(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電極触媒の合金の製造方法、ケトン類およびカルボン酸類の製造方法、燃料電池、エネルギー回収システム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20240319BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240319BHJP
C25B 3/23 20210101ALI20240319BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240319BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240319BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240319BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240319BHJP
H01M 8/06 20160101ALI20240319BHJP
H01M 8/1009 20160101ALI20240319BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240319BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240319BHJP
【FI】
H01M4/90 M
B01J23/44 Z
B01J37/08
B01J37/16
C25B3/23
C25B9/00 G
C25B11/081
H01M4/88 K
H01M4/90 X
H01M4/92
H01M8/06
H01M8/1009
C07B61/00 300
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020505058
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008691
(87)【国際公開番号】W WO2019172273
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-12-13
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】山内 美穂
(72)【発明者】
【氏名】森本 達美
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-151392(JP,A)
【文献】特開平10-162839(JP,A)
【文献】特開2006-202701(JP,A)
【文献】特開2006-092957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
B01J 23/44
B01J 37/08
B01J 37/16
C25B 3/23
C25B 9/00
C25B 11/081
H01M 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属を担持する
第2金属、酸化物、又は炭素材料からなる電気伝導性物質を含み、30℃における電気伝導率が1×10
-13Scm
-1以上であり、前記
第1金属は、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及びAgからなる群から選ばれるいずれか1種の金属または2種以上の金属を含有する合金を含み、触媒の粉末試料に-0.6Vのバイアスをかけて電子分光分析を行うことにより得られた
前記合金中の各金属の仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数を有する電極触媒の合金の製造方法であって、
(a)溶媒に1種または2種の金属試薬を溶解する工程と、
(b)電気伝導性物質を接触させる工程と、
(c)前記金属試薬と前記電気伝導性物質を反応させた後、反応によって得られた生成物を水素化金属試薬により還元する工程と、
(d)前記水素化金属試薬により還元した生成物を水素存在下で20℃~500℃で処理する工程と、を有する電極触媒の合金の製造方法。
【請求項2】
原料としてアルコール類を用い、
第1金属を担持する
第2金属、酸化物、又は炭素材料からなる電気伝導性物質を含み、30℃における電気伝導率が1×10
-13Scm
-1以上であり、前記
第1金属は、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及びAgからなる群から選ばれるいずれか1種の金属または2種以上の金属を含有する合金を含み、触媒の粉末試料に-0.6Vのバイアスをかけて電子分光分析を行うことにより得られた
前記合金中の各金属の仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数を有する電極触媒を用いて、前記アルコール類の電気化学的酸化反応を行うケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
【請求項3】
アノード、カソードおよび電解質を備える燃料電池であって、アノードの表面又は内部、もしくはアノードにおける電解質側に、電極触媒を備え、
前記電極触媒は、第1金属を担持する第2金属、酸化物、又は炭素材料からなる電気伝導性物質を含み、30℃における電気伝導率が1×10
-13
Scm
-1
以上である電極触媒であって、前記第1金属は、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及びAgからなる群から選ばれるいずれか1種の金属または2種以上の金属を含有する合金を含み、触媒の粉末試料に-0.6Vのバイアスをかけて電子分光分析を行うことにより得られた前記合金中の各金属の仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数を有し、
アルコール類を前記電極触媒に接触させて電気化学的に酸化させケトン類またはカルボン酸類を生成する際に、直接的に発電する燃料電池。
【請求項4】
(a)カルボン酸類を貯蔵する容器と、(b)余剰電力を用いてカルボン酸類をアルコール類に還元する手段と、(c)得られたアルコール類を貯蔵する手段と、(d)前記アルコール類を電極触媒に接触させて電気化学的に酸化して前記カルボン酸類にして電力を発生させる手段と、を有する、余剰電力のエネルギーを回収するエネルギー回収システム
であって、
前記電極触媒は、第1金属を担持する第2金属、酸化物、又は炭素材料からなる電気伝導性物質を含み、30℃における電気伝導率が1×10
-13
Scm
-1
以上である電極触媒であって、前記第1金属は、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及びAgからなる群から選ばれるいずれか1種の金属または2種以上の金属を含有する合金を含み、触媒の粉末試料に-0.6Vのバイアスをかけて電子分光分析を行うことにより得られた前記合金中の各金属の仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数を有する、エネルギー回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒の合金の製造方法、電極触媒を用いた電気化学的なケトン類の製造方法、ピルビン酸などのヒドロキシカルボン酸類の製造方法、燃料電池、エネルギー回収システムに関する。
本願は、2018年3月5日に、米国に仮出願された62/638,311に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素由来の炭素で構成されるバイオマス資源の効率的な利用は、石油資源の消費を低減させる有効な方法と考えられている。近年、エタノールやエチレングリコール等のバイオアルコールの生産が工業化され、燃料や原材料として利用されている。現在の工業プロセスでは糖等を原料として、酵素を用いたアルコール発酵によりバイオエタノールが生産されているが、このプロセスは炭素収率が低いという問題がある。一方、バイオマスに豊富に含まれるカルボン酸から、水素化によってアルコールを生産する方法が注目されている(例えば、特許文献1参照)。そして、バイオマスから用いたアルコールを原料としてエネルギーを取り出すことが出来れば、アルコールをエネルギーキャリアとしてカーボンニュートラルなサイクルが実現する。
アルコールをカルボン酸とする技術は燃料電池について多くの研究が行われている。なかでも、電極触媒として、Pt-Pd系のものが注目されている。
メタノールの酸化触媒としては、PtにPdを添加した合金が知られている。合金の構造上の1つの指標としては、べガード則(Vegard‘s Law)という経験則が知られている。この経験則は、合金組成の重みをつけた、純粋な成分金属の格子定数の算術平均となるというものである。例えば、PtxPd100-xの格子定数、a(Pt(100-n)Pdn、0<n<100)を、下記の式(1)のように表すことができる。
a(Pt(100-n)Pdn)=a(Pt)×((100-n)/100)+a(Pd)×(n/100)・・・(1)
【0003】
エチレングリコールを溶媒かつ還元剤とするポリオール法により、Pt-Pd/Cナノ粒子を製造する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この製造方法では、錯化剤および安定化剤としてのクエン酸三ナトリウムと、担体としての電気伝導性カーボンブラックと、パラジウムアセチルアセトネート[Pd(acac)2]と、白金アセチルアセトネート[Pt(acac)2]とを、還元剤でもあるエチレングリコールに溶解し、その混合物を175℃にて6時間加熱還流し、還元反応を行った。反応終了後、生成物を室温に冷却してから洗浄して、75℃で12時間乾燥して、試料を作製する。得られた試料中のPt-Pdは、直径4.7nm~5.2nm程度のナノ粒子である。このナノ粒子は、粉末XRDパターンから求められた格子定数がべガード則から推測される値よりも大きい。
【0004】
