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特許7456621神経機能調節物質の動態の検出剤、及び神経機能調節物質の検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】神経機能調節物質の動態の検出剤、及び神経機能調節物質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/58 20060101AFI20240319BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20240319BHJP
   A61K 31/4045 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240319BHJP
   C07C 213/00 20060101ALN20240319BHJP
   C07C 213/02 20060101ALN20240319BHJP
   C07C 215/52 20060101ALN20240319BHJP
   C07C 217/60 20060101ALN20240319BHJP
   C07D 209/32 20060101ALN20240319BHJP
   C07D 317/58 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
G01N33/58
A61K31/36
A61K31/4045
A61P25/00
C07C213/00
C07C213/02
C07C215/52 CSP
C07C217/60
C07D209/32
C07D317/58
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020535822
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031022
(87)【国際公開番号】W WO2020032080
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018148873
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業・個人型研究(さきがけ)、研究領域「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」、研究題目「多光子現象を駆使した脳内化学情報伝達の可視化解析」に係る委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】塗谷 睦生
(72)【発明者】
【氏名】芦刈 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】安井 正人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 ゆかり
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-179871(JP,A)
【文献】特表2007-515444(JP,A)
【文献】特表2005-527517(JP,A)
【文献】国際公開第2012/041934(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/019696(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/073350(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/114260(WO,A1)
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces,2017年,9(48),p.42210-42216
【文献】Advanced Synthesis & Catalysis,2017年,359(22),p.4036-4042
【文献】ACS Catalysis,2017年,7(7),p.4253-4264,Supporting InformationS31
【文献】REGISTRY(STN)[online],2006年,[検索日 2019.10.28]CAS 登録番号 125436-87-5、[検索日 2019.10.28]CAS 登録番号 892596-62-2
【文献】Chemistry - A European Journal,2016年,22(5),p.1800-1804,Supporting Information の第3,7-10頁
【文献】Angewandte Chemie, International Edition,2015年,54(45),p.13357-13361
【文献】Chemistry - A European Journal,2015年,21(21),p.7808-7813
【文献】Journal of Proteome Research,2014年,13(8),p.3523-3529
【文献】REGISTRY(STN)[online],2001年,[検索日 2019.10.28]CAS 登録番号342880-45-9
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2012年,22(14),p.4536-4539
【文献】Youji Huaxue,2011年,31(3),p.317-323
【文献】Angewandte Chemie, International Edition,2010年,49(49),p.9465-9468,Supporting Information のS9
【文献】Macromolecular Rapid Communications,2010年,31(18),p.1608-1615
【文献】Pest Management Science,2007年,63(1),p.57-62
【文献】Synlett,2005年,(1),p.67-70
【文献】Journal of Pharmacy and Pharmacology,1965年,17(11),p.742-746
【文献】RSC Advances,2015年,5(14),p.10546-10550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/
A61K 31/
C07C 215/
C07C 217/
C07C 213/
C07D 317/
C07D 209/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
(一般式(I)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記置換基は、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり、前記置換基は、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
は、水素原子であり;
及びnは、それぞれ独立に、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
ただし、前記nが0であり、かつ前記nが1である場合には、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記nが1であり、かつ前記nが0である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n及び前記nがともに0である場合には、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n及び前記nがともに1である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
で表される化合物又はその塩を含む、神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項2】
前記一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(I)-1、(I)-2又は(I)-3:
【化2】
(一般式(I)-1、(I)-2又は(I)-3中、X、X、X、X、X、n及びnは、前記と同じであり;
11、X21、X31及びX41は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であり、X11及びX21が前記アルキル基である場合、又は、X31及びX41が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
ただし、一般式(I)-1中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、前記不飽和炭化水素基であり、
一般式(I)-2中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、前記不飽和炭化水素基である。)
で表される化合物である、請求項1に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項3】
前記一般式(I)-1、(I)-2又は(I)-3で表される化合物が、下記一般式(I)-1-1、(I)-1-2、(I)-2-1、(I)-2-2、(I)-2-3又は(I)-3-1:
【化3】
(一般式(I)-1-1、(I)-1-2、(I)-2-1、(I)-2-2、(I)-2-3又は(I)-3-1中、X12、X22、X32及びX42は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X12及びX22が前記アルキル基である場合、又は、X32及びX42が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
、G、G、G及びGは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
は、前記と同じである。)
で表される化合物である、請求項2に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項4】
下記一般式(II):
【化4】
(一般式(II)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記置換基は、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
01は、0であり;
02は、1~5の整数であり;
前記X01、X02、X03及びX04のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
で表される化合物又はその塩を含む、神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項5】
前記一般式(II)で表される化合物が、下記一般式(II)-1又は(II)-2:
【化5】
(一般式(II)-1又は(II)-2中、n02は、前記と同じであり;
011、X021及びX031は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であり、X011及びX021が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
041は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記置換基は、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
010、X020及びX030は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記置換基は、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり、X010及びX020が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、X010、X020及びX030の1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
で表される化合物である、請求項4に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項6】
前記一般式(II)-1又は(II)-2で表される化合物が、下記一般式(II)-1-1、(II)-2-1、(II)-2-2、(II)-2-3、(II)-2-4又は(II)-2-5:
【化6】
(一般式(II)-1-1、(II)-2-1、(II)-2-2、(II)-2-3、(II)-2-4又は(II)-2-5中、X012、X022及びX032は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X012及びX022が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
01、G02、G03及びG04は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
02は、前記と同じである。)
で表される化合物である、請求項5に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項7】
前記化合物が、前記炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は前記炭素数2~8の不飽和炭化水素基として、その結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成している不飽和炭化水素基を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項8】
前記化合物が、前記炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は前記炭素数2~8の不飽和炭化水素基として、その結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成している不飽和炭化水素基のみを有し、前記末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成している不飽和炭化水素基以外に、前記炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は前記炭素数2~8の不飽和炭化水素基を有しない、請求項1~6のいずれか一項に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項9】
前記一般式(I)で表される化合物が、ドーパミン、ノルアドレナリン若しくはアドレナリン中の、1個又は2個以上の水素原子が、前記炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造を有する化合物である、請求項1に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項10】
前記一般式(II)で表される化合物が、セロトニン中の1個又は2個以上の水素原子が、前記炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造を有する化合物である、請求項4に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の神経機能調節物質の動態の検出剤の、神経細胞中への取り込みの状態、又は、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を評価する、神経機能調節物質の検出方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、化合物の塩、神経機能調節物質、神経機能調節物質の評価方法、化合物の製造方法、及び化合物の塩の製造方法に関する。
本願は、2018年8月7日に日本に出願された特願2018-148873号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
神経機能の調節に関わる生理活性物質(本明細書においては、「神経機能調節物質」と称することがある)の脳内における作用を、分子レベル又は細胞レベルで理解することにより、医学、生物学及び薬学が大きく発展することが期待されている。
【0003】
例えば、現代では、全人口の1割前後の人々が、うつ病等の精神疾患を罹っているとされており、その予防や治療は、最も重要な課題の一つとなっている。うつ病の詳細な発症メカニズム等は、いまだ明らかとなっていないが、使用される薬剤の働きから、脳内における、ノルアドレナリンやセロトニン等の神経機能調節物質の質的又は量的な働きの変化が、発症原因であると考えられている。
しかし、神経機能調節物質の神経細胞中への取り込みの状態、脳組織内における放出後の動態、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を評価するための実用的な方法が、十分に開発されてはおらず、このような精神疾患の治療薬の開発は、困難を極めている。
【0004】
ところで、生理活性の有無や、生理活性の詳細を解析する対象となる生体関連物質について、その細胞内外における動態を観察するためには、生体関連物質を高精度に検出する方法が必要となる。従来、生体関連物質の検出方法には、大別して、蛍光性物質や放射性同位体等の電磁波を放出可能なラベル(本明細書においては、「電磁波放出ラベル」と称することがある)によって生体関連物質をラベル化し、このラベルの電磁波放出によって生体関連物質を検出する方法と、このような電磁波放出ラベルを用いずに、生体関連物質を検出する方法と、の2種の方法がある。
【0005】
電磁波放出ラベルを用いて生体関連物質を検出する方法としては、放射性同位体を用いる方法、蛍光性物質を用いる方法が知られている。
これらのうち、放射性同位体を用いる方法は、生体関連物質の生理活性が失われ難く、特異性が高い、という利点を有する。しかし、この方法は、放射性物質を用いるために、安全管理が困難であり、また、生きている組織中での観察には不向きであり、分解能と感度が低い、という欠点を有しており、実用性が低い。したがって、神経機能調節物質の検出への適用も困難である。
蛍光性物質を用いる方法としては、蛍光色素又は蛍光タンパク質を用いる方法が実用化されているが、これらの蛍光性物質はそれ自身の分子量が大きい。したがって、これら蛍光性物質よりもはるかに分子量が小さい神経機能調節物質を蛍光性物質でラベル化すると、神経機能調節物質の挙動や性質が大きく変わってしまい、神経機能調節物質を正確に評価できない。
【0006】
蛍光色素としては、それ自体がドーパミン含有神経細胞中に取り込まれ、この細胞中で検出可能な蛍光緑色色素FFN511が知られている(特許文献1参照)。この蛍光色素の分子量は、上記の通常の蛍光色素や蛍光タンパク質の分子量に比べて相対的に小さいものの、それでもドーパミンの分子量の2倍程度である。したがって、FFN511は、その挙動や性質の点で、通常の観測対象分子とは大きく異なる。実際、FFN511は、生理活性を有しないと考えられ、さらに、必ずしも一般的ではない短波長の光を吸収して、幅広い波長帯の光を放出する。したがって、他の色素との併用が困難であり、代替の色素が存在しないなど、生体関連物質の研究対象として適していない。
【0007】
一方で、電磁波放出ラベルを用いずに、生体関連物質を検出する方法としては、分子中の特定の基がラマン散乱を生じることに着目して、ラマン顕微鏡を用いて検出する方法が知られている。例えば、炭素原子間の三重結合(C≡C)は、ラマン顕微鏡によって検出可能であり、このような三重結合を導入した、生体分子のアナログを検出する方法が開示されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8337941号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Yamakoshi H.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2012, 134, 20681-20689.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、非特許文献1で開示されているこの分子は、神経機能調節物質とは無関係であり、これまでに、神経機能調節物質として、炭素原子間の三重結合を有するものは、報告されていない。
【0011】
本発明は、神経細胞中への取り込みの状態、又は、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を、実用的に評価可能な、新規の神経機能調節物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の構成を採用する。
[1].下記一般式(I)で表される化合物又はその塩。
【0013】
【化1】
(一般式(I)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
は、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
及びnは、それぞれ独立に、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
ただし、前記nが0であり、かつ前記nが1である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記nが1であり、かつ前記nが0である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n及び前記nがともに0である場合には、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n及び前記nがともに1である場合には、前記X、X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0014】
[2].前記一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(I)-1、(I)-2、(I)-3又は(I)-4で表される化合物である、[1]に記載の化合物又はその塩。
【0015】
【化2】
(一般式(I)-1、(I)-2、(I)-3又は(I)-4中、X、X、X、X、X、n及びnは、前記と同じであり;
11、X21、X31及びX41は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であり、X11及びX21が前記アルキル基である場合、又は、X31及びX41が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
61は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
ただし、一般式(I)-1中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、前記不飽和炭化水素基であり、
一般式(I)-2中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0016】
[3].前記一般式(I)-1、(I)-2、(I)-3又は(I)-4で表される化合物が、下記一般式(I)-1-1、(I)-1-2、(I)-2-1、(I)-2-2、(I)-2-3、(I)-3-1又は(I)-4-1で表される化合物である、[2]に記載の化合物又はその塩。
【0017】
【化3】
(一般式(I)-1-1、(I)-1-2、(I)-2-1、(I)-2-2、(I)-2-3、(I)-3-1又は(I)-4-1中、X12、X22、X32及びX42は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X12及びX22が前記アルキル基である場合、又は、X32及びX42が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
、G、G、G、G及びGは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
は、前記と同じである。)
[4].下記一般式(II)で表される化合物又はその塩。
【0018】
【化4】
(一般式(II)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
01は、0又は1であり;
02は、1~5の整数であり;
ただし、前記n01が0である場合には、前記X01、X02、X03及びX04のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n01が1である場合には、前記X01、X02、X03、X04及びX05のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0019】
[5].前記一般式(II)で表される化合物が、下記一般式(II)-1又は(II)-2で表される化合物である、[4]に記載の化合物又はその塩。
【0020】
【化5】
(一般式(II)-1又は(II)-2中、n02は、前記と同じであり;
011、X021及びX031は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であり、X011及びX021が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
041は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
010、X020及びX030は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X010及びX020が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、X010、X020及びX030の1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0021】
[6].前記一般式(II)-1又は(II)-2で表される化合物が、下記一般式(II)-1-1、(II)-2-1、(II)-2-2、(II)-2-3、(II)-2-4又は(II)-2-5で表される化合物である、[5]に記載の化合物又はその塩。
【0022】
【化6】
(一般式(II)-1-1、(II)-2-1、(II)-2-2、(II)-2-3、(II)-2-4又は(II)-2-5中、X012、X022及びX032は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X012及びX022が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
01、G02、G03及びG04は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
02は、前記と同じである。)
【0023】
[7].[1]~[6]のいずれか一項に記載の化合物又はその塩からなる、神経機能調節物質。
[8].炭素原子間の三重結合を有する基を含む、神経機能調節物質。
[9].前記神経機能調節物質が、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン若しくはセロトニン中の、1個又は2個以上の水素原子が、前記炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造を有する化合物又はその塩である、[8]に記載の神経機能調節物質。
【0024】
[10].[7]~[9]のいずれか一項に記載の神経機能調節物質の、神経細胞中への取り込みの状態、又は、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を評価する、神経機能調節物質の評価方法。
[11].下記一般式(I)で表される化合物又はその塩の製造方法であって、下記一般式(Ia)で表される化合物と、下記一般式(Ic)で表される化合物と、を反応させる工程と、下記Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程と、を行うことにより、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩として、下記一般式(Ia)で表される化合物における、下記Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、水素原子であるものが、下記X0aで置換された構造の化合物又はその塩を得る、化合物又はその塩の製造方法。
【0025】
【化7】
(一般式(I)、(Ia)又は(Ic)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
は、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
及びnは、それぞれ独立に、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
ただし、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
0aは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく;
LGは脱離基であり;
1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は保護基であり、Z1a及びZ2aが前記アルキル基である場合、又は、Z3a及びZ4aが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上は、水素原子である。)
【0026】
[12].下記一般式(I)で表される化合物又はその塩の製造方法であって、下記一般式(Ib)で表される化合物と、下記一般式(Id)で表される化合物と、を反応させる工程と、下記Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程と、を行うことにより、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩として、下記一般式(Ib)で表される化合物における、下記LGが、下記X0bで置換された構造の化合物又はその塩を得る、化合物又はその塩の製造方法。
【0027】
【化8】
(一般式(I)、(Ib)又は(Id)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
は、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
は、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
LGは脱離基であり;
1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は保護基であり、Z1b及びZ2bが前記アルキル基である場合、又は、Z3b及びZ4bが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
0bは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基である。)
【0028】
[13].下記一般式(II)で表される化合物又はその塩の製造方法であって、下記一般式(IIa)で表される化合物と、下記一般式(Ic)で表される化合物と、を反応させる工程と、下記Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程と、を行うことにより、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩として、下記一般式(IIa)で表される化合物における、下記Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、水素原子であるものが、下記X0aで置換された構造の化合物又はその塩を得る、化合物又はその塩の製造方法。
【0029】
【化9】
(一般式(II)、(IIa)又は(Ic)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
01は、0又は1であり;
02は、1~5の整数であり;
ただし、前記X01、X02、X03及びX04のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
0aは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく;
LGは脱離基であり;
01a、Z02a、Z03a及びZ04aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は保護基であり、Z01a及びZ02aが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上は、水素原子である。)
【0030】
[14].下記一般式(II)で表される化合物又はその塩の製造方法であって、下記一般式(IIb)で表される化合物と、下記一般式(Id)で表される化合物と、を反応させる工程と、下記Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程と、を行うことにより、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩として、下記一般式(IIb)で表される化合物における、下記LGが、下記X0bで置換された構造の化合物又はその塩を得る、化合物又はその塩の製造方法。
【0031】
【化10】
(一般式(II)、(IIb)又は(Id)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
02は、1~5の整数であり;
LGは脱離基であり;
01b、Z02b、Z03b及びZ04bは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は保護基であり、Z01b及びZ02bが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
0bは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0032】
本実施形態の化合物又はその塩は、神経機能調節物質として用いることができる。
本実施形態の神経機能調節物質を用いること、又は、本実施形態の神経機能調節物質の評価方法を適用することにより、神経機能調節物質の神経細胞中への取り込みの状態、又は、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を、実用的に評価できる。
本実施形態の化合物又はその塩の製造方法により、一般式(I)で表される化合物又はその塩を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】実施例6において、本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図1B】実施例6において、本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図1C】実施例6において、本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図2A】実施例6において、本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図2B】実施例6において、本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図2C】実施例6において、本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図3A】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図3B】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図3C】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図3D】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図3E】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図3F】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図4A】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図4B】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図4C】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図4D】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図4E】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図4F】実施例7において、公知の蛍光色素と本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図5A】実施例8において、本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図5B】実施例8において、本発明の化合物を用いた場合の、蛍光シグナルの強度の経時変化のデータである。
図6A】実施例8において、本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図6B】実施例8において、本発明の他の化合物を用いた場合の、蛍光シグナルの強度の経時変化のデータである。
図7A】実施例8において、公知の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図7B】実施例8において、公知の化合物を用いた場合の、蛍光シグナルの強度の経時変化のデータである。
図8A】実施例11において、公知の蛍光色素を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図8B】実施例11において、本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図8C】実施例11において、本発明の他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図8D】実施例11において、本発明のさらに他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図8E】実施例11において、本発明のさらに他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図8F】実施例11において、本発明のさらに他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図8G】実施例11において、本発明のさらに他の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による神経細胞の撮像データである。
図9A】実施例12において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図9B】実施例12において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図9C】実施例12において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図9D】実施例12において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図9E】実施例12において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図9F】実施例12において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図10A】実施例15において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図10B】実施例15において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図10C】実施例15において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図10D】実施例15において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図11A】実施例16において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図11B】実施例16において、公知の蛍光タンパク質を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図11C】実施例16において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図12A】実施例17において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図12B】実施例17において、公知の抗体を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図12C】実施例17において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図12D】実施例17において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図12E】実施例17において、公知の抗体を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図12F】実施例17において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図13A】実施例18において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図13B】実施例18において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図14A】実施例19において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
