(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】試料導入装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/24 20060101AFI20240319BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20240319BHJP
G01N 35/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N30/24 Z
G01N30/04 A
G01N35/04 A
G01N35/04 G
(21)【出願番号】P 2020191361
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緑川 雄介
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-073140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0026757(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0239792(US,A1)
【文献】国際公開第2010/067399(WO,A1)
【文献】実開平03-110368(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料容器の中から目的の試料容器を選択し、該試料容器中の試料を採取して分析装置に供給する試料導入装置であって、
円板状であり、その円の中心を中心軸として回転自在であり、その中心軸の周りの円周上に、それぞれ試料容器が挿入される保持穴が複数形成された保持板と、その位置が固定され、前記保持板が1回転する際の前記保持穴の移動経路の一部が欠けるような円弧状の切欠部を有し、前記保持板における複数の保持穴にそれぞれ挿入される複数の試料容器のうちの一部の試料容器の底部を支え受け得る板状部材である固定底面板と、を含む試料容器保持部と、
前記固定底面板の切欠部に沿った外縁部を有する円板状であり、その円の中心を中心軸として回転自在であり、該中心軸の周りの円周上に、前記複数の試料容器のうちの一つを下方に取り出すための、シャッターにより開閉自在である搬出入開口が形成され、該搬出入開口と該搬出入開口が無い板状部とを前記保持板の回転に伴う試料容器の移動経路上に設けられた所定の搬出入位置に選択的に移動させる可動底面板と、
前記搬出入開口の下方にあって該搬出入開口を通して試料容器を前記試料容器保持部から下方へ搬出する、又は下方から試料容器を該試料容器保持部に搬入する搬送部と、
前記保持板を
その中心軸周りに回転させ、前記保持穴を水平に移動させる第1移動部と、
前記可動底面板を
その中心軸周りに回転させ、前記搬出入開口を水平に移動させる第2移動部と、
前記試料容器保持部の所望の位置の保持穴に保持されている試料容器を前記搬出入開口を通して搬出する、又は該試料容器保持部の所望の位置の保持穴に前記搬出入開口を通して試料容器を搬入するために、前記第1移動部及び第2移動部の動作を制御する制御部であって、
前記搬出入開口を前記搬出入位置まで移動させるための前記第2移動部による移動の開始を、所望の位置の保持穴を前記搬出入位置と該搬出入位置から隣接する保持穴間隔よりも狭い長さの範囲内にある一時待機位置とのいずれかまで移動させるための前記第1移動部による移動の開始から遅れて実行させるように、前記第1移動部及び前記第2移動部の動作を制御する制御部と、
を備える試料導入装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記搬出入開口が前記搬出入位置を外れた位置にある状態で、所望の位置の保持穴が前記搬出入位置若しくは前記一時待機位置に来るように前記
第1移動部により前記保持板を移動させ、その移動の終了後に、前記搬出入開口が前記搬出入位置に来るように前記第2移動部により前記可動底面板を移動させるべく、前記第1移動部及び前記第2移動部を制御する 請求項1に記載の試料導入装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記搬出入開口が前記搬出入位置を外れた位置にある状態で、所望の位置の保持穴が前記一時待機位置に来るように前記
第1移動部により前記保持板を移動させ、その移動の終了後に、前記搬出入開口が前記搬出入位置に来るように前記第2移動部により前記可動底面板を移動させ、前記シャッターが開放され前記搬送部が試料容器を搬出可能な状態となった後に、前記一時待機位置にある保持穴を前記搬出入位置まで移動させるべく、前記第1移動部及び前記第2移動部を制御する
、請求項2に記載の試料導入装置。
【請求項4】
前記搬送部は、試料容器が載置される載置台を昇降させる昇降部を含み、該昇降部は、前記シャッターが開放された状態で、前記載置台の上面と前記可動底面板の上面とが略面一になるまで前記搬出入開口の中に該載置台を挿入するように該載置台を上昇させる、請求項3に記載の試料導入装置。
【請求項5】
試料容器を加熱する加熱部と 加熱された試料容器からヘッドスペース法により試料を採取する採取部と、をさらに備え、前記搬送部は、前記試料容器保持部から前記加熱部へと分析前の試料容器を搬送する一方、前記加熱部から前記試料容器保持部へと試料採取済の試料容器を搬送する、請求項1~4のいずれか1項に記載の試料導入装置。
【請求項6】
前記可動底面板が回転する際の前記搬出入開口の移動経路と前記保持穴の移動経路とが交差する位置が前記搬出入位置である、請求項1~5のいずれか1項に記載の試料導入装置。
【請求項7】
複数の試料容器の中から目的の試料容器を選択し、該試料容器中の試料を採取して分析装置に供給する試料導入装置であって、
円板状であり、その円の中心を中心軸として回転自在であり、その中心軸の周りの円周上に、それぞれ試料容器が挿入される保持穴が複数形成された保持板と、その位置が固定され、前記保持板が1回転する際の前記保持穴の移動経路の一部が欠けるような円弧状の切欠部を有し、前記保持板における複数の保持穴にそれぞれ挿入される複数の試料容器のうちの一部の試料容器の底部を支え受け得る板状部材である固定底面板と、を含む試料容器保持部と、
前記固定底面板の切欠部に沿った外縁部を有する円板状であり、その円の中心を中心軸として回転自在であり、該中心軸の周りの円周上に、前記複数の試料容器のうちの一つを下方に取り出すための、シャッターにより開閉自在である搬出入開口が形成され、該搬出入開口と該搬出入開口が無い板状部とを前記保持板の回転に伴う試料容器の移動経路上に設けられた所定の搬出入位置に選択的に移動させる可動底面板と、
前記搬出入開口の下方にあって該搬出入開口を通して試料容器を前記試料容器保持部から下方へ搬出する、又は下方から試料容器を該試料容器保持部に搬入する搬送部と、
前記保持板を
その中心軸周りに回転させ、前記保持穴を水平に移動させる第1移動部と、
前記可動底面板を
その中心軸周りに回転させ、前記搬出入開口を水平に移動させる第2移動部と、
前記試料容器保持部の所望の位置の保持穴に保持されている試料容器を前記搬出入開口を通して搬出する、又は該試料容器保持部の所望の位置の保持穴に前記搬出入開口を通して試料容器を搬入するために、前記第1移動部及び第2移動部の動作を制御する制御部と、
を備え、前記搬出入開口を前記搬出入位置まで移動させるための前記第2移動部による前記可動底面板の
回転動作を、所望の位置の保持穴を前記搬出入位置若しくは
一時待機位置まで移動させるための前記第1移動部による前記保持板の
回転動作よりも緩慢に行わせるようにした試料導入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ(GC)等の分析装置に試料を導入する際に用いられる試料導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GC分析における試料導入法の一つにヘッドスペース(以下、「HS」と略すことがある)法がある。HS法は、密閉した試料容器内に収容した液体試料又は固体試料を一定温度に一定時間加熱することにより該試料中の成分を揮発させ、その試料容器内の上部空間からそれら成分を含むサンプルガスを一定量採取してGC装置のカラムに導入する手法である。こうした試料導入法を利用したGC分析は、例えば、飲食品中の香料の測定、水中の揮発性有機化合物の測定等に好適である。
