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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】防護材料および防護衣
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/04 20060101AFI20240319BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240319BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20240319BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20240319BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240319BHJP
   A62B 17/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B32B25/04
B32B3/30
A41D13/00 102
A41D31/04 D
C09K3/18 102
A62B17/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023105145
(22)【出願日】2023-06-27
(65)【公開番号】P2024007433
(43)【公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022105033
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 志貴
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 道知
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0011013(US,A1)
【文献】特開2022-113144(JP,A)
【文献】特開2018-162456(JP,A)
【文献】特開平06-057893(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087695(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109322158(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0058130(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0204279(US,A1)
【文献】特開2002-272348(JP,A)
【文献】特開2001-354899(JP,A)
【文献】特開2012-136022(JP,A)
【文献】特開昭60-052675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 3/30
B32B 25/04
A41D 13/00
A41D 31/04
A62B 17/00
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側と外側とを備える防護材料であって、
内側に位置するゴム層と、
前記ゴム層に積層され、外側に位置する外側層と、
を備え、
前記外側層には、1種類の凹凸形状付与粒子とフッ素系の撥水撥油剤とが含まれており、
前記外側層の全固形分に対する前記凹凸形状付与粒子の固形分比は、40wt%~60wt%である、
防護材料。
【請求項2】
前記外側層は、前記凹凸形状付与粒子が前記ゴム層と同種のゴムに含有された層と前記ゴム層のゴムと同種の樹脂に含有された樹脂層と前記フッ素系の撥水撥油剤から成るフッ素被膜とを含む、
請求項1に記載の防護材料。
【請求項3】
前記凹凸形状付与粒子の形状は、テトラポッド状、針状、多角形状、または球状である、
請求項1に記載の防護材料。
【請求項4】
前記凹凸形状付与粒子は、テトラポッド型酸化亜鉛である、
請求項1に記載の防護材料。
【請求項5】
前記ゴム層の前記外側層が積層されている面とは反対面に、布帛、第2ゴム層が、記載の順に積層されている、
請求項1に記載の防護材料。
【請求項6】
前記布帛は、織物、編物、または不織布である、
請求項5に記載の防護材料。
【請求項7】
前記ゴム層と前記第2ゴム層とは、異なる種類のゴムが用いられている、
