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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240319BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240319BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H05K1/02 A
H01L23/12 J
H01L23/12 Q
H01L23/36 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022192201
(22)【出願日】2022-11-30
(62)【分割の表示】P 2021509583の分割
【原出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2023029935
(43)【公開日】2023-03-07
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019057990
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 慶昭
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-147934(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081434(WO,A1)
【文献】特開2007-53349(JP,A)
【文献】特開平10-326949(JP,A)
【文献】特開2017-212362(JP,A)
【文献】特許第7287455(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12―23/14
H01L 23/36
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の一方の面に回路パターン状に配設された金属片からなる回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、
前記回路層を構成する前記金属片の厚さtが0.5mm以上とされ、回路パターン状に配設された前記金属片同士の最近接距離Lが1.0mm以上1.5mm以下の範囲内とされており、
回路パターン状に配設された前記金属片の厚さtと、前記金属片同士の最近接距離Lとの比L/tが1.0以下とされ、
前記絶縁樹脂層は、熱硬化型樹脂で構成されており、回路パターン状に配設された前記金属片の間に位置する領域のボイド率が0.8%以下とされ、回路パターン状に配設された前記金属片の間に位置する領域のボイド率B1と前記金属片が配設された領域のボイド率B2の比B2/B1が0.5以上1.5以下の範囲内とされており、
前記金属片の端部と前記絶縁樹脂層の表面とがなす角度θが70°以上110°以下の範囲内とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
前記絶縁樹脂層の前記回路層とは反対側の面に放熱層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の一方の面に回路パターン状に配設された金属片からなる回路層と、を備えた絶縁回路基板に関するものである。
本願は、2019年3月26日に日本に出願された特願2019-057990号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
上述の絶縁回路基板として、例えば特許文献1に記載された金属ベース回路基板が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載された金属ベース回路基板においては、金属基板上に絶縁樹脂層が形成され、この絶縁樹脂層上に回路パターンを有する回路層が形成されている。ここで、絶縁樹脂層は、熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂で構成されており、回路層は、銅箔で構成されている。
【0004】
この金属ベース回路基板においては、回路層上に半導体素子が接合され、金属基板の絶縁樹脂層とは反対側の面にヒートシンクが配設されており、半導体素子で発生した熱をヒートシンク側に伝達して放熱する構造とされている。
そして、特許文献1に記載された金属ベース回路基板においては、絶縁樹脂層の上に配設された銅箔をエッチング処理することによって回路パターンを形成している。
【0005】
最近では、回路層に搭載された半導体素子に通電される電流が大きくなる傾向にあり、これに伴って半導体素子からの発熱量も大きくなっている。そこで、導電性及び熱伝導性を確保するために、回路層の厚肉化が求められている。ここで、回路層を厚肉化した場合には、特許文献1に記載されたようにエッチング処理によって回路パターンを形成すると、回路層の端面にダレが生じ、回路層の端面に電界が集中し、絶縁性が低下するおそれがあった。
【0006】
そこで、特許文献2には、エッチング処理した場合にダレの発生を抑制する技術が提案されている。しかしながら、この特許文献2に記載した方法であっても、回路層の端面に電界が集中しやすく、絶縁性が低下するおそれがあった。また、回路層を厚肉化した場合には、エッチング処理で回路パターンを形成する際に時間を要するため、絶縁回路基板を効率良く製造することができなかった。
