(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】自動車用内装布帛、及び自動車用内装布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06P 5/00 20060101AFI20240319BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240319BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20240319BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240319BHJP
D03D 15/54 20210101ALI20240319BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20240319BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20240319BHJP
D06B 11/00 20060101ALI20240319BHJP
D06P 1/16 20060101ALI20240319BHJP
D06P 3/54 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
D06P5/00 108
D03D1/00 Z
D03D15/20 100
D03D15/283
D03D15/54
D04B1/16
D04B21/16
D06B11/00 Z
D06P1/16 Z
D06P3/54 Z
(21)【出願番号】P 2021181304
(22)【出願日】2021-11-05
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】510206039
【氏名又は名称】スミノエ テイジン テクノ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 治朗
(72)【発明者】
【氏名】松田 諭哉
(72)【発明者】
【氏名】米田 万結子
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328590(JP,A)
【文献】特開2013-249564(JP,A)
【文献】特開平08-035183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/00
D03D 1/00
D03D 15/20
D03D 15/283
D03D 15/54
D04B 1/16
D04B 21/16
D06B 11/00
D06P 1/16
D06P 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物又は編物であって、
前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、かつ
前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まず、
前記織物又は前記編物は、ドットを組合せて表現された図が描かれた版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染された
天然繊維調の滲んだ意匠を有することを特徴とする自動車用内装布帛。
【請求項2】
前記織物又は前記編物は表面に、
前記捺染における版の数が1版~5版で、
前記捺染による前記分散染料の滲みによる色相及び/又は濃度に変化が生じてなる意匠を有する請求項1に記載の自動車用内装布帛。
【請求項3】
前記分散染料の滲み率が、1.1~4倍の範囲である請求項1又は2に記載の自動車用内装布帛。
【請求項4】
前記捺染における版の数が2版~4版で、
前記版に描かれた図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに重なる部分がある請求項1~3のいずれか1項に記載の自動車用内装布帛。
【請求項5】
ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物を製織又は編物を製編する製織又は製編工程と、
前記織物又は前記編物を温度75℃~165℃の範囲で湿熱又は乾熱で熱処理する熱処理工程と、
熱処理後の前記織物又は前記編物の表面に、版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染する捺染工程と
捺染後の前記織物又は前記編物を加熱し発色させる発色工程と、
発色後の前記織物又は前記編物を洗浄する洗浄工程と、を含み、
前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、かつ
前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まず、
前記捺染工程における版の数が1版~5版であることを特徴とする
請求項1に記載の自動車用内装布帛の製造方法。
【請求項6】
前記捺染工程における版の数が2版~4版で、かつ
前記版に描かれた図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに重なる部分がある請求項5に記載の自動車用内装布帛の製造方法。
【請求項7】
前記版に描かれた図が、略矩形の集合であるブロック状のドットを組合せて表現された図である請求項5又は6に記載の自動車用内装布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原着糸と捺染(プリント)により加飾された布帛に関し、詳しくは、より自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠の自動車用内装布帛とその製造方法に関する。以後、捺染とプリントは同じ意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