図14B】実施例19において、公知の蛍光色素と本発明の化合物を用いた場合の、共焦点顕微鏡による試験片の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<<化合物(I)又はその塩>>
本発明の一実施形態に係る化合物は、下記一般式(I)で表され、本発明の一実施形態に係る化合物の塩は、下記一般式(I)で表される化合物の塩である。本明細書においては、一般式(I)で表される化合物を、「化合物(I)」と称することがある。また、単なる「化合物(I)」との記載は、塩を形成していない化合物を意味し、塩を形成している化合物(I)は、「化合物(I)の塩」と称する。
【0035】
【化11】
(一般式(I)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
は、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
及びnは、それぞれ独立に、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
ただし、前記nが0であり、かつ前記nが1である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記nが1であり、かつ前記nが0である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n及び前記nがともに0である場合には、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n及び前記nがともに1である場合には、前記X、X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0036】
化合物(I)は、後述するように、神経機能調節物質(すなわち、神経機能の調節に関わる生理活性物質)として有用である。
加えて、化合物(I)は、X、X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上が、前記不飽和炭化水素基であることにより、後述するように、高精度に検出可能であり、その動態を容易に観察可能である。
以下、まず、化合物(I)の構造について、詳細に説明する。
【0037】
一般式(I)中、X、X、X及びX(本明細書においては、これらを包括して「X~X」と略記することがある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である。
ただし、X~Xにおける前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基(-CH-)を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基(-C(=O)-)で置換されていてもよい。X及びXの場合、その結合先側の末端の前記メチレン基とは、一般式(I)中の窒素原子(N)に結合しているメチレン基である。X及びXの場合、その結合先側の末端の前記メチレン基とは、一般式(I)中のベンゼン環骨格に結合している酸素原子(O)に結合しているメチレン基である。
【0038】
~Xにおける前記アルキル基は、炭素数が1~9であればよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0039】
~Xにおける前記アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上及び8以上のいずれであってもよく、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下及び2以下のいずれであってもよい。
【0040】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基等が挙げられる。
【0041】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基は、炭素数が3~9であり、炭素原子間の三重結合(C≡C)を1~4個有するものであれば、特に限定されない。例えば、前記不飽和炭化水素基は、炭素原子間の不飽和結合として、三重結合(C≡C)及び二重結合(C=C)をともに有していてもよいが、三重結合のみを有していることが好ましい。
【0042】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基としては、例えば、炭素数3~9の前記アルキル基において、炭素原子間の単結合(C-C)が、不飽和結合で置換された構造を有するものが挙げられる。
好ましい前記不飽和炭化水素基としては、例えば、炭素数3~9の前記アルキル基において、炭素原子間の1~4個の単結合(C-C)が、三重結合で置換された構造を有するものが挙げられる。
【0043】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基の炭素数は、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上及び8以上のいずれであってもよく、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下及び4以下のいずれであってもよい。
【0044】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基において、炭素原子間の三重結合の数は、1個以上、2個以上及び3個以上のいずれであってもよいし、4個以下、3個以下及び2個以下のいずれであってもよい。
【0045】
前記不飽和炭化水素基において、炭素原子間の三重結合の数が1個である(すなわち、前記不飽和炭化水素基がアルキニル基である)場合の化合物(I)は、その製造が容易である点で好ましい。
【0046】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基において、炭素原子間の三重結合及び二重結合の位置は、特に限定されない。
ただし、X~X中の、その結合先側の末端の炭素原子は、隣り合う炭素原子との間で不飽和結合を形成していないことが好ましい。X及びXの場合、その結合先側の末端の前記炭素原子とは、一般式(I)中の窒素原子(N)に結合している炭素原子である。X及びXの場合、その結合先側の末端の前記炭素原子とは、一般式(I)中のベンゼン環骨格に結合している酸素原子(O)に結合している炭素原子である。
また、X~X中、炭素原子間の不飽和結合が2個以上である場合、1個の炭素原子が、2個の不飽和結合を形成していない(換言すると、これら不飽和結合は、X~X中で隣接していない)ことが好ましい。
【0047】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基は、その結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成していることが好ましい。
このような不飽和炭化水素基でアルキニル基であるものとしては、プロパルギル基(別名:2-プロピニル基、-CH-C≡CH)、3-ブチニル基、4-ペンチニル基、5-ヘキシニル基、6-ヘプチニル基、7-オクチニル基、8-ノニニル基が挙げられる。
【0048】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基は、酸素原子(-O-)で置換されていてもよいし、2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよい。ここで、前記不飽和炭化水素基の結合先側の末端とは、メチレン基を例に挙げて先に説明したものと同じである。すなわち、X及びXの場合、一般式(I)中の窒素原子(N)に結合している基であり、X及びXの場合、一般式(I)中のベンゼン環骨格に結合している酸素原子(O)に結合している基である。
【0049】
より具体的には、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個のメチレン基を有する場合、この1個のメチレン基は、酸素原子で置換されていてもよい。
前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、2個以上のメチレン基を有する場合、これらメチレン基のうち、2個以上の互いに隣接していないものは、酸素原子で置換されていてもよい。
なお、本明細書においては、前記不飽和炭化水素基が、炭素数2以上のアルキレン基を有する場合、このアルキレン基を、このアルキレン基の炭素数の分だけメチレン基が連結しているものとみなす。したがって、2個以上の互いに隣接していないメチレン基の一部又は全ては、このようなアルキレン基からも選択できる。
【0050】
前記不飽和炭化水素基において、前記メチレン基が酸素原子で置換されている場合、その置換位置は、先の条件を満たせば、特に限定されないが、炭素原子間の三重結合を形成している炭素原子に隣接してない炭素原子であることが好ましい。
【0051】
前記不飽和炭化水素基において、酸素原子で置換されている前記メチレン基は、1個又は2個であることが好ましく、1個であることが好ましい。
【0052】
前記メチレン基が酸素原子で置換されている不飽和炭化水素基で、好ましいものとしては、例えば、炭素数5~9の前記不飽和炭化水素基において、1個の前記メチレン基が酸素原子で置換されているものが挙げられる。
【0053】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基は、その結合先側の末端のメチレン基がカルボニル基で置換され、かつ、その結合先側の末端以外の、1個又は2個以上のメチレン基が酸素原子で置換されていてもよい。
このような不飽和炭化水素基で、好ましいものとしては、例えば、炭素数5~9の前記不飽和炭化水素基において、その結合先側の末端のメチレン基がカルボニル基で置換され、かつ、その結合先側の末端以外の1個のメチレン基が酸素原子で置換されているものが挙げられる。
このような不飽和炭化水素基の具体例としては、式CH≡C-CH-O-CHCH-C(=O)-で表される基が挙げられる。ただし、これは前記不飽和炭化水素基の一例である。
【0054】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
ここで、「不飽和炭化水素基が置換基を有していてもよい」とは、「不飽和炭化水素基中の1個又は2個以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換されていてもよい」ことを意味する。なお、本明細書において、「基」とは、複数個の原子が結合してなる原子団だけでなく、1個の原子も包含するものとする。
【0055】
~Xが有していてもよい前記置換基としては、例えば、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基(-OH)、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基等が挙げられる。
【0056】
前記置換基であるアリール基(芳香族炭化水素基)は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基(ジメチルフェニル基)等が挙げられ、これらアリール基の1個又は2個以上の水素原子が、さらにこれらアリール基、又はX~Xにおけるものと同様のアルキル基、で置換されたものも挙げられる。これら置換基を有するアリール基は、置換基も含めて炭素数が6~20であることが好ましい。
前記アリール基の炭素数は、6~20であることが好ましく、6~10であることがより好ましい。置換基を有するアリール基は、置換基も含めて炭素数が7~20であることが好ましい。
【0057】
前記置換基であるトリアルキルシリル基としては、シリル基(-SiH)の3個の水素原子が、X~Xにおけるものと同様のアルキル基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
トリアルキルシリル基中のケイ素原子に結合している3個のアルキル基は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部(より具体的には2個)のみ同一であってもよい。そして、互いに異なるアルキル基の組み合わせは、任意に選択でき、特に限定されない。
前記トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、ジエチルメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記トリアルキルシリル基の炭素数は、3~20であることが好ましい。
【0058】
前記置換基であるジアルキルモノアリールシリル基としては、シリル基(-SiH)の2個の水素原子が、X~Xにおけるものと同様のアルキル基で置換され、1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアリール基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
ジアルキルモノアリールシリル基中のケイ素原子に結合している2個のアルキル基は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。そして、互いに異なるアルキル基の組み合わせは、任意に選択でき、特に限定されない。
前記ジアルキルモノアリールシリル基としては、例えば、ジメチルフェニルシリル基、ジエチルフェニルシリル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記ジアルキルモノアリールシリル基の炭素数は、8~30であることが好ましい。
【0059】
前記置換基であるモノアルキルジアリールシリル基としては、シリル基(-SiH)の1個の水素原子が、X~Xにおけるものと同様のアルキル基で置換され、2個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアリール基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
モノアルキルジアリールシリル基中のケイ素原子に結合している2個のアリール基は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。そして、互いに異なるアリール基の組み合わせは、任意に選択でき、特に限定されない。
前記モノアルキルジアリールシリル基としては、例えば、メチルジフェニルシリル基、エチルジフェニルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記モノアルキルジアリールシリル基の炭素数は、13~30であることが好ましい。
【0060】
前記置換基であるトリアリールシリル基としては、シリル基(-SiH)の3個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアリール基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
トリアリールシリル基中のケイ素原子に結合している3個のアリール基は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部(より具体的には2個)のみ同一であってもよい。そして、互いに異なるアリール基の組み合わせは、任意に選択でき、特に限定されない。
前記トリアリールシリル基としては、例えば、トリフェニルシリル基等が挙げられるが、これに限定されない。
前記トリアリールシリル基の炭素数は、18~30であることが好ましい。
【0061】
前記置換基であるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子(-F)、塩素原子(-Cl)、臭素原子(-Br)、ヨウ素原子(-I)が挙げられる。
【0062】
前記置換基であるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ノニルオキシ基等、X~Xにおけるものと同様のアルキル基が、酸素原子に結合した構造の1価の基が挙げられる。
前記アルコキシ基の炭素数は、1~9であることが好ましい。
【0063】
前記置換基であるアルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、メチルカルボニルオキシ基(別名:アセトキシ基)、エチルカルボニルオキシ基、n-プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n-ブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、sec-ブチルカルボニルオキシ基、tert-ブチルカルボニルオキシ基、ノニルカルボニルオキシ基等、X~Xにおけるものと同様のアルキル基が、カルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)中の炭素原子に結合した構造の1価の基が挙げられる。
前記アルキルカルボニルオキシ基の炭素数は、2~10であることが好ましい。
【0064】
前記置換基であるアリールカルボニルオキシ基としては、例えば、フェニルカルボニルオキシ基、1-ナフチルカルボニルオキシ基、2-ナフチルカルボニルオキシ基、o-トリルカルボニルオキシ基、m-トリルカルボニルオキシ基、p-トリルカルボニルオキシ基、キシリルカルボニルオキシ基(ジメチルフェニルカルボニルオキシ基)等、前記置換基であるものと同様のアリール基が、カルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)中の炭素原子に結合した構造の1価の基が挙げられる。
前記アリールカルボニルオキシ基の炭素数は、7~21であることが好ましく、7~11であることがより好ましい。
【0065】
前記置換基であるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基(別名:フェニルメチル基)、フェネチル基(別名:2-フェニルエチル基)、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2-(1-ナフチル)エチル基、2-(2-ナフチル)メチル基、フェニルノニル基等、X~Xにおけるものと同様のアルキル基において、1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアリール基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記アラルキル基の炭素数は、7~29であることが好ましく、7~19であることがより好ましい。
【0066】
前記置換基であるアラルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、ベンジルカルボニルオキシ基(CCH-C(=O)-O-)、フェネチルカルボニルオキシ基(CCHCH-C(=O)-O-)、1-ナフチルメチルカルボニルオキシ基(C10CH-C(=O)-O-)、2-ナフチルメチルカルボニルオキシ基(C10CH-C(=O)-O-)、2-(1-ナフチル)エチルカルボニルオキシ基(C10CHCH-C(=O)-O-)、2-(2-ナフチル)エチルカルボニルオキシ基(C10CHCH-C(=O)-O-)、フェニルノニルカルボニルオキシ基(C18-C(=O)-O-)等、前記置換基であるアラルキル基がカルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)中の炭素原子に結合した構造の1価の基が挙げられる。
前記アラルキルカルボニルオキシ基の炭素数は、8~30であることが好ましく、8~20であることがより好ましい。
【0067】
前記置換基であるトリアルキルシリルアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のトリアルキルシリル基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるトリアルキルシリルアルキル基としては、例えば、トリメチルシリルメチル基、エチルジメチルシリルメチル基、ジエチルメチルシリルメチル基、tert-ブチルジメチルシリルメチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記トリアルキルシリルアルキル基の炭素数は、4~25であることが好ましい。
【0068】
前記置換基であるジアルキルモノアリールシリルアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のジアルキルモノアリールシリル基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるジアルキルモノアリールシリルアルキル基としては、例えば、ジメチルフェニルシリルメチル基、ジエチルフェニルシリルメチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記ジアルキルモノアリールシリルアルキル基の炭素数は、9~35であることが好ましい。
【0069】
前記置換基であるモノアルキルジアリールシリルアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のモノアルキルジアリールシリル基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるジアルキルモノアリールシリルアルキル基としては、例えば、メチルジフェニルシリルメチル基、エチルジフェニルシリルメチル基、tert-ブチルジフェニルシリルメチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記モノアルキルジアリールシリルアルキル基の炭素数は、14~35であることが好ましい。
【0070】
前記置換基であるトリアリールシリルアルキル基としては、上述のトリアルキルシリル基中のものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のトリアリールシリル基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるトリアリールシリルアルキル基としては、例えば、トリフェニルシリルメチル基等が挙げられるが、これに限定されない。
前記トリアリールシリルアルキル基の炭素数は、19~35であることが好ましい。
【0071】
前記置換基であるヒドロキシアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、ヒドロキシ基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、2-ヒドロキシ-1-メチルエチル基、1-ヒドロキシ-1-メチルエチル基、ヒドロキシノニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記ヒドロキシアルキル基の炭素数は、1~9であることが好ましい。
【0072】
前記置換基であるハロゲン化アルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個又は2個以上の水素原子が、ハロゲン原子で置換された構造の1価の基が挙げられ、例えば、パーハロアルキル基(すべての水素原子が、ハロゲン原子で置換された構造の1価の基)であってもよい。
前記水素原子を置換する前記ハロゲン原子としては、前記置換基であるハロゲン原子と同様のものが挙げられる。
前記ハロゲン化アルキル基中のハロゲン原子が2個以上である場合、これら2個以上のハロゲン原子は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。そして、互いに異なるハロゲン原子の組み合わせは、任意に選択でき、特に限定されない。
前記置換基であるハロゲン化アルキル基としては、例えば、モノクロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、モノクロロノニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記ハロゲン化アルキル基の炭素数は、1~9であることが好ましい。
【0073】
前記置換基であるアルコキシアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアルコキシ基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n-プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、n-プロポキシエチル基、イソプロポキシエチル基、ノニルオキシメチル基、ノニルオキシエチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記アルコキシアルキル基の炭素数は、2~18であることが好ましい。
【0074】
前記置換基であるアルキルカルボニルオキシアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアルキルカルボニルオキシ基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるアルキルカルボニルオキシアルキル基としては、例えば、メチルカルボニルオキシメチル基(別名:アセトキシメチル基)、エチルカルボニルオキシメチル基、n-プロピルカルボニルオキシメチル基、イソプロピルカルボニルオキシメチル基、ノニルカルボニルオキシメチル基、メチルカルボニルオキシエチル基(別名:アセトキシエチル基)、エチルカルボニルオキシエチル基、n-プロピルカルボニルオキシエチル基、イソプロピルカルボニルオキシエチル基、ノニルカルボニルオキシエチル基、メチルカルボニルオキシノニル基(別名:アセトキシノニル基)等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記アルキルカルボニルオキシアルキル基の炭素数は、3~19であることが好ましい。
【0075】
前記置換基であるアリールカルボニルオキシアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアリールカルボニルオキシ基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるアリールカルボニルオキシアルキル基としては、例えば、フェニルカルボニルオキシメチル基、1-ナフチルカルボニルオキシメチル基、2-ナフチルカルボニルオキシメチル基、フェニルカルボニルオキシエチル基、1-ナフチルカルボニルオキシエチル基、2-ナフチルカルボニルオキシエチル基、フェニルカルボニルオキシノニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記アリールカルボニルオキシアルキル基の炭素数は、8~30であることが好ましく、8~20であることがより好ましい。
【0076】
前記置換基であるアラルキルカルボニルオキシアルキル基としては、X~Xにおけるものと同様のアルキル基の1個の水素原子が、前記置換基であるものと同様のアラルキルカルボニルオキシ基で置換された構造の1価の基が挙げられる。
前記置換基であるアラルキルカルボニルオキシアルキル基としては、例えば、ベンジルカルボニルオキシメチル基、フェネチルカルボニルオキシメチル基、1-ナフチルメチルカルボニルオキシメチル基、2-ナフチルメチルカルボニルオキシメチル基、ベンジルカルボニルオキシエチル基、フェネチルカルボニルオキシエチル基、1-ナフチルメチルカルボニルオキシエチル基、2-ナフチルメチルカルボニルオキシエチル基、ベンジルカルボニルオキシノニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記アラルキルカルボニルオキシアルキル基の炭素数は、9~35であることが好ましく、9~26であることがより好ましい。
【0077】
~Xにおける前記不飽和炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の数は、特に限定されないが、1個又は2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
~Xにおける前記不飽和炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の結合位置は、特に限定されないが、前記不飽和炭化水素基の結合先側とは反対側の末端の炭素原子に、置換基が結合していることが好ましい。
~Xにおける、置換基を有する前記不飽和炭化水素基の好ましい一例としては、前記不飽和炭化水素基の結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成しており、かつ、この末端の炭素原子に前記置換基が結合しているものが挙げられる。
【0078】
及びXが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、その環骨格を構成する原子として1個の窒素原子を含む、含窒素脂肪族環である。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の位置は、特に限定されない。例えば、相互に結合する前記炭素原子は、アルキル基中の末端の炭素原子であってもよいし、非末端部の炭素原子であってもよい。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の数は、互いに同じであり、それぞれ1個のみであってもよいし、2個以上であってもよいが、1個又は2個であることが好ましい。
すなわち、前記環は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
前記環の環員数(環骨格を構成している炭素原子及び窒素原子の総数)は、特に限定されないが、5~10であることが好ましく、5~8であることがより好ましい。
【0079】
上述の環の形成は、X及びXの場合も同様である。
すなわち、X及びXが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これらアルキル基がそれぞれ結合している酸素原子と、これら酸素原子がそれぞれ結合している、ベンゼン環骨格を構成している炭素原子と、ともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、その環骨格を構成する原子として2個の酸素原子を含む、含酸素脂肪族環である。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の位置は、特に限定されない。例えば、相互に結合する前記炭素原子は、アルキル基中の末端の炭素原子であってもよいし、非末端部の炭素原子であってもよい。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の数は、互いに同じであり、それぞれ1個のみであってもよいし、2個以上であってもよいが、1個又は2個であることが好ましい。
すなわち、前記環は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
前記環の環員数(環骨格を構成している炭素原子及び酸素原子の総数)は、特に限定されないが、5~10であることが好ましく、5~8であることがより好ましい。
【0080】
、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であることが好ましく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよい。ここで、置換基、不飽和炭化水素基、及び環は、先に説明したものである。
【0081】
一般式(I)中、n及びnは、それぞれ独立に、0又は1である。
は、一般式-OXで表される基と、一般式-OXで表される基と、が直接結合しているベンゼン環骨格における、Xの結合の有無を規定している。
は、一般式-NXで表される基が直接結合しているアルキレン骨格における、一般式-OXで表される基の結合の有無を規定している。
【0082】
一般式(I)中、Xは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基である。
は、炭素数が3~9ではなく2~8である点、換言すると、炭素数が1だけ少ない点を除けば、上述のX~Xにおける不飽和炭化水素基と同じである。
【0083】
例えば、Xにおける前記不飽和炭化水素基は、その結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成していることが好ましい。
このような不飽和炭化水素基でアルキニル基であるものとしては、エチニル基(-C≡CH)、プロパルギル基(別名:2-プロピニル基)、3-ブチニル基、4-ペンチニル基、5-ヘキシニル基、6-ヘプチニル基、7-オクチニル基が挙げられる。
【0084】
例えば、Xにおける前記不飽和炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の数は、特に限定されないが、1個又は2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
例えば、Xにおける前記不飽和炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の結合位置は、特に限定されないが、前記不飽和炭化水素基の結合先側とは反対側の末端の炭素原子に、置換基が結合していることが好ましい。
例えば、Xにおける、置換基を有する前記不飽和炭化水素基の好ましい一例としては、前記不飽和炭化水素基の結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成しており、かつ、この末端の炭素原子に前記置換基が結合しているものが挙げられる。
【0085】
が1である場合、一般式(I)において、一般式-OXで表される基と、一般式-OXで表される基と、が直接結合しているベンゼン環骨格における、Xの結合位置は、特に限定されず、例えば、一般式-OXで表される基に対して、オルト位の関係となる位置(換言すると、一般式-OXで表される基が結合している炭素原子に隣接し、かつ、一般式-OXで表される基が結合していない炭素原子)、メタ位の関係となる位置(換言すると、一般式-OXで表される基が結合している炭素原子に隣接し、かつ、一般式-OXで表される基が結合していない炭素原子)、及びパラ位の関係となる位置、のいずれであってもよい。
なかでも、前記ベンゼン環骨格における、Xの結合位置は、一般式-OXで表される基に対して、メタ位の関係となる位置であるか、又は、パラ位の関係となる位置であることが好ましい。
【0086】
一般式(I)中、Xは、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である。
における前記不飽和炭化水素基は、上述のX~Xにおける不飽和炭化水素基と同じである。
例えば、Xにおける前記不飽和炭化水素基は、その結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成していることが好ましい。
このような不飽和炭化水素基でアルキニル基であるものとしては、プロパルギル基(別名:2-プロピニル基)、3-ブチニル基、4-ペンチニル基、5-ヘキシニル基、6-ヘプチニル基、7-オクチニル基、8-ノニニル基が挙げられる。
【0087】
例えば、Xにおける前記不飽和炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の数は、特に限定されないが、1個又は2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
例えば、Xにおける前記不飽和炭化水素基が置換基を有する場合、置換基の結合位置は、特に限定されないが、前記不飽和炭化水素基の結合先側とは反対側の末端の炭素原子に、置換基が結合していることが好ましい。
例えば、Xにおける、置換基を有する前記不飽和炭化水素基の好ましい一例としては、前記不飽和炭化水素基の結合先側とは反対側の末端の炭素原子が、隣接する炭素原子との間で、三重結合を形成しており、かつ、この末端の炭素原子に前記置換基が結合しているものが挙げられる。
【0088】
一般式(I)中、nは、1~5の整数である。
は、一般式-NXで表される基が直接結合しているアルキレン骨格(換言すると、鎖状炭化水素骨格)の炭素数を規定している。すなわち、前記アルキレン骨格の炭素数は、2~6である。
は、例えば、5以下の範囲内で、1以上、2以上、3以上及び4以上のいずれであってもよい。また、nは、例えば、1以上の範囲内で、5以下、4以下、3以下及び2以下のいずれであってもよい。
例えば、nが1である化合物(I)又はその塩は、天然由来の神経機能調節物質として重要なドーパミン、ノルアドレナリン及びアドレナリンと、炭素数が同じである同一の又は類似の鎖状骨格を有しており、有用性が高い。
また、nが2~5である化合物(I)又はその塩は、nが1である化合物(I)又はその塩を基準として、その生理活性の強弱を調節できる可能性があり、やはり有用性が高い。
【0089】
ただし、一般式(I)中、nが0であり、かつnが1である場合には、X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基)である。
また、一般式(I)中、nが1であり、かつnが0である場合には、前記X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9又は2~8の不飽和炭化水素基)である。
また、一般式(I)中、n及びnがともに0である場合には、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基)である。
また、一般式(I)中、n及びnがともに1である場合には、X、X、X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9又は2~8の不飽和炭化水素基)である。
このように、化合物(I)又はその塩は、炭素数が3~9又は2~8である前記不飽和炭化水素基を合計で、1個又は2個以上有する。換言すると、化合物(I)又はその塩は、炭素原子間の三重結合を有する基を必ず含んでいる。したがって、化合物(I)又はその塩は、この三重結合に基づいて、ラマン散乱分光法によって検出可能となっており、また、この三重結合を他の試薬と反応させることで、ラベルを導入可能であって、このラベルによっても、検出可能となっている。化合物(I)又はその塩の、このような検出方法については、後ほど詳しく説明する。
【0090】
化合物(I)の塩は、化合物(I)中の塩を形成し得る基が、塩を形成した状態の化合物である。ここで、塩を形成し得る基としては、例えば、一般式(I)中の一般式-NXで表される基が挙げられるが、これに限定されない。
【0091】
化合物(I)の塩としては、例えば、化合物(I)の酸又は塩基との反応によって形成される塩が挙げられる。
化合物(I)が、その1分子中に、塩を形成し得る基を2個以上有する場合、化合物(I)の塩としては、塩の形成部位を1箇所又は2箇所以上有する化合物が挙げられる。
塩の形成部位を2箇所以上有する化合物(I)の塩において、これら2箇所以上の塩は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。
【0092】
化合物(I)の塩を形成しているアニオンの価数は特に限定されず、1(1価)であってもよいし、2(2価)以上であってもよい。
同様に、化合物(I)の塩を形成しているカチオンの価数は特に限定されず、1(1価)であってもよいし、2(2価)以上であってもよい。
1分子の化合物(I)の塩を形成しているカチオン及びアニオンは、いずれも1個のみであってもよいし、2個以上であってもよく、2個以上である場合、これらカチオン又はアニオンは、いずれも、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。
ただし、化合物(I)の塩は、分子全体として電気的に中性であること、すなわち、化合物(I)1分子中のカチオンの価数の合計値とアニオンの価数の合計値とが同じであること、が好ましい。
【0093】
化合物(I)の塩において、塩を形成しているアニオンは、無機アニオン及び有機アニオンのいずれであってもよい。
【0094】
前記無機アニオンとしては、例えば、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ハロゲン化物イオン、無機酸のアニオン等が挙げられる。
