(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】センサー表面でアナライト-リガンド結合を測定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240319BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20240319BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N33/543 595
G01N21/41 101
G01N21/17 N
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022130703
(22)【出願日】2022-08-18
(62)【分割の表示】P 2020191572の分割
【原出願日】2015-11-24
【審査請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2014-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,オロフ
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-527365(JP,A)
【文献】特表平10-506190(JP,A)
【文献】Bo. Olsson,Theory and application of diffusion-limited amperometric enzyme electrode detection in flow injection determination of glucose,Anal. Chem.,1986年,Vol.58 No.6,Page.1046-1052
【文献】MYSZKA D G,ANALYSIS OF FIBRIL ELONGATION USING SURFACE PLASMON RESONANCE BIOSENSORS,METHODS IN ENZYMOLOGY,米国,ACADEMIC PRESS,1999年,VOL:309,PAGE(S):386 - 402,http://dx.doi.org/10.1016/S0076-6879(99)09027-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
G01N 21/41
G01N 21/17
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナライトの存在について試料溶液を評価する方法であって、
(a)リガンドをその上に固定化したセンサー表面を準備する工程と;
(b)前記試料溶液を前記センサー表面の上に流す工程と;
(c)前記センサー表面で第1のアナライトと前記リガンドの結合の前記存在または不在を検出する工程を含み;
前記試料溶液と前記固定化されたリガンドの接触時間が
0.1秒以上15秒未満であり;
工程(c)の後、第2の試料溶液を前記表面の上に流してリガンドと
第2のアナライトとの間の前記結合の前記存在または不在を検出することによって、工程(b)および(c)が繰り返され、更に、
前記センサー表面の上に少なくとも1つの前記試料溶液を流し始めてから前記センサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの時間(サイクル時間)が40秒未満であり、
前記センサー表面の上に前記少なくとも1つの試料溶液を流し始めてから前記センサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に再生工程が行われず、
十分に高い密度で前記リガンドが準備されて前記センサー表面を再生する必要性がな
く、
前記リガンドは、タンパク質、酵素、受容体、抗原、ハプテン、ペプチド、及び化学分子の一以上を含む、方法。
【請求項2】
前記接触時間が10秒未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサー表面での検出が、エバネッセント波検知に基づく、又は、
前記センサー表面での検出が、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記
第2のアナライトが、前記第1のアナライトと同じである、又は、前記
第2のアナライトが前記第1のアナライトと異なっている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)および(c)が第3の試料溶液について繰り返される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)および(c)が少なくとも10回繰り返されて少なくとも10のさらなる溶液を評価する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記サイクル時間が15秒未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記センサー表面の上に少なくとも1つの前記試料溶液を流し始めてから前記センサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に、洗浄工程および/またはキャリーオーバー制御注入工程が行われない、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記センサー表面上の前記リガンド密度が最大50000RUである、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(c)が、前記試料溶液中のアナライト濃度を測定することを含む、又は、