自動車用内装布帛として、一般的に色、柄を付与することで意匠性を高めたものが求められている。布帛に色、柄を付与する技術は、古くから数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には染色性の異なる糸を交編又は交織した後に染色した布帛、異色に染められた2色以上の糸を製編織した布帛や、スペースダイ糸等の多色染めの糸を使用して製編織した布帛があるが、色数の点で不満があったことから、緯糸に少なくとも2色以上の原着糸または先染め糸と、未染色の2種類以上の染色性、光沢または形態の異なる糸を使用し、経糸に緯糸のいずれかの糸と同じ糸または他の糸を使用して製織した後、未染色の糸の染色性に応じた染色を行う多色シートの製造方法によって、種々の色調の異なるシートを得ることができ、光学的な色の干渉効果と物理的な糸同士の隠蔽・透視効果およびこれらの相乗効果によって使用した色数以上の非常に多彩で高度で高尚な意匠効果をもった多色シートが得られる技術が開示されている。
【0004】
同様に多色に関する技術として例えば、特許文献2には一般的には通常のポリエステル糸とカチオン染料可染型ポリエステル糸及びポリアミド糸を用いた布帛を、分散染料、塩基性染料、酸性染料で染め分け多色を表現することが行われているが、この方法では最大3色までしか色の表現ができなかったことから、ポリトリメチレンテレフタレート繊維と先染め(原着、チーズ染色、マフ染色等)ポリエステル繊維とを含む布帛を分散染料で追加染色することで、多色性を発揮し、高度な意匠性を持ち、高尚で商品価値の高い多色布帛を低コストで提供できる技術が開示されている。
【0005】
また、色や柄を鮮明で繊細にする技術としては例えば、特許文献3には多種多様な色柄デザインの創出が可能なことから、紙用のインクジェット方式プリンターによるテキスタイルプリントへの検討が進み、インクジェット染色による高品位な染色図柄の付与を可能とするインクジェット染色用布帛として、布帛素材に羊毛微粒子を付与することで、インクジェット染色における染色濃度の低下や、滲み、色割れ、干渉縞発生を防止し、鮮明かつ繊細で高発色濃度の染色図柄を付与することができる技術が開示されている。
【0006】
一方、特許文献3の技術とは対照的に、ボカシ模様を描出する技術として例えば、特許文献4には布帛に印捺型際の周囲に染料を滲み出させてボカシ模様を描出するボカシ捺染法において、染料が滲み出し易くするために水に配合した界面活性剤やアルコールを配合した水をスプレー等する方法では、滲出程度をコントロールし難く、ボカシ模様の再現性が得られなかったことから、布帛に水溶性糊を印捺する工程と、布帛にグリコールエーテルを配合したグリコールエーテル配合糊を印捺する工程とを含み、水溶性糊と配合糊のいずれか一方に染料を配合し、水溶性糊の印捺箇所と配合糊の印捺箇所の少なくとも一部を重ね合わせ、布帛に付与した染料を加熱して発色させるボカシ捺染法によって、ボカシ模様を効率的に描出し、その再現性を高めることができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-316686号公報
【文献】特開2006-328590号公報
【文献】特開2000-110083号公報
【文献】特開2001-3278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、実施例に記載のように6種類の糸を使用しジャガード織の織物を後染(反染)することで、糸の種類以上の色を感じられる多色シートが得られるものの、未染色の糸の染色性に応じた染料を選択し所望の色に後染(反染)の際に原着糸や先染糸にも染料が染着してしまう。その結果、未染色の糸を染めるための染料が織物全体に染着するため、染料の選定が煩雑になるといった問題があった。さらに、特許文献1に開示の技術は、そもそも多種類の糸(原着糸や先染糸等の着色糸、普通染色性糸、カチオン可染糸、異形断面糸、意匠糸等の未染色糸等)を必要とする傾向がある。そのため、実に多くの種類の糸が必要になってしまうという問題があった。また、非常に多彩で高度で高尚な多色シートが得られ、後染(反染)によりユーザーの要望に応える色相にすることができ、取引上のリスクを少なくすることができるが、後染(反染)工程が必要なことから多くの水資源を利用することは避けられず、環境に配慮した製造工程とは言い難かった。
【0009】
また、特許文献2に開示の技術では、分散染料で追加染色する場合、原着糸または先染め糸への上っかぶりが多く、先染め糸の本来のカラーを活かしきれず、追加染色カラーと同様の色に変色してしまうといった従来技術の懸念を解決し、明確な異色表現、色調の異なる明確な異色差、濃淡差の異色差も加わった異色・多色感に富んだ意匠性の高い多色布帛が得られるものの、ポリエステル繊維のうちポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維が必須であるうえ、液流染色機など多くの水資源を利用するなど、環境に配慮したものとは言い難かった。
【0010】
また、特許文献3に開示の技術では、染色濃度の低下や、滲み、色割れ、干渉縞発生を確実に防止できるインクジェット染色用布帛が得られる。すなわち、布帛素材に羊毛微粒子を付与することで鮮明かつ繊細で高発色濃度、高品位な染色物を得ることができる。そのため、特許文献3に開示の技術は、滲み等による濃淡差や異色感を含むより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠を実現する方法とは異なる染色方法であった。敢えて天然繊維調の質感を表現しようとしてもどこか人工的であるうえ、加工速度が遅いため生産性の点で優れる染色方法とは言い難かった。
【0011】
また、特許文献4に開示の技術では、グリコールエーテル配合糊が印捺型際の周囲へと滲み出すことで周縁がボカシ調になった模様や、周縁の発色度合いが内部や外部と異なる堰止め模様や、顔料による鮮明な印捺模様が複合して立体感に富んだボカシ模様が得られるものの、布帛への浸透性に優れるグリコールエーテル配合糊が必須であり、かつ、滲ませたい染料を含む印捺箇所にグリコールエーテル配合糊を重ねて印捺する必要があった。その結果、積極的に染料を滲み出させたことによる独特の立体感に富んだボカシ捺染法であるため、より自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠を実現する方法とは言い難かった。