また、1Mの塩酸と2Mの硝酸で前処理したカーボンブラックをエチレングリコールに懸濁して得られたカーボン懸濁液を用いて、Pt3Pd1/CとPt1Pd1/Cを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。この製造方法では、王水で前処理したカーボンブラックをエチレングリコールに懸濁してカーボン懸濁液を調製する。超音波処理しながら、そのカーボン懸濁液に、H2PtCl6・6H2OおよびPdCl2を溶解した水溶液を滴下して、カーボン懸濁液と前記の水溶液の混合液を撹拌する。その後、前記の混合液にNaOH水溶液を添加して、前記の混合液のpHを12~13に調整する。pHを調整した混合液を130℃にて3時間加熱して、金属イオンを還元することにより、Pt3Pd1/CとPt1Pd1/Cを得る。得られたPt3Pd1/CとPt1Pd1/Cを蒸留水で洗浄し、AgNO3溶液(1mol/L)で塩化物イオンが検出されなくなったら、70℃にて8時間減圧乾燥する。低分解能透過型電子顕微鏡TEM像から求めたPt3Pd1/Cの平均一次粒子径は2.8nm、Pt1Pd1/Cの平均一次粒子径は3.6nmである。Pt3Pd1/Cの粉末XRDパターンから求められる格子定数は3.916×10-10m、Pt1Pd1/Cの粉末XRDパターンから求められる格子定数は3.910×10-10mである。このように、Pt3Pd1/Cの粉末XRDパターンから求められる格子定数およびPt1Pd1/Cの粉末XRDパターンから求められる格子定数は、べガード則から推測される格子定数よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】W. Wang et al., Electrochemistry Communications, 10, 1396-1399 (2008)
【文献】H. Li et al., J. Phys. Chem. C, 111, 5605-5617 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、アルコールの酸化触媒または乳酸の酸化触媒として優れた触媒活性を有する電極触媒、前記の電極触媒を備えた電極を有する燃料電池、前記の電極触媒を用いたケトン類の製造方法、前記の電極触媒を用いたピルビン酸の製造方法、担体担持金属合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のようなべガード則から推測される格子定数を有するPt-Pd/Cナノ粒子が、金属元素が均一に混合されて反応し、Pd原子とPt原子間の電子移動が容易に起こるようになるため、アルコールを活性化させるのに理想的な表面構造と電子状態が構築されることで、アルコールの酸化触媒として高選択的に酸化反応が進むこと、さらに、低電圧で反応を開始することを見出し、本発明を完成させた。
[1]金属または金属酸化物を担持する電気伝導性物質を含み、30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1以上である電極触媒。
[2]前記金属は遷移金属であり、前記金属酸化物は遷移金属酸化物である[1]に記載の電極触媒。
[3]前記金属は、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及び、Agからなる群から選ばれるいずれか1種の金属または2種以上の合金を含む[1]または[2]に記載の電極触媒。
[4]Pd、Pt、Ru、及び、Irからなる群から選ばれるいずれか1種の金属または2種以上を含む合金を含有し、30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1以上である[1]~[3]のいずれかに記載の電極触媒。
[5]前記PdおよびPtが固溶状態をなしている[3]または[4]に記載の電極触媒。
[6]前記合金がべガード則に従う[4]に記載の電極触媒。
[7]前記PtおよびPdからなる合金が、Ptの含有量が合金の50原子%以上である[3]~[6]に記載の電極触媒。
[8]前記合金が、各金属の仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数を有する[3]~[7]に記載の電極触媒。
[9]前記金属が直径500nm以下の粒子である[1]~[8]のいずれかに記載の電極触媒。
[10]前記金属が直径10nm以下の粒子である[9]に記載の電極触媒。
[11]原料としてアルコール類を用い、触媒を用いて、前記アルコール類の電気化学的酸化反応を行うケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[12]前記触媒が、[1]~[10]に記載の電極触媒であるケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[13]前記アルコール類が、2級アルコールである[11]または[12]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[14]前記2級アルコールは、カルボキシル基を含む[13]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[15]前記アルコール類は、2級アルコールであり、当該2級アルコールがカルボキシル基のα位の置換基であるヒドロキシカルボン酸類である[11]~[14]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[16]前記ヒドロキシカルボン酸が乳酸またはピルビン酸である[15]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[17]前記アルコール類が、1級アルコールである[11]または[12]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[18]前記1級アルコールがカルボキシル基のα位の置換基であるヒドロキシカルボン酸類である[17]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[19]前記ヒドロキシカルボン酸類が、グリコール酸である[18]に記載のケトン類およびカルボン酸類の製造方法。
[20](a)溶媒に1種または2種の金属試薬を溶解する工程と、
(b)電気伝導性物質を接触させる工程と、
(c)前記金属試薬と前記電気伝導性物質を反応させた後、反応によって得られた生成物を水素化金属試薬により還元する工程と、
(d)前記水素化金属試薬により還元した生成物を水素存在下で20℃~500℃で処理する工程と、を有する担体担持金属合金の製造方法。
[21]前記金属試薬がPd試薬、Pt試薬、及び、Ir試薬である[20]に記載の担体担持金属合金の製造方法。
[22]前記電気伝導性物質が活性炭、遷移金属である[20]または[21]に記載の担体担持金属合金の製造方法。
[23]前記水素化金属試薬がNaBH4である[20]~[22]のいずれかに記載の担体担持金属合金の製造方法。
[24]アノード、カソードおよび電解質を備える燃料電池であって、アノードの表面又は内部、もしくはアノードにおける電解質側に電極触媒を備え、
アルコール類を前記触媒に接触させて電気化学的に酸化させケトン類またはカルボン酸類を生成する際に、直接的に発電する燃料電池。
[25]前記電極触媒が、[1]~[10]に記載の電極触媒である[24]に記載の燃料電池。
[26]前記アノードにおいて、アルコールを前記電極触媒に接触させて酸化させカルボン酸を生成する[24]および[25]に記載の燃料電池。
[27](a)カルボン酸類を貯蔵する容器と、(b)余剰電力を用いてカルボン酸類をアルコール類に還元する手段と、(c)得られたアルコール類を貯蔵する手段と、(d)前記アルコール類を酸化して前記カルボン酸類にして電力を発生させる手段と、を有する余剰電力のエネルギーを回収するエネルギー回収システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコールの酸化触媒または乳酸の酸化触媒として優れた触媒活性を有する電極触媒、前記の電極触媒を備えた電極を有する燃料電池、前記の電極触媒を用いたケトン類の製造方法、前記の電極触媒を用いたピルビン酸の製造方法、担体担持金属合金の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、カルボン酸からアルコールを製造し、アルコールからカルボン酸を製造するサイクルが可能となる。さらに、本発明によれば、べガード則に従う合金が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る燃料電池の概略構成を示す模式図である。
【
図2】カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒のXRDパターンを示す図である。
【
図3】カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒の組成比に対して格子定数をプロットした図である。
【
図4】実施例5のPt/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
【
図5】実施例2のPt
80Pd
20/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
【
図6】実施例1のPt
75Pd
25/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
【
図7】実施例3のPt
50Pd
50/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
【
図8】実施例4のPt
25Pd
75/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
【
図9】実施例6のPd/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
【
図10】実施例2のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
【
図11】実施例2のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図であり、
図10の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
