(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】シリコーン組成物および硬化型グリス
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240319BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240319BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20240319BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/01
C08K3/10
(21)【出願番号】P 2021509481
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013219
(87)【国際公開番号】W WO2020196584
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019062843
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】水野 貴瑛
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 茂
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103424(WO,A1)
【文献】特開2001-294752(JP,A)
【文献】特開2002-371138(JP,A)
【文献】特開2002-374092(JP,A)
【文献】国際公開第2013/022090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状シリコーンと、
比重4.5以上の高比重軟磁性充填材と、
比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材と、
非液状の増粘抑制沈降防止剤と、
を含み、前記増粘抑制沈降防止剤は、表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロースである、ことを特徴とするシリコーン組成物。
【請求項2】
前記高比重軟磁性充填材が、フェライト、鉄、鉄含有合金からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項3】
前記高比重軟磁性充填材が、高比重軟磁性充填材(但しMg-Zn系フェライト粉末及びFe-Si合金粉末を除く。)である
、請求項1記載のシリコーン組成物。
【請求項4】
液状シリコーンと、
比重4.5以上の高比重軟磁性充填材と、
比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材と、
非液状の増粘抑制沈降防止剤と、
を含み、
前記高比重軟磁性充填材が、Fe-Ni(パーマロイ)、Fe-Co、Fe-Cr、Fe-Al、Fe-Cr-Si、Fe-Cr-AlおよびFe-Al-Si合金のいずれかである鉄含有合金、Mn-Zn系、Ni-Zn系、Cu系、Cu-Zn系、Cu-Zn-Mg系、Cu-Ni-Zn系、Li-Fe系のいずれかであるスピネル型フェライト、R
3
Fe
5
O
12
(Rが3価のYまたは希土類元素)で示されるYFe系などのガ-ネット型フェライト、MeをFe、Ni、Co、CuとするとMeO、BaO、Fe
2
O
3
の組成を組み合わせた六方晶構造をもつBaFe系などのフェロクスプレーナ型フェライト、のいずれかであり、
前記増粘抑制沈降防止剤は、表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロースである、
ことを特徴とするシリコーン組成物。
【請求項5】
前記増粘抑制沈降防止剤の平均粒径が10~500μmである、請求項1~3又は
4の何れか1項記載のシリコーン組成物。
【請求項6】
前記増粘抑制沈降防止剤が、複数の結晶セルロース粒子の集合体であって、略球状、顆粒状、塊状、凝集状の何れかの形状を有する集合体である、請求項1~
5の何れか1項記載のシリコーン組成物。
【請求項7】
前記高比重軟磁性充填材は、平均粒径が0.1~500μm(但し1~50μmを除く。)である扁平状粒子か、または平均粒径が0.1~300μm(但し1~50μmを除く。)である略球状粒子である、請求項1~
6の何れか1項記載のシリコーン組成物。
【請求項8】
前記高比重軟磁性充填材の配合量は、前記液状シリコーン100質量部に対して200~1500質量部であり、前記中比重熱伝導性充填材の配合量が、前記液状シリコーン100質量部に対して200~1500質量部である、請求項1~
7の何れか1項記載のシリコーン組成物。
【請求項9】
前記増粘抑制沈降防止剤の安息角が34°~57°である、請求項1~
8の何れか1項記載のシリコーン組成物。
【請求項10】
使用時に混合して使用する主剤と硬化剤とを組み合わせた2液硬化型の混合により硬化する2液硬化型の硬化型グリスであって、
前記主剤は、請求項1~
9の何れか1項記載のシリコーン組成物であって、液状シリコーンが、ビニル基を末端に有するオルガノポリシロキサンであり、
前記硬化剤は、請求項1~
9の何れか1項記載のシリコーン組成物であって、液状シリコーンが、オルガノハイドロジェンポリシロキサンである
、ことを特徴とする硬化型グリス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収性および熱伝導性を有するシリコーン組成物、および、該シリコーン組成物を硬化して得られる硬化型グリスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年益々、発熱性の電子部品を高密度化、小型化、薄型化、軽量化する要請が高まっている。一方、これら電子部品から生じる熱を放熱するために、ヒートシンクなどの放熱体が用いられている。さらに、冷却効果を向上させるため、熱伝導性グリスが、発熱性の電子部品と放熱体との間に塗布されることがある。
【0003】
しかし、上述の熱伝導性グリスは、シリコーンゴムやシリコーンオイルなどを含むことから、金属製の電子部品や金属製の放熱体に比べ、熱伝導率が低い。そこで、電子部品と放熱体との間に、熱伝導率が極めて低い空気層が入り込まないように、低粘度で流動性の高い熱伝導性グリスが望まれる。このような放熱性の向上を目的として、例えば、国際公開第2016/103424号(特許文献1)は、液状シリコーンと、熱伝導性充填材である非溶解性機能付与充填材と、非液状の増粘抑制沈降防止剤と、を含むシリコーン組成物を開示している。また、特許第3957596号明細書(特許文献2)は、シリコーンゴム5~20質量%と、シリコーンオイル10~30質量%を成分とするオルガノポリシロキサン15~35質量%と、平均粒径0.2μm以上1.0μm未満の球状アルミナ粉35~55質量%と、平均粒径1~3μm、最大粒径2~10μmの窒化アルミニウム粉30~50質量%とからなる熱伝導性グリスを開示している。
【0004】
一方、例えば、コンピュータに用いられるCPUは、小型化による高集積化のみならず、高速処理化の要請も高まっている。高速処理化により、動作周波数の高周波化が著しく、その結果、高周波成分が発生してしまう。この高周波成分がノイズとなって、ノイズが通信線等の信号に乗ってしまった場合、電子機器が誤作動するおそれがある。そこで、特開2001-294752号公報(特許文献3)は、放熱性の観点およびCPUなどの電子機器要素から発生するノイズを抑制する観点から、軟磁性金属粉末を含み、その硬化物の熱伝導率が2.0W/m・K以上である、電磁波吸収性熱伝導性シリコーンゴム組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/103424号
【文献】特許第3957596号明細書
