(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
(21)【出願番号】P 2021009077
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小亀 正人
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002856(JP,A)
【文献】特開平11-193793(JP,A)
【文献】特開2009-275578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の回転翼およびロータ円筒部が形成されたロータと、
複数段の固定翼、および、前記ロータ円筒部と所定のギャップを介して配置されたステータ円筒部が形成されたステータと、
前記ステータ円筒部を、生成物堆積を抑制する温度に加熱する第1 の加熱部と、
前記ロータおよび前記ステータが収容される筐体に設けられ、前記ロータおよび前記ステータにより排気されたガスを前記筐体の外部へ排出する排気管と、
前記排気管を、生成物堆積を抑制する温度に加熱する第2 の加熱部と、
前記筐体内に配置され、前記ロータ円筒部と前記ステータ円筒部とのギャップから排気されたガスが流入する流入口、および流入したガスを前記排気管へ流出する流出口を有し、生成物堆積を抑制する温度に加熱されるガス通路容器と、を備え、
前記排気管のガス流入側端部が、前記ガス通路容器の前記流出口に隙間を介して挿入されて
おり、
前記排気管は、前記流出口に隙間を介して挿入される前記ガス流入側端部に加えて、前記ガス流入側端部と並設されて筐体内側に突出する凸部とを備え、
前記ガス通路容器の壁部の一部が、前記ガス流入側端部と前記凸部との間に隙間を介して配置される、真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記流出口は
前記ガス通路容器の外周壁に形成された孔であって、
前記排気管のガス流入側端部は、前
記孔の壁面との間に隙間が形成されるように挿入されている、真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空ポンプにおいて、
前記ガス通路容器はリング状の容器であり、
前記流入口は、前記ロータ円筒部および前記ステータ円筒部のガス排出領域の全域に亘って対向するリング状の開口である、真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記ガス通路容器は、前記第1の加熱部により加熱される、真空ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の真空ポンプにおいて、
前記ガス通路容器は前記ステータ円筒部に固定され、前記ステータ円筒部を介して前記第1の加熱部により加熱される、真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記ガス通路容器の周囲空間にパージガスを導入するパージガス導入部をさらに備え、
前記周囲空間に導入されたガスにより、前記ロータ円筒部と前記ステータ円筒部とのギャップから排気されたガスが前記ガス通路容器の周囲に漏れないようにする、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプは種々の半導体製造装置の排気ポンプとして使用されるが、エッチングプロセス等において排気を行うと、反応生成物がポンプ内部に堆積する。半導体製造装置には、一般にターボポンプ部とネジ溝ポンプ部とを備えるターボ分子ポンプが用いられるが、反応生成物は低真空側ほど堆積しやすいので、ネジ溝ポンプ部のステータ側を高温に加熱する構造が採用される場合が多い。しかしながら、ステータ加熱によりネジ溝ポンプ部における生成物堆積は低減されるが、ネジ溝ポンプ部よりも下流側の排気ガス通路に生成物が堆積するという問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の発明では、下流側の排気ガス通路の一部である排気管への生成物堆積を抑制するために、ステータに固定されたパイプを排気ポートの内部に挿入する構成が採用されている。