(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240319BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240319BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240319BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 A
H01F1/26
H01F27/255
(21)【出願番号】P 2020204267
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】永井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】海老名 和広
(72)【発明者】
【氏名】角田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】川崎 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】石間 雄也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 聖樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高弘
(72)【発明者】
【氏名】安田 渓斗
(72)【発明者】
【氏名】服部 慎吾
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-98278(JP,A)
【文献】特開2019-57693(JP,A)
【文献】特開2009-9985(JP,A)
【文献】特開2018-195691(JP,A)
【文献】特開2020-96167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23-27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属磁性粒子を含む磁性体層を積層してなる素体と、
前記素体内に配置されたコイルと、
前記素体の表面に配置され、前記コイルと電気的に接続された外部電極と、を備え、
前記コイルは、前記素体を構成する前記磁性体層のそれぞれに設けられたコイル導体を電気的に接続することによって構成され、
前記金属磁性粒子は、楕円体状をなす通常粒子と、前記通常粒子よりも厚さ方向について扁平な楕円体状をなす扁平粒子とを有し、
前記コイル導体間には、複数の前記通常粒子と、前記厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む面が前記磁性体層における前記コイル導体の形成面に沿うように配置された少なくとも一つの前記扁平粒子とが、前記磁性体層の積層方向に並んでいる積層コイル部品。
【請求項2】
前記扁平粒子は、前記長軸方向において複数の前記通常粒子に跨るように配置されている請求項1記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記通常粒子の体積は、前記扁平粒子の体積よりも大きい請求項1又は2記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記コイル導体間に存在する前記通常粒子の総体積は、前記コイル導体間に存在する前記扁平粒子の総体積よりも大きい請求項1~3のいずれか一項記載の積層コイル部品。
【請求項5】
前記扁平粒子は、前記短軸方向の長さが前記通常粒子における前記厚さ方向の長さよりも小さい針状粒子を含む請求項1~4のいずれか一項記載の積層コイル部品。
【請求項6】
前記素体において、前記複数の金属磁性粒子間の少なくとも一部には、樹脂による充填部分が存在している請求項1~5のいずれか一項記載の積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層コイル部品として、例えば特許文献1に記載のコイル部品がある。この従来のコイル部品の素体には、軟磁性体からなる複数の金属磁性粒子が含まれている。金属磁性粒子としては、球状をなす通常粒子と、通常粒子に比べて扁平な形状をなす扁平粒子とが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層コイル部品では、コイルを構成する導体(コイル導体)間の耐電圧の向上が重要となっている。耐電圧の向上には、コイル導体間に存在する金属磁性粒子の界面の数を増加させることが有効である。一方、コイル導体間に存在する金属磁性粒子の数が過剰になると、金属磁性粒子同士の間隔が小さくなり、浮遊容量の増大が問題となる。