また、最近では、小型化及び軽量化の観点から、回路パターン間の距離が小さくなる傾向にあり、寸法精度良く回路パターンを形成することができないと、回路パターン間の絶縁性が不十分となるおそれがあった。
【0007】
エッチング処理を実施することなく回路層を形成する方法として、例えば特許文献3には、予め所望の形状を付与した打ち抜き金属片を、セラミックス基板に接合する技術が提案されている。この方法によれば、回路層を厚肉化しても、金属片の端面にダレは生じず、回路パターン間の絶縁性を確保することができ、回路パターン間の距離を小さくすることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-207666号公報
【文献】特開2018-101763号公報
【文献】特開平09-135057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献3においては、絶縁層としてセラミックス基板を用いており、このセラミックス基板に対して金属片を積層方向に加圧することで金属片とセラミックス基板とを接合している。
絶縁層を熱硬化型樹脂からなる絶縁樹脂層で構成した場合には、硬化前の樹脂組成物の上に金属片を配置し、金属片を積層方向に加圧するとともに加熱することにより、樹脂組成物を硬化させて絶縁樹脂層を構成するとともに絶縁樹脂層と金属片とが接合されることになる。ここで、回路層を厚肉化した場合、金属片が配置された領域においては、樹脂組成物が十分に加圧されることになるが、金属片が配置されていない領域においては、樹脂組成物の加圧が不十分となり、絶縁樹脂層の内部にボイドが多く生成し、絶縁樹脂層の絶縁性が確保できないおそれがあった。このため、絶縁樹脂層を用いた絶縁回路基板においては、厚肉の回路層を精度良く形成することは困難であった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、比較的厚い回路層を有し、かつ、回路層の端部形状が精度良く形成されるとともに、耐電圧性に優れた絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明の絶縁回路基板は、絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の一方の面に回路パターン状に配設された金属片からなる回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記回路層を構成する前記金属片の厚さtが0.5mm以上とされ、回路パターン状に配設された前記金属片同士の最近接距離Lが1.0mm以上1.5mm以下の範囲内とされており、回路パターン状に配設された前記金属片の厚さtと、前記金属片同士の最近接距離Lとの比L/tが1.0以下とされ、前記絶縁樹脂層は、熱硬化型樹脂で構成されており、回路パターン状に配設された前記金属片の間に位置する領域のボイド率が0.8%以下とされ、回路パターン状に配設された前記金属片の間に位置する領域のボイド率B1と前記金属片が配設された領域のボイド率B2の比B2/B1が0.5以上1.5以下の範囲内とされており、前記金属片の端部と前記絶縁樹脂層の表面とがなす角度θが70°以上110°以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0012】
この構成の絶縁回路基板によれば、前記回路層を構成する前記金属片の厚さtが0.5mm以上とされているので、導電性が確保されるとともに、回路層において熱を面方向に拡げることができ、放熱特性に優れている。
また、金属片を回路パターン状に配設しており、前記金属片の端部と前記絶縁樹脂層の表面とがなす角度θが70°以上110°以下の範囲内とされているので、回路層の端部形状が精度良く形成されることになり、回路層の接合界面の端部における電界集中を抑制でき、耐電圧性を向上させることが可能となる。
そして、前記絶縁樹脂層が熱硬化型樹脂で構成され、回路パターン状に配設された前記金属片の間に位置する領域のボイド率が0.8%以下とされているので、絶縁樹脂層における絶縁性を確保することができる。
【0013】
本発明の絶縁回路基板においては、回路パターン状に配設された前記金属片の厚さtと、前記金属片同士の最近接距離Lとの比L/tが1.0以下とされているので、この絶縁回路基板を用いた部品の小型化及び軽量化を図ることが可能となる。
【0014】
さらに、本発明の絶縁回路基板においては、前記絶縁樹脂層の前記回路層とは反対側の面に放熱層が形成されていることが好ましい。
この場合、前記絶縁樹脂層の前記回路層とは反対側の面に形成された放熱層によって、回路層側の熱を効率良く放熱することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的厚い回路層を有し、かつ、回路層の端部形状が精度良く形成されるとともに、耐電圧性に優れた絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態である絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面説明図である。