【文献】特開2001-294752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のCPUのみならず他の電子機器要素についても、高集積化および高速処理化が促進されている。特に、近年多用されている光通信モジュールでは、CPUより発生する高周波成分(例えば10MHz~10GHz)より超高周波の、例えば10~20GHzの超高周波成分が発生する。
【0007】
そこで、本発明は、高周波成分(例えば10MHz~10GHz)のみならず、超高周波成分(例えば10~20GHz)からなるノイズの伝達を抑制するとともに、従来に比べ、より放熱性に富む、電磁波吸収性および熱伝導性を有するシリコーン組成物、および、該シリコーン組成物を硬化して得られる硬化型グリスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく本発明の一態様は、以下の特徴を有するものとして構成される。
【0009】
即ち、本発明の一態様のシリコーン組成物は、液状シリコーンと、比重4.5以上の高比重軟磁性充填材と、比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材と、非液状の増粘抑制沈降防止剤と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様のシリコーン組成物は、比重4.5以上の高比重軟磁性充填材を含むことにより、高周波成分(例えば10MHz~10GHz)のみならず、超高周波成分(例えば10~20GHz)からなるノイズの伝達を抑制することができる。また、本発明の一態様のシリコーン組成物が、比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材を含むことにより、熱伝導性が向上し、その結果、該シリコーン組成物の放熱性が向上する。さらに、本発明の一態様のシリコーン組成物に含まれる、非液状の増粘抑制沈降防止剤が、シリコーン組成物中において、液状シリコーンに比べて比重の高い、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降を抑制することができる。ここで、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されることにより、シリコーン組成物の粘度や組成の均一性が保たれ、その結果、増粘が抑制され、かつ、高周波成分および超高周波成分からなるノイズの伝達が抑制され、放熱性も維持できる。
【0011】
前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記増粘抑制沈降防止剤は、ピラノース環を有する多糖類および含窒素多糖高分子から選択される少なくとも1種とすることができる。
【0012】
さらに、前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記増粘抑制沈降防止剤は、結晶セルロース、粉末状セルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、キチン、キトサンから選択される少なくとも1種とすることができる。
【0013】
上述した多糖類、含窒素多糖高分子や、上述の物質は、何れも嵩高い構造を有し、かつ、相対的に疎水性である液状シリコーンに対して非溶解である。このため、上述した多糖類、含窒素多糖高分子や、上述の物質は、液状シリコーン中で浮く作用が有する。液状シリコーンに対して低比重の上述した多糖類、含窒素多糖高分子や、上述の物質が、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の下方にそれぞれ存在することにより、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されると推察される。シリコーン組成物中で、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されることによって、シリコーン組成物の粘度や組成の均一性が保たれ、その結果、増粘が抑制されると推察される。
【0014】
前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記増粘抑制沈降防止剤は、その表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロースとすることができる。
【0015】
相対的に親水性であるカルボキシメチルセルロースナトリウムが、結晶セルロースの表面にコーティングされて成る増粘抑制沈降防止剤は、相対的に疎水性の液状シリコーンに対して、非溶解であると推察される。さらに、結晶セルロース自体は嵩高い物質であるため、液状シリコーンに比べて、比重が軽い。従って、その表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロースは、液状シリコーン中に浮く性質を有する。これにより、液状シリコーンより比重の高い、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材は、その表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロースの浮力によって、沈降が抑制されると推察される。また、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されることによって、シリコーン組成物の粘度や組成の均一性が保たれ、その結果、増粘が抑制されると推察される。
【0016】
前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記増粘抑制沈降防止剤は、複数の結晶セルロース粒子の集合体であって、略球状、顆粒状、塊状、凝集状の何れかの形状を有する集合体とすることができる。
【0017】
複数の結晶セルロース粒子が上述のような形状を有する集合体であることによって、さらに嵩高い増粘抑制沈降防止剤が得られる。従って、さらに嵩高くなった複数の結晶セルロース粒子の集合体は、結晶セルロースの一次粒子に比べ、より低比重になる。これによって、液状シリコーンより比重の高い、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材は、その下方にそれぞれ存在する複数の結晶セルロース粒子の集合体の浮力によって、沈降が抑制されると推察される。また、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されることによって、シリコーン組成物の粘度や組成の均一性が保たれ、その結果、増粘が抑制されると推察される。
【0018】
前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記増粘抑制沈降防止剤の平均粒径が10~500μmとすることができる。
【0019】
前記増粘抑制沈降防止剤の平均粒径を上記範囲にすることにより、液状シリコーンより比重の高い、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降を抑制することができる。なお、平均粒径については後述する。
【0020】
前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記増粘抑制沈降防止剤の安息角が34°~57°とすることができる。
【0021】
ここで、安息角は、粒子の大きさと粒子の角の丸みや形状により決まる。増粘抑制沈降防止剤の安息角を上記範囲にすることにより、液状シリコーンより比重の高い、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降を抑制することができる。
【0022】
前記本発明の一態様のシリコーン組成物において、前記高比重軟磁性充填材が、フェライト、鉄、鉄含有合金からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。
【0023】
前記高比重軟磁性充填材として、フェライト、鉄、鉄含有合金からなる群から選択される少なくとも1種を用いることにより、高周波成分(例えば10MHz~10GHz)のみならず、超高周波成分(例えば10~20GHz)からなるノイズを長期に亘って抑制することができる。