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、コイル導体間の耐電圧の向上及び浮遊容量の増大抑制を両立できる積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る積層コイル部品は、複数の金属磁性粒子を含む磁性体層を積層してなる素体と、素体内に配置されたコイルと、素体の表面に配置され、コイルと電気的に接続された外部電極と、を備え、コイルは、素体を構成する磁性体層のそれぞれに設けられたコイル導体を電気的に接続することによって構成され、金属磁性粒子は、楕円体状をなす通常粒子と、通常粒子よりも厚さ方向について扁平な楕円体状をなす扁平粒子とを有し、コイル導体間には、複数の通常粒子と、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む面が磁性体層におけるコイル導体の形成面に沿うように配置された少なくとも一つの扁平粒子とが、磁性体層の積層方向に並んでいる。
【0007】
この積層コイル部品では、少なくとも一つの扁平粒子と、複数の通常粒子とがコイル導体間において磁性体層の積層方向に並んでいる。扁平粒子は、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む面が磁性体層におけるコイル導体の形成面に沿うように配置されている。扁平粒子は、コイル導体間の僅かな隙間に配置されるため、通常粒子のみを用いる場合に比べてコイル導体間の金属磁性粒子の存在数を増加させることができる。これにより、コイル導体間に存在する金属磁性粒子の界面の数を十分に確保でき、コイル導体間の耐電圧を向上できる。耐電圧向上のために単に扁平粒子をより多く配置する場合、コイル導体間の金属磁性粒子の体積比率が増え、浮遊容量が増大してしまうことが考えられる。これに対し、この積層コイル部品では、コイル導体間に扁平粒子と通常粒子とが混在している。扁平粒子に比べて厚い通常粒子が配置されることで、金属磁性粒子同士の間隔を適度に確保できる。したがって、浮遊容量の増大を抑制できる。
【0008】
扁平粒子は、長軸方向において複数の通常粒子に跨るように配置されていてもよい。この場合、通常粒子と扁平粒子とが混在して積層方向に並ぶ領域を少数の扁平粒子で形成できる。
【0009】
通常粒子の体積は、扁平粒子の体積よりも大きくてもよい。この場合、扁平粒子をコイル導体間のより僅かな隙間に配置することが可能となる。したがって、コイル導体間に存在する金属磁性粒子の界面の数をより十分に確保でき、コイル導体間の耐電圧を更に向上できる。
【0010】
コイル導体間に存在する通常粒子の総体積は、コイル導体間に存在する扁平粒子の総体積よりも大きくてもよい。この場合、扁平粒子の存在数が過剰になることを抑制でき、金属磁性粒子同士の間隔を適度に保つことができる。したがって、浮遊容量の増大をより確実に抑制できる。
【0011】
扁平粒子は、短軸方向の長さが通常粒子における厚さ方向の長さよりも小さい針状粒子を含んでもよい。扁平粒子に針状粒子が含まれることで、金属磁性粒子同士の間隔をより適度に保つことができる。したがって、浮遊容量の増大を更に確実に抑制できる。
【0012】
素体において、複数の金属磁性粒子間の少なくとも一部には、樹脂による充填部分が存在していてもよい。この場合、樹脂によって素体の強度を十分に高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、コイル導体間の耐電圧の向上及び浮遊容量の増大抑制を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】積層コイル部品の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した積層コイル部品の断面構成を示す図である。
【
図4】素体におけるコイル導体間の断面構成を拡大して示す概略的な図である。
【
図8】素体におけるコイル導体間の断面構成の別例を拡大して示す概略的な図である。
【
図9】素体におけるコイル導体間の断面構成の更なる別例を拡大して示す概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る積層コイル部品の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1~
図3を参照して、本実施形態に係る積層コイル部品1の構成を説明する。
図1は、積層コイル部品の一実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1に示した積層コイル部品の断面構成を示す図である。
図3は、コイルの構成を示す斜視図である。
【0017】
図1に示すように、積層コイル部品1は、直方体形状をなす素体2と、一対の外部電極4,4とを備えている。一対の外部電極4,4は、素体2の両端部にそれぞれ配置され、互いに離間している。直方体形状には、角部及び稜線部が面取りされた直方体形状、及び角部及び稜線部が丸められた直方体形状が含まれる。積層コイル部品1は、例えばビーズインダクタ又はパワーインダクタに適用できる。
【0018】