工程(c)が、アナライトと前記リガンドのアフィニティを測定することを含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
異なる試料溶液間のアナライト濃度および/またはアナライトアフィニティの違いを測定することを含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記リガンドまたはアナライトが抗体またはそのフラグメントである、又は、
前記方法が、抗体をスクリーニングするために使用される、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー表面で分子結合相互作用を測定する方法、より特に、バイオセンサーを使用してアナライトとリガンドとの間の相互作用を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子間、例えば生体分子間の相互作用をリアルタイムでモニターすることのできる分析用センサーシステムに対する関心はますます高まっている。これらのシステムは光学式バイオセンサーに基づく場合が多く、通常、相互作用分析用センサーまたは生体分子特異的相互作用分析用センサーと呼ばれる。そのようなバイオセンサーシステムの代表は、GEヘルスケアの販売するBIACORE(登録商標)計測器であり、これは試料中の分子と検知表面に固定化された分子構造との相互作用を検出するために表面プラズモン共鳴(SPR)を使用する。試料がセンサー表面の上を通過する時、結合の進行は、相互作用が起こる速度を直接反映する。試料の注入の後、バッファー流が続き、その間は検出器の応答が表面上の複合体の解離速度を反映する。BIACORE(登録商標)システムからの典型的なアウトプットは、分子相互作用の進行を時間とともに表すグラフまたは曲線であり、それには結合相部分と解離相部分が含まれる。この結合曲線は、通常、コンピュータの画面に表示され、しばしば「センサーグラム」と呼ばれる。
【0003】
BIACORE(登録商標)システム(および類似するセンサーシステム)によって、ラベリングを用いずに、そして多くの場合、関与物質を精製せずに、試料中の特定の分子(アナライト)の存在および濃度だけでなく、分子相互作用の結合(会合)および解離の反応速度定数ならびに表面相互作用のアフィニティを含む、さらなる相互作用パラメータもリアルタイムで測定することがこのように可能である。結合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)は、いくつかの異なる試料のアナライト濃度について得られた反応速度データを、微分方程式の形式で相互作用モデルの数学的説明にフィットさせることによって得ることができる。アフィニティ(アフィニティ定数KAまたは解離定数KDとして表示される)は、結合および解離速度定数から計算することができる。また、一連のアナライト濃度について、結合相互作用の結合相の終わりまたはその付近で到達していると推定される平衡状態すなわち定常状態での結合のレベルを測定することを含む、平衡結合分析によってアフィニティ値を測定することも可能である。
【0004】
現在のアプローチでは、この方法論は、高度に反復可能な高品質の応答シグナルを得ようとするものである。これは、高く安定した応答値を得るための長時間の注入または接触時間(30秒超)などのいくつかの時間のかかる処置;障害を避けるための流体素子工学システムの洗浄;流体素子工学の汚染による応答の寄与をモニターするためのキャリーオーバーの制御注入;および、センサー表面をどのサイクルでも同じ開始条件にするための再生、によって達成される。これらの工程は非常に時間を消費し得るので、結果として得られるサイクル時間は、一般に600秒以上に達し得る。そのような長いサイクル時間はかなりの実行時間をもたらし得、1回の実験で複数のアナライト試料を評価する必要がある場合に特にそうである。
【0005】
本発明は、少なくとも一部分、バイオセンサーを使用してアナライトとリガンドとの間の相互作用を評価する現在の方法に関連する問題を克服することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/147915号パンフレット
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、
(a)リガンドをその上に固定化したセンサー表面を準備する工程;
(b)試料溶液をセンサー表面の上に流す工程;および
(c)センサー表面でアナライトとリガンドの結合の存在または不在を検出する工程; を含み、試料溶液と固定化されたリガンドの接触時間が15秒未満である、第1のアナライトの存在について試料溶液を評価する方法が提供される。
【0008】
本願は、アナライトを含む溶液とリガンドの接触時間を著しく低下させる一方で、表面結合リガンドとアナライトの結合に関する有意義かつ反復可能な結合データを提供することができることを実証する。以前に述べたように、長時間の注入または接触時間(一般に30秒超)を用いて確実に高く安定した応答値を得ることは当技術分野で標準的な慣行である。しかし、本発明者らは、接触時間を大幅に(例えば2秒以下に)減らすことにより、有用かつ反復可能な情報がなお生成されることを確認した。この発見は、アナライト分析の分野、例えば、抗体スクリーニングおよびフラグメントスクリーニング(fragment-based screening)を含む創薬の領域において多大な利点をもたらす。特に、接触時間を減らすことで処理量を大幅に向上させることができる。これは、流体素子工学システムの洗浄(障害を避けるために用いられる)、流体素子工学の汚染からの応答の寄与をモニターするためのキャリーオーバーの制御注入、およびセンサー表面をどのサイクルでも同じ開始条件にするための再生などのさらに時間のかかる処置を減らすことによってさらに向上させることができる。例えば、十分に高い密度のリガンドを短い接触時間と組み合わせて使用することにより、そのリガンド密度が十分なアナライト結合を確実にする一方で、いくつかの試料を互いに検出するのに十分な遊離リガンドを提供するので、表面を再生する必要性をなくすことができる。このことは、容量のごく一部だけが各々の結合に使用されるので可能であり、スクリーニングの実行において一般的な数の結合剤に再生は必要でないことを意味する。
