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特許7456592黒鉛球状化処理装置、学習装置、および、マグネシウム投入量の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】黒鉛球状化処理装置、学習装置、および、マグネシウム投入量の決定方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/10 20060101AFI20240319BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240319BHJP
【FI】
C21C1/10 103
G06N20/00 130
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020054703
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155772
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上杉 徳照
(72)【発明者】
【氏名】小川 耕平
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-281804(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230399(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105785882(CN,A)
【文献】秋山和輝 他,人工知能を用いた球状黒鉛鋳鉄の取鍋Mg歩留まりに対する各種因子の影響度調査,鋳造工学 第171回全国講演大会講演概要集,公益社団法人日本鋳造工学会,2018年05月,第42頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/10
C22C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋内の溶湯にマグネシウムを投入するマグネシウム供給手段を備えた黒鉛球状化処理装置であって、
過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶するデータ記憶手段と、
前記データ記憶手段に記憶された過去の実績データのうち、前記結果データを含む直近の所定数の実績データを用いて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測し、当該予測結果と、予め定められた目標残留マグネシウム量と、処理杯の処理湯量とに基づいて、前記マグネシウム供給手段からのマグネシウム投入量を決定する決定手段とを備える、黒鉛球状化処理装置。
【請求項2】
前記決定手段は、処理湯量、処理前温度、および元湯成分の少なくとも一つを含む処理杯の溶湯条件データと、前記直近の所定数の実績データとに基づいて、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測する予測手段を含む、請求項1に記載の黒鉛球状化処理装置。
【請求項3】
前記データ記憶手段に記憶される実績データは、前記結果データに加え、前記溶湯条件データをさらに含む、請求項2に記載の黒鉛球状化処理装置。
【請求項4】
機械学習により生成された学習モデルを記憶するモデル記憶手段をさらに備え、
前記決定手段は、少なくとも前記直近の所定数の実績データを前記学習モデルに入力して、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測する、請求項1~3のいずれかに記載の黒鉛球状化処理装置。
【請求項5】
取鍋内の溶湯にマグネシウムを投入するマグネシウム供給手段を備えた黒鉛球状化処理装置における黒鉛球状化処理ごとの、マグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、過去の実績データを記憶する履歴データ記憶手段と
前記履歴データ記憶手段に記憶された過去の実績データのうち、前記結果データを含む直近の所定数の実績データと、処理杯の処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりとの相関を機械学習して学習モデルを生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された前記学習モデルを記憶するモデル記憶手段とを備える、学習装置。
【請求項6】
前記学習モデルを評価する評価手段をさらに備え、
前記評価手段は、前記学習モデルを用いて予測される処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりよりも、実測値の方が低くなった場合に、同量だけ高くなった場合よりも誤差を大きく評価する、請求項5に記載の学習装置。
