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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】鋳型及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20240319BHJP
   B22C 9/00 20060101ALI20240319BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20240319BHJP
   B22C 1/18 20060101ALI20240319BHJP
   B22C 1/22 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B22C9/02 103H
B22C9/00 A
B22C1/10 C
B22C1/10 E
B22C1/18 B
B22C1/22 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023135285
(22)【出願日】2023-08-23
【審査請求日】2023-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597113871
【氏名又は名称】株式会社浅沼技研
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】上久保 佳則
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】蒲澤 知英
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正詞
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-022531(JP,A)
【文献】実開昭57-165338(JP,U)
【文献】特開2022-093531(JP,A)
【文献】特開2019-166540(JP,A)
【文献】特開平03-128144(JP,A)
【文献】特開2005-193267(JP,A)
【文献】特開2018-176201(JP,A)
【文献】成田祐喜,(4)Weibull分布による鋳物砂の粒度分布表示および粒度管理について,日本鉱業会誌,99巻1142号,日本,1983年04月,286頁-290頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00
B22C 1/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成され、当該空間部に溶湯を流し込んで鋳物を成形可能な鋳型であって、
前記空間部の少なくとも所定部位の外輪郭において鋳物形状に沿って金属粒子及びバインダの混錬部材から成る冷し金部が形成され、前記鋳物砂から成る鋳物砂部と前記冷し金部とを有するとともに、前記冷し金部の金属粒子は、前記鋳物砂部の鋳物砂の粒度と等しいことを特徴とする鋳型。
【請求項2】
前記冷し金部は、前記所定部位の湾曲部に沿って形成されたことを特徴とする請求項1記載の鋳型。
【請求項3】
前記冷し金部の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以下とされたことを特徴とする請求項2記載の鋳型。
【請求項4】
前記冷し金部は、前記金属粒子が鉄から成るとともに、前記バインダが水ガラスまたはアルカリフェノールから成ることを特徴とする請求項1記載の鋳型。
【請求項5】
鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成され、当該空間部に溶湯を流し込んで鋳物を成形可能な鋳型の製造方法であって、
型枠内に鋳物形状に倣った外輪郭を有する模型を収容する模型収容工程と、
前記型枠に収容された前記模型の少なくとも所定部位に金属粒子及びバインダの混錬部材を被せた後、突き固めることにより鋳物形状に沿って冷し金部を形成する冷し金部形成工程と、
前記冷し金部が形成された前記模型を含む型枠内に鋳物砂を充填させて鋳物砂部を形成する鋳物砂充填工程と、
前記模型及び型枠を取り除いて前記鋳物形状に沿った空間部が形成された鋳型を得る空間部形成工程と、
を有し、前記冷し金部の金属粒子は、前記鋳物砂部の鋳物砂の粒度と等しいことを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項6】
前記冷し金部は、前記所定部位の湾曲部に沿って形成されたことを特徴とする請求項5記載の鋳型の製造方法。
【請求項7】