【0003】
HS試料導入装置として、非特許文献1に記載の装置が知られている。このHS試料導入装置は、多数のバイアル(試料容器)を保持するサンプルトレイと、バイアルを加熱してバイアル内に収容されている試料中の成分を揮発させるオーブンと、サンプルトレイとオーブンとの間で双方向にバイアルを搬送するバイアル搬送部と、を備える。特許文献1には、上記HS試料導入装置におけるサンプルトレイ及びバイアル搬送部に類似した構造が開示されている。また、特許文献2には、上記HS試料導入装置におけるオーブンに類似した構造が開示されている。
【0004】
上記従来のHS試料導入装置において、バイアル搬送部は、昇降可能である搬送エレベーターと、該搬送エレベーターを水平方向に移動させるエレベーター移動機構と、を含む。サンプルトレイに収容されているバイアルをオーブン内に搬送する場合、搬送エレベーターは、サンプルトレイ内の目的のバイアルを該サンプルトレイの底面から下方向に搬出する。引き続いて、エレベーター移動機構は、目的のバイアルが載った搬送エレベーターをオーブンの下方まで水平に移動する。そのあと、搬送エレベーターは上昇し、オーブンの底面からオーブン内にバイアルを搬入し、該オーブン内に設置されているバイアルホルダに目的のバイアルを収容する。試料の採取が終了したバイアルをオーブンからサンプルトレイに戻す際には、上述した動作と逆の動作が実行される。
【0005】
上述したように、サンプルトレイやオーブンへのバイアルの搬入及び搬出を、サンプルトレイやオーブンの底面側から行うことにより、サンプルトレイやオーブンの上方空間にバイアルの搬入及び搬出のための機構を配置する必要がなくなり、装置の高さを抑えることができるとともに、装置のメンテナンス性が向上する。また、オーブンの熱が外部に逃げにくくなり、オーブン内の温度の安定性が向上するとともに、省電力化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-73140号公報
【文献】特開2011-145124号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「ヘッドスペースサンプラ HS-20シリーズ」カタログ、株式会社島津製作所分析計測事業部、初版発行2012年11月(インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/gcms/cat/c146-0302g.pdf>)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のHS試料導入装置では、特許文献1に開示されているように、バイアル搬送部のユニットの天面板が、サンプルトレイの底面の一部つまりはバイアルの底部を支え受ける面の一部を構成している。その搬送部の天面板にあって搬送エレベーターの直上にはバイアルの外径よりも一回り大きな内径の開口(搬出入開口)が形成されており、その搬出入開口は搬送部シャッターで開閉自在となっている。サンプルトレイから目的とするバイアルが搬出される際には、搬送部シャッターにより閉鎖されている搬出入開口が所定のバイアル搬出入位置に来るように天面板が移動されるとともに、目的とするバイアルがバイアル搬出入位置に来るようにサンプルトレイが移動される。目的とするバイアルがバイアル搬出入位置に来ると搬送部シャッターは開放され、その位置にあったバイアルは搬出入開口に落ち、そこに用意されている搬送エレベーター上に載置され、該搬送エレベーターの降下によって下方に搬出される。
【0009】
しかしながら、従来のHS試料導入装置では、上述したような動作に関連して次のような問題があった。
【0010】
サンプルトレイには多数のバイアルを装填可能であり、その中で搬出しようとする目的のバイアルが搬出入位置から離れた位置にあると、その目的のバイアルが搬出入位置に到達するまでに時間が掛かる。一方、搬送部の天面板の移動によって搬出入開口が搬出入位置に来るまでの時間は相対的に短い。そのため、多くの場合、搬送部シャッターにより閉鎖されている搬出入開口が搬出入位置に到達した時点では、目的のバイアルは未だ搬出入位置には到達しておらず、目的のバイアルが搬出入位置にまで到達するようにサンプルトレイの移動が継続される。こうした場合、サンプルトレイに収容されている目的のバイアルではない別のバイアルが搬出入開口の上を次々に通過することになる。搬送部シャッターの上面と搬送部の天面板の上面とは面一でなく、搬送部シャッターのほうが一段低く段差がある。そのため、別のバイアルが搬出入開口の段差を通過するときに僅かに落下し、そのバイアルの底部が搬送部シャッターに衝突することで、該シャッターはダメージを受ける。
【0011】
また、試料採取後のバイアルをサンプルトレイの所定位置に戻すときにも同様に、サンプルトレイが移動する際に該トレイ内のバイアルの底部が衝突することで、搬送部シャッターはダメージを受ける。装置の長期間の使用に伴い、搬送部シャッターには機械的なダメージが蓄積し、次第に変形を生じて良好な開閉動作ができなくなる。こうなると、ユーザーにとっては、搬送部シャッターの交換を伴う修理をメーカー等に依頼する必要が生じ、直接的なコストが掛かるのみならず、装置を使用できないことによる機会損失が発生する。一方、装置のメーカーにとっては、装置の信頼性の低下に繋がるという問題がある。
【0012】
もちろん、上記問題はHS試料導入装置に限ったことではなく、バイアル等の試料容器を収容するためのトレイやラック等への試料容器の搬出又は搬入において上記のような構成を採用している分析装置用の試料導入装置全般に共通する問題である。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、試料容器の底部の接触に起因する、試料容器を搬出及び搬入する開口を開閉するシャッターの変形や損傷を軽減することができる試料導入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係る試料導入装置の第1の態様は、複数の試料容器の中から目的の試料容器を選択し、該試料容器中の試料を採取して分析装置に供給する試料導入装置であって、
それぞれ試料容器が挿入される保持穴が複数形成され、水平方向に移動可能である保持板と、その位置が固定され、前記保持板における複数の保持穴にそれぞれ挿入される複数の試料容器のうちの一部の試料容器の底部を支え受け得る固定底面板と、を含む試料容器保持部と、
前記試料容器保持部によって保持されている前記複数の試料容器のうちの前記固定底面板で支え受けられない残りの試料容器の底部を支え受ける板状部材であり、前記複数の試料容器のうちの一つを下方に取り出すためにシャッターにより開閉自在である搬出入開口が形成され、該搬出入開口と該搬出入開口が無い板状部とが前記保持板の移動に伴う試料容器の移動経路上に設けられた所定の搬出入位置に選択的に来るように、水平方向に移動可能である可動底面板と、
前記搬出入開口の下方にあって該搬出入開口を通して試料容器を前記試料容器保持部から下方へ搬出する、又は下方から試料容器を該試料容器保持部に搬入する搬送部と、
前記保持板を水平に移動させる第1移動部と、
前記可動底面板を水平に移動させる第2移動部と、
前記試料容器保持部の所望の位置の保持穴に保持されている試料容器を前記搬出入開口を通して搬出する、又は該試料容器保持部の所望の位置の保持穴に前記搬出入開口を通して試料容器を搬入するために、前記第1移動部及び第2移動部の動作を制御する制御部であって、所望の位置の保持穴を前記搬出入位置まで若しくは該搬出入位置から隣接する保持穴間隔よりも狭い長さの範囲内にある一時待機位置まで移動させるために前記第1移動部による移動を開始した時点から遅れて、前記搬出入開口を前記搬出入位置まで移動させるために前記第2移動部による移動を開始させるように、前記第1移動部及び前記第2移動部の動作を制御する制御部と、
を備えるものである。
【0015】