【0012】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであり、従来技術に見られる上記の課題を解消し、限られた水資源を節約し工程の削減・生産性の向上も図るために液流染色をはじめ後染(反染)めやインクジェット染色に替えて、原着糸と、捺染により加飾することでより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠の自動車用内装布帛、及び自動車用内装布帛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0014】
[1]ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物又は編物であって、
前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、かつ
前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まず、
前記織物又は前記編物は、ドットを組合せて表現された図が描かれた版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染された滲んだ意匠を有することを特徴とする自動車用内装布帛。
【0015】
[2]前記織物又は前記編物は表面に、
前記捺染における版の数が1版~5版で、
前記捺染による前記分散染料の滲みによる色相及び/又は濃度に変化が生じてなる意匠を有する前項1に記載の自動車用内装布帛。
【0016】
[3]前記分散染料の滲み率が、1.1~4倍の範囲である前項1又は2に記載の自動車用内装布帛。
【0017】
[4]前記捺染における版の数が2版~4版で、
前記版に描かれた図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに重なる部分がある前項1~3のいずれか1項に記載の自動車用内装布帛。
【0018】
[5]ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物を製織又は編物を製編する製織又は製編工程と、
前記織物又は前記編物を温度75℃~165℃の範囲で湿熱又は乾熱で熱処理する熱処理工程と、
熱処理後の前記織物又は前記編物の表面に、版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染する捺染工程と、
捺染後の前記織物又は前記編物を加熱し発色させる発色工程と、
発色後の前記織物又は前記編物を洗浄する洗浄工程と、を含み、
前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、かつ
前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まず、
前記捺染工程における版の数が1版~5版であることを特徴とする自動車用内装布帛の製造方法。
【0019】
[6]前記捺染工程における版の数が2版~4版で、かつ
前記版に描かれた図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに重なる部分がある前項5に記載の自動車用内装布帛の製造方法。
【0020】
[7]前記版に描かれた図が、略矩形の集合であるブロック状のドットを組合せて表現された図である前項5又は6に記載の自動車用内装布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
[1]の発明では、視認できる色数として、捺染糊が捺染された箇所と捺染されていない箇所に加え毛細管現象によって分散染料が滲んだ箇所が生じるため全体の色数も増えてより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。すなわち、前記織物又は前記編物全体の色数を増すための異染性の繊維や、染料を滲ませる薬剤も不要で、前記分散染料が前記ポリエステル繊維を染めるうえに前記原着繊維の色にも混ざり、さらには前記分散染料の滲みもあり、捺染前の前記織物又は前記編物の色数よりも明らかに増加し、自然な多色感の意匠とすることができる。そして、後染(反染)によるものでないため水資源を節約に貢献する自動車用内装布帛と言える。
【0022】
[2]の発明では、分散染料を含有する捺染糊が捺染されて滲みと相俟って色数を1.5~3倍認識することが可能となり、前記捺染による前記分散染料の滲みによる色相及び/又は濃度に変化が生じてなる意匠となり、一層自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。
【0023】
[3]の発明では、全体の色数が十分に増えるので確実に自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。
【0024】
[4]の発明では、滲みばかりでなくより確実に色が混ざりあうことでより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。
【0025】
[5]の発明では、前記織物又は前記編物全体の色数も増すための異染性の繊維や、染料を滲ませる薬剤も不要で、前記分散染料が前記ポリエステル繊維を染めるうえに前記原着繊維の色にも混ざり、さらには前記分散染料の滲みもあり、捺染前の前記織物又は前記編物の色数よりも明らかに増加し、自然な多色感の意匠とすることができる。そして、後染(反染)する必要もないため水資源を節約することができるので、工程の削減・生産性の向上も図れる製造方法となる。
【0026】
[6]の発明では、版同士で互いに重なる部分があるので、滲みばかりでなくより確実に色が混ざりあうことでより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠の自動車用内装布帛を製造することができる。
【0027】
[7]の発明では、矩形の集合であるブロック状のドットを組合せて表現された図であるので、図の際(ぎわ)が多くなることから、微妙に前記原着繊維の色にも色が混ざり、さらには前記分散染料の滲みをさらに自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠の自動車用内装布帛を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る自動車用内装布帛の一実施形態である実施例1の布帛の表面拡大図である。