【
図12】実施例1のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
【
図13】実施例1のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図であり、
図12の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
【
図14】実施例3のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
【
図15】実施例3のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図であり、
図14の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
【
図16】実施例4のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
【
図17】実施例4のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図であり、
図16の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
【
図18】X線光電子分光法による分析において、試料ホルダーにカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を固定する方法を示す光学写真である。
【
図19】Ptの4f
7/2軌道および4f
5/2軌道の電子のXPSスペクトルを示す図である。
【
図20】Pdの3d
5/2軌道および3d
3/2軌道の電子のXPSスペクトルを示す図である。
【
図21】Ptの4f
7/2軌道および4f
5/2軌道の電子のXPSスペクトルを解析した結果を示す図である。
【
図22】Pdの3d
5/2軌道および3d
3/2軌道の電子のXPSスペクトルを解析した結果を示す図である。
【
図23】試料に-0.6Vのバイアスをかけて測定したUPSスペクトルを解析することによって得られた仕事関数を示す図である。
【
図24】仕事関数とオンセットポテンシャルの関係を示す図である。
【
図25】CV測定に使用した電気化学セルを示す概略構成図である。
【
図26】CV測定に使用した電気化学セルを示す概略構成図である。
【
図27】Pt/C触媒上でのCV測定における2サイクル目の結果を示す図である。
【
図28】実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む作用極におけるCV測定での2サイクル目の結果を示す図である。
【
図29】CA測定に使用した電気化学セルを示す概略構成図である。
【
図30】Pt
80Pd
20/C触媒、Pt
75Pd
25/C触媒およびPt
50Pd
50/C触媒での 各電位におけるCAによる電流密度の時間変位を示す図である。
【
図31】Pt
80Pd
20/C触媒、Pt
75Pd
25/C触媒およびPt
50Pd
50/C触媒での 各電位におけるCAによる電流密度の時間変位を示す図である。
【
図32】Pt
80Pd
20/C触媒、Pt
75Pd
25/C触媒およびPt
50Pd
50/C触媒での 各電位におけるCAによる電流密度の時間変位を示す図である。
【
図33】一般式Pt
(100-n)Pd
n/Cで表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒におけるXPS測定結果を解析し、算出されたPt
0の割合と反応開始電位を示す図である。
【
図34】一般式Pt
(100-n)Pd
n/Cで表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒の結晶構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電極触媒、燃料電池、ケトン類の製造方法、ピルビン酸の製造方法、担体担持金属合金の製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[電極触媒]
本実施形態の電極触媒は、金属または金属酸化物を担持する電気伝導性物質を含み、30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1以上である。
【0013】
本実施形態の電極触媒は、30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1以上であり、1Scm-1以上であることが好ましい。電気伝導率の上限は7×107Scm-1以下であってもよく、6×102Scm-1以下であってもよい。
30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1未満では、回路から流れ込む電子が基質分子に到達せず、反応が開始されない。
【0014】
触媒の電気伝導率の測定方法は、交流インピーダンス法等が挙げられる。
【0015】
金属としては、遷移金属、典型元素の金属が挙げられるが、基質分子と反応に適切な強さの化学結合を形成するという観点から、遷移金属が好ましい。
金属酸化物としては、遷移金属酸化物、典型元素の金属酸化物が挙げられるが、反応活性化の効率性および化学的安定性の観点から、遷移金属酸化物が好ましい。
【0016】
遷移金属としては、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルピウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)が挙げられる。
【0017】
遷移金属酸化物としては、上記の遷移金属の酸化物が挙げられる。
【0018】
典型元素の金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、コペルニシウム(Cn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ウンウントリウム(Unt)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、フレロピウム(Fl)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ウンウンペンチウム(Unp)、ポロニウム(Po)、リバモリウム(Lv)が挙げられる。
【0019】
典型元素の金属酸化物としては、上記の典型元素の金属の酸化物が挙げられる。
本実施形態の電極触媒に用いられる電気伝導性物質は、触媒の担体であり、電気伝導性を担うことから電極として重要な働きを持つものである。そのような電気伝導性物質としては、活性炭、遷移金属等を挙げることが出来る。
【0020】
本実施形態の電極触媒は、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及び、Agからなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上の金属を含むことが好ましい。なお、本実施形態の電極触媒は、前記の金属の酸化物を含んでいてもよい。
Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、及び、Agからなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上の金属を含むことにより、その他の金属を含む場合よりも、ケトンやピルビン酸の製造において、触媒活性に優れる。
【0021】
本実施形態の電極触媒は、Pd、Pt、Ru及び、Irからなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上を含む合金を含有することが好ましい。なお、本実施形態の電極触媒では、前記の合金が、前記の金属の酸化物を含んでいてもよい。
電極触媒が、Pd、Pt、Ru及び、Irからなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上を含む合金を含有することにより、その他の金属を含む場合よりも、ケトンやピルビン酸の製造において、より触媒活性に優れる。
【0022】
本実施形態の電極触媒は、Pd、Pt、Ru及び、Irからなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上を含む合金を含有する場合に、30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1以上であることが好ましい。また、前記の合金がべガード則(Vegard’s則)に従いことが好ましい。すなわち、本実施形態の電極触媒を構成する合金は、合金の格子定数と組成元素の濃度におおよその比例関係が成り立つことが好ましい。例えば、合金がPdとPtから構成される場合、その合金は一般式PtxPd100-x(0<x<100)で表される。PtxPd100-xの格子定数、a(Pt(100-n)Pdn、0<n<100)を、下記の式(1)のように表すことができる。
a(Pt(100-n)Pdn)=a(Pt)×((100-n)/100)+a(Pd)×(n/100)・・・(1)
本実施形態の電極触媒を構成する合金が、べガード則に従うものであれば、べガード則に従わない場合よりも、ケトンやピルビン酸の製造において、より触媒活性に優れる。さらに、合金がベガード則に従う場合は、合金の仕事関数が、合金を構成する成分金属の仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数を示すことが好ましい。
【0023】
電極触媒がべガード則に従うことを調べる方法は次の通りである。
強い線強度を有する放射光を使った信号雑音(S/N)比の高い電極触媒の粉末X線回折パターンを測定し、そのRietveld法を用いた解析により、正確な合金の格子定数を求めることができる。管球を備える市販の装置を用いて回折パターンを得ることができるが、S/N比の低いパターンが得られるため、格子定数を求められない場合がある。また、単独あるいは複数の回折ピークのLe Bail法を用いた解析により格子定数を求めることができるが、正確性を欠く場合がある。