請求項5に記載の防護材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の防護材料を用いた防護衣。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有毒なガスや液体等から人体を防護するための防護材料および防護衣に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有毒なガスや液体等から人体を保護する防護材料に関する技術が、たとえば、特許第5784812号公報(特許文献1)に開示されている。このような防護材料には、有毒な液体等に対しては、材料表面の良好な撥水性および撥油性が求められ、材料の表面処理に関する技術が、たとえば、特開2003-2903号公報(特許文献2)および特開2010-24279号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5784812号公報
【文献】特開2003-2903号公報
【文献】特開2010-24279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、防護材料を用いた防護衣に有害な液体等が付着した場合には、さらし粉水溶液等を用いた除染剤を用いた除染作業が必要となる。この作業は、複数名の除染作業員が、防護衣を装着した被装着者に対して行なわれるが、除染作業に必要となる人的労力および作業時間が大きいことが課題となっている。さらには、防護衣の膜強度、密着性、および耐摩耗性(再加工性)の改善も要求されるようになってきている。
【0005】
本開示では、上記課題を解決することにあり、第1に除染作業に必要となる人的労力および作業時間の軽減を図ることが可能な、防護材料および防護衣を提供することを目的とする。第2に防護衣の膜強度、密着性、および耐摩耗性(再加工性)の改善を図ることが可能な防護材料および防護衣を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示の防護材料においては、内側と外側とを備える防護材料であって、内側に位置するゴム層と、上記ゴム層に積層され、外側に位置する外側層と、を備え、上記外側層には、凹凸形状付与粒子とフッ素系の撥水撥油剤とが含まれている。
【0007】
[2]:[1]に記載の防護材料であって、上記外側層は、上記凹凸形状付与粒子が上記ゴム層のゴムと同種の樹脂に含有された樹脂層と上記フッ素系の撥水撥油剤から成るフッ素被膜とを含む。
【0008】
[3]:[1]または[2]に記載の防護材料であって、上記凹凸形状付与粒子の形状は、テトラポッド状、針状、多角形状、または球状である。
【0009】
[4]:[1]から[3]のいずれかに記載の防護材料であって、上記凹凸形状付与粒子は、テトラポッド型酸化亜鉛である。
【0010】
[5]:[1]から[4]のいずれかに記載の防護材料であって、上記ゴム層の上記外側層が積層されている面とは反対面に、布帛、第2ゴム層が、記載の順に積層されている。
【0011】
[6]:[5]に記載の防護材料であって、上記布帛は、織物、編物、または不織布である。
【0012】
[7]:[5]または[6]に記載の防護材料であって、上記ゴム層と上記第2ゴム層とは、異なる種類のゴムが用いられている。
【0013】
[8]:[1]から[7]のいずれかに記載の防護材料であって、前記外側層の全固形分に対する上記凹凸形状付与粒子の固形分比は、40wt%~60wt%である。
【0014】
[9]:本開示の防護衣においては、[1]から[8]のいずれかに記載の防護材料を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本開示に従えば、除染作業に必要となる人的労力および作業時間の軽減を図ることを可能な、防護材料および防護衣の提供を可能とする。さらに、防護衣の膜強度、密着性、および耐摩耗性(再加工性)の改善を図ることが可能な防護材料および防護衣を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】参考例の防護材料の断面構造図である。
図2】フッ素系の撥水撥油加工剤の固着方法を示す模式図である。
図3】実施の形態1の防護材料の断面構造図である。
図4】テトラポッド型酸化亜鉛の形状を示す拡大図である。
図5】テトラポッド型酸化亜鉛の積層構造の電子顕微鏡写真である。
図6】接触角を示す模式図である。
図7】滑落角を示す模式図である。
図8】各実施の形態の防護材料の評価結果を示す図である。
図9】各実施例の評価結果を示す図である。
図10】実施の形態2の防護衣の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示に基づいた各実施の形態の防護材料および防護衣について、以下、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。理解を容易にするために、図に示す膜厚さ、および、層厚さについては、実際の比率とは異ならせて記載している。
