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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】照明光学系
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/255 20180101AFI20240319BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20240319BHJP
   F21S 41/151 20180101ALI20240319BHJP
   F21S 41/143 20180101ALI20240319BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20240319BHJP
   G02B 3/00 20060101ALN20240319BHJP
   G02B 3/02 20060101ALN20240319BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240319BHJP
   F21W 102/14 20180101ALN20240319BHJP
【FI】
F21S41/255
F21V5/04 550
F21V5/04 500
F21S41/151
F21S41/143
G02B13/00
G02B3/00 Z
G02B3/02
F21Y115:10
F21W102:14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023571638
(86)(22)【出願日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2023023751
【審査請求日】2023-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】猪股 亨
(72)【発明者】
【氏名】桑垣内 智仁
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-057368(JP,A)
【文献】特開2021-152594(JP,A)
【文献】特開2017-009778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21V 5/04
G02B 13/00
G02B 3/00
F21Y 115/10
F21W 102/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明対象側から順に正の屈折力を有する第1のレンズ、負の屈折力を有する第2のレンズ及び正の屈折力を有する第3のレンズを備えた照明光学系であって、該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合の合成焦点距離をfミリメータ、F値をF、合成屈折力をPt=1/f、3個のレンズのそれぞれの面を照明対象側から第1乃至第6面として、第5面の屈折力をP5、第2のレンズの中心厚をL2として、
1.3<P5/Pt
0.1<L2/f<0.25
F<0.7
を満たす照明光学系。
【請求項2】
該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、該第1のレンズの照明対象側の面に光軸に対する角度が25度で入射する光束の光線のうち像面に到達する光線の割合が14%から20%の範囲である請求項1に記載の照明光学系。
【請求項3】
該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、d線(588 ナノメータ)を基準とした波長0.420マイクロメータから0.680マイクロメータの光線の軸上色収差の焦点移動範囲をcミリメータとして、
c/f<0.00292
を満たす請求項1に記載の照明光学系。
【請求項4】
該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、該第1のレンズの照明対象側の面に光軸に対する角度が20度で入射する光線の歪曲が負であり、その絶対値が5パーセント以上である請求項1に記載の照明光学系。
【請求項5】
該第1のレンズ、該第2のレンズ及び該第3のレンズの材料がそれぞれアクリル、ポリカーボネート及びアクリルである請求項1に記載の照明光学系。
【請求項6】
該第1のレンズが両凸レンズであり、該第2のレンズが両凹レンズであり、該第3のレンズが両凸レンズである請求項1に記載の照明光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のヘッドランプなどに使用される照明光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用のヘッドランプにおいてADB(Adaptive Driving Beam)配光制御用の照明光学系が開発されている(特許文献1)。ADB配光制御においては、車両の前方の他の車両などの状況にしたがって光源として配置された複数のLED(発光ダイオード)を個別に制御して照射対象領域及び照射強度などが制御される。したがって、ADB配光制御においては、個々のLEDの照射領域が個別に制御できることが要求される。したがって、照明光学系において、意図しない領域が照射される現象であるフレアをできるだけ減少させる必要がある。また、照明光学系は明るいことが望ましい。