【請求項7】
黒鉛球状化処理装置におけるマグネシウム投入量の決定方法であって、
過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶部に記憶するステップと、
前記記憶部に記憶された過去の実績データのうち、前記結果データを含む直近の所定数の実績データを用いて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測するステップと、
前記予測するステップにおける予測結果と、予め定められた目標残留マグネシウム量と、処理杯の処理湯量とに基づいて、処理杯のマグネシウム投入量を決定するステップとを備える、マグネシウム投入量の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛球状化処理装置、学習装置、および、マグネシウム投入量の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄、すなわちダクタイル鋳鉄は、強度および延性に優れているため、上下水道用の鉄管など様々な分野の製品に利用されている。ダクタイル鋳鉄は、溶湯にマグネシウムを添加して晶出する黒鉛を球状化する黒鉛球状化処理を経て製造される。
【0003】
特開2005-281804号公報(特許文献1)では、黒鉛球状化処理において生じるマグネシウムのフェーディングに対処するために、溶湯中のマグネシウム含有量を実時間で予測演算し、その結果に基づいて、マグネシウムの補充添加のタイミングおよび量を制御する技術が提案されている。具体的には、取鍋内の溶湯中の成分を分析して得られた実測値、溶湯温度、溶湯量、および経過時間を所定の積分式に代入して、溶湯中のマグネシウム含有量を予測演算している。
【0004】
特開2005-298843号公報(特許文献2)では、制御装置の演算部が、溶鉄の質量、処理前の溶鉄中S(硫黄)濃度、ならびに、事前に操作盤に入力した処理後の溶鉄中Mg(マグネシウム)濃度の目標値およびMgの添加歩留まり設定値に基づいて、Mg投入量を、鉄被覆Mgワイヤーの長さとして演算する技術が提案されている。
【0005】
また、菅野 利猛 著,“鋳造分野におけるIoT化への挑戦”,素形材Vol.59(非特許文献1)では、ニューラルネットワークを用いて黒鉛球状化処理における取鍋のMg歩留まりを予測した例が記載されている。AIに入力するデータを単純な生データだけにすると、実測Mg歩留まり(教師データ)と予測Mg歩留まりとの相関は低く、生データに理論的データを加味すると、相関が高くなることが記載されている。生データは、取鍋の比表面積、Mgの添加量、球状化処理温度、ワイヤーの送り速度、元湯の成分値である。理論的データは、溶存可能Mg量、Mgと結合する各種元素(O、S、N)の分子量比と反応量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-281804号公報
【文献】特開2005-298843号公報(特許第3939307号)
【非特許文献】
【0007】
【文献】菅野 利猛 著,“鋳造分野におけるIoT化への挑戦”,素形材Vol.59,No.6,pp.13-19,2018年6月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
黒鉛球状化処理において、投入したマグネシウムの一部は気化したり他の元素と化合したりして溶湯中に留まれないため、処理後のマグネシウム含有量は、マグネシウム投入量の他、溶解主原料、副原料、溶解方法、球状化処理方法、などの様々な詳細な条件により複雑に変動する。したがって、特許文献1、2のような技術を用いてマグネシウム投入量を演算する場合、事前に人が予測する等の方法で歩留まりを設定する必要がある。
【0009】
また、非特許文献1では、黒鉛球状化後のマグネシウム歩留まりをAIで予測しているが、生データおよび理論的データに含まれる多くの条件データを説明変数として入力したとしても、歩留まりに影響する全ての条件を事前に把握することは困難であるため、マグネシウム歩留まりを高精度に予測できるとは限らない。そのため、多くの条件データに基づいて取鍋へのマグネシウム投入量を決定したとしても、目標のマグネシウム含有量を実現できない可能性がある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、効率良く目標のマグネシウム含有量を実現することのできる黒鉛球状化処理装置、および、マグネシウム投入量の決定方法を提供することである。
【0011】