図2】本発明の実施形態である絶縁回路基板の説明図である。(a)が断面図、(b)が上面図である。
図3図2に示す絶縁回路基板における回路層(金属片)と絶縁樹脂層の接合界面の拡大説明図である。
図4】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法の一例を示すフロー図である。
図5図4における金属片形成工程を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法の一例を示す説明図である。
図7】実施例において絶縁回路基板の耐電圧性を評価する試験装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板10、及び、この絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0020】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(図1において下側)にはんだ層32を介して接合されたヒートシンク31と、を備えている。
【0021】
はんだ層2、32は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
【0022】
絶縁回路基板10は、図1及び図2(a)に示すように、絶縁樹脂層11と、絶縁樹脂層11の一方の面(図1及び図2(a)において上面)に形成された回路層12と、絶縁樹脂層11の一方の面(図1及び図2(a)において上面)に形成された放熱層13と、を備えている。
【0023】
絶縁樹脂層11は、回路層12と放熱層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性を有する熱硬化型樹脂で構成されている。本実施形態では、絶縁樹脂層11の強度を確保するために、フィラーを含有する熱硬化型樹脂が用いられている。
ここで、フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を用いることができる。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド等を用いることができる。
本実施形態では、絶縁樹脂層11は、フィラーとしてアルミナを含有するエポキシ樹脂で構成されている。また、絶縁樹脂層11の厚さは、20μm以上250μm以下の範囲内とされている。
【0024】
そして、この絶縁樹脂層11においては、回路パターン状に配設された金属片(金属層、金属部材)22の間に位置する領域A1(すなわち、金属片22が配設されていない領域)のボイド率B1が0.8%以下とされている。なお、回路パターン状に配設された金属片22の間に位置する領域A1のボイド率B1は、0.7%以下であることが好ましく、0.6%以下であることがさらに好ましい。
また、本実施形態においては、金属片22が配設された領域A2のボイド率B2と回路パターン状に配設された金属片22の間に位置する領域A1のボイド率B1との比B2/B1が、0.5以上1.5以下の範囲内とされており、回路パターン状に配設された金属片22の間に位置する領域A1のボイド率B1と金属片22が配設された領域A2のボイド率B2との差が小さく、絶縁樹脂層11の全体で比較的均一なボイド率となっている。
【0025】
回路層12は、図6に示すように、絶縁樹脂層11の一方の面(図6において上面)に、導電性に優れた金属からなる金属片22が接合されることにより形成されている。金属片22としては、金属板を打ち抜き加工することで形成されたものを用いることができる。本実施形態においては、回路層12を構成する金属片22として、無酸素銅の圧延板を打ち抜き加工したものが用いられている。
【0026】
この回路層12においては、上述の金属片22が回路パターン状に配置されることで回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
ここで、回路層12(金属片22)の厚さtは0.5mm以上とされている。なお、回路層12(金属片22)の厚さtは1.0mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがさらに好ましい。また、回路層12(金属片22)の厚さtの上限は特に制限はないが、現実的には、3.0mm以下となる。
【0027】
また、回路パターン状に配設された金属片22同士の最近接距離Lは、回路パターン状に配設された金属片22の厚さtとの比L/tが2.0以下となるように設定されていることが好ましい。なお、L/tは、1.0以下とすることがさらに好ましく、0.5以下とすることがより好ましい。
本実施形態では、具体的には、回路パターン状に配設された金属片22同士の最近接距離Lは、1.0mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されている。
【0028】
そして、積層方向に沿った断面において、回路層12(金属片22)の絶縁樹脂層11との接合界面近傍における端面形状は、図3に示すように、回路パターンの端部において、絶縁樹脂層11の表面と回路層12(金属片22)の端面とがなす角度θが70°以上110°以下の範囲とされていることが好ましい。
なお、この角度θの下限は、80°以上であることがさらに好ましく、85°以上であることがより好ましい。一方、角度θの上限は、100°以下であることがさらに好ましく、95°以下であることがより好ましい。