【0009】
一実施形態では、接触時間は10秒未満である。さらなる実施形態では、接触時間は5秒未満である。さらなる実施形態では、接触時間は3秒未満である。さらなる実施形態では、接触時間は2秒未満である。
【0010】
さらなる実施形態では、センサー表面での検出は、エバネッセント波検知に基づく。
【0011】
さらなる実施形態では、センサー表面での検出は、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく。
【0012】
さらなる実施形態では、工程(c)の後、第2の試料溶液を表面の上に流してリガンドとさらなるアナライトとの間の結合の存在または不在を検出することによって、工程(b)および(c)が繰り返される。このさらなるアナライトは、第1のアナライトと同じであってよい。あるいは、このさらなるアナライトは、第1のアナライトと異なっていてよい。なおさらなる実施形態では、工程(b)および(c)は、第3の試料溶液について繰り返される。さらなる実施形態では、工程(b)および(c)は、少なくとも10回繰り返されて少なくとも10のさらなる溶液を評価する。
【0013】
さらなる実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの時間(サイクル時間)は、40秒未満である。さらなる実施形態では、サイクル時間は15秒未満である。
【0014】
さらなる実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に、再生工程は行われない。
【0015】
さらなる実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に、洗浄工程および/またはキャリーオーバー制御注入工程は行われない。
【0016】
さらなる実施形態では、センサー表面のリガンド密度は、最大50000RUである。さらなる実施形態では、センサー表面のリガンド密度は、5000RU~15000RUの範囲内である。
【0017】
さらなる実施形態では、工程(c)は、試料溶液中のアナライト濃度を測定することを含む。
【0018】
さらなる実施形態では、工程(c)は、アナライトとリガンドのアフィニティを測定することを含む。
【0019】
さらなる実施形態では、本方法は、異なる試料溶液間のアナライト濃度および/またはアナライトアフィニティの(相対的または絶対的な)違いを測定することを含む。
【0020】
さらなる実施形態では、リガンドまたはアナライトは、抗体またはそのフラグメントである。さらなる実施形態では、本方法は抗体をスクリーニングするために使用される。
【0021】
さらなる実施形態では、本方法は、非特異的な結合剤またはアグリゲーター(aggregators)を同定するためのフラグメントスクリーニングとして使用される。
【0022】
さらなる実施形態では、本方法はフラグメントスクリーニングとして使用されて、リガンドに特異的な結合剤を同定する。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、(a)固定化されたリガンドをその上に有するセンサー表面を準備する工程;(b)試料溶液をセンサー表面の上に流す工程;および(c)センサー表面でアナライトとリガンドの結合の存在または不在を検出する工程を含み;試料溶液と固定化されたリガンドの接触時間が15秒未満であり;かつ、プログラムがコンピュータで実行される方法に従う、センサー表面でのアナライトとリガンドとの間の相互作用を検出するためのセンサー装置を作動させるためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提供される。本方法は、本発明の第1の態様に関して上に記載される実施形態のいずれかに記載される特徴を有することがある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】SPRに基づくバイオセンサーシステムの概略側面図を示す図である。
【
図2】アナライトと固定化されたアナライトの結合剤との間の相互作用について時間に対する検出器の応答を示す代表的なセンサーグラム(sensogram)を示す図である。
【
図3】Biacore T200計測器で実施した実験の結果を示す図であり、2秒の接触時間を使用して様々な濃度のアナライト(β2μ-グロブリン)でリガンド(抗β2μ)の相互作用を実証する。サイクル数に対する注入後の応答を示す。
【
図4】Biacore T200計測器で実施した実験の結果を示す図であり、2秒の接触時間を使用して様々な濃度のアナライト(β2μ-グロブリン)でリガンド(抗β2μ)の相互作用を実証する。
図4は、注入にコマンドが加えられていない場合のサイクル時間と対応するセンサーグラム(sensogram)を示す。
【
図5】各サイクルについて様々な時間で4針システムによって384プレートを実行するのにかかる時間をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上に述べたように、第1の態様において、本発明は、(a)リガンドをその上に固定化したセンサー表面を準備する工程;(b)試料溶液をセンサー表面の上に流す工程;および(c)センサー表面でアナライトとリガンドの結合の存在または不在を検出する工程を含み;試料溶液と固定化されたリガンドの接触時間が15秒未満である、第1のアナライトの存在について試料溶液を評価する方法に関する。一般に、実験的な結合データはセンサーに基づく技術によって得られる。この技術は分子相互作用を研究し、相互作用が進行する時にリアルタイムで結果を表示する。しかし、本発明をより詳しく説明する前に、本発明が使用される一般的状況を説明しよう。
