(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】双方向絶縁型DCDCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
H02M3/28 C
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2022195306
(22)【出願日】2022-12-07
【審査請求日】2023-12-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO先導研究プログラム エネルギー・環境新技術先導研究プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 隼
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0385176(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0313443(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0324665(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113241952(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次側インバータと、
前記1次側インバータの交流側に接続された第1直流カットキャパシタと、
2次側インバータと、
前記2次側インバータの交流側に接続された第2直流カットキャパシタと、
前記1次側インバータの交流側に1次巻線が接続され、前記2次側インバータの交流側に2次巻線が接続されたトランスと、
前記1次側インバータと前記2次側インバータのスイッチングデバイスを制御する制御部と、
を備えた双方向絶縁型DCDCコンバータであって、
前記制御部は、
前記1次側インバータと前記2次側インバータの前記スイッチングデバイスの故障状態に応じて、前記トランスの漏れインダクタンスに印加される電圧の増加を抑制するように、前記1次側インバータの動作と前記2次側インバータの動作を決定することを特徴とする双方向絶縁型DCDCコンバータ。
【請求項2】
前記制御部は、
位相差指令値を下限値以上、かつ、上限値以下の値に制限して出力するリミッタと、
キャリア信号を出力するキャリア生成部と、
短絡故障信号および開放故障信号に基づいて、前記1次側インバータの出力電圧と前記2次側インバータの出力電圧の差分が小さくなるように、故障したインバータの動作と正常なインバータの動作を決定する故障時動作決定部と、
前記1次側インバータと前記2次側インバータの両方が正常の時は、前記リミッタから出力された前記位相差指令値と前記キャリア信号に基づいて前記スイッチングデバイスのゲート信号を生成し、前記1次側インバータと前記2次側インバータのうち少なくとも何れか一方が故障の時は、前記リミッタから出力された前記位相差指令値と前記キャリア信号、および、前記故障時動作決定部で決定された故障したインバータの動作と正常なインバータの動作に基づいて前記スイッチングデバイスの前記ゲート信号を生成するゲート信号生成部と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の双方向絶縁型DCDCコンバータ。
【請求項3】
前記制御部は、
1次側直流電圧と2次側直流電圧の比と前記位相差指令値に基づいて、前記1次側直流電圧と前記2次側直流電圧の電圧条件に対するソフトスイッチングを実現できる前記1次側インバータの出力電圧と前記2次側インバータの出力電圧の位相差と前記1次側インバータおよび前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択を出力する正常時動作決定部を備え、
前記ゲート信号生成部は、
前記1次側インバータと前記2次側インバータの両方が正常の時は、前記電圧条件を満たす前記位相差のうち、前記位相差指令値に最も近い前記位相差と前記キャリア信号との比較と、前記正常時動作決定部から出力された前記1次側インバータおよび前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択に基づいて前記ゲート信号を生成することを特徴とする請求項2記載の双方向絶縁型DCDCコンバータ。
【請求項4】
前記制御部は、
前記1次側インバータおよび前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択に応じて、前記位相差指令値にゲインを乗算し、ゲイン乗算後の前記位相差指令値を前記リミッタに出力するゲイン調整部を備えたことを特徴とする請求項3記載の双方向絶縁型DCDCコンバータ。
【請求項5】
前記1次側インバータは、1次側直流電源の正極と負極との間に接続された第1、第2スイッチングデバイスと、前記1次側直流電源の正極と負極との間に接続された第3、第4スイッチングデバイスと、を備え、
前記2次側インバータは、2次側直流電源の正極と負極との間に接続された第5、第6スイッチングデバイスと、前記2次側直流電源の正極と負極との間に接続された第7、第8スイッチングデバイスと、を備え、
前記第1、第2スイッチングデバイスの接続点と前記第3、第4スイッチングデバイスの接続点を前記1次側インバータの交流端子とし、前記第5、第6スイッチングデバイスの接続点と前記第7、第8スイッチングデバイスの接続点を前記2次側インバータの交流端子とし、
