(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】水硬性組成物用添加剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/34 20060101AFI20240319BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240319BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20240319BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20240319BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240319BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20240319BHJP
C08G 65/26 20060101ALI20240319BHJP
C04B 103/30 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C04B24/34
C04B24/26 E
C04B24/18 Z
C04B24/18 B
C04B28/04
C08L71/02
C08L97/00
C08G65/26
C04B103:30
(21)【出願番号】P 2023077623
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2021569610の分割
【原出願日】2020-01-06
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
(72)【発明者】
【氏名】古田 章宏
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-219052(JP,A)
【文献】特開2001-002457(JP,A)
【文献】特表2002-522349(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104591580(CN,A)
【文献】特開2012-224519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性結合材を含有する水硬性組成物に添加され、前記水硬性結合材100質量部当たり、0.00001~0.1質量部の割合で配合されるものであり、
下記一般式(1)で表される化合物及び分散剤を含有し、
前記分散剤が、リグニンスルホン酸系分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、水硬性組成物のポンプ圧送性を改善するために用いる水硬性組成物用添加剤。
【化1】
(但し、一般式(1)中、R
1は、ロジンのアシル残基又は水素原子を示し(但し、nが1の場合、R
1はロジンのアシル残基を示し、nが2以上の場合、R
1のうち、少なくとも1つはロジンのアシル残基を示す)、R
2は、水素原子、ロジンのアシル残基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数3~20の多価アルコールから水酸基を除いた残基、炭素数1~20のアシル基又は炭素数2~20の多価カルボン酸のアシル残基を示し(但し、R
1の少なくとも一つが水素原子を示す場合、R
2は、水素原子以外の置換基を示す)、AOは、炭素数2~18のオキシアルキレン基を示し、
mは1~200の数であって、nは1~20の数であって、かつ、前記m、nが、m×n=1~200となる関係を満たす数であり、AOの内、炭素数2のオキシアルキレン基が50モル%以上である。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のAOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基である、請求項1に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項3】
前記一般式(1)中のAOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基である、請求項1または2に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項4】
前記一般式(1)中のnは、1~6の数であって、かつ、前記m、nが、m×n=1~150となる関係を満たす数である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項5】
前記一般式(1)中のR
2は、水素原子、ロジンのアシル残基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~5のアルケニル基、又は、炭素数3~6の多価アルコールから水酸基を除いた残基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項6】
前記ロジンが天然ロジンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項7】
前記天然ロジンがガムロジンである、請求項6に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項8】
前記一般式(1)中の前記AOの内、炭素数2のオキシアルキレン基が90モル%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項9】
前記一般式(1)中の前記m、nが、m×n=10~100となる関係を満たす数である、請求項1~8のいずれか一項に記載の水硬性組成物用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤に関する。更に詳しくは、水硬性組成物のポンプ圧送性を改善する水硬性組成物用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等の水硬性組成物は、土木用、建築用として広範囲に使用されている。このような水硬性組成物は、使用に際し、セメント、水、細骨材、粗骨材及び混和剤等を混合攪拌し、水硬性組成物混練物として調製される。