排気ガスはパイプを通ってポンプ外へ排出されるので、排気ポート内周面への生成物堆積が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ネジ溝ポンプ部で排気されたガスは、ネジ溝ポンプ部の下流側流路に排出されてからパイプに流入する構成となっている。そのため、そのパイプとネジ溝ポンプ部との間の下流側流路の内周面に生成物が堆積するという問題がある。すなわち、特許文献1に記載の真空ポンプでは、排気ポート内周面への生成物堆積が防止されるが、ネジ溝ポンプ部から排気ポートに連なる排気通路(ネジ溝ポンプ部よりも下流側の流路)の内周面には生成物堆積が堆積する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様による真空ポンプは、複数段の回転翼およびロータ円筒部が形成されたロータと、複数段の固定翼、および、前記ロータ円筒部と所定のギャップを介して配置されたステータ円筒部が形成されたステータと、前記ステータ円筒部を、生成物堆積を抑制する温度に加熱する第1の加熱部と、前記ロータおよび前記ステータが収容される筐体に設けられ、前記ロータおよび前記ステータにより排気されたガスを前記筐体の外部へ排出する排気管と、前記排気管を、生成物堆積を抑制する温度に加熱する第2の加熱部と、前記筐体内に配置され、前記ロータ円筒部と前記ステータ円筒部とのギャップから排気されたガスが流入する流入口、および流入したガスを前記排気管へ流出する流出口を有し、生成物堆積を抑制する温度に加熱されるガス通路容器と、を備え、前記排気管のガス流入側端部が、前記ガス通路容器の前記流出口に隙間を介して挿入されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排気機能部から排気管に至るガス通路を形成する部材の表面への生成物堆積を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明に係る真空ポンプの実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプの断面を示す。
【
図5】
図5は、ガス通路容器が配置された領域におけるガスの流れを説明する軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係る真空ポンプの実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプの断面を示す。ターボ分子ポンプ1は、複数段の回転翼12およびロータ円筒部13が形成されたロータ10と、複数段の固定翼21およびステータ円筒部22が形成されたステータとを備える。第1ポンプケーシング23の内側には、複数段の回転翼12に対応して複数段の固定翼21が積層されるように配置されている。複数段の回転翼12と複数段の固定翼21とにより、ターボポンプ部が構成される。ポンプ軸方向に積層された複数段の固定翼21は、それぞれスペーサ29を介して第2ポンプケーシング20上に配置されている。回転翼12および固定翼21の各々には、周方向に配置された複数のタービン翼が形成されている。第1ポンプケーシング23は第2ポンプケーシング20にボルトで固定され、第2ポンプケーシング20は図示しない固定手段でベース30に固定されている。
【0010】
ロータ円筒部13の外周側には、円筒形状のステータ円筒部22が所定のギャップを介して配置されている。ステータ円筒部22は、熱伝導率の小さな断熱部材24を介して第2ポンプケーシング20上に載置され、ボルト25により第2ポンプケーシング20にボルト固定されている。ロータ円筒部13の外周面またはステータ円筒部22の内周面のいずれか一方にはネジ溝が形成されており、ロータ円筒部13とステータ円筒部22とでネジ溝ポンプ部を構成している。
【0011】
ステータ円筒部22の下端には、ベース30および第2ポンプケーシング20に生成物が堆積するのを防止するためのガス通路容器40がボルト固定されている。第2ポンプケーシング20に設けられた排気ポート41のケーシング側端部(図示右側の端部)は、ガス通路容器40に挿入されている。回転翼12と固定翼21とで構成されるターボポンプ部、および、ロータ円筒部13とステータ円筒部22とで構成されるネジ溝ポンプ部により排気されたガスは、ガス通路容器40に流入した後、排気ポート41から排出される。
【0012】