前記故障時動作決定部は、
以下の表1、表2に基づいて、故障したインバータの動作と正常なインバータの動作を決定することを特徴とする請求項2記載の双方向絶縁型DCDCコンバータ。
短絡故障時における動作
【表1】
開放故障時における動作
【表2】
S1~S8:第1~第8スイッチングデバイス
INV1:1次側インバータ
INV2:2次側インバータ
【請求項6】
前記正常時動作決定部は、以下の(1)式~(6)式に基づいて、前記位相差と前記1次側インバータ、前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択を導出することを特徴とする請求項3記載の双方向絶縁型DCDCコンバータ。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
(1)式、(2)式の場合、1次側インバータ:フルブリッジ動作,2次側インバータ:フルブリッジ動作
(3)式、(4)式の場合、1次側インバータ:フルブリッジ動作,2次側インバータ:ハーフブリッジ動作
(5)式、(6)式の場合、1次側インバータ:ハーフブリッジ動作,2次側インバータ:フルブリッジ動作
θ
ZVS:位相差
N:巻数比
Vout:2次側直流電圧
Vin:1次側直流電圧
【請求項7】
前記ゲイン調整部で用いる前記ゲインは以下の表3に示す値とすることを特徴とする請求項4記載の双方向絶縁型DCDCコンバータ。
各動作のゲイン
【表3】
FB動作:フルブリッジ動作
HB動作:ハーフブリッジ動作
INV1:1次側インバータ
INV2:2次側インバータ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双方向絶縁型DCDCコンバータにおけるフォルトトレランス動作の高効率化に関する。
【背景技術】
【0002】
系統に接続される変換器は系統擾乱・内部故障時でも系統連系されている他機器に影響を与えないフォルトトレランス動作が要求される。フォルトトレランス動作の先行技術として、非特許文献1~3が開示されている。
【0003】
非特許文献1では、
図1に示す回路方式および
図2に示す回路動作において、半導体素子の短絡故障もしくは開放故障時におけるフォルトトレランス動作を検証している。
【0004】
図2に基づいてDual Active Bridge(以下、DABと称する)動作における動作波形を説明する。
図2(a)では、1次側インバータINV1をフルブリッジ動作(以下、FB動作と称する)、2次側インバータINV2をFB動作とする。
【0005】
1次側インバータINV1はS1,S4:ON、S2,S3:OFFと、S1,S4:OFF、S2,S3:ONを繰り返し、2次側インバータINV2はS5,S8:ON、S6,S7:OFFと、S5,S8:OFF、S6,S7:ONを繰り返す。1次側インバータINVの出力電圧Vpr,2次側インバータの出力電圧Vse,交流電流iprは図示のようになる。
【0006】
図2(b)では、1次側インバータINV1をFB動作、2次側インバータINV2をハーフブリッジ動作(以下、HB動作と称する)とする。
【0007】
1次側インバータINV1はS1,S4:ON、S2,S3:OFFと、S1,S4:OFF、S2,S3:ONを繰り返す。2次側インバータINV2はS5,S8:ON、S6,S7:OFFと、S5,S7:OFF、S6,S8:ONを繰り返す。1次側インバータINVの出力電圧Vpr,2次側インバータの出力電圧Vse,交流電流iprは図示のようになる。
【0008】
ここで、FB動作は、一方の経路は電流を流して他方の経路は電流を流さない状態と、一方の経路は電流を流さず他方の経路は電流を流す状態と、を繰り返す。HB動作は、一方の経路は常時電流を流さない状態とし、他方の経路は電流を流す状態と電流を流さない状態を繰り返す。
【0009】
なお、Vinは1次側直流電圧を示し、Voutは2次側直流電圧を示す。
【0010】
図2(b)に示すように短絡故障時には正常素子を常時オフ,開放故障時には正常素子を常時オンでHB動作させることで、内部故障時にも系統に事故を波及させることなく動作を維持させることができる。
【0011】
非特許文献2および非特許文献3では、スイッチング周波数を共振周波数付近で動作させ、半導体素子故障時にトランスやキャパシタをスイッチによって切り替えることで高効率かつフォルトトレランス動作を達成している。
【0012】
一方、DABの先行技術として、非特許文献4、特許文献1が開示されている。
【0013】
非特許文献4は、DABとして動作させ、片レグの上アームもしくは下アームを常時オンにすることでHB動作となり、電圧変動に対して効率を改善する方式である。
【0014】
特許文献1では、DAB方式にパルス幅制御を適用することで、入出力直流電圧変動時の効率を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【非特許文献】
【0016】
【文献】Haoyuan Weng, Jinghang Li and Dehong Xu, "Fault Tolerance Scheme for a DC Solid State Transformer,"2020 IEEE 9th International Power Electronics and Motion Control Conference (IPEMC2020-ECCE Asia), 2020, pp. 252-259.