【0003】
そこで、車両のヘッドランプなどの分野において、明るくフレアの小さな照明光学系に対するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-573638(特許002897)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の技術的課題は、明るくフレアの小さな照明光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の照明光学系は、照明対象側から順に正の屈折力を有する第1のレンズ、負の屈折力を有する第2のレンズ及び正の屈折力を有する第3のレンズを備える。該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合の合成焦点距離をfミリメータ、合成屈折力をPt=1/f、3個のレンズのそれぞれの面を照明対象側から第1乃至第6面として、第5面の屈折力をP5、第2のレンズの中心厚をL2として、
1.3<P5/Pt
0.1<L2/f<0.25
が満たされる。
【0007】
本発明によれば、照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合のコマ収差が減少し、コマ収差に対応する照明光学系のフレアが減少する。
【0008】
本発明の第1の実施形態の照明光学系において、該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、該第1のレンズの照明対象側の面に光軸に対する角度が25度で入射する光束の光線のうち像面に到達する光線の割合が14%から20%の範囲である。
【0009】
本発明の第2の実施形態の照明光学系において、該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、F値をFとして、
F<0.7
が満たされる。
【0010】
本実施形態の照明光学系によれば十分な光度が得られる。
【0011】
本発明の第3の実施形態の照明光学系において、該該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、d線(588 ナノメータ)を基準とした波長0.420マイクロメータから0.680マイクロメータの光線の軸上色収差の焦点移動範囲をcミリメータとして、
c/f<0.00292
が満たされる。
【0012】
本実施形態の照明光学系によれば照射面における色分散が低減される。
【0013】
本発明の第4の実施形態の照明光学系において、該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、該第1のレンズの照明対象側の面に光軸に対する角度が20度で入射する光線の歪曲が負であり、その絶対値が5パーセント以上である。
【0014】
本実施形態の照明光学系によれば歪曲がない場合と比較してより広い範囲を照射することができる。
【0015】
本発明の第5の実施形態の照明光学系において、該第1のレンズ、該第2のレンズ及び該第3のレンズの材料がそれぞれアクリル、ポリカーボネート及びアクリルである。
【0016】
本実施形態の照明光学系によれば、3個のレンズの材料に屈折率の異なるアクリル及びポリカーボネートを使用することにより該該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合の軸上色収差を低減することによって、照射面における色分散を低減することができる。
【0017】
本発明の第3の実施形態の照明光学系において、該第1のレンズが両凸レンズであり、該第2のレンズが両凹レンズであり、該第3のレンズが両凸レンズである
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の照明光学系の一例を示す図である。
図2図1に示した照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と25度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
図3】光学系の面S1に入射した光軸に平行な平行光束のうち、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線が通過する面S1の領域を示す図である。
図4】光学系の面S1に入射した光軸と25度の角度をなす平行光束のうち、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線が通過する面S1の領域を示す図である。
図5】光学系の面S1に入射した平行光束のうちビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合を示す図である。
図6図1に示した照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
図7図1に示した照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
図8】比較例の照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
図9】点Oから点O及びE”間の距離離れたx軸上の点に配置された光源による、z軸に垂直な面上におけるフレアを示す図である。