また、効率良く目標のマグネシウム含有量を実現するために好適な学習装置を提供することも、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面に従う黒鉛球状化処理装置は、取鍋内の溶湯にマグネシウムを投入するマグネシウム供給手段を備えた黒鉛球状化処理装置であって、データ記憶手段と、決定手段とを備える。データ記憶手段は、過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶する。決定手段は、データ記憶手段に記憶された過去の実績データに基づいて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測して、マグネシウム供給手段からのマグネシウム投入量を決定する。
【0013】
好ましくは、決定手段は、処理湯量、処理前温度、および元湯成分の少なくとも一つを含む処理杯の溶湯条件データと、過去の実績データとに基づいて、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測する予測手段を含む。
【0014】
データ記憶手段に記憶される実績データは、結果データに加え、溶湯条件データをさらに含むことが望ましい。
【0015】
より好ましくは、黒鉛球状化処理装置は、機械学習により生成された学習モデルを記憶するモデル記憶手段をさらに備える。この場合、決定手段(予測手段)は、少なくとも過去の実績データを学習モデルに入力して、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測する。
【0016】
この発明の他の局面に従う学習装置は、生成手段と、モデル記憶手段とを備える。生成手段は、過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、過去の実績データと、処理杯の処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりとの相関を機械学習して学習モデルを生成する。モデル記憶手段は、生成手段により生成された学習モデルを記憶する。
【0017】
好ましくは、学習装置は、学習モデルを評価する評価手段をさらに備える。この場合、評価手段は、学習モデルを用いて予測される処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりよりも、実測値の方が低くなった場合に、同量だけ高くなった場合よりも誤差(損失)を大きく評価することが望ましい。
【0018】
この発明のさらに他の局面に従うマグネシウム投入量の決定方法は、黒鉛球状化処理装置におけるマグネシウム投入量の決定方法であって、過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶部に記憶するステップと、記憶部に記憶された過去の実績データに基づいて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のマグネシウム含有量または歩留まりを予測するステップと、予測結果に応じて、処理杯のマグネシウム投入量を決定するステップとを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、効率良く目標のマグネシウム含有量を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態におけるダクタイル鋳鉄の製造工程を概略的に示す図である。
図2】(A)は、本発明の実施の形態に係る黒鉛球状化処理装置の機能構成を示すブロック図であり、(B)は、本発明の実施の形態に係る学習装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態における予測モデルを用いたMg歩留まりの予測方法を、比較例と比較して概念的に示す図である。
図4】本発明の実施野形態における予測モデルでMg歩留まりを予測した場合のシミュレーション結果を、比較例と比較して示す図である。
図5】予測モデルの評価に用いる誤差関数(損失関数)の種類を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における黒鉛球状化処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
<ダクタイル鋳鉄の製造工程の概要>
はじめに、図1を参照して、ダクタイル鋳鉄の製造工程の概要について説明する。図1は、本実施の形態におけるダクタイル鋳鉄の製造工程を概略的に示す図である。
【0023】
本実施の形態において、ダクタイル鋳鉄は、溶解工程P1、脱硫工程P2、溶湯保持工程P3、溶湯成分分析工程P4、成分調整工程P5、球状化処理工程P6、除滓工程P7、鋳造工程P8を順に経て、製造される。
【0024】
溶解工程P1において、銑鉄、屑鉄、鋼材等の溶湯材が、キュポラなどの溶解炉11において溶解される。溶解炉11としては、たとえば電気炉が採用され得る。
【0025】
脱硫工程P2において、溶解炉11で生成された溶湯が、脱硫用の取鍋12へと注入され、取鍋12内の溶湯中の硫黄分が除去される。なお、脱硫工程P2は省略してもよい。