【0026】
別に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者に共通して理解されるものと同じ意味を有する。また、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「この(the)」は、別に記述されない限り複数形への言及も含まれるものとする。
【0027】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照文献は、参照によりその全文が本明細書に援用される。
【0028】
化学センサーまたはバイオセンサーは、一般にラベルフリーの技術に基づき、センサー表面の性質、例えば固定化された層の質量、屈折率、または厚さの変化を検出するものであるが、ある種の標識化に頼るセンサーもある。典型的なセンサー検出技術としては、限定されるものではないが、質量検出法、例えば光学的、熱光学的および圧電性の方法または音波法(例えば、表面弾性波(SAW)法および水晶振動子マイクロバランス(QCM)法を含む)、ならびに電気化学的方法、例えば電位差測定法、導電率測定法、電流測定法、および静電容量/インピーダンス法などが挙げられる。光学的な検出方法に関して、代表的な方法としては、質量表面濃度を検出する方法、例えば外部および内部反射法の両方を含む反射光学的方法などが挙げられ、これらは角分解、波長分解、偏光分解または位相分解することができ、例えば、エバネッセント波偏光解析法およびエバネッセント波分光法(EWS、または内部反射分光法)(これらはいずれも表面プラズモン共鳴(SPR)によるエバネッセント場の増強を含み得る)、ブリュースター角屈折率測定法、バイオレイヤー干渉法(BLI)、臨界角屈折率測定法、漏れ全反射(FTR)、散乱内部全反射(STIR)(散乱増強標識を含み得る)、光導波路センサー;外部反射イメージング、エバネッセント波に基づくイメージング、例えば臨界角分解イメージング、ブリュースター角分解イメージング、SPR角分解イメージングなどがある。さらに、例えば表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、エバネッセント波蛍光分光法(TIRF)および燐光分光法に基づく測光法およびイメージング/顕微鏡法(「それ自体で」または反射法と組み合わせて使用される)、ならびに導波路干渉計、導波路漏れモード分光法、反射干渉分光法(RIfS)、透過干渉法、ホログラフィー分光法、および原子間力顕微鏡(AFR)を挙げることができる。
【0029】
市販のバイオセンサーとしては、スウェーデンウプサラのGEヘルスケアにより製造販売されている上述のBIACORE(登録商標)システム計測器が挙げられる。これは、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づき、結合リガンドと目的のアナライトとの間の表面結合相互作用をリアルタイムでモニターすることを可能にする。この文脈において、「リガンド」は、所与アナライトに対して既知または未知のアフィニティを有する分子であり、表面上に固定化された任意の捕捉または捕集剤を含み、一方「アナライト」はリガンド対する任意の特異的結合パートナーを含む。
【0030】
本発明で使用することのできる典型的なリガンドとしては、限定されるものではないが、タンパク質(例えば、抗体、アフィボディー、またはアプタマー)、酵素、受容体、抗原、ハプテン、ペプチド、または化学分子(例えば、薬物候補またはそのフラグメント)が挙げられる。
【0031】
本発明で使用することのできる典型的なアナライトとしては、限定されるものではないが、タンパク質および糖タンパク質(例えば、抗体またはそのフラグメント、アフィボディー、またはアプタマー)、脂質、炭水化物、酵素、受容体、抗原、ハプテン、ペプチド、または化学分子(例えば、薬物候補またはそのフラグメント、特異的または非特異的な結合剤、キレート剤またはアグリゲーター)が挙げられる。
【0032】
用語「抗体」は、天然または部分的にもしくは完全に合成によって生成された免疫グロブリンをいう。抗体はモノクローナルであってもポリクローナルであってもよく、宿主の免疫化および血清の収集などの当技術分野で周知の技術によって(ポリクローナル)、あるいは連続したハイブリッド細胞株を調製し、分泌タンパク質を収集することによって(モノクローナル)、あるいは、天然抗体の特異的結合に必要なアミノ酸配列を少なくともコードするヌクレオチド配列またはその変異誘発体をクローニングして発現させることによって、作製されてよい。用語「抗体」はまた、抗体の抗原結合部位を含む任意のポリペプチドまたはタンパク質も含む。抗体の抗原結合部位を含む抗体フラグメントとしては、限定されるものではないが、Fab、Fab’、Fab’-SH、scFv、Fv、dAb、Fdなどの分子;ならびにダイアボディーが挙げられる。
【0033】
バイオセンサーシステムで用いる検知表面を生成する方法は、当技術分野で周知である。そのような方法の複数の例が、例えば米国特許第5492840号および米国特許第5242828号に記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0034】