ロータ10にはロータシャフト11が固定され、そのロータシャフト11はラジアル磁気軸受MB1,MB2およびアキシャル磁気軸受MB3により磁気浮上支持され、モータMによって回転駆動される。磁気軸受MB1~MB3が非動作時には、ロータシャフト11はメカニカルベアリング35a,35bによって支持される。なお、本実施の形態では、第2ポンプケーシング20とベース30とが別体であるが、第2ポンプケーシング20とベース30とが一体に形成されるような構成であっても良い。
【0013】
モータMや磁気軸受M1~M3などの電気部品が設けられているベース30には、排気するプロセスガスが入り込むことによる腐食等の悪影響を防止するために、不活性ガス等のパージガスをベース30内へ導入するためのパージガス導入部42が設けられている。ベース30内へ導入されたパージガスは、図示上側のメカニカルベアリング35aの隙間を通って、ベース30とロータ10との隙間を通ってネジ溝ポンプ部の排気側へ至り、排気ポート41からポンプ外へと排出される。
【0014】
本実施の形態では、第2ポンプケーシング20およびベース30と、ステータ円筒部22と、排気ポート41とは、それぞれ異なる温度に制御される。第2ポンプケーシング20およびベース30は、第2ポンプケーシング20に設けられたヒータH1と、ベース30に設けられた冷却パイプ43とにより温度T1に制御される。ステータ円筒部22にはヒータH2を備える加熱部28が設けられ、温度T2に制御される。排気ポート41は、ヒータH3により温度T3に制御される。
【0015】
排気されるプロセスガスの通路に面したステータ円筒部22の温度T2および排気ポート41の温度T3は、生成物堆積を抑制するために比較的高温に制御される。温度T2,T3は、プロセスガスの蒸気圧と温度との関係、高速回転するロータ円筒部13のクリープ歪み等を考慮して設定される。プロセスガスの蒸気圧と温度との関係から、圧力の高い(低真空)領域に配置される部品ほどより高温にする必要がある。そのため、T3>T2のように設定される。
【0016】
一方、排気ガスの通路に面していないベース30および第2ポンプケーシング20の温度T1は、ステータ円筒部22および排気ポート41の温度T2,T3よりも低い温度に制御される。特に、ベース30にはモータMや磁気軸受MB1~MB3等の電気部品が設けられているので、温度T1をむやみに高くすることはできず、電気部品自体の発熱およびヒータ加熱の影響による電気部品の過剰な温度上昇を抑えるために、冷媒が流れる冷却パイプ43が設けられている。
【0017】
ステータ円筒部22を加熱する加熱部28は、第2ポンプケーシング20を外周側から内周側に貫通するように設けられている。第2ポンプケーシング20の内部空間に挿入された加熱部28の先端は、ステータ円筒部22の外周面に熱的に接触している。加熱部28の後端はベース30の外部に露出しており、加熱部28とベース30との隙間はOリング27により封止されている。
【0018】
図2は、ステータ円筒部22の下端に取り付けられるガス通路容器40を示す図であり、ステータ側から見た平面図である。ガス通路容器40はリング状の容器であって、ステータ円筒部22に固定される外周壁402と、内周壁403と、底面壁404とを有する。外周壁402には、座ぐり穴406aを有するボルト穴406が複数形成されている。このボルト穴406を利用して、ガス通路容器40の外周壁402がステータ円筒部22の下端面に固定される。
【0019】
ガス通路容器40のステータ円筒部22と対向する天井領域(外周壁402と内周壁403との間の領域)は、ネジ溝ポンプ部(ロータ円筒部13およびステータ円筒部22)で排気されたガスが流入する円環状の開口(以下では、流入口と呼ぶことにする。)401となっている。外周壁402には、排気ポート41(
図1参照)が対向する位置に、トンネル状の通路である流出孔405が形成されている。流入口401からガス通路容器40内に流入したガスは、流出孔405から排気ポート41へ排出され、さらに、排気ポート41からポンプ外へと排出される。
【0020】
図3、4は、排気ポート41の形状を説明する図であり、
図3は排気ポート41の断面図、
図4は
図3のA矢視図である。なお、
図4では、ステータ円筒部22、および排気ポート41の先端部分が挿入されるガス通路容器40を二点鎖線で示した。排気ポート41は、排気ポート41を第2ポンプケーシング20に固定するためのフランジ410を備えている。排気ポート41は、フランジ410の図示右側のポンプ内に挿入される第1管部411と、フランジ410の図示左側のポンプ外に露出する第2管部412とを有する。第2管部412には、