上記課題を解決するために成された本発明に係る試料導入装置の第2の態様は、複数の試料容器の中から目的の試料容器を選択し、該試料容器中の試料を採取して分析装置に供給する試料導入装置であって、
それぞれ試料容器が挿入される保持穴が複数形成され、水平方向に移動可能である保持板と、その位置が固定され、前記保持板における複数の保持穴にそれぞれ挿入される複数の試料容器のうちの一部の試料容器の底部を支え受け得る固定底面板と、を含む試料容器保持部と、
前記試料容器保持部によって保持されている前記複数の試料容器のうちの前記固定底面板で支え受けられない残りの試料容器の底部を支え受ける板状部材であり、前記複数の試料容器のうちの一つを下方に取り出すためにシャッターにより開閉自在である搬出入開口が形成され、該搬出入開口と該搬出入開口が無い板状部とが前記保持板の移動に伴う試料容器の移動経路上に設けられた所定の搬出入位置に選択的に来るように、水平方向に移動可能である可動底面板と、
前記搬出入開口の下方にあって該搬出入開口を通して試料容器を前記試料容器保持部から下方へ搬出する、又は下方から試料容器を該試料容器保持部に搬入する搬送部と、
前記保持板を水平に移動させる第1移動部と、
前記可動底面板を水平に移動させる第2移動部と、
前記試料容器保持部の所望の位置の保持穴に保持されている試料容器を前記搬出入開口を通して搬出する、又は該試料容器保持部の所望の位置の保持穴に前記搬出入開口を通して試料容器を搬入するために、前記第1移動部及び第2移動部の動作を制御する制御部と、
を備え、前記搬出入開口を前記搬出入位置まで移動させるための前記第2移動部による前記可動底面板の移動動作を、所望の位置の保持穴を前記搬出入位置若しくは前記一時待機位置まで移動させるための前記第1移動部による前記保持板の移動動作よりも緩慢に行わせるようにしたものである。
【0016】
本発明の第1及び第2の態様の試料導入装置は、例えばヘッドスペース試料導入装置である。その場合、試料導入対象の分析装置は典型的にはガスクロマトグラフ装置である。
【発明の効果】
【0017】
上述した従来のHS試料導入装置では、試料容器保持部に保持されている複数の試料容器のうちの目的の試料容器を搬出する際に、第1移動部による保持板の移動と、第2移動部による可動底面板の移動とがほぼ同時に開始され、並行して行われる。多くの場合、保持板の移動によって目的とする試料容器が搬出入位置に到達するよりも、可動底面板が移動してシャッターにより閉鎖状態である搬出入開口が搬出入位置に到達するほうが早い。そのために、閉鎖状態である搬出入開口の上を目的とする試料容器でない他の試料容器が通過する機会が多く、上述したように、シャッターに掛かる負荷が大きい。
【0018】
これに対し、本発明に係る第1の態様の試料導入装置において、制御部は、第2移動部による可動底面板の移動開始のタイミングを、第1移動部による保持板の移動開始のタイミングよりも遅らせる、という特徴的な制御を実行する。この制御には、第1移動部による保持板の移動が終了した(保持板が停止した)あとに第2移動部による可動底面板の移動を行うケースを含む。一方、本発明に係る第2の態様の試料導入装置では、第1移動部による保持板の移動と第2移動部による可動底面板の移動とを同時に開始し並行的に行う場合であっても、例えば、後者の移動の速度を前者の移動の速度に比べて遅くする。このような移動速度の調整は、制御部による第1移動部及び第2移動部の制御によって実現してもよいし、或いは、第1移動部及び第2移動部の構成・構造を変更することによっても実現することができる。
【0019】
これにより、可動底面板に設けられている搬出入開口が搬出入位置に到達する前に、つまりは可動底面板の板状部(搬出入開口が存在しない部分)が搬出入位置にあるときに、保持板の移動に伴って、目的とする試料容器以外の試料容器が搬出入位置を通過するケースが従来よりも増加する。言い換えれば、保持板の移動に伴って、目的とする試料容器以外の試料容器が搬出入位置を通過するときに、その搬出入位置にシャッターで閉鎖された状態の搬出入開口が存在するというケースが従来よりも少なくなる。
【0020】
このようにして、本発明に係る第1及び第2の態様の試料導入装置によれば、搬送部によって試料容器保持部から試料容器を搬出するとき及び試料容器を試料容器保持部に搬入するときに開閉されるシャッターに対し、試料容器の底部が接触することによって機械的な衝撃が加わる回数を減らすことができる。それによって、そのシャッターの変形や損傷が生じにくくなり、シャッターを構成する部品の寿命を延ばすことができる。その結果、装置の故障が起こりにくく、修理のためのコストを下げることができる。また、修理のために装置を使用できないことによる機会損失も低減することができる。さらにまた、装置が故障しにくくなることで、装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態であるHS試料導入装置の概略正面図(A)及び概略上面図(B)。
【
図2】本実施形態のHS試料導入装置の要部の斜視図。
【
図3】本実施形態のHS試料導入装置におけるバイアル保持板及び可動底面板の平面図。
【
図4】本実施形態のHS試料導入装置における固定底面板及び可動底面板の平面図。
【
図5】本実施形態のHS試料導入装置における搬送エレベーターによるバイアル搬出入部分の概略縦断面図。
【
図6】従来のHS試料導入装置における動作時の問題点を説明するための概略図。
【
図7】本実施形態のHS試料導入装置の制御系構成図。
【
図8】本実施形態のHS試料導入装置におけるサンプルトレイユニットからオーブンユニットへのバイアル搬送時の動作フローチャート。
【
図9】本実施形態のHS試料導入装置におけるオーブンユニットからサンプルトレイユニットへのバイアル戻し(搬入)時の動作フローチャート。
【
図10】本実施形態のHS試料導入装置におけるバイアル搬出時のサンプルトレイユニット及び搬送ユニットの動作を説明するための概略図。
【
図11】本実施形態のHS試料導入装置におけるバイアル搬出時のサンプルトレイユニット及び搬送ユニットの動作を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る試料導入装置の一実施形態であるHS試料導入装置について、添付図面を参照して説明する。本実施形態のHS試料導入装置は、複数のバイアル(試料容器)に収容された各試料から揮発する成分を順次採取しGC装置に導入する際に用いられるものである。
【0023】
[本実施形態のHS試料導入装置の構成]
図1は、本実施形態のHS試料導入装置の概略正面図(A)及び概略上面図(B)である。
図2は、本実施形態のHS試料導入装置の要部の斜視図である。
図3は、本実施形態のHS試料導入装置におけるバイアル保持板及び可動底面板の平面図(上面図)である。
図4は、本実施形態のHS試料導入装置における固定底面板及び可動底面板の平面図(上面図)である。
図7は、本実施形態のHS試料導入装置の制御系の構成図である。
【0024】
図2に示すように、このHS試料導入装置は、サンプルトレイユニット10、搬送ユニット20、及び、オーブンユニット30、を備える。サンプルトレイユニット10は、分析対象である試料が封入されたバイアル(試料容器)及び分析終了(厳密には試料導入終了)後のバイアルを保持しておくためのものであり、
図1に示すように、装置の右側手前に設けられている。一方、搬送ユニット20はサンプルトレイユニット10の下方に設けられ、また、オーブンユニット30は装置後方のケーシング3の内部に収容されており、いずれも外観上は現れていない。また、装置の左側手前のケーシング2の内部には、各種の電気回路やGC装置への試料導入のためのサンプルループなどが配設されている。
【0025】
図2~
図4に示すように、サンプルトレイユニット10は、外形が概ね円板状(上面視)で、その一部が円弧状に切り欠かれた(
図4参照)切欠部130である固定底面板13と、固定底面板13の上に所定の間隔を有して略平行に取り付けられた2枚の円板状のバイアル保持板11、12と、を含む。バイアル保持板11、12にはそれぞれ、1本のバイアル50がちょうど収まる大きさの略円形状の保持穴110が複数(この例では90個)、4列の同心円の円周上に形成されている。なお、
