小値を、予め設定された設定用減衰量(例えば、-20dB)で減衰させた値を、負側終了判定値とする。
【0028】
例えば
図3に示すように、送信時間が経過した後に、ピークとなるタイミングが早い順に、正側ピーク電流値PP1,PP2,PP3,PP4,PP5,PP6がRAMに記憶されているとする。まず、ピークとなるタイミングが最も早い正側ピーク電流値PP1が正側ピーク最大値として抽出される。そして、矢印L1で示すように、正側ピーク電流値PP1を設定用減衰量で減衰させた値が正側終了判定値として設定される。
【0029】
また
図4に示すように、送信時間が経過した後に、ピークとなるタイミングが早い順に、負側ピーク電流値NP1,NP2,NP3,NP4,NP5,NP6がRAMに記憶されているとする。まず、ピークとなるタイミングが最も早い負側ピーク電流値NP1が負側ピーク最小値として抽出される。そして、矢印L2で示すように、負側ピーク電流値NP1を設定用減衰量で減衰させた値が負側終了判定値として設定される。
【0030】
S110の処理が終了すると、制御部2は、
図2に示すように、S120にて、ピーク絶対値が終了判定値未満であるか否かを判断する。具体的には、制御部2は、直近の正側ピーク電流値が正側終了判定値未満であるか否か、及び、直近の負側ピーク電流値の絶対値が負側終了判定値の絶対値未満であるか否かを判断する。
【0031】
ここで、直近の正側ピーク電流値が正側終了判定値未満であるか、直近の負側ピーク電流値の絶対値が負側終了判定値の絶対値未満である場合に、制御部2は、ピーク絶対値が終了判定値未満であると判断する。
【0032】
一方、直近の正側ピーク電流値が正側終了判定値以上であり、且つ、直近の負側ピーク電流値の絶対値が負側終了判定値の絶対値以上である場合に、制御部2は、ピーク絶対値が終了判定値以上であると判断する。
【0033】
S120にてピーク絶対値が終了判定値以上である場合には、制御部2は、S50に移行する。一方、ピーク絶対値が終了判定値未満である場合には、制御部2は、振動子駆動処理を終了する。
【0034】
図5のタイミングチャートTC1は、送信パルスの生成を停止した後に制振パルスを生成しない場合における駆動パルスの変化を示す。
図5のタイミングチャートTC2は、タイミングチャートTC1に示す駆動パルスによって発生する振動子電流の変化を示す。
【0035】
タイミングチャートTC1,TC2に示すように、送信パルスが圧電振動子4に印加されることによって、圧電振動子4は、振動して超音波を送信する。そして、送信パルスの印加が停止すると、圧電振動子4は、送信パルスの印加がなくなって以降も、正側包絡線E1で示すように、振幅が時間経過とともに徐々に小さくなるように振動する。以下、送信パルスの印加が停止した後における圧電振動子4の振動を、残響という。
【0036】
図5のタイミングチャートTC3は、送信パルスの生成を停止した後に制振パルスを生成する場合における駆動パルスの変化を示す。
図5のタイミングチャートTC4は、タイミングチャートTC3に示す駆動パルスによって発生する振動子電流の変化を示す。
【0037】
タイミングチャートTC3,TC4に示すように、送信パルスが圧電振動子4に印加されることによって、圧電振動子4は、振動して超音波を送信する。そして、送信パルスの印加が停止すると、制振パルスが圧電振動子4に印加される。制振パルスは、振動子電流値が正のときにローレベルとなり、振動子電流値が負のときにハイレベルとなるように変化する。制振パルスが圧電振動子4に印加されることによって、圧電振動子4は、正側包絡線E2で示すように、制振パルスが印加されない場合よりも早く振幅が小さくなるように振動する。そして、正側ピーク電流値が正側終了判定値JE1未満になるか、負側ピーク電流値の絶対値が負側終了判定値JE2の絶対値未満になった場合に、制振パルスの印加が停止する。タイミングチャートTC3,TC4では、矢印L3で示すように、正側ピーク電流値が正側終了判定値JE1未満になった場合に、制振パルスの印加が停止する。
【0038】
このように構成された超音波検出装置1は、圧電振動子4と、制御部2と、駆動回路3と、電流検出部5とを備える。
圧電振動子4は、超音波を送信可能および受信可能に構成され、且つ、超音波を送信したときにおける残響の振動周波数が時間経過とともに変動するように構成される。