【0003】
施工現場において、調製された水硬性組成物混練物を打設位置まで搬送する方法としては、コンクリートポンプを使用して圧送する方法が採用されている。この方法は、打設位置とコンクリートポンプとの間に輸送管を配置して水硬性組成物混練物の流路を形成し、輸送管内の水硬性組成物混練物をコンクリートポンプから生み出される圧力によって打設位置まで圧送するものである。
【0004】
しかしながら、コンクリートポンプを使用して圧送する方法では、輸送管内において、水硬性組成物混練物と輸送管表面の抵抗が大きくなり、吐出不良や輸送管内での詰まりが生じることがあった。
【0005】
従来、コンクリートポンプを使用して水硬性組成物混練物を圧送する際、上記のような吐出不良や輸送管内での詰まりを防止してポンプ圧送性を改善するため、リグニンスルホン酸塩系AE減水剤とアミノスルホン酸樹脂とが配合された混和剤を水硬性組成物に配合することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、ポンプ圧送が困難であるとされている軽量骨材を使用したコンクリートの圧送においては、バイオガム系増粘剤を使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-81248号公報
【文献】特開2000-327393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される混和剤を使用すると、ポンプ圧送性はある程度改善される。しかしながら、この混和剤に配合されたリグニンスルホン酸塩系AE減水剤とアミノスルホン酸樹脂は、いずれも、セメント用減水剤として使用されるものであるので、対象とするコンクリートによってはスランプを調整しづらいといった問題がある。
【0008】
また、特許文献2に示されるコンクリート混和剤は、軽量骨材を使用したコンクリートにバイオガム系増粘剤を添加して粘性を高めることにより、ポンプ圧送を可能にしている。しかし、土木工事で想定される相当の長距離での圧送が必要な場合、ある程度まで粘性を高める必要があるが、粘性を高めたことによりポンプ圧送性が低下するといった問題がある。また、増粘剤は、対象とする材料によっては、敏感に効果の程度が変動するため、その調整が容易ではない。つまり、少しでも最適量より過剰に添加すると逆にポンプ圧送性が低下する。更に、増粘剤はそのハンドリングが煩わしく作業性に劣るという問題がある。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明の水硬性組成物用添加剤は、コンクリートポンプによる圧送時におけるポンプ圧送性を向上させることができ、少量で高い効果を得ることができ、また、水硬性組成物のスランプと空気量に影響を与えない水硬性組成物用添加剤の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のロジンポリオキシアルキレン付加物を含有する水硬性組成物用添加剤が特に好適であることを見出した。本発明によれば、以下の水硬性組成物用添加剤が提供される。
【0011】
[1] 水硬性結合材を含有する水硬性組成物に添加され、前記水硬性結合材100質量部当たり、0.00001~0.1質量部の割合で配合されるものであり、
下記一般式(1)で表される化合物及び分散剤を含有し、
前記分散剤が、リグニンスルホン酸系分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、水硬性組成物のポンプ圧送性を改善するために用いる水硬性組成物用添加剤。
【0012】
【化1】
(但し、一般式(1)中、R
1は、ロジンのアシル残基又は水素原子を示し(但し、nが1の場合、R
1はロジンのアシル残基を示し、nが2以上の場合、R
1のうち、少なくとも1つはロジンのアシル残基を示す)、R
2は、水素原子、ロジンのアシル残基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数3~20の多価アルコールから水酸基を除いた残基、炭素数1~20のアシル基又は炭素数2~20の多価カルボン酸のアシル残基を示し(但し、R
1の少なくとも一つが水素原子を示す場合、R
2は、水素原子以外の置換基を示す)、AOは、炭素数2~18のオキシアルキレン基を示し、
mは1~200の数であって、nは1~20の数であって、かつ、前記m、nが、m×n=1~200となる関係を満たす数であり、AOの内、炭素数2のオキシアルキレン基が50モル%以上である。)
【0013】
[2] 前記一般式(1)中のAOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基である、前記[1]に記載の水硬性組成物用添加剤。
【0014】
[3] 前記一般式(1)中のAOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基である、前記[1]または[2]に記載の水硬性組成物用添加剤。
【0015】
[4] 前記一般式(1)中のnは、1~6の数であって、かつ、前記m、nが、m×n=1~150となる関係を満たす数である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の水硬性組成物用添加剤。
【0016】
[5] 前記一般式(1)中のR2は、水素原子、ロジンのアシル残基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~5のアルケニル基、又は、炭素数3~6の多価アルコールから水酸基を除いた残基である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の水硬性組成物用添加剤。