【0026】
溶湯保持工程P3において、脱硫後の溶湯が、溶湯保持用の低周波炉13に注入され、保持される。
【0027】
溶湯成分分析工程P4においては、QV(カントバック)分析装置14によって、低周波炉13内の溶湯の成分が分析される。低周波炉13内の溶湯は、成分分析後に、所定容量(たとえば6t)の取鍋15に注入される。
【0028】
成分調整工程P5においては、QV分析装置14による分析結果に基づいて、溶湯中の成分を調整する。具体的には、QV分析装置14による分析結果が成分調整装置16に入力され、成分調整装置16によって、取鍋15内の溶湯に添加するカーボン(C)、シリコン(Si)、などの元素成分量が調整される。
【0029】
球状化処理工程P6においては、黒鉛球状化処理装置(以下「球状化処理装置」と略す)20が、溶湯中の黒鉛を球状化する処理を実行する。本実施の形態では、コアードワイヤー装置21によって、取鍋15内にマグネシウムが投入される。
【0030】
コアードワイヤー装置21は、ワイヤーコイル26からワイヤー22を引き出して取鍋15に供給する供給装置23と、ワイヤーコイル26から供給装置23へのワイヤー22の移動をガイドするガイド部材24とを含む。ワイヤー22は、粒状のマグネシウム合金が鉄製外皮内に内包されて構成されたコアードワイヤーである。ワイヤー22が取鍋15に供給されることにより、取鍋15内の溶湯にマグネシウムが添加(投入)される。供給装置23は、マグネシウム供給手段として機能し、ワイヤー22を引き出すための駆動部を含む(図示せず)。
【0031】
供給装置23は、制御装置25により制御される。制御装置25は、球状化処理の度に(すなわち処理杯ごとに)、取鍋15へのマグネシウム投入量を決定し、供給装置23に指示する。供給装置23は、指示されたマグネシウム投入量に応じた長さ分、取鍋15にワイヤー22を供給する。制御装置25は、上述のQV分析装置14と有線または無線にて接続されており、QV分析装置14による分析結果をマグネシウム投入量の決定に利用可能である。本実施の形態に係る球状化処理装置20は、コアードワイヤー装置21、制御装置25、およびQV分析装置14を含む。なお、制御装置25は、コアードワイヤー装置21に組み込まれていてもよい。
【0032】
除滓工程P7においては、球状化処理後の取鍋15Aがコアードワイヤー装置21から取り出され、取鍋15A内の溶湯からスラグが除去される。除滓処理後の取鍋15Bは、クレーン等の搬送手段で鋳造工程P8へと搬送される。上述のQV分析装置14は、球状化処理後の取鍋15A内の溶湯の成分を分析し、その分析結果を球状化処理装置20の制御装置25に出力する。なお、球状化処理前の溶湯の成分を分析するQV分析装置と、球状化処理後の溶湯の成分を分析するQV分析装置とが、個別に設けられていてもよい。
【0033】
鋳造工程P8において、取鍋15B内の溶湯を鋳型に流し込み、ダクタイル鋳鉄が鋳造される。
【0034】
球状化処理後の取鍋15A内の溶湯のマグネシウム含有量(以下「残留Mg量」ともいう)が規定量よりも少ない場合、ダクタイル鋳鉄の品質が低下する。そのため、球状化処理工程P6においては、残留Mg量が目標値(規定量以上)の目標残留Mgとなるように、できるだけ過不足なくマグネシウムを取鍋15に投入することが望まれる。
【0035】
本実施の形態に係る球状化処理装置20は、Mg歩留まりを示す結果データを含む、過去の実績データに基づいて、マグネシウム投入量(以下「投入Mg量」ともいう)を決定する点を、主な特徴としている。Mg歩留まりは、次式により表わされる。
Mg歩留まり={処理湯量(出湯湯量+残湯量)×残留Mg量}/投入Mg量
【0036】
なお、Mg歩留まりは、上記式に表わされるように、投入Mg量および残留Mg量により求められるため、Mg歩留まりに代えて、投入Mg量と残留Mg量との組を結果データとして用いてもよい。
【0037】
<球状化処理装置の機能構成>
図2(A)を参照して、球状化処理装置20の機能構成について説明する。図2(A)は、本実施の形態に係る球状化処理装置20の機能構成を示すブロック図である。
【0038】
球状化処理装置20は、データ記憶部31と、モデル記憶部32と、決定部33と、指示出力部34と、結果取得部35とを含む。これら各部31~35は、図1に示した制御装置25に含まれる。
【0039】
データ記憶部31は、過去の実績データを、球状化処理ごと(杯ごと)に記憶する。データ記憶部31には、直近の所定数(たとえば2個)の実績データ(過去の杯情報)のみが記憶されてもよい。実績データは、球状化処理の各種条件を示す溶湯条件データと、球状化処理の結果データとを含む。
【0040】
溶湯条件データは、処理湯量、処理前温度、および元湯成分の全て、または少なくとも一つを含む。元湯成分はC含有量およびS含有量の両方、または少なくとも一方を含む。
【0041】
