(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】薬物含有脂肪乳剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20240319BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240319BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240319BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240319BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240319BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240319BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240319BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240319BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240319BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240319BHJP
A61K 31/573 20060101ALN20240319BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/44
A61K31/573
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2018561395
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2018000383
(87)【国際公開番号】W WO2018131620
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2021-01-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2017003273
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017084052
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300025767
【氏名又は名称】テクノガード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 喜一郎
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】前田 佳与子
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/44594(WO,A1)
【文献】特開平3-176425(JP,A)
【文献】国際公開第2009/063962(WO,A1)
【文献】特開平7-17860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が2~120mg/mL(但し2mg/mLを除く)、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.001~20(但し薬物と油脂の合計含量は最大で125mg/mL)、50重量%以上のレシチンと50重量%以下のポリソルベートからなる乳化剤
(但しポリソルベートが0重量%の乳化剤を除く)の含量が50~200mg/mL、油脂に対する
乳化剤の重量比率(
乳化剤/油脂)が
1.2~300であり、濁度が
0.2以下であることを特徴とする薬物含有脂肪乳剤。
【請求項2】
脂肪粒子の平均粒子径が1~200nmであることを特徴とする請求項1記載の薬物含有脂肪乳剤。
【請求項3】
プロピレングリコール、グリセリン、マクロゴール、乳酸、N,N-ジメチルアセトアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、コンドロイチン硫酸またはその塩、ヒアルロン酸またはその塩、グリチルリチン酸またはその塩から選ばれる少なくとも1つをさらに構成成分とすることを特徴とする請求項1記載の薬物含有脂肪乳剤。
【請求項4】
糖類をさらに構成成分とすることを特徴とする請求項1記載の薬物含有脂肪乳剤。
【請求項5】
水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする、濁度が
0.2以下である薬物含有脂肪乳剤の製造方法であって、油脂の含量を2~120mg/mL(但し2mg/mLを除く)、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)を0.001~20(但し薬物と油脂の合計含量は最大で125mg/mL)、50重量%以上のレシチンと50重量%以下のポリソルベートからなる乳化剤
(但しポリソルベートが0重量%の乳化剤を除く)の含量を50~200mg/mL、油脂に対する
乳化剤の重量比率(
乳化剤/油脂)を
1.2~300として構成成分を乳化することを特徴とする製造方法。
【請求項6】
乳化を350~1500バールの圧力で行うことを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有するとともに安定性と安全性に優れる薬物含有脂肪乳剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物含有脂肪乳剤は、例えばステロイド(パルミチン酸デキサメサゾン)含有脂肪乳剤やプロスタグランジン(PGE1)含有脂肪乳剤をはじめとするいくつかのものがすでに上市され、汎用されていることは当業者によく知られた事実である。しかしながら、それらはいずれも薬物の含量に比較して大量の油脂(その含量は少なく見積もっても例えば10mg/mL以上である)が用いられた乳白状の製剤であり、変質や異物混入の有無、配合変化を目視で容易に確認できないことから使用の可否判断が困難である、製剤によっては安定性が劣るので冷所保存が必要であるといった制約を有している。そこで、本発明者は、このような制約が緩和された、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤を、特許文献1において提案している。
【0003】