以下の詳細な説明および実施例では、本発明はSPR分光法、およびより特にBIACORE(登録商標)システムの状況において説明されるが、本発明はこの検出方法に限定されないことを理解されたい。むしろ、アナライトと検知表面に固定化されたリガンドの結合を量的に示す検出表面の変化を測定することができるのであれば、アナライトが検知表面に固定化されたリガンドと結合するアフィニティに基づくどんな検出方法を用いてもよい。
【0035】
SPRの現象は周知であるので、特定の条件下で屈折率の異なる2つの媒体の境界面で光が反射するとSPRが生じ、その境界面は金属膜、一般に銀または金で覆われているとだけ述べておこう。BIACORE(登録商標)計測器では、この媒体は試料およびセンサーチップのガラスであり、マイクロ流体流動系によって試料と接触する。金属膜は、チップ表面上の金の薄層である。SPRは、特定の反射角の反射光の強さを低下させる。この反射光の強さが最小となる角は、反射光の対向する側、BIACORE(登録商標)システムでは試料側、の表面に接している屈折率によって異なる。
【0036】
BIACORE(登録商標)システムの略図を
図1に示す。センサーチップ1は、流路5を通るアナライト4(例、抗原)を含む試料の流れに曝される、捕捉分子(リガンド)3(例、抗体)を担持する金膜2を有する。光源7(LED)からの単色のp偏光6は、プリズム8によってガラス/金属境界面9に結びつけられ、そこで光が全反射する。反射光ビーム10の強度は、光学的検出ユニット11(光検出器アレイ)によって検出される。
【0037】
BIACORE(登録商標)計測器の技術的側面およびSPRの現象の詳細な考察は、米国特許第5,313,264号に見出すことができる。バイオセンサー検知表面のマトリックス皮膜についてのより詳細な情報は、例えば、米国特許第5,242,828号および同第5,436,161号に記載されている。さらに、BIACORE(登録商標)計測器に関連して使用されるバイオセンサーチップの技術的側面の詳細な考察は、米国特許第5,492,840号に見出すことができる。
【0038】
試料中の分子がセンサーチップ表面上の捕捉分子と結合すると、表面の濃度と、従って屈折率が変化し、SPR応答が検出される。この応答を相互作用の推移中の時間に対してプロットすると、相互作用の進行の定量的測定が得られる。そのようなプロット、または反応速度もしくは結合曲線(結合等温線)は、通常、センサーグラムと呼ばれ、時には当技術分野で「アフィニティトレース(affinity trace)」または「アフィノグラム(affinogram)」と呼ばれる。BIACORE(登録商標)システムでは、SPR応答値は、共鳴単位(RU)で表される。1RUは、反射光の強度が最小となる角度の0.0001°の変化を表し、これは大部分のタンパク質およびその他の生体分子にはセンサー表面上の約1pg/mm2の濃度の変化に相当する。アナライトを含む試料がセンサー表面に接触する時、センサー表面に結合した捕捉分子(リガンド)は、「結合」と呼ばれる段階でアナライトと相互作用する。この段階は、試料が最初にセンサー表面と接触するようになった時、センサーグラムにRUの増加で示される。逆に、「解離」は、通常、試料の流れが、例えばバッファーの流れに置き換えられた時に起こる。この段階は、アナライトが表面結合リガンドから解離する時に、センサーグラムにRUの低下で経時的に示される。
【0039】
センサーチップ表面での可逆的相互作用の代表的なセンサーグラム(結合曲線)は、
図2に提示され、検知表面は、試料中の結合パートナー、すなわちアナライトと相互作用する、固定化された捕捉分子、すなわちリガンド、例えば抗体を有している。上述のその他の検出原理に基づいてバイオセンサーシステムによって生成された結合曲線は、同様の外見を有することになる。縦軸(y軸)は応答を(ここでは共鳴単位、RUで)示し、横軸(x軸)は時間を(ここでは秒で)示す。最初に、バッファーを検知表面に通過させてセンサーグラムのベースライン応答
Aを得る。試料注入の間、アナライトの結合によるシグナルの増加が観察される。結合曲線のこの部分
Bは、通常「結合相」と呼ばれる。最終的に、結合相の終わりまたはその近くで定常状態条件に達し、共鳴シグナルは
Cで定常に達する(しかし、この状態は常に達成されなくてもよい)。本明細書中で用語「定常状態」は、用語「平衡」と同義的に使用されることに注意すべきである(たとえシステムが平衡状態にない場合でも実際には結合は経時的に一定であり得るので、他の文脈で用語「平衡」は、理想的な相互作用モデルを説明するために留保されていることがある)。試料注入の終わりに、試料をバッファーの連続流に置き換えると、シグナルの低下は、表面からのアナライトの解離、または放出を反映する。結合曲線のこの部分
Dは、通常「解離相」と呼ばれる。この分析は、結合したアナライトを表面から除去することができると同時に、(理想的には)リガンドの活性を維持することのできる溶液をセンサー表面の上に注入する再生工程によって終了する。これはセンサーグラムの部分
Eに示される。しかし、解離が既に完結しているかまたは次の分析までに完結すると予測される場合には、再生を回避することができ、それはリガンドの保存を強化し、作業の数を減らすという利点を有する。バッファーの注入によりベースライン
Aが元に戻り、表面はここで新しい分析の準備が整う。
【0040】
結合相および解離相BおよびDそれぞれのプロフィールから、結合および解離の反応速度に関する情報が得られ、Cの共鳴シグナルの高さはアフィニティを表す(相互作用から生じる応答は表面上の質量濃度の変化に関連している)。表面結合速度、反応速度定数kaおよびkd、アフィニティ定数(結合定数KAおよび解離定数KD)などのパラメータ、およびその他のパラメータを求めるために使用した方法の詳細な説明は、米国特許出願公開第2012/0244637号に開示されている。
【0041】