直方体形状をなす素体2は、互いに対向する一対の端面2a,2a、互いに対向する一対の主面2b,2bと、互いに対向する一対の側面2c,2cを有している。端面2a,2aは、一対の主面2b,2bと隣り合うように位置している。端面2a,2aは、一対の側面2c,2cとも隣り合うように位置している。主面2bの一方(
図1における底面)は、実装面となり得る。実装面は、積層コイル部品1を他の電子機器(回路基板、電子部品等)に実装する際に、当該他の電子機器と対向する面である。
【0019】
本実施形態では、一対の端面2a,2aの対向方向(第1方向D1)を素体2の長さ方向とする。一対の主面2b,2bの対向方向(第2方向D2)を素体2の高さ方向とする。一対の側面2c,2cの対向方向(第3方向D3)を素体2の幅方向とする。第1方向D1、第2方向D2、及び第3方向D3は、互いに直交している。
【0020】
第1方向D1における素体2の長さは、第2方向D2及び第3方向D3における素体2の長さよりも大きくなっている。第2方向D2における素体2の長さは、第3方向D3における素体2の長さと同等になっている。すなわち、本実施形態では、一対の端面2a,2aは、正方形状をなし、一対の主面2b,2b及び一対の側面2c,2cは、長方形状をなしている。
【0021】
第1方向D1における素体2の長さは、第2方向D2及び第3方向D3における素体2の長さと同等であってもよい。第2方向D2における素体2の長さは、第3方向D3における素体2の長さと異なっていてもよい。同等とは、等しいことに加えて、予め設定した範囲での微差又は製造誤差などを含む。例えば複数の値が当該複数の値の平均値の±5%の範囲内に含まれているのであれば、これらの値が同等であると見做してよい。
【0022】
一対の端面2a,2aは、一対の主面2b,2bを連結するように第2方向D2に延在している。一対の端面2a,2aは、一対の側面2c,2cを連結するように第3方向D3にも延在している。一対の主面2b,2bは、一対の端面2a,2aを連結するように第1方向D1に延在している。一対の主面2b,2bは、一対の側面2c,2cを連結するように第3方向D3にも延在している。一対の側面2c,2cは、一対の端面2a,2aを連結するように第1方向D1に延在している。一対の側面2c,2cは、一対の主面2b,2bを連結するように第2方向D2にも延在している。
【0023】
素体2は、複数の磁性体層11(
図3参照)が積層されることによって構成されている。各磁性体層11は、主面2b,2bの対向方向に積層されている。すなわち、各磁性体層11の積層方向は、主面2b,2bの対向方向と一致している(以下、主面2b,2bの対向方向を「積層方向」と称す)。各磁性体層11は、略矩形状をなしている。実際の素体2では、各磁性体層11は、その層間の境界が視認できない程度に一体化されている。
【0024】
素体2内には、
図2及び
図3に示すように、コイル15が配置されている。コイル15は、複数のコイル導体16(16a~16f)を含んでいる。複数のコイル導体16a~16fは、導電材(例えばAg又はPdなど)を含んでいる。複数のコイル導体16a~16fは、導電性材料(例えばAg粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成されている。
【0025】
コイル導体16aは、接続導体17を含んでいる。接続導体17は、素体2の一方の端面2a側に配置されていると共に、一方の端面2aに露出する端部を有している。接続導体17の端部は、一方の端面2aにおいて、一方の主面2b寄りの位置に露出し、一方の外部電極4に接続されている。すなわち、コイル15は、接続導体17を介して一方の外部電極4と電気的に接続されている。本実施形態においては、コイル導体16aの導体パターンと接続導体17の導体パターンとは、一体に連続して形成されている。
【0026】
複数のコイル導体16a~16fは、素体2内において磁性体層11の積層方向に形成されている。複数のコイル導体16a~16fは、コイル導体16a、コイル導体16b、コイル導体16c、コイル導体16d、コイル導体16e、コイル導体16fの順に並んでいる。本実施形態では、コイル15は、コイル導体16aにおける接続導体17以外の部分、複数のコイル導体16b~16d、及びコイル導体16fにおける接続導体18以外の部分によって構成されている。
【0027】
コイル導体16a~16fの端部同士は、スルーホール導体19a~19eにより接続されている。スルーホール導体19a~19eにより、コイル導体16a~16fは、相互に電気的に接続されている。コイル15は、複数のコイル導体16a~16fが電気的に接続されて構成されている。各スルーホール導体19a~19eは、導電材(例えばAg又はPdなど)を含んでいる。各スルーホール導体19a~19eは、複数のコイル導体16a~16fと同様に、導電性材料(例えばAg粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成されている。
【0028】
外部電極4は、素体2における端面2a側の端部を覆うように配置されている。外部電極4は、