【0029】
放熱層13は、絶縁回路基板10に搭載された半導体素子3において発生した熱を面方向に拡げることによって、放熱特性を向上させる作用を有する。このため、放熱層13は、熱伝導性に優れた金属、例えば銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている。本実施形態では、無酸素銅の圧延板で構成されている。また、放熱層13の厚さは、0.05mm以上3mm以下の範囲内に設定されている。
【0030】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好な銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等で構成されている。本実施形態においては、無酸素銅からなる放熱板とされている。なお、ヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
ここで、絶縁回路基板10の放熱層13とヒートシンク31とは、はんだ層32を介して接合されている。
【0031】
以下に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、図4から図6を用いて説明する。
【0032】
(金属片形成工程S01)
まず、回路層12となる金属片22を形成する。金属板24(本実施形態では無酸素銅の圧延板)を打ち抜き加工して、金属片22を形成する。本実施形態では、図5に示すように、打ち抜き加工機51の凸型52及び凹型53によって金属板24を挟持して剪断する。これにより、金属片22を金属板24から打ち抜く。
【0033】
(樹脂組成物配設工程S02)
次に、図6に示すように、放熱層13となる金属板23の一方の面(図6において上面)に、フィラーとしてのアルミナと、熱硬化型樹脂としてのエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含有する樹脂組成物21を配設する。
【0034】
(金属片配置工程S03)
次に、樹脂組成物21の一方の面(図6において上面)に、複数の金属片22を回路パターン状に配置する。
【0035】
(加圧及び加熱工程S04)
次に、放熱層13となる金属板23と樹脂組成物21と金属片22とを積層方向に加圧するとともに加熱することにより、樹脂組成物21を硬化させて絶縁樹脂層11を形成するとともに、金属板23と絶縁樹脂層11、絶縁樹脂層11と金属片22とを接合して、放熱層13及び回路層12を形成する。
【0036】
ここで、本実施形態においては、加圧及び加熱工程S04では、金属片22側に、ゴム状弾性体45を配置して、金属片22を樹脂組成物21側に押圧する構成とされている。ゴム状弾性体45は、例えば、シリコンゴム等で構成されたものとされている。
【0037】
また、加圧及び加熱工程S04においては、加熱温度が120℃以上350℃以下の範囲内とされ、加熱温度での保持時間が10分以上180分以下の範囲内とされている。また、積層方向の加圧荷重が1MPa以上30MPa以下の範囲内とされている。
ここで、加熱温度の下限は150℃以上とすることが好ましく、170℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は250℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることがさらに好ましい。
加熱温度での保持時間の下限は30分以上とすることが好ましく、60分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は120分以下とすることが好ましく、90分以下とすることがさらに好ましい。
積層方向の加圧荷重の下限は5MPa以上とすることが好ましく、8MPa以上とすることがさらに好ましい。一方、積層方向の加圧荷重の上限は15MPa以下とすることが好ましく、10MPa以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
上述した各工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0039】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、この絶縁回路基板10の放熱層13の他方の面にヒートシンク31を接合する。本実施形態では、放熱層13とヒートシンク31とを、はんだ材を介して接合している。
【0040】
(半導体素子接合工程S06)
そして、絶縁回路基板10の回路層12に半導体素子3を接合する。本実施形態では、回路層12と半導体素子3とを、はんだ材を介して接合している。
以上の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製造される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板10によれば、回路層12が、導電性及び熱伝導性に優れた金属(無酸素銅)からなり、回路層12を構成する金属片22の厚さtが0.5mm以上とされているので、導電性及び放熱特性に優れており、大電流高電圧を負荷する用途にも良好に適用することができる。