前記冷し金部の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以下とされたことを特徴とする請求項6記載の鋳型の製造方法。
【請求項8】
前記冷し金部は、前記金属粒子が鉄から成るとともに、前記バインダが水ガラスまたはアルカリフェノールから成ることを特徴とする請求項5記載の鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成され、当該空間部に溶湯を流し込んで鋳物を成形可能な鋳型及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄や鉄鋼などの鉄系鋳物や銅合金やアルミニウム合金などの非鉄合金鋳物を製造するため、鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成された鋳型(砂型)が用いられている。かかる鋳型は、鋳物砂内の空間部に溶湯を流し込み、冷却固化させることで所望形状の鋳物を得るものであり、例えば押湯に向かう指向性凝固を促すとともに肉厚部の引け巣を防止するため、ブロック状に形成された鉄製の成る冷し金を使用するものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来の冷し金は、型枠に収容された模型の所定部位に当てた状態で設置されるものとされ、冷し金を模型の所定部位に当てた状態を維持しつつ型枠内に鋳物砂を充填した後、模型を型枠から取り除くことにより鋳型(砂型)が得られるようになっていた。このようにして得られた鋳型は、鋳物砂内に模型に沿った空間部が形成されるので、その空間部に溶湯を注ぎ込んで冷却固化させることにより鋳物が形成されるとともに、冷し金が設置された部位の冷却速度を向上させて引け巣の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭57-165338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の鋳型で使用される冷し金は、ブロック状に形成された鉄製部材から成るので、鋳物形状の湾曲した部位に使用した場合、その湾曲形状に沿って配設することができず、有効な冷却効果を得ることができないという不具合があった。また、鋳物形状の湾曲した部位と冷し金との間に隙間が生じてしまい、その隙間に溶湯が流れ込んで余分な駄肉が形成されることから、当該駄肉を切削加工するための後工程が必要とされた。さらに、従来の冷し金の表面には、鋳造時に発生するガスを抜くための複数の溝が形成されており、このガス抜き用の溝形状が鋳物の表面に転造されてしまうことから、後工程にて当該溝形状を切削加工する必要もあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、鋳物形状に沿って冷し金部を形成することができ、有効な冷却効果を得ることができるとともに、冷し金に起因する不要な駄肉や形状の生成を回避して後工程を簡素化することができる鋳型及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成され、当該空間部に溶湯を流し込んで鋳物を成形可能な鋳型であって、前記空間部の少なくとも所定部位の外輪郭において鋳物形状に沿って金属粒子及びバインダの混錬部材から成る冷し金部が形成され、前記鋳物砂から成る鋳物砂部と前記冷し金部とを有するとともに、前記冷し金部の金属粒子は、前記鋳物砂部の鋳物砂の粒度と等しいことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の鋳型において、前記冷し金部は、前記所定部位の湾曲部に沿って形成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の鋳型において、前記冷し金部の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以下とされたことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の鋳型において、前記冷し金部は、前記金属粒子が鉄から成るとともに、前記バインダが水ガラスまたはアルカリフェノールから成ることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成され、当該空間部に溶湯を流し込んで鋳物を成形可能な鋳型の製造方法であって、型枠内に鋳物形状に倣った外輪郭を有する模型を収容する模型収容工程と、前記型枠に収容された前記模型の少なくとも所定部位に金属粒子及びバインダの混錬部材を被せた後、突き固めることにより鋳物形状に沿って冷し金部を形成する冷し金部形成工程と、前記冷し金部が形