【文献】Levy Costa, Giampaolo Buticchi and Marco Liserre, "A Fault-Tolerant Series-Resonant DC-DC Converter," in IEEE Transactions on Power Electronics, vol.32, no.2, pp. 900-905, Feb.2017.
【文献】Xuejun Pei, Songsong Nie, Yu Chen and Yong Kang, "Open-Circuit Fault Diagnosis and Fault-Tolerant Strategies for Full-Bridge DC-DC Converters," in IEEE Transactions on Power Electronics, vol.27, no.5, pp.2550-2565, May.2012.
【文献】Zian Qin, Yanfeng Shen, Huai Wang and Frede Blaabjerg, "A voltage doubler circuit to extend the soft-switching range of dual active bridge converters,"2017 IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), 2017, pp. 300-306.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、非特許文献1は故障などでHB動作になると、トランス電圧の大小関係が変化するため、ソフトスイッチング不成立やトランス電流の増加により効率が低下する。
【0018】
また、非特許文献2,3は、高効率かつフォルトトレランスを達成しいているが追加素子が必要となる。
【0019】
また、非特許文献4は、素子故障時におけるフォルトトレランス動作として適用すると、過渡的に大きな電流が発生する。
【0020】
また、特許文献1は、素子故障時のフォルトトレランス動作については検証していない。
【0021】
以上示したようなことから、双方向絶縁型DCDCコンバータにおいて、フォルトトレランス動作を追加素子無し、かつ、高効率で実現することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、1次側インバータと、前記1次側インバータの交流側に接続された第1直流カットキャパシタと、2次側インバータと、前記2次側インバータの交流側に接続された第2直流カットキャパシタと、前記1次側インバータの交流側に1次巻線が接続され、前記2次側インバータの交流側に2次巻線が接続されたトランスと、前記1次側インバータと前記2次側インバータのスイッチングデバイスを制御する制御部と、を備えた双方向絶縁型DCDCコンバータであって、前記制御部は、前記1次側インバータと前記2次側インバータの前記スイッチングデバイスの故障状態に応じて、前記トランスの漏れインダクタンスに印加される電圧の増加を抑制するように、前記1次側インバータの動作と前記2次側インバータの動作を決定することを特徴とする。
【0023】
また、その一態様として、前記制御部は、位相差指令値を下限値以上、かつ、上限値以下の値に制限して出力するリミッタと、キャリア信号を出力するキャリア生成部と、短絡故障信号および開放故障信号に基づいて、前記1次側インバータの出力電圧と前記2次側インバータの出力電圧の差分が小さくなるように、故障したインバータの動作と正常なインバータの動作を決定する故障時動作決定部と、前記1次側インバータと前記2次側インバータの両方が正常の時は、前記リミッタから出力された前記位相差指令値と前記キャリア信号に基づいて前記スイッチングデバイスのゲート信号を生成し、前記1次側インバータと前記2次側インバータのうち少なくとも何れか一方が故障の時は、前記リミッタから出力された前記位相差指令値と前記キャリア信号、および、前記故障時動作決定部で決定された故障したインバータの動作と正常なインバータの動作に基づいて前記スイッチングデバイスの前記ゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、その一態様として、前記制御部は、1次側直流電圧と2次側直流電圧の比と前記位相差指令値に基づいて、前記1次側直流電圧と前記2次側直流電圧の電圧条件に対するソフトスイッチングを実現できる前記1次側インバータの出力電圧と前記2次側インバータの出力電圧の位相差と前記1次側インバータおよび前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択を出力する正常時動作決定部を備え、前記ゲート信号生成部は、前記1次側インバータと前記2次側インバータの両方が正常の時は、前記電圧条件を満たす前記位相差のうち、前記位相差指令値に最も近い前記位相差と前記キャリア信号との比較と、前記正常時動作決定部から出力された前記1次側インバータおよび前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択に基づいて前記ゲート信号を生成することを特徴とする。