前記ハロゲン化物イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられる。
前記無機酸のアニオンとしては、例えば、リン酸のアニオン等が挙げられる。
【0095】
前記有機アニオンとしては、例えば、有機酸のアニオン等が挙げられる。
前記有機酸のアニオンとしては、例えば、カルボン酸のアニオン、ハロゲン化カルボン酸のアニオン、スルホン酸のアニオン、ハロゲン化スルホン酸のアニオン等が挙げられる。
【0096】
前記カルボン酸のアニオンは、モノカルボン酸(1価カルボン酸)のアニオンであってもよいし、ジカルボン酸、トリカルボン酸等の多価カルボン酸のアニオンであってもよい。
前記カルボン酸のアニオンとしては、例えば、ギ酸イオン;酢酸イオン;プロパン酸(プロピオン酸)イオン、ブタン酸(酪酸)イオン、ペンタン酸(吉草酸)イオン、ヘキサン酸(カプロン酸)イオン、ヘプタン酸(エナント酸)イオン、オクタン酸(カプリル酸)イオン、ノナン酸(ペラルゴン酸)イオン、デカン酸(カプリン酸)イオン、ドデカン酸(ラウリン酸)イオン、テトラデカン酸(ミリスチン酸)イオン、ペンタデカン酸イオン、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)イオン、ヘプタデカン酸イオン、オクタデカン酸(ステアリン酸)イオン、エイコサン酸(アラキジン酸)イオン、cis-9-オクタデセン酸(オレイン酸)イオン、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)イオン、cis,cis,cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)イオン、all-cis-6,9,12-オクタデカトリエン酸(γ-リノレン酸)イオン、(5Z,8Z,11Z,14Z)-イコサ-5,8,11,14-テトラエン酸(アラキドン酸)イオン等の炭素数3以上の飽和又は不飽和鎖状脂肪酸のアニオン;シュウ酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、グルタル酸イオン、アジピン酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン等の炭素数2以上の飽和又は不飽和ジカルボン酸のアニオン;クエン酸イオン、酒石酸イオン等のヒドロキシ酸のアニオン等が挙げられる。
なお、本明細書において「脂肪酸」とは、特に断りのない限り、モノカルボン酸のうち、鎖状構造を有するものを意味する。
【0097】
前記ハロゲン化カルボン酸のアニオンは、フッ化カルボン酸のアニオン、又は塩化カルボン酸のアニオンであることが好ましい。
前記フッ化カルボン酸のアニオンとしては、例えば、トリフルオロ酢酸のアニオン等、前記カルボン酸のアニオンにおいて、1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子で置換された構造のアニオンが挙げられ、すべての水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。
同様に、前記塩化カルボン酸のアニオンとしては、例えば、トリクロロ酢酸のアニオン等、前記カルボン酸のアニオンにおいて、1個又は2個以上の水素原子が塩素原子で置換された構造のアニオンが挙げられ、すべての水素原子が塩素原子で置換されていてもよい。
【0098】
前記スルホン酸のアニオンは、モノスルホン酸(1価スルホン酸)のアニオンであってもよいし、多価スルホン酸のアニオンであってもよい。
前記スルホン酸のアニオンとしては、例えば、メタンスルホン酸等、前記カルボン酸のアニオンにおいて、カルボキシ基のアニオン(-COO)がスルホ基のアニオン(-SO )で置換された構造のアニオンが挙げられる。
【0099】
前記ハロゲン化スルホン酸のアニオンは、フッ化スルホン酸のアニオンであることが好ましい。
前記フッ化スルホン酸のアニオンとしては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸等、前記スルホン酸のアニオンにおいて、1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子で置換された構造のアニオンが挙げられ、すべての水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0100】
化合物(I)の塩において、塩を形成しているカチオンは、無機カチオン及び有機カチオンのいずれであってもよい。
【0101】
前記無機カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、銅イオン(Cu、Cu2+)、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0102】
前記有機カチオンとしては、例えば、一般式(I)中の一般式-NXで表される基の窒素原子に、水素イオン(H)が配位した状態のカチオン等が挙げられる。
【0103】
化合物(I)の塩で好ましいものとしては、下記一般式(Is)で表される塩が挙げられる。
【0104】
【化12】
(一般式(Is)中、X、X、X、X、X、X、n、n及びnは、前記と同じであり;Qは1価のアニオンである。)
【0105】
一般式(Is)中、X、X、X、X、X、X、n、n及びnは、一般式(I)中のX、X、X、X、X、X、n、n及びnと同じである。
【0106】
一般式(Is)中、Qは1価のアニオンであり、その例としては、上述のアニオンのうち、1価の無機アニオン;モノカルボン酸のアニオン、ハロゲン化モノカルボン酸のアニオン、モノスルホン酸のアニオン、ハロゲン化モノスルホン酸のアニオン等の1価の有機アニオン等が挙げられる。
【0107】
化合物(I)は、下記一般式(I)-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1」と略記することがある)、下記一般式(I)-2で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2」と略記することがある)、下記一般式(I)-3で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-3」と略記することがある)、又は下記一般式(I)-4で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-4」と略記することがある)であることが好ましい。
すなわち、化合物(I)又はその塩は、化合物(I)-1若しくはその塩、化合物(I)-2若しくはその塩、化合物(I)-3若しくはその塩、又は化合物(I)-4若しくはその塩、であることが好ましい。
【0108】
【化13】
(一般式(I)-1、(I)-2、(I)-3又は(I)-4中、X、X、X、X、X、n及びnは、前記と同じであり;
11、X21、X31及びX41は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であり、X11及びX21が前記アルキル基である場合、又は、X31及びX41が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
61は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
ただし、一般式(I)-1中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、前記不飽和炭化水素基であり、
一般式(I)-2中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0109】
<化合物(I)-1>
化合物(I)-1は、nが0である場合の化合物(I)に包含される。
一般式(I)-1中、X、X、n及びnは、一般式(I)中のX、X、n及びnと同じである。
ただし、一般式(I)-1中、X及びXのいずれか一方又は両方は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である。
【0110】
一般式(I)-1中、X31及びX41は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基である。
31及びX41における、炭素数1~9のアルキル基は、X~Xにおける、炭素数1~9のアルキル基と同じである。
【0111】
31及びX41が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これらアルキル基がそれぞれ結合している酸素原子と、これら酸素原子がそれぞれ結合している、ベンゼン環骨格を構成している炭素原子と、ともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0112】
<化合物(I)-2>
化合物(I)-2は、nが0である場合の化合物(I)に包含される。
一般式(I)-2中、X、X、n及びnは、一般式(I)中のX、X、n及びnと同じである。
ただし、一般式(I)-2中、前記X及びXのいずれか一方又は両方は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である。
【0113】
一般式(I)-2中、X11及びX21は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基である。
11及びX21における、炭素数1~9のアルキル基は、X~Xにおける、炭素数1~9のアルキル基と同じである。
【0114】
11及びX21が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0115】
<化合物(I)-3>
化合物(I)-3は、nが1である場合の化合物(I)に包含される。
一般式(I)-3中、X、n及びnは、一般式(I)中のX、n及びnと同じである。
【0116】
一般式(I)-3中、X11、X21、X31及びX41は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基である。
11、X21、X31及びX41は、先に説明したものと同じである。
例えば、X11及びX21が前記アルキル基である場合、又は、X31及びX41が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環、又は、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0117】
<化合物(I)-4>
化合物(I)-4は、nが0であり、かつ、nが1である場合の化合物(I)に包含される。
一般式(I)-4中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0118】
一般式(I)-4中、X11、X21、X31及びX41は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基である。
11、X21、X31及びX41は、先に説明したものと同じである。
例えば、X11及びX21が前記アルキル基である場合、又は、X31及びX41が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環、又は、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0119】
一般式(I)-4中、X61は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、X~Xにおける、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基と同じである。
【0120】
化合物(I)は、下記一般式(I)-1-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-1」と略記することがある)、下記一般式(I)-1-2で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-2」と略記することがある)、下記一般式(I)-2-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2-1」と略記することがある)、下記一般式(I)-2-2で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2-2」と略記することがある)、下記一般式(I)-2-3で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2-3」と略記することがある)、下記一般式(I)-3-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-3-1」と略記することがある)、又は下記一般式(I)-4-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-4-1」と略記することがある)であることが好ましい。
すなわち、化合物(I)又はその塩は、化合物(I)-1-1若しくはその塩、化合物(I)-1-2若しくはその塩、化合物(I)-2-1若しくはその塩、化合物(I)-2-2若しくはその塩、化合物(I)-2-3若しくはその塩、化合物(I)-3-1若しくはその塩、又は化合物(I)-4-1若しくはその塩、であることが好ましい。
化合物(I)-1-1若しくはその塩、並びに、化合物(I)-1-2若しくはその塩は、化合物(I)-1若しくはその塩に包含される。
化合物(I)-2-1若しくはその塩、化合物(I)-2-2若しくはその塩、並びに、化合物(I)-2-3若しくはその塩は、化合物(I)-2若しくはその塩に包含される。
化合物(I)-3-1若しくはその塩は、化合物(I)-3若しくはその塩に包含される。
化合物(I)-4-1若しくはその塩は、化合物(I)-4若しくはその塩に包含される。
【0121】
【化14】
(一般式(I)-1-1、(I)-1-2、(I)-2-1、(I)-2-2、(I)-2-3、(I)-3-1又は(I)-4-1中、X12、X22、X32及びX42は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X12及びX22が前記アルキル基である場合、又は、X32及びX42が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
、G、G、G、G及びGは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
は、前記と同じである。)
【0122】
[化合物(I)-1-1]
一般式(I)-1-1中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0123】
一般式(I)-1-1中、X32及びX42は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。
32及びX42における、炭素数1~5のアルキル基は、X~X(又は、X31及びX41)における、炭素数1~9のアルキル基のうち、炭素数1~5のものと同じである。
【0124】
32及びX42が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これらアルキル基がそれぞれ結合している酸素原子と、これら酸素原子がそれぞれ結合している、ベンゼン環骨格を構成している炭素原子と、ともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、その環骨格を構成する原子として2個の酸素原子を含む、含酸素脂肪族環である。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の位置は、特に限定されない。例えば、相互に結合する前記炭素原子は、アルキル基中の末端の炭素原子であってもよいし、非末端部の炭素原子であってもよい。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の数は、互いに同じであり、それぞれ1個のみであってもよいし、2個以上であってもよいが、1個又は2個であることが好ましい。
すなわち、前記環は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
前記環の環員数(環骨格を構成している炭素原子及び酸素原子の総数)は、特に限定されないが、5~10であることが好ましく、5~8であることがより好ましい。
【0125】
一般式(I)-1-1中、Gは、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基である。
における、水素原子及びアルキル基、以外の基は、先に説明した、X~Xにおける前記不飽和炭化水素基が有していてもよい置換基と同じである。
【0126】
における前記アルキル基としては、X~Xにおけるものと同様の、炭素数1~9のアルキル基が挙げられ、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0127】
[化合物(I)-1-2]
一般式(I)-1-2中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0128】
一般式(I)-1-2中、Gは、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものであり、G及びGは、それぞれ独立に決定される。
【0129】
一般式(I)-1-2中におけるX32及びX42は、一般式(I)-1-1中におけるX32及びX42と同様のものである。
【0130】
[化合物(I)-2-1]
一般式(I)-2-1中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0131】
一般式(I)-2-1中、X12及びX22は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。
12及びX22における、炭素数1~5のアルキル基は、X~X(又は、X11及びX21)における、炭素数1~9のアルキル基のうち、炭素数1~5のものと同じである。
【0132】
12及びX22が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、その環骨格を構成する原子として1個の窒素原子を含む、含窒素脂肪族環である。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の位置は、特に限定されない。例えば、相互に結合する前記炭素原子は、アルキル基中の末端の炭素原子であってもよいし、非末端部の炭素原子であってもよい。
前記アルキル基の相互に結合する炭素原子の数は、互いに同じであり、それぞれ1個のみであってもよいし、2個以上であってもよいが、1個又は2個であることが好ましい。
すなわち、前記環は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
前記環の環員数(環骨格を構成している炭素原子及び窒素原子の総数)は、特に限定されないが、5~10であることが好ましく、5~8であることがより好ましい。
【0133】
一般式(I)-2-1中におけるGは、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものである。
【0134】
[化合物(I)-2-2]
一般式(I)-2-2中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0135】
一般式(I)-2-2中、X12及びX22は、先に説明したものと同じである。
例えば、X12及びX22が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明したものと同じである。
【0136】
一般式(I)-2-2中におけるGは、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものである。
【0137】
[化合物(I)-2-3]
一般式(I)-2-3中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0138】
一般式(I)-2-3中、X12及びX22は、先に説明したものと同じである。
例えば、X12及びX22が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明したものと同じである。
【0139】
一般式(I)-2-3中、G及びGは、先に説明したものと同じである。
【0140】
[化合物(I)-3-1]
一般式(I)-3-1中、nは、一般式(I)中のnと同じである。
【0141】
一般式(I)-3-1中、X12、X22、X32及びX42は、先に説明したものと同じである。
例えば、X12及びX22が前記アルキル基である場合、又は、X32及びX42が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明したものと同じである。
【0142】
一般式(I)-3-1中におけるGは、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものである。
【0143】
[化合物(I)-4-1]
一般式(I)-4-1中、X12、X22、X32及びX42は、先に説明したものと同じである。
例えば、X12及びX22が前記アルキル基である場合、又は、X32及びX42が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明したものと同じである。
【0144】
一般式(I)-4-1中におけるGは、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものである。
【0145】
化合物(I)の分子量は、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることがさらに好ましい。神経細胞に対して生理活性を有する天然由来の神経機能調節物質の分子量は、通常、比較的小さい。したがって、神経細胞中での、上記のように分子量が比較的小さい化合物(I)の挙動や性質を分析することで、天然由来の神経機能調節物質の挙動や性質を高精度に考察することが可能であり、化合物(I)の有用性がより高い。
一方、化合物(I)の塩は、塩を形成していない状態に置き換えたとき(すなわち、化合物(I)として考えたとき)の分子量(本明細書においては、「換算分子量」と称することがある)が、上述の化合物(I)の分子量と同様であることが好ましい。このような化合物(I)の塩も、通常はその分子量が比較的小さいため、上述の分子量が小さい化合物(I)と同様に有用性がより高い。
ただし、化合物(I)及びその塩のこのような有用性は一例であり、化合物(I)の分子量と、化合物(I)の塩の換算分子量と、の上限値は、ここに示すものに限定されない。
【0146】
化合物(I)の分子量と、化合物(I)の塩の換算分子量と、の下限値は、特に限定されない。化合物(I)の製造のし易さの点では、前記分子量及び換算分子量は、177以上であることが好ましい。
【0147】
好ましい化合物(I)を、以下に例示する。好ましい化合物(I)としては、これら以外にも、以下に例示する化合物で前記置換基を有するものも、挙げられる。好ましい化合物(I)の塩としては、以下に例示する化合物の塩、及び、以下に例示する化合物で前記置換基を有するものの塩、が挙げられる。
ただし、本実施形態の化合物(I)又はその塩は、これらに限定されない。
【0148】
【化15】
【0149】
【化16】
【0150】
【化17】
【0151】
【化18】
【0152】
【化19】
【0153】
【化20】
【0154】
【化21】
【0155】
【化22】
【0156】
【化23】
【0157】
【化24】
【0158】
【化25】
【0159】
【化26】
【0160】
【化27】
【0161】
【化28】
【0162】
【化29】
【0163】
【化30】
【0164】
【化31】
【0165】
化合物(I)は、公知の神経機能調節物質である、ドーパミン、ノルアドレナリン(別名:ノルエピネフリン)又はアドレナリン(別名:エピネフリン)の誘導体とみなすことができる。本明細書において、「誘導体」とは、元の化合物の1個又は2個以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換された構造の化合物を意味する。
したがって、化合物(I)及びその塩は、公知の神経機能調節物質の中でも、特に、ドーパミン、ノルアドレナリン及びアドレナリンの、神経細胞中での役割(換言すると生理活性)を解明するのに、有用である。
ドーパミン、ノルアドレナリン及びアドレナリンの構造式を以下に示す。
【0166】
【化32】
【0167】
<<化合物(I)又はその塩の製造方法>>
化合物(I)又はその塩は、X、X、X、X、X及びXのいずれが、上述の不飽和炭化水素基であるかにより、その製造方法が異なる。以下、このような化合物(I)又はその塩の製造方法について、順次説明する。
【0168】
<製造方法(1)>
、X、X及びXのいずれかが、上述の不飽和炭化水素基である場合の化合物(I)又はその塩は、例えば、下記一般式(Ia)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(Ia)」と称することがある)と、下記一般式(Ic)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(Ic)」と称することがある)と、を反応させる工程(本明細書においては、「不飽和炭化水素基導入工程(1)」と称することがある)と、下記Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(本明細書においては、「脱保護工程(1)」と称することがある)と、を行うことにより、下記一般式(I)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)」と称することがある)又はその塩として、下記一般式(Ia)で表される化合物における、下記Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、水素原子であるものが、下記X0aで置換された構造の化合物又はその塩を得る製造方法(本明細書においては、「製造方法(1)」と称することがある)により、製造できる。
化合物(I)は、X、X、X及びXのいずれかが、上述の不飽和炭化水素基である場合の化合物(I)である。
【0169】
【化33】
(一般式(I)、(Ia)又は(Ic)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
は、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
及びnは、それぞれ独立に、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
ただし、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
0aは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく;
LGは脱離基であり;
1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は保護基であり、Z1a及びZ2aが前記アルキル基である場合、又は、Z3a及びZ4aが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上は、水素原子である。)
【0170】
[不飽和炭化水素基導入工程(1)]
前記不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、化合物(Ia)と、化合物(Ic)と、を反応させる。
一般式(Ia)中、X、n、n及びnは、一般式(I)中のX、n、n及びnと同じである。
【0171】
一般式(Ia)中、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は保護基である。
1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aにおける炭素数1~9のアルキル基は、X~Xにおける炭素数1~9のアルキル基と同じである。
【0172】
1a及びZ2aが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0173】
3a及びZ4aが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これらアルキル基がそれぞれ結合している酸素原子と、これら酸素原子がそれぞれ結合している、ベンゼン環骨格を構成している炭素原子と、ともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0174】
1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aにおける前記保護基は、公知のものでよい。
1a及びZ2aにおける保護基としては、例えば、tert-ブトキシカルボニル基(本明細書においては、「Boc基」と略記することがある)、トリフルオロメチルカルボニル基等の、アミノ基を保護する公知の保護基が挙げられる。
3a、Z4a及びZ6aにおける保護基としては、Boc基等の、ヒドロキシ基を保護する公知の保護基が挙げられる。また、Z3a及びZ4aにおける保護基としては、これらが相互に結合して環を形成しているものも挙げられ、このような環状の保護基としては、イソプロピリデン基(-C(CH-)等が挙げられる。
【0175】
ただし、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上は、水素原子である。
【0176】
一般式(Ic)中、X0aは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、X~Xにおける前記不飽和炭化水素基と同じである。例えば、X0aにおける不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい。X0aの場合、その結合先側の末端の前記メチレン基とは、一般式(Ic)中のLGに結合しているメチレン基である。
【0177】
一般式(Ic)中、LGは脱離基であり、公知のものでよい。
前記脱離基としては、例えば、臭素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0178】
一般式(I)中、X、X、X、X、X、X、n、n及びnは、一般式(I)中のX、X、X、X、X、X、n、n及びnと同じである。
ただし、前記X、X、X及びXのうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。
このように、前記不飽和炭化水素基を有する部位が限定されている点を除けば、化合物(I)は化合物(I)と同じである。
【0179】
化合物(Ia)中、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上は、水素原子であるため、不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、この水素原子が前記X0aで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。
【0180】
不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、不飽和炭化水素基導入工程(1)の条件に依存する。
【0181】
不飽和炭化水素基導入工程(1)において、化合物(Ic)の使用量(モル)は、化合物(Ia)中の、前記X0aでの置換対象である水素原子の量(モル)に対して、1~2倍モル量であることが好ましい。
【0182】
不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、塩基を用いて、化合物(Ia)と化合物(Ic)との反応を行うことが好ましい。このようにすることで、反応がより円滑に進行する。
前記塩基としては、特に限定されないが、水素化ナトリウム(NaH)、炭酸カリウム(KCO)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(((CHCH)NC)、トリエチルアミン((CHCHN)、リチウムジイソプロピルアミド([(CHCH]NLi)等が挙げられる。
不飽和炭化水素基導入工程(1)において、前記塩基の使用量(モル)は、化合物(Ia)中の、前記X0aでの置換対象である水素原子の量(モル)に対して、1~3倍モル量であることが好ましい。
【0183】
不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、化合物(Ia)と化合物(Ic)との反応時に、溶媒を用いてもよいし、用いなくてもよい。
前記溶媒は、例えば、化合物(Ia)及び化合物(Ic)の種類に応じて、適宜選択すればよく、特に限定されない。前記溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
不飽和炭化水素基導入工程(1)において、溶媒を用いる場合、溶媒の使用量(質量部)は、特に限定されないが、溶媒以外のすべての成分の合計使用量(質量部)に対して、1~40質量倍であることが好ましく、1~30質量倍であってもよい。
【0184】
不飽和炭化水素基導入工程(1)において、化合物(Ia)と化合物(Ic)との反応温度、及び反応時間は、いずれも、目的物の収率が向上するように適宜調節すればよく、特に限定されない。
反応温度は、例えば、0~40℃、及び10~40℃のいずれであってもよい。
反応時間は、例えば、0.5~24時間であってもよい。
【0185】
不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて、1回又は2回以上行うことで、精製してもよい。
不飽和炭化水素基導入工程(1)後に、後述する脱保護工程(1)等、他の工程を引き続き行う場合には、不飽和炭化水素基導入工程(1)での反応終了後に、必要に応じて後処理を行った後、生成物を取り出すことなく、引き続き前記他の工程を行ってもよい。
【0186】
不飽和炭化水素基導入工程(1)において、化合物(Ia)と化合物(Ic)との反応による生成物は、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上が保護基である場合には、この保護基で該当箇所の官能基が保護された状態の化合物(I)である。一方、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aがいずれも保護基でない場合には、前記生成物は、目的物の化合物(I)である。
なお、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aにおける前記アルキル基には、保護基に相当するものがある。例えば、Z3a及びZ4aが前記アルキル基であり、これらアルキル基が相互に結合して環を形成している場合の、この環状の基である、イソプロピリデン基(-C(CH-)は、先の説明のとおり保護基である。換言すると、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、1種又は2種以上が保護基である場合の生成物には、目的物の化合物(I)に相当するものもある。本工程で得られた生成物が、保護基を有しているとみなすか、又は、保護基を有していないとみなすかは、目的物が何であるかに依存する。
【0187】
[脱保護工程(1)]
不飽和炭化水素基導入工程(1)での生成物が、保護基を有する化合物(I)である場合には、不飽和炭化水素基導入工程(1)の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(すなわち、脱保護工程(1))を行う。脱保護工程(1)を行うことにより、目的物である化合物(I)が得られる。
脱保護の条件は、保護基の種類に応じて適宜選択すればよく、公知の脱保護方法を適宜利用できる。例えば、保護基がトリフルオロメチルカルボニル基(別名;トリフルオロアセチル基)である場合には、水酸化リチウム等の塩基を用いる方法によって、脱保護できる。保護基がBoc基である場合には、トリフルオロ酢酸、塩酸等の酸を用いる方法によって、脱保護できる。保護基がイソプロピリデン基である場合には、塩酸等の酸を用いる方法によって、脱保護できる。
【0188】
製造方法(1)の脱保護工程(1)においては、反応終了後、不飽和炭化水素基導入工程(1)の場合と同様に、生成物を取り扱えばよい。
すなわち、脱保護工程(1)での反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて、1回又は2回以上行うことで、精製してもよい。
【0189】
脱保護工程(1)においても、不飽和炭化水素基導入工程(1)の場合と同様に、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、脱保護工程(1)の条件に依存する。
【0190】
不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、例えば、化合物(Ia)中の、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのいずれかは、水素原子であって、その一部又はすべての水素原子がX0aで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、X、X、X、X及びXのうち、該当するものが不飽和炭化水素基である場合の、化合物(I)又はその塩である。
また、不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、化合物(Ia)中の、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、炭素数1~9のアルキル基であるものは、通常、そのままで反応することはない。その結果、X、X、X、X及びXのうち、該当するものが炭素数1~9のアルキル基である場合の、化合物(I)又はその塩が生成する。
また、不飽和炭化水素基導入工程(1)においては、化合物(Ia)中の、Z1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aのうち、保護基であるものは、通常、そのままで反応することはない。そこで、脱保護工程(1)を行うことにより、前記保護基が水素原子で置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、X、X、X、X及びXのうち、該当するものが水素原子である場合の、化合物(I)又はその塩である。
【0191】
[造塩工程(1)]
不飽和炭化水素基導入工程(1)を行い、必要に応じて、脱保護工程(1)を行うことで、最終的に、塩を形成していない化合物(I)が得られた場合には、不飽和炭化水素基導入工程(1)又は脱保護工程(1)の後で、さらに、得られた化合物(I)をその塩とする工程(本明細書においては、「造塩工程(1)」と称することがある)を行うことにより、化合物(I)の塩を製造できる。
【0192】
前記造塩工程(1)は、例えば、化合物(I)を酸又は塩基と反応させるなど、公知の方法で行うことができ、目的とする塩の種類に応じて、工程条件を適宜選択すればよい。
例えば、塩を形成しているカチオンが、一般式(I)中の一般式-NXで表される基の窒素原子に、水素イオン(H)が配位したものである、化合物(I)の塩を製造する場合には、化合物(I)を酸と反応させればよい。
例えば、前記一般式(Is)で表される塩を製造する場合には、化合物(I)を、一般式HQ(HQは、Qの水素イオン(H)との結合物であり、、Qは前記と同じである)で表される酸と反応させればよい。
【0193】
製造方法(1)の前記造塩工程(1)においては、反応終了後、不飽和炭化水素基導入工程(1)の場合と同様に、生成物に対して、後処理、取り出し、精製等の操作を行うことができる。
【0194】
[任意の工程(1)]
製造方法(1)においては、不飽和炭化水素基導入工程(1)と、脱保護工程(1)と、造塩工程(1)と、のいずれにも該当しない、任意の工程(1)を、1種又は2種以上行ってもよい。
【0195】
前記任意の工程(1)は、目的に応じて適宜選択でき、特に限定されない。
例えば、不飽和炭化水素基導入工程(1)で用いる化合物(Ia)として、市販品が存在しない場合には、市販品の原料を用い、公知の方法を単独で、又は2種以上組み合わせて行うことにより、化合物(Ia)を製造すればよい。
【0196】
が1である場合の化合物(Ia)は、X(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基)を有する。このような化合物(Ia)は、例えば、後述する製造方法(2)を利用することにより、製造できる。すなわち、化合物(Ib)において、「炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基」を、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bの選択肢から外した化合物を、化合物(Ib)に代えて用いる点以外は、後述する製造方法(2)と同じ方法によって、nが1である場合の化合物(Ia)を製造できる。ただし、これは、このような化合物(Ia)の製造方法の一例である。
【0197】
<製造方法(2)>