図1に示すように、端面2aを覆う電極部分4a、一対の主面2b,2bに張り出す電極部分4b,4b、及び一対の側面2c,2cに張り出す電極部分4c,4cを有している。すなわち、外部電極4は、電極部分4a,4b,4cによる5つの面で形成されている。
【0029】
電極部分4aは、端面2aに露出した接続導体17,18の端部の全体を覆うように配置されており、接続導体17,18は、外部電極4に対して直接的に接続されている。すなわち、接続導体17,18は、コイル15の端部と電極部分4aとを接続している。これにより、コイル15は、外部電極4に電気的に接続されている。
【0030】
互いに隣り合う電極部分4a,4b,4c同士は、素体2の稜線部において連続し、電気的に接続されている。電極部分4aと電極部分4bとは、端面2aと主面2bとの間の稜線部において接続されている。電極部分4aと電極部分4cとは、端面2aと側面2cとの間の稜線部において接続されている。
【0031】
外部電極4は、導電性材料を含んで構成されている。導電性材料は、例えばAg又はPdである。外部電極4は、焼付電極であり、導電性ペーストの焼結体として構成されている。導電性ペーストは、導電性金属粉末及びガラスフリットを含んでいる。導電性金属粉末は、例えばAg粉末又はPd粉末である。外部電極4の表面には、めっき層が形成されている。めっき層は、例えば電気めっきにより形成される。電気めっきは、例えば電気Niめっき又は電気Snめっきである。
【0032】
次に、上述した素体2の構成について更に詳細に説明する。
【0033】
図4は、素体におけるコイル導体間の断面構成を拡大して示す概略的な図である。同図に示すように、素体2は、複数の金属磁性粒子Mを含んでいる。金属磁性粒子Mは、例えば軟磁性合金から構成される。軟磁性合金は、例えばFe-Si系合金である。軟磁性合金がFe-Si系合金である場合、軟磁性合金は、Pを含んでいてもよい。軟磁性合金は、例えばFe-Ni-Si-M系合金であってもよい。「M」は、Co、Cr、Mn、P、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、及び希土類元素から選択される一種以上の元素を含む。
【0034】
素体2では、金属磁性粒子M,M同士が結合している。金属磁性粒子M,M同士の結合は、例えば金属磁性粒子Mの表面に形成される酸化膜同士の結合によって実現されている。素体2は、
図4に示すように、樹脂Rによる充填部分を含んでいる。樹脂Rは、複数の金属磁性粒子M,M間の少なくとも一部に存在している。樹脂Rは、電気絶縁性を有する樹脂である。樹脂Rとしては、例えばシリコーン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。複数の金属磁性粒子M,M間には、樹脂Rによる充填のない空隙部分が存在していてもよい。
【0035】
金属磁性粒子Mは、より詳細には、楕円体状をなす通常粒子M1と、通常粒子よりも厚さ方向について扁平な楕円体状(円盤状)をなす扁平粒子M2とを含んで構成されている。厚さ方向は、便宜的に規定した方向である。ここでは、素体2内に配置された状態において、磁性体層11の積層方向、すなわち、コイル導体16,16間を結ぶ方向を通常粒子M1及び扁平粒子M2の厚さ方向とする。通常粒子M1は、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む面(以下、基準面K1と称す)を有している。同様に、扁平粒子M2は、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む面(以下、基準面K2と称す)を有している。ここでは、厚さ方向に直交する長軸方向の長さが厚さ方向の長さの3倍以下のものを通常粒子M1とし、厚さ方向に直交する長軸方向の長さが厚さ方向の長さの3倍を超えるものを扁平粒子M2とする。
【0036】
通常粒子M1及び扁平粒子M2は、厚さ方向に直交する方向から見た場合、及び厚さ方向から見た場合にそれぞれ長径及び短径を有している。
図5(a)に示すように、通常粒子M1を厚さ方向に直交する方向から見た場合の長径をaとし、短径をbとする。
図5(b)に示すように、通常粒子M1を厚さ方向に直交する方向から見た場合の短径をgとする。通常粒子M1の体積をV1とする。
図6(a)に示すように、扁平粒子M2を厚さ方向に直交する方向から見た場合の長径をc、短径をdとする。
図6(b)に示すように、扁平粒子M2を厚さ方向から見た場合の短径をfとする。扁平粒子M2の体積をV2とする。
【0037】
通常粒子M1と扁平粒子M2との関係において、通常粒子M1の長径aは、扁平粒子M2の長径cよりも小さくなっており、通常粒子M1の短径bは、扁平粒子M2の短径dよりも大きくなっている。通常粒子M1の短径gは、扁平粒子M2の短径fよりも小さくなっている。通常粒子M1の体積V1は、扁平粒子M2の体積V2よりも大きくなっている。通常粒子M1の体積V1は、扁平粒子M2の体積V2の2倍より大きくてもよい。