本実施形態においては、触媒が電気化学的酸化反応を行うが、本実施形態が余剰電力を用いることから、なるべく低電位で反応開始されることが要求される。そのためには、この時、電位のかかった触媒金属から酸化反応に電子が提供される必要がある。その提供のされやすさは合金の仕事関数と反応基質の反応性との関係によるが、本実施形態の検討において、触媒が固溶体になることで、触媒反応がより低電位で反応を開始することができる。このような合金の比率は、PtとPdの場合であれば、PtおよびPdからなる合金が、Ptの含有量が合金の50原子%以上である場合が好ましい。このような比率の場合に、反応がより低電位で始めることができる。さらに、そのとき、合金の仕事関数は、両成分元素の算術平均よりも下回っているとの特徴が見出された。
【0024】
仕事関数を求める手法は、いくつか知られているが、触媒担体上の合金はナノ粒子であるため、その測定には、高分解能な方法が必要である。本実施形態においては、紫外線光電子分光法 (UPS)を用いて測定した。光電子分光の原理はXPSと同様である。UPSで用いる紫外線はXPSよりもエネルギーが低く、エネルギー幅も狭い。そのため、表面の状態をXPSよりも高い分解能で調べることができる。また、UPSは、物質から電子を引き抜く際に必要なエネルギーである仕事関数(φ)の測定を行うことができる。
金属や半導体では、仕事関数は照射光のエネルギーhνとUPSスペクトルのエネルギー幅Wを用いて、下式で求められる。
φ=hν-W
hνは照射紫外線のエネルギーであり、HeI線では21.1eVである。また、UPSスペクトルのエネルギー幅Wは価電子帯の立ち上がり位置のエネルギーと高束縛エネルギー側の立ち上がり位置のエネルギーより求められる。価電子帯の立ち上がり位置のエネルギーと高束縛エネルギー側の立ち上がり位置のエネルギーは、UPSスペクトルを直線で外挿し、バックグラウンドとの交点を求めることで得られる。
電極触媒におけるPdおよびPtの含有量を測定する方法は次の通りである。
ICP-AESやICP-MS等の誘導結合プラズマ法による測定、あるいは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を組み合わせたエネルギー分散型X線分析(EDS)測定により調べることができる。
【0025】
本実施形態の電極触媒は、PdとPtを含む場合、または、PdとPtを含む合金である場合、PdおよびPtが固溶状態をなしていることが好ましい。
PdおよびPtが固溶状態をなしていれば、基質分子を活性化するのに有利な表面構造とPdとPtの間に電子移動に起因するアルコール酸化を促進するのに好ましい電子状態が形成される。
【0026】
PdおよびPtが固溶状態をなしていることを確認する方法は次の通りである。
走査型電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分析(EDS)装置を用いた元素分布測定により、大まかな構成元素の混合状態を観測することができる。さらに、粉末XRD回折から求めた格子定数がべガード則を満たすことが認められれば、十分に混合された固溶体であることが確認できる。
【0027】
本実施形態の電極触媒は、上記の金属や金属酸化物以外に、外部回路から電極触媒まで電気を供給するための電気伝導性材料を電極担体として含んでいてもよい。電気伝導性材料としては、金属、酸化物、炭素材料等が挙げられる。一般的でかつ安価な電気伝導性材料として、炭素(C)を含んでいてもよい。本実施形態の電極触媒が炭素(C)を含む場合、例えば、一般式PtxPd100-x/C(0<x<100)で表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の電極触媒の形状は、球状、針状、板状など、いかなるものでもよいが、活性サイト数を最大にするという観点から、電極触媒の比表面積が大きいことが望ましい。粒子の大きさは、粒子を切断した場合の切断面の最長となる径を直径とする。
【0029】
本実施形態の電極触媒は、直径500nm以下の粒子であることが好ましく、50nm以下の粒子であることがより好ましく、5nm以下の粒子であることがさらに好ましい。本実施形態の電極触媒は、直径0.5nm以上の粒子であってもよく、好ましくは直径1.5nm以上の粒子であってもよい。
電極触媒が直径50nm以下の粒子であれば、触媒の比表面積が大きくなるため、電極触媒と対象物質との接触面積が大きくなり、触媒活性が向上する。また、電極触媒が直径5nm以下、さらに好ましくは5nm以下の粒子であれば、電極触媒の比表面積がより大きくなるため、電極触媒と対象物質との接触面積がより大きくなり、触媒活性がより向上する。
【0030】
本実施形態の電極触媒の直径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定したTEM像にある触媒粒子の直径を計測し、それを統計して計算することができる。
【0031】
本実施形態の電極触媒は、金属または金属酸化物からなり、30℃における電気伝導率が1×10-13Scm-1以上であるため、アルコールの酸化触媒または乳酸の酸化触媒として優れた触媒活性を有する。
【0032】
[担体担持金属合金の製造方法]
本発明の電極触媒は、次の方法により製造することができる。すなわち、
(a)溶媒に1種または2種の金属試薬を溶解する工程と、
(b)電気伝導性物質を接触させる工程と、
(c)前記金属試薬と前記電気伝導性物質を反応させた後、反応によって得られた生成物を水素化金属試薬により還元する工程と、
(d)前記(b)の化合物を水素存在下で20℃~500℃で処理する工程と、を有する担体担持金属合金の製造方法。
【0033】
金属試薬は、Pd試薬、Pt試薬、Ru試薬、及び、Ir試薬からなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上を含むことが好ましい。これらの試薬は、水や有機溶媒などの反応液に均一溶ける試薬であることが好ましい。
金属試薬が、Pd試薬、Pt試薬、Ru試薬、及び、Ir試薬からなる群から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有することにより、その他の試薬を含む場合よりも、効率よく基質分子を酸化することが可能である。
【0034】
電気伝導性物質としては、前駆体として投入しても良いし、担体の粒子として用いても良い。具体的には、活性炭、遷移金属であることが好ましい。
電気伝導性物質として、活性炭、遷移金属を用いることにより、触媒上での酸化反応で生じる電子を効率よく外部回路に流通させることが可能となる。
【0035】
本発明においては、水や有機溶媒に上記の金属試薬や担体または担体前駆体を投入し均一な状態で反応をさせる。
金属イオンの還元剤としては、標準還元電位が室温における水素(0eV)よりも負である化合物を用いることが、遷移金属イオンを金属に還元する力が強いという観点から適当である。そのような還元剤としては、例えば、MBH4、MEt3BH(M=Na、K)、 水素化シアノホウ素ナトリウム (NaBH3CN)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBHEt3)、ボラン錯体(BH3・L)、トリエチルシラン(Et3SiH)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム (Sodium Bis(2-methoxyethoxy)Alminium Hydride;Red-Al) などを挙げることができる。但し、これらの還元剤の中には、水と爆発的に反応して危険であるため水溶液中で使用できないものもあるので注意を要する。その場合は、溶媒として水以外の溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド等のアプロトニックな極性溶媒)を使用することが適当である。なかでも、水溶性であり、扱いが簡便であるため、還元剤としてNaBH4が好ましい。
【0036】
これをさらに、水素ガス中にて高温で還元処理を行う。温度は、通常20℃~500℃、好ましくは80℃~250℃で行う。この温度の範囲で行うことが十分に還元処理を行うとともに、成分金属を良く固溶化させるという点で好ましい。また、処理する時間は通常0.1時間~12時間であり、好ましくは1時間~3時間である。この範囲の時間で還元処理を行うことで、短時間で十分に還元処理を行うことができるという点で好ましい。また、反応は水素流通下で行い、水素ガスとしては、99.99%の工業用水素ガスを用いる。工業用水素ガスは、十分に金属を還元できるという点で好ましい。
【0037】
本実施形態の電極触媒の製造方法について説明する。
ここでは、本実施形態の電極触媒の製造方法の一例として、一般式PtxPd100-x/C(0<x<100)で表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒の製造方法を説明する。
試験管内に、所定量の2-エトキシエタノール、ヘキサクロリド白金(IV)酸(H2PtCl6)水溶液、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc)2)、およびアセトンを導入し、超音波処理により、溶液にH2PtCl6とPd(OAc)2を溶解させる。
【0038】
次に、得られた溶液に、所定量のカーボンブラックを添加し、超音波処理により、内容物をよく混合させる。
その後、アルゴンや窒素(N2)ガスをバブリングしながら、混合物を撹拌する。
所定時間経過後、アルゴンや窒素(N2)をバブリングからフローに変更し、水に水素化ホウ素ナトリウムを溶解した溶液をパスツールピペットで少しずつ滴下する。この時、液温を一定に保持する。
【0039】
十分に反応を進行させるために、所定温度まで昇温し、その温度で所定時間保持する。
その後、放冷する。
アセトンを用いて、生成物を試験管から遠心管に洗い出し、所定時間遠心分離することにより、溶液から生成物を分離する。
【0040】
さらに、アセトンを加えて、所定時間遠心分離する操作を2回繰り返す。
その後、アセトンと水を加えて、所定時間遠心分離する操作を2回繰り返す。
その後、アセトンを加えて、超音波処理により生成物をフラスコに洗い出し、メンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、水とアセトンで洗浄し、所定時間、デシケーターを用いて真空乾燥する。
