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特許7456383高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント
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  • 特許-高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20240319BHJP
   B01D 39/08 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
D01F8/14 B
B01D39/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020539877
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007052
(87)【国際公開番号】W WO2020175370
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019031734
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠川 恒
(72)【発明者】
【氏名】向阪 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 智之
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/035640(WO,A1)
【文献】特開2009-005911(JP,A)
【文献】特開2017-066560(JP,A)
【文献】特開2012-117196(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013270(WO,A1)
【文献】特開2001-011730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00 - 39/20
D01D 1/00 - 13/02
D01F 1/00 - 9/04
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~Dを満足することを特徴とする高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
A.モノフィラメントの繊維長手方向100万mに存在する、繊維直径に対して1.0μm以上の繊維直径変動の発生数が1.0個以下である
B.モノフィラメントの繊度が3.0~6.0dtex
C.モノフィラメントの残留伸度が30~45%
D.モノフィラメント横断面積の芯鞘比率は芯成分:鞘成分=60:40~95:5の範囲である
【請求項2】
下記E~Gを満足することを特徴とする請求項1に記載の高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
E.モノフィラメントの強度が5.0~6.0cN/dtex
F.モノフィラメントの5%伸長時の強度が2.7~3.8cN/dtex
G.モノフィラメントの沸水収縮率が7.0~10.0%
【請求項3】
芯成分を構成する高粘度ポリエステルの固有粘度が0.70~0.85であり、鞘成分を構成する低粘度ポリエステルの固有粘度が0.40~0.55であり、さらに芯成分ポリエステルと鞘成分ポリエステルの固有粘度差を0.20~0.45にすることを特徴とする請求項1または2に記載の高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
濾層、フィルター、多孔板、および口金を順次配置してなる溶融紡糸用パックにおいて、多孔板排出部のポリマー溜めの直径と多孔板排出口の配置径の差を2mm未満とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高精細ハイメッシュフィルター用の芯鞘複合高強度ポリエステルモノフィラメントに関する。さらに詳しくは、音響フィルター、燃料フィルターなど濾過性能と透過性能の高度な両立が要求されるハイメッシュを得るのに好適なモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