図1(B)では、バイアル保持板11が見えているが、保持穴110は一部のみが描かれている。
【0026】
2枚のバイアル保持板11、12は直立する回転軸14により連結されており、モーターやギア等の動力伝達機構を含むトレイ回転駆動部(
図2~
図4には記載なし、
図7にのみ記載あり)64によって回転軸14を中心に回転駆動される。一方、固定底面板13は回転軸14には接続されておらず、その位置が固定されている。したがって、回転軸14の回転に伴って2枚のバイアル保持板11、12が回転しても、固定底面板13の切欠部130の位置は移動しない。
【0027】
搬送ユニット20は、
図4に示すように、固定底面板13の切欠部130の円弧に沿った円周を有する円板状の部材であって、その上面が固定底面板13の上面と略面一である可動底面板21、を含む。可動底面板21は、固定底面板13の切欠部130を塞ぎつつ、直立する回転軸22を中心に回転可能である。可動底面板21の外縁近くの所定位置には、1本のバイアルが通過可能な程度の大きさの略円形状の搬出入開口210が形成され、可動底面板21の下面には、搬出入開口210を開閉する板状の搬送部シャッター23が設けられている。この例では、搬送部シャッター23は、搬出入開口210から外れた位置に設けられた鉛直の回転軸を中心として回転することにより、搬出入開口210を閉鎖する位置と搬出入開口210を開放する位置との間で移動する構造であるが、搬送部シャッター23の構造は回転するものに限らず、直線的に移動するものなど、適宜に変更することができる。
【0028】
図2に示すように、可動底面板21の下方には、1本のバイアルが載置可能であるバイアル載置台24と、上下方向に略筒状に延伸するバイアル受け部25と、バイアル載置台24をバイアル受け部25内で昇降させる搬送エレベーター26と、搬送部回転駆動部65、を含む。バイアル載置台24及びバイアル受け部25は、搬出入開口210の直下に配置されている。また、バイアル載置台24、バイアル受け部25、及び搬送エレベーター26は、可動底面板21と一体に、搬送部回転駆動部65により回転軸22の周りに回転される。この回転によって、バイアル載置台24とバイアル受け部25とにより保持されるバイアルは、サンプルトレイユニット10の下方とオーブンユニット30の下方との間で水平移動される。
【0029】
なお、可動底面板21は実質的にサンプルトレイの底面の一部を構成しているが、同時に、バイアル載置台24、バイアル受け部25、搬送エレベーター26などを含む搬送ユニット20全体の上面を覆う板状部材でもある。したがって、可動底面板21は搬送ユニット20の天面板であると捉えることもできる。
【0030】
搬送エレベーター26は、モーターや動力伝達機構などにより構成されるエレベーター昇降駆動部66を含む。また、図示しないシャッター開閉機構は、搬送エレベーター26によるバイアル載置台24の昇降動作に連動して搬送部シャッター23を移動させる。即ち、バイアル載置台24が上昇すると搬送部シャッター23は搬出入開口210の直下から横にずれることで該搬出入開口210を開放し、バイアル載置台24が降下すると搬送部シャッター23は搬出入開口210の直下に戻り搬出入開口210を閉鎖する。こうしたシャッター開閉機構としては、例えば特許文献1に記載の構成を利用することができるが、これに限るものではない。
【0031】
オーブンユニット30は、略偏平円筒状であるハウジング31と、ハウジング31の内部に収容されているバイアルホルダ32と、ハウジング31の内部を加熱するオーブンヒーター(図示せず)と、バイアルから試料を採取するサンプル採取部34と、を備える。バイアルホルダ32は、円板状の基台と、複数の保持穴320が形成されている複数枚のリング状のバイアル保持板と、から成る。サンプルトレイユニット10のバイアル保持板11、12と同様に、オーブンユニット30のバイアル保持板も連結軸によって互いに平行に連結されており、それらはホルダ回転駆動部67により回転駆動される回転軸33の周りに回転可能である。また、図示しないが、バイアルホルダ32の底面には、オーブンシャッターにより開閉される開口が形成されており、該オーブンシャッターはオーブンシャッター駆動部68により開閉される。なお、この例では、バイアルホルダ32に12本のバイアルを搭載することが可能である。
【0032】
図4において、一点鎖線で示す移動経路Bは、可動底面板21が回転軸22の周りを回転する際の搬出入開口210の中心点の軌跡である。一方、同じく一点鎖線で示す4本の移動経路Aは、バイアル保持板11、12(
図3参照)が回転軸14の周りを回転する際の各列の保持穴110の中心点の軌跡である。
図4に示すように、搬出入開口210の移動経路Bは、各列の保持穴110の移動経路Aの全てと交差する。四つの交差点Cでは、保持穴110と搬出入開口210とが重なるから、この交差点Cの位置が、保持穴110に保持されているバイアルを搬出入開口210を通して下方に搬出する、又はその逆に、搬出入開口210を通して保持穴110に下方からバイアルを搬入する(戻す)ための搬出入位置である。即ち、搬出入位置は、各移動経路A上にそれぞれ1箇所ずつ設けられる。
【0033】
また、
図4において、搬出入開口210の移動経路B上の位置Dは、搬送ユニット20の搬送エレベーター26とオーブンユニット30のバイアルホルダ32との間でバイアルを受け渡しする位置である。また、搬出入開口210の移動経路B上の位置Eは、バイアル載置台24及びバイアル受け部25により保持されているバイアルの種類(高さ)を検出するための位置であり、且つバイアルをオーブンユニット30からサンプルトレイユニット10に戻す際に該バイアルの温度を下げるための位置でもある。さらにまた、保持穴110の移動経路A上の位置Fは、固定底面板13に設けられたトレイバイアル検出部61により、保持穴110にバイアルがあるか否かを検出するための位置である。
【0034】
既に一部について述べているが、
図7に示すように、本実施形態のHS試料導入装置は制御系の主要な構成として、制御部60と、トレイバイアル検出部61と、エレベーターバイアル検出部62と、ホームポジション検出部63と、トレイ回転駆動部64と、搬送部回転駆動部65と、エレベーター昇降駆動部66と、ホルダ回転駆動部67と、オーブンシャッター駆動部68と、サンプル採取リフト駆動部69と、オーブンヒーター駆動部70と、を含む。制御部60はCPUやメモリ等を含むマイクロコンピューターを中心に構成され、所定の制御プログラムに基づいて上記各駆動部64~70をそれぞれ制御する。
【0035】
トレイバイアル検出部61は、上述したように、サンプルトレイユニット10における保持穴110の円周方向の4列の各列において、その円周上の位置Fに設けられ、その位置において保持穴110にバイアルが装填されているか否かを検出するものである。エレベーターバイアル検出部62は、上述した搬出入開口210の移動経路B上の位置Eにおいてバイアルの種類(高さ)を検出するものである。ホームポジション検出部63は、バイアル載置台24が最も下の位置にあることを検出するものである。
【0036】
トレイ回転駆動部64は、モーターやギアなどの動力伝達機構を含み、サンプルトレイユニット10の回転軸14を回転駆動するものである。搬送部回転駆動部65は、モーターやギアなどの動力伝達機構を含み、搬送ユニット20の回転軸22を回転駆動するものである。エレベーター昇降駆動部66は、搬送エレベーター26によりバイアル載置台24を昇降させるものである。ホルダ回転駆動部67は、モーターやギアなどの動力伝達機構を含み、バイアルホルダ32の回転軸33を回転駆動するものである。オーブンシャッター駆動部68はオーブンシャッターの開閉動作を行うものである。サンプル採取リフト駆動部69は、モーターやギアなどの動力伝達機構を含み、サンプル採取部34によるサンプル採取位置までバイアルを押し上げるリフトの昇降動作を行うものである。オーブンヒーター駆動部70は、ハウジング31内を加熱するヒーターを駆動するものである。
なお、
図7に示したのは、主要な制御系の構成要素のみであり、ここに記載していない種々の検出部(センサ)や駆動部が適宜設けられる。
【0037】
[本実施形態のHS試料導入装置の動作の概要]