【0024】
前記本発明の一態様の硬化型グリスは、使用時に混合して使用する主剤と硬化剤とを組み合わせた2液硬化型の混合により硬化する2液硬化型の硬化型グリスであって、前記主剤は、請求項1~8の何れか1項記載のシリコーン組成物であって、液状シリコーンが、ビニル基を末端に有するオルガノポリシロキサンであり、前記硬化剤は、請求項1~8の何れか1項記載のシリコーン組成物であって、液状シリコーンが、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様のシリコーン組成物によれば、従来のシリコーン組成物に比べ、高周波成分(例えば10MHz~10GHz)のみならず、超高周波成分(例えば10~20GHz)からなるノイズの伝達を抑制するとともに、より放熱性に優れる。また、本発明の硬化型グリスも、従来の熱伝導性グリスに比べ、高周波成分および超高周波成分から成るノイズの伝達を抑制するとともに、より放熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔シリコーン組成物〕
本発明について実施形態に基づき詳しく説明する。本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物は、液状シリコーンと、比重4.5以上の高比重軟磁性充填材と、比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材と、非液状の増粘抑制沈降防止剤と、を含むことを特徴とする。本明細書において、以下、「比重4.5以上の高比重軟磁性充填材」を「高比重軟磁性充填材」と略して記載することもある。同様に、「比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材」を「中比重熱伝導性充填材」と略して記載することもある。また、「非液状の増粘抑制沈降防止剤」を「増粘抑制沈降防止剤」と略して記載することもある。
【0027】
本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物が比重4.5以上の高比重軟磁性充填材を含むことにより、高周波成分(例えば10MHz~10GHz)のみならず、超高周波成分(例えば10~20GHz)からなるノイズを長期に亘って抑制することができる。また、本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物が液状シリコーンを含むことにより、特に耐熱性に優れる。さらに、本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物が比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材を含むことにより、熱伝導性が向上し、その結果、該シリコーン組成物の放熱性が向上する。加えて、本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物に含まれる非液状の増粘抑制沈降防止剤は、シリコーン組成物中において、液状シリコーンに比べて比重の高い、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降を抑制することができる。そして、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されることにより、シリコーン組成物の粘度や組成の均一性が保たれ、その結果、増粘が抑制され、かつ、長期に亘って高周波成分および超高周波成分からなるノイズが抑制され、放熱性も維持できる。即ち、本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物は、従来のシリコーン組成物に比べ、放熱性および電磁波吸収性に優れ、かつ、これらの特性を長期に亘って維持することができる。
【0028】
次に、本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物の構成について、詳細に説明する。
【0029】
<液状シリコーン>
まず、液状シリコーンについて説明する。本発明一実施形態で使用される液状シリコーンは、硬化性を有しない液状シリコーンと硬化可能な液状シリコーンの双方を含む。液状シリコーンの具体例としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのオルガノポリシロキサン;アルケニル基やエポキシ基、アクリロイル基、アミノ基等の反応基によって置換された変性シリコーンなどが挙げられる。本発明の一実施形態の用途に使用できる液状シリコーンであれば、特に制限はないが、例えば電磁波吸収および放熱性の用途では高い柔軟性が望まれることから、付加反応型の液状シリコーンが好適である。付加反応型の液状シリコーンは、硬化収縮が小さいため、電子機器要素などの発熱体とヒートシンクなどの放熱体との間に硬化させて埋め込む際に、隙間が生じにくい。
【0030】
付加反応型の液状シリコーンとしては、例えば、一分子中にビニル基とH-Si基の両方を有する一液反応型のオルガノポリシロキサンや、末端または側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと末端または側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの2液性のシリコーンなどがある。例えば、信越化学工業株式会社製、商品名「KE-1057」、「KE-1012-A/B」、東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「EG-4000」、KCC社製、商品名「SL5100」、「SL5152」などが好適である。
【0031】
付加反応型シリコーンとして、ビニル基を持つオルガノポリシロキサンを用いる場合、シランカップリング剤を硬化剤として用い、さらに加熱することによって硬化させて硬化物を得てもよい。また、付加反応型シリコーンとして、ビニル基を持つオルガノポリシロキサンおよびH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いる場合、触媒として白金触媒を用いて、さらに加熱することによって硬化させて、硬化物を得てもよい。
【0032】
ここで、シランカップリング剤としては、例えば、ビニル系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤などが挙げられるが、液状シリコーンの反応型硬化剤としては、ビニル系シランカップリング剤が好適である。例えば、信越化学工業株式会社製、商品名「KBE-1003」が好適である。
【0033】
白金触媒としては、例えば、白金、白金化合物が挙げられる。例えば、信越化学工業株式会社製の「SXR-212 CATALYST」が好適である。
【0034】
シランカップリング剤の添加量は、高い柔軟性を有する硬化物を得る観点から、液状シリコーンに対して、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~5質量%である。
【0035】
液状シリコーンの粘度は、0.005Pa・s~2Pa・sであることが好ましい。液状シリコーンの粘度が0.005Pa・s未満の場合には、液状シリコーンが低分子量であるため、硬化した後であっても分子量が高くなりにくい。そのため、シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物が脆くなるおそれがある。一方、液状シリコーンの粘度が2Pa・sを超えると、シリコーン組成物の粘度が上昇し易くなる。これにより、最終製品であるシリコーン組成物の所望の粘度の範囲に納めるために、高比重軟磁性充填材、中比重熱伝導性充填材および増粘抑制沈降防止剤の配合量が予め定められた量より少なくなる可能性がある。その結果、シリコーン組成物を硬化させた後の硬化物(例えば、硬化型グリス)は、所望の電磁波吸収性や熱伝導性を得ることができない可能性がある。