特許文献1において本発明者が提案した薬物含有脂肪乳剤は、油脂の含量を最大で2mg/mLにすることで製造することができるものであり、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤として評価されている。しかしながら、この薬物含有脂肪乳剤は、油脂の含量が最大で2mg/mLと少ないため、脂肪乳剤が担持することができる薬物の量に制限があることから、脂肪乳剤がより多くの量の薬物を担持することができるようにより多くの量の油脂が用いられ、それでいて透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤が要望されている。加えて、その製造に際しては、脂肪乳剤を製造するための乳化剤として知られているものの中でも、レシチンを用いることが、乳化力が弱く、また、高濃度において粘度が高いことから取り扱いが必ずしも容易でないものの、安全性が高いことから期待されており、こうした要求に応えるべく、本発明者はその開発を試みてきたが、これまで有効な解決手段を見出すには至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、これまでに知られている透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤よりも、脂肪乳剤が多くの量の薬物を担持することができるように油脂の含量が多いにもかかわらず、透明性を有するとともに安定性に優れ、加えて乳化剤としてレシチンを用いることで安全性に優れる薬物含有脂肪乳剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を行った結果、油脂の含量、油脂に対する薬物の重量比率、薬物と油脂の合計含量、乳化剤としてのレシチンの含量を好適な数値範囲とすることにより、2mg/mLを超える量の油脂を用いた薬物含有脂肪乳剤であるにもかかわらず、透明性を有するとともに安定性に優れ、加えて乳化剤としてレシチンを用いていることで安全性に優れる薬物含有脂肪乳剤を製造することができることを知見した。
【0007】
以上の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が2~120mg/mL(但し2mg/mLを除く)、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.001~20(但し薬物と油脂の合計含量は最大で125mg/mL)、50重量%以上のレシチンと50重量%以下のポリソルベートからなる乳化剤(但しポリソルベートが0重量%の乳化剤を除く)の含量が50~200mg/mL、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)が1.2~300であり、濁度が0.2以下であることを特徴とする。
また、請求項2記載の薬物含有脂肪乳剤は、請求項1記載の薬物含有脂肪乳剤において、脂肪粒子の平均粒子径が1~200nmであることを特徴とする。
また、請求項3記載の薬物含有脂肪乳剤は、請求項1記載の薬物含有脂肪乳剤において、プロピレングリコール、グリセリン、マクロゴール、乳酸、N,N-ジメチルアセトアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、コンドロイチン硫酸またはその塩、ヒアルロン酸またはその塩、グリチルリチン酸またはその塩から選ばれる少なくとも1つをさらに構成成分とすることを特徴とする。
また、請求項4記載の薬物含有脂肪乳剤は、請求項1記載の薬物含有脂肪乳剤において、糖類をさらに構成成分とすることを特徴とする。
また、本発明は、請求項5記載の通り、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする、濁度が0.2以下である薬物含有脂肪乳剤の製造方法であって、油脂の含量を2~120mg/mL(但し2mg/mLを除く)、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)を0.001~20(但し薬物と油脂の合計含量は最大で125mg/mL)、50重量%以上のレシチンと50重量%以下のポリソルベートからなる乳化剤(但しポリソルベートが0重量%の乳化剤を除く)の含量を50~200mg/mL、油脂に対する乳化剤の重量比率(乳化剤/油脂)を1.2~300として構成成分を乳化することを特徴とする。
また、請求項6記載の製造方法は、請求項5記載の製造方法において、乳化を350~1500バールの圧力で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、これまでに知られている透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤よりも、脂肪乳剤が多くの量の薬物を担持することができるように油脂の含量が多いにもかかわらず、透明性を有するとともに安定性に優れ、加えて乳化剤としてレシチンを用いることで安全性に優れる薬物含有脂肪乳剤およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、水難溶性薬物、油脂、乳化剤、水を少なくとも構成成分とする薬物含有脂肪乳剤であって、油脂の含量が2~120mg/mL(但し2mg/mLを除く)、油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)が0.001~20(但し薬物と油脂の合計含量は最大で125mg/mL)、乳化剤としてのレシチンの含量が50~200mg/mL(用いるレシチンの50重量%以下をレシチン以外の乳化剤に置き換えてもよい)であり、濁度が0.5以下であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明において、水難溶性薬物としては、日本薬局方・通則に規定の水への溶解性が「やや溶けにくい」(溶質1gまたは1mLを溶かすために要する溶媒量が30mL以上100mL未満:溶質が薬物に相当し溶媒が水に相当)とされる以上に水難溶性のものが挙げられるが、より好適には「溶けにくい」(同、溶媒量が100mL以上1000mL未満)とされる以上に水難溶性のものが挙げられ、さらに好適には「極めて溶けにくい」(同、溶媒量が1000mL以上10000mL未満)とされる以上に水難溶性のものが挙げられ、最も好適には「ほとんど溶けない」(同、溶媒量が10000mL以上)とされる以上に水難溶性のものが挙げられる。薬物は水難溶性であるとともに油難溶性であってもよい。薬物の種類は特段限定されるものではなく、シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制剤、エリスロマイシンやクラリスロマイシンなどの抗生物質、インドメタシンやアスピリンやイブプロフェンやケトプロフェンやジクロフェナックやアンピロキシカムやアセトアミノフェンなどの消炎鎮痛剤、パルミチン酸デキサメサゾンやフルオロメトロンやベタメサゾンやプロピオン酸ベクロメサゾンなどの合成副腎皮質ホルモン剤、ノルフロキサシンやレボフロキサシンなどの抗菌剤、ニコチン酸トコフェロールなどの循環器官用剤、エダラボンなどの脳保護薬、グリチンに例示されるグリチルリチン酸系化合物などの肝臓疾患用剤、酢酸トコフェロールなどのビタミンE剤、ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルなどの造影剤、ビダラビン、アシクロビル、アデホビル ピボキシルなどの抗ウィルス薬、マイトマイシン、イリノテカン、エトポシド、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、ウベニメクス、カルプラチン、シスプラチンなどの抗悪性腫瘍薬などを例示することができる。
【0011】
本発明において、油脂としては、大豆油、トウモロコシ油、ヤシ油、サフラワー油、エゴマ油、オリーブ油、ヒマシ油、綿実油などの植物油の他、ラノリンなどの動物油、卵黄油、魚油、流動パラフィンなどの鉱物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、化学合成トリグリセリド、ゲル化炭化水素など、油脂として用いることができる公知の油脂が挙げられる。
【0012】
本発明において、乳化剤として用いるのはレシチンである。具体的には、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、水素添加大豆レシチンなど、乳化剤として用いることができる公知のレシチンであってよい。なお、用いるレシチンの50重量%以下を乳化剤として用いることができる他の物質(ポリソルベート、PEG-水添ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)に置き換えてもよい。
