(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】保持具
(51)【国際特許分類】
G01N 1/31 20060101AFI20240319BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N1/31
G01N1/28 F
(21)【出願番号】P 2020077588
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390000963
【氏名又は名称】白井松器械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山下 太郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 基樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 時男
(72)【発明者】
【氏名】宮越 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】田代 哲
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-043250(JP,A)
【文献】特開平02-167473(JP,A)
【文献】特開平02-216458(JP,A)
【文献】特開2012-242386(JP,A)
【文献】国際公開第2019/109031(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液槽に浸漬するスライドガラスを保持する保持具であって、保持具本体と、前記スライドガラスを前記保持具本体に固定する固定部とを備え、前記固定部は、前記保持具本体に形成された
凸状のスペーサ部と、前記スペーサ部を挟むクランプ部とを有し、前記スペーサ部を介して複数枚の前記スライドガラスを
、間隔をおいて配置し、前記スライドガラスごと前記スペーサ部を前記クランプ部で挟み込むことで前記スライドガラスを前記保持具本体に固定
可能とされた保持具。
【請求項2】
前記保持具本体は縦長形状に形成され、前記保持具本体の縦方向の一端部に前記スペーサ部が形成され、前記保持具本体の横方向両側に突出する一対のストッパー片が設けられた請求項1記載の保持具。
【請求項3】
前記一対のストッパー片は、保持具本体に対して縦方向にスライド可能に設けられた請求項2に記載の保持具。
【請求項4】
支軸を介して開閉可能とされた鋏状の規制部材を備え、前記支軸の軸方向両端面に、同じ方向に延びる溝部が形成され、前記規制部材の先端部に、規制部材が開く方向に折曲された折曲部が形成され、前記折曲部が前記ストッパー片とされ、前記保持具本体は、枠部と、枠部内に設けられた板状部とを備え、前記板状部の縦方向中央部に、縦方向に延びるスリット部が形成され、前記スリット部に臨んで対向する板状部の縁部に前記溝部を嵌合し、前記スリット部に沿って前記支軸をスライド可能とした請求項3に記載の保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液槽に浸漬するスライドガラスを保持する保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検者から採取した検体を処理し、病理診断することが広く行われている。検体処理としては、検体採取後、速やかに固定液(ホルマリン)に検体を浸漬することで、検体の自家融解や細菌による腐敗等を抑止する工程(ホルマリン固定工程)が含まれる。ホルマリン固定化後の検体は、脱水・脱脂・パラフィン浸透を経てパラフィン包埋される。パラフィン包埋された検体は、薄切し、スライドガラス上に固着した後、適宜染色処理を施すことで診断用の標本が作製される。
【0003】
通常の標本作製工程では、検体が固着されたスライドガラスは、特許文献1に示すように、複数枚をまとめて自動染色装置にセットして染色処理が施される。具体的には、複数枚のスライドガラスが収容された染色籠を複数の薬液槽に順次浸漬することで効率よく染色処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の標本作製工程では、検体は病理室に集められ、まとめて染色処理される。ところで、手術中に被検者から検体を採取して診断用の標本を作製し、病理診断を行ない、その結果によって手術の方針を決定することが必要とされる場合がある。このように標本作製に迅速性が求められる場合、できるだけ手術室の近くで標本を作製することが必要とされる。そのため、染色処理に必要な染色槽や洗浄槽などの液槽及び顕微鏡を搭載したカートを手術室近くまで運び、そこでスライドガラスを手動で染色処理し、作製した標本を直ぐに顕微鏡観察することが考えられる。
【0006】