反応速度およびアフィニティデータを分析するためのソフトウェアは市販されている。従って、例えば、BIACORE(登録商標)計測器によって生成された反応速度およびアフィニティデータの評価は、通常、専用のBIAevaluationソフトウェア(スウェーデン、ウプサラのBiacore ABにより供給される)で、平方残差の和を減らして最小とする最も近接したフィットを与える変数の値を見出すことにより、微分速度方程式および非線形回帰を計算して、反応速度およびアフィニティパラメータをフィットさせる数値積分法を使用して実施される。
【0042】
BIAevaluationソフトウェアで測定した定常状態での結合レベルからアフィニティ定数を求めるには、例えば、以下の:
(i)曲線の定常状態の領域にあるセンサーグラム上の報告地点から定常状態の結合レベル(Req、平衡での応答)を得る工程;
(ii)Cに対するReqのプロットを作製する工程(Cは、溶液中の遊離アナライトの初期またはバルク濃度である);および
(iii)このプロットを一般的な「定常状態のアフィニティ」フィッティングモデルにフィットさせてKA/KDおよびRmaxを得る工程(Rmaxは、アナライトが表面上の全てのリガンドと結合した場合に得られる応答(RU)であり、飽和応答とも呼ばれる)
を伴う。
【0043】
接触時間
本発明の第1の態様によれば、試料溶液と固定化されたリガンドの接触時間は、15秒未満である。用語「接触時間」は当技術分野で周知であり、本明細書において用いられるように、試料溶液がリガンドに結合したセンサー表面のある1つの定点を流れるのにかかる合計時間を意味する。例えば、この時間は、表面の第1の部分が試料溶液と接触する開始時間から、同表面の第1の部分が次のバッファー溶液と接触する停止時間までの時間によって決定することができる。
【0044】
バイオセンサー装置(例えば、限定されるものではないが、BIACORE(登録商標)システムなど)は、ユーザーが好ましい接触時間を設定することが可能である。例えば、特定の接触時間および流速を指定することにより、PCソフトウェアは適切な試料体積を計算することができ、それは次に計測器のソフトウェアによって、指定された流速でその体積を実行することができる。例えば、接触時間を2秒に設定し、流速を60μl/分と設定した場合、試料体積は60/60×2=2μl用いることができた。
【0045】
本願は、アナライトを含む溶液とリガンドの接触時間を著しく低下させる一方で、表面結合リガンドとアナライトの結合に関する有意義な結合データを提供することができることを実証する。以前に述べたように、長時間の注入または接触時間(一般に30秒超)を用いて確実に高く安定した応答値を得ることは当技術分野で標準的な慣行である。しかし、本発明者らは、接触時間を大幅に減らすことにより、有用かつ反復可能な情報がなお生成されることを確認した。例えば、接触時間は、15秒未満、14秒未満、13秒未満、12秒未満、11秒未満、10秒未満、9秒未満、8秒未満、7秒未満、6秒未満、5秒未満、4秒未満、3秒未満、2秒未満、または1秒未満であってよい。接触時間は、15秒~2秒、14秒~2秒、13秒~2秒、12秒~2秒、11秒~2秒、10秒~2秒、9秒~2秒、8秒~2秒、7秒~2秒、6秒~2秒、5秒~2秒、4秒~2秒、3秒~2秒、または約2秒の範囲内であってよい。接触時間は、3秒~0.1秒、3秒~0.2秒、3秒~0.3秒、3秒~0.4秒、3秒~0.5秒、3秒~0.6秒、3秒~0.7秒、3秒~0.8秒、3秒~0.9秒、3秒~1秒の範囲内であってよい。接触時間の下限は、0.1秒、0.2秒、0.3秒、0.4秒、0.5秒、0.6秒、0.7秒、0.8秒、0.9秒、0.1秒、1秒、1.1秒、1.2秒、1.3秒、1.4秒、1.5秒、1.6秒、1.7秒、1.8秒、1.9秒、または2秒であってよい。
【0046】
そのような大幅に短い接触時間を本発明による方法で使用することができるという発見は、アナライト分析の分野、例えば、抗体スクリーニングおよびフラグメントスクリーニングを含む創薬の領域において多大な利点をもたらす(下でより詳細に記載)。例えば、接触時間を減らすことは、より速く結果を導くことができ、サイクル時間を減らすことによって処理量を大幅に高めることができる。
【0047】
さらなる実施形態では、工程(c)の後、第2の試料溶液を表面の上に流してリガンドとさらなるアナライトとの間の結合の存在または不在を検出することによって、工程(b)および(c)が同じ表面の上で繰り返される。このさらなるアナライトは、第1のアナライトと同じであってよい。あるいは、このさらなるアナライトは、第1のアナライトと異なっていてよい。工程(b)および(c)は、次に、第3の試料溶液について繰り返されてよい。さらなる実施形態では、工程(b)および(c)は、少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回(nice)、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回または20回繰り返されて、対応する数のさらなる溶液を評価する。
【0048】
さらなる実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めて(例えば注入して)からセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの時間(サイクル時間)は、40秒未満である。さらなる実施形態では、サイクル時間は30秒未満である。さらなる実施形態では、サイクル時間は20秒未満である。さらなる実施形態では、サイクル時間は15秒未満である。さらなる実施形態では、サイクル時間は10秒未満である。さらなる実施形態では、サイクル時間は、10秒~40秒の範囲内、好ましくは10秒~30秒の範囲内である。
【0049】