【0013】
本発明において、油脂の含量を2~120mg/mL(但し2mg/mLを除く)と規定するのは、2mg/mL以下であると脂肪乳剤が担持できる薬物の量が少なくなってしまう一方、120mg/mLよりも多いと油脂の量が多すぎることで乳化が困難になるからである。油脂の含量は10~110mg/mLが望ましく、20~105mg/mLがより望ましく、25~100mg/mLがさらに望ましい。油脂に対する薬物の重量比率(薬物/油脂)を0.001~20(但し薬物と油脂の合計含量は最大で125mg/mL)と規定するのは、0.001よりも小さいと薬物に対して油脂が過多となり、患者に対して無用な油脂を投与することになってしまう一方、20よりも大きいと油脂に対して薬物が過多となり、薬物の安定性が損なわれ、薬物が凝集や析出しやすくなるからである。油脂に対する薬物の重量比率は0.01~10が望ましい。薬物と油脂の合計含量を最大で125mg/mLと規定するのは、125mg/mLよりも多いと透明性を有する脂肪乳剤を得るための乳化が困難になるからである。薬物と油脂の合計含量は3~120mg/mLが望ましい。乳化剤としてのレシチンの含量を50~200mg/mLと規定するのは、50mg/mLよりも少ないとレシチンの量に対する油脂の量が多すぎることで乳化が困難になる一方、200mg/mLよりも多いとレシチンの粘度が高くなることで乳化が困難になるからである。用いるレシチンの50重量%以下をレシチン以外の乳化剤に置き換えてもよいことは、前述の通りである。この場合、レシチンとレシチン以外の乳化剤の合計含量が50~200mg/mLであり、50重量%以上のレシチンと50重量%以下のレシチン以外の乳化剤からなる。レシチンの含量は75~180mg/mLが望ましく、100~160mg/mLがより望ましい。油脂に対するレシチンの重量比率(レシチン/油脂)を1~300とすることで、透明性を有するとともに安定性に優れる脂肪乳剤が得やすくなる。なお、薬物の含量は例えば0.1~50mg/mLであってよい。2mg/mLを超える量の油脂を用いることで、脂溶性がある薬物は油脂に溶解することにより、脂溶性がない薬物は水と油脂の界面においてレシチンと共存することにより、より多くの量が脂肪乳剤に担持される。
【0014】
本発明の薬物含有脂肪乳剤は、油脂の含量、油脂に対する薬物の重量比率、薬物と油脂の合計含量、乳化剤としてのレシチンの含量を上記の数値範囲に設定し、自体公知の手順、例えば、薬物、油脂、レシチンをいったん均一に混合して溶解させて油相とし、これに水を加えた後、あるいは水を加えながら、超音波乳化機を用いて乳化したり、また、強力に撹拌して粗乳化液を調製し(例えば回転数が10000~15000rpmで5~30分間の攪拌による)、次いで粗乳化液をマントンゴーリンホモジナイザーなどの高圧乳化機を用いて乳化したりすることにより製造することができる。乳化機の運転条件や乳化時間を調節すれば、脂肪粒子の粒子径分布を狭くすることができる。また、脂肪粒子の粒子径分布を狭くするために、乳化は複数回行ってもよい(例えば3~50回)。特筆すべきは、油脂の含量、油脂に対する薬物の重量比率、薬物と油脂の合計含量、レシチンの含量を上記の数値範囲に設定することで、超音波乳化機を用いて乳化することによって、また、高圧乳化機を用いて例えば1500バール以下、望ましくは350~1000バールの圧力で乳化することによって、脂肪粒子の平均粒子径が200nm以下、好適には180nm以下、より好適には120nm以下、さらに好適には100nm以下であり(下限は例えば1nm)、濁度が0.5以下、好適には0.4以下、より好適には0.3以下、さらに好適には0.2以下の、透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤が得やすくなる点にある。
【0015】
なお、本発明の薬物含有脂肪乳剤の構成成分としてプロピレングリコール、グリセリン、マクロゴール、乳酸、N,N-ジメチルアセトアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、コンドロイチン硫酸またはその塩(ナトリウム塩など)、ヒアルロン酸またはその塩(ナトリウム塩など)、グリチルリチン酸またはその塩(ナトリウム塩やアンモニウム塩など)などをさらに用いることで、薬物の溶解性の向上、脂肪乳剤や薬物の安定性の向上、脂肪乳剤の等張化などを図ってもよい。これらの含量は0.02~300mg/mLが望ましく、0.2~100mg/mLがより望ましい。0.02mg/mLよりも少ないと効果が発揮されにくくなる一方、300mg/mLよりも多いと粘度の上昇によって乳化が困難になったり、脂肪乳剤が酸性化されて不安定になったりしやすくなる。
【0016】
また、本発明の薬物含有脂肪乳剤の構成成分としてオレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸などの高級脂肪酸をさらに用いることで、脂肪乳剤の安定化を図ってもよい。高級脂肪酸の含量は0.001~10mg/mLが望ましく、0.01~5mg/mLがより望ましい。0.001mg/mLよりも少ないと効果が発揮されにくくなる一方、10mg/mLよりも多いと薬物に対して劣化を招く危険性が生じる。
【0017】
また、本発明の薬物含有脂肪乳剤の構成成分として糖類をさらに用いることで、時として発生しうる析出浮遊物の発生を効果的に抑制することができる。好適な糖類としては、イノシトール、グルコース、ソルビトール、フルクトース、マンニトールなどの単糖類、トレハロース、ラクトース、スクロース、マルトースなどの二糖類の他、デキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、キシリトールなどが挙げられる。糖類の含量は10~600mg/mLが望ましい。
【0018】
また、本発明の薬物含有脂肪乳剤の構成成分として自体公知のpH調整剤や浸透圧調整剤をさらに用い、pHを調整したり(例えば3.5~9)、浸透圧を調整したりすることで、脂肪乳剤の安定化を図ってもよい。なお、必要に応じて防腐剤や抗酸化剤などを構成成分としてもよいことは言うまでもない。また、本発明の薬物含有脂肪乳剤は、水溶性薬物を構成成分とすることを妨げるものではない。
【0019】
本発明の薬物含有脂肪乳剤は、例えば平均粒子径を200nm以下に設定することで、ろ過滅菌を容易に行うことができる他、高圧蒸気滅菌を行うこともできる。高圧蒸気滅菌は、本発明の薬物含有脂肪乳剤をガラス製アンプルや合成樹脂製容器などに充填した後、一般的な条件(例えば120~122℃×10~15分)で行えばよい。
【0020】
本発明の薬物含有脂肪乳剤は、安定性に優れるので、室温(例えば5~30℃)で保存することができる(但し薬物自体が非常に不安定なものである場合はこの限りでない)。また、透明性を有することは、変質や異物混入の有無、配合変化の目視での確認を容易にする他、投与される患者に対して安心感を与える。これらの作用は、とりわけ本発明の薬物含有脂肪乳剤を、注射剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、吸入剤などとして用いる場合に有効に機能する。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0022】