成された前記模型を含む型枠内に鋳物砂を充填させて鋳物砂部を形成する鋳物砂充填工程と、前記模型及び型枠を取り除いて前記鋳物形状に沿った空間部が形成された鋳型を得る空間部形成工程とを有し、前記冷し金部の金属粒子は、前記鋳物砂部の鋳物砂の粒度と等しいことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の鋳型の製造方法において、前記冷し金部は、前記所定部位の湾曲部に沿って形成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の鋳型の製造方法において、前記冷し金部の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以下とされたことを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項5記載の鋳型の製造方法において、前記冷し金部は、前記金属粒子が鉄から成るとともに、前記バインダが水ガラスまたはアルカリフェノールから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属粒子及びバインダの混錬部材から成る冷し金部が形成されたので、鋳物形状に沿って冷し金部を形成することができ、有効な冷却効果を得ることができるとともに、冷し金に起因する不要な駄肉や形状の生成を回避して後工程を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る鋳型の製造方法を示すフローチャート
図2】同鋳型を製造するために使用される型枠及び模型を示す平面図
図3図2におけるIII-III線断面図
図4図2におけるIV-IV線断面図
図5】同鋳型を製造するために使用される型枠内の模型に冷し金部を形成した状態を示す平面図
図6図5におけるVI-VI線断面図
図7図5におけるVII-VII線断面図
図8】同鋳型を製造するために使用される型枠(上型用型枠)内に鋳物砂を充填させた状態を示す断面図
図9】同鋳型を製造するために使用される型枠(下型用型枠)内に鋳物砂を充填させた状態を示す断面図
図10】上型用型枠、下型用型枠、模型を取り除いて得られた上型及び下型を示す平面図
図11】上型及び下型を合致させて成る鋳型を示す平面図及び正面図
図12図11におけるXII-XII線断面図
図13図11におけるXIII-XIII線断面図
図14】同鋳型により得られた鋳物を示す正面図及び側面図
図15】比較のための鋳型(冷し金部を有さない鋳型)により得られた鋳物の組織を示す顕微鏡写真
図16】本発明の鋳型により得られた組成(冷し金部で生成された部位の組成)を示す顕微鏡写真
図17】実験により得られた比較例1、2及び実施例1、2の機械的性質を示す表
図18】実験により得られた比較例1、2及び実施例1、2の機械的性質(平均)を示す表
図19】実験により得られた比較例1、2及び実施例1、2の機械的性質(引張強さ)を示すグラフ
図20】実験により得られた比較例1、2及び実施例1、2の機械的性質(伸び)を示すグラフ
図21】実験で使用された比較例1、2としての鋳物砂の詳細を示す表
図22】実験で使用された実施例1、2としての金属粒子(鉄粒)の詳細を示す表
図23】実験で使用された比較例1、2及び実施例1、2の粒度分布を示すグラフ
図24】実験で使用された比較例1及び実施例2、3の冷却時間を示すグラフ
図25】実験で使用された比較例1及び実施例3の鋳型により得られた鋳物の鋳肌を示す写真
図26】実験で使用された比較例1及び実施例2、3の冷却時間を示すグラフ
図27】実験で使用された比較例1及び実施例2、3の機械的性質を示す表
図28】実験により得られた比較例1及び実施例2、3の機械的性質(引張強さ)を示すグラフ
図29】実験により得られた比較例1及び実施例2、3の機械的性質(伸び)を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る鋳型は、鋳物形状に沿った空間部が鋳物砂内に形成され、当該空間部に溶湯を流し込んで鋳物を成形可能な砂型から成り、図11~13に示すように、上型1及び下型2と、上型1及び下型2のそれぞれに形成された冷し金部3及び鋳物砂部4と、上型1及び下型2を合致して形成される空間部5と、湯口6及び湯道7、8とを有して構成されている。
【0018】
鋳物Wは、鋳型により成形される製品または部品から成り、本実施形態においては、図14に示すように、引張強度及び伸びを試験するためのワーク(引張試験装置にセット可能なワーク)から成る。空間部5は、鋳物形状(鋳物Wの外周形状)に沿った外輪郭形状の空間から成り、図11に示すように、上型1及び下型2を合致することにより、鋳物砂部4及び冷し金部3の内部に形成されている。