本実施の形態において、結果データはMg歩留まりを表わす。なお、上述のように、結果データは投入Mg量および残留Mg量であってもよい。つまり、データ記憶部31は、過去の杯におけるマグネシウム投入量と黒鉛球状化処理後の溶湯のマグネシウム含有量との組、または歩留まりを示す結果データを含む、実績データを記憶していればよい。
【0042】
モデル記憶部32は、予測モデル32Aを記憶する。予測モデル32Aは、後述する学習装置100において生成された学習モデルである。
【0043】
決定部33は、データ記憶部31に記憶された過去の実績データに基づいて、処理杯ごとに、処理後の溶湯のMg歩留まりを予測して、投入Mg量を決定する。つまり、決定部33は、予測モデル32Aに少なくとも過去の実績データを入力することにより、Mg歩留まりを予測する予測部36と、予測部36での予測結果(予測歩留まり)に応じて投入Mg量を演算する演算部37とを含む。予測部36によるMg歩留まりの予測方法については後に詳述する。
【0044】
演算部37は、次式により投入Mg量を演算する。
投入Mg量=(目標残留Mg×処理湯量)/予測歩留まり
【0045】
指示出力部34は、決定部33により決定された投入Mg量に応じた長さのワイヤー22を取鍋15に供給するよう、供給装置23に指示し、黒鉛の球状化を実施する。
【0046】
結果取得部35は、黒鉛球状化処理後の取鍋15A内の溶湯成分の分析結果をQV分析装置14から取得し、残留Mg量を検出する。また、検出した残留Mg量に基づいて、Mg歩留まりを算出する。算出したMg歩留まりが、結果データとしてデータ記憶部31に記憶される。
【0047】
なお、決定部33、指示出力部34、および結果取得部35の機能は、CPUなどのプロセッサがソフトウェアを実行することにより実現され得る。データ記憶部31およびモデル記憶部32は、不揮発性のメモリ、または、コンピュータに対して着脱可能な記録媒体により実現される。
【0048】
<Mg歩留まりの予測方法>
図3を参照して、本実施の形態における予測モデル32Aを用いたMg歩留まりの予測方法について説明する。図3(A)には比較例による予測方法を概念的に示し、図3(B)に本実施の形態(実施例)による予測方法を概念的に示している。
【0049】
図3(A)を参照して、通常の予測モデルであれば、これから処理する処理杯情報を説明変数として、目的変数であるMg歩留まり(または残留Mg量)を予測するように機械学習される。処理杯情報は溶湯条件データDaに相当し、Mg歩留まり(実測値)は結果データDbに相当する。溶湯条件データDaは、たとえば、各処理の基本情報(日付、時間、製品種)と、処理前の溶湯の各元素成分(C、Si、Mn、P、S、Cu、など)の割合を示す元湯成分と、残湯量および出湯湯量により特定される処理湯量と、処理前の溶湯温度を示す元湯温度とを含み、添加剤量をさらに含んでいる。
【0050】
これに対し、図3(B)を参照して、本実施の形態における予測モデル32Aは、処理杯情報だけでなく、過去の杯の情報すなわち実績データを説明変数として、Mg歩留まりを予測するように機械学習されている。ここで、実績データには、目的変数の答え(実測結果)であるMg歩留まりが含まれる。
【0051】
直近の二杯分の実績データを説明変数に含める場合、一杯前の実績データは、一杯前の球状化処理に関する溶湯条件データDa1および結果データDb1を含み、二杯前の実績データは、二杯前の球状化処理に関する溶湯条件データDa2および結果データDb2を含む。
【0052】
<予測モデルの生成方法>
図2(B)を参照して、予測モデル32Aの生成方法について説明する。図2(B)は、学習装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0053】
学習装置100は、履歴データ記憶部101と、モデル生成部102と、モデル記憶部103と、評価部104とを含む。学習装置100は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサおよびメモリを含むコンピュータにより実現される。
【0054】
モデル生成部102は、球状化処理装置20での球状化処理ごとに処理履歴データを生成し、生成した処理履歴データ1,2,・・・,nを、履歴データ記憶部101に記憶する。
【0055】
各処理履歴データ(k)は、上述の実績データに相当し、固有の識別データに対応付けて記憶された溶湯条件データおよび結果データを含む。識別データは、たとえば、図3(A)に示した基本情報に含まれる日付および製品種類が含まれる。溶湯条件データは、処理湯量、処理前温度、および元湯成分の全て、または、少なくとも一つを含む。溶湯条件データはまた、処理時間を含んでもよい。
【0056】