乾燥後、一般式PtxPd100-x/C(0<x<100)で表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を得る。
【0041】
[燃料電池]
本実施形態の燃料電池は、本実施形態の電極触媒を、アノードの表面または内部、もしくはアノードにおける電解質側に備える。また、本実施形態の燃料電池は、アノードにおいて、アルコールを電極触媒に接触させて酸化させてカルボン酸を生成する際に直接的に発電する。
【0042】
図1は、本実施形態の燃料電池の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の燃料電池10は、アノード11と、カソード12と、電解質13とを有する。
アノード11とカソード12は、電解質13を介して対向するように配置されている。また、アノード11とカソード12は、導線20および電圧計21を介して電気的に接続されている。
【0043】
アノード11は、燃料極とも言う。
アノード11は、主に多孔質の電気伝導性固体から構成され、その表面または内部、もしくはアノード11における電解質13側(カソード12側とは反対側)に本実施形態の電極触媒を備える。アノード11は、電解質13側に本実施形態の電極触媒から構成されるアノード触媒層(図示略)を備える。
【0044】
カソード12は、空気極とも言う。
カソード12は、主に酸素を還元する触媒と電極から構成される。
【0045】
電解質13は、高いプロトン伝導率を有するNafion等のプロトン伝導膜である。
【0046】
本実施形態の燃料電池10による発電方法の一例を説明する。
ここでは、アルコールである乳酸を本実施形態の触媒に接触させて酸化させて、カルボン酸であるピルビン酸を生成する場合を例示して、燃料電池10による発電方法を説明する。
図1に示すように、アノード11側に、乳酸(Lactic acid、LA)を供給すると、アノード11の一面11aに設けられているアノード触媒層と乳酸が接触することにより、乳酸が酸化されて、ピルビン酸(Pyruvic acid、PA)が生成する。この時、下記式(2)で示すように、乳酸から水素が脱離して、水素イオン(H
+)と電子(e
-)が生じる。
H
2 → 2H
+ + 2e
- (2)
水素イオン(H
+)は電解質13中を移動して、カソード12へと到達する。電子(e
-)は外部回路(導線20および電圧計21)を移動して、カソード12へと到達する。
【0047】
一方、
図1に示すように、カソード12側に、酸素(O
2)を供給すると、カソード12と酸素(O
2)が接触することにより、酸素が還元されて、水(H
2O)が生成する。この時、下記式(3)で示すように、酸素(O
2)に、水素イオン(H
+)と電子(e
-)結合して、水(H
2O)が生じる。
1/2O
2 + 2H
+ + 2e
- → H
2O (3)
【0048】
このような酸化還元反応が繰り返されることにより、燃料電池10が発電する。
【0049】
本実施形態の燃料電池は、本実施形態の電極触媒を、アノードの表面または内部、もしくはアノードにおける電解質側に備えるため、アノード側に乳酸を供給することにより、乳酸を酸化してピルビン酸を合成する際に発電することができる。
燃料電池は、アノード、カソード、電解質膜とからなる、いわゆる膜電極背接合体を形成していてもよい。
【0050】
[エネルギー回収システム]
本実施形態のエネルギー回収システムは、カルボン酸を、余剰電力を用いてアルコールに還元し、アルコールをカルボン酸に酸化することにより余剰電力のエネルギーを回収するシステムである。
本実施形態のエネルギー回収システムは、(a)カルボン酸類を貯蔵する容器と、(b)余剰電力を用いてカルボン酸類をアルコール類に還元する手段と、(c)得られたアルコール類を貯蔵する手段と、(d)前記アルコール類を酸化して前記カルボン酸にして電力を発生させる手段と、を有する。
【0051】
本実施形態のエネルギー回収システムによれば、余剰電力を浪費することなく、効率的に回収することができる。たとえば、余剰電力を用いて製造されるアルコール類は、その場所でタンクなどに貯蔵しても良いし、単独で、または複数の設備からエネルギーキャリアとしてアルコール類を集積させ、それらを本発明の燃料電池を用いて電力を発生させることに使用することが出来る。また、エネルギーキャリアとして用いない場合は、低電力を利用した有用物質生産という態様での実施も考え得る。なお、系統電力や、再生可能電力(太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電、波力発電等)を第一の余剰電力といい、回収された電力を第二の余剰電力という。
【0052】
[ケトン類およびカルボン酸類の製造方法]
本実施形態のケトン類およびカルボン酸類の製造方法は、本実施形態の電極触媒を用いてアルコール類の電気化学的酸化反応を行うことにより、ケトン類およびカルボン酸類を合成する方法である。
本実施形態の電極触媒を用いてアルコール類を酸化する方法は、特に限定されないが、例えば、上述の燃料電池のように、基材(電極)上に担持された電極触媒とアルコール類を接触させる方法、アルコール類中に粉体状の電極触媒を分散させて、これらの混合物を撹拌することにより、電極触媒とアルコール類を接触させる方法等が挙げられる。
【0053】
本実施形態のケトン類およびカルボン酸類の製造方法で用いられる原料のアルコール類としては、乳酸、グリコール酸、2-アミノ-2-ヒドロキシ酢酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチルブタン酸、2-ヒドロキシ吉草酸、α-ヒドロキシグルタル酸、2-ヒドロキシコハク酸、フェニル乳酸、イミダゾール-4-乳酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、2-ヒドロキシ-4-メチル吉草酸等のα-ヒドロキシ酸が挙げられる。
【0054】
2級アルコールの中でも、カルボキシル基を含むアルコールが好ましい。また、2級アルコールの中でも、2級アルコールがカルボキシル基のα位の置換基になっているヒドロキシカルボン酸類がより好ましい。
2級アルコールを用いることにより、効率的にケトン類を合成することができる。また、2級アルコールの中でも、カルボキシル基を含むアルコール類を用いることにより、より効率的にケトン類を合成することができる。また、2級アルコールの中でも、カルボキシル基のα位の置換基であるヒドロキシカルボン酸類を用いることにより、さらに効率的にケトン類を合成することができる。
【0055】
本実施形態のケトン類およびカルボン酸類の製造方法は、本実施形態の電極触媒を用いてアルコール類を酸化するため、効率的にケトン類およびカルボン酸類を合成することができる。
本実施形態の原料として、1級アルコールを用いることもできる。1級アルコールの中でもカルボキシル基を含むアルコール類が好ましい。特に、1級水酸基がカルボキシル基のα位の置換基になっているヒドロキシカルボン酸が好ましい。このようなヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸を挙げることができる。
【0056】
[ピルビン酸の製造方法]
本実施形態のピルビン酸の製造方法は、本実施形態の電極触媒を用いて乳酸(CH3CH(OH)COOH)を酸化することにより、ピルビン酸(CH3COCOOH)を合成する方法である。
本実施形態の電極触媒を用いて乳酸を酸化する方法は、特に限定されないが、例えば、上述の燃料電池のように、基材(電極)上に担持された電極触媒と乳酸を接触させる方法、乳酸中に粉体状の電極触媒を分散させて、これらの混合物を撹拌することにより、電極触媒と乳酸を接触させる方法等が挙げられる。
【0057】
本実施形態のピルビン酸の製造方法は、本実施形態の電極触媒を用いて乳酸を酸化するため、効率的にピルビン酸を合成することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(触媒調製)
東京理化器械社製のパーソナル有機合成装置PPS-2511を用いた還元析出法により、一般式Pt(100-n)Pdn/Cで表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒のうち、n=0、20、25、50、75、100のそれぞれの組成のものを合成した。
【0060】
「実施例1」
試験管内に、2-エトキシエタノール30mL、H2PtCl6水溶液560.78mmol/L(114μL、0.096mmol)、Pd(OAc)214.4mg(0.032mmol)、およびアセトン5mLを導入し、15分間の超音波処理により、溶液にH2PtCl6とPd(OAc)2を十分に溶解させた。
次に、得られた溶液に、CABOT社製のVULCAN(登録商標)XC72R100.0mgを添加し、10分間の超音波処理により、内容物をよく混合させた。
その後、30分間、アルゴン(Ar)ガスをバブリングしながら、回転数1200rpmで撹拌した。
30分後、アルゴン(Ar)をバブリングからフローに変更し、水25mLに水素化ホウ素ナトリウム(1mmol)38.3mgを溶解した溶液をパスツールピペットで15分かけて滴下した。この時、液温を15℃に保持した。
十分に反応を進行させるために、昇温速度3℃/minで30℃まで昇温し、30℃で45分間保持した。
その後、室温(20℃)まで45分かけて放冷した。この時、試験管内に生成物が生じた。
アセトン30mLを用いて、生成物を試験管から遠心管に洗い出し、6500rpmで3分間遠心分離することにより、溶液から生成物を分離した。
さらに、アセトン30mLを加えて、6500rpmで3分間遠心分離する操作を2回繰り返した。
その後、アセトン30mLと水5mLを加えて、6500rpmで3分間遠心分離する操作を2回繰り返した。
その後、アセトン30mLを加えて、超音波処理により生成物をフラスコに洗い出し、ADVANTEC社製のMEMBRANE FILTER H100A 047A(孔径1.0μm)を用いて吸引濾過を行い、水で3回、アセトンで3回洗浄し、12時間、デシケーターを用いて真空乾燥した。
乾燥後、Pdの含有量が25at%(原子%)、Ptの含有量が75at%(原子%)のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒(以下、「Pt75Pd25/C触媒」と言う。)を得た。