実施例1:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その1)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の精製大豆油500mgを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N:キユーピー社製、以下同じ)4gとプロピレングリコール260mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水14mLを分割添加しながら、超音波乳化機(SMT社製、以下同じ)で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのセルロースアセテート膜(CA膜、以下同じ)でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0023】
実施例2:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その2)
パルミチン酸デキサメサゾン20mgと市販の精製大豆油800mgを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N)4gとグリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水14mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0024】
実施例3:タクロリムス含有脂肪乳剤(その1)
タクロリムス100mg、市販の精製大豆油500mg、市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド500mgを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M:キユーピー社製、以下同じ)2.6gとグリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水15mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のタクロリムス含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す(pH:5.6)。
【0025】
実施例4:ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル含有脂肪乳剤
ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル400mg(ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルは薬物であるとともに油脂であるため、この量は薬物と油脂の合計量とする)を加温(60℃)し、精製卵黄レシチン(PL-100M)2.6gとグリセリン400mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水16mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す(pH:6.3)。
【0026】
実施例5:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その3)
パルミチン酸デキサメサゾン20mgと市販の精製大豆油600mgを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)1.6g、精製卵黄レシチン(PC-98N)2.4g、グリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水15mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0027】
実施例6:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その4)
パルミチン酸デキサメサゾン14mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)2.66gとグリセリン260mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水15mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0028】
実施例7:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その5)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2.4gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)3gを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水14mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0029】
実施例8:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その6)
パルミチン酸デキサメサゾン80mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)1.8gとグリセリン400mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水15mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0030】
実施例9:シクロスポリン含有脂肪乳剤
シクロスポリン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド500mgを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)1gとプロピレングリコール460mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水18mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のシクロスポリン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す(pH:5.3)。
【0031】
実施例10:酢酸トコフェロール含有脂肪乳剤
酢酸トコフェロール500mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド500mgを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)2.6gとプロピレングリコール400mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水16mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明の酢酸トコフェロール含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す(pH:6.8)。
【0032】
実施例11:タクロリムス含有脂肪乳剤(その2)