次に、本実施形態のHS試料導入装置の概略的な動作を説明する。
オペレーターは、それぞれ試料が収容されたバイアルをサンプルトレイユニット10の複数の保持穴110に装填する。この例では、サンプルトレイユニット10には最大で90本のバイアルを装填することができる。そのあと、オペレーターは図示しないパーソナルコンピューターなどから分析の開始を指示する。この指示を受けた制御部60は、制御プログラムに従って各駆動部64~70を制御する。
【0038】
具体的に、まず、制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、バイアル保持板11、12を回転させることにより、試料採取の対象のバイアルを搬出入位置Cまで移動させる。一方、制御部60は搬送部回転駆動部65を動作させ、可動底面板(搬送エレベーター26と一体)21を回転軸22の周りに回転させることで、搬出入開口210を上記搬出入位置C、つまりは試料採取の対象のバイアルの直下に移動させる。このとき、搬送部シャッター23は閉鎖状態である。そのあと、制御部60はエレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル載置台24を上昇させる。すると、この動作と連動して搬送部シャッター23が開放し、上記搬出入位置Cにあった試料採取の対象のバイアルはバイアル載置台24に載る。
【0039】
次に、制御部60はエレベーター昇降駆動部66を動作させて、バイアルが載ったバイアル載置台24を降下させる。このとき、バイアルの側面はバイアル受け部25で保持される。続いて、制御部60は搬送部回転駆動部65を動作させ、可動底面板21と共に搬送エレベーター26を位置Dまで回転させる。そのあと、制御部60は、エレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル載置台24を上昇させる。この上昇動作に連動して、搬送部シャッター23は開放する。また、制御部60はオーブンシャッター駆動部68を動作させ、オーブンシャッターも開放する。それにより、バイアル載置台24に載っていたバイアルはハウジング31内に入り、バイアルホルダ32の所定位置に収容される。
【0040】
ハウジング31内はヒーターにより所定温度に加熱されており、バイアルホルダ32に収容された試料採取対象のバイアルが加熱されると、バイアル内に収容されていた試料中の成分は揮発し、そのバイアル内の上部空間に溜まる。所定時間、加熱が行われたあと、制御部60はサンプル採取リフト駆動部69を動作させ、試料採取対象のバイアルをハウジング31内で上昇させる。すると、サンプル採取部34のニードルが試料採取対象のバイアル内に挿入され、サンプル採取部34は該バイアル内の上部空間から試料ガスを吸引する。こうして吸引された試料ガスがGC装置等の分析装置に導入される。
【0041】
オーブンユニット30で試料採取されたあとのバイアルを該オーブンユニット30からサンプルトレイユニット10に戻す際の動作は、概ね上述したのと逆の動作である。
【0042】
[従来のHS試料導入装置のバイアル搬出入時の問題点]
ここで、従来のHS試料導入装置において生じる問題点を
図6により簡単に説明する。
図6は、
図4における一列(一つの円周上)の保持穴110の移動経路Aに沿った一部の断面図である。バイアル50はバイアル保持板11、12の保持穴110に挿入され、バイアル保持板11、12が回転するに伴って移動する。サンプルトレイ内の1本のバイアルを搬出しようとする場合、サンプルトレイ内でそのバイアルが存在する位置は様々であり、搬出入位置Cから離れている場合もある。また、オペレーターのミス等により、指定された保持穴110の位置(各保持穴110に割り当てられた番号の位置)にバイアルが装填されていないこともあり得るため、指定された保持穴110の番号位置をバイアル検出位置Fまで一旦移動させ、バイアル検出位置Fにおいてバイアルの有無を判断してバイアル有りと判断されたあとに、その番号の保持穴110を搬出入位置Cまで移動させるような制御を実施する。そのため、目的のバイアルが最終的に搬出入位置Cまで移動するのには或る程度時間が掛かる。
【0043】
これに対し、可動底面板21の回転によって搬出入開口210が搬出入位置Cまで移動するのにはそれほど時間が掛からない。その結果、多くの場合、
図6に示すように、搬出入位置Cに搬出入開口210が到達し可動底面板21の位置が一時的に固定されている状態で、バイアル保持板11、12の回転によりバイアル50が移動する。このとき、各バイアル50の底部は可動底面板21の上面で支え受けられ、その底部が可動底面板21上を滑動する。しかしながら、
図6にも示しているように、搬出入開口210には可動底面板21の板厚に相当する段差があるため、この段差をバイアル50が通過する際に該バイアル50が
図6中の点線50Bの位置から搬送部シャッター23の上に落下し、搬送部シャッター23に衝撃を与える。1本のバイアル50による衝撃はそれほど大きくはないものの、バイアル50の搬出や搬入に伴って搬送部シャッター23には衝撃が繰り返し与えられるため、徐々にダメージが蓄積し、変形や破損に至るおそれがある。
【0044】
[本実施形態のHS試料導入装置における特徴的な動作]
これに対し本実施形態のHS試料導入装置では、上述したようなサンプルトレイユニット10からのバイアル50の搬出、及びサンプルトレイユニット10へのバイアル50の搬入の際に、バイアル50による搬送部シャッター23への衝撃をできる限り軽減するような対策が施されている。
図8は、本実施形態のHS試料導入装置におけるバイアル搬出時の動作フローチャート、
図9は、バイアル戻し(搬入)時の動作フローチャートである。
図10及び
図11は、バイアル搬出時におけるサンプルトレイユニット10及び搬送ユニット20の動作を説明するための概略図である。
図10及び
図11は
図6と同じく、
図4における一列の保持穴110の移動経路Aに沿った一部の断面図である。
【0045】
試料採取対象である目的のバイアルが装填されている(厳密には装填されている筈である)保持穴110の位置を示す番号が指定されたうえで動作開始が指示されると、これを受けて制御部60は、エレベーター昇降駆動部66を動作させ、ホームポジション検出部63によりバイアル載置台24が最下位置に達したことが検出されるまでバイアル載置台24を降下させる(ステップS1)。
【0046】
次に、制御部60は搬送部回転駆動部65を動作させ、バイアル載置台24及び搬出入開口210をバイアル種類チェック位置Eまで移動させる(ステップS2)。制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、目的のバイアルが装填されている保持穴110の位置を示す番号(以下、説明の簡略化のために「トレイ搬出元番号」という」がバイアル検出位置Fに来るようにバイアル保持板11、12を回転させ、トレイバイアル検出部61によりバイアルが存在していることをチェックする(ステップS3)。また、制御部60はバイアル種類チェック位置Eにおいてエレベーターバイアル検出部62により、バイアル載置台24上にバイアルが存在しないことをチェックする(ステップS4)。なお、ステップS3、S4の順序は問わず、同時に実行してもよい。
【0047】
ステップS3、S4のチェックで問題がなければ、制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、トレイ搬出元番号が搬出入位置Cから(1/2)×[バイアル間距離d]だけ離れた一時待機位置に来るようにバイアル保持板11、12を回転させる(ステップS5)。バイアル間距離dとは、
図10(A)に示すように、サンプルトレイ上で円周方向に隣接する保持穴110の中心点の間隔、つまりは、隣接する2本のバイアルの中心位置の間隔である。
図10(A)では、搬出対象であるバイアルを符号50Aで、搬出入位置Cにおけるバイアルを符号50Cで示している。なお、ステップS5で、トレイ搬出元番号を搬出入位置Cまで移動させてもよいが、そうしない理由についてはあとで述べる。
【0048】