が1である場合の化合物(I)又はその塩は、例えば、下記一般式(Ib)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(Ib)」と称することがある)と、下記一般式(Id)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(Id)」と称することがある)と、を反応させる工程(本明細書においては、「不飽和炭化水素基導入工程(2)」と称することがある)と、下記Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(本明細書においては、「脱保護工程(2)」と称することがある)と、を行うことにより、下記一般式(I)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)」と称することがある)又はその塩として、下記一般式(Ib)で表される化合物における、下記LGが、下記X0bで置換された構造の化合物又はその塩を得る製造方法(本明細書においては、「製造方法(2)」と称することがある)により、製造できる。
化合物(I)は、nが1である場合の化合物(I)である。
【0198】
【化34】
(一般式(I)、(Ib)又は(Id)中、X、X、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X及びXが前記アルキル基である場合、又は、X及びXが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
は、水素原子、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
は、0又は1であり;
は、1~5の整数であり;
LGは脱離基であり;
1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は保護基であり、Z1b及びZ2bが前記アルキル基である場合、又は、Z3b及びZ4bが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
0bは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基である。)
【0199】
[不飽和炭化水素基導入工程(2)]
前記不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、化合物(Ib)と、化合物(Id)と、を反応させる。
一般式(Ib)中、n及びnは、一般式(I)中のn及びnと同じである。
【0200】
一般式(Ib)中、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は保護基である。
1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bにおける前記アルキル基及び不飽和炭化水素基は、X~Xにおける前記アルキル基及び不飽和炭化水素基と同じである。
【0201】
1b及びZ2bが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0202】
3b及びZ4bが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これらアルキル基がそれぞれ結合している酸素原子と、これら酸素原子がそれぞれ結合している、ベンゼン環骨格を構成している炭素原子と、ともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X及びXがアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0203】
1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bにおける前記保護基は、一般式(Ia)中のZ1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aにおける前記保護基と同様である。
【0204】
一般式(Ib)中、LGは脱離基であり、公知のものでよい。
前記脱離基としては、例えば、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、p-トルエンスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基等が挙げられる。
【0205】
一般式(Id)中、X0bは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり、Xにおける前記不飽和炭化水素基と同じである。
【0206】
一般式(I)中、X、X、X、X、X、X、n及びnは、一般式(I)中のX、X、X、X、X、X、n及びnと同じである。
ただし、化合物(I)は、Xを有することが特定されている。
このように、nが1に限定されている点を除けば、化合物(I)は化合物(I)と同じである。
【0207】
化合物(Ib)がLGを有していることにより、不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、このLGが前記X0bで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。
【0208】
不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、不飽和炭化水素基導入工程(2)の条件に依存する。
【0209】
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、化合物(Id)の使用量(モル)は、化合物(Ib)の使用量(モル)に対して、1.0~2.0倍モル量であることが好ましい。
【0210】
不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、パラジウム触媒と、銅触媒と、塩基と、を用いて、化合物(Ib)と化合物(Id)との反応を行うことが好ましい。このようにすることで、反応がより円滑に進行する。この反応は、Sonogashira-Hagiharaクロスカップリング反応であり、特に、X0bが、その結合先側の末端、すなわち、水素原子に結合している部位に、炭素原子を有し、この炭素原子が隣接する炭素原子との間で三重結合を形成している場合に、特に好適である。
【0211】
前記パラジウム触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)等が挙げられる。
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、パラジウム触媒の使用量(モル)は、化合物(Ib)の使用量(モル)に対して、0.05~0.20倍モル量であることが好ましい。
【0212】
前記銅触媒としては、例えば、ヨウ化銅(I)(CuI)等が挙げられる。
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、銅触媒の使用量(モル)は、化合物(Ib)の使用量(モル)に対して、0.05~0.40倍モル量であることが好ましい。
【0213】
前記塩基としては、例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン等が挙げられる。
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、塩基の使用量(モル)は、化合物(Ib)の使用量(モル)に対して、過剰量であることが好ましく、例えば、1~100倍モル量であることが好ましい。本工程においては、溶媒を兼ねて塩基を用いてもよい。
【0214】
不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、化合物(Ib)と化合物(Id)との反応時に、溶媒を用いてもよいし、用いなくてもよい。
前記溶媒は、例えば、化合物(Ia)及び化合物(Ic)の種類に応じて、適宜選択すればよく、特に限定されない。
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、溶媒を用いる場合、溶媒の使用量(質量部)は、溶媒以外のすべての成分の合計使用量(質量部)に対して、1~20質量倍であることが好ましい。
【0215】
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、化合物(Ib)と化合物(Id)との反応温度、及び反応時間は、いずれも、目的物の収率が向上するように適宜調節すればよく、特に限定されない。
反応温度は、例えば、10~80℃であってもよい。
反応時間は、例えば、10~48時間であってもよい。
【0216】
不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて、1回又は2回以上行うことで、精製してもよい。
不飽和炭化水素基導入工程(2)後に、後述する脱保護工程(2)など、他の工程を引き続き行う場合には、不飽和炭化水素基導入工程(2)での反応終了後に、必要に応じて後処理を行った後、生成物を取り出すことなく、引き続き前記他の工程を行ってもよい。
【0217】
不飽和炭化水素基導入工程(2)において、化合物(Ib)と化合物(Id)との反応による生成物は、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのうち、1種又は2種以上が保護基である場合には、この保護基で該当箇所の官能基が保護された状態の化合物(I)である。一方、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bがいずれも保護基でない場合には、前記生成物は、目的物の化合物(I)である。
なお、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bにおける前記アルキル基には、保護基に相当するものがある。例えば、Z3b及びZ4bが前記アルキル基であり、これらアルキル基が相互に結合して環を形成している場合の、この環状の基である、イソプロピリデン基(-C(CH-)は、先の説明のとおり保護基である。換言すると、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのうち、1種又は2種以上が保護基である場合の生成物には、目的物の化合物(I)に相当するものもある。本工程で得られた生成物が、保護基を有しているとみなすか、又は、保護基を有していないとみなすかは、目的物が何であるかに依存する。
【0218】
[脱保護工程(2)]
不飽和炭化水素基導入工程(2)での生成物が、保護基を有する化合物(I)である場合には、不飽和炭化水素基導入工程(2)の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(すなわち、脱保護工程(2))を行う。脱保護工程(2)を行うことにより、目的物である化合物(I)が得られる。
脱保護の条件は、保護基の種類に応じて適宜選択すればよく、公知の脱保護方法を適宜利用できる。例えば、脱保護工程(2)における脱保護の条件は、上述の脱保護工程(1)における脱保護の条件と同じであってよい。
【0219】
製造方法(2)の脱保護工程(2)においては、反応終了後、不飽和炭化水素基導入工程(2)の場合と同様に、生成物を取り扱えばよい。
すなわち、脱保護工程(2)での反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて、1回又は2回以上行うことで、精製してもよい。
【0220】
脱保護工程(2)においても、不飽和炭化水素基導入工程(2)の場合と同様に、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、脱保護工程(2)の条件に依存する。
【0221】
不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、化合物(Ib)中のLGがX0bで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、化合物(I)又はその塩である。
また、不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、化合物(Ib)中の、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのうち、炭素数1~9のアルキル基であるものは、通常、そのままで反応することはない。その結果、X、X、X、X及びXのうち、該当するものが炭素数1~9のアルキル基である場合の、化合物(I)又はその塩が生成する。
また、不飽和炭化水素基導入工程(2)においては、化合物(Ib)中の、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのうち、保護基であるものは、通常、そのままで反応することはない。そこで、脱保護工程(2)を行うことにより、前記保護基が水素原子で置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、X、X、X、X及びXのうち、該当するものが水素原子である場合の、化合物(I)又はその塩である。
【0222】
[造塩工程(2)]
不飽和炭化水素基導入工程(2)を行い、必要に応じて、脱保護工程(2)を行うことで、最終的に、塩を形成していない化合物(I)が得られた場合には、不飽和炭化水素基導入工程(2)又は脱保護工程(2)の後で、さらに、得られた化合物(I)をその塩とする工程(本明細書においては、「造塩工程(2)」と称することがある)を行うことにより、化合物(I)の塩を製造できる。
【0223】
前記造塩工程(2)は、例えば、塩を形成していない化合物(I)に代えて、塩を形成していない化合物(I)を用いる点以外は、上述の造塩工程(1)の場合と同じ方法で行うことができる。
【0224】
製造方法(2)の前記造塩工程(2)においては、反応終了後、不飽和炭化水素基導入工程(2)の場合と同様に、生成物に対して、後処理、取り出し、精製等の操作を行うことができる。
【0225】
[任意の工程(2)]
製造方法(2)においては、不飽和炭化水素基導入工程(2)と、脱保護工程(2)と、造塩工程(2)と、のいずれにも該当しない、任意の工程(2)を、1種又は2種以上行ってもよい。
【0226】
前記任意の工程(2)は、目的に応じて適宜選択でき、特に限定されない。
例えば、不飽和炭化水素基導入工程(2)で用いる化合物(Ib)として、市販品が存在しない場合には、市販品の原料を用い、公知の方法を単独で、又は2種以上組み合わせて行うことにより、化合物(Ib)を製造すればよい。
【0227】
1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのいずれかが、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である場合の化合物(Ib)は、例えば、上述の製造方法(1)を利用することにより、製造できる。すなわち、化合物(Ia)において、XをLGとし、かつ、nを1とした化合物を、化合物(Ia)に代えて用いる点以外は、上述の製造方法(1)と同じ方法によって、Z1b、Z2b、Z3b、Z4b及びZ6bのいずれかが前記不飽和炭化水素基である場合の化合物(Ib)を製造できる。ただし、これは、このような化合物(Ib)の製造方法の一例である。
【0228】
<<化合物(I)の塩の製造方法>>
ここまでは、化合物(I)の塩の製造方法として、前記製造方法(1)又は(2)において、造塩工程(1)又は(2)を行うことなく、化合物(I)の塩又は化合物(I)の塩を製造する方法と、造塩工程(1)又は(2)を行うことにより、化合物(I)の塩又は化合物(I)の塩を製造する方法、について説明した。ただし、造塩工程(1)又は(2)での塩の形成方法は、製造方法(1)又は(2)によって製造された化合物(I)への適用に限定されず、他の方法で製造された化合物(I)に対して、適用してもよい。
【0229】
化合物(I)及びその塩の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)、紫外・可視分光法(UV-VIS吸収スペクトル)、元素分析法等の公知の手法によって、確認できる。
【0230】
<<化合物(II)又はその塩>>
本発明の一実施形態に係る化合物は、下記一般式(II)で表され、本発明の一実施形態に係る化合物の塩は、下記一般式(II)で表される化合物の塩である。本明細書においては、一般式(II)で表される化合物を、「化合物(II)」と称することがある。また、単なる「化合物(II)」との記載は、塩を形成していない化合物を意味し、塩を形成している化合物(II)は、「化合物(II)の塩」と称する。
【0231】
【化35】
(一般式(II)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
01は、0又は1であり;
02は、1~5の整数であり;
ただし、前記n01が0である場合には、前記X01、X02、X03及びX04のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
前記n01が1である場合には、前記X01、X02、X03、X04及びX05のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0232】
化合物(II)は、後述するように、神経機能調節物質(すなわち、神経機能の調節に関わる生理活性物質)として有用である。
加えて、化合物(II)は、X01、X02、X03、X04及びX05のうち、1種又は2種以上が、前記不飽和炭化水素基であることにより、後述するように、高精度に検出可能であり、その動態を容易に観察可能である。
以下、化合物(II)の構造について、詳細に説明する。
【0233】
一般式(II)中、X01、X02、X03及びX04(本明細書においては、これらを包括して「X01~X04」と略記することがある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である。
01及びX02は、一般式(I)中のX及びXと同じである。例えば、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して環を形成していてもよい。
04は、一般式(I)中のX又はXと同じである。
03は、一般式(I)中のX又はXと同じである。
【0234】
一般式(II)中、X05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基である。
05は、一般式(I)中のXと同じである。
【0235】
01、X02、X03及びX04における前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい、とは、一般式(I)中のX、X、X及びXにおける前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい、ということと同じ内容を意味する。
同様に、X01、X02、X03及びX04における前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよい、とは、一般式(I)中のX、X、X及びXにおける前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよい、ということと同じ内容を意味する。
【0236】
01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であることが好ましく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよい。ここで、置換基、不飽和炭化水素基、及び環は、先に説明したものである。
【0237】
一般式(II)中、n01は、0又は1である。
01は、一般式-OX03で表される基が直接結合しているベンゼン環骨格における、X05の結合の有無を規定している。
【0238】
01が1である場合、一般式(II)において、一般式-OX03で表される基が直接結合しているベンゼン環骨格における、X05の結合位置は、特に限定されず、例えば、一般式-OX03で表される基に対して、オルト位の関係となる位置(換言すると、一般式-OX03で表される基が結合している炭素原子に隣接する2個のうちの、いずれかの炭素原子)、及びメタ位の関係となる位置、のいずれであってもよい。
【0239】
一般式(II)中、n02は、1~5の整数である。
02は、一般式-NX0102で表される基が直接結合しているアルキレン骨格(換言すると、鎖状炭化水素骨格)の炭素数を規定している。すなわち、前記アルキレン骨格の炭素数は、2~6である。
02は、例えば、5以下の範囲内で、1以上、2以上、3以上及び4以上のいずれであってもよい。また、n02は、例えば、1以上の範囲内で、5以下、4以下、3以下及び2以下のいずれであってもよい。
例えば、n02が1である化合物(II)又はその塩は、天然由来の神経機能調節物質として重要なセロトニンと、炭素数が同じである同一の又は類似の鎖状骨格を有しており、有用性が高い。
また、n02が2~5である化合物(II)又はその塩は、n02が1である化合物(II)又はその塩を基準として、その生理活性の強弱を調節できる可能性があり、やはり有用性が高い。
【0240】
ただし、一般式(II)中、n01が0である場合には、X01、X02、X03及びX04のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基)である。
また、n01が1である場合には、前記X01、X02、X03、X04及びX05のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9又は2~8の不飽和炭化水素基)である。
このように、化合物(II)又はその塩は、炭素数が3~9又は2~8である前記不飽和炭化水素基を合計で、1個又は2個以上有する。換言すると、化合物(II)又はその塩は、炭素原子間の三重結合を有する基を必ず含んでいる。したがって、化合物(II)又はその塩は、この三重結合に基づいて、ラマン散乱分光法によって検出可能となっており、また、この三重結合を他の試薬と反応させることで、ラベルを導入可能であって、このラベルによっても、検出可能となっている。化合物(II)又はその塩の、このような検出方法については、後ほど詳しく説明する。
【0241】
化合物(II)の塩は、化合物(II)中の塩を形成し得る基が、塩を形成した状態の化合物である。ここで、塩を形成し得る基としては、例えば、一般式(II)中の一般式-NX0102で表される基が挙げられるが、これに限定されない。
【0242】
化合物(II)の塩としては、例えば、化合物(II)の酸又は塩基との反応によって形成される塩が挙げられる。
化合物(II)が、その1分子中に、塩を形成し得る基を2個以上有する場合、化合物(II)の塩としては、塩の形成部位を1箇所又は2箇所以上有する化合物が挙げられる。
塩の形成部位を2箇所以上有する化合物(II)の塩において、これら2箇所以上の塩は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。
【0243】
化合物(II)の塩を形成しているカチオン及びアニオンとしては、化合物(I)の塩を形成しているカチオン及びアニオンと同じものが挙げられる。
1分子の化合物(II)の塩を形成しているカチオン及びアニオンは、いずれも1個のみであってもよいし、2個以上であってもよく、2個以上である場合、これらカチオン又はアニオンは、いずれも、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。
ただし、化合物(II)の塩は、分子全体として電気的に中性であること、すなわち、化合物(II)1分子中のカチオンの価数の合計値とアニオンの価数の合計値とが同じであること、が好ましい。
【0244】
化合物(II)の塩で好ましいものとしては、下記一般式(IIs)-1、(IIs)-2、又は(IIs)-3で表される塩が挙げられる。
【0245】
【化36】
(一般式(IIs)-1、(IIs)-2、又は(IIs)-3中、X01、X02、X03、X04、X05、n01及びn02は、前記と同じであり;Q 及びQ は、それぞれ独立に、1価のアニオンである。)
【0246】
一般式(IIs)中、X01、X02、X03、X04、X05、n01及びn02は、一般式(II)中のX01、X02、X03、X04、X05、n01及びn02と同じである。
一般式(IIs)中、Q 及びQ は、それぞれ独立に、1価のアニオンであり、一般式(Is)中のQと同じである。Q 及びQ は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0247】
化合物(II)は、下記一般式(II)-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-1」と略記することがある)、又は下記一般式(II)-2で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2」と略記することがある)であることが好ましい。
すなわち、化合物(II)又はその塩は、化合物(II)-1若しくはその塩、又は化合物(II)-2若しくはその塩、であることが好ましい。
【0248】
【化37】
(一般式(II)-1又は(II)-2中、n02は、前記と同じであり;
011、X021及びX031は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基であり、X011及びX021が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
041は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり;
010、X020及びX030は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X010及びX020が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、X010、X020及びX030の1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。)
【0249】
<化合物(II)-1>
化合物(II)-1は、n01が0である場合の化合物(I)に包含される。
一般式(II)-1中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0250】
一般式(II)-1中、X011、X021及びX031は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~9のアルキル基である。
011、X021及びX031における、炭素数1~9のアルキル基は、X01、X02及びX03における、炭素数1~9のアルキル基と同じである。
【0251】
011及びX021が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X01及びX02がアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0252】
一般式(II)-1中、X041は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である。
041における前記不飽和炭化水素基は、X04における前記不飽和炭化水素基と同じである。
【0253】
<化合物(II)-2>
化合物(II)-2も、n01が0である場合の化合物(I)に包含される。
一般式(II)-2中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
また、X041は、一般式(II)-1中のX041と同じである。
【0254】
一般式(II)-2中、X010、X020及びX030における、前記アルキル基及び不飽和炭化水素基は、一般式(II)中のX01、X02及びX03における、前記アルキル基及び不飽和炭化水素基と同じである。例えば、X010及びX020が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して環を形成していてもよい。
ただし、X010、X020及びX030の1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基である。すなわち、X010、X020及びX030は、これらの1種又は2種以上が、前記不飽和炭化水素基である点を除けば、一般式(II)中のX01、X02及びX03と同じである。
【0255】
化合物(II)は、下記一般式(II)-1-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-1-1」と略記することがある)、下記一般式(II)-2-1で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-1」と略記することがある)、下記一般式(II)-2-2で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-2」と略記することがある)、下記一般式(II)-2-3で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-3」と略記することがある)、下記一般式(II)-2-4で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-4」と略記することがある)、又は下記一般式(II)-2-5で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-5」と略記することがある)であることが好ましい。
すなわち、化合物(I)又はその塩は、化合物(II)-1-1若しくはその塩、化合物(II)-2-1若しくはその塩、化合物(II)-2-2若しくはその塩、化合物(II)-2-3若しくはその塩、化合物(II)-2-4若しくはその塩、又は化合物(II)-2-5若しくはその塩、であることが好ましい。
化合物(II)-1-1若しくはその塩は、化合物(II)-1若しくはその塩に包含される。
化合物(II)-2-1若しくはその塩、化合物(II)-2-2若しくはその塩、化合物(II)-2-3若しくはその塩、化合物(II)-2-4若しくはその塩、並びに、化合物(II)-2-5若しくはその塩は、化合物(II)-2若しくはその塩に包含される。
【0256】
【化38】
(一般式(II)-1-1、(II)-2-1、(II)-2-2、(II)-2-3、(II)-2-4又は(II)-2-5中、X012、X022及びX032は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X012及びX022が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
01、G02、G03及びG04は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基であり;
02は、前記と同じである。)
【0257】
[化合物(II)-1-1]
一般式(II)-1-1中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0258】
一般式(II)-1-1中、X012、X022及びX032は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。
012、X022及びX032における、炭素数1~5のアルキル基は、X01~X04(又は、X011、X021及びX031)における、炭素数1~9のアルキル基のうち、炭素数1~5のものと同じである。
【0259】
012及びX022が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X01及びX02がアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0260】
一般式(II)-1-1中、G04は、水素原子、アルキル基、アリール基、トリアルキルシリル基、ジアルキルモノアリールシリル基、モノアルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アラルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、ジアルキルモノアリールシリルアルキル基、モノアルキルジアリールシリルアルキル基、トリアリールシリルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アリールカルボニルオキシアルキル基又はアラルキルカルボニルオキシアルキル基である。
04は、一般式(I)-1-1中のGと同じである。
【0261】
[化合物(II)-2-1]
一般式(II)-2-1中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0262】
一般式(II)-2-1中、G04は、先に説明したものと同じである。
一般式(II)-2-1中、G01及びG03は、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものである。
一般式(II)-2-1中、G01、G03及びG04は、それぞれ独立に決定される。
【0263】
[化合物(II)-2-2]
一般式(II)-2-2中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0264】
一般式(II)-2-2中、G01、G03及びG04は、先に説明したものと同じである。
一般式(II)-2-2中、G02は、一般式(I)-1-1中におけるGと同様のものである。
一般式(II)-2-2中、G01、G02、G03及びG04は、それぞれ独立に決定される。
【0265】
[化合物(II)-2-3]
一般式(II)-2-3中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0266】
一般式(II)-2-3中、X012、X022、G03及びG04は、先に説明したものと同じである。
例えば、X012及びX022が前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、前記環は、先に説明したものと同じである。
一般式(II)-2-3中、G03及びG04は、それぞれ独立に決定される。
【0267】
[化合物(II)-2-4]
一般式(II)-2-4中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0268】
一般式(II)-2-4中、X032、G01及びG04は、先に説明したものと同じである。
一般式(II)-2-4中、G01及びG04は、それぞれ独立に決定される。
【0269】
[化合物(II)-2-5]
一般式(II)-2-5中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0270】
一般式(II)-2-5中、X032、G01、G02及びG04は、先に説明したものと同じである。
一般式(II)-2-5中、G01、G02及びG04は、それぞれ独立に決定される。
【0271】
化合物(II)の分子量は、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、例えば、250以下であってもよい。神経細胞に対して生理活性を有する天然由来の神経機能調節物質の分子量は、通常、比較的小さい。したがって、神経細胞中での、上記のように分子量が比較的小さい化合物(II)の挙動や性質を分析することで、天然由来の神経機能調節物質の挙動や性質を高精度に考察することが可能であり、化合物(II)の有用性がより高い。
一方、化合物(II)の塩は、塩を形成していない状態に置き換えたとき(すなわち、化合物(II)として考えたとき)の分子量(換算分子量)が、上述の化合物(II)の分子量と同様であることが好ましい。このような化合物(II)の塩も、通常はその分子量が比較的小さいため、上述の分子量が小さい化合物(II)と同様に有用性がより高い。
ただし、化合物(II)及びその塩のこのような有用性は一例であり、化合物(II)の分子量と、化合物(II)の塩の換算分子量と、の上限値は、ここに示すものに限定されない。
【0272】
化合物(II)の分子量と、化合物(II)の塩の換算分子量と、の下限値は、特に限定されない。化合物(II)の製造のし易さの点では、前記分子量及び換算分子量は、177以上であることが好ましい。
【0273】
好ましい化合物(II)を、以下に例示する。好ましい化合物(II)としては、これら以外にも、以下に例示する化合物で前記置換基を有するものも、挙げられる。好ましい化合物(II)の塩としては、以下に例示する化合物の塩、及び、以下に例示する化合物で前記置換基を有するものの塩、が挙げられる。
ただし、本実施形態の化合物(II)又はその塩は、これらに限定されない。
【0274】
【化39】
【0275】
【化40】
【0276】
【化41】
【0277】
【化42】
【0278】
化合物(II)は、公知の神経機能調節物質であるセロトニン(別名:5-ヒドロキシトリプタミン、3-(2-アミノエチル)インドール-5-オール)の誘導体とみなすことができる。
したがって、化合物(II)及びその塩は、公知の神経機能調節物質の中でも、特に、セロトニンの神経細胞中での役割(換言すると生理活性)を解明するのに、有用である。
セロトニンの構造式を以下に示す。
【0279】
【化43】
【0280】
<<化合物(II)又はその塩の製造方法>>
化合物(II)又はその塩は、X01、X02、X03、X04及びX05のいずれが、上述の不飽和炭化水素基であるかにより、その製造方法が異なる。以下、このような化合物(II)又はその塩の製造方法について、順次説明する。
【0281】
<製造方法(1’)>
01、X02、X03及びX04のいずれかが、上述の不飽和炭化水素基である場合の化合物(II)又はその塩は、例えば、下記一般式(IIa)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(IIa)」と称することがある)と、下記一般式(Ic)で表される化合物(化合物(Ic))と、を反応させる工程(本明細書においては、「不飽和炭化水素基導入工程(1’)」と称することがある)と、下記Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(本明細書においては、「脱保護工程(1’)」と称することがある)と、を行うことにより、下記一般式(II)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)」と称することがある)又はその塩として、下記一般式(IIa)で表される化合物における、下記Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、水素原子であるものが、下記X0aで置換された構造の化合物又はその塩を得る、化合物又はその塩の製造方法(本明細書においては、「製造方法(1’)」と称することがある)により、製造できる。
化合物(II)は、X01、X02、X03及びX04のいずれかが、上述の不飽和炭化水素基である場合の化合物(II)である。
【0282】
【化44】
(一般式(II)、(IIa)又は(Ic)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
01は、0又は1であり;
02は、1~5の整数であり;
ただし、前記X01、X02、X03及びX04のうち、1種又は2種以上は、前記不飽和炭化水素基であり、
0aは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく;
LGは脱離基であり;
01a、Z02a、Z03a及びZ04aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は保護基であり、Z01a及びZ02aが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上は、水素原子である。)
【0283】
[不飽和炭化水素基導入工程(1’)]
不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、化合物(IIa)と、化合物(Ic)と、を反応させる。
一般式(IIa)中、X05、n01及びn02は、一般式(II)中のX05、n01及びn02と同じである。
【0284】
一般式(IIa)中、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は保護基である。
01a、Z02a、Z03a及びZ04aにおける、炭素数1~9のアルキル基、及び保護基は、一般式(Ia)中のZ1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aにおける、炭素数1~9のアルキル基、及び保護基と同じである。
例えば、Z01a及びZ02aが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X01及びX02がアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0285】
ただし、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上は、水素原子である。
【0286】
化合物(Ic)は、先に説明した化合物(I)の製造方法である製造方法(1)で用いる化合物(Ic)と同じである。
【0287】
化合物(IIa)と化合物(Ic)との反応は、先に説明した製造方法(1)における、化合物(Ia)と化合物(Ic)との反応と、同様の形式で進行する。