【
図5】本発明におけるドットの一例についての説明図である。
【
図6】本発明における滲みについての説明図である。
【
図7】本発明に係る自動車用内装布帛の製造方法で用いる版同士の重り(重版)についての説明図(滲みは図示せず)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態について図面を基に詳細に説明する。
図1は本発明に係る自動車用内装布帛の一実施形態である実施例1の布帛の表面拡大図である。また、
図3は実施例1における捺染用の版に描かれたドットを組合せて表現された図である。
【0030】
本発明に係る自動車用内装布帛(例えば
図1)は、ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物又は編物であって、前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、かつ前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まず、前記織物又は前記編物は、ドットを組合せて表現された図(例えば
図3)が描かれた版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染され滲んだ意匠を有することを特徴とする。
【0031】
このような構成を採用することで、視認できる色数として、捺染糊が捺染された箇所と捺染されていない箇所に加え毛細管現象によって分散染料が滲んだ箇所が生じるため全体の色数も増えてより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。すなわち、前記織物又は前記編物全体の色数を増すための異染性の繊維や、染料を滲ませる薬剤も不要で、前記分散染料が前記ポリエステル繊維を染めるうえに前記原着繊維の色にも混ざり、さらには前記分散染料の滲みもあり、捺染前の前記織物又は前記編物の色数よりも明らかに増加し、自然な多色感の意匠とすることができる。このように全体の色数も増えてより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。そして、後染(反染)によるものでないため水資源を節約に貢献する自動車用内装布帛である。
【0032】
ここで、本発明の天然繊維調の質感表現について説明する。化学繊維と天然繊維の質感の違いは、無機的で規則性ある生産安定性を主目的にしている化学繊維と、有機的で不規則な天然繊維の違いであり化学繊維で天然繊維を模倣する上で、不規則性と有機的な表現が必要とされる。不規則性を表現するために、織物又は編物全体で異染性の繊維を用いることで色数を増すことができる。有機的な表現をするために、前記分散染料が前記ポリエステル繊維を染めることに加え前記原着繊維の色にも混ざり、前記分散染料の滲みもあることから、多色感を得ることができ天然繊維調の質感表現となる。すなわち、均質性を求める工業生産による化学繊維に、不規則で不均質な天然繊維の質感を施すために繊維の色数を増やし、かつ分散染料が滲みつつもポリエステル繊維と原着繊維を染めることで色が混ざり合い不均一となり、その結果全体として不均一で多色感のある質感となることから天然繊維調を表現することができる。
【0033】
本発明のポリエステル繊維を含んでなる糸としては、分散染料により染めることのできるポリエステル繊維を含んでいればよく、他の繊維と、例えばエアー交絡することで混繊、カバーリング、撚糸等により含めることができる。
【0034】
本発明の原着繊維を含んでなる糸としては、顔料や染料などを加えたペレットを紡糸用のペレットに混ぜることで着色した繊維を、他の繊維と、例えばエアー交絡することで混繊、カバーリング、撚糸等により含めることができる。
【0035】
本発明の織物又は編物としては、ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物又は編物であって、前記ポリエステル繊維は原着繊維を含まず、かつ前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まない。また、織組織又は編み組織については特に限定されないが、織組織では、例えば平組織、綾組織、朱子組織等を挙げることができ、編み組織では、例えばブリスター組織、タックモック組織、リバーシブル組織、モックロディ組織、デンビー組織、コード組織、アトラス組織等を挙げることができる。いずれの組織においても前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まない糸を織物又は編物の表面から見て視認できるのが好ましい。ここで、染め糸は、公知のチーズ染め、スペースダイ、綛染め等により染められた糸である。
【0036】
前記織物又は前記編物の表面は、前記ポリエステル繊維がブライト、セミダル、フルダルからなる群より選ばれる少なくとも1種が現れ、かつ前記原着繊維が現れるのが好ましい。また、前記織物又は前記編物の表面には、前記ポリエステル繊維がインターレース又は撚糸による隙間があるのが好ましい。
【0037】
本発明において、捺染は公知のフラットスクリーン捺染機やロータリースクリーン捺染機を用いて行えばよく、版の数は1以上であり捺染する色の数に応じて決めればよい。捺染に用いる捺染糊としては、分散染料、増粘剤、水を含み、他に適宜助剤を含んでもよい。また、特に限定されないが6,500mPa・s~8,500mPa・sの範囲に粘度調整されるのが好ましい。7,000mPa・s~8,000mPa・sの範囲がより好ましい。この粘度はB型粘度計で印捺糊(温度25℃)を測定した場合の値である。
【0038】
分散染料は、ポリエステル繊維用であれば特に限定されない。
【0039】
増粘剤は、特に限定されないが、チキソトロピー性の増粘剤として例えば、ダイユータンガム、グアガム、キサンタンガム、ウエラガム、ゼータシーガムを挙げることができる。曳糸性の増粘剤として例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムを挙げることができる。これらの特性の異なる増粘剤を併用してもよい。