上述のごとく、手動でスライドガラス上の検体を染色処理する場合、ピンセット等でスライドガラスをつまんで液槽に浸漬する必要があり、手間がかかるとともにスライドガラス1枚ずつしか染色処理できないといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明においては、上記問題に鑑み、染色処理の手間がかからず複数枚のスライドガラスを保持可能で、効率的に染色処理可能な保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様として、液槽に浸漬するスライドガラスを保持する保持具であって、保持具本体と、前記スライドガラスを前記保持具本体に固定する固定部とを備え、前記固定部は、前記保持具本体に形成されたスペーサ部と、前記スペーサ部を挟むクランプ部とを有し、前記スペーサ部を介して複数枚の前記スライドガラスを配置し、前記スライドガラスごと前記スペーサ部を前記クランプ部で挟み込むことで前記スライドガラスを前記保持具本体に固定する保持具が提供される。
【0009】
前記保持具本体は縦長形状に形成され、前記保持具本体の縦方向の一端部に前記スペーサ部が形成され、前記保持具本体の横方向両側に突出する一対のストッパー片が設けられていてもよい。
【0010】
前記一対のストッパー片は、保持具本体に対して縦方向にスライド可能に設けられていてもよい。
【0011】
また、支軸を介して開閉可能とされた鋏状の規制部材を備え、前記支軸の軸方向両端面に、同じ方向に延びる溝部が形成され、前記規制部材の先端部に、規制部材が開く方向に折曲された折曲部が形成され、前記折曲部が前記ストッパー片とされ、前記保持具本体は、枠部と、枠部内に設けられた板状部とを備え、前記板状部の縦方向中央部に、縦方向に延びるスリット部が形成され、前記スリット部に臨んで対向する板状部の縁部に前記溝部を嵌合し、前記スリット部に沿って前記支軸をスライド可能としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、スペーサ部を介して複数枚のスライドガラスを配置し、スライドガラスごとスペーサ部をクランプ部で挟み込むことでスライドガラスを保持具本体に固定するようにしたため、一度に複数枚のスライドガラスを、間隔をおいて保持具に固定することが可能で、かつスライドガラスが保持具から脱落するおそれがなく、ムラなく効率的に染色処理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図6】第2実施形態の保持具のカバー部材を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を基に説明する。
図1は、本実施形態の保持具の平面図であり、スライドガラスを固定した状態を、
図2は
図1のA-A断面図を、
図3は
図1の側面図を、
図4は
図3のB-B断面図を、
図5は保持具の概略分解図をそれぞれ示す。
【0015】
図1~
図5に示すように、保持具は、保持具本体1と、スライドガラスSを保持具本体1に固定する固定部2と、規制部材4とを備える。保持具本体1は、縦方向Xに細長い形状に形成され、縦方向Xの一端部に固定部2が形成され、他端部は保持具を手でつかむための把持部5とされる。保持具の材質は特に制限されないが、耐薬品性、加工性及び剛性等の面からポリプロピレン等の合成樹脂から形成される。なお、本実施形態では、保持具本体1の縦方向Xの一端部を先端部、他端部を後端部として以下説明する。
【0016】
保持具本体1は、横方向Yに幅広帯状の枠部6と、枠部6内に形成された板状部7と、板状部7の縦方向X中央部に、縦方向Xに延びるスリット部8とを備える。板状部7は、枠部6の横方向Yの中央部において、その平面方向がZ方向に平行になるように形成されており、板状部7の厚み(横方向Yの厚み)が薄肉に形成される。
【0017】
固定部2は、スペーサ部9と、スペーサ部9を挟むクランプ部11とを有する。保持具本体1の先端部には、縦方向Xに突出する凸状部12が形成されており、凸状部12はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等のゴム状弾性体や合成樹脂からなるカバー部材13によって被覆されており、これによってスペーサ部9が形成される。スペーサ部9は略立方体状に形成される。また、保持具本体1の先端部には、枠部6上に形成された軸部14まわりにクランプ部材15が回動可能に取り付けられている。
【0018】
クランプ部材15は枠部の厚み方向Zに対向する位置に一対配置されており、この一対のクランプ部材15、15によりクランプ部11が構成される。クランプ部材15は、コイルばね等の弾性部材16により先端側がスペーサ部9を押圧する方向に付勢される。一対のクランプ部材15、15の後部をつまむことでクランプ部材15の先端側が開く。
【0019】
2枚のスライドガラスS、Sをクランプ部11とスペーサ部9との隙間(2箇所)に差し込んでクランプ部11を離すことでスライドガラスS、Sはクランプ部11とスペーサ部9によって挟まれて固定される。これにより、2枚のスライドガラスS、Sは、スペーサ部9を介して(挟んで)間隔をおいて保持具に固定される。