【0019】
具体的には、空間部5は、鋳物砂及び金属粒子を模型(Ma~Md)の外周面に突き固めることにより得られた空間から成り、所望の溶融金属から成る溶湯が流し込まれた後、冷却固化することにより鋳物Wを得ることができるようになっている。鋳物砂部4は、鋳型(上型用型枠K1及び下型用型枠K2)内に鋳物砂を充填することにより形成されており、本実施形態においては、空間部5に加えて湯口6及び湯道7、8が形成されている。
【0020】
ここで、冷し金部3は、金属粒子及びバインダの混錬部材から成るもので、本実施形態においては、金属粒子として微小径の鉄粒(鉄製の球状部材)が用いられている。かかる冷し金部3は、空間部5の所定部位(湾曲部や複雑な形状部)の外輪郭に沿って形成されており、鋳造時、鋳物W(鋳造品)の所定部位において冷却速度が不均一になって巣が発生することを防止する冷し金として機能するものである。
【0021】
また、本実施形態に係る冷し金部3の金属粒子は、鋳物砂部4の鋳物砂の粒度と略等しいものとされており、例えば冷し金部3の金属粒子及び鋳物砂部4の鋳物砂の粒度は、590μm以下とされている。さらに、冷し金部3は、鉄から成る金属粒子に加えて水ガラスまたはアルカリフェノールから成るバインダが混錬された混錬部材を模型(M1、M2)の所定位置に突き固めることにより成形されるようになっている。
【0022】
次に、本実施形態に係る鋳型の製造方法について、図1のフローチャートに基づいて説明する。
まず、型枠内に鋳物形状に倣った外輪郭を有する模型を収容する模型収容工程S1が行われる。かかる模型収容工程S1は、図2~4に示すように、上型用型枠K1内に鋳物Wの上半分の外周形状に倣った半割模型Ma、Mbが形成された模型M1を収容するとともに、下型用型枠K2内に鋳物Wの下半分の外周形状に倣った半割模型Mc、Mdが形成された模型M2を収容する。なお、上型用型枠K1には、模型M1、M2に加えて、湯口形状部材Na、及び湯道形状部材Nc、Ndが収容されるとともに、下型用型枠K2には、模型Mc、Mdに加えて、湯道形状部材Nbが収容されている。
【0023】
その後、冷し金部3を形成する冷し金部形成工程S2が行われる。かかる冷し金部形成工程S2は、図5~7に示すように、上型用型枠K1及び下型用型枠K2にそれぞれ収容された模型Mの半割模型(Ma~Md)の少なくとも所定部位(本実施形態においては、半割模型Ma~Mdにおける湾曲部を含む中央部位)に金属粒子及びバインダの混錬部材をそれぞれ被せた後、突き固めることにより冷し金部3が形成される。冷し金部3を構成する金属粒子は、既述の如く微小径の鉄粒(鉄製の粒状部材)から成り、鋳物砂部4の鋳物砂の粒度(590μm以下)と略等しいものとされるとともに、バインダは、水ガラスまたはアルカリフェノールから成るものとされている。
【0024】
続いて、鋳物砂部4を形成する鋳物砂充填工程S3が行われる。かかる鋳物砂充填工程S3は、図8、9に示すように、冷し金部3が形成された模型(M1、M2)を含む型枠(上型用型枠K1及び下型用型枠K2)内に鋳物砂を充填させる工程である。そして、鋳物砂充填工程S3の後、空間部形成工程S4にて上型用型枠K1及び模型M1と、下型用型枠K2及び模型M2とをそれぞれ取り除くことにより鋳物形状に沿った空間部5を形成することができる。
【0025】
また、空間部形成工程S4において、湯口形状部材Naを取り除くことにより湯口6が形成されるとともに、湯道形状部材Nb~Ndを取り除くことにより湯道7、8が形成されることとなる。このように、模型収容工程S1、冷し金部形成工程S2、鋳物砂充填工程S3及び空間部形成工程S4を経ることにより、上型1及び下型2を得ることができ、これら上型1及び下型2を図11に示す如く合致させることにより、空間部5を内在させた鋳型を得ることができる。
【0026】
このようにして得られた鋳型における空間部5は、湯口6及び湯道7、8と連通して形成されており、湯口6から溶湯を供給すると、その供給された溶湯が湯道7を介して空間部5に至り、さらに湯道7に流し込まれるようになっている。そして、空間部5に流し込まれた溶湯が冷却固化した後、上型1及び下型2を壊すことにより、鋳物W(図14参照)を得ることができる。なお、鋳造過程において湯道7に流れ込んだ溶湯は、空間部5内の溶湯が冷却固化する際の押湯として機能することとなる。
【0027】
本実施形態に係る鋳型によれば、金属粒子及びバインダの混錬部材から成る冷し金部3が形成されたので、鋳物形状に沿って冷し金部3を形成することができ、有効な冷却効果を得ることができるとともに、従来の冷し金に起因する不要な駄肉や形状の生成を回避して後工程を簡素化することができる。また、冷し金部3の金属粒子は、鋳物砂の粒度と略等しいので、従来の鋳物砂のみで成形された鋳型(砂型)と同様の機能を発揮することができ、鋳造時に発生したガスを円滑に排出させることができる。