【0039】
制御部2および駆動回路3は、物体を検出するための超音波を送信させる送信パルスを圧電振動子4に印加し、送信パルスの印加が終了した後に、圧電振動子4の残響を抑制する制振パルスを圧電振動子4に印加する。
【0040】
電流検出部5は、圧電振動子4で発生した振動子電流を検出する。
制御部2および駆動回路3は、電流検出部5により検出された振動子電流に基づいて、制振パルスを圧電振動子4に印加する。具体的には、制御部2および駆動回路3は、電流検出部5により検出された振動子電流の電流方向が切り替わる毎に制振パルスの電圧レベルをハイレベルとローレベルとの間で切り替える。
【0041】
このように超音波検出装置1は、電圧を圧電振動子4に印加しているときにも振動子電流に基づいて圧電振動子4の振動状態を検出することができる。これにより、超音波検出装置1は、圧電振動子4の残響状態を検出するために制振パルスの印加を停止する期間を不要とすることができ、残響の収束を早めて近距離検出性能を向上させることができる。
【0042】
また超音波検出装置1は、残響の振動周波数が時間経過とともに変動する圧電振動子4の振動子電流に基づいて、残響の振動状態に応じた制振パルスを印加することができる。このため、超音波検出装置1は、残響の振動周波数が時間経過とともに変動する場合であっても、残響の収束を早めて近距離検出性能を向上させることができる。さらに超音波検出装置1は、圧電振動子4の個体差および温度特性の変化により残響の振動状態が変化しても、残響の振動状態の変化に応じた制振パルスを印加することができる。
【0043】
また制御部2は、振動子電流の極大値および極小値をピーク電流値として検出する。そして制御部2および駆動回路3は、制振パルスの印加中において、ピーク電流値を用いて予め設定された制振終了条件が成立した場合に、制振パルスの印加を終了する。本実施形態の制振終了条件は、振動子電流の極大値である正側ピーク電流値が予め設定された正側終了判定値を下回ること、または、振動子電流の極小値である負側ピーク電流値が予め設定された負側終了判定値を上回ることである。
【0044】
これにより、超音波検出装置1は、残響の振幅が大きいのにも関わらず制振パルスの印加を終了してしまう事態の発生を抑制し、物体を検出可能なレベルまで残響の振幅を低減することができる。また超音波検出装置1は、残響の振幅が十分小さいのにも関わらず制振パルスを無駄に印加し続けてしまう事態の発生を抑制することができる。
【0045】
また、正側終了判定値および負側終了判定値はそれぞれ、制振パルスの印加中における振動子電流の最大値および最小値を、予め設定された設定用減衰量で減衰させた値である。これにより、超音波検出装置1は、物体を検出可能なレベルまで残響の振幅を低減できる正側終了判定値および負側終了判定値を設定することができる。
【0046】
以上説明した実施形態において、制御部2および駆動回路3は駆動部に相当し、S90はピーク検出部に相当し、S120の判断条件は制振終了条件に相当する。
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0047】
[変形例1]
例えば上記実施形態では、ピーク絶対値が終了判定値未満である場合に制振パルスの印加が停止する形態を示した。しかし、より正確な判断のために、正側包絡線が単調減少から増加に転じたタイミング、または、負側包絡線が単調増加から減少に転じたタイミングで制振パルスの印加を停止させる判断方法を追加するようにしてもよい。
【0048】
例えば
図6に示すように、送信パルスの印加が停止した後に、ピークとなるタイミングが早い順に、正側ピーク電流値PP11,PP12,PP13,PP14,PP15,PP16と、負側ピーク電流値NP11,NP12,NP13,NP14,NP15,NP16がRAMに記憶されているとする。
【0049】
制御部2は、正側ピーク電流値PP11~PP16を通る正側包絡線E3を算出し、負側ピーク電流値NP11~NP16を通る負側包絡線E4を算出する。
正側包絡線E3において正側ピーク電流値PP11,PP12,PP13,PP14,PP15を通る部分では単調減少している。そして、正側ピーク電流値PP15と正側ピーク電流値PP16とは互いにほぼ等しい。このため、制御部2は、正側ピーク電流値PP16がRAMに記憶されたタイミングでは、正側包絡線が単調減少から増加に転じていないと判断する。