【0025】
また、その一態様として、前記制御部は、前記1次側インバータおよび前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択に応じて、前記位相差指令値にゲインを乗算し、ゲイン乗算後の前記位相差指令値を前記リミッタに出力するゲイン調整部を備えたことを特徴とする。
【0026】
また、他の態様として、前記1次側インバータは、1次側直流電源の正極と負極との間に接続された第1、第2スイッチングデバイスと、前記1次側直流電源の正極と負極との間に接続された第3、第4スイッチングデバイスと、を備え、前記2次側インバータは、2次側直流電源の正極と負極との間に接続された第5、第6スイッチングデバイスと、前記2次側直流電源の正極と負極との間に接続された第7、第8スイッチングデバイスと、を備え、前記第1、第2スイッチングデバイスの接続点と前記第3、第4スイッチングデバイスの接続点を前記1次側インバータの交流端子とし、前記第5、第6スイッチングデバイスの接続点と前記第7、第8スイッチングデバイスの接続点を前記2次側インバータの交流端子とし、前記故障時動作決定部は、以下の表1、表2に基づいて、故障したインバータの動作と正常なインバータの動作を決定することを特徴とする。
【0027】
短絡故障時における動作
【0028】
【0029】
開放故障時における動作
【0030】
【0031】
S1~S8:第1~第8スイッチングデバイス
INV1:1次側インバータ
INV2:2次側インバータ。
【0032】
また、他の態様として、前記正常時動作決定部は、以下の(1)式~(6)式に基づいて、前記位相差と前記1次側インバータ、前記2次側インバータのフルブリッジ動作とハーフブリッジ動作の選択を導出することを特徴とする。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
(1)式、(2)式の場合、1次側インバータ:フルブリッジ動作,2次側インバータ:フルブリッジ動作
(3)式、(4)式の場合、1次側インバータ:フルブリッジ動作,2次側インバータ:ハーフブリッジ動作
(5)式、(6)式の場合、1次側インバータ:ハーフブリッジ動作,2次側インバータ:フルブリッジ動作
θZVS:位相差
N:巻数比
Vout:2次側直流電圧
Vin:1次側直流電圧。
【0040】
また、他の態様として、前記ゲイン調整部で用いる前記ゲインは以下の表3に示す値とすることを特徴とする。
【0041】
各動作のゲイン
【0042】
【0043】
FB動作:フルブリッジ動作
HB動作:ハーフブリッジ動作
INV1:1次側インバータ
INV2:2次側インバータ。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、双方向絶縁型DCDCコンバータにおいて、フォルトトレランス動作を追加素子無し、かつ、高効率で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】双方向絶縁型DCDCコンバータの回路構成図。
【
図3】フォルトトレランス動作(故障時の動作に非特許文献4の手法を適用)を行う制御システムの構成図。
【
図4】
図3の制御システムの動作波形(負荷電圧制御適用時)を示す図。
【
図6】実施形態1の動作波形(負荷電圧制御適用時)を示す図。
【
図8】実施形態1、2の動作波形(電圧制御適用時)を示す図。
【
図10】実施形態3の動作波形(ゲイン調整適用前後)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本願発明における双方向絶縁型DCDCコンバータの実施形態1~3を
図1,
図3~
図10に基づいて詳述する。
【0047】
まず、
図1に基づいて、双方向絶縁型DCDCコンバータの主回路構成を説明する。
【0048】
第1直流電源(例えばコンデンサ、以下第1コンデンサと称する)C3の正極と負極との間には第1,第2スイッチングデバイスS1,S2が直列接続される。また、第1コンデンサC3の正極と負極との間には第3,第4スイッチングデバイスS3,S4が直列接続される。第1~第4スイッチングデバイスS1~S4を1次側インバータINV1とする。
【0049】
第1スイッチングデバイスS1と第2スイッチングデバイスS2の接続点と第3スイッチングデバイスS3と第4スイッチングデバイスS4の接続点が1次側インバータINV1の交流端子となる。この2つの交流端子の間には、第1直流カットキャパシタC1、トランスTrの1次巻線が接続される。L1はトランスTrの漏れインダクタンスである。
【0050】