モノフィラメントを製織した紗織物は、近年、急成長を続けるエレクトロニクス分野においてプリント回路基板のスクリーン印刷用メッシュクロスをはじめ、自動車、家電などに利用される成形フィルター用途などに使用されている。モノフィラメントを製織した紗織物の具体的な用途としては、例えば、スクリーン印刷の用途では、Tシャツやのぼり旗、看板、自動販売機プレート、車のパネル、屋外・屋内サイン、ボールペン、各種カード類、ネームプレート、スクラッチ、点字、CD・DVD、プリント基板、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイなどが挙げられる。また、フィルター用途では、洗濯水中のゴミ再付着を防止するリントフィルター、エアコンの中に装着されている室内のホコリ・塵を除去するフィルター、掃除機の中に装着されているホコリ・塵・ゴミを除去する成形フィルター、医療分野では気泡などを除去する輸血キットや人工透析回路用フィルター、自動車分野では燃料ポンプ、燃料噴射装置といった燃料の流路や、ABS、ブレーキ、トランスミッション、パワーステアリングなどが挙げられ、さらには横滑り防止装置や燃費向上・出力アップのための最新機構であるVVTといった油圧回路においても、電磁弁へのゴミや異物の混入を防止し、濾過して清浄化するという大切な役割を果たしている。
【0003】
なかでも、近年急成長を続けるエレクトロニクス分野や自動車分野では、フィルターの高精細化が進んでいる。例えば、音響フィルターは、携帯端末の小型化に伴い、フィルターが小型化し、防塵性能と音響透過性の高度な両立が要求されており、フィルターの目開き均一性を維持したまま、メッシュの細線径化、ハイメッシュ化が進んでいる。そのため、モノフィラメントとして、高強力、高モジュラス、長手方向の繊維直径の均一性を維持したまま、細繊度化を行う必要がある。また、自動車分野においては、環境負荷低減に向けた性能向上が求められており、燃料フィルターとして粒子の捕集性能と圧損損失の両立が要求されている。
【0004】
高精細な音響フィルターや燃料フィルターを得るためには、スクリーン印刷用紗に比べて高い残留伸度を有する、細繊度かつ繊維直径が均一なモノフィラメントを得る必要がある。フィルター用モノフィラメントは、フィルターとしての耐久性や加工性を得るために、残留伸度はスクリーン紗用と比べて高めに設定する必要がある。また、フィルターの音響透過性能、濾過性能、防塵性能などを向上させるためには、細い繊維直径のモノフィラメントを用いる必要があり、細繊度モノフィラメントにより、織物の開口率を大きくできるとともに織り方のバリエーションを広げることができる。細繊度モノフィラメントを得る方法として特許文献1では、スクリーン紗用モノフィラメントであるが、芯鞘複合化し1工程法の設備条件を適正化することで3dtexまでの細繊度ポリエステルモノフィラメントを得ている。また、特許文献2では、溶融紡糸用パックをポリマーが通過する際の熱履歴差によって生じる粘度斑の均質化を図り、細繊度糸の糸切れの抑制を図っている。産業資材フィルター用モノフィラメントの例として特許文献3では、ポリエチレンナフタレートポリマーを用いて耐熱性、耐薬品性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-180484号公報
【文献】特開2017-66560号公報
【文献】特開2011-1657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高精細ハイメッシュフィルター用に目開きが均一なハイメッシュ紗織物を得ることであり、細繊度かつ繊維直径が均一なモノフィラメントを提供することである。スクリーン紗用に比べて高い残留伸度を有する、高精細フィルター用細繊度モノフィラメントを得るためには、スクリーン紗用モノフィラメントの製造方法に比べて延伸倍率を下げる必要がある。また、細繊度であるため、耐摩耗性に優れた芯鞘複合モノフィラメントにする必要があり、各成分の吐出量は単成分に比べて低下する。このようにポリマー吐出量を従来ないレベルまで下げると、紡糸パック内でポリマー滞留部が生じやすく、部分的な粘度低下による吐出曲がり(ピクツキ)が顕在化する。ピクツキは局所的な繊維直径変動をつくるため、このモノフィラメントを織物にすると、ピクツキが発生した部分で目開きが変動し、織物全体として斑が生じてしまう。この斑は、最終製品として見た目の品位を低下させるとともに、フィルター性能の低下を引き起こすことから、ピクツキを抑制することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記A~Dを満足することを特徴とする高精細ハイメッシュフィルター用芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントである。
A.モノフィラメントの繊維長手方向100万mに存在する、繊維直径に対して1.0μm以上の繊維直径変動の発生数が1.0個以下である
B.モノフィラメントの繊度が3.0~6.0dtex
C.モノフィラメントの残留伸度が30~45%
D.モノフィラメント横断面積の芯鞘比率は芯成分:鞘成分=60:40~95:5の範囲である
【発明の効果】
【0008】