【0036】
<比重4.5以上の高比重軟磁性充填材>
次に、比重4.5以上の高比重軟磁性充填材について説明する。比重4.5以上の高比重軟磁性充填材は、主に、高周波成分(例えば10MHz~10GHz)のみならず、超高周波成分(例えば10~20GHz)からなるノイズを抑制するために配合される。本明細書において、比重は、対象物の密度を水の密度1.0g/cm3で割った値で記載している。
【0037】
高比重軟磁性充填材は、軟磁性を持つ充填材であれば特に限定されない。ここで、軟磁性とは、外部から印加された磁場に対して内部の磁化が磁場方向にそろいやすい、即ち、磁化しやすい性質をいう。なお、硬磁性とは、外部磁場が加わっても内部の磁化が起こりにくい性質であり、かつ外部に磁場が作れる性質をいう。
【0038】
高比重軟磁性充填材としては、例えば、フェライト、鉄、鉄含有合金が挙げられる。これらの軟磁性金属粉末は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。鉄含有合金としては、例えば、Fe-Ni(パーマロイ),Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si,Fe-Al,Fe-Cr-Si,Fe-Cr-AlおよびFe-Al-Si合金を用いることができる。
【0039】
フェライトの比重は4.5~6.0である。フェライトは、酸化第2鉄(Fe2O3)と二価の金属酸化物(MO)との化合物(MO・Fe2O3)である。また、二価の金属酸化物の種類により、Mn-Zn系、Mg-Zn系、Ni-Zn系、Cu系、Cu-Zn系、Cu-Zn-Mg系、Cu-Ni-Zn系、Li-Fe系などのスピネル型フェライト、R3Fe5O12(Rが3価のYまたは希土類元素)で示されるYFe系などのガ-ネット型フェライト、MeをFe、Ni、Co、CuとするとMeO、BaO、Fe2O3の組成を組み合わせた六方晶構造をもつBaFe系などのフェロクスプレーナ型フェライトに分類される。
【0040】
この中でも、好ましくは、Ni、Mn、Zn、Y、Baを含むフェライトである。特、に好ましくは、Mn-Zn系、Ni-Zn系などのスピネル型や、BaFe系などのフェロクスプレーナ型であり、これらを用いることによって透磁率を高めることができる。
【0041】
Ni-Zn系フェライトは、一般式(NiO)x(ZnO)y・Fe2O3で表される組成物を持つ。但し、Ni-Zn系フェライトは、Niの一部をCu、Mg、Co、Mn等の他の二価金属で置換したものであってもよい。Ni-Zn系フェライトは、本来の特性を損なわない範囲で、その他の元素を含有していてもよい。
【0042】
Mg-Zn系フェライトは、一般式(MgO)x(ZnO)y・Fe2O3で表される組成を持つ。但し、Mgの一部をNi、Cu、Co、Mn等の他の二価金属で置換したものであってもよい。Mg-Zn系フェライトは、本来の特性を損なわない範囲で、その他の元素を含有していてもよい。
【0043】
Mn-Zn系フェライトは、一般式(MnO)x(ZnO)y・Fe2O3で表される組成を持つ。但し、Mnの一部をNi、Cu、Co、Mg等の他の二価金属で置換したものであってもよい。Mn-Zn系フェライトは、本来の特性を損なわない範囲で、その他の元素を含有していてもよい。
【0044】
Cu系フェライトは、一般式(CuO)x・Fe2O3で表される組成を持つ。但し、Cuの一部をNi、Zn、Mg、Co、Mn等の他の二価金属で置換したものであってもよい。Cu系フェライトは、本来の特性を損なわない範囲で、その他の元素を含有していてもよい。
【0045】
本発明一実施形態で使用するフェライトは、公知の方法で得ることができる。これら酸化物系の磁性体であるフェライトの原料として、Fe2O3、MnO2、MnCO3、CuO、NiO、MgO、ZnO、Y2O、BaOなどの金属酸化物または金属炭酸塩などが、代表的な原料である。軟磁性フェライトの製造方法としては、乾式法、共沈法、及び噴霧熱分解法が代表的な製造方法である。
【0046】
また、高比重軟磁性充填材の粒子形状は、特に限定されないが、球状、粒状、不定形状のもの、または、針状、棒状、扁平状筒型、中空型など形状異方性があるものが挙げられる。好ましい高比重軟磁性充填材の粒子形状は、含有したシリコーン組成物の粘度上昇を避けるため、形状異方性が少ないものがよく、このような形状異方性の少ない高比重軟磁性充填材のアスペクト比は、1.0~10.0が好ましく、1.0~5.0がより好ましい。
【0047】
高比重軟磁性充填材は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。高比重軟磁性充填材の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した、体積基準の積算分率における50%径の値(体積平均径MV)である。ここで、高比重軟磁性充填材が扁平状の場合、好ましくは0.1~500μm、より好ましくは10~300μmである。一方、高比重軟磁性充填材が略球状の場合、好ましくは0.1~300μm、より好ましくは10~200μmである。この範囲より平均粒径が小さい場合には、高周波成分および超高周波成分から成るノイズの抑制効果が小さく、この範囲より大きい平均粒径である場合、後述する非液状の増粘抑制沈降防止剤により沈降抑制が発現されにくい。また、高比重軟磁性充填材は、表面に絶縁性コーティングやシランカップリング剤処理等の表面処理をすることによって、液状シリコーンへの分散性を高めたり、得られたシリコーン組成物の電磁波吸収性を高めたりすることができる。
【0048】
本明細書に開示される平均粒径は、レーザー回析散乱法(JIS R1629:1997)により、レーザー回析散乱式粒度分布測定装置で測定した。上記測定方法により、本発明に用いる「高比重軟磁性充填材」、「中比重熱伝導性充填材」、および「非液状の増粘抑制沈降防止剤」の粉体の平均粒径を測定した。
【0049】
高比重軟磁性充填材の配合量は、液状シリコーン100質量部に対して、200~1500質量部であることが好ましく、300~1200質量部であることがより好ましく、350~1100質量部であることがさらに好ましい。高比重軟磁性充填材の配合量が、上記範囲より少ないと、充分に磁気特性を得られないおそれがあり、上記範囲より多い場合は、シリコーン組成物の硬化後の成形性が悪くなるおそれがある。
【0050】
<比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材>
次に、比重4.0以下の中比重熱伝導性充填材について説明する。中比重熱伝導性充填材は、主に、本発明の一実施形態に係るシリコーン組成物の放熱性を向上させるために配合される。
【0051】
比重が4.0以下の中比重熱伝導性充填材としては、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、石英、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、グラファイト、炭素繊維などが挙げられる。また、前記中比重熱伝導性充填材は、比重が3.0以下であることが好ましい。比重が3.0以下の中比重熱伝導性充填材としては、例えば、アルミニウム、水酸化アルミニウム、石英、グラファイト、炭素繊維が挙げられる。前記中比重熱伝導性充填材の比重が低いほど、シリコーン組成物中で前記中比重熱伝導性充填材が沈降しにくくなる。本発明では、上記中比重熱伝導性充填材を一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
中比重熱伝導性充填材の平均粒径は、0.3~200μmであることが好ましい。中比重熱伝導性充填材の「平均粒径」は、上述したJIS R 1629:1997に準拠した「平均粒径」の測定方法により測定されている。ここで、前記中比重熱伝導性充填材の平均粒径が0.3μm未満の場合、シリコーン組成物の粘度が著しく高くなる。このため、前記中比重熱伝導性充填材を高充填できないことから、所望の熱伝導性を有するシリコーン組成物が得られない。一方、前記中比重熱伝導性充填材の平均粒径が200μmを超える場合、後述する非液状の増粘抑制沈降防止剤による沈降抑制作用をもってしても、十分に沈降速度を遅くできないおそれがある。二種以上の異なる平均粒径の中比重熱伝導性充填材を組み合わせて用いてもよい。シリコーン組成物への充填率を高めることができる。