また、金属片22を回路パターン状に配設しているので、回路層12(金属片22)の端部形状が精度良く形成されることになり、回路層12(金属片22)の接合界面の端部における電界集中を抑制でき、耐電圧性を向上させることが可能となる。
【0042】
そして、絶縁樹脂層11が熱硬化型樹脂で構成され、回路パターン状に配設された金属片22の間に位置する領域A1(金属片22が配設されていない領域)のボイド率B1が0.8%以下とされているので、十分に加圧して絶縁樹脂層11が形成されており、絶縁樹脂層11における絶縁性を確保することができる。
また、本実施形態では、金属片22が配設された領域A2のボイド率B2と回路パターン状に配設された金属片22の間に位置する領域A1のボイド率B1との比B2/B1が、0.5以上1.5以下の範囲内とされており、回路パターン状に配設された金属片22の間に位置する領域A1のボイド率B1と金属片22が配設された領域A2のボイド率B2との差が小さく、絶縁樹脂層11の全体で比較的均一なボイド率となっているので、絶縁樹脂層11の全体が均一に加圧されて絶縁樹脂層11が形成されており、絶縁樹脂層11における絶縁性を十分に確保することができる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、回路層12(金属片22)の端部と絶縁樹脂層11の表面とがなす角度θが70°以上110°以下の範囲内とされているので、回路パターンの端部における電界集中を抑制できる。よって、耐電圧性をさらに向上させることが可能となる。
【0044】
また、本実施形態において、回路パターン状に配設された金属片22の厚さtと、金属片22同士の最近接距離Lとの比L/tが1.0以下とされているので、この絶縁回路基板10を用いた部品の小型化及び軽量化を図ることが可能となる。
さらに、本実施形態においては、絶縁樹脂層11の回路層12とは反対側の面に放熱層13が形成されているので、この放熱層13によって、回路層12に搭載された半導体素子3からの熱を効率良く放熱することが可能となる。
【0045】
本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、樹脂組成物配設工程S02と、金属片配置工程S03と、加圧及び加熱工程S04と、を有しているので、絶縁樹脂層11の形成と、金属片22と絶縁樹脂層11と金属板23との接合を同時に行うことができ、効率良く絶縁回路基板10を製造することができる。
また、エッチング処理を行うことなく、回路パターンを形成することができ、回路層12の端部形状が精度良く形成されることになり、回路層12の接合界面の端部における電界集中を抑制することが可能となる。
【0046】
そして、本実施形態においては、加圧及び加熱工程S04では、金属片22側に、ゴム状弾性体45を配置して加圧する構成としているので、樹脂組成物21の全体を十分に押圧することができ、絶縁樹脂層11内のボイドを十分に低減することが可能となる。これにより、絶縁樹脂層11の絶縁性を確保することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0048】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、絶縁回路基板(金属基板)とヒートシンクとをはんだ層を介して接合したものとして説明したが、これに限定されることはなく、絶縁回路基板(金属基板)とヒートシンクとグリースを介して積層してもよい。
さらに、ヒートシンクの材質や構造は、本実施形態に限定されることなく、適宜設計変更してもよい。
【0050】
さらに、本実施形態においては、金属板24を打ち抜くことにより、金属片22を形成する金属片形成工程S01を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の手段によって形成された金属片を用いてもよい。
【実施例
【0051】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0052】
放熱層となる金属板として、無酸素銅の圧延板(50mm×60mm×厚さ2.0mm)を準備し、この金属板の一方の面に表1に示す樹脂組成物のシート材を配置した。
本発明例1~10、及び、比較例4,5においては、樹脂組成物の一方の面に表1に示す金属片(20mm×20mm)をパターン状に配置した。このとき、金属片同士の最近接距離が表1に示す値となるように金属片を配置した。なお、形成したい回路形状に対応するような穴が開いているガイド治具を用いて、そのガイド治具の穴に金属回路片をはめ込むことで精度よく配置できるようにした。
比較例1~3,6においては、樹脂組成物の一方の面に表1に示す金属板(50mm×60mm)を配置した。
【0053】
そして、加圧及び加熱工程として、表2に示す条件で、金属板と樹脂組成物と金属片とを積層方向に加圧するとともに加熱し、樹脂組成物を硬化させて絶縁樹脂層を形成するとともに、金属板と絶縁樹脂層と金属片(金属板)を接合した。
このとき、本発明例1~10、及び、比較例5においては、金属片側に、シリコンゴムからなるゴム状弾性体(厚さ4.0mm)を配置して積層方向に加圧した。また、比較例4においては、ゴム状弾性体を使用せずに加圧した。
また、比較例1~3,6においては、回路層となる金属板に対してエッチング処理を行い、最近接距離が表1に示す値となるように回路パターンを形成した。