【0038】
通常粒子M1及び扁平粒子M2の短径及び長径の測定及び体積の測定には、例えば走査電子顕微鏡(SEM)を用いることができる。この場合、SEMにて素体2におけるコイル導体16,16間の断面写真を取得し、粒子断面の楕円近似を行うことにより粒子の直径及び短径を測定する。体積V1,V2は、コイル導体16,16間所定の領域における第1方向D1、第2方向D2、及び第3方向D3に直交する各断面に存在する通常粒子M1及び扁平粒子M2それぞれの粒子径の平均値に基づいて算出する。
【0039】
コイル導体16,16間には、
図4に示すように、複数の通常粒子M1と、少なくとも一つの扁平粒子M2とが配置されている。
図4は、通常粒子M1と扁平粒子M2の配置を概略的に示したものである。同図の例では、3つの通常粒子M1と、1つの扁平粒子M2とが磁性体層11の積層方向(コイル導体16,16同士を結ぶ方向)に並んでいる。扁平粒子M2は、コイル導体16,16の一方に接触している。3つの通常粒子M1は、磁性体層11の積層方向に一列に繋がり、扁平粒子M2とコイル導体16,16の他方とに接触している。
【0040】
図4の例では、通常粒子M1及び扁平粒子M2は、いずれも厚さ方向が磁性体層11の積層方向に沿うように配置されている。通常粒子M1では、長径aが磁性体層11の面内方向の一軸(ここでは第1方向D1)に沿い、短径bがコイル導体16,16同士を結ぶ方向に沿い、短径gが磁性体層11の面内方向の他軸(ここでは第3方向D3)に沿っている。扁平粒子M2では、長径cが磁性体層11の面内方向の一軸(ここでは第1方向D1)に沿い、短径dがコイル導体16,16同士を結ぶ方向に沿い、短径fが磁性体層11の面内方向の他軸(ここでは第3方向D3)に沿っている。
【0041】
扁平粒子M2は、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む基準面K2が磁性体層11におけるコイル導体16の形成面Sに沿うように配置されている。コイル導体16の形成面Sは、磁性体層11においてコイル導体16が形成されている面(
図3参照)であり、第1方向D1及び第3方向D3を面内方向とする面である。扁平粒子M2の基準面K2は、コイル導体16の形成面Sに対して平行又は略平行となっている。
【0042】
略平行の場合、例えばコイル導体16,16同士を結ぶ方向の扁平粒子M2の最下点と最上点との間の距離が通常粒子M1の短径bを超えない範囲で、扁平粒子M2の基準面K2がコイル導体16の形成面Sに対して傾いていてもよい。扁平粒子M2の姿勢は、例えば磁性体層11の形成にあたって金属磁性粒子Mを含有する塗料を支持体に塗布する際、塗料の流動に従って変位し、その結果として、扁平粒子M2の基準面K2がコイル導体16の形成面Sに対して平行又は略平行となる。なお、本実施形態では、通常粒子M1についても、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む基準面K1が磁性体層11におけるコイル導体16の形成面Sに沿うように配置されている。
【0043】
扁平粒子M2は、長軸方向において複数の通常粒子M1に跨るように配置されている。本実施形態では、扁平粒子M2の長径cは、通常粒子M1の長径aよりも大きくなっており、扁平粒子M2は、第1方向D1について隣り合う3つの通常粒子M1に跨って配置されている。また、本実施形態では、扁平粒子M2の短径fは、通常粒子M1の短径よりも大きくなっており、扁平粒子M2は、第3方向D3についても複数の通常粒子M1に跨るように配置されている。
【0044】
コイル導体16,16間に存在する通常粒子M1の総体積は、コイル導体16,16間に存在する扁平粒子M2の総体積よりも大きくなっている。コイル導体16,16間に存在する通常粒子M1の総体積は、扁平粒子M2の総体積の2倍より大きくてもよい。通常粒子M1の総体積及び扁平粒子M2の総体積は、例えば素体2の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で3000倍に拡大し、通常粒子M1の体積V1及び扁平粒子M2の体積V2に当該断面での通常粒子M1及び扁平粒子M2の粒子数をそれぞれ乗じることで算出できる。
【0045】
以上説明したように、積層コイル部品1では、少なくとも一つの扁平粒子M2と、複数の通常粒子M1とがコイル導体16,16間において磁性体層11の積層方向に並んでいる。扁平粒子M2は、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む基準面K2が磁性体層11におけるコイル導体16の形成面Sに沿うように配置されている。扁平粒子M2は、コイル導体16,16間の僅かな隙間に配置されるため、通常粒子M1のみを用いる場合に比べてコイル導体16,16間の金属磁性粒子Mの存在数を増加させることができる。これにより、コイル導体16,16間に存在する金属磁性粒子Mの界面の数を十分に確保でき、コイル導体16,16間の耐電圧を向上できる。耐電圧向上のために単に扁平粒子M2をより多く配置する場合、コイル導体16,16間の金属磁性粒子Mの体積比率が増え、浮遊容量が増大してしまうことが考えられる。これに対し、一方、積層コイル部品1では、コイル導体16,16間に扁平粒子M2と通常粒子M1とが混在している。扁平粒子M2に比べて厚さ方向の径が大きい通常粒子M1が配置されることで、金属磁性粒子M,M同士の間隔を適度に確保できる。したがって、浮遊容量の増大を抑制できる。