【0017】
[6] 前記ロジンが天然ロジンである、前記[1]~[5]のいずれかに記載の水硬性組成物用添加剤。
【0018】
[7] 前記天然ロジンがガムロジンである、前記[6]に記載の水硬性組成物用添加剤。
【0019】
[8] 前記一般式(1)中の前記AOの内、炭素数2のオキシアルキレン基が90モル%以上である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の水硬性組成物用添加剤。
【0020】
[9] 前記一般式(1)中の前記m、nが、m×n=10~100となる関係を満たす数である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の水硬性組成物用添加剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水硬性組成物用添加剤によれば、コンクリートポンプによる圧送時におけるポンプ圧送性を向上させることができ、少量で高い効果を得ることができ(即ち、少ない添加量でポンプ圧送性を向上させることができ)、また、水硬性組成物のスランプと空気量に影響を与えないという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【0023】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する。この化合物は、ロジンポリオキシアルキレン付加物とも称される。
【0024】
【0025】
一般式(1)中のR1は、ロジンのアシル残基又は水素原子である。ここで、ロジンとは、樹脂酸(ロジン酸)と称されるジテルペン酸系化合物をいう。このようなロジンとして、例えば、天然ロジン、変性ロジン、重合ロジンなどが挙げられる。
【0026】
天然ロジンは、マツ科植物から得られる樹脂油から、精油等の揮発性物質を留去した残留物中に存在する樹脂酸の混合物であり、製造方法により、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンに分類される。
【0027】
ガムロジンは、松の木に切り傷をつけ、そこから流出する生松脂をろ過精製し、水蒸気蒸留によりテレビン油を除去して得られる。ウッドロジンは、松の切株のチップを溶剤抽出して得られる。トール油ロジンは、松材からクラフトパルプ法でパルプを製造する工程で副生する粗トール油を蒸留精製して得られる。
【0028】
ロジンは、主成分の樹脂酸として、アビエチン酸を含み、その他の成分の樹脂酸として、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、レボピマール酸等を含む。
【0029】
変性ロジンとは、天然ロジンを変性したものをいい、例えば、天然ロジンを高圧化でニッケル触媒、白金触媒、パラジウム触媒等の貴金属触媒等を使用して水素添加して、分子内の二重結合を消失若しくは減少させた水添ロジン、天然ロジンを貴金属触媒又はハロゲン触媒の存在下に高温加熱することにより分子内の不安定な共役二重結合を消失させた不均化ロジンが挙げられる。
【0030】
重合ロジンとは、天然ロジン又は変性ロジン同士を反応させたものであり、これらの2量化物、3量化物をいう。
【0031】
なお、このようなロジンとして、入手の容易さの観点から、天然ロジンが好ましい。このような天然ロジンとしては、より好ましくは、ガムロジンである。ロジンは、様々な化合物の混合物として扱うことが一般的であり、カルボン酸の量については、酸価を測定することで定量化される。酸価は、日本工業規格JIS K 0070により測定することで求められる。
【0032】
一般式(1)において、AOは、炭素数2~18のオキシアルキレン基である。炭素数2~18のオキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基、オキシスチレン基、オキシドデシレン基、オキシテトラデシレン基、オキシヘキサデシレン基、オキシオクタデシレン基等が挙げられる。なかでも、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基等の炭素数2~4のオキシアルキレン基が好ましく、オキシエチレン基、オキシプロピレン基等の炭素数2~3のオキシアルキレン基がより好ましい。なお、AOは、1種又は2種以上でもよく、2種類以上の場合は、オキシアルキレン基はランダム付加体、ブロック付加体、交互付加体のいずれの形態であってもよい。
【0033】
一般式(1)において、mは、平均付加モル数を表し、mは、1~200の数であり、好ましくは、1~150の数であり、より好ましくは、5~150の数であり、更に好ましくは、10~100の数である。また、nは、付加モル数を表し、1~20の数であり、好ましくは、1~6の数である。また、同時に、m及びnは、m×n=1~200の関係を満たす数であり、好ましくは、m×n=1~150の関係を満たす数であり、更に好ましくは、m×n=10~100の関係を満たす数である。m及びnの積が200を超える場合、製造コストが高くなりすぎることや、水硬性組成物の粘性が大きくなりすぎる。また、m及びnの積が1に満たない場合、得られる水硬性組成物の空気量が過剰となる。
【0034】
また、優れたポンプ圧送性を得るためには、一般式(1)において、AOの内、炭素数2のオキシアルキレン基が50モル%以上であることが必要であり、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上である。AOの内、炭素数2のオキシアルキレン基が50モル%未満の場合は、十分なポンプ圧送性が得られない。
【0035】
一般式(1)において、nが1の場合、R1はロジンのアシル残基である。nが2以上の場合、R1のうち、少なくとも1つはロジンのアシル残基である。
【0036】
一般式(1)において、R2は、水素原子、ロジンのアシル残基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数3~20の多価アルコールから水酸基を除いた残基、炭素数1~20のアシル基又は炭素数2~20のカルボン酸のアシル残基である。但し、R1の少なくとも一つが水素原子を示す場合、R2は、水素原子以外の置換基である。