目的のバイアル50Aが搬出入位置C近傍の上記一時待機位置に到達するまでの間、可動底面板21は停止しているため、目的のバイアル50A以外の各バイアル50の底部は可動底面板21の板状部の上を滑動する。そのため、上述したような、従来装置で生じていた、バイアル50が搬出入開口210を通過する際に段差を越えることに起因する、搬送部シャッター23への不所望の衝撃の発生を減らすことができる。
【0049】
そのあと、制御部10は搬送部回転駆動部65を動作させ、搬出入位置Cに搬出入開口210及びバイアル載置台24が来るように、可動底面板21及び搬送エレベーター26を回転させる(ステップS6)。上述したように、目的のバイアル50Aは搬出入位置Cではなく、その近傍の一時待機位置にあるため、そのバイアル50Aは可動底面板21の板状部の上に載ったままである(
図10(B)参照)。
【0050】
制御部10はエレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル載置台24を上昇させる。この上昇に連動して搬送部シャッター23は水平方向に移動し、搬出入開口210は開放状態になる。上昇したバイアル載置台24は、開放された搬出入開口210に入り、バイアル載置台24の上面が可動底面板21の上面と面一になったときにバイアル載置台24は停止する(ステップS7、
図10(C)参照)。
【0051】
次いで、制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、目的のバイアル50Aが搬出入位置Cに来るように(1/2)×[バイアル間距離d]分だけバイアル保持板11、12を回転させる(ステップS8)。これにより、
図11(A)に示すように、目的のバイアル50Aがバイアル載置台24上に載る。このとき、バイアル載置台24の上面と可動底面板21の上面とは略面一であるため、バイアル50Aがバイアル載置台24に載る際の衝撃も殆どない。
【0052】
そして、制御部10はエレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル50Aが載った状態のバイアル載置台24をホームポジションまで降下させる。この降下に連動して搬送部シャッター23は水平方向に移動し、搬出入開口210を閉鎖する(ステップS9、
図11(B)、(C)参照)。
【0053】
なお、ステップS5においてトレイ搬出元番号を搬出入位置Cまで移動させた場合、つまり目的のバイアル50Aを搬出入位置Cまで移動させた場合、
図10(B)に示すように可動底面板21を移動させたときに、目的のバイアル50Aが搬送部シャッター23上に落ち、搬送部シャッター23に衝撃を与える。さらに、
図10(C)に示すように、搬送部シャッター23が移動したとき、目的のバイアル50Aはバイアル載置台24上に落ち、バイアル載置台24に衝撃を与える。上述したように、目的のバイアル50Aを搬出入位置Cまで移動させずに上記一時待機位置に留め置くことにより、該バイアル50Aによる搬送部シャッター23及びバイアル載置台24への衝撃の印加を回避することができる。
【0054】
そのあとは、既に述べたように、制御部60は搬送部回転駆動部65を動作させ、可動底面板21と搬送エレベーター26とを一体に回転させることで、目的のバイアル50Aをオーブンユニット30の下方にまで移動させる(ステップS10)。さらに、制御部10はエレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル載置台24を上昇させる。また、制御部60はオーブンシャッター駆動部68を動作させ、オーブンシャッターを開放する。これにより、目的のバイアル50Aはハウジング31内に入り、最終的にバイアルホルダ32に収容される(ステップS11)。これにより、一連の処理が終了する。
【0055】
オーブンユニット30において試料採取が終了したバイアルを、オーブンユニット30からサンプルトレイユニット10に戻す際の動作を、
図9を参照して説明する。
【0056】
オーブンユニット30において使用済みのバイアルがバイアル載置台24上に載置された状態で、制御部60は、エレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル載置台24をホームポジションまで降下させる(ステップS21)。次に、制御部60は搬送部回転駆動部65を動作させ、バイアル載置台24及び搬出入開口210をバイアル種類チェック位置Eまで移動させる(ステップS22)。これにより、サンプルトレイユニット10における搬出入位置Cには、可動底面板21の搬出入開口210が位置しない。制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、バイアルを戻す先である番号(以下「トレイ搬入先番号」という)の保持穴110がバイアル検出位置Fに来るようにバイアル保持板11、12を回転させ、トレイバイアル検出部61によりバイアルが存在しないことをチェックする(ステップS23)。
【0057】
ステップS23でトレイ搬入先番号の保持穴110にバイアルが存在しないことが確認できたならば、制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、トレイ搬入先番号の保持穴110が搬出入位置Cに来るようにバイアル保持板11、12を回転させる(ステップS24)。トレイ搬入先番号の保持穴110が搬出入位置Cに到達するまでの間、可動底面板21は停止しているため、サンプルトレイユニット10内の各バイアル50の底部は可動底面板21の板状部の上を滑動する。そのため、バイアル50が搬出入開口210を通過する際に段差を越えることに起因する、搬送部シャッター23への不所望の衝撃の発生を回避することができる。
【0058】
そのあと、制御部10は搬送部回転駆動部65を動作させ、搬出入位置Cに搬出入開口210及びバイアル載置台24が来るように、可動底面板21及び搬送エレベーター26を回転させる(ステップS25)。次いで、制御部10はエレベーター昇降駆動部66を動作させ、バイアル50が載ったバイアル載置台24を上昇させる。この上昇に連動して搬送部シャッター23は移動し搬出入開口210は開放状態になる。上昇したバイアル載置台24はその搬出入開口210に入り、バイアル載置台24の上面が可動底面板21の上面と面一になったときにバイアル載置台24は停止する(ステップS26)。
【0059】
続いて、制御部60はトレイ回転駆動部64を動作させ、バイアル載置台24上のバイアル50が可動底面板21の上に載り移るように、(1/2)×[バイアル間距離]分だけバイアル保持板11、12を回転させる(ステップS27)。このとき、バイアル載置台24の上面と可動底面板21の上面とは面一であるため、バイアル50は円滑にバイアル載置台24から可動底面板21の上に移動する。
【0060】
そして、制御部10はエレベーター昇降駆動部66を動作させ、空になったバイアル載置台24をホームポジションまで降下させる。この降下に連動して搬送部シャッター23は水平に移動し、搬出入開口210を閉鎖する(ステップS28)。
【0061】
そのあと、制御部60は搬送部回転駆動部65を動作させ、可動底面板21と搬送エレベーター26とを一体に回転させて、搬出入開口210及びバイアル載置台24をバイアル種類チェック位置Eまで移動させる(ステップS29)。これにより、一連の処理を終了する。
【0062】
なお、本実施形態のHS試料導入装置では、
図4に示したように搬出入位置Cが複数あり、この搬出入位置Cでは搬出入開口210と保持穴110とが重なるため、可動底面板21の回転に伴って搬出入開口210が移動する際に、搬出入開口210がバイアル50の下方を通過し、搬送部シャッター23が衝撃を受けることになる。但し、通常の使用方法では、このように可動底面板21が回転する際に搬送部シャッター23が受ける衝撃の回数は、従来装置においてバイアル保持板11、12が回転する際に搬送部シャッター23が受ける衝撃の回数に比べて格段に少なく、それによるダメージの蓄積も小さい。
【0063】
以上のようにして、本実施形態のHS試料導入装置では、サンプルトレイユニット10からオーブンユニット30へ目的のバイアル50Aを搬送する際に、またその逆に、オーブンユニット30からサンプルトレイユニット10へ使用済みのバイアルを搬送する際に、搬送部シャッター23が受ける機械的なダメージを軽減することができる。