【0040】
助剤は、染色スピードを速めたり、染料の染着量を増加させる促染助剤や、染色斑を抑制する均染剤、金属封鎖剤、染色堅牢度増進剤等が挙げられる。
【0041】
本発明において、版に描く図に用いるドットとしては特に限定されないが、円形、三角形、四角形、多角形やこれらを組み合わせた形や矩形の集合であるブロック等を挙げることができる。なかでも、例えば、
図5の(a)、(b)、(c)に示すような矩形の集合であるブロック状のドットが、図の際(ぎわ)が多くなることから好ましい。
【0042】
図6は滲みについての説明図である。
図6に示すようにドット1の周辺に滲み2があり、さらに近くの滲み2同士が重なる滲みの重なり2’がある。本発明において滲んだとは、ドット1を組合せて表現された図が描かれた版を用いて分散染料を含有する捺染糊を織物又は編物に捺染した際、あるいは捺染した後に、前記分散染料が前記版に描かれた図の面積(プリント面積)よりも拡がって繊維が染まることである。
【0043】
また、
図7は版同士の重り(重版)についての説明図(滲みについては図示せず)である。本発明において、版に描かれたドットを組合せて表現された図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに重なる部分とは、例えば
図7に示すように1版目のドット1に2版目のドット1’の一部が重なり、重なる部分3のことである。同様に版の数が2枚を超えた複数の場合、版の順番にかかわらず重なる部分3(重版)である。
【0044】
前記捺染における版の数は1版~5版の範囲が好ましく、1版未満ではそもそも滲むことはなく、5版を超えてしまうと滲みが過剰に重複してしまう恐れがでてくるので、狙いの(意図した)意匠表現が難しくなる恐れがあるので好ましくない。この範囲にすることで、滲み2により相互に色がかぶり、及び/又は前記版の数の色のそれぞれの重なる部分3によって前記捺染による前記分散染料の滲みによる色相及び/又は濃度に変化が生じるとともに原着糸の色とも相俟って一層自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠の自動車用内装布帛とすることができるので好ましい。
【0045】
また、本発明において分散染料の滲み率は、版に描かれたドットを組合せて表現された図に対し前記織物又は前記編物に付着した分散染料の毛細管現象による滲み後の面積比である。すなわち、版に描かれたドットを組合せて表現された図の面積(プリント面積)に対する滲んだ後の面積(プリント面積)の比のことで、1.1倍~4倍の範囲が好ましい。この範囲にすることで、滲みにより有機的な表現が得られることとなり、確実に自然で天然繊維調の質感表現の意匠を備えることができるので好ましい。前記滲み率が1.1倍未満では均一な無機的意匠となる恐れがあり、4倍を超えると過剰に滲みが重複してしまい狙いの(意図した)意匠表現が難しくなる恐れがあるので好ましくない。本発明においては、前記滲み率の算出には、版に描かれたドットを組合せて表現された図の版データの捺染部分の輪郭をその周囲に1ドット拡げた面積を滲み後の面積として用いた。
【0046】
本発明において捺染における版の数としては、2版~4版であるのがより好ましく、前記版に描かれたドットを組合せて表現された図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに図が重なる部分があるので、滲みばかりでなくより確実に色が混ざりあうことでより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠となり、一層自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができるので好ましい。前記版の数が2版未満では版同士で互いに図が重なる部分がなく天然繊維調を強調できない恐れがあり、4版を超えると滲みの重なりが増えてくることから滲みの癖がでてくる恐れがあるので好ましくない。
【0047】
次に、本発明に係る自動車用内装布帛の製造方法について説明する。本発明に係る自動車用内装布帛の製造方法は、ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用いた織物を製織又は編物を製編する製織又は製編工程と、前記織物又は前記編物を温度75℃~165℃の範囲で湿熱又は乾熱で熱処理する熱処理工程と、熱処理後の前記織物又は前記編物の表面に、版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染する捺染工程と、捺染後の前記織物又は前記編物を加熱し発色させる発色工程と、発色後の前記織物又は前記編物を洗浄する洗浄工程と、を含み、前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、かつ前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まず、前記捺染工程における版の数が1版~5版であることを特徴とする。
【0048】
さらに、版同士で互いに重なる部分があるので、滲みばかりでなく一層確実に色が混ざりあうことでより自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠の自動車用内装布帛を製造することができることから、前記捺染工程における版の数が2版~4版で、かつ前記版に描かれた図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに重なる部分があるのが好ましい。
【0049】
(製織又は製編工程)
製織又は製編工程では、織機又は編機は特に限定されず、ポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸を少なくとも用い織物を製織又は編物を製編する。前記ポリエステル繊維は原着繊維を含まず、かつ前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まなければよく、捺染工程で用いる版に描かれる図、印捺糊の色との組合せに応じてポリエステル繊維を含んでなる糸と原着繊維を含んでなる糸等を適宜設定すればよい。
【0050】