例えば、化合物(IIa)中、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上は、水素原子であるため、不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、この水素原子が前記X0aで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。
また、不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、不飽和炭化水素基導入工程(1’)の条件に依存する。
【0288】
化合物(IIa)と化合物(Ic)との反応は、化合物(Ia)に代えて化合物(IIa)を用いる点を除けば、先に説明した製造方法(1)における、化合物(Ia)と化合物(Ic)との反応と、同様の方法で行うことができる。
例えば、化合物(Ic)の使用量(モル)は、化合物(IIa)中の、前記X0aでの置換対象である水素原子の量(モル)に対して、1~2倍モル量であることが好ましい。
また、化合物(IIa)と化合物(Ic)との反応は、塩基を用いて行うことが好ましく、その場合、塩基の使用量(モル)は、化合物(IIa)中の、前記X0aでの置換対象である水素原子の量(モル)に対して、1~3倍モル量であることが好ましい。
また、化合物(IIa)と化合物(Ic)との反応時には、溶媒を用いてもよく、その場合、溶媒の使用量(質量部)は、特に限定されないが、溶媒以外のすべての成分の合計使用量(質量部)に対して、1~40質量倍であることが好ましく、1~30質量倍であってもよい。
また、化合物(IIa)と化合物(Ic)との反応時において、反応温度は、例えば、0~40℃、及び10~40℃のいずれであってもよく、反応時間は、例えば、0.5~24時間であってもよい。
また、不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出すことができ、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、精製してもよい。不飽和炭化水素基導入工程(1’)後に、後述する脱保護工程(1’)等、他の工程を引き続き行う場合には、不飽和炭化水素基導入工程(1’)での反応終了後に、必要に応じて後処理を行った後、生成物を取り出すことなく、引き続き前記他の工程を行ってもよい。
【0289】
不飽和炭化水素基導入工程(1’)において、化合物(IIa)と化合物(Ic)との反応による生成物は、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、1種又は2種以上が保護基である場合には、この保護基で該当箇所の官能基が保護された状態の化合物(II)である。一方、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aがいずれも保護基でない場合には、前記生成物は、目的物の化合物(II)である。
【0290】
[脱保護工程(1’)]
不飽和炭化水素基導入工程(1’)での生成物が、保護基を有する化合物(II)である場合には、不飽和炭化水素基導入工程(1’)の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(すなわち、脱保護工程(1’))を行う。脱保護工程(1’)を行うことにより、目的物である化合物(II)が得られる。
【0291】
脱保護工程(1’)は、脱保護の対象物として、保護基を有する化合物(I)に代えて、保護基を有する化合物(II)を用いる点を除けば、先に説明した製造方法(1)における、脱保護工程(1)と、同様の方法で行うことができる。
例えば、脱保護の条件は、保護基の種類に応じて適宜選択すればよい。
また、脱保護工程(1’)においては、反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出すことができ、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、精製してもよい。
【0292】
脱保護工程(1’)においても、不飽和炭化水素基導入工程(1’)の場合と同様に、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、脱保護工程(1’)の条件に依存する。
【0293】
不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、例えば、化合物(IIa)中の、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのいずれかは、水素原子であって、その一部又はすべての水素原子がX0aで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、X01、X02、X03及びX04のうち、該当するものが不飽和炭化水素基である場合の、化合物(II)又はその塩である。
また、不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、化合物(IIa)中の、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、炭素数1~9のアルキル基であるものは、通常、そのままで反応することはない。その結果、X01、X02、X03及びX04のうち、該当するものが炭素数1~9のアルキル基である場合の、化合物(II)又はその塩が生成する。
また、不飽和炭化水素基導入工程(1’)においては、化合物(IIa)中の、Z01a、Z02a、Z03a及びZ04aのうち、保護基であるものは、通常、そのままで反応することはない。そこで、脱保護工程(1’)を行うことにより、前記保護基が水素原子で置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、X01、X02、X03及びX04のうち、該当するものが水素原子である場合の、化合物(II)又はその塩である。
【0294】
[造塩工程(1’)]
不飽和炭化水素基導入工程(1’)を行い、必要に応じて、脱保護工程(1’)を行うことで、最終的に、塩を形成していない化合物(II)が得られた場合には、不飽和炭化水素基導入工程(1’)又は脱保護工程(1’)の後で、さらに、得られた化合物(II)をその塩とする工程(本明細書においては、「造塩工程(1’)」と称することがある)を行うことにより、化合物(II)の塩を製造できる。
【0295】
前記造塩工程(1’)は、例えば、化合物(II)を酸又は塩基と反応させるなど、公知の方法で行うことができ、目的とする塩の種類に応じて、工程条件を適宜選択すればよい。
例えば、塩を形成しているカチオンが、一般式(II)中の、一般式-NX0102で表される基の窒素原子と、一般式-NX04-で表される基の窒素原子と、のいずれか一方又は両方に、水素イオン(H)が配位したものである、化合物(II)の塩を製造する場合には、化合物(II)を酸と反応させればよい。
例えば、前記一般式(IIs)-1、(IIs)-2、又は(IIs)-3で表される塩を製造する場合には、化合物(II)を、一般式HQ(HQは、Q の水素イオン(H)との結合物であり、Q は前記と同じである)で表される酸と、一般式HQ(HQは、Q の水素イオン(H)との結合物であり、Q は前記と同じである)で表される酸と、のいずれか一方又は両方と、反応させればよい。
【0296】
製造方法(1’)の前記造塩工程(1’)においては、反応終了後、不飽和炭化水素基導入工程(1’)の場合と同様に、生成物に対して、後処理、取り出し、精製等の操作を行うことができる。
【0297】
[任意の工程(1’)]
製造方法(1’)においては、不飽和炭化水素基導入工程(1’)と、脱保護工程(1’)と、造塩工程(1’)と、のいずれにも該当しない、任意の工程(1’)を、1種又は2種以上行ってもよい。
【0298】
前記任意の工程(1’)は、目的に応じて適宜選択でき、特に限定されない。
例えば、不飽和炭化水素基導入工程(1’)で用いる化合物(IIa)として、市販品が存在しない場合には、市販品の原料を用い、公知の方法を単独で、又は2種以上組み合わせて行うことにより、化合物(IIa)を製造すればよい。
【0299】
01が1である場合の化合物(IIa)は、X05(すなわち、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基)を有する。このような化合物(IIa)は、例えば、後述する製造方法(2’)を利用することにより、製造できる。すなわち、化合物(IIb)において、「炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基」を、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bの選択肢から外した化合物を、化合物(IIb)に代えて用いる点以外は、後述する製造方法(2’)と同じ方法によって、n01が1である場合の化合物(IIa)を製造できる。ただし、これは、このような化合物(IIa)の製造方法の一例である。
【0300】
<製造方法(2’)>
01が1である場合の化合物(II)又はその塩は、例えば、下記一般式(IIb)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(IIb)」と称することがある)と、下記一般式(Id)で表される化合物(化合物(Id))と、を反応させる工程(本明細書においては、「不飽和炭化水素基導入工程(2’)」と称することがある)と、下記Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bのうち、1種又は2種以上が下記保護基である場合には、前記反応させる工程の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(本明細書においては、「脱保護工程(2’)」と称することがある)と、を行うことにより、下記一般式(II)で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)」と称することがある)又はその塩として、下記一般式(IIb)で表される化合物における、下記LGが、下記X0bで置換された構造の化合物又はその塩を得る製造方法(本明細書においては、「製造方法(2’)」と称することがある)により、製造できる。
化合物(II)は、n01が1である場合の化合物(II)である。
【0301】
【化45】
(一般式(II)、(IIb)又は(Id)中、X01、X02、X03及びX04は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又は炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基であり、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端にメチレン基を有する場合、前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよく、前記不飽和炭化水素基が、その結合先側の末端以外に、1個又は2個以上のメチレン基を有する場合、1個の前記メチレン基又は2個以上の互いに隣接していない前記メチレン基は、酸素原子で置換されていてもよく、X01及びX02が前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
05は、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基であり;
02は、1~5の整数であり;
LGは脱離基であり;
01b、Z02b、Z03b及びZ04bは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は保護基であり、Z01b及びZ02bが前記アルキル基である場合には、これら2個のアルキル基は相互に結合して環を形成していてもよく;
0bは、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数2~8の不飽和炭化水素基である。)
【0302】
[不飽和炭化水素基導入工程(2’)]
前記不飽和炭化水素基導入工程(2’)においては、化合物(IIb)と、化合物(Id)と、を反応させる。
一般式(IIb)中、n02は、一般式(II)中のn02と同じである。
【0303】
一般式(IIb)中、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基、又は保護基である。
01b、Z02b、Z03b及びZ04bにおける前記アルキル基及び不飽和炭化水素基は、X01~X04における前記アルキル基及び不飽和炭化水素基と同じである。
例えば、Z01b及びZ02bが前記アルキル基である場合、これら2個のアルキル基は、これら2個のアルキル基が結合している窒素原子とともに、相互に結合して、環を形成していてもよい。前記環は、先に説明した、X01及びX02がアルキル基である場合に、これら2個のアルキル基が相互に結合して形成していてもよい環と同じである。
【0304】
01b、Z02b、Z03b及びZ04bにおける前記保護基は、一般式(Ia)中のZ1a、Z2a、Z3a、Z4a及びZ6aにおける前記保護基と同様である。
【0305】
一般式(IIb)中、LGは脱離基であり、一般式(Ib)中のLG(脱離基)と同様である。
【0306】
化合物(Id)は、先に説明した化合物(I)の製造方法である製造方法(2)で用いる化合物(Id)と同じである。
【0307】
一般式(II)中、X01、X02、X03、X04及びX05は、一般式(II)中のX01、X02、X03、X04及びX05と同じである。
ただし、化合物(II)は、X05を有することが特定されている。
このように、n01が1に限定されている点を除けば、化合物(II)は化合物(II)と同じである。
【0308】
化合物(IIb)と化合物(Id)との反応は、先に説明した製造方法(2)における、化合物(Ib)と化合物(Id)との反応と、同様の形式で進行する。
例えば、化合物(IIb)がLGを有していることにより、不飽和炭化水素基導入工程(2’)においては、このLGが前記X0bで置換された構造の化合物又はその塩が生成する。
また、不飽和炭化水素基導入工程(2’)においては、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、不飽和炭化水素基導入工程(2’)の条件に依存する。
【0309】
化合物(IIb)と化合物(Id)との反応は、化合物(Ib)に代えて化合物(IIb)を用いる点を除けば、先に説明した製造方法(2)における、化合物(Ib)と化合物(Id)との反応と、同様の方法で行うことができる。
例えば、化合物(Id)の使用量(モル)は、化合物(IIb)の使用量(モル)に対して、1.0~2.0倍モル量であってもよい。
また、化合物(IIb)と化合物(Id)との反応は、パラジウム触媒と、銅触媒と、塩基と、を用いて行ってもよい(Sonogashira-Hagiharaクロスカップリング反応)。その場合、パラジウム触媒の使用量(モル)は、化合物(IIb)の使用量(モル)に対して、0.05~0.20倍モル量であってもよく、銅触媒の使用量(モル)は、化合物(IIb)の使用量(モル)に対して、0.05~0.40倍モル量であってもよく、塩基の使用量(モル)は、化合物(IIb)の使用量(モル)に対して、過剰量であってもよく、例えば、1~100倍モル量であってもよいし、溶媒を兼ねて塩基を用いてもよい。
また、化合物(IIb)と化合物(Id)との反応時には、溶媒を用いてもよく、その場合、溶媒の使用量(質量部)は、溶媒以外のすべての成分の合計使用量(質量部)に対して、1~20質量倍であってもよい。
また、化合物(IIb)と化合物(Id)との反応時において、反応温度は、例えば、10~80℃であってもよく、反応時間は、例えば、10~48時間であってもよい。
また、不飽和炭化水素基導入工程(2’)においては、反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出すことができ、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、精製してもよい。不飽和炭化水素基導入工程(2’)後に、後述する脱保護工程(2’)等、他の工程を引き続き行う場合には、不飽和炭化水素基導入工程(2’)での反応終了後に、必要に応じて後処理を行った後、生成物を取り出すことなく、引き続き前記他の工程を行ってもよい。
【0310】
不飽和炭化水素基導入工程(2’)において、化合物(IIb)と化合物(Id)との反応による生成物は、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bのうち、1種又は2種以上が保護基である場合には、この保護基で該当箇所の官能基が保護された状態の化合物(II)である。一方、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bがいずれも保護基でない場合には、前記生成物は、目的物の化合物(II)である。
【0311】
[脱保護工程(2’)]
不飽和炭化水素基導入工程(2’)での生成物が、保護基を有する化合物(II)である場合には、不飽和炭化水素基導入工程(2’)の後で、さらに、前記保護基を除去する工程(すなわち、脱保護工程(2’))を行う。脱保護工程(2’)を行うことにより、目的物である化合物(II)が得られる。
【0312】
脱保護工程(2’)は、脱保護の対象物として、保護基を有する化合物(I)に代えて、保護基を有する化合物(II)を用いる点を除けば、先に説明した製造方法(2)における、脱保護工程(2)と、同様の方法で行うことができる。
例えば、脱保護の条件は、保護基の種類に応じて適宜選択すればよい。
また、脱保護工程(2’)においては、反応終了後、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出すことができ、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、精製してもよい。
【0313】
脱保護工程(2’)においても、不飽和炭化水素基導入工程(2’)の場合と同様に、生成物として、塩を形成していないものと、塩を形成しているものと、のいずれもが得られる可能性がある。これらのいずれが得られるかは、脱保護工程(2’)の条件に依存する。
【0314】
不飽和炭化水素基導入工程(2’)においては、例えば、化合物(IIb)中の、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bのうち、炭素数1~9のアルキル基であるものは、通常、そのままで反応することはない。その結果、X01、X02、X03及びX04のうち、該当するものが炭素数1~9のアルキル基である場合の、化合物(II)又はその塩が生成する。
また、不飽和炭化水素基導入工程(2’)においては、化合物(IIb)中の、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bのうち、保護基であるものは、通常、そのままで反応することはない。そこで、脱保護工程(2’)を行うことにより、前記保護基が水素原子で置換された構造の化合物又はその塩が生成する。これらの生成物は、X01、X02、X03及びX04のうち、該当するものが水素原子である場合の、化合物(II)又はその塩である。
【0315】
[造塩工程(2’)]
不飽和炭化水素基導入工程(2’)を行い、必要に応じて、脱保護工程(2’)を行うことで、最終的に、塩を形成していない化合物(II)が得られた場合には、不飽和炭化水素基導入工程(2’)又は脱保護工程(2’)の後で、さらに、得られた化合物(II)をその塩とする工程(本明細書においては、「造塩工程(2’)」と称することがある)を行うことにより、化合物(II)の塩を製造できる。
【0316】
前記造塩工程(2’)は、例えば、塩を形成していない化合物(II)に代えて、塩を形成していない化合物(II)を用いる点以外は、上述の造塩工程(1’)の場合と同じ方法で行うことができる。
【0317】
製造方法(2’)の前記造塩工程(2’)においては、反応終了後、不飽和炭化水素基導入工程(2’)の場合と同様に、生成物に対して、後処理、取り出し、精製等の操作を行うことができる。
【0318】
[任意の工程(2’)]
製造方法(2’)においては、不飽和炭化水素基導入工程(2’)と、脱保護工程(2’)と、造塩工程(2’)と、のいずれにも該当しない、任意の工程(2’)を、1種又は2種以上行ってもよい。
【0319】
前記任意の工程(2’)は、目的に応じて適宜選択でき、特に限定されない。
例えば、不飽和炭化水素基導入工程(2’)で用いる化合物(IIb)として、市販品が存在しない場合には、市販品の原料を用い、公知の方法を単独で、又は2種以上組み合わせて行うことにより、化合物(IIb)を製造すればよい。
【0320】
01b、Z02b、Z03b及びZ04bのいずれかが、炭素原子間の三重結合を1~4個有し、置換基を有していてもよい炭素数3~9の不飽和炭化水素基である場合の化合物(IIb)は、例えば、上述の製造方法(1’)を利用することにより、製造できる。すなわち、化合物(IIa)において、X05をLGとし、かつ、n01を1とした化合物を、化合物(IIa)に代えて用いる点以外は、上述の製造方法(1’)と同じ方法によって、Z01b、Z02b、Z03b及びZ04bのいずれかが前記不飽和炭化水素基である場合の化合物(IIb)を製造できる。ただし、これは、このような化合物(IIb)の製造方法の一例である。
【0321】
<<化合物(II)の塩の製造方法>>
ここまでは、化合物(II)の塩の製造方法として、前記製造方法(1’)又は(2’)において、造塩工程(1’)又は(2’)を行うことなく、化合物(II)の塩又は化合物(II)の塩を製造する方法と、造塩工程(1’)又は(2’)を行うことにより、化合物(II)の塩又は化合物(II)の塩を製造する方法、について説明した。ただし、造塩工程(1’)又は(2’)での塩の形成方法は、製造方法(1’)又は(2’)によって製造された化合物(II)への適用に限定されず、他の方法で製造された化合物(II)に対して、適用してもよい。
【0322】
化合物(II)及びその塩の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)、紫外・可視分光法(UV-VIS吸収スペクトル)、元素分析法等の公知の手法によって、確認できる。
【0323】
<<神経機能調節物質>>
本発明の一実施形態に係る神経機能調節物質は、炭素原子間の三重結合(C≡C)を有する基を含む。
炭素原子間の三重結合を有する基は、生体がシグナルを発生さない波数領域に、特異的なラマン散乱を生じることが知られており、ラマン顕微鏡を用い、ラマン散乱分光法によって検出できる。すなわち、本実施形態の神経機能調節物質は、炭素原子間の三重結合を有する基を含んでいるため、ラマン散乱分光法によって検出可能である。
【0324】
一方、末端部に炭素原子間の三重結合(C≡C)を有する化合物と、アジド基(-N=N=N)を有する化合物と、を反応させると、これら三重結合とアジド基との、[3+2]双極子付加環化反応により、高選択的に高反応率で、安定性の高い1,2,3-トリアゾール環を形成する。この反応はクリックケミストリー(Click Chemistry)を実現する手法の1種であり、クリック反応(Click Reaction)ともいわれる。
本実施形態の神経機能調節物質のうち、末端部に炭素原子間の三重結合を有するものは、アジド基を有する化合物と、クリック反応させることが可能である。したがって、アジド基を有する化合物として色素(例えば蛍光ラベル)を用いることにより、前記神経機能調節物質を発光可能にラベル化できる。クリック反応は、高選択的かつ高反応率であるため、前記神経機能調節物質は、アジド基を有する色素として、多種類のものと反応可能であって、多様なラベル化が可能である。
【0325】
クリック反応させる前記色素は、アジド基を有するものであれば、特に限定されない。市販品ではない前記色素は、例えば、アジド基を有しない市販品の公知の色素を、公知の方法でアジド化することで、製造できる。アジド化は、例えば、アジ化ナトリウム、トリメチルシリルアジド等のアジド化剤を用いる公知の方法で、行うことができる。
【0326】
このように、本実施形態の神経機能調節物質は、ラマン散乱分光法による検出と、クリック反応を利用してラベル化した後の蛍光発光(上述の電磁波放出の一種である)による検出と、の2とおりの検出が可能であって、種々の検出法を適用できる。
【0327】
なお、ここでは、アジド基を有する化合物として色素を挙げたが、目的に応じて、色素以外のアジド基を有する化合物を用いても、クリック反応を行うことが可能である。
【0328】
本実施形態の神経機能調節物質は、神経機能の調節に関わる生理活性を有する。したがって、本実施形態の神経機能調節物質は、神経細胞中へ取り込まれ、取り込まれた後は、そのままラマン散乱分光法によって検出可能であるし、又は、クリック反応を利用してラベル化した後の蛍光発光によっても検出可能であって、神経細胞への取り込みの状態を、簡便かつ実用的に評価できる。
【0329】
神経細胞中に取り込まれる色素としては、ドーパミン含有神経細胞中に取り込まれ、この細胞中で検出可能な、下記式で表される蛍光緑色色素FFN511が知られている(特許文献1参照)。この色素の分子量は、他の蛍光色素の分子量と比べると比較的小さいものの、ドーパミンの分子量の約2倍程度であって、標的分子の分子量と比べるとまだ大きい。また、この色素は、生理活性を有しないと考えられ、さらに、必ずしも一般的ではない短波長の光を吸収して、幅広い波長帯の光を放出するため、他の色素との併用が困難であり、代替の色素が存在しないなど、好ましくない特性を多く有している。
これに対して、本実施形態の神経機能調節物質は、上述のとおり、生理活性を有し、種々の手段で検出できるため、極めて有用性が高い。
【0330】
【化46】
【0331】
本実施形態の神経機能調節物質は、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン若しくはセロトニン中の、1個又は2個以上の水素原子が、前記炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造を有する化合物又はその塩(本明細書においては、これらを包括して「アナログ物質」と称することがある)であることが好ましい。ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン及びセロトニンは、脳内で作用する天然由来の神経機能調節物質として重要であり、しかも、神経細胞への取り込み以降の動態について、詳細は不明であって、精神疾患をはじめとする各種疾病の発症への関わり方も不明である。したがって、これらのアナログである、上述の化合物又はその塩は、これら不明点を解消するための手段を提供するものであって、極めて有用性が高い。
本実施形態の前記アナログ物質には、先に説明した化合物(I)又はその塩に包含されるもの、及び、先に説明した化合物(II)又はその塩に包含されるもの、がある。
【0332】
【化47】
【0333】
本実施形態の前記アナログ物質において、炭素原子間の三重結合を有する基で置換される水素原子の位置は、特に限定されない。
本実施形態の前記アナログ物質において、炭素原子間の三重結合を有する基で置換される水素原子の数は、特に限定されないが、1~6個であることが好ましく、例えば、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個、及び1個、のいずれであってもよい。
【0334】
本実施形態の前記アナログ物質のうち、ドーパミンのアナログ物質としては、例えば、ドーパミンにおいて、末端のアミノ基中の1個若しくは2個の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;1個又は2個のヒドロキシ基中の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩;ベンゼン環骨格を構成している炭素原子のうち、2-アミノエチル基が結合している炭素原子と、そのパラ位の炭素原子と、の間に位置している、互いに隣接する2個の炭素原子のいずれか一方又は両方に結合している水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩;これら3群中のいずれかの化合物又はその塩において、前記アミノ基又はヒドロキシ基のうち、炭素原子間の三重結合を有する基で置換されていない水素原子が、アルキル基(好ましくは炭素数1~9のアルキル基)で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩等が挙げられる。
【0335】
本実施形態の前記アナログ物質のうち、ノルアドレナリンのアナログ物質としては、例えば、末端のアミノ基中の1個若しくは2個の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;1個、2個又は3個のヒドロキシ基中の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩;ベンゼン環骨格を構成している炭素原子のうち、2-アミノ-1-ヒドロキシエチル基が結合している炭素原子と、そのパラ位の炭素原子と、の間に位置している、互いに隣接する2個の炭素原子のいずれか一方又は両方に結合している水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩;これら3群中のいずれかの化合物又はその塩において、前記アミノ基又はヒドロキシ基のうち、炭素原子間の三重結合を有する基で置換されていない水素原子が、アルキル基(好ましくは炭素数1~9のアルキル基)で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩等が挙げられる。
【0336】
本実施形態の前記アナログ物質のうち、アドレナリンのアナログ物質としては、例えば、末端のメチルアミノ基中の1個の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;1個、2個又は3個のヒドロキシ基中の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩;ベンゼン環骨格を構成している炭素原子のうち、(1-ヒドロキシ-2-メチルアミノ)エチル基が結合している炭素原子と、そのパラ位の炭素原子と、の間に位置している、互いに隣接する2個の炭素原子のいずれか一方又は両方に結合している水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩;これら3群中のいずれかの化合物又はその塩において、メチルアミノ基又は前記ヒドロキシ基のうち、炭素原子間の三重結合を有する基で置換されていない水素原子が、アルキル基(好ましくは炭素数1~9のアルキル基)で置換された構造(このときの置換数及び置換位置は特に限定されない)の化合物又はその塩等が挙げられる。
【0337】
本実施形態の前記アナログ物質のうち、セロトニンのアナログ物質としては、例えば、末端のアミノ基中の1個若しくは2個の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;ヒドロキシ基中の水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;含窒素環を構成している窒素原子に結合している水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;ベンゼン環骨格を構成している炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子に対して、オルト位の2個の炭素原子のいずれか一方又は両方に結合している水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩;ベンゼン環骨格を構成している炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子に対して、メタ位の炭素原子に結合している水素原子が、炭素原子間の三重結合を有する基で置換された構造の化合物又はその塩等が挙げられる。
【0338】
本実施形態の神経機能調節物質としては、例えば、上述の化合物(I)又はその塩からなるもの、及び、上述の化合物(II)又はその塩からなるもの、が挙げられる。化合物(I)又はその塩、及び、化合物(II)又はその塩は、天然由来の神経機能調節物質と同様に、神経細胞に認識されるために必要とされる分子構造を、高度に保持しているため、神経機能調節物質として機能すると推測される。
【0339】
<<神経機能調節物質の評価方法>>
本発明の一実施形態に係る神経機能調節物質の評価方法は、前記神経機能調節物質の、神経細胞中への取り込みの状態、又は、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を評価する方法である。
上述の本実施形態の神経機能調節物質は、先の説明のとおり、生理活性を有しており、神経細胞と共存させておくことで、神経細胞中に取り込まれる。そして、神経細胞中の前記神経機能調節物質は、先の説明のとおり、例えば、ラマン散乱分光法か、又は、クリック反応を利用してラベル化した後の蛍光発光によって、検出できる。
したがって、前記神経機能調節物質を評価するときには、前記神経機能調節物質を神経細胞と共存させておき、次いで、神経細胞中に取り込まれた前記神経機能調節物質を検出すればよい。
【0340】
本実施形態において、神経機能調節物質の神経細胞中への取り込みの状態を評価する、とは、例えば、神経細胞中での神経機能調節物質の取り込み場所(換言すると分布)、前記取り込み場所における神経機能調節物質の量、これら取り込み場所又は量の経時変化等、を特定することを意味する。
本実施形態によって、神経機能調節物質の神経細胞中への取り込みの状態を評価することにより、神経細胞中での神経機能調節物質の役割(換言すると生理活性)と、その程度を評価できる場合がある。例えば、神経細胞は、その領域によって、特有の作用を示すことがある。そこで、神経細胞中に取り込ませた神経機能調節物質の神経細胞中における検出箇所(換言すると取り込み場所)を特定することにより、この神経機能調節物質の神経細胞中における役割を特定できる場合がある。また、前記取り込み場所における神経機能調節物質の量を特定することにより、神経細胞中での神経機能調節物質の生理活性の強さを特定できる場合がある。
ただし、これらは、評価の一態様であり、評価はこれらに限定されない。
【0341】
本実施形態において、神経機能調節物質の神経細胞中への取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を評価する、とは、例えば、神経細胞中又は神経細胞外における、この神経機能調節物質以外の他の物質の濃度変化等を特定することを意味する。
本実施形態によって、前記細胞応答の状態を評価することにより、神経細胞中での神経機能調節物質の役割(換言すると生理活性)を評価できる場合がある。例えば、ドーパミンやノルアドレナリン等のある種の神経機能調節物質は、神経細胞の表面に存在する特定種の受容体に結合し、この神経細胞を活性化することで、種々の細胞応答を引き起こす。このような細胞応答の1種で比較的よく知られているものとしては、サイクリックAMP(cAMP)等のセカンドメッセンジャーの濃度の増減を伴う細胞内情報伝達がある。そこで、例えば、神経機能調節物質を神経細胞中に取り込ませた後、これによって引き起こされる、他の物質の濃度変化を特定することにより、この神経機能調節物質の神経細胞中における役割を特定できる場合がある。
ただし、これは、評価の一態様であり、評価はこれらに限定されない。
【0342】
本実施形態によれば、神経機能調節物質の、神経細胞中への取り込みの状態を評価可能であるため、神経機能調節物質の、神経細胞中からの放出の有無も同時に評価可能である。また、神経機能調節物質の取り込みの状態や、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を評価することで、取り込み後の脳組織内における神経機能調節物質の動態を評価できる。
【0343】
本実施形態の評価方法によれば、このような神経機能調節物質の神経細胞への取り込みの状態、又は、取り込みによってもたらされる細胞応答の状態を、実用的に評価できるため、この評価方法は、例えば、精神疾患の治療薬の開発への利用に好適であり、精神医学及び薬学の分野で有用である。
【0344】
本実施形態の評価方法で一度に用いる神経機能調節物質は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
例えば、検出方法が異なる2種以上の神経機能調節物質を併用し、これら2種以上の神経機能調節物質を同時に検出することにより、これら神経機能調節物質の神経細胞中での役割を、効率的に特定できる場合がある。
【0345】
検出方法が異なる2種以上の神経機能調節物質を同時に検出する方法としては、例えば、これら神経機能調節物質のうち、1種又は2種以上をラマン散乱分光法によって検出し、他の1種又は2種以上を、色素とのクリック反応を利用してラベル化した後の蛍光発光によって検出する方法;2種以上のこれら神経機能調節物質を、検出波長が互いに異なる色素とのクリック反応を利用して、それぞれラベル化した後に、波長が異なる蛍光の発光によって検出する方法等が挙げられる。
【実施例
【0346】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0347】
なお、以下の実施例で記載している各略号は、それぞれ以下の意味である。
Me:メチル基
Et:エチル基
Pr:イソプロピル基(別名:1-メチルエチル基)
Ac:アセチル基
Ts:p-トルエンスルホニル基
Boc:tert-ブトキシカルボニル基
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
THF:テトラヒドロフラン
TFA:2,2,2-トリフルオロ酢酸
DMAP:N,N-ジメチル-4-アミノピリジン
LDA:リチウムジイソプロピルアミド
【0348】
<<化合物(I)の製造>>
[実施例1]
以下に示す経路で、下記式(I)-1-101で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-101」と略記することがある)、下記式(I)-1-102で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-102」と略記することがある)、及び下記式(I)-1-103で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-103」と略記することがある)を製造した。
【0349】
<化合物(I)-1-101の製造>
(N-トリフルオロアセチルドーパミンの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中で、ドーパミン塩酸塩(2.20g、11.6mmol)、及びメタノール(12mL)を混合し、窒素ガスを30分流通させることで、得られた混合物を脱気した。
次いで、この脱気済みの混合物に、トリフルオロ酢酸エチル(2.0mL、16.8mmol)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.0mL、11.6mmol)を添加し、室温下で30時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に1N塩酸を加えて、反応を停止させた。そして、酢酸エチルで抽出を行い、集められた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、白色個体として、N-トリフルオロアセチルドーパミンを得た。
【0350】
(N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンの製造)
容量300mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-トリフルオロアセチルドーパミンの全量を精製することなく添加し、さらに、2,2-ジメトキシプロパン(5.69 mL、46.4mmol)、p-トルエンスルホン酸・一水和物(0.23g、1.2mmol)、及びベンゼン(120mL)を添加した。
次いで、この状態の丸底フラスコを、モレキュラーシーブ4Aを充填した滴下漏斗と接続し、さらに、水分を十分に除去したコンデンサーと接続した。
次いで、この状態で、丸底フラスコ中の混合物を105℃で39時間撹拌し、室温下で溶媒を減圧留去した。
次いで、得られた粗生成物を塩化メチレン中で溶解させ、得られた溶液を用いて、シリカゲルを充填した管(長さ3cm)の内部を通過させた。
次いで、溶媒を除去し、析出した黄色味がかった固体をろ別して、ヘキサンで洗浄し、乾燥させることで、目的物として、N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンを得た(収量2.50g(8.64mmol)、2工程合計収率75%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.56であった。
得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンのNMRデータを以下に示す。
【0351】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.67 (s, 6 H), 2.77-2.80 (m, 2 H), 3.54-3.59 (m, 2 H), 6.35 (br, 1 H), 6.58-6.59 (m, 2 H), 6.67-6.69 (m, 1 H).