図1に示すようにヒータH3が装着される。第1管部411の先端には、ガス通路容器40の流出孔405内に挿入される挿入部414が設けられている。
【0021】
図4のA矢視図から分かるように、挿入部414は、フランジ410から突出するように形成された円管414Aの、ハッチングを施した部分H1,H2を削除して残った部分である。なお、削除部分H1はステータ円筒部22と干渉する部分であり、削除部分H2はガス通路容器40の底面壁404と干渉する部分である。挿入部414は、外周壁402に形成された流出孔405の壁部との間に僅かな隙間を空けて挿入されている。挿入部414の図示下側には凸部415が形成されている。この凸部415は、流出孔405の底部、すなわち、底面壁404の下側に隙間を空けて配置される。
【0022】
図5、6は、ガス通路容器40および排気ポート41におけるガスの流れを説明する図である。
図5は、
図1の場合と同様の軸方向断面を示したものであり、
図6は、
図5のC1-C1断面図である。
図5において、実線矢印は排気ガスGの流れを示し、破線矢印はパージガスPGの流れを示す。ガス通路容器40は温度T2に制御されるステータ円筒部22に固定されているので、ステータ円筒部22とほぼ同一の温度となっている。なお、ガス通路容器40をステータ円筒部22に固定して加熱する代わりに、加熱部28をステータ円筒部22とガス通路容器40の両方に接触させるような構成とし、加熱部28によりガス通路容器40を直接加熱するようにしても良い。また、ガス通路容器40がステータ円筒部22とほぼ同一の温度となるように、加熱部28とは異なる別の加熱部によりガス通路容器40を加熱するようにしても良い。
【0023】
ガス通路容器40は、ネジ溝ポンプ部から排出されたガスの流れに対して、ベース30および第2ポンプケーシング20の面が露出しないようにするために設けられたものである。流出孔405には、排気ポート41のポンプ側先端(第1管部411の挿入部414)が挿入されている。そのため、ネジ溝ポンプ部(ロータ円筒部13およびステータ円筒部22)から排出された排気ガスGは、流入口401からガス通路容器40内に流入し、ベース30および第2ポンプケーシング20に触れることなくガス通路容器40内を通って、流出孔405に挿入された挿入部414から第1管部411に流れ込む。
【0024】
排気ポート41とステータ円筒部22とは別々のヒータにより異なる温度T3,T2(<T3)に制御される。そのため、
図5,6の領域B1、B2においては、排気ポート41の第1管部411および挿入部414とステータ円筒部22およびガス通路容器40との間には、互いが接触しないように僅かな隙間が形成されている。そのような構成とすることで、温度の異なる排気ポート41とステータ円筒部22との間の熱移動が防止され、排気ポート41とステータ円筒部22とを異なる目標温度T3,T2に制御する際の制御安定性が向上する。
【0025】
第1管部411とガス通路容器40との接続部分では、互いに接触しないように第1管部411の挿入部414が、外周壁402にトンネル状に形成された流出孔405内に僅かな隙間を空けて挿入されている。そのため、挿入部414と流出孔405との隙間空間の、ガスに対するコンダクタンスを小さくすることができ、隙間から漏れる排気ガスGの量を小さく抑えることができる。例えば、隙間寸法をg、挿入部414の挿入量をLとし、L=α・gとした場合、αの大きさを概略2以上に設定することで、ガス漏れ量を十分小さくすることができる(例えば、α=2、g=1に設定されている)。領域B2においては、ガス通路容器40の底面壁404の図示下側に凸部415が配置され、挿入部414および凸部415と底面壁404との間の隙間がラビリンスのような構造となっており、ガス通路容器40の周囲領域への排気ガスGの漏れをさらに小さくすることができる。
【0026】
このように、本実施の形態では、ガス通路容器40を設け、ガス通路容器40のトンネル状の流出孔405に第1管部411の挿入部414を挿入する構造としたので、挿入部分の隙間を介したガスの漏れを十分小さくすることができる。その結果、ベース30および第2ポンプケーシング20の内周面への排気ガスGの接触が極力抑えられ、それらの内周面への生成物堆積を小さく抑えることができる。