【0053】
中比重熱伝導性充填材の形状は、球状または多面体に近い球状が好ましい。球状または多面体に近い球状とすることによって、他の形状に比べ、中比重熱伝導性充填材の比表面積を小さくすることができる。中比重熱伝導性充填材の比表面積を小さくすることにより、中比重熱伝導性充填材全体に大粒径の中比重熱伝導性充填材が存在しその割合が増えたとしても、シリコーン組成物の流動性が低下しにくくなる。さらに、場合によっては、シリコーン組成物を所望の粘度に保ちつつ、中比重熱伝導性充填材の配合量を増やして熱伝導性を高めることができる。
【0054】
中比重熱伝導性充填材の配合量は、液状シリコーン100質量部に対して、200~1500質量部の範囲で含有させることが好ましい。中比重熱伝導性充填材の配合量が200質量部未満の場合、シリコーン組成物が充分な熱伝導性を発揮できない。一方、中比重熱伝導性充填材の配合量が1500質量部を超えると、シリコーン組成物の粘度が高くなりすぎるため、シリコーン組成物の塗布作業が困難となるおそれがある。
【0055】
<非液状の増粘抑制沈降防止剤>
次に、非液状の増粘抑制沈降防止剤について説明する。ここで用いる増粘抑制沈降防止剤は、それを加えることで系の粘度上昇を抑えて、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降、特に高比重軟磁性充填材の沈降を防止する機能を奏するものである。非液状の増粘抑制沈降防止剤は、一般的な粘度を低下させる低粘度液体とは異なり、配合されたシリコーン組成物中で固形状やゲル状等の非液状の形態で存在する。
【0056】
増粘抑制沈降防止剤としては、例えば、ピラノース環を有する多糖類および含窒素多糖高分子などが挙げられる。さらに、増粘抑制沈降防止剤の具体例としては、結晶セルロース、粉末状セルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、キチン、キトサンなどが挙げられる。アミロースは、α-グルコースが多数結合(縮合重合)した構造を有し、直鎖状となっている。アミロペクチンは、α-グルコースが多数結合(縮合重合)した構造を有し、枝分かれがある。グリコーゲンは更に枝分かれが多い。デンプンは、アミロースをアミロペクチンで包み込んだらせん構造を有している。デキストリンは、α-グルコースが多数結合(縮合重合)した構造を有している。キチン、キトサンは、ポリグルコサミン構造を有する直鎖状のものである。
【0057】
本発明一実施形態では、上記増粘抑制沈降防止剤を一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。多糖類としてセルロース系化合物は、耐湿性に優れる点でも好ましい。本発明一実施形態に用いる増粘抑制沈降防止剤としては、好ましくは、その表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロースである。
【0058】
特に結晶セルロースは、非液状であるが、液状シリコーンに対して粘度上昇が起こりにくい。結晶セルロースは、繊維状植物からパルプとして得たα-セルロースを酸で解重合してなるセルロース微結晶から、精製して得ることができる。セルロースの結晶領域を多く有し、セルロースの分子鎖が緻密かつ規則的に存在する。結晶セルロースは、そのまま乾燥させ粉末状としたもののほか、上述したように、表面を水溶性高分子(多糖類、糖類など)でコーティングしたあと乾燥させ粉末状にしたものを用いることができる。特に、表面をカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)でコーティングした結晶セルロースの場合、結晶セルロースの二次凝集体となり、嵩高いため、液状シリコーン中での高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降抑制効果が高い。
【0059】
結晶セルロースの結晶化度は、好ましくは70~90であり、より好ましくは80~90である。セルロースの結晶化度は、主に原料パルプと、製造方法に影響され、酸処理を行わずに、機械的な処理のみで製造した粉末状セルロースは、結晶化度が低くなる。結晶化度が低いと、加熱加硫の際に必要な時間が長く、作業性が悪化し、機械物性も悪くなる。結晶化度が80以上であれば、加硫速度への影響はほとんど確認されていない。
【0060】
増粘抑制沈降防止剤による沈降防止のメカニズムは定かではないが、上述した多糖類、含窒素多糖高分子や、上述の物質は、何れも嵩高い構造を有し、かつ、相対的に疎水性である液状シリコーンに対して非溶解である。このため、上述した多糖類、含窒素多糖高分子や、上述の物質は、液状シリコーン中で浮く作用を有する。これにより、各増粘抑制沈降防止剤が、それぞれ高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の下方に存在することで、各増粘抑制沈降防止剤の浮力により、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されると推察される。さらに、シリコーン組成物中で、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降が抑制されることによって、シリコーン組成物の粘度や組成の均一性が保たれ、シリコーン組成物の増粘が抑制されると推察される。
【0061】
また、増粘抑制沈降防止剤は、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降を抑制する観点から、複数の結晶セルロース粒子の集合体であって、略球状、顆粒状、塊状、凝集状の何れかの形状を有する集合体であってもよい。増粘抑制沈降防止剤が、上述の形状の何れかの集合体であることにより、より嵩高い低比重の増粘抑制沈降防止剤となる。従って、液状シリコーンに対して低比重である、各複数の結晶セルロース粒子の集合体は、その上方に位置する高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材を、各複数の結晶セルロース粒子の集合体の浮力によって、液状シリコーン中で沈降抑制すると推察される。
【0062】
増粘抑制沈降防止剤の平均粒径は、0.1~500μmであることが好ましく、10~500μmであることがより好ましく、20~500μmであることがさらに好ましい。増粘抑制沈降防止剤の「平均粒径」は、上述したJIS R 1629:1997に準拠した「平均粒径」の測定方法により測定されている。増粘抑制沈降防止剤の平均粒径が0.1μm未満の場合、特に高比重軟磁性充填材の沈降抑制が不十分になってしまう。一方、増粘抑制沈降防止剤の平均粒径が500μmを超えると、シリコーン組成物の粘度が増粘してしまうおそれがある。
【0063】
増粘抑制沈降防止剤の安息角は、好ましくは34°~57°であり、より好ましくは34°~52°であり、さらに好ましくは34°~48°である。安息角の測定方法は、JIS R 9301-2-2:1999(ISO 902:1976)に準拠して測定した。増粘抑制沈降防止剤の安息角が34°未満の場合には、粉体落下速度が早く、粉体流動性が良好となり作業性が向上するものの、粉舞いなどが生じる傾向がある。一方、増粘抑制沈降防止剤の安息角が57°を超えると、粉体流動性が悪く、作業上好ましくない。
【0064】
増粘抑制沈降防止剤の配合量は、液状シリコーン100質量部に対して、1.0~50質量部とすることが好ましく、3.0~30質量部とすることがより好ましく、5.0~20質量部とすることがさらに好ましい。増粘抑制沈降防止剤の配合量が2.0質量部未満では、沈降防止効果を得ることができない。一方、増粘抑制沈降防止剤の配合量が50質量部を超えると、シリコーン組成物中の増粘抑制沈降防止剤の量が過剰になり、熱伝導性が低下する可能性がある。本実施形態の増粘抑制沈降防止剤としては、ピラノース環を有する多糖類や含窒素多糖高分子のほかに、微粉末シリカや有機処理クレイ、有機処理ベントナイト等のような他の粉末状の沈降防止剤を用いることもできる。