図10】第2のレンズの中心厚を変化させた光学系が4.0ミリメータの光学系に光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
【0019】
図11】第2のレンズの中心厚を変化させた光学系が5.5ミリメータの光学系に光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
図12】第2のレンズの中心厚を変化させた光学系が8.5ミリメータの光学系に光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
図13】実施例を結像光学系とみなした場合の像面湾曲を示す図である。
図14】実施例を結像光学系とみなした場合の歪曲を示す図である。
図15】実施例を結像光学系とみなした場合の軸上色収差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の照明光学系の一例を示す図である。照明光学系は、第1のレンズL1、第2のレンズL2及び第3のレンズL3を備え、点Oに中心を有する光源の光を対象に照射するように構成されている。第1のレンズL1は照明対象に最も近く、第3のレンズL3は光源に最も近い。第1のレンズL1、第2のレンズL2及び第3のレンズL3の照明対象側の面をそれぞれS1、S3及びS5で表し、第1のレンズL1、第2のレンズL2及び第3のレンズL3の光源側の面をS2、S4及びS6で表す。照明光学系は、その光軸が点Oを通過するように配置されている。図1には照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸に平行な平行光束を入射させた場合の光線の経路が示されている。
【0021】
それぞれのレンズの面は以下の式で表される。
【数1】
zは面上の点の、レンズ面の頂点からの光軸に沿った座標を表す。rは面上の点の、光軸からの距離を表す。cは曲率を表し、kはコーニック定数を表し、αiは非球面係数を表す。曲率cの符号は、面が照明対象側に凸の場合に正、照明対象側に凹の場合に負となるように定める。
【0022】
表1は、実施例の照明光学系のレンズの形状、材料および位置を示す表である。
【表1】

曲率半径は曲率cの逆数である。S1の行の「厚さまたは距離」は、第1のレンズL1の厚さ(中心厚)を示しS6の行の「厚さまたは距離」は、面S6から光源の中心の点Oまでの光軸に沿った距離を示す。
【0023】
表2は、各レンズ面の非球面係数の値を示す表である。表に示されていない非球面係数の値は0である。
【表2】
【0024】
以下において、図1に示した照明光学系を結像光学系として検討する。上述のように図1には、照明対象側から面S1に照明光学系の光軸に平行な平行光束を入射させた場合の光線の経路が示されている。上記の平行光束は点Oに集光される。
【0025】
図2は、図1に示した照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と25度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。上記の平行光束は点Oを含み光軸に垂直な面上の点Eの周辺に到達する。図1及び図2に示された光線の経路を考慮すると、点Oを含み光軸に垂直な面内で点Oからの距離が点O及び点Eの距離以下の範囲にたとえばLED(発光ダイオード)などの光源を配置すれば、光源を中心として光軸となす角度が25度以内の範囲を照射することができると推定される。
【0026】
表3は、実施例の各レンズ面の屈折力及び結像光学系の合成屈折力を示す表である。合成屈折力は結像光学系の合成焦点距離の逆数である。表3において「比率」は各面の屈折力の合成屈折力に対する比率を意味する。結像光学系の合成焦点距離は34.697ミリメータである。また、F値は0.65である。一般的にF値は0.7より小さいことが好ましい。
【表3】
【0027】
表3に示すように本実施例において面S5の屈折力が相対的に大きい。面S5の屈折力を相対的に大きくした理由を以下に説明する。
【0028】
照明光学系においては、フレアと呼ばれる、意図しない領域への照射が生じることがある。フレアは、個々のLEDによる照射位置を高い精度で定めることが要求されるADB配光制御では大きな障害となる。照明光学系のフレアは、照明光学系を結像光学系とみなした場合のコマ収差に対応する。すなわち、結像光学系とみなした場合のコマ収差が大きくなるほど照明光学系のフレアは大きくなる。そこで、照明光学系のフレアを低減するには、結像光学系とみなした場合のコマ収差を低減する必要がある。コマ収差を低減する一つの方法は、光軸となす角度が比較的大きい平行光束のうち点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合をビネッティングによって低下させることである。
【0029】
図3は、光学系の面S1に入射した光軸に平行な平行光束のうち、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線が通過する面S1の領域を示す図である。図3の左側の図は面S1の平面図を示し、図3の右側の図は図1と同様に光学系の構成経路を示す。図3によると、面S1のほぼ全領域を通過する光線がビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する。図3の右側の図は、図1と同様に光線の経路を示す。