さらなる実施形態では、センサー表面の上に各々の試料溶液を流し始めて(例えば注入して)からセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの時間(サイクル時間)は、40秒未満である。さらなる実施形態では、各々のサイクル時間は30秒未満である。さらなる実施形態では、各々のサイクル時間は20秒未満である。さらなる実施形態では、各々のサイクル時間は15秒未満である。さらなる実施形態では、各々のサイクル時間は10秒未満である。さらなる実施形態では、各々のサイクル時間は、10秒~40秒の範囲内、好ましくは10秒~30秒の範囲内である。
【0050】
アナライト溶液間のサイクル時間は、一般にバイオセンサーに基づくアナライト結合技術で用いられる、さらに時間のかかる処置、例えば、流体素子工学システムの洗浄、キャリーオーバー制御および/または再生をなくすことによってさらに減少させることができる。本願の実施例で実証されるように、そのような洗浄、キャリーオーバー制御または再生工程を用いずに、複数のアナライト結合サイクルについて、有用かつ反復可能な結合データが得られた。
【0051】
洗浄工程は、一般に、結合データの障害の一因となり得る、流体素子工学システムに固着したアナライトが確実に残っていないようにするために実行される。
【0052】
キャリーオーバー制御は、一部のアナライトが「粘着性」であって、流体系から洗い落とすことが困難であり得、次の分析サイクルに物質の「キャリーオーバー」を引き起こし得るという事実に対応するために行われる典型的な工程である。これは、試料注入後にバッファーの「キャリーオーバー注入」を常套的に含めることによって検出することができる:「粘着性」化合物からの応答は、このバッファー注入に持ち越されることになる。従って、キャリーオーバー制御注入は、流体素子工学システムの汚染による応答の寄与をモニターすることができる。
【0053】
再生は、新しいサイクルに備えて、リガンドを損なうことなく、分析サイクルの後に表面から結合したアナライトを除去するプロセスである。再生技術は当技術分野で周知であり、用いる具体的な方法は、用いるリガンドおよび/またはアナライト(anlayte)によって異なることがある。カスタム抗体を使用するアッセイ開発には、低いpH(グリシン-HCl、pH1.5~3)での再生が通常効果的である。
【0054】
本発明の一実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に洗浄工程は行われない。
【0055】
一実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に、キャリーオーバー制御注入工程は行われない。
【0056】
一実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に、再生工程は行われない。
【0057】
一実施形態では、センサー表面の上に少なくとも1つの試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に次の連続する試料溶液を流し始めるまでの間に、再生工程は行われず、キャリーオーバー制御とシステム洗浄工程の両方またはいずれか一方も行われない。
【0058】
一実施形態では、センサー表面の上に第1の試料溶液を流し始めてからセンサー表面の上に各々のその次の試料溶液を流し始めるまでの間に、再生工程は行われず、かつ/またはキャリーオーバー制御は行われず、かつ/またはシステム洗浄工程は行われない。
【0059】
短い接触時間を使用し、再生工程を適用しないことは、高密度の固定化されたリガンドを用いることによって、改良することができる。リガンドが高密度であることにより、リガンドと接触することのできるアナライトの量を最大にすることができ、それは接触時間(従って結合に使用できる時間)が短い場合に特に有利であり得、従ってリガンド-アナライト結合の良好なレベルを確保することができる。さらに、高密度のリガンドを短い接触時間と組み合わせて用いることにより、センサー容量(アナライトに利用可能な結合部位)のごくわずかな画分だけが各々のアナライト注入に使用されるので、再生要求が回避される。
【0060】
本発明の一実施形態では、センサー表面のリガンド密度は最大50000RUである。さらなる実施形態では、センサー表面のリガンド密度は、5000RU~15000RUの範囲内である。これらの数は、固定化されたリガンドが抗体である場合に特に好ましい。その他の分子量Xの分子に対する抗体の典型的な凡その分子量を150000g/モルとして、固定化レベルは計算されなければならない:
【0061】
【0062】
しかし、リガンド密度の選択は、アナライト、特にリガンドとアナライトの分子量比にも依存し得る。
【0063】
さらなる実施形態では、工程(c)は、試料溶液中のアナライト濃度を測定することを含む。さらなる実施形態では、工程(c)は、アナライトとリガンドのアフィニティ(例えば結合定数)を測定することを含む。
【0064】