【0027】
さらに、パージガス導入部42からベース30内に導入されたパージガスPGが、破線矢印のようにロータ円筒部13とベース30との隙間を下方に流れ、ネジ溝ポンプ部の排気側に配置されたガス通路容器40の周囲領域に充満する。そのパージガスPGは、ガス通路容器40の内周壁403とロータ円筒部13との隙間、領域B1、B2の隙間を通ってガス通路容器40内に入り込み、排気ポート41を通ってポンプ外へ排出される。そのため、領域B1、B2の隙間からガス通路容器40の外部へ排気ガスGが漏出するのを、隙間から流入するパージガスPGによって阻止することができ、ベース30および第2ポンプケーシング20の内周面に生成物が堆積するのをより効果的に防止することができる。
【0028】
図7,8は、比較例として、第1管部411の先端をガス通路容器40内に挿入しない場合の一例を示したものである。
図7は
図5と同様の軸方向断面図であり、
図8は
図7のC1-C1断面図である。比較例の場合、第1管部411がガス通路容器40に挿入されておらず、領域B3における第1管部411とガス通路容器40との隙間が比較的大きいので、排気ガスが隙間からベース30および第2ポンプケーシング20へ漏れやすい。そのため、それらの内周面に生成物が堆積する。特に冷却パイプ43によって冷却されているベース30の、隙間に近接した面Rに生成物が堆積しやすい。また、
図5の場合と同様にパージガスPGをネジ溝ポンプ部の排気側に導入しても、隙間が大きいため、排気ポート41に流れ込むパージガスPGによる漏れ阻止効果が低くなり、隙間付近の内周面に生成物が堆積しやすい。
【0029】
実施の形態では、ベース30のモータ配置空間に導入されたパージガスPGが、ネジ溝ポンプ部の排気側に回り込むような構造としているが、パージガス供給構成はこれに限定されず、例えば、パージガスPGをネジ溝ポンプ部の排気側に直接導入するような構成としても良い。
【0030】
(変形例)
図9は、流出孔405の変形例を示す図である。
図9(a)に示す変形例1では、外周壁402に断面形状が円形の流出孔405を形成し、排気ポート41の第1管部411の先端部分を挿入するようにした。第1管部411の挿入量が上述したLであり、第1管部411と流出孔405とのギャップ寸法が上述のgである。
【0031】
図9(b)に示す変形例2では、薄い外周壁402から外周側に突出するように、トンネル状の流出孔405が形成された挿入部407を形成するようにした。外周壁402を薄くすることで、ガス通路容器40の重量を軽くすることができる。もちろん、挿入部407を外周壁402の内周側に突出するように形成しても良い。
【0032】
図9(c)に示す変形例では、トンネル状ではない流出孔405とした場合を示す。薄い外周壁402に流出孔405を形成し、その流出孔405に、排気ポート41の第1管部411を、その先端が容器内に突出するように挿入する。変形例3の場合、変形例1,2のように流出孔405がトンネル状でない場合に比べてガスの漏れ量が大きくなるが、挿入構造であるため、
図7,8の比較例の場合に比べてガス漏れ量を低減することができる。
【0033】
上述した例示的な実施の形態および変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0034】
[1]一態様に係る真空ポンプは、複数段の回転翼およびロータ円筒部が形成されたロータと、複数段の固定翼、および、前記ロータ円筒部と所定のギャップを介して配置されたステータ円筒部が形成されたステータと、前記ステータ円筒部を、生成物堆積を抑制する温度に加熱する第1の加熱部と、前記ロータおよび前記ステータが収容される筐体に設けられ、前記ロータおよび前記ステータにより排気されたガスを前記筐体の外部へ排出する排気管と、前記排気管を、生成物堆積を抑制する温度に加熱する第2の加熱部と、前記筐体内に配置され、前記ロータ円筒部と前記ステータ円筒部とのギャップから排気されたガスが流入する流入口、および流入したガスを前記排気管へ流出する流出口を有し、生成物堆積を抑制する温度に加熱されるガス通路容器と、を備え、前記排気管のガス流入側端部が、前記ガス通路容器の前記流出口に隙間を介して挿入されている。