第2直流電源(例えばコンデンサ、以下第2コンデンサと称する)C4の正極と負極との間には第5,第6スイッチングデバイスS5,S6が直列接続される。また、第2コンデンサC4の正極と負極との間には第7,第8スイッチングデバイスS7,S8が直列接続される。第5~第8スイッチングデバイスS5~S8を2次側インバータINV2とする。
【0051】
第5スイッチングデバイスS5と第6スイッチングデバイスS6の接続点と第7スイッチングデバイスS7と第8スイッチングデバイスS8の接続点が2次側インバータINV2の交流端子となる。この2つの交流端子の間には、第2直流カットキャパシタC2、トランスTrの2次巻線が接続される。L2はトランスTrの漏れインダクタンスである。
【0052】
図1において、Vprは1次側インバータINV1の出力電圧、Vseは2次側インバータINV2の出力電圧、iprは交流電流を示す。また、トランスTrの巻線比は、1次巻線:2次巻線=1:Nとする。
【0053】
図3に
図1に示す構成の双方向絶縁型DCDCコンバータにフォルトトレランス動作を実現する制御システム(制御部)の基本構成図を示す。
図3では,DABとして駆動し、故障状態および電圧,負荷条件によって1次側インバータINV1,2次側インバータINV2のFB動作とHB動作を切り替える。
図3では下記の構成を有している。
【0054】
位相差指令値θは、電力制御,電流制御,電圧制御および1次側直流電圧Vinと2次側直流電圧Voutの比から出力される値である。計算方法は特許文献1を参照する。
【0055】
リミッタ1は、位相差指令値θを-π/2(下限値)≦θ≦π/2(上限値)に制限する。キャリア生成部2は、アップダウンカウントによりキャリア信号(のこぎり波or三角波)を生成する。
【0056】
切替器3は、故障信号に基づいて、正常時にはFB動作,短絡故障もしくは開放故障時はHB動作に切り替える。
【0057】
ゲート信号生成部4は、1次側インバータINV1、2次側インバータINV2が両方とも正常な場合は、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2をFB動作させるようにゲート信号を生成する。また、ゲート信号生成部4は、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2のうち少なくとも何れか一方が短絡故障、開放故障の場合は、故障したインバータはHB動作させ正常なインバータはFB動作させるようにゲート信号を生成する。FB動作、HB動作の両方の場合において、各位相差指令値θとキャリア信号を比較し、所望の位相をもつデューティ比50%のゲート信号を生成する。
【0058】
図3の手法は、非特許文献4の動作を素子故障時に適用した方式である。
図4(a)は動作切替前後の動作波形を示し、
図4(b)に動作切替時の拡大波形を示す。
図3の手法では故障したインバータの動作のみを変更するため、
図4に示すように1次側インバータINV1の短絡故障を模擬して、1次側インバータINV1をHB動作に切り替えている。
【0059】
図4から動作切替時に1次側インバータINV1の出力電圧Vpr,2次側インバータINV2の出力電圧Vseの差分電圧が増加し、トランスTrの漏れインダクタンスL1,L2に印可される電圧が大きくなるため、トランス電流の定常値が増加し、切替時に過大な電流が発生する。
【0060】
[実施形態1]
図5に本実施形態1における制御システム(制御部)の構成図を示す。本実施形態1では故障したインバータの動作だけでなく、正常なインバータの動作も変更する。以下、
図3と同様の箇所は説明を省略し、
図3と異なる点のみ説明する。
【0061】
故障時動作決定部5は、故障信号(短絡故障信号、開放故障信号)を入力とし、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2のうち少なくとも何れか一方が短絡故障、開放故障の場合、1次側インバータINV1の出力電圧Vpr,2次側インバータINV2の出力電圧Vseの差分が小さくなるように故障したインバータの動作と正常なインバータの動作を決定する。ここで、「動作」とは各スイッチングデバイスの「ON」、「OFF」、「SW(スイッチング)」を示し、「ON」、「OFF」、「SW」の中から選択して決定する。
【0062】
故障時動作決定部5は、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2のうち少なくとも何れか一方が短絡故障、開放故障の場合、故障したインバータと正常なインバータの両方をHB動作させる。
【0063】
ゲート信号生成部4は、1次側インバータINV1、2次側インバータINV2が両方とも正常な場合は、位相差指令値θとキャリア信号を比較し、所望の位相をもつデューティ比50%のゲート信号を生成する。一般的に正常時は、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2をFB動作させるようにゲート信号を生成する。