本発明のモノフィラメントは細繊度かつ繊維直径が均一であり、目開きが均一な高精細ハイメッシュフィルター用織物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明における、繊維直径変動の形態を説明するためのものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のモノフィラメントについて説明する。
【0011】
本発明のモノフィラメントは、高精細ハイメッシュフィルター用途である。例えば、スマートフォンの小型スピーカー向けフィルターは、スピーカーの防塵のために設置するが、スピーカーが小型であるため、太い糸を使ったメッシュでは開口率が小さくなり、音がこもってしまう。一方、音のこもりを解消するため、メッシュ格子間隔を広くしてメッシュ開口率を大きくすると粉塵がスピーカー内に侵入し、故障の原因となる。このように高精細ハイメッシュフィルター用途では、音響や圧力の透過性と防塵性を両立することが求められており、メッシュ開口率を大きくしたまま、196本/cm以上のハイメッシュ織物とする要望がある。このようなハイメッシュ織物とする場合、メッシュ格子間隔が非常に狭いため、小さな繊維直径変動であってもメッシュの目が潰れてしまう。さらには、メッシュを張り付ける箇所が小さいため、張り付ける箇所に対するメッシュの目1つの占有率が大きく、1つでもメッシュの目が潰れてしまうと、フィルター性能が大きく低下する。そのため、本発明の高精細ハイメッシュフィルター用モノフィラメントは細繊度かつ繊維直径が均一であることが重要であり、繊維長手方向100万mに存在する、繊維直径に対して1.0μm以上の繊維直径変動の発生数が1.0個以下である。メッシュ格子間隔のバラツキを抑制するためには、発生数は0.8個/100万m以下が好ましく、より好ましくは0.5個/100万m以下である。
【0012】
ここで繊維直径変動の具体的な形態は、下式で示すことができる。
繊維直径の変動幅(μm)/変動幅発生部の糸長(m)=0.004~0.250
図1のような短ピッチの繊維直径変動は、吐出曲がり(ピクツキ)によって生じる。ピクツキを抑制する方法として、パック内の滞留部を減らす方法がある。本発明のモノフィラメントはポリマー吐出量を従来ないレベルまで下げるため、従来の滞留抑制方法に加えて、ポリマー濾層出の滞留を抑制することでピクツキの発生を抑制することができる。例えば、パック部に供給されたポリマーは、不純物を濾過するため微細なサンドおよびフィルターで構成された濾層部を経て、多孔板を通過し、ポリマー溜めへ一旦集められた後、口金へ導かれる。ここで、ポリマー溜めの直径と多孔板排出口の配置径の差を2mm未満とすることで、ピクツキを抑制することができる。この原理は、ポリマー溜めの端部に滞留する微量のポリマーを発生させないことで、滞留によって溶融粘度が低下した微量ポリマーの混入による吐出線速度の瞬間的増加に起因する吐出時の曲がり(ピクツキ)の発生を抑制していると推定している。
【0013】
本発明のモノフィラメントは、メッシュ開口率を大きくしたまま、196本/cm以上のハイメッシュ織物とするため、モノフィラメントの繊度は3.0~6.0dtexである。糸が細いほど、音や圧力の損失を抑制できるため、好ましくは繊度3.0~5.0dtex、より好ましくは3.0~4.0dtexである。フィルターとしての耐久性や加工性を得るために、本発明のモノフィラメントの残留伸度は、30~45%である。製糸安定性の点から、好ましくは残留伸度30~42%、さらに好ましくは30~40%である。
【0014】
本発明のモノフィラメントは、芯成分が鞘成分に覆われ、芯成分が表面に露出しないように配置した芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントである。ハイメッシュ製織時のスカム抑制効果と芯成分による高強度化を両立するため、芯成分:鞘成分の芯鞘比率は60:40~95:5の範囲とする。より好ましくは、芯成分:鞘成分=70:30~90:10の範囲である。ここで本発明で定義する芯鞘比率とは、ポリエステルモノフィラメントの横断面写真においてポリエステルモノフィラメントを構成する2種のポリエステルの横断面積から求めた。
【0015】
本発明に用いるポリエステルについて説明する。
【0016】
ここで、本発明のポリエステルモノフィラメントは、良好な耐スカム性を得るという観点から鞘成分に用いるポリエステルの固有粘度を芯成分ポリエステルの固有粘度より低くすることが好ましく、固有粘度の差を0.20~0.45にすることが好ましい。固有粘度の差を0.20以上とすることで鞘成分のポリエステル、すなわちポリエステルモノフィラメント表面の配向度および結晶化度を抑えることができ、良好な耐スカム性を得ることができる。また、溶融紡糸の口金吐出孔内壁面における剪断応力を鞘成分が担うため、芯成分が受ける剪断力は小さくなる。これにより芯成分は分子鎖配向度が低く、かつ均一な状態で紡出されるため、最終的に得られるポリエステルモノフィラメントの強度が向上する。一方、ポリエステルモノフィラメントが高強度を有するためには鞘成分の配向も適度に必要となるため、固有粘度の差が0.45より大きいと満足する原糸強度が得られない。さらに好ましいポリエステルの固有粘度の差は0.20~0.40である。