【0028】
さらに、冷し金部3の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以下とされることにより、より良好に鋳物形状に沿って冷し金部3を形成することができる。またさらに、冷し金部3は、金属粒子が鉄から成るとともに、バインダが水ガラスまたはアルカリフェノールから成るので、得られた鋳物の表面をより平滑な状態とすることができる。なお、冷し金部3の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以上であってもよく、バインダを他の材質のものとしてもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る鋳型の技術的優位性を実証するための実験結果について説明する。なお、実験では同一の溶湯を流し込んで同一形状の鋳物W(図14参照)を成形した。
比較例として、アルミナ系人口砂(新砂)にアルカリフェノールをバインダとして含有した鋳物砂を成形して成る鋳型を比較例1、アルミナ系人口砂(再生砂)にアルカリフェノールをバインダとして含有した鋳物砂を成形して成る鋳型を比較例2としてそれぞれ用意した。より具体的には、比較例1、2は、図21に示すような粒度指数(AFS:American Foundry Society)及び図23に示すような粒度分布の鋳物砂とされている。
【0030】
実施例として、鉄粒(AFS:73)に水ガラスをバインダとして含有した金属粒子を成形して成る鋳型を実施例1、鉄粒(AFS:132)に水ガラスをバインダとして含有した金属粒子を成形して成る鋳型を実施例2としてそれぞれ用意した。より具体的には、実施例1、2は、図22に示すような粒度指数(AFS:American Foundry Society)及び図23に示すような粒度分布の金属粒子とされている。
【0031】
なお、本発明は、空間部5の少なくとも所定部位の外輪郭に沿って金属粒子及びバインダの混錬部材から成る冷し金部3が形成されたものであるが、本発明の冷し金部3の効果を明確にするため、実験で使用される実施例の鋳型はすべて金属粒子及びバインダの混錬部材から成るもの(鋳物砂を充填しないもの)とされている。
【0032】
しかるに、図23で示されているように、実施例1、2の粒度分布は、比較例1、2のようにピークを有しており、全体的に類似したグラフとなっている。したがって、実施例1、2の金属粒子(鉄粒)は、比較例1、2の鋳物砂と同様の成形性を有しており、実用性があることが分かる。また、実施例1、2の金属粒子(鉄粒)は、比較例1、2の鋳物砂と同様の粒度分布とされているため、鋳造時の鋳肌が鋳物砂を用いた場合と同様に良好とされており、後工程の別個の整形は不要とされる。
【0033】
そして、比較例1の鋳型で成形したアルミ製の鋳物Wの顕微鏡写真を図15に示すとともに、実施例2の鋳型で成形したアルミ製の鋳物Wの顕微鏡写真を図16に示すことにより、互いの組織(ミクロ組織)を比較すると、実施例2の鋳物Wの方が比較例1の鋳物Wよりも白い部分(初晶α-Al)が小さい(すなわち、DAS(デンドライトスペーシング)と称される指標が小さい)ことが分かる。その結果、実施例2の鋳物Wの方が比較例1の鋳物Wよりも機械的性質(引張強さ及び伸び)に優れていることが分かる。
【0034】
また、比較例1の顕微鏡写真(図15参照)で観察される黒い部分は、ミクロシュリンケージ(微小引け巣)と称される欠陥であり、これは実施例2の顕微鏡写真ではほとんど観察されない。その結果、実施例2の鋳型で得られた鋳物Wの方が比較例1の鋳型で得られた鋳物Wよりも引け巣が生じる可能性が小さく、冷し金効果が発揮されていることが分かる。
【0035】
次に、比較例1、2の鋳型で成形したアルミ製の鋳物Wと、実施例1、2の鋳型で成形したアルミ製の鋳物Wとを引張試験装置にセットして機械的性質(引張強さ及び伸び)について比較したところ、図17、18の表、及び図19、20のグラフで示されるように、引っ張り強さ及び伸びの何れも実施例1、2の鋳物Wの方が比較例1、2の鋳物Wよりも優れていることが分かる。
【0036】
さらに、実施例として、鉄粒(AFS:132)にアルカリフェノールをバインダとして含有した金属粒子を成形して成る鋳型を実施例3として用意した。より具体的には、実施例3は、実施例2と同様、図22に示すような粒度指数(AFS:American Foundry Society)及び図23に示すような粒度分布の金属粒子を使用しつつ、バインダを水ガラスからアルカリフェノールに変更したもの(すなわち、実施例2に対してバインダのみ変更したもの)とされている。