【0050】
負側包絡線E4において負側ピーク電流値NP11,NP12,NP13,NP14,NP15を通る部分では単調増加している。そして、負側ピーク電流値NP15と負側ピーク電流値NP16とを比較すると、負側ピーク電流値NP16は負側ピーク電流値NP15より小さい。このため、制御部2は、負側ピーク電流値NP16がRAMに記憶されたタイミングTS1で、負側包絡線が単調増加から減少に転じたと判断し、制振制御信号の出力を終了する。これにより、制振パルスの印加が停止する。
【0051】
[変形例2]
上記実施形態では、正側ピーク最大値および負側ピーク最小値を設定用減衰量で減衰させた値をそれぞれ正側終了判定値および負側終了判定値とする形態を示した。しかし、
図7に示すように、超音波検出装置1に要求される最小検出距離において、対象物からの反射波により発生する検出電流の最大値および最小値を予め測定し、その最大値および最小値から一定量を減衰させた値を正側終了判定値および負側終了判定値とするようにしてもよい。これにより、超音波検出装置1は、最小検出距離における物体検出を保証する正側終了判定値および負側終了判定値を設定することができる。
【0052】
[変形例3]
上記実施形態では、駆動回路3から圧電振動子4に至る通電経路上に設けられたシャント抵抗で発生した電圧の値に基づいて振動子電流値を検出する形態を示した。しかし、駆動回路3から圧電振動子4に至る通電経路上に設けられた電流センサを用いて振動子電流値を検出するようにしてもよい。
【0053】
[変形例4]
圧電振動子4は、
図8に示すように、等価直列インダクタLm、等価直列コンデンサCm、等価直列抵抗Rmおよび等価並列コンデンサCdを備える等価回路として表すことができる。等価直列インダクタLm、等価直列コンデンサCmおよび等価直列抵抗Rmは直列に接続されて直列共振回路を形成する。等価並列コンデンサCdは、この直列共振回路に対して並列に接続される。そして、等価並列コンデンサCdに制動電流Idが流れ、等価直列インダクタLm、等価直列コンデンサCmおよび等価直列抵抗Rmには動電流Imが流れる。
【0054】
上記実施形態では、駆動回路3から圧電振動子4に至る通電経路上に設けられたシャント抵抗で発生した電圧の値に基づいて振動子電流を検出する形態を示した。しかし、電流検出部5は、動電流Imを検出して、動電流Imの値を示す振動子電流信号を制御部2へ出力するようにしてもよい。
【0055】
動電流Imは、
図9に示すように、圧電振動子4と抵抗R
Eとを直列に接続した直列回路と、可変コンデンサC
Eと抵抗R
dEとを直列に接続した直列回路とを並列に接続した測定回路を形成することにより測定することができる。具体的には、可変コンデンサC
Eの容量を等価並列コンデンサCdの容量と一致するように調整し、圧電振動子4に流れる電流Iと可変コンデンサC
Eに流れる電流I
Eとの差分を算出することによって、動電流Imを測定することができる。
【0056】
本開示に記載の制御部2およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部2およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部2およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。制御部2に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0057】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0058】
上述した超音波検出装置1の他、当該超音波検出装置1を構成要素とするシステム、当該超音波検出装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、超音波検出方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1…超音波検出装置、2…制御部、3…駆動回路、4…圧電振動子、5…電流検出部