前記ポリエステル繊維を含んでなる糸としては、分散染料により染めることのできるポリエステル繊維を含んでいればよく、他の繊維と、例えばエアー交絡することで混繊、カバーリング、撚糸等により含めることができる。
【0051】
前記原着繊維を含んでなる糸としては、顔料や染料などを加えたペレットを紡糸用のペレットに混ぜることで着色した繊維を、他の繊維と、例えばエアー交絡することで混繊、カバーリング、撚糸等により含めることができる。
【0052】
また、織組織又は編み組織については特に限定されないが、織組織では、例えば平組織、綾組織、朱子組織等を挙げることができ、編み組織では、例えばブリスター組織、タックモック組織、リバーシブル組織、モックロディ組織、デンビー組織、コード組織、アトラス組織等を挙げることができる。いずれの組織においても前記ポリエステル繊維が原着繊維を含まず、前記ポリエステル繊維を含んでなる糸が染め糸を含まない糸を織物又は編物の表面から見て視認できるのが好ましい。ここで、染め糸は、公知のチーズ染め、スペースダイ、綛染め等により染められた糸である。
【0053】
前記織物又は前記編物の表面は、前記ポリエステル繊維がブライト、セミダル、フルダルからなる群より選ばれる少なくとも1種が現れ、かつ前記原着繊維が現れるのが好ましい。また、前記織物又は前記編物の表面には、前記ポリエステル繊維がインターレース又は撚糸による隙間があるのが好ましい。
【0054】
(熱処理工程)
熱処理工程では、チャンバー内で湿熱又は乾熱により、温度75℃~165℃の範囲で熱処理を施す。チャンバーは1室であっても複数であってもよいが、複数が好ましい。その際の前記織物又は前記編物を搬送する方式としては、複数のロールに前記織物又は前記編物を吊り下げながらローラを前記織物又は前記編物の進行方向に送ることで前記織物又は前記編物を移動する方法、前記織物又は前記編物をネットコンベアの上に戴せて搬送する方法、前記織物又は前記編物の幅方向の両端をピンに刺して保持し進行方向に送ることで前記織物又は前記編物を移動する方法等を挙げることができる。
【0055】
また、熱処理工程における熱処理時間は加工設備によるが3分~7分の範囲が好ましく、なかでも5分程度が好ましい。処理時間が3分よりも短い場合乾燥不良となり捺染糊が転写しプリント面が乱れてしまう恐れがあり好ましくない。逆に7分を超えても徒に時間を費やすだけで効果がないので好ましくない。
【0056】
(捺染工程)
捺染工程では、前記織物又は前記編物の表面に、版を用いて分散染料を含有する捺染糊を捺染する。捺染工程で用いる版としては、フラットスクリーン、ロータリースクリーンを挙げることができる。捺染工程における版の数は1版~5版である。この範囲内で意図する意匠に基づき捺染する色の数に応じて決めればよい。1版未満ではそもそも滲むことはなく、5版を超えてしまうと滲みが過剰に重複してしまう恐れがでてくるので、狙いの(意図した)意匠表現が難しく天然繊維調とは言い難くなる。版の数を1版~5版にすることで、滲み2により相互に色がかぶり、及び/又は前記版の数の色のそれぞれの重なる部分3によって前記捺染による前記分散染料の滲みによる色相及び/又は濃度に変化が生じるとともに原着糸の色とも相俟って色数が増え、自然な多色感の有機的で不規則な一層自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができる。
【0057】
前記版の数が2版~4版で、かつ前記版に描かれた図の少なくとも一部が、前記版同士で互いに図が重なる部分を設けるのが好ましく、捺染及び捺染による滲みばかりでなくより確実に色が混ざりあうことでより自然で天然繊維調の質感表現を付与することができる。こうして一層自然で天然繊維調の質感表現を備えた意匠とすることができるので好ましい。前記版の数が2版未満では版同士で互いに図が重なる部分がなく天然繊維調を強調できない恐れがあり、4版を超えると滲みの重なりが増えてくることから滲みの癖がでてくる恐れがあるので好ましくない。
【0058】
また、前記版に描かれた図としては、ドットを組合せて表現された図が好ましく、前記ドットとしては特に限定されないが、円形、三角形、四角形、多角形やこれらを組み合わせた形や矩形の集合であるブロック等を挙げることができる。なかでも、例えば、
図5の(a)、(b)、(c)に示すような矩形の集合であるブロック状のドットが、図の際(ぎわ)が多くなることからより好ましい。ブロック状のドットを組合せて表現された図は、図の際(ぎわ)が多くなることから好ましい。すなわち、捺染による滲みが不均一になることから好ましい。
【0059】
捺染工程において捺染糊は、分散染料、増粘剤、水を含み、他に適宜助剤を含んでもよい。また、特に限定されないが6,500mPa・s~8,500mPa・sの範囲に粘度調整されるのが好ましい。7,000mPa・s~8,000mPa・sの範囲がより好ましい。この粘度はB型粘度計で印捺糊(温度25℃)を測定した場合の値である。捺染糊に配合する分散染料としては、ポリエステル繊維用であれば特に限定されない。捺染糊に配合する増粘剤としては、特に限定されないが、チキソトロピー性の増粘剤として例えば、ダイユータンガム、グアガム、キサンタンガム、ウエラガム、ゼータシーガムを挙げることができる。曳糸性の増粘剤として例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムを挙げることができる。これらの特性の異なる増粘剤を両方用いてもよい。捺染糊に配合する助剤としては、染色スピードを速めたり、染料の染着量を増加させる促染助剤や、染色斑を抑制する均染剤、金属封鎖剤、染色堅牢度増進剤等が挙げられる。また、捺染機は特に限定されず、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機等を挙げることができる。いずれも連続で複数の版を備えることができる捺染機が好ましい。
【0060】
(発色工程)
発色工程では、チャンバー内で湿熱温度160℃~190℃の範囲で熱処理を施す。温度をこの範囲にすることで、捺染糊に含まれる分散染料が捺染された部分から次第に移動してポリエステル繊維の非晶質相に入り込みポリエステル繊維に染着する。ここでは、捺染における版の数ごとの捺染糊に含まれる各分散染料、及び/又は分散染料の滲みによる色相及び/又は濃度に変化が生じて染着する。