【0017】
本発明におけるポリエステルの固有粘度は、芯成分のポリエステルにおいては0.70~0.85の範囲であることが好ましい。固有粘度を0.70以上とすることにより、十分な強度と残留伸度を兼ね備えたポリエステルモノフィラメントを製造することが可能となる。芯成分の固有粘度は、より好ましくは0.75以上である。また、固有粘度の上限は溶融押出し等の成形の容易さの点から0.85以下が好ましい。さらに製造コストや工程途中の熱や剪断力によって起きる分子鎖切断による分子量低下の影響を考慮すると芯成分の固有粘度は0.80以下がより好ましい。
【0018】
鞘成分の固有粘度を0.40以上にすることにより安定した製糸性が得られる。より好ましい鞘成分の固有粘度は0.45以上である。また、良好な耐摩耗性、すなわち耐スカム性を得るためには、鞘成分の固有粘度は0.55以下であることが好ましい。
【0019】
ここで、本発明のポリエステルモノフィラメントのポリエステルとしては、ポリエチレンレンテレフタレート(以下、PETと称する)を主成分とするポリエステルが用いられる。本発明で用いるPETとしては、テレフタル酸を主たる酸成分としエチレングリコールを主たるグリコール成分とする、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエステルを用いることができる。ただし、10モル%未満の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。このような共重合成分としては、例えば、酸性分として、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、オクトエトキシ安息香酸のような二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、シュウ酸、アジピン酸、ダイマ酸のような二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボンサン類が挙げられ、また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAや、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0020】
また、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、さらには難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤および着色顔料等を必要に応じてPETに添加することができる。
【0021】
また、芯成分のPETはポリエステルモノフィラメントの強度を主に担うため、通常ポリエステル繊維に添加される酸化チタンに代表される無機粒子の添加物は0.6wt%未満であることが好ましい。一方、鞘成分のPETはポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を主として担うため酸化チタンに代表される無機粒子を0.1wt%~0.6wt%程度添加させることが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステルモノフィラメントの物性について説明する。
【0023】
製織性の低下やフィルターとして使用したときの寸法安定性の低下などの発生を抑えるため、強度は5.0~6.0cN/dtexであることが好ましい。強度が5.0dtex以上ではフィルターの強度が保持でき、目ズレを抑制できるため、優れた濾過性能やフィルター破れを防止できる。6.0cN/dtex以下ではハイメッシュ製織時の筬による削れを防止できる。強度は、より好ましくは5.2~5.8cN/dtexである。
【0024】
寸法安定性を得るため、5%伸長時の強度は2.7~3.8cN/dtexであることが好ましい。2.7cN/dtex以上では、フィルターの寸法安定性が保持でき、目ズレを抑制できるため、優れた濾過性能を有し、部分的な目詰まりを防止できる。3.8cN/dtex以下では、製織時の筬による削れを防止できる。5%伸長時の強度は、好ましくは2.8~3.5cN/dtexである。
【0025】
製織後の熱セットによる寸法安定化やメッシュ格子間隔の調整を行うため、沸騰水による繊維収縮率(沸水収縮率)は、7.0~10.0%が好ましい。7.0%以上では適度な収縮を発現し、目的のメッシュ格子間隔を得ることができる。一方、10.0%以下では製織時の寸法安定性が良好である。沸水収縮率は、より好ましくは7.5~9.5%である。