【0018】
明細書中、「外側」とは、防護材料の使用時において、有毒なガスや液体等に曝される側を意味し、「内側」とは、防護材料の使用時において、有毒なガスや液体等に曝されない側を意味する。したがって、この防護材料を防護衣に用いた場合には、着用者に触れる側が「内側」となる。
【0019】
[参考例:防護材料1A]
図1および図2を参照して、参考例の防護材料1Aについて説明する。図1は、防護材料1Aの断面構造図、図2は、フッ素系の撥水撥油加工剤の固着方法を示す模式図である。
【0020】
この防護材料1Aは、内側と外側とを備える防護材料であって、内側に位置するゴム層11と、ゴム層11に積層され、外側に位置する外側層としてフッ素被膜12とを備える。ゴム層11の厚さは、約0.1mm~0.3mm程度、フッ素被膜12については、含フッ素重合体の固形分付着量が0.01g/m~10.5g/m、好ましくは0.05g/m~5g/m、更に好ましくは0.1g/m~2g/mになるように、水で希釈して濃度を調整する。
【0021】
ゴム層11に用いられるゴムの種類は、ニトリルゴム(NBR)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、ブチルゴム(IIR)、臭素化ブチルゴム(BrIIR)、フッ素ゴム、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム等である。フッ素被膜12には、フッ素系の撥水撥油剤が用いられている。
【0022】
フッ素系の撥水撥油剤としては、例えば、特許第5784812号公報に開示される撥水撥油剤加工剤を用いるとよい。具体的なフッ素系撥水撥油加工剤の一例としては、下記式(1)で表されるフルオロアルキル基を有するα-クロロアクリレート(A)から誘導される繰り返し単位、およびフルオロアルキル基を有さず、炭素数6以上の炭化水素基を有する非フッ素単量体(B)から誘導される繰り返し単位を含む含フッ素重合体を用いるとよい。
【0023】
CH=C(-Cl)-C(=O)-X-Y-Rf・・・式(1)[式中、Xは-O-又は-NH-であり、Yは直接結合又は二価の有機基であり、Rfは炭素数1~20のフルオロアルキル基である。]
図2を参照して、フッ素系撥水撥油加工剤のゴム層11への固着方法について説明する。ゴム層11の表面に、見掛け濃度7%のフッ素系撥水撥油加工剤を、20cc/mを滴下する。その後、へらLを用いて、ゴム層11の表面にフッ素系撥水撥油加工剤を均一に引き延ばす。その後、加熱処理(たとえば、170度、5分)を施し、フッ素被膜12を完成させる(固形分付着量0.7g/m)。防護材料1Aの撥水撥油性の評価については、後述する。
【0024】
[実施の形態1:防護材料1B]
次に、図3から図5を参照して、本実施の形態の防護材料1Bについて説明する。図3は、防護材料1Bの断面構造図、図4は、テトラポッド型酸化亜鉛の形状を示す拡大図、図5は、テトラポッド型酸化亜鉛の積層構造の電子顕微鏡写真である。
【0025】
防護材料1Bの、上記防護材料1Aとの相違点は、ゴム層11とフッ素被膜12との間に、さらに樹脂層13が積層されている点にある。フッ素被膜12と樹脂層13とにより外側層を構成する。ゴム層11の厚さは、約0.1mm~0.3mm程度、フッ素被膜12については、含フッ素重合体の固形分付着量が0.01g/m~10.5g/m、好ましくは0.05g/m~5g/m、更に好ましくは0.1g/m~2g/mになるように、水で希釈して濃度を調整する。
【0026】
ゴム層11には、上記防護材料1Aと同様に、ニトリルゴム(NBR)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、ブチルゴム(IIR)、臭素化ブチルゴム(BrIIR)、フッ素ゴム、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム等である。フッ素被膜12には、上記防護材料1Aと同様に、フッ素系の撥水撥油剤が用いられている。
【0027】
防護材料1Bの樹脂層13は、ゴム層11と同種であるのが好ましい。好ましくはゴム層11と同種のゴムに、凹凸形状付与粒子が含まれる。本明細書において、凹凸形状付与粒子とは、ゴム層の表面に凹凸形状を与えることのできる材料のことを示している。凹凸形状付与粒子の形状としては、例えば、テトラポッド状、針状、球状、多角形状等が挙げられる。原料としては、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト、酸化亜鉛、ホウ酸アルミニウム等の無機酸化物;クロム、銅、鉄、ニッケル等の金属;炭化ケイ素、黒鉛、窒化ケイ素等の無機酸化物及び金属以外の無機物を挙げることができる。具体例としては、テトラポッド型酸化亜鉛、球状シリカ等である。