【0030】
図4は、光学系の面S1に入射した光軸と25度の角度をなす平行光束のうち、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線が通過する面S1の領域を示す図である。図4の左側の図は面S1の平面図を示し、図4の右側の図は図2と同様に光学系の構成経路を示す。図4によると、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線が通過する面S1の領域は全領域の20パーセント以下である。
【0031】
図5は、光学系の面S1に入射した平行光束のうちビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合を示す図である。図5の横軸は、平行光束が光軸となす角度を示す。図5の縦軸は、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合を示す。図5によれば、平行光束が光軸となす角度が25度の場合にビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合は約15パーセントである。
【0032】
図4に示すように、平行光束が光軸となす角度が25度の場合に面S5の曲率半径を小さくし屈折力を大きくすることにより面S4で発散した光線の一部がビネッティングされやすくなり、ビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合が減少する。
【0033】
一般的に面S5の屈折力の合成屈折力に対する比率は1.3より大きいことが好ましい。また、平行光束が光軸となす角度が25度の場合にビネッティングされずに点Oを含み光軸に垂直な面に到達する光線の割合は14%から20%の範囲であることが好ましい。
【0034】
表4は、結像光学系の各面の各収差の値を示す表である。
【表4】

「合計」は各面の各収差の和であり、結像光学系全体の収差を示す。表4によると、面S5の収差は結像光学系全体の収差を小さくすることに寄与している。面S5の曲率半径を大きくする(屈折力を小さくする)と結像光学系全体の収差は大きくなる傾向がある。この点からも、面S5の屈折力の合成屈折力に対する比率が上記の範囲であるのが好ましい。
【0035】
図6は、図1に示した照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。上記の平行光束は点Oを含み光軸に垂直な面上の点E’の周辺に到達する。図6において、点Oを原点とし光学系の光軸をz軸とする。x軸は図6の紙面に垂直な方向である。
【0036】
図7は、点Oから点O及び点E’間の距離離れたx軸上の点に配置された光源による、z軸に垂直な面上におけるフレアを示す図である。光源は一例として発光ダイオードである。図7の横軸は、光源から放出された光線をxz平面に投射した直線とz軸とがなす角度を示す。図7の縦軸は、光源から放出された光線をyz平面に投射した直線とz軸とがなす角度を示す。
【0037】
以下において比較例として別の照明光学系を考察する。
【0038】
表5は、比較例の照明光学系のレンズの形状、材料および位置を示す表である。
【表5】

S1の行の「厚さまたは空間長」は、第1のレンズL1の厚さ(中心厚)を示しS6の行の「厚さまたは空間長」は、面S6から光源の中心の点Oまでの光軸に沿った距離を示す。
【0039】
表6は、各レンズ面の非球面係数を示す表である。
【表6】
【0040】
表7は、比較例の各レンズ面の屈折力及び結像光学系の合成屈折力を示す表である。合成屈折力は結像光学系の合成焦点距離の逆数である。結像光学系の合成焦点距離は34.799ミリメータである。また、F値は0.66である。
【表7】
【0041】
図8は、比較例の照明光学系の照明対象側から面S1に照明光学系の光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。上記の平行光束は点Oを含み光軸に垂直な面上の点E”の周辺に到達する。図8において、点Oを原点とし光学系の光軸をz軸とする。x軸は図8の紙面に垂直な方向である。
【0042】
図9は、点Oから点O及び点E”間の距離離れたx軸上の点に配置された光源による、z軸に垂直な面上におけるフレアを示す図である。光源は一例として発光ダイオードである。図9の横軸は、光源から放出された光線をxz平面に投射した直線とz軸とがなす角度を示す。図9の縦軸は、光源から放出された光線をyz平面に投射した直線とz軸とがなす角度を示す。
【0043】
実施例の照明光学系のフレアを示す図7と比較例の照明光学系のフレアを示す図9とを比較すると、図9においては大きな内向性のフレアが観察される。照明光学系の内向性のフレアは結像光学系における外向性のコマ収差に対応する。したがって、比較例を照明光学系とした場合のコマ収差は十分に低減されていないと考えられる。
【0044】
表3及び表7を比較すると、面S5の屈折力はほぼ同じである。他方、表2によると実施例の第2のレンズの中心厚は6.992ミリメータであり、表5によると比較例の第2のレンズの中心厚は2.500ミリメータである。
【0045】