【0037】
そして、比較例1の鋳型(α1、α2の2つの試料を用意した。以下同じ。)、実施例2の鋳型(β1、β2)及び実施例3の鋳型(γ1、γ2)のそれぞれの空間部に熱電対を設置し、690℃のJISアルミニウム合金AC2Bを各空間部に流し込んで鋳物Wの成形過程の温度変化を測定したところ、図24で示すように、実施例3の鋳型(γ1、γ2)の冷却速度が最も高く、続いて実施例2の鋳型(β1、β2)の冷却速度が高いことが分かった。
【0038】
さらに、比較例1の鋳型(α1、α2)、実施例2の鋳型(β1、β2)及び実施例3の鋳型(γ1、γ2)の冷却速度(585~565℃)と冷却時間(最高到達温度~550℃)を測定して比較したところ、図26に示すように、実施例2の鋳型(β1、β2)及び実施例3の鋳型(γ1、γ2)の方が比較例1の鋳型(α1、α2)より冷却速度が高く、冷却時間が短いことが分かる。したがって、実施例3の鋳型(γ1、γ2)及び実施例2の鋳型(β1、β2)は、比較例1の鋳型(α1、α2)より冷却速度が高く、冷し金効果を発揮し得ることが分かる。
【0039】
加えて、比較例1の鋳型(α1、α2)で得られた鋳物Wの表面と、実施例3の鋳型(γ1、γ2)で得られた鋳物Wの表面とを比較したところ、図25に示すように、実施例3の鋳型(γ1、γ2)で得られた鋳物Wの表面の方が比較例1の鋳型(α1、α2)で得られた鋳物Wの表面より平滑であることが分かる。したがって、実施例3の鋳型(γ1、γ2)で得られた鋳物Wは、その鋳肌が細かく、後工程で研磨等が不要または少ない研磨で済むことが分かる。
【0040】
次に、比較例1の鋳型で成形したアルミ製の鋳物Wと、実施例2、3の鋳型で成形したアルミ製の鋳物Wとを引張試験装置にセットして機械的性質(引張強さ及び伸び)について比較したところ、図27の表、及び図28、29のグラフで示されるように、引っ張り強さ及び伸びの何れも実施例2、3の鋳物Wの方が比較例1の鋳物Wよりも優れていることが分かる。
【0041】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、冷し金部3を構成する金属粒子として鉄に代えて他の金属を用いてもよく、他のバインダを用いるようにしてもよい。すなわち、本実施形態においては、無機系のバインダである水ガラスや有機系のバインダであるアルカリフェノールを用いた自硬性鋳型が適用されているが、無機系の他のバインダや有機系の他のバインダを用いてもよい。また、本実施形態で適用された無機系CO型のガス硬化性鋳型の他、粘土系鋳型、熱硬化性鋳型等、他の形態の砂型に適用するようにしてもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、冷し金部3の金属粒子の粒度が鋳物砂部4の鋳物砂の粒度と略等しくされているが、冷し金部3の金属粒子の粒度の方が鋳物砂部4の鋳物砂の粒度より大きいまたは小さいものであってもよい。さらに、本実施形態においては、冷し金部3の金属粒子及び鋳物砂の粒度は、590μm以下とされているが、他の粒度の金属粒子及び鋳物砂を用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明と同様の趣旨であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 上型(鋳型)
2 下型(鋳型)
3 冷し金部
4 鋳物砂部
5 空間部
6 湯口
7、8 湯道
M1、M2 模型
Ma~Md 半割模型(鋳物形状)
Na 湯口形状部材
Nb~Nd 湯道形状部材
K1 上型用型枠
K2 下型用型枠
W 鋳物
【要約】
【課題】鋳物形状に沿って冷し金部を形成することができ、有効な冷却効果を得ることができるとともに、冷し金に起因する不要な駄肉や形状の生成を回避して後工程を簡素化することができる鋳型及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鋳物形状に沿った空間部5が鋳物砂内に形成され、当該空間部5に溶湯を流し込んで鋳物Wを成形可能な鋳型の製造方法であって、型枠内に鋳物形状に倣った外輪郭を有する模型を収容する模型収容工程S1と、型枠に収容された模型の少なくとも所定部位に金属粒子及びバインダの混錬部材を被せた後、突き固めて冷し金部3を形成する冷し金部形成工程S2と、冷し金部3が形成された模型を含む型枠内に鋳物砂を充填させる鋳物砂充填工程S3と、模型及び型枠を取り除いて鋳物形状に沿った空間部5が形成された鋳型を得る空間部形成工程S4とを有する。
【選択図】図1
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