【0352】
(N-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンの製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、水素化ナトリウム(濃度60質量%、55mg(水素化ナトリウムとして33mg)、1.38mmol)を加えた。この水素化ナトリウムは、ヘキサン(10mL)で3回洗浄したものである。そして、残留しているヘキサンを減圧留去し、DMF(5mL)を加えて,得られた懸濁液を0℃で撹拌した。
次いで、ここに、上記で得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン(289mg、1.00mmol)のDMF溶液(5mL)を添加し、得られた混合物を0℃で4時間撹拌した。
次いで、ここにプロパルギルブロミド(88μL、1.1mmol)を添加し、得られた混合物を室温下で14時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液を0℃に冷却し、これに水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた混合液に対して、ジエチルエーテル(30mL)で抽出を行い、有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
次いで、溶媒を減圧留去し、得られた混合物を用いて、シリカゲルを充填した管の内部を通過させ、酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒で溶出させ、粗生成物を得た。
次いで、得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより、精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用い、酢酸エチルの濃度を10体積%から20体積%まで増大させて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を減圧留去した。
以上により、薄黄色油状物として、目的物であるN-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンを得た(収量300mg(0.917mmol)、収率92%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.67であった。
得られたN-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0353】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.67 (s, 6 H), 2.35-2.37 (m, 1 H), 2.86 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 3.68-3.73 (m, 2 H), 4.04 and 4.28 (rotameric d, J = 2.0 Hz, 2 H), 6.60-6.68 (m, 3 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3, mixture of two rotamers) δ25.70 and 25.73 (two methyl carbons of the isopropylidene moiety were overlapping), 32.6 and 34.8, 36.0 and 37.8 (q for δ37.8 peak, J = 3.7 Hz), 48.8 and 49.2 (q for δ48.8 peak, J = 2.8 Hz), 73.4 and 73.6, 76.7 and 76.8, 108.2 and 108.3, 108.7 and 108.8, 116.1 and 116.3 (q, J = 292 Hz), 117.9 and 118.0, 120.98 and 121.00, 129.9 and 130.8, 146.2 and 146.4, 147.6 and 147.7, 156.2 and 156.6 (q, J = 37.0 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C16H17F3NO3 [M + H]+: 328.1155, found: 328.1168.
【0354】
(化合物(I)-1-101の製造)
容量50mLの丸底フラスコ中で、N-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン(350mg、1.07mmol)、及びTHF(7mL)を混合した。
次いで、得られた混合液に、水酸化リチウム水溶液(濃度1M、2.1mL)を添加し、得られた混合物を室温下で15時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液を0℃に冷却し、ここに1N塩酸を加えて、反応を停止させた。さらに塩化メチレンを加えて、得られた混合物に対して、水で抽出を行い、水層を塩化メチレンで洗浄した。さらに、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて、水層を塩基性とし、この水層に対して、酢酸エチルで抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮することにより、薄黄色油状物として、N-プロパルギル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン(すなわち、化合物(I)-1-101)を得た(収量220mg(0.951mmol)、収率89%)。
得られた化合物(I)-1-101のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0355】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.67 (s, 6 H), 2.21 (t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.72 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 2.92 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.44 (d, J = 2.8 Hz, 2 H), 6.60-6.66 (m, 3 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ25.9 (two methyl carbons of the isopropylidene moiety were overlapping), 35.8, 38.1, 50.0, 71.3, 82.1, 108.0, 108.8, 117.7, 120.9, 132.8, 145.8, 147.5.
HRMS (ESI) calcd for C14H18NO2 [M + H]+: 232.1332, found: 232.1332.
【0356】
<化合物(I)-1-102の製造>
容量10mLのサンプルバイアルに、上記で得られた化合物(I)-1-101(すなわち、N-プロパルギル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン)(20mg、0.086mmol)、及びジエチルエーテル(1mL)を添加し、得られた混合物を撹拌して、不要物が残存していない溶液を得た。
次いで、室温下でこの溶液に、塩化水素を1Mの濃度で含むジエチルエーテル溶液(10滴)を添加したところ、直ちに白色の析出物が生じたので、この析出物をろ別し、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させることにより、白色固体として、N-プロパルギル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン塩酸塩(すなわち、化合物(I)-1-102)を得た(収量22mg(0.0822mmol)、収率96%)。
得られた化合物(I)-1-102のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0357】
1H NMR (400 MHz, D2O) δ1.66 (s, 6 H), 2.91-2.95 (m, 3 H), 3.36 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.88 (d, J = 2.0 Hz, 2 H), 6.75-6.80 (m, 3 H).
13C NMR (100 MHz, D2O) δ25.3 (two methyl groups of isopropylidene moiety were overlapping), 32.1, 37.1, 48.5, 73.8, 78.5, 109.5, 109.8, 119.7, 122.4, 130.4, 146.5, 147.8.
HRMS (ESI) calcd for C14H18NO2 [M - Cl]+: 232.1332, found: 232.1334.
【0358】
<化合物(I)-1-103の製造>
容量30mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた化合物(I)-1-101(すなわち、N-プロパルギル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン)(100mg、0.432mmol)、及びジオキサン(5mL))を添加し、得られた混合物を、不要物が消失するまで室温下で撹拌した。
次いで、得られた溶液に、塩化水素を4Nの濃度で含むジオキサン溶液(0.5mL)を添加したところ、白色の析出物が生じたので、この析出物が完全に溶解するまでメタノールを添加し、さらに塩酸(濃度12N、1mL)を添加して、室温下で16時間撹拌した。ここで、反応液をNMRで分析することにより、反応が完了していることを確認した。
次いで、得られた反応液から溶媒を減圧留去し、得られた油状の粗生成物を少量のメタノールに溶解させ、得られたメタノール溶液を、ジエチルエーテル中に滴下していくことにより、白色の析出物を生じさせた。そして、この析出物をろ別し、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させることにより、白色固体として、N-プロパルギルドーパミン塩酸塩(すなわち、化合物(I)-1-103)を得た(収量80mg(0.416mmol)、収率96%)。
得られた化合物(I)-1-103のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0359】
1H NMR (400 MHz, D2O) δ2.88 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 2.93 (t, J = 2.8 Hz, 1 H), 3.35 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.86 (d, J = 2.4 Hz, 2 H), 6.72 (dd, J = 2.0, 8.4 Hz, 1 H), 6.81 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 6.86 (d, J = 8.4 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, D2O) δ31.5, 37.1, 48.5, 73.6, 78.7, 117.1, 117.2, 121.8, 129.4, 143.8, 144.9.
HRMS (ESI) calcd for C11H14NO2 [M - Cl]+: 192.1019, found: 192.1025.
【0360】
【化48】
【0361】
[実施例2]
<化合物(I)-2-301の製造>
以下に示す経路で、下記式(I)-2-301で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2-301」と略記することがある)を製造した。
【0362】
(ドーパミン臭化水素酸塩の製造)
容量100mLの丸底フラスコ中で、ホモベラトリルアミン(別名:2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチルアミン、931mg、5.14mmol)、及び塩化メチレン(50mL)を混合し、得られた溶液を-78℃まで冷却した。
次いで、三臭化ホウ素の塩化メチレン溶液(濃度約1M、11.3mL)を、上記の冷却した溶液にゆっくりと添加し、得られた混合物を室温下で3時間撹拌した。
次いで、得られた反応液にメタノールを加えて、反応を停止させ、溶媒を減圧留去した。そして、析出した固体をジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させることで、ドーパミン臭化水素酸塩を得た(収量830mg(3.55mmol)、収率69%)。
得られたドーパミン臭化水素酸塩のNMRデータを以下に示す。
【0363】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ2.79 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 3.09 (t, J = 7.6 Hz, 2 H),
6.58 (dd, J = 2.4, 8.0 Hz, 1 H), 6.69-6.74 (m, 2 H).
【0364】
(N-Boc-ドーパミンの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中で、上記で得られたドーパミン臭化水素酸塩(468 mg、2.00mmol)、ジ-tert-ブチルジカーボネート(別名:BocO、468mg、2.00mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.0 mL、5.73mmol)、及びDMF(5mL)を混合し、室温下で3時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を添加し、得られた混合液に対して、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒(30mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を、水(20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。
次いで、得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより、精製した。このとき、移動相としては、メタノールと塩化メチレンとの混合溶媒を用い、メタノールの濃度を5体積%から10体積%まで増大させて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を減圧留去した。
以上により、tert-ブチル(3,4-ジヒドロキシフェネチル)カルバメート(本明細書においては「N-Boc-ドーパミン」と略記することがある)を得た(収量380mg(1.22mmol)、収率61%)。
メタノール(10体積%)/塩化メチレン(90体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られたN-Boc-ドーパミンを薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.57であった。
得られたN-Boc-ドーパミンのNMRデータを以下に示す。
【0365】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.44 (s, 9 H), 2.65 (br, 2 H), 3.32 (br, 2 H), 6.57-6.80 (m, 3 H).
【0366】
(tert-ブチル(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェネチル)カルバメートの製造)
容量30mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-Boc-ドーパミン(300mg、1.07 mmol)、炭酸カリウム(443mg、3.21mmol)、及びDMF(5mL)を添加し、ここにさらに、プロパルギルブロミド(0.18mL、2.45mmol)を添加して、得られた混合物を室温下で12時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた混合液に対して、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒(20mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を、水(20mL)で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。
次いで、得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより、精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチル(25体積%)/ヘキサン(75体積%)の混合溶媒を用いて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を減圧留去した。
以上により、目的物として、tert-ブチル(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェネチル)カルバメートを得た(収量350mg(1.06mmol)、収率99%)。
メタノール(30体積%)/塩化メチレン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.37であった。
得られた目的物のNMRデータを以下に示す。
【0367】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.44 (s, 9 H), 2.53 (m, 2 H), 2.75 (br, 2 H), 3.37 (br, 2 H), 4.74 (dd, J = 2.0, 6.8 Hz, 4 H), 6.79-6.81 (m, 1 H), 6.89 (br, 1 H), 7.00 (d, J = 8.4 Hz, 1 H).
【0368】
(化合物(I)-2-301の製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたtert-ブチル(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェネチル)カルバメート(296mg、0.90mmol)、TFA(0.5mL)及び塩化メチレン(5mL)を添加し、得られた混合物を室温下で14時間撹拌して、反応させた。ここで、反応液をNMRで分析することにより、Boc基を取り除く脱保護が完了していることを確認した。
次いで、得られた反応液に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止させた。そして、得られた混合液に対して、塩化メチレン(20mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、黄色油状の粗生成物を得た(収量97mg)。
次いで、容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた粗生成物の全量と、ジエチルエーテル(1mL)と、塩化水素を1Mの濃度で含むジエチルエーテル溶液(1mL)と、を添加し、得られた混合物を室温下で4時間撹拌した。
次いで、フィルターを用いて固体をろ別し、この固体をジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させることで、O,O’-ジプロパルギルドーパミン塩酸塩(すなわち、化合物(I)-2-301)を得た(収量87mg(0.33mmol)、収率37%)。
得られた化合物(I)-2-301のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0369】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ2.92 (t, J = 8.0 Hz, 2 H), 2.96 (dt, J = 10.8, 2.4 Hz, 2 H), 3.16 (dd, J = 6.8, 8.4 Hz, 2 H), 4.74 (t, J = 2.0 Hz, 2 H), 4.78 (t, J = 2.0 Hz, 2 H), 6.89 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 7.02 (m, 1 H), 7.06-7.08 (m, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CD3OD) δ34.0, 42.0, 57.9 (two peaks overlapping), 77.0, 77.1, 79.71, 79.74, 117.0, 117.1, 123.3, 131.8, 148.3, 149.3.
HRMS (ESI) calcd for C14H16NO2 [M - Cl]+: 230.1176, found: 230.1173.
【0370】
【化49】
【0371】
[実施例3]
<化合物(I)-2-302の製造>
以下に示す経路で、下記式(I)-2-302で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2-302」と略記することがある)を製造した。
【0372】
((RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルカルバメートの製造)
容量30mLの丸底フラスコ中で、DL-ノルエピネフリン塩酸塩(103mg、0.5mmol)、ジ-tert-ブチルジカーボネート(別名:BocO、240mg、1.10mmol)、DMAP(24mg、0.2mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1mL、5.76mmol)、及びDMF(10mL)を混合し、室温下で18時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた混合液に対して、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒(20mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、粗生成物を得た。
次いで、得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより、精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用い、酢酸エチルの濃度を25体積%から50体積%まで増大させて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を減圧留去した。
以上により、目的物として、(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルカルバメートを得た(収量74mg(0.20mmol)、収率40%)。
メタノール(10体積%)/塩化メチレン(90体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.58であった。また、酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.07であった。
得られた(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルカルバメートのNMRデータを以下に示す。
【0373】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ2.29 (s, 2 H), 2.61-2.69 (m, 2 H), 2.76-2.80 (m, 2 H), 3.495 (s, 2 H), 3.500 (s, 2 H), 5.63 (br, 2 H), 6.56 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 6.69 (s, 1 H), 6.75 (d, J = 2 H).
【0374】
((RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェニル)エチルカルバメートの製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルカルバメート(74mg、0.200mmol)、炭酸カリウム(110mg、0.8mmol)、及びDMF(5mL)を添加し、ここにさらに、プロパルギルブロミド(40μL、60mg、0.5mmol)を添加して、得られた懸濁液を室温下で3時間撹拌して、反応させた。ここで、薄層クロマトグラフィー(TLC)により分析で、原料の消失を確認した。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた混合液に対して、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒で抽出を行い、集められた有機層を、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、粗生成物を得た。
次いで、得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより、精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用い、酢酸エチルの濃度を25体積%から50体積%まで増大させて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を減圧留去した。
以上により、目的物として、(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェニル)エチルカルバメートを得た(収量77mg(0.19mmol)、収率95%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.13であった。
得られた(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェニル)エチルカルバメートのNMRデータを以下に示す。
【0375】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.44 (d, J = 2.0 Hz, 9 H), 1.55 (d, J = 1.2 Hz, 9 H), 2.52 (q, J = 2.4 Hz, 1 H), 3.14-3.22 (m, 1 H), 3.39-3.47 (m, 2 H), 3.58 (br, 1 H), 4.71 (dd, J = 2.4, 4.4 Hz, 2 H), 4.70-4.78 (br, 1 H), 5.03 (br, 1 H), 6.93-7.18 (m, 3 H).
【0376】
(化合物(I)-2-302の製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェニル)エチルカルバメート(77mg、0.19mmol)、及びジエチルエーテル(0.5mL)を添加し、得られた溶液にさらに、塩化水素を1Mの濃度で含むジエチルエーテル溶液(2mL)を添加して、得られた混合物を室温下で48時間撹拌して、反応させた。ここで、チューインガム状の固体が析出したので、これをろ別し、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させることで、(RS)-1-(2-アミノ-1-ヒドロキシエチル)-3,4-ビス(2-プロピニルオキシ)ベンゼン塩酸塩(すなわち、化合物(I)-2-302)を得た(収量10mg(0.035mmol)、収率19%)。
得られた化合物(I)-2-302のNMRデータを以下に示す。
【0377】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ2.93-2.97 (m, 2 H), 2.99-3.11 (m, 2 H), 4.79 (dd, J = 2.4, 8.0 Hz, 4 H), 4.87 (s, 1 H), 6.82-6.93 (m, 3 H).
【0378】
【化50】
【0379】
[実施例4]
<化合物(I)-2-303の製造>
以下に示す経路で、下記式(I)-2-303で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-2-303」と略記することがある)を製造した。
【0380】
実施例3の場合と同じ方法で、(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェニル)エチルカルバメートを製造した。
【0381】
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた(RS)-tert-ブチル-2-(tert-ブトキシカルボニルオキシ)-2-(3,4-ジ-2-プロピニルオキシフェニル)エチルカルバメート(61mg、0.15mmol)、及び塩化メチレン(5mL)を添加し、得られた溶液にさらにTFA(0.1mL、0.13mmol)を添加して、得られた混合物を室温下で20時間撹拌して、反応させた。ここで、反応液をNMRで分析したところ、当初の量に対して20モル%のBoc基が取り除かれずに、原料中に残存していることを確認した。そこで、さらにTFA(0.1mL、0.13mmol)を反応液に添加し、室温下で19時間撹拌して、反応させた。ここで、反応液をNMRで分析することにより、Boc基を取り除く脱保護が完了していることを確認した。
次いで、溶媒を減圧留去したところ、チューインガム状の固体が析出したので、これをろ別し、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させることで、(RS)-1-(2-アミノ-1-ヒドロキシエチル)-3,4-ビス(2-プロピニルオキシ)ベンゼントリフルオロ酢酸塩(すなわち、化合物(I)-2-303)を得た(収量20mg(0.056mmol)、収率37%)。
得られた化合物(I)-2-303のNMRデータを以下に示す。
【0382】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ2.86 (t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.88 (t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.90-3.03 (m, 2 H), 4.79 (dd, J = 2.4, 8.0 Hz, 4 H), 4.87 (s, 1 H), 6.73-6.78 (m, 2 H), 6.81-6.84 (m, 1 H).
【0383】
【化51】
【0384】
[実施例5]
<化合物(I)-1-201の製造>
以下に示す経路で、下記式(I)-1-201で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-201」と略記することがある)を製造した。
【0385】
実施例2の場合と同じ方法で、ドーパミン臭化水素酸塩を製造した。
【0386】
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたドーパミン臭化水素酸塩(936mg、4.00mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.4mL、14mmol)、及びアセトニトリル(20mL)を添加し、得られた懸濁液を室温下で撹拌した。
次いで、ここにプロパルギルブロミド(0.64mL、8.0mmol)を添加し、得られた混合物を室温下で1時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液を濃縮し、ここに酢酸エチル及び水を添加した。そして、反応で得られた混合物を酢酸エチルで抽出し、集められた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、粗生成物を得た。
次いで、得られた粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより、精製した。このとき、移動相としては、メタノール(10体積%)/塩化メチレン(90体積%)の混合溶媒を用いて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を減圧留去した。
以上により、N,N-ジプロパルギルドーパミン(すなわち、化合物(I)-1-201)を得た(収量20mg(0.087mmol)、収率2%)。
得られた化合物(I)-1-201のNMRデータを以下に示す。
【0387】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ2.29 (s, 2 H), 2.61-2.69 (m, 2 H), 2.76-2.80 (m, 2 H), 3.495 (s, 2 H), 3.500 (s, 2 H), 5.63 (br, 2 H), 6.56 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 6.69 (s, 1 H), 6.75 (d, J = 2 H).
【0388】
【化52】
【0389】
<<神経機能調節物質の評価>>
上記で得られた化合物(I)-1-102、化合物(I)-1-103を用いて、化合物の神経細胞内への取り込みの有無を評価する、以下に示す試験を行った。なお、本実施例に限らず、以降に示す各化合物の評価時においては、便宜上、各化合物をこの評価に供した当初の状態で特定しており、評価中の各化合物が、この当初の状態のままであるか否かは、定かではない。例えば、各評価に関する記載は、評価に供した当初の状態が塩であった化合物が、必ずしも、評価中も塩であることを意味する訳ではなく、同様に、評価に供した当初の状態が塩ではなかった化合物が、必ずしも、評価中も塩ではないことを意味する訳ではない。
【0390】
[実施例6]
上記で得られた化合物(I)-1-102を人工脳脊髄液に溶解させ、化合物(I)-1-102の溶液を調製した。ここで、人工脳脊髄液とは、126mmol/Lの濃度で塩化ナトリウム(NaCl)を含有し、かつ26mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を含有し、かつ1mmol/Lの濃度でリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)を含有し、かつ10mmol/Lの濃度でデキストロースを含有し、かつ3mmol/Lの濃度で塩化カリウム(KCl)を含有し、かつ1mmol/Lの濃度で塩化マグネシウム(MgCl)を含有し、かつ3mmol/L の濃度で塩化カルシウム(CaCl)を含有する、pH7.3の水溶液である。この溶液の化合物(I)-1-102の濃度は、10μmol/Lとした。
また、上記で得られた化合物(I)-1-103についても、同様に、その濃度が10μmol/Lである溶液を調製した。
マウスの大脳皮質から急性脳スライス(厚さ300μm)を2枚作製し、これを試験片とした。
37℃の化合物(I)-1-102の溶液に、1枚の試験片を30分浸漬した。同様に、37℃の化合物(I)-1-103の溶液に、残りの1枚の試験片を30分浸漬した。
次いで、これら溶液から試験片を取り出し、濃度が4質量%であるパラホルムアルデヒドのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline, PBS)を用いて、試験片を化学固定し、さらに、0.5% Triton X-100溶液を用いて、この試験片を可溶化した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
次いで、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用い、反応後の試験片を観察した。結果を図1A図1C図2A図2Cに示す。図1A図1Cは、化合物(I)-1-102を用いた場合の試験片の撮像データであり、3つの異なる倍率でのデータを示している。図2A図2Cは、化合物(I)-1-103を用いた場合の試験片の撮像データであり、3つの異なる倍率でのデータを示している。
【0391】
図1A図1C図2A図2Cから、化合物(I)-1-102及び化合物(I)-1-103のいずれを用いた場合であっても、大脳皮質を走行する、神経機能調節物質を含有する神経細胞の軸索様の構造が見られた。これは、内在性のドーパミンに類似した物理化学的性質を有する、化合物(I)-1-102及び化合物(I)-1-103が、ドーパミン含有神経細胞中に取り込まれ、小胞に貯蔵されており、この状態でクリック反応によって、アジド基が付加された前記蛍光色素と反応してラベル化され、共焦点顕微鏡によって検出されたことを示していた。
【0392】
[実施例7]
上記で得られた化合物(I)-1-102と、FFN511蛍光色素を、実施例6で用いたものと同じ人工脳脊髄液に溶解させ、化合物(I)-1-102の濃度が10μmol/Lであり、かつ、FFN511蛍光色素の濃度が10μmol/Lである溶液を調製した。また、上記で得られた化合物(I)-1-103と、FFN511蛍光色素を、同様に人工脳脊髄液に溶解させ、化合物(I)-1-103の濃度が10μmol/Lであり、かつ、FFN511蛍光色素の濃度が10μmol/Lである溶液を調製した。
次いで、実施例6の場合と同じ方法で、可溶化した試験片を作製した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 594蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
840nmのフェムト秒超短パルスレーザー(Newport社製MaitaiHP)と顕微鏡(オリンパス社製「FV1000MPE」)を用い、これら2種の試験片を観察した。結果を図3A図3F図4A図4Fに示す。
図3Aは、FFN511蛍光色素のみを検出した場合の試験片の撮像データであり、図3Bは、図3Aの場合と同じ領域で、化合物(I)-1-102のみを検出した場合の試験片の撮像データであり、図3Cは、図3Aの場合と同じ領域で、FFN511蛍光色素と化合物(I)-1-102を同時に検出した場合の試験片の撮像データである。また、図3D図3E及び図3Fは、それぞれ、図3A図3B及び図3Cのデータを5倍に拡大した撮像データである。
図4Aは、FFN511蛍光色素のみを検出した場合の試験片の撮像データであり、図4Bは、図4Aの場合と同じ領域で、化合物(I)-1-103のみを検出した場合の試験片の撮像データであり、図4Cは、図4Aの場合と同じ領域で、FFN511蛍光色素と化合物(I)-1-103を同時に検出した場合の試験片の撮像データである。また、図4D図4E及び図4Fは、それぞれ、図4A図4B及び図4Cのデータを5倍に拡大した撮像データである。
【0393】
図3A及び図3D中には、FFN511蛍光色素による発光が確認された。その発光領域の一部を、丸囲みによって示している。図3A及び図3D中には、他にもFFN511蛍光色素による発光領域が存在していた。図3A及び図3Dから、公知文献で公開されているとおり、FFN511蛍光色素がドーパミン含有神経細胞中に取り込まれていることを確認できた。
また、図3B及び図3E中には、ラベル化された化合物(I)-1-102による発光が確認された。その発光領域の一部を、丸囲みによって示している。図3B及び図3E中には、他にもラベル化された化合物(I)-1-102による発光領域が存在していた。図3B及び図3Eから、化合物(I)-1-102が、ドーパミン含有神経細胞中に取り込まれ、この状態でクリック反応によって、アジド基が付加された前記蛍光色素と反応してラベル化されたことを確認できた。
そして、図3C及び図3Fから、FFN511蛍光色素と、ラベル化された化合物(I)-1-102と、を同時に検出でき、ドーパミン含有神経細胞中で、化合物(I)-1-102は、FFN511蛍光色素と同様の領域か、又は、より神経終末に近い領域に選択的に取り込まれていることを確認できた。
【0394】
化合物(I)-1-103も化合物(I)-1-102と同様の結果を示した。
すなわち、図4A及び図4D中には、FFN511蛍光色素による発光が確認された。その発光領域の一部を、丸囲みによって示している。図4A及び図4D中には、他にもFFN511蛍光色素による発光領域が存在していた。図4A及び図4Dから、公知文献で公開されているとおり、FFN511蛍光色素がドーパミン含有神経細胞中に取り込まれていることを確認できた。
また、図4B及び図4E中には、ラベル化された化合物(I)-1-103による発光が確認された。その発光領域の一部を、丸囲みによって示している。図4B及び図4E中には、他にもラベル化された化合物(I)-1-103による発光領域が存在していた。図4B及び図4Eから、化合物(I)-1-103が、ドーパミン含有神経細胞中に取り込まれ、この状態でクリック反応によって、アジド基が付加された前記蛍光色素と反応してラベル化されたことを確認できた。
そして、図4C及び図4Fから、FFN511蛍光色素と、ラベル化された化合物(I)-1-103と、を同時に検出でき、ドーパミン含有神経細胞中で、化合物(I)-1-103は、FFN511蛍光色素と同様の領域か、又は、より神経終末に近い領域に選択的に取り込まれていることを確認できた。
【0395】
実施例6~7の結果は、化合物(I)-1-102と化合物(I)-1-103が、いずれも、天然由来の神経機能調節物質の場合と同様に、神経細胞中に取り込まれ、さらに、神経細胞中で、種々のアジド基が付加された化合物と反応可能であって、このような化合物として蛍光色素を用いることで、神経細胞中で明瞭に検出できることを示していた。
【0396】
なお、実施例6~7においては、化合物(I)-1-102と、化合物(I)-1-103について、クリック反応により、蛍光色素と反応させてから検出したが、これら化合物は、炭素原子間の三重結合を有している。したがって、これら化合物は、ラマン顕微鏡を用いて、発光ラベルを用いずに直接検出することが可能である。
【0397】
[実施例8]
細胞内のcAMP(サイクリックAMP)の濃度を検出するためのキット(Montana Molecular社製cAMPisキット)を用い、細胞外液として、上記で得られた化合物(I)-1-102を5μMの濃度で含有するものと、上記で得られた化合物(I)-1-103を5μMの濃度で含有するものと、ドーパミンを5μMの濃度で含有するものと、をそれぞれ別々に調製した。
次いで、これら3種の細胞外液中に、試験片として、培養した脳細胞(初代培養アストロサイト)を添加し、実施例6の場合と同じ共焦点顕微鏡を用いて、脳細胞を観察し、さらに、cAMPの存在を示す蛍光シグナルを検出した。このときの結果を、図5A図5B図6A図6B、及び図7A図7Bに示す。図5A図5Bは、化合物(I)-1-102を用いた場合の結果を示し、図6A図6Bは、化合物(I)-1-103を用いた場合の結果を示し、図7A図7Bは、ドーパミンを用いた場合の結果を示す。
【0398】
より具体的には、図5Aは、このとき取得した、脳細胞とその周辺の撮像データであり、図5A中の1、2及び3は、いずれも脳細胞を示す。そして、図5Bは、これら1~3の脳細胞に由来する蛍光シグナルの強度の経時変化を表すグラフである。
図6A図6Bも同様であり、図6Aは、このとき取得した、脳細胞とその周辺の撮像データであり、図6A中の1、2及び3は、いずれも脳細胞を示す。そして、図6Bは、これら1~3の脳細胞に由来する蛍光シグナルの強度の経時変化を表すグラフである。
図7A図7Bも同様であり、図7Aは、このとき取得した、脳細胞とその周辺の撮像データであり、図7A中の1及び2は、いずれも脳細胞を示す。そして、図7Bは、これら1及び2の脳細胞に由来する蛍光シグナルの強度の経時変化を表すグラフである。
なお、図5B図6B及び図7B中、縦軸は、「標準化蛍光強度」を表し、横軸は「時間(秒)」を表す。
【0399】
図5A図5B図6A図6B図7A図7Bから、化合物(I)-1-102を用いた場合と、化合物(I)-1-103を用いた場合と、のいずれにおいても、ドーパミンを用いた場合と同様に、蛍光強度の変化が認められた。すなわち、化合物(I)-1-102及び化合物(I)-1-103のいずれも、ドーパミンと同様に、細胞表面のGタンパク質共役型受容体に結合し、セカンドメッセンジャーであるcAMPの濃度変化をもたらしたこと、換言すると、天然由来のドーパミンと同様の生理活性を有していることを確認できた。
【0400】
<<化合物(I)の製造>>
[実施例9]
<化合物(I)-3-101の製造>
以下に示す経路で、下記式(I)-3-101で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-3-101」と略記することがある)を製造した。
【0401】
(3-ブロモ-4,5-ジメトキシベンズアルデヒドの製造)
雰囲気が窒素ガスで置換された、容量100mLの丸底フラスコ中に、5-ブロモバニリン(10.0g、43.3mmol)、炭酸カリウム(8.97g、64.9mmol)及びDMF(40mL)を添加し、室温下で撹拌した。
次いで、得られた懸濁液に、ヨードメタン(4.04mL、9.22g、64.9mmol)を添加し、得られた混合物を室温下で19時間撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた混合液に対して、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒(30mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を、水(30mL)で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、沈殿物を得た。
次いで、得られた沈殿物をヘキサンで洗浄し、減圧乾燥させた。
以上により、目的物として、3-ブロモ-4,5-ジメトキシベンズアルデヒドを得た(収量9.72g(39.7mmol)、収率92%)。
得られた3-ブロモ-4,5-ジメトキシベンズアルデヒドのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0402】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ2.89 (s, 3 H), 3.24 (s, 3 H), 7.29 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 7.55 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 9.75 (s, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) 56.1, 60.7, 110.0, 117.7, 128.5, 132.9, 151.6, 154.0, 189.7.