【0028】
図4に示すように、テトラポッド型酸化亜鉛の結晶体Rは、護岸用の「テトラポッド(登録商標)」型の形状を有している。具体的には、結晶体Rは、亜鉛金属の蒸気と酸素が反応して正八角形状の各部の交互の4面から六方晶ZnOのC軸方向に成長した針状結晶体である。一つの針状の結晶の長さは、1~50μmであり、好ましくは5~30μm、より好ましくは8~20μmである。図5に示すように、テトラポッド型酸化亜鉛の積層構造においては、複数の結晶体Rが重なりあって積層されることで、樹脂層13は、表面に凹凸が表れる、多孔質状の層構造材料となる。
【0029】
樹脂層13はゴム層11と同種のゴム、または、樹脂にテトラポッド型酸化亜鉛が分散された構造をもつ。テトラポッド型酸化亜鉛は、樹脂層13の全固形分(ゴム、または、樹脂+テトラポッド型酸化亜鉛)に対し、30wt%~70wt%(好ましくは40wt%~60wt%)配合する。そうすると、樹脂層13は脆くなるが、加熱加硫することで同種のゴム層11と樹脂層13の間で架橋構造が形成され強固に結合し樹脂層13の膜強度が向上する。たとえば、酸化亜鉛からなるテトラポッド状単結晶体粉末(株式会社アムテック製「パナテトラWZ-0501」、平均繊維長(針状部分):約10μm)を用いることができる。
【0030】
その結果、樹脂層13の表面に積層されるフッ素被膜12は、図2に示す固着方法を用いて形成されるが、樹脂層13に対しては、フッ素系撥水撥油加工剤が含浸することで、フッ素被膜12の樹脂層13に対する結合性が良好となる。また、フッ素被膜12の外側には、樹脂層13の表面に現れる凹凸が、フッ素被膜12の表面にも反映し、フッ素被膜12の表面にも微細な凹凸が現れる。この凹凸は、後に説明する防護材料1Bの撥水撥油性の評価結果に対して良好な結果もたらす。フッ素被膜12の表面にも現れる微細な凹凸の大きさは、針状の結晶の長さとして1~50μmであり、好ましくは5~30μm、より好ましくは8~20μm程度である。
【0031】
[防護材料1Aおよび防護材料1Bの評価結果]
次に、図6から図8を参照して、防護材料1Aおよび防護材料1Bの評価結果について説明する。図6は、接触角を示す模式図、図7は、滑落角を示す模式図、図8は、各実施の形態の防護材料の評価結果を示す図である。
【0032】
はじめに、図6および図7を参照して、材料表面に付着した液滴の評価に用いる「θ:接触角(静的)」および「α:滑落角(動的)」について説明する。図6を参照して、「θ:接触角(静的)」の評価は、水平な面に対する液滴W1の付着状態を評価するものである。図6に示すように、液滴W1の表面に対する接線と水平面とのなす角θが大きいほど、水平な面に対する液滴W1の付着の量は少なく、液滴W1は球に近い形状を維持し、撥水性および撥油性が良好な液滴W1と評価できる。θが150度以上であれば、水平な面に対して液滴W1は、コロコロと弾かれて、滑り易い状態といえる。
【0033】
一方、図7を参照して、「α:滑落角(動的)」の評価は、液滴W1が落下を開始する傾斜角度を評価するものである。図7に示すように、液滴W1の斜面に対する付着力が小さいほど、小さい傾斜角度αで液滴W1が落下を開始する。したがって、液滴W1が落下を開始する傾斜角度αが小さいほど、撥水性および撥油性が良好な液滴W1と評価できる。
【0034】
次に、図8を参照して、防護材料1Aおよび防護材料1Bの評価結果について説明する。各実施の形態の防護材料の評価結果を示す図である。
【0035】
評価対象として、「θ:接触角(静的)」として、撥水性(水)、撥油性(n-デカン)、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)を評価した。「α:滑落角(動的)」も同様に、撥水性(水)、撥油性(n-デカン)、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)を評価した。なお、撥油性(n-デカン)には、AATCC118の撥油性試薬の6級を用いた。以下、同様である。具体的な、接触角、滑落角の測定方法は、滴下量は、30μL、測定装置は、協和界面科学DMo710、滑落角判定は、前進角が1mm動いたときである。
【0036】
比較例の場合の防護材料では、「θ:接触角(静的)」は、撥水性(水)は、99°、撥油性(n-デカン)は測定不可(<5°)、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)は、36°であった。「α:滑落角(動的)」は、撥水性(水)は、41°、撥油性(n-デカン)は測定不可(親油)、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)は、7°であった。