【0061】
(水素還元処理)
構造解析を行うカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒は電極作成時と同じ状態にするため、管状炉にて水素還元処理を行った。
管状炉にカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を入れ、24.5℃にて、管状炉内に窒素(N2)ガスを100ppmで15分間流通させ、管状炉内を窒素(N2)ガス置換した。
次に、管状炉内に水素(H2)ガスを100ppmで15分間流通させ、管状炉内を水素(H2)ガス置換した。
次に、水素(H2)ガスの流量を60ppmに変更し、昇温速度3.8℃min-1で、24.5℃~250℃まで昇温し、250℃にて120分保持した後、24.5℃まで自然冷却することにより、水素還元処理を行った。
最後に、管状炉内に窒素(N2)ガスを100ppmで15分間流通させ、管状炉内を窒素(N2)ガス置換した後、電極を管状炉から取り出した。
得られたPt75Pd25/C触媒の粒子径を、TEM像上の粒子径を測定した結果、2.0nm以上8.9nmであった。
【0062】
(高周波誘導プラズマ発光分光分析法(ICP-AES))
得られたPt75Pd25/C触媒における、Pt75Pd25の含有量(質量%)、およびPtとPdの比を、高周波誘導プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により測定した。
Thermo Fisher SCIENTIFIC iCAP 6300を用いた、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively coupled plasma-atomic emission spectroscopy、ICP-AES)により、Pt75Pd25/C触媒内に含まれる金属の定量を行った。
Pt75Pd25/C触媒を3mg秤量し、硝酸3mL、塩酸9mL、撹拌子と共にスクリュー管に入れ、ホットスターラーを用いて80℃にて2時間、回転数120rpmで加熱撹拌し、Pt75Pd25/C触媒を含む溶液を調製した。
得られた溶液を、Sartorius社製のMinisart(登録商標)RC15シリンジフィルターを用いてろ過し、ろ過後の溶液(ろ液)を、100mLメスフラスコを用いて10ppm程度の溶液とした。
原子吸光分析用白金標準液(1000ppm)を希釈して1ppm、10ppmおよび20ppmの白金溶液を調製し、検量線を作成した。また、ニッケル標準液(1000ppm)を希釈して1ppm、10ppmおよび20ppmのニッケル溶液を調製し、検量線を作成した。また、パラジウム標準液(1000ppm)を希釈して1ppm、10ppmおよび20ppmのパラジウム溶液を調製し、検量線を作成した。
結果を表1に示す。
【0063】
「実施例2」
実施例1において、H2PtCl6水溶液352.1mmol/L(291μL、0.102mmol)を用い、Pd(OAc)25.75mg(0.0256mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、Pdの含有量が20at%(原子%)、Ptの含有量が80at%(原子%)のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒(以下、「Pt80Pd20/C触媒」と言う。)を得た。
得られたPt80Pd20/C触媒の平均粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、2.6nm以上8.8nm以下であった。
得られたPt80Pd20/C触媒における、Pt80Pd20の含有量(質量%)、およびPtとPdの比を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0064】
「実施例3」
実施例1において、H2PtCl6水溶液352.1mmol/L(219μL、0.064mmol)を用い、Pd(OAc)214.37mg(0.064mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、Pdの含有量が50at%(原子%)、Ptの含有量が50at%(原子%)のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒(以下、「Pt50Pd50/C触媒」と言う。)を得た。
得られたPt50Pd50/C触媒の粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、2.7nm以上13.5nm以下であった。
得られたPt50Pd50/C触媒における、Pt50Pd50の含有量(質量%)、およびPtとPdの比を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0065】
「実施例4」
実施例1において、H2PtCl6水溶液352.1mmol/L(90.9μL、0.032mmol)を用い、Pd(OAc)221.55mg(0.096mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、Pdの含有量が75at%(原子%)、Ptの含有量が25at%(原子%)のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒(以下、「Pt25Pd75/C触媒」と言う。)を得た。
得られたPt25Pd75/C触媒の粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、2.7nm以上7.7nm以下であった。
得られたPt25Pd75/C触媒における、Pt25Pd75の含有量(質量%)、およびPtとPdの比を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0066】
「実施例5」
実施例1において、H2PtCl6水溶液352.1mmol/L(364μL、0.128mmol)を用い、Pd(OAc)2を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、Pdの含有量が0at%(原子%)、Ptの含有量が100at%(原子%)のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒(以下、「Pt/C触媒」と言う。)を得た。
得られたPt/C触媒の粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、2.6nm以上21.2nm以下であった。
得られたPt/C触媒における、Ptの含有量(質量%)、およびPtとPdの比を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0067】
「実施例6」
実施例1において、Pd(OAc)228.74mg(0.128mmol)を用い、H2PtCl6水溶液を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、Pdの含有量が100at%(原子%)、Ptの含有量が0at%(原子%)のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒(以下、「Pd/C触媒」と言う。)を得た。
得られたPd/C触媒の粒子径を実施例1と同様にして測定した結果、2.8nm以上10.6nm以下であった。
得られたPd/C触媒における、Pdの含有量(質量%)、およびPtとPdの比を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1の結果から、実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒は、ほぼ仕込み通りの組成比になっていることが確認された。
【0070】
(粉末X線回折(Powder X-ray diffraction、XRD)測定)
水素還元処理を施したカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を、WJM-Glas/Muller GmbH社製の内径0.5mmのBoro-Silicateキャピラリーの末端(開口部)から内側に7mm程度の位置まで入れて、真空系に設置して脱気した状態で、ガスバーナーを用いて、キャピラリーの端部の封じ切りを行った。
封じ切りを行ったカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒入りのキャピラリーについて、大型放射光施設SPring-8 BL44B2、波長λ=0.69035Å(6.9035×10
-11m)を用いて、粉末X線回折(Powder X-ray diffraction、XRD)を測定した。得られたXRDパターンを
図2に示す。
図2に示すように、得られたXRDパターンと、波長λ=6.9035×10
-11mを用いて算出したfcc構造を持つPtのシミュレーション結果(以下、「Pt sim.」と言う。)およびfcc構造を持つPdのシミュレーション結果(以下、「Pd sim.」と言う。)と比較すると、得られたXRDパターンはfcc構造のパターンに帰属されることから、実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒はfcc構造を有し、Pdの組成比が増加すると、回折ピークがPd/Cの回折ピークに近づくようにシフトしていることが確認された。
参照試料として関東化学社製のPlatinum black(白金含有量98.0%超)と小島化学薬品社製のPalladium,black,Powder(パラジウム含有量99.95%超)について、カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒と同様にXRD測定を行った。以下、白金の参照試料を「Pt ref.」、パラジウムの参照試料を「Pd ref.」 と言う。
得られたXRDパターンを、Rietveld法を用いて解析することで試料の同定を行った。この際、Debye-Scherrer光学系として、Peak type PVII、LP factor 90として計算を行った。表2に、Rietveld解析により算出された構造パラメーターを示し、