【0061】
なお、発色工程においても前記織物又は前記編物を搬送する方式としては、前記熱処理工程と同様の方式を採用することができる。また、発色工程における熱処理時間は、3分~10分の範囲が好ましい。3分未満では乾燥不良となり捺染糊が転写しプリント面が乱れてしまう恐れがあり好ましくない。逆に10分を超えても徒に時間を費やすだけでそれに見合った効果がないので好ましくない。また、熱処理工程における熱処理時間は加工設備によるが4分~8分の範囲が好ましく、なかでも7分程度が好ましい。処理時間が3分よりも短い場合乾燥不良となり捺染糊が転写する恐れがあり好ましくない。
【0062】
(洗浄工程)
洗浄工程では、温度20℃~98℃の範囲で捺染糊に配合された分散染料、増粘剤、助剤等余剰分を洗浄する。洗浄工程では、例えば公知のオープンソーパーを用い洗浄すればよい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例のものに特に限定されるものではない。また、表1に使用した糸、版の数(版数)、滲み率等を示し、表2に評価結果を示す。なお、繊度を表すdtexとTは同じ意味で用いている。
【0064】
<実施例1>
ドビー織機により、経糸に167dtex/48f/2のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸、緯糸に1100dtex/288f/1のポリエステルマルチフィラメントカラー原着生糸と、1100dtex/288f/1のポリエステルマルチフィラメントカラー原着生糸と、167dtex/48f/2のポリエステルマルチフィラメント黒原着加工糸を用いて朱子織し、織物表面には計4種類の糸が見える織物を得た。得られた織物を温度135℃で釜リラックス加工処理した後、温度160℃×5分間乾燥した。次に、ロータリー捺染機により、あらかじめ用意したロータリースクリーン1版を用いて捺染糊を乾燥後の織物に捺染した。ダークグレー色の捺染糊を用いた。また、用いたロータリースクリーンの版は、最大ドットサイズが 幅0.19cm×高さ0.03cmのドットにより構成された図(
図3)で、互いに重なる部分(重版)が含まれない柄、すなわち重版面積/プリント面積の百分率は0%であった。続いて、温度120℃×2分間乾燥した後、温度165℃×7分間スチーマーにて発色処理を施した。続いて、連続オープンソーパーで洗浄し、温度160℃×5分間ヒートセットを施して、経糸密度68本/25.4 mm、緯糸密度54本/25.4 mmの自動車用内装布帛を得た(
図1)。得られた自動車用内装布帛は、上述のドットにより構成された図によるプリント面積は布帛面積の2.6%を占めており、滲み後のプリント面積は8.8%であり、滲み率が3.38倍、色数が捺染前の13色が捺染後には28色となり、捺染前の色数から大幅に増加し、より自然で天然繊維調の質感表現を備えていた。なお、パネラ―による官能評価の結果は、「3級」で合格であった。
【0065】
<実施例2>
28ゲージのトリコット編機により、フロント筬に84dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸し、ミドル筬に84dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメント黒原着加工糸を導糸し、ミドル筬に84dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸し、バック筬に84dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメント黒原着加工糸を導糸して、トリコット編地を編成した。得られたトリコット編地を温度135℃で釜リラックス加工処理した後、温度160℃×5分間乾燥した。次に、ロータリー捺染機により、あらかじめ用意したロータリースクリーン3版を用いて捺染糊を乾燥後のトリコット編地に捺染した。1版目はブラック色の捺染糊、2版目はダークグレー色の捺染糊、そして3版目はミドルグレー色の捺染糊を用いた。また、用いたロータリースクリーンの各版は、最大ドットサイズが 幅0.05 cm×高さ0.23cmのドットにより構成された図で、互いに重なる部分(重版)が含まる柄、すなわち重版面積/プリント面積の百分率は2.27%であった。続いて、温度120℃×2分間乾燥した後、温度165℃×7分間スチーマーにて発色処理を施した。続いて、連続オープンソーパーで洗浄し、温度160℃×5分間ヒートセットを施して、密度38ウェル/25.4 mm、54コース/25.4 mm、の自動車用内装布帛を得た。得られた自動車用内装布帛は、上述のドットにより構成された図によるプリント面積は布帛面積の17.6%を占めており、滲み後のプリント面積は51.8%であり、滲み率が2.94倍、色数が捺染前の11色が捺染後には30色となり、捺染前の色数から大幅に増加し、より自然で天然繊維調の質感表現を備えていた。なお、パネラ―による官能評価の結果は、「4級」で合格であった。
【0066】
<実施例3>
28ゲージのトリコット編機により、フロント筬に110dtex/144f/2のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸し、ミドル筬に110dtex/144f/2のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸し、ミドル筬に84dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメント黒原着加工糸を導糸し、バック筬に84dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸して、トリコット編地を編成した。得られたトリコット編地を温度135℃で釜リラックス加工処理した後、温度160℃×5分間乾燥した。次に、ロータリー捺染機により、あらかじめ用意したロータリースクリーン4版を用いて捺染糊を乾燥後のトリコット編地に捺染した。1版目はブラック色の捺染糊、2版目はダークグレー色の捺染糊、3版目はダークグレーベージュ色の捺染糊、そして4版目はミドルグレー色の捺染糊を用いた。また、用いたロータリースクリーンの各版は、最大ドットサイズが 幅0.13 cm×高さ0.2cmのドットにより構成された図で、互いに重なる部分(重版)が含まる柄、すなわち重版面積/プリント面積の百分率は3.56%であった。続いて、温度120℃×2分間乾燥した後、温度165℃×7分間スチーマーにて発色処理を施した。続いて、連続オープンソーパーで洗浄し、温度160℃×5分間ヒートセットを施して、密度35ウェル/25.4 mm、53コース/25.4 mm、の自動車用内装布帛を得た。得られた自動車用内装布帛は、上述のドットにより構成された図によるプリント面積は布帛面積の28.1%を占めており、滲み後のプリント面積は46.1%であり、滲み率が1.64倍、色数が捺染前の15色が捺染後には27色となり、捺染前の色数から大幅に増加し、より自然で天然繊維調の質感表現を備えていた。なお、パネラ―による官能評価の結果は、「3級」で合格であった。