【0064】
[変形例]
上記実施形態のHS試料導入装置では、サンプルトレイユニット10からのバイアルの搬出時には、バイアル保持板11、12を移動(回転)させることで目的のバイアル50Aを搬出入位置C(厳密には、搬出入位置Cから(1/2)×[バイアル間距離d]だけ離れた一時待機位置)まで移動させたのに引き続き、可動底面板21を移動(回転)させることで搬出入開口210を搬出入位置Cへと移動させており、両者が同時に移動する期間の重なりはない。しかしながら、目的のバイアル50Aが搬出入位置C(又は一時待機位置)に到達するよりも前に、搬出入位置Cへの搬出入開口210の移動を開始してもよい。即ち、バイアル保持板11、12の移動動作と可動底面板21の移動動作との期間が一部重なってもよい。
【0065】
即ち、本発明の目的は、上述した従来のHS試料分析装置に比べて搬送部シャッター23自体及びそれを移動させる機械部品などの寿命を延ばすことにあり、そのためには、
図6に示したように、搬送部シャッター23で閉鎖された状態の搬出入開口210の上をバイアル50が通過する回数を平均的に減らすことが重要である。したがって、サンプルトレイ内の適宜の位置にある目的のバイアル50Aを搬出入位置C(上記例では一時待機位置)にまで移動させる動作(ステップS5の処理)を開始した時点(ステップS5の開始時点)から少し遅れて、搬出入開口210を搬出入位置Cまで移動させる動作(ステップS6の処理)を開始する。
【0066】
搬出入開口210が搬出入位置Cに到達した以降にバイアル保持板11、12の移動が続いていた場合であっても、搬出入位置Cにある搬出入開口210の上を通過するバイアルの数が従来よりも減ってさえいれば、搬送部シャッター23のダメージを軽減するという効果が達成された、ということができる。言い換えれば、本発明に係る試料導入装置では、搬出入位置Cにある搬出入開口210の上を通過するバイアルの数が従来よりも平均的に減るように、ステップS6の処理開始のタイミングをステップS5の処理開始のタイミングよりも遅らせ、ステップS25の処理開始のタイミングをステップS24の処理開始のタイミングよりも遅らせることが必要である。
【0067】
また、目的のバイアル50Aを搬出入位置C(又は一時待機位置)まで移動させるためのバイアル保持板11、12の移動動作と、搬出入開口210を搬出入位置Cまで移動させるための可動底面板21の移動動作とを同時に開始したとしても、後者の移動を前者の移動よりも緩慢に行うことによって、搬出入開口210が搬出入位置Cに到達するタイミングを遅らせ、搬出入位置Cにある搬出入開口210の上を通過するバイアルの数を従来よりも減らすことが可能である場合がある。
【0068】
このような緩慢な移動は、可動底面板21の移動速度をバイアル保持板11、12の移動速度に比べて遅くする、可動底面板21の移動を断続的に停止させる、或いは可動底面板21を一時的に逆方向に移動させるなど、可動底面板21が当初の位置から搬出入位置C(又は一時待機位置)へ移動するまでの移動動作の平均的な速度をバイアル保持板11、12が当初の位置から搬出入位置C(又は一時待機位置)へ移動するまでの移動動作の平均的な速度よりも小さくすることなどによって実現することができる。なお、ここでいう平均的な速度とは二つの意味を持つ。その一つは、移動開始前の位置から移動終了後の位置(目的位置)に達するまでの期間全体に亘る平均的な速度という意味である。また、サンプルトレイ上におけるバイアルの移動開始前の位置は様々であり、その位置によって搬出入位置C(又は一時待機位置)まで移動するのに要する時間が異なる。したがって、サンプルトレイ上での初期位置が異なるバイアルがそれぞれ移動する際の、ばらつきのある速度の平均というのが二つ目の意味である。
【0069】
制御部60は、上述したようにバイアル保持板11、12と可動底面板21の移動開始のタイミングを制御することで当初の目的を達成する以外に、それぞれの移動速度を適宜調整したり、移動動作と停止動作を適宜に組み合わせたり、或いは場合によっては移動方向を変更したりすることで、当初の目的を達成できるようにすることができる。また、バイアル保持板11、12の移動と可動底面板21の移動は、それぞれモーターや動力伝達機構を含む回転駆動部によって達成されるから、移動速度はその回転駆動部の構成や構造(例えばギア機構の減速比など)によっても調整可能である。したがって、制御部60の制御とは無関係に、そうした回転駆動部の構成や構造を工夫することで、可動底面板21の移動動作の平均的な速度をバイアル保持板11、12の移動動作の平均的な速度よりも小さくすることができる。
【0070】
なお、上記実施形態は、本発明に係る試料導入装置をHS試料導入装置に適用した例であるが、本発明はHS法を用いた試料導入装置以外に、様々な方式、形態の試料導入装置に適用が可能である。また、その試料を導入する先の分析装置の種類もGC装置に限らないのは当然である。
【0071】
また、上記実施形態のHS試料導入装置では、サンプルトレイユニット10は円盤状であり、円の中心の周りに回転するものであったが、サンプルトレイの形状はこれに限らず、また、その移動の方向も、直線移動するもの、或いは、互いに直交する二軸上をそれぞれ直線移動するものなど、適宜に決めることができる。もちろん、サンプルトレイの形状やその固定底面板に設けられる切欠部の形状に応じて、可動底面板の形状や移動方向は適宜に定められる。
【0072】
また、上記実施形態や上述した各種の変形例はいずれも本発明の一例であるから、本発明の趣旨の範囲で適宜修正や変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0073】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0074】
(第1項)本発明に係る試料導入装置の一態様は、複数の試料容器の中から目的の試料容器を選択し、該試料容器中の試料を採取して分析装置に供給する試料導入装置であって、
それぞれ試料容器が挿入される保持穴が複数形成され、水平方向に移動可能である保持板と、その位置が固定され、前記保持板における複数の保持穴にそれぞれ挿入される複数の試料容器のうちの一部の試料容器の底部を支え受け得る固定底面板と、を含む試料容器保持部と、
前記試料容器保持部によって保持されている前記複数の試料容器のうちの前記固定底面板で支え受けられない残りの試料容器の底部を支え受ける板状部材であり、前記複数の試料容器のうちの一つを下方に取り出すためにシャッターにより開閉自在である搬出入開口が形成され、該搬出入開口と該搬出入開口が無い板状部とが前記保持板の移動に伴う試料容器の移動経路上に設けられた所定の搬出入位置に選択的に来るように、水平方向に移動可能である可動底面板と、
前記搬出入開口の下方にあって該搬出入開口を通して試料容器を前記試料容器保持部から下方へ搬出する、又は下方から試料容器を該試料容器保持部に搬入する搬送部と、
前記保持板を水平に移動させる第1移動部と、
前記可動底面板を水平に移動させる第2移動部と、
前記試料容器保持部の所望の位置の保持穴に保持されている試料容器を前記搬出入開口を通して搬出する、又は該試料容器保持部の所望の位置の保持穴に前記搬出入開口を通して試料容器を搬入するために、前記第1移動部及び第2移動部の動作を制御する制御部であって、所望の位置の保持穴を前記搬出入位置まで若しくは該搬出入位置から隣接する保持穴間隔よりも狭い長さの範囲内にある一時待機位置まで移動させるために前記第1移動部による移動を開始した時点から遅れて、前記搬出入開口を前記搬出入位置まで移動させるために前記第2移動部による移動を開始させるように、前記第1移動部及び前記第2移動部の動作を制御する制御部と、
を備えるものである。
【0075】