図3にカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒の組成比に対して格子定数をプロットした図を示す。
【0071】
【0072】
表2の結果から、算出されたPt/C触媒およびPd/C触媒の格子定数は、Pt ref.およびPd ref.の格子定数とほぼ一致した。一方、カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒の格子定数は、組成比に対して線形的に変化していることが明らかになった。また、
図3の結果から、カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒は、べガード則に従うことが確認された。
【0073】
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察)
イーエムジャパン社製のエステル支持膜 U1009に対して、ミクロスパーテル1さじ程度の試料(カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒)をメタノール3mLに分散させた溶液を、3滴パスツールピペットを用いて滴下した後、乾燥させて、試料グリッドを作製した。
JEOL社製の透過型電子顕微鏡JEM-2100HC;200kVを用いて、試料の透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope、TEM)像を撮影した。また、透過型電子顕微鏡像に映った150個程度の粒子の直径を計測し、粒径分散と平均粒径を算出した。結果を、
図4~
図9および表3に示す。
図4は実施例5のPt/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
図5は実施例2のPt
80Pd
20/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
図6は実施例1のPt
75Pd
25/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
図7は実施例3のPt
50Pd
50/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
図8は実施例4のPt
25Pd
75/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。
図9は実施例6のPd/C触媒の透過型電子顕微鏡像と粒度分布を示す図である。表3にカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子の平均粒径を示す。
【0074】
【0075】
(走査型透過電子顕微鏡(STEM)観察 エネルギー分散型X線分光(EDS)測定)
応研商事社製のマイクログリッドNP-C10 STEM Cu100Pグリッド仕様に対して、ミクロスパーテル1さじ程度の試料(カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒)をメタノール3mLに分散させた分散液を、3滴パスツールピペットを用いて滴下した後、乾燥させて、試料グリッドを作製した。
JEOL社製の走査型透過電子顕微鏡JEM-ARM200F;200 kVを用いたエネルギー分散型X線分光(Scanning transmission electron microscope-energy dispersive spectroscopy、STEM-EDS)により、ラインスキャンを行った。結果を
図10~
図17に示す。
図10および
図11は、実施例2のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
図11は、
図10の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
図12および
図13は、実施例1のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
図13は、
図12の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
図14および
図15は、実施例3のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
図15は、
図14の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
図16および
図17は、実施例4のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子に関するSTEM-EDSの結果を示す図である。
図17は、
図16の矢印部分においてラインスキャンを行った結果を示す図である。
図10~
図17の結果から、実施例1~実施例4のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子は、PtとPdが同様に分布しているため、PtとPdがよく混ざった合金であると考えられる。
【0076】
(X線光電子分光法(XPS))
アルバック・ファイ社製のULVAC-PHI PHI5000 VersaProbe II(AlKα線、1486.6eV)を用いたX線光電子分光法(X-ray Photoelectoron Spectroscopy、XPS)により、試料(カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒)の構成元素とその電子状態を分析した。
図18に示すように、試料ホルダーにカーボンテープを貼付し、そのカーボンテープ上に試料を載せた。
試料がカーボンテープから剥がれないことを確認してから、装置チャンバー内に試料ホルダーを導入した後、装置チャンバー内を真空引きして、XPS測定を行った。
得られたXPSスペクトルは、炭素のC1s由来のピーク結合エネルギーが284.5 eVとなるように較正した。各試料におけるPt由来のXPSスペクトルに関して、主に最も強い強度が得られる4f
7/2軌道および4f
5/2軌道の電子からなるスペクトルを対象とし、Pd由来のXPSスペクトルに関して、主に最も強い強度が得られる3d
5/2軌道および3d
3/2軌道の電子からなるスペクトルを対象として測定を行った。得られたスペクトルのカーブフィッティング解析を行うに当たって、試料中のPtにはPt
0、Pt
2+およびPt
4+の成分が存在すると想定し、PdにはPd
0、Pd
2+およびPd
4+の成分が存在すると想定して、最小二乗法を用いて解析を行った。結果を
図19~
図22に示す。
図19は、Ptの4f
7/2軌道および4f
5/2軌道の電子のXPSスペクトルを示す図である。
図20は、Pdの3d
5/2軌道および3d
3/2軌道の電子のXPSスペクトルを示す図である。
図21は、Ptの4f
7/2軌道および4f
5/2軌道の電子のXPSスペクトルを解析した結果を示す図である。
図22は、Pdの3d
5/2軌道および3d
3/2軌道の電子のXPSスペクトルを解析した結果を示す図である。
また、算出されたPt
0の4f
7/2軌道の結合エネルギーとPdの3d
5/2軌道の結合エネルギーを表4に示す。
【0077】
【0078】
表4の結果から、Pt75Pd25/Cは、他の組成と比べて、Pt0の4f7/2軌道の結合エネルギーおよびPdの3d5/2軌道の結合エネルギーが最大値をとることが分かった。このことから、Pt75Pd25/Cは、他の組成と比べて、Pt-Pd間の電子的相互作用が強いことが確認された。
【0079】
(XPUの測定)
触媒の仕事関数を求めるためにUPS測定を行った。UPS測定は、Pd-Pt/Cの粉末試料を測定用ステージの上に載せ、その上に金線を張り、さらにマスクをつけて固定した状態で、電子分光分析装置 (Versa Probe II、ULVAC-PHI)を用いてHeI線を使って測定を行った。
試料に-0.6Vのバイアスをかけて測定したUPSスペクトルを解析することによって得られた仕事関数を表5および
図23に示す。表5および
図23より、Pd-Pt/Cの仕事関数は組成によって変化し、すべてPtよりも小さな仕事関数を有することが明らかとなった。
表6に単純な金属の仕事関数を示す。
【0080】
【0081】
【0082】
表6より、第4周期の金属よりも第5周期の金属の仕事関数が大きく、同じ周期でもフェルミ準位がs軌道である、AgやAuが他の金属よりも小さいことがわかる。したがって、Pd-Pt/Cでは、仕事関数の小さいPdから仕事関数の大きなPtに電子が移動すると考えらえる。その結果、Pt上の電子密度が上昇することで、Pt上での1電子あたりの核電荷(Ptの原子核が電子を引きつける力)が小さくなるため、合金全体の仕事関数が減少する。PtとPd間での電荷の移動量は金属元素の配位数や合金構造および成分金属の安定性により変化するが、Pd-Pt/Cの場合は、Pt
75Pd
25/Cで電荷移動量が最大となり、その仕事関数が最小値になると考えられる。
次に、先に求めたPdPtの仕事関数と乳酸の電気的酸化のオンセットポテンシャルの関係を
図24に示す。この結果、点線で示されるPt/CとPd/Cの仕事関数の算術平均よりも小さい仕事関数をもつPd-Pt/Cは、アルコールの電気化学的酸化に高い活性を示すことが明らかとなった。これは、アルコールの電気化学的酸化には、アルコール(水酸基(-OH))と触媒が強く相互作用することが必要であるため、プロトンと相互作用の強いPtがPdよりも高い活性を示すと考えられる。さらに、仕事関数の小さな合金触媒Pt
75Pd
25/Cは、基質の反結合性軌道への電子供与能を有するため、基質分子を高度に活性化し、高い触媒活性を示すと考えられる。
【0083】
(CV(サイクリックボルタンメトリー)測定)
図25および
図26は、CV測定に使用した電気化学セルを示す概略構成図である。
図25および
図26において、符号21はセル、符号22はセル21を封止する密栓、符号23は作用極、符号24は温度計、符号25は第1ガス導入管、符号26は撹拌子、符号27は対極、符号28は参照極、符号29は第2ガス導入管を示す。