【0067】
<実施例4>
20ゲージのメリヤス編機により、167dtex/144f/2のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸し、110dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメントセミダル加工糸を導糸し、167dtex/36f/1のポリエステルマルチフィラメントブライト加工糸を導糸し、167dtex/48f/1のポリエステルマルチフィラメント黒原着加工糸を導糸して、167dtex/48f/1のポリエステルマルチフィラメントカラー原着加工糸を導糸して、167dtex/48f/1のポリエステルマルチフィラメントカラー原着加工糸を導糸して、メッシュ組織のジャージ編地を編成した。得られたジャージ編地を温度135℃で釜リラックス加工処理した後、温度160℃×5分間乾燥した。次に、ロータリー捺染機により、あらかじめ用意したロータリースクリーン4版を用いて捺染糊を乾燥後のジャージ編地に捺染した。1版目はブラック色の捺染糊、2版目はダークグレー色の捺染糊、3版目はブルーグレー色の捺染糊、そして4版目はグレーベージュ色の捺染糊を用いた。また、用いたロータリースクリーンの各版は、最大ドットサイズが 幅0.28 cm×高さ0.03cmのドットにより構成された図で、互いに重なる部分(重版)が含まる柄、すなわち重版面積/プリント面積の百分率は16.38%であった。続いて、温度120℃×2分間乾燥した後、温度165℃×7分間スチーマーにて発色処理を施した。続いて、連続オープンソーパーで洗浄し、温度160℃×5分間ヒートセットを施して、密度39ウェル/25.4 mm、38コース/25.4 mm、の自動車用内装布帛を得た。得られた自動車用内装布帛は、上述のドットにより構成された図によるプリント面積は布帛面積の34.8%を占めており、滲み後のプリント面積は68.2%であり、滲み率が1.95倍、色数が捺染前の13色が捺染後には24色となり、捺染前の色数から大幅に増加し、より自然で天然繊維調の質感表現を備えていた。なお、パネラ―による官能評価の結果は、「3級」で合格であった。
【0068】
【0069】
<比較例1>
実施例1において、用いたロータリースクリーンの版は、ドットにより構成された図でない(
図4)以外は実施例1と同様にした。また、互いに重なる部分(重版)が含まれない図で重版面積/プリント面積の百分率は0%であった。続いて、温度120℃×2分間乾燥した後、温度165℃×7分間スチーマーにて発色処理を施した。続いて、連続オープンソーパーで洗浄し、温度160℃×5分間ヒートセットを施して、経糸密度68本/25.4 mm、緯糸密度54本/25.4 mmの布帛を得た(
図2)。得られた布帛は、上述の図によるプリント面積は布帛面積の36.9%を占めており、滲み後のプリント面積は39%であり、滲み率が1.06倍、色数が捺染前の13色が捺染後には16色となり、捺染前の色数から増加してはいるものの、より自然で天然繊維調の質感表現を備えているとは言い難かった。なお、パネラ―による官能評価の結果は、「1.5級」で不合格であった。
【0070】
【0071】
上記のようにして得られた各布帛について下記の評価法に基づいて評価した。
【0072】
<色数の算出方法>
色数の算出には、パーソナルコンピュータ(ヒューレットパッカード社製)で動作する画像処理ソフト「AdobePHOTOSHOP(登録商標)ver22.5」(Adobe Systems社)を用い、ロータリースクリーンの版の画像を基に色分解し色彩数を数えた。まず、色をRGBの3原色で数値化(最大255、最小0)し、RGB合計の数値が大きい色から順に区分けした(層別)。すなわち、数値化した値の合計の大きい色から順に、淡色、淡中色、中濃色、濃色の4つの層に分け、捺染の前後での色数を比較した。なお、RGBの各数値が全て255である場合は白、逆にRGBが全て0である場合は黒となる。RGBの数値が近似値(例えば、R150/G150/B149→ライトグレー)になれば無彩色となる。また、RGBの数値の中で、何れかの数値が極端に高い場合(例えば、R238/G183/B73→オレンジ)は有彩色になる。
【0073】
<官能評価方法>
手触りなど生地の質感に影響されないように、1枚の用紙に印刷された実施例~比較例の画像データを目視によって、32人のパネラーが次の判定基準に基づいて評価した。なお、判定「3」以上を合格とした。
(判定基準)
4級:天然繊維調の意匠表現が非常に感じられる。
3級:天然繊維調の意匠表現に感じられる。
2級:天然繊維調の意匠表現があまり感じられない。
1級:天然繊維調の意匠表現とは言い難い。
【0074】
表2から明らかなように、本発明に係る実施例1~4の自動車用内装布帛は、いずれも合格であった。一方比較例1の布帛は不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る自動車用内装布帛は、主にシートやドアに好適に用いられる。また、自動車用内装布帛に天然繊維調の質感表現を備えた意匠を付与する方法として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・ドット(1版目)
1’・・・ドット(2版目)
2・・・滲み
2’・・・滲みの重なり
3・・・図の少なくとも一部が版同士で互いに重なる部分(重版)