タクロリムス40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド1gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N)4gとグリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水14mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のタクロリムス含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0033】
実施例12:タクロリムス含有脂肪乳剤(その3)
タクロリムス40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N)4gとグリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水13mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のタクロリムス含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0034】
実施例13:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その7)
パルミチン酸デキサメサゾン80mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)1.8gとグリセリン400mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水15mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、グルコースを100mg/mLで添加し、超音波乳化機で5分間混合溶解させた後、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0035】
実施例14:タクロリムス含有脂肪乳剤(その4)
タクロリムス40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N)4gとグリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水13mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、トレハロースを100mg/mLで添加し、超音波乳化機で5分間混合溶解させた後、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のタクロリムス含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0036】
実施例15:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その8)
パルミチン酸デキサメサゾン750mg、市販の精製大豆油1.5g、精製卵黄レシチン(PL-100M)18g、グリセリン3gを、加温下(60℃)で汎用ミキサーを用いて均一に混合して溶解させて油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサー(SMT社製、以下同じ)を用いて攪拌下、精製水120mLを少しずつ添加し、添加終了後、12000rpmで10分間粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を150mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザー(LAB2000:SMT社製、以下同じ)を用いて精密乳化した。乳化圧力は1450バールとし、乳化回数は20回とした(循環乳化)。乳化後、pH調整剤として1N塩酸水溶液を添加してpHを7.0に調整してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0037】
実施例16:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その9)
パルミチン酸デキサメサゾン600mg、市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド3.75g、精製卵黄レシチン(PL-100M)19.5g、プロピレングリコール3gを、加温下(60℃)で汎用ミキサーを用いて均一に混合して溶解させて油相とした。この油相に、ハイフレックスディスパーサーを用いて攪拌下、精製水120mLを少しずつ添加し、添加終了後、12000rpmで10分間粗乳化した。精製水をさらに添加して液容量を150mLにメスアップした後、高圧ホモジナイザーを用いて精密乳化した。乳化圧力は1450バールとし、乳化回数は20回とした(循環乳化)。乳化後、pH調整剤として1N塩酸水溶液を添加してpHを7.0に調整してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0038】
実施例17:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その10)
パルミチン酸デキサメサゾン100mgと市販の精製大豆油400mgを、加温下(60℃)で小型超音波洗浄器(アズワン社製、以下同じ)を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N)1g、ポリソルベート80(日油社製、以下同じ)1g、グリセリン100mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水7mLを分割添加しながら、超音波乳化機で20分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0039】
実施例18:インドメタシン含有脂肪乳剤
インドメタシン100mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド1gを、加温下(60℃)で小型超音波洗浄器を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PC-98N)1g、ポリソルベート80 1g、プロピレングリコール900mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水6mLを分割添加しながら、超音波乳化機で20分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、目的とする透明のインドメタシン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0040】
実施例19:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その11)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド1gを、加温下(70℃)で小型超音波洗浄器を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)450mg、ポリソルベート80 450mg、グリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水7.5mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.45μmφのCA膜でのろ過と0.22μmφのCA膜でのろ過滅菌を連続的に行って、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0041】