作用極23としては、実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む電極を設置した。対極27としては、電極部直径0.5mm、長さ23cmの白金カウンター電極(ビー・エー・エス社製)を用いた。参照極28としてはAg/AgCl飽和KCl銀塩化銀参照電極(インターケミカル社製)を用いた。また、ポテンショスタットには、Princeton Applied Research社製のVersaSTAT4を用いた。
ブランクとして14.20g(0.1000mol)の硫酸ナトリウムを500mLの超電解水に溶解した0.2mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を調整し、14.20g(0.1000mol)の硫酸ナトリウムと1.12mL(15mmol)の乳酸を全容積が500mLとなるよう超電解水に溶解した0.2mol/Lの硫酸ナトリウムおよび30mmol/Lの乳酸を含む混合水溶液を調製した。
混合水溶液を80mLのセル21に導入した後、30分間不活性ガスをバブリングしながら測定温度まで、撹拌子26を備えるホットスターラーを用いて、300rpmで撹拌しながら、加熱した。
30分経過後、液温が70℃になったことを確認し、八光電機社製のデジタルファインサーモ DG2Nの熱電対部分を溶液から取り外し、
図26に示すように、不活性ガスをバブリングからフローに切り替えた。
各電極をPrinceton Applied Research社製のVersastat4に接続し、-100mV vs RHE~+1000mV vs RHEの範囲で10mVs
-1のスキャンレートで3サイクルのCV測定を行った。結果を
図27に示す。
図27は、Pt/C触媒上でのCV測定における2サイクル目の結果を示す図である。
30mmol/Lの乳酸を含む混合水溶液に関して、電位を負から正に掃引するか、または、正から負に掃引したとき、641mV vs RHE近傍で、ブランクには見られない酸化ピークが確認された。正から負に電位がかかった時の電流密度の変化は、乳酸の酸化反応が起きたことを示すと考えられる。また、途中で失活している要因は、触媒表面が被毒されたために、反応速度が低下したためであると推測される。また、正から負へ電位を掃引した過程において確認される酸化ピークは、この反応が不可逆反応であることを示している。電流値が前半に比べて高い理由は、作用極の表面上に吸着した物質が解離するための電子移動が生じるためであると考えられる。
電位を負から正に掃引した際に生じるピークトップの電流密度で規格化した、実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む作用極におけるCV測定での2サイクル目の結果を
図28に示す。400mV vs RHE近傍は、ブランクにおける測定結果と変わらない電流密度であったため、その延長線とピーク接線の交点を反応開始電位と定めた。ここから算出された反応開始電位を表7に示す。
【0084】
【0085】
表7の結果から、実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒の中でも、Pt75Pd25/C触媒は反応開始電位が最も低いことが分かった。
【0086】
(CA(定電位電解(クロノアンペロメトリー))測定)
反応開始電位が近いPt/C触媒、Pt
80Pd
20/C触媒、Pt
75Pd
25/C触媒およびPt
50Pd
50/C触媒を対象として、Pt/C触媒の酸化ピークの電位近傍である650mV vs RHE、Pt/C触媒の反応開始電位近傍である550mV vs RHE、Pt
75Pd
25/C触媒の反応開始電位付近である500mV vs RHEにおいて、CAによるピルビン酸の生成分布を調べた。
図29は、CA測定に使用した電気化学セルを示す概略構成図である。
図29において、符号41は第1セル、符号42は第2セル、符号43は第1セル41を封止する密栓、符号44は第2セル42を封止する密栓、符号45は作用極、符号46は対極、符号47は参照極、符号48は第1ガス導入管、符号49は第2ガス導入管、符号50は第1セル41と第2セル42の接続部51の途中に設けられた隔膜、符号52および符号53は撹拌子を示す。
隔膜50としては、SIGMA-ALDRICH社製のNafion(登録商標) NRE-212を用いた。
作用極45としては、実施例1~実施例6のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む電極を設置した。対極46としては、電極部直径0.5mm、長さ23cmの白金カウンター電極(ビー・エー・エス社製)を用いた。参照極47としてはAg/AgCl飽和KCl銀塩化銀参照電極(インターケミカル社製)を用いた。
反応溶液として、30mmol/Lの乳酸を含む0.2mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液および基質が含まれない0.2mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液のそれぞれを40mLずつ第1セル41と第2セル42に導入した。
その後、30分間不活性ガスをバブリングしながら、撹拌子52,53をそれぞれ備えるホットスターラーを用いて、450rpmで撹拌しながら、第1セル41および第2セル42内の反応溶液を70℃まで加熱した。
30分経過後、液温が70℃になったことを確認し、不活性ガスをバブリングからフローに切り替えた。
各電極をPrinceton Applied Research社製のVersastat4に接続し、-100mV vs RHE~+1000mV vs RHEの範囲で10mVs
-1のスキャンレートで3サイクルのCV測定を行った。
その後、650mV vs RHE、550mV vs RHE、500mV vs RHEの電位を印加して、2時間定電位で反応を行い、10point/sの間隔で電流密度をプロットした。
生成物の定量を、高速液体クロマトグラフ SHIMADZU High Performance Liquid Chromatograph Prominenceを用いた、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)で行った。バッファーとして、50mmol/Lの過塩素酸水溶液を用いた。反応溶液500μLを、専用バイアルにシリンジを用いて、CA開始前、1時間経過時、反応終了時(2時間経過)に回収し、それぞれの反応溶液の測定結果の面積値から、ピルビン酸の濃度を算出した。
Pt
80Pd
20/C触媒、Pt
75Pd
25/C触媒およびPt
50Pd
50/C触媒での 各電位におけるCAによる電流密度の時間変位を
図30~
図32に示す。また、各電位、それぞれのカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒における乳酸の転換率、ピルビン酸の生成率、ピルビン酸のファラデー効率(Faradaic efficiency:F.E.)を表8に示す。
なお、乳酸の転換率は、反応前に導入した乳酸のうち反応した乳酸の割合を意味し、反応終了後の乳酸の物質量をCA開始前の乳酸の物質量で割ることで算出した。ピルビン酸の生成率は、反応前に導入した乳酸から反応してできたピルビン酸の割合であり、反応終了後のピルビン酸の物質量をCA開始前の乳酸の物質量で割ることで算出した。ピルビン酸生成のファラデー効率は、回路を流れた電流のうち、プリビン酸の合成に使われた電流の割合を意味し、生成したピルビン酸の物質量と一分子のピルビン酸の生成に伴って発生する電子の数(2電子)をかけて計算される生成したピルビン酸の生成によって生じた電子の総量(mol)を、回路を流れた電荷総量をファラデー定数96490(C/mol)で割ることで計算される回路を流れた総電子数(mol)で割ることで算出した。
【0087】
【0088】
図30~
図32および表8の結果から、カーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む作用極上の反応において、乳酸が選択率100%でピルビン酸に変換されることが分かった。なお、ここで言う選択率とは、反応終了時の溶液に関するHPLCを行った際、生成物全体の物質量に対する生成したピルビン酸の物質量のことである。本実験では、生成物において、ピルビン酸以外の生成物が確認されなかったため選択率100%となった。
650mV vs RHEに関してPt/C触媒を含む作用極によるピルビン酸の最終生成率は24%と高くなったものの、その他のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む作用極では、ピルビン酸の生成率がPt/C触媒を含む作用極に比べて低いことが分かった。これは、Pt/C触媒以外のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む作用極においては、酸化ピーク電位以降での測定となるため、作用極の表面が被毒され、反応速度が低下したためであると考えられる。
一方、Pt/C触媒を含む作用極の反応開始電位より低い電位である500mV vs RHEでの測定では、Pt/C触媒では反応が進行せず、最も反応開始電位が低かったPt
75Pd
25/C触媒におけるピルビン酸の生成率が最大となった。
以上の結果から、Pt/C触媒以外のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒を含む作用極を用いることにより、白金触媒では反応が進行しない低電位でも乳酸からピルビン酸を選択率100%で合成可能であることが分かった。
【0089】
図33に、一般式Pt
(100-n)Pd
n/Cで表されるカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒におけるXPS測定結果を解析し、算出されたPt
0の割合と反応開始電位を示す。
図33の結果から、Pt
75Pd
25/C触媒におけるPt
0の割合が最も高いことが分かった。また、Pt
75Pd
25/C触媒は、反応開始電位が最も低いことが分かった。
以上の結果から、Pt
75Pd
25/C触媒の触媒活性が高い要因は、
図34に示すように、Pt-Pd間の電子的相互作用が他の組成比のカーボン担持白金パラジウム合金ナノ粒子触媒に比べて強いため、Pt
0の割合が増えて、活性点が上昇したためであると考えられる。
【符号の説明】
【0090】
10 燃料電池
11 アノード
12 カソード
13 電解質
20 導線
21 電圧計