【0026】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの好ましい製造方法について説明する。
【0027】
本発明においては、溶融ポリマーがパック濾層部に到達するまでに受けた熱履歴差に起因する粘度斑を抑制するため、多孔板のポリマー排出口面において、異なる熱履歴のポリマーを隣接した排出口から排出させることで、排出されたポリマーをポリマー溜めから口金導入口に至る間にポリマーを均一に混合させる溶融紡糸用パックを用いることができる。用いる溶融紡糸用パックは、濾層、フィルター、多孔板、および口金を順次配置して構成される。多孔板は、ポリマーを通過させる複数の貫通孔を有し、該貫通孔が、ポリマー導入口側では、導入口面の中心からn個(n≧2)の同心円A1、A2、A3、・・・、Anの円周上にそれぞれ複数配設され、かつポリマー排出口側では、排出口面の中心からm個(m≧1)の同心円B1、B2、B3、・・・、Bmの円周上にそれぞれ複数配設され、ポリマー排出口面の一つの円周上に配設された隣接する貫通孔は、ポリマー導入口面の異なる円周上に通じ、該貫通孔を通過したポリマーは多孔板直下のポリマー溜めに排出された後、口金に移送される。ポリマーを、導入口面の相異なる円周上の列から、排出口面の1つの円周上に隣り合うように配設された排出口に流した後、ポリマー溜めで合流させ、口金に導くことにより溶融ポリマーを強制的に混合し、熱履歴差によって生じた粘度斑をこの混合によって軽減することができる。より混合度を高めるためには、多孔板の導入口面の同心円数(n)と排出口面の同心円数(m)が、n>mが好ましく、多孔板の排出口面の同心円数(m)が1であることがより好ましい。
【0028】
本発明のモノフィラメントは、上記ポリエステル、上記溶融紡糸パック、公知の紡糸口金を用いて溶融紡糸して得たモノフィラメントを、引き続いて延伸を施すことにより上記物性を有することができる。紡糸工程と直結して延伸を行う工程としては、紡糸速度が700~1200m/分であり、延伸倍率としては、3.4~4.6倍であることが好ましい。このように低速で紡糸し、高倍率に延伸することによって目的の強度の繊維を得ることができる。延伸時の予熱温度としては、未延伸糸のガラス転移点以上、{結晶化開始温度-20℃}以下の温度で行うことが好ましく、本発明においては、80~110℃の範囲であることが好ましい。延伸時の熱セット温度はモノフィラメントの融点以下であることが好ましく、本発明では120~180℃の範囲であることが好ましい。紡糸工程で一旦未延伸糸として巻き取り、改めて延伸工程に供することもできるが、紡糸工程と直結して延伸を行うことが好ましい。
【実施例
【0029】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中のモノフィラメントの繊維直径変動の発生数、繊度、残留伸度、強度、5%伸長時の強度、沸水収縮率、ポリエステルの固有粘度、メッシュの緯糸本数は以下に述べる方法で測定した。
【0030】
A.モノフィラメントの繊維直径変動の発生数
(1)クリールにパッケージを24個仕掛けた。
(2)750m/分の速度で糸を解舒し、光学式検査機器(sensoptic社製 PSD-200)に通した。
(3)糸長2.66m間隔で繊維直径を測定する。測定は20分間行った。
(4)測定終了後、クリールに仕掛けたパッケージ24個を別のパッケージ24個と入れ替える。
(5)(2)~(4)を32回繰り返す。測定する合計の糸長は768万mとなる。
(6)測定結果から、繊維直径に対して1.0μm以上の繊維直径変動の個数を数えた。
(7)100万m当たりの繊維直径変動の発生数を算出した。
【0031】
B.繊度(dtex)
モノフィラメントを500mかせ取り、かせの質量(g)に20を乗じた値を繊度とした。
【0032】
C.残留伸度(%)、強度(cN/dtex)、5%伸長時の強度(モジュラス)(cN/dtex)
JIS L1013(1999)に従い、オリエンテック製テンシロンUCT-100を用いて測定した。
【0033】
D.沸水収縮率(%)
(1)1周1mのかせ取り機を使って、10回巻きのかせをつくった。
(2)かせの一端をフックに掛け、もう一端に荷重4.44g/dtexのおもりを掛けて吊るし、処理前のかせ長を測定した。
(3)かせを沸騰水に15分浸漬した後、冷水に1分浸漬した。
(4)風乾後、(2)を行い、処理後のかせ長を測定した。
(5)下式により、繊維収縮率(%)を求めた。
繊維収縮率(%)=(1-処理後のかせ長/処理前のかせ長)×100 。
【0034】
E.ポリエステルの固有粘度
定義式のηrは、25℃の温度の純度98%以上のo-クロロフェノール(以下、OCPと略記する。)10mL中に試料を0.8g溶かし、25℃の温度にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度(IV)を算出した。