【0037】
炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖又は分岐アルキル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0038】
炭素数2~20のアルケニル基としては、例えば、エテニル基、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基、n-ヘプテニル基、n-オクテニル基、n-ノネル基、n-デセニル基、n-ウンデセニル基、n-ドデセニル基、n-トリデセニル基、n-テトラデセニル基、n-ペンタデセニル基、n-ヘキサデセニル基、n-ヘプタデセニル基、n-オクタデセニル基、n-ノナデセニル基、n-イコセニル基等が挙げられる。なかでも、エテニル基、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基等の炭素数2~5のアルケニル基が好ましい。
【0039】
炭素数3~20の多価アルコールから水酸基を除いた残基としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びソルビタン等の炭素数3~20の多価アルコールから水酸基を除いた残基が挙げられる。なかでも、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びソルビタン等の炭素数3~6の多価アルコールから水酸基を除いた残基が好ましい。
【0040】
炭素数1~20のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基、ノナデカノイル基、イコサノイル基、2-エチルヘキサノイル基、3-エチルヘプタノイル基、3-エチルデカノイル基等の直鎖又は分岐アシル基等が挙げられる。
【0041】
炭素数2~20の多価カルボン酸のアシル残基としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、ジプロピルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、グルタル酸、2-メチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2,4-ジメチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、3-エチル-3-メチルグルタル酸、アジピン酸、3-メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2,6,6-テトラメチルピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ペンタデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の炭素数2~20の脂肪族多価カルボン酸から水酸基を除いたアシル残基、シクロプロパンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸、ジシクロヘキシル-4,4’-ジカルボン酸及びショウノウ酸等の炭素数6~20の脂環式多価カルボン酸から水酸基を除いたアシル残基、テレフタル酸、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4’-スチルベンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸及びジフェニルスルホンジカルボン酸等の炭素数6~20の芳香族多価カルボン酸から水酸基を除いたアシル残基が挙げられる。これらのアシル残基は、直鎖又は分岐のいずれであってもよい。
【0042】
一般式(1)で表される化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、レボピマール酸等の樹脂酸の混合物であるロジンに、触媒等を用いることで常法によりアルキレンオキサイドを付加させて、一般式(1)で表されるロジンポリオキシアルキレン付加物を製造する方法や、R2に予め、触媒等を用いることで常法によりアルキレンオキシドを付加し、その後ロジンとエステル化させることにより、一般式(1)で表されるロジンポリオキシアルキレン付加物を製造する方法等が挙げられる。
【0043】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、土木、建築等に用いられる水硬性結合材を含有する水硬性組成物に使用されるものである。
【0044】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、既存の分散剤と併用する。かかる分散剤としては、例えば、リグニンスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸系分散剤、アミノスルホン酸系分散剤等が挙げられる。なかでも、分散保持性を確保するという観点から、本発明では、リグニンスルホン酸系分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の分散剤を含有する。
【0045】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、ポンプ圧送性を損なわず、スランプと空気量に影響を与えないのであれば、更に既存の混和剤と併用することができる。かかる混和剤としては、例えば、AE減水剤、高性能AE減水剤、AE剤、消泡剤、収縮低減剤、増粘剤、硬化促進剤等が挙げられる。