HRMS (ESI) calcd for C9H10BrO3 [M + H]+: 244.9808, 246.9787, found: 244.9885, 246.9775; calcd for C9H9BrO3Na [M + Na]+: 266.9627, 268.9607, found: 266.9612, 268.9594.
【0403】
((E)-3-ブロモ-4,5-ジメトキシ-β-ニトロスチレンの製造)
雰囲気が窒素ガスで置換され、ジムロートが装着された容量200mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた3-ブロモ-4,5-ジメトキシベンズアルデヒド(12.0g、49.0mmol)、酢酸アンモニウム(3.80g、49.3mmol)、モレキュラーシーブ3A(6.0g)、ニトロメタン(12mL)及び酢酸(36mL)を添加した。
次いで、得られた混合物を100℃で2時間加熱し、温度が室温になるまで冷却した。
次いで、ろ紙を用いて、モレキュラーシーブ3Aをろ別して取り除いた後、残渣を酢酸エチルで洗浄した。
次いで、溶媒を除去し、得られた固体を少量の酢酸エチルで洗浄し、ろ過して、減圧乾燥させることで、鮮黄色固体として、目的物である(E)-3-ブロモ-4,5-ジメトキシ-β-ニトロスチレンを得た(収量10.2g(35.5mmol)、収率72%)。
得られた(E)-3-ブロモ-4,5-ジメトキシ-β-ニトロスチレンのNMRデータを以下に示す。
【0404】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ3.92 (s, 3 H), 3.93 (s, 3 H), 6.98 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 7.38 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 7.51 (d, J = 13.6 Hz, 1 H), 7.89 (d, j = 13.6 Hz, 1 H).
【0405】
(3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミンの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた(E)-3-ブロモ-4,5-ジメトキシ-β-ニトロスチレン(2.10g、7.29mmol)、亜鉛粉末(5.7g、87.5mmol)及びメタノール(15mL)を添加し、-10℃で撹拌した。
次いで、得られた混合物に、塩酸(濃度12N、15mL)を滴下して、-10℃で6時間撹拌し、反応させた。
ここまでの操作で得られた反応混合物と同じものを、さらにもう一つ調製し、これら2つの反応混合物を混合した。
得られた混合物をろ紙でろ過し、残渣をメタノールで洗浄した。
次いで、得られた溶液を-10℃で再度撹拌し、pHが11となるまで、飽和水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
次いで、得られた反応溶液に対して、水を添加した後、クロロホルムで抽出を行い、抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。
以上により、赤みを帯びた油状物として、目的物である3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミンを定量的収率(3.82g、14.7mmol)で得た。
得られた3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0406】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ2.67 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 2.95 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 3.84 8s, 3 H), 3.86 (s, 3 H), 6.70 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 6.98 (d, J = 2.0 Hz).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) 38.8, 42.9, 55.9, 60.4, 112.2, 117.3, 124.5, 136.7, 144.6, 153.4.
HRMS (ESI) calcd for C10H15BrNO2 [M + H]+: 260.0281, 262.0260, found: 260.0249, 262.0228.
【0407】
(N-トリフルオロアセチル-3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミンの製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られた3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミン(530mg、2.04mmol)、トリフルオロ酢酸エチル(0.27mL、2.24mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.36mL、2.04mmol)及びメタノール(5mL)を添加し、室温下で21時間撹拌した。
次いで、得られた反応液から溶媒を減圧留去し、粗生成物を得た。シリカゲルを充填した管(長さ3cm)の内部に、この粗生成物を添加し、酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒で溶出させた。そして、溶出物から溶媒を除去し、得られた粗生成物を、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。
以上により、白色固体として、目的物であるN-トリフルオロアセチル-3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミンを得た(収量360mg(1.01mmol)、収率50%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.39であった。
得られたN-トリフルオロアセチル-3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0408】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ2.80 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.56 (dd, J = 6.8, 13.6 Hz, 2 H), 3.81 (s, 3 H), 3.84 (s, 3 H), 6.67 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 6.94 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 7.10 (br, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ34.2, 40.8, 55.8, 60.4, 112.1, 115.8 (q, J = 287 Hz), 117.6, 124.5, 135.1, 145.0, 153.7, 157.4 (J = 36.9 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C12H13BrF3NO3Na [M + Na]+: 377.9923, 379.9903, found: 377.9864, 379.9845.
【0409】
(N-トリフルオロアセチル-5-ブロモドーパミンの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-トリフルオロアセチル-3-ブロモ-4,5-ジメトキシフェネチルアミン(1.46g、4.10mmol)及び乾燥塩化メチレン(30mL)を添加し、-10℃で撹拌した。
次いで、得られた溶液に、濃度が1Mである三臭化ホウ素の塩化メチレン溶液(90mL)を滴下し、得られた混合物を室温下で2時間撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液にメタノールを加えて、反応を停止させ、溶媒を減圧留去し、粗生成物を得た。
次いで、得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解させ、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。洗浄後の有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、茶色油状物として、目的物であるN-トリフルオロアセチル-5-ブロモドーパミンを得た(収量1.16g)。
得られたN-トリフルオロアセチル-5-ブロモドーパミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0410】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ2.67 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.48 (dd, J = 6.8, 13.6 Hz, 2 H), 6.64 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 6.77 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 7.31 (br, 1 H).
HRMS (ESI) calcd for C10H9BrF3NO3Na [M + Na]+: 349.9610, 351.9610, found: 349.9566, 351.9555.
【0411】
(N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-ブロモドーパミンの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-トリフルオロアセチル-5-ブロモドーパミン(1.16g、全量)、2,2-ジメトキシプロパン(2.0mL、16.4mmol)、p-トルエンスルホン酸・一水和物(39mg、0.21mmol)及びベンゼン(40mL)を添加した。
次いで、この状態の丸底フラスコを、モレキュラーシーブ4Aを充填した滴下漏斗と接続し、この滴下漏斗をジムロートと接続し、塩化カルシウムを充填した管にこのジムロートを接続した。
次いで、この状態で、丸底フラスコ中の混合物を100℃で20時間撹拌し、この間、モレキュラーシーブ4A中を気化した溶媒が通過するようにした。
次いで、得られた反応液から溶媒を減圧留去し、得られた反応混合物を酢酸エチルに溶解させ、この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。洗浄後の有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を除去することにより、粗生成物を得た。
この粗生成物を、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチル(20体積%)/ヘキサン(80体積%)の混合溶媒を用いて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を除去した。
以上により、目的物として、N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-ブロモドーパミンを得た(収量1.31g(3.56mmol)、2工程合計収率87%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.71であった。
得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-ブロモドーパミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0412】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.71 (s, 6 H), 2.77 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.54 (dd, J = 6.8, 13.6 Hz, 2 H), 6.52 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 6.75 (d, J = 1.6 Hz, 2 H).
HRMS (ESI) calcd for C13H14BrF3NO3 [M + H]+: 368.0104, found: 368.0438.
【0413】
(N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-(2-トリメチルシリルエチニル)ドーパミンの製造)
ジムロートが装着され、火力乾燥された、容量50mLの二口丸底フラスコ中に、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(190mg、0.27mmol)、ヨウ化銅(104mg、0.55mmol)及びトリフェニルホスフィン(69mg、0.26mmol)を添加した。そして、フラスコ内部の雰囲気を吸引してから、フラスコ内部にアルゴンガスを流し込む、という操作を繰り返すことにより、フラスコ内部の雰囲気をアルゴンガスで置換した。
別途、火力乾燥された容量50mLの二口丸底フラスコ中に、上記で得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-ブロモドーパミン(1.00g、2.72mmol)を添加し、ジイソプロピルアミン(20mL)に溶解させた。このジイソプロピルアミンは、水酸化ナトリウム存在下で蒸留した後、モレキュラーシーブ4Aの共存化で保管したものである。
得られたジイソプロピルアミン溶液の全量を、上記のアルゴンガスで置換後の二口丸底フラスコ中に移液し、得られた混合物を室温下で30分撹拌した。
次いで、得られた混合物に、トリメチルシリルアセチレン(0.5mL、3.53mmol)を添加し、これにより得られた混合物を75℃で36時間撹拌した。
次いで、反応液を室温になるまで冷却した後、濃縮して、粗生成物を得た。シリカゲルを充填した管の内部に、この粗生成物を添加し、酢酸エチルで溶出させた。そして、溶出物を減圧濃縮し、得られた混合物を、再度、シリカゲルを充填した管の内部に添加し、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒で溶出させた。そして、この溶出物を、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。
以上により、茶色油状物として、目的物であるN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-(2-トリメチルシリルエチニル)ドーパミンを得た(収量779mg(2.02mmol)、収率74%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.56であった。
得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-(2-トリメチルシリルエチニル)ドーパミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0414】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ0.26 (s, 9 H), 1.70 (s, 6 H), 2.74 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.55 (dd, J = 6.8, 13.2 Hz, 2 H), 6.40 (br, 1 H), 6.52 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 6.68 (d, J = 1.2 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ-0.2 (three trimethylsilyl carbons), 25.9 (two isopropyliden methyl carbons), 34.4, 40.9, 98.7, 98.8, 104.3, 109.0, 115.8 (q, J = 286 Hz), 119.3, 124.7, 130.3, 147.9, 148.0, 157.3 (q, J = 36.4 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C18H23F3NO3Si [M + H]+: 386.1394, found: 386.1353; calcd for C18H22F3NO3SiNa [M + Na]+: 408.1213, found: 408.1164.
【0415】
(N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-エチニルドーパミンの製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-(2-トリメチルシリルエチニル)ドーパミン(136mg、0.353mmol)、炭酸カリウム(10mg、0.071mmol)及びメタノール(2mL)を添加した。
次いで、得られた混合物を室温下で22時間撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止させた。そして、得られた反応液に対して、塩化メチレンで抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、粗生成物を得た。
この粗生成物を、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチル(15体積%)/ヘキサン(85体積%)の混合溶媒を用いて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を除去した。
以上により、茶色油状物として、目的物であるN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-エチニルドーパミンを得た(収量65.0mg(0.207mmol)、収率59%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.48であった。
得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-エチニルドーパミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0416】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.71 (s, 6 H), 2.76 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 3.28 (s, 1 H), 3.56 (dd, J = 6.8, 13.6 Hz, 2 H), 6.57 (d, J = 1.2 Hz, 2 H), 6.70 (d, J = 1.2 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ25.8 (two isopropyliden methyl carbons), 34.4, 40.9, 77.8, 81.2, 103.0, 109.4, 115.8 (q, J = 286 Hz), 119.5, 124.3, 130.7, 148.0, 148.4, 157.3 (q, J = 36.6 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C15H14F3NO3Na [M + Na]+: 336.0818, found: 336.0721.
【0417】
(化合物(I)-3-101の製造)
容量30mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデン-5-エチニルドーパミン(65.0mg、0.207mmol)、濃度が1Mである水酸化リチウム水溶液(0.4mL)及びテトラヒドロフラン(0.9 mL)を添加した。
次いで、得られた混合物を室温下で7時間撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加え、得られた混合液に対して、ジエチルエーテルで抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。
以上により、黄色油状物として、目的物であるO,O’-イソプロピリデン-5-エチニルドーパミン(すなわち、化合物(I)-3-101)を得た(収量40.2mg(0.184mmol)、収率89%)。
得られた化合物(I)-3-101のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0418】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ1.66 (br, 2 H), 1.71 (s, 6 H), 2.62 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 2.91 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 3.27 (s, 1 H), 6.59 (d, J = 1.2 Hz, 1 H), 6.72 (d, J = 1.2 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ25.8 (two isopropyliden methyl carbons), 39.4, 43.3, 78.2, 80.8, 102.6, 109.7, 119.1, 124.4, 132.9, 147.6, 147.7.
HRMS (ESI) calcd for C13H16NO2 [M + H]+: 218.1176, found 218.1179.
【0419】
【化53】
【0420】
[実施例10]
以下に示す経路で、下記式(I)-1-104で表される化合物(本明細書においては、「化合物(I)-1-104」と略記することがある)を製造した。
【0421】
<化合物(I)-1-104の製造>
(N-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-ジメチルドーパミンの製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、N-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミン(220mg、0.672mmol)、トリフルオロ酢酸(26μL、0.336mmol)及び塩化メチレン(3mL)を添加した。N-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-イソプロピリデンドーパミンは、実施例1の場合と同じ方法で製造した。
次いで、得られた混合物を室温下で43時間撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた反応液に対して、塩化メチレンで抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を除去することにより、粗生成物を得た。
この粗生成物を、DMF(3mL)に溶解させ、ここへヨードメタン (0.13mL、2.02mmol)及び炭酸カリウム(280mg、2.02mmol)を添加し、得られた混合物を室温下で24時間撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、得られた反応液に対して、酢酸エチル(50体積%)/ヘキサン(50体積%)の混合溶媒で抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を除去することにより、粗生成物を得た。シリカゲルを充填した管の内部に、この粗生成物を添加し、酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒で溶出させた。そして、溶出物を減圧乾燥させた。
以上により、目的物として、N-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-ジメチルドーパミンを得た(収量190mg(0.603mmol)、収率90%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.31であった。
得られたN-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-ジメチルドーパミンのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0422】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, mixture of rotamers) δ2.28-2.29 (m, 1 H), 2.82 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 3.63-3.68 (m, 2 H), 3.77-3.79 (m, 6 H), 3.89 and 4.17 (rotameric d, J = 2.0 Hz, 2 H), 6.63-6.69 (m, 2 H), 6.72-6.75 (m, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3, mixture of two rotamers) δ32.4 and 32.5, 35.9 and 37.7 (q forδ37.7 peak, J = 4.1 Hz), 48.6 and 48.9 (q forδ48.6 peak, J = 2.1 Hz), 55.60 and 55.65 (two methoxy carbon peaks are overlapping), 73.31 and 73.35, 76.6 and 76.8, 111.2 and 111.3, 111.6 and 111.7, 116.0 and 116.2 (q, J = 292 Hz), 120.5, 129.4 and 130.2, 147.7 and 147.9, 148.9 and 149.0, 156.1 and 156.4 (q, J = 37.0 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C15H17F3NO3 [M + H]+: 316.1155, found: 316.1140; calcd for C15H16F3NO3Na [M + Na]+: 338.0974, found: 338.0960.
【0423】
(化合物(I)-1-104の製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-プロパルギル-N-トリフルオロアセチル-O,O’-ジメチルドーパミン(190mg、0.603mmol)、濃度が1Mである水酸化リチウム水溶液(1.3mL)及びTHF(4mL)を添加した。
次いで、得られた混合物を室温下で12日撹拌し、反応させた。
次いで、得られた反応液を0℃に冷却し、ここに1N塩酸を加えて、反応を停止させた。そして、得られた反応液に対して、塩化メチレンを添加し、水で抽出を行い、水層を塩化メチレンで洗浄した。この洗浄後の水層のpHが11になるまで、この水層に炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、得られた混合物に対して、酢酸エチルで抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を除去することにより、粗生成物を得た。
容量10mLの丸底フラスコ中で、この粗生成物を、ジエチルエーテル(1mL)に溶解させ、ここに、塩化水素を1Mの濃度で含むジエチルエーテル溶液(1mL)を添加した。そして、これにより生じた固体をろ別し、ジエチルエーテルで洗浄して、減圧乾燥させた。
以上により、薄茶色固体として、目的物であるO,O’-ジメチル-N-プロパルギルドーパミン塩酸塩(すなわち、化合物(I)-1-104)を得た(収量98mg(0.383mmol)、収率64%)。
得られた化合物(I)-1-104のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0424】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ2.92 (t, J = 8.0 Hz, 2 H), 3.22 (t, J = 2.8 Hz, 1 H), 3.26-3.28 (m, 2 H), 3.917 (s, 3 H), 3.294 (s, 3 H), 3.92 (d, J = 2.8 Hz, 2 H), 6.79 (dd, J = 2.0, 8.4 Hz, 1 H), 6.87-6.90 (m, 2 H).
13C NMR (100 MHz, CD3OD) δ32.7, 37.4, 49.8, 56.5 (two MeO carbons were overlapping), 74.5, 79.3, 113.4, 113.6, 122.2, 130.1, 149.9, 150.9.
HRMS (ESI) calcd for C13H18NO2 [M + H]+: 220.1332, found: 220.1303.
【0425】
【化54】
【0426】
<<神経機能調節物質の評価>>
[実施例11]
下記7種の化合物を用いて、化合物の神経細胞内への取り込みの有無を評価する、以下に示す試験を行った。
・FFN511
・実施例1で得られた化合物(I)-1-102
・実施例1で得られた化合物(I)-1-103
・実施例10で得られた化合物(I)-1-104
・実施例5で得られた化合物(I)-1-201
・実施例2で得られた化合物(I)-2-301
・実施例9で得られた化合物(I)-3-101
【0427】
すなわち、ラット副腎褐色細胞腫であるPC-12細胞を、通常培地で維持した後、I型コラーゲンでコートしたカバーガラスに播種し、濃度が10ng/mLであるラットβ-NGFを用いて、神経細胞へ分化させた。ここで、通常培地とは、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum)を10質量%の濃度で含有し、かつ、ウマ血清(Horse Serum)を10質量%の濃度で含有し、かつ、ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する、ダルベッコ改変イーグル培地である。
次いで、前記7種の化合物を1種ずつ含有する細胞外液を調製した。ここで、細胞外液とは、125mMの濃度で塩化ナトリウム(NaCl)を含有し、かつ、5mMの濃度で塩化カリウム(KCl)を含有し、かつ、10mMの濃度でデキストロースを含有し、かつ、10mMの濃度でHEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸)を含有し、かつ、1mMの濃度で塩化マグネシウム(MgCl)を含有し、かつ、2mMの濃度で塩化カルシウム(CaCl)を含有する、pH7.3の水溶液である。そして、この細胞外液に、37℃30分、上記で得られた分化後の神経細胞を浸漬した。そして、この浸漬後の神経細胞を化学固定した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488蛍光色素を、この固定後の神経細胞と反応させた。なお、この反応に供した固定後の神経細胞は、前記7種の化合物のうち、FFN511以外の6種の化合物を含有する細胞外液に浸漬したものである。
次いで、反応後の神経細胞と、FFN511を含有する細胞外液に浸漬し、固定した神経細胞(すなわち、未反応の神経細胞)とを、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用いて、10倍、60倍の対物レンズにより観察した。結果を図8A図8Gに示す。図8Aは、FFN511を用いた場合の神経細胞の撮像データであり、図8Bは、化合物(I)-2-301を用いた場合の神経細胞の撮像データであり、図8Cは、化合物(I)-1-201を用いた場合の神経細胞の撮像データであり、図8Dは、化合物(I)-1-103を用いた場合の神経細胞の撮像データであり、図8Eは、化合物(I)-1-102を用いた場合の神経細胞の撮像データであり、図8Fは、化合物(I)-1-104を用いた場合の神経細胞の撮像データであり、図8Gは、化合物(I)-3-101を用いた場合の神経細胞の撮像データである。
【0428】
図8A図8Gから、FFN511以外の6種の化合物がすべて、FFN511と同様に、PC-12細胞から分化した神経細胞中に取り込まれ、この状態でクリック反応によって、アジド基が付加された前記蛍光色素と反応してラベル化され、共焦点顕微鏡によって検出されたことを確認できた。
これら6種の本発明の化合物は、神経細胞中での局在を評価可能であり、特に、化合物(I)-1-102、化合物(I)-1-103、化合物(I)-1-104、及び化合物(I)-3-101は、FFN511の場合と類似の細胞内分布を示すことを確認できた。
【0429】
[実施例12]
上記で得られた化合物(I)-3-101と、FFN511蛍光色素を、実施例6で用いたものと同じ人工脳脊髄液に溶解させ、化合物(I)-3-101の濃度が10μmol/Lであり、かつ、FFN511蛍光色素の濃度が10μmol/Lである溶液を調製した。
次いで、実施例6の場合と同じ方法で、可溶化した試験片を作製した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 594蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
840nmのフェムト秒超短パルスレーザー(Newport社製MaitaiHP)と顕微鏡(オリンパス社製「FV1000MPE」)を用い、この試験片を観察した。結果を図9A図9Fに示す。
図9Aは、FFN511蛍光色素のみを検出した場合の試験片の撮像データであり、図9Bは、図9Aの場合と同じ領域で、化合物(I)-3-101のみを検出した場合の試験片の撮像データであり、図9Cは、図9Aの場合と同じ領域で、FFN511蛍光色素と化合物(I)-3-101を同時に検出した場合の試験片の撮像データである。また、図9D図9E及び図9Fは、それぞれ、図9A図9B及び図9Cのデータを2.5倍に拡大した撮像データである。
【0430】
図9A及び図9D中には、FFN511蛍光色素による発光が確認された。その発光領域の一部を、丸囲みによって示している。図9A及び図9D中には、他にもFFN511蛍光色素による発光領域が存在していた。図9A及び図9Dから、公知文献で公開されているとおり、FFN511蛍光色素がドーパミン含有神経細胞中に取り込まれていることを確認できた。
また、図9B及び図9E中には、ラベル化された化合物(I)-3-101による発光が確認された。その発光領域の一部を、丸囲みによって示している。図9B及び図9E中には、他にもラベル化された化合物(I)-3-101による発光領域が存在していた。図9B及び図9Eから、化合物(I)-3-101が、ドーパミン含有神経細胞中に取り込まれ、この状態でクリック反応によって、アジド基が付加された前記蛍光色素と反応してラベル化されたことを確認できた。
そして、図9C及び図9Fから、FFN511蛍光色素と、ラベル化された化合物(I)-3-101と、を同時に検出でき、ドーパミン含有神経細胞中で、化合物(I)-3-101は、FFN511蛍光色素と同様の領域に、選択的に取り込まれていることを確認できた。
【0431】
本実施例と実施例7との比較から明らかなように、化合物(I)-3-101も、化合物(I)-1-101及び化合物(I)-1-103の場合と同様に、そして、天然由来の神経機能調節物質の場合と同様に、神経細胞中に取り込まれ、さらに、神経細胞中で、種々のアジド基が付加された化合物と反応可能であって、このような化合物として蛍光色素を用いることで、神経細胞中で明瞭に検出できることを示していた。
【0432】
なお、本実施例においても、化合物(I)-3-101について、クリック反応により、蛍光色素と反応させてから検出したが、この化合物は、炭素原子間の三重結合を有している。したがって、この化合物も、ラマン顕微鏡を用いて、発光ラベルを用いずに直接検出することが可能である。
【0433】
<<化合物(II)の製造>>
[実施例13]
以下に示す経路で、下記式(II)-1-101で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-1-101」と略記することがある)を製造した。
【0434】
<化合物(II)-1-101の製造>
(2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチルアミンの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、セロトニン塩酸塩(2.12g、10mmol)、イミダゾール(2.24g、33mmol)、tert-ブチルジメチルクロロシラン(3.32g、22mmol)、及びTHF(50mL)を添加した。
次いで、これらの混合物を室温下で24時間撹拌して、反応させた。
次いで、析出物をろ別し、この析出物を塩化メチレン(20mL)で3回洗浄し、0.5M水酸化ナトリウム(100mL)中で溶解させた。
次いで、得られた水溶液に対して、ジエチルエーテル(30mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を水(30mL)で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
次いで、溶媒を除去することにより、白色個体として、2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチルアミンを得た。
得られた2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチルアミンのNMRデータを以下に示す。
【0435】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ0.18 (s, 6 H), 1.01 (s, 9 H), 2.82-2.92 (m, 4 H), 6.67 (dd, J = 2.0, 8.8 Hz, 1 H), 6.96 (d, J = 2.4 Hz, 1 H), 7.04 (s, 1 H), 7.19 (d, J = 8.8 Hz, 1 H).