【0046】
本実施形態では、扁平粒子M2が長軸方向において複数の通常粒子M1に跨るように配置されている。このような構成により、通常粒子M1と扁平粒子M2とが混在して磁性体層11の積層方向に並ぶ領域を少数の扁平粒子M2で形成できる。扁平粒子M2の存在数が過剰にならないことで、金属磁性粒子M,M同士の間隔を一層適度に確保できる。したがって、浮遊容量の増大をより確実に抑制できる。
【0047】
本実施形態では、通常粒子M1の体積V1が扁平粒子M2の体積V2よりも大きくなっている。これにより、扁平粒子M2をコイル導体16,16間のより僅かな隙間に配置することが可能となる。したがって、コイル導体16,16間に存在する金属磁性粒子Mの界面の数をより十分に確保でき、コイル導体16,16間の耐電圧を更に向上できる。
【0048】
本実施形態では、コイル導体16,16間に存在する通常粒子M1の総体積が、コイル導体16,16間に存在する扁平粒子M2の総体積よりも大きくなっている。これにより、扁平粒子M2の存在数が過剰になることを抑制でき、金属磁性粒子M,M同士の間隔を適度に保つことができる。したがって、浮遊容量の増大をより確実に抑制できる。
【0049】
本実施形態では、素体2において、複数の金属磁性粒子M,M間の少なくとも一部に樹脂Rによる充填部分Vが存在している。樹脂Rの充填により、素体2の強度を十分に高めることができる。
【0050】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。
【0051】
扁平粒子M2は、
図7に示すように、基準面K2における短軸方向の長さが通常粒子M1における厚さ方向の長さよりも小さい針状粒子M3を含んでもよい。すなわち、扁平粒子として、
図6(a)及び
図6(b)に示したような円盤状の扁平粒子M2のほか、基準面K2における短軸方向の長さが通常粒子M1における厚さ方向の長さよりも小さい針状粒子M3を用いることができる。扁平粒子M2に針状粒子M3が含まれることで、金属磁性粒子M,M同士の間隔をより適度に保つことができる。したがって、浮遊容量の増大を更に確実に抑制できる。
【0052】
図7(a)に示すように、針状粒子M3では、厚さ方向に直交する方向から見た場合の長径c及び短径dは、扁平粒子M2と同様となっている。一方、
図7(b)に示すように、針状粒子M3では、厚さ方向から見た場合の短径hは、扁平粒子M2の短径fよりも小さくなっている。針状粒子M3の短径hは、扁平粒子M2の短径dと等しくてもよい。針状粒子M3の短径hは、通常粒子M1の短径gより小さくてもよい。短径hが短径fよりも小さいため、針状粒子M3の体積V3は、扁平粒子M2の体積V2よりも小さくなっている。針状粒子M3の体積V3は、通常粒子M1の体積V1より小さくてもよい。針状粒子M3を用いる場合、扁平粒子M2の存在数よりも針状粒子M3の存在数が多くてもよい。全ての扁平粒子が針状粒子M3であってもよい。
【0053】
上記実施形態では、扁平粒子M2がコイル導体16,16の一方に接触しているが、
図8に示すように、扁平粒子M2がコイル導体16,16のいずれにも接触しない態様であってもよい。
図8の例では、扁平粒子M2がコイル導体16,16同士を結ぶ方向に並ぶ通常粒子M1,M1間に位置しており、コイル導体16,16には、いずれも通常粒子M1が接触している。
【0054】
上記実施形態では、コイル導体16,16同士を結ぶ方向に1つの扁平粒子M2が配置されているが、
図9に示すように、コイル導体16,16同士を結ぶ方向に複数の扁平粒子M2が配置されていてもよい。
図9の例では、コイル導体16,16を結ぶ方向に2つの扁平粒子M2が配置されている。一方の扁平粒子M2は、コイル導体16,16の一方に接触しており、一方の扁平粒子M2は、コイル導体16,16同士を結ぶ方向に並ぶ通常粒子M1,M1間に位置している。
【0055】
図8及び
図9の態様においても、扁平粒子M2は、厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む基準面K2が磁性体層11におけるコイル導体16の形成面Sに沿うように配置されている。したがって、上記実施形態と同様に、コイル導体16,16間の耐電圧の向上及び浮遊容量の増大抑制を両立できる。
【符号の説明】
【0056】
1…積層コイル部品、2…素体、4…外部電極、11…磁性体層、15…コイル、16…コイル導体、M1…通常粒子、M2…扁平粒子、M3…針状粒子、K2…基準面(厚さ方向に直交する長軸方向及び短軸方向を含む面)、R…樹脂。