【0064】
また、ゲート信号生成部4は、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2のうち少なくとも何れか一方が短絡故障、開放故障の場合は、故障時動作決定部5で決定された故障したインバータの動作と正常なインバータの動作に基づいてスイッチングデバイスのゲート信号を生成する。短絡故障、開放故障の場合は、故障したインバータと正常なインバータの両方をHB動作とする。また、HB動作の場合も各位相差指令値θとキャリア信号を比較し、所望の位相をもつデューティ比50%のゲート信号を生成する。
【0065】
本実施形態1では、スイッチングデバイスの故障状態に応じて動作切替時におけるトランスTrの漏れインダクタンスL1、L2の印可電圧の増加を抑制するように1次側インバータINV1、2次側インバータINV2の動作を変更することでフォルトトレランス動作時における高効率化を達成する。
【0066】
図1の構成をDABとして動作させる。電力制御,電圧制御もしくは電流制御から出力された1次側インバータINV1の出力電圧Vprと2次側インバータINV2の出力電圧Vseの位相差指令値θを制御する。
【0067】
故障時は表1および表2に示す故障素子に応じて、故障したインバータ、正常なインバータの両方の動作を切り替えることで、トランスTrの漏れインダクタンスL1,L2に印可される電圧を抑制する。
【0068】
図6に本実施形態1適用時の動作波形を示す。なお、1次側インバータINV1のスイッチングデバイスが短絡故障と仮定し、表1に示す動作に対応した動作に切り替えている。
図4および
図6を比較すると、1次側インバータINV1の出力電圧Vprと2次側インバータINV2の出力電圧Vseの方向を一致させることで過渡時および定常時のトランス電流を低減している。
【0069】
短絡故障時における動作
【0070】
【0071】
開放故障時における動作
【0072】
【0073】
以上示したように、本実施形態1によれば、動作変更時の過渡的なトランス電流を抑制できる。さらに、動作変更後の定常的なトランス電流も抑制できる。したがって、素子故障動作時の高効率化を実現できる。
【0074】
[実施形態2]
図7に本実施形態2における制御システム(制御部)の構成図を示す。本実施形態2では正常時において、高効率となる動作で駆動させる。以下、
図5と同様の箇所は説明を省略し、
図5と異なる点のみ説明する。
【0075】
正常時動作決定部6は、直流電圧比NVout/Vin,位相差指令値θを入力として、1次側直流電圧Vinと2次側直流電圧Voutの電圧条件に対するソフトスイッチングを達成できる位相差と1次側インバータINV1、2次側インバータINV2のFB動作とHB動作の選択を出力する。ここで、電圧比は、1次側直流電圧Vinと、2次側直流電圧Voutに巻数比Nを乗算した値の比とする。
【0076】
論理和部8は、短絡故障信号、開放故障信号を入力とし、短絡故障、開放故障を含んだ故障発生時に1を出力し、それ以外の時は0を出力する。切替器7は、正常時(論理和部8の出力が0の時)は正常時動作決定部6の出力を出力し、故障時(論理和部8の出力が1の時)は故障時動作決定部5の出力を出力する。
【0077】
本実施形態2は、正常時の効率改善に特徴があり、正常時はソフトスイッチングを実現できる動作で駆動する。1次側インバータINV1,2次側インバータINV2のFB動作、HB動作の選択、および、1次側直流電圧Vin,2次側直流電圧Voutの大小関係(電圧条件)に対するソフトスイッチングを実現する出力電圧Vpr、出力電圧Vseの位相差θZVSを、(1)式から(6)式で計算できる。
【0078】
INV1:FB動作,INV2:FB動作
【0079】
【0080】
【0081】
INV1:FB動作,INV2:HB動作
【0082】
【0083】
【0084】
INV1:HB動作,INV2:FB動作
【0085】
【0086】
【0087】
本実施形態2では、ゲート信号生成部4において、
図7の「リミッタ1」が出力する位相差指令値θと(1)式から(6)式のソフトスイッチングの条件を満たす位相差θ
ZVSを比較し、電圧条件を満たす(1)式~(6)式の位相差θ
ZVSのうち位相差指令値θに最も近い位相差θ
ZVSに補正する。
【0088】
また、電圧条件を満たす(1)式~(6)式のうち、位相差指令値θが(1)式、(2)式の位相差θZVSに最も近い場合は1次側インバータINV1:FB動作、2次側インバータINV2:FB動作とし、位相差指令値θが(3)式、(4)式の位相差θZVSに最も近い場合は1次側インバータINV1:FB動作、2次側インバータINV2:HB動作とし、位相差指令値θが(5)式、(6)式の位相差θZVSに最も近い場合は1次側インバータINV1:HB動作、2次側インバータINV2:FB動作とする。