特に、ロータ円筒部13とステータ円筒部22とのギャップからガスが排出される領域は低真空となることから、ベース30や第2ポンプケーシング20の内周面へ生成物堆積が生じやすいが、加熱されたガス通路容器を設けることにより、ベース30や第2ポンプケーシング20の内周面へ生成物堆積を抑制することができる。例えば、
図5に示すように、第1管部411の先端の挿入部414が、ガス通路容器40の流出孔405に挿入されている。このような挿入構造とすることにより、挿入部414と流出孔405の隙間からの排気ガスの漏出が低減され、ベース30や第2ポンプケーシング20の内周面への生成物堆積を抑制することができる。
【0035】
[2]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記流出口はトンネル状の孔であって、 前記排気管のガス流入側端部は、前記トンネル状の孔の壁面との間に隙間が形成されるように挿入されている。
例えば、
図5、6に示すように、流出孔405は、肉厚な外周壁402を貫通するように形成されたトンネル状の孔である。そのため、隙間空間は、ギャップ寸法gに比べて長さ寸法Lが大きいので、ガスに対するコンダクタンスを大きくでき、隙間を介したガス漏れをより低減することができる。
【0036】
[3]上記[1]または[2]に記載の真空ポンプにおいて、前記ガス通路容器はリング状の容器であり、前記流入口は、前記ロータ円筒部および前記ステータ円筒部のガス排出領域の全域に亘って対向するリング状の開口である。ガス通路容器をリング状の容器とすることで、ガス通路容器は、排気機能部の下流側のリング状の空間の全域に亘って配置されることになる。
【0037】
[4]上記[1]から[3]までのいずれかに記載の真空ポンプにおいて、前記ガス通路容器は、前記第1の加熱部により加熱される 、真空ポンプ。
【0038】
[5]上記[4]に記載の真空ポンプにおいて、前記ガス通路容器は前記ステータ円筒部に固定され、前記ステータ円筒部を介して前記第1の加熱部により加熱される。
例えば、
図5に示すように、ガス通路容器40をステータ円筒部22に固定し加熱部28により直接的または間接的に加熱することで、ガス通路容器40専用の加熱部を別に用意する必要がない。
【0039】
[6]上記[1]から[5]までのいずれかに記載の真空ポンプにおいて、前記ガス通路容器の周囲空間にパージガスを導入するパージガス導入部をさらに備え、前記周囲空間に導入されたガスにより、前記ロータ円筒部と前記ステータ円筒部とのギャップから排気されたガスが前記ガス通路容器の周囲に漏れないようにする。
例えば、
図5に示すように、ガス通路容器40の周囲空間にパージガスPGを導入することで、パージガスPGが、ガス通路容器40に近接する部材(ロータ円筒部13、挿入部414、ステータ円筒部22等)との隙間からガス通路容器40に流れ込むため、隙間から周囲空間への排気ガス(プロセスガス)の漏出を低減することができる。その結果、ベース30や第2ポンプケーシング20の内周面への生成物堆積をさらに抑制することができる。
【0040】
[7]上記[1]から[6]までのいずれかに記載の真空ポンプにおいて、前記排気管は、前記流出口に隙間を介して挿入される前記ガス流入側端部に加えて、前記ガス流入側端部と並設されて筐体内側に突出する凸部とを備え、前記ガス通路容器の壁部の一部が、前記ガス流入側端部と前記凸部との間に隙間を介して配置される。
例えば、
図5に示すように、ガス通路容器40の底面壁404の図示下側に凸部415が配置され、挿入部414および凸部415と底面壁404との間の隙間がラビリンスのような構造とすることで、ガス通路容器40の周囲領域への排気ガスGの漏れをさらに小さくすることができる。
【0041】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、上述した実施の形態では、ターボ分子ポンプを例に説明したが、ステータとロータ円筒部とで構成されるネジ溝ポンプのみを有する真空ポンプにも、本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1…ターボ分子ポンプ、10…ロータ、13…ロータ円筒部、20…第2ポンプケーシング、22…ステータ円筒部、28…加熱部、30…ベース、40…ガス通路容器、41…排気ポート、42…パージガス導入部、401…流入口、402…外周壁、405…流出孔、414…挿入部、H1~H3…ヒータ