【0436】
(N-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドの全量、トリフルオロ酢酸エチル(1.55mL、1.85g、13mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.75mL、1.29g、10mmol)、及びメタノールを添加した。
次いで、これらの混合物を室温下で48時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に水を加えて、反応を停止させた。そして、反応混合物を酢酸エチル(30mL)で3回抽出し、集められた有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
次いで、溶媒を除去した後、析出した固体をヘキサンで洗浄し、減圧乾燥させることにより、白色個体として、N-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドを得た(収量3g(7.76mmol)、収率78%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.4であった。
得られたN-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0437】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ0.21 (s, 6 H), 1.02 (s, 9 H),2 .98 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 3.66 (dd, J = 6.8, 12.8 Hz, 2 H), 6.38 (br, 1 H), 6.79 (dd, J = 2.0, 8.8 Hz, 1 H), 6.98 (dt, J = 2.4, 0.4 Hz, 1 H), 6.99 (d, J = 2.4 Hz, 1 H), 7.22 (d, J = 8.8 Hz, 1 H), 8.00 (br, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ-4.45, 18.2, 24.7, 25.8, 39.9, 107.9, 111.2, 111.4, 111.7, 115.8 (q, J = 292 Hz), 117.3, 123.0, 127.6, 132.0, 149.4, 157.1 (q, J = 37.8 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C18H26F3N2O2Si [M + H]+: 387.1710, found: 387.1724.
【0438】
(N-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1-プロパルギル-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(800mg、2.07mmol)、及び乾燥THF(20mL)を添加した。
次いで、得られた溶液を0℃で撹拌し、ここにリチウムジイソプロピルアミドのTHF溶液(濃度1.5M、1.5mL、リチウムジイソプロピルアミドとして2.25mmol)を添加し、得られた混合物を0℃で1時間撹拌した。ここにプロパルギルブロミド(0.17mL、253mmg、2.13mmol)を添加し、得られた混合物を0℃で撹拌し、さらに室温下で18時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、反応を停止させた。そして、得られた反応液に対して、酢酸エチルで抽出を行い、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させることにより、粗生成物を得た。
次いで、シリカゲルを充填した管の内部に、この粗生成物を添加し、酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒で溶出させた。そして、この溶出物を、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用い、酢酸エチルの濃度を10体積%から30体積%まで増大させて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を除去した。
以上により、淡い白色固体として、目的物であるN-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1-プロパルギル-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドを得た(収量180mg(0.424mmol)、収率20%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.52であった。
得られた化合物(II)-1-101のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0439】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ0.20 (s, 6 H), 1.01 (s, 9 H), 2.39 (dt, J = 0.4, 2.4 Hz, 1 H), 2.96 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 3.63 (dd, J = 6.8, 13.2 Hz, 2 H), 4.77 (d, J = 2.8 Hz, 2 H), 6.50 (br, 1 H), 6.83 (dd, J = 2.0, 8.8 Hz, 1 H), 6.97 (d, J = 2.4 Hz, 1 H), 7.00 (s, 1 H), 7.22 (d, J = 9.2 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ-4.45, 18.1, 24.5, 25.7, 35.7, 39.9, 73.5, 77.6, 108.3, 109.9, 110.6, 115.8 (q, J = 292 Hz), 116.5, 125.8, 128.5, 131.9, 149.5, 157.1 (q, J = 37.3 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C21H27F3N2O2SiNa [M + Na]+: 447.1686, found: 447.1656.
【0440】
(化合物(II)-1-101の製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1-プロパルギル-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(180mg、0.424mmol)、水酸化リチウム水溶液(濃度1M、0.85mL)及びTHF(2.8mL)を添加した。
次いで、得られた混合物を室温下で12時間撹拌し、ここに水(20mL)を添加した。
次いで、得られた反応混合物に対して、クロロホルム(20mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、得られた残留混合物を、メタノール(1mL)中に溶解させた。そして、塩化水素を1Mの濃度で含む0℃のジエチルエーテル溶液(10mL)中へ、上記で得られたメタノール溶液を滴下し、溶媒を除去した後、得られた残留混合物を、再度メタノール(1mL)中に溶解させた。そして、0℃のジエチルエーテル(50mL)中へ、上記で得られたメタノール溶液を滴下し、析出した結晶をろ別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、減圧乾燥させることにより、茶色の結晶として、目的物である1-プロパルギルセロトニン塩酸塩(すなわち、化合物(II)-1-101)を得た(収量30mg(0.12mmol)、収率28%)。
得られた化合物(II)-1-101のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0441】
1H NMR (400 MHz, CD3OD) δ2.76 (dt, J = 1.2, 2.4 Hz, 1 H), 2.80-2.83 (m, 2 H), 2.89-2.93 (m, 2 H), 4.85-4.86 (br, 2 H), 6.74 (dd, J = 2.0, 8.8 Hz, 1 H), 6.93 (d, J = 2.0 Hz, 1 H), 7.04 (s, 1 H), 7.24 (d, J = 8.8 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CD3OD) δ29.4, 36.2, 42.8, 74.0, 79.7, 104.1, 111.2, 112.7, 113.0, 127.3, 130.5, 132.9, 151.8.
HRMS (ESI) calcd for C13H15N2O [M + H]+: 215.1179, found: 215.1165.
【0442】
【化55】
【0443】
[実施例14]
以下に示す経路で、下記式(II)-2-101で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-101」と略記することがある)、及び下記式(II)-2-102で表される化合物(本明細書においては、「化合物(II)-2-102」と略記することがある)を製造した。
【0444】
<化合物(II)-2-101の製造>
(N-2-(1-プロパルギル-5-プロパルギルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-N-プロパルギル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドの製造)
容量100mLの丸底フラスコ中に、78mgのオイル中に浸漬した52mgの水素化ナトリウム(2.17mmol)を加えた。この水素化ナトリウムは、ヘキサン(10mL)で3回洗浄したものである。そして、残留しているヘキサンを減圧留去し、丸底フラスコ内の雰囲気を窒素ガスで置換し、さらに丸底フラスコ中に乾燥DMF(30mL)を加えて,得られた懸濁液を0℃で撹拌した。
先の実施例で得られたN-2-(5-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(800mg、2.07mmol)をDMF(10mL)に溶解させることにより、DMF溶液を調製した。このDMF溶液を、上記で得られた0℃の懸濁液に滴下し、得られた溶液を0℃で30分撹拌し、さらにここに、プロパルギルブロミド(0.17mL、253mmg、2.13mmol)を添加し、得られた混合物を0℃で撹拌し、さらに室温下で6時間撹拌して、反応させた。
次いで、得られた反応液に、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、反応を停止させた。そして、得られた反応液に対して、塩化メチレン(20mL)で3回抽出を行い、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
次いで、この乾燥後の有機層から溶媒を除去し、水を添加して、得られた混合物に対して、ジエチルエーテル(30mL)で3回抽出を行い、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させることにより、粗生成物を得た。
次いで、シリカゲルを充填した管の内部に、この粗生成物を添加し、酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒で溶出させた。そして、この溶出物を、フラッシュクロマトグラフィーにより精製した。このとき、移動相としては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用い、酢酸エチルの濃度を5体積%から20体積%まで増大させて、目的物を分離し、溶出させ、溶出物から溶媒を除去した。
以上により、N-2-(1-プロパルギル-5-プロパルギルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-N-プロパルギル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドを得た(収量70mg(0.181mmol)、収率9%)。
酢酸エチル(30体積%)/ヘキサン(70体積%)の混合溶媒を展開溶媒として用い、得られた目的物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開したところ、Rf値は0.46であった。
得られたN-2-(1-プロパルギル-5-プロパルギルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-N-プロパルギル-2,2,2-トリフルオロアセトアミドのNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0445】
1H NMR (400 MHz, CDCl3 mixture of rotamers) δ2.35 and 2.37 (rotameric t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.39 and 2.41 (rotameric t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.53 (t, J = 2.4 Hz, 1 H), 3.08 (t, J = 8.0 Hz, 2 H), 3.80 (q, J = 8.0 Hz, 2 ), 4.06 and 4.32 (rotameric d, J = 2.0 Hz for δ4.07 peak and J = 2.8 Hz for δ4.32 Hz, 2 H), 4.74 (t, J = 2.4 Hz, 2 H), 4.78 and 4.80 (rotameric d, J = 6.8 Hz, 2 H), 6.98 (dt, J = 9.2, 2.8 Hz, 1 H), 7.04 (d, J = 6.8 Hz, 1 H), 7.14 and 7.22 (rotameric d, J = 2.4 Hz, 1 H), 7.28 and 7.30 (rotameric d, J = 9.2 Hz, 1 H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3 mixture of rotamers) δ22.6 and 24.7, 35.8 and 35.9, 36.2 and 37.9 (q for δ37.9 peak, J = 4.3 Hz), 47.8 and 48.2 (q for δ47.8 peak, J = 3.1 Hz), 56.8 and 56.9, 73.4 and 73.6, 73.6 and 73.7, 75.27 and 75.35, 77.0, 77.6 and 77.7, 79.0 and 79.2, 102.8 and 103.1, 110.4 and 110.5, 110.6 and 111.3, 113.0 and 113.1, 116.2 and 116.4 (q, J = 292 Hz), 126.2, 128.2 and 128.4, 131.9 and 132.0, 152.2 and 152.3, 156.3 and 156.7 (q, J = 37.0 Hz).
HRMS (ESI) calcd for C21H18F3N2O3 [M + H]+: 387.1315, found: 387.1320.
【0446】
(化合物(II)-2-101の製造)
容量50mLの丸底フラスコ中に、上記で得られたN-2-(1-プロパルギル-5-プロパルギルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチル-N-プロパルギル-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(70mg、0.181mmol)、水酸化リチウム水溶液(濃度1M、0.3mL)及びTHF(1mL)を添加した。
次いで、得られた混合物を室温下で12時間撹拌し、ここに水(20mL)を添加した。
次いで、得られた反応混合物に対して、クロロホルム(20mL)で3回抽出を行い、集められた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、目的物であるN-プロパルギル-2-(1-プロパルギル-5-プロパルギルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチルアミン(すなわち、化合物(II)-2-101)を得た(収量30mg(0.103mmol)、収率57%)。
得られた化合物(II)-2-101のNMRデータ、HRMS(ESI)データを以下に示す。
【0447】
1H NMR of neutral compound (400 MHz, CDCl3) δ1.16 (br, 1 H), 2.20 (t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.38 (dd, J = 2.4, 2.8 Hz, 1 H), 2.51 (t, J = 2.4 Hz, 1 H), 2.93 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 3.02 (t, J = 6.8 Hz, 2 H), 3.50 (d, J = 2.4 Hz, 2 H), 4.73 (d, J = 2.4 Hz, 2 H), 4.79 (d, J = 2.4 Hz, 2 H), 6.97 (dd, J = 2.4, 9.2 Hz, 1 H), 7.04 (s, 1 H), 7.17 (d, J = 2.4 Hz, 1 H), 7.28 (d, J = 9.2 Hz, 1 H).
13C NMR of neutral compound (100 MHz, CDCl3) δ25.5, 35.8, 38.1, 48.6, 56.9, 71.3, 73.4, 75.1, 77.8, 79.2, 82.1, 103.4, 110.1, 112.7, 113.0, 126.0, 128.6, 132.0, 151.9.
HRMS (ESI) calcd for C19H18N2ONa [M + Na]+: 313.1311, found: 313.1322.
【0448】
<化合物(II)-2-102の製造>
上記で得られた化合物(II)-2-101を、メタノール中に溶解させ、このメタノール溶液を0℃に冷却し、ここへ、塩化水素を1Mの濃度で含むジエチルエーテル溶液(20mL)を滴下した。
次いで、析出した固体をろ別し、減圧乾燥させることにより、目的物であるN-プロパルギル-2-(1-プロパルギル-5-プロパルギルオキシ-1H-インドール-3-イル)エチルアミン塩酸塩(すなわち、化合物(II)-2-102)を得た(収量20mg)。
得られた化合物(II)-2-102のNMRデータを以下に示す。
【0449】
1H NMR of HCl salt (400 MHz, CD3OD) δ2.84 (t, J = 2.8 Hz, 1 H), 2.92 (t, J = 3.2 Hz, 1 H), 3.13 (t, J = 8.0 Hz, 2 H), 3.23-3.26 (m, 1 H), 3.41 (t, J = 8.0 Hz, 2 H), 3.96 (t, J = 2.4 Hz, 2 H), 4.75-4.76 (m, 2 H), 4.93-4.94 (m, 2 H), 6.95 (dd, J = 2.4, 9.2 Hz, 1 H), 7.19 (d, J = 2.4 Hz, 1 H), 7.23 (s, 1 H), 7.40 (d, J = 9.2 Hz, 1 H).
【0450】
【化56】
【0451】
[実施例15]
化合物(I)-1-103をN27細胞(N27ラットドーパミン産生神経細胞、Merck Millipore社)の培養液に溶解させ、化合物(I)-1-103の溶液を作成した。ここで、N27細胞培養液とは10%FBS(Fetal Bovine Serum)、抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)をPRMI1640基礎培地に加えたものである。この溶液の化合物(I)-1-103の濃度は、50μmol/Lとした。37℃の化合物(I)-1-103の溶液に、カバーガラス上で培養したN27細胞をカバーガラスごと30分浸漬した。
次いで、これら溶液から試験片(カバーガラス)を取り出し、濃度が4質量%であるパラホルムアルデヒドのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline, PBS)を用いて、試験片を化学固定し、さらに、0.5% Triton X-100溶液を用いて、この試験片を可溶化した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488、555、594および647蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
次いで、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用い、反応後の試験片を観察した。結果を図10に示す。
図10は、化合物(I)-1-103を上記4種の蛍光色素により検出したN27細胞の撮像データである。図10Aは、Alexa Fluor 488によりラベル化された化合物(I)-1-103を用いた場合のN27細胞の撮像データであり、図10Bは、Alexa Fluor 555によりラベル化された化合物(I)-1-103を用いた場合のN27細胞の撮像データであり、図10Cは、Alexa Fluor 594によりラベル化された化合物(I)-1-103を用いた場合のN27細胞の撮像データであり、図10Dは、Alexa Fluor 647によりラベル化された化合物(I)-1-103を用いた場合のN27細胞の撮像データである。
【0452】
実施例15の結果から、化合物(I)-1-103が、N27細胞に取り込まれ、これを前記蛍光色素により検出できることが示された。この結果から、任意の蛍光色素により化合物(I)-1-103をラベル化することができ、これを検出できると考えられる。
【0453】
[実施例16]
N27細胞をカバーガラス上で培養し、播種1日後にCellLight RFP-Actin(ThermoFisher社)を用いて遺伝子導入した。更に37℃で2日間培養した。その後、化合物(I)-1-103をN27細胞の培養液に溶解させ、化合物(I)-1-103の溶液を作成した。この溶液の化合物(I)-1-103の濃度は、10μmol/Lとした。37℃の化合物(I)-1-103の溶液に、カバーガラス上で培養したRFP-Actin導入N27細胞をカバーガラスごと30分浸漬した。
次いで、これら溶液から試験片(カバーガラス)を取り出し、濃度が4質量%であるパラホルムアルデヒドのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline, PBS)を用いて、試験片を化学固定し、さらに、0.5% Triton X-100溶液を用いて、この試験片を可溶化した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
次いで、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用い、反応後の試験片を観察した。結果を図11に示す。図11Aは、RFP-Actin導入N27細胞におけるラベル化された化合物(I)-1-103の蛍光の撮像データであり、図11Bは、図11Aと同じ領域におけるRFP-Actinの蛍光の撮像データであり、図11Cは、図11Aの撮像データと図11Bの撮像データとを重ねあわせた撮像データである。
【0454】
実施例16の結果から、ラベル化された化合物(I)-1-103と、蛍光タンパク質等によりラベルされた細胞形態マーカーと、を組み合わせて用いて、これらの局在を解析することができることが示された。
【0455】
[実施例17]
化合物(I)-1-103を人工脳脊髄液に溶解させ、化合物(I)-1-103の溶液を調製した。ここで、人工脳脊髄液とは、126mmol/Lの濃度で塩化ナトリウム(NaCl)を含有し、かつ26mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を含有し、かつ1mmol/Lの濃度でリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)を含有し、かつ10mmol/Lの濃度でデキストロースを含有し、かつ3mmol/Lの濃度で塩化カリウム(KCl)を含有し、かつ1mmol/Lの濃度で塩化マグネシウム(MgCl)を含有し、かつ3mmol/L の濃度で塩化カルシウム(CaCl)を含有する、pH7.3の水溶液である。この溶液の化合物(I)-1-103の濃度は、10μmol/Lとした。
マウスの中脳から急性脳スライス(厚さ300μm)を作製し、これを試験片とした。
37℃の化合物(I)-1-103の溶液に、試験片を30分浸漬した。その後、化合物(I)-1-103を含まない37℃の人工脳脊髄液に30分浸漬した。
次いで、これら溶液から試験片を取り出し、濃度が4質量%であるパラホルムアルデヒドのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline, PBS)を用いて、試験片を化学固定し、さらに、0.5% Triton X-100溶液を用いて、この試験片を可溶化した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
次いで、これをドーパミンを産生・放出する細胞が特異的に有するTyrosine Hydroxylase(チロシン水酸化酵素)を特異的に認識する抗体(抗Tyrosine Hydroxylase抗体、Merck Millipore社)を溶解した抗体溶液と反応させ、更にこの試験片を、Alexa Fluor(登録商標) 555蛍光色素が付加され抗Tyrosine Hydroxylase抗体を認識する抗体溶液と反応させ、細胞が発現するTyrosine Hydroxylaseを蛍光標識した。
次いで、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用い、反応後の試験片を観察した。結果を図12に示す。図12Aは、試験片のラベル化された化合物(I)-1-103の撮像データであり、図12Bは、図12Aと同じ領域における試験片のラベル化された抗Tyrosine Hydroxylase抗体の撮像データであり、図12Cは、図12Aの撮像データと図12Bの撮像データとを重ねあわせた撮像データである。図12D図12E及び図12Fは、それぞれ、図12A図12B及び図12Cのデータを3倍に拡大した撮像データである。
【0456】
実施例17の結果は、脳組織中のドーパミンを産生し放出する中脳の神経細胞におけるTyrosine Hydroxylaseのシグナルが、化合物(I)-1-103のシグナルと一致する部位があることを示している。この結果から、中脳のドーパミン産生神経細胞が化合物(I)-1-103を取り込むことが明らかになった。すなわち、これらの細胞、生体組織において、化合物(I)-1-103はドーパミンのアナログとして認識されていることが明らかになった。また、ラベル化された化合物(I)-1-103は、ドーパミン産生神経細胞を特異的に検出するプローブとして用いることができるを示している。
【0457】
[実施例18]
ラット初代培養大脳皮質アストロサイト(Lonza社)をカバーガラス上で培養し、6日後に解析した。
化合物(I)-1-103をアストロサイト培養液(Lonza社Astrocyte Growth Medium)に溶解させ、化合物(I)-1-103を100μmol/Lの濃度で含有する溶液を作成した。また、化合物(I)-1-103と、細胞外からドーパミンを取り込むドーパミン輸送体を阻害する薬剤であるJHW007(Tocris社)とをアストロサイト培養液に溶解させて、化合物(I)-1-103を100μmol/Lの濃度で含有し、かつ、JHW007を10μmol/Lの濃度で含有する溶液を作成した。次に、カバーガラス上で培養したラット初代培養アストロサイトをカバーガラスごとこれらの溶液に30分浸漬した。
次いで、これら溶液から試験片(カバーガラス)を取り出し、濃度が4質量%であるパラホルムアルデヒドのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline, PBS)を用いて、試験片を化学固定し、さらに、0.5% Triton X-100溶液を用いて、この試験片を可溶化した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
次いで、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用い、反応後の試験片を観察した。結果を図13に示す。図13Aは、ラベル化された化合物(I)-1-103のみを含有する溶液に浸した、アストロサイト細胞におけるラベル化された化合物(I)-1-103の撮像データであり、図13Bは、ラベル化された化合物(I)-1-103と、ドーパミン取込み阻害剤JHW007とを含む溶液に浸した、アストロサイト細胞におけるラベル化された化合物(I)-1-103を撮像したデータである。
【0458】
実施例18の結果は、第一に、化合物(I)-1-103がドーパミンのアナログとして大脳皮質のグリア細胞であるアストロサイトに取り込まれることを示しており、第二に、化合物(I)-1-103の取込みがドーパミン輸送体を介して行われることを示している。また、このように神経細胞におけるドーパミン取込み阻害剤の効果を可視化することができたことから、パーキンソン病やうつ病をはじめとする種々の精神疾患の治療に重要であるドーパミンおよび他の神経調節物質群の取込み阻害剤の評価において、本発明が有用であることが示された。
【0459】
[実施例19]
ラット初代培養線条体神経細胞及び大脳皮質アストロサイト(Lonza社)をカバーガラス上で培養し、それぞれ培養28日、3日後に解析した。
化合物II-1-101を、神経細胞培養液(Lonza社Primary Neuron Growth Medium)及びアストロサイト培養液(Lonza社Astrocyte Growth Medium)に溶解させて、化合物II-1-101を100μmol/Lの濃度で含有する溶液を作製した。次に、カバーガラス上で培養したラット初代培養線条体神経細胞及びアストロサイトをカバーガラスごとこれらの溶液に30分浸漬した。
次いで、これら溶液から試験片(カバーガラス)を取り出し、濃度が4質量%であるパラホルムアルデヒドのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline, PBS)を用いて、試験片を化学固定し、さらに、0.5% Triton X-100溶液を用いて、この試験片を可溶化した。
次いで、Thermo Fisher社のClick-iT反応試薬を用い、銅触媒の存在下で、アジド基が付加されたAlexa Fluor(登録商標) 488蛍光色素を、上記の可溶化した試験片と反応させた。
次いで、共焦点顕微鏡(オリンパス社製「FV1000」)を用い、反応後の試験片を観察した。結果を図14に示す。図14Aは、初代培養線条体神経細胞におけるラベル化された化合物II-1-101の撮像データであり、図14Bは、初代培養アストロサイトにおけるラベル化された化合物II-1-101の撮像データである。
【0460】
実施例19の結果は、化合物II-1-101が線条体神経細胞及びアストロサイトに取り込まれることを示している。化合物II-1-101を利用することで、多くの抗うつ薬の作用であるセロトニンの取込み阻害機能等を評価できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0461】
本発明は、脳内における神経機能調節物質の作用の解析に利用可能である。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13A
図13B
図14A
図14B