【0065】
<その他の添加材>
上述した組成を有するシリコーン組成物には、その機能を損なわない範囲で種々の添加剤を含ませることができる。例えば分散剤、難燃剤、カップリング剤、可塑剤、硬化遅延剤、酸化防止剤、着色剤、触媒などを適宜添加してもよい。
【0066】
上記各成分は混合し、よく攪拌することでシリコーン組成物を得ることができる。
【0067】
攪拌して得られたシリコーン組成物の粘度は、23℃で30Pa・s~700Pa・sであることが好ましい。シリコーン組成物の粘度が30Pa・s未満の場合には、高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の配合量が少なく、その結果、充分な熱伝導率および電磁波吸収性が得られないおそれがある。一方、シリコーン組成物の粘度が700Pa・sを超えると、シリコーン組成物の塗布作業が困難になる。なお、上記粘度は、後述するように、粘度計(製品名「BROOKFIELD回転粘度計DV-E」)でスピンドルNo.SC4-14の回転子を用い、回転速度5rpmおよび10rpm、測定温度23℃で測定した。
【0068】
〔硬化型グリス〕
本発明の一実施形態に係る硬化型グリスは、使用時に混合して使用する主剤と硬化剤とを組み合わせた2液硬化型の混合により硬化する2液硬化型の硬化型グリスである。前記主剤は、上述したシリコーン組成物であって、液状シリコーンが、ビニル基を末端に有するオルガノポリシロキサンである。前記硬化剤は、上述したシリコーン組成物でであって、液状シリコーンが、末端または側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0069】
なお、硬化型グリスに使用されている主剤および硬化剤については、上述したため、ここでの記載は省略する。
【実施例】
【0070】
次に実施例(比較例)に基づいて本発明一実施形態をさらに詳しく説明する。
【0071】
<試料の作製>
試料1-1:
液状シリコーン1として、付加反応型の液状シリコーンであるビニル末端オルガノポリシロキサン(比重1、商品名:KE-1012-A、信越化学工業株式会社製)100質量部と、高比重軟磁性充填材として、軟磁性Ni-Znフェライト(平均粒径:80μm、比重:5.18)760質量部と、中比重熱伝導性充填材として、球状アルミナ1(平均粒径:4.5μm、比重:3.94)200質量部および球状アルミナ2(平均粒径:3μm、比重:3.94)100質量部および多面体形状の球状に近いα-アルミナ単結晶粒子(平均粒径:0.5μm、比重:3.94)80質量部および水酸化アルミニウム(平均粒径:1μm、比重:2.4)40質量部と、ビニルシランカップリング剤(比重:1)1質量部と、白金触媒(比重:1)0.3質量部と、増粘抑制沈降防止剤1として、その表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロース(平均粒径:21μm)6質量部と、を配合し、プラネタリーミキサーで攪拌して混合して、シリコーン組成物1A(主剤)を調製した。
【0072】
試料1-2:
試料1で用いた液状シリコーン1の代わりに、液状シリコーン2として付加反応型の液状シリコーンである末端に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比重1、商品名:KE-1012-B、信越化学工業株式会社製)100質量部を配合し、白金触媒を配合しなかった以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物1B(硬化剤)を調製した。
【0073】
試料1-1のシリコーン組成物1A(主剤)と、試料1-2のシリコーン組成物1B(硬化剤)とは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。主剤と硬化剤とは、A剤とB剤とも表記される場合がある。
【0074】
試料2-1:
試料2-1は、試料1-1の増粘抑制沈降防止剤1として用いた「表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロース」の配合量を6質量部から12質量部に代えた以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物2Aを調製した。
【0075】
試料2-2:
試料2-2は、試料1-2の増粘抑制沈降防止剤1として用いた「表面をカルボキシメチルセルロースナトリウムでコーティングした結晶セルロース」の配合量を6質量部から12質量部に代えた以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物2Bを調製した。
【0076】
試料2-1のシリコーン組成物2Aと、試料2-2のシリコーン組成物2Bとは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0077】
試料3-1,4-1:
試料3-1,4-1は、試料1-1で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤2として、フュームド混合酸化物(SiO2とAl2O3の混合物、商品名:AEROSIL(登録商標)COK 84、日本アエロジル株式会社)を用い、それぞれ表2に記載の配合量(1.7重量部、3.4重量部)で配合し、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物3A,4Aを調製した。
【0078】
試料3-2,4-2:
試料3-2,4-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤2として、フュームド混合酸化物(SiO2とAl2O3の混合物、商品名:AEROSIL(登録商標)COK 84、日本アエロジル株式会社)を用い、それぞれ表2に記載の配合量(1.7重量部、3.4重量部)で配合した以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物3B,4Bを調製した。
【0079】
試料3-1,4-1のシリコーン組成物3A、4Aと、試料3-2,4-2のシリコーン組成物3B,4Bとは、後述するように、それぞれ、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0080】
対照試料1-1,1-2:
対照試料1-1は、試料1-1で用いた増粘抑制沈降防止剤1を添加しない以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物1A’を調製した。また、対照試料1-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1を添加しない以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物1B’を調製した。
【0081】
対照試料1-1のシリコーン組成物1A’と、対照試料1-2のシリコーン組成物1B’とは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0082】
試料5-1,5-2:
試料5-1は、試料1-1で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤3としてアルキル四級アンモニウムクレイ(商品名:GARAMITE-7303、BYK Additives & Instruments製)を1重量部配合した以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物5Aを調製した。
【0083】