図6によると光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合に、実施例の面S5において光線は光軸より上の領域に入射する。他方、図8によると光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合に、比較例の面S5において光線は光軸より上の領域及び下の領域の両方に入射する。比較例においては、面S5において光軸より上の領域及び下の領域の両方に入射する光線がコマ収差を大きくすると考えられる。実施例及び比較例のレンズの形状を考慮すると、第2のレンズの中心厚を調整することにより、光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合に面S5上の光線の入射する領域を調整することができると考えられる。
【0046】
そこで、実施例の光学系において第2のレンズの中心厚を変化させた光学系について光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を求めた。なお、第2のレンズの中心厚を変化させた光学系の第2のレンズの中心厚以外のデータは実施例1と同じである。
【0047】
図10は、第2のレンズの中心厚を変化させた光学系が4.0ミリメータの光学系に光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
【0048】
図11は、第2のレンズの中心厚を変化させた光学系が5.5ミリメータの光学系に光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
【0049】
図12は、第2のレンズの中心厚を変化させた光学系が8.5ミリメータの光学系に光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合の光線の経路を示す図である。
【0050】
図10乃至図12によると、光軸と23度の角度をなす平行光束を入射させた場合に、それぞれの結像光学系の面S5において光線は光軸より上の領域に入射する。したがって、コマ収差を小さくすることができると考えられる。第2のレンズの中心厚4.0ミリメータ、5.5ミリメータ及び8.5ミリメータを実施例の結像光学系の合成焦点距離(34.697ミリメータ)で規格化した値は、0.115、0.159及び0.245である。他方、レンズの中心厚を大きくしすぎると製造の際の成形時間が大きくなり、また材料費も増加するので好ましくない。そこで、第2のレンズの中心厚を結像光学系の合成焦点距離で規格化した値は0.1から0.25の範囲とするのが好ましい。
【0051】
図13は、実施例を結像光学系とみなした場合の像面湾曲を示す図である。図13の横軸は、像点の位置のz軸方向の座標を示す。座標の原点は点Oであり、座標の符号は照明対象側が負である。単位はミリメータである。図13の縦軸は、面S1に入射する平行光束が光軸となす角度を示す。単位は度である。0.42Tは0.42マイクロメータの波長の光束のタンジェンシャル面の像点の位置を示し、0.42Sは0.42マイクロメータの波長の光束のサジタル面の像点の位置を示す。0.68Tは0.68マイクロメータの波長の光束のタンジェンシャル面の像点の位置を示し、0.68Sは0.68マイクロメータの波長の光束のサジタル面の像点の位置を示す。
【0052】
図14は、実施例を結像光学系とみなした場合の歪曲を示す図である。歪曲は、理想のレンズの横倍率に対する結像光学系の横倍率の比である。図14の横軸は、歪曲を示す。単位はパーセントである。図14の縦軸は、面S1に入射する平行光束が光軸となす角度を示す。単位は度である。角度20度の場合の歪曲は約-5パーセントである。相対的に大きな角度で歪曲が負であるので、照明光学系の照射範囲は歪曲が0の理想の光学系の照射範囲よりも大きくなる。
【0053】
一般的に、面S1に入射する平行光束が光軸となす角度が20度の場合の歪曲は負であり、その絶対値は5パーセント以上であるのが好ましい。
【0054】
図15は、実施例を結像光学系とみなした場合の軸上色収差を示す図である。図15の横軸は、像点の位置のz軸方向の座標を示す。座標の原点は点Oであり、座標の符号は照明対象側が負である。単位はマイクロメータである。図15の縦軸は光線の波長を示す。単位はマイクロメータである。結像光学系は、d線(588 ナノメータ)を主波長とし、d線の横軸の座標と488ナノメータの波長の光線の横軸の座標が同じになるアクロマートレンズになっており、照明光学系の照射面での色分散が小さくなる。一般的に、照明光学系の照射面における色分散を低減するには、照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合に、d線(588 ナノメータ)を基準とした波長0.420マイクロメータから0.680マイクロメータの光線の軸上色収差の焦点移動範囲をcミリメータとして、
c/f<0.00292
を満たすのが好ましい。
【要約】
本発明の照明光学系は、照明対象側から順に正の屈折力を有する第1のレンズ、負の屈折力を有する第2のレンズ及び正の屈折力を有する第3のレンズを備える。該照明光学系を照明対象側から入射させた光束に対する結像光学系とみなした場合の合成焦点距離をfミリメータ、合成屈折力をPt=1/f、3個のレンズのそれぞれの面を照明対象側から第1乃至第6面として、第5面の屈折力をP5、第2のレンズの中心厚をL2として、以下の式が満たされる。
1.3<P5/Pt 0.1<L2/f<0.25
図1
図2
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