【0037】
参考例の防護材料1Aでは、撥水性(水)は、117°、撥油性(n-デカン)は、61°、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)は、74°であった。「α:滑落角(動的)」は、撥水性(水)は、37°、撥油性(n-デカン)は27°、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)は、22°であった。
【0038】
このように、総合評価において、参考例の防護材料1Aは、比較例の評価よりも高評価が得られた。よって、参考例の防護材料1Aは、比較例に比べ、撥水性、撥油性および撥液性の性能が優れていることがわかる。その結果、防護材料1Aの外側に有害な液体等が接したとしても、防護材料1Aの表面に有害な液体等が止まり難くなり、防護材料1Aの表面への有害な液体等の付着を抑制する事が可能となる。
【0039】
これにより、防護材料の外側に付着した有害な液体等の除染作業に要する労力の軽減を図ることが可能となる。また、撥水性、撥油性および撥液性の性能が優れているため、防護性が向上する。
【0040】
次に、実施の形態1の防護材料1Bでは、撥水性(水)は、140°、撥油性(n-デカン)は、109°、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)は、126°であった。「α:滑落角(動的)」は、撥水性(水)は、5°、撥油性(n-デカン)は22°、撥液性(酢酸3-メトキシブチル)は、14°であった。
【0041】
この実施の形態1の防護材料1Bでは、参考例の防護材料1Aよりもさらに高評価が得られた。これにより、実施の形態2の防護材料1Bは、実施の形態1の防護材料1Aに比べ、より撥水性、撥油性および撥液性の性能が優れていることがわかる。その結果、防護材料1Bの外側に有害な液体等が接したとしても、防護材料1Bの表面に有害な液体等がより止まり難くなり、防護材料1Bの表面への有害な液体等の付着をより抑制する事が可能となる。
【0042】
これにより、防護材料の表面に付着した有害な液体等の除染作業に要する労力の軽減をより図ることが可能となる。
【0043】
[各実施例]
図9を参照して、さらに、「膜強度」、「密着性」および「耐摩耗性」の評価を追加した、各実施例について説明する。図9は、実施例11~20、比較例1の評価結果を示す図である。図9の評価に用いた防護材料の構成は、図3から図5を用いて説明した防護材料1Bと同じある。
【0044】
図9において、(1)加工工程では、コーティングとして、ZnO(テトラポッド型酸化亜鉛)の固形分比、加硫工程の有無、および、撥水加工(フッ素被膜)の有無を掲載している。ZnOの固形分比は、全固形分(ゴム、または、樹脂+テトラポッド型酸化亜鉛)に対しする配合である。加硫工程では、加熱加硫することで同種のゴム層11と樹脂層13の間で架橋構造が形成され強固に結合し樹脂層13の膜強度が向上する。フッ素被膜12は、図2に示す固着方法を用いて形成されるが、樹脂層13に対しては、フッ素系撥水撥油加工剤が含浸することで、フッ素被膜12の樹脂層13に対する結合性が良好となる。
【0045】
(2)性能評価では、「撥液性能(接触角、滑落角)」、「膜強度」、「密着性」、および、「耐摩耗性」を評価した。「撥液性能(接触角、滑落角)」については、図6および図7で説明した評価方法と同様である。「撥液性能(接触角、滑落角)」の評価としては、「A評価:優」、「B評価:良」、「C評価:可」および「F評価:採用できず」を設けた。
【0046】
「膜強度」の評価として、防護材料1Bに対して、180度折り曲げ試験を行なった。具体的には、手で防護材料1Bを180度折り曲げた際の外観を観察した。「膜強度」の評価としては、「A評価:外観変化なし」、「B評価:小クラック発生」、「C評価:大クラック発生」を設けた。
【0047】
「密着性」の評価として、防護材料1Bに対して、クロスカット法(JIS K5600-5-6に準拠)を用いた試験を行なった。具体的には、25マス(2mm幅、5×5)の切込みを防護材料1Bの表面に入れ、テープを貼着し、その後テープを剥離した後の表面状態を観察した。「密着性」の評価としては、JIS K5600の表1試験結果の分類の「0」をA評価、「1」をB評価、「2以上」をC評価とした。
【0048】