試料5-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、アルキル四級化アンモニウムクレイ(商品名:GARAMITE-7303、BYK Additives & Instruments製)を1重量部配合した以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物5Bを調製した。
【0084】
試料6-1,6-2:
試料6-1は、試料1-1で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤4として細長い粒子のセルロース粉末(平均粒径:50μm、安息角:57°)を6重量部配合した以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物6Aを調製した。
【0085】
試料6-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤4として細長い粒子のセルロース粉末(平均粒径:50μm、安息角:57°)を6重量部配合した以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物6Bを調製した。
【0086】
試料7-1、7-2:
試料7-1は、試料1で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤5として丸い形状のセルロース粉末(平均粒径:100μm、安息角:34°)を6重量部配合した以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物7Aを調製した。
【0087】
試料7-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤5として丸い形状のセルロース粉末(平均粒径:100μm、安息角:34°)を6重量部配合した以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物7Bを調製した。
【0088】
試料8-1、8-2:
試料8-1は、試料1-1で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤6としてデンプン(コーンスターチ)(平均粒径:500μm、安息角:48°)を6重量部配合した以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物8Aを調製した。
【0089】
試料8-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤6としてデンプン(コーンスターチ)(平均粒径:500μm、安息角:48°)を6重量部配合した以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物8Bを調製した。
【0090】
試料9-1、9-2:
試料9-1は、試料1-1で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤7としてキトサン(平均粒径:180μm、安息角:52°)を6重量部配合した以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物9Aを調製した。
【0091】
試料9-2は、試料1-2で用いた増粘抑制沈降防止剤1の代わりに、増粘抑制沈降防止剤7としてキトサン(平均粒径:180μm、安息角:52°)を6重量部配合した以外は、試料1-2と同様に混合して、シリコーン組成物9Bを調製した。
【0092】
試料5-1,6-1,7-1,8-1,9-1のシリコーン組成物5A、6A、7A、8A、9Aと、試料5-2,6-2,7-2,8-2,9-2のシリコーン組成物5B、6B、7B、8B、9Bとは、後述するように、それぞれ、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0093】
試料10-1:
試料10-1は、高比重軟磁性充填材1として、Fe-Cr系の鉄合金であるマルテンサイト系ステンレス鋼(12.5%Cr、平均粒径:10μm、比重:7.6)1400質量部、中比重熱伝導性充填材として、球状アルミナ3(平均粒径:70μm、比重:3.94)200質量部、多面体形状の球状に近いα-アルミナ単結晶粒子(平均粒径:0.5μm、比重:3.94)80質量部および水酸化アルミニウム(平均粒径:1μm、比重:2.4)40質量部に代えた以外は、対照試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物10A(主剤)を調製した。
【0094】
試料10-2:
試料10-2は、試料10-1で用いた液状シリコーン1の代わりに、液状シリコーン2として付加反応型の液状シリコーンである末端に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比重1、商品名:KE-1012-B、信越化学工業株式会社製)100質量部を配合し、白金触媒を配合しなかった以外は、試料10-1と同様に混合して、シリコーン組成物10B(硬化剤)を調製した。
【0095】
試料10-1のシリコーン組成物10A(主剤)と、試料10-2のシリコーン組成物10B(硬化剤)とは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0096】
試料11-1:
試料11-1は、高比重軟磁性充填材1として、Fe-Cr系の鉄合金であるマルテンサイト系ステンレス鋼(12.5%Cr、平均粒径:10μm、比重:7.6)1400質量部、中比重熱伝導性充填材として、球状アルミナ3(平均粒径:70μm、比重:3.94)200質量部、多面体形状の球状に近いα-アルミナ単結晶粒子(平均粒径:0.5μm、比重:3.94)80質量部および水酸化アルミニウム(平均粒径:1μm、比重:2.4)40質量部に代えた以外は、試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物11A(主剤)を調製した。
【0097】
試料11-2:
試料11-2は、試料11-1で用いた液状シリコーン1の代わりに、液状シリコーン2として付加反応型の液状シリコーンである末端に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比重1、商品名:KE-1012-B、信越化学工業株式会社製)100質量部を配合し、白金触媒を配合しなかった以外は、試料11-1と同様に混合して、シリコーン組成物11B(硬化剤)を調製した。
【0098】
試料11-1のシリコーン組成物11A(主剤)と、試料11-2のシリコーン組成物11B(硬化剤)とは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0099】
試料12-1:
試料12-1は、高比重軟磁性充填材2として、Fe-Si-Cr系の鉄合金であるステンレス鋼(3.5%Si、4.5%Cr、絶縁コーティング処理品。平均粒径:11μm、比重:7.2)1020質量部に代えた以外は、対照試料1-1と同様に混合して、シリコーン組成物12A(主剤)を調製した。
【0100】
試料12-2:
試料12-2は、試料12-1で用いた液状シリコーン1の代わりに、液状シリコーン2として付加反応型の液状シリコーンである末端に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比重1、商品名:KE-1012-B、信越化学工業株式会社製)100質量部を配合し、白金触媒を配合しなかった以外は、試料12-1と同様に混合して、シリコーン組成物12B(硬化剤)を調製した。
【0101】
試料12-1のシリコーン組成物12A(主剤)と、試料12-2のシリコーン組成物12B(硬化剤)とは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0102】
試料13-1:
試料13-1は、高比重軟磁性充填材2として、Fe-Si-Cr系の鉄合金であるステンレス鋼(3.5%Si、4.5%Cr、絶縁コーティング処理品。平均粒径:11μm、比重:7.2)1020質量部に代えた以外は、試料11-1と同様に混合して、シリコーン組成物13A(主剤)を調製した。