【0089】
こうすることで、1次側直流電圧Vin、2次側直流電圧Voutの変化に対してソフトスイッチング範囲が拡大できる。さらに、非特許文献4で示すようにトランス電流の無効成分を低減できる。
【0090】
なお、すべての動作でZVS(Zero Voltage Switching)を達成できない場合、現状の位相差指令値θと各動作のソフトスイッチングを達成する出力電圧Vpr、Vseの位相差θZVSを比較して、最も近い動作を選択する。
【0091】
ゲート信号生成部4は、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2の両方が正常の時は、電圧条件を満たす(1)式~(6)式のうち位相差指令値θに最も近い位相差θZVSとキャリア信号との比較、および、正常時動作決定部6で決定された1次側インバータINV1、2次側インバータINV2のFB動作とHB動作の選択に基づいてゲート信号を生成する。
【0092】
なお、異常時の動作は、実施形態1と同じである。ただし表1,表2の「SW」では、位相差指令値θを位相差θZVSにより補正してゲート信号を生成する。
【0093】
図8に実施形態1と実施形態2適用時の動作波形を示す(Vin=760V、Vout=380V、、N=1、電圧制御適用時)。
図8から正常時においても、直流電圧比NVout/Vin、位相差指令値θによって、正常時の動作を切り替えることで同じ負荷電力時においてもトランス電流を低減している。
【0094】
本実施形態2により、正常時においても直流電圧比、位相差指令値に応じて動作を切り替えることで、直流電圧の差が大きい条件においてもソフトスイッチング範囲を拡大できるため、高効率化を実現できる。
【0095】
[実施形態3]
図9に本実施形態3における制御システム(制御部)の構成図を示す。本実施形態3では、動作の変更前後で負荷電流を一致させるようにゲインを変更する。以下、
図7と同様の箇所は説明を省略し、
図7と異なる点のみ説明する。
【0096】
ゲイン調整部9は、1次側インバータINV1、2次側インバータINV2のFB動作とHB動作の選択に応じて、ゲインを位相差指令値θに乗算し、ゲイン乗算後の位相差指令値θをリミッタ1に出力する。
【0097】
本実施形態3では、位相差指令値θに表3に示すゲインを乗算して調整する。これにより、動作切替によって負荷電流が変化しないため、動作切替による電圧もしくは電流制御応答の悪化を抑制できる。
【0098】
1次側インバータINV1と2次側インバータINV2が表3に示すFB動作またはHB動作を行っている時に、表3に示す適合したゲイン値(1、2,4のいずれか)を位相差指令値θに乗算する。このゲインを乗算した位相差指令値θを
図9の「リミッタ1」に入力する。FB動作/HB動作の判別は、位相差指令値θに基づいて行う。
【0099】
図10に本実施形態3適用有無による動作波形を示す。
図10では負荷側に電圧制御を適用し、動作切替によって負荷電圧の変動を測定している。
図10に示すように本実施形態3のゲイン調整を行うことで動作切替による直流電圧の変動を抑制している。
【0100】
各動作のゲイン
【0101】
【0102】
本実施形態3により、動作切替前後で負荷電流を一定にするため、動作切替による電圧制御や電流制御の応答の悪化を抑制できる。これにより、動作切替法適用による制御ゲインの再設計が不要になる。
【0103】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0104】
INV1、INV2…1次側インバータ、2次側インバータ
1…リミッタ
2…キャリア生成部
3、7…切替器
4…ゲート信号生成部
5…故障時動作決定部
6…正常時動作決定部
8…論理和部
9…ゲイン調整部
C1、C2…第1、第2直流カットキャパシタ
S1~S8…第1~第8スイッチングデバイス
L1、L2…漏れインダクタンス
Tr…トランス
C3、C4…第1、第2直流電源(コンデンサ)
【要約】
【課題】双方向絶縁型DCDCコンバータにおいて、フォルトトレランス動作を追加素子無し、かつ、高効率で実現する。
【解決手段】双方向絶縁型DCDCコンバータは、1次側インバータINV1と、1次側インバータINV1の交流側に接続された第1直流カットキャパシタC1と、2次側インバータINV2と、2次側インバータINV2の交流側に接続された第2直流カットキャパシタC2と、1次側インバータINV1の交流側に1次巻線が接続され、2次側インバータINV2の交流側に2次巻線が接続されたトランスTrと、1次側インバータINV1と2次側インバータINV2のスイッチングデバイスを制御する制御部と、を備える。制御部は、スイッチングデバイスの故障状態に応じて、トランスTrの漏れインダクタンスL1,L2に印加される電圧の増加を抑制するように、1次側インバータINV1の動作と2次側インバータINV2の動作を決定する。
【選択図】
図1