「耐摩耗性」の評価として、平面摩耗試験(JIS L1096に準拠)を行なった。防護材料1Bに対する押圧荷重は、100gとし、研磨紙には、P1500を用いた。「摩耗15回」は、摩耗後接触角の初期接触角に対する保持率について、「A評価:水70%以上、デカン25%以上、酢酸3-メトキシブチル40%以上」とし、「C評価:A評価以外」とした。「撥水再加工後」は、摩耗15回後、撥水再加工処理を施した後の接触角の初期接触角に対する保持率について、「評価A:水、デカン、酢酸3-メトキシブチルにおいて90%以上」、「評価C:A評価以外」とした。
【0049】
図9に示す実施例11~実施例20において、実施例11~13に示す、ZnOの固形分比が40~60%の配合の場合において、加熱加硫工程を採用している防護材料については、全ての評価項目において「評価A」である、総合評価は「評価A」であった。なお、実施例17~19に示す、ZnOの固形分比が、40wt%~60wt%の配合の場合においては、加熱加硫工程を採用していない防護材料についても、一部の評価項目では「評価A」が得られていないものの、総合評価として、「評価A」が得られた。
【0050】
以上のように、防護衣の膜強度、密着性、および耐摩耗性(再加工性)の点においても改善を図ることが可能となった。
【0051】
[実施の形態2:防護衣100]
図10を参照して、本実施の形態における防護衣100の構成について説明する。図10は、防護衣100の構成を示す正面図である。
【0052】
この防護衣100の具体的な防護材料の製造方法としては、まず、布帛の両面にゴムシートを積層する(ステップ1)。次に、外側のゴム表面に凹凸形状付与粒子を含む凹凸コーティングを実施し乾燥させる(ステップ2)。次に、加熱加硫を行なう(ステップ3)。次に、撥水撥油加工(図2に示す固着方法又は浸漬)を施す(ステップ4)。
【0053】
ステップ1の概要は、以下の通りである。布帛の両面にゴムシートと同種のゴム材料からなる接着ゴム層(図示省略)を介在させて貼り合わせ加硫接着を行ない、互いに一体化されたゴムシート、布帛およびゴムシートの積層構造を得る。
【0054】
ステップ2の概要は、以下の通りである。コーティング方法としては、キスコート(グラビアコート)、ナイフコート等が挙げられる。コーティング配合としては、ゴム:ZnO:溶媒(トルエン、酢酸エチル等)の比が、10:10:90~25:25:50で混合される。
【0055】
具体的な実施例として、実施例1では、5:5:90、実施例2では、7.5:7.5:85、実施例3では、17.5:17.5:65の配合比率とした。乾燥条件は、室温乾燥~170℃程度である。布帛には、織物、編物、不織布等を用いることができる。両面のゴムシートのゴムは、同じ種類でも異なる種類であってもよい。
【0056】
このように、防護衣100を製造することで、防護衣100の表面(外側)に有害な液体等が接したとしても、防護材料1Bの表面に有害な液体等がより止まり難くなり、防護材料1Bの表面への有害な液体等の付着を抑制する事が可能となる。布帛としては、織物、編物、不織布などを用いることができるが、織物であると、ゴム引布の厚みを薄く、かつ高強度とすることができるため好ましい。材料としては、ナイロン、ポリエステル、綿、等が使用できる。
【0057】
これにより、防護材料の表面に付着した有害な液体等の除染作業に要する労力の軽減を図ることが可能となる。また、撥水性、撥油性および撥液性の性能が優れているため、防護性が向上する。
【0058】
さらに、防護衣100を着用した被着用者の汚染内外領域への出入りともなう除染作業が軽減され、または不要となり、汚染内外領域への迅速な偵察、救命活動を行なうことが可能となる。さらに、偵察活動時の汚染拡大の危険を回避することも可能となる。さらに、除染作業に伴い発生する除染液の処理を不要にすることもできる。さらに、被着用者に精神的な安心感を与えることも可能となる。
【0059】
さらに、防護衣の膜強度、密着性、および耐摩耗性(再加工性)の改善を図ることも可能としている。
【0060】
なお、防護衣100として、上衣、下衣、および、頭巾を有する防護衣を一例にしたが、本開示における防護材料は、有害な液体等に汚染される領域に出入り際に着用される衣服等に広く適用することが可能である。
【0061】
さらに、防護材料を防護衣に適用した例を示したが、本発明の防護材料は、他にも、例えば、防護手袋、防護靴下、防護フード、防護カバー、フィルター、防護天幕、寝袋等、さらに、これらアイテムを収納する収納袋、に適用することができる。また、防護性を有する容器、装置などのパッキン、ガスケットなどのシール材としても用いることができる。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1A,1B 防護材料、11 ゴム層、12 フッ素被膜、13 樹脂層、100 防護衣。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10