【0046】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤の使用対象となる水硬性組成物の調製に用いる水硬性結合材としては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントの他に、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の各種混合セメントが挙げられる。また、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどの各種混和材を、先に示した各種セメントと併用してもよい。
【0047】
また、水硬性組成物の調製に骨材を用いる場合、その骨材としては、例えば、細骨材、粗骨材が挙げられる。細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂、砕砂、スラグ細骨材等が挙げられ、粗骨材としては、例えば、川砂利、砕石、軽量骨材等が挙げられる。
【0048】
更に、水硬性組成物の水結合材比は、特に限定されない。一般的に使用される水結合材比において、高い効果を発現する。
【0049】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、水硬性結合材100質量部当たり、0.00001~0.1質量部の割合で配合され、0.0005~0.1質量部の割合で配合されることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りのない限り、“部”は質量部、“%”は質量%を意味する。
【0051】
試験区分1(一般式(1)で表される化合物の合成)
・化合物(A-1)の合成
2Lのステンレス製耐圧容器に、中華人民共和国産(以降、単に「中国産」と記す)の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を626.9gと、水酸化カリウム2.0gを仕込み、120℃まで加熱し、撹拌しながら減圧脱水を1時間行った。窒素にて常圧に戻し、その後、150~160℃でエチレンオキサイド1264gを0.4MPaの条件圧入し、続いてプロピレンオキサイド107gを同条件で圧入し、そのままの温度で1時間熟成を行った。その後、冷却し、吸着材(共和化学工業社製の商品名:キョーワード600)を20g添加し、120℃にて減圧脱水の後、加圧濾過を行い、化合物(A-1)を得た。
【0052】
・化合物(A-2)の合成
2Lのステンレス製耐圧容器に、中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を541.7gと、水酸化カリウム2.0gを仕込み、120℃まで加熱し、撹拌しながら減圧脱水を1時間行った。窒素にて常圧に戻し、その後、150~160℃でエチレンオキサイド1456gを0.4MPaの条件圧入し、そのままの温度で1時間熟成を行った。冷却後、85%リン酸を2.7g添加し、120℃にて減圧脱水の後、加圧濾過を行い、化合物(A-2)を得た。
【0053】
・化合物(A-3)の合成
2Lのステンレス製耐圧容器に、中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を191.9gと、水酸化カリウム2.0gを仕込み、120℃まで加熱し、撹拌しながら減圧脱水を1時間行った。窒素にて常圧に戻し、その後、150~160℃でエチレンオキサイド1806gを0.4MPaの条件圧入し、そのままの温度で1時間熟成を行った。冷却後、回収し、化合物(A-3)を得た。
【0054】
・化合物(A-4)の合成
1Lのガラス製反応容器に試薬のα-メトキシ-ω-ヒドロキシ-ポリ(n=45)オキシエチレン500.0gと中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を82.0g、メタンスルホン酸7.2gを仕込み、窒素置換後、150℃、0.5kPaで減圧脱水を行い、エステル化反応を行った。エステル化率が99%以上となったところで反応を終了し、精製し、化合物(A-4)を得た。
【0055】
・化合物(A-5)の合成
1Lのガラス製反応容器に試薬のグリセリン92.1gと中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を656.2g、メタンスルホン酸19.2gを仕込み、窒素置換後、150℃、0.5kPaで減圧脱水を行い、エステル化反応を行った。エステル化率が99%以上となったところで反応を終了し、精製し、化合物(A-5)を得た。
【0056】
・化合物(A-6)の合成
1Lのガラス製反応容器に試薬のソルビトール93.6gと中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を656.2g、メタンスルホン酸19.2gを仕込み、窒素置換後、150℃、0.5kPaで減圧脱水を行い、エステル化反応を行った。エステル化率が99%以上となったところで反応を終了し、精製し、化合物(A-6)を得た。
【0057】
・化合物(A-7)の合成
1Lのガラス製反応容器にポリ(n=70)エチレングリコール309.8gと中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を52.5g、パラトルエンスルホン酸一水和物5.8gを仕込み、窒素置換後、150℃、0.5kPaで減圧脱水を行い、エステル化反応を行った。エステル化率が99%以上となったところで反応を終了し、精製し、化合物(A-7)を得た。
【0058】
・化合物(A-8)の合成
1Lのガラス製反応容器にα-メタリル-ω-ヒドロキシ-ポリ(n=50)オキシエチレン500.0gと中国産の「ガムロジン」のXグレード(酸価:171mgKOH/g)を72.2g、パラトルエンスルホン酸一水和物12.7gを仕込み、窒素置換後、150℃、0.5kPaで減圧脱水を行い、エステル化反応を行った。エステル化率が99%以上となったところで反応を終了し、精製し、化合物(A-8)を得た。
【0059】
・化合物(A-9)の合成
表1に示すように原料の仕込み量を変化させた以外は、化合物(A-1)と同様に合成を行い、化合物(A-9)を得た。
【0060】
以上で合成した化合物(A-1)~(A-9)及び(R-1)~(R-2)の内容を表1にまとめて示した。
【0061】