モデル生成部102は、履歴データ記憶部101に記憶された複数の処理履歴データに基づいて、処理杯のMg歩留まりを予測するための学習モデル、すなわち予測モデル103Aを生成する。具体的には、処理杯の溶湯条件データおよび過去の実績データ(Mg歩留まりを含む)と、処理杯の結果データであるMg歩留まりとの相関を機械学習して、予測モデル103Aを生成する。つまり、図3(B)に示したように、処理杯の溶湯条件データおよび過去の実績データを説明変数とし、処理杯のMg歩留まりを目的変数とする予測モデル103Aを生成する。
【0057】
機械学習に用いるアルゴリズムとしては、たとえば(重)回帰分析が採用され得るが、ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシン、決定木、k-NNなど他の手法が採用されてもよい。
【0058】
評価部104は、モデル生成部102により生成された予測モデル103Aの精度を評価し、評価結果をモデル生成部102に出力する。モデル生成部102は、Mg歩留まりの予測値と実測値(結果)との誤差を無くすように、予測モデル103Aを適宜修正する。
【0059】
ここで、評価部104は、予測モデル103Aを用いて予測されるMg歩留まりよりも、実測値(結果)の方が低くなった場合には、同量だけ高くなった場合よりも誤差(損失)を大きく評価することが望ましい。予測モデルの目的変数を処理後の溶湯の残留Mg量とする場合も同様である。
【0060】
図5を参照して、予測モデル103Aの評価に用いる誤差関数(損失関数)について説明する。機械学習の評価に用いる誤差関数としては、次の例1、2のようなものが一般的である。例1の誤差関数は、図5(B)のグラフに示されるように、予測値と実測値との差をそのまま絶対値で表し、絶対値の平均を評価結果として算出するものである。例2の誤差関数は、図5(C)のグラフに示されるように、予測値と実測値との差を二乗し、その平均の平方根を評価結果として算出するものである。
【0061】
これに対し、本実施の形態の誤差関数は、図5(D)のグラフに示されるように、予測値と実測値との差が正の値である場合にのみ、その値を定数倍(たとえば2倍)して、絶対値の平均を評価結果として算出するものである。そのため、図5(A)に示されるように、予測値と実測値との差が正(+側)のケースがいくつかあると、評価部104による評価結果(誤差)が、例1および例2の評価結果(誤差)よりも高くなり得る。
【0062】
このような評価方法を採用することにより、後の鋳造工程P8を経て得られる完成品の品質低下を防止できる。
【0063】
モデル生成部102により生成された予測モデル103Aが、球状化処理装置20のモデル記憶部32に予め、予測モデル32Aとして記憶されている。なお、球状化処理装置20が、学習装置100の機能を備え、球状化処理装置20において予測モデル32Aを随時更新できるようにしてもよい。
【0064】
<シミュレーション結果>
図4(A)は、比較例の予測モデルでMg歩留まりを予測する場合のシミュレーション結果を示す表であり、図4(B)は、本実施の形態の予測モデル103AでMg歩留まりを予測した場合のシミュレーション結果を示す表である。
【0065】
図4(A)は、図3(A)に示した比較例に従ったMg歩留まりの予測値および実測値(目的変数)を、基準値(Mg歩留まりの目標値)との差として示した表である。図4(B)は、図3(B)に示した本実施の形態における予測方法に従ったMg歩留まりの予測値および実測値(目的変数)を、同じく、基準値(Mg歩留まりの目標値)との差として示した表である。
【0066】
図4(A)を参照して、比較例においては、説明変数の欄CA1に、当該杯データ(処理杯情報)のみが含まれている。当該杯データは、図3(A)に示した溶湯条件データに相当する。目的変数の欄CA2には、各回のMg歩留まり実測値が、基準値(目標値)からの差分として示されている。予測値の欄CA3には、欄CA1の説明変数を入力として予測した場合の各回の予測Mg歩留まりが、基準値(目標値)からの差分として示されている。
【0067】
図4(B)を参照して、本実施例においては、説明変数の欄CB1に、当該杯データに加え、1杯前データおよび2杯前データが含まれている。1杯前データおよび2杯前データは、実績データに相当し、溶湯条件データと歩留まりデータ(結果データ)とを含んでいる。目的変数の欄CB2、および、予測値の欄CB3は、上記欄CA2,CA3と同様に、各値が、基準値(目標値)からの差分として示されている。
【0068】
図4(A),(B)のシミュレーション結果の評価を下記に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示されるように、マグネシウムの使用割合は、本実施例および比較例ともに同等で、予測誤差および目標下限外れ率は、比較例の方が実施例よりも高い。ここでの予測誤差は、図5の例2に従って計算した二乗平均平方根誤差であり、予測値と実測値との差を二乗し、その平均の平方根を誤差として表している。目標下限外れ率とは、予測値が目標下限値を外れて低くなった割合を表わす。マグネシウムの使用割合は、Mg歩留まり実測値(答え)に従って運用した場合に使用する球状化処理用Mg量(投入量)を1とした場合のMg量を表わす。