ηr=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度(IV)=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度、η:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t:OCPの落下時間(秒)、d:OCPの密度(g/cm) 。
【0035】
F.メッシュの緯糸本数
本発明のモノフィラメントの目開き均一性を評価するため、経糸に本発明の6dtexのモノフィラメント、緯糸に本発明の各実施例および各比較例のモノフィラメントを使用したメッシュを以下の方法で作製し、評価した。
(1)織機(Sulzer製P7100)により、幅2.0m、長さ50m、経糸および緯糸密度222本/cmのメッシュを製織した。
(2)得られたメッシュに、経糸および緯糸が異なる3か所にタテ5cm×ヨコ5cmで印をつける。
(3)印をつけた範囲を光学式顕微鏡で100倍以上に拡大し、緯糸本数を数え、1cm当たりの緯糸本数を算出する。
(4)測定した3か所の1cm当たりの緯糸本数から差(最大値-最小値)を求める。繊維直径変動数が少なく、変動幅が小さいほど、差(最大値-最小値)は小さくなる。差(最大値-最小値)は2.7以下が好ましい。
【0036】
(実施例1)
芯成分として固有粘度0.78のPETと鞘成分として固有粘度0.51のPETとを、エクストルーダーを用いてそれぞれ295℃の温度で溶融後、ポリマー温度283℃で、芯鞘比率が芯成分:鞘成分=80:20となるようにポンプ計量を行い、溶融紡糸用パックに流入させた。用いた溶融紡糸パックは、濾過部の直径が45.0mm、不織布フィルター、多孔板、口金で構成される。多孔板は、多孔板の導入口が配設されている円周の数が3であり、その最も中心に近い第1列の円周直径9mm上に導入口を8個、第2列の円周直径17mm上に導入口を8個、第3列の円周直径33mm上に導入口を16個配し、排出口が配設されている円周の数が1であり、円周直径27mm上に、導入口の第1列に通じる排出口、第3列に通じる排出口、第2列に通じる排出口、第3列に通じる排出口の順に合計32個の排出口を配した。つまり排出口は、円周列の異なる導入口からのポリマーが隣同士になるように貫通孔配置となっている。また貫通孔の直径は1.8mm、多孔板の材質はSUS420J2とした。口金のポリマー溜めの直径は28mm、厚さ1.5mmとし、芯鞘型となるよう公知の複合口金に流入させ、直径0.49mmの吐出孔から吐出した。口金から吐出されたモノフィラメントは、紡糸口金直下の雰囲気温度が300℃となるよう、積極的に加熱保温し、その後、糸条冷却送風装置により冷却し、紡糸油剤を付与しつつ、735m/分の速度で非加熱の第1ゴデットロールに引き取った。この未延伸糸のガラス転移温度は80℃であった。一旦巻き取ることなく742m/分の速度で90℃の温度に加熱された第1ホットロール、2385m/分の速度で90℃の温度に加熱された第2ホットロール、3373m/分の速度で130℃の温度に加熱された第3ホットロールに引き回し、延伸、熱セットを行った。このときの延伸倍率は、4.59倍であった。さらに、3375m/分の速度で2個の表面粗度0.8S、非加熱のゴデットロールに引き回した後、巻取張力が0.425g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御してパッケージに巻き取り、3.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1のとおりであり、高精細ハイメッシュフィルター用途として優れた繊維直径均一性、糸物性、メッシュの緯糸本数の均一性を示した。
【0037】
(実施例2~4)
実施例1から、吐出量および延伸倍率を変更し、繊度4.0~6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。これらポリエステルモノフィラメントの特性は表1のとおりであり、いずれも優れた繊維直径均一性、糸物性、メッシュの緯糸本数の均一性を示した。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例5~8、比較例1~2)
ポリエステルモノフィラメントの芯鞘比率を変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
(実施例9~10、比較例3)
実施例2において、多孔板排出口が配設されている円周直径を変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表3に示す。
【0042】
【表3】
図1