【0062】
表1において、R-1、R-2について以下に示す。R-1、R-2をそのまま用いている。
R-1:中国産の「ガムロジン」のXグレード
R-2:試薬のポリエチレングリコール(分子量1000)
【0063】
表1中のR1について以下に示す。
「ガムロジンアシル残基」:ガムロジンのカルボン酸から水酸基を除いたもの
「ガムロジンアシル残基:H=2:1」:R1におけるガムロジンアシル残基と水素原子のモル比率が2:1
「ガムロジンアシル残基:H=4:1」:R1におけるガムロジンアシル残基と水素原子のモル比率が4:1
EO:オキシエチレン基
PO:オキシプロピレン基
【0064】
試験区分2(コンクリート組成物の調製)
・実施例1~13及び比較例1~6
容量60リットルの強制2軸ミキサーを用い、表2に記載の内容で、90秒間練混ぜを行い、表3に記載した各コンクリート組成物を調製した。なお、各コンクリート組成物について、目標空気量を4.5±1.5%とし、目標スランプを18±1cmとした。なお、実施例13及び比較例6においては、容量2.0m3の強制2軸ミキサーを用いて同様に練り混ぜた。なお、コンクリート組成物の温度は20℃の条件で行った。
【0065】
【0066】
表2において、各配合について以下に示す。
【0067】
・配合No1
セメント:普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm3)
細骨材1:陸砂(表乾密度=2.58g/cm3)
粗骨材1:砕石2005(表乾密度=2.66g/cm3)
【0068】
配合No1では、更に以下の各化合物を使用した。
減水剤:AE減水剤標準形I種(高機能タイプ) チューポールEX60(竹本油脂社製、変性リグニンスルホン酸化合物とポリカルボン酸系化合物の複合体)をセメント質量に対して1.0%使用
消泡剤:AFK-2(竹本油脂社製)をセメント質量に対して0.0005%使用
AE剤:AE-300(竹本油脂社製)をセメント質量に対して0.0015%使用
【0069】
・配合No2
セメント:普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm3)
BFS(高炉スラグ微粉末):高炉スラグ微粉末4000ブレーン(密度=2.89g/cm3)
FA(フライアッシュ):フライアッシュII種(密度=2.21g/cm3)
細骨材1:陸砂(表乾密度=2.57g/cm3)
粗骨材1:砕石2005(表乾密度=2.68g/cm3)
【0070】
配合No2では、更に以下の各化合物を使用した。
減水剤:高性能AE減水剤標準形I種(高機能タイプ) チューポールHP-8(竹本油脂社製、ポリカルボン酸コポリマー)をセメント質量に対して0.7%使用
消泡剤:AFK-2(竹本油脂社製)をセメント質量に対して0.0003%
AE剤:AE-200(竹本油脂社製)をセメント質量に対して0.0002%
【0071】
・配合No3
セメント:普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm3)
細骨材1:山砂(表乾密度=2.57g/cm3)
細骨材2:砕砂(表乾密度=2.74g/cm3)
粗骨材1:砕石2005(表乾密度=2.75g/cm3)
粗骨材2:砕石2005(表乾密度=2.71g/cm3)
【0072】
配合No3では、更に以下の各化合物を使用した。
減水剤:AE減水剤遅延形I種(高機能タイプ) シーカメントJR(日本シーカ社製、変性ポリカルボン酸ポリエーテルポリマーと変性ポリオール)をセメント質量に対して1.3%
消泡剤:AFK-2(竹本油脂社製)をセメント質量に対して0.0005%
AE剤:マスターエア202(BASFジャパン製、変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤)をセメント質量に対して0.005%
【0073】
試験区分3(コンクリート組成物の試験及び評価)
調製した各コンクリート組成物について、空気量、スランプ、O漏斗流下時間を下記のように測定し、結果を表3にまとめて示した。なお、実施例13及び比較例6では、ポンプ圧送圧力も測定した。
【0074】
・添加率
水硬性結合材の合計質量に対する、各化合物の質量%を示した。なお、各化合物は、練り混ぜ水の一部として使用した。
・空気量(容量%):
日本工業規格JIS A 1128に準拠して測定した。
・スランプ(cm):
空気量の測定と同時に日本工業規格JIS A 1101に準拠して測定した。
・O漏斗流下時間(秒)
土木学会規準JSCE-F512-2018に準拠してスランプ測定後に測定した。なお、O漏斗流下時間は、その値が小さい方がポンプ圧送性は良好であると判定した。
・ポンプ圧送圧力(MPa)
コンクリートポンプ車「PH50B-17(極東開発社)」を用いて、流速20m3/時間での圧力計指示値の最大値を読み取り、記録し、コンクリートのポンプ圧送圧力(MPa)とした。
【0075】
【0076】
(結果)
表3の実施例1~13に示される結果から明らかなように、本発明により、得られる水硬性組成物のポンプ圧送性を向上させるとともに、スランプと空気量への影響が小さい水硬性組成物用添加剤を提供できることが確認された。なお、実施例13では、比較例6の添加剤なしの条件と比較すると、20m3/時間の吐出時のポンプ圧送圧力が低下し、実際にポンプ圧送性が改善していることが確認された。
【0077】
一方、水硬性組成物用添加剤が配合されていない比較例1、4、6においては、O漏斗流下時間を小さくさせることができないことが確認された。また、比較例2、5においては、オキシアルキレン基を有さない化合物である、いわゆるAE剤を使用しており、その効果によって、ポンプ圧送性は良好ではあるが、空気量が増大した。また、比較例3においては、化合物としてポリエチレングリコールを使用した例であり、この場合、O漏斗流下時間を小さくさせることができないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、水硬性組成物を調製する際の添加剤として利用することができる。