第1項に記載の試料導入装置では、保持板の移動に伴って、目的とする試料容器以外の試料容器が搬出入位置を通過するときに、その搬出入位置にシャッターで閉鎖された状態の搬出入開口が存在するケースが従来よりも少なくなる。そのため、第1項に記載の試料導入装置によれば、搬送部によって試料容器保持部から試料容器を搬出する際、及び試料容器を試料容器保持部に搬入する際に開閉されるシャッターに対し、試料容器の底部が接触することによって機械的な衝撃が加わる回数を減らすことができる。それにより、シャッターの変形や損傷が生じにくくなり、シャッターを構成する部品の寿命を延ばすことができる。その結果、装置の故障が起こりにくく、修理のためのコストを下げることができる。また、修理のために装置を使用できないことによる機会損失も低減することができる。さらにまた、装置が故障しにくくなることで、装置の信頼性を向上させることができる。
【0076】
(第2項)第1項に記載の試料導入装置において、前記制御部は、前記搬出入開口が前記搬出入位置を外れた位置にある状態で、所望の位置の保持穴が前記搬出入位置若しくは前記一時待機位置に来るように前記1移動部により前記保持板を移動させ、その移動の終了後に、前記搬出入開口が前記搬出入位置に来るように前記第2移動部により前記可動底面板を移動させるべく、前記第1移動部及び前記第2移動部を制御するものとすることができる。
【0077】
第2項に記載の試料導入装置によれば、試料容器保持部からの目的の試料容器の搬出時に、該目的の試料容器が搬出入位置又は一時待機位置に来るまで搬出入開口が搬出入位置に到達しないことが保証される。そのため、搬出入位置にある搬出入開口の上を目的の試料容器以外の試料容器が通過することを回避することができ、試料容器の底部がシャッターに接触することによって該シャッターに機械的な衝撃が加わることをより確実に軽減することができる。
【0078】
(第3項)また第2項に記載の試料導入装置において、前記制御部は、前記搬出入開口が前記搬出入位置を外れた位置にある状態で、所望の位置の保持穴が前記一時待機位置に来るように前記1移動部により前記保持板を移動させ、その移動の終了後に、前記搬出入開口が前記搬出入位置に来るように前記第2移動部により前記可動底面板を移動させ、前記シャッターが開放され前記搬送部が試料容器を搬出可能な状態となった後に、前記一時待機位置にある保持穴を前記搬出入位置まで移動させるべく、前記第1移動部及び前記第2移動部を制御するものとすることができる。
【0079】
第3項に記載の試料導入装置によれば、シャッターが開放される際に搬出入開口の直上に試料容器がないので、シャッターが開放されると同時に試料容器が搬出入開口を通して搬送部の容器受け部上に落下することを回避することができる。それにより、搬送部の機械的なダメージの軽減を図ることができる。
【0080】
(第4項)第3項に記載の試料導入装置において、前記搬送部は、試料容器が載置される載置台を昇降させる昇降部を含み、該昇降部は、前記シャッターが開放された状態で、前記載置台の上面と前記可動底面板の上面とが略面一になるまで前記搬出入開口の中に該載置台を挿入するように該載置台を上昇させるものとすることができる。
【0081】
第4項に記載の試料導入装置によれば、試料容器が可動底面板上から載置台に載り移る際に殆ど段差がないので、載置台に掛かる負荷を軽減することができる。
【0082】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の試料導入装置は、試料容器を加熱する加熱部と 加熱された試料容器からヘッドスペース法により試料を採取する採取部と、をさらに備え、前記搬送部は、前記試料容器保持部から前記加熱部へと分析前の試料容器を搬送する一方、前記加熱部から前記試料容器保持部へと試料採取済の試料容器を搬送するものとすることができる。
【0083】
第5項に記載の試料導入装置によれば、加熱部へその下方から試料容器を搬入したり、逆に加熱部からその下方へ試料容器を搬出したりすることができる。それにより、加熱部における加熱された空気が外部へ逃げにくく、加熱部の温度の安定性を高めることができる。また、加熱のための電力消費を抑えることができる。
【0084】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の試料導入装置において、前記保持板は円板状であって、その円の中心を中心軸として回転自在であり、前記保持穴はその中心軸の周りの円周上に配置され、
前記固定底面板は、前記保持板が1回転する際の前記保持穴の移動経路の一部が欠けるような円弧状の切欠部を有する板状部材であり、
前記可動底面板は、前記固定底面板の切欠部に沿った外縁部を有する円板状であって、その円の中心を中心軸として回転自在であり、前記搬出入開口はその中心軸の周りの円周上に設けられ、
前記可動底面板が回転する際の前記搬出入開口の移動経路と前記前記保持穴の移動経路とが交差する位置が前記搬出入位置であるものとすることができる。
【0085】
第6項に記載の試料導入装置によれば、第1移動部と第2移動部とが共に回転動作を行うものであるので、その構造が比較的簡単である。また、保持板と可動底面板との移動に際し、それらの周囲に移動のためのスペースを確保する必要がないため、省スペース性を図ることができ、装置を小形化しながら多数の試料容器を装填することが可能となる。
【0086】
(第7項)また本発明に係る試料導入装置の別の態様は、複数の試料容器の中から目的の試料容器を選択し、該試料容器中の試料を採取して分析装置に供給する試料導入装置であって、
それぞれ試料容器が挿入される保持穴が複数形成され、水平方向に移動可能である保持板と、その位置が固定され、前記保持板における複数の保持穴にそれぞれ挿入される複数の試料容器のうちの一部の試料容器の底部を支え受け得る固定底面板と、を含む試料容器保持部と、
前記試料容器保持部によって保持されている前記複数の試料容器のうちの前記固定底面板で支え受けられない残りの試料容器の底部を支え受ける板状部材であり、前記複数の試料容器のうちの一つを下方に取り出すためにシャッターにより開閉自在である搬出入開口が形成され、該搬出入開口と該搬出入開口が無い板状部とが前記保持板の移動に伴う試料容器の移動経路上に設けられた所定の搬出入位置に選択的に来るように、水平方向に移動可能である可動底面板と、
前記搬出入開口の下方にあって該搬出入開口を通して試料容器を前記試料容器保持部から下方へ搬出する、又は下方から試料容器を該試料容器保持部に搬入する搬送部と、
前記保持板を水平に移動させる第1移動部と、
前記可動底面板を水平に移動させる第2移動部と、
前記試料容器保持部の所望の位置の保持穴に保持されている試料容器を前記搬出入開口を通して搬出する、又は該試料容器保持部の所望の位置の保持穴に前記搬出入開口を通して試料容器を搬入するために、前記第1移動部及び第2移動部の動作を制御する制御部と、
を備え、前記搬出入開口を前記搬出入位置まで移動させるための前記第2移動部による前記可動底面板の移動動作を、所望の位置の保持穴を前記搬出入位置若しくは前記一時待機位置まで移動させるための前記第1移動部による前記保持板の移動動作よりも緩慢に行わせるようにしたものである。
【0087】
第7項に記載の試料導入装置では、第1項に記載の試料導入装置と同様に、保持板の移動に伴って、目的とする試料容器以外の試料容器が搬出入位置を通過するときに、その搬出入位置にシャッターで閉鎖された状態の搬出入開口が存在するケースが従来よりも少なくなる。そのため、第7項に記載の試料導入装置によっても第1項に記載の試料導入装置と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0088】
10…サンプルトレイユニット
11、12…バイアル保持板
110…保持穴
13…固定底面板
130…切欠部
14…回転軸
20…搬送ユニット
21…可動底面板
210…搬出入開口
22…回転軸
23…搬送部シャッター
24…バイアル載置台
25…バイアル受け部部
26…搬送エレベーター
30…オーブンユニット
31…ハウジング
32…バイアルホルダ
320…保持穴
33…回転軸
34…サンプル採取部
50、50A、50B、50C…バイアル
60…制御部
61…トレイバイアル検出部
62…エレベーターバイアル検出部
63…ホームポジション検出部
64…トレイ回転駆動部
65…搬送部回転駆動部
66…エレベーター昇降駆動部
67…ホルダ回転駆動部
68…オーブンシャッター駆動部
69…サンプル採取リフト駆動部
70…オーブンヒーター駆動部