【0020】
規制部材4は、一対の略L字状に形成されたL字部材17、17と、支軸18とを備え、L字部材17の長辺を背中合わせにし、L字部材17の長辺中央部に突出形成された貫通孔19を重ね合わせてそこに支軸18を挿通させることで、支軸18を介して開閉可能とされる。支軸18の軸方向両端面に、同じ方向に延びる溝部21が形成され、規制部材4の先端部に、規制部材4が開く方向に折曲された折曲部22が形成されている。支軸18は、スリット部8に臨んで対向する板状部縁部7a、7aに溝部21を係合させることで、スリット部8に沿ってスライド可能とされる。これにより、規制部材4が保持具本体1に対して縦方向Xにスライド可能とされる。
【0021】
規制部材4が保持具本体1に取付けられた状態において、保持具本体1の横方向Yの両側には一対の折曲部22、22が突出する。この一対の折曲部22、22は、スライドガラスSを固定した保持具を、スライドガラスS側を下向きにして液槽に浸漬するときに、折曲部22、22が液槽の上縁部に接触することで保持具がそれ以上液槽内に進入することを規制するストッパー片として機能する。これにより、スライドガラスSが液槽の底部に接触して破損したり、液槽内に脱落することを抑制するとともに、液槽内にスライドガラスSを吊下げた状態で安定的に保持することが可能となる。
【0022】
規制部材4は、弾性部材23によって閉方向に付勢されており、規制部材4の先端部が板状部7を挟み込むことで規制部材4が保持具本体1に固定される。規制部材4の後部をつまんで規制部材4を開くことで規制部材4の先端部が板状部7から離れ、規制部材4はスライド可能な状態となる。その状態で規制部材4を縦方向Xに移動させることで液槽の深さに合わせてストッパー片(折曲部22)とスライドガラスSの先端までの距離Lを調整することができる。
【0023】
規制部材4は、L字部材17の厚みがスリット部8の幅W(Z方向の間隔)よりも薄くなるように形成される。L字部材17の後部は手でつまみやすいように肉厚の操作部24が形成される。スリット部8の中央部には支軸18が通過可能な第一案内孔25が形成され、板状部7の後部には、操作部24が通過可能な第二案内孔26が形成される。第二案内孔26はスリット部8に連設される。
【0024】
規制部材4は、支軸18をL字部材17、17に挿通させた状態で、L字部材17をスリット部8に挿入しながら支軸18を第一案内孔25に挿入し、操作部24を第二案内孔26に挿入し、溝部21と板状部の縁部7aの方向を合わせながら支軸18と板状部の縁部7a、7aとを係合させる。このようにして、規制部材4が取付けられた保持具本体1は、規制部材4を先端側にスライド移動させた後、板状部7の後部に露出した第二案内孔26に、第二案内孔26を覆う被覆部材27を取付ける。この被覆部材27によって規制部材4の縦方向X後方への移動を制限し、規制部材4が保持具本体1から脱落するのを防止するようにしている。
【0025】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の保持具のカバー部材を示す側面図であり、
図7は
図6のカバー部材を用いた保持具の一部を示す側面図である。本実施形態では、固定部に固定可能なスライドガラスが3枚とされた点が第1実施形態と相違しており、その他の構成は第1実施形態と同様とされる。
【0026】
本実施形態のカバー部材28は、外観が立方体形状で中央部に凹状溝29が形成された形状とされる。このカバー部材28を用いた固定部2は、凹状溝29にもスライドガラスSを挿入して固定することが可能となるため、3枚のスライドガラスを固定して保持することができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。たとえば、上記実施形態では、クランプ部11は保持具本体1に設けられているが、これに限らず、保持具本体1と別体としてもよい。具体的には、クリップ状の部材としてスペーサ部9を挟み込むようにすればよい。
【0028】
また、第2実施形態のカバー部材28に形成された凹状溝29は1つとしているが、これに限らず、2以上の凹状溝29を形成することも可能であり、これにより4枚以上のスライドガラスを固定することが可能となる。
【0029】
実施形態及び上記変形例に開示されている構成要件は互いに組合せ可能であり、組合せることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 保持具本体
2 固定部
4 規制部材
5 把持部
6 枠部
7 板状部
7a 板状部縁部
8 スリット部
9 スペーサ部
11 クランプ部
12 凸状部
13 カバー部材
14 軸部
15 クランプ部材
16 弾性部材
17 L字部材
18 支軸
19 貫通孔
21 溝部
22 折曲部(ストッパー片)
23 弾性部材
24 操作部
25 第一案内孔
26 第二案内孔
27 被覆部材
28 カバー部材
29 凹状溝
S スライドガラス
W スリット部幅