実施例20:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その12)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド1gを、加温下(70℃)で小型超音波洗浄器を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)450mg、ポリオキシエチレンヒマシ油(ユニオックスC-35:日油社製、以下同じ)450mg、グリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水7.5mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.45μmφのCA膜でのろ過と0.22μmφのCA膜でのろ過滅菌を連続的に行って、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0042】
実施例21:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その13)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド1gを、加温下(70℃)で小型超音波洗浄器を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)1g、ポリオキシエチレンヒマシ油500mg、グリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水7mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.45μmφのCA膜でのろ過と0.22μmφのCA膜でのろ過滅菌を連続的に行って、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0043】
実施例22:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その14)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド1gを、加温下(70℃)で小型超音波洗浄器を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)600mg、ポリソルベート80 600mg、グリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水7.5mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.45μmφのCA膜でのろ過と0.22μmφのCA膜でのろ過滅菌を連続的に行って、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0044】
実施例23:パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤(その15)
パルミチン酸デキサメサゾン40mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド200mgを、加温下(70℃)で小型超音波洗浄器を用いて溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)1g、ポリソルベート80 500mg、グリセリン200mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水8mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で10mLに秤量してから、0.45μmφのCA膜でのろ過と0.22μmφのCA膜でのろ過滅菌を連続的に行って、目的とする透明のパルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得た。その物性値を表1に示す。
【0045】
比較例1:
シクロスポリン200mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2.4gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)3.6gを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水13mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化したところ、得られた乳化液はすぐに固化してしまった。
【0046】
比較例2:
ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル400mgと市販の中鎖脂肪酸トリグリセライド2.4gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)3.6gを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水13mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル含有脂肪乳剤を得たが、この脂肪乳剤は白色であった。
【0047】
比較例3:
パルミチン酸デキサメサゾン100mgと市販の精製大豆油2gを、加温下(60℃)で撹拌溶解後、精製卵黄レシチン(PL-100M)4.4gとグリセリン440mgを加え、均一に混合して油相とした。この油相に、精製水13mLを分割添加しながら、超音波乳化機で30分間乳化した。乳化後、精製水で20mLに秤量してから、0.22μmφのCA膜でろ過滅菌を行い、パルミチン酸デキサメサゾン含有脂肪乳剤を得たが、この脂肪乳剤は白濁していた。
【0048】
【0049】
なお、濁度の測定は、紫外分光光度計(UV1800:島津製作所社製)を用い、サンプルをセル幅が1cmの測定セルに入れて波長λ=620nmで行った(ブランクは水)。サンプルが透けて見え、凝集や沈殿などの変質や異物混入の有無、配合変化を目視で容易に確認できる透明~半透明領域はAbs(吸光度)=0.5以下であるので、この濁度を合否の境界とした。平均粒子径の測定は、光子相関法を用いた粒子径測定装置(ゼータサイザー ナノZS:マルバーン社製)を用いて行った。
【0050】
表1から明らかなように、実施例1~23のいずれの薬物含有脂肪乳剤も、平均粒子径が100nm以下であって透明性が極めて高いものであり、室温で1ヶ月間保存した後も、実用上において支障となるような変化が認められない保存安定性に優れるものであった(相分離、沈殿、析出、相変化の有無などの目視観察による)。一方、比較例1と比較例2において目的とする透明の薬物含有脂肪乳剤が得られなかったのは、薬物と油脂の合計含量が多すぎることに起因すると考えられた。また、比較例3において目的とする透明の薬物含有脂肪乳剤が得られなかったのは、レシチンの含量が多すぎることに起因すると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、これまでに知られている透明性を有するとともに安定性に優れる薬物含有脂肪乳剤よりも、脂肪乳剤が多くの量の薬物を担持することができるように油脂の含量が多いにもかかわらず、透明性を有するとともに安定性に優れ、加えて乳化剤としてレシチンを用いることで安全性に優れる薬物含有脂肪乳剤およびその製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。