しかし、上記のような短い接触時間および/または短いサイクル時間を使用することは、本発明の方法が、短い期間またはより処理しやすい期間で多数の試料アナライト溶液をリガンドの結合について分析する必要のある方法において、特に有利であることを意味する。このように、ユーザーは、例えば所与試料溶液中のアナライトの存在または不在を迅速に決定することができ、または例えば異なる試料溶液間のアナライト濃度および/またはアナライトアフィニティの定性的または定量的な違いを測定することができる。例えば、応答のレベルを使用して、抗体の相対的なアフィニティおよび/または抗体の濃度に関する結論を引き出すことができる。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、リガンドまたはアナライトは抗体またはそのフラグメントである。例えば、リガンドは抗体であってよく、アナライトは抗体と結合することのできる(または潜在的に結合することができると考えられる)分子であってよい。あるいは、リガンドは標的抗体(例えば抗原)と結合することのできる分子であってよく、アナライト溶液は、リガンドと結合することのできる(またはそれらの結合する能力について試験される予定の)候補抗体を含んでよい。このように、本発明の方法を抗体スクリーニングプログラム(例、一次スクリーニング)で用いて、異なるハイブリドーマ(例えば384ウェルプレートに存在する)を標的抗原(リガンド)と結合する能力について試験することができる。本発明のアッセイにおいて(応答シグナルの上昇によって)結合を示すハイブリドーマは、標的抗原と結合する抗体を産生すると確認することができる。さらに、応答のレベルを使用して、抗体の相対的なアフィニティおよび/または抗体の濃度に関する結論を引き出すことができる。
【0066】
本発明の方法はまた、非特異的な結合剤またはアグリゲーターを同定するためのフラグメントスクリーニングで有利に用いられることもできる。フラグメントに基づく創薬は、例えば標的タンパク質の高アフィニティ結合剤を見出すための強力な方法である。化合物を「フラグメント」と示すための厳しいサイズ要件はないが、この用語は約25未満の重原子、または300Da未満の分子量をもつ有機小分子に習慣的に使用される。しかし、フラグメントスクリーニングを始める前に、予想外の反応をするおそれのあるフラグメントを除去することが重要である。そのような分子が存在すると、スクリーニング結果が不明瞭になるかまたは妨害され得るためである。そのようなスクリーニングは、時に「Clean-Screen」と呼ばれ、フラグメントスクリーニング作戦で推奨される最初の工程である。そのような「予想外の反応をする(misbehaving)」分子としては、非特異的な結合剤、キレート剤またはアグリゲーターを挙げることができる。スクリーニングの前にそのような化合物が全て分かっているというわけではないので、そのような予想外の反応をする分子を選り分けることは難しい仕事であり得る。しかし、本発明の方法を用いると、そのような予想外の反応をする分子のフラグメントライブラリーを効果的に「予備検査」することができる。これらは分子の結合に関連するシグナルをモニターすることによって特定することができる。例えば、そのような分子は、その不必要な結合相互作用に起因するその遅い解離によって特定できる。その後、本発明の方法をさらに使用して最適化されたフラグメントに基づくライブラリーをスクリーニングしてよい。
【0067】
本発明の第2の態様によれば、(a)固定化されたリガンドをその上に有するセンサー表面を準備する工程;(b)試料溶液をセンサー表面の上に流す工程;および(c)センサー表面でアナライトとリガンドの結合の存在または不在を検出する工程を含み;試料溶液と固定化されたリガンドの接触時間が15秒未満であり;かつ、プログラムがコンピュータで実行される方法に従う、センサー表面でのアナライトとリガンドとの間の相互作用を検出するためのセンサー装置を作動させるためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提供される。本方法は、本発明の第1の態様に関して上に記載される実施形態のいずれかに記載される特徴を有することがある。
【0068】
以下の限定されない例に関して、本発明が説明される。
【0069】
[実施例]
超高処理量バイオセンサー
1.GEヘルスケア製のリガンド、抗β2μを10mM酢酸塩pH5.0で1mg/mlの原液から30μg/mlに希釈した。
【0070】
2.GEヘルスケア製アミンカップリングキットの試薬を使用してBiacore T200システムの予めプログラムされた設定によって、リガンドをセンサーチップCM7とアミンカップリングさせた。リガンド溶液を7分間注入し、43319RUの固定化レベルを得た。ランニングバッファー:GEヘルスケア製HBS-EP+。
【0071】
3.GEヘルスケア製アナライト、β2μストックをランニングバッファーで100μg/mlから1600ng/mlに希釈した後、さらに800、400、200および100ng/mlに希釈した。
【0072】
4.各々のアナライト濃度を、低濃度から高濃度まで、流速60μl/分で2秒の接触時間で10回注入した。異なる濃度間で、GEヘルスケア製10mMグリシンpH2.5を30秒注入することによってチップを再生した。
【0073】
上記の実験の結果は
図3および
図4に示される。これらの図面は、2秒の注入時間が、試料中のタンパク質結合剤を少なくとも100ng/mlまで検出するのに十分であることを実証する。
【0074】
図3は、サイクル数に対する注入後の応答を示し、各々の濃度のアナライトの複数のサイクルにわたって応答が再現可能であること、および相対応答がアナライトの濃度の増加を反映することを実証する。
図4は、注入にコマンドが加えられていない場合のサイクル時間と対応するセンサーグラム(sensogram)を示す。データは、極めて短い接触時間で非常に有用かつ反復可能な情報を生成することができることを実証する。
【0075】
図5は、所与サイクルを様々な時間で計算した4針システムによる384ウェルプレートでの総実験時間を示す情報プロットである。接触時間を2秒しか用いず、全てのその他のコマンドを使用しない場合、サンプリング時間は大幅に低下させることができる。例えば、12秒のサイクル時間は、4針システムで20分(96×12秒)で384プレートを実行することを可能にする。
【符号の説明】
【0076】
1 センサーチップ
2 金膜
3 捕捉分子(リガンド)
4 アナライト
5 流路
6 p偏光
7 光源
8 プリズム
9 ガラス/金属境界面
10 反射光ビーム
11 光学的検出ユニット