【0103】
試料13-2:
試料13-2は、試料13-1で用いた液状シリコーン1の代わりに、液状シリコーン2として付加反応型の液状シリコーンである末端に2個以上のH-Si基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(比重1、商品名:KE-1012-B、信越化学工業株式会社製)100質量部を配合し、白金触媒を配合しなかった以外は、試料13-1と同様に混合して、シリコーン組成物13B(硬化剤)を調製した。
【0104】
試料13-1のシリコーン組成物13A(主剤)と、試料13-2のシリコーン組成物13B(硬化剤)とは、後述するように、混合して約24時間放置により硬化する、2液硬化型の硬化型グリスになる。
【0105】
<各種測定方法、試験および評価>
【0106】
粘度の測定:
粘度計(製品名「BROOKFIELD回転粘度計DV-E」)でスピンドルNo.SC4-14の回転子を用い、回転速度5rpmおよび10rpm、測定温度23℃で粘度(Pa・s)を測定した。その結果を、表1~3に示す。なお、試料10-1、試料11-1、試料12-1、試料13-1では、回転速度10rpmのみで測定して、その結果を表4に示す。
【0107】
沈降試験およびその評価:
試料1-1~試料13-2としてのシリコーン組成物をそれぞれ直径20mm、高さ120mmの円筒状の容器に100mmの高さまで充填して、60℃の環境下、静止状態で1000時間放置し、充填材の沈降状態を目視で観察した。
【0108】
そして、各試料の沈降状態を次に示す5段階に分けて評価した。この結果を表1~4に示した。
5:全く分離していない状態。
4:分離していないが、表面が滑らかに見える状態。(表面の液状シリコーンの濃度が高まり、熱伝導性充填材の粒子感が少なくなった状態。)
3:分離していないが、液状シリコーンの薄膜が表面を覆った状態。(表面に限れば熱伝導性充填材の粒子が無くなった状態。)
2:傾けると液状シリコーンが流れ出る程度に分離している状態。(1mm以上5mm未満の厚みで液状シリコーンが分離した状態。)
1:5mm以上の厚みで液状シリコーンが分離した状態。
【0109】
離油度:
試料1-1~試料13-2としてのシリコーン組成物について、JIS K2220:2013に準拠して、100℃168時間放置後の離油度(%)を測定した。
【0110】
熱伝導率:
試料1-1~試料13-2としてのシリコーン組成物を、試料の末尾が“-1”のシリコーン組成物をA剤とし、また、試料の末尾が“-2”のシリコーン組成物をB剤として、A剤とB剤とを混合し、25℃で24時間静置して、試料1~試料13の硬化型グリスの混合組成物をそれぞれ調製した。そして、その各組成物を厚さ20mmのシート状に形成して熱伝導率測定用試験片を作製した。各試験片については、京都電子工業株式会社製迅速熱伝導率計QTM-500を用いて非定常法細線加熱法にて熱伝導率(W/m・K)を測定した。その結果も表1~4に示した。
【0111】
電磁波吸収性:
上述した試料1-1~試料9-2の各シリコーン組成物について、試料の末尾が“-1”のシリコーン組成物をA剤とし、また、試料の末尾が“-2”のシリコーン組成物をB剤として、A剤とB剤とを混合し、25℃で24時間静置して、試料1~試料9の硬化型グリスの混合組成物をそれぞれ調製した。そして、各組成物を外径20mm、内径5mm、厚さ8mmのトロイダル形状に形成して透磁率測定用試験片を作製した。これをインピーダンスマテリアルアナライザE4991A(Keysight社製)と磁性材料測定電極16454A(Keysight社製)を用い、周波数1MHz~1GHzにおける比透磁率μ’を測定した。表1~3には10MHzにおける比透磁率を記載する。
【0112】
一方、上述した試料10-1~試料13-2の各シリコーン組成物について、試料の末尾が“-1”のシリコーン組成物をA剤とし、また、試料の末尾が“-2”のシリコーン組成物をB剤として、A剤とB剤とを混合し、25℃で24時間静置して、試料10~試料13の硬化型グリスの混合組成物をそれぞれ調製した。そして、各組成物を外径7mm、内径3mm、厚さ1mmのトロイダル形状に形成して透磁率測定用試験片を作製した。これをベクトルネットワークアナライザE5071A(Keysight社製)と磁性材料測定電極である同軸サンプルホルダCSH2-APC7(関東電子応用開発製)を用い、周波数100MHz~18GHzにおける比透磁率μ’を測定した。表4には、10GHzにおける比透磁率を記載する。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
<試験結果の分析>
【0118】
試料3-1~4-2の結果より、シリカ粉を非液状の増粘抑制沈降防止剤として用いた場合、粘度の上昇があり、添加量が多いと粘度の測定ができなかった。調製直後のシリコーン組成物の粘度は、対照試料1-1、1-2に比べ、試料1-1~2-2および6-1~9-2は、粘度低下効果が見られた。試料5-1~5-2は、増粘効果がやや見られた。
【0119】
沈降抑制効果について、対照試料1-1,1-2の沈降状態の結果を勘案すると、増粘抑制沈降防止剤を添加した試料1-1~9-2は、全て、沈降抑制効果があることが分かった。
【0120】
熱伝導性能について、試料1-1~9-2のそれぞれの混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスは、増粘抑制沈降防止剤を添加しても、増粘抑制沈降防止剤未添加の対照試料1-1,1-2の混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスと、同等程度の熱伝導率を発現することが分かった。
【0121】
電磁波吸収性能について、試料1-1~3-2,6-1~9-2のそれぞれの混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスは、増粘抑制沈降防止剤を添加しても、増粘抑制沈降防止剤未添加の対照試料1-1,1-2の混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスと、同等程度の比透磁率を発現することが分かった。また、試料3-1,3-2の混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスと、試料4-1,4-2の混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスとを比べると、フュームド混合酸化物の添加量が多過ぎる場合、比透磁率が下がることが分かった。また、試料5-1,5-2の混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスは、増粘抑制沈降防止剤未添加の対照試料1-1,1-2の混合物から得られる2液硬化型の硬化型グリスに比べ、比透磁率がやや低くなることが分かった。
【0122】
試料10-1~13-2の結果より、高比重軟磁性充填材として、軟磁性Ni-Znフェライトよりも比重の大きいFe-Cr系の鉄合金であるマルテンサイト系ステンレス鋼や、Fe-Si-Cr系の鉄合金であるステンレス鋼を用いた場合には、全体の粘度が高くなったため、分離が起こり難くなっていたため、離油度が小さい値となり、充填材の沈降もそれほど目立って起こらなかったことが分かった。しかしながら、増粘抑制沈降防止剤を添加して用いることによって、粘度を幾分減少させ、上昇させることなく、離油度を小さく、分離し難くして、沈降状態も全く分離していない状態で沈降の無い組成物とすることができることが分かった。このことから、高比重軟磁性充填材として、軟磁性Ni-Znフェライトよりも比重の大きい鉄合金を用いても、増粘抑制沈降防止剤を添加すれば、シリコーン組成物中において、液状シリコーンに比べて比重の高い高比重軟磁性充填材および中比重熱伝導性充填材の沈降を抑制できることが分かった。なお、熱伝導率と比透磁率に関しては、増粘抑制沈降防止剤の添加をしても、特に大きな変化がないことが分かった。