なお、キーエンスの画像寸法測定器を使用し、撮影した画像から個片間の距離を読み取って最近接距離を測定した。
【0054】
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、回路層(金属片)の端部と絶縁樹脂層の表面とがなす角度θ、回路パターン状に配設された前記金属片の間に位置する領域のボイド率、放熱性評価(熱抵抗)、絶縁性評価(絶縁破壊電圧)について、以下のようにして評価した。
【0055】
(回路層(金属片)の端部と絶縁樹脂層の表面とがなす角度θ)
回路層の断面をクロスセクションポリッシャ(日本電子株式会社製SM-09010)を用いて、イオン加速電圧:5kV、加工時間:14時間、遮蔽板からの突出量:100μmでイオンエッチングした後に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて回路パターンの端部を観察した。そして、回路層(金属片)の端部と絶縁樹脂層の表面とがなす角度θを測定した。評価結果を表2に示す。
【0056】
(回路パターン状に配設された金属片の間に位置する領域のボイド率)
レーザー顕微鏡により断面観察を実施し、得られた断面写真(視野サイズ:150μm×100μm、視野数:各試料30視野)に対して、画像解析ソフト「Image J」を用いて、画像処理を実施することで、ボイド率を算出した。評価結果を表2に示す。
【0057】
(熱抵抗)
JESD51に準拠した熱過渡測定法によって、絶縁回路基板の熱抵抗を測定した。評価結果を表2に示す。
【0058】
(絶縁破壊電圧)
図7に示すように、放熱層をベース板61の上に載置し、回路層の上にプローブ62を接触させ、部分放電を評価した。測定装置として、三菱電線株式会社製の部分放電試験機を用いた。なお、試験雰囲気として、3M社製フロリナート(tm)FC-770中で実施した。
そして、電圧を0.5kVごとのステッププロファイル(保持時間60秒)で昇圧し、絶縁破壊が生じた電圧(漏れ電流が10mA以上となった電圧)を絶縁破壊電圧とした。評価結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
エッチング工程によって回路パターンを有する回路層を形成するとともに回路層の厚さが0.3mmとされた比較例1においては、回路層の端部と絶縁樹脂層の表面とがなす角度θが45°と鋭角になり、絶縁破壊電圧が46.7kV/mmと低くなった。回路層の端部において電界集中が発生したためと推測される。また、回路層の厚さが薄いため、熱抵抗が高くなり、放熱特性が不十分であった。
【0062】
エッチング工程によって回路パターンを有する回路層を形成した比較例2,3においては、回路層の端部と絶縁樹脂層の表面とがなす角度θがそれぞれ48°、40°と鋭角になり、絶縁破壊電圧が46.7kV/mmと低くなった。回路層の端部において電界集中が発生したためと推測される。
【0063】
金属片を回路パターン状に配置して加圧及び加熱する際にゴム状弾性体を用いなかった比較例4においては、回路パターン状に配設された金属片の間に位置する領域のボイド率が4.8%と高くなり、絶縁破壊電圧が26.7kV/mmと低くなった。樹脂組成物を十分に加圧できなかったためと推測される。
【0064】
回路層(金属片)の厚さが0.3mmとされた比較例5においては、熱抵抗が高くなった。回路層で十分に熱を拡げることができなかったためと推測される。
【0065】
エッチング工程によって回路パターンを有する回路層を形成するとともに回路層の厚さが0.3mmとされ、熱硬化型樹脂としてポリイミド樹脂を用いた比較例6においては、回路層の端部と絶縁樹脂層の表面とがなす角度θが45°と鋭角になり、絶縁破壊電圧が48.6kV/mmと低くなった。回路層の端部において電界集中が発生したためと推測される。また、回路層の厚さが薄いため、熱抵抗が高くなり、放熱特性が不十分であった。
【0066】
これに対して、本発明の規定を満足するとともに熱硬化型樹脂としてエポキシ樹脂を用いた本発明例1-9においては、熱抵抗が十分に低く、放熱性に優れていた。また、絶縁破壊電圧がいずれも50.0kV/mm以上であり、絶縁性に優れていた。
また、本発明の規定を満足するとともに熱硬化型樹脂としてポリイミド樹脂を用いた本発明例10においては、熱硬化型樹脂としてポリイミド樹脂を用いた比較例6に比べて、熱抵抗が十分に低く、かつ、絶縁破壊電圧が高く、放熱性及び絶縁性に優れていた。
【0067】
以上のことから、本発明例によれば、比較的厚い回路層を有し、かつ、回路層の端部形状が精度良く形成されるとともに、耐電圧性に優れた絶縁回路基板、および、この絶縁回路基板の製造方法を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、比較的厚い回路層を有し、かつ、回路層の端部形状が精度良く形成されるとともに、耐電圧性に優れた絶縁回路基板を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 パワーモジュール
3 半導体素子
10 絶縁回路基板
11 絶縁樹脂層
12 回路層
13 放熱層
21 樹脂組成物
22 金属片
23 金属板
45 ゴム状弾性体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7