【0071】
上記の評価結果から、本実施の形態のように、予測モデル103Aの説明変数に過去の実績データを含めることで、比較例よりも精度良くMg歩留まりを予測できることが判明した。特に、目的変数であるMg歩留まり(実測値)を実績データに含ませることによって予測精度を向上できることを見出した。
【0072】
<球状化処理装置の動作>
図2(A)および図6を参照して、球状化処理装置20の動作について説明する。図6は、本実施の形態における黒鉛球状化処理を示すフローチャートである。
【0073】
はじめに、球状化処理装置20の決定部33が、QV分析装置14などから処理杯の溶湯条件データを取得するとともに、データ記憶部31に記憶された過去2杯分の実績データを取得する(ステップS1)。
【0074】
決定部33の予測部36が、ステップS1で取得した情報に基づいて、処理杯のMg歩留まりを予測する(ステップS3)。つまり、処理杯の溶湯条件データおよび過去2杯分の実績データを予測モデル32Aに入力し、予測モデル32Aの出力値を予測値として取得する。
【0075】
続いて、決定部33の演算部37は、ステップS3で予測したMg歩留まりと、予め定められた目標残留Mg量、処理杯の溶湯条件データに含まれる処理湯量とに基づいて、投入Mg量を演算する(ステップS5)。
【0076】
指示出力部34が、ステップS5で演算した投入Mg量に応じてワイヤーを供給するように、コアードワイヤー装置21の供給装置23に指示する(ステップS7)。これにより、取鍋15内の溶湯に適量のマグネシウムが自動的に投入され、溶湯中の黒鉛が球状化される(ステップS9)。
【0077】
黒鉛の球状化が終了すると、結果取得部35が、取鍋15A内の溶湯の成分分析結果を取得し、残留Mg量を検出する(ステップS11)。また、検出した残留Mg量と、処理湯量と、ステップS5で演算した投入Mg量とに基づいて、Mg歩留まり(実測値)を算出する(ステップS13)。
【0078】
結果取得部35は、算出したMg歩留まり(実測値)をデータ記憶部31に記憶する(ステップS15)。つまり、ステップS1で取得された処理杯の溶湯条件データと、ステップS13で得た結果データとを含む実績データが、直近(1杯前)の実績データとして、データ記憶部31に記憶される。
【0079】
この処理が終わると、ステップS1に戻り、上記処理が繰り返される。
【0080】
<変形例>
(1)Mg歩留まりの予測に用いられる過去の実績データは、直前の2杯分に限定されない。たとえば、1杯前と3杯前の実績データを用いてもよい。なお、Mg歩留まりの予測に用いられる実績データは、製品種類が同一の実績データであることが望ましい。
【0081】
(2)Mg歩留まりの予測に用いられる過去の実績データは、複数杯が望ましいものの、2杯分に限定されず、3杯以上であってもよい。あるいは、1杯分の過去の実績データに基づいてMg歩留まりを予測してもよい。
【0082】
(3)Mg歩留まりの予測に用いられる過去の実績データは、処理杯の溶湯条件データおよび結果データの双方を含むこととしたが、結果データのみを含んでいてもよい。
【0083】
(4)Mg歩留まりの予測に、処理杯の溶湯条件データおよび過去の実績データの双方が用いられることとしたが、少なくとも過去の実績データが用いられればよい。つまり、予測モデル103Aの説明変数は、過去の実績データのみであってもよい。
【0084】
(5)本実施の形態では、球状化処理装置20の制御装置25が、予測モデル103Aを用いて投入Mg量を決定する方法について説明したが、投入Mg量の決定方法は、球状化処理装置20から独立したコンピュータにおいても実行可能である。
【0085】
(6)球状化処理装置20の制御装置25が実行する投入Mg量の決定方法を、プログラムとして提供することもできる。同様に、学習装置100により実行される学習方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0086】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0087】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0088】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
20 球状化処理装置,21 コアードワイヤー装置,23 供給装置,25 制御装置,31 データ記憶部,32,103 モデル記憶部,32A,103A 予測モデル,33 決定部,34 指示出力部,35 結果取得部,36 予測部,37 演算部,100 学習装置,101 履歴データ記憶部,102 モデル生成部,104 評価部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6